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特開2024-99966フッ素固定剤、フッ素固定方法、フッ素回収方法及び半導体製造装置の排ガスの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099966
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】フッ素固定剤、フッ素固定方法、フッ素回収方法及び半導体製造装置の排ガスの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/04 20060101AFI20240719BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240719BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240719BHJP
   B01D 53/68 20060101ALI20240719BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240719BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B01J20/04 A ZAB
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01D53/68 200
B01J20/34 G
B01D53/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003627
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】京谷 敬史
(72)【発明者】
【氏名】川島 直也
(72)【発明者】
【氏名】森 洋一
【テーマコード(参考)】
4D002
4G066
【Fターム(参考)】
4D002AA22
4D002AC10
4D002CA07
4D002DA05
4D002DA11
4D002EA06
4D002EA07
4D002EA13
4D002FA02
4D002GA01
4D002GB03
4D002GB12
4G066AA17A
4G066AA17B
4G066BA20
4G066BA26
4G066BA31
4G066BA36
4G066CA32
4G066DA02
4G066FA17
4G066FA22
4G066FA34
4G066GA11
(57)【要約】
【課題】HF、F、SiF等を含む排ガスからフッ素を固定するフッ素固定剤及びその製造方法、並びにフッ素固定方法及びフッ素回収方法を提供する。
【解決手段】比表面積が15m/g以上35m/g以下であるCaOからなるフッ素固定剤とフッ素含有化合物とを500℃以上600℃以下で接触させ、FをCaFとして固定し、Fを固定したフッ素固定剤を酸及びアルカリと順番に接触させて、固体CaFを回収する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が15m/g以上35m/g以下であるCaOからなることを特徴とする、フッ素固定剤。
【請求項2】
Ca(OH)を、窒素ガス気流下、450℃以上700℃以下で焼成することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素固定剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のフッ素固定剤とフッ素含有化合物とを500℃以上600℃以下で接触させ、FをCaFとして固定することを特徴とする、フッ素固定方法。
【請求項4】
請求項1に記載のフッ素固定剤とフッ素含有化合物とを500℃以上600℃以下で接触させ、FをCaFとして固定し、
当該Fが固定された状態で酸と接触させて、ろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、フッ素回収方法。
【請求項5】
固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、フッ素含有ガスを流通させて、FをCaFとして固定することを特徴とする、フッ素固定方法。
【請求項6】
固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、フッ素含有ガスを流通させて、FをCaFとして固定させ、
さらに、当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、フッ素回収方法。
【請求項7】
固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、導体製造装置からのフッ素含有排ガスを流通させて、FをCaFとして固定することを特徴とする、半導体製造装置からの排ガスの処理方法。
【請求項8】
固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、半導体製造装置からのフッ素含有排ガスを流通させて、FをCaFとして固定させ、
さらに、当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、半導体製造装置からの排ガスの処理方法。
【請求項9】
請求項1に記載のフッ素固定剤を充填したカラムに、500℃以上600℃以下で、半導体製造装置からのフッ素含有排ガスを流通させて、FをCaFとして固定させ、
さらに、当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、半導体製造装置からの排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素固定剤、フッ素回収方法、及び半導体製造装置からの排ガスの処理方法に関する。特に、半導体製造装置の内面等をドライクリーニングする工程や成膜工程や酸化膜等の各種膜をエッチングする工程から排出されるフッ素含有化合物で、HF、F、SiF等を含む排ガスからフッ素を回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体工業において、半導体製造装置内面のクリーニング工程やエッチング工程あるいはCVD工程などにおいて、HFやF等が用いられ、副生成ガスとしてSiFを含むフッ素含有化合物が排出される。これらフッ素含有化合物を含んだ排ガスは、固形薬剤で反応除去され、廃棄物として処分されるか、溶液に吸収させ、工場廃水として廃棄物処理されるかのいずれかである。一方、近年フッ素の原料となる蛍石の資源枯渇が問題になっており、フッ素の回収・再利用が重要な課題となっている。
【0003】
フッ素含有化合物を含む排ガスの処理方法としては、例えば、酸化アルミニウム及びアルカリ土類金属の酸化物を含む処理剤を用いて排ガス中のフルオロカーボンを分解処理する方法(特許文献1);酸化アルミニウム及びアルカリ土類金属の酸化物を含む処理剤を用いて排ガス中のフッ化硫黄を分解処理する方法(特許文献2);アルミナ及びアルカリ土類金属化合物、及び場合によっては銅、錫、バナジウム等の金属の酸化物を含む処理剤を用いて排ガス中のフッ素化合物を分解処理する方法(特許文献3);水酸化アルミニウムと水酸化カルシウムとを含む処理剤を用いて排ガス中のPFCを分解処理する方法(特許文献4);などが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記のような従来の処理方法は、特にCFなどの難分解性ガスを処理する場合、処理温度が800~1000℃と高いため、処理装置の熱による劣化が速く、装置のエネルギー消費量も大きいという問題があった。また、従来の処理剤は、使用寿命が短くて交換頻度が高いという問題を包含していた。例えば、特許文献1~3に開示されている方法では、PFCを酸化アルミニウム(アルミナ)と反応させてフッ化アルミニウムを生成させることによってPFCガスを分解している。しかしながら、酸化アルミニウムの反応活性が低いので、この反応を効率よく進行させるためには、高温の反応条件が必要である。更に、生成したフッ化アルミニウムが酸化アルミニウムの表面に層を形成し、これによって酸化アルミニウムが被毒されて短時間で触媒活性を失うおそれがあり、その様な場合は、処理剤の交換頻度が高くなってしまうという問題がある。
【0005】
PFCガスを水酸化アルミニウムと反応させて、水酸化アルミニウムの水酸基の水素によってフッ素をフッ化水素とし、次に生成したフッ化水素を水酸化カルシウムと反応させ
、フッ化カルシウムを生成させることによって、PFCガスなどを従来法よりも低い温度で効率よく分解処理することができる方法が提案されている(特許文献4)。しかし、かかる方法は、小型の装置では効果があるものの、実機規模にスケールアップすると、アルミニウムの活性が阻害され、十分な除去効果を示さない場合があることが確認された。
【0006】
本出願人は、フッ素含有化合物を含む排ガスの処理方法において、該排ガスの流れに沿って上流側にCa(OH)、Mg(OH)又はこれらの焼成品の1種以上を含有するアルカリ剤を充填し、その下流側に平均粒子径(メディアン径)55μm以上160μm以下のAl(OH)と、Ca(OH)とのモル比が3:7~5:5である混合物を成形して乾燥し、430℃よりも高く890℃以下の温度範囲で、窒素流又は空気流中で焼
成して得られた複合酸化物からなるPFC処理剤(パーフルオロ化合物処理剤)を充填した反応槽に、前記排ガスを通すことを特徴とする排ガス処理方法を提案した(特許文献5)。しかし、かかる方法は、異なるフッ素固定薬剤を上流と下流に配置して処理するため、複雑な装置構成が必要となる。また、固定したFを回収する方法は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-224565号公報
【特許文献2】特開2002-370013号公報
【特許文献3】特開2001-190959号公報
【特許文献4】特開2005-262128号公報
【特許文献5】特開2010-158620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フッ素含有化合物を含む排ガス、特に半導体製造装置の内面等をドライクリーニングする工程や成膜工程や酸化膜等の各種膜をエッチングする工程から排出されるフッ素含有化合物で、HF、F、SiF等を含む排ガスからフッ素を固定するフッ素固定剤及びその製造方法、並びにフッ素固定方法及びフッ素回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、市販のCaOではなく、Ca(OH)を500℃~600℃で焼成して生成されるCaOは比表面積が大きく、Fを良好に固定できること、Fを固定したフッ素固定剤を酸及びアルカリと順番に接触させてF以外の成分を溶解させて除去することにより、固定したFを容易に収率よく回収できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、比表面積が15m/g以上35m/g以下であるCaOからなることを特徴とする、フッ素固定剤が提供される。
【0011】
また、Ca(OH)を、窒素ガス気流下、450℃以上700℃以下で焼成することを特徴とする、上記フッ素処理剤の製造方法も提供される。
【0012】
さらに、上記フッ素固定剤とフッ素含有化合物とを500℃以上600℃以下で接触させ、FをCaFとして固定することを特徴とする、フッ素回収方法も提供される。
【0013】
また、上記フッ素固定剤とフッ素含有化合物とを500℃以上600℃以下で接触させ、FをCaFとして固定し、
当該Fを固定した状態で、酸と接触させて、ろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、フッ素回収方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、フッ素含有ガスを流通させて、FをCaFとして固定することを特徴とする、フッ素固定方法が提供される。
【0015】
本発明によれば、固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、フッ素含有ガスを流通させて、FをCaFとして固定させ、
さらに、当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、フッ素回収方法が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、導体製造装置からのフッ素含有排ガスを流通させて、FをCaFとして固定することを特徴とする、半導体製造装置からの排ガスの処理方法が提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、
次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、半導体製造装置からのフッ素含有排ガスを流通させて、FをCaFとして固定させ、
さらに、当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、半導体製造装置からの排ガスの処理方法が提供される。
【0018】
またさらに本発明によれば、上記フッ素固定剤を充填したカラムに、500℃以上600℃以下で、半導体製造装置からのフッ素含有排ガスを流通させて、FをCaFとして固定させ、
さらに、当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、
回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、
当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、半導体製造装置からの排ガスの処理方法も提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフッ素固定剤は、市販のCaOと異なり、比表面積が大きく、Fを効率よく固定することができ、固定したFを容易に回収することができる。
【0020】
本発明のフッ素固定剤は、Ca(OH)を窒素ガス気流下、450℃以上700℃以下で焼成することにより、容易に製造することができる。
【0021】
本発明のフッ素回収方法は、フッ素固定剤とフッ素含有化合物とを500℃以上600℃以下と比較的低温で接触させることができるので、処理装置の熱による劣化が速く、装置のエネルギー消費量も大きいという問題を解決することができる。
【0022】
本発明のフッ素回収方法は、フッ素を固定したフッ素固定剤を酸及びアルカリで処理するだけで容易に高収率にフッ素を回収することができる。
【0023】
本発明のフッ素回収方法は、単一のカラムを用いて、フッ素固定剤を調製し、Fを固定し、固定したFを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】Ca(OH)を窒素雰囲気500℃で焼成して得られるフッ素固定剤のX線回折スペクトルである。
図2】市販のCaOのX線回折スペクトルである。
図3】Ca(OH)の処理温度とHF処理量との関係を示すグラフである。
図4】Ca(OH)の処理温度とSiF処理量との関係を示すグラフである。
【好ましい実施形態】
【0025】
[フッ素固定剤]
本発明のフッ素固定剤は、比表面積が15m/g以上35m/g以下、好ましくは20m/g以上30m/g以下であるCaOからなることを特徴とする。市販のCaOの比表面積は3m/g未満であることと比較すると、本発明のフッ素固定剤は極めて大きな比表面積を有する。ここで、比表面積とはBET法により測定される比表面積をいう。
【0026】
本発明のフッ素固定剤は、Ca(OH)を窒素雰囲気450℃以上700℃以下、好ましくは500℃以上600℃以下で焼成して調製することができる。450℃以上でCa(OH)は脱水し、多数の空隙を形成できるが、700℃を越えると生成したCaOの性能が低下し始める。市販のCaOはCaCOを900℃~1000℃で焼成していることが多いことと比較すると、焼成温度が低温であり、炭酸ガスの発生も抑制できる。
【0027】
Ca(OH)は、次の脱水反応によりCaOを生成するが、焼成温度が460℃~480℃で温度上昇が緩やかとなり、この温度範囲で脱水が進む。
【化1】
【0028】
一方、市販品のCaOは、CaCOを原料として、900℃~1000℃で焼成して、次の反応からCaOを生成する。
【化2】
【0029】
後述する実施例で説明するように、Ca(OH)は、470℃前後で脱水してCaOを生成するが、水が抜ける過程で内部を含めてCa(OH)全体が多孔質体(水が抜けて空隙が生じる)のCaOになる。また、500℃程度の温度領域であれば、CaとOの結合が緩やかで結晶化度が大きくない(反応活性が高い)と想定される。
【0030】
一方、CaCOを高温(900℃~1000℃)で焼成することでCOが脱ガスしてCaOを生成するが、CaとOとの結合がより強く、結晶化が進んでおり(反応活性が低い)、細孔容積の少ない緻密な結晶物になっていると想定される。
【0031】
[フッ素固定方法1]
本発明のフッ素固定方法は、上記フッ素固定剤をカラムに充填し、フッ素含有化合物を含む排ガスを流通させ、500℃以上600℃以下に加熱することを特徴とする。500℃未満ではガスの処理量が低下し、600℃を越えても処理量は変わらない。
【0032】
500℃以上600℃以下に加熱してCaOとフッ素化合物を反応させると、次式のようにFはCaFとして固定される。
【化3】
【0033】
[フッ素回収方法1]
本発明のフッ素回収方法は、上記フッ素固定剤をカラムに充填し、フッ素含有化合物を含む排ガスを流通させ、500℃以上600℃以下に加熱してFをCaFとして固定し、次いで当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする。
【0034】
フッ素固定剤のうち、未反応分のCaOは、酸、好ましくは塩酸との反応で可溶性のCaClとして溶出する。
【化4】
【0035】
固形物として残留するSiOは、アルカリ、好ましくはNaOH溶液との反応で可溶性のNaSiOとして溶液に溶ける。
【化5】
【0036】
CaFは、塩酸にもNaOH溶液にも溶けないため、固形物として回収することができる。
【0037】
上記で使用する酸及びアルカリは、通常の工業薬品でよい。上記では塩酸を用いて説明したが、Caと可溶性の塩を形成できる酸であればよく、塩酸に限定されない。たとえば、硝酸を用いることができる。また、アルカリとして水酸化ナトリウムを用いて説明したが、SiOと可溶性の塩を形成できるアルカリであればよく、水酸化ナトリウムに限定されない。たとえば、水酸化カリウムを用いることができる。
【0038】
酸の添加量は、未反応のCaOが溶解する当量以上とすればよく、たとえば1当量以上1.5当量以下、好ましくは1.2当量である。アルカリの濃度は4wt%以上6wt%以下、好ましくは5wt%である。
【0039】
アルカリを流通させる際には、70℃以上80℃以下とすることが好ましい。アルカリの温度が70℃未満では、処理時間が長期化するので好ましくない。また、80℃を超えると、水分蒸発量が多くなり、それとともにミストとしてNaOHの飛散が多くなり、高濃度NaOHの暴露のリスクが高まるので好ましくない。
【0040】
酸を流通させて得られる流出水のろ過、及びアルカリ処理後の溶液のろ過は、耐薬品性で孔径0.45μm以上1.0μm以下、好ましくは0.6μm程度のフィルターを用いて行うことができる。孔径が小さすぎると目詰まりし、大きすぎるとCaFの微粒子がフィルターを通過して回収率が低下するので好ましくない。
【0041】
[フッ素固定方法2]
本発明は、固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、フッ素含有ガスを流通させて、FをCaFとして固定することを特徴とするフッ素固定方法も提供する。本方法は、フッ素固定剤を別途準備するのではなく、単一のカラムを用いてフッ素固定剤の調製からフッ素の固定までを行うことができる。
【0042】
[フッ素回収方法2]
本発明は、固体Ca(OH)を充填したカラムに、窒素ガスを流通させながら、450℃以上700℃以下に加熱し、CaOを生成させ、次いで、窒素ガスの流通を止めて、500℃以上600℃以下で、半導体製造装置からのフッ素含有排ガスを流通させて、FをCaFとして固定させ、さらに、当該カラムに酸を流通させて得られる流出水をろ過して、固形物を回収し、回収した当該固形物を、加温したアルカリ溶液に添加して、SiOを溶解させた溶液を調製し、当該溶液をろ過して、固体CaFを回収することを特徴とする、半導体製造装置からの排ガスの処理方法も提供する。本方法は、フッ素固定剤を別途準備するのではなく、単一のカラムを用いてフッ素固定剤の調製からフッ素の固定及び回収までを行うことができる。
【実施例0043】
[実施例1]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)に、Ca(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を80ml(53.71g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを410sccmで送気しながら、内部温度が500℃となるまで昇温し、500℃で2時間維持した。焼成後の生成物のXRD分析(X線回折法)を行い、X線回折ピークから生成物の同定を行った。結果を図1に示す。比較のため、市販のCaO(矢崎工業製:1mm~3mmの破砕品)のXRD分析を行い、X線回折ピークから生成物の同定を行った。結果を図2に示す。いずれもCaOであることが確認できた。
【0044】
[実施例2]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)に、Ca(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を80ml(53.71g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを410sccmで送気しながら、内部温度が500℃又は600℃となるまで昇温し、500℃又は600℃で2時間維持した。焼成後の生成物の比表面積をBET法によって測定した。比較のため市販のCaO(矢崎工業製:1mm~3mmの破砕品)についても比表面積を測定した。結果を表1に示す。焼成温度500℃と600℃では比表面積に大きな差はなかったが、市販のCaOの比表面積と比較すると著しく大きいことが確認できた。
【0045】
【表1】
【0046】
[実施例3]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)にCa(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を49ml(32.9g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを410sccmで送気しながら、内部温度が室温、200℃、300℃、400℃、500℃、550℃及び600℃の各温度まで昇温させ、各温度で2時間維持した後、Nガスの送気をとめて、HF4.0vol%を含むガスを502hr-1で流通させ、各温度でHFが1ppm検出されるまでの時間を測定し、HFを含むガスの通気量からHF処理量を求め、Ca(OH)のHF処理における温度依存性を調べた。結果表2及び図3に示す。HF処理量は、300℃までは緩やかに増加し、300℃~500℃で急激に増加し、500℃以上でほぼ一定になることが確認できた。
【0047】
【表2】
【0048】
[実施例4]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)にCa(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を43ml(28.87g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを400sccmで送気しながら、内部温度が150℃、300℃、400℃、500℃、及び600℃となるまで昇温し、各温度で2時間維持した後、Nガスの送気をとめて、0.5vol%のSiFを含むガスを558hr-1で流通させ、各温度でSiFが1ppm検出されるまでの時間を測定し、SiFを含むガスの通気量からSiF処理量を求め、Ca(OH)のSiF処理における温度依存性を調べた。結果を表3及び図4に示す。SiF処理量は、500℃までは緩やかに増加し、500℃以上600℃で急激に増加することが確認できた。
【0049】
【表3】
【0050】
[実施例5]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)にCa(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を49ml(32.9g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを410sccmで送気しながら、内部温度が500℃となるまで昇温し、500℃に2時間維持した後、Nガスの送気をとめて、1.0vol%のSiFを含むガスを502hr-1で流通させ、SiFが1ppm検出されるまでの時間を測定し、SiFを含むガスの通気量からSiF処理量を求めた。比較のため、Ca(OH)の代わりに市販のCaO(矢崎工業製:1mm
~3mmの破砕品)を充填した以外は同じ条件でSiF処理量を求めた。結果を表4に示す。本発明の方法によれば、市販のCaOを用いる処理の8倍の処理が可能であった。
【0051】
【表4】
【0052】
[実施例6]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)にCa(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を38ml(25.51g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを300sccmで送気しながら、内部温度が500℃となるまで昇温し、500℃に2時間維持した後、Nガスの送気をとめて、2.5vol%のFを含むガスを480hr-1で流通させ、Fが1ppm検出されるまでの時間を測定し、Fを含むガスの通気量からF処理量を求めた。比較のため、Ca(OH)の代わりに市販のCaO(矢崎工業製:1mm~3mmの破砕品)を充填した以外は同じ条件でF処理量を測定した。結果を表5に示す。本発明の方法によれば、市販のCaOを用いる処理の2.5倍の処理が可能であった。
【0053】
【表5】
【0054】
[実施例7]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)にCa(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を38ml(25.51g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを300sccmで送気しながら、内部温度が500℃となるまで昇温し、500℃で2時間維持した後、Nガスの送気をとめて、2.5vol%のF及び3.2vol%のHFを含むガスを480hr-1で流通させ、Fが1ppm以上リークするまでの時間を測定し、F及びHFを含むガスの通気量からF処理量及びHF処理量を求めた。比較のため、Ca(OH)の代わりに市販のCaO(矢崎工業製:1mm~3mmの破砕品)を充填した以外は同じ条件でF処理量及びHF処理量を測定した。結果を表6に示す。本発明の方法によれば、市販のCaOを用いる処理の1.8倍の処理が可能であった。
【0055】
【表6】
【0056】
[実施例8]
石英製ミニカラム(24mmφ×500mmhの中空円筒)にCa(OH)(矢崎工業製:直径1.6mm、長さ3.2mm~6.4mmの円柱状粒子)を100ml(67.14g)充填し、セラミック管状炉に装填し、Nガスを410sccmで送気しながら、内部温度が500℃となるまで昇温し、500℃で2時間維持した後、Nガスの送気をとめて、半導体製造装置のHF及びFによるエッチングの実排ガスを246hr-1で20時間、流通させた。処理後に、カラムから固形物を取り出し、XRF(蛍光X線)で成分分析を行ったところ、CaF:58wt%、CaO:30wt%、SiO:12wt%であった。実排ガス中のフッ素含有化合物からFをフッ素固定剤に固定できていることが確認できた。
【0057】
残留CaO量の1.2倍当量の塩酸を添加した塩酸溶液に固形物を1時間浸漬させて、固形物を塩酸と接触させた後、孔径0.6μmのグラスファイバーフィルターでろ過した。グラスファイバーフィルター上に残留する固形分を70℃に加温した5%NaOH溶液に30分間浸漬させた後、孔径0.6μmのグラスファイバーフィルターでろ過した。グラスファイバーフィルター上に残留する固形物をXRFで成分分析したところ、CaF:49.8wt%、SiO:0.2wt%であった。実排ガス中のフッ素含有化合物からFをフッ素固定剤に固定して回収できていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、従来の処理法よりも低温で簡易な方法で、フッ素化合物含有ガスからFをCaFとしてフッ素固定剤に固定し、回収することができる。半導体製造装置から排出されるフッ素化合物含有ガスの処理方法として有用である。
図1
図2
図3
図4