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特開2024-99969除草用組成物、及び除草剤の候補物質を選択する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099969
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】除草用組成物、及び除草剤の候補物質を選択する方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/10 20060101AFI20240719BHJP
   A01N 43/54 20060101ALI20240719BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20240719BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A01N43/10 A
A01N43/54 D
A01N43/40 101E
A01P13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003632
(22)【出願日】2023-01-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 誠
(72)【発明者】
【氏名】河田 吉弘
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB01
4H011BB08
4H011BB09
4H011DA12
4H011DC05
4H011DD03
4H011DE15
(57)【要約】
【課題】
本発明は、葉酸の合成を阻害する化合物を含む、除草用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む、除草用組成物:
(上記式において、
は、5員から6員の不飽和のヘテロ環基、又はアリール基を示す。
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアミド基である。
Xは、炭素原子、又はヘテロ原子である。)
により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物、又はその塩を含む、除草用組成物:
【化1】
(上記式において、
は、5員から6員の不飽和のヘテロ環基、又はアリール基を示す。
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアミド基である。
Xは、炭素原子、又はヘテロ原子である。)。
【請求項2】
5員の不飽和のヘテロ環基は、チエニル基、ピロリル基、又はフラニル基であり、
6員の不飽和のヘテロ環基は、ピリジル基、ピリミジル基、又はピラジル基であり、
アリール基はフェニル基であり、
アミド基の置換基は、アミノ基である、
請求項1に記載の除草用組成物。
【請求項3】
が、5員の不飽和のヘテロ環基である時、Rは置換基を有していてもよいアミド基であり、
が、アリール基である時、Rは水素原子である、
請求項1に記載の除草用組成物。
【請求項4】
が、5員の不飽和のヘテロ環基である時、Xは炭素原子であり、
が、アリール基である時、Xは窒素原子である、
請求項1に記載の除草用組成物。
【請求項5】
一般式(I)で表される化合物が下式(1)又は(2)で表される、請求項1に記載の除草用組成物:
【化2】

【化3】
【請求項6】
さらに担体を含む、請求項1に記載の除草用組成物。
【請求項7】
暗所において、被験物質とスクロース存在下で、第1の植物の種子を発芽させ、発芽した第1の被験実生を所定期間培養することと、
培養後に、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積、及び/又は胚軸の伸びを観察することと、
第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、暗所において被験物質を含まないスクロース存在下で発芽させた第1の陰性対照の植物の実生と比較して高い被験物質、及び/又は被験実生の胚軸の伸びが前記第1の陰性対照よりも抑制している被験物質を選択することと、
明所において、前記選択された被験物質の存在下で、第2の植物の種子を発芽させ、発芽した第2の被験実生を所定期間培養することと、
培養後に、第2の被験実生の生長を観察することと、
第2の被験実生の生長が、明所において前記選択した被験物質の非存在下で生長させた第2の陰性対照の植物の実生と比較して抑制されている時、前記選択した被験物質が除草効果を有すると決定することと、
を含む除草効果を有する候補物質の選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、除草用組成物、及び除草剤の候補物質を選択する方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
植物において、デンプンはアミロプラストや光合成を行っている葉緑体に蓄積する。プラスチドはアミロプラストなどのデンプン蓄積型プラスチドと、エチオプラストなどのデンプン非蓄積型プラスチドに大別できる。一方、同じプラスチドに属するエチオプラストや光合成を行っていない葉緑体などはデンプンを蓄積しない。
【0003】
非特許文献1には、葉酸合成酵素の一つであるホリルポリグルタミン酸合成酵素を欠損するシロイヌナズナ変異体を使用した実験により、プラスチド局在型葉酸は、暗闇の下で、エチオプラストや光合成を行っていない葉緑体などのデンプン非蓄積型プラスチドへの糖の流入によって引き起こされるデンプン生合成を妨げることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Makoto Hayashi et al, Plant Cell Physiol. 2017 Aug 1;58(8):1328-1338. doi: 10.1093/pcp/pcx076.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラスチドにおけるプラスチド局在型葉酸の欠乏は、プラスチドへの糖の流入が阻害されず、結果としてプラスチド内へのデンプンの蓄積を促す。
【0006】
本発明は、葉酸の合成を阻害する化合物を含む、除草用組成物を提供することを課題とする。また、新たな除草剤の候補物質を選択するための選択方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
項1.
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む、除草用組成物:
【化1】
(上記式において、
は、5員から6員の不飽和のヘテロ環基、又はアリール基を示す。
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアミド基である。
Xは、炭素原子、又はヘテロ原子である。)
項2.
5員の不飽和のヘテロ環基は、チエニル基、ピロリル基、又はフラニル基であり、
6員の不飽和のヘテロ環基は、ピリジル基、ピリミジル基、又はピラジル基であり、
アリール基はフェニル基であり、
アミド基の置換基は、アミノ基である、
項1に記載の除草用組成物。
項3.
が、5員の不飽和のヘテロ環基である時、Rは置換基を有していてもよいアミド基であり、
が、アリール基である時、Rは水素原子である、
項1に記載の除草用組成物。
項4.
が、5員の不飽和のヘテロ環基である時、Xは炭素原子であり、
が、アリール基である時、Xは窒素原子である、
項1に記載の除草用組成物。
項5.
一般式(I)で表される化合物が下式(1)又は(2)で表される、項1に記載の除草用組成物:
【化2】

【化3】

項6.
さらに担体を含む、項1~5のいずれか一項に記載の除草用組成物。
項7.
暗所において、被験物質とスクロース存在下で、第1の植物の種子を発芽させ、発芽した第1の被験実生を所定期間培養することと、
培養後に、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積、及び/又は胚軸の伸びを観察することと、
第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、暗所において被験物質を含まないスクロース存在下で発芽させた第1の陰性対照の植物の実生と比較して高い被験物質、及び/又は被験実生の胚軸の伸びが前記第1の陰性対照よりも抑制している被験物質を選択することと、
明所において、前記選択された被験物質の存在下で、第2の植物の種子を発芽させ、発芽した第2の被験実生を所定期間培養することと、
培養後に、第2の被験実生の生長を観察することと、
第2の被験実生の生長が、明所において前記選択した被験物質の非存在下で生長させた第2の陰性対照の植物の実生と比較して抑制されている時、前記選択した被験物質が除草効果を有すると決定することと、
を含む除草効果を有する候補物質の選択方法。
【発明の効果】
【0008】
葉酸の合成を阻害する化合物を含む、除草用組成物を提供することができる。また、新たな除草剤の候補物質を選択するための選択方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】4つの被験化合物の構造を示す。
図2】様々な濃度で4つの被験化合物が存在する条件下で、暗所で発芽させた後にヨウ素染色したWTシロイヌナズナの実生の画像を示す。
図3】化合物120d(25 μM)および375d(50 μM)の効果を固形生長培地を使って評価した結果を示す。Aは、ヨウ素染色した実生の画像を示す。Bは、デンプンの蓄積量を示すグラフである。Cは、胚軸長を示す。
図4】化合物120d、又は375dを含有した固形培地、又は含有していない固形生長培地(SM)で生長させた実生のデンプン染色像(WT)およびエチオプラストの蛍光顕微鏡画像(cp-GFP)を示す。cp-GFPはプラスチド局在型緑色蛍光タンパク質を発現する形質転換シロイヌナズナである。
図5】25μMの化合物120d又は50μMの化合物375dを含む固形生長培地上で明所培養により生長させたWTシロイヌナズナの実生の画像を示す。
図6】5-ホルミルテトラヒドロ葉酸 (5fTHF)による相補実験の結果を示す。Aは、5fTHF 存在下、又は非存在下で375dを含有した固形生長培地上で生長させたWTシロイヌナズナの実生の画像を示す。Bは、5fTHF存在下、又は非存在下で120dを含有した固形培地上で生長させたWTシロイヌナズナの実生の画像を示す。いずれの実生もヨウ素染色されている。
図7】抗菌試験の結果を示す。図に記載の濃度の化合物120dおよびスルファ剤(SDZ; スルファジアジン)を含む大腸菌用固形培地に大腸菌培養液の希釈液(1倍~1000倍)をスポットし、一晩培養後に形成されたコロニーの画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.除草用組成物
本発明のある実施形態は、除草用組成物に関する。
除草用組成物は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む:
【化4】
【0011】
上記式において、Rは、5員から6員の不飽和のヘテロ環基、又はアリール基を示す。好ましくは、5員の不飽和のヘテロ環基は、チエニル基、ピロリル基、又はフラニル基である。好ましくは、6員の不飽和のヘテロ環基は、ピリジル基、ピリミジル基、又はピラジル基である。好ましくは、アリール基は、フェニル基である。
【0012】
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアミド基である。好ましくは、アミド基の置換基は、アミノ基である。
【0013】
Xは、炭素原子、又はヘテロ原子である。ヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子、又は酸素原子である。好ましくは、ヘテロ原子は、窒素原子である。
【0014】
より好ましくは、Rが、5員の不飽和のヘテロ環基である時、Xは炭素原子であり、Rが、アリール基である時、Rは水素原子である。
【0015】
さらに好ましくは、Rが、5員の不飽和のヘテロ環基である時、Xは炭素原子であり、Rが、アリール基である時、Xは窒素原子である。
【0016】
最も好ましくは、一般式(I)で表される化合物は、下式(1)又は(2)で表される化合物である:
【化5】

【化6】

上記一般式(I)で表される化合物は、公知化合物であるか、公知化合物に準じて合成可能な化合物である。
【0017】
上記一般式(I)で表される化合物の塩として、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩のような無機酸付加塩;及び酢酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等の有機酸付加塩を挙げることができる。
【0018】
除草用組成物は、上記一般式(I)で表される化合物、又はその塩をそのまま使用してもよいが、担体、添加剤と組み合わせ、粉剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤、乳剤、液剤、微粒剤又は粒剤等の剤形で使用してもよい。
担体として、例えば液体担体、及び固体担体から選択される少なくとも一種を上げることができる。
【0019】
液体担体として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の一価アルコール類や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類のようなアルコール類、プロピレングリコールエーテル等の多価アルコール化合物類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、エチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ノルマルパラフィン、ナフテン、イソパラフィン、ケロシン、鉱油等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、ジイソプロピルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、アジピン酸ジメチル等のエステル類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-アルキルピロリジノン等のアミド類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物類、大豆油、ナタネ油、綿実油、ヒマシ油等の植物油、水等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、固体担体として、例えば、石英、クレー、珪砂、カオリナイト、ピロフィライト、セリサイト、タルク、ベントナイト、酸性白土、アタパルジャイト、ゼオライト、珪藻土等の天然鉱物類、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、合成ケイ酸、合成ケイ酸塩、デンプン、セルロース、植物粉末等の有機固体担体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等のプラスチック担体、尿素、無機中空体、プラスチック中空体、フュームドシリカ(fumed silica,ホワイトカーボン)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
添加剤として、除草用組成物は、界面活性剤、結合剤、粘着性付与剤、増粘剤、着色剤、拡展剤、展着剤、凍結防止剤、固結防止剤、崩壊剤、分解防止剤、消泡剤、防腐剤、植物片等を挙げることができる。
【0022】
界面活性剤として、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンジアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、アルキルポリオキシエチレンポリプロピレンブロックコポリマーエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン脂肪酸ビスフェニルエーテル、ポリアルキレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、アセチレンジオール、ポリオキシアルキレン付加アセチレンジオール、ポリオキシエチレンエーテル型シリコーン、エステル型シリコーン、フッ素系界面活性剤、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等の非イオン性界面活性剤、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩、脂肪酸塩、ポリカルボン酸塩、N-メチル-脂肪酸サルコシネート、樹脂酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のアニオン性界面活性剤、ラウリルアミン塩酸塩、ステアリルアミン塩酸塩、オレイルアミン塩酸塩、ステアリルアミン酢酸塩、ステアリルアミノプロピルアミン酢酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンザルコニウムクロライド等のアルキルアミン塩等のカチオン界面活性剤、アミノ酸型又はベタイン型等の両性界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
結合剤や粘着性付与剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースやその塩、デキストリン、水溶性デンプン、キサンタンガム、グアーガム、蔗糖、ポリビニルピロリドン、アラビアガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸ナトリウム、平均分子量6000~500万のポリオキシエチレン、燐脂質(例えばセファリン、レシチン等)等が挙げられる。これらの結合剤や粘着性付与剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
増粘剤として、例えば、キサンタンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アクリル系ポリマー、デンプン誘導体、多糖類のような水溶性高分子、高純度ベントナイト、フュームドシリカ(fumed silica,ホワイトカーボン)のような無機微粉等が挙げられる。これらの増粘剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
着色剤として、例えば、酸化鉄、酸化チタン、プルシアンブルーのような無機顔料、アリザリン染料、アゾ染料、金属フタロシアニン染料のような有機染料等が挙げられる。これらの着色剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
拡展剤として、例えば、セルロース粉末、デキストリン、加工デンプン、ポリアミノカルボン酸キレート化合物、架橋ポリビニルピロリドン、マレイン酸とスチレン類の共重合体、(メタ)アクリル酸系共重合体、多価アルコールからなるポリマーとジカルボン酸無水物とのハーフエステル、ポリスチレンスルホン酸の水溶性塩等が挙げられる。これらの拡展剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
展着剤として、例えば、パラフィン、テルペン、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸塩、ポリオキシエチレン、ワックス、ポリビニルアルキルエーテル、アルキルフェノールホルマリン縮合物、デンプンのリン酸エステル、合成樹脂エマルション等が挙げられる。これらの展着剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
凍結防止剤として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等が挙げられる。これらの凍結防止剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
固結防止剤として、例えば、デンプン、アルギン酸、マンノース、ガラクトース等の多糖類、ポリビニルピロリドン、フュームドシリカ(fumed silica,ホワイトカーボン)、エステルガム、石油樹脂等が挙げられる。これらの固結防止剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
崩壊剤としては、例えば、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ステアリン酸金属塩、セルロース粉末、デキストリン、メタクリル酸エステル系共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアミノカルボン酸キレート化合物、スルホン化スチレン・イソブチレン・無水マレイン酸共重合体、デンプン・ポリアクリロニトリルグラフト共重合体等が挙げられる。これらの崩壊剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
分解防止剤として、例えば、ゼオライト、生石灰、酸化マグネシウムのような乾燥剤、フェノール化合物、アミン化合物、硫黄化合物、リン酸化合物等の酸化防止剤、サリチル酸化合物、ベンゾフェノン化合物等の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの分解防止剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
消泡剤として、例えば、ジメチルポリシロキサン、変性シリコーン、ポリエーテル、脂肪酸エステル、脂肪酸塩等が挙げられる。これらの消泡剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
防腐剤として、例えば、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、1,2-ベンゾチアゾリン-3-オン等が挙げられる。これらの防腐剤は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
植物片として、例えば、おがくず、ヤシガラ、トウモロコシ穂軸、タバコ茎等が挙げられる。これらの植物片は単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
除草用組成物における上記一般式(I)で表される化合物、又はその塩の含有量は、剤形、散布対象の土地の面積によって適宜設定できる。例えば、除草用組成物全体を100質量%とした場合、除草用組成物における上記一般式(I)で表される化合物、又はその塩の含有量は、例えば、0.01~100質量%の範囲である。除草用組成物の剤形が、粉剤、微粒剤又は粒剤等であるとき、除草用組成物全体を100質量%とした場合、除草用組成物における上記一般式(I)で表される化合物、又はその塩の含有量は、0.01~90質量%、好ましくは0.05~50質量%の範囲から選択するのが好ましい。除草用組成物の剤形が、乳剤、液剤、フロアブル剤、水和剤及び顆粒水和剤等である時、除草用組成物全体を100質量%とした場合、除草用組成物における上記一般式(I)で表される化合物、又はその塩の含有量は、1~90質量%、好ましくは5~80質量%の範囲から選択するのが好ましい。
【0036】
担体は、除草用組成物全体を100質量%とした場合、例えば、5~95質量%、好ましくは20~90質量%の範囲とすることができる。界面活性剤は、除草用組成物全体を100質量%とした場合、例えば、0.1~30%、好ましくは0.5~10質量%の範囲とすることができる。その他の添加成分は、除草用組成物全体を100質量%とした場合、例えば、0.1~30%、好ましくは0.5~10%の範囲とすることができる。
【0037】
除草用組成物の施用量は、使用される上記一般式(I)で表される化合物、又はその塩の種類、対象雑草、発生傾向、環境条件ならびに使用する剤形等に適宜設定できる。
【0038】
粉剤、微粒剤又は粒剤等の場合には、上記一般式(I)で表される化合物の質量として10アール当り0.1g~5kg、好ましくは0.5g~1kgの範囲において使用することができる。
【0039】
乳剤、液剤、フロアブル剤、水和剤又は顆粒水和剤等で水に希釈して使用する場合には、使用時の上記一般式(I)で表される化合物の濃度として一般的に10~100,000ppmの範囲において使用することができる。
【0040】
2.除草効果を有する候補物質の選択方法
本発明のある実施形態は、除草効果を有する候補物質の選択方法に関する。選択方法は、2つのスクリーニング工程を備える。第1のスクリーニング工程は、暗所において被験物質の存在下で植物の種子を発芽させた被験実生におけるデンプンの蓄積、及び/又は胚軸の伸びを指標に除草剤の候補物質を選択する工程である。この工程では、葉酸合成を阻害する可能性のある被験物質、及び/又は葉酸の機能を阻害する物質が選択され得る。第2のスクリーニング工程は、第1のスクリーニング工程において選択された被験物質について、さらに実際に除草剤として使用可能であるかを確認するステップである。本項において、「除草剤」とは除草作用のある有効成分のみを意図し、除草用組成物とは区別する。
【0041】
(1)第1のスクリーニング工程
第1のスクリーニング工程は、
暗所において、被験物質とスクロース存在下で、第1の植物の種子を発芽させ、発芽した第1の被験実生を所定期間培養することと、
培養後に、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積、及び/又は胚軸の伸びを観察することと、
第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、暗所において被験物質を含まないスクロース存在下で発芽させた第1の陰性対照の植物の実生と比較して高い被験物質、及び/又は被験実生の胚軸の伸びを前記第1の陰性対照よりも抑制している被験物質を選択すること、
とを含む。
【0042】
植物は、培地(液体培地、又は固形培地)を使って種子から発芽させ、実生を生長させることが可能な植物である限り制限されない。例えば、植物として、シロイヌナズナ、タバコ、ムギ、イネ、ナタネ、アサガオ、トマト、レタス、エンドウ、ミヤコグサ、トウモロコシ等を挙げることができる。好ましくは、シロイヌナズナである。
【0043】
液体培地、及び固形培地は、植物の種類に合わせて一般的に使用されている培地を適宜選択できる。例えば、植物がシロイヌナズナである場合、液体培地として、Hyponica Liquid Fertilizer (Kyowa, Osaka, Japan)、0.5 mg/mL 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)-KOHバッファー、及び必要に応じてスクロースを含む培地を使用することができる。Hyponica Liquid Fertilizerは、0.8~1.2×程度で培地に添加することができる。2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)-KOHバッファーは、0.1 mg/mL~0.8 mg/mL程度となるようにMESを水に溶解し、水酸化カリウムでpH 5.6 ~pH 6.0程度の範囲に調整して作製する。スクロースは、終濃度で15m M~70 mM程度となるように添加する。
【0044】
固形培地は、液体培地に寒天、アガロース、又はアガーを終濃度で0.6質量%~1 質量%程度添加して調製することができる。
「暗所」は、被験実生が暗形態形成をするために十分暗い光量をいう。
培養温度は、植物に応じて適宜設定できる。例えば植物がシロイヌナズナである場合、20℃~25℃程度である。
【0045】
所定期間の培養とは、植物の種類によって適宜設定できるが、例えば、4日~7日程度の培養期間を意図する。
【0046】
また、液体培養を行う場合には、120 rpm~160 rpm 程度で振盪培養を行うことが好ましい。
【0047】
第1の被験実生の培養に添加する被験物質の添加量は、被験物質に応じて適宜設定できる。例えば、0.01μg/mL~500μg/mLの範囲内に、好ましくは0.1μg/mL~100μg/mLの範囲に設定することができる。
【0048】
第1の陰性対照は、第1の被験実生と同じ植物であり、培地に被験物質を添加しない以外は、第1の被験実生と同じ培養条件で培養されることが好ましい。第1の陰性対照は、第1の被験実生と並行して培養されてもよいが、第1の被験実生とは異なる時期に培養されてもよい。
【0049】
デンプンの蓄積量の評価は、定性的に評価しても、定量的に評価してもよい。デンプンは、ヨウ素デンプン反応を利用して可視化、着色することができる。例えば、定性的な評価では、実生をヨウ素溶液に1分程度浸漬し、洗浄し目視判定することができる。また、定量的な評価を行う場合、例えば、Total Starch Assay Kit (Megazyme、Wicklow、Ireland)等を使用して、実生内に蓄積したデンプンを定量することができる。
【0050】
定性的な評価は、視認によりヨウ素デンプン反応による暗紫色の濃さを第1の被験実生と第1の陰性対照と比較することにより行う。第1の陰性対照よりも第1の被験実生の方が暗紫色が濃ければ、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、第1の陰性対照の植物の実生と比較して高いと決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程に供する被験物質として選択できる。
【0051】
また、第1の陰性対照と第1の被験実生の暗紫色が同程度以下であれば、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、第1の陰性対照の植物の実生と同程度以下と決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程に供する被験物質ではないとして排除することができる。
【0052】
定量的な評価の場合、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積量が、第1の陰性対照の実生のデンプンの蓄積量の、1.5倍、2倍以上、3倍以上、5倍以上、又は7倍以上高い場合、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、第1の陰性対照の植物の実生と比較して高いと決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程に供する被験物質として選択できる。
【0053】
また、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、第1の陰性対照の実生のデンプンの蓄積量の、1.5倍未満、2倍未満、3倍未満、5倍未満、又は7倍未満である場合、第1の被験実生におけるデンプンの蓄積が、第1の陰性対照の植物の実生と比較して同程度以下と決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程に供さない被験物質として排除することができる。
胚軸の伸びの評価は、定性的に行っても、定量的に行ってもよい。
【0054】
定性的な評価の場合、第1の陰性対照と第1の被験実生の胚軸の長さを比較し、第1の陰性対照よりも第1の被験実生の胚軸が短ければ、第1の被験実生における胚軸の伸びが抑制されていると決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程に供する被験物質として選択できる。
【0055】
第1の陰性対照と第1の被験実生の長さを比較し、第1の陰性対照と第1の被験実生の胚軸の長さが同程度以上であれば、第1の被験実生における胚軸の伸びが抑制されていないと決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程供さない被験物質として排除することができる。
【0056】
胚軸の伸びを定量的に評価する場合、第1の陰性対照と第1の被験実生の胚軸の長さを計測し、第1の陰性対照の胚軸の長さと比較して、第1の被験実生の胚軸の長さが1/1.2未満、1/1.5未満、1/2未満、1/3未満、1/5未満である場合、第1の被験実生における胚軸の伸びが抑制されていると決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程に供する被験物質として選択できる。
【0057】
また、第1の陰性対照と第1の被験実生の胚軸の長さを計測し、第1の陰性対照の胚軸の長さと比較して、第1の被験実生の胚軸の長さが1/1.2以上、1/1.5以上、1/2以上、1/3以上、又は1/5以上である場合、第1の被験実生における胚軸の伸びが抑制されていないと決定でき、第1の被験実生の培養時に添加した被験物質を第2のスクリーニング工程に供さない被験物質として排除することができる。
第1のスクリーニング工程は、種子を培養する前に、表面滅菌を行う工程、及び/又は種子を活性化する工程を備えていてもよい。
【0058】
種子の表面滅菌は、例えば次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤等、又はこれらの混合液に浸漬することより行うことができる。また、種子の活性化は、例えば、暗所において、4℃で48時間程度インキュベートした後、22℃で6時間程度白色光(光合成光子束密度=100μmol m-2 s-1)を照射することによって行うことができる。
【0059】
(2)第2のスクリーニング工程
第2のスクリーニング工程は、
明所において、前記選択された被験物質の存在下で、第2の植物の種子を発芽させ、発芽した第2の被験実生を所定期間培養することと、
培養後に、生長を観察することと、
第2の被験実生の生長が、明所において前記選択した被験物質の非存在下で発芽させた第2の陰性対照の植物の実生と比較して抑制されている時、前記選択した被験物質が除草効果を有すると決定すること、
とを備える。
【0060】
第2の植物は、第1の植物と同種であっても、異種であってもよい。好ましくは同種である。培養に用いる培地は、第1のスクリーニング工程と同じであってもよいが、スクロースは添加しても、添加しなくてもよい。第2のスクリーニング工程で使用する培地には第1のスクリーニング工程で選択された被験物質を添加する。添加量は、第1のスクリーニング工程と同じであってもよいが、第1のスクリーニング工程で最少有効添加量を決定、第2のスクリーニング工程では、決定した最少有効添加量を培地に加えてもよい。培養条件は、明所で培養を行う点を除き、第1のスクリーニング工程と同じ条件を採用することができる。培養時間は、4日~12日程度としてもよい。
【0061】
明所とは、白色光の照射下を意図し、明るさは、100~150 μmol m-2s-1程度とすることができる。
【0062】
第2の陰性対照は、第2の被験実生と同じ植物であり、培地に被験物質を添加しない以外は、第2の被験実生と同じ培養条件で培養されることが好ましい。第2の陰性対照は、第2の被験実生と並行して培養されてもよいが、第2の被験実生とは異なる時期に培養されてもよい。
【0063】
実生の生長の抑制効果の判定は、以下のとおりである。
実生の生長を定性的に評価する場合、第2の陰性対照と第2の被験実生の生長を比較し、第2の陰性対照よりも第2の被験実生の生長が抑制されていれば、第1のスクリーニング工程で選択した被験物質が除草効果を有すると決定することができる。
【0064】
第2の陰性対照と第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさを比較し、第2の陰性対照と第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さが短く、及び/又は子葉、及び/又は本葉の大きさが小さければ、第2の被験実生における生長が抑制されていると決定でき、第1のスクリーニング工程で選択した被験物質が除草効果を有する決定することができる。
【0065】
第2の陰性対照と第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさを比較し、第2の陰性対照と第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は子葉、及び/又は本葉の大きさが同程度以上であれば、第2の被験実生における生長が抑制されていないと決定でき、第1のスクリーニング工程で選択した被験物質が除草効果を有さないと決定することができる。
【0066】
実生の生長を定量的に評価する場合、第2の陰性対照と第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさを計測し、第2の陰性対照の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさと比較して、第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさが1/1.2未満、1/1.5未満、1/2未満、1/3未満、1/5未満である場合である場合、第2の被験実生における生長が抑制されていると決定でき、第1のスクリーニング工程で選択した被験物質が除草効果を有すると決定することができる。
【0067】
また、第2の陰性対照と第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさを計測し、第2の陰性対照の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさと比較して、第2の被験実生の子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさが1以上、1/1.2以上、1/1.5以上、1/2以上、1/3以上、又は1/5以上である場合、第2の被験実生における生長が抑制されていないと決定でき、第1のスクリーニング工程で選択した被験物質が除草効果を有さないと決定することができる。
【0068】
また、実生の生長は、子葉、及び/又は本葉の長さ、及び/又は大きさに加えて、あるいは独立して、葉の色により評価してもよい。第2の陰性対照と第2の被験実生の葉の色を比較して、第2の被検実生の葉の方が緑色が薄ければ、第2の被験実生における生長が抑制されていると決定することができ、第1のスクリーニング工程で選択した被験物質が除草効果を有すると決定することができる。
【0069】
第2の陰性対照と第2の被験実生の葉の色を比較して、第2の被検実生の葉の緑色が第2の陰性対照と同程度以上であれば、第2の被験実生における生長が抑制されていないと決定することができ、第1のスクリーニング工程で選択した被験物質が除草効果を有さないと決定することができる。
【0070】
第2のスクリーニング工程は、第1のスクリーニンク工程と同様に種子を培養する前に、表面滅菌を行う工程、及び/又は種子を活性化する工程を備えていてもよい。
【実施例0071】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0072】
1.培養
Arabidopsis thaliana ecotype Columbia (Col-0)を野生型(WT)として使用した。Arabidopsis thaliana ecotype Columbiaの種子は、2% 次亜塩素酸ナトリウムと 0.05% Triton X-100 を含む溶液で表面滅菌した。液体培養培地で実生を育てるために、殺菌した種子を、1× Hyponica Liquid Fertilizer (Kyowa, Osaka, Japan)、0.5 mg/mL 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)-KOHバッファー(pH 5.8)、および30 mMスクロースを含む液体培地を500μLずつ分注した48ウェルプレートの各ウェルに播種した。種子の発芽を、暗所、4℃で 48時間インキュベートした後、22℃で6時間白色光(光合成光子束密度=100μmol m-2 s-1)を照射することによって活性化させた。実生はロータリーシェーカー(NR-20:Taitec、埼玉、日本)を使用してマイクロプレートを140 rpmで回転させることにより、一定の通気を行いながら、暗所で22℃で6日間、成長させた。
【0073】
実生を固形成長培地(SM)において発芽させる場合、滅菌した種子を、液体培地に0.8% 寒天を加えた寒天プレートに播種し、4℃の暗所で48時間培養した後、22℃において6時間白色光を照射することで種子の発芽を活性化させた。実生は22℃の暗所または白色光の下で6日間培養した。
【0074】
528の構造的に多様な化学物質を含む学内の化学物質ライブラリをスクリーニングした。このライブラリは、以前にオートファジーの新規阻害剤の同定に使用された公知のものである(文献:Ogasawara, Y., et al. J. Biol. Chem. 289: 23938-23950, 2014)。
ライブラリに含まれる被験化合物を添加する際には、各被験化学物質を、3つの異なる濃度(50、5、および0.5μg/mL)で培養培地に添加した。
【0075】
2.デンプンの蓄積量の評価
黄化実生に蓄積されたデンプンは、ヨウ素染色によって可視化した。黄化した実生を1%ヨウ素溶液(1%ヨウ素、及び1%ヨウ化カリウムを含む)内で1分間インキュベートした後、水で洗浄して過剰なヨウ素溶液を除去した。デンプンの蓄積の評価は、ヨウ素デンプン反応を目視で観察することと、定量的評価によって行った。
【0076】
実生のデンプン含有量は、Total Starch Assay Kit (Megazyme、Wicklow、Ireland) を使用して、製造元の指示に従い、わずかな変更を加えてアッセイした。 Bead Smash 12 (和健薬、京都、日本) を使用して、暗所で6日間生育させた25の実生を110μLの酢酸ナトリウム(NaOAc)バッファー (100 mM NaOAc、5 mM CaCl2 [pH 5.0])内でホモジナイズした。ホモジネート中の総デンプンを、3 Uの好熱性α-アミラーゼとともに100℃で20分間インキュベートし、次に3.3 Uのアミログルコシダーゼと50℃で30分間インキュベートすることにより、D-グルコースに変換した。続いて、反応済みのサンプルを4℃、16,000×gで5分間で遠心し、上清を回収した。上清中のD-グルコースを、メーカーの指示に従って、比色測定によって定量化した。
【0077】
3.結果
(1)スクリーニング結果
各被験化合物の存在下で、野生型シロイヌナズナの種子を22℃、暗所、6日間発芽させた後にヨウ素染色を行いデンプンの蓄積を被験化合物を添加させずに発芽させた対照実生と比較すると共に、被験化合物投与実生と対照実生の胚軸の伸びを比較することで、候補化合物のスクリーニングを行った。スクリーニングの結果、実生におけるデンプンの蓄積と、胚軸の伸びの抑制が認められた被験化合物は、図1に示す化合物120(2-[(2-thienylsulfonyl)amino]-2-[[3-hydrosy-5(hydroxymethyl)-2-methyl-4-pyridinyl]methylene]hydrazide)、120d(N-[2-hydrazinecarbonyl]phenyl)thiophene-2-sulfonamide)、375(N-{4-[4-(Pyrimidine-2-ylsulfamoyl)-phenylsulfamoyl]-phenyl}-acetamide)、375d(2-benzenesulfonamidopyrimidine)であった。化合物120dは化合物120の誘導体であり、化合物375dは、化合物375の誘導体である。4つの化合物は、いずれもスルホンアミド基(-SO2-NH-)を有していた。スクリーニング時の結果を図2に示す。
【0078】
デンプンが蓄積した実生は、ヨウ素染色により暗紫色に染まる。化合物120では、50μM以上の添加で胚軸の伸びの抑制が認められ、70μM以上の添加でデンプンの蓄積が認められた。化合物120dでは、5μM以上の添加でデンプンの蓄積と生長の胚軸の伸びの抑制が認められた。化合物120dは化合物120よりも効果が強かった。化合物375では、10μMの添加でデンプンの蓄積と胚軸の伸びの抑制が認められた。化合物375dでは、30μMの添加でデンプンの蓄積と20μMの添加で胚軸の伸びの抑制が認められた。
【0079】
(2)暗所培養実生への化合物の効果
化合物120dおよび375dの効果を詳細に分析するために、化合物120d又は375dと寒天を加えた固形培地を使って最小有効濃度を決定した。培養は、22℃の暗所にて、6日間行った。
【0080】
WTシロイヌナズナの実生を、化合物120d又は375dを様々な濃度で含む固形生長培地(SM)上で生長させた。化合物#120d及び#375dの最小有効濃度は、SMでそれぞれ25および50μMであり、上記(1)で使用した液体培地よりも固形生長培地では最小有効濃度が高かった。
【0081】
最小有効濃度での化合物120d(25μM)および375d(50μM)の効果を固形培地を使って評価した。培養は、22℃の暗所にて、6日間行った。結果を図3に示す。
【0082】
図3Aは、化合物を添加していない対照群(SM)と、化合物120d又は375dを添加した実生の実体画像を示す。図3Bは、各群におけるデンプンの蓄積量を定量化したグラフを示す。図3Cは、各群における胚軸の伸びを定量化したグラフを示す。
【0083】
化合物を添加せずに生長させた実生のデンプン含有量と胚軸長は、それぞれ0.33 ± 0.10μg、及び16.8±2.4 mmであった。化合物120dを添加した固形培地上で生育した実生のデンプン含量と胚軸長は、それぞれ2.44±0.10μg、及び2.5±0.9 mm であった。化合物375dを添加した固形培地上で生育した実生のデンプン含量と胚軸長は、それぞれ2.47±0.04μg、及び5.5 ± 1.1 mmであった。化合物120dおよび375dは、対照群と比較してデンプン蓄積をそれぞれ約7.4倍、及び7.5倍増加させ、胚軸長をそれぞれ6.7倍、及び3.0倍減少させた。
【0084】
(3)エチオプラストにおけるデンプン顆粒の存在の確認
WTシロイヌナズナ実生、及びトランスジェニックcp-GFPシロイヌナズナ実生を、化合物120d、又は375dを含有した固形培地、又は含有していない固形培地(SM)で22℃、暗所にて6日間生長させ、エチオプラストの形態を観察した。cp-GFPトランスジェニック シロイヌナズナ系統は、リブロース二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ (RuBisCO) 小サブユニットのアミノ末端一過性ペプチドをコードする配列と緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子の融合有している(Mano, S., et al. Plant Cell Physiol. 50: 2000-2014, 2009)。
【0085】
結果を図4に示す。ヨウ素染色によって染色されたデンプンの蓄積を、WT実生の胚軸細胞において観察した。エチオプラストの形態は、共焦点レーザー走査顕微鏡を使用してGFPシグナルを捕捉することによってcp-GFPシロイヌナズナ実生で観察した。
【0086】
化合物120d、及び375dが存在しない場合、WTシロイヌナズナ実生の胚軸細胞はヨウ素溶液で染色されず(図4; SM、WT)、cp-GFP 実生の胚軸細胞においてエチオプラストに対応する部分に、デンプン顆粒のない小さな点状GFPフォーカス(直径約1μm程度)が検出された(図4; SM、cp-GFP、白い矢印)。この結果は、デンプンの蓄積がないことを示す。化合物120d、又は375dの存在下で生長させた、ヨウ素染色後にWT胚軸細胞により大きなデンプン顆粒(直径約10μm程度)が観察された(図4; WT、120d、及び375d、赤い矢印)。同様に化合物120d、又は375dの存在下で生長させたcp-GFP 実生において、胚軸細胞でWTと同程度のサイズのエチオプラストが観察された(図4; cp-GFP、120d、及び375d、白い矢印)。拡大したすべてのエチオプラストには、GFPシグナルのない領域が含まれていた。これらの領域は、cp-GPF融合タンパク質がとおらないデンプン顆粒に対応していると考えられた。これらの結果は、化合物120dおよび375dの存在が、本来であればデンプン顆粒を含まないと考えられる細胞小器官であるエチオプラストにデンプン顆粒の形成を誘導することを示している。
【0087】
(4)明所培養実生への化合物の効果
照明下における化合物120d、及び375dの効果を検証するため、25μMの化合物120d又は50μMの化合物375dを含む固形培地にWTシロイヌナズナの種子を播種し、上記1.において述べた明所培養条件で、実生を生長させた。その結果を図5に示す。化合物120d、又は375dの存在下では、明所22℃、10日間のインキュベーション後生長を停止した。この結果は、明所下でも、化合物120d、及び375dが、実生の生長を停止させることを示している。したがって、化合物120d、及び375dは、自然界においても、植物の生長を抑制する機能を有していると考えられた。また、スクロース非存在の明所培養下でも、化合物120d、及び375dは実生の生長を停止させた。
【0088】
(5)被験化合物と葉酸の機能的関係
上述したように、暗所で化合物125d、又は375dの存在下で生育させたWT実生では、エチオプラストでのデンプン蓄積が誘導され、胚軸の伸びを抑制した。WT実生のこの表現型は、葉酸生合成の欠陥を示すfpgs1実生の表現型と同一であり、化合物125d、及び375dが葉酸生合成の阻害剤として機能することを示唆していると考えられた。この可能性を検証するために、活性型葉酸である5-ホルミルテトラヒドロ葉酸 (5fTHF)(200μM)と共に化合物125d、又は375dを含む固形培地でWTシロイヌナズナの実生を成長させた。
【0089】
結果を図6に示す。化合物375dのみの存在下では、WT実生はデンプンの蓄積及び胚軸の伸びの抑制を示した(図6A;375d)。一方、化合物375dと5fTHFと共に添加した場合、実生はデンプンを蓄積せず、胚軸も伸長した(図6A; 375d+5fTHF)。これは、化合物375dの効果が5fTHFの添加によって相殺されたことを示す。また、今回使用した5fTHFの添加量は、以前にHayashi et. al. 2017において報告したシロイヌナズナfpgs1変異実生の表現型を補完したのと同じ添加量である。このことから、化合物375d が葉酸生合成に関与する酵素を阻害する可能性が高いと考えられた。一方、化合物120dは、単独で添加した場合(図6B; 120d)であっても、200μM の5fTHFと共に添加した場合 (図6B; 120d+5fTHF)であっても、WT実生におけるデンプンの蓄積を誘発し、胚軸の伸びを抑制しました。この結果は、化合物120dによるデンプン蓄積誘導および胚軸伸長抑制のメカニズムが、葉酸の生合成とは無関係であることを示唆している。
【0090】
(6)化合物120dの抗菌活性
化合物120d、及び375dには、スルファジアジン(SDZ)等のサルファ剤と呼ばれる合成抗菌剤にも存在するスルホンアミド基が含まれている(図1)。化合物120d抗菌活性を有する可能性があると考えた。この仮説を検証するために、化合物120d、又はSDZを含むLBプレートにおける大腸菌の増殖抑制効果を評価した。
【0091】
大腸菌を、LB液体培地をつかって37℃で一晩増殖させた後、10,000× gで1 分間遠心分離して上清を除去した。大腸菌のペレットを水に再懸濁し、600 nmで吸光度0.5となるように調製し、これを原液(1倍希釈)とした。次に、原液を10倍段階ずつ段階し希釈液を調製した。原液、及び各希釈懸濁液を4μLずつ、化学物質を添加していないLB寒天プレート(LB培地+1.5% 寒天)、又は被験化合物(化合物120d、又はSDZ)を含むLB寒天プレートにスポットした。それぞれの被験化合物を含むLB寒天プレートは、被験化合物をそれぞれ0.5、1.0、2.0mMで含むように調製した。原液、及び各希釈懸濁液をスポットしたLB寒天プレートを37℃で一晩インキュベートした。化合物120dを含むLB寒天プレート上での大腸菌の増殖は、被験化合物120d、及びSDZを含まないLB寒天プレート(図7;cont)と同様に10-3まで認められた図7;120d)。一方、SDZを含むLB寒天プレート上での大腸菌の増殖は、原液でも0.5 mM SDZを含むLB寒天プレート上で増殖させた場合にはcontと比較して著しく少なく、1.0 mM、2.0 mMのSDZを含むLB寒天プレート上では、さらに大腸菌の増殖が抑制された(図7; SDZ)。 この結果は、化合物120dの抗菌活性が著しく低いことを示唆している。なお、化合物375dには、抗菌活性が認められた。
抗菌活性を有さないことは、外部環境において使用した際、他の菌叢への影響が少ないことを示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7