(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099970
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20240719BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240719BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240719BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003633
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川口 俊介
(72)【発明者】
【氏名】在原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
(72)【発明者】
【氏名】細田 千紘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 花英
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】表面のラフネスが低い正極活物質を含む非水電解質二次電池用正極において、容量特性の低下を最小限に抑制しつつ、出力特性を向上させうる手段を提供する。
【解決手段】層状岩塩型構造を有する正極活物質と、導電助剤と、バインダと、を含有する正極活物質層を含む非水電解質二次電池用正極であって、正極活物質として表面のラフネスが低いものを用いるとともに、PVdFと、VdF単位およびフッ素化単量体単位(ただし、VdF単位を除く)を含有する含フッ素共重合体とをバインダとして用い、繊維状導電助剤と粒子状導電助剤とを導電助剤として用い、正極活物質層における導電助剤の含有量を、正極活物質層の全固形分100質量%に対して0質量%を超えて3質量%未満とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状岩塩型構造を有する正極活物質と、導電助剤と、バインダと、を含有する正極活物質層を含む非水電解質二次電池用正極であって、
前記正極活物質の、Williamson-Hall法から算出される結晶子径をX、レーザー回折法から算出される平均粒子径(D50)をYとしたときに、下記数式1:
Y/X≦100 (数式1)
を満たし、前記正極活物質の平均粒子径から算出される幾何比表面積に対する前記正極活物質のBET比表面積の比の値として定義される表面ラフネスの値が3以下であり、
前記バインダは、ポリビニリデンフルオライドと、ビニリデンフルオライド単位およびフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素共重合体と、を含み、
前記導電助剤は、繊維状導電助剤と、粒子状導電助剤と、を含み、
前記正極活物質層における前記導電助剤の含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超えて3質量%未満である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質のX線回折測定により得られる(104)面の回折ピークに対する(003)面の回折ピークのピーク強度比(003)/(104)が、1.35以上である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質のタップ密度が2g/cm3以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質が、Li(Ni-Mn-Co)O2またはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有するNMC複合酸化物を含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質層における前記導電助剤の含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超えて2.6質量%未満である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記正極活物質層における前記繊維状導電助剤の含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超えて0.5質量%未満である、請求項5に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
前記繊維状導電助剤のアスペクト比が2000を超える、請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項8】
前記繊維状導電助剤が、平均外径2.5nm以下の単層カーボンナノチューブである、請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項9】
前記正極活物質層における前記粒子状導電助剤の含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超えて2.5質量%以下である、請求項5に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項10】
前記含フッ素共重合体におけるビニリデンフルオライド単位の含有量が、全単量体単位に対して、50.0モル%以上である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項11】
前記フッ素化単量体単位が、テトラフルオロエチレン単位、クロロトリフルオロエチレン単位、フルオロアルキルビニルエーテル単位およびヘキサフルオロプロピレン単位からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項10に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項12】
前記正極活物質層における前記含フッ素共重合体の含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0.1~0.5質量%である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項13】
前記正極活物質層における前記含フッ素共重合体の含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0.2~0.4質量%である、請求項12に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項14】
前記正極活物質層におけるポリビニリデンフルオライドの含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超えて1.25質量%以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギー問題の解決へ向けて、種々の電気自動車の普及が期待されている。これら電気自動車の普及の鍵を握るモータ駆動用電源などの車載電源として、二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力が期待できるリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に注目が集まっている。
【0003】
非水電解質二次電池には、容量が大きいという性能に加えて、高出力条件下においても性能が低下しない(出力特性が高い)という性能も求められる。ここで一般に、非水電解質二次電池用正極の出力特性を向上させるには、正極活物質層に導電助剤を多く含ませることが有効である。しかしながら、導電助剤の配合量が多くなるほど正極活物質の配合量は相対的に低下し、正極活物質層の単位体積あたりの容量(体積エネルギー密度)が低下するという問題がある。このように、正極活物質層の単位体積あたりにどの程度の正極活物質が配合されているかという観点からの体積エネルギー密度の指標を以下では「容量特性」とも称し、「容量特性に優れる」とは、この配合量がより多いことを意味する。
【0004】
このような問題の解決を図ろうとする技術として、所定のサイズを有するカーボンナノチューブを、分散助剤を用いて水分散された状態で正極活物質層に配合する技術が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、正極活物質層に配合する正極活物質として表面のラフネスが低いものを用いた場合には、上記特許文献1に記載の技術を用いたとしても、容量特性の低下を抑制しつつ高い出力特性を発現させることができないことが判明した。
【0007】
そこで本発明は、表面のラフネスが低い正極活物質を含む非水電解質二次電池用正極において、容量特性の低下を最小限に抑制しつつ、出力特性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、表面のラフネスが低い正極活物質を含む非水電解質二次電池用正極において、バインダおよび導電助剤として用いる材料を制御して正極活物質層中の導電助剤の配合量を最小限に抑制することにより上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一形態によれば、層状岩塩型構造を有する正極活物質と、導電助剤と、バインダと、を含有する正極活物質層を含む非水電解質二次電池用正極が提供される。ここで、前記正極活物質の、Williamson-Hall法から算出される結晶子径をX、レーザー回折法から算出される平均粒子径(D50)をYとしたときに、数式1:Y/X≦100を満たし、前記正極活物質の平均粒子径から算出される幾何比表面積に対する前記正極活物質のBET比表面積の比の値として定義される表面ラフネスの値が3以下である。また、前記バインダは、ポリビニリデンフルオライドと、ビニリデンフルオライド単位およびフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素共重合体とを含み、前記導電助剤は、繊維状導電助剤と、粒子状導電助剤とを含む。そして、前記正極活物質層における前記導電助剤の含有量は、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超えて3質量%未満である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面のラフネスが低い正極活物質を含む非水電解質二次電池用正極において、容量特性の低下を最小限に抑制しつつ、出力特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である、積層型(扁平型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一形態は、層状岩塩型構造を有する正極活物質と、導電助剤と、バインダと、を含有する正極活物質層を含む非水電解質二次電池用正極(以下、単に「正極」とも称する)であって、前記正極活物質の、Williamson-Hall法から算出される結晶子径をX、レーザー回折法から算出される平均粒子径(D50)をYとしたときに、数式1:Y/X≦100を満たし、前記正極活物質の平均粒子径から算出される幾何比表面積に対する前記正極活物質のBET比表面積の比の値として定義される表面ラフネスの値が3以下であり、前記バインダは、ポリビニリデンフルオライドと、ビニリデンフルオライド単位およびフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素共重合体とを含み、前記導電助剤は、繊維状導電助剤と、粒子状導電助剤とを含み、前記正極活物質層における前記導電助剤の含有量が、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超えて3質量%未満である、非水電解質二次電池用正極である。
【0013】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)、相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態である扁平型(積層型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池(以下、単に「積層型二次電池」とも称する)を模式的に表した断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の積層型二次電池10aは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、ラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体11’の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解液を含有するセパレータからなる電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、正極、電解質層および負極がこの順に積層されている。
【0016】
これにより、正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図1に示す積層型二次電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、
図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されるようにしてもよい。
【0017】
正極集電体11’および負極集電体12には、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27は、それぞれ必要に応じて正極端子リードおよび負極端子リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11’および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0018】
以下、本形態に係る正極の主要な構成部材について説明する。本形態に係る正極は、正極活物質と、導電助剤と、バインダとを含む正極活物質層を有する。正極活物質層は、任意に設けられる集電体の表面に形成されてなる。
【0019】
[集電体]
集電体は、後述する正極活物質層や負極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。なお、後述する正極活物質層や負極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する正極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する負極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
【0020】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質、導電助剤およびバインダを含む。正極活物質層は、これらの他に、添加剤等の任意成分を含みうる。
【0021】
(正極活物質)
本形態の正極の正極活物質は、層状岩塩型構造を有する正極活物質を必須に含む。層状岩塩型構造(空間群R3-m、なお、「R3-m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「-」を施して表記する)を有する正極活物質は一般に高い容量を有している。したがって、層状岩塩型構造を有する正極活物質を用いることで、非水電解質二次電池の電池容量を向上させることができる。
【0022】
(層状岩塩型構造を有する正極活物質)
層状岩塩型構造を有する正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(Ni-Mn-Co)O2、Li(Ni-Co-Al)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有するもの等のリチウム-遷移金属複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられ、さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)またはLi(Ni-Co-Al)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NCA複合酸化物」とも称する)が用いられ、特に好ましくはNMC複合酸化物が用いられる。NMC複合酸化物およびNCA複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
【0023】
NMC複合酸化物およびNCA複合酸化物には、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。ただし、NCA複合酸化物の遷移金属元素を置換しうる他の金属元素はAl以外のものである。
【0024】
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiaNibMncCodMxO2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d+x=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.92であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
【0025】
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量特性および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点から、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていてもよい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
【0026】
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.92、0.05≦c≦0.31、0.03≦d≦0.26であることが、容量と寿命特性とのバランスを向上させるという観点からは好ましい。例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2は、一般的な民生電池で実績のあるLiCoO2、LiMn2O4、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2などと比較して、単位重量あたりの容量が大きく、エネルギー密度の向上が可能となることでコンパクトかつ高容量の電池を作製できるという利点を有しており、航続距離の観点からも好ましい。なお、より容量が大きいという点ではLiNi0.8Co0.1Al0.1O2やLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、LiNi0.88Mn0.06Co0.06O2がより有利である。他方、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2並みに優れた寿命特性を有している。
【0027】
なお、本形態に係る非水電解質二次電池用正極において、正極活物質は、層状岩塩型構造を有する正極活物質以外の正極活物質(例えば、リチウム-遷移金属リン酸化合物、リチウム-遷移金属硫酸化合物など)をさらに含んでもよい。ただし、本形態において、正極活物質100質量%に占める層状岩塩型構造を有する正極活物質の含有量は、例えば50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、いっそう好ましくは97質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0028】
本形態に係る正極においては、正極活物質の表面ラフネスが3以下である点に特徴がある。ここで、「表面ラフネス」とは、正極活物質の表面の平滑性の指標となるパラメータであり、後述する実施例の欄に記載されている手法により、正極活物質の「平均粒子径から算出される幾何比表面積」に対する正極活物質の「BET比表面積」の比の値(=BET比表面積/幾何比表面積)として算出される。なお、表面ラフネスの値は、好ましくは2.7以下であり、より好ましくは2.4以下である。表面ラフネスの値が3以下であれば、電池のサイクル耐久性の向上に寄与できるという利点がある。一方、表面ラフネスの下限値は、1以上である。また、正極活物質が2種以上の混合物からなる場合には、まず、当該混合物を構成する各正極活物質について上記の手法によりBET比表面積および幾何比表面積をそれぞれ測定し、得られた値を混合比で足し合わせることにより当該混合物のBET比表面積および幾何比表面積を算出する。そして、これらの算出値から上記と同様の手法により表面ラフネスを算出するものとする。
【0029】
本形態に係る正極においては、正極活物質が、Williamson-Hall法から算出される結晶子径をX(nm)、レーザー回折法から算出される平均粒子径(D50)をY(nm)とした際に、Y/X≦100を満たす点にも特徴がある。ここで、Y/Xは、正極活物質粒子を構成する結晶粒の数の指標であり、当該値が小さいほど、粒子を構成する結晶粒が少ないことを意味する。結晶子径X(nm)および平均粒子径(D50)は、それぞれ後述する実施例の欄に記載されている手法により測定できる。Y/Xは、好ましくは70以下であり、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは40以下である。Y/Xの値が100以下であれば、電池のサイクル耐久性の向上に寄与できるという利点がある。一方、Y/Xの下限値は、1以上である。
【0030】
正極活物質の表面ラフネスの値を3以下に制御したり、Y/Xの値を100以下に制御したりする手法については特に制限はなく、正極活物質粒子の表面の平滑性を制御しうる従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、NMC複合酸化物を製造する手法の一例として、まず、(1)前駆体である(NixCoyMnz)(OH)2を共沈法により合成する。具体的には目的とする化学量論比の硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の原料を含む水溶液を所定の時間撹拌する。沈殿析出物をろ過分離した後、例えば80℃程度の温度で8~15時間程度乾燥して前駆体を得る。次いで、(2)得られた前駆体を600~800℃程度の温度条件下にて3~7時間程度焼成すると、NixCoyMnzO2が得られる。その後、(3)得られた酸化物に1~1.2倍の量論比となるようにリチウム塩(例えば、炭酸リチウム)を加え、ボールミルで粉砕・混合する。そして、(4)大気中または酸素雰囲気下、600~800℃程度の温度条件下で3~5時間程度焼成した後、さらに750~1000℃程度の温度で2~12時間程度焼成を行う。最後に、(5)このようにして焼成した粉末を水洗して残留したリチウム塩を除去した後、80℃程度の温度で10~15時間程度乾燥することにより、NMC複合酸化物を得ることができる。なお、(6)必要に応じて、ボールミルでサンプルを粉砕した後、大気中または酸素雰囲気下で500~1000℃、3~5時間の再焼成を行ってもよい。この際、NMC複合酸化物の表面ラフネスの値を制御するためには、(2)の焼成温度や時間、(3)の粉砕の程度、(4)の焼成時間・温度、(6)の粉砕の程度を調整することで、一次粒子のサイズを制御可能である。また、(6)の再焼成を長時間・高温で行うことにより、粉砕後の表面がより平滑となり表面ラフネスが低下しうる。
【0031】
本形態に係る正極において、正極活物質は、X線回折測定により得られる(104)面の回折ピークに対する(003)面の回折ピークのピーク強度比((003)/(104))が1.35以上であることが好ましい。ピーク強度比((003)/(104))は、より好ましくは1.4以上であり、さらに好ましくは1.45以上であり、特に好ましくは1.48以上である。ピーク強度比((003)/(104))の上限値は、特に制限されないが、好ましくは2.1以下である。当該ピーク強度比は、正極活物質の結晶性の高さの指標であり、ピーク強度比の値が大きいほど、結晶性が高いことを意味する。ピーク強度比が上記範囲内であると、結晶内の欠陥が少なくなり、電池充放電容量の減少や耐久性の低下を抑えることができる。ピーク強度比は、原料、組成や焼成条件などによって制御されうる。なお、上記の正極活物質の結晶構造およびピーク強度比は、それぞれ後述の実施例に記載の測定方法により求められる。
【0032】
本形態に係る正極において、正極活物質のタップ密度は2g/cm3以下であることが好ましい。タップ密度の下限値は、特に制限されないが、好ましくは1.2g/cm3以上である。タップ密度が上記範囲内であると、表面ラフネスが小さく、かつ適切な一次粒子サイズとなり、本発明の所定の効果がより一層顕著に発現しうる。
【0033】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、60~99質量%の範囲内であることが好ましく、80~98質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
(バインダ)
バインダ(結着剤)は、正極活物質層に含まれる部材を互いに結着することにより、正極活物質層の構造を維持する機能を有する。本形態に係る正極において、バインダは、ポリビニリデンフルオライドと、ビニリデンフルオライド単位およびフッ素化単量体単位(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)を含有する含フッ素共重合体とを含む点に特徴がある。
【0035】
〈PVdF〉
ポリビニリデンフルオライド(PVdF)は、ビニリデンフルオライド(VdF)に基づく単位(以下、VdF単位という)を含有する重合体であり、VdF単位の含有量が、共重合体(A)中の全単量体単位に対して90.0モル%以上である。上記PVdFは、VdF単位のみからなるVdFホモポリマーであってよいし、VdF単位およびVdFと共重合可能な単量体に基づく単位を含有するものであってもよい。
【0036】
上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能な単量体としては、フッ素化単量体、非フッ素化単量体等が挙げられ、フッ素化単量体が好ましい。上記フッ素化単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン等が挙げられる。上記非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能な単量体としては、CTFE、フルオロアルキルビニルエーテル、HFPおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化単量体が好ましく、CTFE、HFPおよびフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化単量体がより好ましい。
【0037】
上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能な単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは8.0モル%以下であり、より好ましくは5.0モル%以下であり、さらに好ましくは3.0モル%以下である。本明細書において、PVdFの組成は、例えば、19F-NMR測定により測定できる。
【0038】
上記PVdFは、極性基を有していてもよく、これによって、電極合剤層と集電体とのより一層優れた密着性が得られる。上記極性基としては、極性を有する官能基であれば特に限定されないが、正極活物質層と集電体とのさらに優れた密着性が得られることから、カルボニル基含有基、エポキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基およびアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、カルボニル基含有基、エポキシ基およびヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。上記ヒドロキシ基には、上記カルボニル基含有基の一部を構成するヒドロキシ基は含まれない。また、上記アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。
上記カルボニル基含有基とは、カルボニル基(-C(=O)-)を有する官能基である。上記カルボニル基含有基としては、電極合剤層と集電体とのさらに優れた密着性が得られることから、一般式:-COOR(Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す)で表される基またはカルボン酸無水物基が好ましく、一般式:-COORで表される基がより好ましい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。一般式:-COORで表される基として、具体的には、-COOCH2CH2OH、-COOCH2CH(CH3)OH、-COOCH(CH3)CH2OH、-COOH、-COOCH3、-COOC2H5等が挙げられる。一般式:-COORで表される基が、-COOHであるか、-COOHを含む場合、-COOHは、カルボン酸金属塩、カルボン酸アンモニウム塩等のカルボン酸塩であってもよい。
上記アミド基としては、一般式:-CO-NRR’(RおよびR’は、独立に、水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基を表す。)で表される基、または、一般式:-CO-NR”-(R”は、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基を表す。)で表される結合が好ましい。
本開示において、PVdFにおける極性基含有単量体単位の含有量は、たとえば、極性基がカルボン酸等の酸基である場合、酸基の酸-塩基滴定によって測定できる。
上記極性基含有単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸;メチリデンマロン酸ジメチル等のアルキリデンマロン酸エステル;ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル等のビニルカルボキシアルキルエーテル;2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステル;一般式(2):
【0039】
【0040】
(式中、R1~R3は、独立に、水素原子、塩素原子または炭素数1~8の炭化水素基を表す。R4は、単結合、炭素数1~8の炭化水素基、ヘテロ原子または酸素原子、硫黄原子、窒素原子およびリン原子からなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含み、かつ原子数1~20の主鎖を含む分子量500以下の原子団を表す。Y1は、無機カチオンおよび/または有機カチオンを表す。)で表される単量体(2);等が挙げられる。
単量体(2)は、含フッ素共重合体を構成する単量体(2)として上述したとおりである。PVdFを構成する極性基含有単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸が好ましい。
PVdFと上記極性基を有する化合物とを反応させて、上記極性基をPVdFに導入する場合には、上記極性基を有する化合物として、上記極性基含有単量体、または、PVdFと反応性の基と加水分解性基とを有するシラン系カップリング剤もしくはチタネート系カップリング剤を用いることができる。上記加水分解性基としては、好ましくはアルコキシ基である。カップリング剤を用いる場合には、溶媒に溶解または膨潤させたPVdFとカップリング剤とを反応させることによって、カップリング剤をPVdFに付加させることができる。
PVdFとしては、また、PVdFを塩基で部分的に脱フッ化水素処理した後、部分的に脱フッ化水素処理されたPVdFを酸化剤とさらに反応させて得られたものを用いることもできる。上記酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸塩、ハロゲン化パラジウム、ハロゲン化クロム、過マンガン酸アルカリ金属、過酸化合物、過酸化アルキル、過硫酸アルキル等が挙げられる。
【0041】
PVdFにおけるVdF単位の含有量は、正極活物質層と集電体とのさらに優れた密着性を得ることができることから、全単量体単位に対して、好ましくは92.0モル%以上であり、より好ましくは95.0モル%以上であり、さらに好ましくは97.0モル%以上である。
【0042】
PVdFの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは160000~2760000であり、より好ましくは200000以上、さらに好ましくは300000以上であり、より好ましくは2530000以下、さらに好ましくは2000000以下である。また、PVdFの数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは70000~1200000であり、より好ましくは140000以上であり、より好ましくは1100000以下である。上記各分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
PVdFの融点は、好ましくは100~240℃であり、さらに好ましくは130~200℃であり、特に好ましくは140~180℃である。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度として求めることができる。
PVdFの平均粒子径としては、PVdFを溶媒に容易に溶解または分散させることができることから、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは750μm以下であり、さらに好ましくは350μm以下であり、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.2μm以上である。
【0043】
本形態の正極の正極活物質層において、PVdFの含有量は、本発明の所定の効果がより顕著に発現するという観点から、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、好ましくは0質量%を超えて1.25質量%以下であり、より好ましくは0.3~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.5~0.9質量%であり、より好ましくは0.6~0.8質量%である。
【0044】
〈含フッ素共重合体〉
本形態において必須に用いられる含フッ素共重合体は、フッ素を含む共重合体であり、ビニリデンフルオライド単位およびフッ素化単量体単位を含有するものであり、含フッ素共重合体におけるVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、90.0モル%未満である。含フッ素共重合体としては、フッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂とは、部分結晶性フルオロポリマーであり、フッ素ゴムではなく、フルオロプラスチックスである。このフッ素樹脂は、融点を有し、熱可塑性を有するが、溶融加工性であっても、非溶融加工性であってもよい。フッ素樹脂としては、溶融加工性のフッ素樹脂であることが好ましい。
【0045】
フッ素化単量体(ただし、VdFを除く)としては、集電体との密着性および柔軟性に一層優れており、スプリングバックが一層起きにくい正極活物質層を形成できることから、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよびトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、CTFE、フルオロアルキルビニルエーテルおよびHFPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、TFE、CTFE、FAVEおよびHFPからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、TFEおよびHFPからなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましく、電極活物質層の電解液に対する膨潤が抑制され、出力特性、サイクル特性、低抵抗性などの電池特性の向上ができる点でTFEが最も好ましい。なお、フッ素化単量体単位(ただし、VdF単位を除く)は、極性基を有していても有していなくてもよい。
フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)としては、
一般式:CF2=CFO(CF2CFX1O)p-(CF2CF2CF2O)q-Rf1
(式中、X1はFまたはCF3を表し、Rf1は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、
一般式:CFX2=CX2OCF2ORf2
(式中、X2は、同一または異なり、H、FまたはCF3を表し、Rf2は、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
FAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0046】
含フッ素共重合体におけるVdF単位の含有量は、本発明の所定の効果をより確実に発現させるという観点から、全単量体単位に対して、好ましくは50.0モル%以上であり、一層低抵抗で、集電体との密着性および柔軟性に一層優れており、スプリングバックが一層起きにくい正極活物質層を形成できるという観点から、好ましくは55.0モル%以上であり、より好ましくは60.0モル%以上である。
【0047】
含フッ素共重合体のフッ素化単量体単位(ただし、VdF単位を除く)の含有量は、上記と同様の理由から、全単量体単位に対して、好ましくは1.0モル%以上であり、より好ましくは2.5モル%以上であり、さらに好ましくは5.0モル%以上であり、特に好ましくは8.0モル%以上であり、最も好ましくは10.0モル%以上であり、より好ましくは15.0モル%以上であり、好ましくは50.0モル%以下であり、より好ましくは49.5モル%以下であり、さらに好ましくは45.0モル%以下であり、特に好ましくは40.0モル%以下であり、最も好ましくは37.0モル%以下である。本明細書において、含フッ素共重合体の組成は、例えば、19F-NMR測定により測定できる。
【0048】
含フッ素共重合体は、非フッ素化単量体単位をさらに含有してもよい。上記非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレンなどの極性基を有しない非フッ素化単量体、極性基を有する非フッ素化単量体(以下、極性基含有単量体ということがある)などが挙げられる。非フッ素化単量体として、極性基を有するものを用いると、含フッ素共重合体に極性基が導入され、これによって、正極活物質層と集電体とのより一層優れた密着性が得られる。含フッ素共重合体が有し得る極性基としては、上述したのと同様のものが用いられうる。
【0049】
含フッ素共重合体としては、たとえば、VdF/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/TFE/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/TFE/4-ペンテン酸共重合体、VdF/TFE/3-ブテン酸共重合体、VdF/TFE/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/TFE/HFP/4-ペンテン酸共重合体、VdF/TFE/HFP/3-ブテン酸共重合体、VdF/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体、VdF/FAVE/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/FAVE/カルボキシアルキル(メタ)アクリレート共重合体、VdF/HFP/カルボキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0050】
含フッ素共重合体としては、VdF単位およびTFE単位を含有する共重合体、VdF単位およびHFP単位を含有する共重合体、ならびに、VdF単位およびFAVE単位を含有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0051】
含フッ素共重合体としては、なかでも、VdF単位、TFE単位、および、任意の非フッ素化単量体単位のみからなり、VdF単位とTFE単位とのモル比(VdF単位/TFE単位)が、50/50以上90/10未満である含フッ素共重合体が好ましい。すなわち、含フッ素共重合体は、VdF単位およびTFE単位のみからなる二元の共重合体、または、VdF単位、TFE単位および非フッ素化単量体単位のみからなる三元以上の共重合体であることが好ましい。このような構成とすることによって、一層低抵抗で、集電体との密着性および柔軟性に一層優れており、スプリングバックが一層起きにくい正極活物質層を形成できる。
【0052】
含フッ素共重合体がVdF単位およびTFE単位を含有する場合の、VdF単位とTFE単位とのモル比(VdF単位/TFE単位)は、50/50以上90/10未満であることが好ましく、より好ましくは55/45~89/11であり、さらに好ましくは60/40~88/12である。含フッ素共重合体がVdF単位およびTFE単位を含有する場合の、非フッ素化単量体単位の含有量は、含フッ素共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0~2.0モル%である。
非フッ素化単量体としては、なかでも、極性基含有単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸およびその塩、ビニル酢酸(3-ブテン酸)およびその塩、3-ペンテン酸およびその塩、4-ペンテン酸およびその塩、3-ヘキセン酸およびその塩、4-ヘプテン酸およびその塩、ならびに、5-ヘキセン酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、3-ブテン酸およびその塩、ならびに、4-ペンテン酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。
VdF単位、TFE単位、および、任意の非フッ素化単量体単位のみからなる含フッ素共重合体としては、VdF/TFE共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/TFE/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/TFE/4-ペンテン酸共重合体、VdF/TFE/3-ブテン酸共重合体、VdF/TFE/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/TFE/HFP/4-ペンテン酸共重合体およびVdF/TFE/HFP/3-ブテン酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
含フッ素共重合体は、VdF/HFP共重合体であってもよい。VdF/HFP共重合体は、VdF単位およびHFP単位を含有する。VdF単位の含有量としては、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは55.0モル%以上であり、より好ましくは60.0モル%以上であり、さらに好ましくは80.0モル%以上である。HFP単位の含有量としては、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは1.0モル%以上であり、より好ましくは3.0モル%以上であり、好ましくは45.0モル%以下であり、より好ましくは40.0モル%以下であり、さらに好ましくは20.0モル%以下であり、特に好ましくは10.0モル%以下である。
VdF/HFP共重合体は、VdF単位およびHFP単位の他に、VdFおよびHFPと共重合可能な単量体(ただし、VdFおよびHFPを除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびHFPと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量は、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0~2.0モル%であり、より好ましくは0.05~2.0モル%である。
VdFおよびHFPと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびHFPと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(2)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、単量体(2)がさらに好ましい。
含フッ素共重合体は、VdF/FAVE共重合体であってもよい。VdF/FAVE共重合体は、VdF単位およびFAVE単位を含有する。VdF単位の含有量としては、VdF/FAVE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは55.0モル%以上であり、より好ましくは70.0モル%以上である。FAVE単位の含有量としては、VdF/FAVE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは1.0モル%以上であり、より好ましくは1.5モル%以上であり、好ましくは45.0モル%以下であり、より好ましくは30.0モル%以下であり、さらに好ましくは10.0モル%以下であり、特に好ましくは5.0モル%以下である。
FAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
VdF/FAVE共重合体は、VdF単位およびFAVE単位の他に、VdFおよびFAVEと共重合可能な単量体(ただし、VdFおよびFAVEを除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびFAVEと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量は、VdF/FAVE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0~2.0モル%であり、より好ましくは0.05~2.0モル%である。
VdFおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、極性基含有単量体がより好ましく、(メタ)アクリル酸およびその塩、ならびに、カルボキシアルキル(メタ)アクリレートおよびその塩からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0053】
含フッ素共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは160000~2760000であり、より好ましくは200000~2530000であり、さらに好ましくは300000~2000000である。また、含フッ素共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは70000~1200000であり、より好ましくは140000~1100000である。上記各分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
含フッ素共重合体の融点は、好ましくは100~200℃である。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度として求めることができる。
含フッ素共重合体の平均粒子径としては、含フッ素共重合体を溶媒に容易に溶解または分散させることができることから、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは50~350μmである。
含フッ素共重合体は、30℃における貯蔵弾性率(E’)が100~1200MPaであり、かつ、60℃における貯蔵弾性率(E’)が50~600MPaであることが好ましい。
含フッ素共重合体の30℃における貯蔵弾性率(E’)は、より好ましくは150MPa以上であり、さらに好ましくは200MPa以上であり、より好ましくは800MPa以下であり、さらに好ましくは600MPa以下である。
含フッ素共重合体の60℃における貯蔵弾性率(E’)は、より好ましくは80MPa以上であり、さらに好ましくは130MPa以上であり、より好ましくは450MPa以下であり、さらに好ましくは350MPa以下である。
含フッ素共重合体の貯蔵弾性率(E’)が上記範囲内であると、柔軟性により一層優れる電極合剤層を形成できる。
貯蔵弾性率(E’)は、長さ30mm、巾5mm、厚み50~100μmのサンプルについて、アイティー計測制御社製動的粘弾性装置DVA220で動的粘弾性測定により引張モード、つかみ巾20mm、測定温度-30℃から160℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件で測定した際の30℃および60℃での測定値である。
【0054】
本形態の正極の正極活物質層において、PVdFに対する含フッ素共重合体の質量比(含フッ素共重合体/PVdF)は、本発明の所定の効果がより一層顕著に発現しうるという観点から、好ましくは99/1~1/99であり、より好ましくは95/5~3/97であり、さらに好ましくは90/10~5/95であり、特に好ましくは70/30~7/93であり、最も好ましくは50/50~10/90である。
【0055】
本形態の正極の正極活物質層において、含フッ素共重合体の含有量は、本発明の所定の効果がより一層顕著に発現しうるという観点から、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、好ましくは0質量%を超えて2.0質量%以下であり、より好ましくは0.1~0.5質量%であり、さらに好ましくは0.2~0.4質量%である。
【0056】
本形態の正極の正極活物質層は、PVdFおよび含フッ素共重合体の他に、バインダとして、その他の重合体を含んでいてもよい。その他の重合体としては、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、スチレンゴム、ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0057】
(導電助剤)
導電助剤は、正極活物質層中で電子伝導パス(導電通路)を形成する機能を有する。このような電子伝導パスが正極活物質層中に形成されると、電池の内部抵抗が低減し、高レートでの出力特性が向上しうる。本形態に係る正極において、正極活物質の表面はバインダにより被覆されるため、隣り合う正極活物質間や集電体と正極活物質との間の電子伝導パスを確保する観点から、導電助剤が必須となる。
【0058】
本形態に係る正極において、導電助剤は、繊維状導電助剤と、粒子状導電助剤とを含む点に特徴がある。
【0059】
(繊維状導電助剤)
繊維状導電助剤は、上述した導電助剤としての機能を有する繊維状の材料である。繊維状導電助剤のアスペクト比は、正極活物質層の導電性を十分に向上させるという観点から、1000以上であることが好ましく、2000を超えることがより好ましい。また、繊維状導電助剤の構成材料としては、炭素、金属などの導電性を有する材料が挙げられるが、炭素を構成材料とするものが好ましい。炭素を構成材料とする繊維状炭素材料としては、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、複層カーボンナノチューブ(MWCNTs)気相成長炭素繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などが挙げられる。なかでも、単層カーボンナノチューブまたは複層カーボンナノチューブが好ましく、本発明の所定の効果をより顕著に発現させるという観点からは、後述する平均外径が2.5nm以下の単層カーボンナノチューブが特に好ましい。
【0060】
単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)は、一次元材料として知られる特別な種類の炭素材料である。単層カーボンナノチューブはグラフェンのシートからなり、1原子分の厚さの壁を有する中空の管を形成するように巻かれている。そのような化学構造および大きさを有することにより、単層カーボンナノチューブは優れた機械的、電気的、熱的、および光学的特性を示す。
【0061】
単層カーボンナノチューブの平均外径は、好ましくは2.5nm以下であり、より好ましくは1.0~2.5nmであり、さらに好ましくは1.1~2.0nmであり、特に好ましくは1.2~1.8nmである。単層カーボンナノチューブの平均外径は、紫外可視近赤外分光法(UV-Vis-NIR)により得られた単層カーボンナノチューブの光吸収スペクトル、ラマンスペクトル、または透過型電子顕微鏡(TEM)画像から求めることができる。
【0062】
単層カーボンナノチューブの平均長さは、好ましくは0.1~50μmであり、より好ましくは0.5~20μmであり、さらに好ましくは1~10μmである。単層カーボンナノチューブの平均長さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて単層カーボンナノチューブのAFM像を得て、または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて単層カーボンナノチューブのTEM画像を得て、各単層カーボンナノチューブの長さを測定し、長さの合計値を、測定した単層カーボンナノチューブの個数で除することにより、求めることができる。
【0063】
単層カーボンナノチューブのラマン分光分析(波長532nm)によって測定される平均G/D比は、好ましくは2~250であり、より好ましくは5~250であり、さらに好ましくは10~220であり、特に好ましくは40~180である。G/D比とは、単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルのGバンドとDバンドとの強度比(G/D)である。単層カーボンナノチューブの平均G/D比が高いほど、単層カーボンナノチューブの結晶性が高く、不純物カーボンや欠陥のあるカーボンナノチューブが少ないことを意味する。
【0064】
本形態の正極の正極活物質層における繊維状導電助剤の含有量は、本発明の所定の効果がより一層顕著に発現しうるという観点から、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、好ましくは0質量%を超えて0.5質量%未満であり、より好ましくは0.02~0.1質量%であり、さらに好ましくは0.04~0.1質量%である。
【0065】
(粒子状導電助剤)
粒子状導電助剤は、上述した導電助剤としての機能を有する粒子状の材料であり、繊維状導電助剤以外の導電助剤である。粒子状導電助剤のアスペクト比は、1000未満であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。粒子状導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類やグラファイト、グラフェン等の炭素材料等が挙げられる。
【0066】
本形態の正極の正極活物質層における粒子状導電助剤の含有量は、本発明の所定の効果がより一層顕著に発現しうるという観点から、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、好ましくは0質量%を超えて2.5質量%以下であり、より好ましくは0.2~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.3~0.5質量%である。
【0067】
正極活物質層に含まれる導電助剤の含有量(繊維状導電助剤および粒子状導電助剤の合計含有量)は、正極活物質層の全固形分100質量%に対して、0質量%を超え3質量%未満であることが必須である。また、この含有量は、2.6質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。かような上限値であると、導電助剤同士の凝集が抑制されることにより電子伝導パスが良好に形成されるため、出力特性をより向上することができる。また、非水電解質二次電池のエネルギー密度をより向上させることが可能となる。なお、導電助剤の含有量の下限値は特に制限されないが、0質量%を超え、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。かような下限値であると、電子伝導パスを形成するための十分な導電助剤が存在することから、出力特性をより向上することができる。
【0068】
(電解液)
本形態に係る正極において、正極活物質層は、電解液をさらに含むことが好ましい。電解液は、リチウムイオン等のイオンのキャリヤーとしての機能を有し、その組成等については、従来公知の知見が適宜参照されうる。非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、電解液は、非水溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。
【0069】
非水溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。なかでも、非水溶媒は、急速充電特性および出力特性をより向上できるとの観点から、好ましくは鎖状カーボネートであり、より好ましくはジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはエチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)から選択される。
【0070】
リチウム塩としては、Li(FSO2)2N(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。なかでも、リチウム塩は、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、好ましくはLi(FSO2)2Nである。
【0071】
電解液中におけるリチウム塩の濃度は、0.1~3.0mol/Lであることが好ましく、0.8~2.2mol/Lであることがより好ましい。なお、電解液は、上述した成分以外の成分として、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネートなどの添加剤をさらに含有してもよい。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0072】
本形態の非水電解質二次電池用正極において、正極活物質層の厚さは特に制限されず、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、正極活物質層の厚さは、通常1~1000μm程度、好ましくは20~800μmであり、より好ましくは30~500μmであり、さらに好ましくは40~200μmである。正極活物質層の厚さが大きいほど、十分な容量特性を発揮するための正極活物質を保持することが可能となる。一方、正極活物質層の厚さが小さいほど、放電レート特性が向上しうる。
【0073】
正極活物質層の空孔率は、好ましくは20~50%であり、より好ましくは20~45%である。正極活物質層の空孔率が上記範囲内であると、正極活物質層中の電子伝導性材料(導電助剤、正極活物質等)同士の接触を十分に維持することができ、電子移動抵抗の増大が防止できる。また、正極活物質粒子間に十分な電解液が存在するため、リチウムイオン移動抵抗の増大が防止できる。その結果、非水電解質二次電池における出力特性をより向上させることが可能となる。
【0074】
正極活物質層の密度は、好ましくは2.30~3.75g/cm3であり、より好ましくは2.50~3.7g/cm3であり、さらに好ましくは2.80~3.65g/cm3である。正極活物質層の密度が上述した下限値以上の値であれば、十分なエネルギー密度を有する電池を得ることができる。一方、正極活物質層の密度が上述した上限値以下の値であれば、空隙を満たす電解液が十分に確保され、正極活物質層におけるイオン移動抵抗の増大が防止できる。その結果、非水電解質二次電池における出力特性をより向上させることが可能となる。なお、本明細書において、正極活物質層の密度は、以下の方法により測定するものとする。
【0075】
正極活物質層の密度は、下記式に従って算出する。なお、固体材料質量は、正極活物質層中の各材料の質量のうち、固体材料の質量のみを足し合わせることにより算出する。正極活物質層体積は正極活物質層の厚みと塗布面積から算出する:
密度(g/cm3)=固体材料質量(g)÷正極活物質層体積(cm3)。
【0076】
本形態に係る正極は、非水電解質二次電池に適用されることにより、容量特性の低下を最小限に抑制しつつ、出力特性を向上させることができる。このような効果が奏されるメカニズムは完全には明らかではないが、以下のようなメカニズムが推定されている。すなわち、一般に、表面ラフネスが低い正極活物質は、表面ラフネスが高い正極に比べて比表面積が小さくなる。このため正極活物質の粒子表面に導電助剤が付着しにくく、正極活物質層内において導電助剤が偏在してしまい導電パスが十分に形成できない。その結果、出力を上げるには多くの導電助剤を添加せざるを得ないという問題がある。これに対し、本形態に係る正極の構成とすることで、均一に分散した繊維状/粒状の導電助剤が、遠/中/近距離でそれぞれ効率の良い導電パスを形成することができる。これにより、少ない導電助剤の量でも十分な導電パスの形成が可能となり、正極活物質層の反応抵抗が低減される結果、出力が向上するものと考えられる。なお、このメカニズムはあくまでも推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を与えることはない。
【0077】
以上のことから、本発明の他の形態によれば、上述した本発明の一形態に係る非水電解質二次電池用正極を有する発電要素を備えた、非水電解質二次電池が提供される。非水電解質二次電池の正極以外の構成要素について、以下に簡単に説明する。
【0078】
[負極活物質層]
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)、金属材料(スズ、シリコン)、ケイ素含有合金系負極材料(例えば、Si60Sn10Ti30)、リチウム合金系負極材料(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-アルミニウム-マンガン合金等)などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量特性、出力特性の観点から、ケイ素含有合金系負極材料、炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム合金系負極材料が、負極活物質として好ましく用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0079】
負極活物質の平均粒子径(D50)は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。
【0080】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、負極活物質層の全固形分100質量%に対して、例えば60質量%以上100質量%未満であり、好ましくは80質量%以上99.5%以下であり、より好ましくは90質量%を超えて99.0質量%以下であり、さらに好ましくは95質量%以上98.5質量%以下である。負極活物質の含有量が上記範囲であれば、容量特性と出力特性とを両立させることができる。また、負極活物質層は、必要に応じて、正極活物質層について上述したのと同様の、バインダ、導電助剤、電解液などのその他の成分をさらに含む。負極活物質層の厚さは特に制限されず、正極活物質層について上述したのと同様の厚さが採用されうる。
【0081】
[電解質層]
電解質層は、セパレータに電解液(液体電解質)が含浸されてなる構成を有することが好ましい。電解液としては、正極活物質層について上述したのと同様のものが用いられうる。
【0082】
(セパレータ)
電解質層を構成するセパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。セパレータの形態としては、例えば、上記電解液を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
【0083】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、非水電解質二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。
【0084】
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、
図1および
図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが好ましい。
【0085】
なお、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる:請求項2の特徴を有する請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極;請求項3の特徴を有する請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極;請求項4の特徴を有する請求項1~3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項5の特徴を有する請求項1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項6の特徴を有する請求項1~5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項7の特徴を有する請求項1~6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項8の特徴を有する請求項1~7のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項9の特徴を有する請求項1~8のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項10の特徴を有する請求項1~9のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項11の特徴を有する請求項10に記載の非水電解質二次電池用正極;請求項12の特徴を有する請求項1~11のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極;請求項13の特徴を有する請求項12に記載の非水電解質二次電池用正極;請求項14の特徴を有する請求項1~13のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【実施例0086】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が以下の実施例のみに限定されるわけではない。
【0087】
<正極活物質>
正極活物質として、以下の2種類の市販品を準備した。
【0088】
低比表面積NMC複合酸化物(LiNi0.86Mn0.08Co0.06O2、BET比表面積:0.66m2/g、幾何比表面積:0.32m2/g、表面ラフネス:2.1、結晶子径(X):116nm、平均粒子径(D50)(Y):3.9μm、Y/X:34、結晶構造:層状岩塩型(空間群R3-m)、ピーク強度比(003)/(104):1.48、タップ密度:1.78g/cm3)。
【0089】
高比表面積NMC複合酸化物(LiNi0.8Mn0.11Co0.09O2、BET比表面積:1.79m2/g、幾何比表面積:0.11m2/g、表面ラフネス:16.4、結晶子径(X):109nm、平均粒子径(D50)(Y):11.5μm、Y/X:106、結晶構造:層状岩塩型(空間群R3-m)、ピーク強度比(003)/(104):1.30、タップ密度:2.68g/cm3)。
【0090】
なお、各正極活物質の物性値は、以下の手法により測定した。
【0091】
[表面ラフネス]
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて正極活物質の粉末を観察し、得られたSEM画像から、活物質粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち最大の距離を粒子径として測定し、数十視野中に観察される粒子の粒子径の算術平均値を平均粒子径として算出した。
【0092】
次いで、上記で算出された平均粒子径の値から、当該平均粒子径を粒子径とする真球状の粒子体積[m3]および粒子表面積[m2]を算出し、得られた粒子体積に活物質の比重(ここでは、4.78[g/cm3])を乗じることにより、上記真球状の粒子質量[g]を算出した。そして、上記で算出した粒子表面積を、同じく上記で算出した粒子質量で除することにより、「平均粒子径から算出される幾何比表面積[m2/g]」を算出した。
【0093】
一方、JIS Z8830:2013(ISO 9277:2010)に記載の「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準じて、静的容量法により窒素ガスを吸着ガスとして測定を行い、多点法により解析することによりBET比表面積[m2/g]を算出した。そして、上記で算出された「平均粒子径から算出される幾何比表面積」に対する「BET比表面積」の比の値(=BET比表面積/幾何比表面積)として、表面ラフネスを算出した。
【0094】
[Y/X]
(結晶子径X)
正極活物質の結晶子径XをWilliamson-Hall法(Williamson-Hall法、Hall,W.II.,J.Inst.Met.,75,1127(1950);idem,Proc.Phys.Soc.,A62,741(1949))を用いることで算出した。測定には、CuKα線を用いたX線回折(XRD)装置(理学製)を使用した。Williamson-Hall法によると、正極活物質のX線回折測定により得られる回折ピークのθと、その積分値βとの間には、以下の関係が成り立つ。
【0095】
βcosθ/λ=2η(sinθ/λ)+(1/ε)
ここで、εは結晶子径、λはCuKα線の波長、ηは正極活物質の歪に相当する。X軸にsinθ、Y軸にβcosθを取り、得られた正極活物質の回折ピ-クのθとその積分幅βをX軸とY軸にプロットしてゆき、最小二乗法を用いて近似直線を引く。Y軸との交点から結晶子サイズεを求める。
【0096】
(平均粒子径(D50))
正極活物質の平均粒子径(D50)をレーザー回折法により測定した。なお、D50は、体積基準における粒度分布の累積値が50%の時の粒子径を表す。
【0097】
[結晶構造、ピーク強度比(003)/(104)]
正極活物質の結晶構造およびピーク強度比(I(003)/I(104))を算出するための粉末X線回折測定には、CuKα線を用いたX線回折装置(理学製)を使用し、Fundamental Parameterを採用して解析を行った。回折角2θ=15~120°の範囲より得られたX線回折パターンを用いて、解析用ソフトウエアTopas Version 3を用いて解析を行った。
【0098】
[タップ密度]
正極活物質を10mLのガラス製メスシリンダーに入れ、200回タップした後の粉体充填密度を測定し、これを正極活物質のタップ密度とした。
【0099】
<SWCNTと含フッ素共重合体との混合物の調製>
まず、単層カーボンナノチューブ(SWCNT;商品名「TUBALL BATT SWCNT」、OCSiAl社製)、平均外径±標準誤差:1.6±0.4nm、長さ:5μm以上、平均G/D比:86.5±7.1)を準備した。また、含フッ素共重合体として、VdF単位およびTFE単位を含有する含フッ素共重合体(VdF/TFE=81/19(モル%)、重量平均分子量:1230000、融点:128℃)を準備した。
【0100】
次いで、0.4kgの単層カーボンナノチューブ、98.6kgのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)および1kgの含フッ素共重合体を、100リットルタンク内で、75rpmの回転速度を有するオーバーヘッドスターラーおよび30kWの出力を有するホモジナイザーを使用して混合した。均質に混合するために加えたエネルギー量は混合物1kg当たり0.2kWhであった。得られた混合物を高圧ホモジナイザーで処理した(混合物をホモジナイザーに700バールの圧力で10回通過させた)。均質化後、懸濁液を取り出し、50μmメッシュのフィルターを用いて濾過することにより、0.4質量%の単層カーボンナノチューブを含有する100kgの組成物(組成物A)を調製した。光学密度(0.001質量%の単層カーボンナノチューブを含有する組成物による500nmの波長での発光の吸収)は0.51吸光度単位、粘度は750mPa・sであり、これらは非水電解質二次電池用正極に用いられる材料に要求される品質を達成できていることを示す。
【0101】
<正極の作製>
[実施例1]
正極活物質として上記低比表面積NMC複合酸化物98.58質量部、粒子状導電助剤であるアセチレンブラック(AB)0.4重量部、PVdFであるVdFホモポリマー(重量平均分子量:780000、融点162℃)0.93質量部、および溶媒として適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、混錬機を用いて分散させた。ここに、上記で調製した組成物Aを投入し、混錬機により分散させた。さらにNMPを加えて混合分散することにより、0.02質量部の単層カーボンナノチューブおよび0.07質量部の含フッ素共重合体を含有し、固形分濃度が70質量%である正極活物質スラリーを得た。その後、目付量が20g/cm3となるようにギャップを調節したドクターブレードおよび塗工機(テスター産業株式会社製)とを用いて、正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔上に上記で調製した正極活物質スラリーを塗工し、得られた塗膜を80℃に調節したホットプレート上で1時間乾燥させた。乾燥させた塗膜を、卓上小型ロールプレス機(テスター産業株式会社製)を用いて、空孔率25%となるようにプレスした。その後、これを真空乾燥機に入れ、真空引きした状態で130℃にて8時間乾燥させることで、本実施例の正極を得た。
【0102】
[実施例2~実施例8]
正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により各実施例の正極を得た。
【0103】
[実施例9]
組成物Aにおける各成分の配合比を変更した組成物B(0.8kgの単層カーボンナノチューブ、98.2kgのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)および1kgの含フッ素共重合体を含有)を調製した。そして、組成物Aに代えてこの組成物Bを用い、また、正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により本実施例の正極を得た。
【0104】
[実施例10]
組成物Aにおける各成分の配合比を変更した組成物C(0.23kgの単層カーボンナノチューブ、98.77kgのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)および1kgの含フッ素共重合体を含有)を調製した。そして、組成物Aに代えてこの組成物Cを用い、また、正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により本実施例の正極を得た。
【0105】
[比較例1]
正極活物質として、低比表面積NMC複合酸化物に代えて上記高比表面積NMC複合酸化物を用い、かつ、正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により本比較例の正極を得た。
【0106】
[比較例2]
組成物Aを用いることなく、かつ、正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により本比較例の正極を得た。
【0107】
[比較例3]
組成物Aを用いることなく、かつ、正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により本比較例の正極を得た。
【0108】
[比較例4]
組成物Aを用いることなく、アセチレンブラックに代えて単層カーボンナノチューブを用い、かつ、正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により本比較例の正極を得た。
【0109】
[比較例5]
組成物Aを用いることなく、混錬機を用いた分散の際にアセチレンブラックに加えて単層カーボンナノチューブを添加し、かつ、正極活物質スラリーの全固形分に対する各成分の含有量を下記の表1に示す値に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により本比較例の正極を得た。
【0110】
<負極の作製>
負極活物質である黒鉛(平均粒子径:20μm)95.5質量%、導電助剤であるカーボンブラック0.5質量%、およびバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、溶媒として適量のNMPを添加し、混合して、負極活物質スラリーを作製した。次に、得られた負極活物質スラリーを、集電体である銅箔(厚さ20μm)の片面に塗布し、乾燥およびプレス処理を施して、負極(厚さ60μm)を作製した。
【0111】
<試験用セルの作製>
上記の実施例および比較例で得られたそれぞれの正極を12cm2の矩形に裁断し、負極を13cm2の矩形に裁断した。そして、正極集電体(アルミニウム箔)にはアルミニウム端子付きアルミニウム箔を積層した。一方、負極の集電体(銅箔)にはニッケル端子付き銅箔を積層した。
【0112】
次いで、セパレータ(セルガード社製、ポリプロピレン(PP)製)を正極および負極の電極活物質層側に挿入して、積層体とした。この積層体を外装体である熱融着型アルミラミネートフィルム(厚み150μm)に挟み、電解液(エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(30/70(EC/DECの体積比))にLiPF6を1Mの濃度で溶解させたもの)を注入後、真空シーラーを用いて外装体の内部を真空まで減圧し、いったん減圧を解除して大気圧まで戻した後、再度真空度99.7%まで減圧して封止することにより、正極活物質層と負極活物質層とがセパレータを介して対向するように積層された発電要素を有するパウチ型リチウムイオン二次電池(試験用セル)を作製した。
【0113】
<試験用セルの評価(出力特性(放電容量維持率)の測定)>
上記で作製した各試験用セルについて、出力特性を評価した。具体的には、まず、電極反応面内に均一に圧力を印加するため、ゴム板でセルの電極部分を挟み、さらにアルミニウムの平板で挟んでボルトで固定した。
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次いで、1C=220mAh/gとし、0.1Cのレートで充放電を3回繰り返した。この際、セル電圧として2.5~4.3Vの範囲で、充電をCC-CVモード(カットオフ電流=1/100C)で、放電をCCモードで(充電・放電間の休止時間8時間)実施した。その後、0.1Cのレートで4.3VまでCC-CVモードで充電した後、2CのレートでCCモードでの放電を行った。そして、0.1Cでの放電容量に対する2Cでの放電容量の百分率を放電容量維持率[%]として算出した。結果を下記の表1に示す。
【0115】
【0116】
表1に示す結果から、本発明の一形態に係る非水電解質二次電池用正極を用いた試験用セルは、優れた出力特性を示すことが確認された。これに対し、高比表面積NMC複合酸化物を正極活物質として用いた比較例1では、実施例ほどのレート特性を示すことができなかった。また、含フッ素共重合体を用いずに多量の粒子状導電助剤を添加した比較例3では、出力特性の大幅な低下は確認されなかったものの、多量の粒子状導電助剤の添加により電池の容量特性(体積エネルギー密度)が低下した。そして、含フッ素共重合体を用いることなく導電助剤の添加量を削減して容量特性の回復を狙った比較例2、4、5では、十分な出力特性を発現させることはできなかった。
【0117】
以上のことから、本発明によれば、表面のラフネスが低い正極活物質を含む非水電解質二次電池用正極において、容量の低下を最小限に抑制しつつ、出力特性を向上させることができることがわかる。