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  • 特開-非水電解液二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099986
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240719BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240719BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/62 Z
C01B32/158
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003658
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】上原 幸俊
【テーマコード(参考)】
4G146
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AA16
4G146AB06
4G146AC03B
4G146AC15A
4G146AC16A
4G146AC27A
4G146AD22
4G146AD25
5H029AJ04
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ08
5H050AA09
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA08
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】G/D比が低いカーボンナノチューブを導電材に使いながらも、出力特性および保存特性に優れる非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】ここに開示される非水電解液二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを備える。前記正極は、正極集電体と、正極活物質層と、を備える。前記正極活物質層は、正極活物質と、カーボンナノチューブと、を含有する。前記カーボンナノチューブは、Co成分を含有する。前記カーボンナノチューブのラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.5である。前記正極活物質層における前記カーボンナノチューブのCo成分の量が、5質量ppm~120質量ppmである。前記非水電解液が、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の少なくとも一方を含むLi塩である添加剤を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解液とを備える非水電解液二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、正極活物質層と、を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質と、カーボンナノチューブと、を含有し、
前記カーボンナノチューブは、Co成分を含有し、
前記カーボンナノチューブのラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.5であり、
前記正極活物質層における前記カーボンナノチューブのCo成分の量が、5質量ppm~120質量ppmであり、
前記非水電解液が、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の少なくとも一方を含むLi塩である添加剤を含有する、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質層に含まれる正極活物質の質量(g)に対する、前記添加剤の量(mg)の比が、0.5mg/g~16.0mg/gである、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記添加剤が、リチウムモノフルオロスルフェート、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(ジフルオロホスホリル)イミド、リチウムジフルオロホスホリルフルオロスルホニルイミド、およびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブのラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.0である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質層におけるカーボンナノチューブのCo成分の量が、10質量ppm~100質量ppmである、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質層の片面あたりの目付量が、5mg/cm~25mg/cmである、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
カーボンナノチューブ(CNT)の導電性が高いことから、CNTを非水電解液二次電池の電極の導電材に使用する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。ラマン分光法によって求まるCNTのG/D比が高いほど、結晶性が高く不純物が少ないことを意味するため、この導電材には、G/D比が高いCNTが好ましく用いられている。例えば、特許文献1では、G/D比が50以上のCNTが用いられている。
【0004】
一般的に、CNTは化学気相成長法(CVD法)によって工業生産され、CVD法においては、担体(例えば、シリカ、ゼオライト等)に担持された金属触媒(例、Co、Fe等)が用いられる(例えば、特許文献2参照)。特許文献1には、導電材として用いられるCNTに金属触媒が残存し得ることが記載されており、特許文献2には、焼成および酸処理によって金属触媒の残存量を低減できることが記載されている。金属触媒の残存量が小さい方が、CNTのG/D比は高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/199884号
【特許文献2】特開2005-272261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、近年、二酸化炭素の排出量低減への要求が非常に高まっている。G/D比が高いCNTを製造するために焼成を行った場合には、二酸化炭素の排出量が非常に大きくなる。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、二酸化炭素の排出量低減のために、焼成を行っていないCNT、すなわちG/D比の低いCNTを、非水電解液二次電池の導電材に用いた場合には、保存特性が低いという問題があることを見出した。また、CNTのG/D比が低い場合には、出力が低い場合があるという問題があることを見出した。
【0007】
そこで本発明は、G/D比が低いCNTを導電材に使いながらも、出力特性および保存特性に優れる非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される非水電解液二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを備える。前記正極は、正極集電体と、正極活物質層と、を備える。前記正極活物質層は、正極活物質と、カーボンナノチューブと、を含有する。前記カーボンナノチューブは、Co成分を含有する。前記カーボンナノチューブのラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.5である。前記正極活物質層における前記カーボンナノチューブのCo成分の量が、5質量ppm~120質量ppmである。前記非水電解液が、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の少なくとも一方を含むLi塩である添加剤を含有する。
【0009】
このような構成によれば、G/D比が低いCNTを導電材に使いながらも、出力特性および保存特性に優れる非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。なお、本明細書において「A~B」として表現される数値範囲には、AおよびBが含まれる。
【0012】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスのことを指す。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0013】
以下、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、本発明について詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0014】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。なお、図1は、非水電解液80の量を正確に表すものではない。
【0015】
捲回電極体20は、図1および図2に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0016】
非水電解液80は、通常、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の各種有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでもカーボネート類が好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0017】
支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF等のリチウム塩(好ましくはLiPF)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0018】
そして、本実施形態では、非水電解液80は、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の少なくとも一方を含むLi塩である添加剤(以下、「添加剤(A)」ともいう)を含有する。添加剤(A)が有するフルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の数は、特に限定されないが、好ましくは1つまたは2つである。添加剤(A)が有するリチウムイオンの数は、特に限定されないが、好ましくは1つである。
【0019】
添加剤(A)の例としては、リチウムモノフルオロスルフェート、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(ジフルオロホスホリル)イミド、リチウムジフルオロホスホリルフルオロスルホニルイミド、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組合わせて用いることができる。かかる添加剤の作用については後述する。
【0020】
非水電解液80中の添加剤(A)の濃度は、特に限定されないが、濃度が高すぎると、非水電解液80の粘度が上昇し、抵抗増加を招くおそれがある。一方、濃度が低すぎると、保存特性向上効果を得にくくなるおそれがある。したがって、非水電解液80中の添加剤(A)の濃度は、例えば、0.1質量%以上3.0質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以上2.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下である。
【0021】
なお、上記非水電解液80は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ホウ素含有オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤などを含んでいてもよい。
【0022】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0023】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0024】
正極活物質層54は、正極活物質、およびカーボンナノチューブ(CNT)を含有する。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極活物質を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質として、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。
【0025】
リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
【0026】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0027】
リチウム遷移金属リン酸化合物としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸マンガン鉄リチウム等が挙げられる。
【0028】
これらの正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。正極活物質としては、初期抵抗特性等の諸特性に優れることから、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が特に好ましい。
【0029】
正極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。なお、正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0030】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、例えば80質量%以上であり、87質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは97質量%以上である。
【0031】
本実施形態においては、正極活物質層54の導電材として、CNTを使用する。CNTは、通常、単独の粒子および/または凝集体の形態で、正極活物質と共に正極活物質層54内で分散している。CNTによれば、正極活物質層54の導電性を向上させることができ、リチウムイオン二次電池100の出力を高めることができる。
【0032】
本実施形態では、ラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.5である、CNTを用いる。このような低いG/D比を有するCNTは、典型的には、化学気相成長法(CVD法)によって、焼成を行うことなく得られるものであり、よって、その製造過程における二酸化炭素の排出量の少ないものである。したがって、このような低いG/D比を有するCNTは、使用する材料および部材の作製からリチウムイオン二次電池100完成までの二酸化炭素排出量の低減の観点から有利である。
【0033】
一方で、このような低いG/D比は、不純物が多く結晶性が低いものであり、特に、CVD法によるCNT製造時の金属触媒、金属触媒の担体、基材などを不純物として含有し得る。本実施形態では、CNTにCo成分を含有するものを用いる。このCo成分は、通常、CVD法でのCNT製造時のCo触媒に由来する不純物(典型的には、Co触媒残渣)である。
【0034】
なお、ラマン分光分析によって求まるCNTのG/D比は、公知方法に従い求めることができる。具体的に例えば、公知のラマン分光分析装置を用いて、CNTのラマンスペクトルを測定し、当該ラマンスペクトルを用いて1590cm-1付近のピーク強度をGバンド強度、1350cm-1付近のピーク強度をDバンド強度としてそれぞれ求め、G/Dの値を計算することによって、求めることができる。
【0035】
CNTは典型的には、CVD法によって製造されるが、CNTの製造方法はこれに限定されない。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、2層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のいずれであってもよく、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。CNTとしては、MWCNTが好ましい。
【0036】
CNTの平均長さは特に限定されない。CNTの平均長さが長過ぎると、CNTが凝集して分散性が低下する傾向にある。そのため、CNTの平均長さは、15μm以下が好ましく、8.0μm以下がより好ましく、5.0μm以下がさらに好ましく、3.0μm以下が最も好ましい。一方、CNTの平均長さが短過ぎると、正極活物質間の導電パスが形成され難くなる傾向にある。そのため、CNTの平均長さは、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。
【0037】
CNTの平均直径は、特に限定されず、例えば0.1nm~150nmであり、好ましくは0.5nm~60nmであり、より好ましくは0.5nm~30nmである。
【0038】
なお、CNTの平均長さおよび平均直径は、例えば、CNTの電子顕微鏡写真を撮影し、100個以上のCNTの長さおよび直径の平均値として、それぞれ求めることができる。具体的に例えば、CNT分散液を希釈した後乾燥して、測定試料を調製する。この試料について走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、100個以上のCNTの長さおよび直径を求め、平均値を算出する。このとき、CNTが再凝集している場合には、凝集したCNTの束に対して、長さおよび直径を求める。
【0039】
本実施形態においては、正極活物質層54におけるCNTのCo成分の量は、5質量ppm~120質量ppmである。
【0040】
正極活物質層54におけるCNTのCo成分の量は、例えば、次のようにして求めることができる。正極活物質層54の質量と、正極活物質層54中のCNTの含有割合を公知方法に従い求める。また、CNT中のCo含有量を公知方法(例、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析など)によって求める。これらの値を用いて、正極活物質層54におけるCNTのCo成分の量(質量ppm)を算出する。なお、種々のCo含有量のCNTを、公知方法に従い製造することができ、市販品としても入手可能である。そのため、CNT中のCo含有量、および/または正極活物質層54中のCNTの含有割合を調整することにより、正極活物質層54におけるCNTのCo成分の量を調整することができる。
【0041】
このように、Co成分を含有し、ラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.5であるCNTを使用し、正極活物質層54におけるCNTのCo成分の量を、5質量ppm~120質量ppmに調整し、さらに、非水電解液に、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の少なくとも一方を含むLi塩である添加剤(A)を添加することにより、G/D比が低いCNTを導電材に使いながらも、非水電解液二次電池に優れた出力特性および保存特性を付与することができる。これは次の理由によるものと考えられる。
【0042】
本発明者の検討によれば、G/D比の低いCNTを、非水電解液二次電池の導電材に用いた場合に、保存特性が低下する原因が、CNTに残存するCo触媒が非水電解液中に溶出し、その後負極で析出し、これが非水電解液の還元分解を促進することにあることを見出した。これに対し、上記の添加剤(A)を用いると、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基によって、添加剤(A)が、正極の構成成分表面に吸着される。このとき、添加剤(A)が、CNTに残存するCo触媒にも吸着され、これによりCNTからのCo溶出を抑制することができる。したって、正極活物質層54におけるCNTのCo成分の量が5質量ppm~120質量ppmであれば、保存特性の低下を十分に抑制することができる。
【0043】
ただし、CNTのG/D比が1.0未満だと、保存特性の向上が不十分となる。また、通常、G/D比が高いほど、CNTの結晶性が高くなって電子伝導性が高くなり、非水電解液二次電池の出力特性に有利である。これに反し、本発明者の検討によれば、G/D比の低いCNTを導電材に使用する場合、G/D比がある程度大きくなると、非水電解液二次電池の出力特性が低下することを見出した。よって、リチウムイオン二次電池100の出力特性の観点から、CNTのG/D比は3.5以下である。G/D比は、好ましくは1.0~3.2であり、より好ましくは1.0~3.0である。さらに、リチウムイオン二次電池100の保存特性の観点からは、G/D比は、特に好ましくは2.0~3.0である。リチウムイオン二次電池100の出力特性の観点からは、G/D比は、特に好ましくは1.0~2.0である。
【0044】
正極活物質層54におけるCNTのCo成分の量は、好ましくは10質量ppm~100質量ppmである。
【0045】
また、添加剤(A)の量が、正極活物質に対して多過ぎると、抵抗増加を招き、出力特性が低下するおそれがある。よって、添加剤(A)の量は、正極活物質層54に含まれる正極活物質の質量(g)に対して、好ましくは16.0mg/g以下であり、より好ましくは14.0mg/g以下であり、さらに好ましくは12.1mg/g以下である。一方、より高い保存特性の観点から、添加剤(A)の量は、正極活物質層54に含まれる正極活物質の質量(g)に対して、好ましくは0.5mg/g以上であり、より好ましくは1.5mg/g以下であり、さらに好ましくは1.9mg/g以上である。
【0046】
CNTは、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、Co成分以外にも、他の金属成分(例えば、CVD法によるCNT製造時の、Co以外の金属触媒、触媒担体、または基材に由来する成分など)を含有していてもよい。その例としては、Fe、Al、Mo、Ti等が挙げられる。
【0047】
正極活物質層54中のCNTの含有量は、正極活物質層54におけるCNTのCo成分量が5質量ppm~120質量ppmである限り、特に限定されない。正極活物質層54中のCNTの含有量が多過ぎると、リチウムイオン二次電池100の製造時における、正極スラリーの増粘や、正極活物質層54への非水電解液80の含浸性の低下等が起こるおそれがある。そのため、正極活物質層54中のCNTの含有量は、例えば、0.1質量%以上3.0質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以上2.5質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0048】
典型的には、正極活物質層54の導電材には、CNTのみが用いられる。しかしながら、正極活物質層54は、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、CNT以外の導電材(例、カーボンブラック等)を含有していてもよい。
【0049】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、バインダ、カーボンナノチューブ分散剤(CNT分散剤)等を含んでいてもよい。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。
【0050】
CNT分散剤としては、例えば、界面活性剤型分散剤(低分子型分散剤とも呼ばれる)、高分子型分散剤、無機型分散剤等を用いることができる。CNT分散剤は、アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性のいずれであってもよい。よって、CNT分散剤は、その分子構造中に、アニオン性基、カチオン性基、およびノニオン性基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有していてもよい。なお、界面活性剤とは、分子構造内に親水性部位と親油性部位を備え、これらが共有結合で結合した化学構造を有する両親媒性物質をいう。
【0051】
CNT分散剤の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物アンモニウム塩、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩等の重縮合系の芳香族系界面活性剤;ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩等のポリカルボン酸およびその塩;トリアジン誘導体系分散剤(好ましくはカルバゾリル基、またはベンゾイミダゾリル基を含むもの);ポリビニルピロリドン(PVP);ピレン、アントラセン等の多核芳香族を側鎖に有するポリマー;ピレンアンモニウム誘導体(例、ピレンにアンモニウムブロマイド基が導入された化合物)、アントラセンアンモニウム誘導体等の多核芳香族アンモニウム誘導体;などが挙げられる。これらのCNT分散剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。CNT分散剤としては、多核芳香族を含むものが好ましい。具体的には、CNT分散剤としては、多核芳香族を側鎖に有するポリマー、および多核芳香族アンモニウム誘導体が好ましい。
【0052】
正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0053】
CNT分散剤の量は、CNTおよびCNT分散剤の種類に応じて適宜決定してよい。ここで、CNT分散剤の割合が小さ過ぎると、分散性が不十分となるおそれがある。一方、CNT分散剤の割合が大き過ぎると、CNT表面に過剰にCNT分散剤が付着して、抵抗増加を起こし得る。CNTがSWCNTである場合には、CNT分散剤の使用量は、CNT100質量部に対して、例えば1質量部~400質量部であり、好ましくは20質量部~200質量部である。CNTがMWNTである場合には、CNT分散剤の使用量は、CNT100質量部に対して、例えば1質量部~100質量部であり、好ましくは4質量部~40質量部である。
【0054】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0055】
正極活物質層54の目付量は、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池100のより高い出力特性の観点から、片面あたり5mg/cm以上が好ましく、10mg/cm以上がより好ましく、15mg/cm以上がさらに好ましい。正極活物質層54の目付量は、25mg/cm以下、または23mg/cm以下であってよい。
【0056】
正極シート50は、正極活物質層非形成部分52aと正極活物質層54との境界部に絶縁層(図示せず)を含有していてもよい。当該絶縁層は、例えば、セラミック粒子等を含有する。
【0057】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0058】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは6μm以上20μm以下である。
【0059】
負極活物質層64は負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0060】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。なお、負極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0061】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0062】
負極活物質層64中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0063】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上400μm以下であり、好ましくは20μm以上300μm以下である。
【0064】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、セラミック粒子等を含有する耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0065】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。セパレータ70のガーレー試験法によって得られる透気度は特に限定されないが、好ましくは350秒/100cc以下である。
【0066】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、出力特性および保存特性(特に高温保存特性)に優れる。また、G/D比の小さいCNTを使用しているため、余分に高温で焼成してCNTを作製する必要がなく、使用する材料および部材の作製からリチウムイオン二次電池100完成までの二酸化炭素の排出量が少ない。
【0067】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。具体的な用途としては、パソコン、携帯電子機器、携帯端末等のポータブル電源;電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源;小型電力貯蔵装置の蓄電池などが挙げられ、なかでも、車両駆動用電源が好ましい。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0068】
以上、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、リチウムイオン二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。
【0069】
本実施形態に係る二次電池は、公知方法に従ってリチウムイオン二次電池以外の非水電解液二次電池として構成することができる。
【0070】
以下、本発明に関する実施例を詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0071】
〔実施例1~5および比較例1~11〕
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3と、導電材と、バインダとしてのPVdFとを、活物質:導電材:PVdF=98.5:1.0:0.5の質量比で混合した。導電材として、MWCNT(平均直径10nm、平均長さ0.5μm)を用いた。MWCNTとしては、Co成分量および/またはG/D比の異なる8種類のものを使用した。各実施例および各比較例での、正極活物質層におけるMWCNTのCo成分量(質量ppm)と、MWCNTのG/D比を表1に示す。なお、MWCNT中のCo含有率と、MWCNTのG/D比は、後述の方法により測定した。
【0072】
これにN-メチル-2-ピロリドンを適量加えて、正極スラリーを調製した。正極スラリーを、正極集電体としての厚み12μmのアルミニウム箔の両面に塗布した。このとき、リード接続部として、アルミニウム箔上に、正極スラリー未塗工部を設けた。また、正極スラリーの塗布量を、形成される正極活物質層の目付量が、両面の合計で10.0mg/cmとなるように調整した。
【0073】
塗布したスラリーを乾燥して正極活物質層を形成した。得られたシートに対してローラーを用いてプレス処理を行った後、所定の寸法に裁断して、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を得た。正極活物質層の充填密度は、2.40g/cmであった。
【0074】
炭素系負極活物質としての黒鉛と、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)と、スチレンブタジエンラバー(SBR)のディスパージョンとを、固形分の質量比として黒鉛:CMC-Na:CMC=98.0:1.0:1.0で混合した。さらにイオン交換水を適量加えて、負極スラリーを調製した。負極スラリーを、負極集電体としての厚み8μmの銅箔の両面に塗布した。このとき、リード接続部として、銅箔上に、負極スラリー未塗工部を設けた。
【0075】
塗布したペーストを乾燥して負極活物質層を形成した。得られたシートに対してローラーを用いてプレス処理を行った後、所定の寸法に裁断して、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を得た。負極活物質層の充填密度は、1.35g/cmであった。
【0076】
上記作製した正極および負極のそれぞれに、リードを取り付けた。単層のポリプロピレン製のセパレータを用意した。正極と、負極とをセパレータを介して交互に1枚ずつ積層して、積層型電極体を作製した。
【0077】
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、30:40:30の体積比で含む混合溶媒を用意した。比較例1~8では、この混合溶媒に、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。実施例1~5および比較例9~11では、この混合溶媒に、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、添加剤(A1)としてリチウムフルオロスルフェートを1.0質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。以上のようにして、非水電解液を得た。なお、実施例1~5および比較例9~11では、使用した正極活物質に対する添加剤(A1)の質量比は、12.1mg/gであった。
【0078】
上記作製した積層型電極体と非水電解液とを、角型の電池ケースに収容し、封止して、角型の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0079】
<ラマン分光分析>
レーザーラマン顕微鏡「RAMANwalk」(ナノフォトン社製)を用いて、各実施例および各比較例で用いた正極の正極活物質層の表面のラマン画像を取得し、導電材(CNT)が存在する部分を特定した。次に、導電材(CNT)部分のラマンスペクトルを測定した。1590cm-1付近のピーク強度をGバンド強度、1350cm-1付近のピーク強度をDバンド強度としてそれぞれ求め、G/D比を算出した。
【0080】
<CNTのICP分光分析>
各実施例および比較例で使用したCNTに対してICP発光分光分析を行い、Co含有率を求めた。このCo含有率に基づいて、各実施例および各比較例について、正極活物質層におけるCNTのCo成分の量を算出した。
【0081】
<出力評価>
各評価用リチウムイオン二次電池を、定電流定電圧(CC-CV)充電によって、SOC(State of charge)50%に調製した後、25℃の環境下に置いた。5Cの電流値で10秒間放電を行い、このときの電圧上昇量ΔVを取得した。この電圧上昇量ΔVと電流値とを用いて、各評価用リチウムイオン二次電池の初期の出力抵抗値を算出した。結果を表1に示す。
【0082】
<高温保存特性評価>
各評価用リチウムイオン二次電池を、25℃の環境下に置き、充電電圧4.2V、充電電流0.5CでのCC-CV充電を3時間行った。その後、放電電流0.5Cで、3.0Vまで定電流(CC)放電した。このときの放電容量を測定して、初期容量とした。
【0083】
次いで、各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置き、充電電圧4.2V、充電電流0.5CでのCC-CV充電を3時間行った。次に、各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の高温槽内で100日間保存した後、初期容量と同様にして放電容量を測定した。(保存後の放電容量/初期容量)×100より、容量維持率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1の結果が示すように、CNTのG/D比を1.0~3.5の範囲内とし、正極活物質層におけるCNTのCo成分の量を5質量ppm~120質量ppmの範囲内とし、非水電解液に、フルオロスルホニル基を有するLi塩である添加剤(A1)を添加することにより、高温保存後の容量維持率が高くなり、また初期出力抵抗も十分に小さいことがわかる。
【0086】
〔実施例6~15および比較例12~17〕
実施例6~15および比較例12~17では、正極スラリーの塗布量を、形成される正極活物質層の目付量が、両面の合計で46.0mg/cmとなるように調整し、正極活物質層の充填密度を、3.60g/cmに調整した。また、実施例6~10および比較例12~14では、上記混合溶媒に、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、添加剤(A1)としてリチウムフルオロスルフェートを0.5質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。これにより、使用した正極活物質に対する添加剤(A1)の質量比を、1.9mg/gに変更した。実施例11~15および比較例15~17では、上記混合溶媒に、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、添加剤(A1)としてリチウムフルオロスルフェートを1.5質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。これにより、使用した正極活物質に対する添加剤(A1)の質量比を、5.7mg/gに変更した。以上の点以外は、上記と同様にして評価用リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2の結果が示すように、添加剤(A1)の量を変更しても、CNTのG/D比が1.0~3.5の範囲内であり、正極活物質層におけるCNTのCo成分の量が5質量ppm~120質量ppmの範囲内である場合に、高温保存後の容量維持率が高くなり、出力抵抗も十分に小さかった。
【0089】
〔実施例16~30および比較例18~26〕
実施例16~30および比較例18~26では、正極スラリーの塗布量を、形成される正極活物質層の目付量が、両面の合計で46.0mg/cmとなるように調整し、正極活物質層の充填密度を、3.60g/cmに調整した。また、実施例16~20および比較例18~20では、上記混合溶媒に、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、添加剤(A2)としてジフルオロスルホン酸リチウムを1.5質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。実施例21~25および比較例21~23では、上記混合溶媒に、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、添加剤(A3)としてリチウムジフルオロホスホリルフルオロスルホニルイミドを1.5質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。実施例26~30および比較例24~26では、上記混合溶媒に、リチウムビス(オキサレート)ボレートを0.8質量%の濃度で溶解させ、添加剤(A4)としてジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムを1.5質量%の濃度で溶解させ、支持塩としてのLiPFを1.15mol/Lの濃度で溶解させた。これにより、実施例16~30および比較例18~26では、使用した正極活物質に対する添加剤の質量比を、5.7mg/gに変更した。以上の点以外は、上記と同様にして評価用リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。また、使用した添加剤(A2)~(A4)の化学構造を、添加剤(A1)の化学構造と共に下記に示す。
【0090】
【化1】
【0091】
【表3】
【0092】
表3の結果が示すように、添加剤の種類を変えた場合であっても、添加剤(A1)と同じ傾向が得られた。添加剤(A1)~(A4)は、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の少なくとも一方を含むLi塩である。したがって、ここに開示される非水電解液二次電池によれば、G/D比が低いCNTを導電材に使いながらも、出力特性および保存特性に優れる非水電解液二次電池を提供できることがわかる。
【0093】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0094】
すなわち、ここに開示される非水電解液二次電池は、以下の項[1]~[6]である。
[1]正極と、負極と、非水電解液とを備える非水電解液二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、正極活物質層と、を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質と、カーボンナノチューブと、を含有し、
前記カーボンナノチューブは、Co成分を含有し、
前記カーボンナノチューブのラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.5であり、
前記正極活物質層における前記カーボンナノチューブのCo成分の量が、5質量ppm~120質量ppmであり、
前記非水電解液が、フルオロスルホニル基およびジフルオロホスホニル基の少なくとも一方を含むLi塩である添加剤を含有する、
非水電解液二次電池。
[2]前記正極活物質層に含まれる正極活物質の質量(g)に対する、前記添加剤の量(mg)の比が、0.5mg/g~16.0mg/gである、項[1]に記載の非水電解液二次電池。
[3]前記添加剤が、リチウムモノフルオロスルフェート、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(ジフルオロホスホリル)イミド、リチウムジフルオロホスホリルフルオロスルホニルイミド、およびジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項[1]または[2]に記載の非水電解液二次電池。
[4]前記カーボンナノチューブのラマン分光分析によって求まるG/D比が1.0~3.0である、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
[5]前記正極活物質層におけるカーボンナノチューブのCo成分の量が、10質量ppm~100質量ppmである、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
[6]前記正極活物質層の片面あたりの目付量が、5mg/cm~25mg/cmである、項[1]~[5]のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【符号の説明】
【0095】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2