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  • 特開-膜ろ過システムの運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100004
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】膜ろ過システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20250626BHJP
【FI】
C02F1/44 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217072
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】三上 大助
(72)【発明者】
【氏名】能関 和重
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA02
4D006HA18
4D006JA53Z
4D006KE02P
4D006KE03P
4D006KE03Q
4D006KE16P
4D006KE23Q
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB02
(57)【要約】
【課題】目標流量到達までの時間を短縮し、水温変化などにより水質に変化が起きたとしても、目標流量到達までの制御が容易な膜ろ過システムの運転方法を提供する。
【解決手段】膜ろ過水の流量をポンプの回転数で制御する膜ろ過システムの運転方法であって、
数値を固定したインバータの出力周波数(固定出力周波数)で前記ポンプの回転数が制御された運転を実施する初期工程、
段階的に前記出力周波数を上昇又は下降することにより前記ポンプの回転数が制御された運転に切り替えると共に、膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較することで、PID制御された運転へ移行する判断を行う中期工程、及び
前記ポンプの回転数がPID制御された運転を実施する終期工程を含む、膜ろ過システムの運転方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜ろ過水の流量をポンプの回転数で制御する膜ろ過システムの運転方法であって、
数値を固定したインバータの出力周波数(固定出力周波数)で前記ポンプの回転数が制御された運転を実施する初期工程、
段階的に前記出力周波数を上昇又は下降することにより前記ポンプの回転数が制御された運転に切り替えると共に、膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較することで、PID制御された運転へ移行する判断を行う中期工程、及び
前記ポンプの回転数がPID制御された運転を実施する終期工程を含む、膜ろ過システムの運転方法。
【請求項2】
前記膜ろ過水の流量の現在値と、前記目標流量とを比較した差が±100%以内である場合に、PID制御された運転へ移行する、請求項1に記載の膜ろ過システムの運転方法。
【請求項3】
前記膜ろ過水の流量の現在値と、前記目標流量とを比較した差が±0%~±20%以内である場合に、PID制御された運転へ移行する、請求項2に記載の膜ろ過システムの運転方法。
【請求項4】
膜ろ過システムの運転の終期工程において、PID制御された運転中に、0.1~600秒ごとの前記インバータの出力周波数を記憶しておくことにより、
次回の膜ろ過システムの運転の初期工程において、前回の膜ろ過システムの運転の終期工程で記憶した前記出力周波数を前記固定出力周波数として、前記ポンプの回転数が制御された運転を実施する、請求項2又は3に記載の膜ろ過システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜ろ過システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の膜ろ過装置の流量制御方法では、目標値(Set Variable:SV;一態様において、目標流量)を設定して、現在値(Process Variable:PV)との差から、P(比例)、I(積分)及びD(微分)を用いた制御を行い、操作量(Manupilative Variable:MV)を決定して目標値に到達させるのが一般的である。
【0003】
SVとPVの差が大きい起動初期には、SVを大きく逸脱するオーバーシュートが発生するため、PID(比例積分微分)制御に移行する前段階で各種制御法が提案された。
【0004】
例えば、特許文献1には、処理水流量が目標流量になるようにP制御によって制御されたインバータの出力周波数に応じて給水ポンプの回転数が制御される初期運転を行った後、処理水流量が目標流量に到達する前に、処理水流量が目標流量になるように、PID制御に切り替える膜濾過システムの運転方法が開示されている。
特許文献1に記載の方法では、初期に緩やかな操作量となるP制御とすることでオーバーシュートを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-188541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法ではオーバーシュートを起こさずに確実に制御できる一方で、P制御の特性として目標流量に近づくにつれて操作量が減少するため、P制御からPID制御への移行後の時間を含めると目標流量到達までに時間を要するという課題があった。
また、膜ろ過システムは水温変化により水質の状態が変わるため、これら変化に対応しやすい制御が望まれていた。
【0007】
本発明は、目標流量到達までの時間を短縮し、水温変化などにより水質に変化が起きたとしても、目標流量到達までの制御が容易な膜ろ過システムの運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、以下のとおりである。
【0009】
<<態様1>>
膜ろ過水の流量をポンプの回転数で制御する膜ろ過システムの運転方法であって、
数値を固定したインバータの出力周波数(固定出力周波数)で前記ポンプの回転数が制御された運転を実施する初期工程、
段階的に前記出力周波数を上昇又は下降することにより前記ポンプの回転数が制御された運転に切り替えると共に、膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較することで、PID制御された運転へ移行する判断を行う中期工程、及び
前記ポンプの回転数がPID制御された運転を実施する終期工程を含む、膜ろ過システムの運転方法。
【0010】
<<態様2>>
前記膜ろ過水の流量の現在値と、前記目標流量とを比較した差が±100%以内である場合に、PID制御された運転へ移行する、態様1に記載の膜ろ過システムの運転方法。
【0011】
<<態様3>>
前記膜ろ過水の流量の現在値と、前記目標流量とを比較した差が±0%~±20%以内である場合に、PID制御された運転へ移行する、態様2に記載の膜ろ過システムの運転方法。
【0012】
<<態様4>>
膜ろ過システムの運転の終期工程において、PID制御された運転中に、0.1~600秒ごとの前記インバータの出力周波数を記憶しておくことにより、
次回の膜ろ過システムの運転の初期工程において、前回の膜ろ過システムの運転の終期工程で記憶した前記出力周波数を前記固定出力周波数として、前記ポンプの回転数が制御された運転を実施する、態様1~3の何れか1態様に記載の膜ろ過システムの運転方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膜ろ過システムの目標流量到達までの時間が短縮される。また、本発明の一態様によれば、水温変化などにより水質に変化が起きたとしても、目標流量到達までの制御が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態の膜ろ過システムの運転方法を説明するための概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態ともいう。)について詳細に説明する。なお、本実施形態は、以下に記述する実施の形態に限定されるものではなく、その示す範囲内で種々変形して用いることができる。
【0016】
本実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態である膜ろ過システムの運転方法の一例を示す図である。なお、説明に不要な部分は省略して図示した部分がある。
【0017】
本実施形態の膜ろ過システムは、原水をろ過処理するものである。図1において、膜ろ過システムは、給水ライン11を備えており、この給水ライン11には、中空糸膜モジュール4が設けられている。中空糸膜モジュール4の上流側の給水ライン11には、原水タンク1、流量計3、コントローラー5、ポンプ8及びインバータ9が設けられている。また、中空糸膜モジュール4の下流側の還流ライン7には、流量計6が設けられている。
【0018】
中空糸膜モジュール4により、原水をろ過処理する。この中空糸膜モジュール4は、ろ過膜(図示せず)を使用して形成されている。具体的には精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)及びナノ濾過膜(NF膜)などを使用して形成されている。逆浸透膜及びナノ濾過膜は、ポリアミド系、ポリエーテル系などの合成高分子膜である。そして、逆浸透膜は、分子量が数十程度の物質の透過を阻止できる液体分離膜である。また、ナノ濾過膜は、2nm程度より小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度の物質)の透過を阻止できる液体分離膜である。ナノ濾過膜はろ過機能の点において、逆浸透膜と、分子量が1,000~300,000程度の物質を濾別可能な限外ろ過膜(UF膜)との中間に位置する機能を有する。ろ過膜は、原水が所望の水質(一態様において、製薬用途に使用可能な程度の水質)になるように選択される。
【0019】
中空糸膜モジュール4では、原水タンク1から流入した原水がろ過膜でろ過され、処理水となり下流側へ流出する。これにより、所望の水質となった処理水(一態様において、膜ろ過水)が、処理水ライン(図示せず)へ流出するようになっている。一方、所望の水質とならなかった処理水は、中空糸膜モジュール4と接続された還流ライン7へ流出するようになっている。この還流ライン7は、ポンプ8の上流側の給水ライン11と接続されている。そして、還流ライン7へ流出した所望の水質とならなかった処理水は、還流ライン7を介して中空糸膜モジュール4の上流側の給水ライン11へ還流するようになっている。
【0020】
ポンプ8は、処理水流量が目標流量になるように、インバータ9の出力周波数に応じてその回転数が制御される。具体的には、コントローラー5は、流量計6からの流量検出信号10を受けると、これを周波数指示信号としてインバータ9へ出力する。そして、インバータ9は、この周波数指示信号を出力周波数(一態様において、操作出力2)に変換してポンプ8の回転数を制御する。ここで、コントローラー5のPID制御などの制御機能は、流量計6からの流量検出信号10をフィードバック値として目標流量と比較を行い、偏差を0にするように動作する機能である。
【0021】
中空糸膜モジュール4の下流側に設けられた流量計6では、中空糸膜モジュール4から流出する処理水流量の実際の値である現在値(PV)を計測する。
中空糸膜モジュール4の下流側に設けられた流量計6が計測したPVは流量検出信号10に変換されて、CPUを備えるコントローラー5へ入力される。コントローラー5は、流量計6からの流量検出信号10を受けると、SVとPVとの偏差に基づき処理水流量の操作量(MV)を算出して、これを周波数指示信号(例えば、4~20mAの電流値、若しくは1~5Vの電圧値)としてインバータ9へ出力するようになっている。そして、周波数指示信号を受けたインバータ9の操作出力2に応じ、中空糸膜モジュール4からの処理水流量が目標流量になるように、制御されたポンプ8の回転数によって処理水流量を制御している。
中空糸膜モジュール4の上流側に設けられた流量計3では、中空糸膜モジュール4に流入する原水の流量の実際の値である現在値(PV)を計測する。
【0022】
本実施形態は、膜ろ過水の流量をポンプの回転数で制御する膜ろ過システムの運転方法である。
本実施形態の膜ろ過システムの運転方法(以下、本実施形態の運転方法とする)は、膜ろ過工程として、以下の工程:
数値を固定したインバータの出力周波数(固定出力周波数)でポンプの回転数が制御された運転を実施する初期工程、
段階的に出力周波数を上昇又は下降することによりポンプの回転数が制御された運転に切り替えると共に、膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較することで、PID制御された運転へ移行する判断を行う中期工程、及び
ポンプの回転数がPID制御された運転を実施する終期工程
を含む。
【0023】
一態様において、本実施形態の運転方法は、初期工程、中期工程及び終期工程を含む膜ろ過工程を1サイクルとして繰り返す。
本実施形態の運転方法は、このような繰り返しサイクルを行う膜ろ過システムの運転方法として有利である。
【0024】
≪初期工程≫
初期工程は、数値を固定したインバータの出力周波数(固定出力周波数)でポンプの回転数が制御された運転を実施する工程である。一態様において、本工程はインバータ9を一定の数値に固定した出力周波数(以下、固定出力周波数とする)でポンプ8の回転数を制御し、処理水流量が目標流量になるように、コントローラー5でインバータ9への周波数指示信号を制御する工程である。
一態様において、インバータ9の出力周波数を一定の数値に固定するとは、出力周波数をある一定の数値に設定することをいう。一態様において、ある一定の数値は、インバータ9の出力周波数0.0~120.0Hzの範囲内から実施形態に応じて適宜設定してよく、好ましくは10.0~60.0Hzの範囲内である。一態様において、本工程の運転時間は、0~999秒、好ましくは0~60秒である。
【0025】
膜ろ過システムの前回運転終了後、膜ろ過システムの次回運転の初期工程において、前回の膜ろ過システムの運転の後述の終期工程で記憶した出力周波数を固定出力周波数として、ポンプの回転数が制御された運転を実施してもよい。本実施形態の運転方法では、膜ろ過システムの処理水流量制御が各工程の切り替え時に行われても、処理水流量の設定値が0から開始されないので、目標流量到達までの時間は速くなる。
【0026】
本開示で大きな水温変化とは、膜ろ過装置の初回運転中と次回運転中の水温を測定して、初回運転と次回運転との水温の差が±3℃以上ある場合をいう。
例えば、初回運転から次回運転で水温が-3℃以上低下すると、水質が変化して次回
運転中の膜ろ過水の流量は、初回運転中の膜ろ過水の流量に比べて減少する。
本実施形態の運転方法によれば、大きな水温変化により水質に変化が起きても、これら変化に対応しやすい。
【0027】
≪中期工程≫
中期工程は、段階的に出力周波数を上昇又は下降することによりポンプの回転数が制御された運転に切り替えると共に、膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較することで、PID制御された運転へ移行する判断を行う工程である。
一態様において、本工程は、インバータ9の固定出力周波数でポンプの回転数が制御された初期工程から段階的に出力周波数を上昇又は下降することによりポンプの回転数が制御された運転へ切り替える工程である。一態様において、本工程は、流量計6で処理水流量の現在値を計測し、現在値と目標流量と比較し、その差を求めることで、PID制御された運転へ移行する判断を行う工程である。
初期工程から中期工程への移行は、初期工程で設定した運転時間(一態様において、0~999秒、好ましくは0~60秒)を経過後、実施される。
【0028】
後述の終期工程で実施するPID制御を有効に実施するには、PID制御に移行する前の中期工程で処理水流量を制御してオーバーシュートを小さくする必要がある。ポンプ8の運転開始時に、初期工程を行った後、中期工程を開始し、処理水流量が目標流量に到達する前に終期工程に切り替える。
具体的には、処理水流量として膜ろ過水の流量の現在値と、目標流量との差が±100%以内に到達したとき、中期工程から終期工程へ移行する。例えば、膜ろ過水の流量の現在値と、目標流量との差が±100%以内に到達したときとは、膜ろ過水の流量が目標流量の0~200%の流量である。好ましい一態様において、膜ろ過水の流量の現在値と、目標流量とを比較した差が±0%~±20%以内である場合に、PID制御された運転へ移行する。例えば、膜ろ過水の流量の現在値と、目標流量との差が±20%以内に到達したときとは、膜ろ過水の流量が目標流量の80~120%の流量である。
【0029】
また、一態様において、段階的にインバータ9によりポンプの回転数を制御するとは、目標流量と、現在値との差が前記所定の範囲内に到達するまで、1秒ごとにインバータ9の周波数を上昇又は下降させてもよいし、ある一定の数値(例えば、1.0Hz)に設定した周波数を5秒間維持するように階段状に上昇又は下降させてもよい。中期工程でのインバータ9の周波数は、好ましくは1秒当たり0.1~2.0Hzである。
【0030】
≪終期工程≫
終期工程は、ポンプの回転数がPID制御された運転を実施する工程である。
一態様において、終期工程は、処理水流量が目標流量になるように、PID制御によって制御されたインバータ9の出力周波数に応じてポンプ8の回転数が制御される工程である。
【0031】
本実施形態の運転方法によれば、ポンプ8の運転開始時に、インバータ9の固定出力周波数によりポンプの回転数が制御される初期工程を行うことにより、処理水流量がより短時間で目標流量に近づく。また、膜ろ過水の流量の現在値と目標流量との差が所定範囲内に到達したとき、インバータ9の周波数がPID制御によって制御される終期工程に切り替えることにより、目標流量に対する処理水流量のオーバーシュート量が抑制される。
【0032】
好ましい一態様において、本実施形態の運転方法は、終期工程において、PID制御された運転中に、0.1~600秒ごと、好ましくは0.1~10秒ごとのインバータ9の出力周波数を記憶する。具体的には、PID制御された運転中に、0.1~600秒ごと、好ましくは0.1~10秒ごとの処理水流量(MV)を制御するインバータ9の出力周波数を記憶する。
より好ましい一態様において、本実施形態の膜ろ過システムの運転方法は、膜ろ過システムの運転停止から次回運転の初期工程において、前回運転で記憶した出力周波数を固定出力周波数として、ポンプの回転数が制御された運転を実施することができる。これにより、膜ろ過システムの次回運転の初期工程において、処理水流量の設定値が0から開始されないので、目標流量到達までの時間は速くなる。
【0033】
<循環工程>
一態様において、本実施形態の運転方法では、膜ろ過工程に加えて、膜ろ過工程後に実施する循環工程などを繰り返しサイクルに含んでもよい。
本実施形態の循環工程は、前回サイクルの膜ろ過工程と、次回サイクルの膜ろ過工程との間に実施される。
一態様において、本実施形態の循環工程は、膜ろ過工程で不具合が生じた場合など膜ろ過システムに原水を流入しない又は原水が流入するタイミングが不明である時に実施され、膜ろ過工程で処理した水の水質を維持する工程である。
一態様において、本実施形態の循環工程は、数値を固定したインバータの出力周波数(固定出力周波数)でポンプの回転数が制御された運転を実施する工程である。
一態様において、循環工程での固定出力周波数の数値は、インバータ9の出力周波数10~30Hzの範囲内から実施形態に応じて適宜設定してよい。
【実施例0034】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明するが、それによって本発明が限定されることはない。
【0035】
[実施例1]
膜ろ過装置としては、限外ろ過(UF)膜モジュール(分画分子量6000)を用いた。PID制御には、製品名KV-7500、株式会社キーエンス製のコントローラーを使用した。
膜ろ過水(処理水)の目標流量は、0.5m/hとした。
【0036】
[初回運転]
初期工程において、インバータ(製品名FRN2.2G1S、富士電機株式会社製)の出力周波数を25Hzで固定して、10秒間ポンプを運転後、中期工程に移行した。
中期工程において、初期工程の出力周波数25Hzから1秒ごとに0.5Hzずつ段階的に上昇することにより、出力周波数を29Hzとした。
また、流量計(製品名FD-H20、株式会社キーエンス製)により、膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、0.42m/hだった。この膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較して、その差は±20%以内であったため、PID制御された運転へ移行した。中期工程から終期工程に移行するまでの時間は8秒だった。
終期工程において、PID制御運転を実施した。
流量計で膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、中期工程から終期工程に移行してから12秒で目標流量に到達した。
また、終期工程で、PID制御運転中にインバータの出力周波数を記憶した。記憶した5秒ごとの出力数波数は30.8Hzだった。
【0037】
[次回運転]
初回運転で記憶した出力数波数30.8Hzを次回運転のポンプ起動時の出力数波数として、初期工程から直ぐに中期工程に移行した。
中期工程において、初期工程の出力周波数30.8Hzから1秒ごとに0.5Hzずつ段階的に上昇又は下降させることにより、周波数を31.3Hzとした。
また、流量計により、膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、0.51m/hだった。この膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較したところ、その差は±20%以内であったため、終期工程へ移行した。中期工程から終期工程に移行するまでの時間は1秒だった。
終期工程において、PID制御運転を実施した。
流量計で膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、PID制御運転を開始してから2秒で目標流量に到達した。
なお、膜ろ過装置の初回運転中と次回運転中の水温を測定したところ、初回運転から次回運転の間で水温変化は+1℃だった。
【0038】
[実施例2]
[初回運転]
初期工程において、インバータ(製品名FRN2.2G1S、富士電機株式会社製)の出力周波数を10Hzで固定して、10秒間ポンプを運転後、中期工程に移行した。
中期工程において、初期工程の出力周波数10Hzから1秒ごとに0.5Hzずつ段階的に上昇することにより、出力周波数を12Hzとした。
また、流量計(製品名FD-H20、株式会社キーエンス製)により、膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、0.11m/hだった。この膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較して、その差は±80%以内であったため、PID制御された運転へ移行した。中期工程から終期工程に移行するまでの時間は4秒だった。
終期工程において、PID制御運転を実施した。
流量計で膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、PID制御運転を開始してから50秒で目標流量に到達した。
また、終期工程で、PID制御運転中にインバータの出力周波数を記憶した。記憶した5秒ごとの出力数波数は30.8Hzだった。
【0039】
[次回運転]
初回運転で記憶した出力数波数30.8Hzを次回運転のポンプ起動時の出力数波数として、初期工程から直ぐに中期工程に移行した。
中期工程において、初期工程の出力周波数30.8Hzから1秒ごとに0.5Hzずつ段階的に上昇又は下降させることにより、周波数を31.3Hzとした。
また、流量計により、膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、0.5m/hだった。この膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較して、その差は±20%以内であったため、終期工程へ移行した。中期工程から終期工程に移行するまでの時間は1秒だった。
終期工程において、PID制御運転を実施した。
流量計で膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、PID制御運転を開始してから2秒で目標流量に到達した。
なお、膜ろ過装置の初回運転中と次回運転中の水温を測定したところ、初回運転から次回運転の間で水温変化は+1℃だった。
【0040】
[実施例3]
[初回運転]
初期工程において、インバータ(製品名FRN2.2G1S、富士電機株式会社製)の出力周波数を25Hzで固定して、10秒間ポンプを運転後、中期工程に移行した。
中期工程において、初期工程の出力周波数25Hzから1秒ごとに0.5Hzずつ段階的に上昇することにより、出力周波数を29Hzとした。
また、流量計(製品名FD-H20、株式会社キーエンス製)により、膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、0.41m/hだった。この膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較して、その差は±20%以内であったため、PID制御された運転へ移行した。中期工程から終期工程に移行するまでの時間は8秒だった。
終期工程において、PID制御運転を実施した。
流量計で膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、PID制御運転を開始してから12秒で目標流量に到達した。
また、終期工程で、PID制御運転中にインバータの出力周波数を記憶した。記憶した5秒ごとの出力数波数は30.8Hzだった。
【0041】
[次回運転]
初回運転で記憶した出力数波数30.8Hzを次回運転のポンプ起動時の出力数波数として、初期工程から直ぐに中期工程に移行した。
中期工程において、初期工程の出力周波数30.8Hzから1秒ごとに0.5Hzずつ段階的に上昇又は下降させることにより、周波数を31.3Hzとした。
また、流量計により、膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、0.43m/hだった。この膜ろ過水の流量の現在値と目標流量とを比較して、その差は±20%以内であったため、終期工程へ移行した。中期工程から終期工程に移行するまでの時間は1秒だった。
終期工程において、PID制御運転を実施した。
流量計で膜ろ過水の流量の現在値を測定したところ、PID制御運転を開始してから10秒で目標流量に到達した。
なお、膜ろ過装置の初回運転中と次回運転中の水温を測定したところ、初回運転から次回運転の間で水温変化は-4℃だった。
【0042】
[比較例1]
初回運転において、インバータの出力周波数を目標流量に安定して到達する30.7~31.2Hzに維持してポンプを運転した。初回運転で目標流量に到達したのは、運転開始から500秒後だった。
次回運転では、初回運転と同様にポンプを運転した。次回運転で目標流量に到達したのは運転開始から510秒後だった。
なお、膜ろ過装置の初回運転中と次回運転中の水温を測定したところ、初回運転から次回運転との間で水温変化は+0.5℃だった。
ここで、目標流量に安定して到達するインバータの出力周波数は、膜ろ過水の流量が目標流量に到達した後の操作変化量が、目標流量に到達するまでの操作変化量よりも少ない場合の周波数とした。目標流量に安定して到達するインバータの出力周波数は、事前に水温等を適宜設定して、膜ろ過装置を複数回運転することで決定した。
【0043】
[比較例2]
初回運転において、インバータ(製品名FRN2.2G1S、富士電機株式会社製)の出力周波数を25Hzで固定して、10秒間ポンプを運転後、PID制御運転を実施した。
PID制御運転から80秒で目標流量に到達した。初回運転で目標流量に到達したのは、運転開始から90秒後だった。また、PID制御運転中にインバータの出力周波数を記憶しなかった。
次回運転では、インバータの出力周波数を31Hzで固定して、10秒間ポンプを運転後、PID制御運転を実施した。PID制御運転から80秒で目標流量に到達した。次回運転で目標流量に到達したのは運転開始から90秒後だった。
なお、膜ろ過装置の初回運転中と次回運転中の水温を測定したところ、初回運転から次回運転の間で水温変化は+0.2℃だった。
【0044】
[比較例3]
初回運転において、インバータ(製品名FRN2.2G1S、富士電機株式会社製)の出力周波数を25Hzで固定して、10秒間ポンプを運転後、PID制御運転を実施した。
PID制御運転から80秒で目標流量に到達した。初回運転で目標流量に到達したのは、運転開始から90秒後だった。また、PID制御運転中にインバータの出力周波数を記憶しなかった。
次回運転では、インバータの出力周波数を34Hzで固定して、10秒間ポンプを運転後、PID制御運転を実施した。PID制御運転を開始してから120秒で目標流量に到達した。次回運転で目標流量に到達したのは運転開始から130秒後だった。
なお、膜ろ過装置の初回運転中と次回運転中の水温を測定したところ、初回運転から次回運転の間で水温変化は-4℃だった。
【0045】
比較例1~3は、オーバーシュートが発生したため、初回運転での膜ろ過水の流量が目標流量に到達する時間は、ポンプ運転開始時からそれぞれ500秒、90秒及び90秒だった。
また、比較例1~3は、初回運転で出力周波数を記憶しなかったので、次回運転の膜ろ過水の流量が目標流量に到達する時間はポンプ運転開始時からそれぞれ510秒、90秒及び130秒であり、目標流量到達までの時間を初回運転と比べて短縮できなかった。
特に、比較例3では、初回運転から次回運転の間で水温が-4℃と大きく変化したため、初回運転で目標流量に到達した時間に比べて次回運転で目標流量に到達するのに大幅に時間を要した。
【0046】
実施例1~3は、膜ろ過水の流量の現在値と目標流量との差が所定範囲内に到達したとき、終期工程に切り替えることにより、オーバーシュートが発生しなかった。
実施例1~3は、初回運転での膜ろ過水の流量が目標流量に到達する時間は、ポンプ運転開始時からそれぞれ30秒、64秒及び30秒だった。
また、実施例1~3では、初回運転で出力周波数を記憶したので、次回運転の膜ろ過水の流量が目標流量に到達する時間はポンプ運転開始時からそれぞれ3秒、3秒及び11秒であり、目標流量到達までの時間を初回運転と比べて大幅に短縮できた。
特に、実施例3では、初回運転から次回運転の間で水温が-4℃低下し、水質が変化して次回運転の膜ろ過水の流量が減少したにも関わらず、初回運転に比べて次回運転では目標流量に到達した時間を短縮することができた。
【0047】
本実施形態による膜ろ過システムの運転方法は、膜ろ過水の流量のオーバーシュートを極めて少なく制御できる。また、本実施形態による膜ろ過システムの運転方法によれば、目標流量到達までの時間を短縮し、水温変化などにより水質に変化が起きたとしても目標流量到達までの制御が容易となる。
【符号の説明】
【0048】
1 原水タンク
2 操作出力
3 流量計
4 中空糸膜モジュール
5 コントローラー
6 流量計
7 還流ライン
8 ポンプ
9 インバータ
10 流量検出信号
11 給水ライン
図1