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特開2025-100009酸素発生触媒および酸素発生反応用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100009
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】酸素発生触媒および酸素発生反応用電極
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20250626BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20250626BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20250626BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20250626BHJP
【FI】
B01J31/22 M
C01B13/02 B
C25B11/052
C25B11/075
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217078
(22)【出願日】2023-12-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050/高効率太陽光CO2電解還元システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直柔
(72)【発明者】
【氏名】関澤 佳太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】森川 健志
【テーマコード(参考)】
4G042
4G169
4K011
【Fターム(参考)】
4G042BA08
4G042BA38
4G042BB04
4G169AA04
4G169AA09
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BB08C
4G169BB12C
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD12C
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169BE46B
4G169CB81
4G169DA06
4G169FA01
4G169FA03
4G169FC02
4K011DA01
(57)【要約】
【課題】水から酸素を発生させる触媒において、酸素発生に必要な電圧を低下させることができる酸素発生触媒を提供する。
【解決手段】アミノ系置換基を有するピリジン系配位子と、Ni塩とのNi錯体またはFe塩とのFe錯体である酸素発生触媒であって、酸素発生触媒は、反応溶液としてpH10以上のアルカリ性水溶液を用いて酸素を発生させる酸素発生反応用である、酸素発生触媒である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ系置換基を有するピリジン系配位子と、Ni塩とのNi錯体またはFe塩とのFe錯体である酸素発生触媒であって、
前記酸素発生触媒は、反応溶液としてpH10以上のアルカリ性水溶液を用いて酸素を発生させる酸素発生反応用であることを特徴とする酸素発生触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素発生触媒であって、
前記Ni塩または前記Fe塩は、硝酸塩および塩化物塩のうちの少なくとも1つであることを特徴とする酸素発生触媒。
【請求項3】
請求項1に記載の酸素発生触媒であって、
前記アミノ系置換基は、-NR(Rは、独立して、水素原子、または置換基を有していても良い炭素数1~6の直鎖、分岐、環状のアルキル基、x=1~2または1~3)であることを特徴とする酸素発生触媒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素発生触媒を含むことを特徴とする酸素発生反応用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水から酸素を発生させるための酸素発生触媒、およびその酸素発生触媒を含む酸素発生反応用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
水から酸素を発生させる酸素発生反応は、アルカリ性溶液中で水素を生成させる水電解反応や、二酸化炭素(CO)から一酸化炭素、ギ酸、エタノールなどの有用な化合物を合成する二酸化炭素還元反応などの対極反応として用いられる反応である。この酸素発生反応で用いられる酸素発生触媒について、これまで様々な検討が行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、Ni(NO・6HOとCo(NO・6HOの両方または一方と2-メチルイミダゾールとを基に合成された酸素発生触媒を用いた酸素発生反応が記載されている。非特許文献1において最も高い性能を有するNi、Coの両方を含む触媒であっても必要な電圧は約300mVと高い。
【0004】
非特許文献2には、Ni(NO・6HOとFe(NO・9HOの両方または一方と2-メチルイミダゾールとを基に合成された酸素発生触媒を用いた酸素発生反応が記載されている。非特許文献2において最も高い性能を有するNi、Fe両方を含む触媒では必要な電圧は約200mVであり、Niのみを含む触媒では必要な電圧は300mVと高い。
【0005】
非特許文献3には、Ni(NO・6HO、Co(NO・6HO、Fe(NO・9HOのうちの少なくとも1種類と2-メチルイミダゾールとを基に合成された酸素発生触媒を用いた酸素発生反応が記載されている。非特許文献3において最も高い性能を有するNi、Co、Feの3種類を含む触媒であっても必要な電圧は約250mVと高い。
【0006】
非特許文献4には、Niフォーム(foam)上にNiOOH/FeOOHを形成した金属酸化物系酸素発生触媒を用いた酸素発生反応が記載されている。非特許文献4の反応では、10mAの電流の生成に250mVの過電圧を必要とする。
【0007】
非特許文献5には、Niフォーム上にNiOOH/FeOOHを形成した金属酸化物系酸素発生触媒を用いた酸素発生反応が記載されている。非特許文献5において最も高い性能を有する触媒で10mAの電流の生成に290mVの過電圧を必要とする。
【0008】
非特許文献6には、ピリジン系配位子を有するNi-Fe系金属錯体型酸素発生触媒を用いた酸素発生反応が記載されている。非特許文献6は、反応溶液中に溶解する触媒を使用し、グラッシーカーボン(ガラス状炭素)電極を用いた検討であるため、生成電流値は0.3mA程度とかなり小さく、また、電解液には、pH10程度の0.1M NaHCO水溶液中に10質量%のアセトニトリルを必要とする。
【0009】
非特許文献7には、Niフォーム上にNiFeCu金属塩を添加し、NiOOHが触媒として駆動する金属酸化物系酸化発生触媒を用いた酸素発生反応が記載されている。非特許文献7では、二酸化炭素を飽和していない0.5M KHCO水溶液で反応が行われている。非特許文献5において最も高い性能を有する触媒で10mAの電流の生成に385mVの過電圧を必要とする。
【0010】
非特許文献1~5は、酸素発生反応の反応溶液としてアルカリ性電解液を使用する例である。非特許文献1~3のように配位子としてイミダゾール、特に2-メチルイミダゾールを用いた酸素発生触媒は、Niフォームのような金属単体の酸素発生触媒よりも低い電圧において酸素を発生できることが知られている。2-メチルイミダゾールを用いた従来技術では複数の金属塩(FeとNi,FeとNiとCoなど)を組み合わせた酸素発生触媒を用いた場合のみ、比較的低い電圧で駆動することが知られており、単独の金属種のみでは酸素発生に必要な電圧が増大する。
【0011】
他にも、酸素発生触媒として、非特許文献4,5のような金属酸化物系酸素発生触媒が良く知られているが、複数の原子を導入した合金型を基に合成される金属酸化物系触媒(FeOOH+NiOOH)であっても必要となる過電圧が上記の通り250mV以上と大きい。
【0012】
非特許文献6~7は、酸素発生反応の反応溶液として中性電解液を使用する例である。中性電解液中での金属錯体系の酸素発生触媒の検討例は非常に少なく、非特許文献6は、pH10程度の0.1M NaHCO(10質量%アセトニトリル含有)中のピリジン系Ni-Fe系金属錯体型酸素発生触媒の例であるが、水溶性の触媒を使用するため、生成電流値は小さく、上記の通り0.3mA程度にとどまる。
【0013】
非特許文献7のように中性条件においても金属酸化物系酸素発生触媒を用いた報告があるが、複数の原子を導入した合金型を基に合成される金属酸化物系触媒(NiOOH+Fe+Cu)の触媒であっても必要となる過電圧が上記の通り385mVと大きい。
【0014】
二酸化炭素還元用触媒と組み合わせて酸素発生触媒を使用する場合、メンブレン膜によって酸素発生触媒と二酸化炭素還元用触媒とを区切って動作させる2室型の反応セルが一般的である。しかしながら、一部の二酸化炭素(CO)はHCO やCO 2-の状態でメンブレン膜を通過してしまうことが知られており、長期的には酸素発生触媒で使用する電解液にも二酸化炭素が含まれるようになる。したがって、時間経過とともに、1M KOHのようなアルカリ性溶液は中和反応が起こり、少しずつpH低下を引き起こし触媒活性の低下や反応を駆動する電圧の向上が引き起こされる。同様に他の電解液においても二酸化炭素が溶解することによって、徐々に中性側にpHは低下する。長期的な利用を考えると二酸化炭素が飽和された状態の中性電解液で反応ができることが望ましいが、非特許文献3,4のように二酸化炭素飽和電解液では、二酸化炭素未飽和電解液よりも酸素発生反応に必要な電圧が大きくなることが知られている。これまでの酸素発生触媒は無機系の金属/金属酸化物系触媒が多く、これらはアルカリ性溶液で最も触媒性能が高く、二酸化炭素飽和電解液では特に反応が進行しにくいことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】ACS Appl. Mater. Interfaces 2023, 15, 29, 34682-34697
【非特許文献2】ACS Appl. Nano Mater. 2019, 2, 10, 6334-6342
【非特許文献3】Small. 2020, 16, 2002426
【非特許文献4】ACS Omega 2018, 3, 9, 11009-11017
【非特許文献5】Nature Communications, 2020, 11, 6181
【非特許文献6】Angew. Chem. Int. Ed. 2023, 62, e202218859
【非特許文献7】ACS Catal. 2020, 10, 9725-9734
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、水から酸素を発生させる触媒において、酸素発生に必要な電圧を低下させることができる酸素発生触媒、およびその酸素発生触媒を含む酸素発生反応用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子と、Ni塩とのNi錯体またはFe塩とのFe錯体である酸素発生触媒であって、前記酸素発生触媒は、反応溶液としてpH10以上のアルカリ性水溶液を用いて酸素を発生させる酸素発生反応用である、酸素発生触媒である。
【0018】
前記酸素発生触媒において、前記Ni塩または前記Fe塩は、硝酸塩および塩化物塩のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0019】
前記酸素発生触媒において、前記アミノ系置換基は、-NR(Rは、独立して、水素原子、または置換基を有していても良い炭素数1~6の直鎖、分岐、環状のアルキル基、x=1~2または1~3)であることが好ましい。
【0020】
本発明は、上記酸素発生触媒を含む、酸素発生反応用電極である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、水から酸素を発生させる触媒において、酸素発生に必要な電圧を低下させることができる酸素発生触媒、およびその酸素発生触媒を含む酸素発生反応用電極を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<酸素発生触媒>
本実施形態に係る酸素発生触媒は、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子と、Ni塩とのNi錯体またはFe塩とのFe錯体である酸素発生触媒であって、酸素発生触媒は、反応溶液としてpH10以上のアルカリ性水溶液を用いて酸素を発生させる酸素発生反応用である。
【0024】
酸素発生反応では、水から酸素を発生させるための平衡電位として、1.23V vs RHE(可逆水素電極水準)よりも高い値で電気化学反応を行う必要がある。実際に、1.23Vの電圧印加では酸素発生反応はほとんど起こらず、活性化エネルギーに相当する余分な電圧(過電圧)を印加しなければ反応は進行しないため、過電圧が大きいほどエネルギー損失の要因となる。酸素発生反応は、アルカリ性溶液中で水素を生成させる水電解反応や二酸化炭素から一酸化炭素、ギ酸、エタノールなどの有用な化合物を合成する二酸化炭素還元反応などの対極反応として用いられる反応であり、反応全体に必要なエネルギー(電圧)を低下させるためにも酸素発生反応の過電圧を低下させることは重要である。
【0025】
本発明者らは、電気化学で駆動する酸素発生触媒において、水を活性中心に近接させる、電子やプロトンの受領を容易にするといったアプローチが過電圧低下に寄与すると考えた。
【0026】
本実施形態に係る酸素発生触媒では、金属イオンと配位する能力が高く、元々のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)が比較的低いことによって電子注入が容易なピリジン配位子で錯形成させた触媒とし、その触媒を担体に塗布することによって、酸素発生反応における過電圧を低下させることができると考えられる。さらに、電子供与性の高いアミノ系置換基を置換基に有する配位子を用いることによってさらにLUMOを低下させることができ、より容易に電子注入が可能になることによって、酸素発生反応における必要電位を低下させることができると考えられる。
【0027】
本実施形態に係る酸素発生触媒は、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子Rと、金属M(NiまたはFe)の塩との組み合わせによって形成される。
【0028】
【化1】
【0029】
Ni塩またはFe塩としては、Niイオン源またはFeイオン源として触媒合成に用いられるものであればよく、特に制限はない。Ni塩またはFe塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩、臭化物塩などの無機塩や、クエン酸塩などの有機塩が挙げられ、触媒性能などの点から、硝酸塩、塩化物塩が好ましい。Ni塩またはFe塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ピリジン系配位子Rにおけるピリジン環は、アミノ系置換基を有する。アミノ系置換基は、-NR(x=1~2または1~3)として表される。R(R,RまたはR,R,R)は、独立して、例えば、水素原子や、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~6の直鎖、分岐、環状のアルキル基である。上記アルキル基が有していてもよい置換基としては、ヒドロキシル基、アセトキシ基、アミノ基、アセトアミド基、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基(アルキル基の炭素数は1~6)などが挙げられる。その他、Rとしては、上記直鎖アルキル基の末端にホスホン酸が連結したアルキルホスホン酸基、上記直鎖アルキル基の末端にカルボキシル基が連結したアルキルカルボキシル基、上記直鎖アルキル基の末端にスルホン酸基が連結したアルキルスルホン酸基、上記直鎖アルキル基の末端にシラノール基が連結したアルキルシラノール基、上記直鎖アルキル基の末端にメルカプト基が連結したアルキルメルカブト基およびこれらの誘導体であってもよい。これらのうち、触媒性能などの点から、アミノ系置換基は2級アミノ基であることが好ましい。
【0031】
Rの例として、2級アミノ基を有する4-ジメチルアミノピリジン、4-ピロリジノピリジンなどが挙げられる。
【0032】
【化2】

4-ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine)(DMAP)
【0033】
【化3】

4-ピロリジノピリジン(4-pyrrolidinopyridine)(4pyp)
【0034】
アミノ系置換基を有するピリジン系配位子Rは、上記で説明した要因から、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子であればよく、特に制限はないが、触媒性能などの点から、4-ジメチルアミノピリジン、4-ピロリジノピリジンが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る酸素発生触媒は、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子と、Ni塩またはFe塩とを、所定のモル量比で溶媒中に溶解し、所定の温度で所定の時間、反応させることによって得ることができる。
【0036】
溶媒としては、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子とNi塩またはFe塩とを溶解または分散できる溶媒であればよく、特に制限はないが、例えば、アセトニトリル、エタノール、メタノールなどを用いればよい。
【0037】
モル量比は、例えば、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子:Ni塩またはFe塩=1:0.5~1:4の範囲とすればよい。
【0038】
反応温度は、例えば、0~60℃の範囲とすればよい。反応時間は、例えば、0.5~24時間の範囲とすればよい。
【0039】
反応の際には、反応溶液を撹拌してもよいし、超音波処理を行ってもよい。
【0040】
反応の後、必要に応じて、溶媒を除去して、酸素発生触媒を単離し、精製、乾燥してもよいし、反応溶液をそのまま用いて公知の塗布方法によって基板などに塗布して電極などを作製してもよい。
【0041】
本実施形態に係る酸素発生反応用電極は、反応溶液としてpH10以上、例えばpH10~14のアルカリ性水溶液を用いて酸素を発生させる酸素発生反応用である。pH10以上のアルカリ性水溶液としては、特に制限はないが、例えば、pH10以上の水酸化カリウム(KOH)水溶液、CO未飽和KHCO+KCO電解液、CO未飽和K+KSO電解液、リン酸塩電解液、CO未飽和炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0042】
<酸素発生反応用電極>
本実施形態に係る酸素発生反応用電極は、上記酸素発生触媒を含む電極である。例えば、基板上に上記酸素発生触媒が担持された電極などである。
【0043】
酸素発生反応用電極は、例えば、上記酸素発生触媒を含む溶液を用いて、ディップコーティング法、スピンコート法、スプレーコート法などの塗布方法を用いて基板上に酸素発生触媒を担持させることによって得ることができる。
【0044】
基板としては、Niフォーム、カーボンペーパー、Tiメッシュなどを用いることができる。
【0045】
<酸素発生反応>
本実施形態に係る酸素発生触媒および酸素発生反応用電極が用いられる酸素発生反応は、アルカリ性溶液中で水素を生成させる水電解反応や、二酸化炭素(CO)から一酸化炭素、ギ酸、エタノールなどの有用な化合物を合成する二酸化炭素還元反応などの対極反応として用いられる反応などである。
【0046】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
[1]アミノ系置換基を有するピリジン系配位子と、Ni塩とのNi錯体またはFe塩とのFe錯体である酸素発生触媒であって、
前記酸素発生触媒は、反応溶液としてpH10以上のアルカリ性水溶液を用いて酸素を発生させる酸素発生反応用である、酸素発生触媒。
【0047】
[2][1]に記載の酸素発生触媒であって、
前記Ni塩または前記Fe塩は、硝酸塩および塩化物塩のうちの少なくとも1つである、酸素発生触媒。
【0048】
[3][1]または[2]に記載の酸素発生触媒であって、
前記アミノ系置換基は、-NR(Rは、独立して、水素原子、または置換基を有していても良い炭素数1~6の直鎖、分岐、環状のアルキル基、x=1~2または1~3)である、酸素発生触媒。
【0049】
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の酸素発生触媒を含む、酸素発生反応用電極。
【実施例0050】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[アミノ系置換基を有するピリジン系配位子を用いた酸素発生触媒の作製]
実施例1~10として、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子を用いた酸素発生触媒での検討について示す。
【0052】
<実施例1:Ni-DMAP電極の作製>
Ni(NO・6HOと4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)をモル量比が1:2になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてNi-DMAPをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Ni-DMAP電極を作製した。
【0053】
<実施例2:Ni-Cl-DMAP電極の作製>
NiCl・6HOと4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)をモル量比が1:2になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてNi-Cl-DMAPをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Ni-Cl-DMAP電極を作製した。
【0054】
<実施例3:Fe-DMAP電極の作製>
Fe(NO・9HOと4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)をモル量比が1:1になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてFe-DMAPをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Fe-DMAP電極を作製した。
【0055】
<実施例4:Fe-Cl-DMAP電極の作製>
FeCl・4HOと4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)をモル量比が1:1になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてFe-Cl-DMAPをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Fe-Cl-DMAP電極を作製した。
【0056】
<実施例5:Ni-4pyp電極の作製>
Ni(NO・6HOと4-ピロリジノピリジン(4pyp)をモル量比が1:2になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてNi-4pypをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Ni-4pyp電極を作製した。
【0057】
<実施例6:Fe-Cl-4pyp電極の作製>
FeCl・4HOと4-ピロリジノピリジン(4pyp)をモル量比が1:2になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてFe-Cl-4pypをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Fe-Cl-4pyp電極を作製した。
【0058】
<実施例7~10>
実施例7~8,9~10は実施例2,4と同様に、DMAP配位子を有する電極をそれぞれ作製した。
【0059】
[Niフォーム電極の作製]
比較例1は、ピリジン系配位子が含まれない、担体であるNiフォームのみで構成された酸素発生触媒である。
【0060】
<比較例1:Niフォーム電極の作製>
比較例1では、Niフォームを実施例1~10と同じサイズに切り出したものをNiフォーム電極として使用した。
【0061】
[アミノ系置換基を有さないピリジン系配位子を用いた酸素発生触媒の作製]
比較例2,3は、アミノ系置換基を有さないピリジン系配位子を配位子に用いた酸素発生触媒である。
【0062】
<比較例2:Ni-py電極の作製>
Ni(NO・6HOとピリジン(py)をモル量比が1:2になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてNi-pyをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Ni-py電極を作製した。
【0063】
<比較例3:Ni-Bzpy電極の作製>
Ni(NO・6HOと4-ベンゾイルピリジン(Bzpy)をモル量比が1:2になるように、20mLのアセトニトリル中に溶解し、25℃で30分間超音波処理を行った。得られた溶液中にNiフォームを浸漬、60℃で乾燥を1サイクルとするディップコーティング法を用いてNi-BzpyをNiフォームに担持した。このとき、合計10サイクル実施し、60℃で乾燥させることによって、Ni-Bzpy電極を作製した。
【0064】
<比較例4~9>
比較例4~6,7~9は、比較例1~3と同様にして電極をそれぞれ作製した。
【0065】
[酸素発生反応]
実施例1~10および比較例1~9で作製した電極を用いて、いずれも下記の測定条件で、酸素発生反応を実施した。酸素発生反応は、いずれも電気化学反応により実施した。電気化学測定には電気化学測定システム(Bio-Logic Science Instruments、SP-150)を使用した。電気化学測定システムを用いて15mA/cmの電流が生成する電位を記録しながら、酸素発生反応試験を行った。酸素発生反応試験では、作用極に実施例1~10、比較例1~9の酸素発生触媒をそれぞれ用い、対極にPt-フォイル(foil)を用い、参照極にAg/AgCl電極を用い、いずれもサンプル間で同じ反応面積(1cm)になるようにして測定を行った。反応セルにはpeek製の隔膜のない、1室セルを用いて測定を行った。電解液には1.0mol/Lの水酸化カリウム(1M KOH)水溶液(アルカリ性溶液、pH14)、CO未飽和0.5M KHCO+0.5M KCO電解液(pH10.0)またはCO飽和0.5M KHCO+0.5M KCO電解液(pH7.0)を用いた。
【0066】
[酸素発生反応結果]
実施例1~4および比較例1~3、実施例5,6および比較例1~3の酸素発生反応試験結果を、表1,表2に示す。表1は、DMAP配位子を用いた酸素発生反応触媒に関する結果、表2は、4pyp配位子を用いた酸素発生反応触媒に関する結果である。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1は、実施例1~4と比較例1~3の15mA/cmの電流を酸素発生反応により生成する電位を10分間の測定において経時的に調べ、10分時の値を示したものである。このとき、電圧値は可逆水素電極水準(reversible hydrogen electrode(RHE))値を基準とし、水から酸素を生成する理論電位である1.23Vを基に、さらに必要となる電圧値(=過電圧値)として示している。比較例1で示したNiフォームでは、10分時の電圧値は、0.48と高い値を示す。実施例1は0.30、実施例2は0.26、実施例3は0.29、実施例4は0.26といずれも比較例1よりも0.1V~0.2V以上低い電圧から酸素を生成できる。ピリジン単体を配位子に用いた比較例2では0.35と、配位子による電圧低下の効果が乏しかったことから、実施例1~4の効果は顕著である。
【0070】
表2は、実施例5,6と比較例1~3の15mA/cmの電流を酸素発生反応により生成する電位を10分間の測定において経時的に調べ、10分時の値を示したものである。置換基にベンゾイル基を有する比較例3では0.39となったのに対して、同様に置換基にアミノ系置換基を有する4-ピロリジノピリジンを用いた場合も実施例5は0.31、実施例6は0.27といずれも比較例1~3よりも低い電圧で酸素発生反応を行うことができた。
【0071】
電解液をCO未飽和0.5M KHCO+0.5M KCO電解液(pH10.0)に変更した結果を表3に示す。実施例7(触媒は実施例2と同じNi-Cl-DMAP電極を使用)では0.49、実施例8(触媒は実施例4と同じFe-Cl-DMAP電極を使用)では0.47であったのに対して、比較例4(触媒は比較例1と同じNiフォームを使用)では、0.68となった。置換基が導入されていない比較例5(触媒は比較例2と同じNi-py)では0.71、ベンゾイル基を有する比較例6(触媒は比較例3と同じNi-Bzpy)は0.84となったことから、実施例7,8で示した2級アミノ置換基を有するピリジン配位子の効果が弱アルカリ性の電解液においても確認された。
【0072】
電解液をCO飽和0.5M KHCO+0.5M KCO電解液(pH7.0)に変更した結果を表4に示す。実施例9(触媒は実施例2と同じNi-Cl-DMAP電極を使用)では0.57、実施例10(触媒は実施例4と同じFe-Cl-DMAP電極を使用)では0.53であったのに対して、比較例7(触媒は比較例1と同じNiフォームを使用)では、0.70となった。置換基が導入されていない比較例8(触媒は比較例2と同じNi-py)では0.33、ベンゾイル基を有する比較例9(触媒は比較例3と同じNi-Bzpy)は0.51となった。このことから、実施例9,10で示した2級アミノ置換基を有するピリジン配位子の効果は中性の電解液においては、未担持のNiフォームよりは効果的であるが、置換基の導入がないピリジン配位子がより優れた性能を示したことから限定的な効果であった。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
このように、pH10以上のアルカリ性溶液中の酸素発生反応において、アミノ系置換基を有するピリジン系配位子を用いることによって、より容易に電子注入が可能になるため、酸素発生反応における必要電位を低下させることができたと推定される。
【0076】
このように実施例の酸素発生触媒によって、水から酸素を発生させる触媒において、酸素発生に必要な電圧を低下させることができた。