(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100156
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】樹脂充填板の製造方法、及び、樹脂充填板
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20250626BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20250626BHJP
C01B 21/082 20060101ALN20250626BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/28
C01B21/082 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217315
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】南方 仁孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】出木岡 征
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亮
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002CC031
4J002CC161
4J002CC181
4J002CD001
4J002CF011
4J002CF211
4J002CK021
4J002CM021
4J002CM041
4J002CP031
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DK006
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】面内の樹脂含浸のばらつきが抑制された大判の樹脂充填板を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、第1樹脂シート、主面の面積が2500mm2以上である多孔質窒化物焼結板、及び第2樹脂シートをこの順に互いに接するように積層し、加熱することで、上記第1樹脂シート及び上記第2樹脂シートを溶融させ、上記窒化物焼結板が有する気孔に溶融樹脂を含浸させて、樹脂充填板を得る工程、を有し、上記第1樹脂シート及び上記第2樹脂シートは、熱硬化性組成物の半硬化物の成形体である、樹脂充填板の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂シート、主面の面積が2500mm2以上である多孔質窒化物焼結板、及び第2樹脂シートをこの順に互いに接するように積層し、加熱することで、前記第1樹脂シート及び前記第2樹脂シートを溶融させ、前記窒化物焼結板が有する気孔に溶融樹脂を含浸させて、樹脂充填板を得る工程、を有し、
前記第1樹脂シート及び前記第2樹脂シートは、熱硬化性組成物の半硬化物の成形体である、樹脂充填板の製造方法。
【請求項2】
前記第2樹脂シートの体積に対する前記第1樹脂シートの体積の比が1~5である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1樹脂シートの体積が、前記窒化物焼結板の開気孔の全体積を基準として、0.5倍以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物焼結板が有する気孔のメジアン気孔径が0.3~6.0μmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1樹脂シート及び前記第2樹脂シートを構成する前記半硬化物の120℃におけるせん断粘度が100~2500mPa・sである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
第1セッター、窒化物を含むセラミックグリーンシート、及び第2セッターをこの順に積層し、前記セラミックグリーンシートを焼成して、前記窒化物焼結板を得る工程をさらに有し、
前記セラミックグリーンシートの主面の面積が2500mm2以上であり、
前記第1セッター及び前記第2セッターの主面の面積が前記セラミックグリーンシートの主面の面積以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
多孔質状の窒化物焼結板と、前記窒化物焼結板の有する気孔に充填された、熱硬化性組成物の半硬化物とを有する樹脂充填板であって、
前記樹脂充填板の主面の面積は2500mm2以上であり、
前記樹脂充填板の一方の主面側からの観察画像を取得し、前記観察画像を二値化処理することで薄色領域を特定したときの、前記薄色領域の面積の割合が3面積%未満である、樹脂充填板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂充填板の製造方法、及び、樹脂充填板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、及びCPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、放熱部材として、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックとで構成される複合シートが用いられる。
【0003】
このような複合シートとして、多孔性のセラミックス板(例えば、窒化ホウ素焼結板)に樹脂を含浸させた複合シートが検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、回路基板と樹脂含浸窒化ホウ素焼結体とを有する積層体において、窒化ホウ素焼結体を構成する一次粒子と回路基板とを直接接触させて、積層体の熱抵抗を低減し、放熱性を改善することも検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/196496号
【特許文献2】特開2016-103611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、面内の樹脂含浸のばらつきが抑制された大判の樹脂充填板を製造する方法を提供することを目的とする。本開示はまた、面内の樹脂含浸のばらつきが抑制され、絶縁性に優れる大判の樹脂充填板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従前の樹脂充填板の製造方法においては、あらかじめ薄く成形した窒化物焼結板上に、熱硬化性組成物の溶液又は融液を滴下し、スキージ等によって広げた後、窒化物焼結板の気孔に毛細管現象を利用して含浸させながら、半硬化させる方法が採用されている。本発明者らの検討によって、この場合、窒化物焼結板内の熱硬化性組成物を半硬化させる際にわずかな環境の違いで硬化挙動が大きくばらついてしまうとの課題が存在することが見出された。その対策として予め半硬化させた熱硬化性組成物を含浸させる工程を検討したところ、含浸速度と熱硬化性組成物の半硬化物の融液の凝集力との兼ね合いによって、窒化物焼結板の主面上に液だまりのような不均衡が生じ、得られる樹脂充填板における含浸むらが発生すること、窒化物焼結板の主面の面積が十分小さい場合には大きな問題とならなかったものの、大判(例えば、主面の面積が2500mm2以上である等)の窒化物焼結板を用いた場合には、得られる樹脂充填板において、樹脂の含浸むらの問題が顕在化するとの新たな課題が生じること、及び、あらかじめシート化が可能な程度に熱硬化性組成物の硬化を進行させ、窒化物焼結板の主面を覆うように積層させる方法によって、半硬化物の含浸環境を窒化物焼結板上で均質化させ、窒化物焼結板に含浸させる際の液だまりの発生を低減することによって上述の問題を低減できることを見出した。本開示は、上述の知見に基づいてなされたものである。なお、樹脂の含浸むらのある樹脂充填板を金属板等と接着させ絶縁板として利用しようとすると、絶縁性が思うように発揮されないことも確認した。
【0007】
本開示は、以下の[1]を提供する。
【0008】
[1]
第1樹脂シート、主面の面積が2500mm2以上である多孔質窒化物焼結板、及び第2樹脂シートをこの順に互いに接するように積層し、加熱することで、前記第1樹脂シート及び前記第2樹脂シートを溶融させ、前記窒化物焼結板が有する気孔に溶融樹脂を含浸させて、樹脂充填板を得る工程、を有し、
前記第1樹脂シート及び前記第2樹脂シートは、熱硬化性組成物の半硬化物の成形体である、樹脂充填板の製造方法。
【0009】
上記樹脂充填板の製造方法では、あらかじめ調製された、熱硬化性組成物の半硬化物の成形体である樹脂シートを用いて窒化物焼結板の両面から樹脂を含浸させる手段を採用している。このような手法を採用することによって大判の窒化物焼結板を用いた場合であっても、窒化物焼結板の気孔に樹脂を含浸させる際に、窒化物焼結板の主面における樹脂含浸の環境を均質化させることができ、液だまりの発生を抑制して、樹脂含浸のばらつきの発生を抑制できる。
【0010】
本開示はまた、以下の[2]~[7]を提供する。
【0011】
[2]
前記第2樹脂シートの体積に対する前記第1樹脂シートの体積の比が1~5である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記第1樹脂シートの体積が、前記窒化物焼結板の開気孔の全体積を基準として、0.5倍以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記窒化物焼結板が有する気孔のメジアン気孔径が0.3~6.0μmである、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記第1樹脂シート及び前記第2樹脂シートを構成する前記半硬化物の120℃におけるせん断粘度が100~2500mPa・sである、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
第1セッター、窒化物を含むセラミックグリーンシート、及び第2セッターをこの順に積層し、前記セラミックグリーンシートを焼成して、前記窒化物焼結板を得る工程をさらに有し、
前記セラミックグリーンシートの主面の面積が2500mm2以上であり、
前記第1セッター及び前記第2セッターの主面の面積が前記セラミックグリーンシートの主面の面積以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
多孔質状の窒化物焼結板と、前記窒化物焼結板の有する気孔に充填された、熱硬化性組成物の半硬化物とを有する樹脂充填板であって、
前記樹脂充填板の主面の面積は2500mm2以上であり、
前記樹脂充填板の一方の主面側からの観察画像を取得し、前記観察画像を二値化処理することで薄色領域を特定したときの、前記薄色領域の面積の割合が3面積%未満である、樹脂充填板。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、面内の樹脂含浸のばらつきが抑制された大判の樹脂充填板を製造する方法を提供できる。本開示によればまた、面内の樹脂含浸のばらつきが抑制され、絶縁性に優れる大判の樹脂充填板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、樹脂充填板の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、積層基板の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の樹脂充填板の上面を示す写真である。
【
図4】
図4は、実施例1の樹脂充填板の二値化画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、場合によって図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合によって重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0016】
本明細書において樹脂充填板は、多孔質状の窒化物焼結板と、上記窒化物焼結板の有する気孔に含浸された半硬化樹脂部を有するシート状の複合体を意味する。半硬化樹脂部は、熱硬化性組成物の半硬化物である。本明細書において、半硬化物とは、半硬化物を構成する樹脂が更に硬化可能である状態にあることを意味し、Bステージ状態にあるともいう。本明細書における樹脂充填板は、半硬化樹脂部を備えることによって、加熱された際に上記半硬化樹脂部が溶融し、更に硬化を進行させることができ、この状態を利用して、他部材との接着性することが可能である。
【0017】
樹脂充填板の製造方法の一実施形態は、第1セッター、窒化物を含むセラミックグリーンシート、及び第2セッターをこの順に積層し、上記セラミックグリーンシートを焼成して、上記窒化物焼結板を得る工程(以下、焼結板調製工程ともいう)と、第1樹脂シート、主面の面積が2500mm2以上である多孔質窒化物焼結板、及び第2樹脂シートをこの順に互いに接するように積層し、加熱することで、上記第1樹脂シート及び上記第2樹脂シートを溶融させ、上記窒化物焼結板が有する気孔に溶融樹脂を含浸させて、樹脂充填板を得る工程(以下、充填板調製工程ともいう)、を有する。上記窒化物焼結板は、別途、調製されたものを用いることもできる。換言すれば、本開示所定の窒化物焼結板を入手できるようであれば、上述の焼結板調製工程は任意の工程であり、省略することができる。
【0018】
図1は、樹脂充填板の製造方法を説明するための模式図である。
図1の(a)及び(b)は、セラミックスグリーンシート1を第1セッター2a及び第2セッター2bに挟むように積層し、焼成することで窒化物焼結板9を得る焼結板調製工程を示す。
図1の(c)及び(d)は、上記窒化物焼結板9の両主面上に第1樹脂シート6a及び第2樹脂シート6bを接するように積層し、窒化物焼結板9の気孔中に溶融樹脂を含浸して樹脂充填板10を調製する充填板調製工程を示す。
【0019】
多孔質窒化物焼結板は、窒化物の一次粒子同士が焼結して構成される窒化物粒子と気孔とを有し、多孔質状の窒化物焼結板である。窒化物焼結板としては、例えば、窒化ホウ素焼結板、窒化ケイ素焼結板、及び窒化アルミ焼結板等が挙げられる。窒化物焼結板は、樹脂充填のための気孔の形成がより容易であり、長期信頼性のための弾性率等にも優れることから、好ましくは、窒化ホウ素焼結板である。
【0020】
上記窒化物焼結板を上面視した形状は、特に限定されるものではないが、樹脂充填板を切り分けて使用する観点から、例えば、正方形、又は長方形であってよい。
【0021】
上記窒化物焼結板は主面の面積が2500mm2以上であり、大判の焼結板となっている。上記主面の面積の下限値は、例えば、4000mm2以上、6000mm2以上、8000mm2以上、又は10000mm2以上であってよい。上述の樹脂充填板の製造方法によれば、樹脂含浸のばらつきを抑制することが可能であることから、窒化物焼結板として主面の面積が大きいものを採用したとしても本開示所望の樹脂充填板を製造することができる。上記主面の面積の上限値は、例えば、250000mm2以下、200000mm2以下、150000mm2以下、又は100000mm2以下であってよい。なお、上記窒化物焼結板の主面の面積は、上記窒化物焼結板を上面視した際の外周で囲われる領域の面積を意味し、表面の凹凸や気孔の有無には影響されないものとする。
【0022】
上記窒化物焼結板の厚さ上限値は、例えば、0.5mm以下、1.0mm以下、1.5mm以下、又は2.0mm以下であってよい。上記厚さの上限値が上記範囲内であることで、樹脂の充填がより容易なものなるため、得られる樹脂充填板における樹脂含浸のばらつきをより抑制することができる。上記窒化物焼結板の厚さの下限値は、例えば、0.05mm以上、0.1mm以上、0.2mm以上、又は0.3mm以上であってよい。窒化物焼結板の厚さは、主面に直交する方向に沿って測定され、厚さが一定ではない場合、任意の10箇所を選択して厚さの測定を行い、その平均値が上述の範囲であればよい。なお、樹脂充填板の厚さは、窒化物焼結板の厚さに相当する。
【0023】
窒化物焼結板の気孔のメジアン気孔径の上限値は、例えば、6.0μm以下、5.5μm以下、5.0μm以下、4.0μm以下、3.8μm以下、3.6μm以下、3.4μm以下、3.2μm以下、又は3.0μm以下であってよい。このような窒化物焼結板は気孔のサイズが小さいことから、窒化物粒子の粒子同士の接触面積を十分に大きなものとなり、熱伝導率を高くすることができる。窒化物焼結板の気孔のメジアン細孔径の下限値は、例えば、0.3μm以上、0.5μm以上、1.0μm以上、1.5μm以上、1.6μm以上、1.7μm以上、1.8μm以上、1.9μm以上、又は2.0μm以上であってよい。メジアン気孔径の下限値が上記範囲内であることで、樹脂シートの溶融物をより容易に浸透させることができる。窒化物焼結板の気孔のメジアン気孔径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.3~6.0μm、1.5~4.0μm、又は2.0~3.0μmであってよい。
【0024】
窒化物焼結板の気孔のメジアン気孔径及び全気孔容積(開気孔の全体積)は、以下の手順で測定することができる。まず、測定対象となる窒化物焼結板に対して、水銀ポロシメーターを用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増やしながら、窒化物焼結板を加圧したときの気孔径分布を求める。横軸を気孔径、縦軸を累積気孔容積としたときに、累積気孔容積が全気孔容積の50%に達するときの気孔径がメジアン気孔径である。水銀ポロシメーターとしては、例えば、株式会社島津製作所製のものを用いることができる。なお、樹脂充填板を測定対象とする場合には、まず、樹脂充填板を加熱して熱硬化性組成物の半硬化物を除去して、窒化物焼結板を得てから測定を行うものとする。
【0025】
窒化物焼結板の気孔率、すなわち、窒化物焼結板における気孔の体積の比率の上限値は、例えば、65体積%以下、60体積%以下、又は58体積%以下であってよい。窒化物焼結板の気孔率の上限値が上記範囲内であることで、窒化物焼結板の機械強度の低下をより十分に抑制し、より取扱い性に優れた樹脂充填板を提供できる。窒化物焼結板の気孔率の下限値は、例えば、40体積%以上、42体積%以上、44体積%以上、又は45体積%以上であってよい。窒化物焼結体の気孔率の上限値が上記範囲内であることで、熱硬化性組成物の半硬化物の含有量を向上させ、金属板等の被着体との接着性をより向上させることができる。窒化物焼結板の気孔率は上述の範囲内で調整してよく、例えば、40~65体積%、又は40~60体積%であってよい。
【0026】
窒化物焼結板の気孔率は、窒化物焼結板の体積及び質量から、かさ密度[Y(kg/m3)]を算出し、このかさ密度と窒化物の理論密度[X(kg/m3)]とから、下記式(1)によって求めることができる。窒化物焼結板は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種を含んでよい。窒化ホウ素の場合、理論密度Xは2280kg/m3である。窒化アルミニウムの場合、理論密度Xは3260kg/m3である。窒化ケイ素の場合、理論密度Xは3170kg/m3である。
気孔率(体積%)=[1-(Y/X)]×100…式(1)
【0027】
窒化物焼結板が窒化ホウ素焼結体である場合、かさ密度は、800~1500kg/m3、又は1000~1400kg/m3であってもよい。かさ密度が小さくなり過ぎると窒化物焼結板の強度が低下する傾向にある。また、かさ密度の上限値を上記範囲内とすることによって、硬化樹脂の充填量をより十分なものとし、樹脂充填板と金属板等の被着体との接着性をより良好なものとすることができる。
【0028】
上記窒化物焼結板を調製する場合の焼結板調製工程について説明する。
【0029】
焼結板調製工程におけるセラミックグリーンシートは、セラミック原料としての窒化物を含む配合物を調製し、当該配合物をシート状に成形したものであってよい。成形方法は特に限定されず、例えば、一軸加圧で行ってよく、冷間等方加圧(CIP)法で行ってもよい。成形圧力は、例えば、5~350MPaであってよい。成形方法及びその成形圧力、又は後述する配合物の組成等を調整することで、窒化物焼結板の気孔径、気孔率、かさ密度等を調整することができる。
【0030】
上記配合物は、窒化物の他に、例えば、焼結助剤、バインダ樹脂、及び溶媒等を含んでもよい。
【0031】
窒化物としては、例えば、炭窒化ホウ素、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び窒化アルミ等が挙げられる。焼結助剤としては、例えば、酸化イットリウム、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウム等の金属酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、並びにホウ酸等が挙げられる。焼結助剤を用いることによって、上記窒化物の焼結を促進させることができる。
【0032】
焼結助剤を配合する場合は、焼結助剤の配合量は、例えば、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、又は0.1質量部以上であってよい。焼結助剤の配合量は、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、20質量部以下、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。焼結助剤の添加量を上記範囲内とすることで、窒化物焼結体のメジアン気孔径を後述の範囲に調整し易くなる。焼結助剤の配合量は上述の範囲内で調整してよく、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01~20質量部、又は0.01~10質量部であってよい。
【0033】
バインダ樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、及び(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。バインダ樹脂を用いることによって、窒化物を含む配合物の成形がより容易になり、シート状などの種々の形状に成形するができる。溶媒としては、例えば、エタノール及びトルエン等の有機溶媒が挙げられる。バインダ樹脂及び溶媒を用いることで、上述の配合物はスラリー状となり、粘度を容易に調整することができる。
【0034】
上記セラミックグリーンシートの主面の面積は、窒化物焼結体の主面の面積に応じて調整してよく、例えば、2500mm2以上、4000mm2以上、6000mm2以上、8000mm2以上、又は10000mm2以上であってよい。上記セラミックグリーンシートの主面の面積の上限値は、例えば、250000mm2以下、200000mm2以下、150000mm2以下、又は100000mm2以下であってよい。
【0035】
焼結板調製工程において、上記第1セッター及び上記第2セッターの主面の面積は、上記セラミックグリーンシートの主面が、上記第1セッター及び上記第2セッターの主面の領域内に収まるように調整される。上記第1セッター及び上記第2セッターの主面の面積が上記セラミックグリーンシートの主面の面積以上であってよい。上記第1セッター及び上記第2セッターの主面の面積を上記のような設定とすることで、得られる窒化物焼結板の反りの発生をより抑制することができる。
【0036】
第1セッター及び第2セッターとしては、窒化物セラミック焼結体等を使用することができる。窒化物セラミック焼結体としては、例えば、窒化ホウ素焼結体、窒化アルミニウム焼結体などを使用することができる。
【0037】
焼結板調製工程におけるセラミックグリーンシートの加熱処理は、複数の加熱処理で行い、例えば、800℃以下の加熱温度で加熱処理を行う脱脂工程と、脱脂工程における加熱温度よりも高温で加熱処理を行う焼結工程とを有してもよい。脱脂工程では、主に、バインダ樹脂等を燃焼させ、グリーンシートの脱脂を行う。そして、焼結工程において、窒化物及び焼結助剤を含む原料を焼結させ、窒化物焼結板を得る。
【0038】
脱脂工程における加熱温度は、例えば、400~750℃、500~700℃、又は600~650℃であってよい。加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、窒化物の焼結の前にバインダ樹脂等の有機物を十分に除去し、より均質な系としたうえで、続く第二の加熱処理における焼結を行うことができる。脱脂工程における加熱時間は、例えば、0.5~20時間であってよい。
【0039】
焼結工程における加熱温度は、脱脂工程における加熱温度よりも高温で行う。焼結工程における加熱温度は、例えば、1600~2050℃、1700~1950℃、又は1800~1900℃であってよい。焼結工程における加熱時間は、例えば、5~15時間であってよい。焼結工程は、例えば、窒素、アルゴン、アンモニア及び水素等の非酸化性ガス雰囲気下で行ってよい。
【0040】
充填板調製工程において用いられる第1樹脂シート及び第2樹脂シートは、熱硬化性組成物の半硬化物を成形した、成形体である。熱硬化性組成物は、主剤及び硬化剤を含む樹脂組成物であってよい。上記半硬化物の硬化率は、例えば、10%以上、20%以上、25%以上、又は30%以上であってよい。上記半硬化物の硬化率は、例えば、80%以下、70%以下、又は65%以下であってよい。
【0041】
上記硬化率は、示差走査熱量計を用いた測定によって決定することができる。半硬化物の硬化率は、示差走査熱量計を用いた測定によって決定することができる。まず、未硬化の状態の樹脂組成物2mgを完全に硬化させた際に生じる単位質量当たりの発熱量Qを測定する。そして、複合シートが備える樹脂から採取したサンプル10mgを同様に昇温させて、完全に硬化させた際に生じる単位質量当たりの発熱量Rを求める。樹脂中に熱硬化性を有する成分がc(質量%)含有されているとすると、下記式(2)によって樹脂充填板に含浸している半硬化物の硬化率が求められる。なお、樹脂が完全に硬化したか否かは、示差走査熱量測定によって得られる発熱曲線において、発熱が終了することで確認することができる。
半硬化物の硬化率(%)={1-[(R/c)×100]/Q}×100…式(2)
【0042】
第1樹脂シート及び第2樹脂シートを構成する半硬化物は、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ビスマレイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド、マレイミド樹脂、マレイミド変性樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、及びアルキド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよい。第1樹脂シートを構成する半硬化物と、第2樹脂シートを構成する半硬化物とは同一であっても、異なってもよい。
【0043】
第1樹脂シート及び第2樹脂シートの形状は、互いに同一であっても異なってもよく、上記窒化物焼結板の形状と同一であってよい。樹脂充填板の製造をより容易なものとする観点から、第1樹脂シート及び第2樹脂シートの形状は、同一であり、また上記窒化ケイ素焼結板の形状と同一である。
【0044】
第1樹脂シート及び第2樹脂シートの主面の面積は、第1樹脂シート、窒化物焼結板、第2樹脂シートと積層した際に、上記窒化物焼結板の主面が、上記第1樹脂シート及び上記第2樹脂シートの主面の領域内に収まるように調整されてよい。
【0045】
第1樹脂シート及び第2樹脂シートの体積は、窒化物焼結板の開気孔に熱硬化性組成物の半硬化物をより十分に含浸させる観点から、調製されてよい。第1樹脂シートの体積の下限値は、上記窒化物焼結板の開気孔の全体積を基準として、例えば、0.5倍以上、0.6倍以上、0.7倍以上、0.8倍以上、0.9倍以上、1.0倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、又は1.3倍以上であってよい。第1樹脂シートの体積の上限値は、上記窒化物焼結板の開気孔の全体積を基準として、例えば、3.5倍以下、3.0倍以下、2.5倍以下、又は2.0倍以下であってよい。上記体積の下限値を上記範囲内とすることによって、樹脂充填板の製造コストの過剰な上昇を抑制できる。第2樹脂シートの体積は、上述の第1樹脂シートの体積の記載を適用できる。
【0046】
第1樹脂シートと第2樹脂シートの体積は同一であっても異なってもよいが、一方の樹脂シートの体積を他方の樹脂シートの体積よりも大きくすることによって、樹脂充填板の製造過程において窒化物焼結板の一方の面からの溶融樹脂の供給量を増加させ、含浸よりも先に樹脂の凝集が行われたとしても十分な体積の樹脂が存在するため凝集による影響をより低減することができ、得られる樹脂充填板における樹脂含浸のばらつきをより抑制することができる。例えば、第1樹脂シートの体積を第2樹脂シートの体積よりも大きくすることによって、樹脂充填板の製造過程において窒化物焼結板の表面(鉛直方向に向かって上側となる面)からの溶融樹脂の供給量を増加させることができ、樹脂シートの凝集が発生した場合であっても、窒化物焼結体の表面により十分な体積の熱硬化性組成物の半硬化物が存在することから、含浸環境の不均衡がより抑制され、得られる樹脂充填板における樹脂含浸のばらつきをより抑制することができる。
【0047】
第2樹脂シートの体積に対する第1樹脂シートの体積の比は、例えば、1~5、1.5~4.5、2~4、2.5~3.5、又は2.5~3.0であってよい。樹脂充填板の製造過程において窒化物焼結板の表面(鉛直方向に向かって上側となる面)に積層される樹脂シートを第1樹脂シートとした場合、第1樹脂シートの体積が第2樹脂シートの体積よりも大きいことが望ましく、第2樹脂シートの体積に対する第1樹脂シートの体積の比は、例えば、1.5~4.5、2~4、2.5~3.5、又は2.5~3.0であってよい。
【0048】
第1樹脂シート及び第2樹脂シートを構成する上記半硬化物の120℃におけるせん断粘度は、樹脂シートをシート状に維持すること、及び窒化物焼結板の気孔径等に応じて調製することができる。第1樹脂シートを構成する上記半硬化物の120℃におけるせん断粘度の下限値は、例えば、100mPa・s以上、130mPa・s以上、160mPa・s以上、又は200mPa・s以上であってよい。上記せん断粘度の下限値が上記範囲内であることで、樹脂シートの取り扱い性をより向上させることができる。第1樹脂シートを構成する上記半硬化物の120℃におけるせん断粘度の上限値は、例えば、2500mPa・s以下、2000mPa・s以下、1500mPa・s以下、又は1000mPa・s以下であってよい。上記せん断粘度の上限値が上記範囲内であることで、窒化物焼結板の気孔への含浸がより容易なものとなり、得られる樹脂充填板における含浸むらを更に抑制することができる。第2樹脂シートのせん断粘度は、上述の第1樹脂シートのせん断粘度の記載を適用できる。第1樹脂シートを構成する半硬化物の上記せん断粘度と、第2樹脂シートを構成する半硬化物の上記せん断粘度とは同一であっても異なってもよい。第1樹脂シート及び第2樹脂シートを構成する上記半硬化物の120℃におけるせん断粘度は、例えば、100~2500mPa・s、又は200~1000mPa・sであってよい。
【0049】
第1樹脂シート及び第2樹脂シートを構成する上記半硬化物の120℃におけるせん断粘度は、レオメータを用いて測定される値を意味する。測定は、上記樹脂シートから樹脂を2g採取し、これを測定サンプルとして行うものとする。測定は、まずステージを120℃に加熱し、パラレルプレートとステージの間に測定対象となる上記測定サンプルを配置して、1/10sのせん断速度でパラレルプレートを回転させることによって行うものとする。レオメータとしては、例えば、Anton Paar社製のモジュラーコンパクトレオメータ「MCR92」(商品名)等を用いることができる。
【0050】
樹脂充填板の一実施形態は、多孔質状の窒化物焼結板と、上記窒化物焼結板の有する気孔に充填された、熱硬化性組成物の半硬化物(半硬化樹脂部)とを有する樹脂充填板である。
【0051】
上記樹脂充填板の主面の形状は特に限定されるものではないが、樹脂充填板を切り分けて使用するの観点から、正方形及び長方形であることが好ましい。
【0052】
上記樹脂充填板の主面の面積は2500mm2以上であってよい。上記主面の面積は、例えば、2500~250000mm2、6000~200000mm2、8000~150000mm2、又は10000~100000mm2であってよい。得られた樹脂充填板から、複数の樹脂充填板を切り出すことが可能であり、品質の安定した樹脂充填板を安定して提供することができ有用である。
【0053】
上記樹脂充填板の一方の主面側からの観察画像を取得し、上記観察画像を二値化処理することで薄色領域を特定したときの、上記薄色領域の面積の割合が5面積%以下であってよい。薄色領域は樹脂の含浸が不十分な領域に対応することから、当該薄色領域の面積が少ないことで、樹脂含浸のばらつきが抑制されていることに対応する。
【0054】
上記薄色領域の面積の割合の上限値は、例えば、3面積%未満、2面積%未満、1.5面積%未満、1.3面積%未満、1.2面積%以下、又は1面積%未満であってよい。上記薄色領域の面積の割合の上限値が上記範囲内であることで、樹脂充填板自体、及び樹脂充填板を絶縁シートとして備える積層基板の絶縁性をより向上させることができる。上記薄色領域の面積の割合の下限値は、特に限定されず、樹脂充填板の主面の全面が均一であってもよいが、例えば、0.1面積%以上、0.3面積%以上、又は0.5面積%以上であってよい。
【0055】
本明細書において上記薄色領域の面積は、後述する方法に沿って決定される値を意味する。まず、300~900ルクスの室内にて測定サンプルを平板な作業台に設置する。次に、測定サンプルの上面から画像を取得する。取得した画像を画像解析ソフトに取り込み、グレースケール化を行い、明度閾値を255段階で確認し、黒色から白色に向かって216となる段階を閾値として、二値化処理することによって、二値化画像を作成する。得られた二値化画像において、白色となる領域を薄色領域として、薄色領域の面積割合を上記画像解析ソフトによって決定する。画像解析ソフトとしては、例えば、GNU General Public License社製の「GIMP」(商品名)等を用いることができる。
【0056】
樹脂充填板における上記窒化物焼結板の体積比率は、樹脂充填板の全体積を基準として、例えば、40~70体積%、又は45~65体積%であってよい。樹脂充填板における硬化樹脂の体積比率は、樹脂充填板の全体積を基準として、例えば、30~60体積%、又は35~55体積%であってよい。このような体積比率の樹脂充填板は、より優れた機械的強度を発揮し得ることから、複合基板を製造する際に樹脂充填板に亀裂等が生じることをより抑制できる。
【0057】
半硬化物は、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ビスマレイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド、マレイミド樹脂、マレイミド変性樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、及びアルキド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよい。
【0058】
上述の樹脂充填板は、熱硬化性組成物の半硬化物を含み、金属層等の被着体への接着性に優れることから、熱伝導性及び絶縁性が求められる用途への接着部材として有用である。上述の樹脂充填板は、具体的には、パワーモジュール構造体及びLED発光装置等における金属回路とその他の層とを接着する接着部材として用いることができる。すなわち、上述の樹脂充填板は積層基板の製造に適する。
【0059】
積層基板の一実施形態は、上述の樹脂充填板と、上記樹脂充填板上に設けられた金属層と、を備える。
図2は、積層基板の一例を厚さ方向に切断したときの断面図である。積層基板100は、樹脂充填板10と、樹脂充填板10の主面10aに接着されている金属層30と、樹脂充填板10の主面10bに接着されている金属層40とを備える。積層基板100の変形例では、金属層30,40の両方備えることは必須ではなく、金属層30,40の一方のみを備えていてもよい。
【0060】
金属層30,40は、例えば、金属板であってよく、金属箔であってもよい。また金属層30,40は、例えば、回路等のパターンを有してもよい。金属層30,40の材質は、例えば、アルミニウム、及び銅等が挙げられる。金属層30,40の材質、厚み、及びパターンの有無等は互いに同じであってよく、異なっていてもよい。金属層30,40の厚さは、互いに独立に、例えば、0.035mm以上、又は10mm以下であってよい。
【0061】
積層基板100は、薄型であるうえに、部材間の接着性及び放熱性に優れるため、例えば、放熱部材として、半導体装置等に好適に用いることができる。積層基板100は、仮圧着体ともいえる。積層基板100の変形例では、樹脂充填板10を構成する半硬化物を加熱溶融し、必要に応じて圧力を加えることによって、金属層30,40との接着力をより向上させたものであってよい。上記積層基板の変形例は、絶縁シートと、上記絶縁シート上に設けられた金属層と、を備え、上記絶縁シートが上述の樹脂充填板の硬化物である。
【0062】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0063】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
[窒化物焼結板の作製]
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。
【0065】
調製した粉砕粉を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。
【0066】
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを50.0質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが17.5原子%であった。上述の短窒化ホウ素を含む焼成物100質量部に対して焼結助剤を20質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を調製した。
【0067】
配合物を、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、シート状(縦×横×厚さ=100mm×200mm×0.3mm)の成形し、セラミックスグリーンシートを得た。
【0068】
窒化ホウ素製のセッター(縦×横×厚さ=100mm×200mm×2.0mm)を2枚用意し、上述のセラミックスグリーンシートを挟むように積層し、積層物を調製した。得られた積層物を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素製容器から窒化ホウ素焼結板(窒化物焼結板)を取り出した。このようにして、四角柱状の窒化ホウ素焼結板を得た。窒化ホウ素焼結板の主面の面積は20000mm2であり、厚さは0.3mmであり、メジアン気孔径は2.4μmであった。
【0069】
[樹脂組成物の調製]
容器に、シアネート基を有する化合物が80質量部、ビスマレイミド基を有する化合物が20質量部、エポキシ基を有する化合物が50質量部となるように測り取り、上記3種の化合物合計量100質量部に対して、ホスフィン系硬化剤を1質量部及びイミダゾール系硬化剤を0.01質量部加えて混合した。なお、エポキシ樹脂が室温で固体状態であったため、80℃程度に加熱した状態で混合した。得られた熱硬化性樹脂組成物の100℃における粘度は、10mPa・秒であった。
【0070】
熱硬化性樹脂組成物の調製には、以下の化合物を用いた。
【0071】
シアネート基を有する化合物:ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート(三菱ガス化学株式会社製、商品名:TA-CN)
ビスマレイミド基を有する化合物:N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名:BMI-80)
エポキシ基を有する化合物:1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン(DIC株式会社製、商品名:HP-4032D)
【0072】
ホスフィン系硬化剤:テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート(化学株式会社製、商品名:TPP-MK)
イミダゾール系硬化剤:1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名:2E4MZ-CN)
【0073】
[第1及び第2樹脂シートの作製]
調製した樹脂組成物を120℃で240分間加熱した後、プレス成型によって、シート状に成形し、冷却することによって、熱硬化性組成物の半硬化物からなる樹脂シート(縦×横×厚さ=110mm×210mm×0.13mm)を2枚調製した。樹脂シートを構成する上記半硬化物の120℃におけるせん断粘度が450mPa・sであった。
【0074】
[樹脂充填板の作製]
上述のように調製された窒化ホウ素焼結板の両主面上に接するように、それぞれ上述の樹脂シートを積層し、ホットプレートなどの加熱板上での加熱、真空乾燥機内での加熱の2段階で加熱した。前者は120℃に加熱したホットプレートに3分間放置することで、上記樹脂シートを溶融させ、毛細管現象を利用して、窒化物焼結板の気孔中に熱硬化性組成物の半硬化物を含浸させた。後者は130℃に加熱した真空乾燥機内で2kPaまで真空引きしながら加熱し、合計5分間の加熱を行うことで上記樹脂シートを溶融させ、毛細管現象を利用して、窒化物焼結板の気孔中に熱硬化性組成物の半硬化物を含浸させた。含浸後は卓上熱ロールプレス(宝泉社製、商品名:HSRP-60150H)を利用して、大気圧下、窒化ホウ素焼結体の両主面上に残存する余剰分の溶融物を除去しながら、平滑化した。このようにして、主面が平滑である樹脂充填板(複合体シート)を得た。
【0075】
<樹脂充填板の評価:薄色領域の面積の割合の決定>
500ルクスの室内にて測定サンプルを平板な作業台に設置し、測定サンプルの上面から画像を取得した。取得した画像を画像解析ソフト(GNU General Public License社製、「GIMP」(商品名))に取り込み、グレースケール化を行い、明度閾値を255段階で確認し、黒色から白色に向かって216となる段階を閾値として、二値化処理することによって、二値化画像を作成した。得られた二値化画像において、白色となる領域を薄色領域として、薄色領域の面積割合を上記画像解析ソフトによって決定した。参考のため、実施例1の樹脂充填板の上面を示す写真をそれぞれ
図3に示し、実施例1の樹脂充填板の二値化画像をそれぞれ
図4に示す。
【0076】
<樹脂充填板の評価:樹脂含浸のばらつき>
得られた樹脂充填板について、上述の薄色領域の面積割合に基づき、以下の基準で評価した。
A:薄色領域が1面積%未満である。
B:薄色領域が1面積%以上2面積%未満である。
C:薄色領域が2面積%以上3面積%未満である。
D:薄色領域が3面積%以上5面積%未満である。
E:薄色領域が5面積%以上である。
【0077】
<樹脂充填板の評価:絶縁性>
上述の樹脂充填板の絶縁性を後述する方法で評価した。
【0078】
[絶縁性の評価]
得られた樹脂充填板を端部から50mm□にカッターを用いて切り出し、測定サンプルとした。実施例1では、計8枚切り出した。切り出した測定サンプルのうち1枚を測定治具(大西電子株式会社製)内の銅板上に配置し、その中心部に40mm□×1mmtの銅板を載せ、測定サンプルが十分浸漬するように絶縁油(3M社製、商品名:Novec7200)を充填した。次に、測定サンプルの上から電極を降ろし、装置と測定サンプルとの間で通電できる状況をつくり、JIS C 2110-1:2016にしたがって、超高圧耐電圧試験器(株式会社計測技研研究所社製)を用い、絶縁破壊電圧を測定した。樹脂充填板1枚(大判)から切り出された8枚の測定サンプルのそれぞれについて、同様の測定を行い、得られた測定値のうち、最も低い値を樹脂充填板の絶縁破壊電圧の値として採用した。そして、測定された絶縁破壊電圧の結果を、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:絶縁破壊電圧が10kV以上である。
B:絶縁破壊電圧が8kV以上10kV未満である。
C:絶縁破壊電圧が6kV以上8kV未満である。
D:絶縁破壊電圧が4kV以上6kV未満である。
E:絶縁破壊電圧が4kV未満である。
【0079】
(実施例2)
樹脂シート2枚のうち、1枚の厚さを0.2mmに変更することによって、第2樹脂シートの体積に対する第1樹脂シートの体積の比が1.5倍となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂充填板を得た。得られた樹脂充填板について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
窒化ホウ素焼結板の両主面上に接するように、それぞれ上述の樹脂シートを積層することに変えて、一方の主面上のみに樹脂シートを積層し、他方の主面には樹脂シートを積層しないようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂充填板を得た。得られた樹脂充填板について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例2)
[樹脂充填板の作製]
実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を120℃で15分間加熱した後、その温度を維持したままディスペンサーを用いて、実施例1と同様にして作製した窒化ホウ素焼結板の上側の主面上に滴下して樹脂組成物を含浸した。樹脂組成物の滴下量は、窒化ホウ素焼結体の気孔の総体積の1.5倍とした。樹脂組成物の一部は、窒化ホウ素焼結体に含浸せず、主面上に残存した。
【0082】
大気圧下、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に残存する樹脂組成物を、ステンレス製のスクレーパー(株式会社ナルビー製)を用いて平滑化した。余剰分の樹脂組成物を除去し、主面が平滑である樹脂含浸体を得た。
【0083】
樹脂含浸体を、大気圧下、160℃で60分間加熱して樹脂組成物を半硬化させた。このようにして、四角柱状の樹脂充填板(縦×横×厚さ=50mm×50mm×0.36mm)を作製した。樹脂充填板の主面の一部には、窒化ホウ素焼結体が露出していた。このようにして得られた樹脂充填板について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
本開示によれば、面内の樹脂含浸のばらつきが抑制された大判の樹脂充填板を製造する方法を提供できる。したがって、得られた樹脂充填板から、複数の樹脂充填板を切り出すことが可能であり、品質の安定した樹脂充填板を安定して提供することができる。本開示によればまた、面内の樹脂含浸のばらつきが抑制され、絶縁性に優れる大判の樹脂充填板を提供できる。
1…セラミックスグリーンシート、2a…第1セッター、2b…第2セッター、6a…第1樹脂シート、6b…第2樹脂シート、9…窒化物焼結板、10…樹脂充填板、10a,10b…主面、30,40…金属層、100…積層基板。