(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100274
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】再生方法、蓄電デバイスの製造方法及び再生装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20250626BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20250626BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041725
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023216200
(32)【優先日】2023-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広規
(72)【発明者】
【氏名】横山 友宏
【テーマコード(参考)】
5H029
5H031
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM09
5H029AM16
5H029CJ14
5H029HJ02
5H029HJ10
5H029HJ18
5H031RR02
5H031RR07
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの活物質の再生をより簡便に実行する。
【解決手段】本開示の再生方法は、蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生方法であって、標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生工程、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生方法であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生工程、
を含む再生方法。
【請求項2】
前記メディエータは、標準水素電極(SHE)に対する酸化還元電位が-2.3V以上0.6V以下の範囲である、請求項1に記載の再生方法。
【請求項3】
前記メディエータは、前記水溶液の濃度が0.01mol/L以上8mol/L以下の範囲である、請求項1又は2に記載の再生方法。
【請求項4】
前記メディエータは、フェロシアン化物及びフェロセン化合物のうち少なくとも1以上である、請求項1又は2に記載の再生方法。
【請求項5】
前記水溶液は、pHが9以上14以下の範囲である、請求項1又は2に記載の再生方法。
【請求項6】
前記水溶液は、リチウムイオンの濃度が0.1mol/L以上8mol/L以下の範囲である、請求項1又は2に記載の再生方法。
【請求項7】
前記再生工程では、1秒以上の範囲の処理時間で前記活物質を前記水溶液へ浸漬させる、請求項1又は2に記載の再生方法。
【請求項8】
前記活物質は、化学両論組成がLiFePO4、LiMO2(但しMはNi、Co及びMnのうち1以上である)、LiMaAbO2(但しAは、Alであり、a+b=1である)のうち1以上である、請求項1又は2に記載の再生方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の再生方法であって、
前記再生工程で酸化した前記メディエータを還元して、前記活物質を還元する前記メディエータの機能を回復させる回復工程を含み、
回復後の前記メディエータを用いて、再び、前記再生工程を行う、
再生方法。
【請求項10】
前記回復工程では、前記再生工程で酸化した前記メディエータを電気化学的に還元する、請求項9に記載の再生方法。
【請求項11】
前記回復工程では、前記再生工程で酸化した前記メディエータを含む前記水溶液を収容する作用極室と、電解液を収容しイオン交換膜で前記作用極室と隔てられた対極室と、前記作用極室に配置され前記水溶液に接触する作用極と、前記対極室に配置され前記電解液に接触する対極と、参照極とを備えた電気化学セルを用いて、前記再生工程で酸化した前記メディエータを電気化学的に還元する、
請求項10に記載の再生方法。
【請求項12】
前記回復工程では、前記電解液にリチウムイオン含有水系電解液、前記イオン交換膜にカチオン交換膜、前記作用極に黒鉛、前記対極にステンレス、前記参照極にAg/AgCl電極を用いる、
請求項11に記載の再生方法。
【請求項13】
前記回復工程では、さらに、前記再生工程で前記水溶液から減少したリチウムイオンを補充する、請求項9に記載の再生方法。
【請求項14】
リチウムを吸蔵放出する活物質を有する電極を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給した活物質を得たのち、該活物質を含む電極を組み込む再生工程、
を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項15】
蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生装置であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生部、
を備えた再生装置。
【請求項16】
請求項15に記載の再生装置であって、
前記再生部で酸化した前記メディエータを還元して、前記活物質を還元する前記メディエータの機能を回復させる回復部を含む、
再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、再生方法、蓄電デバイスの製造方法及び再生装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスに用いられる活物質の再生方法としては、使用済み三元系活物質(LixNi1/3Co1/3Mn1/3O2)に対してキノン誘導体を酸化還元物質を用いて非水溶媒である1,2-ジメトキシエタン中でリチウム金属からリチウム補給を行うものが提案されている(例えば、非特許文献1)。また、使用済み三元系活物質に対して4mol/Lの水酸化リチウム水溶液中、220℃で4時間処理することでリチウム補給を行うものが提案されている(例えば、非特許文献2)。また、使用済み三元系活物質に対して4mol/Lの水酸化リチウム水溶液中にエタノールを加えて100℃で8時間処理することでリチウム補給を行うものが提案されている(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ACS Sustainable Chem. Eng. 2021, 9, 8214-8221.
【非特許文献2】Adv. Energy Mater. 2022, 2203093.
【非特許文献3】Energy Storage Materials 51 (2022) 54-62.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1では、非水系溶媒を用いるため、処理前後の溶液の保守など、処理が煩雑であった。また、非特許文献2、3では、水溶液を用いるが、リチウムの補給が十分でなく、比較的高い温度で処理しなければならず、まだ十分でなく、更なる改良が望まれていた。このように、活物質に対して、劣化した容量を回復することができる新規な再生方法が望まれていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、蓄電デバイスの活物質の再生をより簡便に実行することができる新規な再生方法、蓄電デバイスの製造方法及び再生装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、リチウム源と、所定の電位で酸化還元するメディエータとを水溶液中に入れて処理水溶液とすると、蓄電デバイスの活物質の再生をより簡便に実行することができることを見出し、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する蓄電デバイスの再生方法は、
蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生方法であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生工程、
を含むものである。
【0008】
本開示の蓄電デバイスの製造方法は、
リチウムを吸蔵放出する活物質を有する電極を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給した活物質を得たのち、該活物質を含む電極を組み込む再生工程、
を含むものである。
【0009】
本開示の再生装置は、
蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生装置であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生部、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の再生方法、蓄電デバイスの製造方法及び再生装置では、蓄電デバイスの活物質の再生をより簡便に実行することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムが化学両論組成より欠損した活物質を、処理溶液である水溶液へ浸漬すると、水溶液中に存在するリチウムイオンが活物質に供給される。対反応として同時に還元状態のメディエータから電子が引き抜かれ、活物質が還元され、活物質にリチウムが補給される。この再生手法では、水溶液で処理を実行し、活物質を水溶液へ浸漬させるだけであるので、処理がより簡便である。また、この再生手法では、加熱を省略しても、活物質の再生を十分効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図7】実験例1の再生処理前後のXRD測定結果の拡大図。
【
図8】実験例2~6の再生処理前後のXRD測定結果。
【
図9】実験例2~6の再生処理前後のXRD測定結果の拡大図。
【
図11】実験例7~8の再生処理前後のXRD測定結果。
【
図12】実験例7~8の再生処理前後のXRD測定結果の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で開示する再生方法は、蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生方法であって、メディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生工程、を含む。メディエータは、酸化還元する化合物である。水溶液には、リチウムイオンを含む。蓄電デバイスは、リチウムイオンをキャリアイオンとするものであれば特に限定されず、非水電解液二次電池としてもよく、リチウムイオン二次電池や、リチウム金属二次電池などの金属二次電池などとしてもよい。以下では、一例として、蓄電デバイスがリチウムイオン二次電池である場合について主に説明する。
【0013】
(蓄電デバイス)
蓄電デバイスは、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えている。正極は、リチウムイオンを吸蔵、放出しうる正極活物質を有するものとしてもよい。負極は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有するものとしてもよい。非水電解液は、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するものとしてもよい。
【0014】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。この正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物などが挙げられる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、正極活物質は、オリビン型化合物であるものとしてもよく、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4:LFP)などが挙げられる。このリン酸鉄リチウムは、マンガンなどの添加元素を添加したものとしてもよい。正極活物質は、具体的には、LFPや、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM111)、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2(NCM532)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM811)、LiNi0.5Mn1.5O4、LiMn2O4などが挙げられる。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。正極活物質は、酸化還元電位が、Li金属基準で3.5V以上としてもよく、4.0V以上としてもよい。
【0015】
正極において、導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系のカルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリビニルアルコールなどの水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極合材の目付量は、特に限定されるものではないが、例えば、5mg/cm2超過としてもよく、6mg/cm2以上としてもよく、7mg/cm2以上としてもよい。正極合材の目付量は、例えば、20mg/cm2以下としてもよい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0016】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極活物質は、酸化還元電位が、Li金属基準で1.0V以下のものとしてもよく、0.5V以下のものとしてもよく、0.3V以下のものとしてもよい。負極合材の目付量は、例えば、3mg/cm2超過としてもよく、4mg/cm2以上としてもよい。負極合材の目付量は、例えば、15mg/cm2以下としてもよい。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0017】
イオン伝導媒体は、例えば、支持塩と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4などの無機塩や、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2などの有機塩が挙げられる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度は、0.1~2.0Mであることが好ましく、0.8~1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。非水電解液は、例えば、被膜形成剤や難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0018】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉体などを利用することができる。
【0019】
蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0020】
蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図1は、本実施形態の蓄電デバイス20の一例を示す説明図である。蓄電デバイス20は、集電体21に正極合材22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材25を形成した負極シート26と、正極シート23と負極シート26との間に設けられたセパレータ28と、正極シート23と負極シート26との間に介在したイオン伝導媒体29と、を備えている。この蓄電デバイス20では、正極シート23と負極シート26との間にセパレータ28を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート26に接続された負極端子36とを配設して形成されている。イオン伝導媒体29は、非水系電解液としてもよい。
【0021】
(処理溶液)
処理溶液は、酸化還元剤であるメディエータを含む水溶液である。この水溶液は、リチウム源としてのリチウムイオンを含む。メディエータは、標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能な化合物である。メディエータは、リチウム補給の対象となる活物質のリチウム補給後の電位より低い酸化還元電位を持つことが好ましい。また、メディエータは、活物質の還元分解電位より高い酸化還元電位を持つことが好ましい。例えば、三元系活物質LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2であれば、0.7V vs Li/Li+(-2.3V vs SHE)未満で酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化コバルトからの脱酸素反応が報告されているため(参考文献1:Sci Rep 7, 42263 (2017))、-2.3V vs SHE以上の高い酸化還元電位を持つメディエータを使うことが好ましい。このメディエータは、標準水素電極(SHE)に対する電位が-2.3V以上0.6V以下の範囲であることが好まし。このメディエータは、標準水素電極(SHE)に対する酸化還元電位が-0.7V以上0.6V以下の範囲であることがより好ましい。この範囲では、水溶液の電気分解をより抑制し、活物質の再生をより進めることができる。このメディエータは、上記電位範囲内で酸化還元するものであれば、特に限定されないが、例えば、フェロシアン化物及びフェロセン化合物のうち少なくとも1以上であるものとしてもよい。フェロシアン化物としては、例えば、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウムなどが挙げられる。フェロセン化合物としては、例えば、フェロセンおよびその誘導体などが挙げられる。フェロセン誘導体は、例えば、フェロセンのシクロペンタジエニル環に置換基が結合した構造を有するものとしてもよい。置換基としては、メチル基などの炭化水素基や、水酸基、アミノ基、スルホン酸基などが挙げられる。また、このメディエータとしては、例えばキノン骨格をもち水溶性のアントラキノンジスルフォナートなどが挙げられる。
【0022】
メディエータは、水溶液の濃度が0.01mol/L(M)以上8mol/L以下の範囲であることが好ましい。メディエータの濃度がこの範囲では、酸化還元力を十分発揮することができる。この濃度は、より高いことが好ましく、0.1M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、2M以上や、2.5M以上であることが更に好ましい。処理溶液のpHは、アルカリ性であることが、水の電気分解をより抑制するうえで好ましく、pH9以上14以下の範囲であることが好ましい。水溶液のpHは、取り扱いの容易さから、より低いものとしてもよく、13以下や12以下、11以下としてもよい。
【0023】
水溶液は、リチウムイオンの濃度が0.1mol/L以上8mol/L以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、リチウムイオンを活物質へ補給しやすく好ましい。この濃度は、0.5M以上がより好ましく、1M以上としてもよい。また、この濃度は、取り扱いやすさの観点から、より低いものとしてもよく、5M以下が好ましく、3M以下がより好ましく、2M以下としてもよい。水溶液へ溶解させるリチウム塩は、例えば、水酸化リチウムや、硝酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウムなどが挙げられるが、水酸化リチウムがより好ましい。リチウム塩の陰イオンは、再生反応に関与しないものや、その後の電池反応に影響を与えにくいものがより好ましい。また、カリウムイオンなどのリチウムイオン以外の陽イオンが溶液中に存在してもよい。
【0024】
(再生工程)
再生工程では、1分以上の処理時間で活物質を水溶液へ浸漬させることが好ましく、10分以上の処理時間がより好ましく、60分以上の処理時間としてもよい。この処理時間は、1秒以上としてもよい。浸漬時間がこの範囲では、十分に再生処理を実行することができる。この処理時間は、より短い方が好ましく、24時間以下としてもよいが、再生効率などを考慮して定めるものとすればよい。また、この再生工程では、室温範囲の処理温度で再生処理を行うことができる。この処理温度は、例えば、0℃以上40℃以下の範囲としてもよい。処理温度は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、25℃以上としてもよい。また、処理温度は、35℃以下としてもよいし、30℃以下としてもよい。なお、処理温度は、40℃以上としてもよいし、50℃や60℃以上としてもよい。処理温度は、使用エネルギーの観点から低い方がより好ましいが、より高い方が処理時間をより短縮することができる。
【0025】
再生工程において、活物質の使用形態は特に限られず、活物質を含む電極を水溶液へ浸漬させるものとしてもよいし、電極から分離した電極合材粉体や、電極合材粉体から更に分離した活物質粉体を水溶液へ浸漬させるものとしてもよい。再生工程では、活物質を処理溶液である水溶液に浸漬させたあと、活物質を水洗乾燥するものとしてもよい。水洗処理は、処理溶液の成分を除去するために、1回以上行うことが好ましい。乾燥処理では、空気中、60℃以上や100℃以上で活物質を乾燥するものとしてもよい。乾燥時間は、活物質の形態、例えば、電極上であるか、粉体であるかに応じて、更に乾燥温度に応じて、適宜、良好な時間を設定すればよい。
【0026】
図2は、再生反応のスキームの一例を示す説明図である。
図2に示すように、再生処理では、リチウムが欠損した正極活物質を、水溶性化合物であるメディエータを溶解した水溶液へ浸漬させると、メディエータによって正極活物質が還元され、水溶液中のリチウムイオンが正極活物質中へ補給される。このとき、還元体であるメディエータが酸化体に酸化される。例えば、メディエータがフェロシアン化物の場合にはフェロシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
4-)がフェリシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
3-)に酸化され、メディエータがフェロセン化合物の場合にはフェロセン(Fe(C
5H
5)
2)がフェロセニウムイオン([Fe(C
5H
5)
2]
+)に酸化される。このメディエータの酸化還元反応によって、室温領域など特に加熱を必要とせず、溶媒を水とする取り扱いやすい処理溶液により、活物質をより簡便な手法で再生することができる。
【0027】
(再生装置)
図3は、上述した再生工程を実行する再生装置10の一例を示す模式図である。この再生装置10は、活物質の再生を実行する再生部11を備える。再生部11は、標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液12中で、リチウムが化学両論組成より欠損した活物質を還元しリチウムイオンを補給する処理を行う。再生部11は、水溶液12を収容する容器である。再生装置10は、収容部11に水溶液12を入れた状態で、正極合材層22を有する正極シート23を水溶液12へ浸漬させるものとしてもよい。あるいは、再生装置10は、収容部11に水溶液12を入れた状態で、正極合材層22の粉体や正極活物質の粉体を水溶液12へ浸漬させるものとしてもよい。この再生装置10は、例えば、処理時間を計測するタイマーや、処理温度を計測する温度計、水溶液12の処理温度を調整する温度調節装置、水溶液12のpHを計測するpHメータなどを備えるものとしてもよい。更に、再生装置10は、活物質を水洗する水洗部や、水洗後の活物質を乾燥する乾燥部を備えるものとしてもよい。
【0028】
以上詳述した蓄電デバイスの再生方法、蓄電デバイスの製造方法及び再生装置では、蓄電デバイスの活物質の再生をより簡便に実行することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムが化学両論組成より欠損した活物質を、処理溶液である水溶液へ浸漬すると、水溶液中に存在するリチウムイオンが活物質に供給される。対反応として同時に還元状態のメディエータから電子が引き抜かれ、活物質が還元され、活物質にリチウムが補給される。この再生手法では、水溶液で処理を実行し、活物質を水溶液へ浸漬させるだけであるので、処理がより簡便である。また、この再生手法では、加熱を省略しても、活物質の再生を十分効率よく行うことができる。したがって、本実施形態の蓄電デバイスの再生方法、蓄電デバイスの製造方法及び再生装置では、蓄電デバイスの活物質の再生をより簡便に実行することができる。また、この再生手法では、有機溶媒ではなく環境負荷の小さい水を溶媒とする水溶液で処理を行うため、二次廃棄物の生成を抑制し、環境負荷をより低減できると考えられる。
【0029】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0030】
例えば、上述した実施形態では、蓄電デバイスに用いられる活物質の再生方法について説明したが、この蓄電デバイスの再生方法では、容量劣化した活物質を再生し、容量が回復した新たな非水電解二次電池を製造することができる。このため、この再生方法は、蓄電デバイスの製造方法であるものとしてもよい。この製造方法は、上述の蓄電デバイスの再生方法における再生工程を実行して蓄電デバイスを製造してもよい。蓄電デバイスの製造方法は、リチウムイオンをキャリアイオンとする容量劣化した蓄電デバイスの活物質を準備する準備工程と、上述した再生方法で活物質を再生させる再生工程と、を含むものとしてもよい。準備工程で準備する活物質は、上述した実施形態で説明した電極のリチウムが化学両論組成より欠損した活物質と同様のものとすることができる。再生工程において、活物質を含む電極を再生した場合は、この電極を用いて、蓄電デバイスを構成すればよい。また、この再生工程で、活物質を含む電極合材の粉体や活物質の粉体を再生した場合は、この粉体を用いて電極を作製し、その電極を用いて蓄電デバイスを構成すればよい。
【0031】
上述した実施形態において、再生方法は、再生工程で酸化したメディエータを還元して、活物質を還元するメディエータの機能を回復させる回復工程、を含み、回復後のメディエータを用いて、再び、再生工程を行うものとしてもよい。メディエータを再利用することで、メディエータの使用量を低減でき、環境負荷をより低減できる。再生方法は、再生工程と回復工程とを繰り返すものとしてもよい。再生工程と回復工程とを繰り返すことで、メディエータの使用量をより低減できる。再生方法は、再生工程で活物質を還元して活物質にリチウムイオンを補給しながら、同時に回復工程でメディエータを還元してメディエータの機能を回復させるものとしてもよい。
【0032】
(回復工程)
回復工程では、酸化したメディエータを電気化学的に還元してもよい。回復工程では、酸化したメディエータを含む水溶液(使用済み処理溶液とも称する)を収容する作用極室と、電解液を収容しイオン交換膜で作用極室と隔てられた対極室と、作用極室に配置され使用済み処理溶液に接触する作用極と、対極室に配置され電解液に接触する対極とを備えた電気化学セルを回復装置として用いて、酸化したメディエータを電気化学的に還元してもよい。電気化学セルは、さらに参照極を備えていてもよい。また、電気化学セルは、イオン交換膜や対極室を省略し、対極を使用済み処理溶液に接触させてもよい。
【0033】
作用極室には、酸化したメディエータを含む水溶液が収容され、酸化したメディエータが還元される。酸化したメディエータを含む水溶液としては、例えば、使用済み処理溶液をそのまま用いてもよいし、ろ過などで不純物を除去して用いてもよい。作用極室では、使用済み処理溶液の拡散を促進し、作用極での反応を円滑に進行させるため、使用済み処理溶液を撹拌してもよい。撹拌には、例えば、バブリング、マグネチックスターラーによる撹拌、ポンプなどを用いた溶液輸送、超音波照射を用いることができる。
【0034】
対極室には、電解液が収容される。電解液は、電気化学セル内での電気化学反応が円滑に進行し、副反応が生じない又は生じにくいように、適宜選択すればよい。電解液は、水に支持塩を溶解させた水系電解液が好ましく、リチウムイオン含有水系電解液がより好ましい。水は、イオン交換水など、イオンが除去されたものが好ましい。支持塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられ、リチウム塩が好ましい。支持塩としては、例えば、水酸化物や硝酸塩、硫酸塩、塩化物などが挙げられ、水酸化物が好ましい。支持塩は、処理溶液の水溶液に溶解させたリチウム塩と同じものとしてもよく、水酸化リチウムとしてもよい。電解液は、支持塩の濃度が0.1mol/L(M)以上としてもよく、0.5M以上としてもよく、1M以上としてもよい。また、この濃度は、10M以下としてもよく、5M以下としてもよく、3M以下としてもよい。電解液のpHは、アルカリ性であることが、水の電気分解による酸素発生反応電位を下げて酸素発生を促進するうえで好ましく、pH9以上14以下の範囲であることが好ましい。電解液のpHは、取り扱いの容易さから、より低いものとしてもよく、13以下や12以下、11以下としてもよい。対極室では、電解液の拡散を促進し、対極での反応を円滑に進行させるため、電解液を撹拌してもよい。撹拌には、例えば、バブリング、マグネチックスターラーによる撹拌、ポンプなどを用いた溶液輸送、超音波照射を用いることができる。
【0035】
対極室は、イオン交換膜で作用極室と隔てられている。イオン交換膜は、例えば、メディエータの対極室への拡散を抑制する。イオン交換膜は、カチオン交換膜としてもよいし、アニオン交換膜としてもよく、またモザイク荷電膜のようにカチオン交換膜とアニオン交換膜を併用してもよいが、カチオン交換膜が好ましい。カチオン交換膜としては、例えば、ナフィオン(ナフィオンは登録商標)などのフッ素系高分子膜や、ネオセプタ(ネオセプタは登録商標)やセレミオン(セレミオンは登録商標)などの炭化水素系高分子膜、カチオン伝導性ガラスなどの固体電解質膜が挙げられる。
【0036】
作用極は、導電性かつ耐アルカリ性を有するものであればよく、例えば、黒鉛、白金、ステンレスが挙げられる。作用極では還元反応を行うため、酸化したメディエータが還元される(例えばフェリシアン化物イオンがフェロシアン化物イオンになる)反応以外に、水溶液中のプロトンから水素が発生する反応などが、競合反応として生じることがある。処理溶液の回復効率を高める観点から、競合反応が生じない又は生じにくい作用極を選択することが好ましく、例えば、代表的な競合反応である水素発生が起きにくい黒鉛電極を作用極とすることが好ましい。作用極の材質の選択は使用するメディエータと競合反応に依存するので適宜選択することが望ましい。作用極は、作用極表面での電気化学反応を促進するために、フェルト状やメッシュ状として表面積を大きくしてもよい。
【0037】
対極は、導電性かつ耐アルカリ性を有するものであればよく、例えば、SUS304などのステンレス、白金、金、カーボンが挙げられる。対極では酸化反応を行うため、水酸化物イオンが酸化されることなどにより、酸素が発生する。こうした酸素発生を促進する観点から、酸素発生の過電圧が低いSUS304などのステンレスや白金を対極とすることが好ましい。対極は、対極表面での電気化学反応を促進するために、フェルト状やメッシュ状として表面積を大きくしてもよい。
【0038】
参照極は、作用極の電位基準に用いられる。参照極としては、Ag/AgCl電極などの非分極性電極を好適に用いることができる。参照極は、作用極室に配置してもよいし、対極室に配置してもよい。
【0039】
回復工程では、作用極の電位を酸化したメディエータを還元可能な電位に保持した状態で、作用極と対極との間に電流を流す。これにより、酸化したメディエータを還元して、活物質を還元するメディエータの機能を回復させる。回復工程では、作用極の電位を、メディエータの酸化還元電位より低く、メディエータの還元分解電位より高い電位に保つことが好ましい。こうした電位の制御には、例えばポテンショスタットのような制御装置を用いることができる。作用極の電位とメディエータの酸化還元電位との差は、大きいほど回復速度を高めることができ、例えば0.5V以上としてもよく、0.7V以上としてもよく、1V以上としてもよい。また、作用極の電位とメディエータの酸化還元電位との差は、例えば2V以下としてもよく、1.8V以下としてもよく、1.5V以下としてもよい。なお、回復工程において、処理溶液の電気化学的な回復速度は、作用極室内および対極室内での溶液拡散、作用極表面および対極表面での電気化学反応、イオン交換膜中のイオンの移動速度などのうち律速となる素過程により決まる。そこで、例えば、上述した溶液の撹拌や、電極表面積の大面積化などにより、律速となる素過程を円滑に進行させることで、処理溶液の電気化学的な回復速度を速くできる。回復工程において、通電時間は、例えば1分以上としてもよく、5分以上としてもよく、10分以上としてもよい。また、通電時間は、例えば5時間以下としてもよく、1時間以下としてもよく、30分以下としてもよい。
【0040】
図4は、回復反応のスキームの一例を示す説明図である。
図4に示すように、回復処理では、水溶性化合物であるメディエータの酸化体を溶解した水溶液と、所定電位に保持された作用極とを接触させると、作用極からメディエータの酸化体に電子が供給されて、メディエータの酸化体が還元されて、活物質を還元するメディエータの機能が回復する。例えば、メディエータがフェロシアン化物の場合にはフェリシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
3-)がフェロシアン化物イオン([Fe(CN)
6]
4-)に還元され、メディエータがフェロセン化合物の場合にはフェロセニウムイオン([Fe(C
5H
5)
2]
+)がフェロセン(Fe(C
5H
5)
2)に還元される。この電気化学反応によって、メディエータをより簡便な手法で回復させることができる。
【0041】
回復工程では、再生工程で処理溶液から減少したリチウムイオンを補充してもよい。処理溶液中にリチウムイオンが十分に存在する場合には、リチウムイオンを補充しなくてもよい。リチウムイオンの補充は、例えば、処理溶液に外部からリチウム塩を添加する処理としてもよい。リチウム塩の添加は、使用済み処理溶液に対して行ってもよいし、回復中や回復後の処理溶液に対して行ってもよい。添加するリチウム塩は、望ましくは対極での反応で消費される物質と同種のイオンを含むリチウム塩が望ましく、例えば水酸化リチウムが好ましい。添加するリチウム塩は、対極室に収容される電解液の支持塩として用いてもよい。また添加するリチウム塩はリチウム補充の律速にならない限りリチウム以外のカチオンや対極で消費されるイオン以外を含む化合物であっても良い。リチウム塩は、作用極室側の溶液に添加してもよいし、対極室側の溶液に添加しても良いが、隔膜としてカチオン交換膜を用いた場合は、対極室側の溶液に添加することが好ましい。隔膜としてアニオン交換膜を用いた場合は、作用極室側の溶液にリチウム塩を添加することが望ましい。
【0042】
(回復部)
図5は、上述した回復工程を実行する回復部50の一例を示す模式図である。この回復部50は、再生装置10の再生部11で酸化したメディエータを含む水溶液(使用済み処理溶液)13を収容する作用極室60と、電解液76を収容しイオン交換膜54で作用極室60と隔てられた対極室70と、作用極室60に配置され水溶液13に接触する作用極62と、対極室70に配置され電解液76に接触する対極72と、対極室70に配置された参照極74とを備えた電気化学セルとして構成されている。作用極室60は、容器52の内部をイオン交換膜54で区画した一方であり、対極室70は、容器52の内部をイオン交換膜54で区画した他方である。作用極62、対極72及び参照極74は、制御装置80に接続され、参照極74を基準に作用極62の電位を所定の電位に保持した状態で、作用極62と対極72との間に電流が流れるように構成されている。作用極室60に収容された水溶液13には、メディエータの拡散を促すため、バブリング用のノズル64が配置されている。再生装置10は、再生部11に加えて、この回復部50を有するものとしてもよい。再生部11と回復部50の作用極室60とは、例えば、使用済み処理溶液である水溶液13を回復部50の作用極室60に送る図示しない送液配管で接続してもよいし、回復部で回復したメディエータを含む水溶液12を再生部11に返す図示しない返液配管で接続してもよい。送液配管と返液配管とは、兼用して水溶液13の送液や水溶液12の返液を適時行うものとしてもよいし、兼用せずに再生部11と作用極室60との間で水溶液12,13を循環させてもよい。また、再生装置10は、回復部50の作用極室60を再生部11と兼用するものとしてもよく、例えば、作用極室60中で活物質にリチウムイオンを補給しながら同時にメディエータを電気化学的に再生してもよい。
【0043】
本開示は、以下の[1]~[16]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生方法であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生工程、
を含む再生方法。
[2] 前記メディエータは、標準水素電極(SHE)に対する酸化還元電位が-2.3V以上0.6V以下の範囲である、[1]に記載の再生方法。
[3] 前記メディエータは、前記水溶液の濃度が0.01mol/L以上8mol/L以下の範囲である、[1]又は[2]に記載の再生方法。
[4] 前記メディエータは、フェロシアン化物及びフェロセン化合物のうち少なくとも1以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の再生方法。
[5] 前記水溶液は、pHが9以上14以下の範囲である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の再生方法。
[6] 前記水溶液は、リチウムイオンの濃度が0.1mol/L以上8mol/L以下の範囲である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の再生方法。
[7] 前記再生工程では、1秒以上の範囲の処理時間で前記活物質を前記水溶液へ浸漬させる、[1]~[6]のいずれか1つに記載の再生方法。
[8] 前記活物質は、化学両論組成がLiFePO4、LiMO2(但しMはNi、Co及びMnのうち1以上である)、LiMaAbO2(但しAは、Alであり、a+b=1である)のうち1以上である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の再生方法。
[9] [1]~[8]のいずれか1つに記載の再生方法であって、前記再生工程で酸化した前記メディエータを還元して、前記活物質を還元する前記メディエータの機能を回復させる回復工程を含み、回復後の前記メディエータを用いて、再び、前記再生工程を行う、再生方法。
[10] 前記回復工程では、さらに、前記再生工程で酸化した前記メディエータを電気化学的に還元する、[9]に記載の再生方法。
[11] 前記回復工程では、前記再生工程で酸化した前記メディエータを含む前記水溶液を収容する作用極室と、電解液を収容しイオン交換膜で前記作用極室と隔てられた対極室と、前記作用極室に配置された作用極と、前記対極室に配置された対極と、参照極とを備えた電気化学セルを用いて、前記再生工程で酸化した前記メディエータを電気化学的に還元する、[10]に記載の再生方法。
[12] 前記回復工程では、前記電解液にリチウムイオン含有水系電解液、前記イオン交換膜にカチオン交換膜、前記作用極に黒鉛、前記対極にステンレス、前記参照極にAg/AgCl電極を用いる、[11]に記載の再生方法。
[13] 前記回復工程では、前記再生工程で前記水溶液から減少したリチウムイオンを補充する、[9]~[12]のいずれか1つに記載の再生方法。
[14] リチウムを吸蔵放出する活物質を有する電極を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給した活物質を得たのち、該活物質を含む電極を組み込む再生工程、
を含む蓄電デバイスの製造方法。
[15] 蓄電デバイスに用いられリチウムを吸蔵放出する活物質の再生装置であって、
標準水素電極(SHE)に対する電位が0.6V以下で酸化する酸化還元可能なメディエータを含む水溶液中で、リチウムが化学両論組成より欠損した前記活物質を還元しリチウムイオンを補給する再生部、
を備えた再生装置。
[16] [15]に記載の再生装置であって、前記再生部で酸化した前記メディエータを還元して、前記活物質を還元する前記メディエータの機能を回復させる回復部を含む、再生装置。
【実施例0044】
以下には、本開示の蓄電デバイスの活物質の再生方法でリチウムイオン電池の電極活物質の再生を行った例を実施例として説明する。なお、実験例1~5が実施例に相当し、実験例6が比較例に相当する。また、実験例7が実施例に相当し、実験例8が比較例に相当する。本開示は以下の実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0045】
1.活物質の再生
評価セルとして、Cu箔負極と、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2正極からなるリチウムイオン電池を作製した。正極としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2/アセチレンブラック/ポリフッ化ビニリデン(質量比90:5:5)のスラリーをステンレス箔に塗工し、120℃で真空乾燥させたものを用いた。また、電解液としてエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比3:4:3)にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を濃度1mol/L溶解したものを用いた。セパレータとしてポリエチレン単層微多孔膜を用いた。正極と負極を、電解液を浸み込ませたセパレータを介して対向させ、ステンレス(SUS)製のハーフセルを作製した。この時の正極の合材量は17mgであった。このセルに対し、温度25℃、電圧範囲3.8Vまで10時間で満充電となる電流値で充電状態にした。3.8Vまで充電した電池をアルゴン雰囲気下で開封して正極を取りだし、DMCで洗浄した。
【0046】
[実験例1]
水酸化リチウムを1mol/L(1M)、フェロシアン化カリウム3水和物を0.087mol/L(0.087M)となるようイオン交換水に各試薬を溶解させてリチウム補給液を調製した。この補給液を50mL用意し、半分に切り出した充電した正極を180分浸漬した。浸漬後の正極をイオン交換水で二度洗浄して乾燥させた。浸漬前の試料と洗浄・乾燥後の試料に対してX線回折像(XRD)を取得し、誘導結合プラズマ法(ICP)で組成分析を行った。XRDはCuKα線源を用いて反射法で測定を行った。
【0047】
[実験例2~4]
水酸化リチウムを1M、フェロシアン化カリウム3水和物を0.1Mとなるようイオン交換水に各試薬を溶解させて、リチウム補給液を調製した。このリチウム補給液を3mL用意し、充電した正極を60分から180分浸漬した。浸漬後の正極をイオン交換水で二度洗浄して乾燥させた。洗浄・乾燥後の試料に対してXRDを取得した。
【0048】
[実験例5]
評価セルとして、リチウム箔負極とLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2正極からなるリチウムイオン電池を作製した。正極としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2/アセチレンブラック/ポリフッ化ビニリデン(重量比90:5:5)のスラリーをステンレス箔に塗工し120℃で真空乾燥させたものを用いた。電解液としてEC/DMC/EMCの混合溶媒(体積比3:4:3)にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を濃度1M溶解したものを用いた。セパレータとしてポリエチレン単層微多孔膜を用いた。正極と負極とを、電解液を浸み込ませたセパレータを介して対向させ、ステンレス製のハーフセルを作製した。このときの正極の合材量は17mgであった。このセルに対し温度25℃、電圧範囲4.1~3Vまで10時間で満充電となる電流値で充放電した。その後、電圧範囲3.8Vまで10時間で満充電となる電流値で充電状態にした。3.8Vまで充電した電池をアルゴン雰囲気下で開封して正極を取りだし、DMCで洗浄した。実験例2~4と同様にリチウム補給液を3mL用意し、充電した正極を180分浸漬した。浸漬後の正極をイオン交換水で二度洗浄して乾燥させた。洗浄・乾燥後の試料に対してXRDを取得した。
【0049】
[実験例6]
水酸化リチウムを1Mとなるようイオン交換水に試薬を溶解させた溶液を用意した。この溶液を3mL用意し、充電した正極を180分浸漬した。浸漬前の試料と洗浄・乾燥後の試料に対してXRDを取得した。
【0050】
(X線回折(XRD)測定)
再生処理前、再生処理後の正極のXRDパターンを測定し、正極の活物質の状態を調べた。XRD装置(リガク社製Ultima IV)を用い、X線はCuKα線とし、電圧40kV, 電流40mA、スキャンレート10 ゜/分の測定条件でXRD測定を行い、得られたXRDパターンをXRD解析ソフトウエア(JADE Pro)で解析した。
【0051】
(ICP測定)
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)により、実験例1の活物質の組成を求めた。
【0052】
(結果と考察)
実験例1~6の仕込み合材重量、再生処理に用いた処理水溶液の組成、処理液量、処理液のpH、処理時間を表1にまとめた。実験例1の組成分析結果を表2に示した。
図4は、実験例1の再生処理前後のXRD測定結果である。
図5は、実験例1の再生処理前後のXRD測定結果の拡大図である。
図6は、実験例2~6の再生処理前後のXRD測定結果である。
図7は、実験例2~6の再生処理前後のXRD測定結果の拡大図である。
【0053】
表2に示すように、ニッケル、コバルト及びマンガンの合計組成を1とした時のリチウムの含有量をLi/NCMと表記すると塗工後、充電後、浸漬処理後のLi/NCMは、それぞれ1.07、0.78、1.00であった。これは処理水溶液中への正極の浸漬処理によって正極中のリチウム量の比が増加したことを示している。即ち、メディエータを含む処理水溶液へ電極を浸漬させることによって、活物質が再生した。また、水溶液で再生処理したのち、水洗、乾燥した電極では、メディエータの成分であるKやFeは検出されなかった。
【0054】
図4に示したXRDチャートでは、充電及び浸漬処理によるXRDのピーク幅は変化がないことを示している。
図5は
図4のXRDの2θ=64~70°の範囲を拡大したものである。
図5に示すように、塗工後から充電後でピークがシフトした。また、充電後から浸漬処理後ではピークが逆に動いて浸漬処理後と塗工後のピーク位置は同じ位置を示した。組成分析結果とXRDのピーク位置の変化から、充電により活物質のリチウムは欠損し、処理水溶液への浸漬処理によって活物質中にリチウムが戻ったものと推察された。塗工後にLi/NCMが1.07であったのは活物質以外に過剰なリチウムが正極に存在していたことを示している。
図6、7に示すように、実験例2~4のXRD測定結果から、実験例1と同様に充電によりシフトしていたピークが塗工後の位置まで全て戻った。また、実験例5も実験例1~4と同様に充電によりシフトしていたピークが塗工後の位置まで全て戻ることがわかった。一方、実験例6では、他の実験例1~5と異なり、未使用正極と異なる位置にピークが現れた。
【0055】
リチウムが欠損正極へリチウムを補給するにはリチウムイオンと電子が同時にリチウム欠損正極に接する必要がある。電子が外部回路を通じて供給される場合は、リチウム欠損正極へのリチウム補給処理を行っている間、常に外部回路に接続されている必要がある。一方、電子の供給源として水溶性化合物であるメディエータの還元体を用いた場合、リチウムの欠損した正極は、リチウムイオンと水溶性化合物の還元体とがどちらも溶解している溶液に触れていればいいので、特に外部回路につなぐ必要はない。これは本開示のリチウム補給プロセスを実施する上で、リチウムが欠損した正極の状態が集電体の有無、結着材の有無、導電材の有無に依存しないことを示している。また水溶性化合物の還元体がリチウムの欠損した正極により酸化されることによりリチウムの欠損した正極への電子供与が起きる。そのため水溶性化合物の還元体の酸化電位がリチウムの欠損した正極より高い場合はリチウムの欠損した正極への電子供与は起きず、したがってリチウムの欠損した正極の還元は起きないと推定された。これは、リチウムの欠損した正極が水溶性化合物の酸化電位になるまで還元されると、リチウム補給の反応が止まり、リチウムの欠損した正極が過剰に還元されることがないことを示している。また、実施例ではXRDピークの分離がなく、半値全幅が未使用正極と同等であることから、リチウムの欠損した正極へのリチウム補給は均質に行われたと推察された。同様の機能があると推定されるメディエータとしては、その電位や水への溶解度などを考慮すると、例えば、キノン骨格をもち水溶性のアントラキノンジスルフォナートなどが挙げられる。一方、メディエータを含まない実験例6では、XRDピークが未使用合材の範囲まで戻らなかった。実験例6のような水酸化リチウム溶液浸漬中でも、水熱法のように加熱をすることでリチウムは補充可能であるとの報告があるが(参考文献2:Adv. Energy Mater. 2022, 2203093.)、常温ではリチウム補給反応自体は起こりえるが、非常にその反応は遅いものと推察された。
【0056】
メディエータは、フェロシアン化物である、フェロシアン化カリウムを用いたが、標準水素電極(SHE)に対する酸化還元電位が0.48Vであり、リチウムの欠損した正極活物質への還元及びリチウムの付与に好ましいものと推察された。メディエータは、酸化還元電位から考察して、SHEに対する酸化還元電位が-0.7V~0.6Vである、フェロセンやその誘導体などを含むフェロセン化合物としてもよいと推察された。メディエータは、標準水素電極(SHE)に対する酸化還元電位が0.6V以下であり、-0.7V以上0.6V以下の範囲であることが好ましいと推察された。また、この酸化還元電位において水の分解を抑制する観点から、水溶液は、アルカリ性であることが好ましく、pHが9以上14以下の範囲であることが好ましいと推察された。また、メディエータは、活物質への再生機能の発揮と溶解度との関係から、水溶液の濃度が0.01mol/L以上8mol/L以下の範囲であることが好ましいと推察された。また、リチウム補給の関係から 水溶液は、リチウムイオンの濃度が0.1mol/L以上8mol/L以下の範囲であることが好ましいと推察された。
【0057】
【0058】
【0059】
2.メディエータの回復と活物質の再生
評価セルとして、Cu箔負極と、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2正極からなるリチウムイオン電池を作製した。正極としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2/アセチレンブラック/ポリフッ化ビニリデン(質量比90:5:5)のスラリーをステンレス箔に塗工し、120℃で真空乾燥させたものを用いた。また、電解液としてエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比3:4:3)にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を濃度1mol/L溶解したものを用いた。セパレータとしてポリエチレン単層微多孔膜を用いた。正極と負極を、電解液を浸み込ませたセパレータを介して対向させ、ステンレス(SUS)製のハーフセルを作製した。この時の正極の合材量は17mgであった。このセルに対し、温度25℃、電圧範囲3.8Vまで10時間で満充電となる電流値で充電状態(正極が酸化した状態)にした。3.8Vまで充電した電池をアルゴン雰囲気下で開封して正極を取りだし、DMCで洗浄した。この充電正極をプラスチック製のスパチュラを用いて合材とアルミ箔に分離し、合材(リチウム欠損合材、充電合材とも称する)の状態で用いた。
【0060】
メディエータの回復処理(リチウム補給液の回復処理)をする際にはアクリル製のセルを用いた。カチオン交換膜を介してリチウムイオンが透過できるよう作用極室および対極室をカチオン交換膜を持つ連結セル用意した。作用極、対極、参照電極、カチオン交換膜としてそれぞれグラファイトシート、SUS304メッシュ、Ag/AgCl電極、およびnafionを用いた。なお参照電極は対極室側にセットした。また作用極側にはエアーバブリング用のノズルをセットした。
図10に、実験例7の回復処理の様子を示した。
図10Aは、実験の様子を示す模式図であり、
図10Bは、実験の様子を示す写真であり、
図10Cは、作用極室側と対極室側の構成を説明する説明図である。
【0061】
[実験例7]
水酸化リチウムを1mol/L、フェリシアン化カリウム(フェロシアン化カリウムの酸化体)を0.04mol/Lとなるようイオン交換水に溶解させてリチウム補給液を調製した。このリチウム補給液3mlを、
図10に示す回復装置の作用極室側に注液し、対極室側には1mol/Lの水酸化リチウム水溶液を6ml注液した。10ml/minで作用極室側のエアーバブリングを開始したのち、参照電極に対して作用極を-1.0Vに保ちながら20分間通電した(回復工程)。別のアクリルセルに、約70mgの充電合材と攪拌子を入れ、作用極室から分取した通電完了後のリチウム補給液を2.5ml滴下した。この溶液を室温で18分間攪拌した後2分間静置した(再生工程)。そして、静置後の上澄みを分取し、再び作用極室に戻した。その後、前記の通電、分取、攪拌、静置、分取の一連の作業を3回行った。その後、合材の入ったセルにイオン交換水を3ml注液して2分間攪拌し、2分間静置して上澄みを3ml排液した。その後、前記のイオン交換水注液、攪拌、静置、排液の一連の作業を4回繰り返した。アクリルセル中に残った湿潤粉末を一晩真空乾燥して乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末のXRD測定を行った。
【0062】
[実験例8]
水酸化リチウムを1mol/L、フェリシアン化カリウム(フェロシアン化カリウムの酸化体)を0.1mol/Lとなるようイオン交換水に各試薬を溶解させてリチウム補給液を調製した。アクリルセルに約20mgの充電合材と攪拌子を入れ、リチウム補給液(回復工程なし)を3mlを滴下した。この溶液を室温で60分間攪拌した。攪拌を停止して2分間静置した後、上澄み液を2.5ml排液した。その後、合材の入ったセルにイオン交換水を3ml注液して2分間攪拌し、2分間静置して上澄みを3ml排液した。続けて前記のイオン交換水注液、攪拌、静置、排液の一連の作業を4回繰り返した。アクリルセル中に残った湿潤粉末を一晩真空乾燥して乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末のXRD測定を行った。
【0063】
(結果と考察)
図11は、実験例7~8の再生処理前後のXRD測定結果である。
図12は、実験例7~8の再生処理前後のXRD測定結果の拡大図である。
図11に示すように、実験例7および実験例8の各状態で未使用活物質と異なるピークはなく、異相の生成がないことが分かった。また
図12に示すように、実験例7では、充電状態でシフトしていたピークがリチウム補給処理を行った後には未使用活物質と同等のピーク位置まで戻っていた。実験例8でも、同様に充電状態でシフトしていたピークがリチウム補給処理を行った後にピークシフトが見られたが、未使用活物質と同等の位置までは戻らなかった。XRDのピーク位置と活物質中のリチウム量には明確な相関があることが知られており(参考文献3:J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 5097.5101.)、Li
xNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2のxが0.5~1.0まで格子定数a及びcが単調に変化することが知られている。そのため実験例7のリチウム補給処理後の活物質にはリチウム量がx=1.0程度まで戻っていると推定された。また、実験例8でも、ピークが未使用活物質のピーク位置の方へややシフトしているため、リチウムが若干補給されていると推定されたが、補給量は実験例7と比較して不十分であった。実験例7と実験例8を比べると、実験例7では水溶性化合物が還元体の状態でリチウム欠損正極に接していたのに対して、実験例8は水溶性化合物が酸化体の状態でリチウム欠損正極に接していた。このことから、酸化体の水溶性化合物であっても電気化学的に還元体に戻したうえでリチウム欠損正極に接する操作を行えば、リチウム補給液として使用可能であることがわかった。
【0064】
表3に、実験例7~8の各状態での物質量(ただし、正極作製時の使用量とXRDピーク位置から計算した推定値)の比較を示した。実験例7~8の充電状態は、XRDのピーク位置から、x=0.77程度までリチウムが欠損している状態と推定された。x=1.00までリチウム欠損正極にリチウムを補給するために必要なリチウムの量とリチウム補給液に含まれる水溶性化合物の量を比較すると実験例7では水溶性化合物の方が少なく、実験例8では水溶性化合物の方が多かった。実験例8より、酸化体の状態で水溶性化合物が過剰に存在してもリチウム欠損正極にリチウムを補給する機能は不十分であると推察された。実験例7では、リチウム欠損正極と接する時に水溶性化合物が還元体として存在していたが、今回使用したフェリシアン化物イオンは1分子で電子1つしかリチウム欠損正極に戻すことができないため、x=1.00までリチウム補給を行うには水溶性化合物が不足していた。しかし、作用極室での通電操作時に酸化体のフェリシアン化物イオンが還元体になることで再度リチウム欠損正極にリチウム補給できるようになったため、XRDと対応するx=1.00までリチウム量までリチウム欠損正極にリチウムを補給することができたと推察された。
【0065】
10 再生装置、11 再生部、12 水溶液、13 水溶液、20 蓄電デバイス、21 集電体、22 正極合材層、23 正極シート、24 集電体、25 負極合材層、26 負極シート、28 セパレータ、29 イオン伝導媒体、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子、50 回復部、52 容器、54 イオン交換膜、60 作用極室、62 作用極、64 ノズル、70 対極室、72 対極、74 参照極、76 電解液、80 制御装置。