(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100296
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】水処理剤組成物および水処理方法
(51)【国際特許分類】
A01N 43/80 20060101AFI20250626BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20250626BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250626BHJP
A01N 33/18 20060101ALI20250626BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
A01N43/80 102
C02F1/50 532D
C02F1/50 532H
C02F1/50 532J
C02F1/50 532C
C02F1/50 540B
A01P3/00
A01N33/18 A
A01N25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024089145
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2023216232
(32)【優先日】2023-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 千草
(72)【発明者】
【氏名】大森 千晴
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA04
4H011BB04
4H011BB10
4H011BC19
4H011DA13
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】水とイソチアゾリン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを含有する水処理剤組成物において、有効成分の安定性が良好である水処理剤組成物、およびその水処理剤組成物を用いる水処理方法を提供する。
【解決手段】水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位を含む重合体と、を含有し、イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有する、水処理剤組成物である。
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位を含む重合体と、を含有し、
前記イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有することを特徴とする水処理剤組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【請求項2】
水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む共重合体と、を含有し、
前記イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有することを特徴とする水処理剤組成物。
【化2】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【化3】
(式(2)中、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2はアルキルスルホン酸基もしくはその塩、または、アリールスルホン酸基もしくはその塩を表し、塩の場合は1価もしくは2価の金属塩、アンモニウム塩または有機アンモニウム塩である。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の水処理剤組成物であって、
前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で1.0倍以上含有することを特徴とする水処理剤組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水処理剤組成物であって、
前記水処理剤組成物のpHが、5.0未満であることを特徴とする水処理剤組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の水処理剤組成物であって、
前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含むことを特徴とする水処理剤組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の水処理剤組成物であって、
さらに蛍光物質を含むことを特徴とする水処理剤組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の水処理剤組成物を用いて水系の処理を行うことを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水系における殺菌処理などに用いることができる水処理剤組成物、およびその水処理剤組成物を用いる水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水などの工業用水システムなどで用いる冷却水処理剤には、殺菌剤としてイソチアゾロン系化合物を含む水処理剤組成物が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2-ブロム-2-ニトロ-1,3-プロパンジオールと、特定の酢酸誘導体の1種以上または特定のイソチアゾロン化合物の1種以上と、を有効成分として含有する防菌防藻剤が開示されている。
【0004】
特許文献2には、イソチアゾロン系殺菌剤の1種または2種以上、2-ブロム-2-ニトロ-1,3-プロパンジオールなどのハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤、pH緩衝剤、臭素酸塩および水を含有し、pHが2.6以上3.5未満の範囲である工業用殺菌剤組成物が開示されている。
【0005】
しかし、イソチアゾロン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを有効成分として含有する水処理剤組成物の安定化は充分ではなく、水溶液製剤にすると有効成分が分解してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭58-004682号公報
【特許文献2】特開2009-067791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水とイソチアゾリン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを含有する水処理剤組成物において、有効成分の安定性が良好である水処理剤組成物、およびその水処理剤組成物を用いる水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位を含む重合体と、を含有し、前記イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有する、水処理剤組成物である。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【0009】
本発明は、水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む共重合体と、を含有し、前記イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有する、水処理剤組成物である。
【化2】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【化3】
(式(2)中、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2はアルキルスルホン酸基もしくはその塩、または、アリールスルホン酸基もしくはその塩を表し、塩の場合は1価もしくは2価の金属塩、アンモニウム塩または有機アンモニウム塩である。)
【0010】
前記水処理剤組成物において、前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で1.0倍以上含有することが好ましい。
【0011】
前記水処理剤組成物のpHが、5.0未満であることが好ましい。
【0012】
前記水処理剤組成物において、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含むことが好ましい。
【0013】
前記水処理剤組成物において、さらに蛍光物質を含むことが好ましい。
【0014】
本発明は、上記水処理剤組成物を用いて水系の処理を行う、水処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、水とイソチアゾリン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを含有する水処理剤組成物において、有効成分の安定性が良好である水処理剤組成物、およびその水処理剤組成物を用いる水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る水処理剤組成物は、水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位を含む重合体と、を含有し、イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有する、水処理剤組成物である。
【化4】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【0018】
また、本実施形態に係る水処理剤組成物は、水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む共重合体と、を含有し、イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有する、水処理剤組成物である。
【化5】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【化6】
(式(2)中、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2はアルキルスルホン酸基もしくはその塩、または、アリールスルホン酸基もしくはその塩を表し、塩の場合は1価もしくは2価の金属塩、アンモニウム塩または有機アンモニウム塩である。)
【0019】
本発明者らは、上記の通り、イソチアゾリン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを含有する水処理剤組成物の安定化が充分でなく、水溶液製剤にすると有効成分であるイソチアゾリン系殺菌剤が分解するという問題に対して、水とイソチアゾリン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とが一剤化された水処理剤組成物において、特定のポリマー(重合体)を配合することによって、有効成分の安定性が良好となることを見出した。
【0020】
水としては、特に制限はないが、例えば、純水、超純水などが挙げられる。
【0021】
イソチアゾリン系殺菌剤は、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMI)を含む。イソチアゾリン系殺菌剤としては、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMI)を単独で使用してもよいし、CMIと、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-プロピル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-イソプロピル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-ブロモ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-ブロモ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-ブロモ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどの他のイソチアゾリン系殺菌剤とを併用してもよい。
【0022】
ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤としては、特に制限はないが、例えば、2,2-ジクロロ-2-ニトロエタノール、2-クロロ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールなどの塩化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(BNPD)、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールなどの臭化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤などが挙げられる。これらのうち、製剤中の安定性などの点から、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(BNPD)が好ましい。ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤は、これらのうち1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本実施形態に係る水処理剤組成物に配合するポリマーは、少なくとも式(1)の単量体単位を含む重合体、または少なくとも式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む共重合体であり、特に制限はないが、例えば、式(1)の単量体単位を含む単独重合体、式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む二元共重合体、式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位と下記式(3)の単量体単位とを含む三元共重合体などの重合体が挙げられる。
【0024】
【化7】
(式(3)中、R
3は水素原子またはメチル基を表し、X
3とX
4はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表すが、少なくとも一方がアルキル基である。)
【0025】
なお、式(1),(2)における有機アンモニウム塩としては、例えば、炭素原子数が1~4のアルキル基またはヒドロキシアルキル基を有するアルキルアンモニウム基または(ヒドロキシ)アルキルアンモニウム基などが挙げられる。
【0026】
式(1),(2)における1価もしくは2価の金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
【0027】
式(2)におけるX2がアルキルスルホン酸基もしくはその塩である場合のアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1~8のアルキル基がより好ましい。X2がアリールスルホン酸基もしくはその塩である場合のアリール基としては、炭素原子数が6~10のアリール基またはアリールアルキル基が好ましい。
【0028】
式(3)におけるアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1~8のアルキル基がより好ましい。
【0029】
式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む二元共重合体における単量体単位の重量比率としては、例えば、1~99:99~1である。
【0030】
式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位と式(3)の単量体単位とを含む三元共重合体における単量体単位の重量比率としては、例えば、1~98:1~98:1~98である。
【0031】
上記重合体の重量平均分子量は、例えば、200~100,000の範囲であり、1,000~30,000の範囲であることが好ましく、1,500~20,000の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が200未満であると、有効成分の安定効果が低下する場合があり、100,000を超えると、粘性が高く取り扱いづらい場合がある。
【0032】
上記重合体としては、例えば、ポリアクリル酸(PAA)、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との二元共重合体(AA/AMPS)、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とt-ブチルアクリルアミドとの三元共重合体(AA/AMPS/t-BAM)、ホスホン酸とアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との三元共重合体(PA/AA/AMPS)などが挙げられる。これらのうち、有効成分の安定効果などの点から、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との二元共重合体(AA/AMPS)、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とt-ブチルアクリルアミドとの三元共重合体(AA/AMPS/t-BAM)が好ましい。
【0033】
水処理剤組成物において、上記重合体の配合量は、例えば、組成物全体の量に対して固形分の質量として0.1~50質量%の範囲であり、1~50質量%の範囲であることが好ましく、1~40質量%の範囲であることがより好ましい。上記重合体の配合量が0.1質量%未満であると、有効成分の安定効果が得られない場合があり、50質量%を超えると、製造コストが上昇する場合がある。
【0034】
水処理剤組成物において、イソチアゾリン系殺菌剤である5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの配合量は、例えば、組成物全体の量に対して0.01~8.0質量%の範囲であり、0.1~5.0質量%の範囲であることが好ましく、0.5~2.0質量%の範囲であることがより好ましい。イソチアゾリン系殺菌剤の配合量が0.01質量%未満であると、殺菌効果が得られない場合があり、8.0質量%を超えると、沈殿物が発生する場合がある。本実施形態に係る水処理剤組成物では、イソチアゾリン系殺菌剤の配合量が0.5~2.0質量%の範囲という従来の水処理剤組成物におけるイソチアゾリン系殺菌剤の配合量よりも高い配合量においても、有効成分の安定性が良好である。
【0035】
水処理剤組成物において、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の配合量は、例えば、組成物全体の量に対して0.01~5.0質量%の範囲であり、0.1~5.0質量%の範囲であることが好ましく、0.5~2.0質量%の範囲であることがより好ましい。ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の配合量が0.01質量%未満であると、殺菌効果または有効成分の安定効果が得られない場合があり、5.0質量%を超えると、薬品使用量が多くなる場合がある。本実施形態に係る水処理剤組成物では、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の配合量が0.1~5.0質量%の範囲という従来の水処理剤組成物におけるハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の配合量よりも高い配合量においても、有効成分の安定性が良好である。
【0036】
水処理剤組成物において、イソチアゾリン系殺菌剤である5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMI)に対して、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有し、0.1倍以上含有することが好ましく、1.0倍以上含有することがより好ましい。この質量比の上限は特に制限はないが、例えば、5.0倍以下である。CMIに対するハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の含有量が質量比で0.1倍未満であると、有効成分の安定効果が得られない場合があり、5.0倍を超えると、製造コストが上昇する場合がある。
【0037】
水処理剤組成物のpHは、例えば、5.0未満であり、3.0以下であることが好ましく、1.0~3.0の範囲であることがより好ましく、1.5~2.5の範囲であることがさらに好ましい。組成物のpHが1.0未満であると、酸が多く必要になってしまう場合があり、5.0以上であると、有効成分の安定効果が得られない場合がある。
【0038】
組成物のpH調整には、所定のpHとなるように調整できればよく、特に制限はないが、例えば塩酸、硫酸、硝酸などの酸や、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリなどのpH調整剤を用いればよい。
【0039】
水処理組成物は、さらにトレーサー物質として蛍光物質を含んでもよい。水処理組成物が蛍光物質を含むことによって、水系における水処理組成物の濃度測定を容易に行うことができる。また、製造コストの削減効果も得られる。
【0040】
蛍光物質としては、特定の波長を吸収し、その波長とは異なる波長(蛍光)を発する化学物質であればよく、特に制限はない、蛍光物質としては、例えば、1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム(PTSA)などのスルホン化ピレン化合物、ウラニン、フルオレセイン、フィコエリスリン、フィコシアニン、ローダミンなどが挙げられる。また、国際特許出願公開第2023/210363号に記載の、スルホン化ベンゾナフトフラン化合物、スルホン化ジナフトフラン化合物、スルホン化ベンゾフルオレン化合物、スルホン化ジベンゾフルオレン化合物、スルホン化ベンゾカルバゾール化合物、スルホン化ジベンゾカルバゾール化合物などを用いてもよい。水処理組成物への溶解性や安定性などの観点で、PTSAを用いることが好ましい。蛍光物質は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
水処理剤組成物が蛍光物質を含む場合、蛍光物質の配合量は、例えば、組成物全体の量に対して0.0001~4.0質量%の範囲であり、0.001~1.0質量%の範囲であることが好ましい。蛍光物質の配合量が0.0001質量%未満であると、水系における水処理組成物の濃度測定が困難となる場合があり、4.0質量%を超えると、製造コストが上昇する場合がある。
【0042】
水処理剤組成物は、水、イソチアゾリン系殺菌剤、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤、上記重合体、蛍光物質の他に、アゾール化合物などの防食剤、酸化剤などの他の成分を含んでもよい。
【0043】
アゾール化合物としては、主に銅や銅合金などの銅系金属などの金属防食剤として機能するアゾール化合物が挙げられ、例えば、1,2,4-トリアゾール、1-メチル-1,2,4-トリアゾール、3-メチル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジエチル-1,2,4-トリアゾール、1-フェニル-1,2,4-トリアゾール、3-フェニル-1,2,4-トリアゾール、1,5-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール、1,3-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジフェニル-1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-オン、5-メチル-1,2,4-トリアゾール-3-オン、3-メチル-1,2,4-トリアゾール-5-オン、1-フェニル-1,2,4-トリアゾール-3-オン、5-フェニル-1,2,4-トリアゾール-3-オン、1-フェニル-1,2,4-トリアゾール-5-オン、ウラゾール、1-フェニルウラゾール、4-フェニルウラゾール、ベンゾトリアゾール、1-メチルベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、5,6-メチルベンゾトリアゾール、2-フェニルベンゾトリアゾール、1-オキシベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-t-アミノフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、1-ナフチルベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール、5-ブロモベンゾトリアゾール、5-ニトロベンゾトリアゾール、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾトリアゾールなどが挙げられる。これらのうち、流通量やコストなどの点から、ベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾールが好ましい。
【0044】
水処理剤組成物において、アゾール化合物を含む場合のアゾール化合物の配合量は、例えば、組成物全体の量に対して0.001~3.0質量%の範囲であり、0.1~2.0質量%の範囲であることが好ましい。アゾール化合物の配合量が0.001質量%未満であると、腐食抑制効果が得られない場合があり、3.0質量%を超えると、水処理剤組成物に溶解しにくい場合がある。
【0045】
<水処理方法>
本実施形態に係る水処理方法は、上記水処理剤組成物を用いて水系の処理を行う方法である。例えば、所定量の上記水処理剤組成物を水系に添加すればよい。
【0046】
水系におけるイソチアゾリン系殺菌剤である5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの量は、例えば、処理する水の量に対して0.005~40mg/Lの範囲とすればよく、0.1~25mg/Lの範囲とすることが好ましい。イソチアゾリン系殺菌剤の量が処理する水の量に対して0.005mg/L未満であると、殺菌効果が得られない場合があり、40mg/Lを超えると、薬品使用量が多くなる場合がある。
【0047】
水系におけるハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の量は、例えば、処理する水の量に対して0.01~20mg/Lの範囲とすればよく、0.1~10mg/Lの範囲とすることが好ましい。ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤の量が処理する水の量に対して0.01mg/L未満であると、殺菌効果が得られない場合があり、20mg/Lを超えると、薬品使用量が多くなる場合がある。
【0048】
水系のpHは、例えば、5.0~9.0の範囲であり、5.0~8.5の範囲であることが好ましく、6.5~8.5の範囲であることがより好ましい。水系のpHが5.0未満であると、腐食性ガスが発生する場合があり、9.0を超えると、スケールが発生する場合がある。
【0049】
水系のpH調整には、所定のpHとなるように調整できればよく、特に制限はないが、例えば塩酸、硫酸、硝酸などの酸や、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリなどのpH調整剤を用いればよい。
【0050】
本実施形態に係る水処理剤組成物は、冷却水などの工業用水システムの水処理や、紙パルプ工業における抄紙工程水などに用いることができる。本実施形態に係る水処理剤組成物は、冷却水などの工業用水システムの水処理で好適に用いることができる。
【0051】
本実施形態に係る水処理方法において、上記水処理剤組成物とともに、酸化剤などの他の薬剤を併用してもよい。
【0052】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
[1]水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位を含む重合体と、を含有し、
前記イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有する、水処理剤組成物。
【化8】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【0053】
[2]水と、イソチアゾリン系殺菌剤と、ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤と、少なくとも式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む共重合体と、を含有し、
前記イソチアゾリン系殺菌剤が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含み、前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で0.05倍以上含有する、水処理剤組成物。
【化9】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、X
1は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【化10】
(式(2)中、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
2はアルキルスルホン酸基もしくはその塩、または、アリールスルホン酸基もしくはその塩を表し、塩の場合は1価もしくは2価の金属塩、アンモニウム塩または有機アンモニウム塩である。)
【0054】
[3][1]または[2]に記載の水処理剤組成物であって、
前記5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに対して、前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤を質量比で1.0倍以上含有する、水処理剤組成物。
【0055】
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の水処理剤組成物であって、
前記水処理剤組成物のpHが、5.0未満である、水処理剤組成物。
【0056】
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載の水処理剤組成物であって、
前記ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤が、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオールを含む、水処理剤組成物。
【0057】
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載の水処理剤組成物であって、
さらに蛍光物質を含む、水処理剤組成物。
【0058】
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載の水処理剤組成物を用いて水系の処理を行う、水処理方法。
【実施例0059】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例、比較例>
実施例、比較例については、表1~3に示す配合組成(組成物全体の質量に対する質量%)および順番で純水に添加して製剤化を行った。pH調整は、硫酸(62.5質量%)を使用し、製剤化は、ガラス製の容器内で、室温(25℃±1℃)環境下、スターラで撹拌しながら各薬剤を添加して行った。なお、重合体の配合比率は固形分の質量比として算出している。
【0061】
イソチアゾリン系殺菌剤としては、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMI)および2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)を使用した。
【0062】
ハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤としては、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(BNPD)を使用した。
【0063】
重合体として、ポリアクリル酸(PAA)(重量平均分子量:4500)、二元共重合体としては、アクリル酸と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、の共重合体(AA/AMPS)(重量平均分子量:4500)、三元共重合体としては、アクリル酸と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、t-ブチルアクリルアミドと、の共重合体(AA/AMPS/t-BAM)(重量平均分子量:4500)を使用した。
【0064】
アゾール化合物としては、ベンゾトリアゾールを使用した。
【0065】
蛍光物質としては、1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム(PTSA)を使用した。
【0066】
製剤化した製剤のpHを、pH測定装置(東亜ディーケーケー製、IOL―30)を用いて測定した。50℃保管、20日後(表1、表3)または7日後(表2)の目視での外観観察によって製剤化の可否を判定し、析出が生じたものは「×」と判定した。表3の組成物について有効成分の残存率(%)を測定し,下記基準で判定を行った。表3の組成物の有効成分残存率は、50℃保管、20日後のデータである。結果を表1~3に示す。
【0067】
有効成分残存率は、東ソー社の分析カラム(東ソー製、TSKgel ODS-80Ts)を用いた日立ハイテクサイエンス社の高速液体クロマトグラフ Chromasterにより測定された面積値により算出した。
【0068】
(判定基準(有効成分残存率(%)))
◎:90%超~100%
〇:80%超~90%以下
△:70%超~80%以下
×:70%以下
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
実施例の組成物は、少なくとも式(1)の単量体単位を含む重合体または少なくとも式(1)の単量体単位と式(2)の単量体単位とを含む共重合体を配合することによって、比較例の組成物に比べて、50℃保管、20日後または7日後に析出が観察されず、有効成分残存率が高いことがわかる。
【0073】
このように、実施例の組成物では、水とイソチアゾリン系殺菌剤とハロゲン化脂肪族ニトロアルコール系殺菌剤とを含有する水処理剤組成物において有効成分の安定性が良好であった。