(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010030
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】構造部を有するスタンピング工具を製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0202 20160101AFI20250109BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20250109BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20250109BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20250109BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20250109BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20250109BHJP
B23P 13/00 20060101ALI20250109BHJP
B23C 3/34 20060101ALI20250109BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20250109BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250109BHJP
【FI】
H01M8/0202
B23K26/03
B23K26/082
B23K26/364
B23K26/00 G
B23K26/36
B23P13/00
B23C3/34
B21D37/20 Z
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024104788
(22)【出願日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】23182434
(32)【優先日】2023-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519198557
【氏名又は名称】ジー・エフ マシーニング ソリューションズ アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】GF Machining Solutions AG
【住所又は居所原語表記】Roger-Federer-Allee 7,2504 Biel,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン マイヤー
【テーマコード(参考)】
3C022
4E050
4E168
5H126
【Fターム(参考)】
3C022EE11
4E050JB01
4E050JB10
4E050JD03
4E168AD00
4E168AD01
4E168CA13
4E168CA15
4E168CB04
4E168CB22
4E168CB23
4E168EA15
4E168JA01
4E168JA21
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126HH00
5H126HH02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】燃料電池用のバイポーラプレートを生産するための、表面品質と正確度とが共に高い構造部を有するスタンピング工具を製造する方法およびシステムを提供する。
【解決手段】スタンピング工具用構造部の目標ジオメトリと中間ジオメトリとを規定した後、工作物を工作機械に組み付け、第1のタイプの加工によって加工する。加工済みの中間部材のジオメトリを測定装置によって測定して、目標ジオメトリとの間の差を表すジオメトリ偏差を求めるとともに加工パスを演算し、更に、中間部材の構造部を、第1のタイプの加工と異なる第2のタイプの加工によって選択的に加工し、中間部材における材料を取り除いて加工済みの中間部材のジオメトリと目標ジオメトリとの間の差を除去することによって、目標ジオメトリを有する構造部を備えた最終部材を得る、スタンピング工具を製造する方法である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部(10)を有するスタンピング工具(1)、特に、燃料電池用のバイポーラプレートを生産するためのスタンピング工具を製造する方法であって、
a.前記構造部のために、目標ジオメトリと中間ジオメトリとを規定するステップであって、前記中間ジオメトリは、前記目標ジオメトリを達成するために更なる加工を必要とする中間部材のジオメトリを規定している、ステップと、
b.工作物を工作機械に組み付けるステップと、
c.規定の前記中間ジオメトリに基づき前記工作物を第1のタイプの加工によって加工して、前記中間部材を得るステップと、
d.加工済みの前記中間部材の前記ジオメトリを測定装置によって測定して、加工済みの前記中間部材のジオメトリデータを得るステップと、
e.測定された前記ジオメトリデータと、規定の前記目標ジオメトリとに基づき、加工済みの前記中間部材のジオメトリと前記目標ジオメトリとの間の差を表すジオメトリ偏差データを処理ユニットによって特定するステップと、
f.特定された前記ジオメトリ偏差データに基づき、前記処理ユニットによって加工パスを演算するステップと、
g.演算された前記加工パスにしたがって、前記中間部材の前記構造部を、前記第1のタイプの加工と異なる第2のタイプの加工によって選択的に加工し、前記中間部材における材料を取り除いて加工済みの前記中間部材のジオメトリと前記目標ジオメトリとの間の前記差を除去することによって、前記目標ジオメトリを有する前記構造部を備えた最終部材を得るステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のタイプの加工はフライス加工であり、前記第2のタイプの加工はレーザアブレーション加工である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1のタイプの加工を第1の工作機械によって行い、前記第2のタイプの加工を第2の工作機械によって行う、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記構造部を加工することは、それぞれ2つの側壁と底面とを有する複数の凹部(10)を加工することを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記凹部の前記底面だけを前記第2のタイプの加工によって加工する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記構造部を加工することは、複数の溝(10)を加工することを含む、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
a.各々の溝のために、少なくとも1つの目標深さ(df)と、該目標深さよりも小さい少なくとも1つの中間深さ(d1)とを規定するステップと、
b.前記工作物を、第1の前記工作機械により行われるフライス加工プロセスによって加工して、前記中間深さを有する前記複数の溝を備えた前記中間部材を得るステップと、
c.前記中間部材を前記測定装置によって測定して、前記中間部材の測定されたジオメトリデータを得るステップと、
d.測定された前記ジオメトリデータと、規定の前記目標ジオメトリとに基づき、加工済みの前記中間部材の深さと前記目標深さとの間の差を表す深さ偏差データを前記処理ユニットによって特定するステップと、
e.前記中間部材の前記溝の前記底面を、特定された前記深さ偏差データに基づきレーザ加工によって加工し、前記溝の前記底面における材料を取り除いて加工済みの前記中間部材の深さと前記目標深さとの間の前記差を除去することによって、前記目標深さを有する前記構造部を備えた最終部材を得るステップと、
をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記測定を機械的または光学的に行い、特に、前記測定を三次元測定機によって行う、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記測定を前記第1のタイプの加工中の加工休止時または前記第1のタイプの加工の終了時に行う、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記測定装置は、前記工作機械の外側に配置されているかまたは前記第1の工作機械もしくは前記第2の工作機械に組み込まれており、特に、複数の測定装置が、前記第1の工作機械および前記第2の工作機械に組み込まれている、請求項2から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記工作物をパレットに緊締し、フライス加工プロセス後、前記中間部材を備えた前記パレットを第1の前記工作機械から前記測定装置にまたは第2の前記工作機械に自動的に移送する、請求項2から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
第2の前記工作機械は、前記中間部材を組み付けるための機械テーブルを備えており、加工中、該機械テーブルを傾斜または回転させる、請求項2から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記第2の工作機械は、レーザビームを放出するためのガルバノメータを含む加工ヘッドを備えており、加工中、該加工ヘッドを回転させる、請求項3から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
構造部を有するスタンピング工具を製造するためのシステムであって、
a.工作物をフライス加工プロセスによって加工して、規定の中間ジオメトリを有する構造部を備えた中間部材を得るように構成された第1の工作機械と、
b.前記中間部材を測定して、該中間部材のジオメトリデータを得るように構成された測定装置と、
c.前記中間部材の前記構造部を測定データに基づきレーザ加工プロセスによって加工して、規定の目標ジオメトリを有する前記構造部を備えた最終部材を得るように構成された第2の工作機械であって、特に、レーザ加工がレーザアブレーションプロセスである、第2の工作機械と、
を備えるシステム。
【請求項15】
前記測定装置は、前記第1の工作機械または前記第2の工作機械に取外し可能に組み込まれている、請求項14記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部を有するスタンピング工具を製造する方法に関する。さらに、本発明は、構造部を有するスタンピング工具を製造するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動の改善に寄与することができるという理由から、新たなエネルギー源がますます重要になっている。この新たなエネルギー源のうちの1つはプロトン交換膜(PEM)燃料電池に基づいている。この技術は、環境を保護すると共に高いエネルギー密度を提供することができるため、Eモビリティなどの輸送システムのための発電に対する有望な技術と考えられている。
【0003】
このような燃料電池の主要な構成要素として、バイポーラプレートが考えられている。このバイポーラプレートは、燃料電池のために必要となる2つの極、つまり、H2を担持する負の電荷を帯びたアノードプレートと、O2を担持する正の電荷を帯びたカソードとの支持プレートとして機能する。バイポーラプレートには様々な材料、例えば黒鉛、複合材および金属を使用することができる。金属は、他の2つの材料と比べると、良導電性、高い機械的な強度および低い生産コストを特徴とするという利点を有している。これまで、金属製バイポーラプレートを製造するために、多くの方法が開発されてきた。既知の方法は、ロール成形、ハイドロフォーミング、ゴムパッド成形およびスタンピングである。
【0004】
国際公開第2008/034818号には、燃料電池のバイポーラプレートを生産するための装置が開示されている。この装置は その中において工作物が第1の電極を形成し、工具が第2の電極を形成する反応器を備えている。工作物と工具とは電解質によって導電接続されており、工作物と工具との間に少なくとも一時的に電位差が形成される。工作物の極と工具の極とは、工作物の表面に構造部を形成する工作物に対する除去プロセスと、工作物にコーティングを被着するためのコーティングプロセスとを反応器内で直接連続して実施するために、両者の作用モードに関してカソードまたはアノードとして入れ替えることができる。
【0005】
しかしながら、大量生産に適した方法を開発することは相変わらず課題となっている。こういった方法のなかでも、スタンピングプロセスは、その加工効率の理由から、多くの製造元にとって好都合なプロセスである。大量生産のためには、バイポーラプレートを高品質で生産するための効率のよい方法を見いだすことが重要である。スタンピングプロセスにとって、極めて高い正確度および良好な表面仕上げを有するスタンピング工具を有することが重要となる。
【0006】
典型的には、スタンピング工具は工作機械によって加工される。特に、フライス加工が適用される。このプロセスは、高い表面品質および迅速な加工という利点を有している。しかしながら、加工精度には限界がある。特に、スタンピング工具は複数の微細な構造部を備えている。これらの微細な構造部の正確度は極めて高くなければならない。このような正確度をフライス加工によって達成することは極めて困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面品質と正確度とが共に高い構造部を有するスタンピング工具を製造するための方法を提供することである。特に、加工効率が改善された、構造部を有するスタンピング工具を製造する方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、これらの課題は独立請求項の特徴によって達成される。加えて、更なる有利な実施形態が、従属請求項および明細書から得られる。
【0009】
本発明は、構造部を有するスタンピング工具、特に、燃料電池用のバイポーラプレートを生産するためのスタンピング工具を製造するための方法を対象とする。この方法は、構造部のために、目標ジオメトリと中間ジオメトリとを規定するステップであって、中間ジオメトリは、目標ジオメトリを達成するために更なる加工を必要とする中間部材のジオメトリを規定している、ステップと、工作物を工作機械に組み付けるステップと、規定の中間ジオメトリに基づき、工作物を第1のタイプの加工によって加工して、中間部材を得るステップと、加工済みの中間部材のジオメトリを測定装置によって測定して、中間部材のジオメトリデータを得るステップと、測定されたジオメトリデータと、規定の目標ジオメトリデータとに基づき、加工済みの中間部材のジオメトリと目標ジオメトリとの間の差を表すジオメトリ偏差データを処理ユニットによって特定するステップと、特定されたジオメトリ偏差データに基づき、処理ユニットによって加工パスを演算するステップと、演算された加工パスに応じて、中間部材の構造部を、第1のタイプの加工と異なる第2のタイプの加工によって選択的に加工して、中間部材における材料を取り除いて加工済みの中間部材のジオメトリと目標ジオメトリとの間の差を除去することによって、目標ジオメトリを有する構造部を備えた最終部材を得るステップと、を含む。
【0010】
好ましくは、第1のタイプの加工がフライス加工であり、第2のタイプの加工がレーザアブレーション加工である。
【0011】
代替的には、第1のタイプの加工が、放電加工、放電ケミカルエッチングまたは電解加工である。
【0012】
スタンピング工具の正確度、特に、スタンピング工具に形成される構造部の正確度は、スタンピングにより製造される部材の正確度に直接的な影響を与える。したがって、構造部を高い正確度で製作することが不可欠となる。しかしながら、高い正確度が要求される場合には、加工時間が長くなってしまう。互いに異なるタイプの加工プロセスを組み合わせることによって、両方の加工プロセスの利点から恩恵を受けて、このようなスタンピング工具の加工を最適化することができる。フライス加工プロセスが、高い表面品質および迅速な加工という利点を有しているのに対して、レーザ加工プロセスは、極めて精密な加工プロセスである。さらに、レーザ加工には、達成すべきジオメトリに関して特定の制限がある。例えば、溝、真っ直ぐな側壁を有する溝または空洞をレーザビームによって加工することは困難である。本発明は、工作物上の異なる部分を異なる加工プロセスによって選択的に加工して、目標ジオメトリを有する最終部材を得ることが可能となる方法を提供する。
【0013】
中間部材は最終部材ではなく、更なる加工を必要とする部材である。したがって、中間ジオメトリは、第1のタイプの加工に対して適用されるように規定されている。第1のタイプの加工の目的は、この中間ジオメトリを達成することである。特に、この中間ジオメトリは、第2のタイプの加工により取り除かれる十分な材料が中間部材に得られるように設計されている。
【0014】
1つの変化形態では、フライス加工プロセスとレーザ加工プロセスとが、同一の工作機械によって行われる。特に、この工作機械には、測定装置が組み込まれていてもよい。
【0015】
別の変化形態では、第1のタイプの加工、例えばフライス加工プロセスが第1の工作機械によって行われ、第2のタイプの加工、例えばレーザ加工が第2の工作機械によって行われる。特に、5軸レーザ工作機械を適用することができる。欧州特許出願公開第2301706号明細書および欧州特許出願公開第3047932号明細書には、5軸レーザ工作機械を用いたこのようなレーザ加工プロセスが開示されている。
【0016】
有利な変化形態では、加工時間を節約するために、レーザ加工用の第2の工作機械によって構造部の一部しか加工されない。場合により、構造体は完全にではなく、構造部の特定の部分だけが極めて高い正確度を必要とする。したがって、この特定の部分だけが、高い正確度を達成するために、第2の工作機械によって引き続き加工される。したがって、この第2の工作機械は、構造部を選択的に加工するために適用される。構造部を第2の工作機械によって選択的に加工することによって、生産される部材の品質をさらに改善することができると同時に、加工時間を節約することができる。
【0017】
特に、本方法は、測定されたジオメトリデータを処理ユニットに入力することと、測定されたジオメトリデータと構造部の目標ジオメトリとに基づき、処理ユニットによって加工パスを計算することとをさらに含む。加えて、測定装置が表面粗さを測定して、表面品質を特定してもよい。
【0018】
測定装置は、加工済みの中間部材の部材全体を測定することができるように構成されており、特に、測定装置は、部材全体の全ての位置を測定する。
【0019】
処理ユニットは、加工済みの中間加工済み部材のジオメトリと目標ジオメトリとの間の差を特定するように構成されている。特定された差によって、第2のタイプの加工用の加工パスを演算することが可能となる。
【0020】
処理ユニットは、外部コンピュータであってもよいし、第1の工作機械または第2の工作機械の制御ユニットであってもよい。
【0021】
幾つかの実施形態では、構造部が複数の凹部を含んでおり、これらの凹部の各々が、2つの側壁と底面とを有している。特に、凹部は、高いアスペクト比を有していてもよいし、低いアスペクト比を有していてもよい。したがって、凹部は、孔、溝、ポケットのうちの1つ以上である。さらに、溝は、方形の溝、半円形の溝、T字形溝のうちの1つ以上である。溝は、真っ直ぐな経路を有していてもよいし、湾曲した経路を有していてもよい。幾つかの実施形態では、スタンピング工具が、燃料電池用のバイポーラプレートを製造するために適用される。スタンピング工具の構造部は複数の溝を含んでいる。これらの溝はその形状にしたがって、それぞれ異なるグループに分割されてよい。各々のグループ内の溝は同一のジオメトリを有しており、異なるグループ内の溝は異なるジオメトリ、例えば、異なる断面または異なる寸法を有している。各々の溝は、2つの側壁と底面とを有している。溝の断面は、方形、半円形および台形などの様々な形状を有していてよい。
【0022】
幾つかの変化形態では、溝の断面が溝の長手方向に沿って変化していてよい。幾つかの変化形態では、溝の深さが1つの溝の内部で変化していてよい。特に、溝の深さが長手方向に沿って変化していてよい。測定装置は、中間部材の全ての位置を測定するように構成されているので、部材の全ての位置における目標ジオメトリと中間部材のジオメトリとの間の差を精密に特定することができる。
【0023】
本方法は、各々の溝のために、少なくとも1つの目標深さと、この目標深さよりも浅い少なくとも1つの中間深さとを規定するステップと、工作物を、第1の工作機械により行われるフライス加工プロセスによって加工して、中間深さを有する複数の溝を備えた中間部材を得るステップと、加工済みの中間部材を測定装置によって測定して、中間部材の測定されたジオメトリデータを得るステップと、測定されたジオメトリデータと、規定の目標ジオメトリとに基づき、加工済みの中間部材の深さと目標深さとの間の差を表す深さ偏差データを処理ユニットによって特定するステップと、中間部材の溝の底面を、特定された深さ偏差データに基づきレーザ加工プロセスによって加工して、溝の底面における材料を取り除いて加工済みの中間部材の深さと目標深さとの間の差を除去することによって、目標深さを有する構造部を備えた最終部材を得るステップと、を含む。
【0024】
燃料電池用に金属で製造されたバイポーラプレートは、極めて良好な伝導性の利点を有している。しかしながら、スタンピング工具に設けられる溝の深さは、高い正確度および高い精度で加工されなければならない。なぜならば、溝の深さの偏差によって、バイポーラプレートに腐食が生じてしまうからである。溝の深さは精密に加工されなければならない。なぜならば、全ての溝の断面が過度に変化していてはならず、特に、全ての溝が同じ深さを有していなければならないからである。さらに、各々の溝の深さが正確に加工されて、規定の深さが達成されなければならない。例えば+/-1μmである所要の正確度を達成するために、フライス加工プロセスには限界がある。この欠点は、高正確度および高精度加工プロセスとして知られているレーザ加工プロセスによって補償することができる。しかしながら、加工効率を維持するために、溝だけが、補正の目的でレーザ工作機械によって加工される。好ましくは、溝の底面だけがレーザ加工プロセスによって加工され、加工済みの中間部材の溝の深さを補正して、目標の深さが達成される。こうして、加工時間をさらに最適化することができる。
【0025】
測定された深さデータは目標深さと比較されてよく、偏差が特定される。この偏差は、底面から取り除くべき材料の厚さを規定している。レーザアブレーションのために、残りの材料は多数の層に分割されてよく、アブレーションは層ごとに行われてよい。底面が過度に大きく、レーザヘッドの1つの位置で加工することができない場合には、底面が複数の、いわゆるパッチに分割される。1つのパッチ内に規定された領域をアブレーションするために、レーザヘッドが同一の位置にとどまり、光学式のスキャナがレーザビームを移動させて、1つのパッチの範囲内の全ての位置がアブレーションされる。次のパッチを加工するために、レーザヘッドが別の位置に移動される。
【0026】
必要であれば、レーザヘッドが回転しないと到達することが困難である工作物における位置をアブレーションすることができるようにするために、レーザヘッドが、1つのパッチの加工中に回転してよい。
【0027】
さらに、中間深さは目標深さよりも浅いので、溝の底面にはレーザ加工用の材料が十分確実に残されている。本発明のスタンピング工具製造法によって、フライス荒加工およびレーザ仕上げにより、費用対効果の高い耐食性のバイポーラプレート用スタンピング工具を生産することが可能となる。
【0028】
フライス加工後、測定は機械的または光学的に行われる。特に、測定は三次元測定機、タッチプローブ、レーザ距離センサ、レーザToF(飛行時間)センサ、共焦点センサ、干渉計または光干渉断層計によって行われ、加工済みの中間部材のジオメトリデータが特定される。特に、中間部材の全ての溝の溝深さが測定されて記憶される。
【0029】
中間部材のジオメトリデータは、中間部材を全ての位置において測定することによって得られる。
【0030】
測定されたジオメトリデータに基づき、加工済みの中間部材のジオメトリと目標ジオメトリとの間の差が計算される。この差は、第2のタイプの加工を適用することにより材料をさらに取り除くことによって補正される。処理ユニット、例えばコンピュータによって、効率のよい加工パスを演算し、工作機械を制御して加工済みの中間部材の材料を選択的に取り除くために適用することができる。
【0031】
1つの変化形態では、測定が、第1の工作機械による加工中の加工休止時に行われる。測定された深さが規定の中間深さに到達すると、加工プロセスを停止させることができる。測定された深さが規定の中間深さよりも浅い場合には、フライス加工の加工を継続することができる。測定が加工休止時に行われる場合には、測定装置を第1の工作機械に組み込むことが好適であり、または、ツールチェンジャが切削工具を取り外し、測定のために加工装置を第1の工作機械内に組み付けることができる。
【0032】
別の変化形態では、測定がフライス加工プロセスの終了時に行われる。
【0033】
測定装置を工作機械の外側に配置するか、または第1の工作機械もしくは第2の工作機械に組み込むことを考慮すべきである。
【0034】
1つの変化形態では、複数の測定装置が設けられており、第1の工作機械および第2の工作機械に組み込まれている。例えば、第1の測定装置が第1の工作機械に組み込まれており、第2の測定装置が第2の工作機械に組み込まれている。これによって、測定を行うための柔軟度が増大し、加工プロセスが最適化される。
【0035】
通常、工作物は、機械テーブルに設けられた緊締システムによって緊締される。この緊締システムは、パレットとチャックとを備えている。このチャックは機械テーブルに組み付けられており、工作物がパレットに組み付けられる。取扱いを容易にするために、第1の工作機械による加工後、中間部材を備えたパレットが、第1の工作機械から測定装置または第2の工作機械に自動的に移送される。これによって、工作物を着脱するための時間を節約することができ、機械テーブルへの工作物の正確な位置決めを保証することができる。
【0036】
レーザ加工の1つの欠点は、レーザビームが所定の幅を有しているため、レーザビームが溝の底面に衝突したときに、レーザビームが底面における全ての位置、特に側壁と底面との接続縁部における位置に到達することができないことである。この欠点を回避して、レーザビームが溝の底面全体に到達することができることを保証するために、加工中、レーザ工作機械の機械テーブルを僅かに傾斜または回転させることができる。通常、レーザビーム走査は、機械ヘッドに組み込まれた光学式のスキャナによって行われるため、レーザ走査中に機械テーブルは移動しない。しかしながら、加工中に機械テーブルを傾斜かつ/または回転させることによって、レーザビームがより多くの位置に到達することができる。したがって、第2の工作機械は、中間部材を組み付けるための機械テーブルを備えており、加工中、この機械テーブルが傾斜または回転される。好適な変化形態では、部材が過度に大きいかまたは重い場合には、部材ではなくレーザヘッドが傾斜または回転される。
【0037】
さらに、本発明は、構造部を有するスタンピング工具を加工するためのシステムであって、工作物をフライス加工プロセスによって加工して、規定の中間ジオメトリを有する構造部を備えた中間部材を得るように構成された第1の工作機械と、中間部材を測定して、この中間部材のジオメトリデータを得るように構成された測定装置と、中間部材の構造部を測定データに基づきレーザ加工プロセスによって加工して、規定の目標ジオメトリを有する構造部を備えた最終部材を得るように構成された第2の工作機械と、を備えるシステムを対象とする。特に、レーザ加工はレーザアブレーションプロセスである。
【0038】
1つの変化形態では、システムが、第1の工作機械に組み付けられたフライス加工用の工作機械を測定装置と交換するように構成されたツールチェンジャを備えている。
【0039】
本発明は、ポーラプレートを生産するためのスタンピング工具を製造するためのシステムを提供し、このシステムによって、溝ジオメトリの製作における正確度をより良好にし、ひいては、このようなスタンピング工具を適用することによって生産される金属製ポーラプレートの耐食性を著しく改善することが可能となる。加えて、システムによって、燃料電池機関の実現可能性と、費用対効果の高いバイポーラプレートの生産とが共に可能となる。
【0040】
1つの変化形態では、レーザアブレーションのために、フェムト秒レーザが適用される。この種のレーザのパルス幅は短いため、レーザビームによる熱的な作用を減じることができる。したがって、アブレーションによって達成される表面品質を最適化することができる。
【0041】
レーザアブレーションを適用することによって、高精度の目標ジオメトリ、特に目標深さを達成することができる。レーザアブレーションプロセスは、工作機械を必要とする別の加工プロセスと比べて、実質的に機械軸誤差の影響を受けにくい。例えば、フライス加工プロセスでは、軸における誤差が工具端点に即座に影響を与えることになる。その結果、工具の端点におけるこの誤差によって、加工済みの部材におけるジオメトリ誤差、特に、部材に設けられた加工済みの構造部の深さ誤差が生じる。レーザアブレーションプロセスは工作機械を必要としない。レーザビームは、部材における規定の位置に到達するように、光軸によって制御される。レーザビームが、いわゆる焦点公差の範囲内、つまり、例えば+/-0.1mmの範囲内で部材の表面に到達する場合、アブレーションは、機械軸の誤差により生じるジオメトリ誤差なしに、規定されているように精密に行われる。このことは、レーザ機械軸における誤差がアブレーションプロセスの全正確度に影響を与えないことを意味している。レーザアブレーションプロセスを用いて、目標ジオメトリを別の加工プロセス、例えばフライス加工よりも精密に達成することができる。したがって、レーザビームは、ジオメトリ測定に関してアブレーションする必要があるものを正確にアブレーションする。
【0042】
したがって、好適な変化形態では、フライス加工プロセスが荒加工として適用され、レーザアブレーションが仕上げ加工として適用されて、目標ジオメトリが得られる。
【0043】
以下に、本発明のより具体的な説明を詳しく記載する。実施形態は、添付の図面を参照して詳細に記載かつ説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】多数の溝を含むスタンピング工具の三次元図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1には、燃料電池用のバイポーラプレートを製造するためのスタンピング工具1の三次元図が示してある。このスタンピング工具は、例えば、450mmの長さ、150mmの幅および30mmの高さの寸法を有する金属プレートである。スタンピング工具は、その上に形成された複数の溝10を備えている。それぞれ異なる形状および寸法を有する多数のグループの溝が存在している。以下の説明では、本発明の方法の適用を示すために、ただ1つのグループの溝についてのみ説明することにする。しかしながら、本方法は、別のグループの溝に対しても、たとえこれらが異なる形状および寸法を有しているとしても、適用可能である。
【0046】
このグループの溝は、互いに平行に水平方向に延在しており、
図1に示した部分Dの拡大図である
図2に示されているように、互いに等しい距離を有している。
【0047】
図3は、このグループの多数の溝の断面図であり、
図4は、その平面図である。溝は、2つの側壁12と底面11とを有する方形の断面を有している。
図3に示されているように、溝は、W1、例えば1.25mmの規定の溝幅を有している。2つの溝の間の表面はリブ20と呼ばれるため、2つの溝の間の距離は、
図4にW2として示したリブ幅と呼ばれる。溝は、また、リブの頂面と溝の底面との間の距離である規定の溝深さdも有している。
図3は、簡略化した例を示している。しかしながら、溝は、それぞれ異なる深さを有していてよい。1つの溝の内部の深さが変化していてもよい。リブは、湾曲した面を有していてよい。溝の底面は、硬化した表面を有していてもよい。
【0048】
本明細書に示した実施例は、本方法の適用を限定するものと解すべきではない。この方法は、高い正確度および精度が要求される構造部を有する別の金属部材を製造するために適用することができる。このような金属部材は、レーザアブレーションと組み合わせたフライス加工によって生産されてよい。
【0049】
図5および
図6は、互いに異なる加工段階中の1つの溝の断面図を示している。工作物が準備され、フライス加工プロセス用の第1の工作機械に組み付けられる。また、工作物をフライス加工する前に、最初に工作物の表面加工および/または研削を行うことも可能である。第1の工作機械は、フライス加工プロセスを行うことができる様々な工作機械であってよい。溝とリブとは、規定の中間深さd1を達成するようにフライス加工される。代替的には、第1の工作機械は研削およびフライス加工用の工作機械である。
【0050】
フライス加工は、中間ジオメトリ(形状)を製作する生産性だけでなく、表面の品質も非常に良好になるので、レーザ加工によっては加工できないリブが得られる。特に、フライス加工は、真っ直ぐな壁と、スタンピングプロセスにとって極めて重要となる丸みを帯びた上側の縁部における極めて良好な表面とを加工することができる。したがって、リブと、上側の角隅と、溝の側壁とは、フライス加工によってのみ加工され、レーザ加工によっては加工されない。
【0051】
図5は、加工済みの中間部材を示している。溝は、2つの上側の角隅13と、2つの下側の角隅14と、底面11とを有している。加工済みの中間部材の溝の深さは、目標深さに到達するようにフライス加工されるのではなく、d1の中間溝深さに到達するようにフライス加工されるにすぎない。中間溝深さは加工前に規定されており、目標溝深さとして規定された最終部材の深さよりも小さい。フライス加工は、リブと溝の上側の角隅との最終表面粗さが達成されるように行われる。
【0052】
中間部材の全ての位置を測定して、中間深さd1と目標深さdfとの間の差を計算するために、測定装置が適用される。中間深さは、リブの位置と底面の位置とを比較することによって計算される。
【0053】
図6は、最終部材を示している。中間部材と比べて、最終部材の溝は第2の工作機械、つまりレーザ工作機械によって加工される。5軸レーザ工作機械を使用することができる。この段階中には、溝の底面がレーザビームによってアブレーションされ、さらに材料が取り除かれて、溝の規定の目標深さが達成される。
図6に示されるように、最終部材は中間部材よりも大きな深さを有しており、下側の角隅は、レーザ加工により生じた異なる形状を有している。しかしながら、下側の角隅の形状はこの用途に重要ではない。
【0054】
図7は、本発明の方法のフローチャートを示す。第1のステップS1では、工作物が第1の工作機械によってフライス加工され、中間深さを有する溝を備えた中間部材が得られる。第2のステップS2では、中間部材が測定装置によって測定される。この測定装置は、工作機械の外側に配置されていてもよいし、第1の工作機械および第2の工作機械のうちの一方に組み込まれていてもよい。また、加工中に測定を行うことができるように、2つの測定装置を両方の工作機械に組み込むことも可能である。第3のステップS3では、測定された中間深さと最終深さとを比較することによって、残りの深さが計算される。第4のステップS4では、中間部材がレーザ工作機械によって引き続き加工され、最終深さを有する溝が得られる。
【符号の説明】
【0055】
1 スタンピング工具
2 工作物
10 溝
11 溝の底面
12 溝の側壁
13 溝の下側の角隅
14 溝の上側の角隅
20 溝のリブ
【外国語明細書】