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特開2025-100302ガス抜きピン、およびガス抜きピンを用いた成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100302
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】ガス抜きピン、およびガス抜きピンを用いた成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/34 20060101AFI20250626BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
B29C45/34
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096935
(22)【出願日】2024-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2023215346
(32)【優先日】2023-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅人
(72)【発明者】
【氏名】多々良 柊汰
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AH17
4F202AJ08
4F202AM32
4F202AR07
4F202AR13
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK42
4F202CK52
4F202CK75
4F202CP01
4F202CP03
4F206AH17
4F206AJ08
4F206AM32
4F206AR07
4F206AR13
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ03
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】成形品の不具合発生を抑制したガス抜きピン、および該ガス抜きピンを用いた、成形品の不具合発生を抑制した樹脂成形方法を提供する。
【解決手段】射出成形時にキャビティに発生するガスを外部に排出するためのガス抜きピンにおいて、前記キャビティに開口部を挿通させて配置され、前記ガスを逃がす通路となるスリーブと、前記スリーブ内に前記開口部に向かって付勢され配置されて、前記スリーブ内へ押し込まれることにより前記開口部を閉塞するように構成される、前記開口部を開閉するピン本体とを備え、前記ピン本体には開状態で前記キャビティ内に配置され、前記ピン本体の前記キャビティへの露出部の縁部には、前記ピン本体の軸方向中心に向かって傾斜する外周側面を持つ頭部が設けられているガス抜きピンを提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形時にキャビティに発生するガスを外部に排出するためのガス抜きピンにおいて、
前記キャビティに開口部を挿通させて配置され、前記ガスを逃がす通路となるスリーブと、
前記スリーブ内に前記開口部に向かって付勢され配置されて、前記スリーブ内へ押し込まれることにより前記開口部を閉塞するように構成される、前記開口部を開閉するピン本体とを備え、
前記ピン本体には開状態で前記キャビティ内に配置され、前記ピン本体の前記キャビティへの露出部の縁部には、前記ピン本体の軸方向中心に向かって傾斜する外周側面を持つ頭部が設けられている、
ことを特徴とするガス抜きピン。
【請求項2】
内側に貫通孔が設けられており、前記スリーブを前記貫通孔に挿通させて配置される第2スリーブをさらに備え、
前記第2スリーブの外周側面、または前記スリーブの外周側面に、少なくとも一つの、前記スリーブの延伸方向に沿って設けられ、前記ガスを逃がす通路となる微細溝が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス抜きピン。
【請求項3】
前記第2スリーブの外周側面、または前記スリーブの外周側面の少なくとも一方には、周方向に複数の前記微細溝が形成されている、
ことを特徴とする請求項2に記載のガス抜きピン。
【請求項4】
前記微細溝の前記貫通孔の半径方向の幅は、0mm超0.04mm以下である、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のガス抜きピン。
【請求項5】
キャビティに開口部を挿通させて配置され、ガスを逃がす通路となるスリーブと、前記スリーブ内に前記開口部に向かって付勢され配置されて、前記スリーブへ押し込まれることにより前記開口部を閉塞するように構成される、前記開口部を開閉するピン本体とを備え、前記ピン本体には開状態で前記キャビティ内に配置され、前記ピン本体の前記キャビティへの露出部の縁部には、軸方向中心に向かって傾斜する周側面を持つ頭部が設けられているガス抜きピンが設けられた金型を備え、
前記キャビティに溶融樹脂を流し込むと、前記溶融樹脂が前記スリーブの前記開口部を通過時に前記ピン本体の頭部を前記スリーブへ押し込み、前記開口部を閉塞させる、
ことを特徴とする成形方法。
【請求項6】
前記ガス抜きピンは、内側に貫通孔が設けられており、前記スリーブを前記貫通孔に挿通させて配置される第2スリーブをさらに備え、
前記第2スリーブは、外周側面または前記貫通孔の内周側面に、少なくとも一つの、前記スリーブの延伸方向に沿って設けられ、前記ガスを逃がす通路となる微細溝が形成されており、
前記キャビティに前記溶融樹脂を流し込むと、前記キャビティ内の気体のみが前記微細溝を通過する、
ことを特徴とする請求項5に記載の成形方法。
【請求項7】
少なくとも一つの前記微細溝は、前記開口部よりも、前記溶融樹脂の流れの下流側となるように配置されており、
前記ピン本体が前記開口部を閉塞させた後にも、少なくとも一つの前記微細溝を、前記キャビティ内の気体が通過する、
ことを特徴とする請求項6に記載の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融させた樹脂部材を金型に充填させて製品を製造する射出成形におけるガス抜きピン、および該ガス抜きピンを用いた成形方法である。
【背景技術】
【0002】
射出成形において、多点ゲートを設けると、各ゲートから金型のキャビティ内に射出された溶融樹脂が、キャビティ内で合流する会合部で空気が閉じ込められる。閉じ込められた空気はそのまま気泡として成形されるため、成形品に不具合が生じてしまう。また、ポリカーボネイトなどの溶融樹脂は、流動性が低いため、薄肉のキャビティの充填性を向上させるために高温に加熱されると、加熱された溶融樹脂は、キャビティ内にガスを発生させる。キャビティ内のガスは成形品に曇りや変形を生じさせるなどの問題を生じさせる。このようなガスや空気は成形品の不具合発生の原因となるため、射出成型の際には金型外に排出している。
【0003】
例えば、特許文献1では、ガスを外部に逃がすため、キャビティにエアシリンダで開閉可能な空気路を設け、溶融樹脂が空気路に到達する前に空気路を閉塞する成形装置を公開している。
【0004】
また、エアシリンダなどの動力を使用せず、ガス抜きピンを用いることもある。従来のガス抜きピンとしては、スリーブとスリーブ内に配置されるピン本体を有し、スリーブとピン本体との隙が、ガスを逃がすための通気路となっているものがある。ピン本体はキャビティに向かって弾性部材により付勢されて配置され、溶融樹脂がキャビティ内を流れてピンを押すとピンはスリーブに押し込まれて空気路が閉じる。このため、通気路を開閉する操作が不要で、開閉のタイミングを合わせる必要もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-111186号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記構造のガス抜きピンは、ガス排出中に溶融樹脂がキャビティから通気路に入り込んでしまい、通気路に付着し固化した樹脂部材でガス抜き性能が低下するという問題があった。ガス抜き性能が低下すると、樹脂成形品にガスヤケやバリが生じ、不具合品となってしまう。
【0007】
本発明は、これに鑑みてなされたものであり、成形品の不具合発生を抑制したガス抜きピン、および該ガス抜きピンを用いた、成形品の不具合発生を抑制した樹脂成形方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題に対し、本発明のある態様においては、射出成形時にキャビティに発生するガスを外部に排出するためのガス抜きピンにおいて、前記キャビティに開口部を挿通させて配置され、前記ガスを逃がす通路となるスリーブと、前記スリーブ内に前記開口部に向かって付勢され配置されて、前記スリーブ内へ押し込まれることにより前記開口部を閉塞するように構成される、前記開口部を開閉するピン本体とを備え、前記ピン本体には開状態で前記キャビティ内に配置され、前記ピン本体の前記キャビティへの露出部の縁部には、前記ピン本体の軸方向中心に向かって傾斜する外周側面を持つ頭部が設けられている、ように構成されたガス抜きピンを提供する。
【0009】
上記態様により、溶融樹脂がガス抜きピンに到達すると、まず外周側面に当接し、ピン本体をスリーブ内に向かって押し下げる。これにより開口部がピン本体によって閉じられ、ガスの抜ける通気路が閉塞される。溶融樹脂が通気路に入り込む前に、溶融樹脂によって空気路が閉じられる。このため、溶融樹脂が通路に入り込み固まり、ガス抜き性能の低下することが抑制される。
【0010】
また、ある態様においては、内側に貫通孔が設けられており、前記スリーブを前記貫通孔に挿通させて配置される第2スリーブをさらに備え、前記第2スリーブの外周側面、または前記スリーブの外周側面に、少なくとも一つの、前記スリーブの延伸方向に沿って設けられ、前記ガスを逃がす通路となる微細溝が形成されているようにガス抜きピンを構成した。この態様によれば、ガスを逃がす通路が増え、ガス抜きピンのガス排出能力が向上する。
【0011】
また、ある態様においては、前記第2スリーブの外周側面、または前記スリーブの外周側面の少なくとも一方には、周方向に複数の前記微細溝が形成されているように構成した。この態様によれば、ガスを逃がす通路が増え、ガス抜きピンのガス排出能力がより向上する。
【0012】
また、ある態様によれば、前記微細溝の前記貫通孔の半径方向の幅は、0mm超0.04mm以下であるように構成した。溶融樹脂は通過できず、気体のみが通過でき、開口部に開閉機構を設ける必要がない。
【0013】
また、本発明のある態様においては、キャビティに開口部を挿通させて配置され、ガスを逃がす通路となるスリーブと、前記スリーブ内に前記開口部に向かって付勢され配置されて、前記スリーブへ押し込まれることにより前記開口部を閉塞するように構成される、前記開口部を開閉するピン本体とを備え、前記ピン本体には開状態で前記キャビティ内に配置され、前記ピン本体の前記キャビティへの露出部の縁部には、軸方向中心に向かって傾斜する周側面を持つ頭部が設けられているガス抜きピンが設けられた金型を備え、前記キャビティに溶融樹脂を流し込むと、前記溶融樹脂が前記スリーブの前記開口部を通過時に前記ピン本体の頭部を前記スリーブへ押し込み、前記開口部を閉塞させる、成形方法を提供する。
【0014】
溶融樹脂がガス抜きピンに到達するとともに、外周側面に当接し、ピン本体をスリーブ内に向かって押し下げる。これにより開口部がピン本体によって閉じられ、ガスの抜ける通気路が閉塞される。溶融樹脂が通気路に入り込む前に、溶融樹脂によって空気路が閉じられ、不具合発生を抑制される。
【0015】
また、ある態様においては、前記ガス抜きピンは、内側に貫通孔が設けられており、前記スリーブを前記貫通孔に挿通させて配置される第2スリーブをさらに備え、前記第2スリーブは、外周側面または前記貫通孔の内周側面に、少なくとも一つの、前記スリーブの延伸方向に沿って設けられ、前記ガスを逃がす通路となる微細溝が形成されており、前記キャビティに溶融樹脂を流し込むと、前記キャビティ内の気体のみが前記微細溝を通過するように成形方法を構成した。この態様によれば、ガスを逃がす通路が増え、ガス抜きピンのガス排出能力がより向上する。
【0016】
また、ある態様においては、少なくとも一つの前記微細溝は、前記開口部よりも、前記溶融樹脂の流れの下流側となるように配置されており、前記ピン本体が前記開口部を閉塞させた後にも、少なくとも一つの前記微細溝を、前記キャビティ内の気体が通過するように構成した。この態様によれば、ピン本体により開口部が閉塞された後にも、微細溝から気体が通過できるため、よりキャビティ内のガスを金型外に排出することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、成形品の不具合発生を抑制したガス抜きピン、および該ガス抜きピンを用いた、成形品の不具合発生を抑制した樹脂成形方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好適な実施形態に係る金型を用いて成形されたエクステンション部材を備える車両用灯具の概略正面図である。
図2】エクステンション部材の斜視図である。
図3】エクステンション部材の正面図および背面図である。
図4】エクステンション部材の金型である。図3のIV-IV線で切断した断面図に対応する。
図5】ガス抜きピンを示す。
図6】ガス抜きピンを用いた成形の工程を示す。
図7】従来のガス抜きピンを用いた成形の工程を示す比較図である。
図8】第2実施形態に係るガス抜きピンを示す。
図9】第2実施形態に係るガス抜きピンの開閉状態を示す。
図10】第2実施形態に係るガス抜きピンを用いた成形の工程を示す。
図11】第2実施形態に係るガス抜きピンを用いた成形の工程を示す。
図12】第2実施形態に係るガス抜きピンの変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、以下の実施形態および変形例の説明において、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0020】
(エクステンション部材)
本発明の好適な実施形態に係る金型を用いた成形品として、エクステンション部材20を説明する。図1は、エクステンション部材20を含む車両用灯具10の概略正面図である。図2はエクステンション部材20の正面斜視図(表面側を示す斜視図)および背面斜視図(裏面側を示す斜視図)である。図3はエクステンション部材20の正面図および背面図である。
【0021】
車両用灯具10は二つのランプを有するコンビネーションランプである。図1に示すように、車両用灯具10は、ランプボディ12と、ランプカバー14とを備える。ランプボディ12は、前方が開口した箱状に形成される。ランプカバー14は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成され、ランプボディ12の前方開口部に取り付けられ、灯室を形成する。灯室内には、所定の配光を形成する二つのランプユニットLU1、LU2、およびエクステンション部材20が収容される。
【0022】
エクステンション部材20は、内側に大きな二つの成形品開口部28、29が形成されている。ランプユニットLU1、LU2は、それぞれリフレクターや投影レンズなどの光を前方に照射する光学部材を成形品開口部28,29に露出させて、エクステンション部材20の背面に配置される。エクステンション部材20は、ランプユニットLU1、LU2の前方に配置され、ランプユニットLU1、LU2とランプボディ12の隙間、および隣接するランプユニットLU1、LU2の隙間を覆うようにして、ランプユニットLU1、LU2の内部構造物などを外部から見えないようにする目隠し材である。
【0023】
図2および図3に示すように、エクステンション部材20は、正面視五角形の外形を有しており、一定の所定幅の5辺および橋脚26が連結されて成る。具体的には、エクステンション部材20は、最も長辺な上辺21、上辺21の半分程の長さで、上辺21と平行に構成される下辺22、上辺21の右端部と下辺22の右端部と連結する斜辺である右辺23、上辺21の左端部から鉛直下方に延びる左辺24、左辺24の下端部と下辺22の左端部とを連結する斜辺である左下辺25の、五つの辺が連結されて成る外枠と、さらに下辺22と右辺23との連結部と上辺21とを鉛直方向に結ぶ橋脚26から成る。
【0024】
エクステンション部材20は、薄肉の射出成形品であり、PBT(ポリブリレンテレフタレート)樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、着色されたポリカーボネイト樹脂などから構成される。
【0025】
図3に示すように、エクステンション部材20には、上辺21の略中央の位置および下辺22の略中央位置の壁面にゲート痕GMが形成されている。すなわち、エクステンション部材20の金型には、上記位置に対応してゲートが設けられている。
【0026】
エクステンション部材20には二つの大きな成形品開口部28、29が形成されており、エクステンション部材20を成形する金型のキャビティは、一部を共有した二つの大きなリング状となる。射出成型時に溶解樹脂がリング状のキャビティを回り込み、いずれかの箇所で合流する。この合流箇所で空気が閉じ込められ、そのまま気泡として成形されるため、ウェルドラインなどの不具合を生じることがある。
【0027】
また、エクステンション部材20の構成部材に、例えば着色されたポリカーボネイト樹脂が用いられており、ポリカーボネイトなどの溶融樹脂は流動性が低いため、薄肉のキャビティの充填性を向上させるために高温に加熱されると、加熱された溶融樹脂は、キャビティ内にガスを発生させる。特に近年は、樹脂成形品の軽量化の要請から、樹脂成形品を薄肉化し、溶融樹脂の流動性を上げるために、金型に多点ゲート方式を採用しており、溶融樹脂からキャビティ内にガスが発生しやすい。キャビティ内のガスは成形品に残留して付着し、曇りや変形を生じさせるなどの問題を生じさせる。以下、このようにキャビティ内から外部に排出するべき気体をガスと称する。ガスは成形品の不具合発生の原因となるため、ガス抜きピンを金型に設けて金型外にガスを排出する必要がある。
【0028】
エクステンション部材20の右辺23、左辺24、橋脚26には、それぞれ各略中央位置裏面側にガス抜きピン痕PMが形成されている。すなわち、エクステンション部材20の金型には、上記の対応位置にガス抜きピンが設けられている。エクステンション部材20の金型にガス抜きピンが設けられることで、成形時にキャビティ内のガスがガス抜きピンから金型外に排出され、ガスヤケやウェルドラインなどの不具合の発生が抑制される。
【0029】
(エクステンション部材の金型)
図4は、エクステンション部材20の金型80を示す。図4は、図3のIV-IV線に対応した位置で切断した金型の断面図である。切断線は、ゲート痕GMおよびガス抜きピン痕PMを通過する。
【0030】
金型80は、固定側金型81と、可動側金型82とを有する。固定側金型81と可動側金型82は、互いに向き合った状態で配置されて共締めされ、間にエクステンション部材20に対応するキャビティCを形成するように構成されている。
【0031】
可動側金型82には、ゲートGが設けられている。固定側金型81には、ガス抜きピン1が入れ子として設けられている。
【0032】
図4に示すように、射出成形時にゲートを安定して配置させるため、キャビティCには追加部CCが含まれており、ゲートGは、射出口Gaを追加部CCに開口して配置される。溶解樹脂がゲートGよりキャビティCに射出され、キャビティCを満たし、冷やされることで固まり、金型80から取り外されると、追加部CCで形成された樹脂は切除される。この切除の痕が、ゲート痕GMとなる。
【0033】
(ガス抜きピン)
図5は、ガス抜きピン1を示す。図5(A)がガス抜きピン1の縦断面図である。図5(B)および図5(C)は図5(A)のB部拡大図である。図5(B)がガス抜きピンの開状態を示す。図5(C)がガス抜きピンの閉状態を示す。
【0034】
図5に示すように、ガス抜きピン1は、略円筒状のスリーブ50と、スリーブ50の内孔51に挿通して配置されるピン本体60と、ピン本体60を付勢するバネ70とを有する。
【0035】
スリーブ50は、ガスを外部へ逃がす経路である。そのため、ガス抜きピン1は、スリーブ50の一方の開口部54を金型のキャビティCと連通させ、他方の開口部55を外気に連通させて金型80に配置され、キャビティCと外気とを連通させ、キャビティC内に発生したガスを金型80の外へと排出する。
【0036】
ピン本体60はスリーブ50の開口部54を開閉するバルブであり、スリーブ50の内孔51に挿通して配置され、内孔51の延伸方向に進退移動して開口部54を開閉する。
【0037】
ピン本体60は、円柱状の軸体61と、軸体61の先端部に設けられる頭部69として、蓋部62、さらに蓋部62の上部に設けられる押さえ部63を有する。頭部69は軸体61よりも直径が大きく、キャビティCに連通して配置される開口部54に配置される。蓋部62は、先端に向かうほど径が大きくなる逆円錐台形状である。蓋部62は、最も直径の小さい基端側でも、軸体61よりも直径が大きい。押さえ部63は、先端へ向かうほど径が小さくなる円錐台形状となっている。すなわち、蓋部62の外周側面はピン本体60の軸方向中心から離れる方向(すなわち外側)に向かって傾斜しており、押さえ部63の外周側面は、その逆で、ピン本体60の軸方向中心へ向かう方向(すなわち内側)に向かって傾斜している。蓋部62と押さえ部63の最大直径は同一となっており、蓋部62の上縁部と下縁部は一致しており、両者の断面は段差はなく、縦断面では接合部で屈曲する態様となっている。このため、頭部69としては、先端に向かって太くなっていくが、さらに先端に向かうと今度は細くなっていく双円錐台形状となっている。
【0038】
軸体61は、スリーブ50の内孔51よりも直径が小さく、ピン本体60がスリーブ50に挿通すると、ピン本体60の外周側面とスリーブ50の内周面との間に隙間が生じる。この隙間が、実際にガスが通過する通気路である。
【0039】
キャビティCに連通する開口部54の近傍では、スリーブ50の内孔51は、内壁が削られて徐々に薄肉になることで、出口部に向かって径が大きくなる漏斗状となっている。この内孔51の漏斗部52の傾斜角度は、蓋部62の外周面の傾斜角度と同一となっている。ピン本体60が進退移動すると、蓋部62が漏斗部52に当接して密着し、開口部54が閉塞される。
【0040】
スリーブ50の外気に連通する開口部55側は、径が大きくなる拡径部53となっており、この拡径部53にバネ70が配置される。バネ70は、頭部69とは逆側の先端部近傍に取り付けられている。金型80にガス抜きピン1が配置されると、拡径部53の開口部55は受け板83に覆われる(図4参照)。受け板83はバネ70を圧縮させながら開口部55を塞ぐため、バネ70は開口部54に向かってピン本体60を付勢する。なお、開口部55は受け板83で完全に密閉はされずに、一部が開口して外気と連通する。
【0041】
ピン本体60が開口部54を開閉する。図5(B)に示すように、通常状態では、バネ70の付勢力F1により、ピン本体60は押し上げられて、頭部69は開口部54とは離間して配置される。詳しくは、蓋部62は漏斗部52から離間して配置される。ピン本体60とスリーブ50との間には隙間が生じており、開口部54は開いた状態となっている。
【0042】
開口部54が開いた状態で、押さえ部63は開口部54から突出するように構成されている。蓋部62は開口部54から突出せず、内孔51に留まる。すなわち、開口部54が開状態では、開口部54から押さえ部63の全体が突出するわけではなく、先端側の一部がキャビティCに露出する露出部となる。
【0043】
図5(C)に示すように、ピン本体60にバネ70の付勢力F1とは逆の方向に、付勢力F1以上の力F2が加えられると、ピン本体60が押し下げられ、蓋部62と漏斗部52の隙間が徐々に小さくなり、最終的には蓋部62が漏斗部52に当接する。蓋部62の外周面は漏斗部52の内周面に密着しており、開口部54は閉じた状態となる。
【0044】
開口部54が閉じた状態で、押さえ部63は開口部54から僅かに突出しているが、押さえ部63も内孔51内に保持されてもよい。
【0045】
(成形工程)
上記のように構成されるガス抜きピン1を用いた射出成形方法を説明する。図6は、図4のA部であり、ガス抜きピン1を用いた成形の工程を示す。なお、図6では樹脂を薄墨で着色して示す。
【0046】
ガス抜きピン1が金型80に組み込まれる際には、入れ子として金型80に配置されて、ガス抜きピン1の端部はキャビティCを区画する成形面の一部として構成される(図4参照)。
【0047】
図6(A)は、溶融樹脂がキャビティCに射出される前の状態である。ピン本体60はバネ70に付勢されており、開口部54は開いた状態で、キャビティCと連通している。押さえ部63の少なくとも一部は、開口部54からキャビティCに突出して配置される。
【0048】
図6(B)に示すように、ゲートGよりキャビティCに溶融樹脂が射出されると、キャビティC内を溶融樹脂が流動する。高温に加熱された溶融樹脂は、キャビティ内にガスGASを発生させる。キャビティC内を流動する溶融樹脂の下流で、ガスGASが、ガス抜きピン1の通気路から外部に排出される。
【0049】
図6(C)に示すように、流動する溶融樹脂が、ガス抜きピン1に到達し、キャビティCに突出する押さえ部63に当接する。押さえ部63の外周側面は、内側に向かって傾斜している。換言すれば押さえ部63の外周側面は溶融樹脂の流動方向に対して、直交行方向から流動方向へ向かって傾斜している。このため、押さえ部63を押す力は、流動方向ではなく前方斜め下方へ掛かり、流動する溶融樹脂が押さえ部63に当接すると、前方へ向かってそのまま流動するとともに、押さえ部63を押し下げる。
【0050】
図6(D)に示すように、流動する溶融樹脂によりピン本体60にかかるバネ70の付勢力に逆らってピン本体60は押し下げられ、蓋部62は漏斗部52に密着して、開口部54は閉塞される。溶融樹脂が押さえ部63に当接すると、そのままピン本体60を押し下げるため、開口部54がすぐに閉じられ、ガスの空気路にまで溶融樹脂が流入することが抑制される。これにより成形品にバリが発生することや、スリーブ50の内周面に樹脂が付着して開閉に不具合が生じることが抑制される。
【0051】
図6(E)に示すように、ピン本体60により開口部54は閉塞されているため、ガスの抜ける通気路に溶融樹脂が入り込むことはなく、溶融樹脂はそのまま流動して、キャビティC内に充填される。開口部54が閉じられた状態で、溶融樹脂は冷却される。
【0052】
図6(F)に示すように、溶融樹脂が完全に冷却され固化し、エクステンション部材20が成形されると、金型80が開かれ、金型80からエクステンション部材20が取り出される。エクステンション部材20が取り外しされると、ピン本体60を押さえる力が無くなるため、バネ70の付勢力によりピン本体60が押し上げられて、開口部54が開いた状態に戻る。
【0053】
(作用効果)
ガス抜きピン1の作用効果を説明するため、まずは従来のガス抜きピン901を用いた成形工程を説明する。図7は、従来の成形の工程を示す比較図であり、従来のガス抜きピン901を用いた射出成形の工程を示す。図7図6に対応する。図7では樹脂を着色して示す。
【0054】
図7(A)に示すように、従来のガス抜きピン901は、固定側金型981と移動側金型982を有する金型980に設けられており、キャビティC2に開口部954を連通させて入れ子して配置される。従来のガス抜きピン901は、押さえ部63の代わりに掛かり部964を備える以外は、ガス抜きピン1と同等の構成を有する。具体的には、従来のガス抜きピン901は、スリーブ50および軸体61、蓋部62と同等の、スリーブ950、軸体961、蓋部962を備える。図示しないバネにより付勢されたピン本体960の進退移動によって、キャビティC2に連通する開口部954が開閉される。
【0055】
掛かり部964は、押さえ部63よりも薄く小さく、扁平な逆円錐台の形状で、逆円錐台の形状の蓋部962の上面中央に設けられる。
【0056】
図7(B)に示すように、ゲートGよりキャビティC2に溶融樹脂が射出されると、キャビティC2内を溶融樹脂が流動する。高温に加熱された溶融樹脂は、キャビティ内にガスGASを発生させる。キャビティC2内に生じたガスGASが、従来のガス抜きピン901の通気路(スリーブ950の内孔951とピン本体960の隙間)から外部に排出される。
【0057】
図7(C)に示すように、溶融樹脂が、ピン本体960に到達する。蓋部962の上面は、スリーブ950の上面と面一またはスリーブ950の上面よりも下方に配置される。溶融樹脂が移動する力は、キャビティC2を流動する方向に力がかかり、流動方向に上面が平行配置される蓋部962に対してはあまり働かず、ピン本体960を押し下げようとする力は、図示しないバネの付勢力に逆らうほどの大きな力ではないため、溶融樹脂が蓋部62に到達して蓋部62の上面に接触してもピン本体960は移動しない。
【0058】
図7(D)に示すように、掛かり部964まで溶融樹脂が到達すると、溶融樹脂の前方へ進む力が、掛かり部964の周側面にかかり、ピン本体960を押し下げ始める。その間も開口部954は開いており、ピン本体960と内孔951との隙間(通気路)へ溶融樹脂が隙間に入り込む場合がある。キャビティC2に充填されるとキャビティC2内に内圧もかかり、ピン本体960が押し下げられて開口部954は閉塞されるが、完全に閉じられるまでは、通気路に樹脂がさらに入り込む場合もある。
【0059】
図7(E)に示すように、溶融樹脂がキャビティC2内に充填されて、蓋部962により内孔951の開口部954が閉じられた状態で、溶融樹脂は冷却される。
【0060】
図7(F)に示すように、樹脂が完全に冷却され、エクステンション部材920が成形されると、金型980が開かれ、金型980からエクステンション部材920が取り出される。蓋部962により開口部954が閉じられた状態での、スリーブ950とピン本体960との段差が、ガス抜きピン痕921としてエクステンション部材920に形成される。
【0061】
ピン本体960が押し下げられるまでに通気路に入り込んだ溶融樹脂は、成形されたエクステンション部材920にバリ922として形成される、または残存樹脂923として、内孔951またはピン本体960に付着して残る。バリ922は成形不具合の原因となり、また残存樹脂923は空気路を密閉できずに、ガス抜き性能を低下させる。
【0062】
このように、通気路に入り込んだ溶融樹脂は、バリ922や残存樹脂923となり、成形品であるエクステンション部材920や金型980に不具合を発生させる。
【0063】
これに対し、本実施形態においては、押さえ部63は円錐台形状であり、底面は蓋部62の上面と同形で共有され、ピン本体60で最も外周方向に突出して開口部54からキャビティCに突出しているため、キャビティCを流動する溶融樹脂は、ガス抜きピン1に到達すると、最初に押さえ部63に当接する。このため、ピン本体60を押し下げる力F2が掛かるのは溶融樹脂がピン本体60に到達したときとなり、開口部54が閉じられるのが従来のピン本体960の態様よりも早い。押さえ部63が設けられることで、ピン本体60が押し下げられるタイミングを従来よりも早くすることができ、溶融樹脂が空気路に入りこむことを抑制できる。これにより、成形品に不具合を発生することを抑制した。
【0064】
また、押さえ部63は掛かり部964よりも体積が大きく、キャビティC内により大きく突出している。溶融樹脂がガス抜きピン1を通過するときは、押さえ部63の分だけ狭路となるため、圧力が高まり、キャビティCを画成する成形面を押す力も高まる。詳しくは溶融樹脂が押さえ部63の外表面と押さえ部63に対向する可動側金型82のキャビティ面を押す力が従来よりも大きくなるため、より早くピン本体60を押し下げることとなる。
【0065】
押さえ部63の外周側面が鉛直面であると、溶融樹脂の流動方向と直交するため、溶融樹脂を押し留める壁面となり、ピン本体60を押す力は下方へ働かず、かえって溶融樹脂を通気路に導くこととなる。このため、押さえ部63の外周側面は、内側に傾斜しているのが好ましい。押さえ部63の高さおよび傾斜角度は限定されず、外周側面が内側に傾斜していればよい。また、溶融樹脂が傾斜する外周側面に当接することでピン本体60が移動して開口部54が閉塞されるならば、蓋部62の形状は問われない。
【0066】
蓋部62や蓋部62に当接する内孔51(漏斗部52)の形状も本実施形態に限定されない。スリーブ50に挿通されたピン本体60が開状態で、開口部54を閉塞する頭部69をキャビティ内に突出するように配置され、キャビティCに露出する露出部の最縁部に、ピン本体60の軸方向中心に向かって傾斜する外周側面を持つ頭部69が設けられていればよい。例えば、押さえ部63が円錐形状や角錐台形状でもよい。
【0067】
(第2実施形態)
別の実施形態について、図を用いて説明する。同じ構成を有するものは、同じ符号を付けて詳しい説明は省略する。図8は、第2実施形態に係るガス抜きピン101を示す。図8は、ガス抜きピン101が、金型80の固定側金型81に組付けられた状態であり、固定側金型81も合わせて示す。図8(A)がガス抜きピン101の上面図を示す。図8(B)がガス抜きピン101の縦断面図を示す。なお、図8(A)の固定側金型81は斜線で示し、ガス抜きピン101との境界を明確にしている。
【0068】
図8に示すように、ガス抜きピン101は、第1スリーブ150、第2スリーブ130、ピン本体60、およびバネ70を有する。
【0069】
第1スリーブ150は、ガス抜きピン1のスリーブ50に相当し、本実施形態においては、第2スリーブ130と区別するため、第1スリーブ150と称する。
【0070】
ガス抜きピン101は、第2スリーブ130を備える以外は、ガス抜きピン1と同等の構成となっている。第2スリーブ130は、第1スリーブ150と同様に、略円筒状に構成され、内孔である貫通孔131に、第1スリーブ150が挿通して配置される。このため、図8(A)に示すように、ガス抜きピン101を上面視すると、ピン本体60の外周に第1スリーブ150が配置され、さらに第1スリーブ150の外周に第2スリーブ130が配置された、周方向に二重の構造となっている。くわえて、第2スリーブ130は固定側金型81に形成された組付け用の金型孔81bに組付けられるため、第2スリーブ130の外周に固定側金型81が配置されることとなる。このように、ピン本体60、第1スリーブ150、第2スリーブ130、および固定側金型81が周方向に順に配置される。
【0071】
ガス抜きピン101は、ガス抜きピン1と同様に、金型80に、キャビティCおよび金型外の外気と連通して配置される。詳しくは、ガス抜きピン101においては、第1スリーブ150の内孔51の一方の開口部54は、金型80のキャビティCと連通し、他方の開口部55は、外気に連通するようにして、固定側金型81に配置される。ガス抜きピン101が金型80に組付けられると、第1スリーブ150の内孔51は、ガスが外気へ抜けるガス抜き通路となる。
【0072】
ピン本体60は第1スリーブ150の開口部54を開閉するバルブであり、第1スリーブ150の内孔51に挿通して配置され、内孔51の延伸方向に進退移動して開口部54を開閉する。バネ70は、ピン本体60を付勢して、ピン本体60を押し上げてピン本体60と第1スリーブ150との間には隙間が生じるようにしている。バネ70の付勢力により、通常状態では、開口部54は開いた状態となっている。
【0073】
第1スリーブ150の外周の側面(以下、第1外周側面158と称する)には、第1スリーブ150の延伸方向に沿って、深さD(ガス抜きピン101を上面視したときの半径方向の幅であり、貫通孔131の半径方向の幅)が非常に微小な第1微細溝159が形成されている。同様に、第2スリーブ130の外周の側面(以下、第2外周側面138と称する)には、第2スリーブ130の延伸方向に沿って、第2微細溝139が形成されている。
【0074】
第1微細溝159は、第1外周側面158の表面に、深さD=0.04mm程度で形成されている。第1スリーブ150が第2スリーブ130の貫通孔131に挿通して配置されると、第1微細溝159は、第2スリーブ130の貫通孔131の周側面である第2内周側面136で開放面を覆われて、非常に小さく細長い孔となる。第1微細溝159の一方の開口部はキャビティCに連通し、他方の開口部は金型外の外気に連通している。第1微細溝159は、第1スリーブ150の第1外周側面158と第2スリーブ130の第2内周側面136との間に形成された隙間となる。
【0075】
ガス抜きピン101を備えた金型80を用いた射出成型時には、キャビティC内に生じたガスが、第1微細溝159を通り金型外に排出される。第1微細溝159の断面の大きさ、特に深さDが非常に微細であるため、射出成型時に、第1微細溝159に溶融樹脂は入り込まず、気体であるガスだけが、第1微細溝159を通過する。このように、第1微細溝159は、第1スリーブ150の内孔51と同様に、キャビティCからガスを排出するガス抜き通路となる。
【0076】
第2微細溝139は、第1微細溝159と同様に構成される。ガス抜きピン101は、ガス抜きピン1と同様に、金型80の金型孔81bに嵌合して設置される。ガス抜きピン101が金型80に組付けられると、第2微細溝139は金型孔81bの金型孔内周側面81aに開放面を覆われる。第2微細溝139の一方の開口部はキャビティCに連通し、他方の開口部は金型外の外気に連通する。第2微細溝139は、第2スリーブ130の第2外周側面138と固定側金型81の金型孔内周側面81aとの間に形成された隙間となる。
【0077】
ガス抜きピン101を備えた金型80を用いた射出成型時には、キャビティC内に生じたガスが、第2微細溝139を通り金型外に排出される。第2微細溝139は、第1スリーブ150の内孔51および第1微細溝159とともに、キャビティCからガスを排出するガス抜き通路となる。
【0078】
第1微細溝159と同様に、第2微細溝139は、第2スリーブ130の第2外周側面138の表面に、深さD=0.04mm程度で形成されている。
【0079】
金型80に組付けられたガス抜きピン101においては、深さDが非常に微小であることから、第1微細溝159および第2微細溝139は、非常に幅の狭い隙間であり、射出成型時に、第1微細溝159および第2微細溝139に溶融樹脂は入り込まず、気体であるガスだけが、第1微細溝159および第2微細溝139を通過する。射出成型時にも、第1微細溝159および第2微細溝139には溶融樹脂が入り込むことはないため、第1微細溝159および第2微細溝139にはキャビティCとの連通部に開閉機構は設けられていない。
【0080】
図9(A)は、固定側金型81に組付けられたガス抜きピン101の開状態を示す。図9(B)は、固定側金型81に組付けられたガス抜きピン101の閉状態を示す。
【0081】
ガス抜きピン1と同様に、ガス抜きピン101においても、ピン本体60が開口部54を開閉する。図9(A)に示すように、通常状態では、バネ70の付勢力F1により、ピン本体60は押し上げられて、開口部54は開いた状態となっている。このとき、第1微細溝159および第2微細溝139も、キャビティCと外気とを連通させている。
【0082】
図9(B)に示すように、ピン本体60にバネ70の付勢力F1とは逆の方向に、付勢力F1以上の力F2が加えられると、ピン本体60が押し下げられ、蓋部62の外周面は漏斗部52の内周面に密着し、開口部54は閉じた状態となる。この状態でも、第1微細溝159および第2微細溝139は、両方の開口部が外気と連通した状態となっている。
【0083】
開口部54が開状態/閉状態であっても、第1微細溝159および第2微細溝139は、開口部は自動開閉されず、同じ状態を保つ。
【0084】
(ガス抜きピン101を用いた成形工程)
上記のように構成されるガス抜きピン101を備えた金型を用いた射出成形方法を説明する。図10および図11は、ガス抜きピン101を用いた成形の工程を示す。図10および図11は、図6に相当する。図10および図11では樹脂を薄墨で着色して示す。
【0085】
ガス抜きピン1と同様に、ガス抜きピン101が金型80に組み込まれる際には、入れ子として金型80に配置されて、ガス抜きピン1の端部はキャビティCを区画する成形面の一部として構成される。
【0086】
図10の(工程1)は、溶融樹脂PがキャビティCに射出される前の状態である。ピン本体60はバネ70に付勢されており、開口部54は開いた状態で、キャビティCと連通している。押さえ部63の少なくとも一部は、開口部54からキャビティCに突出して配置される。第1スリーブ150の内孔51、第1微細溝159、および第2微細溝139は外気と連通している。このとき、ガス抜きピン101は、溶融樹脂の流れ方向において、第1微細溝159および第2微細溝139が、開口部54よりも下流側となるように組付けられる。
【0087】
図10(工程2)に示すように、ゲートGよりキャビティCに溶融樹脂Pが射出されると、キャビティC内を溶融樹脂Pが流動する。高温に加熱された溶融樹脂Pは、キャビティ内にガスGASを発生させる。キャビティC内を流動する溶融樹脂Pの下流で、ガスGASが、ガス抜きピン101の通気路として、内孔51、第1微細溝159、および第2微細溝139から外部に排出される。
【0088】
図10(工程3)に示すように、流動する溶融樹脂Pが、ガス抜きピン101に到達し、キャビティCに突出する押さえ部63に当接する。押さえ部63の外周側面は、内側に向かって傾斜している。換言すれば押さえ部63の外周側面は溶融樹脂Pの流動方向に対して、直交行方向から流動方向へ向かって傾斜している。このため、押さえ部63を押す力は、流動方向ではなく前方斜め下方へ掛かり、流動する溶融樹脂Pが押さえ部63に当接すると、前方へ向かってそのまま流動するとともに、押さえ部63を押し下げる。
【0089】
図11(工程4)に示すように、流動する溶融樹脂Pによりピン本体60にかかるバネ70の付勢力に逆らってピン本体60は押し下げられ、蓋部62は漏斗部52に密着して、開口部54は閉塞される。溶融樹脂Pが押さえ部63に当接すると、そのままピン本体60を押し下げるため、開口部54がすぐに閉じられ、ガスの空気路である内孔51にまで溶融樹脂Pが流入することが抑制される。開口部54が閉じても、開口部54よりも下流に配置された第1微細溝159および第2微細溝139はキャビティCと外気とを連通させている。ガスGASは、第1微細溝159および第2微細溝139を通り外部に排出される。
【0090】
図11(工程5)に示すように、溶融樹脂Pはそのまま流動して、キャビティC内に充填される。ピン本体60により開口部54は閉塞されているため、ガスの抜ける通気路である内孔51に溶融樹脂Pが入り込むことはない。第1微細溝159および第2微細溝139の開口部は非常に細く、溶融樹脂Pは入り込むことはなく、キャビティC側の開口部が、溶融樹脂Pで閉塞される。キャビティC内に溶融樹脂Pが充填されると、開口部54が閉じられ、かつ、第1微細溝159および第2微細溝139はキャビティCとの開口部が溶融樹脂Pに塞がれた状態で、溶融樹脂Pは冷却される。
【0091】
図11(工程6)に示すように、溶融樹脂Pが完全に冷却され固化し、エクステンション部材20が成形されると、金型80が開かれ、金型80からエクステンション部材20が取り出される。エクステンション部材20が取り外しされると、ピン本体60を押さえる力が無くなるため、バネ70の付勢力によりピン本体60が押し上げられて、開口部54が開いた状態に戻る。第1微細溝159および第2微細溝139は、キャビティCとの開口部を塞いでいた溶融樹脂P(エクステンション部材20)が取り外され、キャビティCと再び連通するようになる。
【0092】
(作用効果)
ガス抜きピン101には、第2スリーブ130が備えられ、第1微細溝159および第2微細溝139が形成されたことで、両者が射出成型時のガス抜き通路として働き、射出成型時のガスを逃がす通路が増加する。これにより、ガス抜きピン101は、ガス排出能力が向上した。
【0093】
第1微細溝159および第2微細溝139は、断面の幅となる深さDが0.04mm以下と非常に狭く、両者がガス抜き通路として働いて、気体を通過させ、溶融樹脂を通過させない。第1微細溝159および第2微細溝139には開閉機構が不要で、機構はシンプルなものとなっている。
【0094】
図10および図11に示すように、第1微細溝159および第2微細溝139のうち、少なくとも一つの微細溝が、開口部54よりも、溶融樹脂Pの流れの下流側となるように配置されると、ピン本体60が開口部54を閉塞した後にも、少なくとも一つの微細溝が、キャビティC内のガスGASを外気へ逃がし続ける。ガス抜きピン101を用いることで、キャビティC内に閉じ込められる気体を、より減少させることができ、樹脂成形時の不具合品の発生をより減少させることができる。
【0095】
第2スリーブ130の内孔である貫通孔131に、第1スリーブ150が挿嵌されるために、第1スリーブ150の外径は、第2スリーブ130の内孔の径より、僅かに小さくなるように構成されている。本実施形態においては、第2スリーブ130の第2内周側面136と第1スリーブ150の第1外周側面158との隙が一律0.03mmとなるように、第1スリーブ150が僅かに全体を小さく構成されている。このため、第2スリーブ130の貫通孔131に、第1スリーブ150が挿嵌されると、両者の間には、周方向に全周に、かつ延伸方向の全長において、隙が生じる。この隙も、射出成型時のガスが抜ける通路となる。
【0096】
第1スリーブ150の第1外周側面158から深さ0.04mmで第1微細溝159が形成されている。本実施形態においては、第2スリーブ130の挿嵌のためのクリアランスは、0.03mmで構成されているが、第1微細溝159の深さDは、嵌合のためのクリアランスを含まない。このため、第1スリーブ150と第2スリーブ130との隙の大きさは、第1微細溝159の位置では、クリアランス分の0.03mmと、第1微細溝159の深さD=0.04mmと合わせて、最大0.07mmとなっている。第1スリーブ150と第2スリーブ130の隙の大きさが、最大値の0.07mmであっても、射出成型時に、第1微細溝159からは、気体のみが通り抜け、溶融樹脂が入り込むことはない程度に十分小さな値となっている。上記内容は、第1微細溝159に限られず、第2微細溝139も同様である。
【0097】
このように、挿嵌のクリアランスと、微細溝の深さDは、溶融樹脂が入りこまず、かつ、組み付けの公差も考慮して、設定されると好ましい。
【0098】
また、本実施形態においては、第1微細溝159および第2微細溝139の周方向の長さLは、0.3mmで形成されている。この値に限られず、深さDを溶融樹脂が入り込まないように十分小さく構成することで、長さLを大きくすることもできる。
【0099】
(変形例)
図12は、ガス抜きピン101の変形例を示す。図12(A)に示すガス抜きピン201の第1スリーブ150の第1外周側面158には、第1微細溝159と同等の構成の、第1微細溝159A,第1微細溝159B,第1微細溝159C,および第1微細溝159Dが、周方向に等間隔に形成されている。
【0100】
同様に、ガス抜きピン201の第2スリーブ130の第2外周側面138には、第2微細溝139と同等の構成の、第2微細溝139A,第2微細溝139B,第2微細溝139C,および第2微細溝139Dが、周方向に等間隔に形成されている。
【0101】
このように、第1スリーブ150の第1外周側面158および第2スリーブの第2外周側面138の少なくとも一方に、周方向に複数の微細溝を設けてもよい。微細溝の数を増加させることで、ガス抜きピン201のガス排出能力を、より向上させることができる。
【0102】
図12(B)に示すガス抜きピン301においては、第1スリーブ150の第1外周側面158に、第1微細溝159が形成されているが、第2スリーブ130の第2外周側面138には微細溝は形成されていない。
【0103】
同様に、図12(C)に示すガス抜きピン401においては、第2スリーブ130の第2外周側面138に、第2微細溝139が形成されているが、第1スリーブ150の第1外周側面158には微細溝は形成されていない。
【0104】
このように、第1スリーブ150の第1外周側面158または第2スリーブ130の第2外周側面138の、少なくともいずれか一方に、微細溝が形成されていればよい。
【0105】
ガス抜きピン101においては、射出成型時に開口部54が閉じられた後にも、キャビティC内のガスGASを金型外に逃がすことができる。ガス抜き通路として微細溝を設けることで、キャビティCからガスGASを、より逃がすことができ、ガスGASがキャビティCから抜けなくなるタイミングをより遅くすることができるという利点をもつ。これは、ガス抜きピンのガスの抜け終わりのタイミング問題を解決するものであり、押さえ部63を持たないガス抜きピンでも効果を発揮できるものである。
【0106】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、上記の実施形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1 :ガス抜きピン
50 :スリーブ
54 :開口部
60 :ピン本体
62 :蓋部
63 :押さえ部
69 :頭部
80 :金型
101:ガス抜きピン
130:第2スリーブ
131:貫通孔
138:第2外周側面(第2スリーブの外周側面)
139:第2微細溝(微細溝)
150:第1スリーブ(スリーブ)
158:第1外周側面(第1スリーブの外周側面)
159:第1微細溝(微細溝)
C :キャビティ
D :深さ(半径方向の幅)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12