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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010051
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】金属化合物含有物
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/00 20060101AFI20250109BHJP
   C01G 35/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C07F9/00 Z CSP
C01G35/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024105584
(22)【出願日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023107246
(32)【優先日】2023-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】荷方 惣一朗
【テーマコード(参考)】
4G048
4H050
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD10
4G048AE05
4G048AE06
4G048AE07
4H050AA01
4H050AB84
4H050WB13
(57)【要約】
【課題】CVD装置を用いる必要がなく、当該炭素基材上に保護膜を形成することができる金属化合物含有物を提供する。
【解決手段】本発明の金属化合物含有物は、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成するための金属化合物含有物であって、前記金属化合物含有物が、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素の化合物を含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成するための金属化合物含有物であって、
前記金属化合物含有物が、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素の化合物を含むものであることを特徴とする金属化合物含有物。
【請求項2】
前記金属化合物含有物中のTi、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素の化合物の含有量が、メタル換算で、0質量%超35質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物含有物。
【請求項3】
前記金属化合物含有物が、波長500nm~700nm領域の光透過率の最大値が70%T以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物含有物。
【請求項4】
前記金属化合物含有物が、動的光散乱法における前記金属化合物含有物中の粒子の粒子径(D50)が3000nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物含有物。
【請求項5】
前記金属化合物含有物が、pH6.5以上13.5以下であることを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の金属化合物含有物。
【請求項6】
前記金属元素の化合物が、ペルオキソ錯体金属化合物、金属水酸化物、ヒドロキシ酸錯体金属化合物、ポリ酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の金属化合物含有物。
【請求項7】
前記金属化合物含有物は、さらに有機窒素化合物を含むことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の金属化合物含有物。
【請求項8】
前記金属化合物含有物は、さらに過酸化水素を含むことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の金属化合物含有物。
【請求項9】
前記金属化合物含有物は、さらに樹脂を含むことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の金属化合物含有物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物含有物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性や、耐反応性(例えば、耐酸化性や、耐薬品性)が求められる部材は、その基材の表面に、金属化合物などの保護膜を形成することによって、耐熱性や、耐反応性の向上させることができ、その部材の寿命を延ばすことができる。
【0003】
例えば、炭素基材の表面に、保護膜として炭化タンタル層を形成する際には、特許文献1に開示されるように、CVD装置を用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/009515号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面に保護膜を形成可能な基材のサイズ・形状は、CVD装置毎に予め定められており、基材のサイズ・形状によっては、その表面に保護膜を形成することが出来なかった。また、CVD装置を用いた基材の表面に保護膜を形成する工程はかなり時間がかかっていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、CVD装置を用いる必要がなく、炭素基材上に保護膜を形成することができる金属化合物含有物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の金属化合物含有物は、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成するための金属化合物含有物であって、前記金属化合物含有物が、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素の化合物を含むものであることを特徴とする。
本願明細書において、「金属-炭素複合体被膜」とは、当該被膜中で、金属炭化物単独や、金属炭化物を含む炭素含有材料など、金属元素と炭素元素とが結合している状態で存在するものであってもよい。また、当該被膜中で、金属炭化物以外の金属化合物が炭素含有材料中に分散している状態、すなわち金属元素と炭素元素とが結合している状態ではなく、混合や分散している状態で存在するものであってもよい。当該金属炭化物以外の金属化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、及び金属水酸化物などが挙げられる。
【0008】
本発明の金属化合物含有物は、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素の化合物を含むものが挙げられる。具体的には、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むペルオキソ錯体金属化合物(例えば、ペルオキソヒドロキシ酸錯体金属化合物、ペルオキソクエン酸錯体金属化合物、ペルオキソアンモニウム錯体金属化合物)、金属水酸化物、ヒドロキシ酸錯体金属化合物(例えば、シュウ酸アンモニウム錯体金属化合物)、ポリ酸等が挙げられるが、これらの化合物に限定されない。また、当該金属化合物含有物は、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素以外の金属元素や、半金属元素、非金属元素を含有してもよい。例えば、B、Pなどが挙げられる。
【0009】
当該金属化合物含有物が、ペルオキソ錯体金属化合物である場合、炭素を含まない基材であっても、ペルオキソ錯体金属化合物が塗布された基材を加熱することにより、ペルオキソ錯体金属化合物に含まれる金属元素と炭素とが反応し、金属炭化物を形成する。また、当該金属化合物含有物が、ヒドロキシ酸錯体金属化合物である場合も、同様にヒドロキシ酸錯体金属化合物に含まれる金属元素と炭素とが反応し、金属炭化物を形成する。
【0010】
当該金属化合物含有物の含有量は、金属元素や、炭素基材の種類に応じて調整すると好ましく、0質量%超40質量%以下であるとより好ましく、0.1質量%以上30質量%以下であるとさらに好ましく、0.2質量%以上30質量%以下であると特に好ましく、0.3質量%以上15質量%以下であるとまた特に好ましい。なお、当該金属化合物含有物に、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zrから選ばれた複数の金属元素が含まれる場合、各質量分率の合計値が、上述した数値範囲内であると好ましい。
【0011】
ここで、当該金属化合物含有物の質量分率は、当該金属化合物含有物を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、メタル換算の質量分率を測定して算出してもよい。
【0012】
また、本発明の金属化合物含有物中のTi、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素の化合物の含有量が、メタル換算で、0質量%超35質量%以下であることを特徴とする。
当該金属化合物含有物中のTi、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素の化合物の含有量は、金属元素や、炭素系基材の種類に応じて調整すると好ましく、メタル換算で、0質量%超35質量%以下であるとより好ましく、0.03質量%以上25質量%以下であるとさらに好ましく、0.06質量%以上25質量%以下であると特に好ましく、0.1質量%以上15質量%以下であるとまた特に好ましい。なお、当該金属化合物含有物に、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zrから選ばれた複数の金属元素が含まれる場合、各メタル換算の質量分率の合計値が、上述した数値範囲内であると好ましい。なお、本明細書において、メタル換算とは、TiであればTi換算、NbであればNb換算、MoであればMo換算、HfであればHf換算、TaであればTa換算、WであればW換算、ZrであればZr換算、SiであればSi換算を意味する。また、当該金属化合物含有物は、Ti、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Zr、Siから選ばれる少なくとも1種の金属元素以外の金属元素や、半金属元素、非金属元素を含有してもよい。例えば、B、Pなどが挙げられる。
【0013】
また、本発明の金属化合物含有物は、Ta化合物を含むものであってもよい。
当該金属化合物含有物が、Ta化合物を含むものであると、炭素基材上に含まれる炭素を反応し、炭化反応が進みやすい点で好ましい。具体的には、Ta化合物は、ペルオキソクエン酸タンタル化合物、タンタル酸水酸化物、ポリオキソタンタレートが挙げられる。
【0014】
当該金属化合物含有物が、ペルオキソクエン酸タンタル化合物である場合、炭素を含まない基材であっても、ペルオキソクエン酸タンタル化合物が塗布された基材を加熱することにより、ペルオキソクエン酸タンタル化合物に含まれるタンタルと炭素とが反応し、炭化タンタルを形成する。
【0015】
さらに、当該金属化合物含有物がタンタル酸水酸化物である場合、当該金属化合物含有物中のタンタル濃度は、典型的には、5質量%以上30質量%以下、5質量%以上25質量%以下、5質量%以上20質量%以下、5質量%以上15質量%以下、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0016】
ここで、当該金属化合物含有物がタンタル酸水酸化物である場合、当該金属化合物含有物中のタンタルの含有量は、当該金属化合物含有物を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、タンタル換算のタンタル質量分率を測定して算出する。
【0017】
また、本発明の金属化合物含有物は、樹脂を含むものであってもよい。
当該金属化合物含有物は、樹脂を含むものであると、樹脂が、金属化合物と均一に相溶し、炭素基材に対して、付着する働きをすることにより、炭素基材に対する成膜性、密着性が向上する点で好ましい。
【0018】
当該金属化合物含有物に含まれる樹脂として、ポリオレフィン系化合物、ポリビニル系化合物等が挙げられる。
【0019】
さらに、本発明の金属化合物含有物に含まれる樹脂として、アニオン性水溶性樹脂、およびまたは、ノニオン性水溶性樹脂であってもよい。
本発明の金属化合物含有物に含まれる樹脂が、アニオン性水溶性樹脂、およびまたは、ノニオン性水溶性樹脂であると、アニオン性水溶性樹脂、およびまたは、ノニオン性水溶性樹脂が、上述した金属化合物と均一に相溶し、基材に対して、付着する働きをすることにより、プラスチックフィルム基材に対する成膜性、及び密着性が向上する。
【0020】
ここで、カチオン性水溶性樹脂とは、ポリマー中に、pH=7の水中にて正の電荷を有し、例えばアミノ基、イミノ基、3級アミン基、4級アンモニウム基、ヒドラジノ基の何れかの官能基を有する樹脂である。また、アニオン性水溶性樹脂とは、ポリマー中に、pH=7の水中にて負の電荷を有し、例えばカルボキシル基、スルホン基、硫酸エステル基、リン酸エステル基の何れかの官能基を有する樹脂である。さらに、ノニオン性水溶性樹脂とは、上述したカチオン性水溶性樹脂、又はアニオン性水溶性樹脂に該当せず、例えばポリマー中に、ヒドロキシ基、エーテル基、アミド基の何れかの官能基を有する樹脂である。
【0021】
さらに、これら樹脂が、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、スチレンポリマー、オレフィンポリマー、アミドポリマー、シロキサンポリマー、エポキシポリマー、塩化ビニルポリマー、酢酸ビニルポリマーからなる群より選ばれる水溶性ホモポリマー、およびまたは、これら2種以上のポリマーからなる水溶性コポリマーを1種以上含むものであるとよい。特に、アクリルポリマー、スチレンポリマー、及びオレフィンポリマーの水溶性ホモポリマー、およびまたは、これら2種以上のポリマーからなる水溶性コポリマーを1種以上含むものであると好ましい。
【0022】
また、本発明の金属化合物含有物は、前記金属化合物含有物を100質量%としたとき、樹脂含有量が0.1質量%以上60質量%以下であってもよい。
本発明の金属化合物含有物中の樹脂含有量が0.1質量%以上60質量%以下であると、微細な金属化合物が乾燥後に凝集するのを抑制ができたり、炭素基材への金属化合物含有物の濡れ性を向上することができる点で好ましい。当該樹脂含有量が0.15質量%以上40質量%以下であってもよく、0.2質量%以上30質量%以下であってもよく、0.25質量%以上20質量%以下であってもよい。
【0023】
また、本発明の金属化合物含有物は、界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含むものであってもよい。
界面活性剤は、官能基にアミン基、カルボキシル基、水酸基、リン酸、スルホン基または不飽和脂肪酸を側鎖に有するオレフィン系樹脂、アセチレングリコール系化合物、ポリオキシアルキレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の金属化合物含有物は、前記金属化合物含有物を100質量%としたとき、界面活性剤含有量が0.001質量%以上10質量%以下であってもよい。
本発明の金属化合物含有物中の樹脂含有量が0.001質量%以上10質量%以下であると、基材への金属化合物含有物の濡れ性を向上することができる点で好ましい。当該樹脂含有量が0.01質量%以上5質量%以下であってもよく、0.05質量%以上3質量%以下であってもよく、0.1質量%以上1質量%以下であってもよい。
【0025】
また、本発明の金属化合物含有物は、炭素材料を含むものであってもよい。
当該金属化合物含有物は、炭素材料を含むものであると、炭素材料が、炭化時の炭素成分になり、炭化が向上する点で好ましい。
【0026】
また、本発明の金属化合物含有物は、溶媒として、多価アルコール系溶媒、グリコール系溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の高沸点溶媒を含むものであってもよい。
本発明の金属化合物含有物に含まれる高沸点溶媒が、多価アルコール系溶媒、グリコール系溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであると、当該金属化合物含有物の乾燥性が適度に抑制されることから、乾燥によって生じる固形分によるノズル詰まりの発生を抑える。
【0027】
ここで、多価アルコール系溶媒とは、グリセリン(沸点:290℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点:250℃)、1,7-ヘプタンジオール(沸点:259℃)などが挙げられる。また、グリコール系溶媒とは、エチレングリコール(沸点:197.3℃)、プロピレングリコール(沸点:188.2℃)、ジエチレングリコール(沸点:244.3℃)、トリエチレングリコール(沸点:287.4℃)、オリゴエチレングリコール(沸点:287℃~460℃)、ポリエチレングリコール(PEG)(沸点:460℃以上)、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)コポリマー(沸点:460℃以上)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:260℃)、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(沸点:260℃以上)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(沸点:321℃以上)、その他アニオン性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、両性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、ノニオン性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、アミンオキシド(沸点:180℃以上)などが挙げられる。上述した沸点は、1気圧における沸点である。
【0028】
なお、高沸点溶媒は、沸点が高い特性であることから、1気圧における沸点が過度に高い場合、沸騰の前に高沸点溶媒が分解してしまい、正確な沸点が測定できない場合がある。このような場合、減圧時の沸点を測定し、汎用的な沸点換算表を用いて1気圧における沸点を換算してもよい。
【0029】
さらに、本発明の金属化合物含有物は、溶液、ゾル、又はゲルであってもよい。当該金属化合物含有物とは、金属化合物を含有するものであって、より具体的には、せん断応力を負荷することによって、液状化するものであればよい。すなわち、当該金属化合物含有物は、常態で、液状、ゾル状、ゲル状、半固形状のものを含み、炭素基材上に塗布することができるものであればよい。さらに、ゲルとは、25℃における回転円筒法による粘度が200mPa・s以上としてもよい。
【0030】
また、本発明の金属化合物含有物が、溶液であると、炭素基材上に容易に塗布することができ、好ましい。さらに、本発明の金属化合物含有物が、溶媒として水を含むものであると、環境負荷の低減の観点で好ましい。
【0031】
また、本発明の金属化合物含有物が、波長500nm~700nm領域の光透過率の最大値が70%T以上であることを特徴とする。
本発明の金属化合物含有物は、波長500nm~700nm領域の光透過率の最大値が70%T以上であると、分散度が高く液中成分の均一性が優れる点で好ましい。当該波長500nm~700nm領域の光透過率の最大値が、72%T以上であるとより好ましく、74%T以上であるとさらに好ましく、76%T以上であると特に好ましく、78%T以上であるとまた特に好ましく、80%T以上であるとより特に好ましい。当該波長500nm~700nm領域の光透過率が80%Tであってもよい。なお、測定誤差等により、光透過率の測定値が100%Tを超える場合があるが、理論上限値は100%Tであるため、当該測定値が100%T超の場合、100%Tとみなす。なお、本明細書における「光透過率」は、後述するように「初期光透過率」、又は「経時光透過率」と別段特定しない限り、何れか一方を特定するものではない。
【0032】
さらに、本発明の金属化合物含有物は、波長550nm~700nm領域における光透過率が70%T以上であると好ましく、75%T以上であるとより好ましく、80%T以上であるとさらに好ましく、85%T以上であると特に好ましく、また90%T以上であるとより好ましく、また95%T以上であるとさらに好ましく、また98%T以上であると特に好ましく、さらに99%T以上であるとより好ましく、100%T以上であると最も好ましい。なお、光透過率の測定に用いた分光光度計の測定誤差等により測定値が100%Tを超える場合は100%Tとみなす。
【0033】
ここで、波長500nm~700nm領域の光透過率は、本発明の金属化合物含有物について、以下の光透過率測定条件に従って、分光光度計を用いて測定する。
【0034】
=光透過率測定条件=
・測定装置:紫外可視近赤外分光光度計UH4150形(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200nm~2000nm
・スキャンスピード:600nm/min
・サンプリング間隔:2nm
【0035】
一方、本発明の金属化合物含有物が、Siの化合物を含む場合、波長500nm~700nm領域の光透過率は、室温(25℃)に調整した本発明のSiの化合物を含む金属化合物含有物3gを測定セル(光路長1cm)に入れ、以下の光透過率測定条件(Siを含む)に従い、JIS K 0115、2004「吸光光度分析方法通則」に準拠し、紫外-可視吸収スペクトル(UV-Vis吸収スペクトル)を測定することにより、求められる。
【0036】
=光透過率測定条件(Siを含む)=
・測定装置:U-2900型分光光度計(株式会社日立ハイテク製)
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200nm~1000nm
・スキャンスピード:200nm/min
・サンプリング間隔:1nm
・セル長:10mm
・測定セル:粒径用ディスポ角セル(大塚電子株式会社製)
【0037】
また、本発明の金属化合物含有物が、動的光散乱法における前記金属化合物含有物中の粒子の粒子径(D50)が3000nm以下であることを特徴とする。
本発明の金属化合物含有物中の粒子の粒子径(D50)が3000nm以下であると、経時安定性の観点から好ましく、2000nm以下であるとより好ましく、1000nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、100nm以下、50nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、5nm以下、3nm以下、2nm以下であってもよい。一方、当該粒子径(D50)は0.1nm以上であると好ましく、0.5nm以上であるとより好ましく、0.7nm以上であるとさらに好ましく、1nm以上であると特に好ましい。典型的には、当該粒子径(D50)は0.6nm以上200nm以下である。なお、本明細書における「粒子径(D50)」は、後述するように「初期粒子径(D50)」、又は「経時粒子径(D50)」と別段特定しない限り、何れか一方を特定するものではない。
【0038】
ここで、動的光散乱法とは、懸濁溶液などの溶液にレーザ光などの光を照射することにより、ブラウン運動する粒子群からの光散乱強度を測定し、その強度の時間的変動から粒子径と分布を求める方法である。具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。また、必要に応じて純水で1000倍に希釈したものを測定試料とし、測定直前に当該測定試料中の埃等を除去するため、11μm孔径のフィルタで当該測定試料を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて3分間の超音波処理を実施する。さらに、当該測定試料の液温は25℃に調整した。なお、当該粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。
【0039】
また、本発明の金属化合物含有物が、pH6.5以上13.5以下であることを特徴とする。
本発明の金属化合物含有物のpHが、6.5以上であると、溶解性が良好である点で好ましい。当該金属化合物含有物のpHが7.0以上であるとより好ましく、7.5以上であるとさらに好ましく、8.0以上であると特に好ましい。当該金属化合物含有物のpHは、8.5以上であってもよく、9.0以上であってもよく、9.5以上であってもよく、10.0以上であってもよく、10.5以上であってもよく、11.0以上であってもよい。一方、当該金属化合物含有物のpHが13.5以下であると好ましく、13.0以下であるとより好ましく、12.5以下であるとさらに好ましい。なお、本明細書における「pH」は、後述するように「初期pH」、又は「経時pH」と別段特定しない限り、何れか一方を特定するものではない。
【0040】
ここで、本発明の金属化合物含有物のpHの測定は、当該金属化合物含有物にpHメータ(HORIBA製:ガラス電極式水素イオン濃度指示器 D-51)の電極(HORIBA製:スタンダード ToupH 電極 9615S-10D)を浸漬し、液温が25℃に安定したことを確認した後、実施する。
【0041】
また、本発明の金属化合物含有物は、アンモニアを含有するものであってもよい。
本発明の金属化合物含有物は、当該金属化合物含有物に含まれる金属化合物が、その製造工程において、酸性の金属酸溶液をアンモニア水に添加する逆中和法を経て、生成されることから、アンモニウムイオンを含むアンモニアが陽イオンとして当該含有物中に存在すると考えられる。
【0042】
当該含有物中に存在するアンモニア濃度の測定方法は、当該含有物に水酸化ナトリウムを加えてアンモニアを蒸留分離し、イオンメータによりアンモニア濃度を定量する方法、ガス化した試料中のN分を熱伝導度計で定量する方法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)などが挙げられる。特に、イオンメータによる定量する方法が好ましい。
【0043】
本発明の金属化合物含有物に含まれるアンモニウムイオンを含むアンモニアのアンモニア濃度は、0.001質量%以上25質量%以下であると好ましく、0.003質量%以上15質量%以下であるとより好ましい。当該アンモニア濃度は、0.1質量%以上10質量%以下であってもよく、0.5質量%以上10質量%以下であってもよく、1質量%以上8質量%以下であってもよい。
【0044】
また、本発明の金属化合物含有物は、有機窒素化合物、およびまたは、過酸化水素を含有するものであってもよい。
本発明の金属化合物含有物に含まれる金属化合物が、その製造方法において、有機窒素化合物、およびまたは、過酸化水素水が用いられていることから、本発明の金属化合物含有物が、有機窒素化合物、およびまたは、過酸化水素を含有してもよい。
【0045】
本発明の金属化合物含有物中の有機窒素化合物は、金属化合物とイオン結合した状態のイオンとして当該含有物中に存在するものと推測する。
【0046】
ここで、有機窒素化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物が挙げられる。
【0047】
脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ピペリジンなどが挙げられる。
【0048】
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、フェニレンジアミン、ジアミノトルエンなどが挙げられる。さらに、アミノアルコールとしては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエチルメタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタンおよびアミノフェノールなどが挙げられる。また、アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、EDTAなどが挙げられる。さらに、ポリアミンとしては、例えば、ポリアミン、ポリエーテルアミンなどが挙げられる。
【0049】
4級アンモニウムとしては、例えば、アルキルイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。ここで、アルキルイミダゾリウムの具体例としては、1-メチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム、ピロリジウムの具体例としては、N-ブチル-ピリジニウム、N-エチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ブチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ヘキシル-4-(ジメチルアミノ)-ピリジニウム、N-メチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-1-メチルピロリジニウムなどが挙げられる。さらに、テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル-ジメチル-プロピルアンモニウム、コリンが挙げられる。なお、上述したカチオンと塩を形成するアニオンとしては、OH、Cl、Br、I、BF 、HSO などが挙げられる。
【0050】
グアニジン化合物としては、グアニジン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジンなどが挙げられる。また、アゾール化合物としては、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物などが挙げられる。ここで、イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。また、トリアゾール化合物の具体例としては、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル、1,2,3-ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0051】
ここで、有機窒素化合物は、脂肪族アミンであると、揮発性が高く、低毒性でもあるから好ましい。具体的には、炭素数1以上6以下の脂肪族アミンであるとより好ましく、炭素数1以上4以下の脂肪族アミンであるとさらに好ましく、炭素数1以上2以下の脂肪族アミンであると特に好ましい。例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミンなどが挙げられる。
【0052】
また、有機窒素化合物は、4級アンモニウムであると、溶解性が高いだけでなく、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で好ましい。例えば、テトラアルキルアンモニウム塩が好ましく、水酸化テトラアルキルアンモニウム塩がより好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムが特に好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)がまた特に好ましい。
【0053】
さらに、有機窒素化合物は、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物から選択された1種ではなく、2種以上を混合したものであってもよい。例えば、脂肪族アミンと4級アンモニウムとの2種を混合したものであれば、毒性が上がらないように添加量を抑えつつ、溶解度をあげることができる点で好ましい。
【0054】
具体的には、メチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン及びジメチルアミンのように2種の有機窒素化合物を混合したものや、メチルアミン、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のように3種の有機窒素化合物を混合したものが挙げられる。
【0055】
なお、本発明の金属化合物含有物中に存在する有機窒素化合物濃度の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)などが挙げられる。特に、液体クロマトグラフィー(LC)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)による測定が好ましい。
【0056】
上述した通り、本発明の金属化合物含有物に含まれる有機窒素化合物が、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、又はそれらの混合物である脂肪族アミン、または水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、又は水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)である4級アンモニウム化合物であると好ましい。
【0057】
本発明の金属化合物含有物中の過酸化水素の検出方法は、例えば標準添加法を用いて、過酸化水素の標準液との吸光度の相対強度を測定することにより、当該含有物中の過酸化水素の含有量を確認することができる。具体的には、既知濃度、例えば1質量%過酸化水素を含む標準液と、過酸化水素が無添加の標準液とにおけるそれぞれの紫外可視吸収スペクトルから、ペルオキソ錯体形成に伴う吸光度の変化が観測される波長領域を見出し、その波長領域における過酸化水素が無添加の標準液と過酸化水素濃度が不明な試料との吸光度の差が1%未満であれば、過酸化水素濃度が不明な試料に過酸化水素が実質的に含まれていないことを確認することができる。当該含有物中に過酸化水素が含まれている場合、過酸化水素は金属のポリ酸と反応し、ペルオキソ錯体を形成することから、上述したように過酸化水素が無添加の標準液の吸光度の差を確認することにより、当該含有物中に過酸化水素が含まれていないことを確認できる。また、上述した標準添加法以外にも、例えば市販の過酸化水素測定キットを用いて、当該含有物に過酸化水素と呈色反応する試薬を加え、その発色を測定する方法や、当該含有物に過酸化水素と蛍光反応する試薬を加え、その発光を測定することによって、当該含有物中の過酸化水素を定性分析及び定量分析を行ってもよい。
【0058】
また、本発明の炭素基材は、炭素のみからなる基材や、炭素を主成分とし、炭素の含有量が50質量%以上である基材や、多層構造であって、その最外層が、炭素のみ、又は炭素を主成分とし、炭素の含有量が50質量%以上である基材であってもよい。炭素基材は、炭素のみからなる基材であると特に好ましい。
【0059】
また、炭素基材のサイズ・形状は、後述する加熱工程で用いる静置炉で加熱可能なサイズや、形状であれば、特に限定されない。具体的には、炭素基材として、るつぼ、炉材、電極、繊維、ろ過装置、フィルタ、保護管、ヒーターチューブ、バーナーノズル、耐火性治具等が挙げられる。
【0060】
炭素基材の炭素材料として、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、酸化グラフェン、カーボンナノホーン、ダイヤモンド、ハイパーダイヤモンド、炭素繊維等が挙げられる。
【0061】
また、当該炭素材料は、炭素のみや、炭素を含むその他材料からなるものであってもよい。さらに、当該炭素材料の構造として、均一な組織構造を有するものや、不均一な組織構造を有するものであってもよい。なお、均一な組織構造として、中空状、多孔質であってもよい。また、不均一な組織構造として、例えば、海島状、複層状、中空状、多孔質であってもよい。
【0062】
さらに、当該炭素材料の形状として、粉末状、板状、膜状、繊維状等の形状であってもよく、これらの成形体、すなわち混合体、複層体、圧粉体、焼結体、繊維束体、不織体、織物体(平織、綾織、朱子織、籠織)であってもよい。
【0063】
当該炭素材料は、特に繊維状材料であると好ましく、具体的には、金属繊維(鋼繊維など)、セラミックス繊維(金属酸化物繊維、金属炭化物繊維、金属窒化物繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維など)、高分子繊維(天然高分子繊維、多糖類繊維、セルロース繊維、人工高分子繊維、樹脂繊維、炭素繊維など)が挙げられる。
【0064】
さらに、本発明の金属化合物含有物は、その作用効果を阻害しない範囲で、金属化合物に由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばLi、Mg、Si、Ca、Ti、Mn、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Mo、Ba、W、Bi、Bなどが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。当該金属化合物含有物における他成分の含有量は、5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、当該金属化合物含有物は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0065】
上述した本発明の金属化合物含有物の製造方法の一例として、チタン酸含有液の製造方法について、以下説明する。
【0066】
チタン酸含有液の製造方法は、チタン塩溶液とアミン水溶液とを混合して中和反応液を得る中和工程と、前記中和反応液中に生じたチタン含有沈殿物を洗浄する洗浄工程と、洗浄後のチタン含有沈殿物と4級アンモニウム塩と水とを混合してチタン酸含有液を得る溶解工程と、を有する。
【0067】
チタン塩溶液は、チタンが溶解している溶液であればよい。例えば硫酸チタニル水溶液、塩化チタン水溶液、フッ化チタン水溶液などを挙げることができる。また、塩化チタン水溶液は、塩化チタン(TiCl)を少量のメタノールに溶かし、さらに水を加えることにより生成される。さらに、硫酸チタニル水溶液は、硫酸チタニルを熱水に溶解することにより生成される。当該硫酸チタニル水溶液中のチタン含有量は、TiO換算で8~15質量%となるように調製するとよい。
【0068】
中和工程では、上述したチタン塩溶液とアミン水溶液とを混合して反応させることにより中和反応液が得られる。当該中和工程では、硫酸チタニル水溶液などのチタン塩溶液を、アミン水溶液に加えて反応させる逆中和とするのが好ましい。このように逆中和することによって、チタン乃至チタン酸の構造が水に溶けやすい構造になると推測する。
【0069】
中和工程で用いるアミン水溶液のアミンは、アルキルアミンなどが好ましい。アルキルアミンは、アルキル基を1~3個有するものであると好ましい。アルキル基を2~3個有する場合、3個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また異なるものを含んでいてもよい。アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1~6のものが好ましく、4以下のものがより好ましく、3以下ものがさらに好ましく、2以下のものが特に好ましい。
【0070】
アルキルアミンの具体例として、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキサアミンなどが挙げられる。特に、溶解性の点からは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンおよびジメチルエチルアミンが好ましく、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンがより好ましい。
【0071】
また、中和工程では、分散性を高める観点から、前記チタン塩溶液を、当該チタン塩溶液に含まれる硫酸とモル比で等量以上すなわち1以上のアミンを含有するアミン水溶液に加えることが好ましく、1.2以上のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがより好ましく、1.4以上のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがさらに好ましい。他方、廃液量が多くなる観点から、前記チタン塩溶液を、該記チタン塩溶液に含まれる硫酸とモル比で2以下のアミンを含有するアミン水溶液に加えることが好ましく、1.8以下のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがより好ましく、1.6以下のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがさらに好ましい。
【0072】
さらに、中和工程では、硫酸チタニル水溶液などのチタン塩溶液を、アミン水溶液に加える際、1分以内に中和反応させるのが好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に前記チタン塩溶液を加えるのではなく、例えば一気に投入するなど、1分以内の時間で投入して中和反応させるのが好ましい。この際、前記チタン塩溶液の添加時間は、1分以内とするのが好ましく、30秒以内とするのがより好ましく、10秒以内とするのがさらに好ましい。
【0073】
次に、洗浄工程における洗浄方法は、例えば、アンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法のほか、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、洗浄工程は、常温で行えばよく、それぞれの温度調整は特に必要ない。
【0074】
上述した中和工程で得られた中和反応液、中でもそのチタン含有沈殿物には、不純物として、硫酸アンモニウムなどの硫酸化合物など、チタン乃至チタン酸の水和物乃至イオン及びアミン以外の不要な成分が水中に存在するため、当該不要な成分を洗浄し、除去すると好ましい。
【0075】
そして、溶解工程では、洗浄工程で洗浄されて得たチタン含有沈殿物、例えば硫酸除去して得られたチタン含有沈殿物は、水などの分散媒を加えると共に、4級アンモニウム塩を加えて、必要に応じて攪拌することにより、チタン酸含有液が得られる。
【0076】
ここで、4級アンモニウム塩は、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化メチルトリプロピルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウム、水酸化テトラヘキシルアンモニウム水酸化エチルトリメチルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、又は、水酸化(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムなどが挙げられる。なお、上述した4級アンモニウム塩に代えて、1~3級アミン又はこれらの塩を加えた場合、水溶液化することができない。
【0077】
4級アンモニウム塩の添加量は、上述したように、4級アンモニウムの量が多ければ、チタン乃至チタン酸の水に対する溶解性を高めることができることから、前記溶解工程では、前記洗浄後のチタン含有沈殿物に含まれるチタン1モルに対して0.44モル以上の4級アンモニウムを含む4級アンモニウム塩を混合すると好ましい。他方、4級アンモニウムが多過ぎると、製膜性の障害になったり、触媒作用を阻害したりするなどの不具合を生じる可能性がある観点から、前記溶解工程では、前記洗浄後のチタン含有沈殿物に含まれるチタンに1モル対して1.0モル以下の4級アンモニウムを有する4級アンモニウム塩を混合すると好ましい。
【0078】
また、本発明の金属化合物含有物の製造方法の別の一例として、ニオブ酸含有液の製造方法について、以下説明する。
【0079】
ニオブ酸含有液の製造方法は、ニオブを含有する酸性ニオブ溶液を生成する工程と、前記酸性ニオブ溶液をアンモニア水に添加する逆中和法によりニオブを含有する沈殿スラリーを得る工程と、得られた前記ニオブを含有する沈殿スラリーとアミン及びアンモニアから選択される少なくとも1種とを混合した混合物を撹拌し、ニオブ酸含有液を得る工程と、を有する。
【0080】
ニオブを含有する酸性ニオブ溶液を生成する工程において、酸性ニオブ溶液は、ニオブがフッ化水素酸を含む酸性溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られたフッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液をいう。
【0081】
ここで、フッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液、例えばフッ化ニオブ水溶液は、水(例えば純水)を加えてニオブをNb換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、ニオブ濃度がNb換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、ニオブ濃度がNb換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、フッ化ニオブ水溶液のpHは、ニオブ乃至ニオブ酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0082】
次に、前記酸性ニオブ溶液をアンモニア水に添加する逆中和法によりニオブを含有する沈殿スラリーを得る工程(以下、逆中和工程という。)では、フッ化物イオンを含有する酸性ニオブ溶液を所定濃度のアンモニア水中に添加、すなわち逆中和法により、ニオブを含有する沈殿スラリーを得るのが好ましい。
【0083】
逆中和に用いるアンモニア水のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、ニオブが溶け残りにくくなり、ニオブ乃至ニオブ酸を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0084】
かかる観点から、アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0085】
逆中和工程の際、アンモニア水に添加するフッ化ニオブ水溶液の添加量は、NH/Nbのモル比が95以上500以下とするのが好ましく、100以上450以下とするのがより好ましく、110以上400以下とするのがさらに好ましい。また、アンモニア水に添加するフッ化ニオブ水溶液の添加量は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるニオブ酸化合物が生成する観点から、NH/HFのモル比が3.0以上とするのが好ましく、4.0以上とするとより好ましく、5.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/HFのモル比が100以下とするのが好ましく、50以上とするとより好ましく、40以上とするとさらに好ましい。
【0086】
逆中和工程において、フッ化ニオブ水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々にフッ化ニオブ水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和工程では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性のフッ化ニオブ水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、フッ化ニオブ水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0087】
また、ニオブ酸含有液の製造方法は、逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去し、フッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物を得る工程を有する。逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーには、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0088】
フッ素化合物の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、ニオブを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0089】
具体的には、逆中和法により得られたニオブを含有する沈殿スラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、フッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物が得らえる。
【0090】
フッ化物イオンの除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニウムイオンを含むアンモニアがフッ化物イオンに対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0091】
このようにして、得られたフッ化物イオンが除去されたニオブ含有沈殿物を純水などで希釈することにより、フッ化物イオンが除去された、ニオブを含有する沈殿スラリーが得られる。なお、当該ニオブを含有する沈殿スラリーのニオブ濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、Nbを生成する。このように生成したNbの重量を測定し、その重量から当該スラリーのニオブ濃度を算出することができる。
【0092】
そして、フッ化物イオンが除去された、前記ニオブを含有する沈殿スラリーとアミン及びアンモニアから選択される少なくとも1種とを混合した混合物を撹拌することにより、ニオブ酸含有液が得られる。
【0093】
前記ニオブを含有する沈殿スラリーと混合するアミン及びアンモニアから選択される少なくとも1種は、アルキルアミン、コリン([(CHNCHCHOH])、水酸化コリン([(CHNCHCHOH]OH)などが好ましい。
【0094】
アルキルアミンは、アルキル基を1~4個有するものであると好ましい。アルキル基を2~4個有する場合、2~4個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また異なるものを含んでいてもよい。アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1~6のものが好ましく、4以下のものがより好ましく、3以下ものがさらに好ましく、2以下のものが特に好ましい。
【0095】
アルキルアミンの具体例として、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキサアミンなどが挙げられる。特に、溶解性の点からは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミンおよび水酸化テトラエチルアンモニウムがより好ましく、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウムがさらに好ましく、メチルアミンが特に好ましい。
【0096】
また、本発明の金属化合物含有物のまた別の一例として、モリブデン酸含有液の製造方法について、以下説明する。
【0097】
モリブデン酸含有液の製造方法は、モリブデンをMoO換算で、1~100g/L含有する酸性モリブデン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、モリブデン含有沈殿を生成する工程と、前記モリブデン含有沈殿をスラリー状としたモリブデン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、モリブデン酸含有液を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0098】
先ず、モリブデンをMoO換算で、1~100g/L含有する酸性モリブデン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、モリブデン含有沈殿を生成する工程において、酸性モリブデン水溶液は、モリブデンが硫酸を含む酸性水溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られた硫酸モリブデン水溶液をいう。なお、本明細書で言及するモリブデンは、特段の説明がない限り、モリブデン酸化物を含むものである。
【0099】
ここで、硫酸モリブデン水溶液は、水(例えば純水)を加えてモリブデンをMoO換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、モリブデン濃度がMoO換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいモリブデン酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、モリブデン濃度がMoO換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいモリブデン酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいモリブデン酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、硫酸モリブデン水溶液のpHは、モリブデン乃至モリブデン酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0100】
硫酸モリブデン水溶液をアンモニア水溶液に添加する際、いわゆる逆中和法では、硫酸モリブデン水溶液を10質量%~30質量%のアンモニア水溶液中に添加し、すなわち逆中和法により、モリブデン酸化合物水和物のスラリー、いわゆるモリブデン含有沈殿物のスラリーを得るのが好ましい。
【0101】
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、モリブデンが溶け残りにくくなり、モリブデン乃至モリブデン酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0102】
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0103】
逆中和の際、アンモニア水に添加する硫酸モリブデン水溶液の添加量は、NH/MoOのモル比が0.1以上300以下とするのが好ましく、5以上200以下とするのがより好ましい。また、アンモニア水に添加する硫酸モリブデン水溶液は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるモリブデン酸化合物が生成する観点から、NH/SO 2-のモル比が3.0以上とするのが好ましく、10.0以上とするとより好ましく、20.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/SO 2-のモル比が200以下とするのが好ましく、150以下とするとより好ましく、100以下とするとさらに好ましい。
【0104】
逆中和において、硫酸モリブデン水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に硫酸モリブデン水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の硫酸モリブデン水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、硫酸モリブデン水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0105】
そして、逆中和法により得られたモリブデン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去し、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿を生成する。逆中和法により得られたモリブデン含有沈殿物のスラリーには、不純物として、モリブデン乃至モリブデン酸化物と反応せず残った硫酸イオン、及び硫酸水素イオンの硫黄分が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0106】
硫黄分の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、モリブデン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0107】
具体的には、逆中和法により得られたモリブデン含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、モリブデン含有沈殿物のスラリーの導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿物が得られる。当該導電率は、モリブデン含有沈殿物のスラリーの液温を25℃に調整し、導電率計(アズワン社製:ASCON2)の測定部を当該沈殿物のスラリーの上澄み液に浸漬され、導電率の値が安定してから、その数値を読み取った。
【0108】
硫黄分の除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンが硫黄分に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0109】
次に、前記モリブデン含有沈殿をスラリー状としたモリブデン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、モリブデン酸含有液を生成する工程において、モリブデン含有沈殿スラリーは、上述したように硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿を純水などで希釈し、スラリー状としたものである。なお、硫黄分が除去された、モリブデン含有沈殿スラリーのモリブデン濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、MoOを生成する。このように生成したMoOの重量を測定し、その重量から当該スラリーのモリブデン濃度を算出することができる。
【0110】
そして、硫黄分が除去されたモリブデン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を混合することにより、モリブデン酸含有液が得られる。
【0111】
具体的には、最終的な混合物のモリブデン濃度がMoO換算で0.1~40質量%となるように、得られたモリブデン含有沈殿スラリーを、有機窒素化合物に加え、純水と混合し、当該混合物を撹拌しながら、液温を室温(25℃)に1時間保持することにより、無色透明なモリブデン酸含有液が得られる。
【0112】
モリブデン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウムであると好ましい。
【0113】
ここで、脂肪族アミンは、溶解性の観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、脂肪族アミンは、メチルアミン、又はジメチルアミンであるとより好ましく、メチルアミンであると特に好ましい。
【0114】
他方、4級アンモニウムは、溶解性の観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、モリブデン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、4級アンモニウムは、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であるとより好ましい。
【0115】
さらに、モリブデン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、または4級アンモニウムの何れかの1種ではなく、2種以上を混合したものでもよい。例えば、メチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン及びジメチルアミンのように2種以上の有機窒素化合物を混合したものや、メチルアミン、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のように3種以上の有機窒素化合物を混合したものが挙げられ、用途に合わせて適宜変更してもよい。
【0116】
また、本発明の金属化合物含有物の製造方法のまた別の一例として、ハフニウム酸含有液の製造方法について、以下説明する。
【0117】
本発明のハフニウム酸含有液の製造方法は、ハフニウムを含有する酸性ハフニウム水溶液を、アルカリ性水溶液に添加し、ハフニウム含有沈殿物を生成する工程と、前記ハフニウム含有沈殿物をスラリー状としたハフニウム含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、ハフニウム酸含有液を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0118】
先ず、ハフニウム、ハフニウム酸化物、又は水酸化ハフニウムに対し、フッ化水素酸水溶液などのフッ酸(HF)を加えて、ウォーターバスで60℃~100℃に維持し、1時間~72時間保持することにより反応させて、フッ化ハフニウム(HfF)とし、これを水に溶解することにより、ハフニウム化合物のフッ酸溶解液を生成する。
【0119】
ここで、ハフニウム化合物のフッ酸溶解液は、水(例えば純水)を加えてハフニウムをHfO換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、ハフニウム濃度がHfO換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいハフニウム酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、ハフニウム濃度がHfO換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいハフニウム酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいハフニウム酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、ハフニウム化合物のフッ酸溶解液のpHは、ハフニウム乃至ハフニウム酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0120】
次に、過酸化水素を、ハフニウム化合物のフッ酸溶解液に添加して、混合することにより、酸性、又は中性のハフニウム錯体水溶液が得られる。なお、得られたハフニウム錯体水溶液に含まれるハフニウムの少なくとも一部は、ペルオキソ錯体を形成していると推測する。
【0121】
ここで、ハフニウム化合物のフッ酸溶解液に添加される過酸化水素水の過酸化水素濃度は、0.5質量%~35質量%であると好ましい。また、過酸化水素は、過酸化水素とハフニウムとのモル比H/Hfが0.6以上1.5以下となるように添加すると好ましく、過酸化水素が混合中に分解する可能性があることから、0.7以上1.2以下であるとより好ましい。
【0122】
ハフニウム錯体水溶液を、アルカリ性水溶液に添加し、ハフニウム含有沈殿物を生成する工程では、ハフニウム錯体水溶液を、アルカリ性水溶液、例えばアンモニア水に添加、すなわち逆中和法により、ハフニウムを含有する沈殿スラリーが得られる。そして、得られたハフニウムを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去することにより、フッ化物イオンが除去されたハフニウム含有沈殿物が得られる。
【0123】
逆中和に用いるアンモニア水のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、ハフニウムが溶け残りにくくなり、ハフニウム乃至ハフニウム酸を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0124】
かかる観点から、アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%以上であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0125】
逆中和工程の際、アンモニア水に添加するハフニウム錯体水溶液の添加量は、NH/Hfのモル比が95以上500以下とするのが好ましく、100以上450以下とするのがより好ましく、110以上400以下とするのがさらに好ましい。また、アンモニア水に添加するハフニウム錯体水溶液の添加量は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるハフニウム酸化合物が生成する観点から、NH/HFのモル比が3.0以上とするのが好ましく、4.0以上とするとより好ましく、5.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/HFのモル比が100以下とするのが好ましく、50以下とするとより好ましく、40以下とするとさらに好ましい。
【0126】
逆中和工程において、ハフニウム錯体水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、10分以内であると好ましく、8分以内であるとより好ましく、5分以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々にハフニウム錯体水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和工程では、アルカリ性のアンモニア水へ、ハフニウム錯体水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、ハフニウム錯体水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0127】
そして、逆中和工程では、逆中和法により得られたハフニウムを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去することにより、フッ化物イオンが除去されたハフニウム含有沈殿物を得ることができる。逆中和法により得られたハフニウムを含有する沈殿スラリーには、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0128】
フッ素化合物の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、ハフニウムを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施することが可能である。
【0129】
具体的には、逆中和法により得られたハフニウムを含有する沈殿スラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄を複数回繰り返すことにより、フッ化物イオンが除去されたハフニウム含有沈殿物が得られる。なお、当該デカンテーション、及び洗浄を複数回、例えば3回繰り返すことにより、添加されたフッ化物イオンが除去されるとともに、過酸化水素も除去される。
【0130】
フッ化物イオンの除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、1質量%以上35質量%以下のアンモニア水が好ましい。このようなアンモニア水であると、アンモニアがフッ化物イオンに対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0131】
このようにして、生成されたフッ化物イオンが除去されたハフニウム含有沈殿物を純水などで希釈することにより、フッ化物イオンが除去された、ハフニウム含有沈殿スラリーが得られる。なお、ハフニウム含有沈殿スラリーのハフニウム濃度は、ハフニウム含有沈殿スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、HfOを生成する。このように生成したHfOの重量を測定し、その重量からハフニウム含有沈殿スラリーのハフニウム濃度を算出することができる。
【0132】
そして、フッ化物イオンが除去された、ハフニウム含有沈殿スラリーと、有機窒素化合物と、純水とを混合した混合物を撹拌しながら5℃~90℃、0.1時間~48時間保持することにより、本発明のハフニウム酸含有液が得られる。
【0133】
ハフニウム含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、上述したように4級アンモニウムであるとより好ましい。
【0134】
また、4級アンモニウムは、溶解性の観点から、ハフニウム含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。また、同様な観点から、ハフニウム含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム化合物濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、1質量%以上になるように混合するのがより好ましく、また5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。なお、TMAH、TEAH、コリン、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシの中から選ばれる1種以上であるとより好ましい。
【0135】
さらに、ハフニウム含有沈殿スラリーと混合する4級アンモニウムは、TMAH、TEAH、コリン、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシの中から選ばれる1種ではなく、2種以上を混合したものでもよい。例えば、TMAH及びTEAH、TMAH及びコリン、TMAH及びベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシ等のように2種の4級アンモニウムを混合したものや、TMAH、TEAH、及びコリン等のように3種の4級アンモニウムを混合したものや、TMAH、TEAH、コリン、及びベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシのように4種の4級アンモニウムを混合したものが挙げられる。
【0136】
また、本発明の金属化合物含有物の製造方法のまた別の一例として、タンタル酸含有液の製造方法について、以下説明する。
【0137】
タンタル酸含有液の製造方法は、過酸化水素を、フッ化タンタル水溶液に添加し、タンタル化合物水溶液を生成する反応工程と、前記タンタル化合物水溶液を、アルカリ性水溶液に添加し、タンタル含有沈殿物を生成する逆中和工程と、生成されたタンタル含有沈殿物と有機窒素化合物と混合する工程と、を有する。
【0138】
先ず、フッ化タンタル水溶液は、タンタル、タンタル酸化物又は水酸化タンタルを、フッ化水素酸水溶液などのフッ酸(HF)と反応させてフッ化タンタル(HTaF)とし、これを水に溶解して作製することができる。
【0139】
ここで、フッ化物イオンを含有する酸性タンタル溶液、例えばフッ化タンタル水溶液は、水(例えば純水)を加えてタンタルをTa換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、タンタル濃度がTa換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、タンタル濃度がTa換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、フッ化タンタル水溶液のpHは、タンタル乃至タンタル酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0140】
次に、過酸化水素を、フッ化タンタル水溶液に添加し、タンタル化合物水溶液を生成する反応工程では、過酸化水素水をフッ化タンタル水溶液に添加して、混合することにより、タンタル化合物水溶液が得られる。なお、得られたタンタル化合物水溶液の少なくとも一部は、ポリ酸構造やペルオキソ錯体構造を形成していると推測する。
【0141】
ここで、フッ化タンタル水溶液に添加される過酸化水素水の過酸化水素濃度は、0.5質量%~35質量%であると好ましい。また、過酸化水素は、過酸化水素とタンタルとのモル比H/Taが0.6以上1.5以下となるように添加すると好ましく、過酸化水素が混合中に分解する可能性があることから、0.7以上1.2以下であるとより好ましい。
【0142】
得られたタンタル化合物水溶液を、アルカリ性水溶液に添加し、タンタル酸含有沈殿物を生成する逆中和工程では、タンタル化合物水溶液を、アルカリ性水溶液、例えばアンモニア水に添加、すなわち逆中和法により、タンタルを含有する沈殿スラリーが得られる。そして、得られたタンタルを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去することにより、フッ化物イオンが除去されたタンタル含有沈殿物が得られる。
【0143】
逆中和に用いるアンモニア水のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、タンタルが溶け残りにくくなり、タンタル乃至タンタル酸を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0144】
かかる観点から、アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%以上であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0145】
逆中和工程の際、アンモニア水に添加するフッ化タンタル水溶液の添加量は、NH/Taのモル比が95以上500以下とするのが好ましく、100以上450以下とするのがより好ましく、110以上400以下とするのがさらに好ましい。また、アンモニア水に添加するフッ化タンタル水溶液の添加量は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるタンタル酸化合物が生成する観点から、NH/HFのモル比が3.0以上とするのが好ましく、4.0以上とするとより好ましく、5.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/HFのモル比が100以下とするのが好ましく、50以下とするとより好ましく、40以下とするとさらに好ましい。
【0146】
逆中和工程において、フッ化タンタル水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、10分以内であると好ましく、8分以内であるとより好ましく、5分以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々にフッ化タンタル水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和工程では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性のフッ化タンタル水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、フッ化タンタル水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0147】
そして、逆中和工程では、逆中和法により得られたタンタルを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去することにより、フッ化物イオンが除去されたタンタル含有沈殿物を得ることができる。逆中和法により得られたタンタルを含有する沈殿スラリーには、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0148】
フッ素化合物の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、タンタルを含有する沈殿スラリーからフッ化物イオンを除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施することが可能である。
【0149】
具体的には、逆中和法により得られたタンタルを含有する沈殿スラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、フッ化物イオンが除去されたタンタル含有沈殿物が得られる。なお、当該洗浄を繰り返すことにより、反応工程で、添加された過酸化水素も除去される。
【0150】
フッ化物イオンの除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、1質量%以上35質量%以下のアンモニア水が好ましい。このようなアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンがフッ素に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0151】
上述した反応工程、及び逆中和工程を経て、生成されたフッ化物イオンが除去されたタンタル含有沈殿物を純水などで希釈することにより、フッ化物イオンが除去された、タンタル含有沈殿スラリーが得られる。なお、タンタル含有沈殿スラリーのタンタル濃度は、タンタル含有沈殿スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、Taを生成する。このように生成したTaの重量を測定し、その重量からタンタル含有沈殿スラリーのタンタル濃度を算出することができる。
【0152】
そして、フッ化物イオンが除去された、タンタル含有沈殿スラリーと、有機窒素化合物と、純水とを混合した混合物を撹拌しながら5℃~90℃、0.1時間~48時間保持することにより、タンタル酸含有液が得られる。
【0153】
タンタル含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、上述したように脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物であれば好ましく、特に脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウム化合物であるとより好ましい。
【0154】
脂肪族アミンは、溶解性の観点から、タンタル含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。また、同様な観点から、タンタル含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、1質量%以上になるように混合するのがより好ましく、また5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。なお、脂肪族アミンは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、又はイソプロピルアミンであるとより好ましい。
【0155】
また、4級アンモニウム化合物は、溶解性の観点から、タンタル含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム化合物濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。また、同様な観点から、タンタル含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム化合物濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、1質量%以上になるように混合するのがより好ましく、また5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。なお、4級アンモニウム化合物は、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)や水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であるとより好ましい。
【0156】
また、本発明の金属化合物含有物の製造方法のまた別の一例として、タングステン酸含有液の製造方法について、以下説明する。
【0157】
タングステン酸含有液の製造方法は、タングステンをWO換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、タングステン含有沈殿を生成する工程と、前記タングステン含有沈殿をスラリー状としたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、タングステン酸含有液を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0158】
先ず、タングステンをWO換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、タングステン含有沈殿を生成する工程において、酸性タングステン水溶液は、タングステンが硫酸を含む酸性水溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られた硫酸タングステン水溶液をいう。なお、本明細書で言及するタングステンは、特段の説明がない限り、タングステン酸化物を含むものである。
【0159】
ここで、硫酸タングステン水溶液は、水(例えば純水)を加えてタングステンをWO換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、タングステン濃度がWO換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、タングステン濃度がWO換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、硫酸タングステン水溶液のpHは、タングステン乃至タングステン酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0160】
硫酸タングステン水溶液をアンモニア水溶液に添加する際、いわゆる逆中和法では、硫酸タングステン水溶液を10質量%~30質量%のアンモニア水溶液中に添加し、すなわち逆中和法により、タングステン酸化合物水和物のスラリー、いわゆるタングステン含有沈殿物のスラリーを得るのが好ましい。
【0161】
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、タングステンが溶け残りにくくなり、タングステン乃至タングステン酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0162】
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0163】
逆中和の際、アンモニア水に添加する硫酸タングステン水溶液の添加量は、NH/WOのモル比が0.1以上300以下とするのが好ましく、5以上200以下とするのがより好ましい。また、アンモニア水に添加する硫酸タングステン水溶液は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるタングステン酸化合物が生成する観点から、NH/SO 2-のモル比が3.0以上とするのが好ましく、10.0以上とするとより好ましく、20.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/SO 2-のモル比が200以下とするのが好ましく、150以下とするとより好ましく、100以下とするとさらに好ましい。
【0164】
逆中和において、硫酸タングステン水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に硫酸タングステン水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の硫酸タングステン水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、硫酸タングステン水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0165】
そして、逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去し、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を生成する。逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーには、不純物として、タングステン乃至タングステン酸化物と反応せず残った硫酸イオン、及び硫酸水素イオンの硫黄分が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0166】
硫黄分の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、タングステン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0167】
具体的には、逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、タングステン含有沈殿物のスラリーの導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿物が得られる。当該導電率は、タングステン含有沈殿物のスラリーの液温を25℃に調整し、導電率計(アズワン社製:ASCON2)の測定部を当該沈殿物のスラリーの上澄み液に浸漬され、導電率の値が安定してから、その数値を読み取った。
【0168】
硫黄分の除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンが硫黄分に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0169】
次に、前記タングステン含有沈殿をスラリー状としたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、タングステン酸含有液を生成する工程において、タングステン含有沈殿スラリーは、上述したように硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を純水などで希釈し、スラリー状としたものである。なお、硫黄分が除去された、タングステン含有沈殿スラリーのタングステン濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、WOを生成する。このように生成したWOの重量を測定し、その重量から当該スラリーのタングステン濃度を算出することができる。
【0170】
そして、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を混合することにより、タングステン酸含有液が得られる。
【0171】
具体的には、最終的な混合物のタングステン濃度がWO換算で0.1~40質量%となるように、得られたタングステン含有沈殿スラリーを、有機窒素化合物に加え、純水と混合し、当該混合物を撹拌しながら、液温を室温(25℃)に1時間保持することにより、無色透明なタングステン酸含有液が得られる。
【0172】
タングステン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウムであると好ましい。
【0173】
ここで、脂肪族アミンは、溶解性の観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、脂肪族アミンは、メチルアミン、又はジメチルアミンであるとより好ましい。
【0174】
他方、4級アンモニウムは、溶解性の観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、4級アンモニウムは、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であるとより好ましい。
【0175】
さらに、タングステン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、または4級アンモニウムの何れかの1種ではなく、2種以上を混合したものでもよい。例えば、メチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン及びジメチルアミンのように2種以上の有機窒素化合物を混合したものや、メチルアミン、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のように3種以上の有機窒素化合物を混合したものが挙げられ、用途に合わせて適宜変更してもよい。
【0176】
また、本発明の金属化合物含有物の製造方法のまた別の一例として、ジルコニウム酸含有液の製造方法について、以下説明する。
【0177】
ジルコニウム酸含有液の製造方法は、ジルコニウムをZrO換算で、1~100g/L含有する酸性ジルコニウム水溶液に、過酸化水素を添加し、得られた前記過酸化水素が添加された前記酸性ジルコニウム水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、ジルコニウム含有沈殿を生成する工程と、前記ジルコニウム含有沈殿をスラリー状としたジルコニウム含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、ジルコニウム酸含有液を生成する工程と、を有する。
【0178】
先ず、ジルコニウムをZrO換算で、1~100g/L含有する酸性ジルコニウム水溶液に、過酸化水素を添加し、得られた前記過酸化水素が添加された前記酸性ジルコニウム水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、ジルコニウム含有沈殿を生成する工程において、酸性ジルコニウム水溶液は、ジルコニウムが硫酸を含む酸性水溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られた硫酸ジルコニウム水溶液や、オキシ塩化ジルコニウム(8水和物)水溶液などをいう。なお、本明細書で言及するジルコニウムは、特段の説明がない限り、ジルコニウム酸化物を含むものである。
【0179】
ここで、硫酸ジルコニウム水溶液は、水(例えば純水)を加えてジルコニウムをZrO換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、ジルコニウム濃度がZrO換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいジルコニウム酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、ジルコニウム濃度がZrO換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいジルコニウム酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいジルコニウム酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、硫酸ジルコニウム水溶液のpHは、ジルコニウム乃至ジルコニウム酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0180】
次に、硫酸ジルコニウム水溶液に、過酸化水素を添加することにより、ジルコニウムを含むアニオン種が錯化し、溶解安定性に優れたペルオキソ錯体となる。ここで、硫酸ジルコニウム水溶液に添加する過酸化水素の添加量は、H/ZrOのモル比が、溶解性に優れる点で、1.0以上であると好ましく、2.5以上であるとより好ましい。一方、H/ZrOのモル比が、5.0以下であると、安全性に優れる点で好ましい。
【0181】
このようにして、得られた過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液をアンモニア水溶液に添加する際、いわゆる逆中和法では、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液を10質量%~30質量%のアンモニア水溶液中に添加されることにより、ジルコニウム酸化合物水和物のスラリー、いわゆるジルコニウム含有沈殿物のスラリーを得るのが好ましい。
【0182】
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、ジルコニウムが溶け残りにくくなり、ジルコニウム乃至ジルコニウム酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0183】
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0184】
逆中和の際、アンモニア水に添加する、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液の添加量は、溶解性に優れるという点で、NH/ZrOのモル比が70以上300以下とするのが好ましく、100以上300以下とするのがより好ましく、140以上300以下とするのがさらに好ましい。また、アンモニア水に添加する過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるジルコニウム酸化合物が生成する観点から、NH/SO 2-のモル比が3.0以上とするのが好ましく、10.0以上とするとより好ましく、20.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/SO 2-のモル比が200以下とするのが好ましく、150以下とするとより好ましく、100以下とするとさらに好ましい。
【0185】
逆中和において、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0186】
そして、逆中和法により得られたジルコニウム含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去し、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を生成する。逆中和法により得られたジルコニウム含有沈殿物のスラリーには、不純物として、ジルコニウム乃至ジルコニウム酸化物と反応せず残った硫酸イオン、及び硫酸水素イオンの硫黄分が存在するため、これらを除去することが好ましい。なお、添加された過酸化水素は除去されず、ジルコニウム含有沈殿と共に、残存する。
【0187】
硫黄分の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0188】
具体的には、逆中和法により得られたジルコニウム含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーの導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿物が得られる。当該導電率は、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーの液温を25℃に調整し、導電率計(アズワン社製:ASCON2)の測定部を当該沈殿物のスラリーの上澄み液に浸漬され、導電率の値が安定してから、その数値を読み取った。
【0189】
硫黄分の除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンが硫黄分に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0190】
次に、前記ジルコニウム含有沈殿をスラリー状としたジルコニウム含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、ジルコニウム酸含有液を生成する工程において、ジルコニウム含有沈殿スラリーは、上述したように硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を純水などで希釈し、スラリー状としたものである。なお、硫黄分が除去された、ジルコニウム含有沈殿スラリーのジルコニウム濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、ZrOを生成する。このように生成したZrOの重量を測定し、その重量から当該スラリーのジルコニウム濃度を算出することができる。
【0191】
そして、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を混合することにより、ジルコニウム酸含有液が得られる。
【0192】
具体的には、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で0.1~10質量%となるように、得られたジルコニウム含有沈殿スラリーを、有機窒素化合物に加え、純水と混合し、当該混合物を撹拌しながら、液温を室温(25℃)に1時間保持することにより、黄色、又は無色透明なジルコニウム酸含有液が得られる。
【0193】
ジルコニウム含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、4級アンモニウムであると好ましい。
【0194】
ここで、4級アンモニウムは、溶解性の観点から、ジルコニウム含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、ジルコニウム含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。
【0195】
また、4級アンモニウムは、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であるとより好ましい。ジルコニウム含有沈殿スラリーに添加される水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の添加量は、TMAH/ZrOのモル比が1.5以上であると、溶解性と安定性に優れる点で好ましく、2.0以上であるとさらに安定性に優れる点でより好ましい。他方、TMAH/ZrOのモル比が5.0以下であると安全性に優れる点で好ましい。なお、TMAH/ZrOのモル比が1.0未満では、ジルコニウム含有沈殿スラリーが溶解せず、1.0~1.4ではジルコニウム含有沈殿スラリーは溶解するがゲル化してしまう。
【0196】
さらに、ジルコニウム含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、4級アンモニウムの1種ではなく、2種以上を混合したものでもよい。例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)及びメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)及びジメチルアミンのように2種以上の有機窒素化合物を混合したものや、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン、及びジメチルアミンのように3種以上の有機窒素化合物を混合したものが挙げられ、用途に合わせて適宜変更してもよい。
【0197】
また、本発明の金属化合物含有物の製造方法で用いられる金属化合物の内、例えばニオブ酸含有液は、上述したニオブ酸含有液の製造方法の他に、下記製造方法によっても、製造することができる。
【0198】
先ず、ニオブ、ニオブ酸化物、又は水酸化ニオブを、フッ化水素酸水溶液などのフッ酸(HF)と反応させてフッ化ニオブ(HNbF)とし、これを水に溶解することにより、酸性金属水溶液である、フッ化ニオブ水溶液が得られる。なお、塩化ニオブの場合、フッ酸に溶解させる工程を省略し、塩化ニオブに水を加えることにより、酸性ニオブ水溶液を生成することが可能である。
【0199】
ここで、フッ化ニオブ水溶液は、水(例えば純水)を加えてニオブをNb換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、ニオブ濃度がNb換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、ニオブ濃度がNb換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいニオブ酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、フッ化ニオブ水溶液のpHは、ニオブ乃至ニオブ酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0200】
次に、フッ化ニオブ水溶液を、アルカリ性水溶液を用いて中和反応させることにより、フッ素含有ニオブ水和物ケーキが得られる。ここで、フッ化ニオブ水溶液を中和するために用いられるアルカリ性水溶液は、10質量%~30質量%アンモニア水であると好ましい。
【0201】
中和に用いるアンモニア水のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、ニオブが溶け残りにくくなり、ニオブ乃至ニオブ酸を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0202】
かかる観点から、アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%以上であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0203】
上述した中和反応の際、添加量は、NH/Nbのモル比が95以上500以下とするのが好ましく、100以上450以下とするのがより好ましく、110以上400以下とするのがさらに好ましい。また、当該添加量は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるにニオブ酸化合物が生成する観点から、NH/HFのモル比が3.0以上とするのが好ましく、4.0以上とするとより好ましく、5.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/HFのモル比が100以下とするのが好ましく、50以下とするとより好ましく、40以下とするとさらに好ましい。
【0204】
上述した中和反応における添加時間は、10分以内であると好ましく、8分以内であるとより好ましく、5分以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間で、中和反応させると好適である。なお、フッ化ニオブ水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0205】
上述した中和反応により、得られたフッ素含有ニオブ水和物ケーキを希アンモニア水で、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、フッ素含有ニオブ水和物ケーキからフッ化物イオンを除去し、ニオブ含有沈殿物が得られる。上述した中和反応により得られたフッ素含有ニオブ水和物ケーキには、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0206】
得られたニオブ含有沈殿物のニオブ濃度は、ニオブ含有沈殿物の一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1000℃で4時間焼成し、Nbを生成する。このように生成したNbの重量を測定し、その重量からニオブ含有沈殿物のニオブ濃度を算出することができる。
【0207】
フッ化物イオンの除去に用いられる洗浄液は、希アンモニア水であると好適である。具体的には、1質量%以上35質量%以下の希アンモニア水が好ましい。このような希アンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンがフッ素に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0208】
なお、フッ素化合物の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。また、フッ素含有ニオブ水和物ケーキからフッ化物イオンを除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施することが可能である
【0209】
そして、得られたニオブ含有沈殿物に対し、アミン化合物、及び純水を添加して、10分間撹拌することにより、ニオブ含有混合液が得られる。その後、ニオブ含有混合液に、35質量%過酸化水素を添加して、30分間撹拌することにより、ニオブ酸化合物含有液が得られる。
【0210】
アミン化合物は、溶解性の観点から、ニオブ含有混合液中のアミン化合物濃度が30質量%以下になるように混合するのが好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。また、同様な観点から、ニオブ含有混合液中のアミン化合物濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、1質量%以上になるように混合するのがより好ましく、また5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。さらに、アミン化合物は、3級アミン化合物であると好ましく、メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリn-プロピルアミンの中から選ばれる1種以上であるとより好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn-プロピルアミンの中から選ばれる1種以上であるとさらに好ましい。
【0211】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は、0.5質量%~35質量%であると好ましい。また、過酸化水素は、過酸化水素とニオブとのモル比H/Nbが0.6以上1.5以下となるように添加すると好ましく、過酸化水素が混合中に分解する可能性があることから、0.7以上1.2以下であるとより好ましい。
【0212】
また、上述したニオブ酸化合物含有液の製造方法は、得られたニオブ酸化合物含有液から過酸化水素を除去する工程を有すると好ましい。ニオブ酸化合物含有液に過酸化水素が含まれると、密閉した容器内部で過酸化水素が分解したガスが充満し、当該容器が膨張したり、最悪の場合破裂する危険性が想定されるからである。
【0213】
過酸化水素の除去方法は任意であるが、例えば開放・減圧条件下での撹拌や、減圧乾燥が挙げられる。
【0214】
また、タンタル酸含有液は、上述したタンタル酸含有液の製造方法の他に、下記製造方法によっても、製造することができる。なお、上述したニオブ酸含有液の製造方法と重複する箇所については、説明を省略する。
【0215】
先ず、タンタル、タンタル酸化物、水酸化タンタル、又はタンタルアルコキシドを、フッ化水素酸水溶液などのフッ酸(HF)と反応させてフッ化タンタル(HTaF)とし、これを水に溶解することにより、酸性金属水溶液である、フッ化タンタル水溶液が得られる。なお、塩化タンタルの場合、フッ酸に溶解させる工程を省略し、塩化タンタルに水を加えることにより、酸性タンタル水溶液を生成することが可能である。
【0216】
ここで、フッ化タンタル水溶液は、水(例えば純水)を加えてタンタルをTa換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、タンタル濃度がTa換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、タンタル濃度がTa換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、フッ化タンタル水溶液のpHは、タンタル乃至タンタル酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0217】
次に、フッ化タンタル水溶液を、アルカリ性水溶液を用いて中和反応させることにより、フッ素含有タンタル水和物ケーキが得られる。ここで、フッ化タンタル水溶液を中和するために用いられるアルカリ性水溶液は、10質量%~30質量%のアンモニア水であると好ましい。
【0218】
上述した中和反応の際、添加量は、NH/Taのモル比が95以上500以下とするのが好ましく、100以上450以下とするのがより好ましく、110以上400以下とするのがさらに好ましい。また、当該添加量は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるタンタル酸化合物が生成する観点から、NH/HFのモル比が3.0以上とするのが好ましく、4.0以上とするとより好ましく、5.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/HFのモル比が100以下とするのが好ましく、50以下とするとより好ましく、40以下とするとさらに好ましい。
【0219】
上述した中和反応における添加時間は、10分以内であると好ましく、8分以内であるとより好ましく、5分以内であるとさらに好ましい。
【0220】
上述した中和反応により、得られたフッ素含有タンタル水和物ケーキを希アンモニア水で、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、フッ素含有タンタル水和物ケーキからフッ化物イオンを除去し、タンタル含有沈殿物が得られる。上述した中和反応により得られたフッ素含有タンタル水和物ケーキには、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去することが好ましい。なお、フッ化物イオンの除去に用いられる洗浄液は、希アンモニア水であると好適である。
【0221】
得られたタンタル含有沈殿物のタンタル濃度は、タンタル含有沈殿物の一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1000℃で4時間焼成し、Taを生成する。このように生成したTaの重量を測定し、その重量からタンタル含有沈殿物のタンタル濃度を算出することができる。
【0222】
そして、得られたタンタル含有沈殿物に対し、アミン化合物、及び純水を添加して、10分間撹拌することにより、タンタル含有混合液が得られる。その後、タンタル含有混合液に、35質量%過酸化水素を添加して、30分間撹拌することにより、タンタル酸化合物含有液が得られる。
【0223】
アミン化合物は、溶解性の観点から、タンタル含有混合液中のアミン化合物濃度が0.1質量%以上30質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、アミン化合物は、3級アミン化合物であると好ましく、メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリn-プロピルアミンの中から選ばれる1種以上であるとより好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn-プロピルアミンの中から選ばれる1種以上であるとさらに好ましい。
【0224】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は、0.5質量%~35質量%であると好ましい。また、過酸化水素は、過酸化水素とタンタルとのモル比H/Taが0.6以上1.5以下となるように添加すると好ましく、過酸化水素が混合中に分解する可能性があることから、0.7以上1.2以下であるとより好ましい。
【0225】
また、上述したニオブ酸化合物含有液の製造方法と同様に、得られたタンタル酸化合物含有液から過酸化水素を除去する工程を有すると好ましい。
【0226】
さらに、チタン酸含有液、ニオブ酸含有液、モリブデン酸含有液、ハフニウム酸含有液、タンタル酸含有液、タングステン酸含有液、ジルコニウム酸含有液を2種以上含有した金属化合物含有液や、これら金属化合物含有液とアルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン)とがイオン結合した金属酸塩含有液も、同様な製造方法により製造することができる。
【0227】
また、本発明の金属化合物含有物の製造方法のまた別の一例として、錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法について、以下説明する。
【0228】
錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法は、金属水酸化物とアルカリ性溶液とを混合して第1混合液を生成し、前記第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに前記第2混合液に有機酸を添加して当該金属化合物含有物を生成する錯化工程を有する。
【0229】
錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法における錯化工程では、先ず以下に記述する金属水酸化物と、アルカリ性溶液とを混合して第1混合液を生成する。
【0230】
金属水酸化物は、タンタル、ニオブ、チタン、タングステン、モリブデン、及びジルコニウム等の水酸化物であると好ましい。特に、金属水酸化物は、水酸化タンタル、又は水酸化ニオブであると好ましい。
【0231】
例えば、水酸化タンタルは、水(例えば純水)を加えてタンタルをTa換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、タンタル濃度がTa換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、タンタル濃度がTa換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。また、水酸化ニオブも、同様にニオブをNb換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。
【0232】
アルカリ性溶液は、アンモニア水や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、及び有機窒素化合物の中から選ばれる1種以上の化合物を溶解したアルカリ性溶液であると好ましい。有機窒素化合物としては、例えばアミン化合物、4級アンモニウム化合物、グアニジン化合物、アゾール化合物などが挙げられ、アミン化合物または4級アンモニウム化合物であると好ましく、メチルアミン、ジメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であるとより好ましい。溶媒としては、水や有機溶剤、及びそれらの混合溶剤が挙げられる。アルカリ性溶液として、特にアルカリ性溶液、中でもアンモニア水であると好ましい。
【0233】
アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。ここで、混合する金属水酸化物が水酸化タンタルや、水酸化ニオブの場合、当該アンモニア濃度が10質量%以上であると、タンタルや、ニオブが溶け残りにくくなり、タンタルや、ニオブを水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0234】
かかる観点から、アンモニア水のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%以上であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0235】
アンモニア水の添加量は、混合する金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、NH/Taのモル比が0.1以上100以下とするのが好ましく、1以上50以下とするのがより好ましい。また、水酸化タンタルとの反応性・分散性(溶解性)の観点から、NH/Taのモル比が2以上とするのが好ましく、3以上とするとより好ましく、4以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/Taのモル比が40以下とするのが好ましく、30以下とするとより好ましく、20以下とするとさらに好ましい。さらに、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブの場合、NH/Nbのモル比が0.1以上100以下とするのが好ましく、1以上50以下とするのがより好ましい。また、水酸化ニオブとの反応性・分散性(溶解性)の観点から、NH/Nbのモル比が2以上とするのが好ましく、3以上とするとより好ましく、4以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/Nbのモル比が40以下とするのが好ましく、30以下とするとより好ましく、20以下とするとさらに好ましい。
【0236】
次に、錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法における錯化工程では、生成された第1混合液に、以下に記述する過酸化水素を添加して第2混合液を生成する。
【0237】
過酸化水素は、その濃度が0.5質量%~35質量%であると好ましい。混合する金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、過酸化水素とタンタルとのモル比H/Taが0.6以上1.5以下となるように過酸化水素を添加すると好ましく、過酸化水素が混合中に分解する可能性があることから、0.7以上1.2以下であるとより好ましい。さらに、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブの場合、過酸化水素とニオブとのモル比H/Nbが0.6以上1.5以下となるように過酸化水素を添加すると好ましく、過酸化水素が混合中に分解する可能性があることから、0.7以上1.2以下であるとより好ましい。
【0238】
ここで、過酸化水素の添加については、アルカリ条件下で添加することにより、錯化反応が進みやすいことから、過酸化水素の添加前、金属水酸化物とアルカリ性溶液とを混合して、アルカリ性溶液である第1混合液を生成するとよい。
【0239】
そして、錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法における錯化工程では、生成された第2混合液に、以下に記述する有機酸を添加して金属化合物含有物を生成する
【0240】
有機酸として、カルボン酸、多官能性カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、及びアミノ酸が挙げられる。カルボン酸として、酪酸、ギ酸、酢酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、安息香酸等が挙げられる。多官能性カルボン酸として、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、グルタル酸、クエン酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。アミノ酸として、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。特に、窒素原子を含まない有機酸が好ましく、例えばカルボン酸、多官能性カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸が好ましく、多官能性カルボン酸がより好ましく、窒素原子を含まない有機酸であって、且つ多官能性カルボン酸であるクエン酸が最も好ましい。有機酸には、上述した化合物の各種異性体(構造異性体、光学異性体等)も含まれる。さらに、有機酸は、上述した化合物の1種以上の有機酸を用いてもよい。
【0241】
有機酸、例えばクエン酸は、その濃度が1質量%~100質量%であると好ましい。混合する金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、クエン酸とタンタルとのモル比C/Taが0.1以上100以下となるようにクエン酸を添加すると好ましく、金属化合物含有物の安定性とコスト低減の観点から、0.5以上50以下であるとより好ましい。さらに、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブの場合、クエン酸とニオブとのモル比C/Nbが0.1以上100以下となるようにクエン酸を添加すると好ましく、金属化合物含有物の安定性とコスト低減の観点から、0.5以上50以下であるとより好ましい。
【0242】
上述した錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法における錯化工程は、加熱する必要がなく、常温(25℃)で行うことができる。
【0243】
このようにして、生成された金属化合物含有物の少なくとも一部は、金属水酸化物由来の金属元素を含有するペルオキソ錯体を形成すると推測する。
【0244】
錯体重合法を用いた金属化合物含有物は、当該金属化合物含有物を乾燥する乾燥工程を有してもよい。
錯化工程により生成した金属化合物含有物を後述する乾燥方法により乾燥させることにより、金属化合物含有物に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアを除去することができる。
【0245】
金属化合物含有物に過剰な過酸化水素を除去することにより、過酸化水素の揮発による溶液の変化を抑制することができ、また安全面又は法令上の面から使用しやすくなる。具体的には、金属化合物含有物中の過酸化水素の含有量が、6質量%以下であれば劇物および劇物取り締まり法から除外されて、安全面や保管方法において使用しやすくなる。また、金属化合物含有物に含まれる過剰なアンモニアを除去することにより、安全面や作業面でも使用しやすくなる。
【0246】
錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法における乾燥工程の一例として、乾燥工程における加熱温度が100℃未満であるとよい。
乾燥工程における加熱温度が25℃以上100℃未満であると、金属化合物含有物に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアの成分が揮発し、白色粉末であるペルオキソ錯体粉末が得られる。なお、加熱温度は90℃以下であるとより好ましい。また、加熱時間は、1時間以上100時間以下であると良く、5時間以上20時間以下であると好ましい。
【0247】
また、錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法における乾燥工程の別の一例として、乾燥工程における加熱温度が100℃以上であるとよい。
乾燥工程における加熱温度が100℃以上200℃以下であると、金属化合物含有物に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアの成分が揮発し、緑白色粉末であるペルオキソ錯体粉末が得られる。なお、加熱温度は110℃以上であるとより好ましい。また、加熱時間は、1時間以上100時間以下であると良く、5時間以上20時間以下であると好ましい。
【0248】
さらに、錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法における乾燥工程のまた別の一例として、加熱無しの真空乾燥による乾燥方法であると、白色粉末であるペルオキソ錯体粉末が得られる。また、加熱時間は、1時間以上100時間以下であると良く、5時間以上20時間以下であると好ましい。なお、真空乾燥の場合、金属化合物含有物に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアの成分が除去されず、残存する。
【0249】
また、錯体重合法を用いた金属化合物含有物の製造方法は、前記乾燥工程により乾燥した前記金属化合物含有物を解砕する解砕工程を有してもよい。
上述した各乾燥工程により得られた乾燥した金属化合物含有物であるペルオキソ錯体粉末をボールミル、ジェットミル、カッターミル等を用いて解砕する。ペルオキソ錯体粉末を解砕することにより、ペルオキソ錯体粉末が純水に溶解しやすくなる観点で好ましい。
【0250】
また、本発明の金属化合物含有物は、上述した金属化合物含有物の製造方法により、得られた金属化合物含有物と、樹脂と、溶媒とを、それぞれ所定の割合となるように秤量し、それらを混合し、30分間撹拌することにより、樹脂を含有する金属化合物含有物を生成したものであってもよい。
【0251】
ここで、上述した樹脂は、アニオン性水溶性樹脂、およびまたは、ノニオン性水溶性樹脂であると好ましい。さらに、当該樹脂は、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、スチレンポリマー、オレフィンポリマー、アミドポリマー、シロキサンポリマー、エポキシポリマー、塩化ビニルポリマー、酢酸ビニルポリマーからなる群より選ばれる水溶性ホモポリマー、およびまたは、これら2種以上のポリマーからなる水溶性コポリマーを1種以上含むものであるとよい。特に、アクリルポリマー、スチレンポリマー、及びオレフィンポリマーの水溶性ホモポリマー、およびまたは、これら2種以上のポリマーからなる水溶性コポリマーを1種以上含むものであると好ましい。
【0252】
また、上述した溶媒は、水を用いることができる。
【0253】
このようにして、得られた本発明の金属化合物含有物を、炭素基材上に塗布し、塗布された炭素基材を加熱することにより、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成することができる。
【0254】
ここで、炭素基材上に形成される金属-炭素複合体被膜は、例えば、当該炭素基材の少なくとも一面(例えば、表面)に金属-炭素複合体被膜を有するものや、当該炭素基材の全周面に金属-炭素複合体被膜を有するものであってもよく、さらに当該炭素基材の一面の内、一部分に金属-炭素複合体被膜を有するものも含まれる。
【0255】
先ず、本発明の金属化合物含有物を、炭素基材上に塗布する(以下、塗布工程とも言う。)。
【0256】
炭素基材上に金属化合物含有物を塗布する方法として、スプレー、インクジェット、ディスペンサ、ノズルコート、スリットコート、ダイコート、ロールコート、スピンコート、ブレードコート、ナイフコート、ワイヤーバーコート、スクリーン印刷、刷毛塗り等が挙げられる。
【0257】
次に、金属化合物含有物が塗布された炭素基材を加熱することにより、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成する(以下、加熱工程とも言う。)。
【0258】
金属化合物含有物が塗布された炭素基材を加熱することにより、金属化合物含有物が炭素基材に含まれる炭素と反応、すなわち炭化反応することによって、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜が形成される。
【0259】
具体的には、金属化合物含有物が塗布された炭素基材を静置炉内に載置し、不活性雰囲気下、例えばアルゴン雰囲気下や、窒素雰囲気下で加熱することにより、金属化合物含有物中の金属元素が、金属化合物含有物が塗布された炭素基材の塗面に存在する炭素と反応(炭化反応)することにより、金属炭化物を形成し、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成することができる。また、加熱工程は、減圧下や、真空下であってもよい。ここで、加熱工程における加熱温度が1000℃以上3500℃以下であり、加熱時間が0.5時間以上2時間以下であると好ましい。
【0260】
また、当該金属化合物含有物がペルオキソ錯体金属化合物である場合、ペルオキソ錯体金属化合物が塗布された炭素基材を加熱することにより、ペルオキソ錯体金属化合物に含まれる金属元素と炭素とが反応し、金属炭化物を形成し、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成することができる。
【0261】
加熱工程における加熱温度が1000℃以上3500℃以下であると、炭素基材の炭素と金属化合物とが確実に反応する点で好ましい。加熱工程における加熱温度が1400℃以上2000℃以下であるとより好ましく、1500℃以上1900℃以下であるとさらに好ましく、1550℃以上1800℃以下であると特に好ましい。
【0262】
加熱工程における加熱時間が0.5時間以上2時間以下であると、炭化物が十分に合成される点で好ましい。加熱工程における加熱時間が1時間以上1.5時間以下であるとより好ましく、1.2時間以上1.4時間以下であるとさらに好ましい。
【0263】
また、塗布工程と加熱工程との間に、乾燥工程を含むものであってもよい。
【0264】
金属化合物含有物が塗布された炭素基材を静置炉内に載置し、乾燥温度100℃で1時間乾燥することにより、水分など余分な不純物を除去することができる点で好ましい。
【0265】
乾燥工程における乾燥温度が、110℃以上400℃以下であるとより好ましく、120℃以上300℃以下であるとさらに好ましく、130℃以上200℃以下であると特に好ましい。
【0266】
乾燥工程における乾燥時間が、0.2時間以上3時間以下であると好ましく、0.3時間以上2時間以下であるとより好ましく、0.4時間以上1時間以下であるとさらに好ましい。
【0267】
さらに、加熱工程により、形成された金属-炭素複合体被膜を冷却する工程を有してもよい。
加熱工程により、形成された金属-炭素複合体被膜を室温まで冷却させるとよい。
【0268】
具体的には、金属-炭素複合体被膜が形成された炭素基材を、静置炉から取り出し、室温まで冷却させる。
【0269】
本発明の金属化合物含有物を用いて、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を製造方法は、下記製造方法であってもよい。
【0270】
炭素基材を金属化合物含有物に浸漬させ、浸漬させた炭素基材を加熱することにより、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成する。
【0271】
先ず、炭素基材を金属化合物含有物に浸漬する(以下、浸漬工程とも言う。)。
【0272】
具体的には、金属化合物含有物で満たされた容器内に、炭素基材を浸漬させることにより、炭素基材に金属化合物含有物が含浸される。また、浸漬工程における浸漬時間は、0.1時間以上1時間以下であると好ましく、0.2時間以上0.9時間以下であるとより好ましい。なお、浸漬工程は、室温下で行ってもよく、また加熱し、その後室温まで冷却してもよい。
【0273】
また、浸漬工程は、減圧下、又は真空下で、炭素基材に金属化合物含有物を浸漬させると、炭素基材に金属化合物含有物が含浸されやすくなり、浸漬工程における浸漬時間を短縮することができる点で好ましい。
【0274】
具体的には、炭素基材が浸漬された金属化合物含有物で満たされた容器を減圧装置内に入れ、減圧下、又は真空下することにより、炭素基材に金属化合物含有物がより含浸されやすくなる。
【0275】
当該減圧装置内の真空度は、0.05MPa以下であると好ましく、0.04MPa以下であるとより好ましく、0.03MPa以下であるとさらに好ましく、0.02MPa以下であると特に好ましい。また、減圧下、又は真空下での浸漬工程における浸漬時間は、0.1時間以上0.5時間以下であると好ましく、0.2時間以上0.4時間以下であるとより好ましい。
【0276】
さらに、炭素基材のある一面、例えば表面のみに金属-炭素複合体被膜を形成する場合、炭素基材の表面のみを金属化合物含有物に浸漬させる。一方、炭素基材の全周面に金属-炭素複合体被膜を形成する場合、炭素基材の全周面が金属化合物含有物に浸漬させる。
【0277】
次に、金属化合物含有物が含浸した炭素基材を加熱することにより、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成する(以下、加熱工程とも言う。)。
金属化合物含有物が含浸した炭素基材を加熱することにより、金属化合物含有物中の金属元素が、金属化合物含有物が含浸した炭素基材に存在する炭素と反応(炭化反応)することにより、金属炭化物を形成し、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜が形成される。
【0278】
ここで、当該金属化合物含有物がペルオキソクエン酸金属化合物である場合、ペルオキソクエン酸金属化合物が含浸した炭素基材を加熱することにより、ペルオキソクエン酸金属化合物に含まれる金属元素と炭素とが反応し、金属炭化物を形成し、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜を形成することができる。
【0279】
加熱工程は、1000℃以上3500℃以下であり、加熱時間が0.5時間以上2時間以下であることを特徴とする。
【0280】
加熱工程における加熱温度が1000℃以上3500℃以下であると、炭素基材の炭素と金属化合物とが確実に反応する点で好ましい。加熱工程における加熱温度が1400℃以上2000℃以下であるとより好ましく、1500℃以上1900℃以下であるとさらに好ましく、1550℃以上1800℃以下であると特に好ましい。
【0281】
加熱工程における加熱時間が0.5時間以上2時間以下であると、炭化物が十分に合成される点で好ましい。加熱工程における加熱時間が1時間以上1.5時間以下であるとより好ましく、1.2時間以上1.4時間以下であるとさらに好ましい。
【0282】
また、上述した浸漬工程と加熱工程との間に、さらに乾燥工程を含むものであってもよい。
【0283】
金属化合物含有物が含浸した炭素基材を静置炉内に載置し、乾燥温度100℃で1時間乾燥することにより、水分など余分な不純物を除去することができる点で好ましい。
【0284】
乾燥工程における乾燥温度が、110℃以上400℃以下であるとより好ましく、120℃以上300℃以下であるとさらに好ましく、130℃以上200℃以下であると特に好ましい。
【0285】
乾燥工程における乾燥時間が、0.2時間以上3時間以下であると好ましく、0.3時間以上2時間以下であるとより好ましく、0.4時間以上1時間以下であるとさらに好ましい。
【0286】
さらに、加熱工程により、形成された金属-炭素複合体被膜を冷却する工程を有してもよい。
加熱工程により、形成された金属-炭素複合体被膜を室温まで冷却させるとよい。
【0287】
炭素基材上に形成された金属-炭素複合体被膜は、金属元素及び炭素が存在する状態であればよく、好ましくは金属元素が0質量%超80質量%以下、炭素が0質量%超50質量%以下であるとよい。当該金属-炭素複合体被膜中の金属元素及び炭素の質量分率は、例えば、基材断面試料において、金属-炭素複合体被膜部分を、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いた半定量分析等によって測定することができる。
【0288】
また、当該金属-炭素複合体被膜中の金属元素がその被膜表面に多く存在する一方、炭素基材に近いほど炭素基材に由来する炭素割合が多く存在する。金属化合物含有物が塗布された場合、当該金属-炭素複合体被膜表面に金属元素が存在しやすい。一方、金属化合物含有物が含浸された場合、塗布された場合と比べ、当該金属-炭素複合体被膜内部に金属元素の割合が比較的多くなる。
【0289】
また、炭素基材上に形成された金属-炭素複合体被膜について、下記のX線回折測定条件、X線回折解析条件に従って、X線回折測定を行って得られたX線回折パターンのピークから、炭化物であることを確認することができる。
【0290】
=X線回折測定条件=
・装置:MiniFlexII(株式会社リガク製)
・測定範囲(2θ):5~90°
・サンプリング幅:0.02°
・スキャンスピード:2.0°/min
・X線:CuKα線
・電圧:30kV
・電流:15mA
・発散スリット:1.25°
・散乱スリット:1.25°
・受光スリット:0.3mm
【0291】
=X線回折解析条件=
・リガク社製データ解析ソフトPDXL2を使用する。
・ピークトップを明確化するためb-splineでピークを平滑化する。
【0292】
さらに、炭素基材上に形成された金属-炭素複合体被膜の膜厚が300nm以下であると、膜中のクラックや、膜自体の剥がれが生じにくい点で好ましい。当該金属-炭素複合体被膜の膜厚が100nm以下であってもよい。金属-炭素複合体被膜中にクラックが生じると、炭素基材が酸化し、二酸化炭素として放出されやすくなり、炭素基材中の炭素が減少しやすくなるからである。一方、当該金属-炭素複合体被膜の膜厚が1nm以上であると、炭素基材を十分に保護できる点で好ましい。当該金属-炭素複合体被膜の膜厚が10nm以上であってもよい。
【0293】
また、炭素基材上に金属-炭素複合体被膜が形成されることにより、以下の液や、ガスに対する耐食性の向上を図ることができる。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸、塩化ナトリウム、酢酸、シュウ酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水蒸気、硫化水素ガス、アンモニアガス、水素ガス、フッ素ガス、塩素ガス、窒素酸化物ガス(NOx)、または硫黄酸化物ガス(SOx)などが挙げられる。
【0294】
なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特に断らない限り、「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」旨の意も包含する。また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【発明の効果】
【0295】
本発明の金属化合物含有物は、CVD装置を用いる必要がなく、当該基材の表面に保護膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0296】
図1】本発明の実施例1~10に係る金属化合物含有物、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3、4に係る炭素基材の物性値の一覧表である。
図2】本発明の実施例11~17に係る金属化合物含有物、及び比較例5、6に係る炭素基材の物性値の一覧表である。
図3】本発明の実施例18、19に係る金属化合物含有物、及び比較例7に係る炭素基材の物性値の一覧表である。
図4】本発明の実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液の物性値の一覧表である。
図5】本発明の実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液の測定結果の一覧表である。
図6】本発明の実験例2~6、13、15、17~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液の物性値及び測定結果の一覧表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0297】
以下、本発明に係る実施形態の金属化合物含有物について、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0298】
(実施例1)
実施例1に係る金属化合物含有物は、以下のようにして得た。水酸化タンタル200gと、25質量%アンモニア水92gとを10分間撹拌混合することにより、第1混合液を得た。その後、第1混合液に、35質量%過酸化水素水220gをさらに添加し、10分間撹拌し、第2混合液を得た。そして、第2混合液に、クエン酸79gを添加し、10分間撹拌し、実施例1に係る金属化合物含有物として、ペルオキソクエン酸タンタル溶液を得た。ここで、実施例1に係る金属化合物含有物であるペルオキソクエン酸タンタル溶液のタンタル濃度は、Ta換算で18%であり、Ta換算で14.3%であった。
【0299】
実施例1に係る金属化合物含有物は、その製造直後は、沈殿のない透明溶液であり、また製造7日後も、沈殿のない透明溶液であった。また、製造7日後の実施例1に係る金属化合物含有物のTa換算濃度は175g/Lであった。さらに、製造7日後の実施例1に係る金属化合物含有物の動的光散乱法による平均粒子径は625.2nmであった。
【0300】
さらに、実施例1に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布した(塗布量は、0.0075g)。次に、実施例1に係る金属化合物含有物が塗布された炭素基材を電気炉内に載置し、110℃に加熱した電気炉で10分間乾燥させた。その後、Ar雰囲気下で、1500℃に加熱した電気炉で1時間加熱した。そして、室温まで冷却することにより、実施例1に係る被膜構造体を得た。
【0301】
なお、実施例1で用いた炭素基材は、押し出し成形された炭素基材(東京炭素工業株式会社製、フラファイト平板押出材)を用いた。なお、押し出し成形に限定されるものではない。
【0302】
(実施例2)
実施例2に係る金属化合物含有物は、実施例1に係る金属化合物含有物と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0303】
さらに、実施例2に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布した。次に、実施例2に係る金属化合物含有物が塗布された炭素基材を電気炉内に載置し、110℃に加熱した電気炉で10分間乾燥した。乾燥した当該炭素基材の全面に、再度実施例2に係る金属化合物含有物を、刷毛を用いて塗布し、その後、110℃に加熱した電気炉で10分間乾燥する工程を後2回繰り返した。すなわち、当該炭素基材に実施例2に係る金属化合物含有物を塗布し、乾燥する工程を全3回繰り返した(全3回の総塗布量は、0.0225g)。その後、Ar雰囲気下で、1500℃に加熱した電気炉で1時間加熱した。そして、室温まで冷却することにより、実施例2に係る被膜構造体を得た。
【0304】
また、実施例2で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0305】
(実施例3)
実施例3に係る金属化合物含有物は、以下のようにして得た。三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta濃度8.2質量%)を得た。
【0306】
このフッ化タンタル水溶液1,000gに、過酸化水素水27.5g(H濃度35質量%)を添加し(H/Taモル比=0.76)、5分間撹拌することにより、タンタル化合物水溶液を得た。
【0307】
このタンタル化合物水溶液1,000gを、アンモニア水(NH濃度25質量%)6.82Lに、10分間未満の時間で添加して(NH/Taモル比=245、NH/HFモル比=30.7)、反応液(pH11)を得た。この反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えればタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
【0308】
次に、この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄して、当該フッ化物イオンを除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0309】
さらに、当該フッ化物イオンを除去したタンタル含有沈殿物を純水で希釈しタンタル含有沈殿スラリーを得た。このタンタル含有沈殿スラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1,000℃で4時間焼成することでTaを生成し、その重量からタンタル含有沈殿スラリーに含まれるTa濃度を算出した。
【0310】
その後、純水で希釈したタンタル含有沈殿スラリーと、有機窒素化合物として5質量%のジメチルアミンと、純水とを、最終的な混合物のタンタル濃度がTa換算で5質量%、且つTa/有機窒素化合物の重量比が1.0となるように混合することにより、タンタル酸水溶液を得た。タンタル酸水溶液の初期pHは12.0であった。
【0311】
そして、得られたタンタル酸水溶液に、ポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩(住友精化社製ザイクセンA)を添加し、25℃で30分間撹拌することにより、実施例3に係る金属化合物含有物として、タンタル酸水溶液(樹脂を含む)を得た。ここで、実施例3に係る金属化合物含有物であるタンタル酸水溶液(樹脂を含む)のタンタル濃度は、Ta換算で5%であり、Ta換算で4.1%であった。なお、実施例3に係る金属化合物含有物に含まれる樹脂成分の含有量は、当該金属化合物含有物を100質量%としたとき、0.025質量%であった。
【0312】
ここで、添加されたポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩は、ポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩全体を100質量%としたとき、樹脂成分25質量%と、アンモニア水が1質量%未満と、残部が純水となるように秤量したものである。
【0313】
さらに、実施例3に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.0075g)、実施例1と同様にして、実施例3に係る被膜構造体を得た。
【0314】
また、実施例3で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0315】
(実施例4)
実施例4に係る金属化合物含有物は、実施例3に係る金属化合物含有物と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0316】
実施例4に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布した。次に、実施例4に係る金属化合物含有物が塗布された炭素基材を電気炉内に載置し、110℃に加熱した電気炉で10分間乾燥した。乾燥させた当該炭素基材の全面に、再度実施例4に係る金属化合物含有物を、刷毛を用いて塗布し、その後、110℃に加熱した電気炉で10分間乾燥する工程を後2回繰り返した。すなわち、当該炭素基材に実施例4に係る金属化合物含有物を塗布し、乾燥する工程を全3回繰り返した(全3回の総塗布量は、0.0225g)。その後、Ar雰囲気下で、1500℃に加熱した電気炉で1時間加熱した。そして、室温まで冷却することにより、実施例4に係る被膜構造体を得た。
【0317】
また、実施例4で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0318】
(実施例5)
実施例5に係る金属化合物含有物は、以下のようにして得た。三井金属鉱業社製水酸化タンタル100g(Ta濃度99.9質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液100gに溶解させ、イオン交換水を100mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta濃度33.3質量%)を得た。
【0319】
このフッ化タンタル水溶液100gに、アンモニア水(NH濃度25質量%)1000mLを添加し、フッ素含有タンタル水和物ケーキを得た。
【0320】
次に、このフッ素含有タンタル水和物ケーキを、希アンモニア水で、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄して、当該フッ化物イオンを除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0321】
ここで、得られたタンタル含有沈殿物のタンタル濃度は、タンタル含有沈殿物の一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1000℃で4時間焼成し、Taを生成する。このように生成したTaの重量を測定し、その重量から算出されたタンタル含有沈殿物のTa(酸化タンタル、酸化物換算)濃度は、50質量%であった。また、タンタル含有沈殿物のTa(タンタル、メタル換算)濃度を算出すると、40.9質量%であった。
【0322】
そして、得られたタンタル含有沈殿物に対し、10質量%トリエチルアミン50gと、純水317gとを添加し、10分間撹拌し、タンタル含有混合液を得た。その後、最終的なタンタル濃度が酸化物換算(Ta換算)で5質量%、またメタル換算(Ta換算)で4.1質量%、且つ最終的な過酸化水素濃度が6.8質量%となるように、タンタル含有混合液に、35質量%過酸化水素83gを添加し、30分間撹拌し、実施例5に係る金属化合物含有物として、タンタル酸化合物含有液を得た。ここで、実施例5に係る金属化合物含有物である、タンタル酸化合物含有液のタンタル濃度は、Ta換算で5%であり、Ta換算で4.1%であった。実施例5に係る金属化合物含有物には、何ら析出物や、沈殿物が観察されなかった。実施例5に係る金属化合物含有物の初期pHは11.0であった。
【0323】
実施例5に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.0075g)、実施例1と同様にして、実施例5に係る被膜構造体を得た。
【0324】
また、実施例5で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0325】
(実施例6)
実施例6に係る金属化合物含有物は、以下のようにして得た。実施例5に係る金属化合物含有物に、ポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩(住友精化社製ザイクセンA)を添加し、25℃で30分間撹拌することにより、実施例6に係る金属化合物含有物として、タンタル酸化合物含有液(樹脂を含む)を得た。ここで、実施例6に係る金属化合物含有物である、タンタル酸化合物含有液(樹脂を含む)のタンタル濃度は、Ta換算で5%であり、Ta換算で4.1%であった。なお、実施例6で用いたタンタル酸化合物含有液(樹脂を含む)に含まれる樹脂成分の含有量は、当該タンタル酸化合物含有液(樹脂を含む)を100質量%としたとき、0.025質量%であった。
【0326】
実施例6で添加されたポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩は、実施例3で用いたポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0327】
実施例6に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.0075g)、実施例1と同様にして、実施例6に係る被膜構造体を得た。
【0328】
また、実施例6で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0329】
(実施例7)
実施例7に係る金属化合物含有物は、ペルオキソクエン酸タンタル溶液のタンタル濃度が、Ta換算で1%であり、Ta換算で0.8%に調整したものであること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、得られた。
【0330】
また、実施例7に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.054g)、実施例1と同様にして、実施例7に係る被膜構造体を得た。
【0331】
一方、実施例7で用いた炭素基材は、縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×3mmであること以外は、実施例1で用いた炭素基材と同じものである。
【0332】
(実施例8)
実施例8に係る金属化合物含有物は、ペルオキソクエン酸タンタル溶液のタンタル濃度が、Ta換算で5%であり、Ta換算で4.1%に調整したものであること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、得られた。
【0333】
また、実施例8に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.113g)、実施例1と同様にして、実施例8に係る被膜構造体を得た。
【0334】
一方、実施例8で用いた炭素基材は、実施例7で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0335】
(実施例9)
実施例9に係る金属化合物含有物は、ペルオキソクエン酸タンタル溶液のタンタル濃度が、Ta換算で20%であり、Ta換算で16.4%に調整したものであること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、得られた。
【0336】
また、実施例9に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.174g)、実施例1と同様にして、実施例9に係る被膜構造体を得た。
【0337】
一方、実施例9で用いた炭素基材は、実施例7で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0338】
(実施例10)
実施例10に係る金属化合物含有物は、ペルオキソクエン酸タンタル溶液のタンタル濃度が、Ta換算で20%であり、Ta換算で16.4%に調整したものであること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、得られた。
【0339】
また、実施例10に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×3mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.2g)、実施例1と同様にして、実施例10に係る被膜構造体を得た。
【0340】
一方、実施例10で用いた炭素基材は、CIP材(東京炭素工業株式会社製、グラファイト平板CIP材)であること以外、実施例7で用いた炭素基材と同じものである。
【0341】
(実施例11)
実施例11に係る金属化合物含有物であるタンタル酸水溶液(樹脂を含む)のタンタル濃度が、Ta換算で1%であり、Ta換算で0.8%に調製したものであること以外、実施例3と同様な製造方法を実施し、得られた。
【0342】
実施例11で添加されたポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩は、実施例3で用いたポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0343】
また、実施例11に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×10mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、3.04g)、実施例1と同様にして、実施例11に係る被膜構造体を得た。
【0344】
一方、実施例11で用いた炭素基材は、断熱材(株式会社クレハ製、クレカフェルトG F-210)であった。
【0345】
(実施例12)
実施例12に係る金属化合物含有物であるペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)は、以下のようにして得た。
【0346】
水酸化タンタル200gと、25質量%アンモニア水92gとを10分間撹拌混合することにより、第1混合液を得た。その後、第1混合液に、35質量%過酸化水素水220gをさらに添加し、10分間撹拌し、第2混合液を得た。そして、第2混合液に、クエン酸79gを添加し、10分間撹拌し、ペルオキソクエン酸タンタル溶液を得た。
【0347】
そして、得られたペルオキソクエン酸タンタル溶液に、界面活性剤を添加し、25℃で30分間撹拌することにより、実施例12で用いたペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)を得た。ここで、実施例12で用いたペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)のタンタル濃度は、Ta換算で1%であり、Ta換算で0.8%であった。なお、実施例12で用いたペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)に含まれる界面活性剤の含有量は、当該ペルオキソクエン酸タンタル溶液を100質量%としたとき、0.025質量%であった。
【0348】
ここで、添加された界面活性剤は、ポリオキシエチレン付加アセチレングリコール系界面活性剤である。
【0349】
また、実施例12に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×10mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、1.99g)、実施例1と同様にして、実施例12に係る被膜構造体を得た。
【0350】
一方、実施例12で用いた炭素基材は、実施例11で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0351】
(実施例13)
実施例13に係る金属化合物含有物であるペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)は、ペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)のタンタル濃度が、Ta換算で5%であり、Ta換算で4.1%に調製したこと以外、実施例12と同様な製造方法を実施し、得られた。
【0352】
また、実施例13に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:25mm×25mm×10mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、2.22g)、実施例1と同様にして、実施例13に係る被膜構造体を得た。
【0353】
一方、実施例13で用いた炭素基材は、実施例11で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0354】
(実施例14)
実施例14に係る金属化合物含有物であるペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)は、ペルオキソクエン酸タンタル溶液(界面活性剤入り)のタンタル濃度が、Ta換算で5%であり、Ta換算で4.1%に調製したこと以外、実施例12と同様な製造方法を実施し、得られた。
【0355】
また、実施例14に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法:50mm×50mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.44g)、実施例1と同様にして、実施例14に係る被膜構造体を得た。
【0356】
一方、実施例14で用いた炭素基材は、クロス(MUGE製 MUTEKIカーボンクロス カーボン(炭素繊維))であった。
【0357】
(実施例15)
実施例15に係る金属化合物含有物であるペルオキソクエン酸タンタル溶液は、実施例8に係るペルオキソクエン酸タンタル溶液と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0358】
また、実施例15に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法:50mm×50mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.34g)、実施例1と同様にして、実施例15に係る被膜構造体を得た。
【0359】
一方、実施例15で用いた炭素基材は、実施例14で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0360】
(実施例16)
実施例16に係る金属化合物含有物であるペルオキソクエン酸タンタル溶液は、実施例9に係るペルオキソクエン酸タンタル溶液と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0361】
また、実施例16に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法:50mm×50mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.75g)、実施例1と同様にして、実施例16に係る被膜構造体を得た。
【0362】
一方、実施例16で用いた炭素基材は、実施例14で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0363】
(実施例17)
実施例17に係る金属化合物含有物である金属酸化合物混合液は、当該金属酸化合物混合液を100%としたとき、タンタル酸水溶液、ニオブ酸水溶液、チタン酸水溶液、及びジルコニウム水溶液を各1%と、ハフニウム酸水溶液、ケイ酸水溶液を各0.2%となるように調整した混合液である。実施例17に係る金属酸化合物混合液は、以下のようにして得た。
【0364】
実施例17に係る金属酸化合物混合液に含まれるタンタル酸水溶液は、実施例3に係る金属化合物含有物であるタンタル酸水溶液と同様にして、得られた。
【0365】
実施例17で用いたニオブ酸水溶液は、以下のようにして得た。
【0366】
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を830mL添加することによって、フッ化ニオブ水溶液(Nb=8.84質量%)を得た。
【0367】
このフッ化ニオブ水溶液200mLを、アンモニア水(NH濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して(NH/Nbモル比=177.9、NH/HFモル比=12.2)、反応液(pH11)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
【0368】
次に、この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、遊離したフッ化物イオン量が100mg/L以下になるまで洗浄して当該フッ化物イオンを除去したニオブ含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0369】
さらに、当該フッ化物イオンを除去したニオブ含有沈殿物を純水で希釈しスラリーを得た。このニオブ含有沈殿スラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1000℃で4時間焼成することでNbを生成し、その重量からニオブ含有沈殿スラリーに含まれるNb濃度を算出した。
【0370】
そして、この純水で希釈したニオブ含有沈殿スラリーへ純水を添加し、有機窒素化合物として50質量%ジメチルアミン水溶液がジメチルアミン濃度7.2質量%となるように添加して、Nb固形分濃度で24.0質量%となるように調製した。
このスラリーを48時間攪拌して、実施例17で用いたニオブ酸水溶液を得た。実施例17で用いたニオブ酸水溶液のpHは11.0であった。
【0371】
実施例17で用いたチタン酸水溶液は、以下のようにして得た。
【0372】
硫酸チタニル33.3g(テイカ社製、TiO濃度33.3質量%、硫酸濃度51.1質量%)をイオン交換水66.7gに加え、90℃以上で1時間静置して溶解させ、硫酸チタニル水溶液(チタン濃度(TiO2換算)11質量%、硫酸17質量%、pH1以下)を得た。
【0373】
この硫酸チタニル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100g(硫酸チタニル水溶液中の硫酸1モルに対して6.4モルのアミン量)に、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、中和反応液(pH12)を得た。この中和反応液はチタン含有物のスラリー、言い換えるとチタン含有沈殿物のスラリーであった。
【0374】
次に、この中和反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液の硫酸が100mg/L以下になるまで洗浄して、硫酸を除去したチタン含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0375】
このチタン含有沈殿物の一部を、1,000℃で4時間焼成することでTiOを生成し、その質量からチタン含有沈殿物に含まれるTiO濃度を算出した。TiO濃度は11.0質量%だった。
【0376】
そして、このチタン含有沈殿物45gと、水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%)5g(チタン含有沈殿物中のTi1モルに対して0.443モル)と混合し、ペイントシェイカーで24時間振り混ぜることにより、実施例12で用いたチタン酸水溶液を得た。ここで、実施例17で用いたチタン酸水溶液のチタン濃度は、TiO換算で8%であり、Ti換算で4.8%であった。実施例17で用いたチタン酸水溶液のpHは13.7であった。
【0377】
実施例17で用いたジルコニウム酸水溶液は、以下のようにして得た。
【0378】
硫酸ジルコニウム一水和物3.01g(0.01mol)を55質量%硫酸水溶液2.50g(0.014mol)に溶解させ、イオン交換水25gと35質量%過酸化水素水2.5g(0.026mol)を添加することによって(H/ZrOモル比=2.6)、ジルコニウムをZrO換算で4.3質量%含有する硫酸ジルコニウム水溶液を得た。
【0379】
次に、硫酸ジルコニウム水溶液全量を、アンモニア水(NH濃度25質量%)100g(1.47mol)に、1分間未満の時間で添加して(NH/ZrOモル比=147、NH/SO 2-モル比=43)、いわゆる逆中和反応により、反応液を得た。この反応液はジルコニウム酸化合物水和物のスラリー、言い換えればジルコニウム含有沈殿物のスラリーであった。
【0380】
この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄して、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0381】
さらに、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を純水で希釈することにより、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを得た。硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1,000℃で4時間焼成することでZrOを生成し、その重量から硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーに含まれるZrO濃度を算出した。
【0382】
そして、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で10質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が7.2質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)13.7g(0.023mol)とイオン交換水28.5gとを混合し(TMAH/ZrOのモル比=2.2)、この混合物を撹拌しながら、液温が室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、実施例11で用いたジルコニウム酸水溶液を得た。ここで、実施例17で用いたジルコニウム酸水溶液のジルコニウム濃度は、ZrO換算で8%であり、Zr換算で5.9%であった。実施例17で用いたジルコニウム酸水溶液のpHは13.7であった。
【0383】
実施例17で用いたハフニウム酸水溶液は、以下のようにして得た。
【0384】
酸化ハフニウム(純度98%、粉末、高純度科学研究所社製)76.0gに対し、55質量%フッ酸105.1g、純水796.9gを加え、ウォーターバスを用いて80℃に加熱し、24時間撹拌することにより溶解させ、ハフニウム化合物のフッ酸溶解液を得た。このハフニウム化合物のフッ酸溶解液60gに、35質量%過酸化水素水2.2gを加えたハフニウム錯歳水溶液を(H/Hfモル比=1.0)、5分間撹拌した後、25質量%アンモニア水377.2gに徐々に添加した(NH/Hfモル比=250)。その後、5分間撹拌し、析出物として、水酸化ハフニウムを含む中和反応液を得た。
【0385】
次に、この中和反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、析出物(水酸化ハフニウムを含む)を回収した。回収した当該析出物と25質量%アンモニア水200gとを混合し、スラリー化した後、再びデカンテーションし、当該析出物を回収した。このデカンテーション、及び析出物(水酸化ハフニウムを含む)の回収工程を3回繰り返した。
【0386】
そして、回収した析出物(水酸化ハフニウムを含む)に、25質量%TMAH31.1gを加えた混合液を得た。最終的なハフニウム濃度がHfO換算で6質量%となるように、その混合液の合計重量が77.7gとなるまで純水を加え、この混合液を6時間撹拌することにより、実施例17で用いたハフニウム酸水溶液を得た。実施例17で用いたハフニウム酸水溶液のpHは14.8であった。
【0387】
実施例17で用いたケイ酸水溶液は、以下のようにして得た。
【0388】
100mLビーカーに、ケイ素を含む原料物質であるテトラエトキシシラン(TEOS、東京応化工業株式会社製)11.0gに対し、酸性水溶液である酢酸(林純薬工業株式会社製)0.1g、工業用エタノール(ソルミックスAP-7(エタノール85.5質量%、1-プロパノール9.6質量%、2-プロパノール4.9質量%、及び水0.2質量%以下を含む混合アルコール溶媒)、東洋石油化学株式会社製)15g、純水8gを加え、スターラーチップにより撹拌しながら室温(25℃)で20時間混合することにより、透明の析出物である、乾燥したケイ素化合物6gを得た。
【0389】
次に、得られた乾燥したケイ素化合物6gに、40質量%メチルアミン(三菱ガス化学株式会社製)2.6gと、純水8.9gとを加え、スターラーチップにより撹拌しながら室温(25℃)で10時間混合することにより、実施例17で用いたケイ酸水溶液を得た。
【0390】
このようにして得られた、タンタル酸水溶液、ニオブ酸水溶液、チタン酸水溶液、ジルコニウム水溶液、ハフニウム酸水溶液、及びケイ酸水溶液を、実施例17に係る金属酸化合物混合液を100%としたとき、タンタル酸水溶液、ニオブ酸水溶液、チタン酸水溶液、及びジルコニウム水溶液を各1%と、ハフニウム酸水溶液、ケイ酸水溶液を各0.2%となるように調整することにより、実施例17に係る金属酸化合物混合液が得られた。
【0391】
また、実施例17に係る金属化合物含有物を、炭素基材(縦寸法×横寸法:50mm×50mm)の全面に、刷毛を用いて塗布し(塗布量は、0.5g)、実施例1と同様にして、実施例17に係る被膜構造体を得た。
【0392】
一方、実施例17で用いた炭素基材は、実施例14で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0393】
(実施例18)
実施例18に係る金属化合物含有物であるジルコニウム酸水溶液は、実施例17に係る金属化合物含有物に含まれるジルコニウム酸水溶液と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0394】
また、実施例18では、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)を50mLビーカーにジルコニウム酸水溶液(10ml程度)中に浸漬させて、減圧条件下で、当該ジルコニウム酸水溶液を当該炭素基材内部に含浸させた(いわゆる真空含浸)(含浸量は、0.98g)。次に、当該ジルコニウム酸水溶液を含浸させた炭素基材を電気炉内に載置し、100℃に加熱した電気炉で60分間乾燥した。その後、Ar雰囲気下で、1500℃に加熱した電気炉で1時間加熱した。そして、室温まで冷却することにより、実施例18に係る被膜構造体を得た。
【0395】
一方、実施例18で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0396】
(実施例19)
実施例19に係る金属化合物含有物であるチタン酸水溶液は、実施例17に係る金属化合物含有物に含まれるチタン酸水溶液と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0397】
また、実施例19では、炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)を50mLビーカーにチタン酸水溶液(10ml程度)中に浸漬させて、減圧条件下で、当該チタン酸水溶液を当該炭素基材内部に含浸させた(含浸量は、0.96g)。次に、当該チタン酸水溶液を含浸させた炭素基材を電気炉内に載置し、100℃に加熱した電気炉で60分間乾燥した。その後、Ar雰囲気下で、1500℃に加熱した電気炉で1時間加熱した。そして、室温まで冷却することにより、実施例19に係る被膜構造体を得た。
【0398】
一方、実施例19で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0399】
(比較例1)
炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の全面に、ポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩(住友精化社製ザイクセンA)を、刷毛を用いて塗布した。次に、ポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩が塗布された炭素基材を電気炉内に載置し、110℃に加熱した電気炉で10分間乾燥した。その後、Ar雰囲気下で、1500℃に加熱した電気炉で1時間加熱した。そして、室温まで冷却することにより、比較例1に係る被膜構造体を得た。
【0400】
比較例1で用いたポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩は、実施例3で用いたポリオレフィン系ポリマー系共重合物中和塩と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0401】
一方、比較例1で用いた炭素基材は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0402】
(参考例1)
参考例1は、押し出し成形された炭素基材(縦寸法×横寸法×厚さ寸法:50mm×50mm×3mm)の表面に対し、タンタル電極からなる放電電極を用いて、放電を繰り返して当該表面を加工した炭素基材である。
(比較例3)
比較例3は、実施例7で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0403】
(比較例4)
比較例4は、実施例10で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0404】
(比較例5)
比較例5は、実施例11で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0405】
(比較例6)
比較例6は、実施例14で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0406】
(比較例7)
比較例7は、実施例1で用いた炭素基材と同じものであるため、詳細な説明は省略する。
【0407】
また、本発明に係る実施形態の金属化合物含有物のうち、樹脂を含むものを、以下の実験例により、説明する。但し、以下の実験例は、本発明を限定するものではない。
【0408】
(実験例1)
実験例1では、金属酸化合物として、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径D50が5nm以下であり、ニオブ濃度がメタル換算(Nb換算)で7.0質量%であり、且つ溶媒が純水であるニオブ酸含有液と、樹脂固形物として、アニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製J-127)とを、金属酸化合物の含有量/(樹脂固形物の含有量+金属酸化合物の含有量)=0.70、且つ樹脂固形物の含有量+金属酸化合物の含有量=0.05を満たすように秤量し、これらを混合し、撹拌することにより、実験例1に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0409】
具体的には、実験例1に係る金属酸化合物含有液を100質量%としたとき、ニオブ濃度がメタル換算(Nb換算)で2.45質量%と、アニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製J-127)1.5質量%と、メチルアミンが0.7質量%と、残部が純水となるように秤量し、これらを混合し、25℃で30分間撹拌することにより、実験例1に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0410】
(実験例2)
実験例2では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、アニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:WC-M-1212)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例2に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0411】
(実験例3)
実験例3では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、アクリル系樹脂(トーヨーケム社製:トークリルX-4402)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例3に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0412】
(実験例4)
実験例4では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、アクリル系樹脂(トーヨーケム社製:トークリルX-4403)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例4に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0413】
(実験例5)
実験例5では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、アニオン性スチレン系樹脂(荒川化学社製:WC-M-1216)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例5に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0414】
(実験例6)
実験例6では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、アニオン性オレフィン系樹脂(荒川化学社製:WC-M-1201)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例6に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0415】
(実験例7)
実験例7では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、ノニオン性共重合ポリアミド樹脂(住友精化社製:セポルジョンPA200)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例7に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0416】
(実験例8)
実験例8では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、ノニオン性共重合ポリアミド樹脂(住友精化社製:セポルジョンPA150)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例8に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0417】
(実験例9)
実験例9では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、ノニオン性ポリアミドエラストマー樹脂(住友精化社製:セポルジョンNE205N)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例9に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0418】
(実験例10)
実験例10では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、スチレンアクリル系樹脂(トーヨーケム社製:トークリルBCX-3101)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例10に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0419】
(実験例11)
実験例11では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、スチレンアクリル系樹脂(トーヨーケム社製:トークリルW-172)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例11に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0420】
(実験例12)
実験例12では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、スチレンアクリル系樹脂(トーヨーケム社製:トークリルW-463)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例12に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0421】
(実験例13)
実験例13では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、スチレンアクリル系樹脂(トーヨーケム社製:トークリルM-4340)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例13に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0422】
(実験例14)
実験例14では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)、アニオン性エチレン-アクリル酸共重合体アンモニウム塩系樹脂(住友精化社製:ザイクセンAC)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例14に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0423】
(実験例15)
実験例15では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、ノニオン性エチレン-アクリル酸共重合体樹脂(住友精化社製:ザイクセンA)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例15に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0424】
(実験例16)
実験例16では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、ノニオン性エチレン-アクリル酸共重合体樹脂(住友精化社製:ザイクセンAC-HW-10)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例16に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0425】
(実験例17)
実験例17では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、ノニオン性カルボキシル基含有ポリエチレン系樹脂(住友精化社製:ザイクセンL)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例17に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0426】
(実験例18)
実験例18では、実験例1のアニオン性アクリル系樹脂(荒川化学社製:J-127)を、ポリシロキサン-アクリル系樹脂(DIC社製:セラネートWHW-822)に置き換えたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例18に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0427】
(実験例19)
実験例19では、実験例1のニオブ酸含有液を、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径D50が5nm以下であり、金属元素濃度(ニオブ濃度、タンタル濃度、チタン濃度、モリブデン濃度、及びタングステン濃度)がメタル換算(Nb換算、Ta換算、Ti換算、Mo換算、及びW換算)で7.0質量%であり、且つ溶媒が純水である、ニオブ酸含有液、タンタル酸含有液、チタン酸含有液、モリブデン酸含有液、及びタングステン酸含有液と、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径D50が100nm以下であり、ジルコニウム濃度がメタル換算(Zr換算)で7.0質量%であり、且つ溶媒が純水である、ジルコニウム酸含有液を、メタル換算重量比で当量ずつ含有する金属酸混合液に置き換え、また有機窒素化合物としてメチルアミン0.7質量%をTMAH0.7質量%に置き換えしたこと以外、実験例1と同様な製造方法を実施し、実験例19に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0428】
(比較例2)
比較例2では、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径D50が5nm以下であり、ニオブ濃度がメタル換算(Nb換算)で7.0質量%であり、且つ溶媒が純水であるニオブ酸含有液を、比較例2に係る金属酸化合物含有液100質量%としたとき、ニオブ濃度がメタル換算(Nb換算)で2.45質量%と、メチルアミンが0.7質量%と、残部が純水となるように秤量し、これらを混合し、25℃で30分間撹拌することにより、比較例2に係る金属酸化合物含有液を得た。
【0429】
そして、実施例1~19に係る金属化合物含有物、実験例1~19に係る金属酸化合物含有液、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3~7に係る炭素基材、比較例2に係る金属酸化合物含有液について、次のような物性値を測定し、評価試験を実施した。以下、実施例1~10に係る金属化合物含有物、比較例1に係る被膜構造体、参考例1、比較例3、4に係る炭素基材の物性値を図1に示す。また、実施例11~17に係る金属化合物含有物、比較例5、6に係る炭素基材の物性値を図2に示す。さらに、実施例18、19に係る金属化合物含有物、及び比較例7に係る炭素基材の物性値を図3に示す。
【0430】
また、図4に、本発明の実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液の物性値の一覧表を示す。図5に、本発明の実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液の測定結果の一覧表を示す。図6に、本発明の実験例2~6、13、15、17~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液の物性値及び測定結果を示す。
【0431】
〈元素分析〉
必要に応じて試料を希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、メタル換算の質量分率を測定した。
【0432】
〈動的光散乱法〉
実施例1~19に係る金属化合物含有物、及び実験例1~19に係る金属酸化合物含有液の粒度分布の評価は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施した。また、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、2μm孔径のフィルタで当該含有物を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて28kHz、3分間の超音波処理を実施した。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。
【0433】
〈光透過率測定〉
実施例1~19に係る金属化合物含有物4mlを、光路長5.0mmの石英セルに入れ、実施例1~19に係る金属化合物含有物の波長500nm~700nm領域における光透過率は、分光光度計を用いて、上述した光透過率測定条件、又は光透過率測定条件(Siを含む)に従って、測定した。
【0434】
実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液4mlを、光路長5.0mmの石英セルに入れ、実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液の波長550nm~700nm領域における光透過率(具体的には、波長550nm、600nm、650nm、700nmにおける光透過率)は、分光光度計を用いて、上述した透過率測定条件に従って、測定した。そして、波長550nm、600nm、650nm、700nmにおける光透過率が70%T以上であるものを「〇(GOOD)」と評価し、70%T未満であるものを「×(BAD)」と評価した。図5の「初期光透過率」とは、生成された直後に液温25℃に調整した金属酸化合物含有液の光透過率をいう。また、図5の「経時光透過率」とは、室温25℃に設定した恒温器内で1カ月静置した後の金属酸化合物含有液の光透過率をいう。
【0435】
〈耐熱性試験〉
実施例1~19に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3~7に係る炭素基材を、以下に示す3つの試験条件に分けて、耐熱性試験を実施した。
【0436】
〈耐熱性試験1〉
先ず、実施例1~17に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3~6に係る炭素基材について、耐熱性試験1前の重量(以下、試験1前重量という。)をそれぞれ測定した。次に、実施例1~17に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3~6に係る炭素基材を、管状炉内に載置し、大気雰囲気下で、加熱温度700℃、加熱時間90分間で焼成した。焼成した実施例1~17に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3~6に係る炭素基材を、管状炉から取り出し、耐熱性試験1後の重量(以下、試験1後重量という。)をそれぞれ測定した。そして、実施例1~17に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3~6に係る炭素基材について、試験1前重量と、試験1後重量とから、耐熱性試験1の重量変化(減衰率)を下記式(1)から算出した。
【0437】
【数1】
【0438】
なお、実施例1~10に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、参考例1及び比較例3~4に係る炭素基材の耐熱性試験1の試験結果を表1に示す。また、実施例11~17に係る被膜構造体、及び比較例5、6に係る炭素基材の耐熱性試験1の試験結果を表2に示す。
【0439】
〈耐熱性試験2〉
実施例5~6に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、及び参考例1に係る炭素基材について、耐熱性試験2前の重量(以下、試験2前重量という。)をそれぞれ測定した。次に、実施例5~6に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、及び参考例1に係る炭素基材を、管状炉内に載置し、5体積%O-95体積%N混合ガス雰囲気下で、加熱温度700℃、加熱時間90分間で焼成した。焼成した実施例5~6に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、及び参考例1に係る炭素基材を、管状炉から取り出し、耐熱性試験2後の重量(以下、試験2後重量という。)をそれぞれ測定した。そして、実施例5~6に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、及び参考例1に係る炭素基材について、試験2前重量と、試験2後重量とから、耐熱性試験2の重量変化(減衰率)を下記式(2)から算出した。
【0440】
【数2】
【0441】
なお、実施例5、6に係る被膜構造体、比較例1に係る被膜構造体、及び参考例1に係る炭素基材の耐熱性試験2の試験結果を表3に示す。
【0442】
〈耐熱性試験3〉
先ず、実施例18、19に係る被膜構造体、及び比較例7に係る炭素基材について、耐熱性試験3前の重量(以下、試験3前重量という。)をそれぞれ測定した。次に、実施例18、19に係る被膜構造体、及び比較例7に係る炭素基材を、管状炉内に載置し、大気雰囲気下で、加熱温600℃、加熱時間180分間で焼成した。焼成した実施例18、19に係る被膜構造体、及び比較例7に係る炭素基材を、管状炉から取り出し、耐熱性試験3後の重量(以下、試験3後重量という。)をそれぞれ測定した。そして、実施例18、19に係る被膜構造体、及び比較例7に係る炭素基材について、試験3前重量と、試験3後重量とから、耐熱性試験3の重量変化(減衰率)を下記式(3)から算出した。
【0443】
【数3】
【0444】
なお、実施例18、19に係る被膜構造体、比較例7に係る炭素基材の耐熱性試験3の試験結果を表4に示す。
【0445】
〈DLS径相溶性試験〉
実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液中の粒子の初期粒子径(D50)を、上述した動的光散乱法を用いた粒子径分布測定により算出した。そして、当該初期粒子径(D50)が100nm以下であるものを「〇〇(VERY GOOD)」と評価し、100nm超3000nm以下であるものを「〇(GOOD)」と評価し、3000nm超であるものを「×(BAD)」と評価した。
【0446】
〈DLS径経時安定性試験〉
実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液中の粒子の初期粒子径(D50)と、室温25℃に設定した恒温器内で20日間静置した後の金属酸化合物含有液中の粒子の経時粒子径(D50)とを算出し、初期粒子径(D50)に対する経時粒子径(D50)の増加量が10倍以下であるものを「〇(GOOD)」と評価し、10倍以上であるものを「×(BAD)」と評価した。なお、上述したフィルタリングは、「初期粒子径D50(nm)」の測定時に行ったが、「経時粒子径D50(nm)」の測定時は行わず、超音波処理のみを実施した。
【0447】
〈経時安定性試験〉
実験例1~19、及び比較例2に係る金属酸化合物含有液を室温25℃で20日間静置した後、白色沈殿やゲル化の有無を目視観察することにより行った。白色沈殿やゲル化が一つも観察されなかったものは経時安定性を有するとして「○(GOOD)」と評価し、白色沈殿やゲル化が一つでも観察されたものは経時安定性を有しないとして「×(BAD)」と評価した。ここで、ゲル化の判定は、各金属酸化合物含有液をプラスチック容器に入れ、当該容器を逆さまにした際、速やかに落下しない分散液をゲル化していると判定した。
【0448】
〈pH測定〉
実験例1~19、及び比較例2において得られた金属酸化合物含有液にpHメータ(HORIBA製:ガラス電極式水素イオン濃度指示器 D-51)の電極(HORIBA製:スタンダード ToupH 電極 9615S-10D)、液温が25℃に安定したことを確認した後、pHを測定した。図5の「初期pH」とは、生成された直後に液温25℃に調整した金属酸化合物含有液のpHをいう。また、図5の「経時pH」とは、室温25℃に設定した恒温器内で1カ月静置した後の金属酸化合物含有液のpHをいう。
【0449】
〈成膜性試験(ガラス)〉
集電板の代替品であるガラス基板の表面に形成した塗膜の外観評価を光学顕微鏡で観察することによって行った。実験例1~19、及び比較例2の金属酸化合物含有液を2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて、アセトンにより脱脂洗浄した後、乾燥を行った50mm×50mmのガラス基板に滴下し、スピンコート(1,500rpm、15秒)により、塗布した。そして、塗布した箇所を、自然乾燥することにより、ガラス基板上に塗膜を形成した。形成した塗膜の中央15mm×15mmの範囲において、光学顕微鏡(倍率:40倍)で当該ガラス基板を観察し、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されなかったものは成膜性に優れているとして「○(GOOD)」と評価し、一つでも観察されたものを成膜性に優れていないとして「×(BAD)」と評価した(図5を参照)。
【0450】
〈密着性試験(ガラス)〉
上述した成膜性試験(ガラス)と同様にして形成されたガラス基板上の塗膜面にJIS Z 1522:2009で定められたセロハン粘着テープを貼付した。当該セロハン粘着テープを上から指でしごいた後、素早く当該塗膜面に対して垂直方向に剥がし、当該ガラス基板上の塗膜剥がれの有無を観察した。塗膜剥がれが一切観察されなかったものを密着性に優れているとして「〇(GOOD)」と評価し、塗膜剥がれが観察されたものを密着性に優れていないとして「×(BAD)」と評価した(図5を参照)。なお、密着性試験(ガラス)で用いたサンプルは、塗工後1日経過したものを用いた。
【0451】
〈成膜性試験(PET)〉
PET基板の表面に形成した塗膜の外観評価を光学顕微鏡で観察することによって行った。実験例2~6、13、15、17~19、及び比較例2の金属酸化合物含有液を2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて、アセトンにより脱脂洗浄した後、乾燥を行った50mm×50mmのPET基板に滴下し、スピンコート(1,500rpm、15秒)により、塗布した。そして、塗布した箇所を、自然乾燥することにより、PET基板上に塗膜を形成した。形成した塗膜の中央15mm×15mmの範囲において、光学顕微鏡(倍率:40倍)で当該PET基板を観察し、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されなかったものは成膜性に優れているとして「○(GOOD)」と評価し、一つでも観察されたものを成膜性に優れていないとして「×(BAD)」と評価した(図6を参照)。
【0452】
〈密着性試験(PET)〉
上述した成膜性試験(PET)と同様にして形成されたPET基板上の塗膜面の塗膜面にJIS Z 1522:2009で定められたセロハン粘着テープを貼付した。当該セロハン粘着テープを上から指でしごいた後、素早く当該塗膜面と垂直方向に剥がし、当該PET基板上の塗膜剥がれの有無を観察した。塗膜剥がれが一切観察されなかったものを密着性に優れているとして「〇(GOOD)」と評価し、塗膜剥がれが観察されたものを密着性に優れていないとして「×(BAD)」と評価した(図6を参照)。なお、密着性試験(PET)で用いたサンプルは、塗工後1日経過したものを用いた。
【0453】
【表1】
【0454】
【表2】
【0455】
【表3】
【0456】
【表4】
【0457】
実施例1~17に係る被膜構造体は、炭素基材上に金属化合物含有物を塗布し、金属化合物含有物が塗布された炭素基材を加熱することにより、炭素基材上に、均一な金属-炭素複合体被膜を有する。
【0458】
実施例18、19に係る被膜構造体は、炭素基材を金属化合物含有物に浸漬させ、浸漬させた炭素基材を加熱することにより、炭素基材上に、均一な金属-炭素複合体被膜を有する。
【0459】
実施例1~6に係る被膜構造体は耐熱性試験1の減衰率が10%以下であったことから、炭素基材の酸化による重量減損が見られず、炭素基材上に形成された金属-炭素複合体被膜により、炭素基材の耐熱性を向上することができた。一方、比較例1に係る被膜構造体、及び参考例1に係る炭素基材の耐熱性試験1の減衰率は17.1%、15.8%であった
【0460】
実施例7~9に係る被膜構造体は耐熱性試験1の減衰率は、比較例3に係る炭素基材の耐熱性試験1の減衰率と比べて、僅かであるが減少した。また、実施例10に係る被膜構造体は耐熱性試験1の減衰率は、比較例4に係る炭素基材の耐熱性試験1の減衰率の半分以下に減少した。
【0461】
実施例11~13に係る被膜構造体は耐熱性試験1の減衰率は、比較例5に係る炭素基材の耐熱性試験1の減衰率と比べて、減少した。また、実施例14~17に係る被膜構造体は耐熱性試験1の減衰率は、比較例6に係る炭素基材の耐熱性試験1の減衰率と比べて、大きく減少した。
【0462】
また、実施例5~6に係る被膜構造体は耐熱性試験2の減衰率が2%以下であったことから、炭素基材の酸化による重量減損が見られず、炭素基材上に形成された金属-炭素複合体被膜により、炭素基材の耐熱性を向上することができた。一方、比較例1に係る被膜構造体、及び参考例1に係る炭素基材の耐熱性試験2の減衰率は2.7%、2.7%であった。
【0463】
実施例18、19に係る被膜構造体は耐熱性試験3の減衰率、比較例7に係る炭素基材の耐熱性試験3の減衰率と比べて、僅かであるが減少した。
【0464】
上述した耐熱性試験1~3の結果から、金属-炭素複合体被膜に含まれる金属元素の種類や、炭素基材のサイズや種類によらず、炭素基材上に形成された金属-炭素複合体被膜により、炭素基材の耐熱性を向上することができた。
【0465】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0466】
本発明に係る金属化合物含有物は、CVD装置を用いる必要がなく、当該炭素基材上に保護膜を形成することが出来る金属化合物含有物を提供する。また本発明に係る金属化合物含有物は、分散性が高く、保存安定性に優れており、経時変化によって、沈殿物が生じることによる不良品の発生率を抑えられることから、廃棄物を減らすことができ、廃棄物の処分におけるエネルギーコストも削減することが可能となる。なお、環境負荷も低く、廃棄物の低減を実現できる点により、天然資源の持続可能な管理及び効率的な利点、並びに脱炭素(カーボンニュートラル)化を達成することにつながる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6