(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100516
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】腐食評価方法、センサ電流値導出モデル、及び制御装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20250626BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024225596
(22)【出願日】2024-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2023216834
(32)【優先日】2023-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】末澤 知之
(72)【発明者】
【氏名】山中 秀文
(72)【発明者】
【氏名】西田 周平
(72)【発明者】
【氏名】永井 智之
(72)【発明者】
【氏名】西川 明伸
(72)【発明者】
【氏名】河村 洋佑
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA02
2G050EB10
(57)【要約】
【課題】環境において金属への海塩等の付着物量を実測することなく、金属の腐食速度に相関のあるセンサ電流値を精度良く推定する。
【解決手段】環境において所定の測定タイミングで金属に付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数を導出する仮想海塩変数導出工程と、その時点の測定タイミングで導出される仮想海塩変数を足し合わせた値を、その時点での積算仮想海塩変数として、センサ電流値導出モデル生成工程の環境因子に含み、センサ電流値の非測定点における説明変数としての環境因子と、センサ電流値導出モデル生成工程にて導出されたセンサ電流値導出モデルとに基づいて、非測定点におけるセンサ電流値を推定するセンサ電流値推定工程と、を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境における金属の腐食性を評価する腐食評価方法であって、
前記環境においてACMセンサにより測定されるセンサ電流値を目的変数とし、前記環境において前記センサ電流値に影響を与える環境因子を説明変数として機械学習することにより、前記センサ電流値を導出するセンサ電流値導出モデルを生成するセンサ電流値導出モデル生成工程を実行するものであり、
前記環境における風向及び風速に基づいて導出される海から前記環境への風の風速成分である海風速と、前記環境における風向及び風速に基づいて導出される前記金属の受風方向での風の風速成分であるセンサ風速とから導出され、前記環境において所定の測定タイミングで前記金属に付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数を導出する仮想海塩変数導出工程と、
現時点までの前記測定タイミングで導出される前記仮想海塩変数を足し合わせた値を、前記現時点での積算仮想海塩変数として、前記センサ電流値導出モデル生成工程の前記環境因子に含み、
前記センサ電流値の非測定点における説明変数としての前記環境因子と、前記センサ電流値導出モデル生成工程にて導出された前記センサ電流値導出モデルとに基づいて、前記非測定点における前記センサ電流値を推定するセンサ電流値推定工程と、を実行する腐食評価方法。
【請求項2】
前記環境因子としての前記仮想海塩変数は、前記海風速と前記センサ風速との一次の積である請求項1に記載の腐食評価方法。
【請求項3】
前記環境において所定の前記測定タイミングで前記ACMセンサにて連続して測定された2点の前記センサ電流値と前記連続する前記測定タイミング間の時間とから当該時間の電気量を求め、当該電気量を所定の測定期間で足し合わせた累積センサ電気量と、
前記環境において前記測定期間に測定されるRCMセンサの測定値から導出される腐食減肉量との相関分析により、
前記累積センサ電気量から前記腐食減肉量への換算モデルを生成する換算モデル生成工程を実行し、
前記センサ電流値推定工程にて推定される前記非測定点における前記センサ電流値を、所定の腐食推定期間で逐次推定し電気量に変換して足し合わせた前記累積センサ電気量と、前記換算モデルとから、前記腐食減肉量を推定する腐食減肉量推定工程を実行する請求項1又は2に記載の腐食評価方法。
【請求項4】
前記換算モデル生成工程において、前記腐食減肉量は、前記環境において前記測定期間の前記測定タイミングで測定される前記RCMセンサによる測定値のうち、前記測定期間に亘って測定される値の最低の値である移動最低値を用いて推定される請求項3に記載の腐食評価方法。
【請求項5】
前記センサ電流値導出モデルは、前記機械学習として重回帰分析を実行して得られる重回帰式、又は前記機械学習として回帰モデルによる分析を実行して得られる回帰木である請求項1又は2に記載の腐食評価方法。
【請求項6】
前記センサ電流値導出モデル生成工程は、前記環境因子に加え、前記センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習する請求項1又は2に記載の腐食評価方法。
【請求項7】
環境においてACMセンサにより測定されるセンサ電流値を目的変数とし、前記環境において前記センサ電流値に影響を与える環境因子を説明変数として機械学習することにより、前記センサ電流値を導出するセンサ電流値導出モデルであって、
前記環境における風向及び風速に基づいて導出される海から前記環境への風の風速成分である海風速と、前記環境における風向及び風速に基づいて導出される金属の受風方向での風の風速成分であるセンサ風速とから導出され、前記環境において所定の測定タイミングで前記金属に付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数を導出し、
現時点までの前記測定タイミングで導出される前記仮想海塩変数を足し合わせた値を、前記現時点での積算仮想海塩変数として、前記環境因子に含むセンサ電流値導出モデル。
【請求項8】
前記環境因子に加え、前記センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習することにより、前記センサ電流値を導出する請求項7に記載のセンサ電流値導出モデル。
【請求項9】
請求項7に記載のセンサ電流値導出モデルと、前記センサ電流値の非測定点における説明変数としての前記環境因子とに基づいて、前記非測定点における前記センサ電流値を推定する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境における金属の腐食性を評価する腐食評価方法、センサ電流値導出モデル、及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の腐食速度を評価する手法として、ACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサ(大気腐食センサ)を設置し、大気環境をモニタリングする手法が知られている。ACMセンサは、結露等によりセンサ表面上に水膜が形成された際のガルバニック電流を記録しており、この電流値は、腐食速度と相関があることから、大気環境における腐食性の評価に用いられている。
【0003】
昨今、種々の環境因子からACMセンサの示す電流値を推定することにより、ACMセンサを設けることなく対象地点の腐食速度を推定し評価する試みがなされている。
例えば、特許文献1に開示の技術では、金属の腐食速度を目的変数とし、その腐食速度に影響を与える環境因子を説明変数として重回帰分析を行う際に、相対湿度に重み付けして足し合わせた仮想ぬれ時間を説明変数として含むことを提案している。
ここで、ACMセンサの示す電流値は、海塩等の付着物量により増加する傾向がある、換言すれば、評価対象の金属の腐食性に関連するセンサ電流値は金属への海塩等の付着物量により増加する傾向がある。この点を鑑みて、特許文献1には、相対湿度の重み付けに、金属への付着物量を考慮に入れることが示されている。
【0004】
特許文献2に開示の技術では、環境での金属の腐食性を評価する腐食評価方法であって、温度と、湿度と、金属への単位面積当たりの海塩の付着量である海塩粒子量と、ACMセンサのセンサ電流量との相関関係を予め求め、当該相関関係と、所定の環境にて測定した温度と、湿度と、海塩粒子量とに基づいて、センサ電流量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-224405号公報
【特許文献2】特開2013-134094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の技術では、ACMセンサの示す電流値に大きな影響を及ぼす海塩などの付着物量については、実際の測定値に基づいた重み付けを行っていることから、腐食速度を評価する地点ごとに付着物量を測定することが必要であった。このため、広範囲において腐食速度を評価することが難しいという課題があった。
【0007】
特許文献2に開示の技術では、海塩粒子量が説明変数に含まれているため、腐食速度の評価地点ごとに海塩粒子量の測定が必要であった。このため、上述の特許文献1に開示の技術と同様に、現実的に広範囲において腐食速度を評価することが難しいという課題があった。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境において金属への海塩等の付着物量を実測することなく、金属の腐食速度に相関のあるセンサ電流値を精度良く推定する腐食評価方法、センサ電流値導出モデル、及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための腐食評価方法は、
環境における金属の腐食性を評価する腐食評価方法であって、その特徴構成は、
前記環境においてACMセンサにより測定されるセンサ電流値を目的変数とし、前記環境において前記センサ電流値に影響を与える環境因子を説明変数として機械学習することにより、前記センサ電流値を導出するセンサ電流値導出モデルを生成するセンサ電流値導出モデル生成工程を実行するものであり、
前記環境における風向及び風速に基づいて導出される海から前記環境への風の風速成分である海風速と、前記環境における風向及び風速に基づいて導出される前記金属の受風方向での風の風速成分であるセンサ風速とから導出され、前記環境において所定の測定タイミングで前記金属に付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数を導出する仮想海塩変数導出工程と、
現時点までの前記測定タイミングで導出される前記仮想海塩変数を足し合わせた値を、前記現時点での積算仮想海塩変数として、前記センサ電流値導出モデル生成工程の前記環境因子に含み、
前記センサ電流値の非測定点における説明変数としての前記環境因子と、前記センサ電流値導出モデル生成工程にて導出された前記センサ電流値導出モデルとに基づいて、前記非測定点における前記センサ電流値を推定するセンサ電流値推定工程と、を実行する点にある。
【0010】
これまで説明してきたように、従来技術では、海塩等の付着物量を、センサ電流値を推定する地点、或いは腐食速度を評価する地点毎に測定する必要があり、広範囲において腐食速度を評価することが難しかった。
本発明の発明者らは、環境においてACMセンサにより測定されるセンサ電流値を目的変数とし、環境においてセンサ電流値に影響を与える環境因子を説明変数として機械学習することにより、センサ電流値を導出するセンサ電流値導出モデルにおいて、環境において金属に付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数なる概念を導入した。そして、当該仮想海塩変数を、環境における風向及び風速に基づいて導出される海から環境への風の風速成分である海風速と、環境における風向及び風速に基づいて導出されるACMセンサの受風方向での風の風速成分であるセンサ風速とから導出されるものと定義し、その時点までの測定タイミングで導出される仮想海塩変数を足し合わせた積算仮想海塩変数なる概念を導入した。
【0011】
即ち、上記特徴構成を有する腐食評価方法では、センサ電流値導出モデルを生成するセンサ電流値導出モデル生成工程の環境因子として、上述した積算仮想海塩変数を含み、センサ電流値推定工程において、センサ電流値の非測定点における説明変数としての環境因子と、センサ電流値導出モデル生成工程にて導出されたセンサ電流値導出モデルとに基づいて、非測定点におけるセンサ電流値を推定するから、センサ電流値を推定する地点(腐食評価を実行する地点)毎で、海塩を直接測定する必要がなく、海風速とセンサ風速とを測定すれば足りる。これにより、海塩を直接測定する必要がある従来技術に比べ、広範囲においてセンサ電流値を推定(腐食評価を実行)することができる。
尚、発明者らは、上記特徴構成を有する腐食評価方法により、比較的高い精度でセンサ電流値を推定できることを、後述する試験結果により確認している。
【0012】
腐食評価方法の更なる特徴構成は、
前記環境因子としての前記仮想海塩変数は、前記海風速と前記センサ風速との一次の積である点にある。
【0013】
因みに、発明者らは、環境因子等の条件を同一にしたときに、環境因子としての仮想海塩変数を海風速とセンサ風速との一次の積とした場合、仮想海塩変数を以下の〔表1〕に示す他の値とした場合に比べ、センサ電流値の推定精度が最も高くなる(「決定係数が1に最も近い値」および「МSEが最も小さい値」になる)ことを確認している。
【0014】
【0015】
腐食評価方法の更なる特徴構成は、
前記環境において所定の前記測定タイミングで前記ACMセンサにて連続して測定された2点の前記センサ電流値と前記連続する前記測定タイミング間の時間とから当該時間の電気量を求め、所定の測定期間で足し合わせた累積センサ電気量と、
前記環境において前記測定期間に測定されるRCMセンサの測定値から導出される腐食減肉量との相関分析により、前記累積センサ電気量から前記腐食減肉量への換算モデルを生成する換算モデル生成工程を実行し、
前記センサ電流値推定工程にて推定される前記非測定点における前記センサ電流値を、所定の腐食推定期間で逐次推定し電気量に変換して足し合わせた前記累積センサ電気量と、前記換算モデルとから、前記腐食減肉量を推定する腐食減肉量推定工程を実行する点にある。
尚、RCMセンサは、評価を行う金属と同じ材料もしくは同種の材料で構成されており、センサの測定値から金属の腐食量を精度よく推定できるセンサである。
【0016】
上記特徴構成によれば、換算モデル生成工程により、環境において所定の測定タイミングでACMセンサにて連続して測定された2点のセンサ電流値と連続する測定タイミング間の時間とから当該時間の電気量を求め、所定の測定期間で足し合わせた累積センサ電気量と、環境において測定期間で測定されるRCMセンサの測定値から推定される腐食減肉量との相関分析により、累積センサ電気量から腐食減肉量への換算モデルを生成し、腐食減肉量推定工程により、これまで説明してきた手法にて推定されたセンサ電流値を腐食推定期間で逐次推定し電気量に変換して足し合わせた累積センサ電気量と、換算モデルとから、腐食減肉量を推定することができる。
これにより、換算モデルの生成、腐食減肉量を推定する工程の双方において、直接海塩付着量を測定することなく、センサ電流値を直接測定しない非測定点における腐食減肉量を、良好に推定することができる。
【0017】
腐食評価方法の更なる特徴構成は、
前記換算モデル生成工程において、前記腐食減肉量は、前記環境において前記測定期間の前記測定タイミングで測定される前記RCMセンサによる測定値のうち、前記測定期間に亘って測定される値の最低の値である移動最低値を用いて推定される点にある。
【0018】
換算モデル生成工程において、腐食減肉量は、環境において測定期間の測定タイミングで測定されるRCMセンサによる測定値のうち、測定期間に亘って測定される値の最低の値である移動最低値を用いて推定されることが好ましい。
RCMセンサの測定値は、上振れのノイズを多く含んでいるが、上記特徴構成の如く、移動最低値を用いることで、データのトレンドを良好に追跡することが可能となる。
【0019】
腐食評価方法の更なる特徴構成は、
前記センサ電流値導出モデルは、前記機械学習として重回帰分析を実行して得られる重回帰式、又は前記機械学習として回帰モデルによる分析を実行して得られる回帰木である点にある。
【0020】
本発明の発明者らは、センサ電流値導出モデルとして、機械学習として重回帰分析を実行して得られる重回帰式、又は機械学習として回帰モデルによる分析を実行して得られる回帰木を採用することで、後述する試験結果に示すように、センサ電流値を良好に推定できることを確認している。
【0021】
腐食評価方法の更なる特徴構成は、
前記センサ電流値導出モデル生成工程は、前記環境因子に加え、センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習する点にある。
【0022】
本発明の発明者らは、センサ電流値導出モデル生成工程にて、環境因子に加え、センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習することにより、後述する試験結果に示すように、センサ電流値の推定精度を向上できることを確認している。
尚、「センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子」とは、換言すれば、温度や湿度を介して間接的にセンサ電流値に影響を及ぼす時間因子を指す。
【0023】
上記目的を達成するためのセンサ電流値導出モデルは、
環境においてACMセンサにより測定されるセンサ電流値を目的変数とし、前記環境において前記センサ電流値に影響を与える環境因子を説明変数として機械学習することにより、前記センサ電流値を導出するセンサ電流値導出モデルであって、その特徴構成は、
前記環境における風向及び風速に基づいて導出される海から前記環境への風の風速成分である海風速と、前記環境における風向及び風速に基づいて導出される前記金属の受風方向での風の風速成分であるセンサ風速とから導出され、前記環境において所定の測定タイミングで前記金属に付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数を導出し、
現時点までの前記測定タイミングで導出される前記仮想海塩変数を足し合わせた値を、前記現時点での積算仮想海塩変数として、前記環境因子に含む点にある。
【0024】
上記特徴構成を有するセンサ電流値導出モデルを用いることにより、センサ電流値を推定する地点(腐食評価を実行する地点)毎で、海塩を直接測定する必要がなく、海風速とセンサ風速とを測定すれば足りる。これにより、海塩を直接測定する必要がある従来技術に比べ、広範囲においてセンサ電流値を推定することができる。
【0025】
センサ電流値導出モデルの更なる特徴構成は、
前記環境因子に加え、前記センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習することにより、前記センサ電流値を導出する点にある。
【0026】
本発明の発明者らは、センサ電流値導出モデルにおいて、環境因子に加え、センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習することにより、センサ電流値を導出することで、後述する試験結果に示すように、センサ電流値の推定精度を向上できることを確認している。
【0027】
上記目的を達成するための制御装置の特徴構成は、
上述のセンサ電流値導出モデルと、前記センサ電流値の非測定点における説明変数としての前記環境因子とに基づいて、前記非測定点における前記センサ電流値を推定する点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、海塩を直接測定する必要がある従来技術に比べ、広範囲においてセンサ電流値を推定することができる制御装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】腐食評価方法を実行するための所定の環境での腐食評価に係る装置の概略構成図である。
【
図2】センサ電流値及び腐食減肉量を推定するための腐食評価方法の処理フローである。
【
図3】重回帰分析により導出されたセンサ電流値導出モデルを用いて推定されたセンサ電流値(対数値)の推定値と実測値とを示すグラフ図である。
【
図4】重回帰分析により導出されたセンサ電流値導出モデルを用いた場合のセンサ電流値(対数値)の推定値と実測値との相対関係を示すグラフ図である。
【
図5】実測されたセンサ電流値(ACMセンサ電流値)に基づく累積電気量と実測された腐食減肉量(RCMセンサ減肉量)の値との相関関係、及びその近似式を示すグラフ図である。
【
図6】重回帰分析に基づく腐食減肉量(RCMセンサ減肉量)の推定値と実測値との相対関係を示すグラフ図である。
【
図7】XGBoostにより導出されたセンサ電流値導出モデルを用いて推定されたセンサ電流値(対数値)の推定値と実測値とを示すグラフ図である。
【
図8】XGBoostにより導出されたセンサ電流値導出モデルを用いた場合のセンサ電流値(対数値)の推定値と実測値との相対関係を示すグラフ図である。
【
図9】XGBoostに基づく腐食減肉量(RCMセンサ減肉量)の推定値と実測値との相対関係を示すグラフ図である。
【
図10】説明変数である時間因子として「起点日(DOYでは2022/1/1)からの経過日数」に係る指標のグラフ図であり、DOYが30(2022/1/31)から1000(2024/9/27)までの各値を示している。
【
図11】説明変数である時間因子として「起点時間(TODでは0時0分)からの経過時間」に係る指標のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態に係る腐食評価方法は、環境において金属への海塩等の付着物量を実測することなく、金属の腐食速度に相関のあるセンサ電流値(及び腐食減肉量)を精度良く推定する腐食評価方法、センサ電流値導出モデル、及び制御装置を提供することにある。
以下、
図1~10に基づいて、当該腐食評価方法の実施形態について説明する。
【0031】
当該実施形態に係る腐食評価方法は、
図1に示すように、環境における金属の腐食性を評価する腐食評価方法であり、環境においてACMセンサACにより測定されるセンサ電流値を目的変数とし、環境においてセンサ電流値に影響を与える環境因子を説明変数として機械学習することにより、センサ電流値を導出するセンサ電流値導出モデルを生成するセンサ電流値導出モデル生成工程を実行するものである。
当該腐食評価方法では、環境における風向及び風速に基づいて導出される海から環境への風の風速成分である海風速と、環境における風向及び風速に基づいて導出される金属の受風方向での風の風速成分であるセンサ風速とから導出され、環境において所定の測定タイミングで金属に付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数を導出する仮想海塩変数導出工程と、現時点までの測定タイミングで導出される仮想海塩変数を足し合わせた値を、現時点での積算仮想海塩変数として、センサ電流値導出モデル生成工程の環境因子に含み、センサ電流値の非測定点における説明変数としての環境因子と、センサ電流値導出モデル生成工程にて導出されたセンサ電流値導出モデルとに基づいて、非測定点におけるセンサ電流値を推定するセンサ電流値推定工程を実行する。
尚、当該実施形態においては、ACMセンサAC及びRCMセンサRCの測定値は、特に示さない限り、ピークカット等の所定の数値処理がなされた値を用いているものとする。
ちなみに、金属としては、例えば、ある工場内外のあらゆる場所のあらゆる方向を向いた金属を対象とすることができる。
【0032】
当該腐食評価方法は、腐食性を評価する金属に海塩が付着する場合がある環境において有効であり、
図1に示すような腐食評価に係る腐食評価装置100により、学習データを取得する。
より詳細には、当該実施形態に係る腐食評価装置100は、
図1に示すように、各種センサの出力値を受け取り分析可能な制御装置Sを備えると共に、海からの風に晒される環境(例えば、海岸線KYの近傍)に設置され、環境因子測定センサ群Kとして、風速を測定する風速センサK1、降雨量を測定する雨量センサK2、大気の湿度(相対湿度又は絶対湿度)を測定する湿度センサK3、大気の温度を測定する温度センサK4、日射量を測定する日射量センサK5を備えて構成されている。
制御装置Sは、メモリやCPU等のハードウェアとソフトウェアとが協働して実現される情報処理装置である。
【0033】
更に、腐食評価装置100は、目的変数関連値測定センサ群Fとして、ACMセンサACと、所定の測定期間に測定される電気抵抗値の変化量を測定可能なRCMセンサRCとを備えている。
尚、後述する非測定点において、センサ電流値に影響を与える環境因子を測定する場合には、当該非測定点に、上述した環境因子測定センサ群Kのみが設けられ、取得されたデータが電気通信回線(図示せず)等により、非測定点とは異なるデータセンター(図示せず)に送られる構成を採用しても構わない。
【0034】
さて、制御装置Sは、風速センサK1にて測定される風速Vから、
図1に示すように、環境における風向及び風速に基づいて導出される海から環境への風の風速成分である海風速Vcosθ
1と、環境における風向及び風速に基づいて導出されるACMセンサACおよびRCMセンサRCの受風方向での風の風速成分であるセンサ風速Vcosθ
2とを導出可能に構成されている。
【0035】
説明を追加すると、海風速Vcosθ1は、風速センサK1にて測定される風速Vのうち、腐食評価装置100に最も近い海岸線KYに直交して風速センサK1を通る線分D1に沿う成分であって、以下の〔数1〕で表される。
【0036】
【0037】
更に、センサ風速Vcosθ2は、風速センサK1にて測定される風速Vのうち、金属の受風方向(風速センサK1の受風面に直交する方向に沿う線分D2)での風の風速成分であって、以下の〔数2〕で表される。
ちなみに、当該腐食評価装置100では、詳細な図示は省略するが、金属の受風方向(例えば、金属が風箱内に設置されているときの風箱の受風口の開口方向)は、風速センサK1の受風面に直交する方向に一致しているものとする。
【0038】
【0039】
さて、当該実施形態に係る腐食評価方法では、所定の測定タイミングでの上述した海風速Vcosθ1とセンサ風速Vcosθ2の一次の積を、その測定タイミングで、環境においてACMセンサACに付着する海塩量に相関のある仮想海塩変数とする。
そして、測定開始から所定の測定期間が経過した後に、ACMセンサACへ付着する合計の海塩量に相関のある積算仮想海塩変数は、測定期間に含まれる複数の測定タイミング毎の海風速Vcosθ1とセンサ風速Vcosθ2の一次の積を、測定期間で足し合わせたものとする。
【0040】
以下、仮想海塩変数(より詳細には、積算仮想海塩変数)をセンサ電流値導出モデル生成工程の環境因子として、センサ電流値を推定すると共に、腐食減肉量を推定する。
以下、センサ電流値の推定及び腐食減肉量の推定に関し、
図2に示す腐食評価方法の処理フローに沿って説明する。
【0041】
制御装置Sは、所定の環境において、所定の測定タイミングで、測定された海風速Vcosθ1とセンサ風速Vcosθ2との一次の積である仮想海塩変数を導出する仮想海塩変数導出工程を実行する(#01)。
更に、測定開始から所定の測定期間が経過した後に、ACMセンサACへ付着する合計の海塩量に相関のある積算仮想海塩変数を、測定期間に含まれる複数の測定タイミング毎の海風速Vcosθ1とセンサ風速Vcosθ2の一次の積を、足し合わせたものとして導出する。以下では、「所定の測定タイミングの積算仮想海塩変数」とは、測定開始から所定の測定タイミングまでに導出された仮想海塩変数の合計を意味するものとする。
【0042】
制御装置Sは、上述の海風速Vcosθ1及びセンサ風速Vcosθ2を測定する測定タイミングで、目的変数の学習データとして、ACMセンサACによりセンサ電流値を測定すると共に、説明変数の学習データである環境因子として、雨量センサK2により雨量を測定し、湿度センサK3により大気の湿度を測定し、温度センサK4により大気の温度を測定し、日射量センサK5により日射量を測定する(#02)。
制御装置Sは、ステップ#01~#02により、測定タイミング毎の学習データのセット、即ち、所定の測定タイミング毎のセンサ電流値、積算仮想海塩変数、雨量、湿度、温度、日射量のセットを、学習データとして、所定の測定期間の測定タイミングで複数取得する。
ここで、測定期間及び測定タイミングは、例えば、1か月の間、30分毎のタイミングであるとする。
【0043】
制御装置Sは、ステップ#01~#02により取得した学習データの一部を用いて、機械学習を実行することにより、センサ電流値導出モデルを生成するセンサ電流値導出モデル生成工程を実行する(#03)。
尚、センサ電流値導出モデルは、機械学習として重回帰分析を実行して得られる重回帰式、又は機械学習として回帰モデル(例えば、XGBoost)による分析を実行して得られる回帰木を、好適に用いることができる。例えば、センサ電流値導出モデルが重回帰式である場合、詳細な計算結果については後述するが、以下の〔数3〕のようになる。
ここで、上記学習データの残部を用いて、生成されたセンサ電流値導出モデルの精度を検証するステップを実行することができる。
【0044】
【0045】
〔数3〕において、aは相対湿度(%)であり、bは温度(℃)であり、cは雨量(mm)であり、dは日射量(μW/cm2)であり、eは積算仮想海塩変数であり、α1~α6は、機械学習により算出される係数である。
【0046】
次に、センサ電流値の推定値の導出対象地点としての非測定点において、環境因子である海風速、センサ風速、湿度、温度、雨量、日射量を測定し(#04)、測定した環境因子を、センサ電流値導出モデルに代入することで、センサ電流値の推定値を導出するセンサ電流値推定工程を実行する(#05)。
より詳細には、ステップ#05のセンサ電流値推定工程では、非測定点において、センサ電流値導出モデルに、センサ電流値推定工程を実行する時点までに測定された海風速とセンサ風速の一次の積を足し合わせた積算仮想海塩変数と、センサ電流値推定工程の実行時点での湿度と温度と雨量と日射量とを用いることで、センサ電流値を導出する。
即ち、当該実施形態に係るセンサ電流値を導出するには、積算仮想海塩変数(仮想海塩変数を足し合わせた値)を導出する必要があるため、少なくとも、仮想海塩変数を導出するための海風速とセンサ風速とは、金属が、腐食される環境(非測定点)に設置された時点(金属の腐食減肉量を推定する推定期間の開始時点)から測定しておく必要がある。
【0047】
制御装置Sは、環境において所定の測定タイミングでACMセンサACにて連続して測定された2点のセンサ電流値と連続する測定タイミング間の時間とから当該時間の電気量を求め、当該電気量を所定の測定期間で足し合わせた累積センサ電気量と、環境において測定期間に測定されるRCMセンサの測定値から導出される腐食減肉量との相関分析により、累積センサ電気量から腐食減肉量への換算モデルを生成する換算モデル生成工程を実行する(#06)。
【0048】
尚、腐食減肉量Rは、RCMセンサRCの測定値iRを、公知の所定の換算式に基づいて変換したものである。ちなみに、RCMセンサRCの測定値iRは、測定期間(例えば1日)に亘って測定される値の最低の値である移動最低値を好適に用いることができる(参考資料:鈴木智康「淡水や処理水中の腐食評価におけるACMセンサの適用検討」(材料と環境, 68, 201-204 (2019)))。
【0049】
累積センサ電気量Eは、ACMセンサACにて測定されるセンサ電流値をiAとしたときに、以下の〔数4〕で表される(参考資料:山本正弘「交流インピーダンス法を用いた屋外環境における鋼の腐食速度の連続測定」(日本金属学会誌 第65巻 第6号(2001) 465-469))。
当該〔数4〕は、30分毎に計測される経過時間t[分]におけるACMセンサACの出力値It[μA]を累積センサ電気量Qt[C]に変換するものである。ここで、Ik-1はIkの30分前の出力値です。また、「10-6」はμAからAへの単位換算のための値であり、「30」は30分を意味し、「60」は分から秒への単位換算のための値である。換言すれば、電流値に対して時系列的に積分を実行したものである。
【0050】
【0051】
ここで、生成される換算モデルの詳細は省略するが、換算モデルの一例としては、
図5にて実線で示される対数近似式を挙げることができる。その他、機械学習等を用いることでより精度の高い近似式を生成可能である。
【0052】
制御装置Sは、ステップ#05のセンサ電流値推定工程にて推定される非測定点におけるセンサ電流値を、所定の腐食推定期間で逐次推定し電気量に変換して足し合わせた累積センサ電気量と、換算モデルとから、腐食減肉量を推定する腐食減肉量推定工程を実行する(#07)。
【0053】
次に、センサ電流値導出モデルが、機械学習として重回帰分析を実行して得られる重回帰式である場合、及び機械学習として回帰モデルによる分析を実行して得られる回帰木である場合の夫々について、計算結果を以下に示す。
【0054】
〔センサ電流値導出モデルが重回帰式である場合〕
日本国内の所定の複数の地点にて上述したACMセンサAC及びRCMセンサRCの測定値、及び上述した環境因子に関する値を、2023年1~3月の3ヶ月間測定し、測定データを用いて、センサ電流値の推定、腐食減肉量の推定を行った。
【0055】
センサ電流値導出モデル生成工程では、複数の地点のうち一地点にて取得されたデータを使用し、センサ電流値導出モデル生成工程にて得られたセンサ電流値導出モデル(〔数3〕に示す重回帰式)に、上記一地点とは異なる他の地点(非測定点)にて測定される環境因子を代入することで、センサ電流値の推定を行った。
センサ電流値の実測値と推定値の関係を
図3、4に示す。当該センサ電流値の推定値に関し、センサ電流値導出モデルがデータにどれだけ適合しているかを評価するための指標である決定係数(0≦R
2≦1)は、「0.45」であり、1に比較的近く予測(推定)の精度が高いといえる。
また、機械学習モデルの性能を評価するための一般的な指標であるMSE(Mean Squared Error、平均二乗誤差)は「1.10」であった。当該MSEは、小さいほど、予測値と実際の観測値との差が小さいことを意味するが、計算された値「0.88」は、十分に小さく、生成されたセンサ電流値導出モデルは、精度の良いモデルであるといえる。
【0056】
換算モデル生成工程及び腐食減肉量推定工程を実行することで、ACMセンサにて測定されるセンサ電流値を上記〔数4〕により変換した累積電気量(以下、「ACMセンサ累積電気量」と呼ぶ)と、RCMセンサの測定値から導かれる腐食減肉量(以下「RCMセンサ減肉量」と呼ぶ)との相関関係(
図5に図示)から、ACMセンサ累積電気量をRCMセンサ減肉量へ換算するための換算式(
図5で実線で示す式)を得る。
当該換算式に、先ほど推定した一地点におけるセンサ電流値を代入し得られるRCMセンサ減肉量の推定値と実測値とを比較したものを
図6に示す。
図6から、推定値が、比較的精度良く実測値を推定していることがわかる。
【0057】
〔センサ電流値導出モデルが回帰木(XGBoost)である場合〕
センサ電流値導出モデルが重回帰式である場合と同様に、センサ電流値の推定を行った。
センサ電流値の実測値と推定値の関係を
図7、8に示す。当該センサ電流値の推定値に関し、決定係数(0≦R
2≦1)は、「0.47」であり、MSE(Mean Squared Error、平均二乗誤差)は「1.18」であった。決定係数及びMSEの値から、今般の測定データに関しては、センサ電流値導出モデルにおける推定精度は、重回帰式と回帰木(XGBoost)で同等といえる。
【0058】
更に、換算モデル生成工程及び腐食減肉量推定工程を実行することで、ACMセンサ累積電気量をRCMセンサ減肉量へ換算するための換算式(
図5で実線で示す式)を得ることができる。当該換算式に、一地点におけるセンサ電流値を代入し得られるRCMセンサ減肉量の推定値と実測値とを比較したものを
図9に示す。
図9から、腐食減肉量の推定値が、比較的精度良く実測値を推定していることがわかる。
【0059】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態に係る腐食評価方法では、センサ電流値を推定する工程(#01~#05)に加え、腐食減肉量を推定する工程(#06~#07)を実行する制御について説明した。
本発明に係る腐食評価方法は、腐食減肉量を推定する工程(#06~#07)を省略し、センサ電流値を推定する工程(#01~#05)のみを実行するものであっても構わない。
【0060】
(2)上記実施形態において、海風速とセンサ風速は、直接測定することなく、気象庁のアメダス等の気象データに含まれる風向・風速データから推定する構成としても良い。
また、環境因子としての雨量、湿度、温度、日射量についても、気象庁のアメダス等の気象データから取得又は推定しても良い。
この場合、所定の環境の腐食評価装置100における環境因子測定センサ群Kは、省略することができる。
【0061】
(3)上記実施形態において、センサ電流値に影響を与える環境因子として、雨量、湿度、温度、日射量を例示したが、これらのすべてを環境因子として含まなくても良いし、他の環境因子を含んでいても構わない。
【0062】
(4)上記実施形態では、教師データが取得される環境、及びセンサ電流値等を推定するための環境因子に係るデータが取得される非測定点は、海岸線KYの近傍に限らず、海上や陸上等の様々な地点としても構わない。
【0063】
(5)上記実施形態では、仮想海塩変数は、測定された海風速Vcosθ1とセンサ風速Vcosθ2との一次の積であるとした。
仮想海塩変数を、海風速とセンサ風速との一次の積とした理由は、仮想海塩変数として、海風速Vcosθ1とセンサ風速Vcosθ2とを変数とした種々の関係式を用いて機械学習した結果、海風速Vcosθ1とセンサ風速Vcosθ2との一次の積を仮想海塩変数とすることが、推定されるセンサ電流値の精度が最も高かったためである。
ただし、仮想海塩変数を、海風速とセンサ風速とを変数とした他の式により定義し、センサ電流値導出モデルを生成しても構わない。
【0064】
(6)上記実施形態では、センサ電流値導出モデルとして、機械学習として重回帰分析を実行して得られる重回帰式、又は機械学習として回帰モデル(例えば、XGBoost)による分析を実行して得られる回帰木を例示した。
しかしながら、当該構成に限定されることなく、ランダムフォレストや時系列予測等のモデルを採用しても構わない。
【0065】
(7)上記実施形態では、センサ電流値導出モデル生成工程において、環境においてセンサ電流値に影響を与える環境因子を説明変数として機械学習することにより、センサ電流値を導出するセンサ電流値導出モデルを生成する評価方法を示した。
他の評価方法として、センサ電流値導出モデル生成工程は、環境因子に加え、センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習する方法としても構わない。
例えば、説明変数である時間因子として「起点日からの経過日数」に係る指標として、「起点日からの経過日数(〔数5〕、〔数6〕、
図10でDOY)」そのもの、「起点日からの経過日数を変数としたサイン関数(以下〔数5〕、
図10でDOY_sin)」、「起点日からの経過日数を変数としたコサイン関数(以下〔数6、
図10でDOY_cos〕)」が挙げられる。
尚、DOYは、その期間のうるう日の日数(N)を減算したものである。
【0066】
【0067】
【0068】
ここで、「起点日からの経過日数(〔数5〕、〔数6〕でDOY)」は、「腐食減肉量を判定する対象日-起点日」にて算出される。
当該「起点日からの経過日数」に関し、起点日は、対象の金属の腐食減肉量の時間変化を評価するのに合理的に定められる日であれば、種々のものを用いることができるが、腐食減肉量を評価する対象の金属が評価地点の腐食環境に曝された日を好適に採用することができる。
尚、「起点日からの経過日数」に係る指標としては、上述したもののうち、少なくとも何れか一つ以上を採用することで、センサ電流値の導出精度が向上することを確認している。
【0069】
更に、説明変数である時間因子として「起点時間からの経過時間」に係る指標として、「起点時間からの経過時間(〔数7〕、〔数8〕、
図11でTOD)」」そのもの、「起点時間からの経過時間を変数としたサイン関数(以下〔数7〕、
図11でTOD_sin)」、「起点時間からの経過時間を変数としたコサイン関数(以下〔数8〕)、
図11でTOD_cos」が挙げられる。
【0070】
【0071】
【0072】
ここで、「起点時間からの経過時間(〔数7〕、〔数8〕でTOD)」は、「対象時間(腐食性を判定する対象日の対象時間)-起点時間(起点日の起点時間)」にて算出されるものである。
より詳細には、「腐食減肉量を判定する対象日の対象時間」を「2024/11/22の9:00(24時間表示)」とし、「起点日の起点時間」を「2022/1/1の0:00(24時間表示)」とすると、「起点時間からの経過時間」は日付を無視して「9:00-0:00=9時間」として算出する。
当該「起点時間からの経過時間」に関し、起点時間は、対象の金属の腐食減肉量の時間変化を評価するのに合理的に定められる時間であれば、種々のものを用いることができるが、例えば、腐食減肉量を評価する対象の金属を上記環境中に暴露し始めた時間を好適に採用することができる。
尚、「起点時間からの経過時間」に係る指標としては、上述したもののうち、少なくとも何れか一つ以上を採用することで、センサ電流値の導出精度が向上することを確認している。
【0073】
さて、センサ電流値導出モデル生成工程は、環境因子に加え、センサ電流値の時系列変化を表現する時間因子を説明変数として機械学習することにより、センサ電流値を導出する方法として、機械学習として重回帰分析を用いる場合、上記〔数3〕に換えて以下の〔数9〕を好適に用いることができる。
【0074】
【0075】
尚、センサ電流値導出モデルが回帰木(XGBoost)である場合であっても、上述した時間因子を説明変数として機械学習することにより、算出精度が向上することを確認している。
【0076】
時間因子として、上述した6つの指標を採用する場合、重回帰分析では、決定係数が「0.45」となり、MSEが「1.02」となり、〔表1〕に示す数値に比べて精度が向上していることを確認している。一方、回帰木(XGBoost)を用いる場合でも、決定係数が「0.50」となり、MSEが「0.95」となり、〔表1〕に示す数値に比べて精度が向上していることを確認している。
【0077】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の腐食評価方法は、環境において金属への海塩等の付着物量を実測することなく、金属の腐食速度に相関のあるセンサ電流値を精度良く推定する腐食評価方法、センサ電流値導出モデル、及び制御装置として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
100 :腐食評価装置
AC :ACMセンサ
E :累積センサ電気量
R :腐食減肉量
RC :RCMセンサ
Vcosθ1 :海風速
Vcosθ2 :センサ風速