(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010054
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】電力系統切替支援装置、電力系統切替支援システム、および電力系統切替方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20250109BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20250109BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 120
H02J13/00 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024105677
(22)【出願日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023108674
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】炭山 克己
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】正岡 寿夫
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064BA07
5G064DA02
5G066AA02
5G066AA03
5G066AB01
5G066AE07
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】電力系統構成の切替操作を支援する電力系統切替支援装置、電力系統切替支援システム、および電力系統切替方法を提供する。
【解決手段】電力設備を停止する電力設備停止計画を行う場合の、電力系統の切り替え検討・操作を支援するための電力系統切替支援装置であって、切り替え可能な電力系統の構成パターンを、切替パターンとして複数記憶する記憶手段13と、切替パターンごとに、電力系統を構成する電力流通設備での送電損失、調整電源の出力を抑制することとなる上げ代制約量、および/または、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することとなる再エネ電源制御量を算出する算出手段12と、複数の切替パターンを示す情報であって、複数の切替パターンを算出手段12により算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、支援情報として出力する切替支援手段12と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の切り替え作業を支援するための電力系統切替支援装置であって、
切り替え可能な電力系統の構成パターンを、切替パターンとして複数記憶する記憶手段と、
前記切替パターンごとに、当該切替パターンを設定した場合における、電力系統を構成する電力流通設備での送電損失、調整電源の出力を抑制することとなる上げ代制約量、および/または、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することとなる再エネ電源制御量を算出する算出手段と、
前記複数の切替パターンを示す情報であって、前記複数の切替パターンを前記算出手段により算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、支援情報として出力する切替支援手段と、を有する、電力系統切替支援装置。
【請求項2】
電力設備停止計画において停止予定の電力設備である対象電力設備の情報を取得する設備情報取得手段をさらに有し、
前記切替支援手段は、前記電力設備停止計画において前記対象電力設備を停止する場合に、前記対象電力設備に応じた複数の切替パターンを送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、前記支援情報として出力する、請求項1に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記切替パターンごとに、電力流通設備の運用容量に対する系統混雑度をさらに算出し、
前記切替支援手段は、前記支援情報に、前記系統混雑度を含めて表示する、請求項1に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項4】
前記算出手段は、電力系統における電力潮流を算出する機能をさらに有し、
前記算出手段は、
電力系統を前記切替パターンの構成に切り替えた場合の電力潮流である第1電力潮流と、電力系統を前記切替パターンの構成に切り替えない場合の第2電力潮流とを算出し、
前記第1電力潮流での送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量と、前記第2電力潮流での送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量とを算出し、
前記切替支援手段は、前記第1電力潮流での送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量と、前記第2電力潮流での送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、前記支援情報として出力する、請求項1に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項5】
前記算出手段は、
電力供給エリアの各変電所での電力需給量と、各変電所に接続する送電線の接続状況に基づいて、電力供給エリアの電力潮流を算出するとともに、
前記変電所の電力需給量を算出する場合に、当該変電所が存在するメッシュの気象情報と、前記変電所の管轄にある再生可能エネルギー電源に基づいて、前記変電所の発電量を算出するとともに、前記変電所の電力消費量の過去実績に基づいて、前記変電所の電力消費量を算出することで、前記変電所の電力需給量を算出する、請求項4に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項6】
前記算出手段は、前記切替パターンごとに、前記対象電力設備が停止している停止時間内の複数の時刻における前記送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量を算出し、
前記切替支援手段は、前記切替パターンが選択された場合に、当該切替パターンにおける前記停止時間内の複数の時刻での送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量の情報も前記支援情報に含めて出力する、請求項2に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項7】
前記算出手段は、前記切替パターンごとに、前記対象電力設備を停止するための停止操作時間、前記対象電力設備を復旧するための復旧操作時間における前記送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量も算出し、
前記切替支援手段は、前記切替パターンが選択された場合に、当該切替パターンにおける前記停止操作時間または、前記復旧操作時間における前記送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量の情報も前記支援情報に含めて出力する、請求項6に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項8】
前記切替支援手段は、同じ時間に複数の電力設備停止計画が実行される場合、各電力設備停止計画の切替パターンごとに送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量を算出し、複数の電力設備停止計画の複数の切替パターンの組み合わせごとに、算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量をそれぞれ合計し、合計した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて、各電力設備停止計画の切替パターンを並び替える、請求項1に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項9】
前記切替支援手段は、前記切替パターンによって電力系統の範囲が変化する場合には、前記複数の切替パターンで同一の範囲における送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて、前記切り替えパターンを並び替えた情報を、前記支援情報として表示する、請求項1に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項10】
前記切替支援手段は、
所定の基準の送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に対する、前記切替パターンでの送電損失、再エネ電源制御量、および/または、上げ代制約量の差分に基づいて、前記切替パターンを並び替えた情報を、前記支援情報として出力し、または、
電力設備停止計画において停止予定の電力設備が停止している停止時間、前記電力設備を停止するための停止操作時間、および前記電力設備を復旧するための復旧操作時間内の複数の時刻における送電損失、再エネ電源制御量、および/または、上げ代制約量のそれぞれの合計値に基づいて、前記切替パターンを並び替えた情報を、前記支援情報として出力する、請求項1に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項11】
電力系統の構成要素を新たに追加、または、既存の構成要素を削除する構成変更手段をさらに有し、
前記算出手段は、前記構成変更手段により変更された電力系統の構成における送電損失、上げ代制約量、再エネ電源制御量を算出する、請求項1に記載の電力系統切替支援装置。
【請求項12】
電力系統の切り替え作業を支援するための電力系統切替支援システムであって、
切り替え可能な電力系統の構成パターンを、切替パターンとして複数記憶するデータベースと、
演算装置とを有し、
前記演算装置は、
前記切替パターンごとに、当該切替パターンを設定した場合における、電力系統を構成する電力流通設備での送電損失、調整電源の出力を抑制することとなる上げ代制約量、および/または、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することとなる再エネ電源制御量を算出する算出手段と、
前記複数の切替パターンを示す情報であって、前記複数の切替パターンを前記算出手段により算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、支援情報として出力する切替支援手段と、を有する、電力系統切替支援システム。
【請求項13】
電力系統の切り替え作業を行う電力系統切替方法であって、
切り替え可能な電力系統の構成パターンを、切替パターンとして複数記憶しておき、
前記切替パターンごとに、当該切替パターンを設定した場合における、電力系統を構成する電力流通設備での送電損失、調整電源の出力を抑制することとなる上げ代制約量、および/または、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することとなる再エネ電源制御量を算出し、
前記複数の切替パターンを示す情報を、前記複数の切替パターンを算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替える、電力系統切替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統構成の切り替えを支援するための電力系統切替支援装置、電力系統切替支援システム、および電力系統切替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統を構成する送電線や変圧器などの電力流通設備をメンテナンスなどの目的で停止する場合に、変圧器、送電線の運用容量や送電損失などの効率化面、万一の続発事故を想定した電力品質、位相角安定度、電圧の安定性などを判断して、電気の流れである電力潮流を変えるため、電力系統の構成を切り替える系統運用操作が行われる。このような電力系統構成の切り替えは、既存の電力系統を最大限利用するため、一般送配電事業者などの系統運用者が遮断器のオン/オフを制御することで行われているが、その判断、意志決定は、従来、経験に基づき、これから起こり得る事象を予測し、種々のシミュレーションを用いるなどして行われるため、系統運用の意思決定、日々の系統操作は、業務負荷が高くなってしまうという問題があった。
特に、近年は、太陽光発電などの再生可能エネルギー電源(以下、再エネ電源ともいう。)が増加する一方で、人口の減少に伴い電力需要が低下する地域もあり、電力が発電所から家庭への一方向に流れるとは限らず、いわゆる逆潮流と呼ばれるように、家庭などの需要地側から上り潮流となって電力が電力系統側に向かって流れることも増加し、電力系統の切り替えにおいて、高度かつ複雑な状況認識と判断が要求されている。このような需要地からの上り潮流は、当該電力系統に接続する火力発電所、水力発電所などの調整電源に影響し、最大電力で発電が出来なくなる上げ代への制約も懸念され、再エネ電源の増加によって、今後益々、電力系統が混雑することが予測される。そのため、電力系統の混雑状況に対応した系統切替パターンの最適化は、電力系統を効率的に運用し、再エネ電源を抑制せざるを得ない機会を減らして、脱炭素社会に貢献するため、これから取り組むべき重要な課題である。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1では、潮流計算を行うことなく系統切替線引き表と称する基本系統と切替先を時系列で一覧とする系統パターンとして管理し、系統分離が生じないことを確認し、系統分離が生じないと確認された系統構成での潮流計算を行い、潮流計算結果が潮流制約条件を満たす系統構成を選定する系統切替管理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、系統切替線引表を用いた系統パターン作成手段としては合理的であるものの、再エネ導入拡大により潮流の方向が変化する時代においては、潮流制約条件を満たす系統構成が複数ある場合に、どの系統構成が好ましいかを判定する必要があり、電力系統構成の切り替え作業の支援が十分とは言えなかった。
【0006】
本発明は、電力系統構成の切り替え作業をより適切に支援することができる電力系統切替支援装置、電力系統切替支援システム、および電力系統切替方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電力系統切替支援装置は、通常運用において短絡容量などの制約から電力系統を全てループ運用するのではなく、常時開放点を設けて、地域毎に括っていく場合の常時開放点の決定支援ならびに一部の電力設備を停止する場合に組み合わせて行う電力系統の切り替え操作を支援するための電力系統切替支援装置であって、切り替え可能な電力系統の構成パターンを、切替パターンとして、地域毎に括った電力設備ごとに複数記憶する切替パターンの記憶手段と、前記対象電力設備に応じた複数の切替パターンについて、前記切替パターンごとに送電損失、調整電源の出力を抑制することとなる上げ代制約量、および/または、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することとなる再エネ電源制御量を算出する算出手段と、前記複数の切替パターンを示す情報であって、前記複数の切替パターンを前記算出手段により算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、支援情報として出力する切替支援手段と、を有する。
上記電力系統切替支援装置において、電力設備停止計画において停止予定の電力設備である対象電力設備の情報を取得する設備情報取得手段をさらに有し、前記切替支援手段は、前記電力設備停止計画において前記対象電力設備を停止する場合に、前記対象電力設備に応じた複数の切替パターンを送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、前記支援情報として出力する構成とすることができる。
上記電力系統切替支援装置において、前記算出手段は、前記対象電力設備を停止する場合の切替パターンごとに、電力流通設備の運用容量に対する系統混雑度をさらに算出し、前記切替支援手段は、前記支援情報に、前記系統混雑度を含めて表示する構成とすることができる。
上記電力系統切替支援装置において、電力系統における発電所、変電所、需要場所などの電圧と電流、位相から計算される電力潮流を算出する電力潮流算出手段をさらに有し、前記電力潮流算出手段は、前記対象電力設備を停止した場合に、電力系統を前記切替パターンの構成に切り替えた場合の電力潮流と、電力系統の切り替えを行わない場合の電力潮流を比較し、対象地域を構成する電力設備を括った範囲の電力系統の送電線で生じる送電損失の絶対値の合計を、前記切替パターンごとに算出し、前記切替支援手段は、前記絶対値の合計が所定値以上の前記切替パターンを、前記送電損失が小さい順に並べ替えた情報を前記支援情報として出力する構成とすることができる。さらに、前記切替パターンにおいて、再エネ電源が抑制される場合は、抑制される量が少ない順に並べ替えて前記支援情報として出力構成とすることができる。同様に、調整電源の上げ代が抑制される場合は、抑制される量が少ない順に並べ替えて前記支援情報として出力構成とすることができる。また、複数の並べ替え条件を組み合わせて支援情報として出力構成することができる。この前記切替パターンには、系統切替を行わず、直前の系統構成における常時開放点を変更しない選択肢を含めて支援情報として提供される。
上記電力系統切替支援装置において、前記送電損失算出手段は、電力供給エリアを複数のメッシュに分解し、メッシュごとの気象情報、再生可能エネルギー電源による発電量や、電力消費量の過去実績統計を加味して、発電と需要を求めて、電力潮流算出手法により、前記送電損失を算出する構成とすることができる。
上記電力系統切替支援装置において、前記送電損失算出手段は、前記切替パターンごとに、前記対象電力設備が停止している停止時間内の複数の時刻における前記送電損失を算出し、前記切替支援手段は、前記切替パターンが選択された場合に、当該切替パターンにおける前記停止時間内の複数の時刻での送電損失の情報も前記支援情報に含めて出力する構成とすることができる。
上記電力系統切替支援装置において、前記送電損失算出手段は、前記切替パターンごとに、前記対象電力設備を停止するための停止操作時間や、前記対象電力設備を復旧するための復旧操作時間における前記送電損失も算出し、前記切替支援手段は、前記切替パターンが選択された場合に、当該系統切替操作に要する時間として、前記停止操作時間や、前記復旧操作時間として、この系統操作時間に生じる前記送電損失の情報も前記支援情報に含めて出力する構成とすることができる。
上記系統切替支援装置において、前記再エネ電源制御量算出手段は、切替パターンごとに、電圧潮流計算を実施し、前記対象電力設備が運用容量を超過する場合に、その超過を解消するまで、予め定められた抑制ルールに則り、各種の電源を抑制し、その中で再エネ電源制御量を算出し、前記支援情報に含めて出力する構成とすることができる。
上記系統切替支援装置において、前記調整電源の上げ代算出手段は、切替パターンごとに、調整電源を最大発電した場合を想定し、運用容量を超過する場合に、調整電源の抑制量を算出し、当該電力系統に接続する火力発電所、水力発電所などの調整電源に影響する、最大電力で発電が出来なくなる量を上げ代への制約とすることにより、前記支援情報に含めて出力する構成とすることができる。
上記系統切替支援装置において、電力系統の構成要素を新たに追加、または、既存の構成要素を削除する構成変更手段をさらに有し、前記算出手段は、前記構成変更手段により変更された電力系統の構成における送電損失、上げ代制約量、再エネ電源制御量を算出する構成とすることができる。
【0008】
本発明に係る電力系統切替支援システムは、電力系統の切り替え作業を支援するための電力系統切替支援システムであって、電力設備を停止した場合に切り替える電力系統の構成パターンを、切替パターンとして複数記憶するデータベースと、演算装置とを有し、前記演算装置は、電力設備停止計画において停止予定の電力設備である対象電力設備の情報を取得する設備情報取得手段と、前記対象電力設備の切替パターンごとに、当該切替パターンを設定した場合における、電力系統を構成する電力流通設備での送電損失、調整電源の出力を抑制することとなる上げ代制約量、および/または、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することとなる再エネ電源制御量を算出する算出手段と、前記対象電力設備に応じた複数の切替パターンを示す情報であって、前記複数の切替パターンを前記算出手段により算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替えた情報を、支援情報として出力する切替支援手段と、を有する。
本発明に係る電力系統切替方法は、電力系統の切り替え作業を行う電力系統切替方法であって、電力設備を停止した場合に切り替える電力系統の構成パターンを、切替パターンとして複数記憶しておき、電力設備停止計画において停止予定の電力設備である対象電力設備の情報を取得し、前記対象電力設備の切替パターンごとに、当該切替パターンを設定した場合における、電力系統を構成する電力流通設備での送電損失、調整電源の出力を抑制することとなる上げ代制約量、および/または、再生可能エネルギー電源の出力を抑制することとなる再エネ電源制御量を算出し、前記対象電力設備に応じた複数の切替パターンを示す情報を、前記複数の切替パターンを算出した送電損失、上げ代制約量、および/または再エネ電源制御量に基づいて並び替える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電力系統全体あるいは管轄する範囲または括った範囲の電力設備に対応する電力系統構成の切替パターンのうち、当該系統に接続する再エネ電源の抑制量を低減、あるいは調整電源として契約される発電所の運転に可能な限り制約を与えることなく、かつ、送電損失が小さい切替パターンを優先した支援情報を出力することで、電力供給信頼度も配慮しつつ、様々な電力系統運用面からの条件を考慮しながらパターン選択することができるため、電力系統構成の切り替え検討や電力系統操作を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電力系統の切り替えを説明するための図である。
【
図2】本実施形態に係る電力系統切替支援装置の構成図である。
【
図3】切替パターンテーブルの構成を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る電力系統の切替管理画面の画面例である。
【
図5】本実施形態に係る切替管理詳細画面の画面例である。
【
図6】再エネ電源制御情報を支援情報として表示する画面例を示す図である。
【
図7】本実施形態に係る電力系統切替支援処理を示すフローチャート(その1)である。
【
図8】本実施形態に係る電力系統切替支援処理を示すフローチャート(その2)である。
【
図9】実施例1に係る切替パターン1での電力系統の構成を示す図である。
【
図10】実施例1に係る切替パターン2での電力系統の構成を示す図である。
【
図11】実施例1に係る切替パターン3での電力系統の構成を示す図である。
【
図12】実施例1に係る切替パターン4での電力系統の構成を示す図である。
【
図13】実施例1に係る各切替パターンの電力系統の構成における上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失のシミュレーション結果を示す表である。
【
図14】実施例1に係る各切替パターンの電力系統の構成における上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失の推移を示すグラフである。
【
図15】実施例1に係る各切替パターンの電力系統の構成における連変潮流の推移を示すグラフである。
【
図16】実施例2に係る切替パターン1での電力系統の構成を示す図である。
【
図17】実施例2に係る切替パターン2での電力系統の構成を示す図である。
【
図18】実施例2に係る切替パターン3での電力系統の構成を示す図である。
【
図19】実施例2に係る切替パターン4での電力系統の構成を示す図である。
【
図20】実施例2に係る各切替パターンの電力系統の構成における上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失のシミュレーション結果を示す表である。
【
図21】実施例2に係る各切替パターンの電力系統の構成における上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失の推移を示すグラフである。
【
図22】実施例2に係る各切替パターンの電力系統の構成における連変潮流の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下においては、原子力発電、火力発電または水力発電などの同期発電機を単に「発電機」と称し、太陽光発電および風力発電などのインバータを介して電力系統と接続する発電設備を包括して「再生可能エネルギー電源」または「再エネ電源」と称す。さらに、電力系統に接続する発電機、再生可能エネルギー電源、電気所および負荷をまとめて、単に「構成要素」とも称す。
【0012】
本発明は、電力供給エリア内における電力系統の切り替えを支援する電力系統切替支援装置に関する。本実施形態に係る電力系統切替支援装置は、たとえば一般送配電事業者などの系統運用者が電力系統切替支援装置を操作することで、電力系統の切り替えのための支援情報を系統運用者に提示し、系統運用者が電力系統の切り替えを実行する際の支援を行うものである。なお、以下においては、電力系統切替支援装置を操作し、電力系統構成の管理運用を行うものを「系統運用者」と称して説明する。なお、上記「系統運用者」は、一般送配電事業者に属する者に限定されず、たとえば、小売電気事業に属する者も、マイクログリッド、地域ネットワークなど系統規模によらず、設備管轄に応じて上記「系統運用者」として電力系統切替支援装置を操作する場合がある。また、上記「電力供給エリア」は、一般送配電事業者が電力を供給するエリア全域であってもよいし、あるいは、エリア全域を複数のエリアに分割したうちの1つのエリアであってもよい。本実施形態では、「電力供給エリア」における電力系統の構成の切り替えを支援するものとし、「電力供給エリア」の開放点を包括する範囲として、あらかじめ設定する地域毎に括った電力設備の範囲において、電力に関する諸元を積算あるいは抽出し、支援情報を作成し、系統運用者に提示することで、系統運用者を支援する。
【0013】
また、以下においては、系統運用者が、電力系統を構成する送電線や変圧器などの電力流通設備をメンテナンスなどの目的で停止する場合において、電力系統の構成を切り替える作業を支援する構成を例示して説明するが、本発明に係る電力系統切替支援装置は、電力設備を停止させることなく常時開放点を変更するなど、電力系統の構成をより好適な構成に切り替える場面(電力系統の構成を最適化する場面)においても適用することができる。
【0014】
《第1実施形態》
図1は、電力供給エリア内の電力系統の切り替えを説明するための図であり、
図1(A)は、電力系統の切り替え前の構成を示す図であり、
図1(B)は、電力系統の切り替え後の構成を示す図である。なお、
図1において、Gは発電機を示し、Bは負荷でもあり、再エネ電源による発電が上回る場合もある需要地を示し、実線の直線は送電線および変圧器を示す。なお、破線の直線は切り替え可能であるが、遮断されている状態であることを示す。
【0015】
たとえば、
図1(A)に示す例では、電力供給エリアAにおける送電線L3をメンテナンスのため停止する計画をしているものとする。送電線L3を停止する前は、破線で示す送電線L4の通電を遮断する遮断器がオフになっており、送電線L4の通電が遮断されている。そのため、送電線L3を停止する前において、発電機Gから負荷B1への送電は、送電線L2およびL3を介して行われている。一方、送電線L3を停止する場合、送電線L3を介して送電することができないため、送電線L4の通電を遮断している遮断器をオンにすることで、送電線L1およびL4を介して、発電機Gから負荷B1への送電が行われる。
【0016】
このような電力系統の切り替え作業は、系統運用者が、本実施形態に係る電力系統切替支援装置10を用いて、送電線や変圧器などの電力流通設備に接続される遮断器のオン/オフを制御することで行われる。また、本実施形態では、電力設備停止計画に基づいて、電力系統の切り替え操作が行われる。電力設備停止計画は、電力系統を構成する送電線や変圧器などの電力流通設備をメンテナンスなどの目的で停止する場合に、変圧器、送電線の運用容量や送電損失などの効率化面、万一の続発事故を想定した電力品質、位相角安定度、電圧の安定性などを判断して、電力の流れである電力潮流を変えるため、電力系統の構成を切り替える系統運用操作が行われる。また、発電機の点検や運用停止などにおいても、同様に管理されて、電力系統の構成を切り替える系統運用操作が行われる。このような電力系統構成の切り替えは、系統運用者により、遮断器のオン/オフを制御することで行われる。また、通常運用において短絡容量などの制約から電力系統を全てループ運用するのではなく、常時開放点を設けて、地域毎に括っていく場合の常時開放点の決定支援、あるいは、雷などの気象条件の変化や万一の系統事故などを想定して、一部の電力系統構成を変更する場合もある。このような計画運用は、系統運用者などにより予め計画され、その情報は、電力系統切替支援装置10に入力される。
【0017】
ここで、電力系統全体を俯瞰した場合、電力系統構成を変更した場合や、一部の電力設備を電力系統構成から切り離した場合に、電力潮流が変化することから、安定した電力潮流や送電効率化のため、電力設備停止計画に基づいて、電力系統構成を適切に変更することが重要となる。特に、ノンファーム型接続の導入、および、再エネ電源の増加により、時間ごとに、電力潮流が大きく変化し、電力設備の運用容量を超過する可能性があるため、時間(時刻)を加味して電力系統の構成を管理運用することが求められている。本実施形態に係る電力系統切替支援装置10は、このような系統運用者による電力系統の切り替えを支援するための装置であり、以下の構成を有する。
【0018】
図2は、本実施形態に係る電力系統切替支援装置10の構成図である。
図2に示すように、本実施形態に係る電力系統切替支援装置10は、通信装置11と、演算装置12と、記憶装置13と、データベース14と、表示装置15と、報知装置16と、入力装置17と、を有する。
【0019】
演算装置12は、記憶装置13に記憶されているプログラムを実施することで、電力設備の停止計画を取得する停止計画取得機能と、電力系統構成の切替パターンに関する情報を抽出する切替パターン抽出機能と、電力系統の電力潮流を算出する電力潮流算出機能と、電力系統の送電損失を算出する送電損失算出機能と、当該系統における再エネ電源制御量を算出する再エネ電源制御量算出機能と、調整電源の上げ代を制約する上げ代制約量を算出する上げ代制約量算出機能と、算出した送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量に基づいて、電力系統の切り替えを支援するための支援情報を生成し、出力する切替支援機能と、を有する。この支援により、系統切替パターンを最適化して、再エネ電源を抑制する機会を減らせることができる。以下に、演算装置12が有する各機能について説明する。なお、本実施形態では、説明の便宜のため、演算装置12の算出機能を、算出するデータ(電力潮流、送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量など)ごとに個別の機能として説明するが、これら機能をまとめて算出機能と称することができる。
【0020】
演算装置12の停止計画取得機能は、電力系統の切り替えの原因となる電力設備(以下、対象電力設備という)の停止情報を、電力設備停止計画情報として取得する。ここで、対象電力設備を停止する一連の作業には、対象電力設備を停止させるための停止操作と、停止させた対象電力設備を復旧させるための復旧操作が含まれる。そのため、本実施形態に係る電力停止計画情報には、対象電力設備を停止する区間(対象電力設備の切り離し箇所)の情報に加えて、停止操作の開始時刻、停止操作の実施時間、対象電力設備を停止させる時間、復旧操作の開始時刻、復旧操作の終了時刻の時刻情報、および、関連する設備停止区間(切り離し個所)の情報を含む。
【0021】
本実施形態では、1または複数の電力設備の電力設備停止計画情報がデータベース14または外部装置に登録されており、停止計画取得機能は、データベース14または外部装置を参照することで、1または複数の電力設備停止計画情報を取得する。また、系統運用者が入力装置17を操作して、複数の電力設備停止計画情報の中から、対象とする電力設備停止計画情報を選択した場合に、選択された電力設備停止計画情報を取得する構成とすることもできる。なお、電力設備停止計画情報が外部装置に記憶されている場合、停止計画取得機能は、当該外部設備と通信することで、対象電力設備の電力設備停止計画情報を取得することができる。
【0022】
演算装置12のパターン抽出機能は、停止計画取得機能により取得された電力設備停止計画情報に基づいて、当該電力設備停止計画情報の対象電力設備を停止する場合の、電力系統の構成を切り替える切替パターンの情報を、切替パターン情報として、データベース14から抽出する。ここで、
図3は、データベース14に記憶されている切替パターンテーブルの一例を示す図である。
図3に示すように、データベース14の切替パターンテーブルには、切替パターン情報として、対象電力設備の情報と、電力系統の切替パターンの名称(または識別コード)と、切り替え箇所の情報とが対応付けて記憶されている。なお、切り替え箇所の情報には、開放点として、通電を遮断することとなる遮断器の情報と、接続点として、通電を許可することとなる遮断器の情報が含まれる。なお、
図3に示すように、対象電力設備と、電力系統の切替パターンと、切り替え箇所の情報とを1つのテーブルで記憶する構成としてもよいし、あるいは、対象電力設備と切替パターンの識別コードとを対応付けたテーブルと、切替パターンの識別コードと切り替え箇所の情報とを対応付けたテーブルとを記憶する構成としてもよい。パターン抽出機能は、このようにデータベース14の切替パターンテーブルに記憶された複数の切替パターン情報の中から、対象電力設備に対応する1または複数の切替パターン情報を抽出することができる。たとえば、
図3に示す例において、対象電力設備として送電線A系統が選択された場合、パターン抽出機能は、送電線A系統に対応するパターンA1~A4の切替パターン情報(切替パターンの名称(あるいは識別情報)、接続点、開放点を含む情報)を抽出する構成とすることができる。
【0023】
演算装置12の電力潮流算出機能は、電力系統の電力潮流を算出する。具体的に、電力潮流算出機能は、現在の電力系統構成のまま対象電力設備を停止した場合の電力潮流を算出する。さらに、電力潮流算出機能は、対象電力設備を停止するとともに、電力系統を、パターン抽出機能により抽出された切替パターンに応じた構成に変更した場合の電力潮流を算出する。なお、電力潮流算出機能は、電力設備停止計画に限定せず、常時開放点の変更など、電力設備を停止せずに、電力系統構成を、パターン抽出機能により抽出された系統切替パターンに応じた構成に変更した場合の電力潮流を算出する構成とすることもできる。また、電力潮流の算出方法は、周知の方法を用いることができ、電力系統を構成する各構成要素の既知のパラメータを用いて電力潮流を算出することができる。また、パターン抽出機能により抽出された切替パターンに応じた構成の電力潮流を算出する場合には、電力系統の遮断器を、切替パターンの情報に含まれる接続点および開放点に設定した場合での、電力潮流を算出する。
【0024】
また、本実施形態において、電力潮流算出機能は、対象電力設備の停止時間内の複数の時刻での電力潮流を算出する。たとえば、電力潮流算出機能は、対象電力設備の停止時間内において、電力潮流をたとえば30分単位で算出する構成とすることができる。なお、算出する時間の間隔は、15分毎であっても、5分毎であっても良く、任意とすることができる。また、電力潮流算出機能は、対象電力設備の停止時間(実際に対象電力設備が停止している時間)だけではなく、対象電力設備を停止するための停止操作時間、あるいは、対象電力設備を復旧するための復旧操作時間における電力潮流を算出する構成とすることができる。この場合、電力潮流算出機能は、上記停止操作時間、および復旧操作時間についても、複数の時刻(たとえば30分単位)で、電力潮流を算出する構成とすることができる。
【0025】
加えて、電力潮流算出機能は、電力供給エリアを1~5km2の面積のメッシュに分割された各メッシュにおける天候や気温などの気象情報や、変電所ごとの消費電力量の過去実績の統計情報を参照して、変電所ごとに電力潮流を算出し、変電所ごとに算出した電力潮流に基づいて電力供給エリア全体の電力潮流を算出する構成とすることができる。具体的には、電力系統切替支援装置10は、外部データベースと接続しており、外部データベースからメッシュごとの気象情報(たとえば、天気、気候、季節の情報)や、変電所ごとの消費電力量の過去実績を取得する。また、電力潮流算出機能は、各再生可能エネルギー電源が位置するメッシュでの気象情報と、各再生可能エネルギー電源の設備容量とに基づいて、各再生可能エネルギー電源の発電量を算出し、さらに、各変電所の管轄にある1または複数の再生可能エネルギー電源の発電量の合計値を、当該変電所の発電量として算出する。さらに、電力潮流算出機能は、変電所の消費電力値の過去実績の統計情報に基づいて、各変電所の電力消費量を予測し、それと当該変電所の再生可能エネルギー電源の発電量と合算することで、各変電所の電力需給量を算出する。そして、電力潮流算出機能は、各変電所における電力需給量を、送電線の接続状況(各変電所と接続される送電、配電ルートなど)を考慮のうえ、各変電所に割り振ることで、電力系統の電力潮流を求めることができる。たとえば、天候が晴天の場合と雨の場合では、太陽光発電による発電量が異なり、また、夏や冬では、春や秋と比べて、エアコンなどの使用により各家庭での電力消費量が多くなるため、気象情報および過去実績の統計情報に基づいて、電力潮流を算出する構成とすることが好ましい。なお、再生可能エネルギー電源である太陽光パネルを設置している家庭や施設などにおいては、太陽光パネルで発電した電力を地産地消する自家消費を行っている場合もある。電力潮流算出機能は、このような自家消費を過去実績に基づき予測をして、各変電所の電力潮流を算出する構成とすることもできる。
【0026】
さらに、電力潮流算出機能は、各発電所の発電量または消費電力量の過去実績の統計情報に基づいて、電力潮流の変化の傾向を加味することで、電力潮流を算出する構成とすることができる。たとえば、電力潮流算出機能は、過去実績の統計情報から、一定期間(たとえば数年~十数年)における各変電所での発電量または消費電力量の推移を求めることで、過疎化が進み人口が減少する一方で再生可能エネルギー電源の設置が増加している山間部において、電力消費量が一定割合で減っているとともに、発電量が一定割合で増加していることが分かる場合には、予測補正として、推定領域の電力消費量を上記割合で減少させるとともに、発電量を上記割合で増加させて電力潮流を算出する構成とすることができる。
【0027】
このように、本実施形態に係る電力潮流算出機能は、変電所単位での再生可能エネルギー電源の発電量と消費電力量とを予測し、現在の電力系統構成のまま対象電力設備を停止した場合の電力潮流と、対象電力設備を停止するとともに、電力系統をパターン抽出機能により抽出された切替パターンに応じた構成に変更した場合の電力潮流とを、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間を含む複数の時刻について算出する。
【0028】
次に、演算装置12の送電損失算出機能について説明する。送電損失算出機能は、電力系統の構成を変化させる前の送電損失、および、パターン抽出機能により抽出された切替パターンに応じて変更した電力系統の構成での送電損失を算出する。具体的には、送電損失算出機能は、電力系統の各遮断器を、現在の接続点および開放点で設定した場合の送電損失と、当該切替パターンの情報に含まれる接続点および開放点に設定した場合の送電損失を算出する。なお、送電損失の算出方法は、特に限定されず、送電線の電気抵抗や送電経路の長さなどの既知のパラメータに基づいて、周知の方法により算出することができる。また、送電損失算出機能は、送電線ごとに送電損失を算出し、送電ごとに算出した送電損失を積算することで、任意の範囲での送電損失を算出することができる。なお、送電線ごとに算出する送電損失を合計、集計して比較する電力系統の範囲についても、任意に設定することができる。
【0029】
また、本実施形態において、送電損失算出機能は、電力系統の構成を変化させる前の送電損失、および切替パターンの構成に切り替えた場合の送電損失を算出する。さらに、送電損失算出機能は、電力潮流算出機能と同様に、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間の複数の時刻について、送電損失を算出する。
【0030】
演算装置12の再エネ電源制御量算出機能は、電力供給エリアにおける再エネ電源の制御に関する再エネ電源制御量を算出する。ここで、変圧器や送電線などの電力流通設備では、運用上の送電可能な容量(運用容量)が決められており、切替パターンを設定して電力系統の構成を切り替え、電源が計画どおり発電した場合に、電力流通設備の運用容量を超過してしまう場合がある。このような場合、予め定められた抑制ルール(抑制順位)に則り、電源種別および契約種別ごとに電力流通設備の運用容量が超過しない範囲まで抑制されることとなる。再エネ電源制御量算出機能は、切替パターンの構成に切り替えた場合の電力系統の各構成の既存のパラメータに基づいて、切替パターンの構成に切り替えた場合の電力流通設備の運用容量を算出することで、電力系統を対象切替パターンの構成に切り替えた場合に、再エネ電源制御量(前記電力流通設備の配下の系統に連系している再エネ電源の抑制前発電予測値-前記電力流通設備の運用容量を超過しない範囲まで前記抑制ルールに則り発電抑制を実施した場合の前記電力流通設備の配下の系統に連系している再エネ電源の抑制後予測値)を算出する。また、再エネ電源制御量算出機能は、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間の複数の時刻について再エネ電源制御量を算出する構成とすることもできる。
【0031】
演算装置12の上げ代制約量算出機能は、電力系統を切替パターンの構成に切り替えた場合に、調整電源の出力が制約を受ける量を上げ代制約量として算出する。ここで、切替パターンを設定して電力系統の構成を切り替え、調整電源の出力を定格出力まで上昇させた場合に、電力流通設備の運用容量を超過してしまう場合がある。そのため、このような場合、調整電源の出力が定格出力まで上昇しないように、調整電源の出力に制約が設けられることとなる。上げ代制約量算出機能は、切替パターンの構成に切り替えた場合の電力系統の各構成の既存のパラメータに基づいて、切替パターンの構成に切り替えた場合の電力流通設備の運用容量を算出することで、電力系統を対象切替パターンの構成に切り替えた場合に、調整電源の出力を制約する量(調整電源の定格出力-電力系統の構成を切り替えた後の調整電源の出力上限値)を上げ代制約量として算出する。また、上げ代制約量算出機能は、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間の複数の時刻について上げ代制約量を算出する構成とすることもできる。
【0032】
次に、演算装置12の切替支援機能について説明する。切替支援機能は、送電損失算出機能により算出した送電損失、および、再エネ電源制御量算出機能により算出した再エネ電源制御量、および、上げ代制約量算出機能により算出した上げ代制約量に基づいて、系統運用者が電力系統の構成を切り替える場合に参考にできる支援情報を作成し、系統運用者に提示することで、系統運用者の電力系統の切り替えを支援する。
【0033】
具体的には、切替支援機能は、対象電力設備に対応する複数の切替パターンのうち、切り替え後の送電損失が小さい切替パターンを優先した支援情報を作成し、表示装置15に表示することで、系統運用者に支援情報を提示する。また、切替支援機能は、
図4に示すように、送電損失が小さい切替パターンを優先した支援情報として、たとえば、対象電力設備に対応する複数の切替パターンをリスト化し、送電損失が小さい切替パターンほど先頭に表示されるように並び替えた情報を、管理画面のリストボックス(あるいはプルダウン)に表示することができる。これにより、系統運用者は、先頭の切替パターンの構成ほど、送電損失が小さいことを把握することができ、電力系統の切り替えの参考にすることができる。なお、
図4は、本実施形態に係る電力系統の切替管理画面の画面例である。
【0034】
また、切替支援機能は、再エネ電源制御量算出機能により算出した再エネ電源制御量、および/または、上げ代制約量算出機能により算出した上げ代制約量に基づいて、切替パターンを並び替えた情報を、支援情報として表示する構成とすることができる。たとえば、切替支援機能は、系統運用者が入力装置17を操作して、
図4に示す画面における「ソート切替」のリストボックスにおいて、「再エネ電源制御量」を1、「上げ代制約量」を2、「送電損失」を3とし、表示要求を行った場合に、まず、再エネ電源制御量が少ない順に切替パターンを並び替え、次に再エネ電源制御量が同値の切替パターンが複数ある場合(0値が複数ある場合など)は、再エネ電源制御量が同値の切替パターンの中で、上げ代制約量が少ない順に切替パターンを並び替え、上げ代制約量にも同値の切替パターンが複数ある場合、上げ代制約量が同値の切替パターンの中で、送電損失が少ない順に切替パターンを並び替えた情報を支援情報として表示することができる。
【0035】
また、切替支援機能は、
図4に示すように、支援情報として、切替パターンの名称とともに、電力系統を切替パターンの構成に切り替えた場合の送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量を数値で表示する構成とすることもできる。さらに、切替支援機能は、任意に指定した切替パターンの送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量を基準とし、基準とした送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量に対する、電力系統を切替パターンの構成に切り替えた場合の送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量の差分(増減量)を求め、切替パターンを送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量の差分の小さい順に並び替えた情報を、支援情報として表示する構成とすることもできる。なお、本実施形態では、
図4に示すように、電力系統の切替管理画面において、「量表示」と「差分表示」とが切り替え可能となっており、「量表示」が表示される場合には、電力系統を切替パターンの構成に切り替えた場合の送電損失、再エネ電源制御量、および/または、上げ代制約量が表示され、「差分表示」が表示される場合には、所定の基準に対する送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量の差分(増減量)が表示される。
【0036】
さらに、切替支援機能は、切替パターンごとに、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間の複数の時刻における送電損失、再エネ電源制御量、および/または、上げ代制約量のそれぞれの合計値を算出し、当該合計値に基づいて並び替えた切替パターンの情報を支援情報として表示することもできる。また、切替支援機能は、系統切替を行わず、直前の系統構成における常時開放点を変更しない場合の構成も、切替パターンとして選択肢に含めて、支援情報として提供することができる。
【0037】
加えて、切替支援機能は、支援情報に含まれる複数の切替パターンのうち、送電損失、再エネ電源制御量、または、上げ代制約量が最も小さい切替パターンをデフォルトで設定する構成とすることができる。また、切替支援機能は、デフォルトで切替パターンを設定した場合、あるいは、系統運用者が入力装置17を操作してリストボックスなどに表示される切替パターンを設定した場合に、
図5に示すように、設定した切替パターンの構成において算出した、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間内の各時刻での送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量を表示装置15に表示する構成とすることができる。
図5に示す例では、選択した切替パターンにおいて、各送電線での送電損失と、各系統の再エネ電源制御量と、各調整電源の上げ代制約量とを、停止操作時間、停止時間および復旧操作時間にわたり、一定の時間間隔(たとえば30分間隔)で表示する構成を例示している。
【0038】
また、切替支援機能は、再エネ電源制御量算出機能により作成された再エネ電源制御量を、電力系統図と組み合わせて、支援情報として表示する構成とすることができる。たとえば、切替支援機能は、系統運用者が入力装置17を操作して切替パターンを選択し、
図5に示す電力切替管理詳細画面または別の画面を表示した場合に、再エネ電源を含む電力系統図を示す情報を画面に表示する構成とすることができる。また、切替支援機能は、表示した電力系統図において再エネ電源を示すアイコンなどがクリックされた場合に、当該再エネ電源の再エネ電源制御情報を表示することができる。再エネ電源制御情報としては、再エネ電源の制御量を表示するだけではなく、たとえば、再エネ電源が制御される理由に応じて、再エネ電源の状況を示す画像を色分けして表示する構成とすることができる。一例として、再エネ電源を制御する理由が需給調整である場合は青色、ローカル系統が混雑である場合は黄色、基幹系統が混雑である場合は赤色などのように色分けして表示することができる。また、切替支援機能は、
図6(A)に示すように、横軸を時間として、時間ごとに再エネ電源の制御の理由を色で示す構成とすることもできる。たとえば、
図6(A)に示す例では、(a)で示すタイミングでは需給調整により再エネ電源を制御し、(b)で示すタイミングではローカル系統の混雑により再エネ電源を制御し、(c)で示すタイミングでは基幹系統の混雑により再エネ電源を制御することを視覚的に表示している。
【0039】
また、切替支援機能は、
図6(B)に示すように、再エネ電源の出力制御の抑制率を時系列で表示する構成とすることもできる。また、切替支援機能は、
図6(C),(D)に示すように、系統混雑度(電力潮流/運用容量)を表示する構成とすることもできる。たとえば、
図6(C),(D)に示す例では、系統混雑度を時間軸に沿う矢印で示しており、
図6(C)に比べて、
図6(D)では矢印は太くなっている。このことは、
図6(C)に比べて、
図6(D)では系統混雑度が高いことを示し、このような表示で、系統運用者に系統混雑度を視覚的に把握させることができる。なお、
図6は、再エネ電源制御情報を支援情報として表示する画面例を示す図である。
【0040】
さらに、切替支援機能は、電力系統図において、混雑が発生している時間を総合的に視認できるように、系統混雑度を表示する構成とすることができる。たとえば、切替支援機能は、電力系統図における送電線を示す線を、系統混雑度(電力潮流/運用容量)に応じた色で表示する構成とすることができる。具体的には、切替支援機能は、系統混雑度が高いほど、色をオレンジや赤色などの注意色・警報色で表示する構成とすることができる。また、切替支援機能は、送電線が運用容量限界に達する場合には、送電線を示す線を特別に強調表示する構成とすることができる。さらに、切替支援機能は、系統運用者が各時刻での系統混雑度を把握できるように、系統混雑度を時刻ごとに表示する構成とすることができる。たとえば、切替支援機能は、系統運用者が入力装置17を操作して、30分ごと、あるいは15分ごとの系統混雑度を重畳させた電力系統図を示す画像をめくる操作(フリック操作)を行うことができるように、あるいは、XY平面で示す電力系統図に系統混雑度をZ軸方向の時間軸で示すように、系統混雑度を示す情報を表示することができる。また、切替支援機能は、発電事業者から電力系統に繋がる等価無限大母線(ある程度、発電電力が需要消費されて、潮流の向きが逆となる地点界隈)までの混雑状況を、最も厳しい区間を基準として各区間を示す線の色を変化させ、表示する構成とすることができる。
【0041】
さらに、本実施形態において、切替支援機能は、再エネ電源制御量や系統混雑度を、再エネ電源の事業者に提供する機能を構成することができる。具体的には、本実施形態において、切替支援機能は、再エネ電源の事業者(以下、ユーザともいう。)が再エネ電源制御量や系統混雑度を閲覧するためのユーザ専用画面(マイページ画面)を提供しており、再エネ電源の事業者は外部から電力系統切替支援装置10に接続し、ユーザごとのIDによりログインすることで、ユーザ専用画面(マイページ画面)にアクセスすることができる。マイページ画面において、ユーザは、
図6に示すように、ユーザの所有する電源が接続している電力系統の再エネ電源制御量や系統混雑度、ならびにユーザの所有する電源が制御されるスケジュールおよび制御実績などを視覚的に把握できる。また、マイページ画面において、ユーザは、ユーザが所有する電源が制御される際に、事前通知の要否および通知する連絡先メールアドレスなどをカスタマイズ可能である。なお、ユーザ専用画面(マイページ画面)に関するプログラムは、ブラウザタイプでもよく、あるいは、パソコンなどのローカルの情報端末にインストールするローカルタイプでもよい。
【0042】
さらに、切替支援機能は、支援情報に含まれる複数の切替パターンのうち、送電損失が最も低い切替パターンと組み合わせて、あるいは、個別機能として、任意に設定する範囲、あるいは、管轄する系統全域について、運用容量に基づいて調整電源の上げ代の制約の有無により、電力系統の混雑状況を捉えて、再エネ電源を抑制せざるを得ない機会を減らして、算出した送電損失に基づいて、電力系統の切り替えを支援するための支援情報として、切替パターンごとに、調整電源を最大発電した場合を想定し、運用容量を超過する場合に、調整電源の抑制量を算出し、当該電力系統に接続する火力発電所、水力発電所などの調整電源に影響する、最大電力で発電が出来なくなる量を上げ代への制約の量を表示して、表示する順序に反映して、電力系統の切り替えの参考にすることができる。
【0043】
また、切替支援機能は、同一の電力系統の範囲における送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量を比較することで、切替パターンを並び替える。たとえば、電力供給エリアが系統運用者が電力を供給する範囲全体(たとえば四国地方など)である場合は、切替支援機能は、系統運用者が電力を供給する範囲全体における送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量を、切替パターンごとに、それぞれ合計し、その合計値に基づいて、切り替えパターンの並び替えを行う。また、電力供給エリアが、系統運用者が電力を供給するエリアの一部である場合は、切替支援機能は、系統運用者が電力を供給するエリアの一部における送電損失、再エネ電源制御量、上げ代制約量を、切替パターンごとに、それぞれ合計し、その合計値に基づいて、切り替えパターンの並び替えを行う。なお、切替パターンによっては、電力供給エリアの範囲が変化する場合がある。たとえば、切替パターンP1では、電力供給エリア内の構成として、発電機G1,G2および負荷B1,B2を有るものとする。一方、切替パターンP2では、発電機G1および負荷B2が、他の系統に組み込まれることとなり、電力供給エリアを構成する構成要素(電力系統の範囲)が変化する場合がある。このような場合、切替支援機能は、切替パターンP1と切替パターンP2とで、同じ電力系統の範囲における送電損失、再エネ電源制御量、および/または上げ代制約量を合計し、切替パターンの並び替えを行う。たとえば、切替パターンP1において、A系統が発電機G1,G2および負荷B1,B2を構成要素として有しており、B系統が発電機G3,G4および負荷B3,B4を構成要素として有している場合に、切替パターンP2に切り替えた場合に、発電機G1および負荷B2がA系統からB系統に所属することとなるものとする。この場合、切替支援機能は、切替パターンP1,P2ごとに、A系統およびB系統における送電損失、再エネ電源制御量、および/または上げ代制約量の合計することで、切替パターンP1および切替パターンP2の並び替えを行う構成とすることができる。
【0044】
次に、本実施形態に係る電力系統切替支援処理について説明する。
図7および
図8は、本実施形態に係る電力系統切替支援処理を示すフローチャートである。
図7および
図8に示す電力系統切替支援処理は、電力系統切替支援装置10の演算装置12により実行される。
【0045】
まず、ステップS101では、停止計画取得機能により、電力設備停止計画情報の取得が行われる。本実施形態では、データベース14に、1または複数の電力設備の電力設備停止計画が記憶されており、演算装置12は、データベース14を参照し、1または複数の電力設備停止計画情報を取得する。
【0046】
ステップS102では、パターン抽出機能により、ステップS101で取得された電力設備停止計画情報に対応する切替パターン情報が抽出される。具体的に、パターン抽出機能は、データベース14を参照し、
図3に示す切替パターンテーブルの中から、電力設備停止計画情報の対象電力設備に紐づけられた、複数の切替パターン情報(切替パターンの名称(あるいは識別情報)、接続点、開放点を含む情報)を抽出する。
【0047】
ステップS103では、電力潮流算出機能により、対象電力設備を停止した場合であって、電力系統の構成を切り替えない場合の電力潮流が算出される。具体的に、電力潮流算出手段は、データベース14から、電力系統に含まれる各構成要素の既知のパラメータ(たとえば、変圧器、送電線などの電力流通設備の電気定数や接続状態など)を取得し、これらパラメータと、気象情報と、再生可能エネルギー電源の発電量と、変電所の消費電力量の過去実績の統計情報とに基づいて、現在の電力系統の構成で対象電力設備を停止した場合の電力潮流を算出する。
【0048】
続くステップS104~S108では、ステップS102で抽出された切替パターンごとに処理が行われる。なお、以下においては、処理が行われる切替パターンを対象切替パターンと称して説明する。
【0049】
まず、ステップS104では、電力潮流算出手段により、対象電力設備を停止した場合であって、電力系統の構成を対象切替パターンの構成に切り替えた場合の電力潮流が算出される。なお、ステップS104においても、電力潮流算出機能は、電力系統に含まれる各構成要素の既知のパラメータ(たとえば、変圧器、送電線などの電力流通設備間の電気定数や接続状態など)を取得し、これらパラメータと、気象条件、再生可能エネルギー電源の発電量および過去実績の統計情報とに基づいて、対象切替パターンの構成で対象電力設備を停止した場合の電力潮流を算出する。
【0050】
ステップS105では、上げ代制約量算出機能により、対象切替パターンでの上げ代制約量の算出が行われる。具体的には、ステップS103で算出した、対象電力設備を停止した場合であって、電力系統の構成を切り替えない場合の電力潮流と、ステップS104で算出した、対象電力設備を停止した場合であって、電力系統の構成を対象切替パターンに切り替えた場合の電力潮流とに基づいて、運用容量を超過する電力流通設備が生じないか判定する。たとえば、上げ代制約量算出機能は、電力系統の構成を対象切替パターンの構成に切り替えた場合において、対象となる調整電源を定格値で稼働させた場合に、送電線の運用容量を超過する電力流通設備が生じるか判定する。上げ代制約量算出機能は、運用容量を超過する電力流通設備は生じないと判定した場合には、上げ代制約量をゼロとして算出する。一方、上げ代制約量算出機能は、運用容量を超過する電力流通設備が生じると判定した場合は、前記調整電源の出力を下げて、予想潮流が前記電力流通設備の運用容量を超過しなくなるまで抑制する。そして、上げ代制約量算出機能は、予想潮流が電力流通設備の運用容量を超過しなくなった際の前記調整電源の出力を出力上限値とし、その調整電源の抑制量(前記調整電源の定格出力-電力系統の構成を切り替えた後の前記調整電源の出力上限値)を上げ代制約量として算出する。なお、前記調整電源を出力下限まで抑制しても、予想潮流が前記電力流通設備の運用容量を超過する場合は、前記調整電源の出力下限を出力上限値とする。
【0051】
ステップS106では、再エネ電源制御量算出機能により、対象切替パターンでの再エネ電源制御量が算出される。具体的には、再エネ電源制御量算出機能は、ステップS103で算出した、対象電力設備を停止した場合であって、電力系統の構成を切り替えない場合の電力潮流と、ステップS104で算出した、対象電力設備を停止した場合であって、電力系統の構成を対象切替パターンに切り替えた場合の電力潮流とに基づいて、運用容量を超過する電力流通設備が生じないか判定する。たとえば、再エネ電源制御量算出機能は、電力系統の構成を対象切替パターンの構成に切り替えた場合において、再エネ電源を予測値どおり稼働させた場合に、送電線の運用容量を超過する電力流通設備が生じるか判定する。再エネ電源制御量算出機能は、運用容量を超過する電力流通設備は生じないと判定した場合には、再エネ電源制御量をゼロとして算出する。一方、再エネ電源制御量算出機能は、運用容量を超過する電力流通設備が生じると判定した場合は、以下のように、再エネ電源制御量を算出する。
【0052】
すなわち、再エネ電源制御量算出機能は、ステップS103およびステップS104において対象切替パターンの電力潮流の計算結果で、運用容量を超過した電力流通設備について、予め定められた抑制ルール(抑制順位)に則り、対象となる電源の発電予定を変更し、予想潮流が前記電力流通設備の運用容量を超過しなくなるまで抑制する。そして、再エネ電源制御量算出機能は、予想潮流が電力流通設備の運用容量を超過しなくなった際の再エネ電源の抑制量(電力流通設備の配下の系統に連系している再エネ電源の抑制前発電予測値-電力流通設備の運用容量を超過しない範囲まで抑制ルールに則り発電抑制を実施した場合の電力流通設備の配下の系統に連系している再エネ電源の抑制後予測値)を、再エネ電源制御量として算出する。また、再エネ電源制御量算出機能は、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間の複数の時刻について再エネ電源制御量を算出する。
【0053】
ステップS107では、送電損失算出機能により、送電損失の算出が行われる。具体的には、送電損失算出機能は、電力系統に含まれる各構成要素の既知のパラメータ(たとえば、送電線の抵抗値などの電気定数など)と、気象条件、再生可能エネルギー電源の発電量および過去実績の統計情報とに基づいて、対象切替パターンの構成で対象電力設備を停止した場合の電力潮流での送電損失を算出する。なお、送電損失算出機能は、送電線などの電力流通設備毎に算出した送電損失を積算することで、あらかじめ設定する電力供給エリアにおける送電損失を算出することができる。
【0054】
ステップS108では、切替支援機能により、対象切替パターンの情報が支援情報に加えられる。本実施形態において、支援情報は、系統運用者に提示する切替パターンを登録するためのリストとなっており、切替支援機能は、支援情報であるリストに、全ての対象切替パターンの情報を追加する。
【0055】
ステップS109では、対象電力設備に対応する全ての切替パターンについて、ステップS104~S108の処理を実行したか否かの判定が行われる。全ての切替パターンについて、ステップS104~S108の処理を実行していない場合は、ステップS104に戻り、別の切替パターンを対象切替パターンとして、ステップS104~S108の処理を繰り返す。一方、全ての切替パターンについて、ステップS104~S108の処理を実行した場合には、
図8のステップS110に進む。
【0056】
ステップS110では、切替支援機能により、対象電力設備および表示対象日時の情報の取得が行われる。たとえば、本実施形態では、系統運用者が、入力装置17を操作して、表示要求する対象電力設備および対象日時を指定することで、切替支援機能は、対象電力設備および表示対象日時の情報を取得することができる。
【0057】
ステップS111では、切替支援機能により、
図4に示すように、ステップS109で支援情報に追加された切替パターンが、ステップS106で算出された上げ代制約量、ステップS107で算出された再エネ電源制御量、および/または、ステップS108で算出された送電損失の小さい順に並べ替えられ、表示装置15に表示される。なお、系統運用者は、入力装置17を操作して、上げ代制約量、再エネ電源制御量、送電損失について、並び替えの優先順位を任意に変更することができる。このように、切替支援機能は、管理画面のリストボックスに、切替パターンを、指定した優先順位に従って小さい順に並べることで、系統運用者に状況に応じ最適な切替パターンを提示することができ、系統運用者による電力系統構成の切り替え作業を支援することができる。
【0058】
ステップS112では、切替支援機能により、対象電力設備に対応する切替パターンが選択されたか否かの判断が行われる。たとえば、デフォルトで切替パターンが設定された場合、あるいは、系統運用者が入力装置17を操作してリストボックスに表示される切替パターンを設定した場合には、ステップS113に進む。一方、切替パターンが設定されていない場合には、切替パターンが設定されるまで、ステップS112で待機する。
【0059】
ステップS113では、切替パターンが選択されることで、切替支援機能により、選択された切替パターンの構成において算出した、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間内の各時刻での上げ代制約量、再エネ電源制御量、および/または、送電損失が表示装置15に表示される。たとえば、切替支援機能は、
図4および
図5に示すように、切替管理画面および切替管理詳細画面において、各切替パターンでの上げ代制約量、再エネ電源制御量、送電損失を表示する構成とすることもできる。また本実施形態では、対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間内において、一定時間間隔(たとえば30分ごと)で、上げ代制約量、再エネ電源制御量、および/または、送電損失が算出されており、切替支援機能は、
図5に示すように、表示装置15に表示する管理画面上に、一定時間間隔(たとえば30分ごと)の上げ代制約量、再エネ電源制御量、および、送電損失を表示することができる。
【0060】
さらに、ステップS113において、切替支援機能は、
図6に示すように、切替支援情報として、再エネ電源ごとに、再エネ電源の制御が行われるか否か、再エネ電源の制御が行われる理由、再エネ電源の制御が行われる時間などを含む、再エネ電源制御情報を表示することができる。また、切替支援機能は、再エネ電源制御情報として、系統混雑度を視覚的に示す情報を表示する構成とすることもできる。さらに、切替支援機能は、一定時間間隔(たとえば30分ごと)の系統混雑度などの再エネ電源制御情報を表示することができる。
【0061】
このように、本実施形態では、切替パターンが、電力設備停止計画とリンクして、推奨順位として、選択肢で表示される。表示する順の根拠となる算出結果は、本実施例では、上げ代制約量、再エネ電源制御量、および、送電損失としているが、これに限らず、たとえば、供給信頼度、電力流通設備の空き容量などを表示する構成とすることができる。また、系統運用において判断する各種パラメータを追加することもできる。なお、上述した
図5に示す例では、上げ代制約量、および再エネ電源制御量、および、送電損失の時系列データを示す際に、1日を48点に分けて30分毎に表示する例を示したが、これに限定されず、15分毎などとすることもできる。これにより、系統運用者は、設定した切替パターンにおける上げ代制約量、再エネ電源制御量、および、送電損失の時間推移を把握することができる。
【0062】
(実施例1)
次に、第1実施形態に係る電力系統切替支援装置10の実施例(実施例1)について説明する。実施例1では、実際にある電力系統をモデルとした電力系統において、複数の切替パターンで電力系統の構成を切り替えした場合の上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失をシミュレーションした場面を示す。また、実施例1の構成では、発電機として調整電源G1、特高再エネ電源G2~G5および各変電所の配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源(不図示、以下、単に高低圧再エネ電源という。)を有し、電力系統における調整電源G1、特高再エネ電源G2~G5および高低圧再エネ電源による発電量と当該電力系統における電力需要との差し引きによって、当該電力系統における電力流通設備に流れる電力潮流が、当該設備の運用容量を超過する場合には、調整電源G1の出力を優先的に制御し、調整電源G1の出力制御だけでは足りない場合に、特高再エネ電源G2~G5および高低圧再エネ電源の出力を制御する運用を行うものとする。具体的には、実施例1において、調整電源G1は、定格出力が300MWであり、最低出力が125MWであるものとし、上げ代制約量が175MW(調整電源の定格出力300MW-最低出力125MW、すなわち、調整電源が最低出力まで抑制された)となったタイミングで、特高再エネ電源G2~G5および高低圧再エネ電源の出力を制御する運用を行うものとする。
【0063】
図9~12では、各切替パターンにおける電力系統の構成を示している。具体的に、
図9は、平常時(切替パターン1)の電力系統の構成を示しており、遮断器C1をオフにすることで、電力系統を電力供給エリアA1と電力供給エリアA2とに分離した状態を示している。また、
図10は、他の切替パターン(切替パターン2)における電力系統の構成を示しており、遮断器C1はオンになっている一方、遮断器C2をオフとすることで、電力系統を電力供給エリアA3と電力供給エリアA4とに分離した状態を示している。同様に、
図11は、切替パターン3における電力系統の構成を示しており、遮断器C1,C2はオンになっている一方、遮断器C3をオフとすることで、電力系統を電力供給エリアA5と電力供給エリアA6とに分離した状態を示し、
図12は、切替パターン4における電力系統の構成を示しており、遮断器C1~C3はオンになっている一方、遮断器C4をオフとすることで、電力系統を電力供給エリアA7と電力供給エリアA8とに分離した状態を示している。
【0064】
また、
図13は、実施例1の切替パターン1~4の電力系統の構成における、30分毎の電力潮流に基づく、上げ代制約量、再エネ電源抑制量および送電損失のシミュレーション結果を示す図である。本実施形態に係る電力系統切替支援装置10は、実施例1のシミュレーションと同様の方法にて、各切替パターンの電力潮流、上げ代制約量、再エネ電源抑制量および送電損失を一定時間ごとに算出することができる。
【0065】
ここで、
図9~12に示す実施例1の電力系統の構成では、2つの基幹電気所を有し、X基幹電気所の連系変圧器の定格容量は150MVA×2台=300MVAであり、Y基幹電気所の連系変圧器の定格容量は200MVA×2台=400MVAとなっている。また、調整電源G1はX基幹電気所に接続されている。さらに、特高再エネ電源G2~G5が送電線を介してX基幹電気所またはY基幹電気所に接続しており、また、図示しない負荷または発電機と接続する変電所A~Jが送電線を介してX基幹電気所またはY基幹電気所に接続している。さらに、特高再エネ電源G2~G5および高低圧再エネ電源は、昼間の12時に発電量がピークになるものとし、発電量が電力流通設備の運用容量を超過する場合には、調整電源G1の出力制御や、特高再エネ電源G2~G5および高低圧再エネ電源の出力制御により、電力潮流を制御する運用を行うものとする。
【0066】
図9に示す切替パターン1の電力系統の構成では、遮断器C1をオフとすることで、電力供給エリアA1において、特高再エネ電源G2が連系変圧器の定格容量の小さい(300MVA)のX基幹電気所に接続し、電力供給エリアA2において、特高再エネ電源G3~G5が連系変圧器の定格容量の大きい(400MVA)のY基幹電気所に接続する。この場合でも、特高再エネ電源G2~G5および高低圧再エネ電源の発電量がピークとなる昼間の12時には、X基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量300MVAを超える408.7MWの電力潮流になるため、X基幹電気所の調整電源G1の出力を最低出力値に抑制する運用が行われる。具体的には、
図9に示す例では、特高再エネ電源G2および変電所B,C,E~Iの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の発電量がピークとなる昼間の12時の時点で、上げ代制約量は408.7VM‐300MVA=108.7MWとなり、調整電源G1の出力を300MW-108.7MW=191.3MWに抑制すれば足り、調整電源G1の出力を最低出力の125MWまで抑制しなくてよいため、特高再エネ電源G2および変電所B,C,E~Iの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力制御は行われないこととなる。また、
図9に示す例では、特高再エネ電源G3~G5および変電所A,J,L~Oの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の発電量がピークとなる昼間の12時の時点において、Y基幹電気所においては連系変圧器の定格容量の範囲内となるため、特高再エネ電源G3~G5および変電所A,J,L~Oの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力制限は行われない。なお、この時点での送電損失は、X基幹電気所およびY基幹電気所の合計で5.6MWとなる。同様に、他の時間においても、上げ代制約量、再エネ電源制御量および送電損失を算出することで、
図9に示す切替パターン1の電力系統の構成では、
図13に示すように、上げ代制約量の1日合計は1089.7MWとなり、再エネ電源抑制量の1日合計は0MWとなり、送電損失の1日合計は67.8MWとなる。
【0067】
また、
図10に示す切替パターン2の電力系統の構成では、遮断器C1をオンとし、遮断器C2をオフとすることで、
図9に示す平常時(切替パターン1)の構成と比べて、負荷や発電機に接続する変電所G~Iが、X基幹電気所が存在する電力供給エリアA3からY基幹電気所が存在する電力供給エリアA4に切り替わっている。
図10に示す例において、変電所G~Iでは、発電電力量が電力消費量を上回っており、変電所G~IがY基幹電気所と接続することで、X基幹電気所における上げ代制約量は
図9に示す構成よりも減少する。具体的には、
図13に示すように、上げ代制約量の1日合計は734.5MWとなる。また、
図10に示す例においても、
図9に示す例と同様に、電力供給エリアA3の発電量がX基幹電気所の連系変圧器の運用容量を超過する場合も、調整電源G1の出力を制御するだけで足りるため、再エネ電源抑制量の1日合計は0MWのまま変化しない。一方で、変電所G~IがY基幹電気所に接続することで送電距離が延び送電損失が増加するため、
図13に示すように、送電損失の1日合計は81.2MWに増加する。
【0068】
図11に示す切替パターン3の電力系統の構成では、遮断器C1,C2をオンとし、遮断器C3をオフとすることで、
図9に示す平常時(切替パターン1)の構成と比べて、X基幹電気所は、特高再エネ電源G3,G4と変電所A(一部),J,Lとにさらに接続することとなる。これにより、X基幹電気所の連系変圧器に流れる電力潮流が増加し、その分、調整電源G1の上げ代制約量は増加する。具体的に、切替パターン3の電力系統の構成では、
図13に示すように、上げ代制約量の1日合計は2526.4MWとなり、切替パターン1の電力系統の構成の約2.3倍となる。また、
図11に示す切替パターン3の電力系統の構成では、X基幹電気所の連系変圧器に流れる電力潮流は、調整電源G1の出力を最低出力まで下げるだけではX基幹電気所の連系変圧器の運用容量以下とならない時間帯があり、この場合、特高再エネ電源G2~G4および変電所A(一部),B,C,E~J,Lの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力制御が行われる。その結果、
図13に示すように、再エネ電源制御量の1日合計は251.2MWと増加する。一方で、
図11に示す切替パターン3の電力系統の構成では、送電損失は減少し、
図13に示すように、送電損失の1日合計は55.5MWに低下する。
【0069】
さらに、
図12に示す切替パターン4の電力系統の構成では、遮断器C1~C3をオンとし、遮断器C4をオフとすることで、
図11に示す切替パターン3の構成と比べて、X基幹電気所は、さらに特高再エネ電源G5および変電所A(全部),Mと接続することとなる。これにより、X基幹電気所の連系変圧器に流れる電力潮流がより増加し、その分、上げ代制約量はより増加する。具体的に、切替パターン4の電力系統の構成では、
図13に示すように、上げ代制約量の1日合計は3271.0MWと、切替パターン3の構成での上げ代制約量よりも高くなっている。また、
図12に示す切替パターン4の電力系統の構成でも、X基幹電気所の連系変圧器に流れる電力潮流は、調整電源G1の出力を最低出力とするだけでは電力流通設備の運用容量以下とならない時間帯があり、特高再エネ電源G2~G5および変電所A,B,C,E~J,Lの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力抑制が必要となる。その結果、
図13に示すように、再エネ電源制御量の1日合計は1103.9MWとなり、切替パターン3の再エネ電源制御量よりも増加する。一方で、
図12に示す切替パターン4の電力系統の構成では、
図11に示す切替パターン3の電力系統の構成よりも送電損失は減少し、
図13に示すように、送電損失の1日合計は48.1MWに低下する。
【0070】
なお、
図9~12に示す例では、
図9~12に示す電力系統が監視対象の電力系統である場合を例示して説明しているが、
図9~12に示す電力系統が、監視対象の電力系統(電力供給エリア全体)の一部である場合は、
図9~12に示す本電力系統モデルの電力潮流だけではなく、他系統の電力潮流も含めた、監視対象である電力系統全体の電力潮流により、電力供給エリア全体の送電損失を求め評価することが好ましい。たとえば、
図9~12に示す本電力系統モデルの発電電力量が抑制された場合は、電力供給エリア全体の発電と需要のバランスを保つため、他系統の発電電力量を増加させる必要がある。この場合、変化した本電力系統モデルの電力潮流と他系統の電力潮流とを併せて、電力供給エリア全体の送電損失を求め評価することが好ましい。
【0071】
実施例1において、
図13に示すように、上げ代制約量、再エネ電源抑制量および送電損失が算出された場合、電力系統切替支援装置10は、系統運用者が入力装置17を操作して、
図4に示す画面における「ソート切替」のリストボックスにおいて、「再エネ電源制御量」の優先度を「1」、「送電損失」の優先度を「2」、「上げ代制約量」の優先度を「3」と設定し、表示要求を行った場合には、
図9~
図12に示す切替パターン1~4を、切替パターン1、切替パターン2、切替パターン3、切替パターン4の順に上から並べることで、「再エネ電源制御量」を最も優先し、「送電損失」を次に優先し、「上げ代制約量」を最後に優先したリストを作成し、系統運用者に提示することができる。
【0072】
また、電力系統切替支援装置10の切替支援機能は、
図14に示すように、各切替パターンにおける上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失の推移をグラフ化して表示する構成とすることもできる。なお、
図14は、実施例1の切替パターン1~4における電力系統の構成における上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失の推移を示すグラフの一例であり、(A)は切替パターン1~4の上げ代制約量の推移を示し、(B)は切替パターン1~4の再エネ電源抑制量の推移を示し、(C)は切替パターン1~4の送電損失の推移を示している。このように、電力系統切替支援装置10は、切替パターンごとの上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失の推移をグラフ化して表示することで、系統運用者に各切替パターンにおける上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失がどのように推移するかを直感的に把握させることができ、系統運用者による電力系統の構成の切り替えを支援することができる。
【0073】
さらに、電力系統切替支援装置10の切替支援機能は、
図15に示すように、切替パターンごとに、X基幹電気所およびY基幹電気所の各連系変圧器の合計潮流(連変潮流)の推移をグラフ化して表示する構成とすることもできる。ここで、
図15(A)は、切替パターン1でのX基幹電気所およびY基幹電気所の連変潮流の推移を示すグラフであり、
図15(B)は、切替パターン2のX基幹電気所およびY基幹電気所の連変潮流の推移を示すグラフであり、
図15(C)は、切替パターン3のX基幹電気所およびY基幹電気所の連変潮流の推移を示すグラフであり、
図15(D)は、切替パターン4のX基幹電気所およびY基幹電気所の連変潮流の推移を示すグラフである。また、
図15に示すように、電力系統切替支援装置10は、X基幹電気所およびY基幹電気所の連系変圧器の定格容量を重畳して表示するとともに、調整電源G1や特高再エネ電源G2~G5および高低圧再エネ電源の出力を抑制しない場合の連変潮流についても重畳して表示する構成とすることができる。これにより、電力系統の各構成におけるX基幹電気所およびY基幹電気所の連変潮流の推移を、系統運用者に直感的に把握させることができ、系統運用者の電力系統の構成の切り替えを支援することができる。
【0074】
以上のように、本実施形態に係る電力系統切替支援装置10は、電力設備を停止する電力設備停止計画を立案し、設備停止作業を実施する場合の、電力系統の構成の切り替え操作を支援するための電力系統切替支援装置10であって、停止予定の対象電力設備の情報を対象電力設備情報として取得し、対象電力設備を停止した場合に切り替える電力系統の構成パターンを、切替パターンとして複数記憶しており、対象電力設備情報を取得した場合に、対象電力設備に応じた複数の切替パターンについて、切替パターンごとに送電損失を算出し、再エネ電源制御量および調整電源の運転制約となる上げ代制約量も考慮したうえで、送電損失が小さい切替パターンを優先した支援情報、再エネ電源制御量の低減を優先した支援情報、調整電源の運転制約量を優先した支援情報、複数を組み合わせた支援情報を出力する。これにより、系統運用者は、需給制約、輸送制約の双方を可視化したうえで、需給運用面を踏まえて、状況に応じ最適な切替パターンを把握することができ、この支援情報に基づいて、電力系統構成の切り替え作業をより適切かつ効率良く実行することができる。
【0075】
また、本実施形態では、対象電力設備を停止した場合において、電力系統を切替パターンの構成に切り替えた場合の電力潮流と、電力系統の切り替えを行わない場合の電力潮流について、送電線毎に、それぞれの切替パターンの送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量を比較して、それぞれの合計値を算出することにより、あるいは、送電毎に個別に、切替パターンを送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量が小さい順に並べ替えた情報を支援情報として出力する。これにより、電力系統構成の切り替えにより電力潮流が変化する切替パターンの情報を支援情報として、系統運用者に提示することができる。
【0076】
さらに、本実施形態では、電力設備停止計画における対象電力設備の停止時間、停止操作時間および復旧操作時間内の複数の時刻において、切替パターンごとに、送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量を算出し、切替パターンが選択された場合には、選択された切替パターンの構成について、複数の時刻での送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量の情報を支援情報に含めて出力する。これにより、系統運用者が、選択した切替パターンにおける損失電流の時間推移を把握することができ、電力設備停止計画に付随して組み合わせとなる系統切替操作に要する時間帯も考慮した切替パターンの決定の参考にすることができる。これは、系統切替操作に、たとえば数時間など長時間を要する場合もあり、設備停止作業の時間との相関で、あるいは、設備停止のための系統操作時間が昼間であるか夜間であるかなどの時間帯により送電損失、再エネ電源制御量、調整電源の上げ代制約量が変わるためである。このように、複数の電力設備停止計画の組み合わせとそれぞれに対応する系統切替パターンの最適候補の選択支援により、系統切替操作に要する時間も考慮して、1日間、1週間、1カ月間などの期間で評価して、最も再エネ電源の出力を抑制する機会を減らせる支援を行うことができる。
【0077】
《第2実施形態》
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る電力系統切替支援装置10は、第1実施形態に係る電力系統切替支援装置10と同様の構成を有し、以下に説明するように動作すること以外は、第1実施形態に係る電力系統切替支援装置10と同様に動作する。
【0078】
第2実施形態において、電力系統切替支援装置10は、現在の電力系統の構成において構成要素を新規で追加、あるいは、既存の構成要素を削除した場合の、各切替パターンにおける上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失を予測し、系統運用者に提示することを特徴とする。具体的に、電力系統切替支援装置10は、現在の電力系統の構成、各発電所の発電量または消費電力量の過去実績の統計情報などに基づいて、再エネ電源などの発電機の増減、または、負荷の増減に応じた上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失を予測し、時間ごとに算出する。
【0079】
このような機能を発揮するために、演算装置12は、第1実施形態に係る機能に加えて、現在の電力系統の構成を変更する構成変更機能を有する。具体的に、構成変更機能は、現在の電力系統の構成データを取得し、入力装置17を介した系統運用者の指示に基づいて、現在の電力系統の構成を変更(設定)することができる。たとえば、構成変更機能は、現在の電力系統の構成データ上に、新たな構成要素(再エネ電源などの発電機や負荷、送電線)を任意の位置に新設することや、既存の発電機や負荷を構成から任意に削除することができる。また、構成変更機能は、系統運用者の指示に基づいて発電機や負荷を新たに設置する場合には、定格出力、定格容量、送電線の送電容量、インピーダンスなど、電力潮流、上げ代制約量、再エネ電源抑制量、送電損失などを算出するために必要となる構成要素のデータを適宜入力(設定)することができる。
【0080】
また、第2実施形態において、電力潮流算出機能は、構成変更機能により変更された電力系統の構成に基づいて、各切替パターンの電力潮流を算出する構成とすることができる。同様に、再エネ電源制御量算出機能、上げ代制約量算出機能および送電損失算出機能も、構成変更機能により変更された電力系統の構成に基づいて、各切替パターンの再エネ電源制御量、上げ代制約量および送電損失を算出する構成とすることができる。
【0081】
(実施例2)
次に、第2実施形態に係る電力系統切替支援装置10の実施例(実施例2)について説明する。実施例2では、電力系統切替支援装置10は、
図9~
図12に示す現在の電力系統の構成に対して、特高再エネ電源G6~G8および調整電源G9を追加した場合の、再エネ電源抑制量、上げ代制約量および送電損失を系統運用者に提示する場面を示している。なお、特高再エネ電源G6~G8はそれぞれ定格出力が30MW,20MW,10MWとし、調整電源G9は定格出力が150MW、最低出力が75MWとする。また、調整電源G9はY基幹電気所に接続するものとする。
【0082】
図16は、
図9に示す切替パターン1の電力系統の構成に、特高再エネ電源G6~G8および調整電源G9を追加した状態を示す図である。特高再エネ電源G2~G8および高低圧再エネ電源の発電量が12時にピークになった場合、
図16に示す切替パターン1の構成では、X基幹電気所に対して、連系変圧器の定格容量の300MWを超える431.8MWの電力潮流となり、調整電源G1の出力制御が行われる。また、
図16に示す例では、Y基幹電気所に特高再エネ電源G3~G8および調整電源G9および変電所A,J,L~Oの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源が接続しており、特高再エネ電源G3~G8および変電所A,J,L~Oの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の発電量が12時にピークになった場合に、Y基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量の400MWを超える644.6MWの電力潮流となり、調整電源G9の出力抑制も行われる。また、
図16に示す例では、Y基幹電気所において、調整電源G9の上げ代制約量は最大で75MWであるため、調整電源G9の出力制御だけでは、予想電力潮流がY基幹電気所の連系変圧器の運用容量を超過するため、特高再エネ電源G3~G8および変電所A,J,L~Oの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力抑制も行われる。その結果、
図20に示すように、
図16に示す切替パターン1の電力系統の構成では、
図20に示すように、上げ代制約量の1日合計は2721.7MWとなり、再エネ電源制御量の1日合計は1271.3MWとなり、送電損失の1日合計は116.5MWとなる。
【0083】
また、
図17は、
図10に示す切替パターン2の電力系統の構成に、特高再エネ電源G6~G8および調整電源G9を追加した状態を示す図である。特高再エネ電源G2~G8および高低圧再エネ電源の発電量が12時にピークになった場合、
図17に示す切替パターン2の構成では、X基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量の300MWを超える365.8MWの電力潮流があり、調整電源G1の出力制御だけが行われる。また、
図17に示す切替パターン2の構成では、Y基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量の400MWを超える710.6MWの電力潮流があり、調整電源G9の出力制御とともに、特高再エネ電源G3~G8および変電所A,G~J,L~Oの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力抑制も行われる。その結果、
図20に示すように、
図17に示す切替パターン2の電力系統の構成では、上げ代制約量の1日合計は1912.5MWとなり、再エネ電源制御量の1日合計は1964.0MWとなり、送電損失の1日合計は119.8MWとなる。
【0084】
さらに、
図18は、
図11に示す切替パターン3の電力系統の構成に、特高再エネ電源G6~G8および調整電源G9を追加した状態を示す図である。特高再エネ電源G2~G8の発電量がピークとなる12時では、X基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量の300MWを超える608.4MWの電力潮流があり、調整電源G1の出力抑制と特高再エネ電源G2~G4および変電所A(一部),B,C,E~J,Lの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力抑制が行われる。また、
図18に示す切替パターン3の構成では、Y基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量の400MWを超える468.4MWの電力潮流があり、調整電源G9による出力制御が行われる。その結果、
図20に示すように、
図18に示す切替パターン3の電力系統の構成では、上げ代制約量の1日合計は3493.2MWとなり、再エネ電源制御量の1日合計は1041.0MWとなり、送電損失の1日合計は102.7MWとなる。
【0085】
加えて、
図19は、
図12に示す切替パターン4の電力系統の構成に、特高再エネ電源G6~G8および調整電源G9を追加した状態を示す図である。特高再エネ電源G2~G8および高低圧再エネ電源の発電量がピークとなる12時では、X基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量の300MWを超える786.4MWの電力潮流があり、調整電源G1の出力制御と特高再エネ電源G2~G6および変電所A(全部),B,C,E~J,L,Mの配電用変圧器配下に属する高低圧再エネ電源の出力制御が行われる。また、
図19に示す切替パターン4の構成では、Y基幹電気所に対して連系変圧器の定格容量400MWの範囲内の290MWが電力潮流が予測されるため、調整電源G9の出力制御も特高再エネ電源G7,8の出力制御も行われない。その結果、
図20に示すように、
図19に示す切替パターン4の電力系統の構成では、上げ代制約量の1日合計は4982.9MWとなり、再エネ電源抑制量の1日合計は3323.1MWとなり、送電損失の1日合計は71.6MWとなる。
【0086】
実施例2において、
図20に示すように、上げ代制約量、再エネ電源抑制量および送電損失が算出された場合、電力系統切替支援装置10は、系統運用者が入力装置17を操作して、
図4に示す画面における「ソート切替」のリストボックスにおいて、「再エネ電源制御量」の優先度を「1」、「送電損失」の優先度を「2」、「上げ代制約量」の優先度を「3」と設定し、表示要求を行った場合には、
図16~
図19に示す切替パターン1~4を、切替パターン3、切替パターン1、切替パターン2、切替パターン4の順に上から並べることで、「再エネ電源制御量」を最も優先し、「再エネ電源制御量」が少ないことを優先したリストを作成し、系統運用者に提示することができる。
【0087】
以上のように、第2実施形態に係る電力系統切替支援装置10では、第1実施形態の機能に加え、現在の電力系統の構成に対して、構成要素を新規に追加、または、既存の構成要素を削除した、変更後の電力系統の構成において、切替パターンごとに、再エネ電源制御量、上げ代制約量および送電損失の推移を提示することができる。これにより、第2実施形態では、現在の電力系統の構成を変化させた場合における切替パターンごとの再エネ電源制御量、上げ代制約量および送電損失を、系統運用者に予め把握させることができるため、系統運用者による電力系統の構成の切り替えを支援することができることに加えて、電力系統の構成を変更する作業を支援することもできる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0089】
たとえば、上述した実施形態では、1つの電力設備を停止する構成を例示して説明したが、この構成に限定されず、2以上の電力設備を同時に停止する構成とすることもできる。この場合、電力系統切替支援装置10は、たとえば、
図4および
図5に示す電力系統切替支援処理を電力設備停止計画ごとに実行することで、対象電力設備ごとに、送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量が小さい切替パターンを優先にした支援情報を提示する構成とすることができる。この場合、同一時刻に複数の設備停止がある場合は、それぞれの電力設備停止計画ごとに、他方の電力設備停止計画が実行されているものとして、接続点、開放点の情報を連係して電力潮流を計算する。また、電力系統切替支援装置10は、2以上の対象電力設備に対応する切替パターンの組み合わせについて、時刻毎に、その組み合わせが複数の設備停止計画により変化しても、それぞれの時刻における電力潮流および送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量を算出し、送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量が小さい切替パターンを優先した支援情報を、系統運用者に提示する構成とすることもできる。
【0090】
また、上述した実施形態では、気象情報が提供される最小単位を地域毎のメッシュとし、そこに在る発電所、需要場所と接続される送電線、配電線の連系情報と組み合わせて電力潮流および送電損失、再エネ電源制御量および上げ代制約量を算出する構成を例示したが、この構成に限定されず、複数のメッシュを含む地域に依拠する発電、需要に関する情報と、緯度経度に依拠せず、電力系統の構成要素である発電所、変電所、送電線に紐付けする発電、需要に関する情報と組み合わせて、電力潮流および送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量を算出する構成とすることもできる。
【0091】
さらに、上述した実施形態では、支援情報として、送電損失が小さい順に切替パターンを並べた情報あるいは再エネ電源制御量あるいは調整電源の上げ代制約量または複数を組み合わせた構成を例示したが、この構成に限定されず、送電損失が最も小さい切替パターンのみを先頭にし、次の階層での順序表示として、別の項目順に並べた切替パターンの情報を支援情報として提示する構成とすることができる。また、送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量が小さい切替パターンを優先した支援情報として、送電損失および再エネ電源制御量および上げ代制約量が所定値以下の切替パターンを文字色や太字で表示するなど強調して情報を提示する構成とすることもできる。
【0092】
加えて、上述した第1実施形態では、現在の電力系統の構成における切替パターンごとの再エネ電源制御量、上げ代制約量および送電損失を算出し提示する構成を例示し、また、上述した第2実施形態では、現在の電力系統の構成において構成要素を変更した場合の再エネ電源制御量、上げ代制約量および送電損失を算出し提示する構成を例示したが、これに加えて、または、これに代えて、現在の電力系統の構成と同一の構成でありながら、発電機や負荷の定格出力や消費電力量などを変化させた場合の、切替パターンごとの再エネ電源制御量、上げ代制約量および送電損失を提示する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0093】
10…電力系統切替支援装置
11…通信装置
12…演算装置
13…記憶装置
14…データベース
15…表示装置
16…報知装置
17…入力装置