(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010074
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】細胞の修復を補助する細胞外小胞、その製造方法及びその製剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20250109BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20250109BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20250109BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20250109BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
A61P3/10
A61P17/02
A61K9/06
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106493
(22)【出願日】2024-07-01
(31)【優先権主張番号】63/512,091
(32)【優先日】2023-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
【氏名又は名称原語表記】CHINA MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 91, Hsueh-Shih Road, North District Taichung, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110004439
【氏名又は名称】AIPPAY弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】陳怡文
(72)【発明者】
【氏名】謝明佑
(72)【発明者】
【氏名】李建智
(72)【発明者】
【氏名】周▲徳▼陽
(72)【発明者】
【氏名】陳正祐
(72)【発明者】
【氏名】林彦宏
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BA25
4B065BB02
4B065BC01
4B065CA44
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC29
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA28
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZC35
(57)【要約】
【課題】ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することで形成されるケイ酸塩誘導性細胞外小胞である細胞修復を補助する細胞外小胞を提供する。
【解決手段】
本発明の細胞修復を補助する細胞外小胞は、ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することによって形成され、抗炎症、組織再生及び細胞修復等の指標因子の発現に寄与し、創傷組織の細胞生長及び創傷修復プロセスを促進する。また本発明の細胞修復を補助する細胞外小胞の製造方法は、ケイ酸カルシウム1gを取り、10~100mlの培地に加え、少なくとも24時間浸漬し、清澄液を収集してケイ酸塩培地を作成するステップと、前記幹細胞を前記ケイ酸塩培地において培養するステップと、前記幹細胞によって分泌される前記細胞外小胞を分離するステップとを含む。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することによって形成される、細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項2】
前記幹細胞は、ケイ酸塩成分を添加したケイ酸培地によって培養される請求項1に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項3】
前記幹細胞は、ヒト脂肪幹細胞、骨髄幹細胞、歯髄幹細胞又はウォートングリア間葉系幹細胞を含む請求項2に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項4】
前記ケイ酸塩は、ケイ酸カルシウムである請求項1に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項5】
前記ケイ酸塩培地は、間葉系幹細胞培地(mesenchymal stem cell medium, MSCM)又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium,DMEM)である培地を含む請求項1に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項6】
電位が-15mVよりも低い膜表面を含む請求項1に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項7】
前記膜表面の電位が-20mV~-30mVである請求項6に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項8】
タンパク質の総含有量が4μg/109よりも高い請求項1に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項9】
少なくとも40%の前記細胞外小胞が膜貫通タンパク質CD9、膜貫通タンパク質CD63及び膜貫通タンパク質CD81の少なくとも1つを発現する請求項1に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞。
【請求項10】
細胞修復を補助する細胞外小胞の製造方法であって、前記細胞外小胞は、ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することによって形成され、
ケイ酸カルシウム1gを取り、10~100mlの培地に加え、少なくとも24時間浸漬し、清澄液を収集してケイ酸塩培地を作成するステップと、
前記幹細胞を前記ケイ酸塩培地において培養するステップと、
前記幹細胞によって分泌される前記細胞外小胞を分離するステップと、
を含む、細胞修復を補助する細胞外小胞の製造方法。
【請求項11】
前記培地は、間葉系幹細胞培地(mesenchymal stem cell medium, MSCM)又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium,DMEM)である培地を含む請求項10に記載の細胞修復を補助する細胞外小胞の製造方法。
【請求項12】
ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することによって形成される細胞外小胞を含む、細胞修復を補助する製剤。
【請求項13】
ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することによって形成される細胞外小胞を保持するヒドロゲルを含む、細胞修復を補助する製剤。
【請求項14】
前記ヒドロゲル中の前記細胞外小胞(CSEV)の割合が109~1014個/mLである請求項13に記載の細胞修復を補助する製剤。
【請求項15】
ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することにより形成される細胞外小胞を含む、創傷修復のための製剤の使用。
【請求項16】
前記製剤によって修復される創傷は、糖尿病によって引き起こされる高難度治療型創傷である請求項15に記載の創傷修復のための製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞、特に細胞修復を補助する細胞外小胞、その製造方法及びその製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
よく見られる傷の治癒不良を引き起こす要因は、傷の洗浄やケアが適切に行われていないことから、高齢、栄養失調、糖尿病、自己免疫疾患、がん、又は喫煙、飲酒等の悪習慣などの患者の身体状況に至るまで、多くの要因が考えられ、何れも傷の治りの速さに密接な関係がある。
【0003】
外科処置、抗生物質の使用、創傷への包袋処置等に加え、新たな治療方法は、ヒト成長因子の局所適用、陰圧療法、高圧酸素療法、及びバイオテクノロジー皮膚移植などを含み、費用が崇高であるだけでなく、創傷治癒を加速させる程度は、依然として限られ、創傷治癒の促進を補助する技術の開発は、関連分野において依然として緊急の研究目標となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
創傷治癒の促進を補助する技術を開発するために、本発明は、ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することによって形成されるケイ酸塩誘導性細胞外小胞である、細胞修復を補助する細胞外小胞を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明において、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を製造するステップは、
ケイ酸カルシウム1gを取り、10~100mlの培地に加え、少なくとも24時間浸漬し、清澄液を収集してカルシウム元素を除去し、ケイ酸塩培地を作成するステップと、
前記幹細胞を前記ケイ酸塩培地において培養するステップと、
前記幹細胞によって分泌されるケイ酸塩誘導性細胞外小胞を分離するステップと、
を含む。
【0006】
本発明において、前記培地は、間葉系幹細胞培地(mesenchymal stem cell medium, MSCM)又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium,DMEM)である培地を含む。
【0007】
本発明は、ケイ酸塩によって幹細胞に分泌を誘導することによって形成されるケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を含む、細胞修復を補助する製剤を更に提供する。
【0008】
本発明において、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を保持するためのヒドロゲルを含む。
【0009】
前記ヒドロゲル中の前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の割合が109~1014個/mLである。
【発明の効果】
【0010】
本発明が提供する前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)は、その表面電池、タンパク質総量及び膜透過タンパク質含有量が何れも通常の細胞外小胞よりも向上し、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)受容細胞がエンドサイトーシスを行う親和性を向上させるのに役立つ。細胞実験及び動物実験の検出によって前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)がエンドサイトーシスを通じて細胞に容易に侵入し、抗炎症、組織再生及び細胞修復等の指標因子の発現に寄与し、創傷組織の細胞生長及び創傷修復プロセスを促進する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明が提供するケイ酸塩培地中のカルシウムイオンとケイ素イオンの含有量変化図である。
【
図2】本発明が提供する幹細胞培養後の細胞活性検出図である。
【
図3A】本発明が提供する細胞外小胞の透過型電子顕微鏡画像図である。
【
図3B】本発明が提供する細胞外小胞のナノ粒子追跡の分析及び検出図である。
【
図3C】本発明が提供する細胞外小胞の膜表面の電位検出図である。
【
図3D】本発明が提供する細胞外小胞のタンパク質発現の検出図である。
【
図3E】本発明が提供する細胞外小胞透過タンパク質CD9、CD63及びCD81の発現比の分析図である。
【
図3F】本発明が提供する細胞外小胞透過タンパク質CD9、CD63及びCD81の発現比の分析図である。
【
図3G】本発明が提供する細胞外小胞透過タンパク質CD9、CD63及びCD81の発現比の分析図である。
【
図3H】本発明が提供する細胞外小胞タンパク質発現量のイメージ図である。
【
図4A】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞活性検出図である。
【
図4B】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞内活性酸素フリーラジカルの検出図である。
【
図4C】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞の蛍光染色図である。
【
図4D】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞の蛍光発現量の図である。
【
図5A】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞外小胞反応後の細胞活性の検出図である。
【
図5B】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞外小胞反応後の細胞内活性酸素フリーラジカルの検出図である。
【
図5C】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞外小胞反応後の創傷治癒のイメージ図である。
【
図5D】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの細胞外小胞反応後の細胞遊走率を示す図である。
【
図6】本発明が提供するヒドロゲルが細胞外小胞及び細胞培養物を担持する説明図である。
【
図7】本発明が提供する糖尿病細胞モデルのヒドロゲルに担持された細胞外小胞で培養された後の細胞活性検出図である。
【
図8】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの培養後の指標因子発現量の検出図である。
【
図9A】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの培養後のmiRNA発現量分析図である。
【
図9B】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの培養後のmiRNA発現量分析図である。
【
図9C】本発明が提供する糖尿病細胞モデルの培養後のmiRNA発現量分析図である。
【
図10】本発明が提供する糖尿病動物モデルの創傷修復切片染色図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使用される「細胞外小胞(extracellular vesicles,EV)」は、細胞によって細胞外空間に分泌される二重層脂質小胞を意味する。細胞外小胞は、エクソソーム及び微小胞を含み、新たな細胞間通信の方法として、近年の生理学、病理学、ナノサイエンス等の新しい研究分野となっている。細胞外小胞は、細胞によって分泌される高度な異質性を有する小胞様体であり、その内容物は、タンパク質、mRNA/miRNA、DNA、脂質などを含み、それらは、その生物の発生、放出経路、サイズ、が入寮及び機能に基づいて分類を行い、精製方法は、粒径サイズに応じて区別される。
【0013】
以下では、明細書、図面及び具体的実施例を組み合わせて本発明を説明するが、実施例は、本発明に対して如何なる形式的限定もするものではない。特に明記しない限り、本発明で使用される試薬、方法及び装置は、本技術分野における従来の試薬、方法及び装置である。
【0014】
本発明は、ケイ酸塩によって幹細胞からケイ酸塩誘導細胞外小胞(CSEV)の分泌を誘導する。ここで、前記幹細胞は、好ましくはヒト幹細胞であり、前記ヒト幹細胞は、ヒト脂肪幹細胞(human adipose-derived stem cells, ADSCs)、骨髄幹細胞(Bone Marrow-Derived Stem Cells, BMSCs)、歯髄幹細胞(dental pulp stem cells, DPSC)、又はウォートンゼリーMSC(Wharton’s jelly MSC, WJMSC)等を選択的に含むが、ここでは限定されない。
【0015】
本実施例では、後述するように、ヒト脂肪由来幹細胞(human adipose-derived stem cells,ADSCs)がケイ酸塩誘導性細胞外小胞の分泌のソース細胞として使用される。ケイ酸成分を含むケイ酸培地を添加して前記ヒト幹細胞(human stem cells)を培養し、前記ヒト脂肪由来幹細胞(human adipose-derived stem cells,ADSCs)に前記細胞外小胞を分泌するように誘導し、ケイ酸塩培地によって誘導した後に分泌される細胞外小胞は、ここでは、更に前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)として定義される。
【0016】
ここで、前記ヒト脂肪幹細胞(human adipose-derived stem cells,ADSCs)の培養方法は特に限定されず、前記ヒト脂肪幹細胞(human adipose-derived stem cells,ADSCs)を培養して前記ケイ酸誘導性細胞(CSEV)を取得できる如何なる方式も本発明の請求範囲に含まれる。
【0017】
ここで、前記ケイ酸塩とは、ケイ素と酸素から構成されるケイ酸化合物(SixOy)を指す。前記ケイ酸化合物は、さらに、1つ以上の金属又は水素を含む。本実施例では、ケイ酸塩は、ケイ酸カルシウム(Calcium silicate)である。
【0018】
ここで、前記ケイ酸塩を添加して前記ヒト脂肪幹細胞を培養するために使用される培地は限定されず、間葉系幹細胞培地(mesenchymal stem cell medium, MSCM,ScienCell Research Laboratories)、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium,DMEM)又は他のよく見られる細胞を培養するための培地であってよく、何れも本発明の範囲に含まれる。
【0019】
さらに、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を培養するステップは、以下を含む。
【0020】
ステップS1-1では、前記ケイ酸塩培地を準備する。1gのケイ酸カルシウムを取り、10~100mlの間葉系幹細胞培地(mesenchymal stem cell medium, MSCM)に加え、少なくとも24時間浸漬し、清澄液を収集して前記ケイ酸塩培地に調製する。
【0021】
ここで、前記清澄液の収集は、濾過又は遠心分離等によって行うことができる。
【0022】
ここで、前記少なくとも24時間浸漬するステップにおいて、間葉系幹細胞培養培地中のケイ酸カルシウムの反応を促進するための温度環境又は振盪台を同時に提供することができる。
【0023】
図1を参照し、更に誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry, ICP-MS)技術を使用して、ケイ酸カルシウムを添加した場合の前記間葉系幹細胞培地中のカルシウムイオンとシリコンイオンの含有量の変化を分析する。0日目には、前記間葉系幹細胞培地に前記ケイ酸カルシウムが添加されているため、カルシウムイオンの放出が顕著にみられ、前記ケイ酸カルシウムが間葉系幹細胞培地中で24時間反応して前記ケイ酸塩培地に調製された後、前記ケイ酸塩培地の調製によってカルシウムイオンとケイ素イオンの含有量が明確に測定され、間葉系幹細胞培地中でのケイ酸カルシウムの反応の有効性が実証される。
【0024】
ステップS1-2では、前記ヒト脂肪幹細胞(ADSCs)を前記ケイ酸塩培地で培養し、37℃で5%のCO2を含む細胞培養インキュベータで培養する。
【0025】
ここで、前記ヒト脂肪幹細胞(ADSCs)は、前記間葉系幹細胞培地を充填したT175培養ボトル中で培養することができる。また、前記間葉系幹細胞培地中の前記ケイ酸塩培地の濃度は5~50%である。
【0026】
図2を参照し、前記ケイ酸塩培地で培養された前記ヒト脂肪幹細胞(ADSCs)を細胞培養実施例としてさらに定義する。細胞培養の比較例として、前記間葉系幹細胞培地で前記ヒト脂肪幹細胞(ADSCs)を培養する。細胞活性を通じて細胞の増殖効果を検出することにより、前記ケイ酸塩培地で培養された前記ヒト脂肪幹細胞(ADSCs)は、第3日目から細胞数量が前記細胞培養比較例よりも明らかに多くなっており、前記ヒト脂肪幹細胞(ADSCs)は、前記ケイ酸塩培地で培養した後に細胞増殖効果を発生すると推定できる。
【0027】
ここで、前記細胞活性は、MTT assay,PrestroBlue assaymatahaAlamar Blue assay等によって、蛍光又は吸光値(absorbance)を検出することで細胞生存率及び増殖効果を分析することができる。本実施例では、細胞活性検出は、PrestroBlue assayを使用して達成される。
【0028】
ステップS1-3では、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を分離する。培養した前記ヒト脂肪幹細胞(ADSCs)を前記ケイ酸塩培地とともに収集し、1500gで5分間遠心分離し、形成された第1上清液を収集する。次に、孔径0.22ミクロン(μm)の条件で前記第1上清液を濾過した後、濃縮遠心管(Amicon(R)Ultra‐15CentrifugalFilterUnit、Merck)に入れ、遠心条件5000重力加速度(g)で15分間遠心分離し、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)は形成された第2上清液中に残る。次に、前記第2上清液を収集し、ポリマー沈殿法の原理によって高分子量ポリエチレングリコールが遊離した水分子と競争して疎水性タンパク質及び脂質分子と結合できる特性を利用し、溶解度が小さい前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を前記第2上清液から沈殿させて析出する。最後に、1500gで30~40分間遠心分離して上清液を除去し、リン酸緩衝食塩水(Phosphate buffered saline,PBS)に再溶解して、沈殿させて析出した高純度の前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を取得することができる。
【0029】
実験1:前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の性質の分析
本発明は、更に、収集した前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)と、比較例で培養後に得られた通常の細胞外小胞(EV)をもってタンパク質発現量、膜表面の電気的特性及び粒径サイズについて比較分析し、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の外観の表面特徴及び各細胞の生理学的データを鑑定する。
【0030】
図3Aでは、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope,TEM)を使用して、前記通常の細胞外小胞(EV)と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の粒径サイズに大きな違いがないことを観察し、2つの表面特徴が類似していることが確認できる。
【0031】
図3Bでは、ナノ粒子追跡分析(nanoparticle tracking analysis , NTA)を使用して、前記通常の細胞外小胞(EV)と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の粒径が同等であるかどうかを確認し、さらに、前記通常の細胞外小胞の濃度(EV)と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の濃度が類似しているかを検出することもできる。前記通常の細胞外小胞(EV)と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)が何れも前記細胞外小胞に属することが実証される。
【0032】
図3Cでは、本発明は、前記通常の細胞外小胞(EV)と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の膜表面電位を測定し、結果の比較から、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の膜表面電位が何れも-20mVよりも低く、好ましくは‐25~‐30mVの間であり、その負の値の程度が前記通常の細胞外小胞(EV)よりもはるかに大きいことが分かる。
【0033】
図3D~
図3Hでは、本発明は、更にウェスタンブロット法(western blot)によって前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)のタンパク質の総含有量と複数の細胞外小胞マーカータンパク質(marker)の発現量を分析し、ここで、前記マーカータンパク質は、膜貫通タンパク質CD9、CD63、及びCD81、及び膜内タンパク質Alix、TSG101、及びHSP70を含む。
【0034】
この結果から、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)のタンパク質の総含有量は4μg/109よりも高く、前記通常の細胞外小胞(EV)よりも顕著に高いことが分かる。
【0035】
尚、40%以上の前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)において、特異的結合、エンドサイトーシス、及び薬物送達等に重要な役割を果たす膜貫通タンパク質CD9、CD63、及びCD81を示していることは注目に値する(
図3E~
図3G)。
【0036】
上記の検出結果から、前記ケイ酸塩培養培地によって誘導された後にヒト脂肪幹細胞(ADSCs)によって分泌される前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)は、表面電位、タンパク質の総量及び膜貫通タンパク質の含有量が何れも顕著に向上しており、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)受容細胞がエンドサイトーシスを行う親和性を向上させるのに役立つことが分かる。
【0037】
前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)が細胞の増殖、修復及び抗炎症等に影響を与えるかどうかを確認するために、本発明は、更に、創傷治癒、細胞の増殖、修復の研究に一般的に使用される糖尿病細胞モデルを試験ターゲットとした。
【0038】
ここで、糖尿病細胞モデルの構築は、文献の実験ステップ方法を参考とし、ヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDF)を高グルコース培地(High Glucose DMEM, HDMEM)中で培養し、前記ヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblasts; HDF)を誘導することにより、糖尿病患者の細胞の生理学的特徴をシミュレートする。ここで、前記高グルコース培地(High Glucose DMEM, HDMEM)において、グルコースの濃度は、13.5~25mMの間である。
【0039】
図4A及び
図4Bに示すように、前記ヒト皮膚線維芽細胞の前記高グルコース培地によって前記グルコースの上昇及び日数の増加に伴って、前記ヒト皮膚線維芽細胞の増殖効果が減少する。
図4Bは、前記グルコース濃度25mMの前記高グルコース培地(High Glucose DMEM, HDMEM)で培養した前記ヒト皮膚線維芽細胞群(HG)と、一般培地で培養したヒト皮膚線維芽細胞群(NG)をもって細胞内の活性酸素(reactive oxygen species, ROS)濃度測定を行い、炎症反応の指標とする。前記高グルコース培地(High Glucose DMEM, HDMEM)で培養した前記ヒト皮膚線維芽細胞群(HG)の活性酸素フリーラジカル性能は、一般的な培地で培養した前記ヒト皮膚線維芽細胞群(NG)よりも顕著に高いことが分かる。上述の細胞増殖効果の減少と細胞内活性酸素(reactive oxygen species, ROS)フリーラジカル性能の向上は、前記糖尿病細胞モデルの主な生理学的指標とみなすことができ、本発明は、前記グルコース濃度25mMの高グルコース培地(High Glucose DMEM, HDMEM)で培養した前記糖尿病細胞モデルをもって後続の実験説明を行う。
【0040】
実験1、糖尿病細胞モデルと前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞の親和性試験。糖尿病細胞モデルを通常の細胞外小胞と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞でそれぞれ処理し、それぞれ24時間及び48時間で処理した時に糖尿病細胞モデルの前記通常の細胞外小胞又は前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞に対するエンドサイトーシス効果を分析する。ここで、前記通常の細胞外小胞で処理した群を対照群(EV)とし、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞で処理した群を実験群(CSEV)とする。
【0041】
図4Cでは、糖尿病細胞モデルの細胞内範囲は、赤色蛍光標識アクチン(F-actin)によって定義でき、前記通常の細胞外小胞及び/又は前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞は、緑色蛍光によって標識され、青色蛍光は、細胞核を標識することに用いられる。この結果から、前記通常の細胞外小胞及び/又は前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を示す緑色蛍光が何れも赤色蛍光によって限定される細胞内範囲に分布していることが分かり、前記通常の細胞外小胞(EV)及び/又は前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)が確かにエンドサイトーシスによって糖尿病細胞モデルに侵入したことを実証することができる。
【0042】
前記実験群と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞との反応を24時間までさらに観察したところ、前記糖尿病細胞モデルにおける前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞の蛍光性能が前記対照群よりも顕著に高くなっており、48時間では、前記対照群(EV)と実験群(CSEV)の緑色蛍光の性能の差異が更に顕著になっている。緑色蛍光の蛍光輝度を検出し、それを
図4Dに数値で示すことにより、前記実験群(CSEV)と前記対照群(EV)の前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞の48時間後の含有量の差を明確に比較することもできる。
【0043】
更に、前記糖尿病細胞モデルが前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞との共培養を経た後の細胞増殖の効果を確認する。
図5Aでは、細胞生存率の検出により、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞と共培養した前記糖尿病モデル細胞(実験群CSEV)が第3日目より細胞数が、如何なる処理もしていない第1対照群(Ctl)及び前記通常の細胞外小胞と共培養した第2対照群(EV)よりも顕著に多くなっていることが分かる。ここで、更に共培養7日目以降に顕著な差異が生じている。このことから、前記糖尿病細胞モデルは、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)との共培養処理後に細胞増殖効果を発生していることが分かる。
【0044】
図5Bは、第1対照群(Ctl)、第2対照群(EV)及び実験群(CSEV)細胞内活性酸素(reactive oxygen species, ROS)フリーラジカル濃度測定を行っており、炎症反応の指標としている。結果から、前記糖尿病細胞モデルが前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞との共培養処理を経た後の前記実験群(CSEV)における細胞内活性酸素フリーラジカルの性能が、前記第1対照群(Ctl)及び第2対照群(EV)の性能よりも顕著に低いことが分かる。
【0045】
図5Cは、第1対照群(Ctl)、第2対照群(EV)及び実験群(CSEV)に対して創傷治癒測定(Wound healing assay)を行い、各群の細胞単層上にスクラッチを生成し、それぞれ0時間及び24時間において顕微鏡で細胞画像を取得し、細胞遊走の効果を確認し、創傷治癒の評価指標とする。この結果から、前記実験群(CSEV)がスクラッチして24時間の細胞画像において、細胞がスクラッチ領域に均一に分布していることが分かる。前記スクラッチの単位面積における細胞被覆率をもって細胞遊走率にデータ換算した(
図5D)後にも前記糖尿病細胞モデルが前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞との共培養を経た後の細胞遊走の効果が前記第1対照群(Ctl)及び第2対照群(EV)よりも顕著に優れていることが分かる。
【0046】
上記の実験結果を通じて、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞が細胞増殖、細胞修復を促進し、抗炎症因子の発生を減少させることができることを予備的に確認することができる。
【0047】
更に、本発明は、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を担持する担体としてヒドロゲルを使用し、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を含有する製剤を更に提供する。
【0048】
ここで、前記ヒドロゲルは、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸又はキトサン等の材料によって架橋して形成される三次元網目構造であってよい。
【0049】
ここで、前記架橋は、物理的架橋であっても化学的架橋であってもよい。前記物理的架橋は、ファンデルワールス力、イオン引力、ポリマー鎖の絡み合い等の原理によって達成できるが、前記化学的架橋は、共有結合の原理によって実現できる。本実施例では、後続の実施例で説明するように、ヒドロゲルはコラーゲンで形成される。
【0050】
ここで、前記ヒドロゲルの前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を担持する方法は限定されないが、本実施例では、5×109個の前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を無菌の1mlの前記ヒドロゲルに混合して混合液を形成し、前記混合液50μLを培養皿に取り、37℃で30分間反応させてゲル化反応を行っている。
【0051】
ここで、更に、光増感剤を添加することにより、光硬化技術により、前記混合液にゲル化反応を行わせることができる。
【0052】
実験2では、前記ヒドロゲルが前記通常の細胞外小胞及び前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を担持した後の放出効果を比較する。前記通常の細胞外小胞と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞をそれぞれヒドロゲルでゲル化反応した後、培養用PBSに添加し、それぞれ0、1、2、3、5、7、10、14時間培養した後に培養皿内に液体を抽出し、その液体中の前記細胞外小胞の数をNTAで測定し、前記細胞外小胞の放出量を推定する。ケイ酸塩によって分泌される前記ケイ酸塩誘発細胞外小胞は、前記ヒドロゲル中での放出速度に影響を与えないことが確認できる。
【0053】
実験3では、前記ヒドロゲルが前記通常の細胞外小胞及び前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を担持した後の前記糖尿病細胞モデルの増殖に対する影響を比較する。
図6及び
図7を参照し、先ず、前記ヒドロゲルが担持した後の前記通常の細胞外小胞と前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を培養皿内で固化させ、次に前記糖尿病細胞モデルを10000個/孔の数量で硬化後に前記通常の細胞外小胞及び/又は前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を担持した前記ヒドロゲル上で培養し、前記無血清DMEMを加えて培養し、それぞれステップ1、3、7日目に細胞増殖率の分析を行っている。ここで、前記ヒドロゲルの群を第1対照群(Ctl)とし、前記ヒドロゲルが前記通常の細胞外小胞を担持したものを第2対照群(EV)とし、前記ヒドロゲルが前記ケイ酸塩誘導細胞を担持したものを前記実験群(CSEV)とする。
【0054】
図7の結果から、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を担持した前記ヒドロゲル(CSEV)を用いて培養した前記糖尿病モデル細胞の細胞数が、3日目より、前記第1対照群(Ctl)及び前記第2対照群よりも多くなっている。ここで、更に培養7日目以降では、顕著な差異が発生している。この結果は、実験1の
図5Aの結果と互いに呼応することができ、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)が前記糖尿病細胞モデルの細胞増殖を誘導できる効果が実証されている。
【0055】
実験4では、前記ヒドロゲルが前記通常の細胞外小胞及び前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)を担持した後の前記糖尿病細胞モデルにおける各指標因子の発現量に対する影響を比較する。ここで、各前記指標因子は、炎症関連因子TNG-alpha、IL-1及びIL-6;組織再生関連因子ColI、Angiogenin、EGF、FGF‐2及びPDGF‐BB;抗炎症関連因子IL‐8及びIL‐10;及び創傷治癒の指標としてのコラーゲン因子(ColI)を含む。
【0056】
前記糖尿病モデルの細胞は、それぞれ前記ヒドロゲルに培養したものを第1対照群(Ctl)とし、前記通常の細胞外小胞を担持したヒドロゲルを第2対照群(EV)とし、前記ケイ酸誘導性細胞外小胞を担持したヒドロゲルを実験群(CSEV)とし、細胞を収集し、タンパク質を抽出した後に定量を行い、各郡において20μgのタンパク量を取り出し、サイトカインアレイ(Cytokine array)技術を使用して前記第1対照群(Ctl)をもって各前記指標因子の発現量を基準値として前記第2対照群(EV)と前記実験群(CSEV)を分析した。
【0057】
図8の結果は、前記第2対照群(EV)と比較して、実験群(CSEV)によって培養された前記糖尿病細胞モデルにおける炎症関連因子TNG‐α、IL‐1、及びIL‐6の発現量が顕著に低下していることを示している。組織再生を補助する関連因子ColI、Angiogenin、EGF、FGF‐2及びPDGF‐BBの発現も向上し、抗炎症を補助する関連因子IL‐8及びIL‐10の発現も向上し、創傷治癒を補助するコラーゲン因子(ColI)の発現も向上している。この結果から、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)は、前記糖尿病モデル細胞において抗炎症、組織再生及び細胞修復等の指標因子の発現を誘導できると結論付けることができる。
【0058】
更に、RNAシーケンス(RNA sequencing)によって第1対照群(Ctl)及び実験群(CSEV)で培養した前記糖尿病モデル細胞のmiRNAの発現を比較し、RNAiso(TaKaRa、japan)を使用してmiRNAを分子した後、上海OEBiotechCo.,Ltd.によって後続の配列分析を完成する。miR-Basev.21データベース(http://www.mirbase.org/)を通じて、血管新生(Angiogenesis)、抗炎症(Anti-inflammation)及び創傷治癒(Wound healing)に寄与するmiRNAを比較して鑑定する。R言語の差異発現分析(DEG)アルゴリズムを使用して、顕著な差異を有するmiRNA(p<0.05)を計算し、各群に対して3回の独立した反復実験を実行している。次に、miRandaソフトウェアを使用して、パラメータS≧150、ΔG≦‐30kcal/mol、及び5’因子ペアを使用して、動物で有意に発現されたmiRNAのターゲットを予測する。続いて、Gene ontology(GO)及びKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)法を使用して、異なるmiRNAターゲットの遺伝子位置を分析している。
【0059】
データのlog2 fold change変化を分析することにより、正規化された信号値の間の比値が得られ、
図9A~
図9cにおいて、実験群(CSEV)によって培養された前記糖尿病モデル細胞の第1対照群(Ctl)の各前記miRNAに対する発現を比較する。実験群(CSEV)によって培養された前記糖尿病モデル細胞における血管新生(Angiogenesis)、抗炎症(Anti‐inflammation)及び細胞修復(Wound healing)時の指標miRNA‐31は、何れも顕著な発現を有し、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)が前記糖尿病モデル細胞において抗炎症、組織再生及び細胞修復等の指標遺伝子(miRNA)の発現を誘導できることが実証される。
【0060】
ここで、糖尿病動物モデルの確立は、文献の実験ステップ方法を参考とし、化学製剤アロキサン一水和物(alloxan monohydrate)によって実験動物に糖尿病の発生を誘導する。アロキサン誘導性糖尿病の原理は、膵臓でインスリンを分泌するbata細胞を選択的に破壊し、インスリン含有量を減少させることである。使用したアロキサン一水和物(alloxan monohydrate,≧98%,Sigma AldrichChemical, Saint Louis,MO,USA)は粉末状である。空気に触れると劣化しやすいため、密閉して冷蔵庫に保存し、温度を2~8℃に維持する。薬剤の調製方法は、薬剤5.26gを滅菌生理食塩水100mlと混合して5%試薬(pH=7)を得て、0.22μmのフィルタでろ過し(以上のプロセスは氷上で操作する)、直ちに静脈内注射(用量:100mg/kg)を使用して採取する。血糖値を2日に1回測定し、目標は、その血糖値を実験全体の過程で常に300mg/dl以上にさせ、1週間未満の場合はアロキサン(alloxan)が投与される。
【0061】
実験5では、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)の糖尿病動物モデルの創傷修復に対する影響を比較する。糖尿病動物モデルの確立に成功した後、表皮に1.5cm2の創傷を形成し、創傷の深さが筋肉層に達し、悪性創傷モデルとする。
【0062】
如何なる処理もしていない群を第1対照群(Ctl)とし、ヒドロゲルのみを創傷被覆材として使用した群を第2対照群(Col)とし、前記ヒドロゲルが前記通常の細胞外輸送を担持して形成される創傷被覆材を第3対照群(Ev@Col)とし、前記ヒドロゲルが前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞を担持して形成される創傷被覆材を実験群(CSEV@Col)としている。治療開始後、第2及び第3週目に、創傷組織を創傷の縁に沿って除去し、10%のformalinで固定する。次にパラフィン包埋し、6μmの組織切片に形成し、ヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色及びシリウスレッド染色(Picrosirius red staining, PRS)を行う。H&E染色によって創傷上皮組織の厚さ、肉芽組織の量、及び成熟した皮膚が有するべき構造(毛包、皮脂腺等)を生成しているかを観察し、定量分析する。シリウスレッド染色によって、創傷箇所のコラーゲン線維の量及び配列パターンを比較し、創傷組織の修復状態を評価することができる。
【0063】
図10に示すように、実験群(CSEV@Col)は、他の群と比較して、第2週目から、その創傷は完全に平坦になり、PRS染色では真皮層が皮膚線維芽細胞(dermal fibroblast)の増殖並びに創傷欠陥を埋めるコラーゲン線維を大量の分泌によって創傷箇所に現れる均一な分布(矢印Aで示す)を観察することができる。
【0064】
3週目では、PSR染色に筋肉層における筋肉テクスチャの完全な発現が観察される(矢印Bで示す)。H&E染色によって創傷組織の修復後に毛包が生成され、整然と配置されている(矢印Cで示す)ことがはっきりと観察できる。このことから、前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞(CSEV)が、糖尿病動物モデルの創傷組織における細胞増殖と創傷修復に寄与していることが証明される。
【0065】
以上の実験結果に基づいて、本発明が提供する前記ケイ酸塩誘導性細胞外小胞の材料は、極めて高い生物学的安全性を有し、創傷修復に寄与し、創傷治癒及び修復を促進する効果を達成できることが証明される。
【符号の説明】
【0066】
A 矢印
B 矢印
C 矢印