(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010080
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】縮合多環芳香族化合物、光電変換素子用材料、有機薄膜、及び有機光電変換素子
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20250109BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20250109BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20250109BHJP
H10K 30/40 20230101ALN20250109BHJP
【FI】
C07D495/04 101
H10K30/60
H10K85/60
H10K30/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106586
(22)【出願日】2024-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2023109698
(32)【優先日】2023-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青竹 達也
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 秀典
(72)【発明者】
【氏名】新見 一樹
【テーマコード(参考)】
3K107
5F149
【Fターム(参考)】
3K107AA03
5F149AA04
5F149AB11
5F149BA03
5F149BB03
5F149CB06
5F149DA30
5F149FA04
5F149FA05
5F149GA02
5F149LA02
5F149XA01
5F149XA43
(57)【要約】
【課題】応答速度に優れた有機光電変換素子の材料となる有機化合物、並びに該有機化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を含む有機光電変換素子を提供することを目的とする。
【解決手段】下記式(1)
(式中、R
1は置換もしくは無置換のベンゾチエニル基、又は置換もしくは無置換のベンゾフラニル基を表し、R
2及びR
3は各々独立して置換又は無置換の芳香族炭化水素基を表す。)
で表される縮合多環芳香族化合物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、R
1は置換もしくは無置換のベンゾチエニル基、又は置換もしくは無置換のベンゾフラニル基を表し、R
2及びR
3は各々独立して置換又は無置換の芳香族炭化水素基を表す。)
で表される縮合多環芳香族化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する光電変換素子用材料。
【請求項3】
請求項2に記載の光電変換素子用材料を含む有機薄膜。
【請求項4】
請求項2に記載の光電変換素子用材料又は請求項3に記載の有機薄膜を含む有機光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な縮合多環芳香族化合物とその用途に関する。更に詳しくは、本発明はベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン(以下、「BTBT」と略す)誘導体である縮合多環芳香族化合物、該化合物を含む光電変換素子用材料及び有機薄膜並びに該有機薄膜を含む有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクスデバイスは、原材料に希少金属などを含まないため安定供給が可能であると共に、無機材料には無い屈曲性を有することや湿式成膜法によって製造可能なことから、近年盛んに研究開発がなされている。有機エレクトロニクスデバイスの具体例としては、有機EL素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子及び有機トランジスタ素子等が挙げられ、これら以外にもデバイスとしての性能は勿論のこと、有機化合物の特色を活かした様々な用途が検討されている。
【0003】
上記デバイスのうち、有機光電変換素子は光センサ等に利用されており、例えば撮像素子に用いることが検討されているが(特許文献1)、撮像素子には動体を捉えるための応答速度が求められている(特許文献2)。
【0004】
この要求を満たすために、有機半導体材料として高い移動度を示すことが知られているBTBT系の化合物を光電変換素子に用いることが検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2022/114065
【特許文献2】特開2013-012535号公報
【特許文献3】WO2016/185858
【特許文献4】WO2018/016465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでに報告されているBTBT系の化合物を用いた光電変換素子では、実用上十分な応答速度が得られていなかった。また、特許文献4には、光電変換素子に用いることで明暗比に優れるBTBT系の化合物が報告されているが、応答性については記載がなく、本発明者らが評価したところ実用上十分な応答速度が得られないことが分かった。
【0007】
以上の状況を鑑み、本発明は、応答速度に優れた有機光電変換素子の材料となる縮合多環芳香族化合物、並びに該縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を含む有機光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定構造の新規の縮合多環芳香族化合物を用いることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の[1]~[4]に関する。
[1]下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1は置換もしくは無置換のベンゾチエニル基、又は置換もしくは無置換のベンゾフラニル基を表し、R
2及びR
3は各々独立して置換又は無置換の芳香族炭化水素基で表される縮合多環芳香族化合物。
[2][1]に記載の化合物を含有する光電変換素子用材料。
[3][2]に記載の光電変換素子用材料からなる有機薄膜。
[4][2]に記載の光電変換素子用材料、又は[3]に記載の有機薄膜を含む有機光電変換素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、応答速度に優れた有機光電変換素子の材料となる縮合多環芳香族化合物、並びに該縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を含む有機光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】有機光電変換素子の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。ここに記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づくものであるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。
【0012】
[縮合多環芳香族化合物]
本発明の化合物は下記式(1)で表される。
【化2】
【0013】
式(1)において、R
1は、置換もしくは無置換のベンゾチエニル基、又は置換もしくは無置換のベンゾフラニル基を表し、下記式(2)で表される。式(2)において、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表し、硫黄原子であることが好ましい。a~fから選択される1つの置換位置においてR
2と結合を形成する。R
2と結合を形成する置換位置はb、c、及びfが好ましく、c及びfがより好ましく、cがさらに好ましい。
【化3】
【0014】
ベンゾチエニル基又はベンゾフラニル基が置換基を有する場合、置換基としては、例えば、芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは、フェニル基、ナフチル基である。
【0015】
R2及びR3は各々独立して置換又は無置換の、2価の芳香族炭化水素基を表す。2価の芳香族炭化水素基は、芳香族化合物の芳香環から水素原子を2つ除いた2価の連結基である。2価の芳香族炭化水素基が置換基を有するとき、置換基は芳香族炭化水素基が好ましく、置換位置は特に限定されない。置換基としては、例えば、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。
【0016】
R
2及びR
3が表す2価の芳香族炭化水素基の具体例としては、ベンゼン、ビフェニル、テルフェニル、インデン、ナフタレン、アントラセン、フルオレン及びフェナントレン等から選択される芳香族有機化合物から水素原子を2つ除いた連結基が挙げられる。2価の芳香族炭化水素基は、ベンゼン、ビフェニル、及びナフタレンから選択される芳香族有機化合物から水素原子を2つ除いた連結基であることが好ましく、これらの連結基は下記式(3)で表される置換位置で結合を形成することが好ましい。
【化4】
【0017】
式(1)中のR3と結合するチオフェン環は、結合していない3つの炭素原子が置換基をもつことが可能であるが、置換基を有さないことが好ましい。式(1)中のR3と結合するチオフェン環は、これ以上の縮環構造をもたない。
【0018】
式(1)で表される縮合多環芳香族化合物は、公知の方法で合成した下記式(A)で表されるジハロゲン化BTBT(2,7-ジハロゲノベンゾ[b]ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-b]チオフェン)に、下記式(B)及び式(C)で表されるボロン酸エステル誘導体をカップリング反応させた後、例えば昇華精製で目的とする化合物を取り出すことにより得ることができる。
【0019】
【0020】
式(A)中のX1及びX2はハロゲン原子を表わす。式(B)及び式(C)中のR1、R2、及びR3は式(1)におけるR1、R2、及びR3とそれぞれ同じ意味を表す。
【0021】
式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の精製方法は、特に限定されず、再結晶、カラムクロマトグラフィー、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
【0022】
式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の具体例を以下に示すが、これらの具体例に限定されない。
【0023】
【0024】
[光電変換素子用材料]
光電変換素子用材料は、式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する。光電変換素子用材料は、本発明の効果を損なわない範囲であれば式(1)で表される縮合多環芳香族化合物以外の成分を含有しても構わないが、式(1)で表される縮合多環芳香族化合物のみを含有することが好ましい。光電変換素子用材料における式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。式(1)で表される縮合多環芳香族化合物に併用し得るその他の成分は特に限定されない。
なお、光電変換素子用材料には、式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を1種単独又は複数種の組み合わせを含有させることができる。
式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する光電変換素子用材料は、光電変換素子の正孔輸送性材料として用いることにより、応答速度に優れた光電変換素子を実現することができる。
【0025】
[有機薄膜]
有機薄膜は、上記光電変換素子用材料を含む。有機薄膜の膜厚は、その用途により選択すればよいが、通常1nmから1μm、好ましくは5nmから500nm、より好ましくは10nmから500nmである。有機薄膜の形成方法は、蒸着法などのドライプロセス(光電変換素子用材料をそのまま用いる方法)や種々の溶液プロセス(光電変換素子用材料を有機溶媒等に溶解及び/又は分散した溶液を用いる方法)などが挙げられる。溶液プロセスとしては、例えば、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、スクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、並びにこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。溶液プロセスで成膜する場合、上記の塗布又は印刷を行った後、溶媒を蒸発させて薄膜を形成することが好ましい。
【0026】
[有機光電変換素子]
有機光電変換素子は、有機半導体材料と電極等から構成される素子であり、光を電気に変換する素子である。
図1は、有機光電変換素子の一例を示す。有機光電変換素子10は、基板1、第1の電極2、電子ブロック層3、光電変換層4、正孔ブロック層5、及び第2の電極6を、この順に備える。有機光電変換素子10は、電子ブロック層3及び光電変換層4の両方又は一方に、正孔輸送性材料として上記光電変換素子用材料を含む有機薄膜を有することを特徴とする。本発明の有機光電変換素子は、
図1の構造に限定されるものではなく、必要に応じて層を追加又は省略することが可能である。
図1に示す有機光電変換素子は、例えば撮像用の有機光電変換素子として使用することができる。
【0027】
-基板1-
基板1は、有機光電変換素子10を支持する部材である。基板1の材質に特に制限はなく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英などからなるものを用いることができる。なお、
図1における第2の電極6側から光が入射する場合は、基板1は必ずしも透明性を有するものでなくてもよい。ここで、「透明性を有する」は、電流に変換すべき特定波長の光の透過率に優れることを意味する。また、第2の電極6の外側に基板がさらに配置されていてもよいが、基板1と第2の電極6の外側の基板の少なくとも一方が、透明性を有するものであることが必要である。
【0028】
-第1の電極2、第2の電極6-
第1の電極2及び第2の電極6は、光電変換層4で生成する正孔及び電子を捕集する機能を有する。光を光電変換層4に入射させる機能も必要となるため、第1の電極2と第2の電極6の少なくとも一方は透明性を有する必要がある。第1の電極2及び第2の電極6の材料は導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ITO、IZO、SnO2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO2及びFTO等の導電性透明材料、金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属、ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマーなどが例示できる。第1の電極2及び第2の電極6は、必要によりこれらの材料の複数種の混合物を含有してもよく、また、2層以上を積層したものであってもよい。
【0029】
-電子ブロック層3-
電子ブロック層3は、2枚の電極の間にバイアス電圧を印加した際に、片方の電極から光電変換層4に電子が注入されることにより生じる暗電流を抑制するために設けられている。また、光電変換層4での電荷分離により生じる正孔を電極に輸送する正孔輸送としての機能も有している。電子ブロック層3は、必要に応じて単層又は複数層を配置されることができる。
【0030】
電子ブロック層3は、正孔輸送性材料であるP型有機半導体材料を含むことができる。
P型有機半導体材料としては、上記式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する
光電変換素子用材料が好ましいが、他のP型有機半導体材料であってもよい。
【0031】
他のP型有機半導体材料としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合多環芳香族基を有する化合物、シクロペンタジエン誘導体、フラン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体などのπ電子過剰系芳香族基を有する化合物、並びに芳香族アミン誘導体、スチリルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、及びキナクリドン誘導体を用いることができる。
【0032】
-光電変換層4-
光電変換層4は、入射光により生成した励起子の電荷分離により正孔と電子が生成する層である。光電変換層4は、光電変換材料のみで形成されてもよいが、正孔輸送性材料であるP型有機半導体材料や、電子輸送性材料であるN型有機半導体材料と組み合わせて形成されてもよい。また、2種以上のP型有機半導体材料を用いてもよく、2種以上のN型有機半導体材料を用いてもよい。光電変換層4に含有される光電変換材料、P型有機半導体材料及びN型有機半導体材料の1種以上は、可視領域における所望の波長の光を吸収する機能を有する色素材料を含むことが望ましい。正孔輸送性材料であるP型有機半導体材料として式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含有する光電変換素子用材料を用いるのが好ましい態様である。
【0033】
光電変換材料としては、入射光により励起子が発生する材料であればよく、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合多環芳香族基を有する化合物、シクロペンタジエン誘導体、フラン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体などのπ電子過剰系芳香族基を有する化合物、芳香族アミン誘導体、スチリルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体を用いることができる。入射光の利用効率の観点から吸光係数が高い材料が好ましく、例えば、ピロメテン誘導体、ポルフィリン誘導体、サブポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピロール誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体、及び芳香族アミン誘導体などを用いることができる。
【0034】
P型有機半導体材料として上記光電変換素子用材料を用いる場合には、他のP型有機半導体材料と組み合わせて使用してもよく、また、上記光電変換素子用材料を2種以上使用してもよい。
他のP型有機半導体材料としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合多環芳香族基を有する化合物、シクロペンタジエン誘導体、フラン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体などのπ電子過剰系芳香族基を有する化合物、芳香族アミン誘導体、スチリルアミン誘導体、ベンジジン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、及びキナクリドン誘導体を用いることができる。
また、高分子型P型有機半導体材料としては、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体を例示できる。また、高分子型P型有機半導体材料と共に、本発明の光電変換素子用材料や非高分子型のP型有機半導体材料を混合してもよく、高分子型P型有機半導体材料を2種以上混合して用いてもよい。
【0035】
N型有機半導体材料としては、電子輸送性を有する材料であればよく、例えば、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、フラーレン類、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体などが例示でき、これらのN型有機半導体材料から選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0036】
-正孔ブロック層5-
正孔ブロック層5は、2枚の電極の間にバイアス電圧を印加した際に、片方の電極から光電変換層4に正孔が注入されることにより生じる暗電流を抑制するために設けられている。また、正孔ブロック層5は、光電変換層4での電荷分離により生じる電子を電極に輸送する電子輸送としての機能も有している。正孔ブロック層5は、必要に応じて単層又は複数層を有することができる。正孔ブロック層5には、電子輸送性を有するN型有機半導体材料を用いることができる。
N型有機半導体材料としては、電子輸送性を有する材料であればよく、例えば、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドやペリレンテトラカルボン酸ジイミドの如き多環芳香族多価カルボン酸無水物やそのイミド化物、C60やC70等のフラーレン類、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、ビピリジン誘導体、キノリン誘導体、インドロカルバゾール誘導体などが例示でき、これらのN型有機半導体材料から選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0037】
有機光電変換素子10は、太陽電池、光センサ、撮像素子、フォトカウンター、及び
LIDAR等に用いることができる。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中の「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。
【0039】
[実施例1:No.1の縮合多環芳香族化合物の合成]
DMF(200部)に、特許第4945757号に記載の方法で合成したジヨードBTBT(4.9部)、公知の手法で合成した下記式(A-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.4部)、公知の手法で合成した下記式(B-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.2部)、リン酸三カリウム(6.3部)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.58部)を加え、窒素雰囲気下、80℃で5時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、水を加え、生成した固体をろ取した。得られた固体をアセトンで洗浄後乾燥し昇華精製することで、具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物(1.0部、収率20%)を黄色固体として得た。
【0040】
【0041】
[実施例2:No.2の縮合多環芳香族化合物の合成]
式(B-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.2部)を、公知の手法で合成した下記式(B-2)で表されるピナコールボレート誘導体(3.7部)に変更した以外は実施例1と同じ手順で、具体例のNo.2で表される縮合多環芳香族化合物(1.2部、収率24%)を得た。
【0042】
【0043】
[実施例3:No.9の縮合多環芳香族化合物の合成]
式(A-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.4部)を、公知の手法で合成した下記式(A-2)で表されるピナコールボレート誘導体(3.4部)に変更し、式(B-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.2部)を、公知の手法で合成した下記式(B-3)で表されるピナコールボレート誘導体(3.4部)に変更した以外は実施例1と同じ手順で、具体例のNo.9で表される縮合多環芳香族化合物(1.2部、収率24%)を得た。
【0044】
【0045】
[実施例4:光電変換素子Aの作製]
膜厚70nmのITOからなる電極が形成されたガラス基板上に、電子ブロック層として、基板温度室温、真空度4.0×10-5Paの条件でCzBDF(東京化成社製)を10nmの厚さに成膜した。次いで、光電変換層として、実施例1で得られた具体例のNo.1で表される化合物、Cl6-SubPc-OPh(Lumitec社製)及びフラーレン(C60、東京化成社製)を蒸着速度比4:4:2で共蒸着し、厚さ230nmの有機薄膜を成膜した。引き続き、一般に入手可能なdpy-NDI(東京化成社製)を10nm蒸着し、正孔ブロック層を形成した。最後に、電極としてアルミニウムを100nmの厚さに成膜して、光電変換素子Aを作製した。
【0046】
【0047】
[実施例5:光電変換素子Bの作製]
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される化合物の代わりに、実施例2で得られたNo.2の化合物を使用したこと以外は実施例4と同じ操作によって、光電変換素子Bを作製した。
【0048】
[実施例6:光電変換素子Cの作製]
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される化合物の代わりに、実施例3で得られたNo.9の化合物を使用したこと以外は実施例4と同じ操作によって、光電変換素子Cを作製した。
【0049】
[比較例1:光電変換素子Dの作製]
式(A-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.4部)及び式(B-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.2部)に代えて、式(A-1)で表されるピナコールボレート誘導体 (6.6部)を用いた以外は、実施例1と同じ手順で、No.C1で表される化合物(3.3部、50%)を得た。
【0050】
【0051】
No.1で表される化合物の代わりに、No.C1で表される化合物を使用したこと以外は実施例4と同じ操作によって、光電変換素子Dを作製した。
【0052】
[比較例2:光電変換素子Eの作製]
式(A-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.4部)及び式(B-1)で表されるピナコールボレート誘導体(3.2部)に代えて、式(B-1)で表されるピナコールボレート誘導体 (6.6部)を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、No.C2で表される化合物(3.0部、45%)を得た。
【0053】
【0054】
No.1で表される化合物の代わりに、No.C2で表される化合物を使用したこと以外は実施例4と同じ操作によって光電変換素子Eを作製した。
【0055】
(有機光電変換素子の評価)
(a)外部量子効率(EQE)評価
WO2018/105269の実施例を基にEQEの評価を実施した。得られた光電変換素子A~Dを用いて、以下の動作確認の評価を実施した。
具体的には、光電変換素子に2.0×105V/cmの強度になるように電圧を印加し、550nmにおける光電変換の外部量子効率(入射光子が出力電子に変換された効率、以下「光電変換効率」ともいう。)を測定した。
この結果、得られた光電変換素子はいずれも70%以上のEQEを示し、光電変換素子として十分に機能していることを確認した。
【0056】
(b)応答性の評価
WO2018/105269の実施例を基に応答性の評価を実施した。
具体的には、得られた光電変換素子に2.0×105V/cmの強度となるように電圧を印加した。その後、LED(light emitting diode)を瞬間的に点灯させて透明導電性膜側である下部電極から光を照射し、そのときの光電流をオシロスコープで測定して、0から97%信号強度までの立ち上がり時間を計った。そして比較例1の立ち上がり時間を10としたときの相対値を求めた。結果を表1に示す。
なお、立ち上がり時間の相対値が比較例1に対して、5以下の場合を「A」、5超8以下の場合を「B」、8超10未満の場合を「C」、10以上の場合を「D」とした。
実用上、光電変換素子の光応答速度が速いことが好ましいため、「A」が最も優れており、「D」が最も劣っていることを意味する。
【0057】
【0058】
表1に示されるように、実施例4乃至6の光電変換素子は応答速度の評価が比較例1及び2の光電変換素子よりも優れていることが示された。