(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101003
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】レンズ装置及びそれを有する撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 7/08 20210101AFI20250630BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20250630BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20250630BHJP
G03B 7/091 20210101ALI20250630BHJP
G02B 7/28 20210101ALI20250630BHJP
H04N 23/50 20230101ALI20250630BHJP
H04N 23/65 20230101ALI20250630BHJP
【FI】
G02B7/08 C
G02B7/04 E
G02B7/02 E
G03B7/091
G02B7/28 Z
H04N23/50
H04N23/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217521
(22)【出願日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】関本 竜太
【テーマコード(参考)】
2H002
2H044
2H151
5C122
【Fターム(参考)】
2H002GA54
2H002GA55
2H002GA66
2H002HA06
2H044AE06
2H044BE00
2H044BE18
2H044DA01
2H044DA02
2H044DB02
2H044DC04
2H044DC06
2H044DC10
2H151FA44
2H151FA47
2H151FA76
5C122EA52
5C122FE02
5C122GE11
5C122HA82
5C122HB01
5C122HB06
(57)【要約】
【課題】全体の消費電力を増加させることなく複数のアクチュエータを同時駆動することが可能なレンズ装置を提供すること。
【解決手段】レンズ装置は、所定の軸に沿って第1の方向及び第1の方向とは反対の第2の方向へ移動可能な第1のレンズ群及び第2のレンズ群と、第1のレンズ群を移動させるための電力の第1上限値と第2のレンズ群を移動させるための電力の第2上限値を設定する制御手段と、姿勢の検出が可能な検出手段と、を有し、制御手段は、検出手段の検出結果に応じて、第1及び第2上限値の一方を増加させ、第1及び第2上限値の他方を減少させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸に沿って第1の方向及び前記第1の方向とは反対の第2の方向へ移動可能な第1のレンズ群及び第2のレンズ群と、
前記第1のレンズ群を移動させるための電力の第1上限値と前記第2のレンズ群を移動させるための電力の第2上限値を設定する制御手段と、
姿勢の検出が可能な検出手段と、を有し、
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じて、前記第1及び第2上限値の一方を増加させ、前記第1及び第2上限値の他方を減少させることを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1及び第2のレンズ群が互いに反対方向へ移動する場合、かつ前記第1のレンズ群の移動方向の鉛直成分が重力方向と同一方向である場合、前記第1上限値を前記第1のレンズ群の移動方向が水平方向である場合に設定される前記第1上限値である第1基準値よりも小さくなるように設定し、前記第2上限値を前記第2のレンズ群の移動方向が水平方向である場合に設定される前記第2上限値である第2基準値よりも大きくなるように設定することを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1基準値を補正することで得られる前記第1上限値を設定し、前記第2基準値を補正することで得られる前記第2上限値を設定することを特徴とする請求項2に記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1及び第2レンズ群の移動方向が鉛直方向に近づくほど、前記第1上限値と前記第1基準値との差分、及び前記第2上限値と前記第2基準値との差分が大きくなるように、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする請求項2に記載のレンズ装置。
【請求項5】
前記第1のレンズは、ズームレンズとフォーカスレンズの一方であり、
前記第2のレンズは、前記ズームレンズと前記フォーカスレンズの他方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の交換レンズ。
【請求項6】
前記制御手段は、ピント位置に応じて、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする請求項5に記載のレンズ装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ピント位置ごとの前記ズームレンズの位置に対する前記フォーカスレンズの位置に関するデータを用いて、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする請求項6に記載のレンズ装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記フォーカスレンズの移動が制限されている場合、前記フォーカスレンズを移動させるための電力の上限値を減少させ、前記ズームレンズを移動させるための電力の上限値を増加させることを特徴とする請求項5に記載のレンズ装置。
【請求項9】
前記制御手段は、姿勢ごとの前記第1及び第2レンズ群の消費電力の実測値に基づくデータを用いて、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ装置。
【請求項10】
所定の姿勢において前記第1及び第2上限値が設定されていない状態で前記第1及び第2レンズ群を移動させる場合、前記レンズ装置の消費電力は前記レンズ装置で使用可能な電力よりも大きくなることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のレンズ装置と、
該レンズ装置により形成された光学像を光電変換する撮像素子と、を有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ装置及びそれを有する撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ用の交換レンズに搭載された複数のアクチュエータは状況に応じて同時に駆動される場合があるが、カメラシステムが複数のアクチュエータに供給可能な電力は限られている。特許文献1には、フォーカスレンズの移動方向が水平方向に近ければ省電モードでフォーカスレンズを移動させ、フォーカスレンズの移動方向が鉛直方向に近ければ通常モードでフォーカスレンズを移動させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、消費電力が大きい通常モードであってもカメラシステムとして電力供給が不足しないことを前提としており、フォーカスレンズの移動方向が鉛直方向である場合の電力をどこから捻出するかについて記載されていない。十分な電力供給能力を持たないカメラシステムにおいて、複数のアクチュエータの同時駆動を行うと電力が不足する可能性がある。
【0005】
本発明は、全体の消費電力を増加させることなく複数のアクチュエータを同時駆動することが可能なレンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としてのレンズ装置は、所定の軸に沿って第1の方向及び第1の方向とは反対の第2の方向へ移動可能な第1のレンズ群及び第2のレンズ群と、第1のレンズ群を移動させるための電力の第1上限値と第2のレンズ群を移動させるための電力の第2上限値を設定する制御手段と、姿勢の検出が可能な検出手段と、を有し、制御手段は、検出手段の検出結果に応じて、第1及び第2上限値の一方を増加させ、第1及び第2上限値の他方を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、全体の消費電力を増加させることなく複数のアクチュエータを同時駆動することが可能なレンズ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るカメラシステムのブロック図である。
【
図2】カメラシステムの姿勢及び消費電力の説明図である。
【
図3】レンズを移動させるための電力の上限値の設定方法を示すフローチャートである。
【
図4】ズームレンズの位置に対するフォーカスレンズの位置をピント位置ごとに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るカメラシステム10のブロック図である。カメラシステム10は、交換レンズ(レンズ装置)100、及び交換レンズ100が着脱可能かつ通信可能に装着されるカメラ本体(撮像装置)200を有する。なお、本実施形態では、カメラ本体200は交換レンズ100が着脱可能な交換レンズ式のカメラとして構成されているが、本発明はレンズ一体型の撮像装置(デジタルスチルカメラやビデオカメラ等)にも適用可能である。また、交換レンズ100は、所定の姿勢において後述するレンズ移動させるための電力の上限値(電力上限値)が設定されていない状態でレンズを移動させる場合、消費電力が使用可能な電力よりも大きくなるように構成されているものとする。
【0011】
交換レンズ100は、撮像光学系を有する。撮影光学系は、固定フロントレンズ101、絞り103、手振れ補正レンズ104、フォーカスレンズ105、フローティングレンズ121、及びズームレンズ125を含む。なお、
図1では、それぞれのレンズは、1つのレンズ素子により構成されているが、実際には1つ又は複数のレンズ素子を含む。
【0012】
絞り103は、ステッピングモータやDCモータ等により構成される絞りアクチュエータ106の駆動に伴い、開口径を変化させることができる。絞り駆動回路107は、絞りアクチュエータ106に駆動電圧と電流を供給する。光量調整装置116は、絞り103、絞りアクチュエータ106、及び絞り駆動回路107からなる。
【0013】
手振れ補正レンズ104は、ステッピングモータやボイスコイルモータ等により構成される手振れ補正アクチュエータ108の駆動に伴い、シフト方向へ移動し、手振れ補正を行う。手振れ補正駆動回路109は、手振れ補正アクチュエータ108に駆動電圧と電流を供給する。手振れ補正装置117は、手振れ補正レンズ104、手振れ補正アクチュエータ108、及び手振れ補正駆動回路109からなる。
【0014】
フォーカスレンズ105は、ステッピングモータ、ボイスコイルモータ、及び超音波モータ等により構成されるフォーカスアクチュエータ110の駆動に伴い光軸方向へ移動し、焦点調節を行う。フォーカス駆動回路111は、フォーカスアクチュエータ110に駆動電圧と電流を供給する。焦点調整装置118は、フォーカスレンズ105、フォーカスアクチュエータ110、及びフォーカス駆動回路111からなる。
【0015】
フローティングレンズ121は、ステッピングモータ、ボイスコイルモータ、及び超音波モータ等により構成されるフローティングアクチュエータ122の駆動に伴い光軸方向へ移動し、収差補正及び焦点調節を行う。フローティング駆動回路123は、フローティングアクチュエータ122に駆動電圧と電流を供給する。収差補正装置120は、フローティングレンズ121、フローティングアクチュエータ122、及びフローティング駆動回路123からなる。
【0016】
ズームレンズ125は、ステッピングモータ、ボイスコイルモータ、及び超音波モータ等により構成されるズームアクチュエータの駆動に伴い、光軸方向へ移動し、変倍を行う。ズームレンズ125において隣り合うレンズ群の間隔が変化することで広角から望遠までの焦点距離での撮影が可能となる。ズーム駆動回路127は、ズームアクチュエータ126に駆動電圧と電流を供給する。変倍装置124は、ズームレンズ125、ズームアクチュエータ126、及びズーム駆動回路127からなる。
【0017】
なお、絞りアクチュエータ106、手振れ補正アクチュエータ108、フォーカスアクチュエータ110、フローティングアクチュエータ122、及びズームアクチュエータ126の駆動方法は、PWM駆動方式であってもよい。その場合、レンズ制御CPU112は各駆動回路に対してPWMデューティーを指定するための駆動用信号を送信し、各駆動回路は受信した信号に応じたデューティー比で各アクチュエータを駆動する。
【0018】
交換レンズ100がカメラ本体200に装着されると、交換レンズ100に設けられた電気的接点113a,113b,113cはそれぞれ、カメラ本体200に設けられた電気的接点207a,207b,207cに接続される。これにより、交換レンズ100とカメラ本体200との間での各種情報の通信を行うことができる。
図1では、3線式のシリアル通信を行う場合を示しているが、本発明はこれに限定されない。本実施形態では、レンズ制御CPU(制御手段)112、及びカメラ制御CPU206は、カメラ制御CPU206をクロックマスターとしてシリアル通信を行う。
【0019】
また、交換レンズ100に設けられた不図示の電源接点と、カメラ本体200に設けられた不図示の電源接点とが互いに接続される。これにより、カメラ本体200に搭載されたリチウムイオン電池等の不図示の二次電池からの電力がDCDCコンバータ等の電源回路で所望の電圧に変換され、交換レンズ100内の各種センサ、レンズ制御CPU112、及び各種駆動回路に供給される。
【0020】
カメラ本体200には、CCDセンサやCMOSセンサにより構成される光電変換素子としての撮像素子201が設けられている。撮像素子201は、その撮像面に撮影光学系により形成された光学像(被写体像)を光電変換する。光電変換によって撮像素子201に蓄積された電荷は、所定のタイミングで撮像信号(アナログ信号)として出力され、映像信号処理回路202に入力される。
【0021】
映像信号処理回路202は、撮像素子201からのアナログ信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号に対して増幅やガンマ補正等の各種信号処理を施して映像信号を生成する。映像信号は、カメラ制御CPU206、液晶ディスプレイパネル等により構成される表示装置205、及び光ディスクや半導体メモリ等により構成される記憶装置204に出力される。
【0022】
また、映像信号処理回路202内には、AF信号処理回路203が設けられている。AF信号処理回路203は、撮像素子201から出力された撮像信号(又は撮像信号を用いて生成された映像信号)から、焦点検出領域であるAFエリア内の画素群により得られた高周波成分や輝度成分を抽出し、焦点情報としての焦点評価値信号を生成する。焦点評価値信号は、映像のコントラスト状態(撮像コントラスト)、つまりは鮮鋭度を示し、フォーカスレンズ105の移動に伴って変化する。焦点評価値信号の値、つまりは焦点評価値が最大(ピーク)となるフォーカス位置が、そのAFエリアでの合焦位置となる。
【0023】
レンズ制御CPU112は、内部記憶装置114を備え、交換レンズ100全体の制御を司る制御手段として機能する。内部記憶装置114には、ズームレンズ125の位置に対するフォーカスレンズ105の位置データや、各アクチュエータを駆動したときの、姿勢ごとの消費電力の実測値に基づくデータが記憶される。
【0024】
姿勢検出部(検出手段)119は、加速度センサ等で構成され、取得した加速度情報から重力方向を検出し、交換レンズ100の重力方向に対する姿勢を検出することができる。
【0025】
レンズ操作部115は、交換レンズ100に対するユーザー操作を受け付けるための操作部材である。レンズ操作部115は、フォーカスレンズ105やズームレンズ125の移動指示を行うためのリング部材や、交換レンズ100の動作モードを切り替えるためのスイッチ部材を含む。
【0026】
カメラ操作部208は、カメラ本体200に対するユーザー操作を受け付けるための操作部材である。カメラ操作部208は、各種設定値を変更するためのダイヤル部材及びボタン部材を含む。カメラ操作部208により受け付けられたユーザー操作のうち、ズームレンズ125の移動指示を含む特定の操作については、前述のシリアル通信を利用してカメラ本体200から交換レンズ100に情報が伝達される。
【0027】
以下、交換レンズ100の内部で移動するレンズのうち、本発明において着目するレンズの同時移動と移動方向について説明する。まず、フォーカスレンズ105、フローティングレンズ121、及びズームレンズ125は光軸方向へ移動するレンズである。これら三つのレンズの移動においては、一つのレンズを移動させたとき、その移動量に合わせて他の一つ以上のレンズを同時に移動させる場合がある。例えば被写体に合焦している状態からズームレンズ125が移動すると、ピントがずれ、非合焦状態に変わってしまうことがある。そのため、ズームレンズ125の移動時には、その移動量に合わせてフォーカスレンズ105を移動させる。また、フローティングレンズ121については被写体距離による収差の変化を抑制するため、フォーカスレンズ105の移動時に、その移動量に合わせてフローティングレンズ121を移動させる。以上二つの特徴から、ズームレンズ125の移動時にはそれに連動してフォーカスレンズ105が移動し、更にそれに連動してフローティングレンズ121も移動する。
【0028】
フォーカスレンズ105、フローティングレンズ121、及びズームレンズ125は光軸に沿って被写体方向への移動も撮影者方向への移動も可能であるが、これら3つのレンズはピント位置に応じて理想的な位置が決まっている。よって、例えばズームレンズ125が撮影者方向へ移動したとき、フォーカスレンズ105の移動方向も一意に定まる。光学設計やズームレンズの位置等の条件にもよるが、その移動方向はズームレンズ125とは反対の、被写体方向となる場合がある。すなわち、特定の条件においては、上記三つレンズのうち二つのレンズが、同時に反対方向へ移動する場合がある。本発明において着目するのは、このように二つのレンズが同時移動し、かつその移動方向が反対方向である場合である。
【0029】
以下、
図2を参照して、光軸方向へ移動するレンズの消費電力について説明する。
図2は、カメラシステム10の姿勢及び消費電力の説明図であり、フォーカスレンズ105を被写体方向へ、ズームレンズ125を撮影者方向へそれぞれ移動させた場合を示している。
図2(a)~(e)において、重力方向は紙面下向きであるものとする。
【0030】
フォーカスレンズ105及びズームレンズ125の移動時には重力の影響を受けるため、それぞれの消費電力は交換レンズ100の姿勢に応じて変化する。一方、カメラシステム10として交換レンズ100のアクチュエータに供給可能な電力には限りがある。そのため、それぞれのアクチュエータに分配する電力を管理するために、電力上限値を設けて各アクチュエータの制御を行うことが一般的である。
【0031】
なお、電力上限値を超えないようにするための制御方法は複数あるが、例えばレンズ制御CPU112から各駆動回路に対して通知するPWM制御のデューティー比を、所定の値以下にすることで実現可能である。デューティー比が制限されれば各アクチュエータが駆動される際の実効電圧が低くなり、それにより消費電力も制限することができる。
【0032】
後述する通り、交換レンズ100の姿勢の変化を考慮したとき、フォーカスレンズ105の消費電力が最大になるのは
図2(d)の姿勢のときであり、ズームレンズ125の消費電力が最大になるのは
図2(e)の姿勢のときである。一般的には、それぞれのアクチュエータに対して上記の最大電力を電力上限値として設定し、電力分配を行う方法が用いられている。この方法では、電力の配分を姿勢に応じて変更せず、常に一定の電力上限値が設定される。
【0033】
しかしながら、上記方法では、各アクチュエータの最大電力の合計が、カメラシステム10がアクチュエータに供給可能な電力を超える場合、供給可能な電力の範囲内で電力分配を行うため、アクチュエータの駆動性能に制限をかける必要がある。例えばフォーカスレンズ105については、
図2(d)の姿勢において所望の速度で移動させるためには、
図2(i)より電力Pf_maxが必要である。一方、ズームレンズ125については、
図2(e)の姿勢において所望の速度で移動させるためには、
図2(j)より電力Pz_maxが必要である。しかしながら、カメラシステム10として供給可能な電力を考慮すると、フォーカスレンズ105に供給する電力Pf_maxと、ズームレンズ125に供給する電力Pz_maxを、同時に供給することができない場合がある。その場合、フォーカスレンズ105に電力Pz_max未満の電力上限値を設定する、又はズームレンズ125に電力Pz_max未満の電力上限値を設定する必要がある。これにより、常に一定の電力上限値を設定する場合、各アクチュエータの駆動速度が制限されてしまう。近年、フローティングレンズ121の搭載やズームレンズ125の電動化により、交換レンズ100の内部で電力を必要とするアクチュエータが増えており、アクチュエータの駆動性能に制限をかける必要が増加する可能性が高い。
【0034】
そこで、本実施形態では、交換レンズ100の姿勢に応じて(姿勢検出部119の検出結果に応じて)電力上限値を動的に変更する。それぞれの姿勢において各アクチュエータの消費電力は変わるため、電力上限値もそれに合わせて変更すれば、限られた電力を有効に活用することができる。例えば
図2(a)のように移動方向と水平方向とのなす角θがゼロである場合、各アクチュエータの消費電力はそれぞれ
図2(f)より電力Pf_0,Pz_0であるため、それぞれの電力上限値はそれらの消費電力と同等の値に設定する。ただし、移動するレンズの重量、各部品のメカ寸法、及び回路定数等のパラメータによって消費電力は変動する。したがって、個体ばらつきを考慮し、電力Pf_0,Pz_0に余裕量を加算して電力上限値を設定することが望ましい。
【0035】
なお、
図2(a)では移動方向が水平方向と一致しており、鉛直成分がゼロであることから、移動に際して重力の影響を受けることがない。よって、この状態を電力の基準値として考えることができる。また、フォーカスレンズ105とズームレンズ125ではレンズの重量に差異があるため、重力の影響を受けない
図2(a)の姿勢であっても移動負荷が異なり、消費電力は必ずしも一致しない。つまり、電力Pf_0,Pz_0は異なることが多い。
【0036】
図2(b)では、移動方向と水平方向とのなす角θがθ1となり、移動方向が水平方向に対して角度を持つ。これにより、移動方向の鉛直成分が発生し、重力の影響を受ける。このとき、フォーカスレンズ105は移動方向の鉛直成分が上向きであり、重力に逆らって移動するため、消費電力は増加し、ズームレンズ125は鉛直成分が下向きで重力方向と一致するため、その分負荷が小さくなり、消費電力が減少する(
図2(g))。よって、ズームレンズ125には
図2(a)のときよりも小さい電力上限値を設定することができ、フォーカスレンズ105には
図2(a)のときよりも大きい電力上限値を設定することができる。このようにフォーカスレンズ105とズームレンズ125の移動方向が反対方向である場合、二つのレンズ間で電力を融通することができる。二つのレンズの移動方向が反対方向であるため、一方は重力に逆らって移動し、他方は重力と同一方向へ移動する。したがって、二つのレンズの消費電力の増減は互いを補完するように、一方が増加するとき他方は減少する。この関係を利用して、一方のレンズで減少した電力を他方のレンズに分配することができる。
【0037】
図2(c)では、交換レンズ100の姿勢が
図2(b)に比べて更に傾き、移動方向と水平方向とのなす角θがθ2となっている。移動方向の鉛直成分が大きくなることで、重力の影響はより大きくなる。このとき、フォーカスレンズ105の消費電力は更に増加し、ズームレンズ125の消費電力は更に減少する(
図2(h))。よって、ズームレンズ125には
図2(b)のときよりも小さい力上限値を設定することができ、フォーカスレンズ105には
図2(b)のときよりも大きい電力上限値を設定することができる。
【0038】
図2(d)では、移動方向と水平方向とのなす角θがθ3(=90度)となり、フォーカスレンズ105の移動方向が鉛直上向きと一致している。このとき、
図2(i)のようにフォーカスレンズ105の消費電力は最大となり(Pf_max)、ズームレンズ125の消費電力は最小となる(Pz_min)。ズームレンズ125には
図2(c)のときよりも小さい電力上限値を設定することができ、フォーカスレンズ105には
図2(c)のときよりも大きい電力上限値を設定することができる。
【0039】
図2(e)では、移動方向と水平方向とのなす角θがθ4(=270度)となり、フォーカスレンズ105の移動方向が鉛直下向きと一致している。このとき、フォーカスレンズ105は重力と同一方向へ移動するため消費電力が小さくなり、ズームレンズ125は重力に逆らって移動するため消費電力が大きくなる。
図2(j)のように、フォーカスレンズ105の消費電力は最小となり(Pf_min)、ズームレンズ125の消費電力は最大となる(Pz_max)。よって、フォーカスレンズ105には
図2(a)よりも小さい電力上限値を設定することができ、ズームレンズ125には
図2(a)よりも大きい電力上限値を設定することができる。
【0040】
ここで、各姿勢における電力上限値の決め方については、複数の方法がある。例えば、
図2(a)のように移動方向が水平方向を向くときの電力上限値を基準値とし、姿勢が変化したときには、補正係数を用いて基準値を補正することで、各姿勢における電力上限値を算出(取得)してもよい。なお、水平方向とは、厳密に水平方向である場合だけでなく、実質的に水平方向(略水平方向)である場合も含んでいるものとする。具体的には、略水平方向は水平方向に対して-5度から+5度までの範囲で傾いている方向を指すものとする。
【0041】
なお、前述のように移動方向が鉛直方向に近づくほど重力の影響が大きくなるため、移動方向と水平方向とのなす角θの大きさに応じて、基準値からの差分を大きくするようにしてもよい。例えば、SINθを補正係数として基準値にかけ合わせることで、電力上限値を算出してもよい。
【0042】
また、実測値ベースで電力上限値を決定してもよい。例えば各レンズを移動させたときの消費電力実測値に基づいて、各姿勢における電力上限値を決定し、その数値データをテーブルとして内部記憶装置114に記憶させてもよい。その場合、レンズ制御CPU112が、姿勢検出部119により検出した姿勢情報に応じて内部記憶装置114から当該姿勢における電力上限値を読み出せばよい。
【0043】
このように、電力上限値の設定を姿勢に応じて変更すれば、二つのレンズの消費電力の増減が補完関係になることを利用し、一方のレンズで減少した電力を他方のレンズに分配することができる。これにより、各アクチュエータの駆動速度を制限する必要がなくなる。
【0044】
以下、
図3を参照して、レンズを移動させるための電力の上限値の設定方法について説明する。
図3は、レンズ制御CPU112によるレンズを移動させるための電力の上限値の設定方法を示すフローチャートである。
図3では、フォーカスレンズ105とズームレンズ125を例として説明する。
【0045】
ステップS101では、レンズ制御CPU112は、姿勢検出部119から交換レンズ100の姿勢情報を受信(取得)する。姿勢検出部119により検出された姿勢情報は、この後の処理において電力上限値の算出に使用される。そのため、例えば
図2における移動方向と水平方向とのなす角θをレンズ制御CPU112により算出してもよい。また、予め電力上限値を切り替えるための移動方向と水平方向とのなす角θの閾値を複数設定しておき、移動方向と水平方向とのなす角θがいずれの範囲にあるかを検出するようにしてもよい。
【0046】
ステップS102では、レンズ制御CPU112は、ズームレンズ125を移動させるか否かを判定する。ズームレンズ125の移動のトリガとなるのは、レンズ操作部115、又はカメラ操作部208に対するユーザー操作である。レンズ操作部115、又はカメラ操作部208に対してユーザー操作が実行されると、レンズ制御CPU112はカメラ本体200からの通信、又はレンズ操作部115からの信号によって操作内容を検出することができる。これにより、レンズ制御CPU112は、ズームレンズ125の移動をさせるか否かを判定することが可能である。レンズ制御CPU112は、ズームレンズ125を移動させると判定した場合、ステップS103の処理を実行し、ズームレンズ125を移動させないと判定した場合、ステップS101の処理を実行する。
【0047】
ステップS103では、レンズ制御CPU112は、検出された操作内容及び姿勢情報をもとに、ズームレンズ125の移動方向の鉛直成分を重力方向と比較する。
【0048】
ステップS104では、レンズ制御CPU112は、ステップS103での比較の結果、ズームレンズ125の移動方向の鉛直成分が重力方向と反対であるか否かを判定する。具体的には、ステップS103からステップS104の処理において、レンズ制御CPU112は、検出された操作内容からズームレンズ125の移動方向が被写体方向か撮影者方向かを判定することができる。また、レンズ制御CPU112は、検出された姿勢情報が所定の範囲内にあるか否かを判定することで、ズームレンズ125の移動方向の鉛直成分が重力方向と反対であるか否かを判定可能である。レンズ制御CPU112は、ズームレンズ125の移動方向の鉛直成分が重力方向と反対であると判定した場合、ステップS105の処理を実行する。また、レンズ制御CPU112は、ズームレンズ125の移動方向の鉛直成分が重力方向と反対でないと判定した場合、ステップS107の処理を実行する。
【0049】
ステップS105では、レンズ制御CPU112は、移動方向の鉛直成分の大きさに応じて、ズームレンズ125の電力上限値を基準値よりも大きい値に設定する。ここで、基準値とは、
図2(a)に示されるように、移動方向が水平方向である場合の電力上限値である。ズームレンズ125の移動方向の鉛直成分は重力に逆らう方向であるため、ズームレンズ125に関しては電力上限値を引き上げ、より大きい電力を分配する。
【0050】
なお、電力上限値の決め方については前述の通りで、補正係数を用いて基準値を演算してもよい。また、移動方向と水平方向とのなす角θの大きさに応じて、基準値からの差分を大きくするようにしてもよいし、姿勢ごとの消費電力の実測値に基づいて決めた電力上限値のテーブルを、内部記憶装置114から読み出すようにしてもよい。
【0051】
ステップS106では、レンズ制御CPU112は、移動方向の鉛直成分の大きさに応じて、フォーカスレンズ105の電力上限値を基準値よりも小さい値に設定する。本実施形態では、ズームレンズ125とフォーカスレンズ105の移動が同時かつ反対方向である場合を対象としているため、フォーカスレンズ105の移動方向の鉛直成分は重力と同一方向である。そのため、フォーカスレンズ105に関しては電力上限値を引き下げ、より小さな電力を分配する。
【0052】
ステップS107では、レンズ制御CPU112は、移動方向の鉛直成分の大きさに応じて、ズームレンズ125の電力上限値を基準値よりも小さい値に設定する。ズームレンズ125の移動方向の鉛直成分は重力と同一方向であるため、ズームレンズ125に関しては電力上限値を引き下げ、より小さい電力を分配する。
【0053】
ステップS108では、レンズ制御CPU112は、移動方向の鉛直成分の大きさに応じて、フォーカスレンズ105の電力上限値を基準値よりも大きい値に設定する。フォーカスレンズ105の移動方向はズームレンズ125の移動方向と反対であるため、その鉛直成分は重力に逆らう方向である。そのため、フォーカスレンズ105に関しては電力上限値を引き上げ、より大きな電力を分配する。
【0054】
ステップS109では、レンズ制御CPU112は、ズーム駆動回路127に対して駆動用信号を送信し、ズームレンズ125を移動させる。ズームレンズ125は、ステップS105又はステップS107で設定された電力上限値に基づいて分配された電力の範囲内で移動する。
【0055】
ステップS110では、レンズ制御CPU112は、フォーカス駆動回路111に対して駆動用信号を送信し、フォーカスレンズ105を移動させる。フォーカスレンズ105は、ステップS106又はステップS108で設定された電力上限値に基づいて分配された電力の範囲内で移動する。
【0056】
以上のような処理動作により、二つのレンズ間で電力を融通するための電力分配を実現することができる。
【0057】
なお、消費電力の大きさは交換レンズ100の姿勢のみで決まるとは限らない。よって、二つのレンズ間で電力を融通する際に、他の特徴から電力配分を変更した方がよい場合もある。
【0058】
その一例について、
図4を参照して説明する。
図4は、ズームレンズ125の位置に対するフォーカスレンズ105の位置をピント位置ごとに示した図である。ピント位置を保つためのフォーカスレンズ105の理想的な位置はズームレンズ125の位置によって変化するため、ズームレンズ125が移動したとき、フォーカスレンズ105はズームレンズ125の位置に応じて適切な位置に移動する。ズームレンズ125の位置に対するフォーカスレンズ105の位置は、ピント位置ごとに変わり、グラフ化すると
図4に示される曲線となる。
図4に示されるように、ズームレンズ125の移動に伴うフォーカスレンズ105の移動の曲線は、ピント位置に応じて傾きが異なる。そのため、姿勢が同一で、かつズームレンズ125の移動速度が同一であっても、フォーカスレンズ105の移動速度はピント位置ごとに変化する。したがって、フォーカスレンズ105の移動に必要な電力も異なる。よって、ピント位置に応じてズームレンズ125及びフォーカスレンズ105の電力上限値を変更し、電力の配分を変更してもよい。その際、内部記憶装置114に記憶された、ズームレンズ125の位置に対するフォーカスレンズ105の位置データを読み出し、そのデータをもとに電力上限値を設定してもよい。
【0059】
また、フォーカスレンズ105の移動が制限され、ズームレンズ125を移動させてもフォーカスレンズ105が移動しない場合がある。例えば、特定のピント位置においては、フォーカスレンズ105が移動可能な限界位置まで移動し、更に限界位置からズームレンズ125が移動する場合である。この場合、フォーカスレンズ105の移動では電力が消費されないため、フォーカスレンズ105の電力分をズームレンズに分配することが可能である。
【0060】
なお、本実施形態では、フォーカスレンズ105とズームレンズ125の移動を例に説明を行ったが、本発明はこれに限定されない。フォーカスレンズ105とフローティングレンズ121の移動、又はズームレンズ125とフローティングレンズ121の移動に対しても同様のフローを用いて電力分配を行うことで、各レンズの移動速度が制限されないようにすることが可能である。
【0061】
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
所定の軸に沿って第1の方向及び前記第1の方向とは反対の第2の方向へ移動可能な第1のレンズ群及び第2のレンズ群と、
前記第1のレンズ群を移動させるための電力の第1上限値と前記第2のレンズ群を移動させるための電力の第2上限値を設定する制御手段と、
姿勢の検出が可能な検出手段と、を有し、
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果に応じて、前記第1及び第2上限値の一方を増加させ、前記第1及び第2上限値の他方を減少させることを特徴とするレンズ装置。
(構成2)
前記制御手段は、前記第1及び第2のレンズ群が互いに反対方向へ移動する場合、かつ前記第1のレンズ群の移動方向の鉛直成分が重力方向と同一方向である場合、前記第1上限値を前記第1のレンズ群の移動方向が水平方向である場合に設定される前記第1上限値である第1基準値よりも小さくなるように設定し、前記第2上限値を前記第2のレンズ群の移動方向が水平方向である場合に設定される前記第2上限値である第2基準値よりも大きくなるように設定することを特徴とする構成1に記載のレンズ装置。
(構成3)
前記制御手段は、前記第1基準値を補正することで得られる前記第1上限値を設定し、前記第2基準値を補正することで得られる前記第2上限値を設定することを特徴とする構成2に記載のレンズ装置。
(構成4)
前記制御手段は、前記第1及び第2レンズ群の移動方向が鉛直方向に近づくほど、前記第1上限値と前記第1基準値との差分、及び前記第2上限値と前記第2基準値との差分が大きくなるように、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする構成2に記載のレンズ装置。
(構成5)
前記第1のレンズは、ズームレンズとフォーカスレンズの一方であり、
前記第2のレンズは、前記ズームレンズと前記フォーカスレンズの他方であることを特徴とする構成1乃至4の何れか一つの構成に記載の交換レンズ。
(構成6)
前記制御手段は、ピント位置に応じて、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする構成5に記載のレンズ装置。
(構成7)
前記制御手段は、前記ピント位置ごとの前記ズームレンズの位置に対する前記フォーカスレンズの位置に関するデータを用いて、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする構成6に記載のレンズ装置。
(構成8)
前記制御手段は、前記フォーカスレンズの移動が制限されている場合、前記フォーカスレンズを移動させるための電力の上限値を減少させ、前記ズームレンズを移動させるための電力の上限値を増加させることを特徴とする構成5乃至7の何れか一つの構成に記載のレンズ装置。
(構成9)
前記制御手段は、姿勢ごとの前記第1及び第2レンズ群の消費電力の実測値に基づくデータを用いて、前記第1及び第2上限値を設定することを特徴とする構成1乃至8の何れか一つの構成に記載のレンズ装置。
(構成10)
所定の姿勢において前記第1及び第2上限値が設定されていない状態で前記第1及び第2レンズ群を移動させる場合、前記レンズ装置の消費電力は前記レンズ装置で使用可能な電力よりも大きくなることを特徴とする構成1乃至9の何れか一つの構成に記載のレンズ装置。
(構成11)
構成1乃至10の何れか一つの構成に記載のレンズ装置と、
該レンズ装置により形成された光学像を光電変換する撮像素子と、を有することを特徴とする撮像装置。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
100 交換レンズ(レンズ装置)
105 フォーカスレンズ
125 ズームレンズ
112 レンズ制御CPU(制御手段)
119 姿勢検出部(検出手段)