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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101084
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】画像形成装置および定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20250630BHJP
【FI】
G03G15/20 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217669
(22)【出願日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒本 直史
(72)【発明者】
【氏名】狩野 浩崇
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA20
2H033AA23
2H033BA11
2H033BA12
2H033BB12
2H033BB30
2H033CA03
2H033CA04
2H033CA28
2H033CA30
(57)【要約】
【課題】定着ベルトのクリープを解消しつつ、ウォーミングアップ動作時間を可能な限り短縮する技術を提供する。
【解決手段】画像形成装置は、媒体にトナーを定着させるための定着部と、定着部を制御する制御部とを備える。定着部は、加圧ローラーと、定着ベルトとを含む。定着ベルトは、加圧ローラーと共に、媒体をニップし、媒体のニップ位置において、媒体を加熱可能に構成される。制御部は、定着部の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定し(S1020)、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトを加熱するためのウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する(S1040)。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体にトナーを定着させるための定着部と、
前記定着部を制御する制御部とを備え、
前記定着部は、加圧ローラーと、定着ベルトとを含み、
前記定着ベルトは、
前記加圧ローラーと共に、前記媒体をニップし、
前記媒体のニップ位置において、前記媒体を加熱可能に構成され、
前記制御部は、
前記定着部の稼働履歴から、前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度を推定し、
前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度に基づいて、前記定着ベルトを加熱するためのウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する、画像形成装置。
【請求項2】
前記1つ以上のパラメーターは、前記定着ベルトの目標温度、前記定着ベルトの回転距離、前記定着ベルトの回転速度、および、前記定着ベルトの回転時間の1つ以上を含み、
前記1つ以上のパラメーターを決定することは、前記1つ以上のパラメーターの一部または全てを決定することを含む、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記1つ以上のパラメーターのうち、前記制御部が決定しないパラメーターは、固定値のパラメーターである、請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記定着ベルトの前記目標温度および前記回転距離を満たした、または、前記定着ベルトの前記目標温度および前記回転時間を満たしたことに基づいて、前記ウォーミングアップ動作を完了する、請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記定着ベルトの温度を計測するための温度センサーをさらに備え、
前記制御部は、前記温度センサーの出力信号に基づいて、前記定着ベルトの温度が、前記目標温度に到達したか否かを判定する、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記定着部の前記稼働履歴から、前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度を推定することは、少なくとも前記定着部の停止時間に基づいて、前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度を推定することを含む、請求項1~5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記定着部の前記稼働履歴から、前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度を推定することは、少なくとも前記定着部のヒーターの消灯時間に基づいて、前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度を推定することを含む、請求項1~5のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
画像形成装置に組み込み可能な定着装置であって、
媒体を加熱して前記媒体に画像を定着させるための定着ベルトと、
前記媒体に圧力をかけるための加圧ローラーと、
前記定着装置を制御するための制御部とを備え、
前記定着ベルトは、
前記加圧ローラーと共に、前記媒体をニップし、
前記媒体のニップ位置において、前記媒体を加熱可能に構成され、
前記制御部は、
前記定着装置の稼働履歴から、前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度を推定し、
前記ニップ位置またはその近傍の前記定着ベルトの温度に基づいて、前記定着ベルトを加熱するためのウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する、定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像形成装置に関し、より特定的には、定着ベルトのクリープの解消技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トナー式の画像形成装置は、画像を媒体に定着させるための定着部(「定着装置」とも呼ぶ)を備える。定着部は、ヒーターによって加熱された定着ベルトを回転させる。媒体は、定着ベルトおよび加圧ローラーによりニップされて搬送される。その際、媒体表面のトナーが溶けることにより、画像が媒体に定着する。
【0003】
定着ベルトは、加熱部およびパッドによって回転可能に張架されている。また、媒体をニップする位置(以下、「ニップ位置」と呼ぶ)またはその近傍において、定着ベルトは、高い曲率で曲がる。なぜならば、ニップ位置またはその近傍にはパッドの角または湾曲部分があるためである。また、ニップの影響により、定着ベルトが歪む可能性もある。画像形成装置がスリープ状態または電源オフの場合、定着ベルトは、回転せず、また、加熱もされない。そのため、定着ベルトは、ニップ位置またはその近傍で、歪んだ状態で固まってしまう。すなわち、定着ベルトのクリープが発生する。クリープが発生すると、次回以降の定着処理において、画像不良が発生する可能性がある。そのため、定着ベルトのクリープを解消するための技術が必要とされている。
【0004】
定着ベルトのクリープを解消するための技術に関し、例えば、特開2013-164451号公報(特許文献1)は、「制御手段たる制御部は、加圧部材としての加圧ローラーが回転中であって、定着部材としての定着ベルトと加圧ローラーとの間の加圧力が、定着ベルトが加圧ローラーとともに回転する加圧力以上であるときに出力する信号(Low信号)を位置検知センサーが出力しているとき、加熱源としてのハロゲンヒーターへ所定以上の電力を通電して、定着ベルトを加熱する」定着部および画像形成装を開示している([要約]参照)。
【0005】
また、定着ベルトのクリープを解消するための技術に関する他の技術が、例えば、特開2011-123235号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-164451号公報
【特許文献2】特開2011-123235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術によると、ハードウェアの変更が必要になる。また、特許文献1に開示された技術によると、画像形成装置の電源オフ時に発生するクリープについては考慮されていない。さらに、特許文献2に開示された技術によると、ウォーミングアップ時間が長くなることにより、ユーザーの利便性が損なわれる可能性がある。したがって、定着ベルトのクリープを解消しつつ、ウォーミングアップ動作時間を可能な限り短縮する技術が必要とされている。
【0008】
本開示は、上記のような背景に鑑みてなされたものであって、ある局面における目的は、定着ベルトのクリープを解消しつつ、ウォーミングアップ動作時間を可能な限り短縮する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある実施の形態に従うと、画像形成装置が提供される。画像形成装置は、媒体にトナーを定着させるための定着部と、定着部を制御する制御部とを備える。定着部は、加圧ローラーと、定着ベルトとを含む。定着ベルトは、加圧ローラーと共に、媒体をニップし、媒体のニップ位置において、媒体を加熱可能に構成される。制御部は、定着部の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定し、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトを加熱するためのウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する。
【0010】
ある局面において、1つ以上のパラメーターは、定着ベルトの目標温度、定着ベルトの回転距離、定着ベルトの回転速度、および、定着ベルトの回転時間の1つ以上を含む。1つ以上のパラメーターを決定することは、1つ以上のパラメーターの一部または全てを決定することを含む。
【0011】
ある局面において、1つ以上のパラメーターのうち、制御部が決定しないパラメーターは、固定値のパラメーターである。
【0012】
ある局面において、制御部は、定着ベルトの目標温度および回転距離を満たした、または、定着ベルトの目標温度および回転時間を満たしたことに基づいて、ウォーミングアップ動作を完了する。
【0013】
ある局面において、画像形成装置は、定着ベルトの温度を計測するための温度センサーをさらに備える。制御部は、温度センサーの出力信号に基づいて、定着ベルトの温度が、目標温度に到達したか否かを判定する。
【0014】
ある局面において、定着部の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定することは、少なくとも定着部の停止時間に基づいて、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定することを含む。
【0015】
ある局面において、定着部の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定することは、少なくとも定着部のヒーターの消灯時間に基づいて、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定することを含む。
【0016】
他の実施の形態に従うと、画像形成装置に組み込み可能な定着装置が提供される。定着装置は、媒体を加熱して媒体に画像を定着させるための定着ベルトと、媒体に圧力をかけるための加圧ローラーと、定着装置を制御するための制御部とを備える。定着ベルトは、加圧ローラーと共に、媒体をニップし、媒体のニップ位置において、媒体を加熱可能に構成される。制御部は、定着装置の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定し、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトを加熱するためのウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する。
【発明の効果】
【0017】
ある実施の形態に従うと、定着ベルトのクリープを解消しつつ、ウォーミングアップ動作時間を可能な限り短縮することが可能である。
【0018】
この開示内容の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解される本開示に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施の形態に従う定着部100を備える画像形成装置10の構成の一例を示す図である。
図2】定着部100のバリエーションの第1の例を示す図である。
図3】定着部100のバリエーションの第2の例を示す図である。
図4】定着ベルトのクリープが発生する様子およびその影響の一例を示す図である。
図5】定着ベルトの温度と定着ベルトの弾性率との相関関係の一例を示す図である。
図6】定着部100の停止時間とニップ位置の定着ベルトの温度との相関関係の一例を示す図である。
図7】ニップ位置の定着ベルトの温度とクリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離との相関関係の一例を示す図である。
図8】ウォーミングアップ動作によりクリープが解消する様子の一例を示す図である。
図9】ウォーミングアップ動作の実行期間の調整の一例を示す図である。
図10】画像形成装置の動作手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本開示に係る技術思想の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。また、各実施の形態、各変形例、各ソフトウェアの構成、各ハードウェアの構成、各機能、及び、各処理等は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0021】
<A.装置構成>
【0022】
図1は、本実施の形態に従う定着部100を備える画像形成装置10の構成の一例を示す図である。図1を参照して、画像形成装置10の構成およびこれらの構成の役割について説明する。また、定着部100が備える定着ベルトにおいて発生するクリープの概要についても説明する。
【0023】
(a.画像形成装置の構成)
【0024】
画像形成装置10は、主な構成として、給紙部102と、現像部104と、中間転写ベルト106と、搬送ローラー108と、転写ローラー110と、定着部100と、排紙ローラー112と、排紙部114と、制御部150とを備える。
【0025】
給紙部102は、画像を印刷するための媒体160を格納する。媒体160は、搬送路120に沿って、給紙部102から排紙部114まで搬送されていく。その課程で、画像形成装置10は、媒体160に、トナー画像の転写処理および定着処理を実行する。ある局面において、画像形成装置10は、複数の給紙部102を備えていてもよい。この場合、複数の給紙部102の各々は、異なるサイズまたは異なる種類の媒体160を格納し得る。
【0026】
現像部104は、単色のトナー画像を形成する。画像形成装置10は、複数の現像部104を備え得る。各現像部104は、異なるカラーのトナー像を形成する。代表的には、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、BK(ブラックまたはキープレート)の4色が使用される。ある局面において、画像形成装置10は、YMCK以外のカラーの現像部104を備えてもよい。他の局面において、画像形成装置10は、5つ以上の現像部104を備えてもよい。各現像部104は、各現像部104の内部にある感光体の表面に、単色のトナー像を形成する。一例として、イエローの現像部104は、感光体の表面に、イエローのトナー像を形成する。同様に、マゼンタの現像部104は、感光体の表面に、マゼンタのトナー像を形成する。シアンの現像部104は、感光体の表面に、シアンのトナー像を形成する。ブラックの現像部104は、感光体の表面に、ブラックのトナー像を形成する。
【0027】
中間転写ベルト106は、各現像部104からトナー画像を転写され、当該転写されたトナー画像を転写ローラー110の位置まで運ぶ。より具体的には、各現像部104で形成された単色のトナー画像は、中間転写ベルト106に重ね合わせられるように転写される。これにより、中間転写ベルト106の表面に、フルカラートナー画像が形成され得る。印刷ジョブによっては、中間転写ベルト106の表面には、白黒画像等のフルカラーではない画像が形成される。中間転写ベルト106は、2つのローラーにより張架されている。中間転写ベルト106は、回転することで、転写されたトナー画像を転写ローラー110の位置まで運ぶ。
【0028】
搬送ローラー108は、搬送路120に沿って設けられる。ある局面において、画像形成装置10は、複数の搬送ローラー108を備え得る。各搬送ローラー108は、給紙部102から排紙部114まで、媒体160を搬送する。転写ローラー110の手前には、媒体160の搬送タイミングを調整するためのレジストローラーが配置されてもよい。
【0029】
転写ローラー110は、搬送されてきた媒体160の表面に、中間転写ベルト106上のトナー画像を転写する。そして、転写ローラー110は、トナー画像が転写された媒体160を定着部100に向けて搬送する。
【0030】
定着部100は、搬送されてきた媒体160を加熱する。より具体的には、定着部100は、ヒーターと、加圧ローラーと、定着ベルトとを備える。定着ベルトは、ヒーターによって高温に熱される。高温となった定着ベルトは、加圧ローラーと共に、媒体160をニップする。媒体160の表面のトナーは、ニップされて加熱されることで、一旦溶けてその後固まる。これにより、画像は、媒体160の表面に定着する。また、定着ベルトおよび加圧ローラーは、回転することで、媒体160を排紙部114の方向に搬送する。定着部100のより詳細な構成およびバリエーションについては、図2および図3を参照して後述する。定着部100は、定着装置と読み替えられてもよい。ある局面において、定着部100は、画像形成装置10から着脱可能に構成され得る。
【0031】
排紙ローラー112は、媒体160を排紙部114に出力する。排紙部114は、画像が印刷された媒体160を排出するための場所である。排紙部114は、例えば、トレー等の形状をしている。
【0032】
制御部150は、画像形成装置10全体を制御する。ある局面において、制御部150は、プログラムを実行するためのプロセッサー(図示せず)を備えていてもよい。また、制御部150は、プロセッサーのワークスペースとなるメモリー(図示せず)を備えていてもよい。さらに、制御部150は、任意のプログラムおよびデータを格納するためのストレージ(図示せず)を備えていてもよい。当該ストレージは、ROM(Read Only Memory)またはフラッシュメモリー等であってもよい。
【0033】
(b.定着ベルトのクリープ)
【0034】
次に、定着ベルトにおいて発生するクリープ(歪み)の概要について説明する。前述のように、定着ベルトおよび加圧ローラーは、媒体160をニップする。これ以降、媒体160をニップする位置を、ニップ位置と呼ぶ。ニップ位置は、点であってもよいし、定着ベルトおよび加圧ローラーが媒体160をニップする一定の範囲であってもよい。定着ベルトは、加圧ローラーから受ける力等によって回転し、ニップ位置またはその近傍において湾曲する。
【0035】
画像形成装置10がスリープ状態または電源オフの状態であるとする。この場合、定着部100内のヒーターの電源もオフになる。さらに、定着ベルトも回転せずに停止する。結果として、定着ベルトは冷えて硬くなる。すなわち、定着ベルトの弾性率が高くなる。その結果、定着ベルトは、ニップ位置またはその近傍において、湾曲したまま固まってしまう。この湾曲したまま固まった部分が、定着ベルトのクリープである。本明細書において、「クリープ」は、歪み、ひずみ、湾曲、変形、および、これらを発生させる現象を包含する。一例として、定着ベルトのクリープは、定着ベルトの歪み、ひずみ、湾曲または変形と読み替えられてもよい。
【0036】
定着ベルトのクリープは、画像不良の発生原因となる。そのため、画像形成装置10は、スリープ状態または電源オフの状態から、定着処理を再開する場合、ウォーミングアップ動作を行う。ウォーミングアップ動作とは、定着処理の前に、ヒーターを点灯しながら、定着ベルトを回転させ続けることである。一定時間以上加熱されることで、定着ベルトのクリープは解消する。ただし、ウォーミングアップ動作の時間が短すぎる場合、定着ベルトのクリープが十分に解消されない。結果として、印刷画像に画像不良が発生する。逆に、ウォーミングアップ動作の時間が長すぎる場合、定着ベルトのクリープは解消するが、定着処理の開始までに時間がかかる。結果として、ユーザーの利便性が低下する。
【0037】
そこで、本実施の形態に従う画像形成装置10は、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを調整または決定する。実際には、画像形成装置10が備える制御部が、ウォーミングアップ動作に関する各種処理を制御する。本明細書において、処理の実行主体としての画像形成装置10は、制御部と読み替えられてもよい。この場合の制御部は、制御部150,270(図2参照),370(図3参照)のいずれかである。
【0038】
1つ以上のパラメーターは、定着ベルトの目標温度、定着ベルトの回転距離、定着ベルトの回転速度、および、定着ベルトの回転時間の1つ以上を含む。定着ベルトの回転距離は、定着ベルトの目標回転距離と読み替えられてもよい。定着ベルトの回転時間は、定着ベルトの目標回転時間と読み替えられてもよい。また、1つ以上のパラメーターを決定することは、1つ以上のパラメーターの一部または全てを決定することを含む。ある局面において、1つ以上のパラメーターのうち、画像形成装置10または制御部が決定しないパラメーターは、固定値のパラメーターであってもよい。画像形成装置10は、1つ以上のパラメーターを調整または決定することで、従来技術よりもクリープをより確実に解消する。それと共に、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作の時間を可能な限り短く設定する。
【0039】
(c.定着部の構造)
【0040】
次に、図2および図3を参照して、定着部100の構造のバリエーションについて説明する。併せて、定着部100の各バリエーションにおける定着ベルトのクリープの発生位置についても説明する。
【0041】
図2は、定着部100のバリエーションの第1の例を示す図である。定着部200は、定着部100のバリエーションの一例である。図1の定着部100は、定着部200に置き換えられてもよい。定着部200は、パッド210と、ヒーター220と、温度センサー230と、加熱部240と、定着ベルト250と、加圧ローラー260と、制御部270とを備える。
【0042】
パッド210は、定着ベルト250を支える。また、パッド210は、定着ベルト250を加圧ローラー260に押し付ける。パッド210は、ある程度の柔軟性を有する素材等により実現されてもよい。定着ベルト250は、加圧ローラー260から受ける力により、パッド210の表面を滑る。ある局面において、パッド210は、ローラーであってもよい。
【0043】
ヒーター220は、定着ベルト250を加熱する。より具体的には、ヒーター220は、加熱部240を加熱する。定着ベルト250は、加熱部240からの輻射により加熱される。ある局面において、ヒーターは、ハロゲンヒーターであってもよい。また、定着部200は、1つ以上の任意の数のヒーター220を備え得る。
【0044】
温度センサー230は、定着ベルト250の温度を検知する。温度センサー230は、検知した温度を示す信号を制御部270に出力する。制御部270は、取得した信号に基づいて、ヒーター220の点灯時間を調整し得る。
【0045】
加熱部240は、定着ベルト250に熱を伝える。ある局面において、加熱部240は、円形、半円等の形状であってもよい。他の局面において、加熱部240およびパッド210は、一体型として構成されてもよい。
【0046】
定着ベルト250は、加圧ローラー260と共に、媒体160をニップする。定着ベルト250は、パッド210および加熱部240の表面を滑ることで回転する。ある局面において、定着ベルト250は、加圧ローラー260から受ける力により回転してもよい。他の局面において、定着ベルト250は、パッド210および/または加熱部240から受ける力により回転してもよい。
【0047】
加圧ローラー260は、定着ベルト250と共に、媒体160をニップする。また、加圧ローラー260は、回転することで、定着ベルト250を回転させる。また、加圧ローラー260は、媒体160をニップしている場合、媒体160を排紙部114の方向に搬送する。媒体160は、ニップ位置280において、定着ベルト250および加圧ローラー260によりニップされる。媒体160がニップ位置280を通過することで、媒体160の表面の画像は媒体160に定着する。
【0048】
制御部270は、定着部200全体の動作を制御する。一例として、制御部270は、加圧ローラー260の回転速度を調整し得る。他の例として、制御部270は、ヒーター220の点灯時間および/または温度を調整し得る。さらに、制御部270は、温度センサー230からの信号を取得し得る。ある局面において、制御部270は、制御部150であってもよい。
【0049】
図2を参照すると、ニップ位置280において、定着ベルト250は歪んでいる。また、ニップ位置280の近傍290において曲率が高くなっている。画像形成装置10がスリープ状態等になり、ヒーター220がオフになったとする。この場合、ニップ位置280および/またはその近傍290において、定着ベルト250は、歪んだまま固まってしまう。すなわち、定着ベルト250のクリープが発生する。実際には、定着部200の各部品の形状等によって、定着ベルト250のクリープ発生位置は変わる。一例として、定着ベルト250のクリープは、ニップ位置280で発生し得る。他の例として、定着ベルト250のクリープは、近傍290で発生し得る。さらに、別の例として、定着ベルト250のクリープは、ニップ位置280およびその近傍290の両方で発生し得る。
【0050】
図3は、定着部100のバリエーションの第2の例を示す図である。定着部300は、定着部100のバリエーションの一例である。図1の定着部100は、定着部300に置き換えられてもよい。定着部300は、パッド310と、ヒーター320と、温度センサー330と、加熱部340と、定着ベルト350と、加圧ローラー360と、制御部370とを備える。
【0051】
定着部300は、基本的に、定着部200と同じ部品を備える。パッド310は、パッド210に対応する。ヒーター320は、ヒーター220に対応する。温度センサー330は、温度センサー230に対応する。加熱部340は、加熱部240に対応する。定着ベルト350は、定着ベルト250に対応する。加圧ローラー360は、加圧ローラー260に対応する。制御部370は、制御部270に対応する。
【0052】
また、定着部300は、定着部200と同様の機能を備える。そのため、定着部300の機能については説明しない。以下に、定着部300の定着部200に対する構造上の差異について説明する。
【0053】
図3を参照すると、パッド310および加熱部340は、互いに離れた位置にある。また、加熱部340は、ローラー状である。ある局面において、加熱部340は、回転してもよいし、回転しなくてもよい。また、パッド310は、パッド210に対して、形状が大きく異なっている。結果として、ニップ位置380の近傍390において、定着ベルト350は、急激に湾曲している、すなわち、近傍390において、定着ベルト350の曲率が高くなっている。そのため、ニップ位置380の近傍390において、定着ベルト350のクリープが発生しやすくなっている。
【0054】
<B.定着ベルトのクリープが発生する仕組み>
【0055】
図4は、定着ベルトのクリープが発生する様子およびその影響の一例を示す図である。図4を参照して、クリープが発生した状態で定着部300が媒体160をニップするまでの動作を説明する。また、それによって発生する画像不良についても説明する。
【0056】
定着部300が、一定時間停止していたとする。この場合、定着ベルト350が大きく湾曲している位置において、クリープ410が発生する。ここでのクリープ410は、定着ベルト350が変形した部分を指す。そのため、クリープ410は、定着ベルト350の変形部分またはゆがんだ部分等と読み替えられてもよい。図4の例では、ニップ位置380の近傍390において、クリープ410が発生する。
【0057】
次に、定着部300が、十分なウォーミングアップ動作をせずに定着処理を開始したとする。この場合、定着ベルト350が回転することで、クリープ410は、加熱部340まで運ばれる。クリープ410は、変形しているため、加熱部340と密着しておらず、十分に加熱されない。
【0058】
この状態で定着ベルト350がさらに回転することで、クリープ410は、十分に加熱されないまま、ニップ位置380を通過する。この状態で、媒体160がニップ位置380を通過したとする。この場合、媒体160の表面の画像420上の一部430において、画像不良が発生する。この一部430は、定着ベルト350のクリープ410が発生した部分によってニップされた媒体160の部位である。図4を参照して、定着部300を例にクリープの発生原因および影響を説明したが、定着部200においてもクリープの発生原因およびその影響は同様である。
【0059】
これまでの説明において、クリープの発生位置として、ニップ位置またはニップ位置の近傍を挙げたが、これは一例に過ぎない。定着部100の構造によって定着ベルトのニップが発生し易い位置は異なる。本明細書において、「ニップ位置」、「ニップ位置の近傍」は、クリープが発生する可能性が高い位置という意味を含む。そのため、本明細書において、「ニップ位置」、「ニップ位置の近傍」、「クリープが発生する可能性が高い位置」は、相互に読み替えられてもよい。
【0060】
また、本明細書において、「定着ベルトの温度」という記載は、「定着ベルトのニップ位置の温度」と読み替えられてもよい。また、「定着ベルトの温度」という記載は、「定着ベルトのニップ位置の近傍の温度」と読み替えられてもよい。さらに、「定着ベルトの温度」という記載は、「定着ベルトのクリープが発生する可能性が高い位置の温度」と読み替えられてもよい。
【0061】
図5は、定着ベルトの温度と定着ベルトの弾性率との相関関係の一例を示す図である。前述のように、温度低下により、定着ベルトの弾性率が上がることで、クリープが発生する。一例として、定着ベルトには、ポリイミドフィルムが使用されることがある。図5に示されるポイント510,520,530は、各温度におけるポリイミドフィルムの弾性率を示す。グラフ550は、ポイント510,520,530から得られる回帰グラフである。グラフ550を参照すると、ポリイミドフィルムの温度が低下する程、ポリイミドフィルムの弾性率が上がっている。定着ベルトにポリイミドフィルムが使用されているとする。この場合、温度が低下することで、定着ベルトはクリープを起こしやすいことが分かる。逆に、温度が上がることで、定着ベルトのクリープは解消しやすくなる。
【0062】
<C.ウォーミングアップ動作のパラメーターの調整>
【0063】
次に、画像形成装置10におけるウォーミングアップ動作のパラメーターの調整方法について説明する。前述のように、クリープは、定着ベルトの一部の曲率が高い状態で、その部分の温度が低下することで発生する。しかし、図5を参照して説明したように、定着ベルトは、加熱されることで、弾性率が低下する。そのため、画像形成装置10は、十分な期間、ウォーミングアップ動作を行うことで、定着ベルトのクリープを解消し得る。
【0064】
ただし、ウォーミングアップ動作が長すぎる場合、印刷開始までに時間がかかり、ユーザーの利便性を低下させてしまう。逆に、ウォーミングアップ動作が短すぎる場合、クリープが解消されず、印刷画像に画像不良が発生し得る。
【0065】
そこで、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定または調整する。これにより、画像形成装置10は、従来技術よりもクリープをより確実に解消する。それと共に、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作の時間を可能な限り短く設定する。
【0066】
これまでの説明の通り、本実施の形態に従う画像形成装置10は、少なくとも以下の構成および機能を備える。画像形成装置10は、媒体160にトナーを定着させるための定着部100と、定着部100を制御する制御部とを備える。当該制御部は、制御部150,270,370のいずれであってもよい。定着部100は、少なくとも、加圧ローラーと、定着ベルトとを含む。定着ベルトは、加圧ローラーと共に、媒体160をニップし、媒体160のニップ位置において、媒体160を加熱可能に構成される。制御部は、定着部100の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定する。また、制御部は、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトを加熱するためのウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する。
【0067】
また、定着部100は、画像形成装置10に組み込み可能な定着装置として提供されてもよい。この場合、定着装置は、媒体160を加熱して媒体160に画像を定着させるための定着ベルトを備える。定着装置は、媒体160を加熱して媒体160に画像を定着させるための定着ベルトを備える。また、定着装置は、媒体160に圧力をかけるための加圧ローラーを備える。また、定着装置は、定着装置を制御するための制御部を備える。定着ベルトは、加圧ローラーと共に、媒体160をニップし、媒体160のニップ位置において、媒体160を加熱可能に構成される。制御部は、定着装置の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定する。また、制御部は、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトを加熱するためのウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する。
【0068】
ある局面において、制御部150が、1つ以上のパラメーターを決定または調整してもよい。他の局面において、定着部100の制御部270,370が、1つ以上のパラメーターを決定または調整してもよい。図6図9を参照して、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定または調整する処理について詳しく説明する。
【0069】
定着部100の稼働履歴は、定着部100の停止時間および稼働時間の少なくとも片方を含み得る。当該停止時間および稼働時間は、累積値であってもよい。また、定着部100の稼働履歴は、ヒーターの消灯時間および点灯時間の少なくとも片方を含み得る。当該消灯時間および点灯時間は、累積値であってもよい。また、定着部100の稼働履歴は、制御部のタイマーのカウント値であってもよい。一例として、制御部は、定着部100の停止時間および/または稼働時間をタイマー機能により計測し、計測した値をメモリー等に保存し得る。他の例として、制御部は、ヒーターの消灯時間および/または点灯時間をタイマー機能により計測し、計測した値をメモリー等に保存し得る。
【0070】
図6は、定着部100の停止時間とニップ位置の定着ベルトの温度との相関関係の一例を示す図である。グラフ600における横軸は、定着部100が停止してからの経過時間を示す。縦軸は、ニップ位置の定着ベルトの温度を示す。ここでの定着部100の停止は、ヒーターが消灯し、かつ、定着ベルトの回転が停止した状態を意味する。グラフ600は、定着部100の停止時間とニップ位置の定着ベルトの温度との相関関係を示す。これ以降、グラフ600に示される相関関係を、「第1の相関関係」と呼ぶ。グラフ600を参照すると、定着部100が停止してから時間が経過するほど、ニップ位置の定着ベルトの温度が低下していることが分る。さらに、図5の説明から、定着部100が停止してから時間が経過するほど、ニップ位置の定着ベルトの弾性率が上がることが分る。
【0071】
第1の相関関係は、実験により予め求められる。画像形成装置10は、予め求められた第1の相関関係のデータを画像形成装置10内のストレージ等に保存し得る。第1の相関関係のデータは、任意のフォーマットで表現され得る。ある局面において、定着ベルト全体の温度がおおよそ均一であるとする。この場合、第1の相関関係は、定着部100の停止時間と任意の位置の定着ベルトの温度との相関関係であってもよい。また、「ニップ位置の定着ベルト」は、「任意の位置の定着ベルト」または、単に「定着ベルト」と読み替えられてもよい。
【0072】
ある局面において、第1の相関関係のデータは、リレーショナルデータベースのテーブル、リスト、テキスト、CSV(Comma Separated Values)またはJSON(JavaScript(登録商標) Object Notation)等の他の任意のフォーマットで表現されてもよい。画像形成装置10は、制御部150,270,370のタイマーカウンター等により、定着部100が停止してからの経過時間をカウントし得る。そして、画像形成装置10は、第1の相関関係のデータを参照することで、カウントした経過時間に対応するニップ位置の定着ベルトの現在の温度を取得し得る。
【0073】
他の局面において、画像形成装置10は、定着部100が停止してからの経過時間から、ニップ位置の定着ベルトの現在の温度を算出するプログラムを備えていてもよい。当該プログラムは、実験により予め求められた第1の相関関係のデータを回帰分析した式を実行するプログラムとして実装され得る。画像形成装置10は、制御部150のタイマーカウンター等により、定着部100が停止してからの経過時間をカウントし得る。そして、画像形成装置10は、カウントした経過時間を当該プログラムに入力することで、ニップ位置の定着ベルトの現在の温度を算出し得る。
【0074】
図6を参照して、第1の相関関係について説明したが、これは一例に過ぎない。画像形成装置10は、定着部100の停止時間と定着ベルトにおけるクリープが発生する可能性が高い位置の温度との相関関係のデータを備えていればよい。図3を例に説明すると、画像形成装置10は、定着部300の停止時間とニップ位置380の近傍390の定着ベルト350の温度との相関関係のデータを備え得る。すなわち、第1の相関関係における「ニップ位置の定着ベルトの温度」は、「定着ベルトのクリープが発生する可能性が高い位置の温度」と読み替えられてもよい。または、第1の相関関係における「ニップ位置の定着ベルトの温度」は、「ニップ位置の近傍の定着ベルトの温度」と読み替えられてもよい。
【0075】
以上の通り、画像形成装置10は、第1の相関関係のデータから、ニップ位置の定着ベルトの現在の温度を取得し得る。または、画像形成装置10は、第1の相関関係のデータから、ニップ位置の近傍の定着ベルトの現在の温度を取得し得る。いずれにしても、画像形成装置10は、第1の相関関係のデータから、定着ベルトのクリープが発生する可能性が高い位置の現在の温度を取得し得る。
【0076】
すなわち、画像形成装置10は、少なくとも定着部100の停止時間に基づいて、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定し得る。当該推定動作は、定着部100の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定しているとも言える。
【0077】
ある局面において、画像形成装置10は、定着部100の停止時間の代わりにヒーターの消灯時間を用いてもよい。すなわち、画像形成装置10は、少なくとも定着部100のヒーターの消灯時間に基づいて、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定し得る。当該推定動作は、定着部100の稼働履歴から、ニップ位置またはその近傍の定着ベルトの温度を推定しているとも言える。
【0078】
図7は、ニップ位置の定着ベルトの温度とクリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離との相関関係の一例を示す図である。グラフ700における横軸は、ニップ位置の定着ベルトの現在の温度を示す。ある局面において、当該横軸は、ニップ位置の近傍の定着ベルトの現在の温度を示してもよい。いずれにしても、グラフ700における横軸は、定着ベルトのクリープが発生する可能性が高い位置の現在の温度を示す。縦軸は、クリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離を示す。ある局面において、当該縦軸は、クリープ解消に必要な定着ベルトの回転時間を示してもよい。グラフ700は、ニップ位置の定着ベルトの温度とクリープ解消に必要な回転距離との相関関係を示す。これ以降、グラフ700に示される相関関係を、「第2の相関関係」と呼ぶ。一例として、ポイント710では、定着ベルトの温度は、「40℃」である。このときのクリープ解消に必要な回転距離は、「約1250mm」である。他の例として、ポイント720では、定着ベルトの温度は、「50℃」である。このときのクリープ解消に必要な回転距離は、「約750mm」である。これらの例から、定着ベルトの温度が低い程、クリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離は長いことが分る。
【0079】
第2の相関関係は、実験により予め求められる。画像形成装置10は、予め求められた第2の相関関係のデータを画像形成装置10内のストレージ等に保存し得る。第2の相関関係のデータは、任意のフォーマットで表現され得る。
【0080】
ある局面において、第2の相関関係のデータは、リレーショナルデータベースのテーブル、リスト、テキスト、CSVまたはJSON等の他の任意のフォーマットで表現されてもよい。画像形成装置10は、図6に示される第1の相関関係のデータを参照することで、ニップ位置の定着ベルトの現在の温度を取得し得る。または、画像形成装置10は、第1の相関関係のデータを参照することで、ニップ位置の近傍の定着ベルトの現在の温度を取得し得る。いずれにしても、画像形成装置10は、第1の相関関係のデータを参照することで、定着ベルトのクリープが発生する可能性が高い位置の現在の温度を取得し得る。次に、画像形成装置10は、第2の相関関係のデータを参照することで、定着ベルトの現在の温度に対応するクリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離を取得し得る。
【0081】
他の局面において、画像形成装置10は、定着ベルトの現在の温度から、クリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離を算出するプログラムを備えていてもよい。当該プログラムは、実験により予め求められた第2の相関関係のデータを回帰分析した式を実行するプログラムとして実装され得る。画像形成装置10は、定着ベルトの現在の温度のデータを当該プログラムに入力することで、クリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離を算出し得る。
【0082】
第2の相関関係に示されるクリープ解消に必要な定着ベルトの回転距離は、クリープ解消に必要な最低限度の回転距離であるとも言える。すなわち、第2の相関関係に示される回転距離とは、クリープを確実に解消しつつ、ウォーミングアップ動作を可能な限り短縮するための回転距離であると言える。すなわち、画像形成装置10は、第2の相関関係を参照して、ウォーミングアップ動作における定着ベルトの回転距離を決定することで、従来技術よりもクリープをより確実に解消する。それと共に、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作の時間を可能な限り短く設定し得る。
【0083】
図7を参照した説明において、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作における定着ベルトの回転距離を設定している。すなわち、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作における1つのパラメーターのみを調整している。しかしながら、これは一例にすぎず、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作における1つ以上のパラメーターを調整し得る。1つ以上のパラメーターは、定着ベルトの回転距離、定着ベルトの回転時間、定着ベルトの回転速度、定着ベルトの目標温度等を含み得る。画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを調整するとする。この場合、第2の相関関係のデータは、定着ベルトの温度と、調整される1つ以上のパラメーターとの相関関係を示す。
【0084】
一例として、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトの回転距離または回転時間を調整してもよい。他の例として、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトの回転距離または回転時間と、定着ベルトの目標温度とを調整してもよい。他の例として、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトの回転距離または回転時間と、定着ベルトの回転速度とを調整してもよい。他の例として、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、定着ベルトの目標温度と、定着ベルトの回転速度とを調整してもよい。他の例として、画像形成装置10は、定着ベルトの回転距離または回転時間と、定着ベルトの目標温度と、定着ベルトの回転速度とを調整してもよい。すなわち、1つ以上のパラメーターの一部が固定されており、一部が調整可能であってもよい。また、1つ以上のパラメーターの全てが調整可能であってもよい。
【0085】
一例として、第2の相関関係は、テーブル750のように実現され得る。テーブル750は、クリープ解消時間の項目751と、クリープ解消距離の項目752と、クリープ時間の項目753と、ニップ位置の温度の項目754とを含む。クリープ解消時間の項目751は、ウォーミングアップ動作のパラメーターの1つを示す。クリープ解消時間の項目751は、グラフ700の縦軸に対応し得る。クリープ解消距離の項目752は、ウォーミングアップ動作のパラメーターの1つを示す。クリープ解消距離の項目752は、グラフ700の縦軸に対応し得る。クリープ時間の項目753は、定着ベルトが停止した状態で経過した時間を示し得る。クリープ時間の項目753は、グラフ600の横軸に対応し得る。ニップ位置の温度の項目754は、ニップ位置における定着ベルトの温度を示し得る。ニップ位置の温度の項目754は、グラフ600の縦軸、および、グラフ700の横軸に対応し得る。
【0086】
ある局面において、テーブル750は、定着ベルトの目標温度および回転速度等の他のパラメーターを含んでもよい。この場合、画像形成装置10は、テーブル750を参照することで、定着ベルトの現在の温度に対応する、1つ以上のパラメーターの組み合わせを選択し得る。
【0087】
図8は、ウォーミングアップ動作によりクリープが解消する様子の一例を示す図である。図8を参照して、ウォーミングアップ動作の終了条件について説明する。図8における横軸は、ウォーミングアップ動作の時間または定着ベルトの回転時間を示す。縦軸は、定着ベルトの温度を示す。グラフ830は、定着ベルトの温度の推移を示す。定着ベルトの温度は、温度センサー230,330によって計測される。グラフ830に含まれる一時的に温度が下がるポイント850は、定着ベルトのクリープ発生位置の温度である。
【0088】
図6および図7を参照して説明した通り、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する。そして、画像形成装置10は、決定した1つ以上のパラメーターに基づいて、ウォーミングアップ動作を実行する。
【0089】
一例として、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、2つのパラメーターを決定したとする。より具体的には、画像形成装置10は、定着ベルトの目標温度を「110℃」に決定したとする。また、画像形成装置10は、定着ベルトの回転時間を「10秒」に決定したとする。定着ベルトの回転時間は、ウォーミングアップ動作の実行時間と読み替えられてもよい。この場合、画像形成装置10は、決定された2つのパラメーターの両方の条件が満たされた時点でウォーミングアップ動作を終了する。すなわち、画像形成装置10は、定着ベルトの温度が「110℃」になり、定着ベルトの回転時間が「10秒」になった時点で、ウォーミングアップ動作を終了する。
【0090】
図8を例に説明すると、閾値810は、パラメーターの1つである定着ベルトの目標温度「110℃」を示す。閾値820は、パラメーターの1つである定着ベルトの回転時間「10秒」を示す。グラフ830が閾値810,820の両方を超えた時点で、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作を終了する。グラフ830が閾値810,820を超えた後には、一時的に温度が下がるポイント850は観測されていない。すなわち、クリープは解消していることが分かる。
【0091】
上記の例において、ウォーミングアップ動作のパラメーターは、定着ベルトの目標温度および回転時間であったが、これは一例にすぎない。ウォーミングアップ動作のパラメーターは、定着ベルトの目標温度、回転時間、回転距離および回転速度の少なくとも1つまたは任意の組み合わせを含み得る。
【0092】
図8を参照して説明した通り、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定し得る。そして、画像形成装置10は、決定された1つ以上のパラメーターの全てが満たされた時点で、ウォーミングアップ動作を終了する。1つ以上のパラメーターは、満たされるべき条件でもあるため、1つ以上の目標値と読み替えられてもよい。これにより、画像形成装置10は、従来技術よりもクリープをより確実に解消し得る。それと共に、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作の時間を可能な限り短く設定し得る。
【0093】
一例として、画像形成装置10は、定着ベルトの目標温度および回転距離を満たしたことに基づいて、ウォーミングアップ動作を完了し得る。他の例として、画像形成装置10は、定着ベルトの目標温度および回転時間を満たしたことに基づいて、ウォーミングアップ動作を完了し得る。
【0094】
また、図2および図3を参照して説明した通り、画像形成装置10は、定着ベルトの温度を計測するための温度センサー230,330を備える。画像形成装置10の制御部は、温度センサー230,330の出力信号に基づいて、定着ベルトの温度が、目標温度に到達したか否かを判定し得る。当該制御部は、制御部150,270,370のいずれであってもよい。
【0095】
図9は、ウォーミングアップ動作の実行期間の調整の一例を示す図である。図9における横軸は、ウォーミングアップ動作の実行期間を示す。縦軸は、定着ベルトの温度を示す。グラフ900は、従来技術のウォーミングアップ動作による定着ベルトの温度の推移を示す。グラフ910は、画像形成装置10によるウォーミングアップ動作による定着ベルトの温度の推移を示す。終了時間930は、ウォーミングアップ動作の標準の終了時間である。従来技術は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを調整することができない。そのため、従来技術を使用する場合、ウォーミングアップ動作の終了時間は、常に、終了時間930となる。
【0096】
これに対して、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを調整し得る。すなわち、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作期間を調整し得る。ウォーミングアップ動作期間は、定着ベルトの回転時間と読み替えられてもよい。一例として、定着ベルトの温度が非常に低くなっている場合、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作期間を通常よりも延長し得る。図9の例では、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作の終了時間930を終了時間930Bに変更し得る。これにより、画像形成装置10は、従来技術よりもクリープをより確実に解消し得る。逆に、定着ベルトの温度があまり低くなっていない場合、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作期間を通常よりも短縮し得る。図9の例では、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作の終了時間930を終了時間930Aに変更し得る。これにより、画像形成装置10は、従来技術よりもウォーミングアップ動作を短くし得る。また、画像形成装置10は、従来技術と異なり、ウォーミングアップ動作期間だけでなく、定着ベルトの目標温度も調整し得る。
【0097】
このように、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作期間および定着ベルトの目標時間等を柔軟に変更し得る。結果として、画像形成装置10は、従来技術よりも、クリープをより確実に解消し、ウォーミングアップ動作を可能な限り短くし得る。ある局面において、「定着ベルトの温度に基づく」ことは、「定着ベルトの弾性率に基づく」と読み替えられてもよい。
【0098】
<D.画像形成装置の処理手順>
【0099】
図10は、画像形成装置の動作手順の一例を示す図である。ある局面において、制御部150,270,370のいずれかが図10に示される各処理を実行し得る。また、他の局面において、制御部150および制御部270が協業して、図10に示される各処理を実行してもよい。また、他の局面において、制御部150および制御部370が協業して、図10に示される各処理を実行してもよい。
【0100】
図10に示される処理を実行する制御部は、図10の処理を行うためのプログラムをストレージ等からメモリーに読み込んで、当該プログラムを実行し得る。または、当該処理の一部または全部は、当該処理を実行するように構成された回路素子の組み合わせとしても実現され得る。
【0101】
ステップS1010において、画像形成装置10は、印字コマンドを取得する。印字コマンドは、印刷ジョブと読み替えられてもよい。ある局面において、画像形成装置10は、本体の操作パネルから、印字コマンドを受け付け得る。他の局面において、画像形成装置10は、ネットワークを介して、ユーザーの端末から、印字コマンドを受け付け得る。
【0102】
ステップS1020において、画像形成装置10は、ニップ位置およびその近傍における定着ベルトの温度を検知または推定する。すなわち、画像形成装置10は、定着ベルトのクリープが発生する可能性が高い位置の温度を検知または推定する。
【0103】
ステップS1030において、画像形成装置10は、クリープ量を推定する。クリープ量は、定着ベルトの歪みの大きさを示す。ある局面において、画像形成装置10は、定着ベルトの温度と定着ベルトのクリープ量の相関関係のデータを保有していてもよい。この場合。画像形成装置10は、当該相関関係のデータを参照することで、クリープ量を推定し得る。他の局面において、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定するとする。この場合、画像形成装置10は、ステップS1030の処理を実行しなくてもよい。
【0104】
ステップS1040において、画像形成装置10は、クリープ量に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する。または、画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを決定する。1つ以上のパラメーターは、定着ベルトの目標温度、回転時間、回転距離および回転速度の1つ以上を含む。また、これらのパラメーターの一部は、固定値であってもよい。
【0105】
ステップS1050において、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作を開始する。画像形成装置10は、連続して印字コマンドを受け付けることもある。そのため、定着ベルトにクリープが発生していない場合、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作を実行しなくてもよい。一例として、画像形成装置10は、定着ベルトの温度から、クリープが発生しているか否かを判定し得る。
【0106】
ステップS1060において、画像形成装置10は、決定された1つ以上のパラメーターの全てが満たされたか否かを判定する。1つ以上のパラメーターは、満たされるべき条件でもあるため、1つ以上の目標値と読み替えられてもよい。一例として、画像形成装置10は、定着ベルトの目標温度および回転時間の両方が満たされたか否かを判定し得る。他の例として、画像形成装置10は、定着ベルトの目標温度および回転距離の両方が満たされたか否かを判定し得る。画像形成装置10は、決定された1つ以上のパラメーターの全てが満たされたと判定した場合(ステップS1060にてYES)、制御をステップS1070に移す。そうでない場合(ステップS1060にてNO)、画像形成装置10は、制御をステップS1060に移す。
【0107】
ステップS1070において、画像形成装置10は、印字処理を開始する。すなわち、画像形成装置10は、媒体160に画像を印刷する処理を開始する。ステップS1080において、画像形成装置10は、印字処理を終了する。
【0108】
<E.まとめ>
【0109】
以上の説明の通り、本実施の形態に従う画像形成装置10は、定着ベルトの温度に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを調整または決定し得る。または、画像形成装置10は、クリープ量に基づいて、ウォーミングアップ動作の1つ以上のパラメーターを調整または決定し得る。これにより、画像形成装置10は、従来技術よりもクリープをより確実に解消し得る。それと共に、画像形成装置10は、ウォーミングアップ動作の時間を可能な限り短く設定し得る。
【0110】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された開示内容は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0111】
10 画像形成装置、100,200,300 定着部、102 給紙部、104 現像部、106 中間転写ベルト、108 搬送ローラー、110 転写ローラー、112 排紙ローラー、114 排紙部、120 搬送路、150,270,370 制御部、160 媒体、210,310 パッド、220,320 ヒーター、230,330 温度センサー、240,340 加熱部、250,350 定着ベルト、260,360 加圧ローラー、280,380 ニップ位置、290,390 近傍、410 クリープ、420 画像、430 一部、510,520,530,710,720,850 ポイント、550,600,700,830,900,910 グラフ、750 テーブル、751 クリープ解消時間の項目、752 クリープ解消距離の項目、753 クリープ時間の項目、754 ニップ位置の温度の項目、810,820 閾値、930,930A,930B 終了時間。
図1
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図10