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  • 特開-水硬性化合物 図1
  • 特開-水硬性化合物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010118
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】水硬性化合物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20250109BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20250109BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20250109BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B14/28
C04B18/08 Z
C04B18/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108532
(22)【出願日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2023111377
(32)【優先日】2023-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亘
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓
(72)【発明者】
【氏名】小宮 克仁
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA27
4G112PA28
4G112PA29
4G112PC14
(57)【要約】
【課題】セメントを用いず凍結融解抵抗性の改善された水硬性化合物を提供する。
【解決手段】水硬性化合物粉は体と水とを含み、粉体はセメント以外の粉体からなり、比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を、前記粉体中の容積比で30%以上含む。また、他の水硬性化合物は粉体と水とを含み、粉体はセメント以外の粉体からなる。粉体は、比表面積3500cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を粉体中の容積比で80%以上含む。粉体に対する水の容積比は0.43以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体と水とを含み、
前記粉体はセメント以外の粉体からなり、比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を前記粉体中の容積比で30%以上含む、水硬性化合物。
【請求項2】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を、前記粉体中の容積比で80%以上含む、請求項1に記載の水硬性化合物。
【請求項3】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、シリカフュームと、膨張材のみからなる、請求項2に記載の水硬性化合物。
【請求項4】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、比表面積3500cm2/g以上5000cm2/g未満の高炉スラグ微粉末を、前記粉体中の容積比で合計80%以上含む、請求項1に記載の水硬性化合物。
【請求項5】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、前記比表面積3500cm2/g以上5000cm2/g未満の高炉スラグ微粉末と、シリカフュームと、膨張材のみからなる、請求項4に記載の水硬性化合物。
【請求項6】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末とフライアッシュを、前記粉体中の容積比で合計80%以上含む、請求項1に記載の水硬性化合物。
【請求項7】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、フライアッシュと、シリカフュームと、膨張材のみからなる、請求項6に記載の水硬性化合物。
【請求項8】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末を、前記粉体中の容積比で合計80%以上含む、請求項1に記載の水硬性化合物。
【請求項9】
前記粉体は、前記比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、シリカフュームと、膨張材のみからなる、請求項8に記載の水硬性化合物。
【請求項10】
前記粉体に対する水の容積比が0.37以上0.50以下である、請求項1に記載の水硬性化合物。
【請求項11】
粉体と水とを含み、
前記粉体はセメント以外の粉体からなり、比表面積3500cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を前記粉体中の容積比で80%以上含み、前記粉体に対する前記水の容積比が0.43以下である水硬性化合物。
【請求項12】
前記粉体は、前記比表面積3500cm2/g以上5000cm2/g未満の高炉スラグ微粉末と、シリカフュームと、膨張材のみからなる、請求項11に記載の水硬性化合物。
【請求項13】
前記粉体はアルカリ刺激剤を含む、請求項1、2、4、6、8、10、11のいずれか1項に記載の水硬性化合物。
【請求項14】
前記アルカリ刺激剤は膨張材であり、前記粉体は前記膨張材を前記粉体中の容積比で2~3%含む、請求項13に記載の水硬性化合物。
【請求項15】
前記粉体はシリカ質微粉末を含む、請求項1、2、4、6、8、10、11のいずれか1項に記載の水硬性化合物。
【請求項16】
前記シリカ質微粉末はシリカフュームであり、前記粉体は前記シリカフュームを前記粉体中の容積比で14~16%含む、請求項15に記載の水硬性化合物。
【請求項17】
AE剤を含まない、請求項1から12のいずれか1項に記載の水硬性化合物。
【請求項18】
空気量が3.5%以下である、請求項1から12のいずれか1項に記載の水硬性化合物。
【請求項19】
材齢28日、20℃封緘での圧縮強度が98N/mm2以上である、請求項1から12のいずれか1項に記載の水硬性化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメントを含まない水硬性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出量を低減する目的でセメントを含まない水硬性化合物が検討されている。非特許文献1~3には、高炉スラグを含みセメントを含まないコンクリート組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「混和材を大量に使用したコンクリート構造物の設計・施工指針(案)」、土木学会
【非特許文献2】堀口賢一、松元淳一、河村圭亮、坂本淳、「低炭素型コンクリートを使用したコンクリート二次製品の開発」、2016年、コンクリート工学年次論文集、Vol.38、No.1
【非特許文献3】畑実、佐藤誠、宮澤伸吾、「セメントを使わない硬化体の各種プレキャストコンクリート製品への適用に関する研究」、2023年、土木学会論文集、Vol.79、No.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1~3には、セメントを用いない水硬性化合物は凍結融解抵抗性が劣る傾向にあることが記載されている。本発明は、セメントを用いず凍結融解抵抗性の改善された水硬性化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、水硬性化合物は粉体と水とを含み、粉体はセメント以外の粉体からなる。粉体は、比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を粉体中の容積比で30%以上含む。
【0006】
本発明の他の態様によれば、水硬性化合物は粉体と水とを含み、粉体はセメント以外の粉体からなる。粉体は、比表面積3500cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を粉体中の容積比で80%以上含む。粉体に対する水の容積比は0.43以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セメントを用いず凍結融解抵抗性の改善された水硬性化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例と比較例の相対動弾性係数を示すグラフ及び表である。
図2】実施例と比較例の質量減少率を示すグラフ及び表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施例と比較例に基づいて本発明を説明する。各実施例と比較例は、粉体と水と細骨材と粗骨材とを含む水硬性化合物(コンクリート)である。粉体はセメント以外の粉体からなり、従って、各実施例と比較例はセメントを含まない水硬性化合物である。表1は各実施例と比較例で用いた材料の仕様及び物性を示す。表2は各実施例と比較例の水硬性組成物の組成を示す。表中、W/Pは粉体に対する水の質量比及び容積比を、s/morはモルタル細骨材容積比(モルタル容積に対する細骨材容積の比)、s/aは細骨材比(全骨材容積に対する細骨材容積の比)を示す。表3は各実施例と比較例における粉体の各成分の質量比を、表4は各実施例と比較例における粉体の各成分の容積比を示す。粉体に対する水の容積比(W/P)は誤差を考慮すれば、0.37以上0.50以下の範囲にある。なお、本明細書において粉体の「容積」は絶対容積(粉体粒子中の空隙は含み、粉体粒子間の空隙は含まない容積)を意味する。実施例1-1~1-4をまとめて実施例1、実施例2-1~2-4をまとめて実施例2、実施例3-1~3-3をまとめて実施例3、実施例4-1~4-2をまとめて実施例4という場合がある。
【0010】
【表1】
【0011】
【表2】
【0012】
【表3】
【0013】
【表4】
【0014】
各実施例と比較例はいずれも、粉体としてJIS A6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定される高炉スラグ微粉末6000(BF6)と高炉スラグ微粉末4000(BF4)の少なくともいずれかを含んでいる。高炉スラグ微粉末6000の比表面積は5000cm2/g以上7000cm2/g未満、高炉スラグ微粉末4000の比表面積は3500cm2/g以上5000cm2/g未満である。
【0015】
表2~4に示すように、実施例1は、高炉スラグ微粉末として高炉スラグ微粉末6000のみを含んでいる。高炉スラグ微粉末6000の粉体中の質量比及び容積比は80%以上である。実施例2は高炉スラグ微粉末として、高炉スラグ微粉末6000と高炉スラグ微粉末4000を含んでいる。高炉スラグ微粉末6000と高炉スラグ微粉末4000を合わせたものの粉体中の質量比及び容積比は80%以上である。実施例3―1と3-2は高炉スラグ微粉末として高炉スラグ微粉末4000のみを含み、さらに粉体としてフライアッシュを含んでいる。高炉スラグ微粉末4000とフライアッシュを合わせたものの粉体中の質量比及び容積比は80%以上である。実施例3―3は高炉スラグ微粉末として高炉スラグ微粉末4000のみを含み、さらに粉体として石灰石微粉末を含んでいる。高炉スラグ微粉末4000と石灰石微粉末を合わせたものの粉体中の容積比は80%以上である。実施例4と比較例は、高炉スラグ微粉末として高炉スラグ微粉末4000のみを含んでいる。高炉スラグ微粉末4000の粉体中の質量比及び容積比は80%以上である。
【0016】
粉体はアルカリ刺激材を含む。アルカリ刺激材は高炉スラグ微粉末の表面のpHを上昇させ、セメントの水和反応に類似した水和反応を生じさせる。アルカリ刺激材としてはpHを上昇させる性質を有していれば特に限定されないが、各実施例と比較例では膨張材を使用した。粉体は膨張材を、粉体中の容積比で2~3%含むことが好ましい。
【0017】
粉体はシリカ質微粉末を含む。シリカ質微粉末は二酸化ケイ素(SiO2)からなり、または二酸化ケイ素を主成分として含む微粉末である。ケイ酸物質はアルカリ環境下で水和反応に類似したポゾラン反応を生じる。従って、シリカ質微粉末は硬化促進材としての機能を有している。各実施例と比較例ではシリカ質微粉末としてシリカフュームを使用した。シリカフュームは水硬性化合物の流動性を高める効果も有する。粉体はシリカフュームを、粉体中の容積比で合計14~16%含むことが好ましい。
【0018】
各実施例と比較例はAE剤を含んでいない。AE剤は微細な独立空気泡を連行する一種の界面活性剤である。
【0019】
実施例1の粉体は、比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、シリカフュームと、膨張材のみからなる。実施例2の粉体は、比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、比表面積3500cm2/g以上5000cm2/g未満の高炉スラグ微粉末と、シリカフュームと、膨張材のみからなる。実施例3の粉体は、比表面積5000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末と、フライアッシュ(実施例3-1、3-2)または石灰石微粉末(実施例3-3)と、シリカフュームと、膨張材のみからなる。実施例4の粉体は、比表面積3500cm2/g以上5000cm2/g未満の高炉スラグ微粉末と、シリカフュームと、膨張材のみからなる。
【0020】
図1(a)は、実施例と比較例についての相対動弾性係数のグラフを、図1(b)はその数値を示している。図2(a)は、実施例と比較例についての質量減少率のグラフを、図2(b)はその数値を示している。相対動弾性係数と質量減少率は、JIS A1148:2010「コンクリートの凍結融解試験方法」に規定される水中凍結融解試験方法(A法)に基づいて求めた。300サイクル経過時に相対動弾性係数が初期値の60%以上であれば、凍結融解抵抗性に優れると評価できる。相対動弾性係数は、比較例では170サイクル程度で初期値の60%を下回ったのに対し、各実施例では300サイクル経過時でも初期値の60%を上回り、ほとんど実施例では概ね初期値の90%程度以上にとどまった。これより、各実施例は凍結融解抵抗性に優れていることが分かった。
【0021】
実施例1~3は高炉スラグ微粉末6000を、粉体中の質量比及び容積比で30%以上含んでいる。高炉スラグ微粉末6000を用いることで凍結融解抵抗性が向上するのは、高炉スラグ微粉末6000の高い粉末度によって水硬性化合物の組織がより緻密化しやすくなったためであると考えられる。その理由として、水和反応が速く進行することが考えられる。また、高い粉末度によって粉体の充填性が向上することも組織の緻密化に寄与している可能性がある。表1には各実施例と比較例の圧縮強度を示すが、各実施例は比較例より圧縮強度が高く、水和反応が速く進行したと考えられる。実施例1~3はいずれも材齢28日、20℃封緘での圧縮強度が99N/mm2以上であった。
【0022】
高炉スラグ微粉末として高炉スラグ微粉末4000のみを含む実施例4も優れた凍結融解抵抗性を示した。ただし、実施例4と比較例では粉体の組成は同じであり、粉体に対する水の容積比(W/P)のみが異なる。これより、高炉スラグ微粉末として高炉スラグ微粉末4000のみを含む場合は、W/Pを調整することで凍結融解抵抗性を改善することが可能であり、特にW/Pを0.43以下にすることが好ましく、0.4以下にすることがより好ましいことが分かった。また、実施例4の材齢28日、20℃封緘での圧縮強度は98N/mm2以上であった。
【0023】
前述のように各実施例はAE剤を含んでいない。AE剤は凍結融解抵抗性の向上に寄与することが知られている。これはAE剤により連行された空気泡が一種のクッションの作用を果たすためと考えられている。しかし、適切な空気量に調整するためにはAE剤の配合について細かな調整が必要である。各実施例はこのようなAE剤を必要とせず配合が容易である。
【0024】
次に、非特許文献1~3に記載されたデータについて検討した。表5は使用した材料の仕様及び物性を示す。表6はコンクリートの配合と凍結融解抵抗性を示す。凍結融解抵抗性は、サイクルの増加に伴い相対動弾性係数が急激に低下しているものを「NG」で表示し、サイクルが増加しても相対動弾性係数がほとんど変化していないものを「OK」で表示した。
【0025】
【表5】
【0026】
【表6】
【0027】
表5、6に示す全ての比較例は高炉スラグ微粉末を含んでいるが、すべて比表面積が5000cm2/g未満のBF4であった。このため、ほとんどの比較例では凍結融解抵抗性がNGとなった。比較例1-1は凍結融解抵抗性がOKであるが、空気量が6%と非常に多い。一方、比較例1-3は凍結融解抵抗性がNGであるが、比較例1-1とは用いたAE剤が異なっており、空気量の差異は小さい。このことは、この種のコンクリートにおいて凍結融解抵抗性を確保するためには、単にAE剤によって連行される空気量を確保するだけでなく、用いるAE剤も適切に選定する必要があることを意味する。これに対し、各実施例はAE剤による微細な空気泡の連行を行っていない。空気量の実測値は1.4~3.4%の範囲であり、誤差を考慮しても概ね3.5%以下となった。また、実施例2-1と2-2の比較より、空気量の変動による相対動弾性係数への大きな影響も認められなかった(図1参照)。
【0028】
比較例3-2は凍結融解抵抗性がOKであるが、AE剤の添加量が非常に多い。非特許文献1にはAE剤の選定が不適切であると凍結溶解抵抗性が劣る場合のあることが報告されており、AE剤の選定には注意を要する。比較例3-3は凍結融解抵抗性がOKであるが、パラフィン系エマルジョンという特殊な材料を使用している。実施例ではAE剤を用いておらず、また、パラフィン系エマルジョンのような特殊な材料も使用していない。このように、各実施例は先行技術と比べても、比較的単純な組成で凍結融解抵抗性の向上が可能であることが理解できる。
【0029】
以上実施例と比較例を用いて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されない。各実施例では高炉スラグ微粉末6000を用いたが、JIS A6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定される高炉スラグ微粉末8000(比表面積7000cm2/g以上10000cm2/g未満)を用いてもよい。また、各実施例は粗骨材を含むが、粗骨材を含まないモルタルも本発明の範囲に含まれる。
図1
図2