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特開2025-101243架橋剤組成物、ゴム組成物、及びゴム成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101243
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】架橋剤組成物、ゴム組成物、及びゴム成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20250630BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20250630BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20250630BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20250630BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L21/00
C08K3/36
C08K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217945
(22)【出願日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 愛輝
(72)【発明者】
【氏名】長井 浩幸
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC111
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB151
4J002BB181
4J002BB241
4J002BD121
4J002BG021
4J002BN151
4J002CK021
4J002CP031
4J002DJ016
4J002EK087
4J002FD016
4J002FD147
(57)【要約】
【課題】機械的物性に優れたゴム成形品が得られ、安全性に優れる架橋剤組成物を提供すること。
【解決手段】有機過酸化物(A)とシリカ(B)を含有する架橋剤組成物であって、前記有機過酸化物(A)は下記一般式(1):(一般式(1)中、nは2~6であり、R及びRは独立して炭素数が4~6のアルキル基である。)で表される有機過酸化物であり、前記シリカ(B)は吸油量が100~500mL/100gのシリカである架橋剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機過酸化物(A)とシリカ(B)を含有する架橋剤組成物であって、
前記有機過酸化物(A)は一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、nは2~6であり、R及びRは独立して炭素数が4~6のアルキル基である。)で表される有機過酸化物であり、
前記シリカ(B)は吸油量が100~500mL/100gのシリカであることを特徴とする架橋剤組成物。
【請求項2】
前記架橋剤組成物中、前記有機過酸化物(A)の割合が30質量%~60質量%であり、前記シリカ(B)の割合が40質量%~70質量%であることを特徴とする請求項1に記載の架橋剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の架橋剤組成物とゴムを含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のゴム組成物から得られることを特徴とするゴム成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋剤組成物、ゴム組成物、及びゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーやゴムを含むゴム組成物から得られるゴム架橋物は、安価で、且つ弾性やシール性、圧縮永久歪などの物性に優れることから、自動車部品や電子機器、建材などに広く使用されている。このようなゴム組成物の架橋には、架橋剤として有機過酸化物が用いられる。
【0003】
自動車の長寿命化による環境負荷低減のために、使用するホース、ブーツ、エンジンマウント等のゴム部品の耐久性を向上させるための、耐熱性や強度および伸びといった機械的物性の向上が求められている。ゴム部品の耐熱性を向上させるためには、有機過酸化物を架橋剤として用いることが有効である。
【0004】
また、有機過酸化物は消防法第5類の自己反応性物質に分類される危険物であり、取り扱いに注意を要する物質であるため、安全性の高い製品が望まれる。
【0005】
上記のような有機過酸化物の組成物として、有機過酸化物をシリカ、炭酸カルシウムまたはクレーなどの充填剤に含浸させたものがあり、例えば1種又は2種以上の有機過酸化物、1種又は2種以上の合成ゴム、及びシリカを含む濃縮された架橋マスターバッチが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003―524024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゴム成形品は、ゴムと有機過酸化物をあらかじめロール等で予備混錬した後、加熱することで成形して得られる。ゴム成形品の機械的物性を向上させるために高分子量のゴムを使用する場合があるが、予備混錬の際のせん断力が大きく発熱しやすくなり、有機過酸化物が分解することで、意図しない架橋反応が進行する。この状態の予備混錬物の架橋を行った場合、ゴム成形品の架橋構造が不均一となり、機械的物性が低下してしまうといった問題を有する。
【0008】
特許文献1の架橋剤組成物を高分子量のゴムに適用した場合、予備混錬の際の発熱により、意図しない架橋反応が進行し、十分な機械的物性を得ることが出来ない。
【0009】
以上のような事情を鑑み、本発明では、機械的物性に優れたゴム成形品が得られ、安全性に優れる架橋剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、有機過酸化物(A)とシリカ(B)を含有する架橋剤組成物であって、前記有機過酸化物(A)は一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、nは2~6であり、R及びRは独立して炭素数が4~6のアルキル基である。)で表される有機過酸化物であり、前記シリカ(B)は吸油量が100~500mL/100gのシリカである架橋剤組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、前記架橋剤組成物とゴムを含有するゴム組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、前記ゴム組成物から得られるゴム成形品に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械的物性に優れたゴム成形品が得られ、安全性に優れる架橋剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の架橋剤組成物は、有機過酸化物(A)とシリカ(B)を含む。
【0015】
<有機過酸化物(A)>
前記有機過酸化物(A)は下記一般式(1)で表される有機過酸化物である。
【化2】
(一般式(1)中、nは2~6であり、R及びRは独立して炭素数が4~6のアルキル基である。)
【0016】
前記有機過酸化物(A)の合成方法は公知の手法を適用できる。得られるゴム成形品の機械的物性の観点から、一般式(1)中、nは4~6であることが好ましく、R及びRは独立して炭素数が4~5のアルキル基であることが好ましい。アルキル基としては直鎖、分岐いずれであってもよいが、ゴム成形品の機械的物性の観点から分岐であることが好ましく、tert-アルキル基であることがより好ましい。また、前記有機過酸化物(A)は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
<シリカ(B)>
前記シリカ(B)は吸油量が100~500mL/100gのシリカである。前記シリカとは高純度なケイ酸ナトリウムを酸性物質と中和させて生成されたものである。前記シリカは、架橋剤組成物の安全性と、得られるゴム成形品の機械的物性の観点から、吸油量が150~450mL/100gであることが好ましく、150~400mL/100gであることがより好ましい。前記吸油量は、JIS K 5101-13-1に準じて求める。また、前記シリカの平均二次粒子径は1~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。前記粒子径はJIS Z 8825(レーザー回折法)準じて求める。前記シリカは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
前記シリカの市販品としては、例えば、商品名:「ニップシールER」、「ニップシールER-R」(以上、東ソーシリカ製)、商品名:「トクシール532」(オリエンタルシリカ製)、商品名:「ゼオシール500V」(多木化学製)、商品名:「カープレックス♯67」(EVONIK製)などが挙げられる。
【0019】
以下、本発明の架橋剤組成物の各成分の配合量について説明する。
【0020】
前記架橋剤組成物中、前記有機過酸化物(A)の割合は、架橋剤組成物の安全性と、得られるゴム成形品の機械的物性の観点から、30質量%~60質量%であることが好ましく、40質量%~50質量%であることがより好ましい。
【0021】
前記架橋剤組成物中、前記シリカ(B)の割合は、架橋剤組成物の安全性と、得られるゴム成形品の機械的物性の観点から、40質量%~70質量%であることが好ましく、50質量%~60質量%であることがより好ましい。
【0022】
前記架橋剤組成物には、前記有機過酸化物(A)以外の有機過酸化物、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、ステアリン酸などの滑剤などを配合してもよい。
【0023】
<架橋剤組成物の製造方法>
本発明の架橋剤組成物の製造方法は、上記の各成分を混合することにより得ることができる。混合方法は、粉体の加工で一般的に用いられている公知の手法を使用することができ、例えば、ポニーミキサー、リボコーンミキサー、コンテナミキサーなどの混合機が使用可能である。
【0024】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、前記架橋剤組成物とゴムを含有する。
【0025】
前記ゴムとしては、前記有機過酸化物(A)による架橋を必要とする公知のものが使用でき、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、天然ゴム(NR)、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン、ポリアクリル酸エステル、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン3元共重合体、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、塩素化ポリエチレンなどが挙げられる。前記ゴムは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。前記ゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は50以上が好ましい。前記ムーニー粘度はJIS K 6300-1に準じて求める。
【0026】
前記ゴム組成物において、前記架橋剤組成物は、前記ゴム100質量部に対して、1質量部~10質量部であることが好ましい。前記架橋剤組成物は、ゴム成形品の機械的物性の観点から、前記ゴム100質量部に対して、1質量部~5質量部であることがより好ましい。
【0027】
また、前記ゴム組成物は、ゴムの加工で一般的に使用される充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、難燃化剤、カーボンブラック、プロセスオイルなどの可塑剤、ステアリン酸などの滑剤などのその他の成分を任意の割合で配合することができる。前記その他の成分は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0028】
<ゴム成形品>
本発明のゴム成形品は、前記ゴム組成物を架橋して得られる。本発明の架橋剤組成物は、優れた安全性、機械的物性に優れたゴム成形品が得られるため、自動車用のホース、ブーツ、エンジンマウントゴム成形品の架橋剤として好適である。
【実施例0029】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0030】
各実施例および比較例で使用した有機過酸化物を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
各実施例および比較例で使用したシリカ(B)を表2に示す。但し、B´-3はシリカではなく、珪藻土を使用した。
【0033】
【表2】
【0034】
表2中、
B-1は、商品名:「Nipsil WE-1011」(東ソーシリカ製);
B-2は、商品名:「CARPLEX FPS-101」(EVONIK製);
B-3は、商品名:「Godd Ball SF-16C」(鈴木油脂工業製);
B´-1は、商品名:「SYLYSIA 740」(富士シリシア化学社製);
B´-2は、商品名:「エアリカ」(TOKUYAMA製);
B´-3は、商品名:「オプライト W-3005S」(中央化成製)である。
【0035】
<架橋剤組成物の製造>
表3に示す組成で、ホイッパーを取り付けたスリーワンモーター(新東科学製)を用いて各原料を混合して、架橋剤組成物を調製した。
【0036】
<安全性>
安全性の評価は、消防法危険物判定試験法-第5類自己反応物質-に従って行った。調製した架橋剤組成物に対して消防法危険物判定試験法に準ずる評価を実施した結果、非危険物に該当するものを○、第5類危険物に該当するものを×とした。
【0037】
【表3】
【0038】
合成例1~6および比較合成例1~2より、シリカを含む場合に非危険物となり、珪藻土を含む場合に第5類危険物となった。
【0039】
<機械的物性>
表4に示す組成で、二本ロールを用いて架橋剤組成物、ゴム、カーボンブラックを混錬しゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を160℃、10MPaに設定した加熱プレスで15分間架橋し、シート状のゴム成形物を成形した。シートからJIS3号ダンベル試験片を打ち抜き、JIS K 6251に準拠し、試験速度500mm/minにて強度(MPa)、伸び(%)を測定した。強度が10MPa以上のものを◎、10MPa未満9MPa以上のものを○、9MPa未満の場合を×とした。また、伸びが300%以上のものを◎、300%未満250%以上のものを○、250%未満の場合を×とした。なお、各評価は◎または○を合格とし、◎がより好ましい。
【0040】
【表4】
【0041】
表4中、
ゴムは、商品名:「ノーデル IP 4770P」(ダウケミカル製)、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)=70;
カーボンブラックは、商品名:「シースト3」(東海カーボン製)である。
【0042】
実施例1~6は、シリカの吸油量が100~500mL/100gの範囲であるため、架橋剤組成物の安全性と、ゴム成形品の強度と伸びが優れていた。
【0043】
比較例1、2は、シリカを使用したため、架橋剤組成物の安全性に優れるが、シリカの吸油量が100~500mL/100gの範囲を外れるため、ゴム成形品の強度と伸びが劣っていた。
【0044】
比較例3は、珪藻土を使用したため、ゴム成形品の強度と伸びは優れていたが、架橋剤組成物の安全性が劣っていた。