(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101294
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20250630BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20250630BHJP
【FI】
B25B21/00 Q
B25F5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218044
(22)【出願日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】田村 健悟
(72)【発明者】
【氏名】中澤 茉奈美
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 広明
(72)【発明者】
【氏名】吉江 俊浩
【テーマコード(参考)】
3C064
【Fターム(参考)】
3C064AA02
3C064AB02
3C064AC02
3C064AC03
3C064BA18
3C064BB32
3C064CA03
3C064CA06
3C064CA29
3C064CA53
3C064CB07
3C064CB17
3C064CB19
3C064CB28
3C064CB32
3C064CB62
3C064CB73
3C064CB83
(57)【要約】
【課題】工具保持装置における係合部材の脱落リスクを抑制した作業機を提供する。
【解決手段】作業機1の工具保持装置において、ガイドスリーブ40は、ガイドスリーブ40を前方位置に操作した場合にワッシャー44に当たり突き当て部46を有する。突き当て部46がワッシャー44に当たることで、ガイドスリーブ40の更なる前方への移動が規制される。突き当て部46がワッシャー44に当たった状態での前後方向におけるガイドスプリング43の長さは、ガイドスプリング43を構成する線材がガイドスプリング43の長さ方向に密着しガイドスプリング43の径方向に重なっていない密着状態での前後方向における長さ以上である。ガイドスプリング43は、前方ほど外径が小さくなる形状である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータによって回転される工具保持装置と、
を有する作業機であって、
前記工具保持装置は、
前後方向に延びるツールホルダであって、前方から後方に向かってビットを挿入可能な挿入穴と、前記ビットと係合可能な係合部材を前方位置と後方位置の間で移動可能に支持する長孔と、を有するツールホルダと、
前記ツールホルダの外周において前方位置と後方位置の間で移動可能なガイドスリーブであって、前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前方位置にあるときに、前記ツールホルダの径方向において前記係合部材の外側に位置して前記係合部材の前記径方向における外側への移動を規制する規制部を有するガイドスリーブと、
前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前記後方位置にあるときに、前記径方向において前記係合部材の外側に位置する第1弾性部材であって、前記後方位置にある前記係合部材が前記径方向における外側に移動すると弾性変形する第1弾性部材と、
前記ガイドスリーブの内周側に設けられ、前記ガイドスリーブを前記後方位置に向けて付勢する第2弾性部材と、を有し、
前記ツールホルダは、前記第2弾性部材の前方に位置して前記第2弾性部材の前方への脱落を防止する抜け止め部を有し、
前記ガイドスリーブは、前記ガイドスリーブの内周部に突き当て部を有し、
前記ガイドスリーブを前記前方位置に操作した場合に、前記突き当て部が前記抜け止め部に当たるよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機であって、
前記突き当て部は、前後方向において前記第2弾性部材の存在範囲内に位置する、
ことを特徴とする作業機。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機であって、
前記第2弾性部材はコイルスプリングであり、
前記突き当て部が前記抜け止め部に当たった状態において、前後方向における前記コイルスプリングの長さが、前記コイルスプリングを構成する線材が前記コイルスプリングの長さ方向に密着し前記コイルスプリングの径方向に重なっていない密着状態での長さ以上であるよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項4】
請求項3に記載の作業機であって、
前記コイルスプリングは、前方ほど外径が小さくなる形状である、
ことを特徴とする作業機。
【請求項5】
モータと、
前記モータによって回転される工具保持装置と、
を有する作業機であって、
前記工具保持装置は、
前後方向に延びるツールホルダであって、前方から後方に向かってビットを挿入可能な挿入穴と、前記ビットと係合可能な係合部材を前方位置と後方位置の間で移動可能に支持する長孔と、を有するツールホルダと、
前記ツールホルダの外周において前方位置と後方位置の間で移動可能なガイドスリーブであって、前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前方位置にあるときに、前記ツールホルダの径方向において前記係合部材の外側に位置して前記係合部材の前記径方向における外側への移動を規制する規制部を有するガイドスリーブと、
前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前記後方位置にあるときに、前記径方向において前記係合部材の外側に位置する第1弾性部材であって、前記後方位置にある前記係合部材が前記径方向における外側に移動すると弾性変形する第1弾性部材と、
前記ガイドスリーブの内周側に設けられ、前記ガイドスリーブを前記後方位置に向けて付勢する第2弾性部材と、を有し、
前記第2弾性部材が角バネである、
ことを特徴とする作業機。
【請求項6】
モータと、
前記モータによって回転される工具保持装置と、
を有する作業機であって、
前記工具保持装置は、
前後方向に延びるツールホルダであって、前方から後方に向かってビットを挿入可能な挿入穴と、前記ビットと係合可能な係合部材を前方位置と後方位置の間で移動可能に支持する長孔と、を有するツールホルダと、
前記ツールホルダの外周において前方位置と後方位置の間で移動可能なガイドスリーブであって、前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前方位置にあるときに、前記ツールホルダの径方向において前記係合部材の外側に位置して前記係合部材の前記径方向における外側への移動を規制する規制部を有するガイドスリーブと、
前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前記後方位置にあるときに、前記径方向において前記係合部材の外側に位置する第1弾性部材であって、前記後方位置にある前記係合部材が前記径方向における外側に移動すると弾性変形する第1弾性部材と、
前記ガイドスリーブの内周側に設けられた第1磁石と、を有し、
前記ツールホルダは、前記第1磁石の前方に位置して前記第1磁石に後方への反発力を付与する第2磁石を有し、
前記ガイドスリーブは、前記ガイドスリーブの内周部に突き当て部を有し、
前記ガイドスリーブを前記前方位置に操作した場合に、前記突き当て部が前記抜け止め部に当たるよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビットを保持する工具保持装置を備えた作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ビットを保持する工具保持装置を備えた作業機であって、ビットと係合可能な係合部材の外側にコイルバネからなる弾性部材を設けた電動工具が開示されている。特許文献2には、ビットを保持する工具保持装置を備えた作業機であって、ビットと係合可能な係合部材の外側にエラストマ、コイルスプリング又は金属製のセットリングからなる弾性部材を設け、弾性部材をガイドスリーブで支持させた電動工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3652918号
【特許文献2】特願2022-147562の出願公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、ビット等の先端工具を保持する工具保持装置において、先端工具と係合可能な係合部材が脱落するリスクを認識した。
【0005】
本発明の目的は、工具保持装置における係合部材の脱落リスクを抑制した作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、作業機である。この作業機は、
モータと、
前記モータによって回転される工具保持装置と、
を有する作業機であって、
前記工具保持装置は、
前後方向に延びるツールホルダであって、前方から後方に向かってビットを挿入可能な挿入穴と、前記ビットと係合可能な係合部材を前方位置と後方位置の間で移動可能に支持する長孔と、を有するツールホルダと、
前記ツールホルダの外周において前方位置と後方位置の間で移動可能なガイドスリーブであって、前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前方位置にあるときに、前記ツールホルダの径方向において前記係合部材の外側に位置して前記係合部材の前記径方向における外側への移動を規制する規制部を有するガイドスリーブと、
前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前記後方位置にあるときに、前記径方向において前記係合部材の外側に位置する第1弾性部材であって、前記後方位置にある前記係合部材が前記径方向における外側に移動すると弾性変形する第1弾性部材と、
前記ガイドスリーブの内周側に設けられ、前記ガイドスリーブを前記後方位置に向けて付勢する第2弾性部材と、を有し、
前記ツールホルダは、前記第2弾性部材の前方に位置して前記第2弾性部材の前方への脱落を防止する抜け止め部を有し、
前記ガイドスリーブは、前記ガイドスリーブの内周部に突き当て部を有し、
前記ガイドスリーブを前記前方位置に操作した場合に、前記突き当て部が前記抜け止め部に当たるよう構成された、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の別の態様は、作業機である。この作業機は、
モータと、
前記モータによって回転される工具保持装置と、
を有する作業機であって、
前記工具保持装置は、
前後方向に延びるツールホルダであって、前方から後方に向かってビットを挿入可能な挿入穴と、前記ビットと係合可能な係合部材を前方位置と後方位置の間で移動可能に支持する長孔と、を有するツールホルダと、
前記ツールホルダの外周において前方位置と後方位置の間で移動可能なガイドスリーブであって、前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前方位置にあるときに、前記ツールホルダの径方向において前記係合部材の外側に位置して前記係合部材の前記径方向における外側への移動を規制する規制部を有するガイドスリーブと、
前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前記後方位置にあるときに、前記径方向において前記係合部材の外側に位置する第1弾性部材であって、前記後方位置にある前記係合部材が前記径方向における外側に移動すると弾性変形する第1弾性部材と、
前記ガイドスリーブの内周側に設けられ、前記ガイドスリーブを前記後方位置に向けて付勢する第2弾性部材と、を有し、
前記第2弾性部材が角バネである、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様は、作業機である。この作業機は、
モータと、
前記モータによって回転される工具保持装置と、
を有する作業機であって、
前記工具保持装置は、
前後方向に延びるツールホルダであって、前方から後方に向かってビットを挿入可能な挿入穴と、前記ビットと係合可能な係合部材を前方位置と後方位置の間で移動可能に支持する長孔と、を有するツールホルダと、
前記ツールホルダの外周において前方位置と後方位置の間で移動可能なガイドスリーブであって、前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前方位置にあるときに、前記ツールホルダの径方向において前記係合部材の外側に位置して前記係合部材の前記径方向における外側への移動を規制する規制部を有するガイドスリーブと、
前記ガイドスリーブが後方位置にあり前記係合部材が前記後方位置にあるときに、前記径方向において前記係合部材の外側に位置する第1弾性部材であって、前記後方位置にある前記係合部材が前記径方向における外側に移動すると弾性変形する第1弾性部材と、
前記ガイドスリーブの内周側に設けられた第1磁石と、を有し、
前記ツールホルダは、前記第1磁石の前方に位置して前記第1磁石に後方への反発力を付与する第2磁石を有し、
前記ガイドスリーブは、前記ガイドスリーブの内周部に突き当て部を有し、
前記ガイドスリーブを前記前方位置に操作した場合に、前記突き当て部が前記抜け止め部に当たるよう構成された、ことを特徴とする。
【0009】
本発明は「電動作業機」や「電動工具」、「電気機器」等と表現されてもよく、そのように表現されたものも本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工具保持装置における係合部材の脱落リスクを抑制した作業機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る作業機1の側断面図。
【
図2】作業機1の工具保持装置に係る部分の側断面図。
【
図4】工具保持装置にビット70を挿入保持する過程を示す側断面図。
【
図5】工具保持装置からビット70の抜けが規制されることを示す側断面図。
【
図6】工具保持装置からビット70を取り外す過程を示す側断面図。
【
図7】工具保持装置のガイドスプリング43が圧縮過程で径方向に変形する場合を示す側断面図。
【
図8】工具保持装置のガイドスプリング43を円筒状のガイドスプリング43Aとした場合においてガイドスプリング43Aが圧縮過程で径方向に変形する場合を示す側断面図。
【
図9】(A)は、工具保持装置においてガイドスリーブ40が前端位置にある状態を示す側断面図。(B)は、比較例の工具保持装置においてガイドスリーブ840が過剰に前進して金属球39が脱落する場合を示す側断面図。
【
図10】工具保持装置の別構成例1を示す側断面図。
【
図11】工具保持装置の別構成例2を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(全体構成)
本実施形態は、作業機1に関する。作業機1は、電池パック17の電力で動作するコードレスタイプのインパクトドライバである。
図1及び
図12等により、作業機1における互いに直交する前後、上下、左右方向を定義する。
【0013】
作業機1は、ハウジング10、テールカバー14、第1操作部としてのトリガスイッチ15、正逆切替スイッチ16、ハンマケース18、ライトとしての照明LED19、モータ20、減速機構28、スピンドル29、ハンマスプリング31、ハンマ32、アンビル33、ファン34、制御基板35、センサ・インバータ基板36、ガイドスリーブ40、及び操作パネル部85を備える。
【0014】
ハウジング10は、例えば左右二分割の樹脂成形体をネジ止め等により互いに固定、一体化したものである。ハウジング10は、モータ収容部11、ハンドル部12、及び電池パック装着部13を含む。
【0015】
モータ収容部11は、中心軸が前後方向と略平行な筒状部である。ハンドル部12は、上端がモータ収容部11の前後方向の中間部に接続されて当該中間部から下方に延びる。電池パック装着部13は、ハンドル部12の下端に設けられ、電池パック17を着脱可能に装着する。テールカバー14は、例えば樹脂成形体である。テールカバー14は、モータ収容部11の後端部にネジ止め等により接続、固定され、モータ収容部11の後部開口を覆う。
【0016】
トリガスイッチ15は、ハンドル部12の上端前部に支持される。トリガスイッチ15は、ユーザがモータ40の駆動、停止を切り替えるためのモータ駆動操作部(メイン操作部)である。トリガスイッチ15の操作量を大きくするほどモータ40の回転数が高くなる。
【0017】
正逆切替スイッチ16は、トリガスイッチ15の近傍上側においてハウジング10に支持される。正逆切替スイッチ16は、ユーザがモータ20の正転、逆転を切り替えるための回転方向切替操作部である。正転は、後方から見て右回り(時計回り)となる方向の回転である。逆転は、後方から見て左回り(反時計回り)となる方向の回転である。
【0018】
ハンマケース18は、例えばアルミ等の金属製であり、モータ収容部11に保持され、モータ収容部11から前方に延びる。照明LED19は、ハンマケース18の前端部の周囲に例えば等角度間隔で複数設けられ、作業機1の作業領域を照らす。
【0019】
モータ20は、モータ収容部11に収容保持される。モータ20は、インナーロータ型のブラシレスモータであり、前後方向と平行なモータ軸21を有する。減速機構28、スピンドル29、ハンマスプリング31、ハンマ32、及びアンビル33は、ハンマケース18に収容保持される。
【0020】
減速機構28は、モータ20の回転を減速してスピンドル29に伝達する。スピンドル29はハンマ32を駆動する。ハンマスプリング31は、ハンマ32を前方に付勢する。ハンマ32は、スピンドル29とカム係合し、スピンドル29に駆動されてアンビル33を回転打撃する。ハンマスプリング31、ハンマ32、及びアンビル33は、回転打撃機構であり、作業機1の出力部を構成する。モータ20、減速機構28、スピンドル29、及び回転打撃機構は、動力により作業を行う作業部に対応する。
【0021】
アンビル33は、前方に開口するにビット挿入穴37を有する。ビット挿入穴37は、
図4~
図6に示すビット70等の先端工具を保持する。ガイドスリーブ40は、ビット70等の先端工具をビット挿入穴37から取り外す際にユーザが操作する部材である。詳細は後述するが、ガイドスリーブ40を前方に引っ張ることでビット70等の先端工具をビット挿入穴37から前方に取り外すことができる。
【0022】
ファン34は、モータ収容部11内に設けられる。ファン34は、モータ20のうちモータ軸21を除く部分(以下「モータ本体」)の後方においてモータ軸21に取り付けられ、モータ軸21と一体に回転し、モータ20等を冷却する冷却風を発生する。
【0023】
制御基板35は、電池パック装着部13内に設けられる。制御基板35は、モータ20の駆動を制御する制御部157(
図20)等を搭載する。制御基板35は、基板ケース80に収容保持される。基板ケース80内には、制御基板35を保護する封止材81が充填される。
【0024】
センサ・インバータ基板36は、モータ収容部11内においてモータ本体の前方に設けられる。センサ・インバータ基板36は、モータ20の回転位置を検出するためのホールIC等の磁気センサ156(
図20)や、モータ20に駆動電流を供給するためのスイッチング素子(
図20のインバータ回路155)を搭載する。インバータ回路155は制御基板35に搭載されてもよい。
【0025】
操作パネル部85は、電池パック装着部13の前部上面に臨む。ユーザは操作パネル部85により作業機1の駆動モード(運転モード)や照明モードを切り替えることができる。操作パネル部85は、駆動モード選択操作部としての機能、駆動モード表示部としての機能、及び照明モード選択操作部としての機能を有する。
【0026】
(先端工具保持装置)
作業機1は、ビット70等の先端工具を保持する工具保持装置に特徴を有する。
【0027】
図2及び
図3に示すように、作業機1の工具保持装置は、ツールホルダとしてのアンビル33、係合部材としての金属球39、ガイドスリーブ40、第2弾性部材としてのガイドスプリング43、抜け止め部としてのワッシャー44、止め輪45、第1弾性部材としてのセットリング50、及びワッシャー52を有する。
【0028】
アンビル33は、前後方向に延びる金属体であり、ビット挿入穴37に対して前方から後方に向かってビット70を挿入可能に構成される。アンビル33は、軸部56及び羽根部57を有する。軸部56は、内部にビット挿入穴37を有し、中心軸が前後方向と平行な円筒状部である。羽根部57は、軸部56の後部において径方向に広がる。羽根部57は、軸部56の周方向に例えば3個、等角度間隔で設けられる。羽根部57は、ハンマ32に打撃される。
【0029】
アンビル33は、ビット挿入穴37の側周部の上部と下部に、それぞれ長孔38を有する。長孔38は、ビット70の溝部72(
図4)と係合可能な金属球39を前方位置と後方位置の間で移動可能に支持(収容)する。溝部72は、例えば円弧状に湾曲した断面形状を有し、ビット70の外周面を一周する。
【0030】
アンビル33は、外周面に段差部58及びセットリング取付溝59を有する。段差部58は、長孔38の近傍後側に位置する。セットリング取付溝59は、段差部58の近傍前側においてアンビル33の外周を一周する。セットリング取付溝59は、前後方向位置が長孔38の後部と重なる。
【0031】
セットリング50はセットリング取付溝59に取り付けられる。セットリング50は、切欠51を有し、切欠51の長さが変わることで弾性的に拡径、縮径できる金属製の弾性リングである。セットリング50は、
図4(D)に示すようにガイドスリーブ40が後方位置にあり金属球39が後方位置にあるときに、アンビル33の径方向において金属球39の外側に位置し、後方位置にある金属球39が前記径方向における外側に移動すると弾性変形する。ワッシャー52は、アンビル33の段差部58とセットリング50との間に挟まれる。
【0032】
金属球39は、
図2に示すようにアンビル33の径方向において最も内側に位置するときは、長孔38の開口であってアンビル33の径方向における内側の開口から所定長だけ突出し、部分的にビット挿入穴37の内側に延在する。
【0033】
ガイドスリーブ40は、略円筒状に形成された金属であり、アンビル33の前端外周部を覆うようにアンビル33に取り付けられる。ガイドスリーブ40は、アンビル33の外周において前方位置と後方位置の間で移動可能である。ガイドスリーブ40の後端部がワッシャー52の前面と当接(係合)することで、ガイドスリーブ40の後端位置が定められる。
【0034】
ガイドスリーブ40は、凹部41、規制部としての凸部42、及び突き当て部46を有する。
【0035】
凹部41は、凸部42に対して凹んだ部分であり、ガイドスリーブ40の後部内周面を周方向に一周する。凹部41は、セットリング50が拡径することを許容する空間を構成する。凹部41は、
図2に示すようにガイドスリーブ40が後方位置にあるとき、長孔38の後部と対面する。凹部41は、
図6(B)、(C)に示すようにガイドスリーブ40が前方位置にあるとき、長孔38の前部と対面する。
【0036】
凸部42は、ガイドスリーブ40の後部内周面を周方向に一周する。凸部42は、凹部41の前壁部を成し、ガイドスリーブ40の内周面から径方向内側に突出する突出部である。凸部42は、
図2に示すようにガイドスリーブ40が後方位置にあり金属球39が前方位置にあるとき、凹部41の前方において長孔38と対面すると共に、アンビル33の径方向において金属球39の外側に位置して金属球39の前記径方向における外側への移動を規制する。
図2の状態のとき、前後方向において金属球39の重心と凸部42の存在範囲がオーバーラップする。凸部42は、
図6(B)、(C)に示すようにガイドスリーブ40が前方位置にあるとき、長孔38より前方にあり、金属球39の前記径方向における外側への移動を規制しない。
【0037】
突き当て部46は、ガイドスリーブ40の内周面に設けられた段差部である。突き当て部46は、好ましくはガイドスリーブ40の内周面を一周し前方に臨み、かつ前後方向と垂直な平面として構成される。ガイドスリーブ40を前方位置に操作した場合に、突き当て部46がワッシャー44に当たり、ガイドスリーブ40の更なる前方への移動が規制される。突き当て部46はワッシャー44と好ましく面接触する。
【0038】
突き当て部46は、前後方向においてガイドスプリング43の存在範囲内に位置する。
図6(B)、(C)に示すように突き当て部46がワッシャー44に当たった状態での前後方向におけるガイドスプリング43の長さ(以下「突き当たり時ガイドスプリング長さ」)が、ガイドスプリング43を構成する線材がガイドスプリング43の長さ方向(前後方向)に密着しガイドスプリング43の径方向に重なっていない密着状態での前後方向における長さ(以下「ガイドスプリング密着長さ」)以上である。これにより、ガイドスプリング43の過度な変形が抑制される。突き当たり時ガイドスプリング長さがガイドスプリング密着長さと同等になるようにすることで、ガイドスプリング43の有効ストロークを最大限に生かすことができる。
【0039】
ガイドスプリング43は、中心軸方向がアンビル33の中心軸方向、すなわち前後方向と平行な圧縮コイルバネである。ガイドスプリング43は、前方ほど外径が小さくなる形状、すなわち円錐台側面形状である。ガイドスプリング43は、ガイドスリーブ40をアンビル33に対して後方に付勢、すなわちガイドスリーブ40を後方位置に向けて付勢する。ガイドスプリング43は、ガイドスリーブ40の内周面とアンビル33の外周面との間に設けられる。ガイドスプリング43の後端は、ガイドスリーブ40の凸部42に支持される。ガイドスプリング43の前端は、アンビル33の前端部に設けられたワッシャー44に支持される。ガイドスプリング43は、凸部42及びワッシャー44により前後方向に圧縮される。ワッシャー44は、ガイドスプリング43の前方に位置しアンビル33の前端部に設けられた止め輪45により、アンビル33に対する前方への移動が規制される。これにより、ガイドスプリング43およびワッシャー44はアンビル33から前方に脱落しない。
【0040】
図4(A)~(F)は、工具保持装置にビット70を挿入保持する過程を示す。
【0041】
ビット挿入穴37にビット70を挿入していくと、金属球39は、ビット70の後端部の傾斜形状部(テーパー形状部)に押され、
図4(A)~(D)に示すように長孔38の後部に向けて移動していくと共に、
図4(B)~(D)に示すようにセットリング50を弾性変形させながらアンビル33の径方向において外側に移動し、
図4(D)に示すようにビット70の更なる挿入を妨げない位置関係となる。
【0042】
更にビット70を挿入していくと、
図4(E)、(F)に示すように、ビット70の溝部72が前後方向において長孔38と重なる位置となり、溝部72と長孔38が対面する。金属球39は、セットリング50の反発力を受け、溝部72の表面形状に沿ってアンビル33の径方向において内側に移動する。
【0043】
図4(F)の状態において金属球39は、ビット70の溝部72及びガイドスリーブ40の凸部42と係合し、ビット70をロックする。
図4(F)の状態からビット70を前方に引き抜こうとすると、金属球39は、溝部72の表面形状に沿ってアンビル33の径方向において外側に移動しようとするが、
図5(A)、(B)に示すように凸部42によって外側への移動が規制される。よって金属球39はビット70の溝部72に引っ掛かる。このためガイドスリーブ40を操作しない限り、ビット70は
図5(B)の状態から前方に抜けない。
【0044】
図6(A)~(C)は、工具保持装置からビット70を取り外す過程を示す。
【0045】
ビット70を引き抜く際には、まずガイドスリーブ40を前方に引っ張り、前方位置に移動させる。すると、
図6(A)に示すように、ガイドスリーブ40の凸部42が金属球39よりも前方に移動し、凹部41が金属球39と対面した状態となる。この状態でビット70を前方に引っ張ると、金属球39は、溝部72の表面形状に沿って、アンビル33の径方向において外側に移動し、
図6(B)に示すようにビット70の更なる引抜を妨げない位置関係となる。更にビット70を前方に引っ張れば、
図6(C)に示すようにビット70をビット挿入穴37から取り外せる。
【0046】
図7(A)、(B)は、工具保持装置のガイドスプリング43が圧縮過程で径方向に変形する様子を示す。ガイドスプリング43の圧縮が理想的な場合、
図6(A)に示すようにガイドスプリング43を構成する線材がガイドスプリング43の長さ方向(前後方向)に密着し、線材が径方向にずれない。一方、ガイドスプリング43の座屈等により、
図7(A)、(B)に示すように、ガイドスリーブ40を前方に引く過程(ガイドスプリング43の圧縮過程)でガイドスプリング43を構成する線材が径方向にずれることがある。この場合でも、ガイドスプリング43が前述のように前方ほど外径が小さくなる形状であることで、ガイドスプリング43を構成する線材が変形により突き当て部46とワッシャー44の前方まで至りにくくなり、線材が突き当て部46とワッシャー44との間に挟み込まれてガイドスリーブ40を十分に前方に引っ張れずにビット70が引き抜けなくなる不具合の発生リスクが抑制される。
【0047】
図8(A)~(C)は、工具保持装置のガイドスプリング43を円筒状のガイドスプリング43Aとした場合においてガイドスプリング43Aが圧縮過程で径方向に変形する様子を示す。全長に渡って外径が等しい円筒状のガイドスプリング43Aの場合、ガイドスプリング43Aの座屈等により、ガイドスプリング43Aを構成する線材が径方向にずれた際に、
図8(B)に示すように線材が突き当て部46とワッシャー44の前方まで至りやすく、
図8(C)に示すように線材が突き当て部46とワッシャー44との間に挟み込まれてガイドスリーブ40を十分に前方に引っ張れずにビット70が引き抜けなくなる不具合が懸念される。こうした不具合のリスクは、ガイドスプリング43Aとして座屈が発生しにくいものを選定することで低減できるが、コストが上昇する、あるいはガイドスリーブ40を引っ張るのに必要な力が大きくなる、といった面でガイドスプリング43と比較すると不利になる。
【0048】
図9(A)は、工具保持装置においてガイドスリーブ40が前端位置にある状態を示す。
図9(B)は、比較例の工具保持装置であってガイドスリーブ40を突き当て部46が無いガイドスリーブ840に置換した工具保持装置おいてガイドスリーブ840が過剰に前進して金属球39が脱落する様子を示す。
【0049】
図9(A)の状態では、ガイドスリーブ40の突き当て部46がワッシャー44と当接しており、セットリング50の後端部とワッシャー52の前端部との間の距離L1が金属球39の直径未満のため、金属球39はアンビル33から脱落しない。
【0050】
図9(B)の状態では、円筒状のガイドスプリング43Aが座屈してガイドスプリング43Aを構成する線材同士が径方向に重なっており、セットリング50の後端部とワッシャー52の前端部との間の距離L2が金属球39の直径より大きいため、金属球39がアンビル33から脱落するリスクがある。
【0051】
図9(A)、(B)の対比より、突き当て部46は金属球39の脱落リスクを抑制する作用を有する。具体的には、突き当て部46は、ワッシャー44との当接によりガイドスプリング43の圧縮量を所定量に制限することで、ガイドスプリング43が密着状態を超えて圧縮されて、セットリング50の後端部とワッシャー52の前端部との間の距離が過剰に大きくなり、セットリング50の後端部とワッシャー52の前端部との間から金属球39が脱落するリスクを抑制する。
【0052】
図10は、工具保持装置の別構成例1を示す側断面図である。別構成例1は、ガイドスリーブ40を凸部42及び突き当て部46を有さないガイドスリーブ40Aに置換し、ガイドスリーブ40Aの内部に凸部42及び突き当て部46を有する別部材47を圧入等により設けている。
【0053】
図11は、工具保持装置の別構成例2を示す側断面図である。別構成例2では、ガイドスリーブ40Aをワッシャー52との当接部を有さないガイドスリーブ40Aに置換し、別部材47を凸部42及び突き当て部46に加えてワッシャー52との当接部を有する別部材48に置換したものである。
【0054】
図10及び
図11に示すように、ガイドスリーブ40の構成の一部を別部材に置き換えてもよく、その場合も同様の作用効果が得られる。
【0055】
本実施の形態は、下記の作用効果を奏する。
【0056】
(1) 作業機1の工具保持装置では、ガイドスリーブ40を前方位置に操作した場合に、突き当て部46がワッシャー44に当たることで、ガイドスリーブ40の更なる前方への移動が規制される。このため、突き当て部46が無い場合と異なり、ガイドスプリング43が過度に圧縮(変形)されてガイドスリーブ40が必要以上に前進し、セットリング50の後端部とワッシャー52の前端部との間から金属球39が脱落するリスクが抑制される(
図9(A)、(B)参照)。ここで、突き当て部46が無い構成で金属球39の脱落を防ごうとすると、セットリング50の幅(前後長)を広げる必要がある。そうするとガイドスリーブ40も前後に長くなり、作業機1の全長が増大してしまう。すなわち、突き当て部46を設けることで、作業機1の全長増大を抑制しつつ金属球39の脱落リスクを抑制できる。
【0057】
(2) 作業機1の工具保持装置では、突き当たり時ガイドスプリング長さがガイドスプリング密着長さ以上であるため、ガイドスプリング43が密着状態を超えて圧縮されることが防止される。突き当たり時ガイドスプリング長さをガイドスプリング密着長さと同等にすることで、ガイドスプリング43の有効ストロークを最大限に生かすことができる。
【0058】
(3) ガイドスプリング43は、前方ほど外径が小さくなる形状である。このため、ガイドスプリング43が円筒形状の場合と比較して、ガイドスプリング43の座屈等により
図7(B)に示すようにガイドスプリング43を構成する線材が径方向にずれても、ガイドスプリング43を構成する線材が変形により突き当て部46とワッシャー44の前方まで至りにくくなる。よって、線材が突き当て部46とワッシャー44との間に挟み込まれてガイドスリーブ40を十分に前方に引っ張れずにビット70が引き抜けなくなる不具合の発生リスクが抑制される。
【0059】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、本発明は実施の形態に限定されない。実施の形態で具体的に説明した各事項には請求項に記載の範囲で種々の変形が可能である。
【0060】
ガイドスリーブ40は、樹脂成形体としてもよい。この場合において、ガイドスリーブ40のうち金属球39との係合による摩耗が懸念される箇所、例えば凸部42を複合成型により金属にしてもよい。長孔38の位置は、ビット挿入穴37の側周部の左部と右部に変更してもよい。長孔38及び金属球39の個数は1つにしてもよい。
【0061】
第1弾性部材は、セットリング50に限定されず、例えばリング状ないし円筒状のエラストマであってもよい。この場合、エラストマは、ガイドスリーブ40の凹部41内に例えば一体成形により設けられてもよいし、凹部41の内面に例えば接着等により固定されてもよい。あるいは、第1弾性部材は、アンビル33の周囲を周回するコイルスプリングや複数のOリングであってもよい。
【0062】
第2弾性部材は、線材の断面形状が長方形ないし正方形等の四角形である角バネであってもよい。角バネは、座屈の発生しにくいため、ガイドスリーブ40に突き当て部46が無くても、密着長を超えて圧縮されるリスクが抑制され、金属球39の脱落リスクが抑制される。
【0063】
ガイドスプリング43に替えて、ガイドスリーブ40の内周部に設けた第1磁石と、第1磁石の前方に位置して第1磁石に後方への反発力を付与する第2磁石との反発により、ガイドスリーブ40を後方に付勢する構成としてもよい。第1磁石及び第2磁石には例えばリング磁石を利用できる。
【0064】
本発明は、インパクトドライバに限定されず、ビット等の先端工具を保持する任意の作業機に適用できる。本発明は、コードレスタイプの作業機に限定されず、外部交流電源から電源コード経由で供給される電力で動作するコード付きタイプの作業機であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…作業機、10…ハウジング、11…モータ収容部、12…ハンドル部、13…電池パック装着部、14…テールカバー、15…トリガスイッチ、16…正逆切替スイッチ、17…電池パック、18…ハンマケース、19…照明LED、20…モータ、21…モータ軸、28…減速機構、29…スピンドル、31…ハンマスプリング、32…ハンマ、33…アンビル(ツールホルダ)、34…ファン、35…制御基板、36…センサ・インバータ基板、37…ビット挿入穴、38…長孔、39…金属球(係合部材)、40…ガイドスリーブ、41…溝部(凹部)、42…凸部(規制部)、43…ガイドスプリング、44…ワッシャー(バネ受け部材)、45…止め輪、46…突き当て部、47…別部材、49…軸受、50…セットリング(弾性部材)、51…切欠、52…ワッシャー、56…軸部、57…羽根部、58…段差部、59…セットリング取付溝、70…ビット(先端工具)、72…溝部。