(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101296
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20250630BHJP
【FI】
B25B21/02 Z
B25B21/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218046
(22)【出願日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】武久 真之
(57)【要約】
【課題】作業フィーリングの良い作業機を提供する。
【解決手段】ネジ締めが可能な作業機1において、演算部95は、トリガスイッチ6が操作されてモータ3を通常制御で起動した直後に伝達機構によって断続回転力が発生しなかった場合(打撃が発生しなかった場合)は、その後にパルス制御に切り替えてモータ3を駆動し、トリガスイッチ6が操作されてモータ3を通常制御で起動した直後に伝達機構によって断続回転力が発生した場合(打撃が発生した場合)は、その後も通常制御でモータ3を駆動する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ締めが可能な作業機であって、
モータと、
先端工具保持部と、
前記モータの回転を前記先端工具保持部に伝達する伝達機構であって、前記先端工具保持部に加わる負荷に応じて前記先端工具保持部に連続回転力又は断続回転力を発生するよう構成された伝達機構と、
前記モータを所定方向に連続回転させる通常制御と、前記モータの前記所定方向への回転と前記モータの前記所定方向とは逆方向への回転又は停止とを繰り返すパルス制御と、を実行可能な第1モードを有する制御部と、
前記モータの起動及び停止を指示するよう構成された操作部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、
前記操作部が操作されて前記モータを前記通常制御で起動した直後に前記伝達機構によって前記断続回転力が発生しなかった場合は、その後に前記パルス制御に切り替えて前記モータを駆動することが可能に構成され、かつ、
前記操作部が操作されて前記モータを前記通常制御で起動した直後に前記伝達機構によって前記断続回転力が発生した場合は、その後も前記通常制御で前記モータを駆動することが可能に構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項2】
請求項1記載の作業機であって、
前記制御部は、前記第1モードと、前記第1モードとは異なる第2モードと、を有し、
前記制御部によって前記第1モード又は前記第2モードのいずれを実行するかを作業者が選択できるよう構成されたモード切替操作部を備える、
ことを特徴とする作業機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の作業機であって、
前記伝達機構は、インパクト機構であって、前記モータによって回転駆動され、前記先端工具保持部としてのアンビルに加わる負荷が大きくなると、前記アンビルと一体に回転する状態から前記アンビルを打撃する状態に切り替わるハンマを含む、
ことを特徴とする作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ締めが可能な作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンマをアンビルに衝突させた打撃力によりネジ締め等の作業を行うインパクトドライバ等の作業機が知られている。インパクトドライバは、ハンマをアンビルに向けて付勢するバネを備え、トリガスイッチの1回の操作においてハンマを一方向のみに回転させる。ハンマは、アンビルの係合突起との衝突後にバネの付勢力に抗してアンビルから離れる方向に移動し、係合突起を乗り越えて回転することで、再び係合突起と衝突可能な状態となる。
【0003】
特許文献1と特許文献2は、インパクトドライバに関し、モータを連続回転させる通常制御と、モータを断続回転させるパルス制御(電子パルス制御)と、を実行可能な制御部を備えることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5725347号公報
【特許文献2】特開2023-166104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータの起動直後にインパクト機構による打撃が発生した場合にパルス制御が行われると、作業フィーリングが悪化する。
【0006】
本発明は、作業フィーリングの良い作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、作業機である。この作業機は、
ネジ締めが可能な作業機であって、
モータと、
先端工具保持部と、
前記モータの回転を前記先端工具保持部に伝達する伝達機構であって、前記先端工具保持部に加わる負荷に応じて前記先端工具保持部に連続回転力又は断続回転力を発生するよう構成された伝達機構と、
前記モータを所定方向に連続回転させる通常制御と、前記モータの前記所定方向への回転と前記モータの前記所定方向とは逆方向への回転又は停止とを繰り返すパルス制御と、を実行可能な第1モードを有する制御部と、
前記モータの起動及び停止を指示するよう構成された操作部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、
前記操作部が操作されて前記モータを前記通常制御で起動した直後に前記伝達機構によって前記断続回転力が発生しなかった場合は、その後に前記パルス制御に切り替えて前記モータを駆動することが可能に構成され、かつ、
前記操作部が操作されて前記モータを前記通常制御で起動した直後に前記伝達機構によって前記断続回転力が発生した場合は、その後も前記通常制御で前記モータを駆動することが可能に構成された、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明は「電動作業機」や「電動工具」、「電気機器」等と表現されてもよく、そのように表現されたものも本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業フィーリングの良い作業機を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る作業機1の側断面図。
【
図5】第1制御例を実行した場合のモータ回転数の時間変化の一例を示すグラフ。
【
図6】比較制御例を実行した場合のモータ回転数の時間変化の一例を示すグラフ。
【
図7】
図3の電子パルス制御(S7)の具体例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る作業機1の側断面図である。
図1により、作業機1における互いに直交する前後、上下方向を定義する。作業機1は、ネジ締めが可能な作業機であって、具体的にはインパクトドライバである。
【0012】
作業機1は、ハウジング2を有する。ハウジング2は、モータ収容部2a、ハンドル部2b、及びバッテリ装着部2cを有する。
【0013】
モータ収容部2aは、中心軸が前後方向と略平行な筒状部である。ハウジング2は、モータ収容部2aの前部に接続される例えば金属製のハンマケース11を備える。ハンマケース11の前部表面は、エラストマ等の保護部材であるフロントキャップ12に被覆される。
【0014】
ハンドル部2bは、上端がモータ収容部2aの前後方向の中間部に接続されて前記中間部から下方に延びる。作業機1は、ハンドル部2bの上端部に、トリガスイッチ6及び回転方向切替スイッチ13を有する。トリガスイッチ6は、作業者がモータ3の起動(駆動)及び停止(モータ3の駆動状態)を切替え可能な操作部(モータ駆動操作部)である。トリガスイッチ6は、無段変速スイッチである。回転方向切替スイッチ13は、作業者がモータ3の正転と逆転、すなわち後述のアンビル10の正転と逆転を切替え可能な回転方向切替部である。正転は、所定方向への回転の例示である。逆転は、所定方向とは逆方向への回転の例示である。
【0015】
バッテリ装着部2cは、ハンドル部2bの下端に設けられ、電池パック7を着脱可能に装着できる。作業機1は、電池パック7の電力で動作する。作業機1は、バッテリ装着部2cの前部上面に操作パネル20(スイッチパネル)を有する。作業機1は、バッテリ装着部2cの内部に制御基板30を有する。
【0016】
作業機1は、モータ収容部2a及びハンマケース11内に、モータ3、減速機構4、スピンドル5、ハンマ8、スプリング9、及び先端工具保持部としてのアンビル10を有する。減速機構4、スピンドル5、ハンマ8、及びスプリング9は、モータ3の回転をアンビル10に伝達する伝達機構であって、アンビル10に加わる負荷(ネジ締めの負荷)に応じてアンビル10に連続回転力又は断続回転力(回転打撃力)を発生するよう構成された伝達機構(回転打撃機構)である。
【0017】
モータ3は、インナーロータ型のブラシレスモータであり、前後方向と平行なモータ軸3aを有する。減速機構4は、モータ3の回転を減速してスピンドル5に伝達する。スピンドル5はハンマ8を回転駆動する。ハンマ8は、スピンドル5に対して前後方向に移動可能である。スプリング9は、ハンマ8を前方に付勢する。ハンマ8は、アンビル10を回転ないし回転打撃する(アンビル10に連続回転力又は断続回転力を発生する)。すなわち、アンビル10は、モータ3によって回転駆動される。アンビル10は、ハンマケース11に回転可能に支持され、ハンマ8の前方に位置する。アンビル10は、ビット等の先端工具14を装着可能な先端工具装着穴10aを有する。
【0018】
作業機1は、ハンマケース11の前部の周囲に、作業箇所周辺を照らす照明LED16を有する。作業機1は、センサ基板15を有する。センサ基板15は、モータ3の回転を検出する
図2に示す磁気センサ84を搭載する。センサ基板15は、モータ3の本体部(モータ3のうちモータ軸3aを除く部分)の前方においてモータ軸3aと略垂直な姿勢で支持される。
【0019】
図2は、作業機1の回路ブロック図である。作業機1は、インバータ回路82、制御信号出力回路83、磁気センサ84、ロータ位置検出回路85、回転数検出回路86、モード切替スイッチ87、制御回路電圧供給回路88、電池電圧検出回路89、モータ電流検出回路91、照明LED駆動回路92、制御回路電圧検出回路93、表示LED駆動回路94、及び演算部95を含む。
【0020】
インバータ回路82は、三相ブリッジ接続された半導体スイッチング素子Q1~Q6を含む。インバータ回路82は、電池パック7が出力する直流電力をモータ3の駆動用の交流電力に変換し、モータ3に供給する。制御信号出力回路83は、演算部95の制御に従い、スイッチング素子Q1~Q6の各ゲートに駆動信号、例えばPWM((Pulse Width Modulation))信号を印加する。
【0021】
磁気センサ84は、モータ3のロータの発生する磁界を検出し、ロータ位置検出回路85に送信する。ロータ位置検出回路85は、磁気センサ84からの信号によりモータ3のロータ位置を検出し、演算部95に送信する。回転数検出回路86は、ロータ位置検出回路85からの信号によりモータ3の回転数(以下「モータ回転数」)を検出し、演算部95に送信する。
【0022】
モード切替スイッチ87は、
図1の操作パネル20に設けられる。モード切替スイッチ87は、作業者が演算部95のモードを切り替えるためのモード切替操作部であり、作業者のモード切替操作を演算部95に伝達する。演算部95のモードについては後述する。
【0023】
制御回路電圧供給回路88は、電池パック7の出力電圧を降圧して演算部95等の電源電圧に変換し、演算部95等に供給する。電池電圧検出回路89は、電池パック7の出力電圧を検出し、演算部95に送信する。モータ電流検出回路91は、モータ3に流れる電流(以下「モータ電流」)の経路に設けられた抵抗Rの電圧によりモータ電流を検出し、演算部95に送信する。
【0024】
照明LED駆動回路92は、演算部95の制御に従い、
図1の照明LED16に駆動電流を供給する。制御回路電圧検出回路93は、制御回路電圧供給回路88の出力電圧を検出し、演算部95に送信する。表示LED駆動回路94は、操作パネル20に設けられた表示用LEDに駆動電流を供給する。
【0025】
演算部95は、マイクロコントローラ等を含み、モータ3の駆動を制御する制御部である。演算部95は、モード切替スイッチ87で選択されたモード、回転方向切替スイッチ13により設定された回転方向(以下「設定回転方向」)、及びトリガスイッチ6の操作に応じて、制御信号出力回路83を介してインバータ回路82を制御、例えばPWM制御し、モータ3の駆動を制御する。
【0026】
演算部95は、PWM制御のデューティ(以下「デューティ」)により、モータ3に印加する印加電圧(以下「モータ印加電圧」)の実効値を制御できる。演算部95は、モータ電流により、モータ3にかかる負荷を検出できる。演算部95は、ロータ位置検出回路85からの信号により、すなわち磁気センサ84からの信号に応じて、モータ3の正転、逆転を区別して検出可能である。
【0027】
演算部95は、モータ3を所定方向に連続回転させる通常制御と、モータ3の所定方向への回転とモータ3の所定方向とは逆方向への回転とを繰り返すパルス制御(以下「電子パルス制御」)と、を実行可能である。演算部95は、電子パルス制御において所定回転速度でモータ3を回転させる際に、オープンループ制御又はクローズドループ制御によりデューティを設定(モータ3の印加電圧の実効値を設定)する。演算部95のモードは、電子パルス制御を実行可能なパルスモード(第1モード)と、電子パルス制御を実行しない非パルスモード(第2モード)と、を含む。作業者は、モード切替スイッチ87により、パルスモードと非パルスモードの切替が可能である。演算部95は、非パルスモードでは、トリガスイッチ6の操作に応じて常に通常制御を実行する。以下、演算部95のパルスモードについて説明する。
【0028】
図3は、作業機1の第1制御例のフローチャートである。
図3において、設定回転方向は正転であり、演算部95はパルスモードである。
【0029】
第1制御例において演算部95は、トリガスイッチ6が操作されている期間のうち、先端工具14にかかる負荷が低い低トルク期間に、電子パルス制御を実行する。低トルク期間は、ハンマ8によるアンビル10の打撃(以下「打撃」)が行われない期間(伝達機構がアンビル10に断続回転力を発生しない期間)、すなわちハンマ8とアンビル10が一体に回転する期間(伝達機構がアンビル10に連続回転力を発生する期間)である。
【0030】
本発明者の知見によれば、低トルク期間では、先端工具14とネジの嵌合が外れて先端工具14が空転するカムアウトが発生しやすい。本発明者は、上記のように低トルク期間に電子パルス制御を実行することがカムアウトの抑制に有効であることを見いだした。低トルク期間の電子パルス制御によれば、先端工具14とネジの嵌合が浅くなってカムアウトしそうな状態になっても、モータ3の一時的な逆転により先端工具14とネジの嵌合を回復させる(深くする)ことができ、カムアウトを抑制できる。
【0031】
演算部95は、トリガスイッチ6が操作されると(トリガスイッチ6にモータ駆動操作が行われると)、モータ3を連続的に正転させる通常制御を実行する(S1)。演算部95は、トリガスイッチ6の操作から所定時間としての160msが経過していなければ通常制御を継続する(S3の「いいえ」)。演算部95は、トリガスイッチ6の操作から160msが経過すると(S3の「はい」)、S5に進む。160msは、モータ3の起動直後のマスク時間であって電子パルス制御を行わないマスク時間である。マスク時間を設けることで、短時間のトリガスイッチ6のオン操作の間に電子パルス制御が入ることが抑制される。
【0032】
演算部95は、トリガスイッチ6の操作から160msが経過するまでのモータ3の正転駆動中にハンマ8の離脱(アンビル10に対するハンマ8の後退)を検知しなければ(S5の「いいえ」)、通常制御から電子パルス制御に切り替えてモータ3を駆動する(S7)。ハンマ8の離脱は、打撃の発生(伝達機構による断続回転力の発生)を意味する。演算部95は、電子パルス制御の実行中にハンマ8の離脱を検知するまでは電子パルス制御を継続する(S9の「いいえ」、S7)。演算部95は、電子パルス制御の実行中にハンマ8の離脱を検知すると(S9の「はい」)、モータ3を連続的に正転させる通常制御に移行する(S11)。
【0033】
演算部95は、トリガスイッチ6の操作から160msが経過するまでのモータ3の正転駆動中にハンマ8の離脱を検知すると(S5の「はい」)、その後も通常制御でモータ3を駆動する(S11)。演算部95は、トリガスイッチ6の操作が解除される(トリガスイッチ6にモータ停止操作が行われる)までは通常制御を継続する(S13の「いいえ」、S11)。演算部95は、トリガスイッチ6の操作が解除されると(S13の「はい」)、モータを停止する。
【0034】
図4は、作業機1の比較制御例のフローチャートである。比較制御例は、
図3に示す第1制御例からS5の分岐を無くし、S3からS7に進むようにしたものである。すなわち演算部95は、トリガスイッチ6の操作から160msが経過すると(S3の「はい」)、トリガスイッチ6の操作から160msが経過するまでのモータ3の正転駆動中にハンマ8の離脱を検知したか否かに関わらず、通常制御から電子パルス制御に切り替えてモータ3を駆動する(S7)。比較制御例のその他の点は、
図3に示す第1制御例と同様である。
【0035】
図5は、第1制御例を実行した場合のモータ回転数の時間変化の一例を示すグラフである。時刻T0においてトリガスイッチ6が操作されてモータ3が起動する。時刻T0からマスク時間が経過した時刻T1は、通常制御の終了時刻である。しかし演算部95は、時刻T0~T1の期間に打撃によるモータ回転数の変動(揺らぎ)、すなわちハンマ8の離脱を検知しているため、通常制御を継続する。
【0036】
図6は、比較制御例を実行した場合のモータ回転数の時間変化の一例を示すグラフである。
図6の場合も、
図5の場合と同様に、時刻T0~T1の期間に打撃によるモータ回転数の変動が発生しているが、演算部95は、通常制御の終了時刻である時刻T1において通常制御から電子パルス制御に移行する。演算部95は、電子パルス制御の実行中に打撃によるモータ回転数の変動(ハンマ8の離脱)を検知し、時刻T2において電子パルス制御から通常制御に移行する。電子パルス制御の実行中のハンマ8の離脱検知には、例えば約200msを要する。
【0037】
図4及び
図6に示す比較制御例の場合、モータ3の起動直後のマスク時間における通常制御において既に打撃が始まっているにもかかわらず、マスク時間の経過後に電子パルス制御に遷移する。このため、電子パルス制御におけるハンマ8の離脱検知までの間は、打撃中に設定回転方向とは逆方向へのモータ3の回転が入り、作業フィーリングが悪い。
図3及び
図5に示す第1制御例は、マスク時間の間に打撃(ハンマ8の離脱)を検知した場合、電子パルス制御に移行せずに通常制御を継続することで、作業フィーリングの悪化を抑制するものである。
【0038】
図7は、
図3の電子パルス制御(S7)の具体例を示すフローチャートである。
図7において、設定回転方向は正転である。なお、電子パルス制御は例えば特許文献2における電子パルス制御と同様でよく、ここでは概略説明に留める。
【0039】
演算部95は、モータ3の正転制御を終了し(S21)、ブレーキ制御を行う(S23)。ブレーキ制御は、モータ3に外部から電力を供給せずにモータ3の回転エネルギーを消費させ、自然減速よりも速くモータ3を減速させる制御である。ブレーキ制御は、例えば短絡ブレーキをかける制御である。短絡ブレーキは、例えば、上アーム側のスイッチング素子Q1~Q3をオフし、下アーム側のスイッチング素子Q4~Q6の少なくとも1つを連続的ないし断続的にオンする制御である。なお、正転しているモータ3に対して行う逆転制御は、逆転用の電力を外部から供給するものであり、ブレーキ制御ではない。
【0040】
演算部95は、モータ回転数が所定回転数以下に低下するまでブレーキ制御を継続し(S25の「いいえ」)、モータ回転数が所定回転数以下に低下すると(S25の「はい」)ブレーキ制御を終了し(S27)、逆転制御を開始する。演算部95は、モータ3の逆転を検知するまで逆転制御を継続する(S31の「いいえ」)。演算部95は、逆転制御の開始から予め設定した逆転継続時間が経過するまで逆転制御を継続する(S33の「いいえ」)。演算部95は、モータ3の逆転を検知し(S31の「はい」)、逆転制御の開始から逆転継続時間が経過すると(S33の「はい」)、逆転制御を終了し(S35)、正転制御を開始する(S37)。演算部95は、正転制御の開始から予め設定した設定正転時間が経過するまで正転制御を継続する(S39の「いいえ」)。演算部95は、正転制御の開始から設定正転時間が経過すると(S39の「はい」)、S21に戻る。
【0041】
本実施形態によれば、演算部95は、パルスモードの第1制御例において、トリガスイッチ6が操作されてモータ3を通常制御で起動した直後に伝達機構によって断続回転力が発生しなかった場合(打撃が発生しなかった場合)は、その後にパルス制御に切り替えてモータ3を駆動し、トリガスイッチ6が操作されてモータ3を通常制御で起動した直後に伝達機構によって断続回転力が発生した場合(打撃が発生した場合)は、その後も通常制御でモータ3を駆動する。よって、トリガスイッチ6を操作した直後から打撃が発生した場合には、通常制御から電子パルス制御への移行が回避され、通常制御が継続される。このため、打撃中に設定回転方向とは逆方向へのモータ3の回転が入らなくなり、ネジを締め付けるときの作業フィーリングが良い。
【0042】
図8は、作業機1の第2制御例のフローチャートである。
図8において、設定回転方向は正転であり、演算部95はパルスモードである。
【0043】
演算部95は、トリガスイッチ6の引き量が閾値A以上でない場合(S41の「いいえ」)、電子パルス制御を実行する(S43)。演算部95は、電子パルス制御の実行中にトリガスイッチ6の操作が解除されない場合(S45の「いいえ」)、S41に戻る。演算部95は、電子パルス制御の実行中にトリガスイッチ6の操作が解除されると(S45の「はい」)、モータ3を停止する。
【0044】
演算部95は、トリガスイッチ6の引き量が閾値A以上の場合(S41の「はい」)、モータ3を連続的に正転させる通常制御を実行する(S47)。演算部95は、通常制御の実行中にトリガスイッチ6の引き量が閾値Aより小さい閾値B以下になると(S49の「はい」)、電子パルス制御に移行する(S43)。演算部95は、通常制御の実行中にトリガスイッチ6の引き量が閾値B以下にならず(S49の「いいえ」)、トリガスイッチ6の操作が解除されない場合(S51の「いいえ」)、S47に戻る。演算部95は、通常制御の実行中にトリガスイッチ6の操作が解除されると(S51の「はい」)、モータ3を停止する。閾値Bを閾値Aより小さくすることでヒステリシスを設け、通常制御と電子パルス制御との切替が頻発することが抑制される。
【0045】
図9は、作業機1の第3制御例のフローチャートである。第3制御例は、
図8に示す第2制御例からS49の分岐を無くし、S47からS51に進むようにしたものである。すなわち演算部95は、通常制御(S47)の実行中、トリガスイッチ6の引き量が閾値B以下か否かに関わらず、トリガスイッチ6の操作が解除されるまで通常制御を継続する(S51の「いいえ」)。一度トリガスイッチ6を閾値A以上に引いた後(S41の「はい」の後)に電子パルス制御に移行する必要性は低いため、S49の分岐が無くても特段のデメリットは無い。
【0046】
第2制御例及び第3制御例によれば、作業者は自分の意思に基づくトリガスイッチ6の操作量で電子パルス制御と通常制御を切り替えることができ、利便性が高い。例えば、電子パルス制御で締付けができなくなったときはトリガスイッチ6の引き量を大きくして通常制御での締付けが可能となる。また、トリガスイッチ6の引き量を大きくして通常制御に移行する際にはモータ回転数の上昇に対して心構えができるため、ネジ等に対する先端工具14の押付力を強くしてカムアウトしないようにできる。
【0047】
なお、トリガスイッチ6として、閾値Aに対応する引き量の手前で軽めの係止がかかるラッチ機能のあるスイッチを設けることで、電子パルス制御を実行しようとする場合のトリガスイッチ6の引き過ぎを抑制できる。通常制御を実行しようとする場合はラッチ機能による係止力を超える強さでトリガスイッチ6を引けばよい。
【0048】
第2制御例及び第3制御例は、第1制御例に替わる制御例であってもよいし、第1制御例とは別に選択可能な制御例であってもよい。例えば、演算部95のモードとして、第1制御例を実行する第1パルスモードと、第2制御例又は第3制御例を実行する第2パルスモードと、を含み、モード切替スイッチ87により第1パルスモードと第2パルスモードの切替が可能であってもよい。
【0049】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、本発明は実施の形態に限定されない。実施の形態で具体的に説明した各事項には請求項に記載の範囲で種々の変形が可能である。
【0050】
電子パルス制御は、モータ3を所定方向に断続的に回転させる制御であればよく、例えば、モータ3を正転させる正転制御と、モータ3を停止させる停止制御と、を交互に繰り返す制御であってもよい。
【0051】
演算部95は、電子パルス制御において所定回転速度でモータ3を回転させる際に、オープンループ制御又はクローズドループ制御によりモータ3の進角又は通電角を設定してもよい。
【0052】
第1制御例において演算部95は、トリガスイッチ6の引き量が所定量未満のときは、モータ3を所定方向に回転させ続ける通常制御を実行してもよい。これにより、ネジ締めの初期や慎重な作業でトリガスイッチ6の引き量が小さいときに電子パルス制御が入って使い勝手が悪化することが抑制される。
【0053】
実施の形態で具体的な数値として例示したマスク時間やデューティ等は、発明の範囲を何ら限定するものではなく、要求される仕様に合わせて任意に変更できる。
【0054】
本発明の作業機は、実施形態で例示したインパクトドライバに限定されず、インパクトレンチやオイルパルス工具等の他の種類のものであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…作業機、2…ハウジング、2a…モータ収容部、2b…ハンドル部、2c…バッテリ装着部、3…モータ、3a…モータ軸、4…減速機構、5…スピンドル、6…トリガスイッチ(操作部)、7…電池パック、8…ハンマ、9…スプリング、10…アンビル(先端工具保持部)、10a…先端工具装着穴、11…ハンマケース、12…フロントキャップ(保護部材)、13…回転方向切替スイッチ(回転方向切替部)、14…先端工具、15…センサ基板、16…照明LED、82…インバータ回路、83…制御信号出力回路、84…磁気センサ、85…ロータ位置検出回路、86…回転数検出回路、87…モード切替スイッチ、88…制御回路電圧供給回路、89…電池電圧検出回路、90…、91…モータ電流検出回路、92…照明LED駆動回路、93…制御回路電圧検出回路、94…表示LED駆動回路、95…演算部(制御部)。