(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101306
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】潤滑油
(51)【国際特許分類】
C10M 107/02 20060101AFI20250630BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20250630BHJP
C10M 105/34 20060101ALI20250630BHJP
C10M 105/36 20060101ALI20250630BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20250630BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/06 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20250630BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20250630BHJP
C10N 40/32 20060101ALN20250630BHJP
【FI】
C10M107/02
C10M105/32
C10M105/34
C10M105/36
C10M105/38
C10N30:06
C10N40:25
C10N40:06
C10N40:04
C10N50:10
C10N40:02
C10N40:08
C10N40:20 Z
C10N40:22
C10N40:30
C10N40:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218068
(22)【出願日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川原 康行
(72)【発明者】
【氏名】内藤 友梨子
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB31A
4H104BB32A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB02A
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA06A
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA04
4H104PA05
4H104PA20
4H104PA21
4H104PA22
4H104PA37
4H104PA41
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】本発明は、ポリアルファオレフィン(以下「PAO」とも言う)と1種以上のエステルとを併用することにより、PAO又は1種以上のエステルを単独で含有する場合と比較して優れた耐摩耗性を有する潤滑剤を提供する。
【解決手段】PAOと1種以上のエステルとを含有する潤滑油であって、縦軸に上記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径をとり、横軸に上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)をとったグラフにおいて、上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうち、小さい方の値よりも下側に、上記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径がプロットされる、潤滑油。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルファオレフィンと1種以上のエステルとを含有する潤滑油であって、
縦軸に前記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径をとり、横軸に前記1種以上のエステルの配合割合(質量比)をとったグラフにおいて、前記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、前記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうち、より小さな方の値よりも下側に、前記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径がプロットされる、潤滑油。
【請求項2】
潤滑油を用いて測定した摩耗痕径が、1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうち、より小さな方の値に対して摩耗痕径が90%以下である請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
ポリアルファオレフィンと1種以上のエステルとの配合割合(質量比)が、90:10~85:15である請求項1又は2に記載の潤滑油。
【請求項4】
1種以上のエステルは、(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸、(B)脂肪族ジカルボン酸、及び、(C)脂肪族二価アルコールをエステル化して得られたものである請求項1又は2に記載の潤滑油。
【請求項5】
(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸は、炭素数8の直鎖状モノカルボン酸であり、
(B)脂肪族ジカルボン酸は、炭素数6から10の脂肪族ジカルボン酸であり、
(C)脂肪族二価アルコールは、3-メチル-1,5-ペンタンジオールである
請求項4に記載の潤滑油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は、その用途、使用される装置や機械の違いにより、様々な粘度の潤滑油が用いられ、その使用温度も低温から高温に至るまで様々である。
従来、潤滑油としては安価で入手容易な鉱物油が主に使用されてきたが、耐熱性に乏しく粘度指数が低いため、最近では基本要求特性が厳しい用途においては粘度指数が高く耐熱性に優れる合成炭化水素や有機酸エステル類等の合成潤滑油が主に用いられている。
【0003】
上記有機酸エステル類としては、脂肪族モノカルボン酸と一価アルコールの反応から得られるモノエステル(以下、「モノエステル」という。)、脂肪族二塩基酸と一価アルコールの反応から得られるジエステル(以下、「脂肪族二塩基酸ジエステル」という。)、多価アルコールと脂肪族カルボン酸との反応から得られるエステル(以下、「ポリオールエステル」という。)、及び多価アルコール、多塩基酸、脂肪族モノカルボン酸(及び/又は脂肪族一価アルコール)との反応から得られる複合エステル(以下、「ポリオール型複合エステル」という。)等が知られている。
【0004】
しかしながら、潤滑油の使用条件及び耐熱性、低温流動性、高粘度指数、金属適合性などの基本要求特性は益々厳しくなっており、従来の有機酸エステル類は、このような基本要求特性をバランスよく兼ね備えているとは言い難く、更なる改善が要望されている。
このような基本要求特性をバランスよく兼ね備えた潤滑油として、例えば、特許文献1には、脂肪族飽和モノカルボン酸、特定のジオール及び二価のカルボン酸でエステル化反応させて得られる脂肪族二価アルコール複合エステルを含む潤滑油が開示されている。
【0005】
しかしながら、近年の地球温暖化問題対策として、自動車、家電、電子情報機器、工業用機械等の様々な産業分野で使用されている装置や機械の省エネルギー化や省燃費化が進められており、これらの装置や機械に用いられる潤滑油についても省エネルギー化対策の一つとして粘性摩擦によるエネルギー損失を低減するために潤滑油の益々の耐摩耗性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性に優れる潤滑油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有機エステル類を含む潤滑油の耐摩耗性をより向上させることを目的にポリアルファオレフィン(以下「PAO」とも言う)と1種以上のエステルとを併用した潤滑油について検討を行った結果、PAOと1種以上のエステルとを含有する潤滑油の耐摩耗性は、驚くべきことに、PAO又は1種以上のエステルを単独で含有する潤滑油の耐摩耗性と比較して、より優れた耐摩耗性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、PAOと1種以上のエステルとを含有する潤滑油であって、縦軸に上記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径をとり、横軸に上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)をとったグラフにおいて、上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうちより小さな値よりも下側に、上記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径がプロットされる、潤滑油である。
【0010】
本発明の潤滑油は、潤滑油を用いて測定した摩耗痕径が、1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうちより小さな方の値に対して摩耗痕径が90%以下であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油は、PAOと1種以上のエステルとの配合割合(質量比)が、90:10~85:15であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油において、上記1種以上のエステルは、(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸、(B)脂肪族ジカルボン酸、及び、(C)脂肪族二価アルコールをエステル化して得られたものであることが好ましい。
更に、上記(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸は、炭素数8の直鎖状モノカルボン酸であり、上記(B)脂肪族ジカルボン酸は、炭素数6から10の脂肪族ジカルボン酸であり、上記(C)脂肪族二価アルコールは、3-メチル-1,5-ペンタンジオールであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、PAOと1種以上のエステルとを含有することにより、PAO又は1種以上のエステルを単独で含有する潤滑油と比較して耐摩耗性を向上させた潤滑油を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】縦軸に本発明の潤滑油を用いて測定した摩耗痕径をとり、横軸に上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)をとったグラフである。
【
図2】表2に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とを示すグラフである。
【
図3】表3に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とを示すグラフである。
【
図4】表4に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とを示すグラフである。
【
図5】表5に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とを示すグラフである。
【
図6】表6に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とを示すグラフである。
【
図7】表7に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とを示すグラフである。
【
図8】表8に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、PAOと1種以上のエステルとを含有する潤滑油である。
図1は、縦軸に本発明の潤滑油を用いて測定した摩耗痕径をとり、横軸に上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)をとったグラフであり、上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうちより小さな方の値よりも下側に、上記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径がプロットされる。
すなわち、本発明の潤滑油の摩耗痕径は、
図1に示したグラフでは、摩耗痕径(100)の方が摩耗痕径(0)よりも小さな値であるから、摩耗痕径(100)を通って横軸に平行な線より下側で、縦軸及び横軸で囲われたグレーの領域にプロットされるものであり、PAO単独で含有する潤滑油、又は、1種以上のエステル単独で含有する潤滑油と比較して、より耐摩耗性が向上されたものである。
【0014】
本発明の潤滑油は、上記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径が、上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうちより小さな方の値に対して摩耗痕径が90%以下であることが好ましい。このような本発明の潤滑油は、PAOと1種以上のエステルとを併用することで極めて耐摩耗性を向上させた潤滑油となる。
【0015】
このような耐摩耗性が向上された本発明の潤滑油は、例えば、使用するPAO及び1種以上のエステルの組み合わせに応じて配合比率を適宜調整することで達成することができる。具体的には、例えば、1種以上のエステルとして、構成する酸成分、アルコール成分ができるだけ直鎖性のあるものを選択基準におき、更には、PAOとの配合において、流動点が-40℃以下を示すような配合比を選択する方法が挙げられる。
【0016】
なお、本発明において、上記摩耗痕径は、JPI-5S-32-90(社団法人石油学会の規格)に準拠して、高速四球型摩耗試験機(神鋼造機社製)を用いて、75℃、回転数1200rpm、荷重20kg、時間60分の条件で試験して測定される摩耗痕径(mm)である。
【0017】
<PAO>
上記PAOは、100℃における動粘度が1.7mm2/s以上10.0mm2/s以下、かつ、粘度指数が120以上150以下であることが好ましい。より好ましくは動粘度が4.0mm2/s以上6.0mm2/s以下、かつ、粘度指数が130以上145以下である。
このようなPAOとしては、例えば、炭素数2~16のα-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン等)の重合体又は共重合体が例示される。
また、市販されているPAOの具体例としては、例えば、デュラシン162、デュラシン164、デュラシン166、デュラシン168(BPジャパン社製)や、シンフルード201、シンフルード401、シンフルード601、シンフルード801(CHEVRON Phillips Chemical社製)や、SpectraSyn2、SpectraSyn4、SpectraSyn6、SpectraSyn8,SpectraSyn10、PureSyn2、PureSyn4、PureSyn6,PureSyn8(エクソンモービル社製)や、リポルーブ40、リポルーブ60,リポルーブ80、リポルーブ100(ライオン社製)などが例示される。
【0018】
上記PAOの製法については特に限定されないが、例えば、三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素または三フッ化ホウ素と水、アルコール(例えばエタノール、プロパノールまたはブタノール)、カルボン酸、又は、エステル(例えば酢酸エチルまたはプロピオン酸エチル)との錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下でのアルファオレフィンの重合等が挙げられる。
【0019】
<1種以上のエステル>
上記1種以上のエステルとしては、例えば、以下の3種が挙げられる。
(1)(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸、(B)脂肪族ジカルボン酸、及び、(C)脂肪族二価アルコールを常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下又は無触媒下で加熱撹拌しながらエステル化することにより調製されるエステル化合物(以下、このような方法で合成されたエステルをコンプレックスエステルともいう)
(2)(B)脂肪族ジカルボン酸と、(D)脂肪族一価アルコールとを常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下又は無触媒下で加熱撹拌しながらエステル化することにより調製されるエステル化合物(以下、このような方法で合成されたエステルを脂肪族ジカルボン酸ジエステルともいう)。
(3)(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸と、(C)脂肪族二価アルコールとを常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下又は無触媒下で加熱撹拌しながらエステル化することにより調製されるエステル化合物(以下、このような方法で合成されたエステルをジオール型ジエステルともいう)。
【0020】
上記1種以上のエステルに係る(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸成分(以下、(A)成分とも言う)としては、例えば、炭素数4~18、好ましくは4~12、さらに好ましくは炭素数7~10の脂肪族直鎖状飽和モノカルボン酸(a1)が挙げられる。
【0021】
上記(a1)成分としては、具体的には、例えば、n-ブタン酸、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸、n-ウンデカン酸、n-ドデカン酸、n-トリデカン酸、n-テトラデカン酸、n-ペンタデカン酸、n-ヘキサデカン酸、n-ヘプタデカン酸、n-オクタデカン酸が例示される。
これらの中でも、低温流動性に優れ、低温粘度が低い点で、炭素数4~9の脂肪族直鎖状飽和モノカルボン酸が好ましく、具体的には、n-ブタン酸、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸が例示される。
また、耐熱性に優れる点で、炭素数8~12の脂肪族直鎖状飽和モノカルボン酸が好ましく、具体的には、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸、n-ウンデカン酸、n-ドデカン酸が例示される。
更には、非常に高い粘度指数、良好な耐熱性及び低温流動性を有する点で炭素数7~10の脂肪族直鎖状飽和モノカルボン酸が好ましく、具体的にはn-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸が好ましい。
これらは、夫々単独で又は2種以上を適宜組み合わせてエステル化に供することができる。
【0022】
上記1種以上のエステルに係る酸成分の(B)脂肪族ジカルボン酸(以下、(B)成分とも言う)としては、炭素数2~10、好ましくは炭素数6~10の脂肪族ジカルボン酸であり、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が例示される。
これらの中でも、耐熱性及び低温流動性に優れる点で、炭素数6~10の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、具体的には、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸が例示され、特に、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸が好ましい。
これらは、夫々単独で又は2種以上を適宜組み合わせてエステル化に供することができる。
【0023】
上記1種以上のエステルの製造に使用する(C)脂肪族二価アルコール(以下、(C)成分とも言う)としては、例えば、直鎖状脂肪族二価アルコール、1個又は2個の分岐を有する脂肪族二価アルコールが挙げられる。
【0024】
上記直鎖状脂肪族二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等が例示される。
上記1個又は2個の分岐を有する脂肪族二価アルコールとしては、例えば、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘプタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、1,7-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、1,8-ノナンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,9-ノナンジオール、4-メチル-1,9-ノナンジオール、5-メチル-1,9-ノナンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等が例示される。
これらは、夫々単独で又は2種以上を適宜組み合わせてエステル化に供することができる。
【0025】
これらの中でも、低温流動性に優れる点で、1個又は2個の分岐を有する脂肪族二価アルコールが好ましく、特に炭素数4~9の脂肪族二価アルコールが好ましい。
具体的には、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘプタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、1,7-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、1,8-ノナンジオールが好ましい。
これらの中でも、耐熱性及び低温流動性に優れる点で、1個の分岐(特に、メチル基)を有する脂肪族二価アルコールが好ましく、より好ましくは炭素数3~10、特に好ましくは炭素数4~6の脂肪族二価アルコールが好ましい。具体的には、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオールが好ましく、特に、3-メチル-1,5-ペンタンジオールが好ましい。
【0026】
上記1種以上のエステルの製造に使用する(D)脂肪族一価アルコール(以下、(D)成分とも言う)としては、例えば、直鎖状脂肪族アルコール、1個又は2個以上の分岐を有する脂肪族一価アルコールが挙げられる。
【0027】
<エステル化反応>
上述した成分のエステル化に際し、使用する酸成分の(A)成分と(B)成分の使用比率は、(A):(B)=98:2~40:60(当量比)が好ましく、得られる1種以上のエステルの耐熱性と低温流動性のバランスに優れる点で、特に、(A)成分と(B)成分は、(A):(B)=95:5~70:30(当量比)で使用するのが好ましい。
ここでいう「当量」とは、エステル化反応に使用する(A)成分と(B)成分に含まれるカルボキシル基の合計モル数に対する、各成分のカルボキシル基のモル数の比を指すものとする。例えば、(A)成分であるモノカルボン酸を3モル(MA=3)使用し、(B)成分であるジカルボン酸を1モル(2MB=2)使用した場合、(A)成分と(B)成分との当量比は(A):(B)=3:2=60:40となる。
【0028】
上記エステル化の際、(A)成分及び(B)成分からなる酸成分は、例えば、アルコール成分である(C)成分の脂肪族二価アルコール1当量に対し1.0~1.5当量、好ましくは該アルコール成分1当量に対し1.01~1.1当量用いられる。
すなわち、アルコール成分中の-OH基1モルに対し、酸成分中の-COOH基のモル数が1.0~1.5、好まくは1.01~1.1、より好ましくは1.01~1.05になるように使用される。
【0029】
上記エステル化反応では、エステル化触媒を使用することが好ましい。
上記エステル化触媒としては、例えば、ルイス酸類、アルカリ金属類、スルホン酸類等が例示され、具体的にルイス酸類としては、アルミニウム誘導体、錫誘導体、チタン誘導体が例示され、アルカリ金属類としては、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等が例示され、更にスルホン酸類としてはパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等が例示される。
その使用量は、例えば原料である(A)成分及び(B)成分である酸成分及び(C)成分であるアルコール成分の総質量に対して0.1~1.0質量%程度用いられる。
上記触媒のうちでも、上記ルイス酸が好ましい。
【0030】
上記エステル化反応は、通常150~250℃、好ましくは160~230℃の反応温度で、不活性ガスの存在下で行うことが好ましく、反応時間としては、通常3~30時間である。
上記エステル化反応は、無溶媒で行うことができるが、必要に応じて、生成してくる水をベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の水同伴剤を用いて系外に共沸留去させてもよい。水同伴剤を使用する場合、その使用量は、原料である(A)成分及び(B)成分である酸成分及び(C)成分であるアルコール成分の総質量に対して1~20質量%、特に1~10質量%使用するのが好ましい。
【0031】
上記エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下又は常圧下にて留去する。
引き続き慣用の精製方法、例えば、中和、水洗、液液抽出、減圧蒸留、活性炭等の吸着剤を用いて上記1種以上のエステルを精製することができる。
特に、上記エステル化反応により得られたエステル化反応生成物を、そのまま或いは未反応の酸(水同伴剤を使用した場合は、水同伴剤)を留去した後、アルカリ洗浄に供するのが好ましい。これにより、残存する未反応の酸、末端にカルボキシル基を有する不純物、触媒等が除去され、金属適合性、耐熱性等に優れた1種以上のエステルを得ることができる。
【0032】
上記アルカリ洗浄に使用する洗浄液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩等のアルカリの水溶液が例示でき、その濃度は特に限定されないが、0.5~20質量%程度が好ましい。
上記アルカリ水溶液の使用量は反応終了後の反応生成物の全酸価に対して等量又は過剰となる量とするのが好ましい。
上記アルカリ洗浄後の生成物は、中性となるまで水洗するのが好ましい。
こうして上記1種以上のエステルを得ることができる。
なお、上記1種以上のエステルは、公知のエステル交換により得ることも可能である。
また、これらの脂肪族飽和モノカルボン酸の代わりにこれらのメチルエステル、エチルエステル等の炭素数1~4の低級アルキルエステルを用いることも可能である。
【0033】
<本発明の潤滑油>
本発明の潤滑油において、上記PAOと1種以上のエステルとの配合割合(質量比)は、90:10~85:15であることが好ましい。このような配合割合でPAOと1種以上のエステルとを含むことで、例えば、本発明の潤滑油を用いて測定した摩耗痕径を、好適に上記摩耗痕径(0)、及び、摩耗痕径(100)のうちより小さな方の値に対して90%以下とすることができる。
【0034】
本発明の潤滑油は、従来公知の他の基油(以下「併用基油」という)や潤滑油添加剤を本発明の効果を奏する範囲内で併用ないし添加することができる。
【0035】
上記併用基油の使用は、本発明の潤滑油の使用予定量の一部を置換して使用するものである。上記併用基油を使用する場合、その使用量は、本発明の潤滑油と併用基油との総質量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下の範囲が好ましい。
【0036】
上記併用基油としては、例えば、動植物油、上述したPAO及び1種以上のエステル以外の有機酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、シリコーン油などが例示される。係る併用基油は1種でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0037】
上記動植物油としては、例えば、牛脂、豚脂、パーム油、ヤシ油、ナタネ油、ヒマシ油、ヒマワリ油等が例示される。
【0038】
上述したPAO及び1種以上のエステル以外の有機酸エステルとしては、脂肪酸モノエステル、ポリオールエステル等が例示される。
上記脂肪酸モノエステルとしては、炭素数5~22の脂肪族直鎖状又は分岐鎖状モノカルボン酸と炭素数3~22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとから得られるモノエステルなどが挙げられる。
上記ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等のネオペンチル型のポリオールと炭素数3~22の直鎖状及び/又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸とから得られるポリオールエステルなどが挙げられる。
上記以外のエステルとしては、例えば、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、或いは縮合ヒマシ油脂肪酸、水添縮合ヒマシ油脂肪酸などのヒドロキシ脂肪酸と炭素数3~22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのエステル化合物などが挙げられる。
【0039】
上記ポリアルキレングリコールとしては、例えば、アルコールと炭素数2~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンオキサイドの開環重合体が例示される。
上記アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられ、これらの1種を用いた重合体、又は2種以上の混合物を用いた共重合体が使用可能である。
また、片端又は両端の水酸基部分がエーテル化若しくはエステル化した化合物も使用可能である。重合体の動粘度(40℃)としては、通常5~1000mm2/s、好ましくは5~500mm2/sである。
【0040】
上記ポリビニルエーテルとしては、ビニルエーテルモノマーの重合によって得られる化合物であり、モノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2-プロピルビニルエーテル、1-ブチルビニルエーテル、2-メチル-1-プロピルビニルエーテル、2-ブチルビニルエーテル、2-メチル-2-プロピルビニルエーテル、1-ペンチルビニルエーテル、1-ヘキシルビニルエーテル、2-メトキシエチルビニルエーテル、2-エトキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
上記ポリフェニルエーテルとしては、例えば、2個以上の芳香環のメタ位をエーテル結合又はチオエーテル結合でつないだ構造を有する化合物が挙げられ、具体的には、ビス(m-フェノキシフェニル)エーテル、m-ビス(m-フェノキシフェノキシ)ベンゼン、及びそれらの酸素の1個若しくは2個以上を硫黄に置換したチオエーテル類(通称C-エーテル)等が例示される。
【0042】
上記アルキルフェニルエーテルとしては、例えば、ポリフェニルエーテルを炭素数6~18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基で置換した化合物が挙げられ、特に1個以上のアルキル基で置換したアルキルジフェニルエーテルが好ましい。
【0043】
上記シリコーン油としては、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンのほか、長鎖アルキルシリコーン、フルオロシリコーン等の変性シリコーンが挙げられる。
【0044】
上記これらの併用基油の中で、上述したPAO及び1種以上のエステル以外の有機酸エステルを併用した場合には耐熱性や潤滑性が向上する場合がある。
【0045】
本発明の潤滑油には、その性能をより向上させるために、公知の酸化防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属不活性剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤等の潤滑油添加剤を、1種で又は2種以上を適宜組み合わせて、本発明の効果を奏する範囲内で配合することが可能である。
【0046】
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、4-ヒドロキシメチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,2’-メチレンビス-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール等のフェノール系、N-フェニル-α-ナフチルアミン、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン等のアミン系、p,p’-ジノニルジフェニルアミン、混合ジアルキルジフェニルアミン、フェノチアジン等の硫黄系化合物等が例示される。
これらの酸化防止剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの酸化防止剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して0.01~5質量部、好ましくは0.05~3質量部添加することが好ましい。
【0047】
上記金属清浄剤としては、例えば、Ca-石油スルフォネート、過塩基性Ca-石油スルフォネート、Ca-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ca-アルキルベンゼンスルフォネート、Ba-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ba-アルキルベンゼンスルフォネート、Mg-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Mg-アルキルベンゼンスルフォネート、Na-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Na-アルキルベンゼンスルフォネート、Ca-アルキルナフタレンスルフォネート、過塩基性Ca-アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、Ca-フェネート、過塩基性Ca-フェネート、Ba-フェネート、過塩基性Ba-フェネートなどの金属フェネート、Ca-サリシレート、過塩基性Ca-サリシレートなどの金属サリシレート、Ca-フォスフォネート、過塩基性Ca-フォスフォネート、Ba-フォスフォネート、過塩基性Ba-フォスフォネートなどの金属フォスフォネート、過塩基性Ca-カルボキシレート等が例示される。
これらの金属清浄剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの金属清浄剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して1~10質量部、好ましくは2~7質量部添加することが好ましい。
【0048】
上記無灰分散剤としては、例えば、ポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルベンジルアミン、ポリアルケニルコハク酸エステル等が例示される。
これらの無灰分散剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの無灰分散剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して1~10質量部、好ましくは2~7質量部添加することが好ましい。
【0049】
上記油性剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコールなどのグリセリンエーテル、ラウリルポリグリセリンエーテル、オレイルポリグリセリルエーテルなどのアルキル若しくはアルケニルポリグリセリルエーテル、ジ(2-エチルヘキシル)モノエタノールアミン、ジイソトリデシルモノエタノールアミンなどのアルキル若しくはアルケニルアミンのポリ(アルキレンオキサイド)付加物等が例示される。
これらの油性剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いてもよい。
これらの油性剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して0.01~5質量部、好ましくは0.1~3質量部添加することが好ましい。
【0050】
上記摩耗防止剤・極圧剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート類、トリブチルホスフェート、ジブチルホスフェート等のリン酸エステル類、トリブチルホスファイト、ジブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト等の亜りん酸エステル類及びこれらのアミン塩等のリン系、硫化油脂、硫化オレイン酸などの硫化脂肪酸、ジベンジルジスルフィド、硫化オレフィン、ジアルキルジスルフィドなどの硫黄系、Zn-ジアルキルジチオフォスフェート、Zn-ジアルキルジチオフォスフェート、Mo-ジアルキルジチオフォスフェート、Mo-ジアルキルジチオカルバメートなどの有機金属系化合物等が例示される。
これらの摩耗防止剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの摩耗防止剤・極圧剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部添加することが好ましい。
【0051】
上記金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が例示される。
これらの金属不活性剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの金属不活性剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して0.01~0.4質量部、好ましくは0.01~0.2質量部添加することが好ましい。
【0052】
上記防錆剤としては、例えば、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、Ca-石油スルフォネート、Ca-アルキルベンゼンスルフォネート、Ba-アルキルベンゼンスルフォネート、Mg-アルキルベンゼンスルフォネート、Na-アルキルベンゼンスルフォネート、Zn-アルキルベンゼンスルフォネート、Ca-アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、ロジンアミン、N-オレイルザルコシンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が例示される。
これらの防錆剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの防錆剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して0.01~5質量部、好ましくは0.05~2質量部添加することが好ましい。
【0053】
上記粘度指数向上剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体などのオレフィン共重合体が例示される。
これらの粘度指数向上剤は、単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの粘度指数向上剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して0.1~15質量部、好ましくは0.5~7質量部添加することが好ましい。
【0054】
上記流動点降下剤としては、例えば、塩素化パラフィンとアルキルナフタレンの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、粘度指数向上剤であるポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン等が例示される。
これらの流動点降下剤は、単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
これらの流動点向上剤を使用する場合、その使用量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して好ましくは0.01~5質量部添加し、より好ましくは0.1~3質量部添加する。
【0055】
上記消泡剤としては、例えば、液状シリコーンが適しており、消泡剤を使用する場合、その添加量は、通常、上述したPAO及び1種以上のエステル(併用基油を使用する場合にはその併用基油を含む総量)100質量部に対して0.0005~0.01質量部添加することが好ましい。
【0056】
このようにして得られる本発明の潤滑油は、優れた耐摩耗性を備えたものとなり多用途に使用できる。更に、耐熱酸化安定性、高温清浄性、耐水性及び材料適合性のバランスが良好とすることができ、低温貯蔵安定性も良好であることから、自動車用途に好適である。自動車用途の中でも、エンジン用、変速機用またはショックアブソーバー用潤滑油用途がより有効性が高く、特にエンジン用、変速機用用途が最も有用である。
【0057】
本明細書では以下の事項が開示されている。
本開示(1)は、PAOと1種以上のエステルとを含有する潤滑油であって、縦軸に前記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径をとり、横軸に前記1種以上のエステルの配合割合(質量比)をとったグラフにおいて、前記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)と、前記1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)とを結ぶ直線よりも下側に、前記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径がプロットされる、潤滑油である。
本開示(2)は、上記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径が、1種以上のエステルの配合割合(質量比)が0%のときの摩耗痕径(0)、及び、1種以上のエステルの配合割合(質量比)が100%のときの摩耗痕径(100)のうちより小さな方の値に対して摩耗痕径が90%以下である本開示(1)に記載の潤滑油である。
本開示(3)は、上記PAOと1種以上のエステルとの配合割合(質量比)が、90:10~85:15である本開示(1)又は(2)に記載の潤滑油である。
本開示(4)は、上記1種以上のエステルが、(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸(A成分)、(B)脂肪族ジカルボン酸(B成分)及び(C)脂肪族二価アルコール(C成分)をエステル化して得られたものである本開示(1)~(3)の何れかに記載の潤滑油である。
本開示(5)は、上記(A)脂肪族直鎖状モノカルボン酸(A成分)が、炭素数8の直鎖状モノカルボン酸(A成分)であり、上記(B)脂肪族ジカルボン酸(B成分)が、炭素数6から10の脂肪族ジカルボン酸(B成分)であり、上記(C)脂肪族二価アルコール(C成分)が、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(C成分)である本開示(4)に記載の潤滑油である。
【実施例0058】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、実施例中の各特性の測定方法は以下の通りである。特に言及していない化合物は試薬を使用した。
【0059】
[使用化合物]
PAO1:SpectraSyn 4(エクソンモービル社製)
PAO2:PAO2.5 Synfluid 2.5 cSt(CHEVRON Phillips Chemical社製)
1種以上のエステル
【表1】
【0060】
(製造例1)
撹拌器、温度計及び冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコにn-オクタン酸393g(2.7モル)、セバシン酸61g(0.3モル)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール177g(1.5モル)、キシレン(酸及びアルコールの総量に対し5質量%)及び触媒として酸化スズ(酸及びアルコールの総量に対し0.2質量%)を仕込み、窒素雰囲気下、減圧にて230℃まで昇温した[n-オクタン酸:セバシン酸=9:1(当量比)]。理論生成水量(54g)を目安にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約7時間行った。
反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留(条件:200℃、50mmHg以下)で除去した。次いで、反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗してエステル化反応粗物を得た。さらに得られたエステル化反応粗物を活性炭で処理後、濾過をして3-メチル-1,5-ペンタンジオール/n-オクタン酸/セバシン酸から得られるコンプレックスエステル(エステル1)395gを得た。
【0061】
(製造例2)
3-メチル-1,5-ペンタンジオール118g(1.0モル)に対して、n-オクタン酸を277g(1.9モル)、セバシン酸に代えてアゼライン酸19g(0.1モル)[n-オクタン酸:アゼライン酸=9.5:0.5(当量比)]とした以外は、製造例1と同様の方法により、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/n-オクタン酸/アジピン酸から得られるコンプレックスエステル(エステル2)270gを得た。
【0062】
(製造例3)
3-メチル-1,5-ペンタンジオール118g(1.0モル)に対して、n-オクタン酸を415g(2.9モル)、セバシン酸に代えてアジピン酸22g(0.2モル)[n-オクタン酸:アジピン酸=9.5:0.5(当量比)]とした以外は、製造例1と同様の方法により、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/n-オクタン酸/アジピン酸から得られるコンプレックスエステル(エステル3)257gを得た。
【0063】
(製造例4)
3-メチル-1,5-ペンタンジオール118g(1.0モル)に対して、n-オクタン酸を262g(1.8モル)、セバシン酸に代えてアジピン酸30g(0.2モル)[n-オクタン酸:アジピン酸=9:1(当量比)]とした以外は、製造例1と同様の方法により、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/n-オクタン酸/アジピン酸から得られるコンプレックスエステル(エステル4)255gを得た。
【0064】
(製造例5)
3-メチル-1,5-ペンタンジオールに代えてイソデカノール175g(1.2モル)を用い、酸成分としてアジピン酸146g(1.0モル)を用いた以外は、製造例1と同様の方法により、イソデカノール/アジピン酸から得られる単一のエステル(エステル5)401gを得た。
【0065】
(製造例6)
酸成分としてn-ウンデカン酸446g(2.4モル)を用いた以外は、製造例1と同様の方法により、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/n-ウンデカン酸から得られる単一のエステル(エステル6)512gを得た。
【0066】
(a)動粘度
JIS K2283(2000年)に準拠して、40℃、100℃における動粘度(mm2/s)を測定した。
【0067】
(b)耐摩耗性
JPI-5S-32-90に準拠して、高速四球型摩耗試験機(神鋼造機製)を用いて、回転数1200rpm、荷重20kg、時間60分の条件で試験し、摩耗痕径(mm)を測定し、縦軸に前記潤滑油を用いて測定した摩耗痕径をとり、横軸に上記1種以上のエステルの配合割合(質量比)をとったグラフを用いて以下の基準で評価した。なお、形成された摩耗痕径が小さいものほど潤滑性が良好である。
◎:摩耗痕径が、1種以上のエステル又はPAO単独使用時の摩耗痕径の小さい方に対して90%以下
〇:摩耗痕径が、1種以上のエステル又はPAO単独使用時の摩耗痕径の小さい方よりも小さい
×:摩耗痕径が、1種以上のエステル又はPAO単独使用時の摩耗痕径の小さい方と同じかより大きい
【0068】
(実施例及び比較例)
PAOと製造例1~6で得られた1種以上のエステル(エステル1~6)とを表2~8に記載の割合(質量比)からなる潤滑油の動粘度、及び、摩耗痕径を表2~8に示した。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
表2~8に記載の摩耗痕径と1種以上のエステルの配合割合とのグラフを
図2~8に示した。
表2~8及び
図2~8に示したように、実施例に係る潤滑油は、PAO又は1種以上のエステルを単独で使用した潤滑油と比較して優れた耐摩耗性を示すことが判る。
【0077】
(実施例42、比較例9)
3-メチル-1,5-ペンタンジオールに代えて2-エチルヘキサノール263g(2.02モル)を用い、酸成分としてアゼライン酸188g(1モル)を用いた以外は、製造例1と同様の方法により、2-エチルヘキサノール/アゼライン酸から得られる単一のエステル(エステル7)を得た。
エステル7のみを含む潤滑油(比較例9)は、摩耗痕径が0.4973mm、動粘度(40℃、100℃)が、(10.5mm2/s、3mm2/s)であり、PAO1:エステル7=60:40の割合(質量比)からなる潤滑油(実施例42)は、摩耗痕径が0.4658mmと「〇」の評価であり、動粘度(40℃、100℃)が、(15.3mm2/s、3.65mm2/s)であった。
本発明の潤滑油は、耐摩耗性が良好であることから、多用途に使用できる。例えば、作動油、金属加工油、切削油、圧縮機油、冷凍機油、ギヤ油、軸受油、チェーン油、グリース基油、工業用潤滑油、繊維油剤等が例示される。