(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010131
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】動物用栄養組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 20/153 20160101AFI20250109BHJP
A23K 50/20 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
A23K20/153
A23K50/20
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024150857
(22)【出願日】2024-09-02
(62)【分割の表示】P 2023579445の分割
【原出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】523481171
【氏名又は名称】株式会社レースホース
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生駒 優希
(72)【発明者】
【氏名】山根 拓也
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005EA02
2B150AA01
2B150AB03
2B150AB10
2B150DC19
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規な動物用栄養組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、競走馬用栄養組成物、血中乳酸濃度向上抑制用の動物用栄養組成物、毛並み改善用の動物用栄養組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、競走馬用栄養組成物。
【請求項2】
ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、血中乳酸濃度向上抑制用の動物用栄養組成物。
【請求項3】
ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、毛並み改善用の動物用栄養組成物。
【請求項4】
競走馬に用いられる、請求項2又は3に記載の動物用栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチンアミドモノヌクレオチドは、補酵素NAD+の生合成中間代謝物である。非特許文献1においては、経口摂取によるヒトの臨床試験で、ニコチンアミドモノヌクレオチドに、肥満改善、糖尿病予防、筋肉インスリン感受性改善、の作用があることが報告されている。また、非特許文献2においては、経口摂取によるマウスを用いた試験で、ニコチンアミドモノヌクレオチドに、体重増加抑制、インスリン感受性改善、脂質代謝改善、ミ視覚能力改善、骨密度上昇、免疫機能上昇、の作用があることが報告されている。一方で、ニコチンアミドモノヌクレオチドを競走馬に経口摂取させた例は知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Mihoko Yoshino, Jun Yoshino, Brandon D Kayser, Gary J Patti, Michael P Franczyk, Kathryn F Mills, Miriam Sindelar, Terri Pietka, Bruce W Patterson, Shin-Ichiro Imai, Samuel Klein, Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women, Science 2021, 372, 1224-1229.
【非特許文献2】Kathryn F. Mills, Shohei Yoshida, Liana R. Stein, Koji Uchida, Jun Yoshino, Shin-ichiro Imai, Long-Term Administration of Nicotinamide Mononucleotide Mitigates Age-Associated Physiological Decline in Mice Cell Metabolism 2016, 24, 795-806.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な動物用栄養組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下を含む。
〔1〕 ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、競走馬用栄養組成物。
〔2〕 ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、血中乳酸濃度向上抑制用の動物用栄養組成物。
〔3〕 ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、毛並み改善用の動物用栄養組成物。
〔4〕 競走馬に用いられる、〔2〕又は〔3〕に記載の動物用栄養組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の動物用栄養組成物によると、競走馬の血中乳酸値濃度の向上を抑制すること、及び/又は毛並みを改善すること、ができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】試験例1における乳酸値濃度の測定結果を示す図である。
【
図2】試験例1における乳酸値濃度の平均値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[栄養組成物]
本発明の栄養組成物(以下、「本栄養組成物」ともいう)は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、「NMN」ともいう)を含む。
【0009】
<NMN>
NMN(化学式:C11H15N2O8P)には、光学異性体としてα、βの2種類が存在するが、本発明ではβ-NMN(CAS番号:1094-61-7)が用いられる。β-NMNの構造を下記に示す。
【0010】
【0011】
β-NMNとしては、いずれの方法で調製されたものであってもよい。例えば、化学合成法、酵素法、発酵法等により、人工的に合成したβ-NMNを精製したものを用いることができる。また、β-NMNは広く生体に存在する成分であるため、動物、植物、微生物などの天然原料から抽出・精製することによって得られたβ-NMNを用いることもできる。また、市販されている精製されたβ-NMNを使用してもよい。
【0012】
β-NMNを合成する化学合成法としては、例えば、ニコチンアミドとL-リボーステトラアセテートとを反応させ、得られたニコチンアミドモノヌクレオシドをリン酸化することによりβ-NMNを製造できる。また、酵素法としては、例えば、ニコチンアミドと5’-ホスホリボシル-1’-ピロリン酸(PRPP)から、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)によりβ-NMNを製造できる。発酵法としては、例えば、NAMPTを発現している微生物の代謝系を利用して、ニコチンアミドからβ-NMNを製造できる。
【0013】
本栄養組成物に含まれるNMNとしては、β-NMNの薬理学的に許容される塩であってもよい。β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、無機酸塩であってもよく、アミンのような塩基性部位を有する有機酸塩であってもよい。このような酸塩を構成する酸としては、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、アルカリ塩であってもよく、カルボン酸のような酸性部位を有する有機塩であってもよい。このような酸塩を構成する塩基としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であって、水素化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、アンモニア、トリメチルアンモニア、トリエチルアンモニア、エチレンジアミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、プロカイン、ジエタノールアミン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基から誘導されるものが挙げられる。
【0014】
栄養組成物に含まれるNMNとしては、遊離のβ-NMN又はβ-NMNの薬理学的に許容される塩の溶媒和物であってもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。
【0015】
本栄養組成物に含まれるNMNの含有量は限定されないが、例えば、本栄養組成物の全量を100質量部とした場合に、100質量部であってもよく、1~99.9質量部であってもよく、1~50質量部であってもよい。
【0016】
<その他の成分>
本栄養組成物は、NMN以外の成分を含むものであってもよい。本栄養組成物は、例えば、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンE等)、各種ミネラル類、食物繊維、多価不飽和脂肪酸、その他栄養素(β-カロチン、リコピン、アスタキサンチンなどのカロチノイド、カルチニン、セサミン)、分散剤、乳化剤等の安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。ペパーミント、ベルガモット、カモミール、ラベンダーなどのハーブ類を配合してもよい。
【0017】
<剤形>
本発明の動物用栄養組成物の形態としては、粉末、散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、タブレット、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、粘付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。
【0018】
製剤化のために用いることができる添加剤には、例えば大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ひまわり油、牛脂、いわし油等の動物性油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、精製水、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D-マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液等の賦形剤、甘味料、着色料、pH調整剤、香料等が挙げられる。なお、液体製剤には、服用時に水または他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしても良い。
【0019】
<用途>
本栄養組成物は、そのまま、又は動物用の基礎飼料に混合した動物用飼料組成物として、動物に摂取させることができる。本栄養組成物は、動物の全飼育期で摂取させてもよく、飼育期の特定の期間に摂取させてもよい。
【0020】
本栄養組成物を投与する動物の好適例としては、競走馬が挙げられる。競走馬に投与することにより、血中の乳酸濃度向上を抑制することができるので筋肉疲労が少なく筋肉痛にもなりにくく、競走馬としての結果の向上に寄与しうる。競走馬は、例えば2歳~7歳の馬が含まれ、飼育中の若い馬も含む。投与量は、馬の飼育年数、体重、性別等により異なるが、1回当たりに、NMNが、例えば1g~10gが含まれるように投与される。NMNの1日の投与量は、例えば1g~30gであり、好ましくは1g~20gであり、より好ましくは1g~15gである。
【0021】
本栄養組成物を投与する競走馬以外の動物としては、ヒト以外の動物が挙げられ、鳥類(例えば、鶏、ウズラ、シチメンチョウ、カモなど;例えば、家禽)、哺乳動物類(ウシ亜科の動物(例えば、家畜牛(ウシ(例えば、乳牛および/または肉牛))、バイソン、バッファロー)、ウマ科の動物(例えば、ウマ、ロバ、シマウマなど)、ヒツジ、ヤギ、レイヨウ、ブタなど)が挙げられる。家畜は、例えば家禽であり、鶏(ブロイラー、レイヤー等)が例示される。
【0022】
本栄養組成物は、投与する動物の血中乳酸濃度向上抑制用として、又は毛並みの改善用として用いることができる。毛並みの改善は、体毛の改善を意味し、体毛の艶、質、生え具合、色合い、等の改善を意味する。
【0023】
[動物用飼料組成物]
本発明の動物用飼料組成物(以下、「本家動物飼料組成物」ともいう)は、NMNと、基礎飼料とを含む。本動物用飼料組成物として、上記した本栄養組成物と、基礎飼料とを含む形態が挙げられる。本栄養組成物に含まれる成分の詳細は、上記したとおりである。
【0024】
基礎飼料としては、一般に市販されている基礎飼料、例えば、油粕類、動物性飼料原料、穀類及びその加工品、動物性油脂、植物性油脂、又はこれらの混合物を採用することが出来る。油粕類は、とうもろこし、マイロ、コウリャンなどの乾物類、大豆油粕、なたね油粕、ごま油粕、綿実油粕等である。動物性飼料原料は、魚粉、肉骨粉等である。穀類は、澱粉、大豆、小麦、えん麦等である。動物性油脂は、ミートミール、チキンミール、ラード、牛脂等である。植物性油脂は、ナタネ油、パーム油、ヤシ油、大豆油、サフラワー油、コーン油、綿実油等である。基礎飼料のCPとは、粗タンパク質(飼料の6成分のひとつで、窒素含量に6.25倍したもの)を意味し、CP18%(粗タンパク質の含有量が18%であること)、CP19%等の基礎飼料を採用することが出来る。
【0025】
基礎飼料には、本栄養組成物以外の他の添加物を添加しても良い。ここで、添加物は、例えば、海藻を挙げることが出来る。海藻には、カルシウム、亜鉛、ヨウ素(ヨード)等のミネラルや、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム等の食物繊維や、多糖類のフコイダン・フノラン、アミノペプチドの海苔ペプチド・わかめペプチド等の栄養素が多く含まれている。添加物は、その他に、コラーゲンを挙げることが可能であり、この形態は、例えば、抽出物、乾燥物、粉砕物、粉末等を挙げることが出来る。
【0026】
添加物は、上述の他に、例えば、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸、食塩、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、無水ケイ酸等のミネラル類、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸等のビタミン類、リジン、グリシン、メチオニン等のアミノ酸、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、乳酸菌等の生菌剤、鉄、亜鉛、マンガン、銅等の微量ミネラル、ハナビラタケ、マイタケ、シイタケ、冬虫夏草等のキノコ又はキノコ成分、酒粕、抗酸化剤、防カビ剤、食物繊維等を挙げることが出来る。
【0027】
本動物用飼料組成物中のNMNの含有量は、特に限定されないが、基礎飼料を100質量部とした場合に、例えば0.005~20質量部とすることができ、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.02~5質量部である。本動物飼料組成物の投与量は、動物の飼育年数、体重、性別等により異なるが、1回当たりに、例えば1kg~8kgが投与され、1日当たりに、例えば18kg~24kgを与えることができる。
【0028】
本動物用飼料組成物を摂取させる対象の動物の詳細は、上述したとおりである。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0030】
[栄養組成物の調製]
表1に記載の組成の栄養組成物Aと、基礎飼料A(えん麦、大豆かす(日本農産工業製)、飼料(商品名:ウィザード、株式会社クロスフィールド製)、を含む)を準備した。
【0031】
【0032】
[試験例1]
試験例1において、4頭の競走馬(競走馬A(7歳)、競走馬B(4歳馬)、競走馬C(8歳馬)、競走馬D(3歳馬))のそれぞれに、下記のように給餌を行い、血中乳酸濃度と毛並みを評価した。
【0033】
<血中乳酸濃度の評価>
各競走馬について、14日間継続して基礎飼料Aを投与した。給餌量は、1日3回、1回当たり6kg~8kgとした。14日目に、80分~100分の通常トレーニング(60分のウォーキングマシン、20~40分のトレーニング)後に、首の静脈から血液を採血して血中乳酸濃度を乳酸値測定装置(製品名:ラクテート・プロ2LT-1730、アークレイ株式会社製)で測定した(以下、「摂取前試験」とも称する)。その後、各競走馬について、14日間継続して、基礎飼料Aとともに栄養組成物Aを給餌した。給餌量は、1日3回、基礎飼料Aを1回当たり6kg~8kg、栄養組成物Aを1回当たり12gとし、NMNの1日当たりの給餌量が5.0~5.5gとなるようにした。そして、80分~100分の通常トレーニング後に、上記と同様の方法によって血中乳酸濃度を測定した(以下、「摂取後試験」とも称する)。
図1は4頭の乳酸値濃度の測定結果を示し、
図2は4頭の乳酸値濃度の平均値を示す。
【0034】
<毛並みの評価>
各競走馬について、摂取前試験時と摂取後試験時の毛並みを目視にて比較し、摂取後試験時の毛並みについて下記基準で評価を行った。表2に評価結果を示す。
3:艶感と質感の良好な改善が見られた。
2:艶感と質感のわずかな改善が見られた。
1:毛並みの改善が見られなかった。
【0035】
【0036】
図1,2に示す結果から、栄養組成物Aは、競走馬の血中乳酸値濃度の向上を抑制する効果があることがわかった。また、表2に示す結果から、栄養組成物Aは、競走馬の毛並みを改善させる効果があることがわかった。