(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010141
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ニオブ含有酸化物粉末、それを用いた電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20250109BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250109BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250109BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20250109BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20250109BHJP
【FI】
C01G33/00 A
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/0562
H01M10/052
C01G49/00 A
H01G11/46
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024168551
(22)【出願日】2024-09-27
(62)【分割の表示】P 2023107463の分割
【原出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
(72)【発明者】
【氏名】大谷 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】川辺 和幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝昭
【テーマコード(参考)】
4G002
4G048
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AB01
4G002AE05
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5E078AA02
5E078AA15
5E078AB01
5E078BA27
5E078BA62
5E078BA67
5E078BA71
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA13
5H050EA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】非水電解質蓄電デバイスの電極材料として用いられ、初期放電容量を維持しながらレート特性に優れ、充放電に伴う電極の厚み変化率が小さく、また、全固体電池でも初期放電容量、及び、レート特性に優れたニオブ含有酸化物粉末、それを用いた電極、及び蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】 下記式(I)もしくは(II)を満たすニオブ含有酸化物粉末。
AaTi2-x(M1
0.5+vM2
0.5-v)xNb14O39±z (I)
AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±z (II)
(式中のAは、Li、及びNaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M1はNb、Ta、及びVから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M2はAl、Ga、Fe、及びCrから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M3はMg、Ca、Cu、及びZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素であり、0≦a≦6、-0.05≦v≦0.05、-0.05≦w≦0.05、0<x<2、0<y<2、0≦z≦1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)もしくは(II)を満たすニオブ含有酸化物粉末。
AaTi2-x(M1
0.5+vM2
0.5-v)xNb14O39±z (I)
AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±z (II)
(式中のAは、Li、及びNaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M1はNb、Ta、及びVから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M2はAl、Ga、Fe、及びCrから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M3はMg、Ca、Cu、及びZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素であり、0≦a≦6、-0.05≦v≦0.05、-0.05≦w≦0.05、0<x<2、0<y<2、0≦z≦1)
【請求項2】
前記ニオブ含有酸化物粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布における体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が0.25μm以上4.5μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のニオブ含有酸化物粉末。
【請求項3】
前記ニオブ含有酸化物粉末の比表面積が2.3m2/g以上10m2/g以下である、請求項1または請求項2に記載のニオブ含有酸化物粉末。
【請求項4】
請求項1または2に記載のニオブ含有酸化物粉末を活物質として含むことを特徴とする、蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
請求項1または2に記載のニオブ含有酸化物粉末と、無機固体電解質とを含む、非水電解質蓄電デバイス用の負極活物質組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の電極を含むことを特徴とする、非水電解質蓄電デバイス。
【請求項7】
正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が請求項5に記載の負極活物質組成物を含む層である、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの電極材料等として好適なニオブ含有酸化物粉末、それを用いた電極、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用の蓄電デバイスには、燃費または電費向上の観点から高いエネルギー密度が求められ、特にリチウムイオン電池は、電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く使用されている。リチウムイオン電池の電極材料として種々の材料が研究されており、チタン酸リチウムは入出力特性に優れる点があるものの、エネルギー密度が175mAh/gに留まるため、更なる高エネルギー化には課題が残る。そこで代替候補として、380mAh/gと高いエネルギー密度を持つチタン酸ニオブを中心とするニオブ含有酸化物を負極材料として活用する動きが見られている。
【0003】
また、現在市販されているリチウムイオン電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時に備えて温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止の構造が必要になる。このような状況下で有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は正極、負極および電解質すべてが固体からなるため、有機電解液を用いた電池の課題である安全性、信頼性を大きく改善できる可能性があり、また安全装置の簡略化が図れることから高エネルギー密度化が可能となるため、電気自動車や大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0004】
非特許文献1および非特許文献2には、ニオブチタン複合酸化物としてソルボサーマル法や固相法で作製された粒子サイズ範囲が20~200nmの一次粒子によって構成された多孔性のTi2Nb14O39や固相法で作製されたTi2Nb14O39が開示されており、蓄電デバイスの電極材料として適応させた場合に、特にソルボサーマル法で作製されたTi2Nb14O39においてレート特性が優れることが報告されている。また、特許文献1には、ソルボサーマル法により作製された3価金属を含むTiNb2O7、TiNb10O29が開示されており、3価金属を含まない酸化物よりサイクルに伴う容量損失が小さいことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Small 2017, 13, 1702903
【非特許文献2】Journal of Colloid and Interface Science 608 (2022) 90-102
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1、2の20~200nmの一次粒子によって構成された多孔性のTi2Nb14O39を負極材料として適用した場合、二次粒子内部まで導電性を確保するために非常に多くの導電助剤を有する。その結果、負極合剤中の活物質割合が小さくなり、負極当たりのエネルギー密度が小さくなるという課題がある。また比表面積が非常に大きいため、初回効率が大きく低下する課題もある。更にこのような多孔性粒子を全固体電池に適応すると、二次粒子内部と固体電解質が接触できないため、容量を得ることができない。また、非特許文献1に示されている固相法で作製したTi2Nb14O39をより負極合剤中の活物質割合が大きく、導電助剤の割合が少ない負極で評価した場合、充放電レート特性が低下してしまう課題があった。Ti2Nb14O39の粒子径や比表面積を制御することにより、電池特性の改善は見られたものの、十分満足できるものではなかった。一方、特許文献1に記載されている3価金属を含むTiNb2O7やTi2Nb10O29を用いた電池では、レート特性の改善は見られるものの、サイクルに伴い電池の容量(電池容量)が大きく低下するという課題があった。この原因を種々検討したところ、3価金属を含むTiNb2O7やTi2Nb10O29は、充放電に伴う電極の厚み変化が大きく、その結果、サイクル低下が生じることが分かった。なお、電池容量を上げるメリットとして、単位重量または単位面積(単位体積)あたりのエネルギー密度向上に繋がるので、電気自動車の走行距離延長や蓄電池の設置スペース確保に繋がる点などが挙げられる。
【0008】
以上の点から、非特許文献1、非特許文献2や特許文献1の負極活物質を使用した蓄電デバイスのエネルギー密度と放電レート特性、充電レート特性、並びに充放電に伴う電極の厚み変化は十分に満足できるものではなく、更なる改善が必要である。
【0009】
そこで本発明では、非水電解質蓄電デバイスの電極材料として用いられ、液系リチウムイオン二次電池において、初期放電容量を維持しながらレート特性に優れ、充放電に伴う電極の厚み変化率が小さく、また、全固体電池でも初期放電容量、及び、レート特性に優れたニオブ含有酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく種々検討した結果、Ti2Nb14O39等のニオブ含有酸化物においてTiの一部を異種元素で置換したニオブ含有酸化物粉末を電極材料として適用することにより蓄電デバイスの初期放電容量、及び、レート特性に優れ、更に充放電に伴う電極の厚み変化率が小さい蓄電デバイスが得られることを見出し、本発明を完成した。このような効果、特に充放電に伴う電極厚み変化を小さくすることができる効果は、前記非特許文献1、2および特許文献1にはまったく記載も示唆もされていない。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0011】
(1)下記式(I)もしくは(II)を満たすニオブ含有酸化物粉末。
AaTi2-x(M1
0.5+vM2
0.5-v)xNb14O39±z (I)
AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±z (II)
(式中のAは、Li、及びNaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M1はNb、Ta、及びVから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M2はAl、Ga、Fe、及びCrから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M3はMg、Ca、Cu、及びZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素であり、0≦a≦6、-0.05≦v≦0.05、-0.05≦w≦0.05、0<x<2、0<y<2、0≦z≦1)
(2)前記前記ニオブ含有酸化物粉末のレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布における体積累積が50%に相当する一次粒子のD50が0.25μm以上4.5μm以下であることを特徴とする、(1)に記載のニオブ含有酸化物粉末。
(3)前記ニオブ含有酸化物粉末の比表面積が2.3m2/g以上10m2/g以下である、(1)または(2)に記載のニオブ含有酸化物粉末。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載のニオブ含有酸化物粉末を含むことを特徴とする、非水電解質蓄電デバイス用の電極。
(5)(1)~(3)のいずれかに記載のニオブ含有酸化物粉末と、無機固体電解質、とを含む、非水電解質蓄電デバイス用の負極活物質組成物。
(6)(4)に記載の電極を含むことを特徴とする、蓄電デバイス。
(7)正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が(5)に記載の負極活物質組成物を含む層である、全固体二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、非水電解質蓄電デバイスの液系リチウムイオン二次電池において、初期放電容量を維持しながら充放電レート特性に優れ、さらに充放電に伴う電極の厚み変化が小さく、全固体電池でも初期放電容量、及び、レート特性に優れた、ニオブ含有酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明のニオブ含有酸化物粉末]
本発明のニオブ含有酸化物粉末は、下記式(I)もしくは(II)を満たすニオブ含有酸化物粉末である。
AaTi2-x(M1
0.5+vM2
0.5-v)xNb14O39±z (I)
AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±z (II)
(式中のAは、Li、及びNaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M1はNb、Ta、及びVから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M2はAl、Ga、Fe、及びCrから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M3はMg、Ca、Cu、及びZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素であり、0≦a≦6、-0.05≦v≦0.05、-0.05≦w≦0.05、0<x<2、0<y<2、0≦z≦1)
本発明のニオブ含有酸化物粉末は、非水電解質蓄電デバイスの電極用途に好適に用いられる。すなわち、本発明のニオブ含有酸化物粉末は、非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ含有酸化物粉末であることが好適である。非水電解質としては、水系の電解質以外であれば何でもよく、特に限定されないが、たとえば、非水電解液や固体電解質などが挙げられる。
【0014】
<一般式AaTi2-x(M1
0.5+vM2
0.5-v)xNb14O39±zおよび一般式AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±zで表されるニオブ含有酸化物で表されるニオブ含有酸化物粉末>
本発明のニオブ含有酸化物粉末は、一般式AaTi2-x(M1
0.5+vM2
0.5-v)xNb14O39±zもしくは一般式AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±z(式中のAは、Li、及びNaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M1はNb、Ta、及びVから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M2はAl、Ga、Fe、及びCrから選ばれる少なくとも1つの元素であり、M3はMg、Ca、Cu、及びZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素であり、0≦a≦6、-0.05≦v≦0.05、-0.05≦w≦0.05、0<x<2、0<y<2、0≦z≦1)で表されるニオブ含有酸化物粉末を含有する。ニオブ含有酸化物については、一部に合成原料由来のチタン酸化物相(例えばルチル型TiO2、TiOなど)を含んでもよい。
【0015】
前記AはLi、及びNaから選ばれる少なくとも1つの元素であれば特に限定されないが、好ましくはLiである。
前記M1はNb、Ta、及びVから選ばれる少なくとも1つの元素であれば特に限定されないが、好ましくはNbである。
【0016】
前記M2はAl、Ga、FeおよびCrから選ばれる少なくとも1つの元素であれば特に限定されないが、好ましくはAl、Fe、およびCrであり、より好ましくはAl、およびFeであり、さらに好ましくはAlである。
【0017】
前記M3はMg、Ca、Cu、及びZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素であれば特に限定されないが、好ましくはMg、Cu、およびZnであり、より好ましくはCu、およびZnであり、さらに好ましくはCuである。
【0018】
一般式AaTi2-x(M1
0.5+vM2
0.5-v)xNb14O39±zおよび一般式AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±zにおいて、0≦a≦6であり、好ましくは0≦a≦2であり、より好ましくは0≦a≦0.5であり、さらに好ましくはa=0である。また、-0.05≦v≦0.05であり、好ましくは-0.01≦v≦0.01であり、より好ましくはv=0である。また、-0.05≦w≦0.05であり、好ましくは-0.01≦w≦0.01であり、より好ましくはw=0である。また、0<x<2であり、好ましくは0<x≦1.3であり、より好ましくは0<x≦1であり、さらに好ましくは0<x≦0.9であり、よりさらに好ましくは0<x≦0.5である。また、0<y<2であり、好ましくは0<y≦1.4であり、より好ましくは0<y≦0.9であり、さらに好ましくは0<y≦0.6である。また、0≦z≦1であり、好ましくは0≦z≦0.5であり、より好ましくは0≦z≦0.2であり、さらに好ましくはz=0である。なお、一般式AaTi2-y(M1
0.67+wM3
0.33-w)yNb14O39±zにおいて、M1とM3との比は、M1:M3=0.67+w:0.33-wとしているが、M1:M3=2/3+w:1/3-wであってもよい。すなわち、この場合においては、w=0である場合には、M1:M3=2/3:1/3(すなわち、AaTi2-y(M1
2/3M3
1/3)yNb14O39±z)となる。
【0019】
<MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素の含有>
本発明のニオブ含有酸化物粉末はMoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有してもよい。MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有するとは、粉末を構成するニオブ含有酸化物粒子の表面に局在化して存在し、より具体的には、ニオブ含有酸化物粒子の内部領域よりも、表面領域の方にMoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が局在化して多く存在することを言う。また、本発明のニオブ酸化物粉末の誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)または蛍光X線分析(XRF)において、MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が検出されることをいう。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、0.001質量%である。ニオブ含有酸化物粉末の粒子表面にMoおよびCeが二種含有されてもよい。初期放電容量、及びレート特性を向上させる観点では、Moを含有することが好ましい。
【0020】
蛍光X線分析(XRF)から求めた本発明のニオブ含有酸化物粉末のMoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素の含有率(質量%)は、0.01以上2.0以下であればよい。金属元素MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素の含有率がこの範囲であれば、初期放電容量、及びレート特性に優れた二次電池が得られる。0.01以上1.7以下であることが好ましく、充電レート特性のさらなる向上という観点からは、より好ましくは0.015以上1.5以下、さらに好ましくは0.04以上1.3以下、よりさらに好ましいのは0.07以上1.25以下、特に好ましいのは0.2以上1.1以下である。ただし、MoおよびCeがニオブ含有酸化物粉末の粒子表面に同時に含有する場合の前記含有率(質量%)は、二種の金属元素合計の含有率である。
【0021】
また、一例として、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記ニオブ含有酸化物粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記ニオブ含有酸化物粒子の表面から20nm程度の深さまでのいわゆる表面近傍の領域においてMoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が多く含有されればよく、ニオブ含有酸化物粒子の表面から20nmの深さ位置において、MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が検出される一方で、表面から100nmの深さ位置において、MoおよびCeが検出されないことが好ましく、このような状態である場合に、ニオブ含有酸化物粒子の表面にMoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が局在化していると判断することができる。すなわち、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。この他にも、X線光電子分光法(XPS)やオージェ電子分光法(AES)による表面分析の手法が挙げられる。
なお、本発明において、ニオブ含有酸化物粒子の表面に局在化して存在するMoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素の形態としては、特に限定されず、Mo元素およびCe元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が表面に局在化して存在するものであればよく、金属の状態であってもよいし、金属酸化物などの金属化合物の形態であってもよい。
【0022】
<D50>
本発明のニオブ含有酸化物粉末の一次粒子のD50とは体積中位粒径の指標である。レーザー回折・散乱型粒度分布測定によって求めた体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径を意味する。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0023】
本発明のニオブ含有酸化物粉末について、一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であっても良い。ニオブ含有酸化物粒子からなる一次粒子が凝集した二次粒子を含む場合、その一部としては、二次粒子を形成しておらず、一次粒子そのものの形態となっていてもよい。
【0024】
本発明のニオブ含有酸化物粉末が二次粒子の場合、二次粒子のD50は、電極密度向上の観点から、下限値は、5μm以上であることが好ましく、7μm以上がより好ましく、9μm以上がさらに好ましい。さらに、二次粒子のD50の上限値は、20μm以下であることが好ましく、18μm以下がより好ましく、14μm以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明のニオブ含有酸化物粉末の一次粒子のD50は、非水電解質蓄電デバイスの液系リチウムイオン二次電池において、初期放電容量、レート特性、及び、さらに全固体電池における初期放電容量、及び、レート特性改善の観点から、一次粒子のD50の下限値は、0.25μm以上であることが好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.6μm以上がさらにより好ましい。また、一次粒子のD50の上限値は、4.5μm以下であることが好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下がさらにより好ましく、1.8μm以下が特に好ましい。また、該ニオブ含有酸化物粉末は一次粒子が0.4μm未満の一次粒子を含んでいてもよく、一次粒子が4.5μmを超える一次粒子を含んでいてもよい。
【0026】
<D90>
本発明のニオブ含有酸化物粉末の一次粒子のD90は、非水電解質蓄電デバイスの液系リチウムイオン二次電池において、初期放電容量、レート特性、及び、全固体電池における初期放電容量、及び、レート特性改善の観点から、一次粒子のD90の下限値は、0.8μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.2μm以上がさらにより好ましい。また、一次粒子のD90の上限値は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下がさらにより好ましく、3μm以下が特に好ましい。なお、ニオブ含有酸化物粉末の一次粒子のD90は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定によって求めた体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して90%になる粒径を意味する。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0027】
<D10>
本発明のニオブ含有酸化物粉末の一次粒子のD10は、非水電解質蓄電デバイスの液系リチウムイオン二次電池において、初期放電容量、レート特性、及び、全固体電池における初期放電容量、及び、レート特性改善の観点から、一次粒子のD10は、下限値は、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上がさらにより好ましい。また、一次粒子のD10の上限値は、0.9μm以下であることが好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.7μm以下がさらに好ましく、0.6μm以下がさらにより好ましい。なお、ニオブ含有酸化物粉末の一次粒子のD10は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定によって求めた体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して10%になる粒径を意味する。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0028】
<比表面積>
本発明のニオブ含有酸化物粉末の比表面積とは、窒素を吸着ガスとして用いて、単位質量あたりの表面積のことである。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0029】
本発明のニオブ含有酸化物粉末は、比表面積の上限値が10m2/g以下であり、8.0m2/g以下が好ましく、6.0m2/g以下がより好ましく、4.0m2/g以下がさらに好ましい。他方、比表面積の下限値は、1.5m2/g以上であり、2.0m2/g以上が好ましく、2.1m2/g以上がより好ましく、2.4m2/g以上がさらに好ましく、3.0m2/g以上がさらにより好ましい。上記範囲であれば、非水電解質蓄電デバイスの液系リチウムイオン二次電池において、初期放電容量、レート特性、及び、全固体電池において、初期放電容量、及び、レート特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。
【0030】
Ti2Nb14O39においてTiの一部を異種元素で置換したニオブ含有酸化物を用いることで、顕著な効果が見られた理由は明らかではないが、以下のように考えられる。一般的にTi2Nb14O39等のニオブ含有酸化物粉末などの負極活物質は電解液や固体電解質を介してリチウムイオンを吸蔵、放出することで容量を発現する。そのため、電解液や固体電解質などの非水電解質と負極活物質の接触面積および活物質粒子内のリチウムイオンの拡散、および電子の拡散は非常に重要になる。また、電子伝導性の小さいニオブ酸化物活物質を用いた電極では、負極合材層中における活物質の充放電に伴う体積変化により、徐々に導電助剤との接点が消失し、サイクル特性が大きく低下してしまう。本発明のニオブ酸化物は、Tiの一部が異種元素で置換されていることにより、活物質粒子内のリチウムイオンの拡散、および電子の拡散が向上していると考えられ、更に全カチオンサイトの一部が空孔になっているというTi2Nb14O39の特異的な結晶構造により、充放電に伴う体積変化が小さくなっていると考えられる。その結果、Tiの一部が異種元素で置換されていないTi2Nb14O39や特許文献1に記載の充放電に伴う体積変化が大きい3価金属を有するTiNb2O7やTi2Nb10O29では達成することができない電池特性が得られたと考えられる。
【0031】
[本発明のニオブ含有酸化物粉末の製造方法]
以下に、本発明のニオブ含有酸化物粉末の製造方法の一例を、原料の調製工程、焼成工程に分けて説明するが、本発明のニオブ含有酸化物粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0032】
<原料の調製工程>
まず、出発原料を混合する。出発原料として、Tiと、Nbとを含む酸化物に加えて、Ta、V、Al、Ga、Fe、Cr、Mg、Ca、Cu、及びZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物または塩を用いて、本発明の目的組成となるような量論比で混合する。用いる塩は、水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩のような、比較的低融点で分解して酸化物を生じる塩であることが好ましい。また、一次粒子径を小さくするため、出発原料に平均一次粒径が2μm以下、好ましくは平均一次粒径が0.5μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0033】
原料の混合方法については、特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることができる。
【0034】
<焼成工程>
次に、上記で得られた混合物を焼成する。焼成は500~1200℃の温度範囲で行うのが好ましく、より好ましくは700~1150℃の範囲、さらに好ましくは900~1150℃の範囲で行う。焼成温度を1150℃以下で行うことで汎用の設備を利用することができる。なお、混合物を短時間で焼成する場合は、焼成前に混合物を構成する混合粉末を、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が5μm以下になるように調製することが好ましい。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。
【0035】
前記条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成方法としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。特に、ロータリーキルン式焼成炉は、混合物を収容する容器が不要で、連続的に混合物を投入しながら焼成ができる点、被焼成物への熱履歴が均一で、均質な酸化物を得ることができる点から、本発明のニオブ含有酸化物粉末を製造するには特に好ましい焼成炉である。
【0036】
<表面処理工程>
上記で得られたニオブ含有酸化物について、表面処理を実施してもよい。本発明のニオブ含有酸化物粉末を構成する粒子の表面にMoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が局在化して存在させることにより、電池の負極材料として適用した場合に緻密な負極層を形成することができるとともに優れた充電レート特性を付与することができる。前記焼成工程にて、前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する化合物(以下、処理剤と記すことがある)を加えて、表面処理を行った本発明のニオブ含有酸化物粉末を製造することもできるが、次のような表面処理工程などで、表面処理を行った本発明のニオブ含有酸化物粉末を製造することがより好ましい。特に、次のような表面処理工程を採用することで、適切かつ比較的簡便に、ニオブ含有酸化物粒子の表面に、MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が存在する状態とすることができる。
【0037】
基材のニオブ含有酸化物粉末と前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する化合物との混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法も採用することができるが、基材のニオブ含有酸化物粉末を構成する粒子の表面に前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する化合物を均一に分散させることが好ましく、その点においては湿式混合が好ましい。
【0038】
湿式混合としては、水またはアルコール溶媒中に処理剤と基材のニオブ含有酸化物粉末を投入し、スラリー状態で混合させる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど沸点が100℃以下のものが溶媒除去しやすい点で好ましい。また、回収、廃棄のしやすさから、工業的には水溶媒が好ましい。
【0039】
MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する化合物(処理剤)としては、特に限定されないが、例えば、酸化物、リン酸化物、水酸化物、硫酸化合物、硝酸化合物、フッ化物、塩化物、有機化合物、及びアンモニウム塩やリン酸塩などの金属塩化合物が挙げられる。具体的には、Moの化合物としては、酸化モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、ほう化モリブデン、りんモリブデン酸、二けい化モリブデン、塩化モリブデン、硫化モリブデン、けいモリブデン酸水和物、酸化ナトリウムモリブデン、炭化モリブデン、酢酸モリブデン二量体、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸アンモニウム、などが挙げられ、なかでも、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、塩化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸リチウムが好ましい。また、Ceの化合物としては、酸化セリウム、水酸化セリウム、フッ化セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム、しゅう酸セリウム、塩化セリウム、ホウ化セリウム、りん酸セリウムなどが挙げられ、なかでも、硫酸セリウムおよびその水和物が好ましい。
【0040】
前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する化合物の添加量としては、ニオブ含有酸化物中の前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素の量が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、基材のニオブ含有酸化物粉末に対して0.03質量%以上の割合で添加すればよく、0.05質量%以上の割合で添加することが好ましい。また、基材のニオブ含有酸化物粉末に対して12質量%以下の割合で添加すればよく、好ましくは10質量%以下の割合であり、より好ましくは8質量%以下の割合である。
【0041】
上記表面処理を行った後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度としては、前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が、基材のニオブ含有酸化物粉末を構成するニオブ含有酸化物粒子の、少なくとも表面領域に拡散する温度であって、基材のニオブ含有酸化物が焼結することによる、比表面積の大幅な減少が発生しない温度が良い。熱処理温度の上限値としては700℃以下が好ましく、より好ましくは600℃以下である。熱処理温度の下限値としては、300℃以上が好ましく、より好ましくは400℃以上である。熱処理時間としては、好ましくは0.1時間~8時間であり、より好ましくは0.5時間~5時間である。前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素が、基材のニオブ含有酸化物粉末の、少なくとも表面領域に拡散する温度及び時間は、前記MoおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する化合物によって反応性が異なるため、適宜設定するのが良い。また、熱処理における加熱方法は特に限定されるものではない。利用できる熱処理炉としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉などが挙げられる。熱処理時の雰囲気としては、大気雰囲気でも、窒素雰囲気などの不活性雰囲気のどちらでも良い。特に、表面処理に金属塩化合物を用いた場合は、粒子表面からアニオン種が除去されやすい大気雰囲気が好ましい。
【0042】
以上のようにして得られた熱処理後のニオブ含有酸化物粉末について、比表面積を上記範囲とするために、必要に応じて、解砕処理を行うことが好ましい。解砕処理は、たとえば、ボールミルなどを用いて行うことができ、解砕処理の条件としては、比表面積を上記範囲とできるような条件であればよく、特に限定されない。また、解砕処理に加えて、分級を行ってもよい。
【0043】
本発明のニオブ含有酸化物粉末は、造粒して熱処理を行い、一次粒子が凝集した二次粒子を含む粉末にしても良い。造粒は二次粒子ができるのであれば、どのような方法でも良いが、スプレードライヤーが大量に処理できるため好ましい。
【0044】
本発明のニオブ含有酸化物粉末に含まれる水分量を低減させるために、熱処理工程で露点管理を行っても良い。熱処理後の粉末は、そのまま大気に晒すと粉末に大気中の水分が吸着するため、熱処理炉内での冷却時と熱処理後は、露点管理された環境下で粉末を扱うことが好ましい。熱処理後の粉末は、粒子を所望の最大粒径の範囲にするために必要に応じて分級を行っても良い。熱処理工程で露点管理をする場合は、発明のニオブ含有酸化物粉末をアルミラミネート袋などで密閉した後に露点管理外の環境下に出すことが好ましい。露点管理下においても、熱処理後のニオブ含有酸化物粉末の粉砕を行うと破砕面から水分を取り込みやすくなり、粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理を行った場合には粉砕を行わないことが好ましい。熱処理条件としては、温度と保持時間が特定の範囲にあることで二次粒子形態や表面処理工程に大きく影響する。熱処理温度としては、450℃以上が好ましく、550℃未満が好ましい。熱処理温度が550℃を超えると比表面積が大きく低下し、電池性能、特にレート特性が大幅に低下するためである。また保持時間は1時間以上が好ましい、保持時間が短い場合、粉末に含まれる水分量が増加に加え、粒子表面状態にも影響を与えると推測されるためである。
【0045】
[活物質材料]
本発明の活物質材料は、本発明のニオブ含有酸化物粉末を含むものである。本発明のニオブ含有酸化物粉末以外の物質を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物、リチウムを含む金属酸化物が使用される。特に、リチウムを含む金属酸化物として、Li4Ti5O12を主成分とするチタン酸リチウムが挙げられる。
【0046】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、本発明の活物質材料を含む電極を備え、このような電極へのリチウムイオンのインターカレーション、脱インターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスであって、例えば、ハイブリッドキャパシタやリチウム電池などが挙げられる。
【0047】
[ハイブリッドキャパシタ]
前記ハイブリッドキャパシタとしては、正極に、活性炭など電気二重層キャパシタの電極材料と同様の物理的な吸着によって容量が形成される活物質や、グラファイトなど物理的な吸着とインターカレーション、脱インターカレーションによって容量が形成される活物質や、導電性高分子などレドックスにより容量が形成される活物質を使用し、負極に本発明の活物質材料を使用するデバイスである。本発明の活物質材料は、通常、前記ハイブリッドキャパシタの電極シートの形態にて用いられる。
【0048】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称する。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池や全固体型リチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0049】
前記リチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液、または固体電解質等により構成されているが、本発明の活物質材料は電極材料として用いることができる。本発明の活物質材料は、通常、前記リチウム電池の電極シートの形態にて用いられる。この活物質材料は、正極活物質及び負極活物質のいずれとして用いてもよいが、以下には負極活物質として用いた場合を説明する。
【0050】
<負極>
負極は、負極集電体の片面または両面に、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を含む負極層を有する。この負極層は、通常、電極シートの形態とされる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、空孔中に負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤、結着剤を含む負極層を有する。
【0051】
前記負極用の導電剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単相カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。
【0052】
導電剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極層中に、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~5質量%である。0.1質量%未満では、負極層の導電性が確保できなくなり、10質量%超では、活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量が不十分になるため高容量化に適さない。なお、導電剤の添加形式は、電極作成時でもよく、活物質そのものに導電剤を被覆する形でも構わない。炭素繊維などの導電剤で被覆することで、負極層の導電性が更に向上しうるためである。
【0053】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0054】
前記結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極層中に、好ましくは0.2質量%~15質量%である。結着性を高め負極層の強度を確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量を低減させない観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0055】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。
【0056】
前記負極の作製方法としては、負極活物質(本発明の活物質材料を含む)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化した後、前記負極集電体上に塗布し、乾燥、圧縮することによって得ることができる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合した塗料を集電体の空孔に圧入して充填、または前記塗料中に空孔を有する集電体を浸潰し空孔中に拡散した後に、乾燥、圧縮することによって得ることができる。
【0057】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化する方法としては、例えば、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置、ビーズミル、高速旋回型ミキサ、粉体吸引連続溶解分散装置などを用いることができる。また、製造工程として、固形分濃度によって工程を分け、これらの装置を使い分けてもよい。
【0058】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合するには、活物質の比表面積、導電剤の種類、結着剤の種類やこれらの組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置などを用いる場合には、製造工程として固形分濃度によって工程を分け、固形分濃度が高い状態で混練した後、徐々に固形分濃度を下げ塗料の粘度を調製するのが好ましい。固形分濃度が高い状態としては、好ましくは60質量%~90質量%、さらに好ましくは60質量%~80質量%である。60質量%以上であればせん断力が得られるので好ましく、90質量%以下であれば装置の負荷が軽減されるので好ましく、80質量%以下であればより好ましい。
【0059】
混合手順としては、特に限定されることはないが、負極活物質と導電剤と結着剤を同時に溶剤中で混合する方法、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法、負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法などが挙げられる。これらの中でも均一に分散させるには、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法及び負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法が好ましい。
【0060】
溶剤としては、有機溶媒を用いることができる。有機溶剤としては、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなど非プロトン性有機溶媒を単独、または2種類以上混合したものが挙げられ、好ましくは1-メチル-2-ピロリドンである。
【0061】
溶剤に有機溶剤を用いる場合には、結着剤をあらかじめ有機溶剤に溶解させて使用するのが好ましい。
【0062】
<正極>
正極は、正極集電体の片面または両面に、正極活物質、導電剤及び結着剤を含む正極層を有する。
【0063】
前記正極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な材料が使用され、例えば、活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物やリチウム含有オリビン型リン酸塩などが挙げられ、これらの正極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiCo1-xNixO2(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiNi1/2Mn3/2O4等が挙げられ、これらのリチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をB、Nb、Sn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、あるいは、これらの他元素を含有する化合物を被覆することができる。リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiFe1-xMxPO4(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、及びCdから選ばれる少なくとも1種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。
【0064】
前記正極用の導電剤及び結着剤としては、負極と同様のものが挙げられる。前記正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により正極集電体表面に凹凸を付けてもよい。
【0065】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に電解質塩を溶解させたものである。この非水電解液には特に制限は無く、種々のものを用いることができる。
【0066】
前記電解質塩としては、非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiPF6、LiBF4、LiPO2F2、LiN(SO2F)2、LiClO4等の無機リチウム塩、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiCF3SO3、LiC(SO2CF3)3、LiPF4(CF3)2、LiPF3(C2F5)3、LiPF3(CF3)3、LiPF3(iso-C3F7)3、LiPF5(iso-C3F7)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF2)2(SO2)2NLi、(CF2)3(SO2)2NLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF6、LiBF4、LiPO2F2、及びLiN(SO2F)2であり、最も好ましい電解質塩はLiPF6である。これらの電解質塩は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0068】
一方、前記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、S=O結合含有化合物等が挙げられ、環状カーボネートを含むことが好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0069】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種以上が、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量を抑制する観点からより好適であり、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート及び2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好適である。
【0070】
また、特に、全電解質塩の濃度が0.5M~2.0Mであり、前記電解質塩として、少なくともLiPF6を含み、更に0.001M~1MのLiBF4、LiPO2F2、及びLiN(SO2F)2から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が含まれる非水電解液を用いることが好ましい。LiPF6以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合が0.001M以上であると、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が発揮されやすく、1.0M以下であると蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が低下する懸念が少ないので好ましい。
【0071】
また、前記非水溶媒は、適切な物性を達成するために、混合して使用されることが好ましい。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとニトリルとの組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネートとS=O結合含有化合物との組合せ等が挙げられる。
【0072】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、及びジブチルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、及び酢酸エチル(EA)から選ばれる1種又は2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0073】
<リチウム電池の構造>
本発明のリチウム電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極及び単層又は複層のセパレータを有するコイン電池、さらに、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池等が一例として挙げられる。
【0074】
前記セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース紙、ガラス繊維紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド微多孔膜などが挙げられ、2種以上を組み合わせて構成された多層膜としたものも用いることができる。またこれらのセパレータ表面にPVDF、シリコン樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウムなどの金属酸化物の粒子などをコーティングすることもできる。
【0075】
<負極活物質組成物>
本発明の負極活物質組成物は、本発明のニオブ含有酸化物粉末と、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質と、を含む負極活物質組成物である。無機固体電解質の含有量は特に限定されないが、前記活物質組成物中に、1質量%以上であればよく、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。無機固体電解質の含有量が多いほどニオブ含有酸化物粉末と固体電解質の接触が得られやすいため好ましい。また無機固体電解質の含有量が多すぎると全固体二次電池の電池容量が小さくなるため、70質量%以下であればよく、60質量%以下であることが好ましい。通常、全固体二次電池の電池容量を大きくするため無機固体電解質の含有量は少ない方が好ましいが、含有量が少ない場合、ニオブ含有酸化物粉末と固体電解質の接触が取りづらくなる。本発明の負極活物質組成物に用いられる前記ニオブ含有酸化物粉末を用いることで無機固体電解質の含有量は少ない場合においても満足のいくニオブ含有酸化物粉末と固体電解質の接触が得られる。本発明のニオブ含有酸化物粉末及び無機固体電解質以外の物質を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物、リチウムを含む金属酸化物が使用される。特に、リチウムを含む金属酸化物として、Li4Ti5O12を主成分とするチタン酸リチウムが挙げられる。
【0076】
<周期律表>
本明細書の周期律表とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期律表をいう。
【0077】
<固体電解質>
固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。特に、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオンおよびアニオンに解離または遊離していない。無機固体電解質は周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性をほとんど有さないものが一般的である。無機固体電解質は(A)硫化物無機固体電解質と(B)酸化物無機固体電解質と(C)塩化物無機固体電解質が代表例として挙げられる。特に、高いイオン伝導性を有し、室温での加圧のみで、粒界の少ない緻密な成形体が形成できるため、硫化物無機固体電解質が好ましく用いられる。ここで言う周期律表は長周期型の周期律表を指す。
【0078】
硫化物無機固体電解質は非結晶ガラスであっても良く、結晶化ガラスであっても良く、結晶性材料であっても良い。硫化物無機固体電解質として、具体的に以下の組み合わせが好適に挙げられるが特に限定されない。
Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li10GeP2S12。
【0079】
前記組み合わせのなかでも、Li2S-P2S5を組み合わせて製造されるLPSガラスおよびLPSガラスセラミックスが好ましい。また上記以外の硫化物無機固体電解質として、Li6PS5ClやLi6PS5Brなどのアルジェロダイト型固体電解質も好適に挙げられる。
【0080】
酸化物無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族に属する金属イ
オン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
【0081】
酸化物無機固体電解質としては、例えば、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12、ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、Li3BO3-Li2SO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、およびLi6BaLa2Ta2O12等が好適に挙げられる。
【0082】
塩化物無機固体電解質としては、Li3ScCl6、LiAlCl4、Ln1-XAXOCl1-X(式中、Lnはいずれかの希土類元素を示し、Aは、アルカリ土類金属を示し、Xは、0<X<1)などが好適に挙げられる。
【0083】
無機固体電解質の体積平均粒径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【実施例0084】
次に、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。
【0085】
(液系リチウムイオン二次電池)
[実施例1-1]
<原料調製工程>
Nb2O5(平均粒径0.2μm)、アナターゼ型TiO2(比表面積10m2/g)とAl2O3をモル比で78.5:21.2:0.3となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1050℃で12時間焼成処理を施した。得られた焼成粉末試料について、サンプリング間隔0.01°、スキャン速度2°/minの条件にて粉末X線回折測定を実施した。出発原料由来のピークは確認されず、反応は完全に進行したことが確認された。合成された試料の結晶構造解析、および蛍光X線誘分析装置(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製、商品名「SPS5100」)を用いた、蛍光X線分析(XRF)の結果から、合成した試料が合成した試料が目的とするニオブ含有酸化物(Ti1.9Nb14.05Al0.05O39)であることが確認された。
【0086】
<解砕処理工程>
得られた焼成粉末試料に、φ2.0mmのジルコニアビーズを添加しボールミルによる解砕処理を行い、一次粒子の粒度分布が調整された実施例1-1に係るニオブ含有酸化物粉末を製造した。
【0087】
[実施例1-2~実施例1-12]
原料調製工程において表1および表2に示す組成式になるように原料、混合比を変更した以外は実施例1-1と同様に行い、実施例1-2~実施例1-12に係るニオブ含有酸化物粉末を製造した。
【0088】
[比較例1-1]
Nb2O5とアナターゼ型TiO2をモル比で7:2となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1100℃で12時間焼成処理を施したのみで、非特許文献1と同様に解砕処理工程を実施しなかった比較例1-1に係るニオブ含有酸化物粉末を製造した。
【0089】
[参考例1-1]
Nb2O5とアナターゼ型TiO2をモル比で7:2となるように変更したこと以外は実施例1-1と同様に行い参考例1-1に係るニオブ含有酸化物粉末を製造した。
【0090】
[粉末物性の測定]
各実施例、比較例、各参考例のニオブ含有酸化物粉末の各種物性を以下のようにして測定した。
【0091】
<比表面積の測定>
各実施例、各比較例、各参考例のニオブ含有酸化物粉末の比表面積(m2/g)は、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名「Macsorb HM model-1208」)を使用して、吸着ガスは窒素ガスを使用した。測定サンプル粉末を0.5g秤量し、φ12標準セル(HM1201-031)に入れ、100℃真空下で0.5時間脱気した後、BET一点法で測定した。
【0092】
<D50の算出:乾式レーザー回折散乱法>
各実施例、各比較例、各参考例のニオブ含有酸化物粉末の一次粒子のD50は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機(日機装株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を使用して測定した粒度分布曲線より算出した。50mlのイオン交換水を測定溶媒として収容した容器に50mgの試料を投入し、測定溶媒をスラリーの透過率が適正範囲(装置の緑のバーで表示される範囲)になるまで加えて粒度分布測定を行った。得られた粒度分布曲線から、粉末の一次粒子のD50を算出した。
【0093】
[電池特性の評価]
各実施例、比較例、各参考例のニオブ含有酸化物粉末を用いてコイン型電池を作製し、それらの電池特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0094】
<負極シートの作製>
負極シートは、室温25℃、露点-20℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。各実施例、比較例のニオブ含有酸化物粉末を、温度25℃、露点-20℃以下に管理された部屋でアルミラミネート袋から取り出した。取り出した各実施例、比較例のニオブ含有酸化物粉末を活物質として85質量%、アセチレンブラックを導電剤として10質量%、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として5質量%の割合で混合して塗料を作製した。得られた塗料をアルミニウム箔上に塗布し乾燥させて、後述のコイン電池に用いる負極片面シートを作製した。
【0095】
<電解液の調製>
特性評価用の電池に用いる電解液は、次のように調製した。温度25℃で露点-70℃以下に管理されたアルゴングローブボックス内で、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して後述のコイン電池用電解液を調製した。
【0096】
<コイン電池の作製>
前述の方法で作製した負極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、2t/cm2の圧力でプレス加工した後、120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ADVANTEC製GA-100とワットマン製GF/Cを各1枚ずつ)を介して対向させ、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した非水電解液を加えて封止することによって、2032型コイン電池を作製した。
【0097】
<電池初期特性:初期放電容量、初期効率>
25℃の恒温槽内にて、上述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、0.2mA/cm2の電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cm2の電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cm2の電流密度で3Vまで放電させる定電流放電を行った。得られた放電容量(mAh)をニオブ含有酸化物の質量で割ることで初期放電容量(mAh/g)を求め、放電容量(mAh)を充電容量(mAh)で除することで初期効率(%)を求めた。
【0098】
<10Cレート充放電率の測定>
初期放電容量の10Cに相当する電流で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05Cの電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、10Cの電流で3Vまで放電させる定電流放電を行った。その10C定電流充電で得られた容量を初期放電容量で除することで10Cレート充電率(%)、10C定電流放電で得られた容量を初期放電容量で除することで10Cレート放電率(%)をそれぞれ算出した。結果を表1、表2に示す。ニオブ含有酸化物の10Cレート特性が高いと、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、蓄電デバイスの放電レート特性の向上が期待できる。1CのCとは充放電するときの電流値を表す。例えば、1Cは理論容量を1/1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指し、0.1Cなら理論容量を1/0.1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指す。
【0099】
【0100】
【0101】
<評価結果>
実施例1-1~1-12のニオブ含有酸化物粉末を用いた電極は、比較例1-1、参考例1-1のTiの一部を異種元素で置換していないニオブ含有酸化物粉末を用いた電極よりも、10C充電率、及び10C放電率が良好であり、レート特性が優れることが分かった。
【0102】
<充放電に伴う電極厚み変化率測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、0.2mA/cm2の電流密度で0.8Vまで充電を行い、さらに0.8Vで充電電流が0.05mA/cm2の電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cm2の電流密度で2Vまで放電させる定電流放電を行った。その後、再び0.2mA/cm2の電流密度で0.8Vまで充電を行い、さらに0.8Vで充電電流が0.05mA/cm2の電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、コイン電池を解体し充電状態の負極シートを取り出し、厚みを測定した。その0.8V充電後の負極シートの厚みを、コイン電池作製前の負極シート厚みで除することで、充放電に伴う電極厚み変化率を算出した。
【0103】
<評価結果>
実施例1-1のニオブ含有酸化物粉末を用いた電極の充放電に伴う電極厚み変化率が10.5%、特許文献1に記載の3価金属を有するTi2Nb10O29を用いた電極の充電に伴う厚み変化率は13.4%であり、本発明のニオブ含有酸化物粉末を用いた電極は特許文献1に記載のニオブ含有酸化物粉末を用いた電極よりも充放電に伴う厚み変化が小さいことが分かった。この効果は、非特許文献1、非特許文献2、および特許文献1に全く記載されていない。また、実施例1-1の結果より、実施例1-1以外の実施例1-2~1-12においても、同様に、電極の充放電に伴う電極厚み変化率の抑制効果が得られると考えられる。
【0104】
(全固体二次電池)
[実施例2-1]
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、上記実施例1-3のニオブ含有酸化物、硫化物固体電解質であるLi6PS5Cl粉末(レーザー回折・散乱型粒度分布測定機を使用して得られる体積平均粒径:6μm)及び導電剤をニオブ含有酸化物:Li6PS5Cl:導電剤=60:40:6の質量比になるように秤量し、メノウ乳鉢ならびに遊星型ボールミル機で攪拌混合することで、実施例2-1の負極活物質組成物を得た。得られた負極活物質組成物を室温で10分プレス(360MPa)することで直径10mm、厚さ約0.7mmのペレット(成形体)を作製した。この負極活物質組成物を含むペレット状電極、セパレータ層としてペレット状の固体電解質層(Li2S:P2S5=75:25のモル比であるLPSガラス)、及び対極としてのリチウムインジウム合金箔をこの順で積層し、積層体をステンレススチール製の集電体で挟むことで全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0105】
[実施例2-2]
実施例1-9のニオブ含有酸化物に変更したこと以外は実施例2-1と同様に行い、実施例2-2に係る全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0106】
[実施例2-3]
上記実施例1-3のニオブ含有酸化物に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え、処理剤としてモリブデン酸リチウム(Li2MоO4)を、ニオブ含有酸化物100gに対して0.8質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、ペイントシェーカーで3時間混合処理した後、温度100℃で、乾燥した後、マッフル炉を用いて500℃で、1時間熱処理することで、実施例2-3に係るモリブデン酸リチウムで表面処理したニオブ含有酸化物を製造した。
そして、得られたモリブデン酸リチウムで表面処理したニオブ含有酸化物に変更したこと以外は実施例2-1と同様に行い、実施例2-3に係る全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0107】
[実施例2-4]
上記実施例1-9のニオブ含有酸化物に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え、処理剤としてモリブデン酸リチウム(Li2MоO4)を、ニオブ含有酸化物100gに対して0.8質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、ペイントシェーカーで3時間混合処理した後、温度100℃で、乾燥した後、マッフル炉を用いて500℃で、1時間熱処理することで、実施例2-4に係るモリブデン酸リチウムで表面処理したニオブ含有酸化物を製造した。
そして、得られたモリブデン酸リチウムで表面処理したニオブ含有酸化物に変更したこと以外は実施例2-1と同様に行い、実施例2-4に係る全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0108】
[参考例2-1]
上記参考例1-1のニオブ含有酸化物を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、参考例2-1の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0109】
[比較例2-1]
上記比較例1-1のニオブ含有酸化物を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、比較例2-1の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0110】
<1Cレート特性の測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の方法で作製した全固体二次電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、ニオブ含有酸化物の理論容量の0.05Cに相当する電流で0.5Vまで充電を行い、さらに0.5Vで充電電流が0.01Cに相当する電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行い、充電容量(mAh)をニオブ含有酸化物の質量で割ることで、初期充電容量(mAh/g)として求めた。その後、0.05Cに相当する電流で2Vまで放電させる定電流放電を行った。放電容量(mAh)をニオブ含有酸化物の質量で割ることで、初期放電容量(mAh/g)として求めた。次に、ニオブ含有酸化物の理論容量の1Cに相当する電流で0.5Vまで充電し、1C充電容量を求めた。その0.4C充電容量を初期充電容量で除することで1C充電率(%)を算出した。その後、ニオブ含有酸化物の理論容量の1Cに相当する電流で2Vまで放電し、1C放電容量を求めた。その1C放電容量を初期放電容量で除することで1C放電率(%)を算出した。評価結果を表3に示す。
【0111】
【0112】
<評価結果>
全固体電池においても本発明のニオブ含有酸化物粉末を用いた電極は、参考例2-1および比較例2-1のTiの一部を異種元素で置換していないニオブ含有酸化物粉末を用いた電極よりも、初期放電容量と1Cレート特性が優れることが分かった。また、モリブデン酸リチウムで表面処理をした実施例2-3および2-4は、更に1C充放電レート特性が高まることがわかった。なお、実施例2-3、2-4に係るモリブデン酸リチウムで表面処理したニオブ含有酸化物は、その製造方法より、Moが表面に局在化して存在しているものであるといえる。
【0113】
Tiの一部を異種元素で置換した本発明のニオブ含有酸化物粉末を用いた実施例1-1~1-12および実施例2-1~2-4は、蓄電デバイスの種類によらず、レート特性が改善する効果が見られた。
【0114】
本発明で得られるニオブ含有酸化物粉末は、初期放電容量を維持しながら、レート特性が改善できるので、リチウムイオン電池の電極活物質として有用である。このニオブ含有酸化物粉末を電極活物質として用いる蓄電デバイスは、自動車や電子機器等、各種機器の駆動用またはバックアップ用、家庭や事務所等での夜間電力貯蔵用の二次電池として有用である。非水電解質二次電池に代表されるリチウムイオン電池向け電極材料の社会への提供により、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)、目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)、目標7(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する)、および目標11(包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する)の達成に貢献することができる。