(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010148
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】タンパク質発現の増加および/またはハプロ不全障害の治療のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20250109BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024170988
(22)【出願日】2024-09-30
(62)【分割の表示】P 2021517022の分割
【原出願日】2019-09-26
(31)【優先権主張番号】62/736,847
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】597138069
【氏名又は名称】ケース ウエスタン リザーブ ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】500482810
【氏名又は名称】ホワイトヘッド・インスティテュート・フォー・バイオメディカル・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100227329
【弁理士】
【氏名又は名称】延原 愛
(72)【発明者】
【氏名】コラー,ジェフリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】スウィート,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ロディッシュ,ハーベイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の哺乳動物細胞における発現を増加させるための方法を提供する。
【解決手段】方法は、(i)第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第1の外因性tRNAを哺乳動物細胞に導入することを含み、前記細胞への前記第1の外因性tRNAの導入が、第1の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の哺乳動物細胞における発現を増加させる方法であって、(i)前記第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第1の外因性tRNAを前記細胞に導入することを含み、前記細胞への前記第1の外因性tRNAの導入が、前記第1の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して前記遺伝子産物の前記発現を増加させる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月26日に出願された米国仮出願第62/736,847号の優先権を主張し、その主題は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の発現を増加させるための、かつ/または対象におけるハプロ不全障害を治療するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ハプロ不全は、1つの遺伝子の対立遺伝子が不活性化され、残りの活性対立遺伝子から発現される遺伝子産物の量が適切な遺伝子機能にとって不十分な場合に起こる。多くの障害は、ハプロ不全に関連しているか、またはハプロ不全によって引き起こされる。
【0004】
ハプロ不全障害の一例はドラベ(Dravet)症候群である。ドラベ症候群は、乳児期に始まる、まれで壊滅的な形態の難治性てんかんである。最初に、患者は長期の発作を経験する。2年目には、さらなる型の発作が発生し始め、これは通常、おそらく繰り返しの脳低酸素症が原因で、発達の低下と一致する。これは、言語および運動能力の発達不良につながる。SCN1A(電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニットをコードする)、SCN1B(電位依存性ナトリウムチャネルβ1サブユニットをコードする)、SCN2A、SCN3A、SCN9A、GABRG2(γ-アミノ酪酸受容体γ2サブユニットをコードする)、GABRD(γ-アミノ酪酸受容体Δサブユニットコードする)および/またはPCDH19遺伝子における変異は、ドラベ症候群に関連している。
【0005】
例えば、ドラベ症候群は、SCN1A遺伝子における変異によって引き起こされ、1つのSCN1A遺伝子の対立遺伝子が不活性化され、機能的なSCN1A遺伝子産物の量の不足または減少をもたらす。SCN1A遺伝子は通常、ニューロンの電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニット、Na(V)1.1をコードする。マウスモデルにおいて、SCN1Aでの機能喪失型変異は、ナトリウム電流の減少をもたらし、海馬のGABA作動性介在ニューロンの興奮性を損なうことが観察されている。
【0006】
したがって、当技術分野において、タンパク質発現を増加させ、ドラベ症候群を含むハプロ不全によって媒介される疾患を治療するための改良された組成物および方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、概して、非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の発現を増加させるための、かつ/または対象におけるハプロ不全障害を治療するための方法および組成物に関する。目的の遺伝子における非最適コドンの存在は、遺伝子から転写されたmRNAの不安定化をもたらし、その遺伝子によってコードされる機能性タンパク質の産生に影響を与え得る。そのような状況では、mRNA転写産物の不安定化は、例えば、非最適コドンにハイブリダイズする特定のアミノアシル化tRNA分子の存在量が、同じアミノ酸でアミノアシル化された細胞内で利用可能な他の異なるtRNAよりも少ない場合に起こり得る。驚くべきことに、他の天然に豊富なtRNAと比較して細胞内のそのようなtRNAの存在量を増加させることは、細胞によって産生される機能性タンパク質の発現および/または量を促進させ得ることが発見されている。遺伝子産物、例えばタンパク質の発現は、遺伝子における非最適コドンをデコードする最小数(例えば、1、2、または3)のtRNAの細胞への導入によって、増加および/または選択的に増加され得る(すなわち、遺伝子産物の発現は、別の遺伝子産物よりもまたはいかなる他の遺伝子産物よりも増加され得る)。
【0008】
同様に、非最適コドンを含む遺伝子を有する対象について、非最適コドンをデコードする有効量のtRNAの対象への投与は、対象における遺伝子からの遺伝子産物の発現を増加させ得る。したがって、対象へのtRNAの投与は、対象における遺伝子産物の不十分な発現によって媒介される疾患、例えば、ハプロ不全障害を治療し得る。さらに、本明細書に記載の方法および組成物の特徴は、それらを、ヒト対象における障害、例えば、ハプロ不全障害の治療における使用に望ましいものにする。例えば、tRNAはサイズが比較的小さく、組換え技術により産生し得、本明細書に記載の方法および組成物は、対立遺伝子が不活性化された変異またはメカニズムに関係なく、ハプロ不全障害を治療し得る。
【0009】
したがって、一態様において、本開示は、第1の非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の哺乳動物細胞における発現を増加させる方法を提供する。方法は、(i)第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第1の外因性tRNAを細胞に導入することを含み、細胞への第1の外因性tRNAの導入は、第1の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【0010】
特定の実施形態において、遺伝子は、第2の非最適コドンを含み、方法は、(i)第2の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第2の外因性tRNAを細胞に導入することをさらに含み、細胞への第2の外因性tRNAの導入は、第2の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。特定の実施形態において、遺伝子は、第3の非最適コドンを含み、方法は、(i)第3の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第3の外因性tRNAを細胞に導入することをさらに含み、細胞への第3の外因性tRNAの導入は、第3の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【0011】
別の態様において、本開示は、第1の非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の哺乳動物細胞における発現を増加させる方法を提供する。方法は、(i)第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第1の外因性tRNAを発現することができる有効量の第1の発現ベクターを細胞に導入することを含み、細胞における第1の外因性tRNAの発現は、第1の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【0012】
特定の実施形態において、遺伝子は、第2の非最適コドンを含み、方法は、(i)第2の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第2の外因性tRNAを発現することができる有効量の第2の発現ベクターを細胞に導入することをさらに含み、細胞における第2の外因性tRNAの発現は、第2の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。特定の実施形態において、遺伝子は、第3の非最適コドンを含み、方法は、(i)第3の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第3の外因性tRNAを発現することができる有効量の第3の発現ベクターを細胞に導入することをさらに含み、細胞における第3の外因性tRNAの発現は、第3の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【0013】
特定の実施形態において、第1、第2、および/または第3の発現ベクターは同じである。特定の実施形態において、第1、第2、および/または第3の発現ベクターは、ウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0014】
発現を増加させる前述の方法のいずれかの特定の実施形態において、細胞はヒト細胞である。特定の実施形態において、細胞は、中枢神経系細胞、例えばニューロンである。
【0015】
特定の実施形態において、遺伝子は、AGGF1、ARHGAP31、BMPR2、CHD7、COL2A1、COL3A1、CTLA4、CTNNB1、DLL4、EHMT1、ELN、ENG、FAS、FBN1、FOXG1、GATA3、GLI3、GRN、IRF6、JAG1、KCNQ4、LMX1B、MBD5、MED13L、MITF、MNX1、MYCN、NFIA、NFIX、NOTCH1、NSD1、PAX3、PHIP、PRKAR1A、RAI1、RBPJ、RPS14、RUNX2、SALL4、SCN1A、SETBP1、SHANK3、SHH、SHOX、SLC2A1/GLUT1、SOX10、SYNGAP1、TBX1、TBX3、TBX5、TCF4、TCOF1、TGIF1、TNXB、TRPS1、WT1、およびZIC2から選択される。特定の実施形態において、遺伝子は、SCN1Aである。
【0016】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象におけるハプロ不全障害を治療する方法を提供し、対象は第1の非最適コドンを含むハプロ不全遺伝子を有する。方法は、(i)第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第1のtRNAを対象に投与することを含み、それによって対象におけるハプロ不全障害を治療する。
【0017】
特定の実施形態において、ハプロ不全遺伝子は、第2の非最適コドンを含み、方法は、(i)第2の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第2のtRNAを対象に投与することをさらに含む。特定の実施形態において、ハプロ不全遺伝子は、第3の非最適コドンを含み、方法は、(i)第3の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第3のtRNAを対象に投与することをさらに含む。
【0018】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象におけるハプロ不全障害を治療する方法を提供し、対象は第1の非最適コドンを含むハプロ不全遺伝子を有する。方法は、(i)第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第1のtRNAを発現することができる有効量の第1の発現ベクターを対象に投与することを含み、それによって対象のハプロ不全障害を治療する。
【0019】
特定の実施形態において、ハプロ不全遺伝子は、第2の非最適コドンを含み、方法は、(i)第2の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第2のtRNAを発現することができる有効量の第2の発現ベクターを対象に投与することをさらに含む。特定の実施形態において、ハプロ不全遺伝子は、第3の非最適コドンを含み、方法は、(i)第3の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第3のtRNAを発現することができる有効量の第3の発現ベクターを対象に投与することをさらに含む。
【0020】
特定の実施形態において、第1、第2、および/または第3の発現ベクターは同じである。特定の実施形態において、第1、第2、および/または第3の発現ベクターは、ウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0021】
前述の治療方法のいずれかの特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0022】
特定の実施形態において、ハプロ不全障害は、5q症候群、アダムス-オリバー(Adams-Oliver)症候群1、アダムス-オリバー症候群3、アダムス-オリバー症候群5、アダムス-オリバー症候群6、アラジール(Alagille)症候群1、自己免疫性リンパ増殖症候群IA型、自己免疫性リンパ増殖症候群V型、常染色体優性難聴-2A、尿路欠損を伴うか、または伴わない脳奇形(BRMUTD)、カーニー複合(Carney complex)1型、CHARGE症候群、鎖骨頭蓋異形成症(Cleidocranial dysplasia)、クラリーノ(Currarino)症候群、デニス-ドラッシュ(Denys-Drash)症候群/フレイジャー(Frasier)症候群、発達遅延、知的障害、肥満、および異形性容貌(DIDOD)、ディジョージ(DiGeorge)症候群(TBX1関連)、ドラベ症候群、デュアン-橈側列(Duane-radial ray)症候群、エーラス-ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群(古典的)、エーラス-ダンロス症候群(血管型)、ファインゴールド(Feingold)症候群1、TDP43封入体を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-TDP)、GRN関連、GLUT1欠損症候群、グレイグ尖頭多合指(Greig cephalopolysyndactyly)症候群、遺伝性出血性毛細血管拡張症1型、全前脳症3、全前脳症4、全前脳症5、ホルト-オラム(Holt-Oram)症候群、副甲状腺機能低下症、感音性難聴、および腎疾患(HDR)、クリーフストラ(Kleefstra)症候群1、クリッペル-トレノネー(Klippel-Trenaunay)症候群(AAGF関連)、レリ-ワイル(Leri-Weill)軟骨異形成症、マルファン(Marfan)症候群、心臓欠陥を伴うか、または伴わない精神遅滞および特異顔貌(MRFACD)、精神遅滞、常染色体優性1、精神遅滞、常染色体優性19、精神遅滞、常染色体優性29、ネイル-パテラ(Nail-patella)症候群(NPS)、フェラン-マクダーミッド(Phelan-McDermid)症候群、ピット-ホプキンス(Pitt-Hopkins)症候群、原発性肺高血圧症1、レット(Rett)症候群(先天性変異)、スミス-マゲニス(Smith-Magenis)症候群(RAI1関連)、ソトス(Sotos)症候群1、ソトス症候群2、スティックラー(Stickler)症候群I型、大動脈弁上狭窄、SYNGAP1関連知的障害、トリーチャーコリンズ(Treacher Collins)症候群、毛髪鼻指節骨症候群I型、尺骨-乳房症候群、ファンデルヴォウデ(van der Woude)症候群1、ワールデンブルグ(Waardenburg)症候群1型、ワールデンブルグ症候群2A型、ならびにワールデンブルグ症候群4C型から選択される。特定の実施形態において、ハプロ不全障害はドラベ症候群である。
【0023】
特定の実施形態において、ハプロ不全遺伝子はAGGF1、ARHGAP31、BMPR2、CHD7、COL2A1、COL3A1、CTLA4、CTNNB1、DLL4、EHMT1、ELN、ENG、FAS、FBN1、FOXG1、GATA3、GLI3、GRN、IRF6、JAG1、KCNQ4、LMX1B、MBD5、MED13L、MITF、MNX1、MYCN、NFIA、NFIX、NOTCH1、NSD1、PAX3、PHIP、PRKAR1A、RAI1、RBPJ、RPS14、RUNX2、SALL4、SCN1A、SETBP1、SHANK3、SHH、SHOX、SLC2A1/GLUT1、SOX10、SYNGAP1、TBX1、TBX3、TBX5、TCF4、TCOF1、TGIF1、TNXB、TRPS1、WT1、およびZIC2から選択される。特定の実施形態において、ハプロ不全遺伝子は、SCN1Aである。
【0024】
特定の実施形態において、ハプロ不全障害は、以下の表1または表2に記載される障害であり、ハプロ不全遺伝子は、以下の表1または表2の対応する行に記載される遺伝子である。
【0025】
特定の実施形態において、方法はさらに、対象にDIACOMIT(登録商標)(スチリペントール)、EPIODOLEX(登録商標)(カンナビジオール)、ケトン食、ONFI(登録商標)(クロバザム)、TOPAMAX(登録商標)(トピラメート)、またはバルプロ酸を投与することを含む。
【0026】
前述の方法のいずれかの特定の実施形態において、遺伝子は、以下の表1または表2に列挙される遺伝子であり、第1、第2、および/または第3の非最適コドンは、以下の表1または表2の対応する行に列挙されるコドンである。特定の実施形態において、ハプロ不全障害は、以下の表1または表2に列挙される障害であり、第1、第2、および/または第3の非最適コドンは、以下の表1または表2の対応する行に列挙されるコドンである。
【0027】
前述の方法のいずれかの特定の実施形態において、第1、第2、および/または第3の非最適コドンは、ATA、GTA、およびAGAから選択される。
【0028】
前述の方法のいずれかの特定の実施形態において、第1、第2、および/または第3のtRNAは、配列番号1、配列番号2および配列番号3のヌクレオチド配列を含むtRNAから選択される。特定の実施形態において、第1、第2、および/または第3の発現ベクターは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、および配列番号11から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0029】
別の態様において、本開示は、(i)第3の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第1、第2、および/または第3のtRNAをコードする核酸を含む発現ベクターを提供する。特定の実施形態において、発現ベクターは、配列番号1、配列番号2、および/または配列番号3のヌクレオチド配列を含む。特定の実施形態において、発現ベクターは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、および/または配列番号11のヌクレオチド配列を含む。特定の実施形態において、発現ベクターは、ウイルスベクター、例えば、DNAウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。別の態様において、本開示は、前述の発現ベクターのいずれかおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0030】
本発明のこれらおよび他の態様および特徴は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明は、以下の図面の参照でより完全に理解され得る。
【
図1】mRNA転写産物を不安定化する非最適コドンを含むSCN1A mRNA転写産物の概略図である。非最適コドンは、灰色の転写産物以外では暗い領域として示される。示されたtRNAの発現は、mRNA転写産物を安定化し、タンパク質の発現増加を促進する。
【
図2A】コンセンサスtRNAの二次構造である。残基の番号付けは、Steinberg et al.(1993)NUCLEIC ACIDS RES.21:3011-15に記載されるtRNA番号付けシステムに基づく。
【
図2B】特定の真核生物のサイトゾルからのtRNA配列の修飾プロファイルを示す表である。表中の比は、
図2Aに示される番号付けられた位置での列挙されたヌクレオチドの出現頻度を示す。修飾された残基の略語は、Motorin et al.(2005)“Transfer RNA Modification,”ENCYCLOPEDIA OF LIFE SCIENCES,John Wily & Sons,Inc.において定義される。
【
図3】tRNA
ATA、tRNA
GTA、およびtRNA
AGAの発現後のHEK293細胞におけるSCN1AおよびGAPDH mRNAレベルの定量化を示すグラフである。示された値は、
ΔΔCt法により、SCN1Aを発現しているがtRNAを発現していない細胞と比較して計算された。+は各tRNAに対して100ngDNAを示し、++は各tRNAに対して200ngのDNAを示し、+++は、300ngDNA各tRNAを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示は、概して、非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の発現を増加させるための、かつ/または対象におけるハプロ不全障害を治療するための方法および組成物に関する。目的の遺伝子における非最適コドンの存在は、遺伝子から転写されたmRNAが不安定化をもたらし、それは遺伝子によってコードされる機能性タンパク質の産生に影響を与え得る。そのような状況下では、mRNA転写産物の不安定化は、例えば、非最適コドンにハイブリダイズする特定のアミノアシル化tRNA分子の存在量が、同じアミノ酸でアミノアシル化された細胞で利用可能な他の異なるtRNAよりも少ない場合に発生し得る。理論によって縛られることを望まないが、特定のtRNAの存在量が少ないことを考えると、タンパク質合成中にそれらの利用可能なtRNAがリボソームに到達して取り込まれるのに、他のより豊富なtRNAよりも時間がかかり得ると考えられ、それは次々に、その位置に必要なアミノ酸が組み込まれる間、タンパク質の合成に遅れを生じさせ得る。タンパク質合成速度における遅れは、mRNA転写産物によってコードされるタンパク質の産生の減少をもたらし得るmRNA転写産物の対応する不安定化を誘発すると考えられる。目的の細胞におけるそのようなtRNAの存在量を他の細胞と比較して増加させると、当然、より豊富なtRNAは、細胞によって産生される機能性タンパク質の発現および/または量を促進し得ることが発見されている。
【0033】
遺伝子産物の発現、すなわち、遺伝子の発現の結果として生じる産物、例えば、遺伝子によってコードされるmRNA転写産物、遺伝子によってコードされるタンパク質などの発現は、遺伝子における非最適コドンをデコードする最小数(例えば、1、2、または3)のtRNAの細胞への導入によって、増加および/または選択的に増加され得る(例えば、遺伝子産物の発現は、別の遺伝子産物よりも、またはいかなる他の遺伝子産物よりも増加され得る)。
【0034】
同様に、非最適コドンを含む遺伝子を有する対象について、非最適コドンをデコードする有効量のtRNAの対象への投与は、対象における遺伝子からの遺伝子産物の発現を増加させ得る。したがって、対象へのtRNAの投与は、対象における遺伝子産物の不十分な発現によって媒介される疾患、例えば、ハプロ不全障害を治療し得る。さらに、本明細書に記載の方法および組成物の特徴は、それらを、ヒト対象における障害、例えば、ハプロ不全障害の治療における使用に望ましいものにし得る。例えば、tRNAはサイズが比較的小さく、組換え技術により産生され得、本明細書に記載の方法および組成物は、対立遺伝子が不活性化された変異またはメカニズムに関係なく、ハプロ不全障害を治療し得る。
【0035】
したがって、一態様において、本開示は、第1の非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の哺乳動物細胞における発現を増加させる方法を提供する。方法は、(i)第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第1の外因性tRNAを細胞に導入することを含み、細胞への第1の外因性tRNAの導入は、第1の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【0036】
別の態様において、本開示は、第1の非最適コドンを含む遺伝子によってコードされる遺伝子産物の哺乳動物細胞における発現を増加させる方法を提供する。方法は、(i)第1の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第1の外因性tRNAを発現することができる有効量の第1の発現ベクターを細胞に導入することを含み、細胞における第1の外因性tRNAの発現は、第1の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【0037】
前述の方法のいずれかにおいて、遺伝子は、追加の非最適コドン(例えば、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、または第10の非最適コドン)を含み得、方法はさらに、遺伝子産物の発現を増加させるために有効量の追加の外因性tRNAまたは発現ベクター(例えば、第2、第3、第4、第5、第6、第7、第8、第9、または第10の外因性tRNAまたは発現ベクター)を細胞に導入することを含み得ることがさらに企図される。
【0038】
例えば、特定の実施形態において、遺伝子が第2および/または第3の非最適コドンを含む場合、方法は、(i)第2および/または第3の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、有効量の第2および/または第3の外因性tRNAを細胞に導入することをさらに含み、細胞への第2および/または第3の外因性tRNAの導入は、第2および/または第3の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。特定の実施形態において、遺伝子が第2および/または第3の非最適コドンを含む場合、方法は、(i)第2および/または第3の非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含み、かつ(ii)アミノ酸でアミノアシル化されることができる、第2および/または第3の外因性tRNAを発現することができる有効量の第2および/または第3の発現ベクターを細胞に導入することをさらに含み、細胞における第2および/または第3の外因性tRNAの発現は、第2および/または第3の外因性tRNAを欠く同様の細胞と比較して遺伝子産物の発現を増加させる。
【0039】
特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象における遺伝子産物の発現を少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%、約160%、約170%、約180%、約190%、約200%、約250%、約300%、約350%、約400%、約450%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%、約1000%、またはそれ超増加させる。特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象における遺伝子産物の発現を、約20%~約200%、約20%~約180%、約20%~約160%、約20%~約140%、約20%~約120%、約20%~約100%、約20%~約80%、約20%~約60%、約20%~約40%、約40%~約200%、約40%~約180%、約40%~約160%、約40%~約140%、約40%~約120%、約40%~約100%、約40%~約80%、約40%~約60%、約60%~約200%、約60%~約180%、約60%~約160%、約60%~約140%、約60%~約120%、約60%~約100%、約60%~約80%、約80%~約200%、約80%~約180%、約80%~約160%、約80%~約140%、約80%~約120%、約80%~約100%、約100%~約200%、約100%~約180%、約100%~約160%、約100%~約140%、約100%~約120%、約120%~約200%、約120%~約180%、約120%~約160%、約120%~約140%、約140%~約200%、約140%~約180%、約140%~約160%、約160%~約200%、約160%~約180%、または約180%~約200%増加させる。特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象における遺伝子産物の発現を、約100%~約1000%、約100%~約900%、約100%~約800%、約100%~約700%、約100%~約600%、約100%~約500%、約100%~約400%、約100%~約300%、約100%~約200%、約200%~約1000%、約200%~約900%、約200%~約800%、約200%~約700%、約200%~約600%、約200%~約500%、約200%~約400%、約200%~約300%、約300%~約1000%、約300%~約900%、約300%~約800%、約300%~約700%、約300%~約600%、約300%~約500%、約300%~約400%、約400%~約1000%、約400%~約900%、約400%~約800%、約400%~約700%、約400%~約600%、約400%~約500%、約500%~約1000%、約500%~約900%、約500%~約800%、約500%~約700%、約500%~約600%、約600%~約1000%、約600%~約900%、約600%~約800%、約600%~約700%、約700%~約1000%、約700%~約900%、約700%~約800%、約800%~約1000%、約800%~約900%、または約900%~約1000%増加させる。遺伝子産物またはタンパク質の発現は、当技術分野で既知の任意の方法、例えば、ウエスタンブロットまたはELISAによって測定され得る。
【0040】
特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く同様の細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象において遺伝子によってコードされる遺伝子転写産物(mRNA)の安定性を増加させる。例えば、特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象におけるmRNAの安定性を、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%、約160%、約170%、約180%、約190%、約200%、約250%、約300%、約350%、約400%、約450%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%、約1000%またはそれ超増加させる。特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象におけるmRNAの安定性を、約20%~約200%、約20%~約180%、約20%~約160%、約20%~約140%、約20%~約120%、約20%~約100%、約20%~約80%、約20%~約60%、約20%~約40%、約40%~約200%、約40%~約180%、約40%~約160%、約40%~約140%、約40%~約120%、約40%~約100%、約40%~約80%、約40%~約60%、約60%~約200%、約60%~約180%、約60%~約160%、約60%~約140%、約60%~約120%、約60%~約100%、約60%~約80%、約80%~約200%、約80%~約180%、約80%~約160%、約80%~約140%、約80%~約120%、約80%~約100%、約100%~約200%、約100%~約180%、約100%~約160%、約100%~約140%、約100%~約120%、約120%~約200%、約120%~約180%、約120%~約160%、約120%~約140%、約140%~約200%、約140%~約180%、約140%~約160%、約160%~約200%、約160%~約180%、または約180%~約200%増加させる。特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象におけるmRNAの安定性を、約100%~約1000%、約100%~約900%、約100%~約800%、約100%~約700%、約100%~約600%、約100%~約500%、約100%~約400%、約100%~約300%、約100%~約200%、約200%~約1000%、約200%~約900%、約200%~約800%、約200%~約700%、約200%~約600%、約200%~約500%、約200%~約400%、約200%~約300%、約300%~約1000%、約300%~約900%、約300%~約800%、約300%~約700%、約300%~約600%、約300%~約500%、約300%~約400%、約400%~約1000%、約400%~約900%、約400%~約800%、約400%~約700%、約400%~約600%、約400%~約500%、約500%~約1000%、約500%~約900%、約500%~約800%、約500%~約700%、約500%~約600%、約600%~約1000%、約600%~約900%、約600%~約800%、約600%~約700%、約700%~約1000%、約700%~約900%、約700%~約800%、約800%~約1000%、約800%~約900%、または約900%~約1000%増加させる。遺伝子転写産物またはmRNAの安定性は、当技術分野で既知の任意の方法、例えばノーザンブロットによって測定され得る。
【0041】
特定の実施形態において、細胞はヒト細胞である。特定の実施形態において、細胞は中枢神経系細胞、例えばニューロンである。
【0042】
特定の実施形態において、遺伝子は、AGGF1、ARHGAP31、BMPR2、CHD7、COL2A1、COL3A1、CTLA4、CTNNB1、DLL4、EHMT1、ELN、ENG、FAS、FBN1、FOXG1、GATA3、GLI3、GRN、IRF6、JAG1、KCNQ4、LMX1B、MBD5、MED13L、MITF、MNX1、MYCN、NFIA、NFIX、NOTCH1、NSD1、PAX3、PHIP、PRKAR1A、RAI1、RBPJ、RPS14、RUNX2、SALL4、SCN1A、SETBP1、SHANK3、SHH、SHOX、SLC2A1/GLUT1、SOX10、SYNGAP1、TBX1、TBX3、TBX5、TCF4、TCOF1、TGIF1、TNXB、TRPS1、WT1、およびZIC2から選択される。特定の実施形態において、遺伝子は、SCN1Aである。
【0043】
特定の実施形態において、方法は、参照遺伝子からの遺伝子産物の発現を実質的に増加させない。例えば、特定の実施形態において、方法は、参照遺伝子からの遺伝子産物の発現を、約5%未満、約10%、約20%、約30%、約40%、または約50%増加させる。特定の実施形態において、参照遺伝子の発現における検出可能な増加はない。特定の実施形態において、参照遺伝子は、GAPDH、BADおよびTRAPPC6Aから選択される。特定の実施形態において、参照遺伝子はGAPDHである。
【0044】
特定の実施形態において、遺伝子はSCN1A遺伝子であり、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象と比較して、細胞、組織、または対象における電位依存性ナトリウムチャネル活性を少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%、約160%、約170%、約180%、約190%、約200%、約250%、約300%、約350%、約400%、約450%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%、約1000%、またはそれ超増加させる。特定の実施形態において、方法は、外因性tRNAを欠く細胞、組織、または対象に対して、細胞、組織、または対象における電位依存性ナトリウムチャネル活性を、約20%~約200%、約20%~約180%、約20%~約160%、約20%~約140%、約20%~約120%、約20%~約100%、約20%~約80%、約20%~約60%、約20%~約40%、約40%~約200%、約40%~約180%、約40%~約160%、約40%~約140%、約40%~約120%、約40%~約100%、約40%~約80%、約40%~約60%、約60%~約200%、約60%~約180%、約60%~約160%、約60%~約140%、約60%~約120%、約60%~約100%、約60%~約80%、約80%~約200%、約80%~約180%、約80%~約160%、約80%~約140%、約80%~約120%、約80%~約100%、約100%~約200%、約100%~約180%、約100%~約160%、約100%~約140%、約100%~約120%、約120%~約200%、約120%~約180%、約120%~約160%、約120%~約140%、約140%~約200%、約140%~約180%、約140%~約160%、約160%~約200%、約160%~約180%、または約180%~約200%増加させる。電位依存性ナトリウムチャネル活性は、例えばKalume et al.(2007)J.NEUROSCI.27(41):11065-74,Yu et al.(2007)NAT.NEUROSCI.9(9):1142-9、およびHan et al.(2012)NATURE489(7416):385-390に記載されるように、当技術分野で既知の任意の方法によって測定され得る。
【0045】
特定の実施形態において、ハプロ不全障害は、表1または表2に列挙される障害であり、ハプロ不全遺伝子は、表1または表2の対応する行に列挙される遺伝子である。特定の実施形態において、遺伝子は、表1または表2に列挙される遺伝子であり、第1、第2、および/または第3の非最適コドンは、表1または表2の対応する行に列挙されるコドンである。特定の実施形態において、ハプロ不全障害は、表1または表2に記載される障害であり、第1、第2、および/または第3の非最適コドンは、表1または表2の対応する行に記載されるコドンである。
【表1】
【表2】
【0046】
特定の実施形態において、ハプロ不全障害は、各障害に関連するハプロ不全遺伝子とともに、以下の表4、5、6または7のいずれか1つに列挙される障害である。特定の実施形態において、遺伝子は、表4、5、6または7に列挙される遺伝子であり、第1、第2、および/または第3の非最適コドンは、表4、5、6または7の対応する行に列挙されるコドンである。特定の実施形態において、ハプロ不全障害は、表4、5、6または7に列挙される障害であり、第1、第2、および/または第3の非最適コドンは、表4、5、6または7の対応する行に記載されるコドンである。表4および表5は、それぞれ、コドン使用率およびtRNA適応指数(tAI)に基づいて計算された、示された遺伝子の3つおよび10個の最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンを示している。表6および表7は、それぞれ、tRNA遺伝子のコピー数に基づくtRNAレベルの推定値ではなく、HEK293細胞におけるtRNAレベルの直接定量化に基づくコドン使用率および修正tAIに基づいて計算された、示された遺伝子の3つおよび10個の最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンを示している。
【0047】
II.非最適コドンをデコードする転移RNA
A.転移RNA
タンパク質合成中、tRNAは、成長中のタンパク質(ポリペプチド)鎖に挿入するためにアミノ酸をリボソームに送達する。tRNAは通常約70~100ヌクレオチドの長さである。活性なtRNAは、合成中にtRNAに転写され得る、または転写後処理中に後から添加され得る、3’CCA配列を含む。アミノアシル化中、所与のtRNA分子に結合されるアミノ酸は、3’末端リボースの2’または3’ヒドロキシル基に共有結合され、アミノアシルtRNA(aa-tRNA)を形成する。アミノ酸は、2’-ヒドロキシル基から3’-ヒドロキシル基におよびその逆に自発的に移動し得るが、3’-OH位置からリボソームで成長中のタンパク質鎖に組み込まれると考えられる。折りたたまれたaa-tRNA分子の他の端にあるループは、アンチコドンとして知られる3つの塩基の配列を含む。このアンチコドン配列がリボソーム結合mRNA転写産物の相補的な3塩基コドン配列とハイブリダイズまたは塩基対形成すると、aa-tRNAはリボソームに結合し、そのアミノ酸がリボソームによって合成されているポリペプチド鎖に組み込まれる。特定のコドンと塩基対を形成する全てのtRNAは、単一の特定のアミノ酸でアミノアシル化されているため、遺伝コードの翻訳はtRNAによって影響を受ける。mRNAにおける61の非終止コドンの各々は、その関連するaa-tRNAの結合と、リボソームによって合成されている成長中のタンパク質またはポリペプチド鎖への単一の特定のアミノ酸の付加を指示する。
【0048】
tRNAは、概して高度に保存されており、多くの場合、種間で機能する。したがって、細菌のtRNA、非哺乳動物の真核生物のtRNA、または哺乳動物(例えば、ヒト)のtRNAに由来するtRNAは、本明細書に記載の組成物および方法の実施において有用であり得る。天然に存在するヒトtRNAをコードするヌクレオチド配列は、Genbankなどの供給源を通じて当業者に既知であり、概して入手可能である。Sprinzl et al.(2005)NUCLEIC ACIDS RES.33:D139-40、Buckland et al.(1996)GENOMICS35(1):164-71、Schimmel et al.(Eds.)(1979)“Transfer-RNA:Structure,Properties,and Recognition,”Cold Spring Harbor Laboratory、Agris(1983)“The Modified Nucleosides of Transfer RNA,II,”Alan R.Liss Inc.tRNAs are generally highly conserved and are often functional across speciesも参照されたい。
【0049】
特定の実施形態において、tRNAは、任意の天然アミノ酸でアミノアシル化されているか、またはアミノアシル化されることができる。例えば、tRNAは、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンでアミノアシル化されることが可能であり得る。特定の実施形態において、アミノ酸は、セリンおよびアルギニンから選択される。
【0050】
特定の実施形態において、tRNAは、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3のヌクレオチド配列、または配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3のヌクレオチド配列と80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0051】
配列同一性は、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当技術分野の技術の範囲内である様々な方式で決定され得る。プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxによって採用されたアルゴリズムを使用するBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析(Karlin et al.,(1990)PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 87:2264-2268;Altschul,(1993)J.MOL.EVOL.36,290-300;Altschul et al.,(1997)NUCLEIC ACIDS RES.25:3389-3402、参照により組み込まれる)は、配列類似性検索用に調整される。配列データベースの検索における基本的な問題の考察については、参照により完全に組み込まれる、Altschul et al.,(1994)NATURE GENETICS6:119-129,which is fully incorporated by referenceを参照されたい。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定し得る。ヒストグラム、説明、アライメント、期待値(つまり、データベー配列に対する一致を報告するための統計的有意性の閾値)、カットオフ、マトリックス、およびフィルターの検索パラメーターは、既定値設定である。blastp、blastx、tblastn、およびtblastxで使用される既定値のスコアリングマトリックスは、BLOSUM62マトリックス(Henikoff et al.,(1992)PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 89:10915-10919、参照により完全に組み込まれる)である。4つのblastnパラメーターは次のように調整し得る。Q=10(ギャップ作成ペナルティ)、R=10(ギャップ拡張ペナルティ)、wink=1(クエリに沿った全てのwink.sup.thの位置でワードヒットを生成する)、およびgapw=16(ギャップのあるアラインメントが生成されるウィンドウ幅を設定する)。同等のBlastpパラメーター設定はQ=9、R=2、wink=1、およびgapw=32であり得る。検索は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)BLAST Advanced Optionパラメーターを使用して実行もし得る(例:-G、ギャップを開くためのCost[整数]:既定値=ヌクレオチドの場合は5/タンパク質の場合は11;-E、ギャップを拡張するためのCost[整数]:既定値=ヌクレオチドの場合は2/タンパク質の場合は1;-q、ヌクレオチドの不一致に対するPenalty[整数]:既定値=-3;-r、ヌクレオチドの一致に対する利益[整数]:既定値=1;-e、期待値[実数]:既定値=10、-W、ワードサイズ[整数]:既定値=ヌクレオチドの場合は11/メガブラストの場合は28/タンパク質の場合は3;-y、切れ切れにブラスト拡張のドロップオフ(X):既定値=blastnの場合は20/その他の場合は7;-X、ギャップアラインメント(切れ切れ)についてのXドロップオフ値:全てのプログラムで既定値=15、blastnには適用されない;および-Z、ギャップアラインメントの最終Xドロップオフ値(切れ切れ):blastnの場合は50、他は25)。一対のタンパク質アラインメントためのClustalWも使用され得る(既定値のパラメーターには、例えば、Blosum62マトリックスおよびGap Opening Penalty=10およびGap Extension Penalty=0.1が含まれる場合がある)。GCGパッケージバージョン10.0で利用可能なシーケンス間の最適な比較は、DNAパラメーターGAP=50(ギャップ作成ペナルティ)およびLEN=3(ギャップ拡張ペナルティ)を使用し、タンパク質比較の同等の設定はGAP=8およびLEN=2である。
【0052】
tRNAは、1つ以上の修飾を含み得ることが企図される。修飾tRNAの例は、アシル化tRNA、アルキル化tRNA、アデニン、シトシン、グアニン、またはウラシル以外の1つ以上の塩基を含むtRNA、特定のリガンドまたは抗原性、蛍光性、親和性、反応性、スペクトルの、または他のプローブ部分の結合によって共有結合的に修飾されたtRNA、メチル化またはその他の方法で修飾された1つ以上のリボース部分を含むtRNA、試薬、特定のリガンドの担体として、または抗原性、蛍光性、反応性、親和性、スペクトルの、または他のプローブとして機能する非天然アミノ酸を含む、20種類の天然アミノ酸以外のアミノ酸でアミノアシル化されたaa-tRNA、またはこれらの組成物の任意の組み合わせを含む。修飾tRNA分子の例は、Soll et al.(1995)“tRNA:Structure,Biosynthesis,and Function,”ASM Press、El Yacoubi et al.(2012)ANNU.REV.GENET.46:69-95、Grosjean et al.(1998)“Modification and Editing of RNA.”ASM Press、Hendrickson et al.(2004)ANNU.REV.BIOCHEM.73:147-176,2004、Ibba et al.(2000)ANNU.REV.BIOCHEM.69:617-650、Johnson et al.(1995)COLD SPRING HARBOR SYMPQUANT.BIOL.60:71-82、Johnson et al.(1982)J.MOL.BIOL.156:113-140、Crowley et al.(1994)CELL78:61-71、Beier et al.(2001)NUCLEIC ACIDS RES.29:4767-4782、Torres et al.(2014)TRENDS MOL.MED.20:306-314、およびBjork et al.(1987)ANNU.REV.BIOCHEM.56:263-287に記載されている。
【0053】
特定の実施形態において、tRNAは、天然に存在するヌクレオチド修飾を含む。天然に存在するtRNAは、例えばMachnicka et al.(2014)RNA BIOLOGY11(12):1619-1629に記載されている、転写後修飾された様々なヌクレオチドを含み、
図2Bに示す残基のうちの1つ以上を含む。特定の実施形態において、tRNAは、0位の2’-O-メチルグアノシンまたはG、1位のシュードウリジンまたはU、4位の2’-O-メチルアデノシン、A、2’-O-メチルウリジン、U、2’-O-メチルシチジン、C、2’-O-メチルグアノシン、またはG、6位のN2-メチルグアノシンまたはG、7位のN2-メチルグアノシンまたはG、9位の1-メチルアデノシン、A、1-メチルグアノシン、G、または修飾G、10位のN2-メチルグアノシンまたはG、12位のN4-アセチルシチジンまたはC、13位のシュードウリジン、U、2’-O-メチルシチジン、またはC、14位の1-メチルアデノシン、A、または修飾A、16位のジヒドロウリジン(D)またはU、17位のDまたはU、18位の2’-O-メチルグアノシンまたはG、20位の3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン、D、またはU、20a位の3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン、D、シュードウリジン、U、または修飾U、20b位のD、シュードウリジン、またはU、25位のシュードウリジンまたはU、26位のシュードウリジン、U、N2,N2-ジメチルグアノシン、N2-メチルグアノシン、G、または修飾G、27位のシュードウリジン、U、N2,N2-ジメチルグアノシン、またはG、28位のシュードウリジンまたはU、30位のシュードウリジンまたはU、31位のシュードウリジンまたはU、32位の2’-O-メチルシュードウリジン、2’-O-メチルウリジン、シュードウリジン、U、2’-O-メチルシチジン、3-メチルシチジン、C、または修飾C、34位のイノシン、A、2-チオウリジン、2’-O-メチルウリジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジンメチルエステル、5-カルバモイルメチルウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチルウリジン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、シュードウリジン、U、修飾U、2’-O-メチルシチジン、5-ホルミル-2’-O-メチルシチジン、5-メチルシチジン、C、修飾C、キューオシン、マンノシル-キューオシン、ガラクトシル-キューオシン、2’-O-メチルグアノシン、またはG、35位のシュードウリジンまたはU、36位のシュードウリジン、U、または修飾U、37位の1-メチルイノシン、2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、N6-メチル-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、A、修飾A、1-メチルグアノシン、ペルオキシワイブトシン、ウィブトシン、G、または修飾G、38位のシュードウリジン、U、5-メチルシチジン、C、または修飾C、39位の1-メチルシュードウリジン、2’-O-メチルシュードウリジン、2’-O-メチルウリジン、シュードウリジン、U、2’-O-メチルグアノシン、またはG、40位のシュードウリジン、U、5-メチルシチジン、またはC、44位の2’-O-メチルウリジン、U、または修飾U、e11位のシュードウリジンまたはU、e12位のシュードウリジンまたはU、e14位のシュードウリジンまたはU、e2位の3-メチルシチジンまたはC、46位の7-メチルグアノシンまたはG、47位のD、U、または修飾U、48位のD、U、5-メチルシチジン、C、または修飾C、49位のA、修飾A、5-メチルシチジン、C、または修飾C、50位のシュードウリジン、U、5-メチルシチジン、またはC、54位の5,2’-O-ジメチルウリジン、5-メチルウリジン、シュードウリジン、またはU、55位のシュードウリジンまたはU、58位の1-メチルアデノシン、A、または修飾A、64位の2’-O-リボシルアデノシン(リン酸)、A、2’-O-リボシルグアノシン(リン酸)、G、または修飾G、65位のシュードウリジンまたはU、67位のシュードウリジン、U、N2-メチルグアノシン、またはG、68位のシュードウリジンまたはU、および、72位のシュードウリジン、U、5-メチルシチジン、またはCからなる群から選択される残基のうちの1つ以上を含む。残基の番号付けは、Steinberg et al.,(1993)NUCLEIC ACIDS RES.21:3011-15に記載されているtRNA番号付けシステムに基づく。
【0054】
特定の実施形態において、tRNAは、5-メチルウリジン、シュードウリジン、ジヒドロウリジン、および1-メチルアデノシンから選択される1つ以上のヌクレオチド修飾を含む。
【0055】
B.非最適コドン
本明細書に記載の組成物および方法において有用なtRNAは、非最適コドンにハイブリダイズするアンチコドンを含む。
【0056】
タンパク質合成は、合成されているタンパク質に組み込まれるアミノ酸をコードする61個の3塩基対コドン、およびタンパク質の合成を終了させる3個の3塩基対コドン(ストップまたは終止コドンと呼ばれる)を含む遺伝コードによって指示される。遺伝コードの縮退は、20個のアミノ酸をコードする61個の3塩基対のコドンの組み合わせに基づく数学的結果である。同義のコドンは、同じアミノ酸をコードする3塩基対のコドンを指す。同義のコドン置換は沈黙しており、遺伝子発現または結果として生じる機能的遺伝子産物の量に影響を及ぼさないと概して考えられている。しかし、同義のコドンは翻訳装置によって異なって認識されるようである。この概念は、コドン最適性と呼ばれる。概念的には、コドンの最適性は、翻訳に関与するコドンの濃度によって課せられるアミノアシル化tRNA分子の供給およびそれらの需要間のバランスを反映する。したがって、リボソームは、同族のtRNAが比較的豊富であるため、一部のコドンをすばやくデコードするが、他のコドンは、tRNA濃度が比較的少ないため、読み取りが遅くなる(Tuller et al.(2010)CELL141(2):344-54;Novoa et al.(2012)TRENDS GENET.28(11):574-81)。さらに、コドンの最適性は、tRNAのアンチコドン/コドン相互作用の精度にある程度基づいており、デコード率に影響を与え得る(Akashi(1994)GENETICS136(3):927-35;Drummond et al.(2008)CELL134(2):341-52)。
【0057】
mRNA転写産物内のコドンの最適性は、mRNA転写産物の安定性、およびmRNA転写産物がリボソームによって翻訳される速度に影響を与えることが示されている(Presnyak et al.(2015)CELL 160(6):1111-24;Radhakrishnan et al.(2016)CELL167(1):122-132)。したがって、本明細書で使用される場合、「非最適コドン」という用語は、同じアミノ酸の別のコドンを認識する異なるtRNAよりも細胞内に豊富ではないtRNAによって認識されるmRNA転写産物中のコドンを指す。多くの場合、非最適コドンを、同じアミノ酸をコードする別のコドン(つまり、同義のコドン)に置き換えることで、細胞内により豊富なtRNAによって読み取られ、mRNA転写産物の安定性かつ/またはmRNA転写産物がリボソームによって翻訳される速度を増加させる。結果として、非最適コドンは、その同族のtRNAの過剰発現がmRNAの安定性、存在量、または翻訳伸長を増強する任意のコドンである。
【0058】
コドン最適性は、tRNA適応指数(tAI)、正規化された翻訳効率(nTE)、種特異的tRNA適応指数(sTAI)、コドン適応指数(CAI)、gCAIおよびmRNA安定性に対するコドン発生の相関係数(CSC)を含む以下のアプローチのうちの1つ以上によって測定または定量化され得る。
【0059】
tAIは、tRNAの細胞濃度(tRNA遺伝子のコピー数に基づく)およびデコードの効率の推定値を考慮に入れた、各コドンのコドン最適性の推定値である。tAIは、例えばdos Reis et al.(2004)NUCLEIC ACIDS RES.32(17):5036-5044,and Mahlab et al.(2014)PLOS COMPUT.BIOL.10(1):e1003294に記載されている。特定の実施形態において、非最適コドンは、所与の種、例えば、ヒトについての全てのコドンのtAI値の中央値よりも小さいtAI値を有する。
【0060】
特定の実施形態において、非最適コドンは、tAIによって決定されるように、0.47以下の値を有する。例えば、特定の実施形態において、非最適コドンは、CTA(Leu)、TCA(Ser)、CAT(His)、AGT(Ser)、TTA(Leu)、GTA(Val)、ATA(Ile)、CGC(Arg)、TCG(Ser)、TTT(Phe)、AGA(Arg)、CGA(Arg)、ACA(Thr)、CCG(Pro)、GGT(Gly)、AGG(Arg)、CGG(Arg)、CAA(Gln)、CGT(Arg)、GAT(Asp)、TAT(Tyr)、ACC(Thr)、TCC(Ser)、ACG(Thr)、CCC(Pro)、CTC(Leu)、GTC(Val)、TGG(Trp)、CCA(Pro)、GCG(Ala)、TTG(Leu)、AGC(Ser)、GGA(Gly)、CTG(Leu)、ACT(Thr)、CAC(His)、TCT(Ser)、GCA(Ala)、CCT(Pro)、CTT(Leu)、GTT(Val)、GGG(Gly)、GAA(Glu)、TTC(Phe)、GAG(Glu)、TGT(Cys)、TAC(Tyr)、GGC(Gly)、AAT(Asn)、GAC(Asp)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0061】
特定の実施形態において、非最適コドンは、tAIによって決定されるように、0.25以下の値を有する。例えば、特定の実施形態において、非最適コドンは、CTA(Leu)、TCA(Ser)、CAT(His)、AGT(Ser)、TTA(Leu)、GTA(Val)、ATA(Ile)、CGC(Arg)、TCG(Ser)、TTT(Phe)、AGA(Arg)、CGA(Arg)、ACA(Thr)、CCG(Pro)、GGT(Gly)、AGG(Arg)、CGG(Arg)、CAA(Gln)、CGT(Arg)、GAT(Asp)、TAT(Tyr)、ACC(Thr)、TCC(Ser)、ACG(Thr)、CCC(Pro)、CTC(Leu)、GTC(Val)、TGG(Trp)、CCA(Pro)、GCG(Ala)、TTG(Leu)、AGC(Ser)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0062】
特定の実施形態において、非最適コドンは、CTA(Leu)、TCA(Ser)、CAT(His)、AGT(Ser)、TTA(Leu)、GTA(Val)、ATA(Ile)、CGC(Arg)、TCG(Ser)、TTT(Phe)、AGA(Arg)、CGA(Arg)、ACA(Thr)、CCG(Pro)、GGT(Gly)、AGG(Arg)、CGG(Arg)、CAA(Gln)、CGT(Arg)、GAT(Asp)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。特定の実施形態において、非最適コドンは、CTA(Leu)、TCA(Ser)、CAT(His)、AGT(Ser)、TTA(Leu)、GTA(Val)、ATA(Ile)、CGC(Arg)、TCG(Ser)、TTT(Phe)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。特定の実施形態において、非最適コドンは、CTA(Leu)、TCA(Ser)、CAT(His)、AGT(Ser)、TTA(Leu)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0063】
コドンの最適性は、tRNA遺伝子のコピー数に基づく推定値の代わりに、所与の細胞内のtRNAレベルの直接定量化に基づくtAIの修正バージョンによって測定され得る。tRNAレベルは、例えば、Zheng et al.(2015)NAT.METHODS.12(9):835-837に記載されているような、当技術分野で既知の任意の方法によって決定され得る。例えば、特定の実施形態において、非最適コドンは、AGA(Arg)、CTC(Leu)、ATA(Ile)、CCC(Pro)、CTA(Leu)、CTT(Leu)、TAT(Tyr)、CCT(Pro)、TGT(Cys)、CGC(Arg)、GCA(Ala)、TCC(Ser)、TAC(Tyr)、GCG(Ala)、AGG(Arg)、CGT(Arg)、CCG(Pro)、GGA(Gly)、CCA(Pro)、TGC(Cys)、TCT(Ser)、TCG(Ser)、TTG(Leu)、AGT(Ser)、TTT(Phe)、ACG(Thr)、AAT(Asn)、ACA(Thr)、GAA(Glu)、ATC(Ile)、TGG(Trp)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。特定の実施形態において、非最適コドンは、AGA(Arg)、CTC(Leu)、ATA(Ile)、CCC(Pro)、CTA(Leu)、CTT(Leu)、TAT(Tyr)、CCT(Pro)、TGT(Cys)、CGC(Arg)、GCA(Ala)、TCC(Ser)、TAC(Tyr)、GCG(Ala)、AGG(Arg)、CGT(Arg)、CCG(Pro)、GGA(Gly)、CCA(Pro)、TGC(Cys)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。特定の実施形態において、非最適コドンは、AGA(Arg)、CTC(Leu)、ATA(Ile)、CCC(Pro)、CTA(Leu)、CTT(Leu)、TAT(Tyr)、CCT(Pro)、TGT(Cys)、CGC(Arg)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。特定の実施形態において、非最適コドンは、AGA(Arg)、CTC(Leu)、ATA(Ile)、CCC(Pro)、CTA(Leu)、およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0064】
特定の実施形態において、遺伝子中のコドンの平均tAI値は、約0.15~約0.5、約0.15~約0.45、約0.15~約0.4、約0.15~約0.35、約0.15~約0.3、約0.15~約0.25、約0.15~約0.2、約0.2~約0.5、約0.2~約0.45、約0.2~約0.4、約0.2~約0.35、約0.2~約0.3、約0.2~約0.25、約0.25~約0.5、約0.25~約0.45、約0.25~約0.4、約0.25~約0.35、約0.25~約0.3、約0.3~約0.5、約0.3~約0.45、約0.3~約0.4、約0.3~約0.35、約0.35~約0.5、約0.35~約0.45、約0.35~約0.4、約0.4~約0.5、約0.4~約0.45、および約0.45~約0.5の間である。特定の実施形態において、遺伝子におけるコドンの平均tAI値は、約0.15、約0.2、約0.25、約0.3、約0.35、約0.4、約0.45、または約0.5未満である。
【0065】
stAIは、tRNAの細胞濃度およびデコードの効率の推定値を考慮に入れ、種固有の方法でデコード効率に重みを付した各コドンのコドン最適性の推定値である。stAIは、例えばSabi et al.(2014)DNA RES.21(5):511-525に記載されている。特定の実施形態において、非最適コドンは、所与の種、例えば、ヒトについての全てのコドンのstAI値の中央値よりも小さいstAI値を有する。
【0066】
nTEは、tRNAの細胞濃度、デコードの効率、および細胞mRNAプール内のコドンの使用の推定値を考慮に入れた、各コドンのコドン最適性の推定値である。nTEは、例えば、Pechman et al.(2013)NAT.STRUCT.MOL.BIOL.20(2):237-43に記載されている。特定の実施形態において、非最適コドンは、所与の種、例えば、ヒトについての全てのコドンのnTE値の中央値よりも小さいnTE値を有する。
【0067】
CAIは、高度に発現する遺伝子のコドン頻度をスコアリングすることにより、コドンの最適性を推定する。したがって、CAIによって推定されるコドン最適性は、高発現として指定された遺伝子セットに応じて変化する可能性がある。CAIは、例えば、Sharp et al.(1987)NUCLEIC ACIDS RES.15(3):1281-95に記載されている。gCAIはCAIに似ているが、所与の細胞の発現トランスクリプトーム全体を使用する。特定の実施形態において、非最適コドンは、所与の種、例えば、ヒトについての全てのコドンのCAI値の中央値よりも小さいCAI値を有する。
【0068】
CSCは、コドンの発生をmRNAの半減期の測定値と相関させることによって、コドンの最適性を推定する。CSCは、例えばPresnyak et al.(2015)CELL160(6):1111-24に記載されている。特定の実施形態において、非最適コドンは、所与の種、例えば、ヒトについての全てのコドンのCSC値の中央値よりも小さいCSC値を有する。特定の実施形態において、非最適コドンは、CSCによって決定されるように、0以下の値を有する。
【0069】
特定の実施形態において、非最適コドンは、ATA、GTA、およびAGA、ならびにそれの任意の組み合わせから選択される。特定の実施形態において、非最適コドンは、ATAである。特定の実施形態において、非最適コドンは、GTAである。特定の実施形態において、非最適コドンは、AGAである。特定の実施形態において、非最適コドンは、ATAおよびGTAである。特定の実施形態において、非最適コドンは、ATAおよびAGAである。特定の実施形態において、非最適コドンは、GTAおよびAGAである。特定の実施形態において、非最適コドンは、ATA、GTA、およびAGAである。
【0070】
特定の実施形態において、遺伝子におけるコドンの約20%~約70%、約20%~約60%、約20%~約50%、約20%~約40%、約20%~約30%、約30%~約70%、約30%~約60%、約30%~約50%、約30%~約40%、約40%~約70%、約40%~約60%、約40%~約50%、約50%~約70%、約50%~約60%、または約60%~約70%が非最適コドンである。特定の実施形態において、遺伝子におけるコドンの約20%超、約30%、約40%、約50%、約60%、または約70%は、非最適コドンである。特定の実施形態において、遺伝子におけるコドンの約40%超または約50%は、非最適コドンである。
【0071】
III.転移RNAの作製方法
本明細書に記載の組成物および方法の実施において有用なtRNA分子は、合成化学的方法による細胞外産生、組換えDNA法による細胞内産生、または天然源からの精製を含む、当技術分野で既知の方法によって産生され得ると企図される。
【0072】
例えば、tRNAをコードするDNA分子は、化学的にまたは組換えDNA方法論によって合成され得る。例えば、tRNAの配列は、適切な合成核酸プライマーを使用して、従来のハイブリダイゼーション技術またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術によってライブラリーから合成またはクローン化され得る。得られたtRNAをコードするDNA分子は、例えば、tRNAをコードする従来の遺伝子発現構築物(すなわち、発現ベクター)を産生するために、発現制御配列を含む他の適切なヌクレオチド配列にライゲーションされ得る。定義された遺伝子構築物の産生は、当技術分野の技術の範囲内である。所望のtRNAをコードする核酸は、次のセクションで説明する発現ベクターなどの発現ベクターに組み込まれ得(ライゲーションされ得)、従来の遺伝子導入または形質転換技術を介して宿主細胞に導入され得る。宿主細胞の例は、大腸菌細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓293(HEK293)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、HepG2)、および骨髄腫細胞である。形質転換された宿主細胞は、宿主細胞がtRNAをコードする遺伝子を発現することを可能にする条件下で増殖させ得る。特定の発現および精製条件は、採用される発現システムによって異なる。
【0073】
あるいは、tRNAは、当技術分野で知られている方法によって、化学的に合成または天然の供給源から精製され得る。細胞への導入または対象への投与の前にtRNAがアミノアシル化される場合、tRNAは、化学的または酵素的アミノアシル化を含む当技術分野で既知の任意の方法によって、所望のアミノ酸でアミノアシル化され得る。
【0074】
IV.発現ベクター
目的のtRNAは、目的のtRNAをコードする遺伝子を発現ベクターに組み込むことによって、目的の細胞で発現させ得る。本明細書で使用される場合、「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性要素を含む。発現のための他の要素は、宿主細胞によって、またはインビトロ発現システムにおいて供給され得る。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み込んだ、コスミド、プラスミド(例えば、裸のまたはリポソーム中に含まれる)、レトロトランスポゾン(例えば、ピギーバック、眠れる森の美女(sleeping beauty))、およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)などの当技術分野で既知の全てのものが含まれる。
【0075】
特定の実施形態において、発現ベクターはウイルスベクターである。「ウイルス」という用語は、本明細書では、タンパク質合成またはエネルギー生成メカニズムを有さない偏性の細胞内寄生生物のいずれかを指すために使用される。ウイルスベクターの例は、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、エプスタインバーウイルス(EBV)ベクター、ポリオーマウイルスベクター(例えば、シミアン空胞形成ウイルス40(SV40)ベクター)、ポックスウイルスベクター、および偽型ウイルスベクターを含む。
【0076】
ウイルスは、RNAウイルス(RNAで構成されるゲノムを有する)またはDNAウイルス(DNAで構成されるゲノムを有する)であり得る。特定の実施形態において、ウイルスベクターは、DNAウイルスベクターである。例示的なDNAウイルスは、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、アデノウイルス、アスファルウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1および2(HSV-1およびHSV-2)、エプスタインバーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、パピロモウイルス(例えば、HPV)、ポリオーマウイルス(例えば、シミアン空胞形成ウイルス40(SV40))、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、カウポックスウイルス、スモールポックスウイルス、ファウルポックスウイルス、シープポックスウイルス、粘液腫ウイルス)を含む。特定の実施形態において、ウイルスベクターは、RNAウイルスベクターである。RNAウイルスの例は、ブニヤウイルス(例えば、ハンタウイルス)、コロナウイルス、エボラウイルス、フラビウイルス(例えば、黄熱ウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス)、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス)、インフルエンザウイルス(例えば、インフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、インフルエンザウイルスC型)、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ノロウイルス(例えば、ノーウォークウイルス)、ポリオウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、レトロウイルス(例えば、ヒト免疫不全)ウイルス-1(HIV-1))およびトロウイルスが含まれる。
【0077】
特定の実施形態において、発現ベクターは、tRNAをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列またはプロモーターを含む。「作動可能に連結された」という用語は、機能的関係におけるポリヌクレオチド要素の連結を指す。核酸配列は、それが別の核酸配列と機能的関係に置かれるとき、「作動可能に連結される」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それが遺伝子の転写に影響を与える場合、遺伝子に作動可能に連結される。作動可能に連結されたヌクレオチド配列は、通常、隣接する。しかし、エンハンサーは概してプロモーターから数キロベース離れたときに機能し、イントロン配列は可変長であり得るため、一部のポリヌクレオチド要素は操作可能にリンクされ得るが、直接隣接しておらず、異なる対立遺伝子または染色体から推移的に機能し得る。
【0078】
tRNA遺伝子は、好ましくは、様々な細胞型において活性である強力なプロモーターを有する。真核生物のtRNA遺伝子のプロモーターは、通常、tRNA分子自体をコードする構造配列内に存在する。5’上流領域内の転写活性を調節する要素があるが、活性な転写ユニットの長さは、500塩基対よりかなり短くてもよい。
【0079】
採用され得るプロモーターの追加の例は、これらに限定されないが、レトロウイルスLTR、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、U6プロモーター、または任意の他のプロモーター(例えば、これらに限定されないがヒストン、polIII、およびβ-アクチンプロモーターを含む真核生物細胞プロモーターなどの細胞プロモーター)を含む。採用され得る他のウイルスプロモーターは、これらに限定されないが、アデノウイルスプロモーター、TKプロモーター、およびB19パルボウイルスプロモーターを含む。プロモーターの選択は、本明細書に含まれる教示から当業者には明らかであろう。
【0080】
特定の実施形態において、発現ベクターは、配列番号1、配列番号2、および/もしくは配列番号3のヌクレオチド配列、または配列番号1、配列番号2、および/もしくは配列番号3のヌクレオチド配列と80%、85%、86、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むtRNAコード配列を含む。
【0081】
特定の実施形態において、tRNAコード配列に加えて、発現ベクターは、対応する野生型tRNA遺伝子に隣接するゲノムDNA配列に対応するヌクレオチド配列を含む。例えば、特定の実施形態において、発現ベクターは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、もしくは配列番号11のヌクレオチド配列、または配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、または配列番号11のヌクレオチド配列と80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0082】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
特定の実施形態において、発現ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。AAVは、ディペンドパルボウイルス属、パルボウイルス科の小さな、エンベロープを有さない二十面体ウイルスである。AAVは約4.7kbの一本鎖線形DNAゲノムを有する。AAVは、いくつかの組織型の分裂および静止細胞の両方に感染することができ、異なるAAV血清型は異なる組織向性を示す。
【0083】
AAVは、血清型AAV-1からAAV-12だけでなく非ヒト霊長類からの100超の血清型を含む多数の血清学的に識別可能な型を含む(例えば、Srivastava(2008)J.CELL BIOCHEM.,105(1):17-24,およびGao et al.(2004)J.VIROL.,78(12),6381-6388参照)。本明細書に記載の組成物および方法で使用されるAAVベクターの血清型は、送達の効率、組織向性、および免疫原性に基づいて当業者によって選択され得る。例えば、AAV-1、AAV-2、AAV-4、AAV-5、AAV-8、およびAAV-9は、中枢神経系への送達に使用され得、AAV-1、AAV-8、およびAAV-9は、心臓への送達に使用され得、AAV-2は腎臓への送達に使用され得、AAV-7、AAV-8、およびAAV-9は、肝臓への送達に使用され得、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-9は肺への送達に使用され得、AAV-8は膵臓への送達に使用され得、AAV-2、AAV-5、およびAAV-8は光受容細胞への送達に使用され得、AAV-1、AAV-2、AAV-4、AAV-5、およびAAV-8は、網膜色素上皮への送達に使用され得、AAV-1、AAV-6、AAV-7、AAV-8、およびAAV-9は、骨格筋への送達に使用され得る。特定の実施形態において、AAVキャプシドタンパク質は、これらに限定されないが、AAV-9(米国特許第7,198,951号の配列番号1~3)、AAV-2(米国特許第7,198,951号の配列番号4)、AAV-1(米国特許第7,198,951号の配列番号5)、AAV-3(米国特許第7,198,951号の配列番号6)、およびAAV-8(米国特許第7,198,951号の配列番号7)などの米国特許第7,198,951号に開示される配列を含む。アカゲザルから同定されたAAV血清型、例えば、rh.8、rh.10、rh.39、rh.43、およびrh.74もまた企図される。天然のAAV血清型に加えて、送達の効率、組織向性、および免疫原性を改善するために改変AAVキャプシドが開発されている。天然および改変AAVキャプシドの例は、米国特許第7,906,111号、同第9,493,788号、および同第7,198,951号、ならびにPCT公開第WO2017/189964A2号に開示される。
【0084】
野生型AAVゲノムは、2つの145ヌクレオチド逆方向末端反復(ITR)を含み、これらは、AAV複製、ゲノムキャプシド形成、および統合を指示するシグナル配列を含む。ITRに加えて、3つのAAVプロモーター、p5、p19、およびp40は、repおよびcap遺伝子をコードする2つのオープンリーディングフレームの発現を駆動する。2つのrepプロモーターは、単一のAAVイントロンの差次的スプライシングと相まって、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40)を生成する。Repタンパク質はゲノム複製に関与する。Cap遺伝子はp40プロモーターから発現され、cap遺伝子のスプライスバリアントである3つのキャプシドタンパク質(VP1、VP2、およびVP3)をコードする。これらのタンパク質は、AAV粒子のキャプシドを形成する。
【0085】
複製、キャプシド形成、および統合のためのシス作用性シグナルはITR内に含まれているため、4.3kbの内部ゲノムの一部または全てを外来DNA、例えば目的の外因性遺伝子のための発現カセットに置き換えることができる。したがって、特定の実施形態において、AAVベクターは、5’ITRおよび3’ITRに隣接する外因性遺伝子の発現カセットを含むゲノムを含む。ITRは、そのキャプシドまたは誘導体と同じ血清型に由来し得る。あるいは、ITRは、キャプシドとは異なる血清型であり得、それによって偽型のAAVが生成される。特定の実施形態において、ITRは、AAV-2に由来する。特定の実施形態において、ITRは、AAV-5に由来する。ITRの少なくとも1つは、末端分離部位を変異または削除するように改変され得、それにより、自己相補的AAVベクターの産生を可能にする。
【0086】
repおよびcapタンパク質は、AAVベクターを産生するために、例えばプラスミド上で推移的に提供することができる。AAV複製を許容する宿主細胞株は、repおよびcap遺伝子、ITR隣接発現カセット、ならびにヘルパーウイルスによって提供されるヘルパー機能、例えばアデノウイルス遺伝子E1a、E1b55K、E2a、E4orf6、およびVAを発現する必要がある(Weitzman et al.,Adeno-associated virus biology.Adeno-Associated Virus:Methods and Protocols,pp.1-23,2011)。AAVベクターを生成および精製するための方法が詳細に記載されている(例えば、Mueller et al.,(2012)CURRENT PROTOCOLS IN MICROBIOLOGY,14D.1.1-14D.1.21,Production and Discovery of Novel Recombinant Adeno-Associated Viral Vectors参照)。HEK293細胞、COS細胞、HeLa細胞、BHK細胞、Vero細胞だけでなく昆虫細胞を含む多数の細胞型はAAVベクターの産生に好適である(例えば、米国特許第6,156,303号、同第5,387,484号、同第5,741,683号、同第5,691,176号、同第5,688,676号、および同第8,163,543号、米国特許公開第2002/0081721号、およびPCT公開第WO00/47757号、同第WO00/24916号、および同第WO96/17947号参照)。AAVベクターは通常、これらの細胞型において、ITR隣接発現カセットを含む1つのプラスミド、および追加のAAVおよびヘルパーウイルス遺伝子を提供する1つ以上の追加のプラスミドによって産生される。
【0087】
任意の血清型のAAVは、本明細書に記載の組成物および方法において使用され得る。同様に、任意のアデノウイルス型が使用され得、当業者は、それらの所望の組換えAAVベクター(rAAV)の産生に好適なAAVおよびアデノウイルス型を同定することができると企図される。AAV粒子は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオジキソナル勾配、またはCsCl勾配によって精製され得る。
【0088】
AAVベクターは、サイズが4.7kbである、または5.2kbの大きさの、もしくは3.0kbの小ささの特大ゲノムを含む、4.7kbよりも大きいまたは小さい一本鎖ゲノムを有し得る。したがって、AAVベクターから発現される目的の外因性遺伝子が小さい場合、AAVゲノムはスタッファー配列を含み得る。さらに、ベクターゲノムは実質的に自己相補的であり得、それにより細胞における迅速な発現を可能にする。特定の実施形態において、自己相補的AAVベクターのゲノムは、5’から3’に、5’ITRと、目的の遺伝子のコード配列に作動可能に連結されたプロモーターおよび/またはエンハンサーを含む第1の核酸配列と、機能的な端末分離部位を有しない改変ITRと、第1の核酸配列に相補的または実質的に相補的な第2の核酸配列と、3’ITRと、を含む。全ての型のゲノムを含むAAVベクターは、本明細書に記載の方法においての使用に好適である。
【0089】
AAVベクターの非限定的な例には、pAAV-MCS(Agilent Technologies)、pAAVK-EF1α-MCS(System Bioカタログ番号AAV502A-1)、pAAVK-EF1α-MCS1-CMV-MCS2(System Bioカタログ番号AAV503A-1)、pAAV-ZsGreen1(Clontechカタログ番号6231)、pAAV-MCS2(Addgeneプラスミド番号46954)、AAV-Stuffer(Addgeneプラスミド番号106248)、pAAVscCBPIGpluc(Addgeneプラスミド番号35645)、AAVS1_Puro_PGK1_3xFLAG_Twin_Strep(Addgeneプラスミド番号68375)pAAV-RAM-d2TTA::TRE-MCS-WPRE-pA(Addgeneプラスミド番号63931)、pAAV-UbC(Addgeneプラスミド番号62806)、pAAVS1-P-MCS(Addgeneプラスミド番号80488)、pAAV-Gateway(Addgeneプラスミド番号32671)、pAAV-Puro_siKD(Addgeneプラスミド番号86695)、pAAVS1-Nst-MCS(Addgeneプラスミド番号80487)、pAAVS1-Nst-CAG-DEST(Addgeneプラスミド番号80489)、pAAVS1-P-CAG-DEST(Addgeneプラスミド番号80490)、pAAVf-EnhCB-lacZnls(Addgeneプラスミド番号35642)、およびpAAVS1-shRNA(Addgeneプラスミド番号82697)が挙げられる。これらのベクターは、治療用途用に好適であるように改変され得る。例えば、目的の外因性遺伝子はマルチクローニング部位に挿入され得、選択マーカー(例えば、puroまたは蛍光タンパク質をコードする遺伝子)は削除、または別の(同じまたは異なる)目的の外因性遺伝子で置き換えられ得る。AAVベクターのさらなる例は、米国特許第5,871,982号、同第6,270,996号、同第7,238,526号、同第6,943,019号、同第6,953,690号、同第9,150,882号、および同第8,298,818号、米国特許公開第2009/0087413号、およびPCT公開第WO2017/075335A1号、同第WO2017/075338A2号、および同第WO2017/201258A1号に開示されている。
【0090】
特定の実施形態において、発現ベクターは、対象、例えば、ヒト対象において、神経系、例えば、中枢神経系を標的とすることができるAAVベクターである。神経系を標的とすることができる例示的なAAVベクターには、AAV9変異体AAV-PHP.B(例えば、Deverman et al.(2016)NAT.BIOTECHNOL.34(2):204-209参照)、AAV-AS(例えば、Choudhury et al.(2016)MOL.THER.24:726-35参照)、およびAAV-PHP.eB(例えば、Chan et al.(2017)NAT.NEUROSCI.20:1172-79参照)が挙げられる。神経系を標的とするための追加の例示的なAAVベースの戦略は、Bedrook et al.(2018)ANNU REV NEUROSCI.41:323-348に記載されている。
【0091】
レンチウイルスベクター
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクターであり得る。レトロウイルスベクターの例は、モロニーマウス白血病ウイルスベクター、脾臓壊死ウイルスベクター、ならびにラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳房腫瘍ウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクターを含む。レトロウイルスベクターは、真核細胞へのレトロウイルス媒介遺伝子転移を媒介する薬剤として有用である。
【0092】
特定の実施形態において、レトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。レンチウイルスベクターの例は、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス-2(HIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ジェンブラナ病ウイルス(JDV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、およびヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)に由来するベクターを含む。
【0093】
レトロウイルスベクターは通常、ウイルスの構造遺伝子についてコードする配列の大部分が削除され、目的の遺伝子に置き換えられるように構築される。多くの場合、構造遺伝子(すなわち、gag、pol、およびenv)は、当技術分野で既知の遺伝子工学技術を使用してレトロウイルス骨格から除去される。これには、適切な制限エンドヌクレアーゼ、または場合によってはBal31エキソヌクレアーゼによる消化を含み、パッケージングシグナルの適切な部分を含む断片が生成される。したがって、最小のレトロウイルスベクターは、5’から3’に、5’長い末端反復(LTR)と、パッケージングシグナルと、任意の外因性プロモーターおよび/またはエンハンサーと、目的の外因性遺伝子と、3’LTRと、を含む。外因性プロモーターが提供されない場合、遺伝子発現は5’LTRによって駆動され、これは弱いプロモーターであり、発現を活性化するためにTatの存在を必要とする。構造遺伝子は、レンチウイルスの製造のための別個のベクターで提供され得、産生されたビリオンを複製欠陥にする。具体的には、レンチウイルスに関して、パッケージングシステムは、Gag、Pol、Rev、およびTat遺伝子をコードする単一のパッケージングベクター、およびエンベロープタンパク質Env(通常、その広い感染性のためにVSV-G)をコードする第3の別個のベクターを含み得る。パッケージングシステムの安全性を向上させるために、パッケージングベクターは分割し、あるベクターからRevを、別のベクターからGagおよびPolを発現し得る。Tatはまた、キメラ5’LTRを含むレトロウイルスベクターを使用することによってパッケージングシステムから排除され得、5’LTRのU3領域は、異種調節要素で置き換えられる。
【0094】
これらの新しい遺伝子は、いくつかの一般的な方法でプロウイルス骨格に組み込まれ得る。最も単純な構造は、レトロウイルスの構造遺伝子が、LTR内のウイルス調節配列の制御下で転写される単一の遺伝子に置き換えられる構造である。複数の遺伝子を標的細胞に導入することができるレトロウイルスベクターも構築されている。通常、そのようなベクターにおいては、1つの遺伝子がウイルスLTRの制御下にあり、2番目の遺伝子はスプライシングされたメッセージから離れているか、それ自体の内部プロモーターの制御下で発現される。
【0095】
したがって、新しい遺伝子(複数可)は、それぞれビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進するのに役立つ5’および3’LTRに隣接される。「長い末端反復」または「LTR」という用語は、レトロウイルスDNAの末端に位置する塩基対のドメインを指し、それはそれらの自然な配列のコンテキストにおいて、直接反復であり、U3、R、およびU5領域を含む。LTRは、概して、レトロウイルス遺伝子の発現(例えば、遺伝子転写産物の促進、開始、およびポリアデニル化)およびウイルス複製の基本的な機能を提供する。LTRは、転写制御要素、ポリアデニル化シグナル、およびウイルスゲノムの複製および統合に必要な配列を含む多数の調節シグナルを含む。U3領域は、エンハンサーおよびプロモーターの要素を含む。U5領域は、プライマー結合部位およびR領域間の配列であり、ポリアデニル化配列を含む。R(リピート)領域は、U3領域とU5領域の両側にある。特定の実施形態において、R領域は、トランス活性化応答(TAR)遺伝子要素を含み、それは、トランス活性化因子(tat)遺伝子要素と相互作用して、ウイルス複製を増強する。この要素は、5’LTRのU3領域が異種プロモーターによって置き換えられる実施形態において必要とされない。
【0096】
特定の実施形態において、レトロウイルスベクターは、改変5’LTRおよび/または3’LTRを含む。3’LTRの改変は、ウイルスを複製欠陥にすることにより、レンチウイルスまたはレトロウイルスシステムの安全性を向上させるために行われることがよくある。特定の実施形態において、レトロウイルスベクターは、自己不活化(SIN)ベクターである。本明細書で使用される場合、SINレトロウイルスベクターは、3’LTR U3領域が(例えば、欠失または置換によって)改変され、ウイルス複製の第1ラウンドを超えるウイルス転写を防止する複製欠損レトロウイルスベクターを指す。これは、3’LTR U3領域がウイルス複製中に5’LTR U3領域のテンプレートとして使用され、U3エンハンサープロモーターなしではウイルス転写産物を作製し得ないためである。さらなる実施形態において、3’LTRは、U5領域が、例えば、理想的なポリアデニル化配列で置き換えられるように改変される。3’LTR、5’LTR、または3’および5’LTRの両方への改変などのLTRへの改変も本明細書に記載されることに留意されたい。
【0097】
特定の実施形態において、5’LTRのU3領域は、ウイルス粒子の産生中にウイルスゲノムの転写を駆動するために異種プロモーターで置き換えられる。使用され得る異種プロモーターの例は、例えば、ウイルスシミアンウイルス40(SV40)(例えば、初期または後期)、サイトメガロウイルス(CMV)(例えば、前初期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、および単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーターを含む。典型的なプロモーターは、Tatに依存しない方法で高レベルの転写を駆動することができる。ウイルス生産システムには完全なU3配列がないため、この置換により、組換えが複製能力のあるウイルスを生成する可能性が低くなる。
【0098】
5’LTRへの隣接は、ゲノムの逆転写(tRNAプライマー結合部位)およびウイルスRNAの粒子への効率的なパッケージング(Psi部位)に必要な配列である。本明細書で使用される場合、「パッケージングシグナル」または「パッケージング配列」という用語は、ウイルス粒子形成中のレトロウイルスRNA鎖のキャプシド形成に必要なレトロウイルスゲノム内に位置する配列を指す(例えば、Clever et al.,1995J.VIROLOGY,69(4):2101-09参照)。パッケージングシグナルは、ウイルスゲノムのキャプシド形成に必要な最小限のパッケージングシグナル(プサイ[Ψ]配列とも呼ばれる)であり得る。
【0099】
特定の実施形態において、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、FLAPをさらに含む。本明細書で使用される場合、「FLAP」という用語は、その配列が、レトロウイルス、例えば、HIV-1またはHIV-2の中央ポリプリン路および中央終止配列(cPPTおよびCTS)を含む核酸を指す。FLAP要素の例は、米国特許第6,682,907号およびZennou et al.(2000)CELL101:173に記載されている。逆転写中、cPPTでのプラス鎖DNAの中央開始、およびCTSでの中央終止は、中央DNAフラップという3本鎖DNA構造が形成を導く。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、DNAフラップはレンチウイルスゲノムの核輸入のシス活性決定因子として作用し得、かつ/またはウイルスの力価を増加させ得る。特定の実施形態において、レトロウイルスベクター骨格は、ベクター中の目的の異種遺伝子の上流または下流の1つ以上のFLAP要素を含む。例えば、特定の実施形態において、転移プラスミドは、FLAP要素を含む。一実施形態において、本明細書に記載のベクターは、HIV-1から単離されたFLAP要素を含む。
【0100】
特定の実施形態において、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、輸出要素をさらに含む。一実施形態において、レトロウイルスベクターは、1つ以上の輸出要素を含む。「輸出要素」という用語は、細胞の核から細胞質へのRNA転写産物の輸送を調節するシス作用性転写後調節要素を指す。RNA輸出要素の例には、これらに限定されないが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)RRE、(例えば、Cullen et al.,(1991)J.VIROL.65:1053、およびCullen et al.,(1991)CELL58:423参照)およびB型肝炎ウイルスの転写後調節要素(HPRE)が挙げられる。概して、RNA輸出要素は遺伝子の3’UTR内に配置され、1つまたは多数のコピーとして挿入され得る。
【0101】
特定の実施形態において、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、転写後調節要素をさらに含む。様々な転写後調節要素は、異種核酸の発現を増加させ得、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節要素(WPRE、Zufferey et al.,(1999)J.VIROL.,73:2886参照)、B型肝炎ウイルスに存在する転写後調節要素(HPRE)(Huang et al.,MOL.CELL.BIOL.,5:3864)、および同様のもの(Liu et al.,(1995),GENES DEV.,9:1766)である。転写後調節要素は、概して、異種核酸配列の3’末端に配置される。この構成は、その5’部分が異種核酸コード配列を含み、その3’部分が転写後調節要素配列を含むmRNA転写産物の合成をもたらす。特定の実施形態において、本明細書に記載のベクターは、WPREまたはHPREなどの転写後調節要素を欠くかまたは含まない。なぜなら、これらの要素は、場合によっては、細胞形質転換のリスクを増加させ、かつ/またはmRNA転写産物の量を実質的または有意に増加させないまたはmRNAの安定性を高めないからである。したがって、特定の実施形態において、本明細書に記載のベクターは、追加の安全対策としてのWPREまたはHPREを欠いているか、または含まない。
【0102】
異種核酸転写産物の効率的な終止およびポリアデニル化を指示する要素は、異種遺伝子発現を増加させる。転写終止シグナルは、概してポリアデニル化シグナルの下流に見られる。したがって、特定の実施形態において、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、ポリアデニル化シグナルをさらに含む。本明細書で使用される「ポリアデニル化シグナル」または「ポリアデニル化配列」という用語は、RNAポリメラーゼHによる新生RNA転写産物の終止およびポリアデニル化の両方を指示するDNA配列を意味する。ポリアデニル化シグナルを欠く転写産物は、不安定で、急速に分解するため、組換え転写産物の効率的なポリアデニル化が望ましい。本明細書に記載のベクターで使用され得るポリアデニル化シグナルの例示的な例は、理想的なポリアデニル化配列(例えば、AATAAA、ATTAAA AGTAAA)、ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGHpA)、ウサギβ-グロビンポリアデニル化配列(rβgpA)、または当技術分野で既知の別の好適な異種または内因性ポリアデニル化配列を含む。
【0103】
特定の実施形態において、レトロウイルスベクターは、絶縁体要素をさらに含む。絶縁体要素は、レトロウイルス発現配列、例えば、ゲノムDNAに存在するシス作用性要素によって媒介され、転移配列の無秩序な発現につながる可能性のある統合部位効果からの治療遺伝子を保護することに寄与する可能性がある(すなわち、位置効果、例えば、Burgess-Beusse et al.,(2002)PROC.NATL.ACAD.SCI.,USA,99:16433、およびZhan et al.,2001,HUM.GENET.,109:471を参照)。特定の実施形態において、レトロウイルスベクターは、細胞ゲノムに統合するベクターの領域における一方または両方のLTRまたはそれ以外に絶縁体要素を含む。本明細書に記載の組成物および方法において使用するための絶縁体の例には、これに限定されないが、鶏のβ-グロビン絶縁体が挙げられる(Chung et al.,(1993).CELL74:505;Chung et al.,(1997)PROC.NATL.ACAD.SCI.,USA94:575、およびBell et al.,1999.CELL98:387参照)。絶縁体要素の例には、これに限定されないが、ニワトリHS4などのβ-グロビン遺伝子座からの絶縁体が挙げられる。
【0104】
レンチウイルスベクターの非限定的な例には、pLVX-EF1alpha-AcGFP1-C1(Clontechカタログ番号631984)、pLVX-EF1alpha-IRES-mCherry(Clontechカタログ番号631987)、pLVX-Puro(Clontechカタログ番号632159)、pLVX-IRES-Puro(Clontech Catalog番号632186)、pLenti6/V5-DEST(商標)(Thermo Fisher)、pLenti6.2/V5-DEST(商標)(Thermo Fisher)、pLKO.1(AddgeneのPlasmid番号10878)、pLKO.3G(AddgeneのPlasmid番号14748)、pSico(AddgeneのPlasmid番号11578)、pLJM1-EGFP(AddgeneのPlasmid番号19319)、FUGW(AddgeneのPlasmid番号14883)、pLVTHM(AddgeneのPlasmid番号12247)、pLVUT-tTR-KRAB(AddgeneのPlasmid番号11651)、pLL3.7(AddgeneのPlasmid番号11795)、pLB(AddgeneのPlasmid番号11619)、pWPXL(AddgeneのPlasmid番号12257)、pWPI(Plasmid番号12254)、EF.CMV.RFP(AddgeneのPlasmid番号17619)、pLenti CMV Puro DEST(AddgeneのPlasmid番号17452)、pLenti-puro(AddgeneのPlasmid番号39481)、pULTRA(AddgeneのPlasmid番号24129)、pLX301(Plasmid番号25895)、pHIV-EGFP(AddgeneのPlasmid番号21373)、pLV-mCherry(AddgeneのPlasmid番号36084)、pLionII(Addgeneのプラスミド番号1730)、pInducer10-mir-RUP-PheS(Addgeneのプラスミド番号44011)が挙げられる。これらのベクターは、治療用途用に好適であるように改変され得る。例えば、選択マーカー(例えば、puro、EGFP、またはmCherry)が削除される、または目的の2番目の外因性遺伝子に置き換えられ得る。レンチウイルスベクターのさらなる例は、米国特許第7,629,153号、同第7,198,950号、同第8,329,462号、同第6,863,884号、同第6,682,907号、同第7,745,179号、同第7,250,299号、同第5,994,136号、同第6,287,814号、同第6,013,516号、同第6,797,512号、同第6,544,771号、同第5,834,256号、同第6,958,226号、同第6,207,455号、同第6,531,123号、および同第6,352,694号、ならびにPCT公開第WO2017/091786号において開示されている。
【0105】
アデノウイルスベクター
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターであり得る。アデノウイルスは、中サイズ(90~100nm)、エンベロープを持たない(裸の)二十面体ウイルスであり、ヌクレオカプシドと二本鎖線状DNAゲノムで構成される。「アデノウイルス」という用語は、これらに限定されないがヒト、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ブタ、マウス、およびサルのアデノウイルス亜属を含む、アデノウイルス属における任意のウイルスを指す。典型的には、アデノウイルスベクターは、例えば、遺伝子転移のためのアデノウイルスへの非天然核酸配列の挿入に対応するために、アデノウイルスのアデノウイルスゲノムに1つ以上の変異(例えば、欠失、挿入、または置換)を導入することによって生成される。
【0106】
ヒトアデノウイルスは、アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムの供給源として使用され得る。例えば、アデノウイルスは、下位群A(例えば、血清型12、18、および31)、下位群B(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35、および50)、下位群C(例えば、血清型1、2、5、および6)、下位群D(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22~30、32、33、36~39、および42~48)、下位群E(例えば、血清型4)、下位群F(例えば、血清型40および41)、または未分類の血清群(例えば、血清型49および51)、または任意の他のアデノウイルス血清群または血清型のうちのアデノウイルスであり得る。アデノウイルス血清型1~51は、American Type Culture Collection(ATCC、バージニア州マナッサス)から入手可能である。非C群アデノウイルスベクター、非C群アデノウイルスベクターを製造する方法、および非C群アデノウイルスベクターを使用する方法は、例えば、米国特許第5,801,030号、同第5,837,511号、および同第5,849,561号、ならびにPCT公開第WO1997/012986号および同第WO1998/053087号に記載されている。
【0107】
非ヒトアデノウイルス(例えば、類人猿、サル、トリ、イヌ、ヒツジ、またはウシのアデノウイルス)は、アデノウイルスベクターを生成するために使用され得る(すなわち、アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムの供給源として)。例えば、アデノウイルスベクターは、新世界および旧世界の両方のサルを含むサルアデノウイルスに基づき得る(例えば、Virus Taxonomy:VHIth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses(2005)参照)。霊長類に感染するアデノウイルスの系統発生分析は、例えば、Roy et al.(2009)PLOS PATHOG.5(7):e1000503に開示されている。ゴリラアデノウイルスは、アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムの供給源として使用され得る。ゴリラアデノウイルスおよびアデノウイルスベクターは、例えば、PCT公開第WO2013/052799号、同第WO2013/052811号、および同第WO2013/052832号に記載されている。アデノウイルスベクターはまた、亜型の組み合わせを含み得、それにより「キメラ」アデノウイルスベクターであり得る。
【0108】
アデノウイルスベクターは、複製能力がある、条件付きで複製能力がある、または複製欠損であり得る。複製能力のあるアデノウイルスベクターは、典型的な宿主細胞、すなわち、典型的にアデノウイルスによって感染されることができる細胞において複製し得る。条件付きで複製するアデノウイルスベクターは、前もって決められた条件下で複製するように操作されているアデノウイルスベクターである。例えば、複製に必須の遺伝子機能、例えば、アデノウイルス初期領域によってコードされる遺伝子機能は、誘導性、抑制性、または組織特異的転写制御配列、例えば、プロモーターに作動可能に連結され得る。条件付きで複製するアデノウイルスベクターは、米国特許第5,998,205号にさらに記載されている。複製欠損アデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターが典型的な宿主細胞、特にアデノウイルスベクターによって感染されるヒトの宿主細胞において複製しないよう、例えば、1つ以上の複製必須遺伝子機能または領域における欠損の結果として、複製に必要なアデノウイルスゲノムの1つ以上の遺伝子機能または領域の補完を必要とするアデノウイルスベクターである。
【0109】
いくつかの実施形態において、アデノウイルスベクターは複製欠損であり、その結果、複製欠損アデノウイルスベクターは、増殖のために(例えば、アデノウイルスベクター粒子を形成するために)アデノウイルスゲノムの1つ以上の領域の少なくとも1つの複製必須遺伝子機能の補完を必要とする。アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの初期領域(すなわち、E1-E4領域)のみ、アデノウイルスゲノムの後期領域(すなわち、L1-L5領域)のみ、アデノウイルスゲノムの初期領域および後期領域の両方、または全てのアデノウイルス遺伝子(すなわち、高容量アデノベクター(HC-Ad))の1つ以上の複製必須遺伝子機能において欠損し得る。例えば、Morsy et al.(1998)PROC.NATL.ACAD.SCI.USA95:965-976,Chen et al.(1997)PROC.NATL.ACAD.SCI.USA94:1645-1650,およびKochanek et al.(1999)HUM.GENE THER.10(15):2451-9.を参照されたい。複製欠損アデノウイルスベクターの例は、米国特許第5,837,511号、同第5,851,806号、同第5,994,106号、同第6,127,175号、同第6,482,616号、および同第7,195,896号、ならびにPCT公開第WO1994/028152号、同第WO1995/002697号、同第WO1995/016772号、同第WO1995/034671号、同第WO1996/022378号、同第WO1997/012986号、同第WO1997/021826号、および同第WO2003/022311号に記載されている。
【0110】
本明細書に記載の複製欠損アデノウイルスベクターは、複製欠損アデノウイルスベクターには存在しないが、高力価のウイルスベクターストックを生成するために適切なレベルでウイルス増殖に必要な遺伝子機能を提供する補完細胞株において産生され得る。そのような補完細胞株は既知であり、これらに限定されないが293細胞(例えば、Graham et al.(1977)J.GEN.VIROL.36:59-72に記載される)、PER.C6細胞(例えば、PCT公開第WO1997/000326号、および米国特許第5,994,128号および同第6,033,908号に記載される)、および293-ORF6細胞(例えば、PCT公開第WO1995/034671号およびBrough et al.(1997)J.VIROL.71:9206-9213に記載)が挙げられる。複製欠損アデノウイルスベクターを産生するための補完細胞の他の例は、その発現が宿主細胞におけるウイルス増殖を阻害する導入遺伝子をコードするアデノウイルスベクターを増殖させるために生成された補完細胞を含む(例えば、米国特許公開第2008/0233650号参照)。補完細胞の追加の例は、米国特許第6,677,156号および同第6,682,929号、ならびにPCT公開第WO2003/020879号に記載されている。アデノウイルスベクター含有組成物の製剤は、例えば、米国特許第6,225,289号および同第6,514,943号、ならびにPCT公開第WO2000/034444号にさらに記載されている。
【0111】
アデノウイルスベクター、および/またはアデノウイルスベクターを作製または増殖させるための方法の追加の例は、米国特許第5,559,099号、同第5,837,511号、同第5,846,782号、同第5,851,806号、同第5,994,106号、同第5,994,128号、同第5,965,541号、同第5,981,225号、同第6,040,174号、同第6,020,191号、同第6,083,716号、同第6,113,913号、同第6,303,362号、同第7,067,310号および同第9,073,980号に記載されている。
【0112】
市販のアデノウイルスベクターシステムは、Thermo Fisher Scientificから入手可能なViraPower(商標)Adenoviral Expression System、Agilent Technologiesから入手可能なAdEasy(商標)adenoviral vector system、およびTakara Bio USA、Incから入手可能なAdeno-X(商標)Expression System3を含む。
【0113】
他のウイルスベクター
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、単純ヘルペスウイルスプラスミドベクターであり得る。単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、遺伝子治療に役立つ可能性のある遺伝子送達ベクターシステムとして実証されている。HSV-1ベクターは、筋肉への遺伝子の転移に使用されており、マウスの脳腫瘍の治療にも使用されている。ヘルパーウイルス依存性ミニウイルスベクターは、操作を容易にし、より大きな挿入(最大140kb)を可能にするために開発されている。複製能力のないHSVアンプリコンは当技術分野で構築されている。これらのHSVアンプリコンには、外因性DNAを挿入するためのスペースを提供するために、HSVゲノムの大きな欠失を含む。通常、これらは、HSV-1パッケージング部位、HSV-1「oriS」複製部位、およびIE4/5プロモーター配列を含む。これらのビリオンは、増殖のためにヘルパーウイルスに依存する。
【0114】
ウイルスベクターの産生
ウイルスベクターを産生するための方法は当技術分野において既知である。典型的には、開示されたウイルスは、感染性ウイルス粒子の産生を可能にするために、好適な条件下で遺伝子導入された、または感染した宿主細胞を培養することを含む従来の技術を使用して好適な宿主細胞株において産生される。ウイルス遺伝子および/またはtRNAをコードする核酸は、プラスミドに組み込まれ、従来の遺伝子導入または形質転換技術を通じて宿主細胞に導入され得る。開示されたウイルスを産生するための宿主細胞の例は、HeLa、Hela-S3、HEK293、911、A549、HER96、またはPER-C6細胞などのヒト細胞株を含む。特定の産生および精製条件は、採用されるウイルスおよび産生システムによって異なる。
【0115】
特定の実施形態において、プロデューサー細胞は、対象に直接投与され得るが、他の実施形態において、産生に続いて、感染性ウイルス粒子は、培養物から回収され、任意に精製される。典型的な精製工程は、プラーク精製、遠心分離、例えば、塩化セシウム勾配遠心分離、清澄化、酵素処理、例えば、ベンゾナーゼまたはプロテアーゼ処理、クロマトグラフィー工程、例えば、イオン交換クロマトグラフィーまたは濾過工程を含み得る。
【0116】
IV.医薬組成物
治療的使用のために、tRNAおよび/または発現ベクターは薬学的に許容される担体と組み合わせられ得る。本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに好適であり、合理的な利益/リスク比に見合った化合物、材料、組成物および/または剤形を指す。
【0117】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに好適であり、合理的な利益/リスク比に見合った、緩衝液、担体、および賦形剤を指す。薬学的に許容される担体には、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルジョン(例えば、油/水または水/油エマルジョンなど)、および様々な種類の湿潤剤などの標準的な薬学的担体のいずれかが含まれる。組成物はまた、安定剤および防腐剤を含み得る。担体、安定剤およびアジュバントの例については、例えば、Martin,Remington’s Pharmaceutical Sciences,15th Ed.,Mack Publ.Co.,Easton,PA[1975]を参照されたい。薬学的に許容される担体は、医薬品投与に準拠した緩衝液、溶媒、分散媒体、コーティング、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野で既知である。
【0118】
特定の実施形態において、医薬組成物は、例えば、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解または放出の速度、組成物の吸着または浸透を改変、維持または保存するための製剤材料を含み得る。そのような実施形態において、製剤材料には、これらに限定されないが、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンなど)、抗菌剤、抗酸化剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウムなど)、緩衝液(ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩または他の有機酸など)、増量剤(マンニトールまたはグリシンなど)、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など)、錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンなど)、充填材、単糖、二糖類およびその他の炭水化物(ブドウ糖、マンノース、デキストリンなど)、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなど)、着色剤、香料および希釈剤、乳化剤、親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど)、低分子量ポリペプチド、塩を形成する対イオン(ナトリウムなど)、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、過酸化水素など)、溶剤(グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど)、懸濁剤、界面活性剤または湿潤剤(プルロニック、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20などのポリソルベート、ポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパルなど)、安定性向上剤(ショ糖またはソルビトールなど)、張性増強剤(アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトールソルビトールなど)、輸送媒体、希釈剤、賦形剤および/または医薬品アジュバント(Remington’sPharmaceutical Sciences,18th ed.(Mack Publishing Company,1990))が挙げられる。
【0119】
特定の実施形態において、医薬組成物は、ナノ粒子、例えば、ポリマーナノ粒子、リポソーム、またはミセルを含み得る(Anselmo et al.(2016)BIOENG.TRANSL.MED.1:10-29参照)。特定の実施形態において、組成物は、例えば、米国特許公開第2017/0354672号に記載されるように、ナノ粒子またはアミノ脂質送達化合物を含まない。特定の実施形態において、細胞に導入されるかまたは対象に投与されるtRNAまたは発現ベクターは、別の部分、例えば、担体粒子、例えば、アミノ脂質粒子にコンジュゲートしない、または結びつかない。本明細書で使用される場合、「コンジュゲート」という用語は、2つ以上の部分に関して使用される場合、構造が使用される条件下、例えば生理学的条件下で部分が物理的に結びついたままであるように、十分に安定な構造を形成するために直接または連結剤として機能する1つ以上の追加の部分を介して、部分が、互いに物理的に結びつくまたは接続されることを意味する。通常、部分は、1つ以上の共有結合によって、または特異的結合を含むメカニズムによって取り付けられる。あるいは、十分な数のより弱い相互作用は、部分が物理的に結びついたままであるための十分な安定性を提供し得る。
【0120】
特定の実施形態において、医薬組成物は、持続送達または制御送達製剤を含み得る。リポソーム担体、生体分解性微粒子または多孔質ビーズおよびデポー注射などの持続または制御送達手段を処方するための技術もまた、当業者に既知である。持続放出調製物には、例えば、多孔質ポリマー微粒子または成形品の形態の半透性ポリマーマトリックス、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルが挙げられ得る。持続放出マトリックスには、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド、L-グルタミン酸およびガンマエチル-L-グルタミン酸のコポリマー、ポリ(2-ヒドロキシエチル-イネトアクリレート)、エチレン酢酸ビニル、またはポリ-D(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられ得る。持続放出組成物はまた、当技術分野で既知のいくつかの方法のいずれかによって調製され得るリポソームを含み得る。
【0121】
本明細書に開示されるtRNAおよび/または発現ベクターを含む医薬組成物は、投薬単位形態で提示され得、任意の好適な方法によって調製され得る。医薬組成物は、その意図された投与経路に適合するように処方され得る。投与経路の例は、静脈内(IV)、皮内、吸入、経皮、局所、経粘膜、髄腔内および直腸投与である。特定の実施形態において、tRNAおよび/または発現ベクターは、髄腔内に投与される。特定の実施形態において、tRNAおよび/または発現ベクターは、注射によって投与される。製剤は、製薬分野で既知の方法によって調製され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th ed(Mack Publishing Company,1990)を参照されたい。非経口投与用の製剤成分は、注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩などの緩衝液、塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの等張性を調整するための薬剤、を含む。
【0122】
静脈内投与については、担体は、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF、Parsippany、NJ)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。担体は、製造および保管の条件下で安定であり得、微生物に対して保護される必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、およびそれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒であり得る。
【0123】
概して、核酸分子を送達する任意の方法は、tRNAでの使用に適合され得る(例えば、Akhtar et al.(1992)TRENDS CELL.)BIOL.2(5):139-144およびPCT公開第WO94/02595号参照)。tRNAは、インビボでのエンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼによるtRNAの急速な分解を防ぐために、修飾され得るか、または代わりに薬物送達システムを使用して送達され得る。tRNA分子は、コレステロールなどの親油性基への化学的コンジュゲートによって修飾され、細胞への取り込みを強化し、分解を防ぎ得る。tRNA分子はまた、アプタマーにコンジュゲートし得るか、そうでなければ結びつき得る。tRNAはまた、ナノ粒子、デンドリマー、ポリマー、リポソーム、またはカチオン性送達システムなどの薬物送達システムを使用して送達され得る。正に帯電したカチオン性デリバリーシステムは、tRNA分子(負に帯電)の結合を促進し、負に帯電した細胞膜での相互作用を強化して、細胞によるtRNAの効率的な取り込みを可能にする。カチオン性脂質、デンドリマー、またはポリマーは、RNA、例えばtRNAに結合し得るか、または誘導されてRNAを包む小胞またはミセルを形成し得る(例えば、Kim et al.(2008)JOURNAL OF CONTROLLED RELEASE129(2):107-116参照)。カチオン性RNA複合体を作製および投与するための方法は、十分に当業者の能力の範囲内である(例えば、Sorensen et al.(2003)J.MOL.BIOL 327:761-766;Verma et al.(2003)CLIN.CANCER RES.9:1291-1300;Arnold et al.(2007)J.HYPERTENS.25:197-205参照)。RNA、例えば、tRNAの全身送達に有用な薬物送達システムのいくつかの非限定的な例には、DOTAP(Sorensen et al.(2003)上記、Verma et al.(2003)上記)、オリゴフェクタミン、固体核酸脂質粒子(Zimmermann et al.(2006)NATURE441:111-114)、カルジオリピン(Chien et al.(2005)CANCER GENE THER.12:321-328、Pal et al.(2005)INT J.ONCOL.26:1087-1091)、ポリエチレンイミン(Bonnet et al.(2008)PHARM.RES.25(12):2972-82、Aigner (2006)J.BIOMED.BIOTECHNOL.71659),Arg-Gly-Asp(RGD)peptides(Liu(2006)MOL.PHARM.3:472-487)、およびポリアミドアミン(Tomalia et al.(2007)BIOCHEM.SOC.TRANS.35:61-67、Yoo et al.(1999)PHARM.RES.16:1799-1804)が挙げられる。特定の実施形態において、tRNAは、全身投与のためにシクロデキストリンと複合体を形成する。RNAおよびシクロデキストリンの投与方法および医薬組成物は、米国特許第7,427,605号に記載されている。
【0124】
医薬製剤は好ましくは無菌である。滅菌は、任意の好適な方法、例えば、滅菌濾過膜による濾過によって達成され得る。組成物が凍結乾燥される場合、フィルター滅菌は、凍結乾燥および再構成の前または後に行われ得る。
【0125】
本明細書に記載の組成物は、局所的または全身的に投与され得る。投与は概して非経口投与であり得る。いくつかの実施形態において、医薬組成物は皮下投与され、さらにより好ましい実施形態において静脈内投与される。非経口投与の製剤には、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁液、およびエマルジョンが挙げられる。
【0126】
概して、治療有効量の活性成分、例えば、tRNAおよび/または発現ベクターは、0.1mg/kg~100mg/kgの範囲、例えば、1mg/kg~100mg/kg、1mg/kg~10mg/kgである。特定の実施形態において、ウイルス発現ベクターの治療的有効量は、102~1015プラーク形成単位(PFU)の範囲、例えば、102~1010、102~105、105~1015、105~1010または1010~1015プラーク形成単位である。投与される量は、治療される疾患または症状の種類および程度、患者の健康全般、抗体のインビボ効力、医薬製剤、および投与経路などの変数に依存するであろう。所望の血中レベルまたは組織レベルを迅速に達成するために、初期投与量は上限レベルを超えて増加され得る。あるいは、初期投与量は最適量よりも少なくあり得、治療の過程で毎日の投与量は徐々に増加され得る。ヒトの投与量は、例えば、0.5mg/kg~20mg/kgまで実行するように設計された従来の第I相用量漸増試験において最適化され得る。投与頻度は、投与経路、投与量、血清半減期、および治療される疾患などの要因に応じて変化し得る。投与頻度の例は、1日1回、1週間に1回、および2週間に1回である。投与経路の一例は、非経口、例えば、静脈内注入である。
【0127】
V.治療上の使用
本明細書に開示される組成物および方法は、対象におけるハプロ不全障害を治療するために使用され得る。本明細書で使用される場合、ハプロ不全障害という用語は、ハプロ不全によって、またはハプロ不全に関連して、媒介、強化、またはそうでなければ促進される障害、すなわち、二倍体対象が遺伝子の単一の機能的コピーのみを有し、遺伝子の単一の機能的コピーが、適切な遺伝子機能のために十分な遺伝子産物(例えば、タンパク質)を産生しない状態を指す。本明細書で使用される場合、ハプロ不全遺伝子は、適切な遺伝子機能のために両方の対立遺伝子を必要とする遺伝子を指す。ハプロ不全障害の例には、5q症候群、アダムス-オリバー症候群1、アダムス-オリバー症候群3、アダムス-オリバー症候群5、アダムス-オリバー症候群6、アラジール症候群1、自己免疫性リンパ増殖症候群IA型、自己免疫性リンパ増殖症候群V型、常染色体優性難聴-2A、尿路欠損を伴うか、または伴わない脳奇形(BRMUTD)、カーニー複合1型、CHARGE症候群、鎖骨頭蓋異形成症、クラリーノ症候群、デニス-ドラッシュ症候群/フレイジャー症候群、発達遅延、知的障害、肥満、および異形性容貌(DIDOD)、ディジョージ症候群(TBX1関連)、ドラベ症候群、デュアン-橈側列症候群、エーラス-ダンロス症候群(古典的)、エーラス-ダンロス症候群(血管型)、ファインゴールド症候群1、TDP43封入体を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-TDP)、GRN関連、GLUT1欠損症候群、グレイグ尖頭多合指症候群、遺伝性出血性毛細血管拡張症1型、全前脳症3、全前脳症4、全前脳症5、ホルト-オラム症候群、副甲状腺機能低下症、感音性難聴、および腎疾患(HDR)、クリーフストラ症候群1、クリッペル-トレノネー症候群(AAGF関連)、レリ-ワイル軟骨異形成症、マルファン症候群、心臓欠陥を伴うか、または伴わない精神遅滞および特異顔貌(MRFACD)、精神遅滞、常染色体優性1、精神遅滞、常染色体優性19、精神遅滞、常染色体優性29、ネイル-パテラ症候群(NPS)、フェラン-マクダーミッド症候群、ピット-ホプキンス症候群、原発性肺高血圧症1、レット症候群(先天性変異)、スミス-マゲニス症候群(RAI1関連)、ソトス症候群1、ソトス症候群2、スティックラー症候群I型、大動脈弁上狭窄、SYNGAP1関連知的障害、トリーチャーコリンズ症候群、毛髪鼻指節骨症候群I型、尺骨-乳房症候群、ファンデルヴォウデ症候群1、ワールデンブルグ症候群1型、ワールデンブルグ症候群2A型、ならびにワールデンブルグ症候群4C型が挙げられる。関連するハプロ不全遺伝子を含むハプロ不全障害の例を表1および表2に示す。
【0128】
本開示は、ハプロ不全障害の治療を必要とする対象におけるハプロ不全障害を治療する方法を提供する。この方法は、有効量のtRNAおよび/または発現ベクター、例えば、本明細書に開示されるtRNAおよび/または発現ベクターを、単独で、または対象におけるハプロ不全障害を治療するための別の治療薬と組み合わせて投与することを含む。
【0129】
ハプロ不全障害がドラベ症候群である特定の実施形態において、方法は、対象における発作頻度、発作重症度、および/または認知障害を軽減する。例えば、特定の実施形態において、この方法は、対象における発作頻度を、例えば、1日、1週間、または1か月の期間にわたって少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%減少させる。特定の実施形態において、この方法は、例えば、1日、1週間、または1か月の期間にわたって発作頻度を50%減少させる。
【0130】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な活性剤(例えば、組換えポリペプチドおよび/または多量体タンパク質)の量を指す。有効量は、1回以上の投与、適用、または用量で投与することができ、特定の製剤または投与経路に限定されることを意図するものではない。
【0131】
本明細書で使用される場合、「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」および「治療(treatment)」は、対象、例えばヒトにおける疾患の治療を意味する。これは(a)病気を阻害する、すなわちその発症を阻止すること、および(b)病気を和らげる、すなわち、病状の退行を引き起こすこと、を含む。本明細書で使用される場合、「対象」および「患者」という用語は、本明細書に記載の方法および組成物によって治療される生物を指す。そのような生物は、好ましくは、哺乳動物(例えば、ネズミ、サル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど)を含み、より好ましくは、ヒトを含む。
【0132】
本明細書に記載の方法および組成物は、単独で、または他の治療薬および/またはモダリティと組み合わせて使用され得る。本明細書で使用される「組み合わせて」投与されるという用語は、対象が障害に苦しんでいる過程で2つ(またはそれ超)の異なる治療が対象に送達され、ある時点で患者に対する治療の効果が重複することを意味すると理解される。特定の実施形態において、1つの治療の送達は、第2の治療の送達が開始されたときにまだ起こっているので、投与に関して重複がある。これは、本明細書では「同時に」または「同時送達」と呼ばれることもある。他の実施形態において、1つの治療の送達は、他の治療の送達が始まる前に終了する。いずれかの場合の特定の実施形態において、治療は、併用投与のためより効果的である。例えば、第2の治療はより効果的であり、例えば、第2の治療の不在下で投与された場合、または最初の治療で同様の状況が見られた場合に見られるよりも、第2の治療がより少ない場合に同等の効果が見られるか、または第2の治療が、症状を大幅に軽減する。特定の実施形態において、送達は、症状の減少、または障害に関連する他のパラメーターが、他の不在下で送達された1つの治療で観察されるものよりも大きいようなものである。2つの処理の効果は、部分的に相加的、完全に相加的、または相加的よりも大きくあり得る。送達は、送達された最初の治療の効果が、第2の治療が送達されたときに依然として検出可能であるようなものであり得る。
【0133】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法または組成物は、1つ以上の追加の療法、例えば、DIACOMIT(登録商標)(スチリペントール)、EPIODOLEX(登録商標)(カンナビジオール)、ケトン食、ONFI(登録商標)(クロバザム)、TOPAMAX(登録商標)(トピラメート)、またはバルプロ酸、と組み合わせて投与される。例えば、ドラベ症候群の治療中に、方法または組成物は、本明細書に記載の1つ以上の追加の療法、例えば、DIACOMIT(登録商標)(スチリペントール)、EPIODOLEX(登録商標)(カンナビジオール)、ケトン食、ONFI(登録商標)(クロバザム)と組み合わせて投与される、TOPAMAX(登録商標)(トピラメート)、またはバルプロ酸、と組み合わせて投与される。
【0134】
説明全体を通して、組成物が特定の成分を有する、含む(including)、または含む(comprising)と記載される場合、またはプロセスおよび方法が特定のステップを有する、含む(including)、または含む(comprising)と記載される場合、さらに、記載された成分から本質的になるか、またはそれからなる本発明の組成物が存在すること、および記載された処理ステップから本質的になるかまたはそれからなる本発明によるプロセスおよび方法が存在することが企図される。
【0135】
要素または成分が、記載された要素または成分のリストに含まれる、および/またはリストから選択されると言われる本出願において、要素または成分は、記載された要素または成分のうちのいずれか1つであり得るか、または要素または成分は、記載された要素または成分のうちの2つ以上からなる群から選択され得ることを理解されたい。
【0136】
さらに、本明細書に記載の組成物または方法の要素および/または特徴は、本明細書で明示的であろうと暗黙的であろうと、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な方式で組み合わされ得ることを理解されたい。例えば、特定の化合物に言及する場合、その化合物は、文脈から別段の理解がない限り、本発明の組成物および/または本発明の方法の様々な実施形態において使用され得る。言い換えれば、本出願内で、実施形態は、明確で簡潔な出願を記述および描画することを可能にする方式で説明および示されてきたが、実施形態は、本発明および本発明から逸脱することなく、様々に組み合わせまたは分離され得ることが意図され、理解されるであろう。例えば、本明細書に記載および描写される全ての特徴は、本明細書に記載および描写される本発明(複数可)の全ての態様に適用され得ることが理解されよう。
【0137】
「の少なくとも1つ」という表現は、文脈および使用から別段の理解がない限り、表現の後に記載されたオブジェクトの各々、および2つ以上の記載されたオブジェクトの様々な組み合わせを個別に含むことを理解されたい。3つ以上の記載されたオブジェクトに関連する「および/または」という表現は、文脈から別段の理解がない限り、同じ意味を有すると理解されたい。
【0138】
それらの文法的同等物を含む「含む(include)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(have)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(contain)」、「含む(contains)」、または「含む(containing)」という用語の使用は、概して、制約がなく、制限がないものとして、例えば、文脈から特に明記または理解されない限り、追加の記載されない要素またはステップを除外しないと理解されたい。
【0139】
「約」という用語の使用が定量値の前にある場合、特に明記しない限り、本発明はまた、特定の定量値自体も含む。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、他に示されないかまたは推論されない限り、名目の値からの±10%の変動を指す。
【0140】
さらに、本発明が実施可能である限り、ステップの順序または特定の動作を実行するための順序は重要ではないことを理解されたい。さらに、2つ以上のステップまたは動作が同時に実行され得る。
【0141】
任意かつ全ての実施例、または本明細書の例示的な言語、例えば「など」または「含む」の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特許請求されない限り、本発明の範囲に制限をもたらさない。本明細書におけるいかなる文言も、本発明の実施に不可欠であるとしていかなる特許請求されない要素を示すと解釈されるべきではない。
【実施例0142】
以下の実施例は、単に例示的なものであり、本発明の範囲または内容を決して制限することを意図するものではない。
【0143】
実施例1-野生型SCN1A転写産物の発現を増強するためのtRNA発現
この実施例において、SCN1Aにおいて最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンが決定された。これらのコドンについての同族のtRNAの発現は、SCN1Aの発現を増強し、ドラベ症候群を治療する可能性がある。
【0144】
最初に、SCN1A遺伝子の各コドンのコドン使用率を決定した。次に、SCN1A遺伝子の各コドンの最適性がtRNA適応指数(tAI)を使用して決定された。tAIは、tRNAの細胞濃度(tRNA遺伝子のコピー数に基づく)の推定値およびデコードの効率を考慮した各コドンの翻訳効率の推定値であり、tAI値が高いほどより最適なコドンを示す。tAIは、例えば、dos Reis et al.(2004)NUCLEIC ACIDS RES.32(17):5036-5044、およびMahlab et al.(2014)PLOS COMPUTBIOL.10(1):e1003294に記載されているこの実施例における計算について、tRNA遺伝子のコピー数に基づく推定値の代わりに、HEK293細胞のtRNAレベルの直接定量化に基づく修正tAI値が使用された(Zheng et al.(2015)NAT.METHODS 12(9):835-837に記載)。
【0145】
コドン使用率にtAI値の逆数を掛けて、SCN1A遺伝子の各コドンのスコアを求めた。結果の要約を表3に示す。概して、最高スコアのコドンは、トランスクリプトームに関連して最小の最適で、SCN1Aにおいて最も豊富であり、これらのコドンの同族tRNAは、SCN1A発現を増強するための最良の候補である。
【表3】
【0146】
実施例2-野生型SCN1A転写産物の発現を増強するためのtRNA発現
この実施例において、培養細胞における野生型SCN1Aの発現を増強するための選択された転移RNA(tRNA)の異所性送達の能力が評価された。
【0147】
ATA(Ile)、GTA(Val)、およびAGA(Arg)が、SCN1A遺伝子の例示的な非最適コドンとして選択された。ATA tRNA(tRNAATA)をコードするヌクレオチド配列は配列番号1に示され、GTA tRNA(tRNAGTA)をコードするヌクレオチド配列は配列番号2に示され、そしてAGA tRNA(tRNAAGA)をコードするヌクレオチド配列は配列番号3に示される。
【0148】
SCN1Aオープンリーディングフレームは、フォワードプライマーにKpnI部位およびリバースプライマーにNotI部位を含むプライマーを使用して、ヒト脳RNA(Clontech)からのRT-PCRによって増幅された。次に、KpnIおよびNotI部位を使用して、pTRE-Tight(Clontech)のプロモーターおよびSV40poly(A)部位の間にSCN1AORFがクローニングされた。
【0149】
tRNAATA、tRNAGTA、およびtRNAAGA遺伝子配列(200塩基対(bp)の隣接ゲノムDNA配列を伴うtRNAコード配列を含む)は、5’末端にXhoI部位および3’末端にPciIを有するgBlock(IDT)として順序付けられた。tRNAATA遺伝子配列(200bpの隣接ゲノムDNA配列を伴うtRNAコード配列を含む)は、配列番号6に示され、tRNAGTA遺伝子配列(200bpの隣接ゲノムDNA配列を伴うtRNAコード配列を含む)は配列番号7に示され、tRNAAGA遺伝子配列(200塩基対(bp)の隣接ゲノムDNA配列を伴うtRNAコード配列を含む)は配列番号8に示される。
【0150】
アンピシリン耐性遺伝子およびColE1起源のみがpTRE-Tightから残されるように、全てのtRNA遺伝子配列はXhoIおよびPciI部位を使用してpTRE-Tight(Clontech)に個別にクローン化された。tRNA遺伝子配列全体はシーケンシングによって確認された。
【0151】
HEK293細胞は、6ウェルプレートのウェルあたり300,000細胞で、10%FBSを含むDMEMで播種された。24時間後、各ウェルはモック遺伝子導入(DNAなし)された、または100ngのSCN1Aプラスミドおよび0、100、200、または300ngの各tRNAのいずれかを1、4、7、または10μLのエンハンサーおよび10μLのEffectene(Qiagen)で遺伝子導入した。遺伝子導入された細胞は24時間インキュベートされた後、製造元のプロトコルに従ってトータルRNA調製のためにTrizol(ThermoFisher)に直接回収された。次に、各条件からの2μgのトータルRNAを4UのTurboDNase(ThermoFisher)で処理され、2.5M塩化リチウムでの沈殿によって精製された。製造元の指示に従って、SuperScript III First Strand Synthesis Supermixおよびランダムプライマー(ThermoFisher)を使用して、総反応量10μLのDNase処理RNA300ngからcDNAが調製された。qPCRは、Step One Real Time PCR System(Applied Biosystems)において、SYBR Advantage qPCR Premix(Takara)、SCN1AおよびGAPDHのプライマー、ならびに反応あたり20分の1のcDNAを使用して、総反応量10μLで実施された。
【0152】
図3に示すとおり、様々な用量で、異所性tRNAの発現は、内因性転写産物、GAPDHに対する影響は最小限であった。しかし、異所性tRNA発現は、SCN1A発現のほぼ直線的な増加をもたらし、テストされたtRNAの最高用量で最大7倍であった(
図3)。最高濃度のtRNAを除いて、細胞に対する明白な毒性は観察されなかった。
【0153】
まとめると、これらの結果は、mRNA転写産物、例えば、SCN1A転写産物の発現が、その転写産物内の非最適コドンと同族のtRNAの異所性発現によって増加され得ることを示している。
【0154】
実施例3-ハプロ不全遺伝子の発現を増強するためのtRNA発現
この実施例では、ハプロ不全障害に関連する遺伝子の範囲において、最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンが決定された。これらのコドンの同族のtRNAの発現は、遺伝子発現を増強し、ハプロ不全障害を治療する可能性がある。
【0155】
実施例1に記載されているとおり、遺伝子における各コドンのコドン使用率が決定された。次に、遺伝子における各コドンの最適性が、tRNA適応指数(tAI)を使用して決定された。tAIは、tRNAの細胞濃度(tRNA遺伝子のコピー数に基づく)の推定値およびデコード効率を考慮した各コドンの翻訳効率の推定値であり、tAI値が高いほど最適なコドンを示す。tAIは、例えば、dos Reis et al.(2004)NUCLEIC ACIDS RES.32(17):5036-5044およびMahlab et al.(2014)PLOS COMPUT.BIOL.10(1):e1003294に記載されている。コドン使用率にtAI値の逆数を掛けて、遺伝子における各コドンのスコアを求めた。概して、最高スコアのコドンは、トランスクリプトームに関連して、遺伝子において最小の最適で、最も豊富であり、これらのコドンの同族のtRNAは、遺伝子発現を増強するための最良の候補である。
【0156】
示された遺伝子における3つの最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンを表4に示し、示された遺伝子における10個の最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンを表5に示す。
【表4】
【表5】
【0157】
さらに、tRNA遺伝子のコピー数に基づくtRNAレベルの推定ではなく、HEK293細胞におけるtRNAレベルの直接定量化に基づく修正tAI値を使用することを除いて、示された遺伝子における最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンは上記のとおり計算された(Zheng et al.(2015)NAT.METHODS12(9):835-837に記載)。
【0158】
示された遺伝子の3つの最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンを表6に示し、示された遺伝子の10個の最小の最適で最も大きな比率を占めるコドンを表7に示す。
【表6】
【表7】
【0159】
参照による組み込み
本明細書で参照される特許および科学文書の各々の開示全体は、あらゆる目的のために参照により組み込まれる。
同等物
本発明は、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化され得る。したがって、前述の実施形態は、本明細書に記載の本発明を限定するものではなく、全ての点で例示的であると見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は、前述の説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および同等の範囲内に収まる全ての変更は、そこに包含されることが意図される。