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特開2025-10157近接照射療法用装置のためのポリマー被覆
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  • 特開-近接照射療法用装置のためのポリマー被覆 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010157
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】近接照射療法用装置のためのポリマー被覆
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20250109BHJP
   A61M 36/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61N5/10 U
A61M36/12
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024175167
(22)【出願日】2024-10-04
(62)【分割の表示】P 2023017195の分割
【原出願日】2018-05-09
(31)【優先権主張番号】62/504,800
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519371231
【氏名又は名称】アルファ タウ メディカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ケルソン、イザーク
(72)【発明者】
【氏名】ケイサリ、ヨナ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ベルコウィッツ、アヴィア
(57)【要約】
【課題】癌性腫瘍の治療などのための近接照射療法の提供。
【解決手段】記載された実施形態は、外側表面(24)を備え、被験者の体内に挿入するように構成される支持体(22)を有する装置(20,21)に関する。装置はさらに、外側表面に結合し、放射性崩壊して娘放射性核種を生成する、放射性核種の複数の原子(26)と、娘放射性核種に対して透過性であり、原子を覆うポリマーの層(28,33)とを有する。他の実施形態も記載される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側表面を有し、被験者の体内に挿入するように構成される支持体と;
前記外側表面に結合し、放射性崩壊して娘放射性核種を生成する、1つの放射性核種の複数の原子と;
前記娘放射性核種に対して透過性の、前記原子を覆うポリマーの層と;
を有する装置。
【請求項2】
前記原子は前記外側表面上に配置される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記支持体が円柱の形状である、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記放射性核種がアルファ線放射性核種である、請求項1-3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記放射性核種が、Ra-224およびRa-223からなる同位体の群から選択されるラジウムの1つの同位体を有する、請求項1-4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記娘放射性核種がアルファ線放射性娘放射性核種である、請求項1-5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記層の厚さが0.1-2ミクロンである、請求項1-6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記厚さが0.1-1ミクロンである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記ポリマー中の前記娘放射性核種の拡散係数が少なくとも10-11cm2/秒である、請求項1-8のいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
前記ポリマーが、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、およびポリスルホンからなるポリマーの群から選択される、請求項1-9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記層は外側層であり、
前記ポリマーは第1のポリマーであり、
前記装置はさらに第2のポリマーの内側層を備え、前記内側層は、前記娘放射性核種に対して透過性であり、そして前記外側表面を被覆し、前記原子は、前記内側層に結合することにより前記外側表面に結合する、
請求項1-10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記内側層の厚さが0.1-2ミクロンである、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記内側層の厚さが0.1-1ミクロンである、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
放射性崩壊して娘放射性核種を生成する1つの放射性核種の複数の原子を、被験者の体内に挿入するように構成された支持体の外側表面に結合させるステップと;
前記原子を前記外側表面に結合させるステップの後、前記娘放射性核種に対し透過性のポリマーの層で前記原子を覆うステップと;
を有する方法。
【請求項15】
前記支持体が円柱形である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記原子を覆うステップは、前記支持体を前記ポリマーの溶液から引き出し、それにより前記ポリマーの層が前記外側表面を被覆することにより、前記原子を覆うステップを有する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記放射性核種がアルファ線放射性核種である、請求項14-16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記放射性核種が、Ra-224およびRa-223からなる同位体の群から選択される1つのラジウム同位体を含む、請求項14-17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記娘放射性核種がアルファ線放射性娘核種である、請求項14-18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記層の厚さが0.1-2ミクロンである、請求項14-19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記厚さが0.1-1ミクロンである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリマー中の娘放射性核種の拡散係数が少なくとも10-11cm2/秒である、請求項14-21のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
前記ポリマーが、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、およびポリスルホンからなるポリマーの群から選択される、請求項14-22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記層は外側層であり、
前記ポリマーは第一のポリマーであり、
前記方法は、前記原子を外側表面に結合するステップの前に、前記外側表面を第2のポリマーの内側層で被覆するステップをさらに含み、そして
前記原子を外側表面に結合するステップは、前記原子を前記内側層に結合することにより前記原子を前記外側表面に結合するステップを含む、
請求項14-23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記内側層の厚さが0.1-2ミクロンである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記内側層の厚さが0.1-1ミクロンである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
放射線源を被験者の体内に挿入するステップであって、
前記放射線源が:
外側表面を有する支持体と;
前記外側表面に結合する、放射性崩壊して娘核種を生成する1つの放射性核種の複数の原子と;
前記娘放射性核種に対して透過性であり、前記原子を覆うポリマーの層と;
を有する、ステップと;
前記娘放射性核種の原子核が前記ポリマーの層を通って拡散するように、前記放射線源を前記被験者の体内に残すステップと;
を有する方法。
【請求項28】
前記層は外側層であり、
前記ポリマーは第1のポリマーであり、
前記放射線源は、娘放射性核種に対して透過性であり、前記外側表面を被覆する第2のポリマーの内側層をさらに有し、前記原子は前記内側層に結合することにより前記外側表面に結合する、
請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記放射線源を前記被験者の体内に挿入するステップは、前記放射線源を前記被験者の体内の腫瘍に挿入するステップを有する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記放射線源を前記被験者の体内に挿入するステップは、前記放射線源が前記被験者の体内の腫瘍の0.1mm以内にあるように前記放射線源を挿入するステップを有する、請求項27または28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌性腫瘍の治療などのための近接照射療法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2017年5月11日に出願された「放射線源の生産」という名称の米国暫定特許出願62/504,800(特許文献1)の利益を主張し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
近接照射療法は、放射線源が体内で放射線を放出するように、被験者の体内に放射線源を配置することを伴う。放出された放射線は、放射線源の近くにある癌細胞を殺すことができる。
【0004】
参照により本明細書に組み込まれる、Arazi、Lior氏他著、「反跳する短命なアルファ線放射物質の組織内放出による固形腫瘍の治療」Physics in Medicine&Biology 52.16(2007):5025(非特許文献1)は、固形腫瘍の治療にアルファ線粒子を利用する方法を記載している。腫瘍は、表面から短命のアルファ線放出原子を継続的に放出する組織内放射線源で治療される。原子は腫瘍内に分散し、アルファ崩壊を通じて高線量をもたらす。このスキームは、反跳によってRn-220、Po-216、およびPb-212原子を放出する、Ra-224を浸透させた細いワイヤ放射線源を使用して実施される。
【0005】
その開示が参照により本明細書に組み込まれる、Kelson氏他の米国特許第8,894,969号(特許文献2)は、ラジウム-223、ラジウム-224、ラドン-219およびラドン-220からなる群から選択される所定量の放射性核種を、所定の期間、被験者の腫瘍の近くおよび/または腫瘍内に配置することを含む放射線療法を記載している。所定の量および所定の期間は、その放射性核種に対して、崩壊鎖核種およびアルファ粒子の所定の治療用量を腫瘍に投与するのに十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国暫定特許出願62/504,800
【特許文献2】米国特許第8,894,969号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Arazi、Lior氏他著、「反跳する短命なアルファ線放射物質の組織内放出による固形腫瘍の治療」Physics in Medicine&Biology 52.16(2007):5025
【発明の概要】
【0008】
本発明の実施形態によれば、外側表面を有し、被験者の体内に挿入するように構成される支持体を有する装置が提供される。装置はさらに、外側表面に結合し、放射性崩壊して娘放射性核種を生成する、1つの放射性核種の複数の原子と;娘放射性核種に対して透過性の、原子を覆うポリマーの層と;を有する。
【0009】
いくつかの実施形態では、原子は外側表面上に配置される。
いくつかの実施形態では、支持体が円柱の形状である。
いくつかの実施形態では、放射性核種がアルファ線放射性核種である。
いくつかの実施形態では、放射性核種が、Ra-224およびRa-223からなる同位体の群から選択されるラジウムの1つの同位体を有する。
いくつかの実施形態では、娘放射性核種がアルファ線放射性娘放射性核種である。
【0010】
いくつかの実施形態では、層の厚さが0.1-2ミクロンである。
いくつかの実施形態では、厚さが0.1-1ミクロンである。
いくつかの実施形態では、ポリマー中の娘放射性核種の拡散係数が少なくとも10-11cm2/秒である。
いくつかの実施形態では、ポリマーが、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、およびポリスルホンからなるポリマーの群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、
層は外側層であり、
ポリマーは第1のポリマーであり、
装置はさらに第2のポリマーの内側層を備え、その内側層は、娘放射性核種に対して透過性であり、そして外側表面を被覆し、原子は、内側層に結合することにより外側表面に結合する。
いくつかの実施形態では、内側層の厚さが0.1-2ミクロンである。
いくつかの実施形態では、内側層の厚さが0.1-1ミクロンである。
【0012】
本発明の実施形態によればさらに、放射性崩壊して娘放射性核種を生成する1つの放射性核種の複数の原子を、被験者の体内に挿入するように構成された支持体の外側表面に結合させるステップと;原子を外側表面に結合させるステップの後、娘放射性核種に対し透過性のポリマーの層で原子を覆うステップと;を有する方法が提供される。
いくつかの実施形態では、原子を覆うステップは、支持体をポリマーの溶液から引き出し、それによりポリマーの層が外側表面を被覆することにより、原子を覆うステップを有する。
【0013】
いくつかの実施形態では、
層は外側層であり、
ポリマーは第一のポリマーであり、
方法は、原子を外側表面に結合するステップの前に、外側表面を第2のポリマーの内側層で被覆するステップをさらに含み、そして
原子を外側表面に結合するステップは、原子を内側層に結合することにより原子を外側表面に結合するステップを含む。
【0014】
本発明の実施形態によればさらに放射線源を被験者の体内に挿入するステップを有する方法が提供される。放射線源は、外側表面を有する支持体と、外側表面に結合する、放射性崩壊して娘核種を生成する1つの放射性核種の複数の原子と、娘放射性核種に対して透過性であり、原子を覆うポリマーの層とを有する。方法はさらに、娘放射性核種の原子核がポリマーの層を通って拡散するように、放射線源を被験者の体内に残すステップを有する。
いくつかの実施形態では、放射線源を被験者の体内に挿入するステップは、放射線源を被験者の体内の腫瘍に挿入するステップを有する。
いくつかの実施形態では、放射線源を被験者の体内に挿入するステップは、放射線源が被験者の体内の腫瘍の0.1mm以内にあるように放射線源を挿入するステップを有する。
本発明は以下の図面を参照した詳細な説明によりより十分に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のいくつかの実施形態による近接照射療法用装置の概略図である。
図2】本発明のいくつかの実施形態による近接照射療法用装置の概略図である。
図3】本発明のいくつかの実施形態による、近接照射療法用装置の製造のための浸漬コーティング技術の概略図である。
図4】本発明のいくつかの実施形態による近接照射療法用装置の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(概要)
本発明の実施形態では、ラジウム224(Ra-224)などのアルファ線放射性核種の原子は、ワイヤなどの支持体の表面上に堆積される。支持体は、放射性核種をその上に堆積させることに加えて、それは「放射線源」または単に「線源」と呼ばれるが、その後、被験者の体内の固形腫瘍に挿入される。その後、放射性核種は放射性崩壊の連鎖を経て、腫瘍の癌細胞を殺すアルファ粒子が放射性核種原子と連続した崩壊連鎖核から放出される。(これらの核のそれぞれは、本明細書では鎖の先行核の「娘核」と呼ばれる。一般に、用語「原子」および「核」は本明細書で互換的に使用され得る。)有利には、崩壊鎖核は拡散および/または対流により腫瘍を通って移動する。これにより、放射線源から比較的大きな距離離れてもアルファ粒子が放出される可能性がある。
【0017】
上記の近接照射療法技術を適用する際の課題は、放射性核種が崩壊する機会を得る前に放射性核種が体液によって放射線源から洗い流されないように、一般に放射性核種を覆う必要があることであるが、放射性核種を覆うと、放射性核種の娘核種の放射線源からの脱離を阻害する可能性がある。前述のKelsonの米国特許第8,894,969号(特許文献2)に記載されている1つの選択肢は、娘核が放射線源から反跳するときに娘核が貫通する可能性がある、例えば5-10ナノメートルの厚さの非常に薄いカバーで放射性核種を覆うことである。しかし、このようなカバーは製造が難しい可能性がある。
【0018】
この課題に対処するために、本明細書に記載の実施形態では、放射性核種を覆いながら、娘核を拡散させるより厚いポリマー層(例えば、0.1-1ミクロンの厚さを有する)を提供する。そのような層は、線源がポリマーで被覆されるように、線源を適切なポリマー溶液に浸漬することにより線源に適用されてもよい。適切なポリマーの例には、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、およびポリスルホンが含まれる。
【0019】
いくつかの実施形態では、放射性核種の堆積の前に、さらに別のポリマー層(例えば、0.1-1ミクロンの厚さを有する)が支持体の表面に適用される。そのような実施形態の利点は、放射性核種の娘核が支持体の表面に向かって跳ね返っても、娘核が表面に付着したり、表面の下に付着したりしないことである。むしろ、娘核は内側ポリマー層を通って外側に拡散し、その後外側ポリマー層を通って外側に拡散し続けることができる。典型的には、内側ポリマー層は、適切なポリマー溶液に支持体を浸漬することにより支持体に適用される。上記でリストアップされたポリマーはいずれも、その後の外側ポリマー層のコーティングに使用される溶液に溶解しなければ、内側層に使用できる。
【0020】
(装置の説明)
本発明のいくつかの実施形態による近接照射療法用装置20の概略図である図1を最初に参照する。
【0021】
近接照射療法用装置20は、被験者の体内への部分的または完全な挿入のために構成される支持体22を含む。支持体22は、例えば、針、ワイヤ、ロッド、内視鏡の先端、腹腔鏡の先端、または任意の他の適切なプローブを備えてもよい。通常、支持体22は円柱形である。例えば、支持体22は、直径が0.3-1mmおよび/または長さが5-60mmの円柱形のワイヤ、針、またはロッドを含むことができる。支持体22は外側表面24を含む。
【0022】
近接照射療法用装置20はさらに、放射性核種の複数の原子26を含み、これは崩壊して外側表面24に結合する娘放射性核種を生成する。例えば、放射性核種の各原子26は外側表面24上またはわずかに下に配置することができる。外側表面24上の原子26の密度は、平方センチメートル当たり1011から1014原子の間である。
【0023】
通常、放射性核種、娘放射性核種、および/または崩壊連鎖内の後続の核種はアルファ線放射性であり、任意の所与の核が崩壊するとアルファ粒子が放射される。例えば、放射性核種はラジウムの同位体(例えば、Ra-224またはRa-223)を含み、アルファ線放射により崩壊してラドンの娘同位体(例えば、Rn-220またはRn-219)を生成し、それらはアルファ線放射により崩壊してポロニウムの同位体(Po-216またはPo-215など)を生成し、またそれらはアルファ線放射により崩壊して鉛の同位体(Pb-212またはPb-211など)を生成する。
【0024】
通常、原子26は崩壊連鎖内の先行する放射性核種の崩壊によって生成される。例えば、Kelsonらの米国特許第8,894,969号(特許文献2)に記載されているように、金属の上にウラン-232(U-232)を含む酸の薄い層を広げることにより、Ra-224の原子を生成することができる。U-232は崩壊してトリウム-228(Th-228)を生成し、それは次に崩壊してRa-224を生成する。
【0025】
前述のKelsonらの米国特許第8,894,969号(特許文献2)に記載されている技術のいずれか1つまたは複数の適切な技術を使用して、原子26を支持体22に結合することができる。例えば、放射性核種のフラックスを生成する生成源を支持体22近くの真空中に配置し、それにより発生源から反跳する核が真空ギャップを横断し、外側表面24上に収集されるか、または外側表面24の中に埋め込まれる。あるいは、発生源と支持体の間に適切な負の電圧を印加することにより、放射性核種を支持体22の上に静電的に収集することができる。そのような実施形態では、支持体22は、放射性核種の静電収集を促進するためにチタンなどの導電性金属を含むことができる。例えば、支持体22は、導電性金属ワイヤ、針、ロッド、またはプローブを含んでもよい。あるいは、支持体22は、外側表面24を含む導電性金属皮膜で被覆された非金属製の針、ロッド、またはプローブを含んでもよい。
【0026】
近接照射療法用装置20は、外側表面24を被覆し、したがって原子26を覆う、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、および/またはポリスルホンなどのポリマーの層28をさらに含む。ポリマーは娘放射性核種に対して透過性であり、したがって娘放射性核種は、ポリマー層28を通って拡散し得る。例えば、ポリマー中の娘放射性核種の拡散係数は、少なくとも10-11cm2/秒であり得る。典型的には、ポリマー層28の厚さT0は0.1-2ミクロン、例えば0.1-1ミクロンであり、ポリマー層28は放射性核種が洗い流されるのを防ぐのに十分な厚さであるが、そこを通過する娘放射性核種の拡散を可能にするほど十分に薄い。(説明を容易にするため、原子26は層28の厚さに対して不相応に大きく描かれている。)
【0027】
被験者を治療するために、少なくとも1つの装置20が、被験者の体内に完全にまたは部分的に、典型的には治療対象の腫瘍に、または腫瘍に直接隣接して(例えば、0.1mm以内、0.05mmまたは0.001mm以内など)挿入される。その後、装置が体内にある間、放射性核種は崩壊し、腫瘍にアルファ粒子を放出する。通常、結果として生じる娘核の約50%は内向きに反跳し、外側表面24に付着する。しかし、他の娘核は外向きに反跳しポリマー層28に入る。これらの娘核および/または崩壊鎖の後続核のポリマー層28内の拡散性により、これらの核種のうち少なくとも一部(たとえば99%以上)が、ポリマー層を通って拡散し、装置から離脱して腫瘍に入ることができる。したがって、例えば、娘核種または他の子孫核種は、1平方センチメートルあたり毎秒102原子から105原子、例えば103原子から104原子の割合で腫瘍に入ることができる。これらの核種は、拡散および/または対流によって腫瘍を通過し、腫瘍を通過する間にさらに崩壊する。したがって、アルファ粒子は、放射線源からかなり離れた距離においても放出されうる。
【0028】
いくつかの実施形態では、放射性核種原子の少なくともいくつかの放射性崩壊に続いて-例えば、所定の期間の後、および/または腫瘍のサイズおよび/または放出されたアルファ粒子の割合の監視に応答して-装置は被験者から取り出される。他の実施形態では、装置は被験者から取り出されない。
【0029】
ここで本発明のいくつかの実施形態による代替の近接照射療法用装置21の概略図である図2を参照する。
【0030】
装置21は、2つのポリマー層を含むという点で装置20と異なる。装置21は、外側表面24を被覆する第1のポリマーの内側層30と、内側層30を被覆する第2(異なる)のポリマーの外側層33を有する。原子26は内側層30に結合されることにより、外側表面24に結合される。例えば、各原子26は、内側層30の外側表面上またはそのわずかに下に配置され、それにより原子が外側層33によって覆われる。一般に、各ポリマー層は、図4の説明に従って以下でさらに説明するように、2つの層が互いに両立できる限りにおいて、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、および/またはポリスルホンなどの任意の適切なポリマーを含み得る。
【0031】
第1のポリマーと第2のポリマーの両方が娘放射性核種に対し透過性である。例えば、各ポリマー中の娘放射性核種の拡散係数は、少なくとも10-11cm2/秒でありうる。典型的には、各層の厚さT1は、0.1-1ミクロンの間など、0.1-2ミクロンの間である。原子26は、上述の技術のいずれかを使用して内側層30の上(または中)に堆積されてもよい。(内側層の相対的な薄さを考えると、通常、内側層は放射性核種の静電収集を阻害しない。)
【0032】
装置21は、装置20と同様に配置できる。装置21の利点は、放射性核種の娘核が内向きに反跳しても、娘核は内側層30を通って、そして外側層33を通って外に拡散し、それにより娘核の装置21からの離脱確率は100%に近くなりうることである。(たとえ特定の核種が支持体の外側表面まで内方に拡散しても、核は外側表面に付着または浸透しない。)したがって、所望の線量のアルファ粒子放出は、装置20を使用した場合の放射性核種原子26の量の半分だけを使用して達成できる。したがって、例えば、装置21を使用した場合、内側層30上の原子26の密度は、1平方センチメートルあたり5×1010-5×1013原子であり得る。
【0033】
一般に、ポリマー層28を装置20に、または内側層30および外側層33を装置21に適用するために、任意の適切な技術を使用することができる。装置20に対するそのような技術の1つを、本発明のいくつかの実施形態による近接照射療法用装置の製造のための浸漬コーティング技術の概略図である図3に示す。
【0034】
図3に示すように、装置20を製造するために、放射性核種原子26が最初に外側表面24に堆積される。その後、放射線源(すなわち、支持体22とその上に堆積された放射性核種原子)を溶媒34に溶解したポリマー溶質29から構成される溶液に浸漬する。(説明を容易にするために、溶解したポリマー粒子は不相応に大きく描かれている。)次に、放射線源を溶液から引き出し(上向き矢印で示すように)、それにより溶質29が放射線源に引き寄せられ、その結果ポリマー層28が外側表面24を被覆する。ポリマー層28の所望の厚さは、ポリマー溶質の濃度および溶液から放射線源が引き出される速度を制御することにより獲得され得る。
【0035】
上記の浸漬コーティング技術は、装置21の製造にも使用することができる。これに関して、本発明のいくつかの実施形態による装置21の製造方法36の流れ図である図4を参照する。
【0036】
方法36は、支持体22が第1のポリマー溶液に挿入される第1の挿入ステップ38で始まる。その後、第1の引き出しステップ40で、支持体が第1のポリマー溶液から引き出され、内側層30が支持体を覆う。装置20のポリマー層28と同様に、ポリマー溶質の濃度および、支持体が溶液から引き出される速度を制御することにより、内側層30の所望の厚さが得られる。
【0037】
続いて、堆積ステップ42で、放射性核種を内側層30上(および/または中)に堆積させる。次に、第2の挿入ステップ44で、放射線源(すなわち、支持体とその上に堆積した放射性核種)を第1のポリマーとは異なる第2のポリマー溶液に挿入する。最後に、第2の引き出しステップ46で、放射線源が第2のポリマー溶液から引き出され、外側層33が放射性核種を覆う。内側層30と同様に、外側層の所望の厚さは、ポリマー溶質の濃度および、放射線源が溶液から引き出される速度を制御することにより獲得され得る。
【0038】
一般に、装置20の層28および装置21の外側層33に対しては、溶媒34は放射性核種を溶解しない任意の適切な有機材料を含んでもよい。同様の溶媒を装置21の内側ポリマー層に使用してもよい。
【0039】
表1は、本明細書に記載のポリマー層のいずれか1つを形成するために使用可能な6つの異なる溶液を例としてリストアップしたものであり、表の各行(最初の行に続く)はこれらの溶液の異なるそれぞれの1つの溶液に相当する。
【表1】
【0040】
装置21では、外側のポリマー層に使用される溶媒が内側の層を溶解しないという制約を考慮して、2つのポリマー層に使用されるそれぞれの溶液が選択される。表1の番号付けシステムを溶液を識別するために使用して、5つの異なる使用可能な溶液のペアを例として表2に示す。
【表2】
【0041】
(実験結果)
本発明者らは、放射性核種にRa-224を使用して、多くの実験的近接照射療法用装置を準備した。それぞれのこれらの装置は、37℃の血清または水、またはマウス腫瘍など、人体の内部をシミュレートする環境に置かれた。各装置について、ラジウムの損失は検出されず、ラジウムを覆うポリマー層がラジウムの洗い流しを妨げたことを示した。次に、アルファ線分光法を使用して、装置のラドン脱離をテストした。
【0042】
以下の段落では、ラドン脱離のテストとともに、いくつかの実験装置の準備についてさらに詳しく記載される。
【0043】
(1)単一ポリマー層
トリウム-228(Th-228)の崩壊によって生成されたRa-224原子は、直径が0.5 mmの4本のチタンワイヤ上に静電的に収集された。第1のワイヤは、溶媒としてジクロロメタン(DCM)を有する5重量%のポリカーボネート溶液に浸漬され、その後、8mm/秒の速度で溶液から引き出され、約0.25ミクロンのポリマー層厚を得た。次に、ポリカーボネートの濃度を7.5重量%に上げて、この手順を2番目のワイヤに対して繰り返し、約0.5ミクロンのポリマー層厚を得た。第3のワイヤは、溶媒としてヘキサンを有する15重量%のポリジメチルシロキサン(PDMS)溶液に浸漬され、次いで12mm/秒で引き出され、約0.25ミクロンのポリマー層厚を得た。次に、PDMSの濃度を30重量%に上げて、この手順を4番目のワイヤに対して繰り返し、約1ミクロンのポリマー層厚を得た。
【0044】
ラドンの脱離確率の測定値は、1番目のワイヤで50%、2番目のワイヤで48%、3番目と4番目のワイヤのそれぞれで50%であった。(図1を参照して上述したように、ラドン核種の50%が後方に反跳して放射線源に入ることを前提にすると、50%は装置20の理論上の最大値である。)
【0045】
(2)二重ポリマー層
チタンワイヤを、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解したポリエチレンテレフタレート(PET)の2%(重量)溶液に浸漬し、10mm/秒の速度で引き出し、0.2ミクロンの内側層厚を得た。その後、Ra-224原子が内側層の上に集められた。次に、放射線源を、ジクロロメタン(DCM)に溶解したポリカーボネートの3%(重量)溶液に浸漬し、10mm/秒の速度で引き出し、0.25ミクロンの外側層厚を得た。測定されたラドン脱離確率は88%であり、理論上の最大値である100%よりもわずかに低いだけであった。
【0046】
(各ポリマー層の厚さは、Kelson,I.氏他著、「薄膜の厚さ測定のためのアルファ線源の反跳注入」、Journal of Physics D:Applied Physics 28.1(1995):100に記載されたアルファ線エネルギー損失分光法によって測定されたことに留意されたい。当該文献は参照により本明細書に組み込まれる。)
【0047】
当業者は、本発明が上記に特に示され記載されたものに限定されないことを理解するであろう。むしろ、本発明の範囲は、前述の様々な特徴の組み合わせおよびサブ組み合わせ、ならびに上記の記載を読んだ当業者に想起される従来技術にないその変形および修正の両方を含む。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側表面を備え、被験者の体内に挿入するように構成される支持体と;
アルファ線放射性核種であって、放射性崩壊して娘放射性核種を生成し、前記外側表面に結合し、前記放射性核種の実質的に全ての原子が前記外側表面の外に配置される、放射性核種と;
ポリマーの層であって、0.1-2マイクロメートルの厚さを有し、前記娘放射性核種に対し透過性であり、前記原子を覆って前記原子が流し出されるのを防止する、ポリマーの層と;
を含む装置。
【請求項2】
前記放射性核種が、Ra-224およびRa-223からなる同位体の群から選択されるラジウムの同位体を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記娘放射性核種がアルファ線放射性娘放射性核種である、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記ポリマーの層の厚みが0.1-1マイクロメートルである、請求項1-3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記ポリマー中の娘放射性核種の拡散係数が少なくとも10-11cm2/秒である、請求項1-4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、およびポリスルホンからなるポリマーの群から選択される、請求項1-5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記ポリマーが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む、請求項1-6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記外側表面上の前記放射性核種の密度が、一平方センチメートル当たり1011から1014原子の間である、請求項1-7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
放射性崩壊して娘放射性核種を生成する1つのアルファ線放射性核種の複数の原子を、被験者の体内に挿入するように構成された支持体の外側表面の上に堆積させるステップと;
前記原子を前記外側表面の上に堆積させるステップの後、前記娘放射性核種に対し透過性の、0.1-2マイクロメートルの厚さを有するポリマーの層で前記原子を覆うステップであって、実質的に全ての原子が、前記外側表面の外に配置され、そして前記原子が流し出されるのを防止する前記ポリマーの層で覆われるステップと;
を含む方法。
【請求項10】
前記原子を覆うステップの後、前記外側表面上の前記放射性核種の密度が、一平方センチメートル当たり1011から1014原子の間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマーの層の厚みが0.1-1マイクロメートルである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む、請求項9または10に記載の方法。
【外国語明細書】