(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101688
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能向上剤、化粧品及びミトコンドリア機能向上方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/57 20150101AFI20250630BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20250630BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250630BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20250630BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20250630BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20250630BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250630BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20250630BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250630BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20250630BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20250630BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20250630BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20250630BHJP
【FI】
A61K35/57
A61K35/12
A61P17/00
A61P17/18
A61P17/16
A61P39/06
A61P21/00
A61K8/98
A61Q19/00
A61Q19/08
A23L33/10
C12N5/071
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218705
(22)【出願日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】511132786
【氏名又は名称】エムスタイルジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】稲冨 幹也
(72)【発明者】
【氏名】片倉 喜範
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD69
4B018ME10
4B018MF01
4B065AA93X
4B065AC12
4B065BC12
4B065BD42
4B065CA41
4B065CA50
4C083AA071
4C083AA072
4C083CC03
4C083EE11
4C083EE12
4C083EE13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB33
4C087MA52
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZC52
4C087ZC61
(57)【要約】
【課題】 本願発明は、皮膚細胞におけるミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤等を提供することを目的とする。
【解決手段】 細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤であって、燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する、ミトコンドリア機能向上剤である。本願発明の各観点によれば、皮膚細胞におけるミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤等を提供することが可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤であって、
燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する、ミトコンドリア機能向上剤。
【請求項2】
前記有効成分は、PGC1-αを活性化させるものである、請求項1記載のミトコンドリア機能向上剤。
【請求項3】
前記有効成分は、細胞中のミトコンドリア数を増加させるものである、請求項2記載のミトコンドリア機能向上剤。
【請求項4】
前記有効成分は、ミトコンドリアの面積を増大させるものである、請求項3記載のミトコンドリア機能向上剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの前記有効成分を含有する、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるための化粧品。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかの前記有効成分を含有する、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるためのシワ改善剤。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかの前記有効成分を含有する、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるための老化抑制剤。
【請求項8】
細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤生産方法であって、
燕窩に含まれる成分を有効成分として加えるステップを含む、ミトコンドリア機能向上剤生産方法。
【請求項9】
細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上方法であって、
燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する外用剤を対象に塗布するステップを含む、ミトコンドリア機能向上方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項10】
腸管細胞から分泌されるエクソソームを制御するエクソソーム制御剤であって、
燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する、エクソソーム制御剤。
【請求項11】
燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する、腸管細胞から分泌されるエクソソームを制御するエクソソーム制御用食品組成物。
【請求項12】
腸管細胞から分泌される腸管由来エクソソームを含有する腸管由来エクソソーム含有組成物を製造する腸管由来エクソソーム含有組成物製造方法であって、
前記腸管細胞を含む培地に燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する溶液を加える工程を含む、腸管由来エクソソーム含有組成物製造方法。
【請求項13】
腸管細胞から分泌されるエクソソームを制御するエクソソーム制御方法であって、
前記腸管細胞を含む培地に燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する溶液を加える工程を含む、エクソソーム制御方法。
【請求項14】
燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する溶液を加えた腸管細胞から分泌された腸管由来エクソソームを含有する、腸管由来エクソソーム含有組成物。
【請求項15】
細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるためのミトコンドリア機能向上剤であって、
請求項14記載の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、ミトコンドリア機能向上剤。
【請求項16】
表皮角化細胞、真皮線維芽細胞、又は、筋芽細胞におけるミトコンドリアの機能を向上させる、請求項15記載のミトコンドリア機能向上剤。
【請求項17】
活性酸素を消去させる活性酸素消去剤であって、
請求項14記載の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、活性酸素消去剤。
【請求項18】
皮膚のシワを改善させるシワ改善剤であって、
請求項14記載の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、シワ改善剤。
【請求項19】
皮膚の保湿機能を向上させる皮膚保湿機能向上剤であって、
請求項14記載の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、皮膚保湿機能向上剤。
【請求項20】
請求項14記載の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、筋肉機能活性化剤。
【請求項21】
請求項14記載の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、老化関連疾患予防用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ミトコンドリア機能向上剤、化粧品及びミトコンドリア機能向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人間の体の全表面を覆っており、周囲の環境に常に晒されている。皮膚の構造は表皮、真皮、皮下脂肪層の3層に分けられ、さらに表皮は角層、顆粒層、有棘層、基底層からなる。
【0003】
皮膚が紫外線や化学物質などの外部刺激にさらされると活性酸素が発生する。活性酸素は表皮のコラーゲン分解や、メラニン産生を促進し、シワやシミ、たるみなどの皮膚老化を引き起こす。
【0004】
また、外部刺激により皮膚のバリア機能が低下することで、痒みや湿疹、アトピー性皮膚炎などの皮膚トラブルを招く。
【0005】
これらを改善するために、近年では皮膚のアンチエイジングに関連する研究が数多く行われており、本願発明者らは特に皮膚改善に効果がある食品の探索を行なっている。
【0006】
SIRT1やSIRT3はその活性化によりさまざまな組織でアンチエイジング効果を示すことが明らかとなっている。
【0007】
SIRT1が活性化すると、生理活性フローの下流にあるミトコンドリアや外的バリア、内的バリアの活性が上がり、シワ抑制や皮膚バリア機能及び保水機能の向上につながる。
【0008】
また、SIRT3が活性化すると、活性酸素が消去され、美白促進につながる。
【0009】
近年、ミトコンドリア機能は老化と密接な関連があることが明らかにされつつある。特に皮膚細胞においてミトコンドリアの機能障害は、シワ形成、表皮肥厚等の皮膚老化、白髪や脱毛の増加につながるとされており、ミトコンドリア機能の向上によるシワの抑制及び改善、表皮肥厚の抑制、白髪や脱毛の抑制等の老化抑制が期待されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】吉村ら「MITOL活性化薬による抗老化作用」実験医学Pp210-216 Vol.37 No.12 2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本願発明は、皮膚細胞又は筋芽細胞におけるミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の第1の観点は、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤であって、燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する、ミトコンドリア機能向上剤である。
【0013】
本願発明の第2の観点は、第1の観点のミトコンドリア機能向上剤であって、前記有効成分は、PGC1-αを活性化させるものである。
【0014】
本願発明の第3の観点は、第2の観点のミトコンドリア機能向上剤であって、前記有効成分は、細胞中のミトコンドリア数を増加させるものである。
【0015】
本願発明の第4の観点は、第3の観点のミトコンドリア機能向上剤であって、前記有効成分は、ミトコンドリアの面積を増大させるものである。
【0016】
本願発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点の前記有効成分を含有する、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるための化粧品である。
【0017】
本願発明の第6の観点は、第1から第4のいずれかの観点の前記有効成分を含有する、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるためのシワ改善剤である。
【0018】
本願発明の第7の観点は、第1から第4のいずれかの観点の前記有効成分を含有する、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるための老化抑制剤である。
【0019】
本願発明の第8の観点は、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤生産方法であって、燕窩に含まれる成分を有効成分として加えるステップを含む、ミトコンドリア機能向上剤生産方法である。
【0020】
本願発明の第9の観点は、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上方法であって、燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する外用剤を対象に塗布するステップを含む、ミトコンドリア機能向上方法(ヒトに対する医療行為を除く)である。
【0021】
本願発明の第10の観点は、腸管細胞から分泌されるエクソソームを制御するエクソソーム制御剤であって、燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する、エクソソーム制御剤である。
【0022】
本願発明の第11の観点は、燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する、腸管細胞から分泌されるエクソソームを制御するエクソソーム制御用食品組成物である。
【0023】
本願発明の第12の観点は、腸管細胞から分泌される腸管由来エクソソームを含有する腸管由来エクソソーム含有組成物を製造する腸管由来エクソソーム含有組成物製造方法であって、前記腸管細胞を含む培地に燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する溶液を加える工程を含む、腸管由来エクソソーム含有組成物製造方法である。
【0024】
本願発明の第13の観点は、腸管細胞から分泌されるエクソソームを制御するエクソソーム制御方法であって、前記腸管細胞を含む培地に燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する溶液を加える工程を含む、エクソソーム制御方法である。
【0025】
本願発明の第14の観点は、燕窩に含まれる成分を有効成分として含有する溶液を加えた腸管細胞から分泌された腸管由来エクソソームを含有する、腸管由来エクソソーム含有組成物である。
【0026】
本願発明の第15の観点は、細胞中のミトコンドリアの機能を向上させるためのミトコンドリア機能向上剤であって、第14の観点の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、ミトコンドリア機能向上剤である。
【0027】
本願発明の第16の観点は、第15の観点のミトコンドリア機能向上剤であって、表皮角化細胞、真皮線維芽細胞、又は、筋芽細胞におけるミトコンドリアの機能を向上させる。
【0028】
本願発明の第17の観点は、活性酸素を消去させる活性酸素消去剤であって、第14の観点の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、活性酸素消去剤である。
【0029】
本願発明の第18の観点は、皮膚のシワを改善させるシワ改善剤であって、第14の観点の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、シワ改善剤である。
【0030】
本願発明の第19の観点は、皮膚の保湿機能を向上させる皮膚保湿機能向上剤であって、第14の観点の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、皮膚保湿機能向上剤である。
【0031】
本願発明の第20の観点は、第14の観点の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、筋肉機能活性化剤である。
【0032】
本願発明の第21の観点は、第14の観点の前記腸管由来エクソソームを有効成分として含有する、老化関連疾患予防用食品組成物である。
【発明の効果】
【0033】
本願発明の各観点によれば、皮膚細胞又は筋芽細胞におけるミトコンドリアの機能を向上させるミトコンドリア機能向上剤等を提供することが可能となる。
【0034】
皮膚老化抑制食品の探索を行うにあたって本願発明者らは、長寿遺伝子であるSIRT1、SIRT3に着目した。
【0035】
本願発明の第2の観点によれば、SIRT1を活性化させてPGC1-αを活性化させることにより、ミトコンドリアの機能を向上させることが可能になる。
【0036】
特に、本願発明の第3及び第4の観点によれば、皮膚細胞中のミトコンドリア数及びミトコンドリア面積を増加させることにより、ミトコンドリアの機能及び活性を向上させることが可能になる。特に、従来、ミトコンドリアの数及び面積の両方を増大させるものがあまり報告されておらず、本願発明の優れた効果といえる。
【0037】
本願発明の第5から第7のいずれかの観点によれば、皮膚に塗布することによりミトコンドリア機能を向上させる、化粧品、シワ改善剤又は老化抑制剤を提供可能となる。
【0038】
本願発明の第10から第21の観点によれば、細胞のミトコンドリア増強に直接的な影響を及ぼす腸管細胞からのエクソソームの分泌を制御することが可能となる。
【0039】
第10から第21の観点は、本発明者らが、燕窩に含まれる成分が腸管細胞に吸収されることを契機として腸管細胞から分泌されるエクソソームが、細胞のミトコンドリア増強や活性化につながることを見出したことで想到し得たものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】SIRT1プロモーター活性によるEGFP蛍光強度を示す図である。
【
図2】SIRT3プロモーター活性によるEGFP蛍光強度を示す図である。
【
図3】HaCaT細胞におけるミトコンドリア数を示す図である。
【
図4】HaCaT細胞におけるミトコンドリア面積を示す図である。
【
図5】HaCaT細胞におけるミトコンドリア活性を示す図である。
【
図6】SIRT1プロモーター活性化サンプルを選抜するために、EGFPの蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【
図7】長寿遺伝子活性化サンプルを選抜するために、SIRT1、SIRT3のmRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【
図8】エクソソームをHaCaT細胞に添加してRT-qPCRによりmRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【
図9】外的バリア関連遺伝子のmRNA発現量をRT-qPCRにより測定した結果を示す図である。
【
図10】蛍光強度によりミトコンドリア活性を測定した結果を示す図である。
【
図11】活性酸素種(ROS)消去能について、BES 蛍光強度の変化を測定した結果を示す図である。
【
図12】Caco-2 細胞由来エクソソームをヒト皮膚線維芽細胞に添加した後のSIRT1、SIRT3の mRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【
図13】筋芽細胞におけるミトコンドリア活性化効果の検証のため、蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【
図14】ミトコンドリアの面積を測定して比較した結果を示す図である。
【
図15】ツバメの巣エキスの腸管細胞を介したミトコンドリア活性化効果を検証のため、蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して本願発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本願発明の実施例は、以下に記載する内容に限定されるものではない。
【実施例0042】
第1章 実験材料および方法
第1節 細胞培養
第1項 ヒト表皮角化細胞HaCaT細胞
本研究では、ヒト表皮のモデル細胞として、ヒト表皮角化細胞HaCaT細胞を用いた。HaCaT細胞は56℃の恒温槽で30分間加熱することで非動化させたFetal Bovine Serum(FBS) を10%含有させたDMEM培地を用いて、細胞培養ディッシュ(Corning, New York, USA)にて、37℃、5% CO2存在下で継代培養した。DMEM培地は、470 mLのMilli-Q水に対してダルベッコ変法イーグル培地「ニッスイ」(2) (Nissui pharmaceutical, Tokyo, Japan)4.75 gを溶解し、オートクレーブにより滅菌した後に、100 U/mL ペニシリン(Meiji seika pharma, Tokyo, Japan)1 mL、 0.1 mg/mL ストレプトマイシン (Meiji seika pharma, Tokyo, Japan)1 mL、10% NaHCO3 (FUJIFILM Wako)6 mL、0.22 μmフィルターで濾過滅菌を行ったL-グルタミンを終濃度が4 mM(0.2 M L(+)-グルタミン (FUJIFILM Wako)10 mL)となるように添加して作成した。培地は4℃で保存した。
【0043】
第2項 ヒト表皮角化細胞HaCaT(SIRT1 p-EGFP)細胞
先行研究により樹立された、SIRT1プロモーターにより発現が制御されるEGFP発現ベクター(SIRT1 p-EGFP)をHaCaT細胞に導入したHaCaT細胞(SIRT1 p-EGFP)を用いた。HaCaT細胞と同様に、10% FBS添加DMEM培地、ペトリディッシュを用いて、37℃、5%CO2存在下で継代培養した。
【0044】
第3項 ヒト表皮角化細胞HaCaT(SIRT3 p-EGFP)細胞
先行研究により樹立された、SIRT3プロモーターにより発現が制御されるEGFP発現ベクター(SIRT3 p-EGFP)をHaCaT細胞に導入したHaCaT細胞(SIRT3 p-EGFP)を用いた。HaCaT細胞と同様に、10% FBS添加DMEM培地、ペトリディッシュを用いて、37℃、5%CO2存在下で継代培養した。
【0045】
第2節 サンプル及びその調整法
第1項 燕窩サンプル
燕窩サンプル溶液A~Cを用意した。燕窩サンプル溶液の作製手順として、まず、乾燥粉砕を施したマレーシア産アナツバメ巣(含有水分10%以下)とプロテアーゼ調整液を1:9の比率で浸漬させたのち、温度45-55℃の範囲をキープしながら、48時間酵素処理加水分解を行った。その後、目びらき100メッシュの篩により未溶解残差を取り除き、篩過した液体を温度80-90℃・60分の条件下で酵素を失活させて燕窩由来抽出物とした。
【0046】
ここで、上記のプロテアーゼ調整液は、RO膜処理を施した純水にAspergillus oryzae由来のプロテアーゼ(力価:30000u/g(CFA法・pH6.0))を濃度1.5から2.5%の範囲で常温にて完全溶解させたものを用いた。
【0047】
続いて、燕窩由来抽出物を含む溶液(以下、「燕窩溶液」)を10,000 rpmで10分遠心し、その上清を1×PBSを溶媒として150 μg/mL、450 μg/mL、1500 μg/mL、4500 μg/mLの濃度で調整した。4℃で保存し、適宜懸濁して使用した。
【0048】
第2項 ポジティブコントロール
Resveratrol溶液
Resveratrol粉末(Tokyo Chemical Industry Co., Ltd., Tokyo, Japan)をジメチルスルホキシド(DMSO)(FUJIFILM Wako)を用いて10 mMに調製し、0.20 μm×13 mmのフィルター(Merck Millipore)にて濾過滅菌したものを-20℃で保存し、適宜解凍して懸濁し使用した。
【0049】
AICAR溶液
AICAR粉末(FUJIFILM Wako)を1×PBSを用いて100 mMに調製し、0.22 μm×13 mmのフィルター(Merck Millipore)にて濾過滅菌したものを-20℃で保存し、適宜解凍して使用した。
【0050】
第3節 IN Cell Analyzer 2200を用いた燕窩の機能性の探索
第1項 SIRT1、SIRT3活性化の検証
試薬の調整
(1)細胞固定液
必要量の1×PBSに対して、パラホルムアルデヒド(FUJIFILM Wako, Tokyo, Japan)0.08 g /mLと5 N NaOH 2 μL/mLを加えて、8%パラホルムアルデヒドの溶液を60℃のウォーターバスで溶かして作製し、4℃で保存した。
(2)核染色溶液
Hoechst33342を1×PBSで2 μg/mLとなるように希釈し、遮光状態で使用した。
【0051】
燕窩溶液を添加したHaCaT (SIRT1/3)細胞におけるSIRT1/3活性を評価した。HaCaT(SIRT1/3p-EGFP)細胞が終濃度6.0×104 cells/mLとなるように96-well black plate(Greiner Bio-one, Tokyo, Japan)に播種し、10%FBSを含むDMEM培地にて37℃、5%CO2存在下で培養した。24時間後、ポジティブコントロールとしてResveratrol及び燕窩サンプルを各濃度0.1 μL/wellとなるよう添加した。またコントロールとして1×PBSをサンプル添加量と同量加え、37℃、5%CO2存在下で培養した。48時間後、細胞固定液を100 μL/wellで添加し、遮光下室温で15分間静置した。細胞培養液と細胞固定液を合わせて除去し、1×PBSで2回洗浄した後、核染色溶液を100 μL/wellで添加した。遮光下室温で20分間静置した後、核染色溶液を除去し、1×PBSで2回洗浄した。1×PBSを100 μL/wellで添加し、IN Cell Analyzer 2200を用いて、EGFP蛍光強度を測定した。
【0052】
第2項 ミトコンドリアへの効果の検証
(1)ミトコンドリア染色溶液
10%FBSを含むDMEM培地を用いて、Mito TrackerRed CMXosを終濃度0.25 μMに、Mito TrackerGreen FMを終濃度0.2 μMに希釈した。
(2)核染色溶液
第3節第1項と同様の手順で核染色溶液を作成した。
【0053】
燕窩溶液を添加したHaCaT細胞におけるミトコンドリアへの効果を検証した。HaCaT細胞が終濃度6.0×104 cells/mLとなるように96-well black plateに播種し、10%FBSを含むDMEM培地にて37℃、5%CO2存在下で培養した。24時間後、AICARは終濃度250 mMになるよう、燕窩サンプルは各濃度0.1 μL/wellとなるよう添加した。またコントロールとして1×PBSをサンプル添加量と同量加え、37℃、5%CO2存在下で培養した。24時間後、細胞培養液を除去し、ミトコンドリア染色溶液を100 μL/wellで添加し、37℃で15分間インキュベートした。ミトコンドリア染色溶液を除去した後、核染色溶液を100 μL/wellで添加し、遮光下室温にて30分間静置した。核染色溶液を除去し、1×PBSを150 μL/wellで添加し、IN Cell Analyzer 2200を用いて、ミトコンドリアの数・面積・活性を測定した。
【0054】
第6節 統計処理
統計処理はStudent’s t-test, Tukey-Krammer法 (Statcel 4) により行い、p<0.05をもって有意差ありとした。
【0055】
第2章 結果
第1節 IN Cell Analyzer 2200を用いた燕窩の機能性の探索
SIRT1 p-EGFPを導入したHaCaT細胞を用いて、燕窩サンプルを添加した時のSIRT1プロモーター活性を、EGFP蛍光強度を測定することで評価した。
図1は、燕窩サンプルのSIRT1プロモーター活性によるEGFP蛍光強度を示す図である。HaCaT(SIRT1 p-EGFP)細胞にポジティブコントロールとしてResveratrolと燕窩サンプルを添加し、48時間培養後にIN Cell Analyzer 2200によりEGFPの蛍光強度を測定した。
【0056】
その結果、
図1に示す通り、ツバメの巣のサンプルA~Cのいずれにおいてもコントロールよりも有意に高い蛍光強度が得られた。これは、燕窩サンプルがSIRT1を量的に活性化することを示唆している。SIRT1の量的活性はPGC1-αの活性化につながる。
【0057】
次に、SIRT3 p-EGFPを導入したHaCaT細胞を用いて、燕窩サンプルを添加した時のSIRT3プロモーター活性を、EGFP蛍光強度を測定することで評価した。
図2は、燕窩サンプルのSIRT3プロモーター活性によるEGFP蛍光強度を示す図である。SIRT1と同様にHaCaT(SIRT3 p-EGFP)細胞にResveratrolと燕窩サンプルを添加し、48時間培養後にIN Cell Analyzer 2200によりEGFP蛍光強度を測定した。
【0058】
その結果、
図2に示す通り、ツバメの巣Aの4500μg/mLのサンプルがコントロールより有意に高い蛍光強度を示した。
【0059】
燕窩サンプルによるHaCaT細胞におけるミトコンドリアへの効果を用いて測定した。
図3、
図4、
図5は、それぞれ、HaCaT細胞におけるミトコンドリア数、ミトコンドリア面積、ミトコンドリア活性を示す図である。HaCaT細胞にポジティブコントロールとしてAICARを終濃度100 mM、燕窩サンプルをそれぞれ0.1 μL/wellとなるように添加した。48時間培養後MitoTracker GreenとMitoTracker Redで染色し、IN Cell Analyzer 2200によりミトコンドリアの数と面積及び活性を測定した。
【0060】
その結果、
図3及び
図4に示す通り、コントロールと比較して燕窩A、B、C全てにおいて数と面積の有意な増強が確認できた。
【0061】
また、
図5に示す通り、ミトコンドリア活性についてもコントロールと比較して強い蛍光強度を示す傾向が得られた。特に、450μg/mLのサンプルA、450μg/mLや4500μg/mLのサンプルB、4500μg/mLのサンプルCで高い活性が認められた。
【0062】
なお、
図5に示されるミトコンドリア活性とは、高い活性を示したミトコンドリア数を反映しているものであり、試料中の全部のミトコンドリアの活性の総量を示すものではない。
【0063】
本研究ではまず、燕窩による皮膚改善の分子基盤を明らかにすることを目的とし、長寿遺伝子に着目して研究を行なった。SIRT1、SIRT3活性化の検証において、燕窩サンプルが、コントロールと比較してSIRT1を量的に活性化すること、及び、SIRT3を有意に活性化することが確認できた。
【0064】
また、SIRT1の下流にあるミトコンドリアへの効果の検証では、ミトコンドリアの数と面積を有意に増強し、ミトコンドリアの活性も増強する燕窩サンプルが複数確認できた。このことから、燕窩が、SIRT1の下流で、ミトコンドリアの上流にあるPGC1-αを活性化させていると考えられる。
【0065】
HaKaT細胞は血管が通っていないヒト表皮の細胞モデルである。したがって、本実施例に係る燕窩サンプルは、少なくとも塗布する化粧品、シワ改善剤又は老化抑制剤の有効成分として、シワの抑制や改善、表皮肥厚の抑制、白髪や脱毛の抑制等の機能が期待される。