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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101724
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】亜鉛回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 19/30 20060101AFI20250630BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20250630BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20250630BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20250630BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20250630BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20250630BHJP
   C25C 1/16 20060101ALI20250630BHJP
【FI】
C22B19/30
C22B7/02 B
C22B3/06
C22B3/44 101Z
C22B3/46
C22B3/20
C25C1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024179943
(22)【出願日】2024-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2023218306
(32)【優先日】2023-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】山口 東洋司
(72)【発明者】
【氏名】山田 令
(72)【発明者】
【氏名】篠田 万里子
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA30
4K001BA14
4K001CA05
4K001CA08
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB17
4K001DB18
4K001DB22
4K058AA21
4K058BA25
4K058BB04
4K058CA22
4K058EB15
4K058ED04
4K058FC07
(57)【要約】
【課題】製鉄ダストから亜鉛を回収する新規な方法を提供する。
【解決手段】亜鉛およびハロゲンを含有する製鉄ダストに、洗浄液を用いた洗浄を施して、ハロゲンを除去する。上記洗浄が施された上記製鉄ダストを、酸液を用いて溶解させて、亜鉛および鉄を含有する亜鉛溶液を得る。上記亜鉛溶液に金属亜鉛を添加して、上記亜鉛溶液に含有される不純物元素を上記金属亜鉛の表面に析出させる。上記亜鉛溶液に含有される鉄を、鉄沈殿物として析出させる。上記亜鉛溶液に電極を入れて電解することにより、上記亜鉛溶液に含有される亜鉛を上記電極の表面に析出させる。上記亜鉛溶液を得る際に、上記酸液のpHおよび酸化還元電位を調整することにより、上記製鉄ダストから上記酸液への鉄の浸出を抑制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛およびハロゲンを含有する製鉄ダストに、洗浄液を用いた洗浄を施して、ハロゲンを除去し、
前記洗浄が施された前記製鉄ダストを、酸液を用いて溶解させて、亜鉛および鉄を含有する亜鉛溶液を得て、
前記亜鉛溶液に金属亜鉛を添加して、前記亜鉛溶液に含有される不純物元素を前記金属亜鉛の表面に析出させ、
前記亜鉛溶液に含有される鉄を、鉄沈殿物として析出させ、
前記亜鉛溶液に電極を入れて電解することにより、前記亜鉛溶液に含有される亜鉛を前記電極の表面に析出させ、
前記亜鉛溶液を得る際に、前記酸液のpHおよび酸化還元電位を調整することにより、前記製鉄ダストから前記酸液への鉄の浸出を抑制する、亜鉛回収方法。
【請求項2】
前記亜鉛溶液を得る際に、前記酸液のpHを2.0~5.0に調整し、前記酸液の酸化還元電位を-0.1V以上に調整する、請求項1に記載の亜鉛回収方法。
【請求項3】
前記亜鉛溶液を得る際に、前記酸液のpHよりも先に、前記酸液の酸化還元電位を調整する、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項4】
前記洗浄液の温度が50℃以上である、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項5】
前記洗浄液がアルカリ性である、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項6】
前記製鉄ダストが、製鉄炉から回収された1次ダストを還元して得られた2次ダストである、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項7】
前記製鉄ダストが、電気炉ダストである、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項8】
前記製鉄ダストと前記洗浄液との質量比(製鉄ダスト/洗浄液)が、1/100~1/1である、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項9】
前記金属亜鉛の添加量が、前記亜鉛溶液に対して、1~10g/Lである、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項10】
前記金属亜鉛を添加する際、前記亜鉛溶液のpHを、2.5~6.5に調整する、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項11】
前記亜鉛溶液に前記金属亜鉛を添加して前記不純物元素を析出させる回数が、2回以上である、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【請求項12】
前記鉄沈殿物として水酸化鉄を析出させ、析出した前記水酸化鉄を前記亜鉛溶液から分離することにより、前記亜鉛溶液に含有される鉄を除去する、請求項1または2に記載の亜鉛回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスで生じる微粉末は、集塵機などの捕集装置を用いて、製鉄ダストとして回収される。製鉄ダストは、亜鉛を多く含有するため、資源として着目されており、従来、製鉄ダストから亜鉛を回収する方法が提示されている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/016086号
【特許文献2】国際公開第2022/130462号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、製鉄ダストから亜鉛を回収する方法として、酸液を用いて製鉄ダストを溶解させ、得られた亜鉛溶液に陰極(アルミニウム電極)および陽極(鉛電極)を入れて電解することにより、亜鉛を陰極表面に析出させる方法について検討した。
【0005】
その結果、製鉄ダストは、ハロゲン(フッ素、塩素など)を多く含有し、このハロゲンが種々の不具合を生じさせ得ることが見出された。
例えば、フッ素(F)は、陰極表面を腐食させて、陰極表面と析出亜鉛との密着を引き起こし、析出亜鉛を陰極表面から剥離することを困難にする。
また、塩素(Cl)は、陽極(鉛電極)を腐食させて、鉛の亜鉛溶液(ひいては析出亜鉛)への混入を引き起こし、回収される亜鉛の純度を低下させる。
【0006】
また、製鉄ダストを溶解させて得られる亜鉛溶液には、製鉄ダストから浸出した鉄(Fe)も含有されるが、これも不純物元素であるため、Feの浸出は、なるべく抑制されることが好ましい。
【0007】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、製鉄ダストから亜鉛を回収する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成ささることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
[1]亜鉛およびハロゲンを含有する製鉄ダストに、洗浄液を用いた洗浄を施して、ハロゲンを除去し、上記洗浄が施された上記製鉄ダストを、酸液を用いて溶解させて、亜鉛および鉄を含有する亜鉛溶液を得て、上記亜鉛溶液に金属亜鉛を添加して、上記亜鉛溶液に含有される不純物元素を上記金属亜鉛の表面に析出させ、上記亜鉛溶液に含有される鉄を、鉄沈殿物として析出させ、上記亜鉛溶液に電極を入れて電解することにより、上記亜鉛溶液に含有される亜鉛を上記電極の表面に析出させ、上記亜鉛溶液を得る際に、上記酸液のpHおよび酸化還元電位を調整することにより、上記製鉄ダストから上記酸液への鉄の浸出を抑制する、亜鉛回収方法。
[2]上記亜鉛溶液を得る際に、上記酸液のpHを2.0~5.0に調整し、上記酸液の酸化還元電位を-0.1V以上に調整する、上記[1]に記載の亜鉛回収方法。
[3]上記亜鉛溶液を得る際に、上記酸液のpHよりも先に、上記酸液の酸化還元電位を調整する、上記[1]または[2]に記載の亜鉛回収方法。
[4]上記洗浄液の温度が50℃以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[5]上記洗浄液がアルカリ性である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[6]上記製鉄ダストが、製鉄炉から回収された1次ダストを還元して得られた2次ダストである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[7]上記製鉄ダストが、電気炉ダストである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[8]上記製鉄ダストと上記洗浄液との質量比(製鉄ダスト/洗浄液)が、1/100~1/1である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[9]上記金属亜鉛の添加量が、上記亜鉛溶液に対して、1~10g/Lである、上記[1]~[8]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[10]上記金属亜鉛を添加する際、上記亜鉛溶液のpHを、2.5~6.5に調整する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[11]上記亜鉛溶液に上記金属亜鉛を添加して上記不純物元素を析出させる回数が、2回以上である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
[12]上記鉄沈殿物として水酸化鉄を析出させ、析出した上記水酸化鉄を上記亜鉛溶液から分離することにより、上記亜鉛溶液に含有される鉄を除去する、上記[1]~[11]のいずれかに記載の亜鉛回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製鉄ダストから亜鉛を回収する新規な方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】亜鉛回収方法の流れを示すフローチャートである。
図2】洗浄液のpHと洗浄後の洗浄液のF濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[亜鉛回収方法]
本実施形態の亜鉛回収方法を、図1に基づいて説明する。
図1は、亜鉛回収方法の流れを示すフローチャートである。
【0012】
〈製鉄ダストの準備〉
まず、亜鉛を回収する対象である製鉄ダストを準備する。
製鉄ダストは、高炉などの製鉄炉を用いた製鉄プロセスで生じた微粉末を、集塵機などの捕集装置を用いて、回収したダストである。
製鉄ダストとしては、例えば、高炉から回収される高炉ダスト;転炉から回収される転炉ダスト;電気炉から回収される電気炉ダスト;これらの製鉄炉から回収された製鉄ダスト(1次ダスト)を、還元炉を用いて還元して得られた2次ダスト;等が挙げられる。
【0013】
《洗浄前の製鉄ダストの成分組成》
製鉄ダストは、鉄(Fe)を含有するほか、亜鉛(Zn)を含有する。
例えば、電気炉では、鉄スクラップ等を溶融させて溶鉄を製造するが、鉄スクラップには亜鉛めっきが含まれるため、電気炉ダストは、これに由来する亜鉛を多く含有する。
【0014】
製鉄ダストは、更に、フッ素(F)、塩素(Cl)などのハロゲンを含有する。
製鉄ダストは、ハロゲン含有量が多いため、上述した不具合を生じさせ得る。
【0015】
(洗浄前の製鉄ダストのF含有量)
洗浄前の製鉄ダストのフッ素(F)含有量は、例えば0.050質量%以上であり、0.080質量%以上が好ましく、0.110質量%以上がより好ましく、0.140質量%以上が更に好ましく、0.170質量%以上が特に好ましい。
上限は特に限定されないが、洗浄前の製鉄ダストのF含有量は、例えば0.400質量%以下であり、0.300質量%以下であってもよい。
【0016】
(洗浄前の製鉄ダストのCl含有量)
洗浄前の製鉄ダストの塩素(Cl)含有量は、例えば0.400質量%以上であり、0.600質量%以上が好ましく、0.800質量%以上がより好ましく、1.000質量%以上が更に好ましく、1.200質量%以上が特に好ましい。
上限は特に限定されないが、洗浄前の製鉄ダストのF含有量は、例えば4.500質量%以下であり、3.500質量%以下であってもよい。
【0017】
なお、製鉄ダストなどの固体、および、後述する亜鉛溶液などの液体の成分組成は、特に断りの無い限り、金属元素はICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析法)を用いて定量し、フッ素、塩素などの元素はイオンクロマトグラフィー(対象が固体である場合は燃焼イオンクロマトグラフィー)を用いて求める(以下、同様)。
【0018】
本実施形態においては、亜鉛を回収する対象(亜鉛源)として、製鉄ダストのみを用いることが好ましい。
すなわち、本実施形態においては、閃亜鉛鉱、異極鉱などの亜鉛鉱石;亜鉛鉱石と製鉄ダストとの混合物;等は使用せずに、製鉄ダストのみを、後述する洗浄に供することが好ましい。
【0019】
〈製鉄ダストの洗浄:ハロゲンの除去〉
本実施形態においては、上述した製鉄ダストに対して、洗浄液を用いた洗浄を施す。
これにより、製鉄ダストからハロゲン(F、Clなど)が除去されるので、得られる亜鉛溶液のハロゲン含有量が減少し、上述した不具合の発生を抑制できる。
【0020】
《洗浄の態様》
洗浄液としては、例えば、水または水溶液が用いられる。
洗浄の方法としては、例えば、製鉄ダストと洗浄液との混合物(スラリー)を攪拌し、その後、スラリーから製鉄ダストを分離する方法が挙げられる。
この場合、攪拌時間は、例えば0.5~10時間であるが、これに限定されず、洗浄効果などに応じて適宜調整される。
攪拌後にスラリーから製鉄ダストを分離(固液分離)する方法は、特に限定されず、従来公知の方法(例えば、ろ過)を採用できる。
分離後の製鉄ダストを、更に、洗浄液を用いてリンスしてもよい。
【0021】
《洗浄液の温度》
洗浄液の温度は、例えば常温(5~35℃)である。
もっとも、洗浄効果がより優れるという理由から、洗浄液の温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましい。
一方、温度維持に要するエネルギーを抑える観点からは、洗浄液の温度は、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、70℃以下が更に好ましい。
【0022】
なお、洗浄液の温度は、実際には、洗浄時における洗浄液の温度を意味するから、上述した態様(スラリーを攪拌する態様)で洗浄する場合は、実際には、スラリーの温度を意味する。これは、後述する洗浄液のpHについても同様である。
【0023】
《洗浄液のpH》
洗浄効果(特に、Fを除去する効果)がより優れるという理由から、洗浄液は、アルカリ性であることが好ましい。具体的には、洗浄液のpHは、7.0超が好ましく、8.0以上がより好ましく、9.0以上が更に好ましく、9.5以上が特に好ましく、10.0以上が最も好ましい。
一方、洗浄液のpHが高すぎると、コストが上昇するほか、両性金属である亜鉛も洗浄液に溶出してロスが生じ得る。このため、洗浄液のpHは、13.0以下が好ましく、12.0以下がより好ましい。
【0024】
本実施形態においては、pHの調整には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性薬剤;硫酸(希硫酸、濃硫酸)、塩酸(希塩酸、濃塩酸)などの酸性薬剤;等が用いられる(以下、同様)。
【0025】
なお、用いる製鉄ダストによっては、製鉄ダストに含有されるカルシウム(Ca)成分などにより、製鉄ダストを洗浄液に混合させた時点で、洗浄液(スラリー)のpHが高い場合もあり得る。その場合には、更にpH調整しなくてもよい。
【0026】
《質量比(製鉄ダスト/洗浄液)》
製鉄ダストに対する洗浄液の量が少なすぎると、洗浄効果を効率的に得ることが難しい場合がある。一方、この量が多すぎると、例えば洗浄時におけるスラリーの総量が過大となり、ハンドリング性に支障をきたす場合がある。
このため、製鉄ダストと洗浄液との質量比(製鉄ダスト/洗浄液)は、1/100~1/1が好ましく、1/60~1/2がより好ましく、1/40~1/3が更に好ましく、1/16~1/4が特に好ましく、1/12~1/6が最も好ましい。
【0027】
《洗浄後の製鉄ダストの成分組成》
上述したように、製鉄ダストは、洗浄によりハロゲンが除去されて、ハロゲン含有量が減少する。
【0028】
(洗浄後の製鉄ダストのF含有量)
洗浄後の製鉄ダストのフッ素(F)含有量は、0.045質量%以下が好ましく、0.040質量%以下がより好ましく、0.030質量%以下が更に好ましく、0.025質量%以下が特に好ましい。
【0029】
(洗浄後の製鉄ダストのCl含有量)
洗浄後の製鉄ダストの塩素(Cl)含有量は、0.050質量%以下が好ましく、0.030質量%以下がより好ましく、0.012質量%以下が更に好ましく、0.010質量%以下がより更に好ましく、0.008質量%以下が特に好ましく、0.006質量%以下が最も好ましい。
【0030】
〈製鉄ダストの溶解:亜鉛溶液の取得〉
次に、洗浄後における製鉄ダストを、酸液を用いて溶解させて、亜鉛溶液を得る。
得られる亜鉛溶液は、製鉄ダストから浸出した元素として、少なくとも、亜鉛(Zn)および鉄(Fe)を含有する。すなわち、製鉄ダストからZnおよびFeが酸液に浸出し、ZnおよびFeが浸出した酸液を、亜鉛溶液として取得する。
【0031】
酸液は、例えば、上述した洗浄液(ただし未使用)に、上述した酸性薬剤(硫酸など)を添加することにより調製される。
【0032】
溶解の方法としては、例えば、製鉄ダストと酸液との混合物(スラリー)を攪拌し、その後、スラリーから製鉄ダストを分離する方法が挙げられる。
この場合、攪拌時間は、例えば0.5~5時間である。スラリーの温度は、例えば30~70℃であり、40~60℃であってもよい。製鉄ダストと酸液との質量比(製鉄ダスト/酸液)は、1/10~8/10が好ましく、2/10~5/10がより好ましい。
ただし、これらの条件は一例であり、適宜変更される。
攪拌後にスラリーから製鉄ダストを分離(固液分離)する方法は、特に限定されず、従来公知の方法(例えば、ろ過)を採用できる。ろ過を採用する場合は、ろ液が亜鉛溶液として取得される。
【0033】
ところで、亜鉛溶液に含有される鉄(Fe)は不純物元素であるから、製鉄ダストから酸液へのFeの浸出は、なるべく抑制されることが好ましい。
そこで、本発明者らが、亜鉛の電位-pH図および鉄の電位-pH図(いずれも図示せず)を参照して検討したところ、以下の事項を見出した。
まず、亜鉛は、水の安定領域においては、pHの高低に応じて溶解または沈殿するのみであり、酸化還元電位の影響は、ほとんど受けない。
一方、鉄は、酸性の領域において、酸化還元電位の影響を受けやすく、酸化還元電位が高い(すなわち、酸化力が高い)領域では、かなり低いpHまで溶解せず、固形物(酸化物)の状態が安定である。
【0034】
本発明者らは更に検討した。その結果、亜鉛溶液を得る際に、酸液のpHおよび酸化還元電位を特定の範囲に調整することにより、製鉄ダストから酸液への鉄(Fe)の浸出を抑制しつつ、亜鉛(Zn)を浸出できることを見出した。これにより、Fe濃度が低い亜鉛溶液が得られる。
【0035】
なお、酸液のpHおよび酸化還元電位は、上述した態様(スラリーを攪拌する態様)で製鉄ダストを溶解する場合は、実際には、それぞれ、スラリーのpHおよび酸化還元電位を意味する。
【0036】
具体的には、鉄(Fe)の浸出を抑制する観点から、酸液のpHは、2.0以上であり、2.5以上が好ましく、2.5超がより好ましく、2.6以上が更に好ましく、2.7以上がより更に好ましく、2.8以上が特に好ましい。
一方で、pHが高すぎると、亜鉛(Zn)が浸出しにくい。このため、Znを浸出させる観点からは、酸液のpHは、5.0以下であり、4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.5以下が更に好ましい。
【0037】
また、酸化還元電位が低すぎると、比較的に高いpH領域で、鉄が浸出しやすい。
これを抑制するため、酸液の酸化還元電位は、-0.1V以上であり、0.2V以上が好ましく、0.5V以上がより好ましく、0.8V以上が更に好ましい。
一方、上限は特に限定されないが、酸化還元電位を調整する(上昇させる)際のコストを低減する観点からは、酸液の酸化還元電位は、1.8V以下が好ましく、1.5V以下がより好ましく、1.2V以下が更に好ましい。
【0038】
酸化還元電位は、標準水素電極を用いて測定される値である。
酸液の酸化還元電位を調整する(上昇させる)方法としては、過酸化水素などの酸化剤を酸液に添加する方法が挙げられる。
【0039】
ところで、酸液は、上述したように、例えば、硫酸などの酸性薬剤を洗浄液に添加することにより調製され、酸液のpHも、このようにして調整される。
このとき、以下の理由から、pHよりも先に酸化還元電位を調整することが好ましい。
先に酸性薬剤を添加してpHを下げると、鉄(Fe)の溶解が始まる。その後、酸化剤を添加して酸化還元電位を上昇させると、鉄沈殿物(水酸化鉄)が生成し、水酸化物イオンが消費されて、pHが上昇する。この場合、再び、酸性薬剤を添加してpHを低下させることを要するが、そうすると、再びFeが溶解し、酸化還元電位が低下する。
このような繰り返しが発生すると、酸性薬剤および酸化剤の消費量が増大してコストが増えるほか、Feの浸出を抑制する効果も不十分となりやすい。
【0040】
以上の理由から、酸液のpHよりも先に、酸液の酸化還元電位を調整することが好ましい。具体的には、例えば、まず、酸液(または、酸液となる洗浄液)に酸化剤を添加して、酸化還元電位を上昇させる。次いで、硫酸などの酸性薬剤を添加して、pHを低下させる。これにより、コストを抑えつつ、製鉄ダストから酸液へのFeの浸出を抑制する効果を最大化できる。
なお、pHを低下させる途中で、酸化還元電位の多少の低下が見られる場合もある。その場合は、酸化剤の追加で添加して、酸化還元電位を安定させることが好ましい。
【0041】
《洗浄後の製鉄ダストを溶解させて得られる亜鉛溶液の成分組成》
洗浄後の製鉄ダストを溶解させて得られる亜鉛溶液は、上述したように、少なくとも亜鉛(Zn)を含有するほか、洗浄後の製鉄ダストはハロゲンが除去されているため、ハロゲン(F、Cl)などが少ない。
【0042】
(Zn濃度)
洗浄後の製鉄ダストを溶解させて得られる亜鉛溶液の亜鉛(Zn)濃度は、50,000~150,000mg/Lが好ましく、100,000~140,000mg/Lがより好ましい。
【0043】
(F濃度)
洗浄後の製鉄ダストを溶解させて得られる亜鉛溶液のフッ素(F)濃度は、280mg/L以下が好ましく、140mg/L以下がより好ましく、80mg/L以下が更に好ましく、60mg/L以下がより更に好ましく、40mg/L以下が特に好ましく、25mg/L以下が最も好ましい。
【0044】
(Cl濃度)
洗浄後の製鉄ダストを溶解させて得られる亜鉛溶液の塩素(Cl)濃度は、260mg/L以下が好ましく、150mg/L以下がより好ましく、100mg/L以下が更に好ましく、80mg/L以下がより更に好ましく、60mg/L以下が特に好ましく、40mg/L以下が最も好ましい。
【0045】
〈金属亜鉛の添加:不純物元素の析出〉
次に、亜鉛溶液に金属亜鉛を添加する。金属亜鉛としては、例えば、亜鉛粉末、亜鉛粒、亜鉛板などが用いられる。
これにより、亜鉛溶液に含有される不純物元素を、イオン化傾向を利用して、添加した金属亜鉛の表面に析出させる。これを、「セメンテーション」ともいう。
【0046】
ここで、不純物元素は、基本的には、亜鉛(Zn)よりもイオン化傾向の小さい元素であり、例えば、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、銅(Cu)等である。
すなわち、亜鉛溶液に金属亜鉛を添加することにより、亜鉛溶液に含有される不純物元素(亜鉛よりもイオン化傾向の小さい元素)のイオンが還元されて金属亜鉛の表面に析出し、代わりに、金属亜鉛の一部がイオン化(溶解)して亜鉛溶液に放出される。
その後、不純物元素が表面に析出した金属亜鉛を、亜鉛溶液から分離(固液分離)する。固液分離の方法は、特に限定されず、従来公知の方法(例えば、ろ過)を採用できる。
こうして、亜鉛溶液に含有される不純物元素の少なくとも一部が除去される。
【0047】
《金属亜鉛を添加する際の亜鉛溶液のpH》
金属亜鉛を添加する際に、亜鉛溶液のpHを調整することが好ましい。
このとき、亜鉛溶液のpHが高すぎると、不純物元素を析出させる効果が得られにくい場合がある。このため、亜鉛溶液のpHは、6.5以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.5以下が更に好ましい。
一方、亜鉛溶液のpHが低すぎると、添加した金属亜鉛の溶解が優勢となり、やはり、不純物元素を析出させる効果が得られにくい。このため、亜鉛溶液のpHは、2.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、3.5以上が更に好ましい。
【0048】
《金属亜鉛を添加する際の亜鉛溶液の温度》
不純物元素を析出させる効果を促進する観点から、金属亜鉛を添加する際、亜鉛溶液の温度は、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましい。上限は特に限定されず、例えば80℃であり、70℃であってもよい。
【0049】
《金属亜鉛の添加量》
亜鉛溶液に金属亜鉛を添加する量が少なすぎると、金属亜鉛の全量が溶解しやすく、不純物元素を析出させる効果が得られにくい場合がある。このため、金属亜鉛の添加量は、亜鉛溶液に対して、1g/L以上が好ましく、3g/L以上がより好ましい。
一方、金属亜鉛は高価であるため、コストの観点から、金属亜鉛の添加量は、亜鉛溶液に対して、10g/L以下が好ましく、8g/L以下がより好ましく、6g/L以下が更に好ましい。
【0050】
《添加回数》
金属亜鉛の添加(その後の固液分離も含む)の回数は、1回に限定されず、不純物元素を十分に除去する観点から、2回以上が好ましく、3回以上であってもよい。
【0051】
〈鉄沈殿物の析出〉
上述したように、本実施形態において、製鉄ダストから得られる亜鉛溶液は、Fe濃度が低い。もっとも、製鉄ダストからのFe浸出を完全に防ぐことはできず、亜鉛溶液には、微量の鉄(Fe)が含有される。
そして、亜鉛溶液に含有される鉄(Fe)は、亜鉛(Zn)よりもイオン化傾向の小さい不純物元素であるが、上述した金属亜鉛の添加だけでは十分に除去されず、残存する。
そこで、亜鉛溶液に残存する鉄を、鉄沈殿物として析出させ、析出した鉄沈殿物を分離(固液分離)する。固液分離の方法は、特に限定されず、従来公知の方法(例えば、ろ過)を採用できる。
こうして、亜鉛溶液に含有される鉄が、更に除去される。
【0052】
鉄沈殿物は、例えば、水酸化鉄(III)などの水酸化鉄である。
水酸化鉄を析出させる方法としては、従来公知の方法を適宜採用でき、例えば、電位-pH図を参照して、亜鉛溶液のpHおよび酸化還元電位(ORP)を調整し、撹拌する方法が挙げられる。酸化還元電位を調整する方法としては、例えば、過酸化水素を添加する方法が挙げられる。これにより、亜鉛溶液に含有される亜鉛(Zn)および鉄(Fe)のうち、鉄のみを沈殿させる。
【0053】
なお、上述したように、亜鉛溶液のFe濃度は低く、除去すべき鉄の量は極端に少ないことから、固液分離の負荷、鉄沈殿物(水酸化鉄)の含水率に起因する液ロス、歩留の悪化などは、最小限に抑えられる。
【0054】
〈亜鉛溶液の電解:亜鉛の析出〉
次に、鉄などの不純物元素が除去された亜鉛溶液に電極(陰極および陽極)を入れて電解する。これにより、亜鉛溶液に含有される亜鉛(Zn)を、陰極表面に析出させる。
【0055】
電極の条件は、特に限定されない。
例えば、陰極として、アルミニウム電極、陽極として、鉛-銀電極を用いる。
電極の際に、亜鉛溶液を水で希釈して、亜鉛濃度を例えば30~80g/Lに調整してもよい。亜鉛溶液の硫酸濃度は、例えば150~200g/Lであり、亜鉛溶液の温度(液温)は、30~50℃が好ましい。亜鉛溶液には、にかわ、ゼラチン等の添加剤を添加してもよい。電解は、例えば300~700A/mの電流密度で、定電流電解として実施する。
【0056】
その後、析出した亜鉛(析出亜鉛)を陰極表面から剥離する。こうして、製鉄ダストから、亜鉛を回収できる。
このとき、上述したように、事前に、洗浄によって製鉄ダストからハロゲン(F、Clなど)が除去されているため、製鉄ダストから得られる亜鉛溶液のハロゲン濃度も少ない。その結果、ハロゲンに起因する不具合(陰極表面と析出亜鉛との密着、析出亜鉛の純度低下など)の発生が抑制される。
【実施例0057】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
【0058】
〈製鉄ダストの準備〉
製鉄ダストとして、1次ダストを還元して得られた2次ダストであるダストE1を用いた。ダストE1の成分組成の一部を下記表1に示す。
【0059】
【表1】


【0060】
〈製鉄ダストの洗浄〉
次に、ダストE1を、洗浄液を用いて洗浄した。
より詳細には、まず、ダストE1と洗浄液とを、1/10の質量比(ダストE1/洗浄液)で混合し、スラリーを得た。洗浄液としては、pH無調整の水を用いた。
得られたスラリーを、温度70℃に制御しながら1時間攪拌した。その後、スラリーからダストE1を固液分離した。
洗浄(混合から固液分離までの処理)は、3回繰り返して実施した。洗浄後におけるダストE1の成分組成(FおよびClのみ)を下記表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
上記表1および表2に示す結果から、ダストE1を洗浄することにより、ダストE1のハロゲン(FおよびCl)含有量が減少しており、ダストE1からハロゲンが除去されたことが分かった。また、洗浄の回数を増やすことにより、ハロゲンを除去する効果が増加する傾向が見られた。
【0063】
次に、洗浄液として、上述したpH無調整の水のほか、水に水酸化ナトリウムを添加した複数種類のアルカリ性水溶液を用いて、上記と同様の条件(温度70℃など)で、ダストE1を洗浄した。洗浄後における洗浄液の成分組成として、代表的に、F濃度(単位:mg/L)を測定した。結果を図2に示す。
【0064】
図2は、洗浄液のpHと洗浄後の洗浄液のF濃度との関係を示すグラフである。
図2のグラフに示すように、洗浄液のpHが上昇するに従い、洗浄後における洗浄液のF濃度が上昇しており、ダストE1からより多くのハロゲン(Fなど)が除去されたことが分かった。
【0065】
上記結果を踏まえて、改めて、ダストE1を洗浄した。
具体的には、pHが11.0のアルカリ水溶液を洗浄液として用いて、ダストE1と洗浄液とを、1/10の質量比(ダストE1/洗浄液)で混合し、得られたスラリーを、温度70℃に制御しながら1時間攪拌した。その後、スラリーからダストE1を固液分離した。洗浄(混合から固液分離までの処理)は、3回繰り返して実施した。
【0066】
〈製鉄ダストの溶解〉
次に、洗浄後のダストE1を、3/10の質量比(ダストE1/酸液)で酸液に溶解させて、亜鉛溶液F1を得た。
より詳細には、まず、ダストE1を、上述した洗浄液(未使用)に再び添加し、次いで、過酸化水素を添加した。過酸化水素は、酸化還元電位の上昇が鈍り、頭打ちとなるまで添加した。具体的には、酸化還元電位を1.0Vまで上昇させた。その後、硫酸を添加してpHを3.0まで低下させた。このようにして得られたスラリーを、pHを維持しつつ、温度50℃に制御しながら1時間攪拌した。その後、ダストE1の残渣を固液分離し、ろ液を亜鉛溶液F1として回収した。
亜鉛溶液F1の成分組成の一部を下記表3に示す。
【0067】
なお、下記表3には、比較のため、亜鉛溶液F2の成分組成も、併せて示す。
亜鉛溶液F2は、pHが1.9の酸液を用い、かつ、酸化還元電位の調整を実施しないで、ダストE1の溶解をさせて得られた亜鉛溶液である。
【0068】
また、下記表3には、比較のため、亜鉛溶液F3の成分組成も、併せて示す。
亜鉛溶液F3は、亜鉛溶液F1とは異なる手順によって得られた亜鉛溶液である。
すなわち、過酸化水素を添加する前に、まず、硫酸を添加してpHを3.0まで低下させた。このとき、上述したように、ダストE1のFeの溶解が生じたと考えられる。その後に、過酸化水素を添加したが、酸化還元電位は上昇せず、pHが上昇した。
次いで、再び硫酸を添加してpHを低下させ、その後に、再び過酸化水素を添加したが、同様の挙動を示した。
更に、硫酸および過酸化水素を同様の手順で繰り返し添加したことで、最終的に、酸化還元電位の上昇が見られた。これはFeの溶解が、ほぼ終了したためと考えられる。
【0069】
【表3】
【0070】
上記表3に示す結果から分かるように、亜鉛溶液F1は、亜鉛溶液F2および亜鉛溶液F3と比較して、Fe濃度が低く、ダストE1からのFeの浸出を抑制できていることが分かった。
【0071】
〈金属亜鉛の添加および鉄沈殿物の析出〉
次に、亜鉛溶液F1に、金属亜鉛を添加して、セメンテーションを実施した。
具体的には、亜鉛溶液F1のpHを4.0に調整してから、亜鉛溶液F1の温度を70℃に制御しながら、金属亜鉛として亜鉛粉末を添加して、2時間撹拌した。金属亜鉛の添加量は、亜鉛溶液F1に対して、5g/Lとした。
こうして、亜鉛溶液F1に含有される鉛(Pb)などの不純物元素を、添加した金属亜鉛(亜鉛粉末)の表面に析出させた。その後、亜鉛溶液F1から、不純物元素が析出した金属亜鉛(亜鉛粉末)を固液分離した。
金属亜鉛の添加(その後の固液分離も含む)は、2回繰り返して実施した。
【0072】
次に、亜鉛溶液F1に、鉄沈殿物を析出させた。
具体的には、亜鉛溶液F1のpHを4.3まで上昇させてから、過酸化水素を添加した。このとき、ORP計を用いて測定される酸化還元電位が上がり切るまで、過酸化水素を添加した。その後、30分間撹拌し、鉄沈殿物として、水酸化鉄を析出させた。その後、亜鉛溶液F1から、鉄沈殿物(水酸化鉄)を固液分離した。
鉄沈殿物の析出(その後の固液分離も含む)後における亜鉛溶液F1の成分組成の一部を、下記表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
上記表4に示すように、金属亜鉛の添加および鉄沈殿物の析出の実施によって、その実施前(表3参照)と比較して、鉛(Pb)、スズ(Sn)、鉄(Fe)などが減少しており、これらの不純物元素が亜鉛溶液F1から除去されたことが分かった。
なお、亜鉛(Zn)が増えているのは、添加した金属亜鉛(亜鉛粉末)の一部が亜鉛溶液F1に溶解して溶出したためである。
【0075】
ダストE1の成分組成(表1参照)と、亜鉛溶液F1の成分組成(表3参照)とに基づいて算出される亜鉛の浸出率は、91質量%であった。
【0076】
ところで、亜鉛溶液F1よりもFe濃度が高い亜鉛溶液F2(表3参照)についても、亜鉛溶液F1と同様にして、不純物元素を除去した。
しかし、亜鉛溶液F1と同程度のFe濃度(表4参照)となるまでFeを除去するためには、亜鉛溶液F1と比べて、多量の鉄沈殿物(水酸化鉄)を析出させる必要があり、固液分離の際に液ロスが多く発生した。
これに対して、亜鉛溶液F1においては、鉄沈殿物の析出量が少なく、その結果、固液分離の際の負荷が少なく、また、液ロスも少量に抑制できた。
【0077】
〈亜鉛溶液の電解〉
次に、亜鉛溶液F1に、電極(陰極および陽極)を入れて、電解を実施した。
具体的には、純水で希釈して亜鉛濃度を45g/Lに調整した亜鉛溶液F1を電解液として、500mLの電解槽に投入し、これに、有効な電極面積が約50mm×50mmである板状の電極(陰極および陽極)を入れた。陰極としては、アルミニウム電極を用い、かつ、陽極としては、0.8質量%の銀が添加された鉛電極(鉛-銀電極)を用いた。電極間距離は、30mmとした。ゼラチンを0.1g/Lの添加量で添加し、液温を40℃に制御して、500A/mの電流密度で、定電流電解を24時間連続で実施した。電解を開始してから6および12時間経過後に、電解液の半分を抜き出し、亜鉛濃度を90g/Lに調整した亜鉛溶液F1と入れ替えて、電解液の亜鉛濃度を維持した。
【0078】
こうして、24時間の連続電解を実施することにより、陰極(アルミニウム電極)表面に亜鉛を析出させた。その後、析出亜鉛を陰極表面から剥離した。
このとき、陰極表面と析出亜鉛との過剰な密着は認められず、析出亜鉛を、陰極表面から容易に剥離して、回収できた。回収した析出亜鉛の質量は、42.3gであった。
【0079】
回収した析出亜鉛(析出亜鉛G1)を、ICP-MSを用いて定性分析し、微量の金属元素を同定し、その後、定量分析した。検出した微量の金属元素の含有量を100質量%から減じる差分法により、回収した析出亜鉛G1のZn含有量を算出した。結果を下記表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
上記表5に示すように、回収した析出亜鉛G1のZn含有量は、非常に高く、製鉄ダスト(ダストE1)のみから、高純度の亜鉛を回収できたことが分かった。
図1
図2