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  • 特開-ポリエステル融着延伸仮撚加工糸 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101752
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】ポリエステル融着延伸仮撚加工糸
(51)【国際特許分類】
   D02G 1/02 20060101AFI20250630BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20250630BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20250630BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20250630BHJP
【FI】
D02G1/02 A
D01F6/84 305B
D01F6/92 307A
D02G3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024228235
(22)【出願日】2024-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2023217686
(32)【優先日】2023-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 頌太
(72)【発明者】
【氏名】大西 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太郎
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035FF08
4L035GG00
4L035HH10
4L036MA05
4L036PA01
4L036PA03
4L036PA05
4L036RA10
4L036UA01
4L036UA25
(57)【要約】
【課題】 カチオン可染なポリエステルマルチフィラメントからなり、シャリ感やドライ感、かつソフトな風合いを有した織編み物を与え得るポリエステル融着延伸仮撚加工糸を提供する。
【解決手段】 ポリエステルマルチフィラメントからなる融着延伸仮撚加工糸であって、撚り方向と同一方向の未解撚部と撚り方向とは反対方向のオーバー解撚部とが交互に繊維の長手方向に存在し、A~Cを満足するポリエステル融着延伸仮撚加工糸。A.金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.6~2.5モル%含有。B.繊維の長手方向に存在する未解撚部の長さの割合が1.0~20.0%。C.オーバー解撚部における単糸間融着率が0~20.0%。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルマルチフィラメントからなる融着延伸仮撚加工糸であって、
撚り方向と同一方向の未解撚部と撚り方向とは反対方向のオーバー解撚部とが交互に繊維の長手方向に存在し、
下記A~Cを満足するポリエステル融着延伸仮撚加工糸。
A.金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.6~2.5モル%含有
B.繊維の長手方向に存在する未解撚部の長さの割合が1.0~20.0%
C.オーバー解撚部における単糸間融着率が0~20.0%
【請求項2】
ポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度が0.3~1.5dtexである、請求項1記載のポリエステル融着延伸仮撚加工糸。
【請求項3】
DSCにより測定される200℃以上の吸熱ピークを2個以上有する、請求項1のポリエステルマルチフィラメント融着延伸仮撚加工糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン可染なポリエステルマルチフィラメントからなり、シャリ感やドライ感、かつソフトな風合いを有した織編み物を与え得るポリエステル融着延伸仮撚加工糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、機械的特性をはじめ、様々な優れた特性から一般衣料用分野をはじめ各種分野に広く利用されている。衣料用途では、編織物にした際にシャリ感やドライ感を有した麻調素材として、ポリエステル融着延伸仮撚加工糸が多く提案されている。
これらは、仮撚加工時に加撚されたマルチフィラメントが加熱により軽く融着し、撚りが固定、集束した撚り方向と同一方向の未解撚部と撚り方向とは反対方向に過剰に解撚されたオーバー解撚部を交互に糸の長手方向に存在させ、未解撚部の長さと割合によって、肌触り、風合いおよび編織物の模様表現を変化させることが可能である。その中でも、撚り形態や実撚部の存在比率をコントロールすることで、ハリコシ感、ドライ感を付与させた融着仮撚加工糸が種々提案されている。(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
さらに、ポリエステルマルチフィラメントの発色性改良を目的に、カチオン可染成分を共重合することによって、発色性に優れたカチオン可染ポリエステル融着仮撚加工糸が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-70508号公報
【特許文献2】特開2020-63542号公報
【特許文献3】特開2013-181250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3記載の方法にて得たカチオン可染ポリエステル融着延伸仮撚加工糸は未解撚比率が高く、捲縮部の嵩高性、ソフト性も乏しいことから、編織物ではハリコシが強く、肌触りも硬い素材となった。特許文献1,2記載の方法を用いて未解撚比率を下げたが、カチオン可染成分を共重合したポリマーのみを用いているため、融点が低いことに起因し単糸間が融着しやすく、オーバー解撚部の単糸間融着率が高くなり、依然として編織物とした際にソフトな風合いを得られなかった。
そこで本発明は、カチオン可染なポリエステルマルチフィラメントからなり、かつシャリ感やドライ感、かつソフトな風合いを有した織編み物を与え得るポリエステル融着延伸仮撚加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
1.融着延伸仮撚加工糸であって、撚り方向と同一方向の未解撚部と撚り方向とは反対方向のオーバー解撚部とが交互に繊維の長手方向に存在し、下記A~Cを満足するポリエステル融着延伸仮撚加工糸。
A.金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.6~2.5モル%含有
B.繊維の長手方向に存在する未解撚部の長さの割合が1.0~20.0%
C.オーバー解撚部における単糸間融着率が0~20.0%
2.ポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度が0.3~1.5dtexである、上記1.のポリエステル融着延伸仮撚加工糸。
3.DSCにより測定される200℃以上の吸熱ピークを2個以上有する、上記1.のポリエステルマルチフィラメント融着延伸仮撚加工糸。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、融着延伸仮撚加工糸が従来もつ適度なシャリ感とドライ感に加え、ソフトな風合いと染色後の鮮やかな高発色性を発現させることができるポリエステル融着延伸仮撚加工糸が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸を例示説明するための模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸は、カチオン可染なポリエステルマルチフィラメントからなる融着延伸仮撚加工糸であって、撚り方向と同一方向の未解撚部と、撚り方向とは反対方向のオーバー解撚部とが交互に繊維の長手方向に存在している。
【0010】
本発明に用いる原料ポリマーはポリエステルであり、ポリエステルの主成分は、機械的性質と布帛風合いの観点からテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体及びエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体を、エステル化またはエステル交換反応させた後に得られるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0011】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸は、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分(SI成分)をポリエステルの全酸成分に対して0.6~2.5モル%含有する。SI成分の含有量が0.6モル%未満であると、カチオン染料で十分に染色されず、発色鮮明性が不足する。また、SI成分の含有量が2.5モル%より多いと、融点が低いポリエステル部分の割合が増え、延伸仮撚加工時に強固な融着が発生しやすくなり、解撚後のオーバー解撚部の単糸間の融着が多くなるため、生地にした際に風合いが硬くなる。SI成分の含有量は、より好ましくは1.0~2.3モル%である。
【0012】
金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分としては、公知の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を使用することができるが、好ましくは5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルである。
【0013】
図1は、本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸の一部を示す模式側面図である。
【0014】
図1において、本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸は、加撚されたマルチフィラメントが加熱により軽く融着し、撚りが固定、集束した撚り方向と同一方向の未解撚部(1)と、撚り方向とは反対方向に過剰に解撚されたオーバー解撚部(2)とが、繊維の長手方向に交互に存在している。
【0015】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸における一定の長さ間の糸の長手方向に未解撚部分が占める割合である未解撚部の長さの割合は、1.0~20.0%である。
未解撚部の長さの割合が1.0%未満であると融着延伸仮撚加工糸特有のシャリ感とドライ感が失われる。また、未解撚部の長さの割合が20.0%より高いと生地にした際にソフトな風合いが得られない。より好ましくい未解撚部の長さの割合は5%以上である。
【0016】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸における平均未解撚長は、0.5~5. 0mmであることが好ましい。平均未解撚長が0.5mm以上の場合、十分なシャリ感とドライ感が得られる。また、5.0mm以下の場合、未解撚部が肌に触れにくくなるため硬い肌触りが軽減され、ソフト感が向上する。より好ましくは、0.7~3.0mmである。
【0017】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸におけるオーバー解撚部の単糸間融着率は0~20.0%である。単糸間融着率が20.0%より高いと生地にした際に風合いが硬くなる。より好ましくい単糸間融着率は13.0%以下である。
【0018】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸の単糸繊度は0.3~1.5dtexが好ましい。単糸繊度を0.3dtex以上とすることでオーバー解撚部の単糸間の融着を抑制でき、ソフトな風合いを維持することができる。また、単糸繊度を1.5dtex以下とすることで生地にした際の曲げ剛性を抑制し、糸条法線方向では非常に曲がり易く、ソフトな風合いの編織物が得られる。より好ましくは0.5~1.2dtexである。
【0019】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸の総繊度は40~85dtexであることが好ましく、より好ましくは45~81dtexである。総繊度が85dtex以下であると、他種のホモポリエステル繊維や天然繊維からなる糸条と交編または交織して編織物の布帛にした際に、厚手にならず清涼感が保たれる。また、総繊度が40dtex以上であると、適度なシャリ感とドライ感が得られる。
【0020】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸の破断伸度は、10~60%であることが好ましい。かかる範囲にすることでカチオン染色後の発色鮮明性や、製糸や高次での工程通過性が向上する。より好ましくは13~45%である。
【0021】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸のDSCにより測定される200℃以上の吸熱ピークは、2個以上有することが好ましい。吸熱ピークが2個以上あることで単糸間の融着が弱くなり、解撚後、オーバー解撚部の単糸間の細かな融着部が残存しにくくなり、織編み物にした際の風合いがソフトになり好ましい。前記吸熱ピークの数の上限は4個である。
【0022】
次に、本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸の製造方法を記載する。
本発明におけるポリエステル融着延伸仮撚糸は、DSCにより測定される融点の異なる2種類のポリエステルを溶融紡糸し、部分配向未延伸糸を得た後、延伸仮撚り加工することによって得られる。
【0023】
融点の異なる2種類のポリエステルとして、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体を、エステル化またはエステル交換反応させた後に得られるポリエステル(以下、ポリエステルAと称す)と、ポリエステルAに第3成分としてSI成分を共重合したポリエステル(以下、共重合ポリエステルBと称す)を用いる。
【0024】
このSI成分(金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分)は、好ましくは5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルである。
【0025】
共重合ポリエステルBにおいて共重合されるSI成分量は、共重合ポリエステルBにおける全カルボン酸成分に対して3.9~6.0モル%であることが相溶性の観点から好ましい。より好ましいSI成分量は4.3~5.0モル%である。SI成分量をかかる範囲とすることにより、2種のポリエステルポリマーの相溶性が増し、各成分の局在化を抑制することができる。
【0026】
上記ポリエステルA、および共重合ポリエステルBは、本発明の目的を逸脱しない範囲で第4の成分を共重合してもよく、またリサイクル原料を用いてもよい。さらに、添加剤、例えば艶消剤や顔料、染料、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、あるいは吸湿剤などの機能剤を添加しても良い。
【0027】
ポリエステルAの溶融粘度(Pa)と共重合ポリエステルBの溶融粘度(Pb)の比(Pb/Pa)は0.7~2.0とするのが相溶性の観点から好ましい。溶融粘度比をかかる範囲とすることによって2種類のポリエステルの相溶性が増し、ポリエステルの溶融紡糸の操業性が安定する。また、ポリエステルA、共重合ポリエステルBの局在化を抑制できるため、未解撚部とオーバー解撚部が長手方向に均一に存在するようになる。
【0028】
ポリエステルAの重量(Wa)と共重合ポリエステルBの重量(Wb)のブレンド比(Wb/Wa)は、1.0以下が好ましい。ブレンド比(Wb/Wa)を1.0以下とすることにより、繊維中に含まれる融点の低いポリエステルBの割合が減少するため、延伸仮撚加工後のポリエステルマルチフィラメントにおける単糸間の融着力が弱まり、解撚後のオーバー解撚部の単糸間融着率を低くすることができる。より好ましいブレンド比(Wb/Wa)は0.7以下である。
【0029】
ポリエステルAと共重合ポリエステルBを溶融混錬、混合する方法として、2種類のポリエステルポリマーを別々に溶融してミキサーで溶融混練する方法や、2種類のポリエステルポリマーをチップの状態で混合してから溶融する方法などを用いることができる。
【0030】
また、これらを組み合わせた方法を用いると、共重合ポリエステルBを偏りなくマルチフィラメント中に分散させた相溶系を実現することができる。共重合ポリエステルBがマルチフィラメント中に局在化するとオーバー解撚部の単糸間融着率が高くなり、生地にした際に風合いが硬くなる。より具体的には、ポリエステルAと共重合ポリエステルBをそれぞれチップ化、計量し、混合した後、エクストルーダーを用いて溶融混練し、更に配管ミキサーにより攪拌混合する。
【0031】
溶融混錬では、単軸あるいは複軸のエクストルーダーにより強固に混練することが好ましい。溶融混錬後の攪拌混合に用いる配管ミキサーは、配管内に180度の右捻りエレメントと左捻りエレメントとを移送方向(流れ方向)に交互に直交位置に隣接させて配することで、被移送体へ位置変換と分割作用とを繰返し与えるものが好ましい。分割作用、位置変換の回数は5回以上とすると、2種のポリエステルポリマーを強固に攪拌混合できるため好ましく、より好ましくは6回以上である。
【0032】
本発明において、エクストルーダーでの溶融混錬、配管ミキサーでの攪拌混合の総時間は30分以下が好ましく、20分以下がより好ましい。ポリエステルAと共重合ポリエステルBの溶融混錬、攪拌混合している時間が短いと、各々のポリエステルのエステル交換反応が抑制され、DSCにより測定される各々のポリエステル固有の融点ピークが消失しない。結果として、単糸間の融着が弱くなり、解撚後、オーバー解撚部の単糸間の細かな融着部が残存しにくくなり、織編み物にした際の風合いがソフトになり好ましい。
【0033】
2種のポリエステルポリマーを上記手法で275~300℃の温度で溶融混合し、紡糸口金から吐出し、糸条を形成させ、冷却風を吹き付けることによって糸条を冷却して、収束した後、油剤と交絡を付与し、巻取ったパッケージとすることができる。部分配向未延伸糸は、一般的に紡糸速度2000~4000m/分で紡糸、巻き取られ、ポリマー分子鎖の配向が進んでいる部分とそうでない部分が混在した状態ではなく、糸条長手方向で均一な分子鎖の配向状態である。
【0034】
部分配向未延伸糸は、紡糸速度2000~3000m/分の範囲で紡糸することが好ましい。紡糸速度を2000m/分以上とすることで、単糸間融着が弱くなり、軽く融着した未解撚部をもつ糸を得ることができる。紡糸速度が3000m/分以下とすることで、単糸間の融着が発生しやすくなる。
【0035】
次いで、部分配向未延伸糸を延伸仮撚り加工することにより、本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得ることができる。通常、延伸仮撚り加工は、マルチフィラメント部分配向未延伸糸を延伸しながら、仮撚りを施す加工方法であり、糸条は加熱されながら加撚され、その後解撚されて嵩高な風合いとなる。
【0036】
本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸は、マルチフィラメントを延伸仮撚り加工する際に、仮撚ヒーター温度を共重合ポリエステルBの融点近傍の温度にて加工することにより、加撚時に加熱により単糸間で軽い融着が発現し未解撚部となる。また、単糸間の融着が弱い部分のみ解撚時に融着が解かれ、オーバー解撚部となる。さらに、仮撚り後に追延伸することで、さらに単糸間融着を破壊し、未解撚部の空隙率を向上させ、オーバー解撚部の単糸間融着率を0~20.0%にすることができ、本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得ることができる。
【0037】
具体的な製造方法の一例として、仮撚ヒーター(第1ヒーター)温度は、融着性と操業性の観点から225~248℃が好ましい。仮撚ヒーター温度は、更に好ましくは226~240℃である。仮撚加工は、回転型フリクションディスクに糸条を接触させ、撚りを掛ける。加工時の糸速度に対するフリクションディスク表面速度は1.5~2.5倍で加工することが好ましく、また加撚部の糸張力T1に対する解撚部の糸張力T2を表す、張力比T2/T1は0.5~1.5が好ましい。仮撚後に、第2ヒーターを用いて糸条のトルクを除去してパッケージに巻き取る。延伸仮撚りの倍率は1.05~1.80倍で実施し、追延伸の倍率は1.05~1.20倍の範囲で実施することが好ましい。
【実施例0038】
次に、実施例により本発明のポリエステル融着延伸仮撚加工糸について、詳細に説明する。実施例と比較例中に使用した各測定値と評価は、次の測定法により求めた。
【0039】
<金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分(SI成分)>
チップ、繊維試料を、蛍光X線分析装置((株)リガク製 ZSX-100e)を用い、元素を分析した。S元素量にS成分の分子量を乗ずることで算出した。
【0040】
<溶融粘度>
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率150ppm以下とし、メルトインデクサー(立山科学工業社製 L225-41)を用いて溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様290℃、荷重は1000g、測定距離は2.54cm、オリフィス内径は0.2095cm、オリフィス長は0.8000cm、ピストン径は0.9478cmとし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0041】
<マルチフィラメントの総繊度>
総繊度の測定は、ポリエステル融着延伸仮撚加工糸を解舒張力1/11.1g/dtexで枠周1.0mの検尺機で100回巻き、天秤を用いて質量を測定し、100倍することにより総繊度(10000mの質量)とした。
【0042】
<単糸繊度>
前記の得られたマルチフィラメントの総繊度を、糸条を構成するフィラメント数で割り返した値を単糸繊度とした。
【0043】
<破断伸度>
破断伸度の測定は、引張試験機(オリエンテック製 TENSILON RTC-1210A)を用い、JIS L1013(2010、化学繊維フィラメント糸試験方法)に従い、掴み間隔は20cm、引張速度は40cm/分で、荷重―伸び曲線(S-S曲線)を測定した。破断伸度はS-S曲線における破断強力を示した点の伸びから求めた。
【0044】
<吸熱ピークの数>
繊維試料を、示差走査熱量測計(TA instruments製 DSC2920)を用い、20℃から270℃まで2℃/分の昇温条件で、DSC曲線を測定した。200~270℃の間に観測される吸熱ピークの数をカウントした。
【0045】
<未解撚部の長さの割合>
未解撚部の長さの割合は、キーエンス株式会社製のLS-9006Dを用いて、測定速度3.0m/分、測定長6.0mで、断面部分の糸密度が高く糸の外径が小さい未解撚部と、密度が低く糸の外径が大きいオーバー解撚部の繊維径を、光センサーにて判別させることで測定した。測定結果の繊維径度数分布における、繊維径0μmから第一ピークの極小値の繊維径までを未解撚部として算出し、未解撚部の長さの割合は、測定長6.0m間にある繊維の長手方向に未解撚部の長さの占める割合である。
【0046】
<オーバー解撚部の単糸間融着率>
パラフィン、ステアリン酸、エチルセルロースからなる包埋剤を融解し、ポリエステル延伸仮撚加工糸を導入後、室温放置により固化させ、包埋剤中のオーバー解撚部を切断したものをCCDカメラにて撮影して視察した。単繊維間で接している部分の境目が消えている場合融着しているとし、全単繊維のうち、隣り合う単繊維と融着している箇所がある単繊維の個数を数えて、オーバー解撚部の融着率を以下の式にて算出した。この計測をランダムに選択した10個のオーバー解撚部で実施し、平均値を融着率とした。
オーバー解撚部の単糸間融着率(%)=融着した単繊維数/全単繊維数×100
<発色性(L値)>
(筒編地作製、染色)
得られた加工糸を用いて、目付150g/mの筒編み地を作製し、染料アイゼンカチロンブルーGLH0.7%owf、助剤に酢酸0.5cc/L、酢酸ソーダ0.15g/Lの染液の中に作製した丸編物を投入し、50℃の温度で15分間染色後に、98℃/30分の条件で昇温し、更に20分間撹拌染色を行った。
【0047】
(L値)
染色筒編み地を、色差計(スガ試験機製、SMカラーコンピュータ型式SM-T45)を用いてL値を測定した。L値は20~40の範囲を合格とした。
【0048】
<風合い評価>
(シャリ感、ドライ感)
融着延伸仮撚加工糸を使用した織物を作製し、シャリ感、ドライ感について、官能評価を実施した。10人のパネラーに対して、シャリ感、ドライ感が「優れている」は3点、「普通」は2点、「劣っている」は1点とし、30点満点で採点の上、以下の3段階で評価した。
A :合計点が26点以上
B :合計点が16点以上25点以下
C :合計点が15点以下
A,Bを合格とした。
【0049】
(ソフト感)
融着延伸仮撚加工糸を使用した織物を作製し、ソフト感について、官能評価を実施した。10人のパネラーに対して、ソフト感が「優れている」は3点、「普通」は2点、「劣っている」は1点とし、30点満点で採点の上、以下の3段階で評価した。
A :合計点が26点以上
B :合計点が16点以上25点以下
C :合計点が15点以下
A,Bを合格とした。
【0050】
(実施例1)
融点255℃であるポリエチレンテレフタレートに酸化チタン0.30重量%含有してなるポリエステルAと、ポリエチレンテレフタレートに5-ナトリウムスルホイソフタル酸を4.9モル%共重合した、酸化チタンを含有しない、融点240℃である共重合ポリエステルBを用いた。ポリエステルAと共重合ポリエステルBの溶融粘度比(Pb/Pa)は1.3とした。ポリエステルAと共重合ポリエステルBのブレンド比(Wb/Wa)が0.5となるように仕込み、一軸押出混練機の混練温度285℃、混練時の軸回転数を120rpmとして混練し、分割、位置変換の回数12回の配管ミキサーを通し、滞留時間18分で、紡糸パックに流入した。192孔を配列した紡糸口金を使用して紡糸温度290℃、紡糸速度2200m/分で溶融紡糸し、紡糸油剤を0.85質量%塗布したのちに、2糸条取りでドラムに巻き付け96フィラメント、総繊度が100dtexの部分配向未延伸糸を得た。
【0051】
その後、仮撚加工において、接触型加熱体(第1ヒーター)、25℃の接触型冷却装置、フリクションディスクの仮撚装置、さらに2つのローラー(3rdFR,4thFR)を用いて、仮撚ヒーター温度227℃、加工倍率1.38倍、追延伸倍率(3rdFR,4thFR間)を1.10倍とした条件にて延伸仮撚を実施し、巻き取った。得られた加工糸は撚り方向と同一方向の未解撚部と、撚り方向とは反対方向のオーバー解撚部が交互に糸中に存在した形状であり、DSCにより測定される200℃以上の吸熱ピークは240℃と253℃に2個観測され、SI成分の含有割合は1.6モル%、DSCで総繊度は65.9dtex、破断伸度は23%、オーバー解撚部の単糸繊度は0.7dtex、未解撚部の長さの割合は12.3%、未解撚長は1.4mm、オーバー解撚部の単糸間融着率は3.0%であった。また、発色性、風合い良好であった。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2,3)
共重合ポリエステルBのSI成分量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りであり、実施例2ではソフト感がやや低下し、実施例3では発色性がやや低下したが、いずれも織物として十分な風合いであった。
【0053】
(実施例4)
ポリエステルAと共重合ポリエステルBのブレンド比を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りであり、ソフト感がやや低下したが、織物として十分な発色性、風合いであった。
【0054】
(実施例5)
仮撚加工において、仮撚ヒーター温度を238℃とした以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りであり、ソフト感がやや低下したが、織物として十分な発色性、風合いであった。
【0055】
(実施例6,7)
仮撚加工において、追延伸倍率を変更とした以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りであり、実施例6ではソフト感がやや低下したが、いずれも織物として十分な発色性、風合いであった。
【0056】
(実施例8,9)
紡糸口金の孔数を変更し、フィラメント数を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りであり、実施例8ではソフト感が向上した一方、生地にした際のしなやかなさがやや低下したが、いずれも織物として十分な発色性、風合いであった。
【0057】
(実施例10)
紡糸速度を2700m/分とした以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りであり、ソフト感が向上した一方、シャリ感がやや低下したが、織物として十分な発色性、風合いであった。
【0058】
(実施例11)
配管ミキサーの分割、位置変換回数を5回とした以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りであり、局所的なオーバー解撚部の融着部分増加に伴い、シャリ感のばらつきやソフト感がやや低下したが、織物として十分な発色性、風合いであった。
【0059】
【表1】
【0060】
(比較例1,2)
共重合ポリエステルBの5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表2の通りであり、比較例1はソフト感に欠け、比較例2は、ソフト感は良好であったものの、発色性に欠け、いずれも織物として不十分であった。
【0061】
(比較例3)
ポリエステルAと共重合ポリエステルBのブレンド比を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表2の通りであり、ソフト感に欠け、織物として不十分であった。
【0062】
(比較例4)
紡糸速度を1850m/分とした以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表2の通りであり、オーバー解撚部の単糸間融着率が高くなるのに伴い、ソフト感に欠け、織物として不十分であった。
【0063】
(比較例5)
配管ミキサーの分割、位置変換回数を2回とした以外は実施例1と同様にしてポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表2の通りであり、発色斑が顕在化したことに加え、局所的なオーバー解撚部の単糸間融着率が大幅に増加し、硬い風合いとなり、織物として不十分であった。
【0064】
(比較例6)
ジメチル(5-ナトリウムスルホ)イソフタル酸が全カルボン酸に対して1.6モル%、重量平均分子量1000のポリエチレングリコールがポリエステルに対して1.2質量%共重合したポリエチレンテレフタレートを溶融後、192孔を配列した紡糸口金を使用して紡糸温度290℃、紡糸速度2200m/分で溶融紡糸し、紡糸油剤を0.85質量%塗布したのちに、2糸条取りでドラムに巻き付け96フィラメント、総繊度が100dtexの部分配向未延伸糸を得た。
【0065】
仮撚ヒーター温度227℃、加工倍率1.38倍、追延伸倍率を1.10倍とした条件にて延伸仮撚を実施し、ポリエステル融着延伸仮撚加工糸を得た。評価結果は表2の通りであり、オーバー解撚部の単糸間融着率が高く、ソフト感に欠け、織物として不十分であった。
【0066】
【表2】
【符号の説明】
【0067】
1:未解撚部
2:オーバー解撚部
図1