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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101815
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】車両の空調システム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20250701BHJP
【FI】
B60H1/00 103P
B60H1/00 101K
B60H1/00 101Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218848
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】山賀 勇真
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲爾
(72)【発明者】
【氏名】種平 貴文
(72)【発明者】
【氏名】森島 千菜美
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA32
3L211BA42
3L211DA12
3L211DA56
3L211EA03
3L211EA57
3L211EA81
3L211FA02
3L211FA22
3L211FB05
3L211GA10
(57)【要約】
【課題】空調装置によるエネルギー損失を抑えつつ、窓ガラスの曇りを防止することが可能な、車両の空調システムを提供する。
【解決手段】車両(1)の空調システム(100)は、車室外からの空気の導入及び車室内における空気の循環が可能な空調装置(30)と、車両へのユーザの乗車を検知する着座センサ(22)又はアンテナ部(21)と、車両の外部から送信された信号を受信するアンテナ部と、空調装置を制御するように構成されたコントローラ(10)とを備え、コントローラは、乗車検知装置により車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、空調装置の動作に関する所定の信号を受信装置が受信した場合に、車室外から導入した空気をフロントウィンドウ(2)の車室側の表面に向かって吹き出す乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の空調システムであって、
車室外からの空気の導入及び車室内における空気の循環が可能な空調装置と、
前記車両へのユーザの乗車を検知する乗車検知装置と、
前記車両の外部から送信された信号を受信する受信装置と、
前記空調装置を制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記乗車検知装置により前記車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、前記空調装置の動作に関する所定の信号を前記受信装置が受信した場合に、車室外から導入した空気を車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出す乾燥制御を前記空調装置に実行させるように構成されている、
車両の空調システム。
【請求項2】
前記所定の信号は、前記車両の外部から遠隔的に前記空調装置を動作させるリモート空調信号、前記車両の外部から遠隔的に前記車両を始動させるリモート始動信号、及び、前記空調装置を動作させる時刻を予め指定する空調予約信号の、少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の車両の空調システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記乾燥制御の実行中に、前記乗車検知装置により前記車両へのユーザの乗車が検知された場合、前記乾燥制御を終了させるように構成されている、請求項1又は2に記載の車両の空調システム。
【請求項4】
車室外の空気の湿度を測定する外気湿度センサを備え、
前記コントローラは、前記乗車検知装置により前記車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、前記受信装置が前記所定の信号を受信した場合において、前記外気湿度センサにより測定された車室外の空気の湿度が所定の閾値未満の場合に、前記乾燥制御を前記空調装置に実行させるように構成されている、
請求項1又は2に記載の車両の空調システム。
【請求項5】
前記車両用窓ガラスの車室側の表面に設けられた吸水膜の吸水率を測定する吸水率センサを備え、
前記コントローラは、前記乗車検知装置により前記車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、前記受信装置が前記所定の信号を受信した場合において、前記吸水率センサにより測定された前記吸水膜の吸水率が所定の閾値より大きい場合に、前記乾燥制御を前記空調装置に実行させるように構成されている、
請求項1又は2に記載の車両の空調システム。
【請求項6】
前記乗車検知装置は、前記ユーザが携帯するための携帯機が前記車両から所定範囲内に接近した場合に前記携帯機と通信可能になる通信装置を有し、
前記コントローラは、前記通信装置が前記携帯機と通信した場合に、前記車両へのユーザの乗車が検知されたと判定する、
請求項1又は2に記載の車両の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車室内外の温度差や車室内の湿度により、車両の窓ガラスの車室側の表面温度が露点以下になると、窓ガラスの車室側の表面に結露が発生する。その結果、窓ガラスに曇りが生じ、ドライバの視界の妨げになる。そこで、従来、車両の空調装置により、車室外から導入した低湿度の空気を窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き付け、結露した水滴を蒸発させることによって、窓ガラスの曇りを除去することが行われている。
【0003】
また、窓ガラスの車室側の表面に吸水性の被膜(吸水膜)を設けることにより、曇りの原因である結露の発生を防止する技術も知られている。このような吸水膜が形成された窓ガラスを有する車両において、吸水膜に吸収された水分を乾燥させて防曇性能を回復させるために、車両の走行中は部分的に外気を導入して吸水膜を乾燥再生させ、車両が駐車したと判定すると外気導入を所定時間行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-298323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車室外の気温が車室内より低く、車両の乗員により設定された設定温度に従って空調装置が作動している状態において、窓ガラスの曇り除去や吸水膜の乾燥のために外気を導入すると、車室内の気温が低下してしまう。その結果、設定温度を維持するためにヒータ等の出力を増大させる必要が生じるので、空調装置によるエネルギー損失が増大する。また、駐車判定時に外気導入を所定時間行って吸水膜を乾燥させたとしても、ユーザが次に車両を使用するまでの間に、湿度の高い空気が車室内に侵入し吸水膜が水分を吸収してしまい、防曇性能が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、空調装置によるエネルギー損失を抑えつつ、窓ガラスの曇りを防止することが可能な、車両の空調システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の空調システムであって、車室外からの空気の導入及び車室内における空気の循環が可能な空調装置と、車両へのユーザの乗車を検知する乗車検知装置と、車両の外部から送信された信号を受信する受信装置と、空調装置を制御するように構成されたコントローラと、を備え、コントローラは、乗車検知装置により車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、空調装置の動作に関する所定の信号を受信装置が受信した場合に、車室外から導入した空気を車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出す乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、乗車検知装置により車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、空調装置の動作に関する所定の信号を受信装置が受信した場合に、車室外から導入した空気を車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出す乾燥制御を空調装置に実行させるので、車室内に乗員がおらず温度調節のためにヒータ等を使用する必要がない状況において、空調装置の動作に関する所定の信号を受信したことからユーザが近々車両を使用する意図があると考えられる場合に、乾燥制御を実行することができる。これにより、空調装置によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両を使用する時点で窓ガラスの曇りを防止することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、所定の信号は、車両の外部から遠隔的に空調装置を動作させるリモート空調信号、車両の外部から遠隔的に車両を始動させるリモート始動信号、及び、空調装置を動作させる時刻を予め指定する空調予約信号の、少なくとも1つを含む。
【0010】
このように構成された本発明によれば、車両にユーザが乗車しておらず、且つ、ユーザが近々車両を使用する意図があることを示す蓋然性の高いリモート空調信号、リモート始動信号、及び空調予約信号の少なくとも1つを受信した場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、空調装置によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両を使用する時点でより確実に窓ガラスの曇りを防止することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、コントローラは、乾燥制御の実行中に、乗車検知装置により車両へのユーザの乗車が検知された場合、乾燥制御を終了させるように構成されている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、車室内に乗員がおり温度調節のためにヒータ等を使用する必要がある場合には、コントローラは外気を導入する乾燥制御を終了させるので、窓ガラスの曇りを防止しつつ、空調装置によるエネルギー損失を抑えることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、車室外の空気の湿度を測定する外気湿度センサを備え、コントローラは、乗車検知装置により車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、受信装置が所定の信号を受信した場合において、外気湿度センサにより測定された車室外の空気の湿度が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【0014】
このように構成された本発明によれば、車両にユーザが乗車しておらず、且つ、ユーザが近々車両を使用する意図があると考えられる場合において、吸水膜を乾燥させることができる程度に外気の湿度が低い場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、空調装置によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両を使用する時点でより確実に窓ガラスの曇りを防止することができる。また、外気の湿度が所定の閾値以上であり、外気を導入して乾燥制御を実行したとしても吸水膜を十分乾燥させることができない場合には、乾燥制御を実行しないので、無駄なエネルギーロスを防ぐことができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、車両用窓ガラスの車室側の表面に設けられた吸水膜の吸水率を測定する吸水率センサを備え、コントローラは、乗車検知装置により車両へのユーザの乗車が検知されず、且つ、受信装置が所定の信号を受信した場合において、吸水率センサにより測定された吸水膜の吸水率が所定の閾値より大きい場合に、乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【0016】
このように構成された本発明によれば、車両にユーザが乗車しておらず、且つ、ユーザが近々車両を使用する意図があると考えられる場合において、吸水膜を乾燥させる必要がある程度に吸水膜の吸水率が高い場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、乾燥制御の実行頻度を必要十分な程度に抑えることで空調装置によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両を使用する時点で確実に窓ガラスの曇りを防止することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、乗車検知装置は、ユーザが携帯するための携帯機が車両から所定範囲内に接近した場合に携帯機と通信可能になる通信装置を有し、コントローラは、通信装置が携帯機と通信した場合に、車両へのユーザの乗車が検知されたと判定する。
【0018】
このように構成された本発明によれば、通信装置が携帯機と通信したことにより、すぐにユーザが車両に乗車する可能性が高い場合には、車両へのユーザの乗車が検知されたと判定するので、ユーザが車両に乗車するときには乾燥制御を確実に停止することができ、ユーザに煩わしさを感じさせることを防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両の空調システムによれば、空調装置によるエネルギー損失を抑えつつ、窓ガラスの曇りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態による車両の空調システムが搭載された車両の説明図である。
図2】本発明の実施形態による車両の空調システムのブロック図である。
図3】本発明の実施形態による乗車判定処理のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態による空調制御処理のフローチャートである。
図5】本発明の実施形態による車両の空調システムの動作の一例を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の空調システムを説明する。
【0022】
[システム構成]
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態による車両の空調システムの構成について説明する。図1は空調システムが搭載された車両の説明図、図2は車両の空調システムのブロック図である。
【0023】
本実施形態による空調システム100が搭載された車両1は、フロントウィンドウ2を備えている。フロントウィンドウ2の車室側の表面には、吸水性の被膜である吸水膜4が形成されている。吸水膜4としては既存の技術を用いることができ、例えば吸水膜4として吸水性の架橋樹脂層やセラミックス層がフロントウィンドウ2の車室側の表面に形成されている。
【0024】
空調システム100は、乗員により設定された設定温度に応じて車室内の温度を調節する通常制御を実行したり、導入した外気をフロントウィンドウ2に吹き付けて吸水膜4を乾燥させる乾燥制御を実行したりするように構成されている。空調システム100は、コントローラ10と、複数のセンサ類と、空調装置30とを有する。
【0025】
具体的には、複数のセンサ類には、車両1の外部の機器と無線通信を行うアンテナ部21、乗員が座席に着座したことを検知する着座センサ22、車室外の空気(外気)の温度及び湿度を測定する外気温湿度センサ23、車室内の空気(内気)の温度及び湿度を測定する内気温湿度センサ24、フロントウィンドウ2の吸水膜4の吸水率を測定する吸水率センサ25が含まれている。空調装置30には、内外気率切替弁36、吹出口切替弁37、ブロワ35、コンプレッサ38、ヒータ39が含まれている。
【0026】
コントローラ10は、複数のセンサ類から受け取った信号に基づいて種々の演算を実行し、空調装置30に対して、内外気率切替弁36、吹出口切替弁37、ブロワ35、コンプレッサ38、ヒータ39を適宜に作動させるための制御信号を送信する。コントローラ10は、1つ以上のプロセッサ10a(典型的にはCPU)、各種プログラムやデータを記憶するメモリ10b(ROM、RAMなど)、入出力装置などを備えたコンピュータにより構成される。
【0027】
アンテナ部21は、モバイル通信回線や無線LAN回線を介して車両1の外部から送信された信号を受信する受信装置を含む。また、アンテナ部21は、ユーザが携帯するための携帯機(いわゆるスマートキーやインテリジェントキー)が車両1から所定範囲内(例えば3m以内)に接近した場合に携帯機と通信可能になる通信装置を含む。なお、アンテナ部21は、本発明における「受信装置」、「通信装置」及び「乗車検知装置」の一例に相当する。
【0028】
着座センサ22は、車両1の座席に乗員が着座したことを検出する。例えば、着座センサ22は、座席の座面内部に配置された1つ又は複数の圧電素子を含み、座面に加わる荷重に基づいて乗員の着座の有無を検出し、コントローラ10に出力する。なお、着座センサ22は、本発明における「乗車検知装置」の一例に相当する。
【0029】
外気温湿度センサ23及び内気温湿度センサ24は、それぞれ、温度センサ及び湿度センサを含み、周囲の温度及び湿度を測定する。
【0030】
吸水率センサ25は、吸水膜4の吸水率を測定する。吸水率は、吸水膜4の飽和吸水量に対する現在の吸水量の割合を表す値であり、0から1の値を取る。即ち、吸水率が0の場合、吸水膜4の吸水量は0であり、吸水率が1の場合、吸水膜4の吸水量は飽和吸水量に等しい。吸水率センサ25は、例えば、吸水膜4の一部が誘電体として機能するように2つの電極を吸水膜4に取り付けることによって形成されたコンデンサを含む。このコンデンサの静電容量は、吸水膜4に吸収されている水分量に応じて変化する。したがって、コンデンサの静電容量値と吸水率との関係を予め把握しておくことにより、コンデンサから取得された静電容量値に基づき吸水率を測定することができる。
【0031】
空調装置30は、車室外から空気を導入するための外気導入口31と、車室内の空気を循環させるために車室内の空気を取り込む内気循環口32と、空調装置30に取り込まれた空気を車室内に吹き出す室内側吹出口33と、空調装置30に取り込まれた空気をフロントウィンドウ2に向かって吹き出す窓側吹出口34とを備えている。空調装置30の内部には、外気導入口31や内気循環口32から空気を引き込んで室内側吹出口33や窓側吹出口34から吹き出すためのブロワ35が設けられている。
【0032】
外気導入口31及び内気循環口32には、それぞれ内外気率切替弁36が設けられている。ブロワ35の動作中に外気導入口31の内外気率切替弁36が開くと車室外から空気が導入され、内気循環口32の内外気率切替弁36が開くと車室内の空気が循環される。
【0033】
また、室内側吹出口33及び窓側吹出口34には、それぞれ吹出口切替弁37が設けられている。ブロワ35の動作中に室内側吹出口33の吹出口切替弁37が開くと室内側吹出口33から車室内に空気が吹き出され、窓側吹出口34の吹出口切替弁37が開くと窓側吹出口34からフロントウィンドウ2に向かって空気が吹き出される。
【0034】
さらに、空調装置30は、空調装置30に取り込まれた空気の冷却や加熱に使用される冷媒を圧縮して熱交換器に送出するためのコンプレッサ38、及び、空調装置30に取り込まれた空気を加熱するためのヒータ39を備えている。コントローラ10は、車室内の温度を調節する通常制御を実行する場合や、吸水膜4を乾燥させる乾燥制御を実行する場合に、空調装置30の内外気率切替弁36、吹出口切替弁37、ブロワ35、コンプレッサ38、ヒータ39を動作させるための制御信号を送信する。
【0035】
[空調制御処理]
次に、図3及び図4を参照して、本実施形態の車両1の空調システム100による空調制御処理の流れについて説明する。図3は乗車判定処理のフローチャートであり、図4は空調制御処理のフローチャートである。乗車判定処理及び空調制御処理は、コントローラ10によって並行して所定の周期(例えば、0.05~0.2秒毎)で繰り返し実行される。
【0036】
図3の乗車判定処理は、車両1へのユーザの乗車の有無を判定するための処理である。乗車判定処理が開始されると、コントローラ10は、アンテナ部21及び着座センサ22から信号を取得する(ステップS1)。
【0037】
次に、コントローラ10は、ステップS1においてアンテナ部21から取得した信号に基づき、アンテナ部21が携帯機(いわゆるスマートキーやインテリジェントキー)から信号を受信したか否かを判定する(ステップS2)。
【0038】
その結果、アンテナ部21が携帯機から信号を受信した場合(ステップS2:YES)、携帯機を保持したユーザが車両1から所定範囲内に接近しており、間もなく車両1に乗車すると考えられる。そこで、コントローラ10は、車両1へのユーザの乗車が検知されたと判定し、ドライバ乗車フラグをTUREに設定する(ステップS3)。ドライバ乗車フラグは、例えばメモリに保存されており、コントローラ10の処理に応じて随時更新される。
【0039】
一方、ステップS2において、アンテナ部21が携帯機から信号を受信していない場合(ステップS2:NO)、コントローラ10は、ステップS1において着座センサ22から取得した信号に基づき、何れかの座席の荷重が所定値(例えば15kg)以上か否かを判定する(ステップS4)。
【0040】
その結果、何れかの座席の荷重が所定値以上である場合(ステップS4:YES)、ユーザが座席に着座していると考えられる。そこで、コントローラ10は、車両1へのユーザの乗車が検知されたと判定し、ドライバ乗車フラグをTUREに設定する(ステップS3)。
【0041】
ステップS4において、何れの座席の荷重も所定値以上ではない場合(ステップS4:NO)、コントローラ10は、車両1へのユーザの乗車が検知されないと判定し、ドライバ乗車フラグをFALSEに設定する(ステップS5)。ステップS3又はS5の処理の後、コントローラ10は乗車判定処理を終了する。
【0042】
図4の空調制御処理は、吸水膜4を乾燥させる乾燥制御を所定の条件下で実行するための処理である。空調制御処理が開始されると、コントローラ10は、アンテナ部21、外気温湿度センサ23、内気温湿度センサ24、及び吸水率センサ25から信号を取得する(ステップS11)。また、コントローラ10は、メモリを参照し、現時点のドライバ乗車フラグを取得する(ステップ12)。なお、アンテナ部21、外気温湿度センサ23、内気温湿度センサ24、及び吸水率センサ25からの信号取得と、ドライバ乗車フラグの取得は、ステップS12以降の処理においてもバックグラウンドで常時実行されている。
【0043】
次に、コントローラ10は、ステップS12で取得したドライバ乗車フラグがFALSEか否かを判定する(ステップS13)。
【0044】
ドライバ乗車フラグがTRUEである場合(ステップS13、NO)、即ち車両1へのユーザの乗車が検知されている場合、外気を導入する乾燥制御を実行すると、車室内の気温低下を防ぐためにヒータ39等の出力を増大させる必要が生じ、空調装置30によるエネルギー損失が増大してしまう。そこで、コントローラ10は、乾燥制御を実行することなく空調制御処理を終了する。
【0045】
一方、ドライバ乗車フラグがFALSEである場合(ステップS13、YES)、即ち車両1へのユーザの乗車が検知されていない場合、コントローラ10は、ステップS11においてアンテナ部21から取得した信号に基づき、乾燥制御を開始するためのトリガとなる信号(乾燥制御開始トリガ)を受信したか否かを判定する(ステップS14)。
【0046】
乾燥制御開始トリガには、リモート空調信号、リモート始動信号、及び、空調予約信号の少なくとも1つが含まれる。リモート空調信号は、車両1の外部から遠隔的に空調装置30を動作させるための信号であり、例えば、空調装置30の起動、設定温度、作動時間等を特定する情報を含むことができる。リモート始動信号は、車両1の外部から遠隔的に車両1を始動させるための信号である。空調予約信号は、空調装置30を動作させる時刻を予め指定するための信号であり、例えば、空調装置30を動作させる予約時刻、設定温度、作動時間等を特定する情報を含むことができる。空調予約信号を受信した場合には、予約時刻から所定時間前(例えば15分前)を乾燥制御開始トリガの受信時刻として以後の処理を実行してもよい。
【0047】
乾燥制御開始トリガとして、リモート空調信号、リモート始動信号、及び、空調予約信号の何れもアンテナ部21が受信していない場合(ステップS14:NO)、つまり近いうちにユーザが車両1を使用する兆候が見られない場合、乾燥制御を実行したとしても、ユーザが次に車両1を使用するまでの間に吸水膜4が再び水分を吸収する可能性がある。そこで、コントローラ10は、乾燥制御を実行することなく空調制御処理を終了する。
【0048】
一方、乾燥制御開始トリガとして、リモート空調信号、リモート始動信号、及び、空調予約信号の何れかをアンテナ部21が受信した場合(ステップS14:YES)、近々車両1を使用する意図がユーザにあると考えられる。この場合、コントローラ10は、外気温湿度センサ23から取得した信号に基づき、外気の湿度が所定の閾値未満か否かを判定する(ステップS15)。所定の閾値は、吸水膜4に向かって外気を吹き付けることにより所望の吸水率を下回るまで吸水膜4を乾燥させることが可能な外気の湿度の最大値であり、例えば60%であるが、適宜変更してもよい。
【0049】
外気の湿度が所定の閾値未満ではない場合(ステップS15:NO)、即ち外気の湿度が閾値以上である場合、外気を導入して乾燥制御を実行したとしても吸水膜4を十分乾燥させることができない。そこで、コントローラ10は、乾燥制御を実行することなく空調制御処理を終了する。
【0050】
一方、外気の湿度が所定の閾値未満である場合(ステップS15:YES)、コントローラ10は、吸水率センサ25から取得した信号に基づき、吸水膜4の吸水率が所定の閾値より大きいか否かを判定する(ステップS16)。所定の閾値は、例えば、どの程度の頻度で乾燥制御を実行させるかに応じて設定することができる。即ち、乾燥制御が実行される頻度を高くしたい場合には、閾値を低く設定することで乾燥制御が実行されやすいようにすることができる。本実施形態では、閾値は例えば0.2であるが、適宜変更してもよい。
【0051】
吸水膜4の吸水率が所定の閾値より大きくない場合(ステップS16:NO)、即ち吸水率が所定の閾値以下である場合、吸水膜4の吸水率は既に十分低く、乾燥制御を実行する必要がない。そこで、コントローラ10は、乾燥制御を実行することなく空調制御処理を終了する。
【0052】
一方、吸水膜4の吸水率が所定の閾値より大きい場合(ステップS16:YES)、コントローラ10は、空調装置30によって乾燥制御を実行させる(ステップS17)。具体的には、コントローラ10は、ブロワ35の出力を最大にし、外気導入口31の内外気率切替弁36を開くと共に、内気循環口32の内外気率切替弁36を閉じることにより、空調装置30に取り込まれる空気の外気率(外気導入率)を100%にする。また、コントローラ10は、室内側吹出口33の吹出口切替弁37を閉じると共に、窓側吹出口34の吹出口切替弁37を開くことにより、導入された外気がフロントウィンドウ2に向かって噴出されるようにする。
【0053】
次に、コントローラ10は、現時点のドライバ乗車フラグがTUREか否かを判定する(ステップS18)。その結果、ドライバ乗車フラグがTRUEではない場合(ステップS18:NO)、即ち車両1へのユーザの乗車が検知されていない場合、コントローラ10は、吸水率センサ25から取得した信号に基づき、現時点の吸水膜4の吸水率が所定の閾値以下か否かを判定する(ステップS19)。その結果、吸水率が所定の閾値以下ではない場合(ステップS19:NO)、即ち吸水膜4の乾燥が十分ではない場合、ステップS18に戻る。以降、ドライバ乗車フラグがTRUEとなるか、吸水率が所定の閾値以下となるまで、ステップS18及びS19の判定を繰り返す。
【0054】
現時点のドライバ乗車フラグがTUREとなった場合(ステップS18:YES)、又は現時点の吸水膜4の吸水率が所定の閾値以下となった場合(ステップS19:YES)、コントローラ10は、空調装置30による乾燥制御を終了させ(ステップS20)、空調制御処理を終了する。
【0055】
[空調システムの動作]
次に、図5を参照して、本実施形態の車両1の空調システム100の動作の具体例を説明する。図5は、空調システム100の動作の一例を説明するタイムチャートである。
【0056】
図5の例において、外気の湿度は閾値(例えば60%)未満であるものとする。また、図5の時刻0において、フロントウィンドウ2の吸水膜4の吸水率は閾値(例えば0.2)より大きく、車両1にユーザは乗車しておらず、空調装置30は停止しているものとする。その後、アンテナ部21が乾燥制御開始トリガを受信した場合(時刻t1)、コントローラ10は、空調装置30により乾燥制御を開始させる。即ち、リモート空調信号やリモート始動信号を受信した場合や、予約空調信号により設定された予約時刻から所定時間前になった場合、ブロアの動作状態がONになり、外気導入率が100%となる。この場合、乾燥制御開始トリガがリモート空調信号やリモート始動信号だったとしても、コントローラ10は乾燥制御を優先し、設定温度に応じて車室内の温度を調節する通常制御を空調装置30に実行させない(通常空調:OFF)。
【0057】
乾燥制御を開始することにより、吸水膜4の吸水率は徐々に低下する。その後、吸水率が閾値以下に低下する前であっても、車両1へのユーザの乗車が検知された場合(時刻t2)、コントローラ10は、空調装置30による乾燥制御を終了させると共に、乾燥制御開始トリガとして受信されたリモート空調信号やリモート始動信号に含まれる情報に基づき、通常制御を開始させる。即ち、図5において実線で示すように、ブロアの動作状態はONのまま、設定温度に応じて外気導入率が100%未満の値に変更され(通常空調:ON)、吸水率の低下が止まる。
【0058】
また、図5において一点鎖線で示すように、乾燥制御を開始した後、車両1へのユーザの乗車が検知されない場合には、吸水率が閾値以下に低下した時点で(時刻t3)、コントローラ10は、空調装置30による乾燥制御を終了させると共に、乾燥制御開始トリガとして受信されたリモート空調信号やリモート始動信号に含まれる情報に基づき、通常制御を開始させる。また、乾燥制御開始トリガとして予約空調信号を受信した場合には、コントローラ10は予約空調信号に基づき設定された予約時刻に通常制御を開始させる。
【0059】
[作用・効果]
次に、上述した本実施形態の車両1の空調システム100の作用効果を説明する。
【0060】
コントローラ10は、乗車検知装置により車両1へのユーザの乗車が検知されず、且つ、乾燥制御開始トリガを受信装置が受信した場合に、車室外から導入した空気を車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出す乾燥制御を空調装置30に実行させるので、車室内に乗員がおらず温度調節のためにヒータ39等を使用する必要がない状況において、空調装置30の動作に関する所定の信号を受信したことからユーザが近々車両1を使用する意図があると考えられる場合に、乾燥制御を実行することができる。これにより、空調装置30によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両1を使用する時点で窓ガラスの曇りを防止することができる。
【0061】
また、乾燥制御開始トリガはリモート空調信号、リモート始動信号、及び空調予約信号の少なくとも1つを含むので、車両1にユーザが乗車しておらず、且つ、ユーザが近々車両1を使用する意図があることを示す蓋然性の高いリモート空調信号、リモート始動信号、及び空調予約信号の少なくとも1つを受信した場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、空調装置30によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両1を使用する時点でより確実に窓ガラスの曇りを防止することができる。
【0062】
また、コントローラ10は、乾燥制御の実行中に、車両1へのユーザの乗車が検知された場合、乾燥制御を終了させるので、車室内に乗員がおり温度調節のためにヒータ39等を使用する必要がある場合には、コントローラ10は外気を導入する乾燥制御を終了させるので、窓ガラスの曇りを防止しつつ、空調装置30によるエネルギー損失を抑えることができる。
【0063】
また、コントローラ10は、車両1へのユーザの乗車が検知されず、且つ、受信装置が乾燥制御開始トリガを受信した場合において、外気の湿度が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置30に実行させるので、車両1にユーザが乗車しておらず、且つ、ユーザが近々車両1を使用する意図があると考えられる場合において、吸水膜4を乾燥させることができる程度に外気の湿度が低い場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、空調装置30によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両1を使用する時点でより確実に窓ガラスの曇りを防止することができる。また、外気の湿度が所定の閾値以上であり、外気を導入して乾燥制御を実行したとしても吸水膜4を十分乾燥させることができない場合には、乾燥制御を実行しないので、無駄なエネルギーロスを防ぐことができる。
【0064】
また、コントローラ10は、車両1へのユーザの乗車が検知されず、且つ、受信装置が乾燥制御開始トリガを受信した場合において、吸水膜4の吸水率が所定の閾値より大きい場合に、乾燥制御を空調装置30に実行させるので、車両1にユーザが乗車しておらず、且つ、ユーザが近々車両1を使用する意図があると考えられる場合において、吸水膜4を乾燥させる必要がある程度に吸水膜4の吸水率が高い場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、乾燥制御の実行頻度を必要十分な程度に抑えることで空調装置30によるエネルギー損失を抑えつつ、ユーザが車両1を使用する時点で確実に窓ガラスの曇りを防止することができる。
【0065】
また、通信装置が携帯機と通信したことにより、すぐにユーザが車両1に乗車する可能性が高い場合には、車両1へのユーザの乗車が検知されたと判定するので、ユーザが車両1に乗車するときには乾燥制御を確実に停止することができ、ユーザに煩わしさを感じさせることを防止できる。
【符号の説明】
【0066】
1 車両
2 フロントウィンドウ
4 吸水膜
10 コントローラ
21 アンテナ部
22 着座センサ
23 外気温湿度センサ
24 内気温湿度センサ
25 吸水率センサ
30 空調装置
31 外気導入口
32 内気循環口
33 室内側吹出口
34 窓側吹出口
35 ブロワ
36 内外気率切替弁
37 吹出口切替弁
38 コンプレッサ
39 ヒータ
100 空調システム
図1
図2
図3
図4
図5