IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -車両の空調システム 図1
  • -車両の空調システム 図2
  • -車両の空調システム 図3
  • -車両の空調システム 図4
  • -車両の空調システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101816
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】車両の空調システム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20250701BHJP
   B60H 1/34 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
B60H1/00 103P
B60H1/34 671A
B60H1/00 101K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218849
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】森島 千菜美
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲爾
(72)【発明者】
【氏名】種平 貴文
(72)【発明者】
【氏名】山賀 勇真
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA42
3L211DA56
3L211EA03
3L211EA12
3L211EA13
3L211EA28
3L211FA02
3L211FB05
3L211GA04
3L211GA10
3L211GA56
(57)【要約】
【課題】窓ガラスの曇りを防止しつつ、外気を導入する時間を短くすることが可能な、車両の空調システムを提供する。
【解決手段】車両(1)の空調システム(100)は、外気及び内気をフロントウィンドウ(2)に向かって吹き出すことが可能な空調装置(30)と、フロントウィンドウの車室側の表面に設けられた吸水膜の吸水率を測定する吸水率センサ(23)と、外気の湿度を測定する外気温湿度センサ(21)と、内気の湿度を測定する内気温湿度センサ(22)と、空調装置を制御するように構成されたコントローラ(10)とを備え、コントローラは、外気の湿度と内気の湿度とに基づき、フロントウィンドウの近傍の空気の湿度を取得し、フロントウィンドウの近傍の空気の湿度が相対的に高い場合には目標吸水率が高くなるように、目標吸水率を設定し、吸水膜の吸水率が目標吸水率以下になるまで乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の空調システムであって、
車室外から導入した空気及び車室内から取り込んだ空気を車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出すことが可能な空調装置と、
前記車両用窓ガラスの車室側の表面に設けられた吸水膜の吸水率を測定する吸水率センサと、
車室外の空気の湿度を測定する外気湿度センサと、
車室内の空気の湿度を測定する内気湿度センサと、
前記空調装置を制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記外気湿度センサにより測定された車室外の空気の湿度と、前記内気湿度センサにより測定された車室内の空気の湿度とに基づき、前記車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度を取得し、
前記車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に高い場合には、前記車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に低い場合と比較して、目標吸水率が高くなるように、前記目標吸水率を設定し、
前記吸水率センサにより測定された前記吸水膜の吸水率が前記目標吸水率以下になるまで、車室外から導入した空気を含む空気を前記車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出す乾燥制御を前記空調装置に実行させるように構成されている、
車両の空調システム。
【請求項2】
前記車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度は相対湿度である、請求項1に記載の車両の空調システム。
【請求項3】
車室外の空気の温度を測定する外気温度センサと、
車室内の空気の温度を測定する内気温度センサと、を備え、
前記コントローラは、
車室内の目標温度を取得し、
前記外気温度センサにより測定された車室外の空気の温度と、前記内気温度センサにより測定された車室内の空気の温度と、前記目標温度とに基づき、前記空調装置の暖房出力を最大としたときに前記目標温度を達成可能な、前記車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出される空気における前記車室外の空気の割合を取得し、
取得した前記車室外の空気の割合と、前記車室外の空気の湿度と、前記車室内の空気の湿度とに基づき、前記車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度を取得し、
前記車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が所定の閾値未満の場合に、前記乾燥制御を前記空調装置に実行させるように構成されている、
請求項1又は2に記載の車両の空調システム。
【請求項4】
前記コントローラは、
車室内の目標温度を取得し、
前記空調装置により、車室外の空気を導入せず、車室内の空気を循環させる場合に、前記目標温度を達成するために必要な要求暖房出力を取得し、
前記要求暖房出力が所定の閾値未満の場合に、前記乾燥制御を前記空調装置に実行させるように構成されている、
請求項1又は2に記載の車両の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車室内外の温度差や車室内の湿度により、車両の窓ガラスの車室側の表面温度が露点以下になると、窓ガラスの車室側の表面に結露が発生する。その結果、窓ガラスに曇りが生じ、ドライバの視界の妨げになる。そこで、従来、車両の空調装置により、車室外から導入した低湿度の空気を窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き付け、結露した水滴を蒸発させることによって、窓ガラスの曇りを除去することが行われている。
【0003】
また、窓ガラスの車室側の表面に吸水性の被膜(吸水膜)を設けることにより、曇りの原因である結露の発生を防止する技術も知られている。このような吸水膜が形成された窓ガラスを有する車両において、吸水膜に吸収された水分を乾燥させて防曇性能を回復させるために、車両の走行中は部分的に外気を導入して吸水膜を乾燥再生させ、車両が駐車したと判定すると外気導入を所定時間行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-298323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車室外の気温が車室内より低く、車両の乗員により設定された設定温度に従って空調装置が作動している状態において、窓ガラスの曇り除去や吸水膜の乾燥のために外気を導入すると、車室内の気温が低下してしまう。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、窓ガラスの曇りを防止しつつ、外気を導入する時間を短くすることが可能な、車両の空調システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の空調システムであって、車室外から導入した空気及び車室内から取り込んだ空気を車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出すことが可能な空調装置と、車両用窓ガラスの車室側の表面に設けられた吸水膜の吸水率を測定する吸水率センサと、車室外の空気の湿度を測定する外気湿度センサと、車室内の空気の湿度を測定する内気湿度センサと、空調装置を制御するように構成されたコントローラと、を備え、コントローラは、外気湿度センサにより測定された車室外の空気の湿度と、内気湿度センサにより測定された車室内の空気の湿度とに基づき、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度を取得し、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に高い場合には、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に低い場合と比較して、目標吸水率が高くなるように、目標吸水率を設定し、吸水率センサにより測定された吸水膜の吸水率が目標吸水率以下になるまで、車室外から導入した空気を含む空気を車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出す乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に高い場合には、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に低い場合と比較して、目標吸水率が高くなるように、目標吸水率を設定し、吸水膜の吸水率が目標吸水率以下になるまで乾燥制御を空調装置に実行させる。即ち、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が高いために乾燥制御の実行時間が長くなることが予想される場合には、乾燥制御を終了させるための目標吸水率を高く設定することにより、乾燥制御終了までの時間が長くなることを防止できる。これにより、乾燥制御により窓ガラスの曇りを防止しつつ、外気を導入する時間を短くすることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度は相対湿度である。
【0010】
このように構成された本発明によれば、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の相対湿度に基づいて目標吸水率を設定するので、車両用窓ガラスに向かって吹き出される空気の乾燥能力を適切に反映して目標吸水率を設定することができ、乾燥制御による窓ガラスの曇り防止と、外気を導入する時間の短縮とを確実に両立することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、車室外の空気の温度を測定する外気温度センサと、車室内の空気の温度を測定する内気温度センサと、を備え、コントローラは、車室内の目標温度を取得し、外気温度センサにより測定された車室外の空気の温度と、内気温度センサにより測定された車室内の空気の温度と、目標温度とに基づき、空調装置の暖房出力を最大としたときに目標温度を達成可能な、車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出される空気における車室外の空気の割合を取得し、取得した車室外の空気の割合と、車室外の空気の湿度と、車室内の空気の湿度とに基づき、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度を取得し、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、車室外の空気の温度と、車室内の空気の温度と、車室内の目標温度とに基づき、空調装置の暖房出力を最大としたときに目標温度を達成可能な、車両用窓ガラスの車室側の表面に向かって吹き出される空気における車室外の空気の割合を取得し、取得した車室外の空気の割合と、車室外の空気の湿度と、車室内の空気の湿度とに基づき、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度を取得し、車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置に実行させるので、空調装置の最大暖房出力を超えずに乾燥した外気を取り込める場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、車室内の気温の低下を避けながら、窓ガラスの曇りを防止することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、コントローラは、車室内の目標温度を取得し、空調装置により、車室外の空気を導入せず、車室内の空気を循環させる場合に、目標温度を達成するために必要な要求暖房出力を取得し、要求暖房出力が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置に実行させるように構成されている。
【0014】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、要求暖房出力が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置に実行させるので、空調装置の暖房能力に余力があり、乾燥制御を行うことで外気が導入されても車室内の気温低下を防ぐことができる場合に乾燥制御を実行するようにすることができる。これにより、車室内の気温の低下を避けながら、窓ガラスの曇りを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両の空調システムによれば、窓ガラスの曇りを防止しつつ、外気を導入する時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による車両の空調システムが搭載された車両の説明図である。
図2】本発明の実施形態による車両の空調システムのブロック図である。
図3】本発明の実施形態による空調制御処理のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態による乾燥/通常制御設定テーブルである。
図5】本発明の実施形態によるフロントウィンドウ近傍の空気の相対湿度と吸水膜の目標吸水率との関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の空調システムを説明する。
【0018】
[システム構成]
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態による車両の空調システムの構成について説明する。図1は空調システムが搭載された車両の説明図、図2は車両の空調システムのブロック図である。
【0019】
本実施形態による空調システム100が搭載された車両1は、フロントウィンドウ2を備えている。フロントウィンドウ2の車室側の表面には、吸水性の被膜である吸水膜4が形成されている。吸水膜4としては既存の技術を用いることができ、例えば吸水膜4として吸水性の架橋樹脂層やセラミックス層がフロントウィンドウ2の車室側の表面に形成されている。
【0020】
空調システム100は、乗員により設定された設定温度に応じて車室内の温度を調節する通常制御を実行したり、導入した外気をフロントウィンドウ2に吹き付けて吸水膜4を乾燥させる乾燥制御を実行したりするように構成されている。空調システム100は、コントローラ10と、複数のセンサ類21~23と、空調装置30とを有する。
【0021】
具体的には、複数のセンサ類には、車室外の空気(外気)の温度及び湿度を測定する外気温湿度センサ21、車室内の空気(内気)の温度及び湿度を測定する内気温湿度センサ22、フロントウィンドウ2の吸水膜4の吸水率を測定する吸水率センサ23が含まれている。空調装置30には、ブロワ35、内外気率調整弁36、吹出口切替弁37、コンプレッサ38、ヒータ39、入力部40が含まれている。
【0022】
コントローラ10は、複数のセンサ類21~23及び空調装置30から受け取った信号に基づいて種々の演算を実行し、空調装置30に対して、ブロワ35、内外気率調整弁36、吹出口切替弁37、コンプレッサ38、ヒータ39を適宜に作動させるための制御信号を送信する。コントローラ10は、1つ以上のプロセッサ10a(典型的にはCPU)、各種プログラムやデータを記憶するメモリ10b(ROM、RAMなど)、入出力装置などを備えたコンピュータにより構成される。
【0023】
外気温湿度センサ21及び内気温湿度センサ22は、それぞれ、温度センサ及び湿度センサを含み、周囲の温度及び湿度を測定する。
【0024】
吸水率センサ23は、吸水膜4の吸水率を測定する。吸水率は、吸水膜4の飽和吸水量に対する現在の吸水量の割合を表す値であり、0%から100%の値を取る。即ち、吸水率が0%の場合、吸水膜4の吸水量は0であり、吸水率が100%の場合、吸水膜4の吸水量は飽和吸水量に等しい。吸水率センサ23は、例えば、吸水膜4の一部が誘電体として機能するように2つの電極を吸水膜4に取り付けることによって形成されたコンデンサを含む。このコンデンサの静電容量は、吸水膜4に吸収されている水分量に応じて変化する。したがって、コンデンサの静電容量値と吸水率との関係を予め把握しておくことにより、コンデンサから取得された静電容量値に基づき吸水率を測定することができる。
【0025】
空調装置30は、車室外から空気を導入するための外気導入口31と、車室内の空気を循環させるために車室内の空気を取り込む内気循環口32と、空調装置30に取り込まれた空気を車室内に吹き出す室内側吹出口33と、空調装置30に取り込まれた空気をフロントウィンドウ2に向かって吹き出す窓側吹出口34とを備えている。空調装置30の内部には、外気導入口31や内気循環口32から空気を引き込んで室内側吹出口33や窓側吹出口34から吹き出すためのブロワ35が設けられている。
【0026】
外気導入口31及び内気循環口32には、それぞれ内外気率調整弁36が設けられている。ブロワ35の動作中に外気導入口31の内外気率調整弁36が開くと車室外から空気が導入され、内気循環口32の内外気率調整弁36が開くと車室内の空気が循環される。また、外気導入口31及び内気循環口32のそれぞれの内外気率調整弁36の開度を調節することにより、空調装置30から吹き出される空気における外気と内気の比率を調整することができる。
【0027】
また、室内側吹出口33及び窓側吹出口34には、それぞれ吹出口切替弁37が設けられている。ブロワ35の動作中に室内側吹出口33の吹出口切替弁37が開くと室内側吹出口33から車室内に空気が吹き出され、窓側吹出口34の吹出口切替弁37が開くと窓側吹出口34からフロントウィンドウ2に向かって空気が吹き出される。
【0028】
さらに、空調装置30は、空調装置30に取り込まれた空気の冷却や加熱に使用される冷媒を圧縮して熱交換器に送出するためのコンプレッサ38、及び、空調装置30に取り込まれた空気を加熱するためのヒータ39を備えている。また、空調装置30は、温度や風量の設定入力を受け付けるための入力部40を備えている。コントローラ10は、車室内の温度を調節する通常制御を実行する場合や、吸水膜4を乾燥させる乾燥制御を実行する場合に、空調装置30のブロワ35、内外気率調整弁36、吹出口切替弁37、コンプレッサ38、ヒータ39を動作させるための制御信号を送信する。
【0029】
[空調制御処理]
次に、図3から図5を参照して、本実施形態の車両1の空調システム100による空調制御処理の流れについて説明する。図3は空調制御処理のフローチャートであり、図4は空調制御処理において参照される乾燥/通常制御設定テーブルであり、図5はフロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度と吸水膜4の目標吸水率との関係を示すマップである。空調制御処理は、コントローラ10によって並行して所定の周期(例えば、0.05~0.2秒毎)で繰り返し実行される。
【0030】
図3の空調制御処理は、吸水膜4を乾燥させる乾燥制御を所定の条件下で実行するための処理である。空調制御処理が開始されると、コントローラ10は、外気温湿度センサ21、内気温湿度センサ22、及び吸水率センサ23から信号を取得する(ステップS11)。また、コントローラ10は、空調装置30から現在の設定温度を取得する(ステップ12)。外気温湿度センサ21、内気温湿度センサ22、及び吸水率センサ23からの信号取得と、設定温度の取得は、ステップS12以降の処理においてもバックグラウンドで常時実行されている。設定温度は、本発明における「車室内の目標温度」に相当する。なお、設定温度の取得に代えて、現時点で室内側吹出口33から吹き出している空気の温度を取得してもよい。
【0031】
次に、コントローラ10は、外気を導入せず内気を循環させる内気循環で通常制御を実行した場合に、設定温度を達成するために必要な要求暖房出力Qreqを算出する(ステップS13)。例えば、コントローラ10は、設定温度と内気温湿度センサ22により測定された内気温度との温度差と、ブロワ35の風量とに基づき、所定時間内に内気温度を設定温度に到達させるために必要となるヒータ39の発熱量を要求暖房出力Qreqとして算出する。あるいは、現時点のヒータ39の発熱量を、要求暖房出力Qreqとして取得してもよい。
【0032】
次に、コントローラ10は、予めメモリに記憶されている乾燥/通常制御設定テーブルを参照し、吸水率センサ23から取得した信号に基づく現時点の吸水率WAと、要求暖房出力Qreqとに対応する制御設定を取得する(ステップS14)。図4に例示するように、乾燥/通常制御設定テーブルにより、吸水率WAと要求暖房出力Qreqとの組み合わせに応じて乾燥制御又は通常制御の何れかが設定される。例えば、吸水率WAが60%未満の場合には、吸水率WAが十分に低く乾燥制御を行う必要が無いので、要求暖房出力Qreqに関わらず通常制御が設定されている。また、要求暖房出力Qreqが90%以上の場合には、暖房出力に余裕が無く、乾燥制御を行うことで外気が導入された場合に温度低下を防ぐことが難しいので、吸水率WAに関わらず通常制御が設定されている。即ち、乾燥制御が実行されるのは、少なくとも要求暖房出力Qreqが90%未満の場合である。
【0033】
次に、コントローラ10は、ステップS14で取得した制御設定が乾燥制御か否かを判定する(ステップS15)。その結果、制御設定が乾燥制御ではない場合(ステップS15:NO)、即ち制御設定が通常制御である場合、コントローラ10は、乾燥制御を実行することなく空調制御処理を終了する。この場合、通常制御が既に実行中であれば、コントローラ10は通常制御を継続する。
【0034】
一方、制御設定が乾燥制御である場合(ステップS15:YES)、コントローラ10は、空調装置30の暖房出力を最大としたときに設定温度を達成可能な、フロントウィンドウ2に向かって吹き出される空気における外気の割合(外気率)Xfを算出する(ステップS16)。
【0035】
具体的には、コントローラ10は、暖房出力を最大とすることによって設定温度が達成されるときの、空調装置30に取り込まれる空気(外気及び内気の混合空気)の温度(吸込温度)Tmixを算出する。吸込温度Tmixは以下の式で算出される。
Tmix=Tout-Qmax/WC
ここで、Toutは空調装置30の吹出口から吹き出す空気の温度(吹出温度)であり、設定温度に応じて定まる(設定温度と同じでもよい)。また、Qmaxは最大暖房出力[W]、Wはブロワ35の風量[m3/s]、Cは空気の熱容量[J/m3℃]である。
【0036】
さらに、コントローラ10は、吸込温度Tmixと、外気温湿度センサ21から取得した信号に基づく外気温Tambと、内気温湿度センサ22から取得した信号に基づく内気温Tinとに基づき、下記式から外気率Xfを算出する。
Xf=(Tin-Tmix)/(Tin-Tamb)
【0037】
次に、コントローラ10は、暖房出力を最大とし、外気率をXfとしたときの、窓側吹出口34からフロントウィンドウ2に向かって吹き出される空気(即ちフロントウィンドウ2近傍の空気)の相対湿度RHwを算出する(ステップS17)。この相対湿度RHwは、本発明における「車両用窓ガラスの車室側の表面近傍の空気の湿度」に相当する。また、本実施形態における「フロントウィンドウ2近傍」とは、窓側吹出口34からフロントウィンドウ2に向かって空気が吹き出される範囲のことをいう。
【0038】
具体的には、コントローラ10は、外気温湿度センサ21から取得した信号に基づく外気の絶対湿度AHambと、内気温湿度センサ22から取得した信号に基づく内気の絶対湿度AHinと、外気率Xfとに基づき、下記式からフロントウィンドウ2近傍の空気の絶対湿度AHwを算出する。
AHw=AHamb×Xf+AHin×(1-Xf)
【0039】
さらに、コントローラ10は、フロントウィンドウ2近傍の空気の絶対湿度AHwと、結露湿度AHdpから、以下のようにフロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwを算出する。
RHw=AHw/AHdp
結露湿度AHdpは、結露が生じるときの絶対湿度である。温度と結露湿度AHdpとの関係を定めた結露湿度マップが予めメモリに記憶されており、コントローラ10は、結露湿度マップを参照して、吹出温度Toutに対応する結露湿度を上記式の結露湿度AHdpとして取得することができる。
【0040】
次に、コントローラ10は、フロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwが所定の閾値RHth未満か否かを判定する(ステップS18)。閾値RHthは、長時間をかけずに吸水膜4の乾燥が可能な相対湿度の上限値であり、例えば60%であるが、適宜変更してもよい。
【0041】
その結果、フロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwが所定の閾値RHth未満ではない場合(ステップS18:NO)、即ちフロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwが閾値RHth以上である場合、フロントウィンドウ2に向かって吹き出される空気の湿度が高いために、乾燥制御を実行したとしても乾燥に長時間を要することが予測される。そこで、コントローラ10は、乾燥制御を実行することなく空調制御処理を終了する。
【0042】
一方、フロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwが所定の閾値RHth未満である場合(ステップS18:YES)、コントローラ10は、空調装置30によって乾燥制御を実行させる(ステップS19)。具体的には、コントローラ10は、ブロワ35及びヒータ39の出力を最大にし、外気率がXfとなるように外気導入口31の内外気率調整弁36及び内気循環口32の内外気率調整弁36の開度を調整する。また、コントローラ10は、室内側吹出口33の吹出口切替弁37を閉じると共に、窓側吹出口34の吹出口切替弁37を開くことにより、外気を含む空気がフロントウィンドウ2に向かって吹き出されるようにする。
【0043】
また、コントローラ10は、予めメモリに記憶されているフロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度と吸水膜4の目標吸水率との関係を規定したマップを参照し、ステップS17で算出したフロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwに対応する目標吸水率を設定する(ステップS20)。図5は、フロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwと吸水膜4の目標吸水率との関係を規定したマップの一例である。図5に示すように、目標吸水率は、フロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwが相対的に高い場合に、相対湿度RHwが相対的に低い場合と比較して、目標吸水率が高くなるように設定される。このように、フロントウィンドウ2近傍の空気の相対湿度RHwが相対的に高い場合は、目標吸水率を高く設定することにより、乾燥制御終了までの時間が長くなることを防止できる。
【0044】
次に、コントローラ10は、吸水率センサ23から取得した信号に基づき、現時点の吸水膜4の吸水率が目標吸水率以下か否かを判定する(ステップS21)。その結果、吸水率が目標吸水率以下ではない場合(ステップS21:NO)、即ち吸水膜4の乾燥が十分ではない場合、再度ステップS21の判定を行う。以降、吸水率が目標吸水率以下となるまで、ステップS21の判定を繰り返す。
【0045】
現時点の吸水膜4の吸水率が目標吸水率以下となった場合(ステップS21:YES)、コントローラ10は、空調装置30による乾燥制御を終了させ(ステップS22)、空調制御処理を終了する。
【0046】
[作用・効果]
次に、上述した本実施形態の車両1の空調システム100の作用効果を説明する。
【0047】
コントローラ10は、フロントウィンドウ2の車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に高い場合には、フロントウィンドウ2の車室側の表面近傍の空気の湿度が相対的に低い場合と比較して、目標吸水率が高くなるように、目標吸水率を設定し、吸水膜4の吸水率が目標吸水率以下になるまで乾燥制御を空調装置30に実行させる。即ち、フロントウィンドウ2の車室側の表面近傍の空気の湿度が高いために乾燥制御の実行時間が長くなることが予想される場合には、乾燥制御を終了させるための目標吸水率を高く設定することにより、乾燥制御終了までの時間が長くなることを防止できる。これにより、乾燥制御によりフロントウィンドウ2の曇りを防止しつつ、外気を導入する時間を短くすることができる。
【0048】
また、フロントウィンドウ2の車室側の表面近傍の空気の相対湿度に基づいて目標吸水率を設定するので、フロントウィンドウ2に向かって吹き出される空気の乾燥能力を適切に反映して目標吸水率を設定することができ、乾燥制御によるフロントウィンドウ2の曇り防止と、外気を導入する時間の短縮とを確実に両立することができる。
【0049】
また、コントローラ10は、外気の温度と、内気の温度と、設定温度とに基づき、空調装置30の暖房出力を最大としたときに設定温度を達成可能な外気率を取得し、取得した外気率と、外気の湿度と、内気の湿度とに基づき、フロントウィンドウ2の車室側の表面近傍の空気の湿度を取得し、フロントウィンドウ2の車室側の表面近傍の空気の湿度が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置30に実行させるので、空調装置30の最大暖房出力を超えずに乾燥した外気を取り込める場合に乾燥制御を実行することができる。これにより、車室内の気温の低下を避けながら、フロントウィンドウ2の曇りを防止することができる。
【0050】
また、コントローラ10は、要求暖房出力が所定の閾値未満の場合に、乾燥制御を空調装置30に実行させるので、空調装置30の暖房能力に余力があり、乾燥制御を行うことで外気が導入されても車室内の気温低下を防ぐことができる場合に乾燥制御を実行するようにすることができる。これにより、車室内の気温の低下を避けながら、フロントウィンドウ2の曇りを防止することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 車両
2 フロントウィンドウ
4 吸水膜
10 コントローラ
21 外気温湿度センサ
22 内気温湿度センサ
23 吸水率センサ
30 空調装置
31 外気導入口
32 内気循環口
33 室内側吹出口
34 窓側吹出口
35 ブロワ
36 内外気率調整弁
37 吹出口切替弁
38 コンプレッサ
39 ヒータ
40 入力部
100 空調システム
図1
図2
図3
図4
図5