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特開2025-101861熱間スラブの幅圧下用金型および幅圧下方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101861
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】熱間スラブの幅圧下用金型および幅圧下方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/02 20060101AFI20250701BHJP
   B21B 15/00 20060101ALI20250701BHJP
   B21J 1/04 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
B21B1/02 E
B21B15/00 E
B21J1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218927
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 紘弥
(72)【発明者】
【氏名】山口 慎也
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 由紀雄
(72)【発明者】
【氏名】三宅 勝
【テーマコード(参考)】
4E002
4E087
【Fターム(参考)】
4E002AB04
4E002AD03
4E002BD01
4E087CA02
4E087CB01
4E087EA11
(57)【要約】
【課題】熱間スラブと幅圧下用金型との間の摩擦力および後進力を考慮に入れて幅圧下用金型を設計することによって、幅圧下用金型を使用して熱間スラブの幅圧下を行う場合において、スリップの発生を抑制して安定して幅圧下を行うことのできる熱間スラブの幅圧下用金型および幅圧下方法を提供する。
【解決手段】熱間スラブの幅圧下用金型6であって、平行部7、9、11と、傾斜部8、10とを有しており、熱間スラブ2に平行部7、9、11と傾斜部8、10とが押し込まれた場合における、搬送方向で平行部7、9、11の長さ(L+L+L)と搬送方向で傾斜部8、10の長さ(L1S+L2S)との合計値(L+L1S+L+L2S+L)に熱間スラブ2と平行部7、9、11および傾斜部8、10との間の摩擦係数(μ)を乗算した値が、幅方向で傾斜部8、10の高さ以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間スラブの幅方向で前記熱間スラブの両側のそれぞれに配置され、前記幅方向で前記熱間スラブの両側から前記熱間スラブを押圧して前記熱間スラブの板幅を狭くする幅圧下に用いられる熱間スラブの幅圧下用金型であって、
前記幅方向で前記熱間スラブの側面に平行な平行部と、前記熱間スラブの搬送方向で前記平行部の上流側の端部に連続して形成されており、かつ、前記側面との間の間隔が前記搬送方向で下流側から上流側に向かって増大する傾斜部とを有しており、
前記熱間スラブに前記平行部と前記傾斜部とが押し込まれた場合における、前記搬送方向で前記平行部の長さと前記搬送方向で前記傾斜部の長さとの合計値に前記熱間スラブと前記平行部および前記傾斜部との間の摩擦係数を掛けた値が、前記幅方向で前記傾斜部の高さ以上である熱間スラブの幅圧下用金型。
【請求項2】
前記平行部は、前記幅方向で前記熱間スラブ側に位置する金型平行部と、前記幅方向で前記金型平行部よりも前記熱間スラブの外側に位置する第1中間平行部と、前記幅方向で前記第1中間平行部よりも前記熱間スラブの外側に位置する第2中間平行部とを有しており、
前記傾斜部は、前記搬送方向で前記金型平行部の上流側の端部と前記搬送方向で前記第1中間平行部の下流側の端部との間に形成された第1傾斜部と、前記搬送方向で前記第1中間平行部の上流側の端部と前記搬送方向で前記第2中間平行部の下流側の端部との間に形成された第2傾斜部と、前記搬送方向で前記第2中間平行部の上流側の端部に連続して形成された第3傾斜部とを有しており、
前記搬送方向で前記第1中間平行部の長さをL、前記搬送方向で前記第2中間平行部の長さをL、前記幅方向で前記第1傾斜部の高さをW、前記搬送方向で前記第1傾斜部の長さをL1S、前記幅方向で前記第2傾斜部の高さをW、前記搬送方向で前記第2傾斜部の長さをL2S、前記搬送方向で前記第1傾斜部から前記第2中間平行部までが前記熱間スラブに押し込まれた場合における、前記金型平行部と前記熱間スラブとの接触長さをL、前記摩擦係数をμ、前記熱間スラブの幅圧下量をdwとしたときに、下記の式(1)、および、式(2)を満たす請求項1に記載の熱間スラブの幅圧下用金型。
(W+W)≦dw/2・・・(1)
μ(L+L1S+L+L2S+L)≧(W+W)・・・(2)
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱間スラブの幅圧下用金型を前記熱間スラブの前記幅方向で前記熱間スラブの両側のそれぞれに配置し、前記幅方向で前記熱間スラブの両側から前記幅圧下用金型によって前記熱間スラブを押圧して前記熱間スラブの板幅を狭くする幅圧下を行う幅圧下方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間スラブの幅圧下用金型および幅圧下方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間スラブの板幅の変更手段の一例として、連続鋳造プロセスにおいて製造された熱間スラブを温度が所定温度よりも低下しないうちに、熱間スラブの幅方向で熱間スラブの両側に設置された一対の金型によって間欠的に幅圧下する板幅プレス装置が従来知られている。なお、熱間スラブは、所定温度よりも低温となった後に加熱炉に投入されて加熱されて所定温度以上になっている熱間スラブであってもよい。
【0003】
上述した板幅プレス装置では、熱間スラブの幅方向に相対峙して設置された1対の金型同士の間にテーブルロールおよびピンチロールによって熱間スラブを搬送するようになっている。各金型は熱間スラブに向かって前後動あるいは揺動運動するように構成されている。熱間スラブは前後動あるいは揺動運動する金型によってプレスされてその幅が狭くされる。つまり、幅圧下される。
【0004】
板幅プレス装置では、通常、900~2000mm程度の板幅の熱間スラブに対して、最大300~350mm程度、板幅を狭くする幅圧下を行う。こうすることにより、連続鋳造において鋳造された熱間スラブの板幅とは異なる板幅の鋼板製品の製造を可能としている。また、板幅プレス装置は連続鋳造プロセスで製造する熱間スラブの板幅を変更する回数の低減、熱間圧延プロセスでのスケジュールフリー圧延の拡大、コイル単重の増大など、鋼板製造プロセスの生産性向上や合理化に大きく寄与している。このようなメリットは板幅プレス装置の幅圧下能力が大きいほど拡大する。
【0005】
板幅プレス装置の幅圧下能力とは、熱間スラブの板幅を狭くする板幅プレス装置の機能を意味している。また、板幅プレス装置によって幅圧下する前の熱間スラブの板幅と、板幅プレス装置によって幅圧下した後の熱間スラブの板幅との差が大きいほど、板幅プレス装置の幅圧下能力が大きいことを意味している。したがって、幅圧下能力が大きい板幅プレス装置であれば、種々の板幅の熱間スラブを製造することができ、上述したようなメリットが拡大する。
【0006】
板幅プレス装置で使用される上述した金型は熱間スラブの搬送方向に沿って延びる平坦部と、熱間スラブの搬送方向で平坦部の上流側に連続して形成された傾斜部とを有している。当該傾斜部は搬送方向で下流側から上流側に向かって、熱間スラブとの間の間隔が次第に増大するようになっている。上述した形状の金型を使用して板幅プレス装置によって熱間スラブを幅圧下すると、金型の平坦部に応じた平坦面や、金型の傾斜部に応じた傾斜面が熱間スラブに生じる。その後、板幅プレス装置では、熱間スラブから一対の金型を離隔させ、所定の送りピッチで熱間スラブを搬送する。
【0007】
上述した傾斜部が一段のみ形成された金型(以下、平金型と記す。)によって熱間スラブの幅圧下を行う場合について検討する。未だ幅圧下を行っていない熱間スラブに対して平金型によって幅圧下を行うと、当該熱間スラブに平金型が型押しされ、平金型の平坦部や傾斜部に応じた平坦面や傾斜面が生じる。その熱間スラブを所定の送りピッチで搬送後、再度、平金型によって幅圧下を行う。その場合において、平金型による幅圧下量を次第に増大させると、現時点よりも一回前の幅圧下によって熱間スラブに形成された傾斜面に対して、現時点で幅圧下を行う平金型の傾斜部が接触する。それら熱間スラブの傾斜面と平金型の傾斜部との間の摩擦係数が小さい場合には、熱間スラブが幅圧下されずに、搬送方向で下流側から上流側に熱間スラブが移動するスリップが発生する場合がある。
【0008】
このようなスリップが発生すると、板幅プレス装置での熱間スラブの通板性が悪化してしまう。そのため、従来の金型および幅圧下方法では、スリップの発生を抑制するために、板幅プレス装置での熱間スラブの幅圧下量を制限せざるを得なかった。一方、金型と熱間スラブとの間の摩擦係数は熱間スラブの鋼種、熱間スラブの加熱温度による熱間スラブ表面の酸化スケールの状態や、金型表面の状態によって大きく変化する。そのため、スリップを抑制するために、金型と熱間スラブとの間の摩擦係数を常に高い値に維持することは困難である。なお、通板性とは、板幅プレス装置での熱間スラブの通りやすさを意味している。
【0009】
このような事情で、熱間スラブの幅圧下時におけるスリップの発生を抑制する幅圧下用金型や幅圧下方法が従来検討されており、その一例が特許文献1に記載されている。
【0010】
特許文献1には、金型平行部と第1傾斜部と第1中間平行部と第2傾斜部と第2中間平行部と第3傾斜部とを有する幅圧下用金型が記載されている。その幅圧下用金型では、上述した各部分が熱間スラブの搬送方向で出側から入側に向かって上述した順に連続して設けられている。各平行部は熱間スラブ側面に対して平行に設定されている。各傾斜部は熱間スラブとの間の間隔が搬送方向で下流側から上流側に向かって次第に増大するように傾斜している。そして、特許文献1の金型は、熱間スラブの送りピッチが変化した場合であっても、現時点よりも一回前の幅圧下で熱間スラブに生じた平坦な部分と、当該熱間スラブに対して現時点で幅圧下を行う金型の各平行部のうち、いずれかの平行部とを接触させて幅圧下を開始できるように各部の寸法が設定されている。例えば、予め設定された送りピッチで熱間スラブが搬送されたときには、熱間スラブのうち、現時点よりも一回前に幅圧下したときに第2中間平行部によって幅圧下された領域と、現時点で幅圧下を行う幅圧下用金型の金型平行部とから接触を開始する。こうすることによって熱間スラブの幅圧下を行っているときに、スリップの発生を防止して安定した幅圧下を行うことができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5141282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の幅圧下金型はスリップ対策として不十分だった。すなわち、特許文献1に記載の幅圧下用金型では、幅圧下量が次第に増大すると、3つの傾斜部のうち、少なくともいずれか一つの傾斜部と熱間スラブとが接触する。そして、それらの接触部分で熱間スラブを搬送方向で上流側に移動させる後進力が生じる。そのため、熱スラブと幅圧下用金型との間の摩擦係数によってはスリップが発生する可能性があり、この点で未だ改良の余地があった。
【0013】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、熱間スラブと幅圧下用金型との間の摩擦力および後進力を考慮に入れて幅圧下用金型を設計することによって、当該幅圧下用金型を使用して熱間スラブの幅圧下を行う場合において、スリップの発生を抑制して安定して幅圧下を行うことのできる熱間スラブの幅圧下用金型および幅圧下方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の目的を達成するために、
[1]熱間スラブの幅方向で前記熱間スラブの両側のそれぞれに配置され、前記幅方向で前記熱間スラブの両側から前記熱間スラブを押圧して前記熱間スラブの板幅を狭くする幅圧下に用いられる熱間スラブの幅圧下用金型であって、前記幅方向で前記熱間スラブの側面に平行な平行部と、前記熱間スラブの搬送方向で前記平行部の上流側の端部に連続して形成されており、かつ、前記側面との間の間隔が前記搬送方向で下流側から上流側に向かって増大する傾斜部とを有しており、前記熱間スラブに前記平行部と前記傾斜部とが押し込まれた場合における、前記搬送方向で前記平行部の長さと前記搬送方向で前記傾斜部の長さとの合計値に前記熱間スラブと前記平行部および前記傾斜部との間の摩擦係数を掛けた値が、前記幅方向で前記傾斜部の高さ以上である熱間スラブの幅圧下用金型。
[2]前記平行部は、前記幅方向で前記熱間スラブ側に位置する金型平行部と、前記幅方向で前記金型平行部よりも前記熱間スラブの外側に位置する第1中間平行部と、前記幅方向で前記第1中間平行部よりも前記熱間スラブの外側に位置する第2中間平行部とを有しており、前記傾斜部は、前記搬送方向で前記金型平行部の上流側の端部と前記搬送方向で前記第1中間平行部の下流側の端部との間に形成された第1傾斜部と、前記搬送方向で前記第1中間平行部の上流側の端部と前記搬送方向で前記第2中間平行部の下流側の端部との間に形成された第2傾斜部と、前記搬送方向で前記第2中間平行部の上流側の端部に連続して形成された第3傾斜部とを有しており、前記搬送方向で前記第1中間平行部の長さをL、前記搬送方向で前記第2中間平行部の長さをL、前記幅方向で前記第1傾斜部の高さをW、前記搬送方向で前記第1傾斜部の長さをL1S、前記幅方向で前記第2傾斜部の高さをW、前記搬送方向で前記第2傾斜部の長さをL2S、前記搬送方向で前記第1傾斜部から前記第2中間平行部までが前記熱間スラブに押し込まれた場合における、前記金型平行部と前記熱間スラブとの接触長さをL、前記摩擦係数をμ、前記熱間スラブの幅圧下量をdwとしたときに、下記の式(1)、および、式(2)を満たす[1]に記載の熱間スラブの幅圧下用金型。
(W+W)≦dw/2・・・(1)
μ(L+L1S+L+L2S+L)≧(W+W)・・・(2)
[3][1]または[2]に記載の熱間スラブの幅圧下用金型を前記熱間スラブの幅方向で前記熱間スラブの両側のそれぞれに配置し、前記幅方向で前記熱間スラブの両側から前記幅圧下用金型によって前記熱間スラブを押圧して前記熱間スラブの板幅を狭くする幅圧下を行う幅圧下方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、熱間スラブと幅圧下用金型との間の摩擦力および後進力を考慮に入れて幅圧下用金型を設計する。そのため、本発明によれば、当該幅圧下用金型を使用して熱間スラブの幅圧下を行う場合において、スリップの発生を抑制することができ、安定した熱間スラブの幅圧下を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る幅圧下用金型を適用することのできる板幅プレス装置の一例を示す斜視図である。
図2】本実施形態に係る幅圧下用金型の一例を示す上面図である。
図3図2の示す金型の一部を拡大して示す図である。
図4】現時点よりも一回前に幅圧下を行った熱間スラブに対して本実施形態に係る幅圧下用金型によって幅圧下を行う場合の一例を示す図である。
図5】グリップ合力の算出式の各項を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態と記す。)の一例について説明する。図1は、本実施形態に係る幅圧下用金型を適用することのできる板幅プレス装置の一例を示す斜視図である。図1に示す板幅プレス装置1は熱間スラブ2を搬送するピンチロール3、4およびテーブルロール5と、熱間スラブ2の幅方向で熱間スラブ2の両側面を押圧して熱間スラブ2の板幅を変更する幅圧下用金型(以下、単に金型と記す。)6とを有している。ピンチロール3、4は板幅プレス装置1の上下方向で熱間スラブ2の両側から熱間スラブ2を挟み付けるようになっている。また、ピンチロール3、4はモーターなどの動力源に接続されており、動力源で発生させたトルクを受けて間欠的に回転するように構成されている。こうすることによってピンチロール3、4は予め決めた方向に熱間スラブ2を間欠的に搬送するようになっている。テーブルロール5はフリーロールと称されるロールであって、熱間スラブ2が載置されると共に、ピンチロール3、4によって搬送される熱間スラブ2によって回転させられる。なお、上述した金型6が本実施形態に係る幅圧下用金型に相当する。
【0018】
具体的には、熱間スラブ2の搬送方向で板幅プレス装置1の上流側つまり入側に一対の入側ピンチロール3が配置されている。また、搬送方向で板幅プレス装置1の下流側つまり出側に一対の出側ピンチロール4が配置されている。図1に示す例では、入側ピンチロール3は上下方向で熱間スラブ2の上側と下側とのそれぞれに熱間スラブ2を挟んで対向するように配置されている。以下の説明では、上下方向で熱間スラブ2の上側に位置する入側ピンチロール3を入側上ピンチロール3aと記し、上下方向で熱間スラブ2の下側に位置する入側ピンチロール3を入側下ピンチロール3bと記す。
【0019】
それらのピンチロール3a、3bは熱間スラブ2を挟み付けて予め決めた方向に予め決めた送りピッチで熱間スラブ2を搬送するようになっている。そのため、各ピンチロール3a、3bは互いに反対方向に回転する。また、各ピンチロール3a、3bは後述する金型6による熱間スラブ2の幅圧下を行った後に、間欠的に回転されて熱間スラブ2を予め決めた送りピッチで搬送するようになっている。すなわち、各ピンチロール3a、3bは金型6による熱間スラブ2の幅圧下と同期して上述した動力源によって回転され、また、停止されるようになっている。それらのピンチロール3a、3bの回転および停止はオペレーターによって行ってもよく、図示しない制御装置によって行ってもよい。なお、上述した送りピッチは板幅プレス装置1で熱間スラブ2を搬送する長さを意味している。言い換えれば、送りピッチは、熱間スラブ2のうち、金型6によって幅圧下される部分の搬送方向における長さを意味している。その搬送長さについては後述する。
【0020】
出側ピンチロール4は上下方向で熱間スラブ2の上側と下側とのそれぞれに熱間スラブ2を挟んで対向するように配置されている。以下の説明では、上下方向で熱間スラブ2の上側に位置する出側ピンチロール4を出側上ピンチロール4aと記し、上下方向で熱間スラブ2の下側に位置する出側ピンチロール4を出側下ピンチロール4bと記す。それらのピンチロール4a、4bは熱間スラブ2を挟み付けて予め決めた方向に予め決めた送りピッチで熱間スラブ2を搬送するようになっている。つまり、各ピンチロール4a、4bは互いに反対方向に回転する。また、各ピンチロール4a、4bは上述した各ピンチロール3a、3bと同様に、金型6による熱間スラブ2の幅圧下を行った後に、間欠的に回転されて熱間スラブ2を予め決めた送りピッチで搬送するようになっている。すなわち、各ピンチロール4a、4bは金型6による熱間スラブ2の幅圧下と同期して上述した動力源によって回転され、また、停止されるようになっている。それらのピンチロール4a、4bの回転および停止はオペレーターによって行ってもよく、図示しない制御装置によって行ってもよい。なお、図1に示す例では、入側ピンチロール3と出側ピンチロール4とによって図1での左側から右側に向かって熱間スラブ2を搬送するようになっている。
【0021】
なお、本実施形態の熱間スラブ2としては、図示しない連続鋳造機によって製造され、予め決めた温度以上の温度となっているスラブを挙げることができる。上述したスラブとしては、例えば、連続鋳造機によって製造された直後であって、予め決めた温度よりもその温度が低下する前のスラブであってよい。あるいは、上述したスラブとしては、連続鋳造機によって製造された後に予め決めた温度よりも低温となり、その後に、図示しない加熱炉で加熱されて予め決めた温度以上の温度とされたスラブであってもよい。加熱炉としては製鉄所の製造ラインに設置されてスラブを加熱する従来知られた加熱炉を挙げることができる。
【0022】
金型6は、図1に示す例では、熱間スラブ2の搬送方向で入側ピンチロール3と出側ピンチロール4との間であって、熱間スラブ2の幅方向で熱間スラブ2の両側面に対向するようにそれぞれ配置されている。また、板幅プレス装置1は幅方向で両側のそれぞれに図示しないアクチュエータを有している。そして、それらのアクチュエータによって熱間スラブ2に各金型6を押圧し、熱間スラブ2の板幅を予め決めた板幅にまで狭くする幅圧下を行うようになっている。また、熱間スラブ2の幅圧下を行った後においては、アクチュエータによって熱間スラブ2から金型6を離隔するようになっている。
【0023】
上述した送りピッチは、熱間スラブ2のうち、搬送方向で金型6によって押圧される部分の長さよりも僅かに短く設定されることが好ましい。これは、熱間スラブ2のうち、現時点よりも一回前に幅圧下を行った部分と、現時点で幅圧下を行う部分とを僅かにオーバーラップさせることによって熱間スラブ2の全長に亘って幅圧下を行うためである。
【0024】
図2は、本実施形態に係る金型6の一例を示す上面図である。図3は、図2の示す金型6の一部を拡大して示す図である。図2および図3に示す金型6は三段金型と称される金型であって、金型6の外周面のうち、幅方向で熱間スラブ2側の側面が圧下面となっている。その圧下面のうち、熱間スラブ2の搬送方向で下流側の圧下面に、圧下前の熱間スラブ2における幅方向での側面にほぼ平行な金型平行部7が形成されている。なお、金型平行部7は、以下に説明するように、金型6のうち、幅方向で最も熱間スラブ2側に位置している。
【0025】
金型6の圧下面には、搬送方向で金型平行部7の上流側の端部に連続し、搬送方向で上流側に向かって第1傾斜角αで延びる第1傾斜部8が形成されている。第1傾斜部8は、図2および図3に示すように、幅方向で熱間スラブ2とは反対側に金型平行部7から傾斜して延びている。つまり、金型平行部7に平行な図示しない平面と第1傾斜部8との間の間隔は搬送方向で下流側から入流側に向かって次第に増大する。なお、金型平行部7に平行な平面と第1傾斜部8との成す角度が図3に示すように、第1傾斜部8の第1傾斜角αとなっている。搬送方向で第1傾斜部8の長さL1S、幅方向で第1傾斜部8の高さWの設定については後述する。第1傾斜部8の高さWは幅方向で金型平行部7と後述する第1中間平行部9との間の高さに等しい。
【0026】
第1傾斜部8のうち、搬送方向で第1傾斜部8の上流側の端部に連続して第1中間平行部9が形成されている。つまり、幅方向で金型平行部7よりも熱間スラブ2の外側に第1中間平行部9が位置している。第1中間平行部9は金型平行部7と互いにほぼ平行になっている。搬送方向で第1中間平行部9の長さLは金型平行部7の全長よりも短い。搬送方向で第1中間平行部9の長さLの設定については後述する。
【0027】
第1中間平行部9のうち、搬送方向で第1中間平行部9の上流側の端部に連続して搬送方向で上流側に向かって第2傾斜角αで延びる第2傾斜部10が形成されている。第2傾斜部10は、図2および図3に示すように、幅方向で熱間スラブ2とは反対側に第1中間平行部9から傾斜して延びている。つまり、金型平行部7に平行な平面と第2傾斜部10との間の間隔は搬送方向で下流側から入流側に向かって次第に増大する。なお、金型平行部7に平行な平面と第2傾斜部10との成す角度が、図3に示すように、第2傾斜部の第2傾斜角αとなっている。搬送方向で第2傾斜部10の長さL2S、幅方向で第2傾斜部10の高さWの設定については後述する。第2傾斜部10の高さWは幅方向で第1中間平行部9と後述する第2中間平行部11との間の長さに等しい。
【0028】
第2傾斜部10のうち、搬送方向で第2傾斜部10の上流側の端部に連続して第2中間平行部11が形成されている。つまり、幅方向で第1中間平行部9よりも熱間スラブ2の外側に第2中間平行部11が位置している。第2中間平行部11は上述した金型平行部7や第1中間平行部9と互いにほぼ平行になっている。搬送方向で第2中間平行部11の長さLは金型平行部7の全長よりも短い。搬送方向で第2中間平行部11の長さLの設定については後述する。
【0029】
第2中間平行部11のうち、搬送方向で第2中間平行部11の上流側の端部に連続して搬送方向で上流側に向かって第3傾斜角αで延びる第3傾斜部12が形成されている。第3傾斜部12は、図2および図3に示すように、幅方向で熱間スラブ2とは反対側に第2中間平行部11から傾斜して延びている。つまり、金型平行部7に平行な平面と第3傾斜部12との間の間隔は搬送方向で上流側から下流側に向かって次第に増大する。金型平行部7に平行な平面と第3傾斜部12との成す角度が第3傾斜部12の第3傾斜角αとなっている。なお、熱間スラブ2の搬送中に金型6と熱間スラブ2が衝突すると、熱間スラブ2の搬送が停止してしまう可能性がある。そのため、本実施形態では、熱間スラブ2の搬送中に意図せず金型6と熱間スラブ2が衝突しないようにするために、第3傾斜角αは第1傾斜角α、および、第2傾斜角αよりも小さい角度に設定されている。
【0030】
(摩擦力と後進力の関係)
板幅プレス装置1によって熱間スラブ2の幅圧下を行うときに、熱間スラブ2と金型6との間に生じる摩擦力Ffと後進力Fbとの関係について説明する。後進力Fbとは、金型6によって熱間スラブ2の側面を押圧したときに、搬送方向で板幅プレス装置1の上流側に熱間スラブ2を後退させる力を意味している。
【0031】
具体的には、上述したアクチュエータによって熱間スラブ2側に金型6を移動させると、先ず、熱間スラブ2の側面に金型6の金型平行部7が接触する。熱間スラブ2側への金型6の移動量つまり幅圧下量を増大すると、熱間スラブ2に金型6が押し込まれて熱間スラブ2の幅が減少すると共に、金型平行部7に加えて第1傾斜部8が熱間スラブ2に接触する。幅圧下量を更に増大すると、熱間スラブ2に金型6が更に押し込まれて熱間スラブ2の幅が更に減少する。このように幅圧下量を次第に増大すると、熱間スラブ2に対して、金型平行部7、第1傾斜部8、第1中間平行部9、第2傾斜部10、第2中間平行部11、第3傾斜部12の順に接触する。また、このように熱間スラブ2の幅圧下を行っている間においては、熱間スラブ2と金型6との接触部分に摩擦力Ffが生じる。さらに、熱間スラブ2と第1傾斜部8との間、および、熱間スラブ2と第2傾斜部10との間に上述した後進力Fbが生じる。
【0032】
摩擦力Ffの作用線方向と後進力Fbの作用線方向とは互いに反対であるため、摩擦力Ffから後進力Fbを減じた値が、熱間スラブ2を金型6が掴む力(以下、グリップ合力Gと記す。G=Ff-Fb)になる。例えば、熱間スラブ2に金型6の金型平行部7が接触した時点におけるグリップ合力Gは、金型平行部7と熱間スラブ2との接触長さをL、面圧をp、熱間スラブ2と金型6との間の摩擦係数をμとすると、下記式のように表すことができる。なお、金型平行部7は熱間スラブ2の側面とほぼ平行になっているため、それらの接触部分において、後進力Fbは生じない(Fb=0)。
=μpL
【0033】
幅圧下を行っていない熱間スラブ2に対して最初に幅圧下を行う場合には、接触長さLは搬送方向で金型平行部7の全長に等しくなり、幅圧下の進行に拘わらず一定となる。
【0034】
上述したように熱間スラブ2に幅圧下を行うと、熱間スラブ2に金型6が型押しされ、金型6の形状に応じた凹凸が熱間スラブ2に生じる。熱間スラブ2から金型6が離隔されると、熱間スラブ2は予め決めた送りピッチで、搬送方向で板幅プレス装置1の下流側に搬送される。そのため、現時点よりも一回前に幅圧下を行った熱間スラブ2に対して幅圧下を行う場合、上述した凹凸に対して金型6が接触する。図4はその一例を示している。なお、以下の説明では、現時点での幅圧下を現圧下パスと記し、現圧下パスよりも一回前の幅圧下を前圧下パスと記す。
【0035】
図4に示す例では、前圧下パスによって熱間スラブ2に生じた金型6の第2平行部11に対応する平面13の一部に、現圧下パスにおいて金型平行部7の一部が接触するようになっている。それらが接触した時点における熱間スラブ2と金型6との接触長さLは、送りピッチをfとすると、下記式のように表すことができる。送りピッチfは上述したように、熱間スラブ2が搬送される長さである。送りピッチfの長さは搬送方向で金型6の各中間平行部9、11の長さL、Lと、搬送方向で金型6の各傾斜部8、10の長さL1S、L2Sと、を合算した長さよりも短く設定されている。
=f-(L1S+L+L2S
【0036】
上述した前圧下パスによって熱間スラブ2に生じた金型6の第2平行部11に対応する平面13の一部に、金型平行部7の一部が接触した状態から幅圧下量を増大すると、金型平行部7によって熱間スラブ2が押圧されて変形する。そして、金型平行部7の形状に応じた形状が熱間スラブ2に生じる。こうして、幅圧下の進行に伴って接触長さLは増大する。また、前圧下パスによって熱間スラブ2に生じた金型6の金型平行部7に対応する平面14に、金型平行部7が接触した時点が幅圧下の終了時点である。そのため、幅圧下の終了時点の直前の時点では、接触長さLは送りピッチfにほぼ等しくなる(L≒f)。
【0037】
なお、金型6による熱間スラブ2の幅圧下によって熱間スラブ2に生じる形状を図4に点線で示すように近似すると、幅圧下の進行に伴って変化する接触長さLを簡易的に求めることができる。
【0038】
送りピッチfは、一般的に、図1に示す板幅プレス装置1で幅圧下される全熱間スラブ2にほぼ共通の値となる。すなわち、送りピッチfは板幅プレス装置1で幅圧下される熱間スラブの鋼種や幅に拘わらず、ほぼ一定である。幅圧下中の接触長さLは搬送方向で金型6の各中間平行部9、11の長さL、L、搬送方向で金型6の各傾斜部8、10の長さL1S、L2S、および、幅方向で金型6の各傾斜部8、10の高さW、Wによって変化する。そのため、摩擦力Ffが後進力Fbよりも大きい値(Ff>Fb)となるように金型6の形状を設計すれば、グリップ合力Gが零以上の値となる。そして、そのような金型6を使用して熱間スラブ2の幅圧下を行うと、後述するように、幅圧下の際の熱間スラブ2のスリップを抑制でき、安定して幅圧下を行うことができる。なお、送りピッチfは幅圧下装置に要求される生産能率に応じて、250~450mm程度の値で設定されるが、必ずしもこの範囲に限定されるものではない。上述した接触長さLと送りピッチfとの関係式「L=f-(L1S+L+L2S)を満たす範囲で送りピッチfを設定してよい。
【0039】
摩擦力Ffや後進力Fbは幅圧下量の増大に伴って変化する。一般的に、スラブの送り量が送りピッチf未満になり、熱間スラブ2と第3傾斜部12とが接触した状態から幅圧下を開始した場合における熱間スラブ2のスリップを防止するために、tanαは摩擦係数μ以下になるように設定する。そのため、第3傾斜部12に作用するグリップ力は常に零以上である。したがって、後進力Fbが最大となり、熱間スラブ2が最もスリップしやすい状況は、ここに示す例では、金型6の第1傾斜部8から第2中間平行部11までの範囲が熱間スラブ2に押し込まれて接触する状況である。以下、その状況でのグリップ合力Gについて考える。後進力Fbが最大となる時点では、金型6の第3傾斜部12は熱間スラブ2に接触しない。そのため、以下に説明する計算に入れなくてよい。
【0040】
熱間スラブ2の幅圧下量をdwとすると、上述した状況を下記式のように表すことができる。すなわち、下記式を満たす場合は、熱間スラブ2に金型6の第1傾斜部8から第2中間平行部11までの範囲が押し込まれて接触しているということができる。
(W+W)≦dw/2 ・・・(1)
【0041】
一方、金型6の第1傾斜部8と第1中間平行部9とに作用するグリップ合力Gは下記式のように表すことができる。なお、tanα=W/L1Sであり、μは摩擦係数、pは面圧である。
=L(μp)+(L1S/cosα)(μpcosα-psinα
=μp(L+L1S)-pL1Stanα
=μp(L1S+L)-pW
【0042】
図5は、グリップ合力Gの算出式の各項を説明するための図である。グリップ合力Gの算出式の「psinα」は、図5に示すように、熱間スラブ2に第1傾斜部8が接触することによって生じる後進力を示している。グリップ合力Gの算出式の「μpcosα」は「psinα」とは作用線方向が反対の分力であり、図5に示すように、第1傾斜部8と熱間スラブ2との間に生じる摩擦力を示している。また、グリップ合力Gの算出式の「μp」は第1中間平行部9と熱間スラブ2との間に生じる摩擦力を示している。さらに、図5に示すように、熱間スラブ2に第1傾斜部8が押し込まれた状態では、幅方向における金型6と熱間スラブ2との接触長さは第1傾斜部8の高さWと等しくなる。搬送方向における金型6と熱間スラブ2との接触長さは、搬送方向での第1傾斜部8の長さL1Sと第1中間平行部9の長さLとを合算した値と等しくなる。そのため、上述した各長さL1S、L、および、高さWのそれぞれを、グリップ合力Gの算出式において、搬送方向、および、幅方向での金型6と熱間スラブ2との接触長さとして用いている。
【0043】
第2傾斜部10と第2中間平行部11とに作用するグリップ合力Gも上述したグリップ合力Gと同様に計算することができる。したがって、第1傾斜部8、第1中間平行部9、第2傾斜部10、および、第2中間平行部11に作用するグリップ合力は下記式のように表すことができる。
+G=μp(L1S+L+L2S+L)-p(W+W
【0044】
上述したグリップ合力に金型平行部7に作用するグリップ合力Gを加算した値が、金型6の第1傾斜部8から第2中間平行部11までの範囲が熱間スラブ2に接触している状況におけるグリップ合力Gとなる。当該グリップ合力Gは下記式のように表すことができる。なお、下記式に使用する接触長さLの値は熱間スラブ2の幅圧下の終了直前の時点での値であり、上述したように送りピッチfにほぼ等しい。
G=G+G+G
=μp(L+L1S+L+L2S+L)-p(W+W
【0045】
熱間スラブ2のスリップを防止するためには、グリップ合力Gを零以上(G≧0)にする必要がある。グリップ合力Gを表す上記の式の両辺を面圧pで除算すると、下記式のように変形することができる。
G/p=μ(L+L1S+L+L2S+L)-(W+W
【0046】
なお、熱間スラブ2の幅圧下が進行すると、熱間スラブ2の加工硬化が進行し、それに伴って面圧pが変化する。しかしながら、面圧pは常に正の値である。したがって、グリップ合力Gを面圧pで除算した値は零以上であり、上述した式の右辺も零以上となる。これを不等式で表すと下記式になる。
μ(L+L1S+L+L2S+L)-(W+W)≧0
【0047】
上述した不等式のうち、第1傾斜部8の高さW、および、第2傾斜部10の高さWの項(W+W)を右辺に移項すると、下記の式(2)になる。
μ(L+L1S+L+L2S+L)≧(W+W) ・・・(2)
【0048】
式(2)によれば、左辺の値が右辺の値以上である場合に、グリップ合力Gは零以上となる。式(2)の左辺の値は摩擦係数μに、熱間スラブ2に接触する搬送方向での各部8、9、10、11の長さL1S、L、L2S、Lの合計値と熱間スラブ2の幅圧下の終了直前の時点での金型平行部7の接触長さLとの合計値を掛けた値である。式(2)の右辺の値は幅方向で各傾斜部8、10の高さW、Wの合計値である。そのため、式(2)を満たすように金型6の各部の寸法を設定すれば、金型6によって熱間スラブ2の幅圧下を行うときに熱間スラブ2のスリップを抑制できることになる。
【0049】
また、式(2)は、後進力Fbが最大となる式(1)を満たす状況でのグリップ合力Gを表している。そのため、式(1)を満たさない場合は、例えば、熱間スラブ2と金型6との接触が生じる範囲でのグリップ合力を算出し、当該グリップ合力が正の値となるように、金型6の各部の寸法を設計すればよい。
【0050】
(摩擦係数)
金型6と熱間スラブ2との間の摩擦係数μは熱間スラブ2の鋼種、熱間スラブ2の加熱温度による熱間スラブ2の表面の酸化スケールの状態、および、金型6の表面の状態によって変化する。そのため、摩擦係数μと、熱間スラブ2の鋼種、熱間スラブ2の表面の酸化スケールの状態、および、金型6の表面の状態との関係を例えばFEM(有限要素法)などによって予め求めておき、その予め求めた関係に基づいて摩擦係数μを算出すればよい。また、当該摩擦係数μは、従来知られているピンオンディスク試験によって求めることができる。ピンオンディスク試験では、板幅プレス装置1で幅圧下を行う熱間スラブ2を模した当該熱間スラブ2と同鋼種であって、酸化スケールの状態がほぼ同じ状態の小片(例えば、ピン)を用意する。また、上述した金型6と同種の素材によって構成されたディスクを用意する。そして、上述した小片とディスクとを互いに接触させかつ相対移動させることによって、それらの間の摩擦係数を測定する。さらに、摩擦係数μが大きいほど幅圧下荷重が増大するため、予め摩擦係数μを変えた際の幅圧下荷重をFEM等で計算しておき、荷重実績から摩擦係数を逆算してもよい。なお、摩擦係数μの算出方法は上述した方法に限定されるものではない。
【0051】
本実施形態によれば、金型6の各部の寸法を上述した式(1)、および、式(2)を満たすように、つまり、金型6と熱間スラブ2との間の摩擦力および後進力を考慮に入れて金型6の各部の寸法を設定する。そのため、熱間スラブ2の幅圧下を行うときに、当該熱間スラブ2が後退するスリップの発生を防止もしくは抑制することができる。その結果、板幅プレス装置1での熱間スラブ2の通板性を向上することができる。また、板幅プレス装置1によって、安定して熱間スラブ2の幅圧下を行うことができる。なお、上述した構成の金型6を板幅プレス装置1に設置し、かつ、金型6を使用して熱間スラブ2の幅圧下を行う方法が本実施形態に係る幅圧下方法に相当する。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した式(2)は図2に示す三段金型の場合であるが、グリップ合力Gについての上述した考え方は三段金型に限定されず、二段金型や四段以上の多段式の金型についても同様に適用することができる。すなわち、グリップ合力Gが正の値となるように、搬送方向で多段式金型の各平行部の長さ、および、幅方向での各傾斜部の高さを設定すればよい。また、本発明の実施形態では、スラブ2を間欠的に搬送する、一般的にストップアンドゴー方式と呼ばれる幅圧下装置について述べたが、スラブ2を連続的に搬送するフライング方式のサイジングプレスにも適用可能であり、ストップアンドゴー方式に限定されるものではない。そのような場合であっても上述した本実施形態とほぼ同様の作用・効果を得ることができる。
【実施例0053】
以下、本実施形態の効果を確認するために行った実施例について説明する。この実施例では、上述した板幅プレス装置1とほぼ同様に構成された板幅プレス装置を用い、厚さ260mm、幅1500mm、長さ9000mmの炭素鋼の熱間スラブに対して幅圧下を行った。また、上述した幅圧下用金型6とほぼ同様に構成された幅圧下用金型を使用した。実施例1~4、および、比較例1~4の各熱間スラブの寸法、および、それらの熱間スラブについて幅圧下を行った結果を表1にまとめて示してある。
【0054】
【表1】
【0055】
式(2)を満たす場合には、表1の「式(2)の関係」の列に「○」を記載し、式(2)を満たさない場合に、「式(2)の関係」の列に「×」を記載した。また、幅圧下を行った際に、スリップが生じなかった場合には、表1の「通板可否」の列に「○」を記載し、スリップが生じた場合には、「通板可否」の列に「×」を記載した。
【0056】
実施例1~3は、式(2)を満足するように幅圧下用金型を設計し、当該幅圧下用金型を使用して熱間スラブの幅圧下を行った例である。実施例1~3では、表1に示すように、熱間スラブの幅圧下を行っているときに、熱間スラブのスリップが発生しなかった。そのため、熱間スラブの全長に亘って安定して幅圧下を行うことができた。
【0057】
比較例1~3は、熱間スラブと幅圧下用金型との間の摩擦係数は実施例1~3と同じであるが、式(2)を満足しない幅圧下用金型を設計し、当該幅圧下用金型を使用して熱間スラブの幅圧下を行った例である。比較例1~3では、表1に示すように、幅圧下を行った際に、スリップが生じてしまい、それらの全長に亘って安定して幅圧下を行うことができなかった。
【0058】
実施例4は、実施例1と比較して幅圧下量を低減した以外は実施例1と同様に幅圧下用金型を設計し、当該幅圧下用金型を使用して熱間スラブの幅圧下を行った例である。実施例4では、表1に示すように、幅圧下を行った際に、スリップを生じることなくその全長にわたって安定して幅圧下を行うことできた。
【0059】
比較例4は、式(2)を満足しない幅圧下用金型を設計し、当該幅圧下用金型を使用して熱間スラブの幅圧下を行った以外は実施例4と同様である。比較例4では、表1に示すように、幅圧下を行った際に、スリップが生じてしまい、それらの全長に亘って安定して幅圧下を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0060】
1 板幅プレス装置
2 熱間スラブ
3 入側ピンチロール
4 出側ピンチロール
5 テーブルロール
6 幅圧下用金型
7 金型平行部
8 第1傾斜部
9 第1中間平行部
10 第2傾斜部
11 第2中間平行部
12 第3傾斜部
13 前圧下パスで熱間スラブに生じた第2中間平行部に対応する平面
14 前圧下パスで熱間スラブに生じた金型平行部に対応する平面
図1
図2
図3
図4
図5