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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101911
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】上体部位の位置変化推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20250701BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/11 120
A61B5/11 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219010
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武史
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
(72)【発明者】
【氏名】下田 真吾
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA05
4C038VA12
4C038VB01
4C038VB14
4C038VC05
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】推定対象者が歩行したときに、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定することで、上体の複数の部位毎の位置の経時変化を推定できるようにする。
【解決手段】提供者測定ステップS11では、データ提供者が歩行したときに、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定するとともに、上体における複数の部位毎の位置の経時変化を測定する。学習モデル作成ステップS12では、測定された力の経時変化と、位置の経時変化との関連性を学習して学習モデルを作成する。対象者測定ステップS13では、データ提供者の力測定に用いられた測定装置と共通の測定装置を用いて、推定対象者が歩行したときに、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定する。推定ステップS14では、測定された力の経時変化を、上記学習モデルに与えて、推定対象者の上体の複数の部位毎の位置の経時変化を推定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ提供者が歩行したときに、前記データ提供者の足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定するとともに、前記測定に同期して、前記データ提供者の上体における複数の部位毎の位置の経時変化を測定する提供者測定ステップと、
前記提供者測定ステップで測定された前記力の経時変化、及び前記位置の経時変化の関連性を学習して学習モデルを作成する学習モデル作成ステップと、
前記データ提供者の力測定に用いられた測定装置と共通の測定装置を用いて、推定対象者が歩行したときに、前記推定対象者の足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定する対象者測定ステップと、
前記対象者測定ステップで測定された前記力の経時変化を、前記学習モデル作成ステップで作成された前記学習モデルに与えて、前記推定対象者の上体の複数の部位毎の位置の経時変化を推定する推定ステップと、
を備える、上体部位の位置変化推定方法。
【請求項2】
前記提供者測定ステップでは、前記上体における複数の部位として、複数箇所の関節の位置の経時変化が測定される、請求項1に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【請求項3】
前記測定装置は、力センサの組み込まれたインソールを備え、
前記提供者測定ステップでは、前記データ提供者が、前記インソールの敷かれたシューズを履いて歩行し、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を前記力センサにより測定し、
前記対象者測定ステップでは、前記推定対象者が、前記インソールの敷かれたシューズを履いて歩行し、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を前記力センサにより測定する、請求項1又は請求項2に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【請求項4】
前記提供者測定ステップ及び前記対象者測定ステップでは、前記インソールとして、踵の荷重のかかる部分及びつま先の荷重のかかる部分のそれぞれに前記力センサが組み込まれるとともに、前記踵及び前記つま先を結ぶ仮想線に対し内側及び外側となる部分のそれぞれに前記力センサが組み込まれたものが用いられ、各力センサにより、前記力の経時変化が測定される、請求項3に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【請求項5】
前記力は圧力である、請求項1に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【請求項6】
前記力は圧力であり、前記力センサは圧力センサである、請求項3に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定対象者の上体の複数の部位毎の位置が歩行に伴いどのように経時変化するかを推定する、上体部位の位置変化推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運動器の障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態である運動器症候群が社会問題となっている。運動器症候群を早期に発見するために、運動器症候群の判定に関する技術開発が進められている。例えば、特許文献1には、被測定者の歩行状態の変化を簡易に把握することのできるシステムが提案されている。
【0003】
このシステムでは、足裏の複数の部位毎にかかる圧力を経時的に測定する。測定された測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する。取得された特徴量に基づいて、歩行状態が所定のアラート対象の状態であるか否かを判定する。歩行状態が所定のアラート対象の状態であると判定された場合には、そのことを報知するようにしている。
【0004】
上記システムによれば、被測定者は、測定部を装着した状態で歩行する。又は保護者等の他者は、被測定者に測定部を装着させて歩行させる。そして、上記被測定者又は上記他者は、アラート対象の状態であることの報知の有無を確認する。上記被測定者又は上記他者は、上記報知により、医療従事者による直接の診断を必要とせずに、被測定者の歩行状態がアラート対象の状態に変化したことを簡易に把握できる。そして、上記被測定者は、医療機関を受診する等の適切な対応を行うことができる。また、上記他者は、被測定者に対し、医療機関を受診させる等の適切な対応を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-137371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1は、歩行状態として専ら下肢の状態の変化を診断しようとするものである。しかし、近年では、下肢にとどまらず、上体の状態の変化、特に、複数の部位毎の位置の経時変化を推定したいといったニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための上体部位の位置変化推定方法の各態様を記載する。
[態様1]データ提供者が歩行したときに、前記データ提供者の足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定するとともに、前記測定に同期して、前記データ提供者の上体における複数の部位毎の位置の経時変化を測定する提供者測定ステップと、前記提供者測定ステップで測定された前記力の経時変化、及び前記位置の経時変化の関連性を学習して学習モデルを作成する学習モデル作成ステップと、前記データ提供者の力測定に用いられた測定装置と共通の測定装置を用いて、推定対象者が歩行したときに、前記推定対象者の足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定する対象者測定ステップと、前記対象者測定ステップで測定された前記力の経時変化を、前記学習モデル作成ステップで作成された前記学習モデルに与えて、前記推定対象者の上体の複数の部位毎の位置の経時変化を推定する推定ステップと、を備える、上体部位の位置変化推定方法。
【0008】
データ提供者及び推定対象者が歩行した場合、足裏にかかる力は、上体の各部の位置の経時変化から影響を受けて、経時変化する。足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化と、上体における複数の部位毎の位置の経時変化との間には、対応関係が見られる。
【0009】
上記方法によれば、足裏の力の経時変化が測定された推定対象者について、上体の複数の部位毎の位置の経時変化が、機械学習により推定される。
提供者測定ステップでは、データ提供者が歩行する。この際、データ提供者の足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化と、データ提供者の上体における複数の部位毎の位置の経時変化とが、同期した状態で測定される。
【0010】
学習モデル作成ステップでは、提供者測定ステップで測定された力の経時変化と、位置の経時変化との関連性が学習される。すなわち、大量のデータの中に潜む、共通する特徴である法則(ルール)が見つけ出されることにより、学習モデルが作成される。
【0011】
対象者測定ステップでは、推定対象者が歩行する。この際、データ提供者の力測定に用いられた測定装置と共通の測定装置が用いられ、推定対象者の足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化が測定される。
【0012】
推定ステップでは、上記対象者測定ステップで測定された力の経時変化が、上記学習モデル作成ステップで作成された学習モデルに対し、未知のデータとして、与えられる。そして、推定ステップでは、推定対象者の上体の複数の部位毎の位置の経時変化が推定される。
【0013】
[態様2]前記提供者測定ステップでは、前記上体における複数の部位として、複数箇所の関節の位置の経時変化が測定される、[態様1]に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【0014】
関節は、隣り合う骨が繋がっている部分である。骨は、関節を支点として、様々な方向へ動くことが可能である。関節は、骨が動くときの支点となる箇所であり、上体が動いたときに位置の変化量の最も少ない箇所である。従って、上記の方法によるように、上体の関節の位置の経時変化が測定されることで、上体の動きの少ない箇所で、上体の複数の部位毎の位置の経時変化を測定することが可能である。
【0015】
[態様3]前記測定装置は、力センサの組み込まれたインソールを備え、前記提供者測定ステップでは、前記データ提供者が、前記インソールの敷かれたシューズを履いて歩行し、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を前記力センサにより測定し、前記対象者測定ステップでは、前記推定対象者が、前記インソールの敷かれたシューズを履いて歩行し、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を前記力センサにより測定する、[態様1]又は[態様2]に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【0016】
上記方法によれば、足裏の複数の部位毎の力測定に際し、力センサの組み込まれたインソールを備えるシューズが用いられる。
提供者測定ステップでは、データ提供者がシューズを履いて歩行する。対象者測定ステップでは、推定対象者がシューズを履いて歩行する。足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化が上記力センサによって測定される。
【0017】
[態様4]前記提供者測定ステップ及び前記対象者測定ステップでは、前記インソールとして、踵の荷重のかかる部分及びつま先の荷重のかかる部分のそれぞれに前記力センサが組み込まれるとともに、前記踵及び前記つま先を結ぶ仮想線に対し内側及び外側となる部分のそれぞれに前記力センサが組み込まれたものが用いられ、各力センサにより、前記力の経時変化が測定される、[態様3]に記載の上体部位の位置変化推定方法。
【0018】
歩行に際しては、足裏の複数の部位のうち、踵が最初に着地し、踵からつま先に向けて順に着地する部位が変化する。また、踵が着地した後、つま先が着地する前には、踵及びつま先を結ぶ仮想線に対し内側及び外側となる部分のうち、少なくとも一方が着地する。着地する部位によって、発生する足趾把持力が異なってくる。
【0019】
従って、上記箇所に力センサの組み込まれたインソールが、足裏の力の測定に用いられると、少ない数の力センサで、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を過不足なく測定することが可能である。
【0020】
[態様5]前記力は圧力である、[態様1]~[態様4]のいずれか1つに記載の上体部位の位置変化推定方法。
上記の方法によるように、足裏の複数の部位毎にかかる圧力が、足裏の複数の部位毎にかかる力とされてもよい。
【0021】
[態様6]前記力は圧力であり、前記力センサは圧力センサである、[態様3]又は[態様4]に記載の上体部位の位置変化推定方法。
上記の方法によるように、力センサとして、圧力センサの組み込まれたインソールを備える測定装置が用いられて、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化として、圧力の経時変化が測定されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、推定対象者が歩行したときに、足裏の複数の部位毎にかかる力の経時変化を測定することで、上体の複数の部位毎の位置の経時変化を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、上体部位の位置変化推定方法を具体化した一実施形態における提供者測定ステップを説明する説明図である。
図2図2は、上記実施形態のインソールにおける圧力センサの配置状態を説明する説明図である。
図3図3は、上記実施形態の圧力センサによって測定される圧力波形の一例を示す特性図である。
図4図4は、上記実施形態における対象者測定ステップを説明する説明図である。
図5図5は、上記実施形態における推定対象者の上体の部位毎の位置の経時変化を推定する手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、上体部位の位置変化推定方法を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の推定方法には、図1に示す第1測定装置10と、図2に示す第2測定装置20とが用いられる。次に、各測定装置について説明する。
【0025】
<第1測定装置10>
図1に示すように、第1測定装置10は、水平又は水平に近い平坦な面8を有する箇所に設置されている。平坦な面8の一部であって、同図1の左右方向に一定長さ、例えば10メートルを有する箇所は、データ提供者P1が歩行する直線状の歩行路9として使用されている。なお、歩行路9は、室内に設定されてもよいし、室外に設定されてもよい。
【0026】
第1測定装置10は、一対の撮像機器11,12を備えている。各撮像機器11,12の一例は、デジタルカメラ、デジタルカメラが搭載されたタブレット等である。
一対の撮像機器11,12は、歩行路9の長さ方向における両側であって、その歩行路9を挟み込む箇所に設置されている。より詳しくは、撮像機器11は、歩行路9の一方の端部9aの近くに設置され、撮像機器12は、歩行路9の他方の端部9bの近くに設置されている。両撮像機器11,12は、歩行路9の延びる方向に互いに対向した状態で設置されている。
【0027】
各撮像機器11,12は、上記歩行路9を歩行するデータ提供者P1を撮像することで画像を生成する。そして、各撮像機器11,12は、上記複数の画像が経時的に(時系列的に)連続する動画データを生成する。
【0028】
各撮像機器11,12は送信部(図示略)を備えている。撮像機器11,12毎の送信部は、生成された動画データを、ネットワークを介してクラウドコンピューティング(クラウド)へ送信する。
【0029】
なお、上記動画データがモーションキャプチャされることで、データ提供者P1の上体P1aにおける複数の部位毎の位置の経時変化が算出される。本実施形態では、上体P1aにおける複数の部位として、上体P1aの複数箇所の関節が設定される。関節は、隣り合う骨が繋がっている部分である。骨は、関節を支点として、様々な方向へ動くことが可能である。関節は、骨が動くときの支点となる箇所であり、上体P1aが動いたときに位置の変化量の最も少ない箇所である。上記位置の経時変化の算出は、後述する学習モデルの作成前の任意のタイミングで行われる。
【0030】
<第2測定装置20>
図1及び図2に示すように、第2測定装置20は、シューズ21の内底部に敷かれるインソール(中敷き)22を備えている。各インソール22には、歩行中の足24の裏(足裏)の複数の部位毎にかかる力を測定する力センサとして、圧力を測定する圧力センサ23が組み込まれている。圧力センサ23は、踵センサ23a、つま先センサ23b、内側センサ23c及び外側センサ23dを備えている。
【0031】
なお、歩行とは、一般的には、足裏で地面を踏み、身体を支える時期である立脚期と、片方の足24をもち上げて前に振り出す時期である遊脚期とからなる。本実施形態では、上記立脚期及び遊脚期に加え、移動を開始する直前の静止立位で止まっている時期と、移動を終えた直後の静止立位で止まっている時期も、歩行に含まれるものとする。
【0032】
図2に示すように、踵センサ23aは、インソール22において、踵24aの荷重がかかる部分に配置され、かつ足裏の踵24aにかかる圧力を測定する。つま先センサ23bは、インソール22において、つま先24bを構成する5本の指のうち、荷重がかかる部分のいずれかに配置され、かつ足裏のつま先24bにかかる圧力を測定する。
【0033】
ここで、足24の内側とは、左右方向のうち、反対側の足24に近い側であり、外側とは、同方向のうち、反対側の足24から遠い側である。
内側センサ23cは、インソール22において、踵センサ23aとつま先センサ23bとを結ぶ仮想線Lよりも内側であって、母指球の荷重がかかる部分に配置され、かつ足裏の内側部分にかかる圧力を測定する。外側センサ23dは、インソール22において、仮想線Lよりも外側であって、小指球の荷重がかかる部分に配置され、かつ足裏の外側部分にかかる圧力を測定する。
【0034】
なお、圧力センサ23が、インソール22において、上記4箇所に配置されているのは、次の理由による。
歩行に際しては、足裏の複数の部位のうち、踵24aが最初に着地し、その踵24aからつま先24bに向けて順に着地する部位が変化する。また、踵24aが着地した後、つま先24bが着地する前には、上記仮想線Lに対し内側及び外側となる部分のうち、少なくとも一方が着地する。着地する部位によって、発生する足趾把持力が異なってくる。
【0035】
そこで、本実施形態では、圧力センサ23が、インソール22において、踵24aの荷重のかかる部分と、つま先24bの荷重のかかる部分とのそれぞれに組み込まれている。また、圧力センサ23が、インソール22において、上記仮想線Lに対し内側及び外側となる部分のそれぞれに組み込まれている。そのため、インソール22に組み込まれた上記圧力センサ23により、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化が適切に測定される。
【0036】
圧力センサ23としては、圧電素子等を用いた公知の感圧センサを用いることができる。特に、足裏に配置されるという使用状況に鑑みると、伸縮性及び耐久性の観点から、誘電エラストマーを利用したエラストマー製の静電容量型センサを用いることが好ましい。上記誘電エラストマーとしては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマー等が挙げられる。
【0037】
上記エラストマー製の静電容量型センサには、全体を薄く形成できるため、インソール22の中に入れても、同インソール22の厚みがさほど増加しないというメリットもある。このセンサは、一対の電極の間に誘電エラストマーを配置した構造を採っている。そして、誘電エラストマーが引っ張りや応力によって変形することで、電極に蓄電される電気量(静電容量)が変化する。この変化量が足裏の圧力として測定される。
【0038】
各圧力センサ23により測定された各測定値は、静電容量値、電気抵抗値等の圧力センサ23の測定方式に応じた圧力値に変換可能な測定値である。
図3は、各圧力センサ23により測定された、足裏の部位毎の圧力の時間変化を表す波形の一例を示している。同図3において、実線は、踵センサ23aの測定値を示し、一点鎖線は、つま先センサ23bの測定値を示し、二点鎖線は、内側センサ23cの測定値を示し、破線は、外側センサ23dの測定値を示している。
【0039】
上記圧力センサ23の組み込まれたインソール22が用いられて、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化が測定される対象となるのは、複数の図1に示すデータ提供者P1、及び図4に示す所定の推定対象者P2である。表現を変えると、データ提供者P1及び推定対象者P2は、共通のインソール22が用いられて、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化が測定される。ここで、共通のインソール22とは、同一種類のインソール22、より詳しくは、上記と同じ数の圧力センサ23が、上記と同様の箇所に配置されたインソール22のことである。
【0040】
図1に示すデータ提供者P1を対象として行われる圧力の経時変化の測定は、位置の経時変化の測定が行われた箇所と同じ場所で、同時に行われる。従って、データ提供者P1が歩行路9を歩行する際には、位置の経時変化の測定に加え、圧力の経時変化が測定されることとなる。
【0041】
上記インソール22は、上記圧力センサ23に加え、送信部(図示略)を備えている。送信部は、各圧力センサ23によって測定された圧力データを、ネットワークを介してクラウドへ送信する。この送信は、上記撮像機器11,12の送信部から動画データが送信されるタイミングと同期したタイミングで行われる。同期は、例えば、NTP等の通信プロトコルに規定されている方法を用いることで行われる。
【0042】
なお、図4に示す推定対象者P2を対象として行われる足裏の圧力の経時変化の測定は、水平又は水平に近い平坦な面25に設定された歩行路26を、推定対象者P2が歩行する際に行われる。
【0043】
上記データ提供者P1を対象として、第1測定装置10によって測定された位置の経時変化、及び第2測定装置20によって測定された圧力の経時変化は、推定対象者P2の上体P2aの複数の部位毎の位置の経時変化を推定する際に用いられる。
【0044】
<本実施形態の作用>
次に、本実施形態の作用として、推定対象者P2の足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化から、その推定対象者P2の上体P2aにおける複数の部位毎の位置の経時変化を推定する手順について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0045】
この推定には、コンピュータに学習させる、機械学習と呼ばれる技術が用いられる。ここで、機械学習の手法の1つとして、人間の脳の神経回路を模した数理モデルとして提唱されたニューラルネットワークがある。人間の脳では、多数の神経細胞(ニューロン)が連携して電気信号をやりとりする、すなわち、ニューロンが電気信号を相互に伝達することで、思考、認識等の処理が行われる。
【0046】
各ニューロンは、電気信号の入力側のニューロンから電気信号を受け取り、これを蓄積する。各ニューロンは、蓄積された電気量が閾値を超えると、出力側のニューロンに電気信号を伝達する。この電気信号が閾値を超えることと、出力側のニューロンへ電気信号を伝達することを「発火」という。また、各ニューロンは、入力側及び出力側のいずれのニューロンに対しても複数のニューロンと接続されている。その接続強度は、ニューロンの組み合わせによって異なっている。
【0047】
これに対し、ニューラルネットワークは、多数のニューロンが結合された構造を有している。ニューラルネットワークは、複数のニューロンが集まった「層」と呼ばれる構造を有する。この層は、データが入力される「入力層」と、結果を出力する「出力層」と、入力層及び出力層の間の層である隠れ層(中間層)とを備えている。各層は、複数のノードがエッジによって繋がれる構造を採っている。各層のノードは、前の層の全てのノードの出力を入力として使用している。
【0048】
ニューラルネットワークでは、層から層へ、値が変換されていく。ニューラルネットワークとは、この変換がいくつも連なってできる一つの大きな関数であると考えられる。そして、どのようなデータを入力し、どのような出力を作りたいかによって、入力層と出力層のノード数が決定される。
【0049】
ニューラルネットワークでは、所定のニューロンが受け取る電気信号の値は、そのニューロンに入力される電気信号の強さと、ニューロン間の結合度合いに応じて調整される。上記ニューロンが蓄積した電気量が、ある閾値を越えると、「1」が出力される。これが、ニューロンの発火に該当する。すなわち、上記ノードがアクティブ化されて、ネットワークの次の層にデータが送信される。閾値を超えないと、データはネットワークの次の層に送信されない。
【0050】
上記ニューラルネットワークは、「学習」及び「推論(推定)」に適用される。学習は、ニューラルネットワークの各層の重みを少しずつ調整し、正解ラベルとの誤差を小さくする、すなわち、精度を高めることである。推論(推定)は、調整済みのネットワークを使って、回答を出すステップである。上記図5のフローチャートでは、これらの学習及び推論(推定)が行われる。
【0051】
提供者測定ステップS11では、図1に示すように、データ提供者P1が、図2のインソール22の敷かれたシューズ21を履く。データ提供者P1は、歩行を開始する前に、歩行路9の長さ方向における一方の端部9aで静止姿勢を採る。このとき、すなわち静止立位のときに、各撮像機器11,12によりデータ提供者P1を一定時間(例えば、30秒間程度)撮像し、キャリブレーションを行う。ここでのキャリブレーションとは、撮像機器11,12の撮像した画像や設定が正しいかどうかを、静止立位の撮像データを基準として判定し、必要に応じて、正確な画像を撮像できるように設定等を調整する作業をいう。
【0052】
データ提供者P1は、水平又は水平に近い平坦な面8に設定された歩行路9を、長さ方向における一方の端部9aを始点として、他方の端部9bへ向けて歩行する。データ提供者P1は、端部9bに到達すると、向きを変え、上記とは逆に端部9aに向けて歩行する。そして、データ提供者P1は、上記歩行路9を複数回、例えば2回往復し、端部9aに戻る。
【0053】
各撮像機器11,12は、上記歩行路9を歩行する期間中、データ提供者P1を撮像することで画像を生成する。そして、各撮像機器11,12は、上記複数の画像が経時的に(時系列的に)連続する動画データを生成する。撮像機器11,12毎の送信部は、撮像機器11,12により生成された動画データを、ネットワークを介してクラウドへ送信する。
【0054】
また、データ提供者P1が歩行路9を歩行している期間には、圧力センサ23が、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化を測定する。すなわち、踵センサ23aが、足裏の踵24aにかかる圧力を測定し、つま先センサ23bが、足裏のつま先24bにかかる圧力を測定する。内側センサ23cが、足裏の内側部分にかかる圧力を測定し、外側センサ23dが、足裏の外側部分にかかる圧力を測定する。そして、各インソール22の送信部は、各圧力センサ23によって測定された圧力データを、ネットワークを介してクラウドへ送信する。
【0055】
上述した2種類の測定は、多数の図1のデータ提供者P1に対しなされる。これらの測定により、多数のデータ提供者P1に関する動画データと、足裏の圧力データとが得られる。
【0056】
次に、図5の学習モデル作成ステップS12では、上記提供者測定ステップS11で測定された圧力の経時変化と、位置の経時変化との関連性が学習される。すなわち、大量のデータの中に潜む、共通する特徴である法則(ルール)等が見つけ出されることにより、学習モデルが作成される。特徴を数値的に表現したものである特徴量は、機械学習において、推定の手がかりとなる変数として扱われる。
【0057】
学習モデルは、法則を表現するアルゴリズム、すなわち、問題を解くための一連の手続きであり、予測器とも表現される。上記学習の際には、出力値と正解との誤差(誤差関数の値)が小さくなるように、ニューロン間の結合強度を表す重みが調整される。この調整に際しては、例えば、誤差関数の値を最小にするような重みの近似値が、勾配降下法、誤差逆伝播法等といった手法によって求められる。求められた結果に応じた重みの更新が繰り返されることによって、重みが目標値に近付けられていく。
【0058】
なお、上記ニューラルネットワークのアーキテクチャとしては、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)に改良を加えた、長短期記憶(LSTM)ネットワークが適している。RNNは、ニューラルネットワークを拡張して時系列データを扱えるようにしたものである。時系列データとは、ある時間の経過とともに値が変化していくデータである。
【0059】
LSTMは、RNNにおける隠れ層(中間層)の出力に対して、記憶期間の長さの考え方を導入することにより、遠い過去の出力の影響を保持することを可能にしている。
図5の対象者測定ステップS13では、図4に示すように、推定対象者P2が、データ提供者P1の圧力測定に用いられたインソール22と共通のインソール22が敷かれたシューズ21を履く。推定対象者P2が、水平又は水平に近い平坦な面25に設定された歩行路26を歩行する。この際、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化が測定される。この測定は、上記提供者測定ステップS11での測定と同様にして行われる。すなわち、推定対象者P2が歩行している期間には、踵センサ23aが踵24aにかかる圧力を、つま先センサ23bがつま先24bにかかる圧力をそれぞれ測定する。また、上記期間には、内側センサ23cが、足裏の内側部分にかかる圧力を、外側センサ23dが、足裏の外側部分にかかる圧力をそれぞれ測定する。そして、各インソール22の送信部は、各圧力センサ23によって測定された圧力データを、ネットワークを介してクラウドへ送信する。
【0060】
図5の推定ステップS14では、上記対象者測定ステップS13で測定された圧力の経時変化が、上記学習モデル作成ステップS12で作成された学習モデルに対し、未知のデータとして、与えられる。そして、上記推定ステップS14では、推定対象者P2の上体P2aの複数の部位毎の位置の経時変化が推定される。
【0061】
図5の上述した複数の手順中、学習モデル作成ステップS12及び推定ステップS14は、解析用のコンピュータによって行われる。
<本実施形態の効果>
(1-1)データ提供者P1が歩行したときに、足裏の複数の部位(踵24a、つま先24b、仮想線Lよりも内側部分及び外側部分)毎にかかる圧力の経時変化を測定する。この測定と同期して、上体P1aにおける複数の部位毎の位置の経時変化を測定する。測定された圧力の経時変化と、位置の経時変化との関連性を学習して学習モデルを作成する。データ提供者P1の圧力測定に用いられたインソール22と共通のインソール22を用いることにより、推定対象者P2が歩行したときに、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化を測定する。測定された圧力の経時変化を、上記学習モデルに与えて、推定対象者P2の上体P2aの複数の部位毎の位置の経時変化を推定するようにしている。
【0062】
そのため、推定対象者P2が歩行したときに、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化を測定することで、上体P2aの複数の部位毎の位置の経時変化を推定できる。
(1-2)上記(1-1)で推定された推定対象者P2の上体P2aの複数の部位毎の位置の経時変化から、以下に示す、推定対象者P2の身体の状態に関する種々の有用な情報を得ることが可能となる。
【0063】
・推定対象者P2の姿勢。例えば、腕が曲がっている、体幹が前傾している等である。この情報から、病気になる前に適切な対応をとることや、予防のための検診を受診することを推定対象者P2に勧めること等が可能となる。
【0064】
・推定対象者P2の動作。例えば、スマートフォンを持って歩行している等である。
・推定対象者P2の脳の中にある自分の身体に対するイメージ(ボディイメージ)と、実際に機能している身体の状態との乖離。ボディイメージには、自分自身の身体の輪郭(形)や大きさ、位置等を把握する機能が含まれるほか、自分にはどの程度の運動能力があるのかを把握する機能が含まれる。
【0065】
この乖離の度合いと認知症の進行度合いとの間には相関関係があると考えられる。そのため、上記乖離が判ると、認知症の進行度合い、例えば、軽度認知障害(MCI)を推定することが可能となる。
【0066】
(1-3)提供者測定ステップS11では、データ提供者P1の上体P1aにおける複数の部位として、同上体P1aの関節の位置の経時変化が測定される。関節は、上体P1aが動いたときに位置の変化量の最も少ない箇所である。そのため、上体P1aの動きの少ない箇所で、同上体P1aの複数の部位毎の位置の経時変化を測定することが可能である。
【0067】
(1-4)足裏の複数の部位毎の圧力測定に際し、圧力センサ23が組み込まれたインソール22を内底部に備えるシューズ21を用いている。そのため、提供者測定ステップS11では、データ提供者P1が上記シューズ21を履いた状態で歩行し、対象者測定ステップS13では、推定対象者P2が上記シューズ21を履いて歩行する。こうすることで、それぞれ足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化を測定できる。
【0068】
(1-5)圧力センサ23が、インソール22において、踵24aの荷重のかかる部分及びつま先24bの荷重のかかる部分のそれぞれに組み込まれている。また、圧力センサ23が、インソール22において、仮想線Lに対し内側及び外側となる部分のそれぞれに組み込まれている。そのため、少ない数の圧力センサ23で、足裏の複数の部位毎にかかる圧力の経時変化を過不足なく測定することが可能である。
【0069】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0070】
・推定ステップS14で推定される、位置の経時変化を利用することにより、個人認証が行われてもよい。上記認証は、推定された各部の位置の経時変化のみによって行われてもよい。また、他の認証技術、例えば、IDカード、指紋認証、顔認証等と組み合わせられることにより、上記認証が行われてもよい。組み合わせられることにより、認証の精度を高めることが可能である。
【0071】
・上記個人認証が、例えば、歩行して認証用ゲートを通過することにより行われる場合、足裏の圧力を測定する圧力センサが、インソール22に代えて、認証用ゲートの付近の床面に組み込まれてもよい。この場合には、床を歩行することで、インソール22がなくても認証できるメリットがある。
【0072】
また、認証用ゲートで認証される人に対し、インソール22を備えたシューズ21を履かせて歩行させ、認証用ゲートを通過させてもよい。
・圧力センサ23によって足裏にかかる部位毎の圧力が測定される足24は、原則、両方の足24であるが、左右の片方の足24であってもよい。
【0073】
・インソール22に組み込まれる圧力センサ23の数及び配置が、適宜、変更されてもよい。
・第1測定装置10として、撮像機器11,12に代えて、加速度センサが用いられてもよい。
【0074】
・歩行路9,26の長さが適宜変更されてもよい。また、データ提供者P1が歩行路9を往復する回数が変更されてもよい。
・上記実施形態及び上記変更例では、力の1つとして圧力で説明したが、力は加速度やトルクであってもよい。力センサは、それらの力を測定可能な加速度センサ、トルクセンサ等であってもよい。これらのセンサは、例えば、インソール22に組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10…第1測定装置
11,12…撮像機器
20…第2測定装置(測定装置)
21…シューズ
22…インソール
23…圧力センサ(力センサ)
24a…踵
24b…つま先
L…仮想線
P1…データ提供者
P1a,P2a…上体
P2…推定対象者
図1
図2
図3
図4
図5