(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010219
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/48 20060101AFI20250109BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250109BHJP
B29B 7/42 20060101ALI20250109BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B29B7/48
C08L101/00
B29B7/42
C08J5/04 CES
C08J5/04 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024188360
(22)【出願日】2024-10-25
(62)【分割の表示】P 2022579611の分割
【原出願日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021016005
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021016022
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021016020
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】上野 功一
(57)【要約】
【課題】引張伸度及び/又は剛性に優れる成形体、より好ましくは引張伸度及び剛性が高度且つ安定的に両立された成形体を形成し得る樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、シリンダー内壁とスクリューとの間隙が2mm以下の複数の狭間隙ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含む方法、及び、第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、圧力が0.1MPa以上の複数の高圧ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含み、前記複数の高圧ゾーンのうち前記圧力が最大である最高圧ゾーンの前記圧力[P1]が0.5MPa以上であり、前記圧力[P1]の、前記最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの前記圧力の平均値[P2]に対する比[P1/P2]が1超100以下である方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、シリンダー内壁とスクリューとの間隙が2mm以下の複数の狭間隙ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含む、方法。
【請求項2】
前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記最狭間隙ゾーン以外の狭間隙ゾーンの前記間隙の平均値[G2]に対する比[G1/G2]が、0.001以上1未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記最狭間隙ゾーン以外の狭間隙ゾーンの各々の前記間隙[G3]に対する比[G1/G3]が、0.001以上1未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の成分が有機繊維を含み、
前記押出機に供給される前記有機繊維が平均繊維長1μm~10000μmを有し、
前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記平均繊維長に対する比が、0.001~10である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の成分が有機繊維を含み、
前記押出機に供給される前記有機繊維が平均粒子径1μm~10000μmの粒子を形成しており、
前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記平均粒子径に対する比が、0.001~10である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の狭間隙ゾーンの各々における混合物単位質量当たりの曲げ弾性率向上率が、前記狭間隙ゾーン以外の各ゾーンにおける混合物単位質量当たりの曲げ弾性率の最大値よりも大きい、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記狭間隙ゾーンの各々について、
前記狭間隙ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ
前記狭間隙ゾーンへの流入物の圧力に対する前記狭間隙ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記狭間隙ゾーンの各々について、前記狭間隙ゾーンへの流入物の前記第2の成分の含有率が、15~90質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記混練工程において、前記複数の狭間隙ゾーンを通過した後の混合物に混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して前記混合物を冷却する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、圧力降下ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含み、
前記圧力降下ゾーンは、前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力に対する前記圧力降下ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である部位であり、
前記圧力降下ゾーンへの流入物の前記第2の成分の含有率が15~90質量%である
、方法。
【請求項11】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、圧力降下ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含み、
前記圧力降下ゾーンは、前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力に対する前記圧力降下ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である部位であり、
前記混練工程において、前記圧力降下ゾーンを通過した後の混合物に前記混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して前記混合物を冷却する、方法。
【請求項12】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、圧力が0.1MPa以上の複数の高圧ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含み、
前記複数の高圧ゾーンのうち前記圧力が最大である最高圧ゾーンの前記圧力[P1]が0.5MPa以上であり、前記圧力[P1]の、前記最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの前記圧力の平均値[P2]に対する比[P1/P2]が、1超100以下である、方法。
【請求項13】
前記最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの各々の前記圧力[P3]に対する前記圧力[P1]の比[P1/P3]が、1超100以下である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記複数の高圧ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比が、1~30である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比に対する前記最高圧ゾーンのゾーン長/シリンダー内径比の比が、1以上である、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記複数の高圧ゾーンの各々における混合物単位質量当たりの曲げ弾性率向上率が、前記高圧ゾーン以外の各ゾーンにおける混合物単位質量当たりの曲げ弾性率の最大値よりも大きい、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記高圧ゾーンの各々について、
前記高圧ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ
前記高圧ゾーンへの流入物の圧力に対する前記高圧ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記高圧ゾーンの各々について、前記高圧ゾーンへの流入物の前記第2の成分の含有率が、15~90質量%である、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記混練工程において、前記複数の高圧ゾーンの全てを通過した後の混合物に前記混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して前記混合物を冷却する、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記混練工程の前に、前記第1の成分の溶融物に前記第2の成分を添加して予備混合物を得る工程を更に含み、前記予備混合物を前記混練ゾーンに供給する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンが、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上が互いに異なる第1の分散混合ゾーンと第2の分散混合ゾーンとを備え、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E2]とが、[E1]>[E2]の関係を満たし、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M2]とが、[M1]<[M2]の関係を満たす、方法。
【請求項22】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンにおいて、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上をシリンダー長方向において異ならせることによって、混合物のシリンダー内進行長さl(mm)をシリンダー内径d(mm)で除した値(l/d)当たりの引張伸度変化量ΔE(%)の、前記l/d当たりの曲げ弾性率変化量ΔM(GPa)に対する比[ΔE/ΔM]を、シリンダー長方向において変化させる、方法。
【請求項23】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
前記分散混合ゾーンと前記分配混合ゾーンとは、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上において互いに異なっており、
前記分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EB]とが、[EA]>[EB]の関係を満たし、
前記分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MB]とが、[MA]>[MB]の関係を満たす、方法。
【請求項24】
第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
分散混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CA]が10質量%~90質量%であり、分配混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CB]が1質量%~50質量%であり、比[CA]/[CB]が2~90である、方法。
【請求項25】
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンが、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上が互いに異なる第1の分散混合ゾーンと第2の分散混合ゾーンとを備え、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E2]とが、[E1]>[E2]の関係を満たし、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M2]とが、[M1]<[M2]の関係を満たす、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンにおいて、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上をシリンダー長方向において異ならせることによって、混合物のシリンダー内進行長さl(mm)をシリンダー内径d(mm)で除した値(l/d)当たりの引張伸度変化量ΔE(%)の、前記l/d当たりの曲げ弾性率変化量ΔM(GPa)に対する比[ΔE/ΔM]を、シリンダー長方向において変化させる、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
前記分散混合ゾーンと前記分配混合ゾーンとは、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上において互いに異なっており、
前記分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EB]とが、[EA]>[EB]の関係を満たし、
前記分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MB]とが、[MA]>[MB]の関係を満たす、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
分散混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CA]が10質量%~90質量%であり、分配混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CB]が1質量%~50質量%であり、比[CA]/[CB]が2~90である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記分散混合工程の前に、前記第1の成分の溶融物に前記第2の成分を添加して予備混合物を得る工程を更に含み、前記予備混合物を前記分散混合ゾーンに供給する、請求項21~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記第2の成分が有機繊維を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記有機繊維がセルロース繊維である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記樹脂組成物中の有機繊維が、平均繊維径1000nm以下、及び平均繊維長/平均繊維径比30以上を有する、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
前記有機繊維を乾燥体の形態で押出機に供給する、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されているが、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いことから、ポリマー連続相中にフィラーを分散させ又はポリマー分散相を形成してなるコンポジットが一般的に用いられている。上記フィラーとしては、近年、セルロース繊維等の有機繊維を使用することが検討されている。セルロース繊維は、環境への負荷が少ない素材であること、低比重であること、及び樹脂組成物に対して優れた物性向上効果を有し得ることから、環境調和型の樹脂組成物のフィラーとして有望である。しかし、セルロース繊維等の有機繊維をポリマー(樹脂)中に良好に分散させることは必ずしも容易ではない。例えば押出機を用いて有機繊維と樹脂とを溶融混練する際、混練条件によっては、意図した物性向上効果が樹脂組成物に対して付与されない場合があった。ポリマー連続相及びポリマー分散相を有するポリマーアロイを形成する場合も同様であり、押出機を用いた溶融混練の際、混練条件によっては、所望の物性向上効果が得られない場合があった。
【0003】
樹脂組成物の混練に関し、例えば特許文献1は、二軸押出機を用いたポリアミド樹脂組成物の製造において、ニーディングゾーン及びフルフライトゾーンの樹脂圧が特定の関係を満たす樹脂組成物の製造方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、滞留安定性、耐熱老化性、表面外観等に優れる成形品を得ようとするものであるが、セルロース繊維等の有機繊維のようなフィラー、及び/又はポリマー分散相を含む樹脂組成物において、当該フィラー及び/又は分散相による物性向上効果を意図した程度に発現させるための方法には着目していない。セルロース繊維等の有機繊維、及び/又はポリマー分散相を含む樹脂組成物は、その材料組成に応じた有利な特性(例えば、セルロース繊維における軽量性、寸法安定性等)から、自動車用途等の種々の用途への適用が検討されている。例えば自動車用途等の、要求性能が厳しい用途においては、複数の特性(特に引張伸度及び剛性)の高度の両立並びにこれら特性の安定的な発現が望まれている。しかし従来技術では、このような優れた物性を有する成形体を形成し得る樹脂組成物は提供されていない。
【0006】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、引張伸度及び/又は剛性に優れる成形体、より好ましくは引張伸度及び剛性が高度且つ安定的に両立された成形体を形成し得る樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を包含する。
[1] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、シリンダー内壁とスクリューとの間隙が2mm以下の複数の狭間隙ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含む、方法。
[2] 前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記最狭間隙ゾーン以外の狭間隙ゾーンの前記間隙の平均値[G2]に対する比[G1/G2]が、0.001以上1未満である、上記態様1に記載の方法。
[3] 前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記最狭間隙ゾーン以外の狭間隙ゾーンの各々の前記間隙[G3]に対する比[G1/G3]が、0.001以上1未満である、上記態様1又は2に記載の方法。
[4] 前記第2の成分が有機繊維を含み、
前記押出機に供給される前記有機繊維が平均繊維長1μm~10000μmを有し、
前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記平均繊維長に対する比が、0.001~10である、上記態様1~3のいずれかに記載の方法。
[5] 前記第2の成分が有機繊維を含み、
前記押出機に供給される前記有機繊維が平均粒子径1μm~10000μmの粒子を形成しており、
前記複数の狭間隙ゾーンのうち前記間隙が最小である最狭間隙ゾーンの前記間隙[G1]の、前記平均粒子径に対する比が、0.001~10である、上記態様1~4のいずれかに記載の方法。
[6] 前記複数の狭間隙ゾーンの各々における混合物単位質量当たりの曲げ弾性率向上率が、前記狭間隙ゾーン以外の各ゾーンにおける混合物単位質量当たりの曲げ弾性率の最大値よりも大きい、上記態様1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 前記狭間隙ゾーンの各々について、
前記狭間隙ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ
前記狭間隙ゾーンへの流入物の圧力に対する前記狭間隙ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である、上記態様1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 前記狭間隙ゾーンの各々について、前記狭間隙ゾーンへの流入物の前記第2の成分の含有率が、15~90質量%である、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 前記混練工程において、前記複数の狭間隙ゾーンを通過した後の混合物に混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して前記混合物を冷却する、上記態様1~8のいずれかに記載の方法。
[10] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、圧力降下ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含み、
前記圧力降下ゾーンは、前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力に対する前記圧力降下ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である部位であり、
前記圧力降下ゾーンへの流入物の前記第2の成分の含有率が15~90質量%である
、方法。
[11] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、圧力降下ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含み、
前記圧力降下ゾーンは、前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ前記圧力降下ゾーンへの流入物の圧力に対する前記圧力降下ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である部位であり、
前記混練工程において、前記圧力降下ゾーンを通過した後の混合物に前記混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して前記混合物を冷却する、方法。
[12] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法は、圧力が0.1MPa以上の複数の高圧ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含み、
前記複数の高圧ゾーンのうち前記圧力が最大である最高圧ゾーンの前記圧力[P1]が0.5MPa以上であり、前記圧力[P1]の、前記最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの前記圧力の平均値[P2]に対する比[P1/P2]が、1超100以下である、方法。
[13] 前記最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの各々の前記圧力[P3]に対する前記圧力[P1]の比[P1/P3]が、1超100以下である、上記態様12に記載の方法。
[14] 前記複数の高圧ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比が、1~30である、上記態様12又は13に記載の方法。
[15] 前記最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比に対する前記最高圧ゾーンのゾーン長/シリンダー内径比の比が、1以上である、上記態様12~14のいずれかに記載の方法。
[16] 前記複数の高圧ゾーンの各々における混合物単位質量当たりの曲げ弾性率向上率が、前記高圧ゾーン以外の各ゾーンにおける混合物単位質量当たりの曲げ弾性率の最大値よりも大きい、上記態様12~15のいずれかに記載の方法。
[17] 前記高圧ゾーンの各々について、
前記高圧ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ
前記高圧ゾーンへの流入物の圧力に対する前記高圧ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である、上記態様12~16のいずれかに記載の方法。
[18] 前記高圧ゾーンの各々について、前記高圧ゾーンへの流入物の前記第2の成分の含有率が、15~90質量%である、上記態様12~17のいずれかに記載の方法。
[19] 前記混練工程において、前記複数の高圧ゾーンの全てを通過した後の混合物に前記混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して前記混合物を冷却する、上記態様12~18のいずれかに記載の方法。
[20] 前記混練工程の前に、前記第1の成分の溶融物に前記第2の成分を添加して予備混合物を得る工程を更に含み、前記予備混合物を前記混練ゾーンに供給する、上記態様1~19のいずれかに記載の方法。
[21] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンが、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上が互いに異なる第1の分散混合ゾーンと第2の分散混合ゾーンとを備え、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E2]とが、[E1]>[E2]の関係を満たし、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M2]とが、[M1]<[M2]の関係を満たす、方法。
[22] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンにおいて、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上をシリンダー長方向において異ならせることによって、混合物のシリンダー内進行長さl(mm)をシリンダー内径d(mm)で除した値(l/d)当たりの引張伸度変化量ΔE(%)の、前記l/d当たりの曲げ弾性率変化量ΔM(GPa)に対する比[ΔE/ΔM]を、シリンダー長方向において変化させる、方法。
[23] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
前記分散混合ゾーンと前記分配混合ゾーンとは、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上において互いに異なっており、
前記分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EB]とが、[EA]>[EB]の関係を満たし、
前記分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MB]とが、[MA]>[MB]の関係を満たす、方法。
[24] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の成分は、ポリマーであり、
前記第2の成分は、有機繊維、前記第1の成分と異なるポリマー、又はこれらの組合せであり、
前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
分散混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CA]が10質量%~90質量%であり、分配混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CB]が1質量%~50質量%であり、比[CA]/[CB]が2~90である、方法。
[25] 前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンが、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上が互いに異なる第1の分散混合ゾーンと第2の分散混合ゾーンとを備え、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E2]とが、[E1]>[E2]の関係を満たし、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M2]とが、[M1]<[M2]の関係を満たす、上記態様1~20のいずれかに記載の方法。
[26] 前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンにおいて、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上をシリンダー長方向において異ならせることによって、混合物のシリンダー内進行長さl(mm)をシリンダー内径d(mm)で除した値(l/d)当たりの引張伸度変化量ΔE(%)の、前記l/d当たりの曲げ弾性率変化量ΔM(GPa)に対する比[ΔE/ΔM]を、シリンダー長方向において変化させる、上記態様1~20のいずれかに記載の方法。
[27] 前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
前記分散混合ゾーンと前記分配混合ゾーンとは、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上において互いに異なっており、
前記分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EB]とが、[EA]>[EB]の関係を満たし、
前記分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MB]とが、[MA]>[MB]の関係を満たす、上記態様1~20のいずれかに記載の方法。
[28] 前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
分散混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CA]が10質量%~90質量%であり、分配混合ゾーンにおける前記第2の成分の濃度[CB]が1質量%~50質量%であり、比[CA]/[CB]が2~90である、上記態様1~20のいずれかに記載の方法。
[29] 前記分散混合工程の前に、前記第1の成分の溶融物に前記第2の成分を添加して予備混合物を得る工程を更に含み、前記予備混合物を前記分散混合ゾーンに供給する、上記態様21~28のいずれかに記載の方法。
[30] 前記第2の成分が有機繊維を含む、上記態様1~29のいずれかに記載の方法。
[31] 前記有機繊維がセルロース繊維である、上記態様30に記載の方法。
[32] 前記樹脂組成物中の有機繊維が、平均繊維径1000nm以下、及び平均繊維長/平均繊維径比30以上を有する、上記態様30又は31に記載の方法。
[33] 前記有機繊維を乾燥体の形態で押出機に供給する、上記態様30~32のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、引張伸度及び/又は剛性に優れる成形体、より好ましくは引張伸度及び剛性が高度且つ安定的に両立された成形体を形成し得る樹脂組成物の製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の態様Aの第一の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。
【
図2】本発明の態様Aの第二の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。
【
図3】本発明の態様Aの第三の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明す図である。
【
図4】本発明の態様Bの第一の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。
【
図5】本発明の態様Bの第一の実施形態に係る方法における引張伸度及び曲げ弾性率の変化挙動について説明する図である。
【
図6】本発明の態様Bの第二の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。
【
図7】本発明の態様Bの第二の実施形態に係る方法における引張伸度及び曲げ弾性率の変化挙動について説明する図である。
【
図8】本発明の態様Cに係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示の実施の形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について説明するが、本発明はこれら実施形態に何ら限定されない。なお本開示の特性値は、特記がない限り、本開示の[実施例]の項に記載される方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値である。
【0011】
本開示の一態様は、第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法を提供する。一態様において、第1の成分はポリマーであり、第2の成分は、有機繊維、ポリマー、又はこれらの組合せである。一態様において、第2の成分中のポリマーは第1の成分と異なる。一態様において、第1の成分は樹脂組成物中で連続相を構成している。一態様において、第2の成分が含み得る有機繊維は樹脂組成物中で第1の成分中に分散している。一態様において、第2の成分が含み得るポリマーは樹脂組成物中で第1の成分の連続相中に分散相として存在している。
【0012】
本開示の方法は、混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含む。第1の成分と第2の成分とを押出機で混練して樹脂組成物を製造する際、第2の成分を第1の成分中に均一に微分散させるためには、第2の成分自体の微細化と、第2の成分の第1の成分中での分散状態の向上との両方が必要である。第2の成分を微細化するためには、混合物に対してある程度強い力を掛ける必要があるが、このような力は第2の成分の損傷(例えば、第2の成分が有機繊維を含む場合の当該有機繊維の折り曲げによる破断)をもたらす場合がある。したがって、混練条件は、第2の成分の微細化に必要であるが第2の成分に対して過度の負荷が掛からないように設計されることが望まれる。本開示の方法においては、特定の混練条件に制御された混練ゾーンで第1の成分と第2の成分とを混練する。
【0013】
例えば、本開示の例示の実施形態である後述の態様Aの方法においては、混練ゾーン内の一部領域を、混合物に対して大きな力が掛かるゾーンとする。
また、本開示の例示の実施形態である後述の態様Bの方法においては、分散混合ゾーン内に、混合物の引張伸度及び曲げ弾性率のうち、主として引張伸度を向上させる領域と、主として曲げ弾性率を向上させる領域とを設ける。
また、本開示の例示の実施形態である後述の態様Cの方法においては、特定の態様で第1の成分と第2の成分とを分散混合及び分配混合する。
なお本開示で、分散混合とは、第2の成分の実質的なサイズ変化(凝集塊の崩壊、切断、解繊等)を伴う混合形態を意味し、分配混合とは、第2の成分の第1の成分中での分散状態が変化する一方第2の成分の実質的なサイズ変化を伴わない混合形態を意味する。一態様において、実質的なサイズ変化とは、少なくとも1つのサイズ指標における、元のサイズ100%に対して30%以上のサイズ変化である。
本開示の一態様に係る方法によれば、上記のような特異な混練形態の寄与によって、第2の成分の損傷を回避しつつ当該第2の成分を第1の成分中に均一に微分散させることが可能である。
【0014】
本開示の方法において、押出機を用いた第1の成分と第2の成分との溶融混合の際には、第2の成分を、乾燥体又はスラリー(例えば水分散体)の形態で第1の成分と溶融混練してよい。好ましい態様においては、第2の成分を、乾燥体の形態で押出機に供給する。溶融混練全般を通じた加熱温度は、第1の成分のガラス転移点以上であるが当該ガラス転移点及び/又は融点を大幅に上回らない温度が好ましい。
【0015】
なお本開示で、ガラス転移点とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。また本開示で、融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。
【0016】
溶融混練に供されるポリマーの水分率は、好ましくは、0.2質量%以下、又は0.1質量%以下、又は0.07質量%以下である。上記水分率は、工程管理容易性の観点から、例えば、0.001質量%以上であってよい。
【0017】
溶融混練には、単軸押出機、又は二軸押出機を使用してよく、二軸押出機が第2の成分の分散性を制御する上で好ましい。押出機のシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dは、40以上が好ましく、特に好ましくは50以上である。また、混練時のスクリュー回転数は、100~800rpmの範囲が好ましく、より好ましくは150~600rpmの範囲内である。これらはスクリューのデザインにより、変化する。
【0018】
押出機のシリンダー内の各スクリューは、楕円形の二翼のねじ形状のフルフライトスクリュー、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメント、等を組み合わせて最適化される。最適化にあたって、スクリューエレメントには切り欠きや分流構造があっても良い。また、スクリュー構成中にシールリングと呼ばれる堰き止め構造を配置しても良い。一態様として、スクリュー断面は、0条、一条、二条、三条、四条などの多条断面で構成されていても良い。また、これらのスクリュー断面は偏心形状になっていても良い。
以下、本開示の例示の実施形態である態様A~Cについて具体的に説明する。
【0019】
[態様A]
態様Aに係る方法においては、混練ゾーン内の一部領域を、混合物に対して大きな力が掛かるゾーン(本開示で、高負荷ゾーンともいう。)(より具体的には後述の狭間隙ゾーン、圧力降下ゾーン又は高圧ゾーン)とする。混練ゾーン内に、高負荷ゾーンとその他ゾーンとを設けることにより、高負荷ゾーンでは、樹脂組成物の所望の物性の向上に大きく寄与し得る第2の成分の微細化を実現する一方、その他ゾーンでは、第2の成分に掛かる力が最小限となるように混合条件を緩やかにして、第2の成分の損傷を回避できる。このようなプロセスによれば、第2の成分の損傷を回避しつつ当該第2の成分を第1の成分中に均一に微分散させることができるため、一態様において、引張伸度及び/又は曲げ弾性率に優れる成形体、より好ましくは引張伸度及び曲げ弾性率が高度且つ安定的に両立された成形体を形成し得る樹脂組成物を製造できる。
態様Aは、より具体的には以下の第一~第三の実施形態を包含する。
【0020】
≪第一の実施形態≫
第一の実施形態は、シリンダー内壁とスクリューとの間隙が2mm以下の複数の狭間隙ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含む方法を提供する。
【0021】
図1は、第一の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。第一の実施形態において、押出機100は混練ゾーン101を備え、任意に溶融ゾーン102を備えてよい。例えば、第一の実施形態の方法は、混練ゾーン101における混練工程の前に、第1の成分a1を溶融ゾーン102で溶融して得た溶融物に第2の成分a2を添加して予備混合物を得る工程を更に含んでよく、予備混合物を混練ゾーン101に供給してよい。押出機を用いた通常の混練では、最初の溶融ゾーンにおいて被混合物への剪断が強くかかるため、第1の成分が溶融ゾーンを通過した後、溶融状態の第1の成分に対して第2の成分を添加口(サイドフィーダー)から添加する場合、第2の成分の熱劣化を抑制できる。混合物は、混練ゾーン101で混練され、樹脂組成物bとして取り出される。
【0022】
一態様において、混練ゾーン101は、シリンダー内壁とスクリューとの間隙(本開示で、シリンダー間隙ともいう。)が2mm以下である複数の狭間隙ゾーンN1,N2,N3を含む。なお本開示で、シリンダー間隙とは、被混合物が押出機の上流から下流に向けて通りうる流路のうち、最も広い流路の間隙を意味する。例えば、二条フライトスクリューのようなスクリューエレメントにおいては、スクリュー径方向断面の短軸方向での間隙をシリンダー間隙とする。また例えば、シールリングのようなスクリューエレメントにおいては、スクリューとシリンダーの間隙をシリンダー間隙とする。
図1では狭間隙ゾーンが3つ存在する例を示しているが、混練ゾーン内の狭間隙ゾーンの数は目的に応じて選定してよく、例えば、2以上、又は3以上であってよく、例えば10以下、又は5以下であってよい。
【0023】
複数の狭間隙ゾーンN1,N2,N3のうち、シリンダー間隙が最小である最狭間隙ゾーンのシリンダー間隙[G1](以下、単に[G1]ともいう。)の、最狭間隙ゾーン以外の狭間隙ゾーンのシリンダー間隙の平均値[G2]に対する比[G1/G2]は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において、0.001以上、又は0.01以上、又は0.1以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において、1未満、又は0.5以下、又は0.3以下である。なお上記平均値[G2]とは、該当するゾーンが1つであれば当該ゾーンのシリンダー間隙値を意味し、2つ以上であれば当該ゾーンのシリンダー間隙値の算術平均を意味する。
【0024】
最狭間隙ゾーン以外の狭間隙ゾーンの各々のシリンダー間隙[G3]に対する上記[G1]の比[G1/G3]は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において、0.001以上、又は0.01以上、又は0.1以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において、1未満、又は0.5以下、又は0.3以下である。
【0025】
[G1]は、好ましくは、0.001mm以上、又は0.01mm以上、又は0.05mm以上であり、好ましくは、2mm以下、又は1mm以下、又は0.5mm以下である。
【0026】
[G2]は、好ましくは、0.001mm以上、又は0.01mm以上、又は0.05mm以上であり、好ましくは、2mm以下、又は1mm以下、又は0.5mm以下である。
【0027】
[G3]は、好ましくは、0.001mm以上、又は0.01mm以上、又は0.05mm以上であり、好ましくは、2mm以下、又は1mm以下、又は0.5mm以下である。
【0028】
第2の成分が有機繊維を含む場合、一態様において、押出機に供給される有機繊維は、平均繊維長1μm~10000μmを有する。なお本開示の平均繊維長は後述のように走査型電子顕微鏡(SEM)で測定される値である。平均繊維長は、一態様において、1μm以上、又は10μm以上、又は50μm以上であり、一態様において、10000μm以下、又は1000μm以下、又は750μm以下、又は600μm以下である。一態様においては、当該平均繊維長に対する上記[G1]の比が、有機繊維の損傷を抑制する観点から、好ましくは、0.001以上、又は0.01以上、又は0.1以上であり、有機繊維の微細化を良好に進行させる観点から、好ましくは、10以下、又は5以下、又は1以下である。
【0029】
第2の成分が有機繊維を含む場合、一態様において、押出機に供給される有機繊維は、平均粒子径1μm~10000μmの粒子を形成している。当該粒子の平均粒子径は、一態様において、1μm以上、又は10μm以上、又は50μm以上であり、一態様において、10000μm以下、又は1000μm以下、又は750μm以下、又は500μm以下である。一態様においては、当該粒子の平均粒子径に対する上記[G1]の比が、有機繊維の損傷を抑制する観点から、好ましくは、0.001以上、又は0.01以上、又は0.1以上であり、有機繊維の微細化を良好に進行させる観点から、好ましくは、10以下、又は5以下、又は1以下である。
なお本開示の平均粒子径は、パウダーテスター(例えばホソカワミクロン株式会社製パウダーテスター、型番:PT-X)で測定されるd50粒径である。
【0030】
各狭間隙ゾーンへの流入物の第2の成分の含有率は、それぞれ、樹脂組成物中に第2の成分を所望の濃度含有させることで第2の成分による物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、15質量%以上、又は20質量%以上、又は30質量%以上であり、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、好ましくは、90質量%以下、又は80質量%以下、又は70質量%以下である。
【0031】
各狭間隙ゾーンへの流入物の圧力は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、好ましくは、0.5MPa以上、又は1MPa以上、又は3MPa以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、好ましくは、20MPa以下、又は15MPa以下、又は10MPa以下である。なお、一態様において、各狭間隙ゾーンへの流入物の圧力は、各狭間隙ゾーン内の被混合物圧力に実質的に等しい。
【0032】
各狭間隙ゾーンについて、狭間隙ゾーンへの流入物の圧力に対する狭間隙ゾーンからの流出物の圧力の比率は、狭間隙ゾーンへの流入物の圧力を高くして第2の成分の微細化を良好に進行させることが可能である点で、好ましくは、0.2以下、又は0.15以下、又は0.1以下であり、被混合物の急激な圧力変化による第2の成分の損傷を抑制する観点から、好ましくは、0.0001以上、又は0.001以上、又は0.01以上である。なお、一態様において、各狭間隙ゾーンからの流出物の圧力は、各狭間隙ゾーンに下流側で接するゾーン内の被混合物圧力に実質的に等しい。なお、各ゾーンへの流入物又は各ゾーンからの流出物は、各ゾーンに入り又は各ゾーンから出る混合物であればよく、例えば流出物は、押出機構成において押出機外への排出流路が予め設けられているものに限定されない。
【0033】
各狭間隙ゾーンについて、狭間隙ゾーンからの流出物の圧力は、一態様において、0MPa以上、又は0.001MPa以上、又は0.01MPa以上であってよく、一態様において、4MPa以下、又は2MPa以下、又は1MPa以下であってよい。
【0034】
≪第二の実施形態≫
第二の実施形態は、圧力降下ゾーンを含む混練ゾーンを備える押出機によって第1の成分と第2の成分とを混練する混練工程を含む方法を提供する。第二の実施形態に係る方法は、以下のような特徴を有するが、当該特徴以外については第一の実施形態に関して前述で例示した特徴のうち1つ以上を組合せることができる。
【0035】
圧力降下ゾーンは、当該圧力降下ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ当該圧力降下ゾーンへの流入物の圧力に対する当該圧力降下ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である部位である。
【0036】
圧力降下ゾーンへの流入物の圧力は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、好ましくは、0.5MPa以上、又は1MPa以上、又は3MPa以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、好ましくは、20MPa以下、又は15MPa以下、又は10MPa以下である。なお、一態様において、圧力降下ゾーンへの流入物の圧力は、圧力降下ゾーン内の被混合物圧力に実質的に等しい。
【0037】
一態様において、圧力降下ゾーンへの流入物の第2の成分の含有率が15~90質量%であり、及び/又は、混練工程において、圧力降下ゾーンを通過した後の混合物に当該混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して当該混合物を冷却する。
【0038】
特定の態様においては、圧力降下ゾーンへの流入物の第2の成分の含有率が15~90質量%であり、圧力降下ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、且つ、圧力降下ゾーンへの流入物の圧力に対する圧力降下ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下である。
【0039】
特定の態様においては、圧力降下ゾーンへの流入物の圧力が0.5~20MPaであり、圧力降下ゾーンへの流入物の圧力に対する圧力降下ゾーンからの流出物の圧力の比率が0.2以下であり、且つ、混練工程において、圧力降下ゾーンを通過した後の混合物に混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して当該混合物を冷却する。
【0040】
図2を参照し、第二の実施形態において、押出機200は混練ゾーン201を備え、任意に溶融ゾーン202を備えてよい。例えば、第二の実施形態に係る方法は、混練ゾーン201における混練工程の前に、第1の成分a1を溶融ゾーン202で溶融して得た溶融物に第2の成分a2を添加して予備混合物を得る工程を更に含んでよく、予備混合物を混練ゾーン201に供給してよい。押出機を用いた通常の混練では、最初の溶融ゾーンにおいて被混合物への剪断が強くかかるため、第1の成分である樹脂が溶融ゾーンを通過した後、溶融状態の樹脂に対して第2の成分を添加口(サイドフィーダー)から添加する場合、第2の成分の熱劣化を抑制できる。混合物は、混練ゾーン201で混練され、樹脂組成物bとして取り出される。
【0041】
第二の実施形態における混練ゾーン201は、圧力降下ゾーンD1を含む。なお
図2では圧力降下ゾーンD1が1つ存在する例を示しているが、第二の実施形態において、圧力降下ゾーンの数は目的に応じて選定してよく、一態様において、1以上、又は2以上、又は3以上であり、一態様において、10以下、又は5以下である。
【0042】
第二の実施形態における圧力降下ゾーンは、一態様において、第一の実施形態で説明した狭間隙ゾーンであってもよい。当該狭間隙ゾーンのシリンダー間隙は、第一の実施形態で例示したのと同様であってよい。圧力降下ゾーンは、本開示の、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、スクリュー回転数、フィード量、樹脂組成、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上を調整することによって形成してもよい。
【0043】
≪第三の実施形態≫
図3は、第三の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。第三の実施形態に係る方法は、以下のような特徴を有するが、当該特徴以外については第一又は第二の実施形態について前述で例示した特徴のうち1つ以上を組合せることができる。
【0044】
図3を参照し、第三の実施形態において、押出機300は混練ゾーン301を備え、任意に溶融ゾーン302を備えてよい。例えば、第三の実施形態の方法は、混練ゾーン301における混練工程の前に、第1の成分a1を溶融ゾーン202で溶融して得た溶融物に、例えばサイドフィードにて第2の成分a2を添加して予備混合物を得る工程を更に含んでよく、予備混合物を混練ゾーン301に供給してよい。このような添加態様は、第2の成分の熱劣化抑制の観点から好ましい。混合物は、混練ゾーン301で混練され、樹脂組成物bとして取り出される。
【0045】
一態様において、混練ゾーン301は、圧力が0.1MPa以上である複数の高圧ゾーンH1,H2,H3を含む。
図3では高圧ゾーンが3つ存在する例を示しているが、混練ゾーン内の高圧ゾーンの数は目的に応じて選定してよく、例えば、2以上、又は3以上であってよく、例えば10以下、又は5以下であってよい。
【0046】
複数の高圧ゾーンH1,H2,H3のうち、圧力が最大である最高圧ゾーンの圧力[P1](以下、単に[P1]ともいう。)の、最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの圧力の平均値[P2]に対する比[P1/P2]は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において、1超、又は1.5以上、又は2以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において、100以下、又は50以下、又は20以下である。なお上記平均値[P2]とは、該当するゾーンが1つであれば当該ゾーンの圧力値を意味し、2つ以上であれば当該ゾーンの圧力値の算術平均を意味する。
【0047】
最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの各々の圧力[P3]に対する[P1]の比[P1/P3]は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において、1超、又は1.5以上、又は2以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において、100以下、又は50以下、又は20以下である。
【0048】
[P1]は、一態様において0.5MPa以上、好ましくは、1MPa以上、又は2MPa以上であり、好ましくは、20MPa以下、又は15MPa以下、又は10MPa以下である。
【0049】
[P2]は、好ましくは、0.1MPa以上、又は0.3MPa以上、又は0.5MPa以上であり、好ましくは、20MPa以下、又は15MPa以下、又は10MPa以下である。
【0050】
[P3]は、好ましくは、0.1MPa以上、又は0.3MPa以上、又は0.5MPa以上であり、好ましくは、20MPa以下、又は15MPa以下、又は10MPa以下である。
【0051】
複数の高圧ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において、1以上、又は2以上、又は4以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において、30以下、又は20以下、又は15以下である。
【0052】
最高圧ゾーン以外の高圧ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比に対する最高圧ゾーンのゾーン長/シリンダー内径比の比は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において、1以上、又は2以上、又は4以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において、30以下、又は20以下、又は15以下である。
【0053】
最高圧ゾーンの圧力は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において、0.3MPa以上、又は0.5MPa以上、又は1MPa以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において、50MPa以下、又は20MPa以下、又は15MPa以下である。
【0054】
≪その他ゾーン≫
図1~3を参照し、混練ゾーン101,201,301は、分散混合ゾーンと分配混合ゾーンとを有してよい。狭間隙ゾーンN1,N2,N3、圧力降下ゾーンD1、及び高圧ゾーンH1,H2,H3は、分散混合ゾーンである。一方、その他ゾーン11,12,13,14,21,22,31,32,33,34の各々は、分散混合ゾーン又は分配混合ゾーンであってよい。その他ゾーンの混練条件は、所望に応じ、互いに同じ又は異なる条件に任意に設計してよい。好ましい態様において、混練ゾーンの最下流ゾーンは、その他ゾーン(例えば、
図1~3のその他ゾーン14,22,24のように)であり、好ましくは分配混合ゾーンである。
【0055】
≪追加ポリマーの添加≫
図1~3を参照し、態様Aに係る方法においては、混練ゾーン101,201,301内で、混合物に対して、混合物中のポリマーと同種又は異種、好ましくは同種の追加ポリマーを添加(例えばサイドフィード)してもよい。典型的な態様において、追加ポリマーの添加位置は、混練ゾーン101の全ての狭間隙ゾーンN1,N2,N3よりも下流側であってよく、混練ゾーン201の圧力降下ゾーンD1よりも下流側であってよく、混練ゾーン301の全ての高圧ゾーンH1,H2,H3よりも下流側であってよい。
【0056】
追加ポリマーの添加量は、混練条件、樹脂組成物の所望の第2の成分の濃度等に応じて決定してよく、例えば、混合物100質量部に対して、10質量部以上、又は20質量部以上、又は30質量部以上、又は50質量部以上であってよく、1000質量部以下、又は500質量部以下、又は400質量部以下、又は300質量部以下であってよい。一態様においては、追加ポリマー添加前の混合物の第2の成分の濃度を、10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上、又は30質量%以上、並びに/或いは、90質量%以下、又は80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下、又は50質量%以下とし、且つ、追加ポリマー添加後の混合物の第2の成分の濃度(一態様においては樹脂組成物中の第2の成分の濃度に等しい)を、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上、並びに/或いは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下としてよい。
【0057】
(追加ポリマーによる冷却)
追加ポリマーは、混合物よりも低温であってよい。すなわち、混練工程においては、第一の実施形態に係る複数の狭間隙ゾーンの全て、又は第二の実施形態に係る圧力降下ゾーン(複数存在する場合、一態様においてはその全て)、又は第三の実施形態に係る複数の高圧ゾーンの全て、を通過した後の混合物に当該混合物よりも低温の追加ポリマーを添加して当該混合物を冷却してよい。冷却のために添加される追加ポリマーの温度は、一態様において、0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上であり、一態様において、300℃以下、又は200℃以下、又は100℃以下、又は50℃以下である。追加ポリマーが添加される混合物の温度は、一態様において、100℃以上、又は150℃以上、又は200℃以上であり、一態様において、450℃以下、又は400℃以下、又は350℃以下である。
【0058】
≪曲げ弾性率の変化≫
態様Aに係る方法においては、複数であってよい高負荷ゾーンの各々における混合物単位質量当たりの曲げ弾性率向上率(すなわち、各ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する各ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の比)が、当該高負荷ゾーン以外の各ゾーンの混合物単位質量当たりの曲げ弾性率向上率(すなわち、各ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する各ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の比)の最大値よりも大きい。この場合、各高負荷ゾーンにおける曲げ弾性率向上効果が良好である一方、他のゾーンでは第2の成分の損傷を抑制できる。
【0059】
≪チキソトロピー指数の変化≫
態様Aに係る方法において、混練ゾーンへの流入物のチキソトロピー指数に対する混練ゾーンからの流出物のチキソトロピー指数の比は、混練ゾーンによる第2の成分の均一微分散の観点から、好ましくは、1以上、又は2以上、又は3以上であり、第2の成分の損傷抑制の観点から、好ましくは、100以下、又は50以下、又は10以下である。
【0060】
[態様B]
本開示の態様Bに係る方法は、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含む。態様Bに係る方法は、以下のような特徴を有するが、当該特徴以外については態様Aに関して前述で例示した特徴のうち1つ以上を組合せることができる。一態様において、態様Bに係る分散混合ゾーンは、態様Aに係る高負荷ゾーン(より具体的には狭間隙ゾーン、圧力降下ゾーン又は高圧ゾーン)を備えてよい。
【0061】
[1] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンが、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上が互いに異なる第1の分散混合ゾーンと第2の分散混合ゾーンとを備え、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[E2]とが、[E1]>[E2]の関係を満たし、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第1の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M1]と、前記第2の分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記第2の分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[M2]とが、[M1]<[M2]の関係を満たす、方法。
[2] 前記第1の分散混合ゾーンと前記第2の分散混合ゾーンとが、前記第1の分散混合ゾーンが上流側となるように直接連通している、上記態様1に記載の方法。
[3] 前記第1の分散混合ゾーンと前記第2の分散混合ゾーンとが、前記第2の分散混合ゾーンが上流側となるように直接連通している、上記態様1に記載の方法。
[4] 前記第2の成分が有機繊維を含み、前記第1の分散混合ゾーンへの流入物中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率が10%~90%であり、
前記第1の分散混合ゾーンへの流入物中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(1a)に対する、前記第1の分散混合ゾーンからの流出物中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(1b)の比(1b/1a)が、0~0.6であり、
前記第2の分散混合ゾーンへの流入物中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(2a)に対する、前記第2の分散混合ゾーンからの流出物中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(2b)の比(2b/2a)が、0.6~1である、上記態様1~3のいずれかに記載の方法。
[5] 前記[E1]が1%~100%、前記[E2]が0%~10%、前記[M1]が0GPa~1GPa、前記[M2]が0.1GPa~20GPa、前記[E1]と[E2]の差の絶対値が0.1%~100%、前記[M1]と[M2]の差の絶対値が0.1GPa~20GPaである、上記態様1~4のいずれかに記載の方法。
[6] 前記第1の分散混合ゾーン及び前記第2の分散混合ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比が1~30である、上記態様1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 前記第1の分散混合ゾーン及び前記第2の分散混合ゾーンの各々の混合物充填率が10%~100%である、上記態様1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 前記第1の分散混合ゾーン及び前記第2の分散混合ゾーンの各々の温度が100℃~400℃である、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 前記第1の分散混合ゾーン及び前記第2の分散混合ゾーンの各々の被混合物圧力が0MPa~15MPaである、上記態様1~8のいずれかに記載の方法。
[10] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
前記方法が、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合する分散混合工程を含み、
前記分散混合ゾーンにおいて、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上をシリンダー長方向において異ならせることによって、混合物のシリンダー内進行長さl(mm)をシリンダー内径d(mm)で除した値(l/d)当たりの引張伸度変化量ΔE(%)の、前記l/d当たりの曲げ弾性率変化量ΔM(GPa)に対する比[ΔE/ΔM]を、シリンダー長方向において変化させる、方法。
[11] 前記比[ΔE/ΔM]をシリンダーの上流側から下流側に向かって漸減させる、上記態様10に記載の方法。
[12] 前記比[ΔE/ΔM]をシリンダーの上流側から下流側に向かって漸増させる、上記態様10に記載の方法。
[13] 前記第2の成分が有機繊維、好ましくはセルロース繊維を含み、前記樹脂組成物中の有機繊維が、平均繊維径1000nm以下、及び平均繊維長/平均繊維径比30以上を有する、上記態様1~12のいずれかに記載の方法。
[14] 前記分散混合工程の前に、前記第1の成分の溶融物に前記第2の成分を添加して予備混合物を得る工程を更に含み、前記予備混合物を前記分散混合ゾーンに供給する、上記態様1~13のいずれかに記載の方法。
【0062】
態様Bの方法においては、分散混合ゾーン内に、混合物の引張伸度及び曲げ弾性率のうち、主として引張伸度を向上させる領域(本開示で、引張伸度向上領域ともいう。)と、主として曲げ弾性率を向上させる領域(本開示で、曲げ弾性率向上領域ともいう。)とを設ける。引張伸度向上領域においては、第2の成分の粗大凝集塊を粉砕し、これにより混合物の引張伸度を上昇させることができる一方、粗大凝集塊の粉砕は混合物の曲げ弾性率(すなわち剛性)の上昇への寄与が小さい。一方、曲げ弾性率向上領域においては、第2の成分を第1の成分中に微分散させ、これにより混合物の曲げ弾性率を上昇させることができる一方、微分散は混合物の引張伸度の上昇への寄与が小さい。
【0063】
態様Bの方法では、引張伸度及び曲げ弾性率を同時に上昇させようとするのではなく、引張伸度向上領域及び曲げ弾性率向上領域の各々において、引張伸度及び曲げ弾性率のうち一方を重点的に向上させる。このようなプロセスを経て得られる樹脂組成物によれば、予想外にも、引張伸度及び曲げ弾性率を同時に上昇させようとするプロセスを経て得られる樹脂組成物と比べて、引張伸度及び曲げ弾性率の高度かつ安定的な両立が可能である。上記利点は、第2の成分が有機繊維、特にセルロース繊維を含む場合に顕著であり得る。
態様Bは、より具体的には以下の第一及び第二の実施形態を包含する。
【0064】
≪第一の実施形態≫
図4は、第一の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図であり、
図5は、第一の実施形態に係る方法における引張伸度及び曲げ弾性率の変化挙動について説明する図である。
図4を参照し、第一の実施形態において、押出機400は分散混合ゾーン401を有する。押出機400は、分配混合ゾーン402を更に有してもよい。押出機400はまた、分散混合ゾーン401の上流の溶融ゾーン403、及び/又は分散混合ゾーン401の下流の溶融ゾーン404を更に有してもよい。例えば、本開示の方法は、分散混合ゾーン401における分散混合工程の前に、第1の成分a1を溶融ゾーン403で溶融して得た溶融物に第2の成分a2を添加して予備混合物を得る工程を更に含んでよく、予備混合物を分散混合ゾーン401に供給してよい。押出機を用いた通常の混練では、最初の溶融ゾーンにおいて被混合物への剪断が強くかかるため、樹脂が溶融ゾーンを通過した後、溶融状態の第1の成分に対して第2の成分を添加口(サイドフィーダー)から添加する場合、第2の成分の熱劣化を抑制できる。混合物は、押出機400で分散混合及び任意に分配混合され、樹脂組成物bとして取り出される。
【0065】
また、態様Bに係る方法は、分散混合工程の後且つ分配混合工程の前に、分散混合生成物に、分散混合生成物中の第1の成分と同種又は異種、好ましくは同種の追加ポリマーを添加して追加ポリマー混合物を得る工程を更に含み、追加ポリマー混合物を分配混合ゾーンに供給してよい。例えば、分散混合ゾーン401からの流出物に追加ポリマーを添加(例えば
図4の溶融ゾーン404での追加ポリマーのサイドフィードによって)した後、分配混合ゾーン402に供給してよい。追加ポリマーの添加量は、混練条件、樹脂組成物の所望の第2の成分の濃度等に応じて決定してよく、例えば、分散混合生成物100質量部に対して、10質量部以上、又は20質量部以上、又は30質量部以上、又は50質量部以上であってよく、1000質量部以下、又は500質量部以下、又は400質量部以下、又は300質量部以下であってよい。一態様においては、分散混合生成物の第2の成分の濃度を、10質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上、又は30質量%以上、並びに/或いは、80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下、又は50質量%以下とし、且つ、追加ポリマー混合物の第2の成分の濃度(一態様においては樹脂組成物中の第2の成分の濃度に等しい)を、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上、並びに/或いは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下としてよい。
【0066】
(追加ポリマーによる冷却)
追加ポリマーは、分散混合生成物よりも低温であってよく、これにより当該分散混合生成物を冷却してよい。冷却のために添加される追加ポリマーの温度は、一態様において、0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上であり、一態様において、300℃以下、又は200℃以下、又は100℃以下、又は50℃以下である。追加ポリマーが添加される分散混合生成物の温度は、一態様において、100℃以上、又は150℃以上、又は200℃以上であり、一態様において、450℃以下、又は400℃以下、又は350℃以下である。
【0067】
分散混合ゾーン401は、プロセス条件が互いに異なる第1の分散混合ゾーン41と第2の分散混合ゾーン42とを備える。一態様において、第1の分散混合ゾーン41と第2の分散混合ゾーン42とは互いに直接連通している。一態様において、第1の分散混合ゾーン41の上流、第1の分散混合ゾーン41と第2の分散混合ゾーン42との間、及び/又は第2の分散混合ゾーン42の下流に、追加の分散混合ゾーンが存在してよい。例えば、第2の分散混合ゾーン42の下流に、第1の分散混合ゾーン41又は第2の分散混合ゾーン42と同じ又は異なる構成とした第3の分散混合ゾーン(図示せず)を配置し、当該第3の分散混合ゾーンからの流出物を樹脂組成物bとして回収する構成が例示できる。
【0068】
一態様において、プロセス条件は、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上である。
【0069】
上記ゾーン長とは、分散混合ゾーン及び分配混合ゾーンを構成するスクリューエレメントの合計長さであり、スクリュー構成に依存する。
【0070】
上記混合物充填率とは、押出機の空間体積に対する混合物の実際の充填量(体積基準)の比率であり、スクリューの回転及び原料供給を急停止させた後、スクリューを引き抜き、スクリュー表面に付着している混合物を採取、計量し、混合物の密度で除することで充満混合物の体積を計算し、続いて、充満混合物の体積を、後述の空間体積で除することで混合物充填率を算出する。混合物充填率は、スクリュー構成及び押出条件に依存する。
【0071】
上記空間体積率とは、押出機のシリンダー容積からスクリュー体積(エレメント体積と軸体積との合計)を差し引くことで空間体積を算出し、空間体積をシリンダー容積で除することで算出する。空間体積率は、スクリュー構成に依存する。
【0072】
図4及び5を参照し、第1の分散混合ゾーンへの流入物41aの引張伸度に対する第1の分散混合ゾーンからの流出物41bの引張伸度の増分[E1]と、第2の分散混合ゾーンへの流入物42aの引張伸度に対する第2の分散混合ゾーンからの流出物42bの引張伸度の増分[E2]とは、[E1]>[E2]の関係を満たす。また、第1の分散混合ゾーンへの流入物41aの曲げ弾性率に対する第1の分散混合ゾーンからの流出物41bの曲げ弾性率の増分[M1]と、第2の分散混合ゾーンへの流入物42aの曲げ弾性率に対する第2の分散混合ゾーンからの流出物42bの曲げ弾性率の増分[M2]とが、[M1]<[M2]の関係を満たす。すなわち、第1の分散混合ゾーンは引張伸度向上領域であり、第2の分散混合ゾーンは曲げ弾性率向上領域である。
【0073】
一態様においては、
図4に示すように、第1の分散混合ゾーン41と第2の分散混合ゾーン42とが、第1の分散混合ゾーン41が上流側となるように連通(一態様においては直接連通)している。このような配置は、弾性率をより向上させる観点で有利である。
【0074】
一方、別の一態様においては、第1及び第2の分散混合ゾーンが、第2の分散混合ゾーンが上流側となるように連通(一態様においては直接連通)してよい。このような配置は、伸度をより向上させる観点で有利である。
【0075】
なお、各ゾーンへの流入物又は各ゾーンからの流出物は、各ゾーンに入り又は各ゾーンから出る混合物であればよく、例えば流出物は、押出機構成において押出機外への排出流路が予め設けられているものに限定されない。
【0076】
第2の成分が有機繊維を含む場合の一態様においては、第1の分散混合ゾーンへの流入物41a中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率が、好ましくは、10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は40%以上であり、好ましくは、90%以下、又は80%以下、又は70%以下、又は60%以下である。すなわち、流入物41aは粗大粒子を相当量含み得る。
【0077】
一態様においては、第1の分散混合ゾーンへの流入物41a中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(1a)に対する、第1の分散混合ゾーンからの流出物41b中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(1b)の比(1b/1a)が、好ましくは、0以上、又は0.1以上、又は0.2以上であり、好ましくは、0.6以下、又は0.5以下、又は0.3以下である。この場合、第1の分散混合ゾーン41では粗大粒子が粉砕されて流出物41bにおいては粗大粒子が大幅に減少する。
【0078】
一態様においては、第2の分散混合ゾーンへの流入物42a中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(2a)に対する、第2の分散混合ゾーンからの流出物42b中の有機繊維における径50μm以上の成分の質量比率(2b)の比(2b/2a)が、好ましくは、0.6以上、又は0.7以上、又は0.8以上であり、好ましくは、1以下、又は0.9以下である。この場合、第2の分散混合ゾーン42では微分散が進行する一方で流入物42aから流出物42bへの粗大粒子の減少は僅かである。なお本開示では上記質量比率(2a)及び(2b)が共に0%である場合上記比(2b/2a)が1であると取扱う。
【0079】
一態様においては、[E1]が、好ましくは、1%以上、又は2%以上、又は3%以上であり、好ましくは、100%以下、又は50%以下、又は30%以下であり、[E2]が、好ましくは、0%以上であり、好ましくは、10%以下、又は5%以下、又は3%以下であり、[M1]が、好ましくは、0GPa以上、又は0.1GPa以上、又は0.3GPa以上であり、好ましくは、1GPa以下、又は0.7GPa以下、又は0.5GPa以下であり、[M2]が、好ましくは、0.1GPa以上、又は0.5GPa以上、又は1GPa以上であり、好ましくは、20GPa以下、又は10GPa以下、又は5GPa以下であり、[E1]と[E2]の差の絶対値が、好ましくは、0.1%以上、又は1%以上、又は5%以上であり、好ましくは、100%以下、又は50%以下、又は30%以下であり、[M1]と[M2]の差の絶対値が、好ましくは、0.1GPa以上、又は0.5GPa以上、又は1GPa以上であり、好ましくは、20GPa以下、又は10GPa以下、又は5GPa以下である。
【0080】
一態様においては、第1及び第2の分散混合ゾーンの各々のゾーン長/シリンダー内径比が、好ましくは、1以上、又は3以上、又は4以上であり、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下である。
【0081】
一態様においては、第1及び第2の分散混合ゾーンの各々の混合物充填率が、好ましくは、10%以上、又は50%以上、又は70%以上であり、好ましくは、100%以下、又は99%以下、又は95%以下である。
【0082】
一態様においては、第1及び第2の分散混合ゾーンの各々の温度が、好ましくは、100℃以上、又は150℃以上、又は200℃以上であり、好ましくは、400℃以下、又は350℃以下、又は300℃以下である。
【0083】
一態様においては、第1及び第2の分散混合ゾーンの各々の被混合物圧力が、好ましくは、0MPa以上、又は0.1MPa以上、又は0.3MPa以上、又は1MPa以上であり、好ましくは、15MPa以下、又は10MPa以下、又は5MPa以下、又は3MPa以下である。
【0084】
一態様においては、第1及び第2の分散混合ゾーンの各々の空間体積率が、好ましくは、10%以上、又は20%以上、又は30%以上であり、好ましくは、70%以下、又は60%以下、又は50%以下である。
【0085】
分散混合ゾーン401で分散混合された樹脂組成物は、他のゾーン(例えば溶融ゾーン404)を経て又は経ずに分配混合ゾーン402に導入されて更に分配混合されてよい。分配混合ゾーンの混合条件は特に限定されないが、例えば順送りニーディングディスク、中立ニーディングディスク等のニーディングディスク、等を任意に組合せることで分配混合されてよい。
【0086】
≪第二の実施形態≫
図6は、第二の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図であり、
図7は、第二の実施形態に係る方法における引張伸度及び曲げ弾性率の変化挙動について説明する図である。第二の実施形態に係る方法は、以下のような特徴を有するが、当該特徴以外について、第一の実施形態について上記したのと同様の手順及び条件を適宜採用してよい。
【0087】
図6を参照し、第二の実施形態において、押出機600は分散混合ゾーン601を有し、任意に分配混合ゾーン602を更に有してもよく、分散混合ゾーン601の上流の溶融ゾーン603、及び/又は分散混合ゾーン601の下流の溶融ゾーン604を更に有してもよい。例えば、態様Bに係る方法は、分散混合ゾーン601における分散混合工程の前に、第1の成分a1を溶融ゾーン603で溶融して得た溶融物に第2の成分a2を添加して予備混合物を得る工程を更に含んでよく、予備混合物を分散混合ゾーン601に供給してよい。第1の成分a1が溶融ゾーン603を通過した後、溶融状態の第1の成分に対して第2の成分a2が添加口(サイドフィーダー)から添加される場合、第2の成分の熱劣化を抑制でき好ましい。混合物は、押出機600で分散混合及び任意に分配混合され、樹脂組成物bとして取り出される。
【0088】
図6及び7を参照し、分散混合ゾーン601は、プロセス条件が互いに異なることによって、混合物のシリンダー内進行長さl(すなわち、混合物が分散混合ゾーン601を流れる際のシリンダー長方向Lの流動長さ)(mm)をシリンダー内径d(mm)で除した値(l/d)当たりの引張伸度変化量ΔE(%)の、当該l/d当たりの曲げ弾性率変化量ΔM(GPa)に対する比[ΔE/ΔM]を、シリンダー長方向Lにおいて変化させる。一態様において、プロセス条件は、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上である。
【0089】
一態様においては、比[ΔE/ΔM]をシリンダーの上流側から下流側に向かって漸減させる。このような態様では、シリンダーのより上流側が引張伸度向上領域、より下流側が曲げ弾性率向上領域に対応し、より高剛性の樹脂組成物が得られる点で有利である。この態様においては、シリンダーの上流側から下流側に向かって、ΔEが漸減するとともにΔMが漸増してよい。例えば、分散混合ゾーン601の入口から出口に向かって、ΔEが、0.1%以上、又は1%以上、又は10%以上であり、300%以下、又は200%以下、又は100%以下である範囲から、0.01%以上、又は0.1%以上、又は0.5%以上であり、10%以下、又は5%以下、又は2%以下である範囲まで漸減してよく、ΔMが、0.001GPa以上、又は0.01GPa以上、又は0.05GPa以上であり、10GPa以下、又は5GPa以下、又は2GPa以下である範囲から、0.02GPa以上、又は0.05GPa以上、又は0.1GPa以上であり、50GPa以下、又は10GPa以下、又は5GPa以下である範囲まで漸増してよい。
【0090】
一方、別の一態様においては、比[ΔE/ΔM]をシリンダーの上流側から下流側に向かって漸増させる。このような態様では、シリンダーのより上流側が曲げ弾性率向上領域、より下流側が引張伸度向上領域に対応し、より高伸度の樹脂組成物が得られる点で有利である。この態様においては、シリンダーの上流側から下流側に向かって、ΔEが漸増するとともにΔMが漸減してよい。例えば、分散混合ゾーンの入口から出口に向かって、ΔEが、0.01%以上、又は0.1%以上、又は0.5%以上であり、10%以下、又は5%以下、又は2%以下である範囲から、0.1%以上、又は1%以上、又は10%以上であり、300%以下、又は200%以下、又は100%以下である範囲まで漸増してよく、ΔMが、0.02GPa以上、又は0.05GPa以上、又は0.1GPa以上であり、50GPa以下、又は10GPa以下、又は5GPa以下である範囲から、0.001GPa以上、又は0.01GPa以上、又は0.05GPa以上であり、10GPa以下、又は5GPa以下、又は2GPa以下である範囲まで漸減してよい。
【0091】
≪態様C≫
本開示の態様Cに係る方法は、押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも当該分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程とを含む。態様Cに係る方法は、以下のような特徴を有するが、当該特徴以外については態様Aに関して前述で例示した特徴のうち1つ以上を組合せることができる。一態様において、態様Cに係る分散混合ゾーンは、態様Aに係る高負荷ゾーン(より具体的には狭間隙ゾーン、圧力降下ゾーン又は高圧ゾーン)を備えてよい。
[1] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいて第1の成分と第2の成分とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
前記分散混合ゾーンと前記分配混合ゾーンとは、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上において互いに異なっており、
前記分散混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の引張伸度に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の引張伸度の増分[EB]とが、[EA]>[EB]の関係を満たし、
前記分散混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分散混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物の曲げ弾性率に対する前記分配混合ゾーンからの流出物の曲げ弾性率の増分[MB]とが、[MA]>[MB]の関係を満たす、方法。
[2] 前記[EA]が1%~100%、前記[EB]が0%~10%、前記[MA]が0.1GPa~20GPa、前記[MB]が0GPa~1GPa、[EA]と[EB]との差([EA]-[EB])が0.01%~100%、[MA]と[MB]との差([MA]-[MB])が0.001GPa~10GPaである、上記態様1に記載の方法。
[3] 前記分散混合ゾーンのゾーン長/シリンダー内径比1以上、及び前記分配混合ゾーンのゾーン長/シリンダー内径比5以下の領域において、被混合物圧力が0.3MPa以上である、上記態様1又は2に記載の方法。
[4] 第1の成分と第2の成分とを含む樹脂組成物の製造方法であって、前記方法が、
押出機の分散混合ゾーンにおいてセルロース繊維と樹脂とを分散混合して分散混合生成物を得る分散混合工程と、
押出機の分配混合ゾーンにおいて少なくとも前記分散混合生成物を分配混合して樹脂組成物を得る分配混合工程と、
を含み、
分散混合ゾーンにおける第2の成分の濃度[CA]が10質量%~90質量%であり、分配混合ゾーンにおける第2の成分の濃度[CB]が1質量%~50質量%であり、比[CA]/[CB]が2~90である、方法。
[5] 前記分散混合ゾーンへの流入物のチキソトロピー指数に対する前記分散混合ゾーンからの流出物のチキソトロピー指数の増分[TA]と、前記分配混合ゾーンへの流入物のチキソトロピー指数に対する前記分配混合ゾーンからの流出物のチキソトロピー指数の増分[TB]とが、[TA]>[TB]の関係を満たす、上記態様1~4のいずれかに記載の方法。
[6] 前記[TA]が0.01超10以下、前記[TB]が0.01以上10未満、前記[TA]/[TB]比が1超100以下である、上記態様5に記載の方法。
[7] 混合物中の第2の成分の単位質量当たりの物性向上率が、分散混合ゾーンよりも分配混合ゾーンで大きい、上記態様1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 前記分散混合工程の後且つ前記分配混合工程の前に、前記分散混合生成物に追加ポリマーを添加して追加ポリマー混合物を得る工程を更に含み、前記追加ポリマー混合物を前記分配混合ゾーンに供給する、上記態様1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 前記第2の成分が有機繊維、好ましくはセルロース繊維を含み、前記樹脂組成物中の有機繊維が、平均繊維径1000nm以下、及び平均繊維長/平均繊維径比30以上を有する、上記態様1~8のいずれかに記載の方法。
【0092】
態様Cの方法においては、分散混合及び分配混合を通じて引張伸度及び曲げ弾性率を上昇させようとするのではなく、分散混合時には、第2の成分にある程度大きな力を掛けて混合物の引張伸度及び曲げ弾性率を大きく向上させる一方、分配混合時には、第2の成分に掛かる力が最小限となるように混合条件を緩やかにして、引張伸度及び曲げ弾性率の向上は小さいが第2の成分の損傷が回避されるようにする。このようなプロセスステップを経て得られる樹脂組成物が形成する成形体においては、予想外にも、引張伸度及び曲げ弾性率が高度且つ安定的に両立され得る。
【0093】
図8は、本発明の一態様に係る樹脂組成物の製造方法の工程について説明する図である。
図8を参照し、押出機800は分散混合ゾーン801及び分配混合ゾーン802を有する。典型的な態様においては、
図8に示すように、分散混合ゾーン801の下流側に分配混合ゾーン802が配置される。押出機800はまた、分散混合ゾーン801よりも上流側の溶融ゾーン803、及び/又は分散混合ゾーン801よりも下流側且つ分配混合ゾーン802よりも上流側の溶融ゾーン804を更に有してもよい。
【0094】
態様Cに係る方法は、分散混合ゾーン801における分散混合工程の前に、第1の成分a1を溶融ゾーン803で溶融して得た溶融物に第2の成分a2を添加して予備混合物を得る工程を更に含んでよく、予備混合物を分散混合ゾーン801に供給してよい。押出機を用いた通常の混練では、最初の溶融ゾーンにおいて被混合物への剪断が強くかかるため、第1の成分が溶融ゾーンを通過した後、溶融状態の第1の成分に対して第2の成分を添加口(サイドフィーダー)から添加する場合、第2の成分の熱劣化を抑制できる。混合物は、押出機800で分散混合及び分配混合され、樹脂組成物bとして取り出される。
【0095】
また、態様Cに係る方法は、分散混合工程の後且つ分配混合工程の前に、分散混合生成物に、分散混合生成物中の第1の成分と同種又は異種、好ましくは同種の追加ポリマーを添加して追加ポリマー混合物を得る工程を更に含み、追加ポリマー混合物を分配混合ゾーンに供給してよい。例えば、分散混合ゾーン801からの流出物に追加ポリマーを添加(例えば
図8の溶融ゾーン804での追加ポリマーのサイドフィードによって)した後、分配混合ゾーン802に供給してよい。追加ポリマーの添加量は、混練条件、樹脂組成物の所望の第2の成分の濃度等に応じて決定してよく、例えば、分散混合生成物100質量部に対して、10質量部以上、又は20質量部以上、又は30質量部以上、又は50質量部以上であってよく、1000質量部以下、又は500質量部以下、又は400質量部以下、又は300質量部以下であってよい。一態様においては、分散混合生成物の第2の成分の濃度を、10質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上、又は30質量%以上、並びに/或いは、80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下、又は50質量%以下とし、且つ、追加ポリマー混合物の第2の成分の濃度(一態様においては樹脂組成物中の第2の成分の濃度に等しい)を、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上、並びに/或いは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下としてよい。
【0096】
(追加ポリマーによる冷却)
追加ポリマーは、分散混合生成物よりも低温であってよく、これにより当該分散混合生成物を冷却してよい。冷却のために添加される追加ポリマーの温度は、一態様において、0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上であり、一態様において、300℃以下、又は200℃以下、又は100℃以下、又は50℃以下である。追加ポリマーが添加される分散混合生成物の温度は、一態様において、100℃以上、又は150℃以上、又は200℃以上であり、一態様において、450℃以下、又は400℃以下、又は350℃以下である。
態様Cは、より具体的には以下の第一及び第二の実施形態を包含する。
【0097】
≪第一の実施形態(プロセス条件制御)≫
図8を再び参照し、第一の実施形態において、分散混合ゾーン801と分配混合ゾーン802とは、プロセス条件が互いに異なる。一態様において、プロセス条件は、ゾーン長/シリンダー内径比、混合物充填率、温度、圧力、及び空間体積率からなる群から選択される1つ以上である。
【0098】
上記ゾーン長とは、分散混合ゾーン及び分配混合ゾーンを構成するスクリューエレメントの合計長さであり、スクリュー構成に依存する。
【0099】
上記混合物充填率とは、押出機の空間体積に対する混合物の実際の充填量(体積基準)の比率であり、スクリューの回転及び原料供給を急停止させた後、スクリューを引き抜き、スクリュー表面に付着している混合物を採取、計量し、混合物の密度で除することで充満混合物の体積を計算し、続いて、充満混合物の体積を、後述の空間体積で除することで混合物充填率を算出する。混合物充填率は、スクリュー構成及び押出条件に依存する。
【0100】
上記空間体積率とは、押出機のバレル容積からスクリュー体積(エレメント体積と軸体積との合計)を差し引くことで空間体積を算出し、空間体積をバレル容積で除することで算出する。空間体積率は、スクリュー構成に依存する。
【0101】
一態様においては、分散混合ゾーン801への流入物の引張伸度に対する分散混合ゾーン801からの流出物の引張伸度の増分[EA]と、分配混合ゾーン802への流入物の引張伸度に対する分配混合ゾーン802からの流出物の引張伸度の増分[EB]とが、[EA]>[EB]の関係を満たし、分散混合ゾーンへ801の流入物の曲げ弾性率に対する分散混合ゾーン801からの流出物の曲げ弾性率の増分[MA]と、分配混合ゾーン802への流入物の曲げ弾性率に対する分配混合ゾーン802からの流出物の曲げ弾性率の増分[MB]とが、[MA]>[MB]の関係を満たす。
【0102】
なお、各ゾーンへの流入物又は各ゾーンからの流出物は、各ゾーンに入り又は各ゾーンから出る混合物であればよく、例えば流出物は、押出機構成において押出機外への排出流路が予め設けられているものに限定されない。
【0103】
[EA]は、好ましくは、1%以上、又は2%以上、又は3%以上であり、好ましくは、100%以下、又は50%以下、又は30%以下である。[EB]は、好ましくは、0%以上、又は0.1%以上、又は0.5%以上であり、好ましくは、10%以下、又は5%以下、又は3%以下である。
【0104】
[MA]は、好ましくは、0.1GPa以上、又は0.5GPa以上、又は1GPa以上であり、好ましくは、20GPa以下、又は10GPa以下、又は5GPa以下である。[MB]は、好ましくは、0GPa以上、又は0.1GPa以上、又は0.3GPa以上であり、好ましくは、1GPa以下、又は0.7GPa以下、又は0.5GPa以下である。
【0105】
[EA]と[EB]との差([EA]―[EB])は、好ましくは、0.01%以上、又は0.1%以上、又は1%以上であり、好ましくは、100%以下、又は50%以下、又は10%以下である。
【0106】
[MA]と[MB]との差([MA]-[MB])は、好ましくは、0.001GPa以上、又は0.01GPa以上、又は0.1GPa以上であり、好ましくは、10GPa以下、又は5GPa以下、又は1GPa以下である。
【0107】
一態様においては、分散混合ゾーン801及び分配混合ゾーン802の各々のゾーン長/シリンダー内径比が、好ましくは、1以上、又は3以上、又は4以上であり、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下である。
【0108】
一態様においては、分散混合ゾーン801及び分配混合ゾーン802の各々の混合物充填率が、好ましくは、10%以上、又は50%以上、又は70%以上であり、好ましくは、100%以下、又は99%以下、又は95%以下である。
【0109】
一態様においては、分散混合ゾーン801及び分配混合ゾーン802の各々の温度が、好ましくは、100℃以上、又は150℃以上、又は200℃以上であり、好ましくは、400℃以下、又は350℃以下、又は300℃以下である。
【0110】
一態様においては、分散混合ゾーン801及び分配混合ゾーン802の各々の被混合物圧力が、好ましくは、0MPa以上、又は0.1MPa以上、又は0.3MPa以上、又は1MPa以上であり、好ましくは、15MPa以下、又は10MPa以下、又は5MPa以下、又は3MPa以下である。
【0111】
一態様においては、分散混合ゾーン801及び分配混合ゾーン802の各々の空間体積率が、好ましくは、10%以上、又は20%以上、又は30%以上であり、好ましくは、70%以下、又は60%以下、又は50%以下である。
【0112】
一態様においては、分散混合ゾーン801のゾーン長/シリンダー内径比1以上、又は2以上、又は5以上、及び分配混合ゾーン802のゾーン長/シリンダー内径比5以下、又は2以下、又は1以下の領域において、被混合物圧力が0.1MPa以上、又は0.2MPa以上、又は0.3MPa以上、又は0.5MPa以上、又は1MPa以上、又は3MPa以上、又は5MPa以上、又は7MPa以上である。当該被混合物圧力は、第2の成分の損傷を抑制する観点から、好ましくは、20MPa以下、又は15MPa以下、又は10MPa以下であってよい。この場合、被混合物に高圧を掛ける領域を分散混合ゾーン801で比較的広く、分配混合ゾーン802で比較的狭くすることができる。これにより、分散混合ゾーン801では第2の成分の微細化を良好に進行させる一方、分配混合ゾーン802では第2の成分の損傷を回避しながら第2の成分の第1の成分中での分散状態を向上させることができる。被混合物圧力が上記範囲である領域は、分散混合ゾーン801のゾーン長/シリンダー内径比30以下、又は20以下、又は10以下の領域であってよい。
【0113】
一態様においては、分散混合ゾーンのゾーン長/シリンダー内径比1以上、及び分配混合ゾーンのゾーン長/シリンダー内径比5以下の領域において、被混合物圧力が0.3MPa以上である。
【0114】
一態様においては、第2の成分の分散を向上させ、より実用的な特性とする観点から、混合物中の第2の成分の単位質量当たりの物性向上率が、分散混合ゾーンよりも分配混合ゾーンで大きい。分散混合ゾーンの物性向上率は、分散混合ゾーンへの流入物の物性に対する分散混合ゾーンからの流出物の物性の比であり、分配混合ゾーンの物性向上率は、分配混合ゾーンへの流入物の物性に対する分配混合ゾーンからの流出物の物性の比である。一態様において、物性は、引張伸度及び曲げ弾性率から選ばれる。上記物性向上率の、分散混合ゾーンに対する分配混合ゾーンの比は、上記観点から、好ましくは、1超、又は1.2以上、又は1.5以上であり、プロセス条件設計の容易性の観点から、例えば、100以下、又は10以下、又は5以下であってよい。
【0115】
≪第二の実施形態(第2の成分の濃度制御)≫
図8を再び参照し、第二の実施形態においては、分散混合ゾーン801における第2の成分の濃度[CA]が10質量%~90質量%であり、分配混合ゾーン802における第2の成分の濃度[CB]が1質量%~50質量%であり、比[CA]/[CB]が2~90である。例えば、分散混合ゾーン801からの流出物に追加ポリマーを添加(例えば
図8の溶融ゾーン804での追加ポリマーのサイドフィードによって)した後、分配混合ゾーン802に供給する方法で、第2の成分の濃度を上記範囲に調整できる。分散混合ゾーン801及び分配混合ゾーン802の第2の成分の濃度を上記のように調整することにより、分散混合ゾーン801での第2の成分の微細化と、分配混合ゾーン802での第2の成分の損傷を回避しながらの第2の成分分散状態向上とを両立できる。
【0116】
上記濃度[CA]は、第2の成分の微細化を良好に進行させる観点から、一態様において10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において90質量%以下、又は80質量%以下、又は70質量%以下である。
【0117】
上記濃度[CB]は、種々の用途に応じて樹脂組成物中第2の成分の濃度を調整する観点から、一態様において1質量%以上、又は5質量%以上、又は10質量%以上であり、第2の成分の損傷を抑制する観点から、一態様において50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下である。
【0118】
上記比[CA]/[CB]は、第2の成分の分散混合工程での微細化促進及び分配混合工程での損傷抑制の観点から、一態様において2以上、又は3以上、又は4以上であり、濃度[CA]が大きすぎることによる第2の成分の損傷、又は濃度[CB]が小さすぎることによる樹脂組成物の適用用途の制限を回避する観点から、一態様において90以下、又は50以下、又は10以下である。
【0119】
≪チキソトロピー指数の変化≫
一態様においては、分散混合ゾーン801への流入物のチキソトロピー指数に対する分散混合ゾーン801からの流出物のチキソトロピー指数の増分[TA]と、分配混合ゾーン802への流入物のチキソトロピー指数に対する分配混合ゾーン802からの流出物のチキソトロピー指数の増分[TB]とが、[TA]>[TB]の関係を満たす。増分[TA]が大きいほど分散混合ゾーン801で第2の成分の微細化が進行したことを示し、増分[TB]が大きいほど分配混合ゾーン802で第2の成分の微細化が進行したことを示す。[TA]>[TB]であることは、分配混合ゾーン802よりも分散混合ゾーン801で第2の成分の微細化が優先的に進行することの指標である。
【0120】
[TA]/[TB]比は、第2の成分の微細化を分散混合ゾーン801で優先的に行う観点から、好ましくは、1超、又は2以上、又は3以上であり、分散混合ゾーン801で第2の成分が過度に微細化されることによる第2の成分の損傷を抑制する観点から、好ましくは、100以下、又は50以下、又は10以下である。チキソトロピー指数の測定方法については後述する。
【0121】
増分[TA]は、好ましくは、0.01超10以下、又は0.05~5、又は0.1~2である。
増分[TB]は、好ましくは、0.01以上10未満、又は0.05~5、又は0.1~2である。
【0122】
[樹脂組成物の押出]
態様A~Cに係る方法において、混練ゾーン101,201,301(態様Aについて)、分配混合ゾーン402,602(態様Bについて)、又は分配混合ゾーン802(態様Cについて)を出た樹脂組成物bは、所望の形状にて押出機外に押し出されてよい。例えば、ペレット形態は、後加工及び運搬の容易性から好ましい。ペレット形態の好適例としては、丸型、楕円型、円柱型等が挙げられ、押出加工時のカット方式により異なる。丸型ペレットのサイズとしては、直径1mm以上3mm以下を例示でき、円柱状ペレットのサイズとしては、直径1mm以上3mm以下、及び長さ2mm以上10mm以下を例示できる。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から上限以下とすることが望ましい。
【0123】
[成形体の製造]
態様A~Cに係る方法で製造された樹脂組成物は、フィルム状、シート状、繊維状、板状、粉末状、立体構造等の種々の形態の成形体に成形されてよい。成形方法としては、射出成形、押出成形、発泡成形、インサート成形、インモールドコーティング成形、金型成形等を例示できる。例えば、シート、フィルム、繊維等の成形には種々の押出成形が好適である。成形温度は、樹脂組成物の組成等に応じて適宜選択できるが、例えば、使用される樹脂の融点以上、又は当該融点+20℃以上、又は融点+30℃以上であってよく、融点+90℃以下、又は融点+80℃以下、又は融点+70℃以下であってよい。
【0124】
[樹脂組成物の材料成分]
本開示、特に態様A~Cに係る方法で製造される樹脂組成物は、ポリマーである第1の成分と、有機繊維、及び/又は、第1の成分と異なるポリマーである第2の成分とを含む。第1の成分と異なるポリマーは、一態様において、第1の成分と分子構造及び/又は分子量が異なるポリマーを意味する。第1の成分中のポリマー、第2の成分中の有機繊維、及び第2の成分中のポリマーは、それぞれ1種でも2種以上でもよい。一態様において、第1の成分中のポリマーと第2の成分中のポリマーとは、これらを構成する少なくとも1種のポリマーの分子構造及び/又は分子量が互いに異なっている。第2の成分は、一態様において有機繊維であり、一態様においてポリマーであり、一態様において有機繊維とポリマーとの組合せである。樹脂組成物を製造するために用いられ、したがって樹脂組成物中に含まれる材料成分としては、以下を例示できる。
【0125】
≪第1の成分≫
第1の成分は、一態様においてポリマーである。当該ポリマーは、樹脂組成物の使用目的に応じて適宜選択され、例えば、100℃~350℃の範囲内に融点を有する結晶性熱可塑性樹脂、100~250℃の範囲内にガラス転移点を有する非晶性熱可塑性樹脂等であってよい。ポリマーとしては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらの2種以上の混合物を例示でき、取り扱い性及びコストの観点から、好ましくはポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられ、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリアセタール系樹脂はより好ましく、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂は特に好ましい。熱可塑性樹脂(特に結晶性樹脂)の融点は、樹脂組成物の耐熱性を高める観点から、好ましくは、140℃以上、又は150℃以上、又は160℃以上、又は170℃以上、又は180℃以上、又は190℃以上、又は200℃以上、又は210℃以上、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上である。
【0126】
熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃~190℃、又は160℃~180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃~350℃、又は230℃~320℃、を例示できる。
【0127】
本開示で、融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。また本開示でガラス転移点とは前述のように動的粘弾性測定装置を用いて求められる温度である。
【0128】
ポリマーとして好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)やアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレン等α-オレフィンの共重合体等が挙げられる。
【0129】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を下回らないことが望ましい。
【0130】
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。この際の酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及び、これらの無水物、並びにクエン酸等のポリカルボン酸から、適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下で融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。酸変性されたポリプロピレンは、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。第1の成分と第2の成分との界面強度(一態様において、樹脂とセルロースとの界面強度)を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0131】
酸変性されたポリプロピレンのISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)は、第1の成分と第2の成分との界面(例えばセルロースと樹脂との界面)との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、更により好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特にないが、機械的強度の維持から500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、第1の成分と第2の成分との界面(一態様においてセルロースと樹脂との界面)に存在しやすくなるという利点を享受できる。
【0132】
ポリアミド系樹脂としては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12や、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等のジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体、一例としてポリアミド6,T/6,I等の共重合体が挙げられる。
【0133】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0134】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、好ましくは、20μモル/g以上、又は25μモル/g以上であってよく、好ましくは、150μモル/g以下、又は100μモル/g以下であってよい。
【0135】
ポリアミド系樹脂の末端アミノ基濃度は、好ましくは、20μモル/g以上、又は30μモル/g以上であってよく、好ましくは、150μモル/g以下、又は100μモル/g以下であってよい。
【0136】
ポリアミド系樹脂の末端アミノ基と末端カルボキシル基との合計濃度に特に制限はないが、好ましくは、10μモル/g以上、又は50μモル/g以上、又は100μモル/g以上、又は135μモル/g以上であってよく、樹脂が過度に低分子量になることによる粘度低下を防止して成形時のバリ発生等を抑制する観点から、好ましくは、500μモル/g以下、又は300μモル/g以下、又は135μモル/g以下、又は100μモル/g以下であってよい。
【0137】
ポリアミド系樹脂の、カルボキシル末端基に対するアミノ末端基比率([NH2]/[COOH])は、好ましくは、1.00超、又は1.01以上、又は1.05以上、又は1.10以上である。アミノ末端基比率上限には特に制限はないが、樹脂組成物の色調を良好に維持する観点からは、好ましくは、10000以下、又は1000以下、又は100以下、又は10以下であってよい。
【0138】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等の末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0139】
ポリアミド系樹脂のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めることができる。具体的には、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。
【0140】
ポリアミド系樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6~2.0dL/gであることが好ましく、0.7~1.4dL/gであることがより好ましく、0.7~1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7~1.0dL/gであることが特に好ましい。上記範囲の固有粘度を有するポリアミドを使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を高め、成形片の外観を向上させるという利点が得られる。
【0141】
本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義であり、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載される方法で測定できる。
【0142】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。ポリエステル系樹脂としては、より好ましくは、PET、PBS、PBSA、PBT、PENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、PBTが挙げられる。
【0143】
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率や末端安定化剤の添加の有無や量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、該ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30~0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロースの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0144】
ポリアセタール系樹脂としては、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)由来構造の量としては0.01~4モル%の範囲内がより好ましい。コモノマー成分由来構造の量の好ましい下限量は、0.05モル%であり、より好ましくは0.1モル%であり、さらにより好ましくは0.2モル%である。また好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、さらにより好ましくは2.5モル%、最も好ましくは2.3モル%である。
【0145】
押出加工や成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
【0146】
ポリマーとしては、例えばセルロースとの親和性の観点から、親水性基(例えば、水酸基、アミノ基及びカルボキシ基から選ばれる1種以上)を有するポリマーが特に好ましい。親水性基を有するポリマーの好適例は、酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選択される1種以上である。中でもポリアミド系樹脂及びマレイン化ポリプロピレンが好ましい。
【0147】
≪第2の成分≫
第2の成分は、有機繊維及び/又はポリマーである。一態様において、第2の成分は、第1の成分と混合されることによって第1の成分中に分散し、樹脂組成物の物性(一態様において、引張伸度、曲げ弾性率、熱膨張係数、及び物性安定性からなる群から選択される1つ以上、好ましくはこれらの全て)を、第2の成分が存在しない場合よりも向上させることができる。樹脂組成物において、樹脂組成物全体100質量%に対する第2の成分の量、又は、第1の成分と第2の成分との合計100質量%に対する第2の成分の量は、それぞれ、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上であり、好ましくは、30質量%以下、又は25質量%以下、又は20質量%以下、又は15質量%以下である。第2の成分の量が上記範囲である場合、高引張伸度、高曲げ弾性率、低熱膨張係数、及び/又は良好な物性安定性の観点から好ましい。
以下、有機繊維及びポリマーの各々の好適例について説明する。
【0148】
<有機繊維>
有機繊維は、有機材料で構成された繊維である。有機繊維は、一態様においてポリマー繊維であり、一態様において水素結合形成性構造(例えば、OH構造及び/又はNH構造)を有する繊維であり、一態様において、天然繊維(例えば、セルロース繊維、セルロースナノクリスタル、キチン繊維、キトサン繊維、ウール等)、及び合成繊維(例えば、アラミド繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリウレタン繊維等)からなる群から選択される1種以上である。本開示で、セルロース繊維とは、L/Dが30以上であるセルロースを意味し、セルロースナノクリスタルは、平均繊維径が1000nm以下、且つL/Dが30未満であるセルロースを意味する。水素結合形成性構造を有する有機繊維は、水素結合によって本質的に凝集し易い傾向があるところ、本開示の方法によれば、このような有機繊維であっても第1の成分中に良好に微分散され得る。
【0149】
樹脂組成物において、樹脂組成物全体100質量%に対する有機繊維の量は、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上であり、好ましくは、30質量%以下、又は25質量%以下、又は20質量%以下、又は15質量%以下である。上記範囲の有機繊維量は、高引張伸度、高曲げ弾性率、低熱膨張係数、及び/又は良好な物性安定性の観点から好ましい。
【0150】
[セルロース繊維]
一態様において、有機繊維はセルロース繊維を含み又はセルロース繊維である。セルロース繊維の原料としては、天然セルロース繊維及び再生セルロース繊維が挙げられる。天然セルロース繊維としては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(竹、麻系繊維、バガス、ケナフ、リンター等)から得られる非木材パルプ、及びこれらの精製パルプ(精製リンター等)等が使用できる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプ等を使用できる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプは各々、コットンリント、コットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のもの)、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料から、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程、漂白工程等を経て得られる精製パルプを原料とするセルロース繊維を挙げることができる。
【0151】
一態様において、セルロース繊維はセルロースナノファイバーである。セルロースナノファイバーは、例えば、上述のパルプを100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の粉砕法により解繊して得ることができる。
【0152】
セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、一態様において、2~1000nmであり、好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上、又は50nm以上、又は100nm以上であり、好ましくは500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下、又は200nm以下である。
【0153】
セルロースナノファイバーの数平均繊維長/数平均繊維径比(L/D)は、一態様において、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上であってよく、一態様において、5000以下、又は4000以下、又は3000以下であってよい。
【0154】
一態様において、本開示のセルロース繊維の数平均繊維径(D)、数平均繊維長(L)、及びL/D比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて以下の手順で測定される値である。セルロース繊維の水分散液をtert-ブタノールで置換し、0.001~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロース繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0155】
なお、樹脂組成物中及び成形体中のセルロース繊維の長さ、径、及びL/D比は、ポリマー成分を溶解できる有機又は無機の溶媒にポリマー成分を溶解させ、セルロース繊維を分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、tert-ブタノールで置換し、0.001~0.1質量%分散液を調製し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)で再分散したものを利用して、上記の方法で測定できる。
【0156】
セルロース繊維の結晶化度は、耐熱性、機械強度及び寸法安定性に優れる樹脂組成物を得る観点から、好ましくは、55%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース繊維自体の力学物性(耐熱性、強度、寸法安定性)が高いため、セルロース繊維をポリマーに分散した際に、樹脂組成物の耐熱性、強度、寸法安定性が高い傾向にある。結晶化度は高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0157】
ここでいう結晶化度は、セルロース繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
【0158】
また結晶化度は、セルロース繊維がセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
【0159】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロース繊維としては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロース繊維を樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロース繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロース繊維がより好ましい。
【0160】
また、セルロース繊維の重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
【0161】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロース繊維の重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0162】
セルロース繊維の重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0163】
一態様において、セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロース繊維、及びセルロース繊維と樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
【0164】
ここでいうセルロース繊維の重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロース繊維を塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0165】
セルロース繊維の重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロース、リグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、後記の混練工程中等の、セルロースに機械的せん断力を与える工程において、セルロースが機械処理を受けやすくなり、セルロースが微細化されやすくなる。
【0166】
セルロース繊維が含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0167】
一態様において、セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロース繊維の良好な分散性を得る観点から、セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下、又は11質量%以下、又は8質量%以下である。上記含有率は、セルロース繊維の製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。一態様において、セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、13質量%以下、又は12質量%以下、又は11質量%以下、又は8質量%以下であってよく、最も好ましくは0質量%であるが、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。
【0168】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
【0169】
一態様において、セルロース繊維中の酸不溶成分平均含有率は、セルロース繊維の耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロース繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0170】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
【0171】
セルロース繊維は、化学処理(例えば酸化、又は修飾化剤を用いた化学修飾)がされていてもよい。一例として、Cellulose(1998)5,153-164に示されているような2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカルによってセルロースを酸化させた後に、洗浄、機械解繊を経ることにより得られる、微細化セルロース繊維を使用してもよい。
【0172】
[セルロース繊維の疎水化]
セルロース繊維は疎水化剤により疎水化されたセルロース繊維(本開示で、化学修飾セルロース繊維ともいう。)であってもよい。疎水化することにより、セルロース繊維同士の水素結合が弱められ、微分散に寄与するようになるとともに、セルロース繊維として耐熱性が向上し、樹脂との混練による劣化を抑制することが可能となり、セルロース繊維が物性欠陥の起点となりにくくなる効果がある。疎水化剤(本開示で、修飾化剤ともいう。)としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。特にエステル化剤が好ましい。好ましい態様において、疎水化は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステルが好ましい。特に好ましい態様において、疎水化はアセチル化である。これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、及び酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0173】
疎水化セルロースナノファイバーを得る場合、天然セルロース原料を微細化し繊維径を小さくする方法としては、特に制限はないが、解繊の処理条件(剪断場を与える方法、剪断場の大きさ等)をより高効率にすることが好ましい。特に、非プロトン性溶媒を含む解繊用溶液を、セルロース純度が85質量%以上のセルロース原料に含浸させることで、セルロースの膨潤が短時間で起こり、わずかな攪拌と剪断エネルギーを与えるだけでセルロースが微細化していく。そして、解繊直後にセルロース修飾化剤を加えることにより、疎水化セルロースナノファイバーを得ることができる。この方法が、生成効率及び精製効率(すなわち疎水化セルロースナノファイバーの高セルロース純度化)、並びに樹脂組成物の物理特性の観点から好ましい。
【0174】
非プロトン性溶媒としては、例えば、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類、ピロリドン類などが挙げられ、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非プロトン性溶媒のうち、DMSO(29.8)、DMF(26.6)、DMAc(27.8)、NMP(27.3)(括弧内の数字はドナー数)など、特に、DMSOを用いれば、熱分解開始温度が高い疎水化セルロースナノファイバーをより効率的に製造することができる。この作用機序は必ずしも明らかではないが、非プロトン性溶媒中での繊維原料の均質なミクロ膨潤に起因するものと推察される。
【0175】
セルロース繊維の疎水化度(修飾度)は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表される。一態様において、化学修飾セルロース繊維のDSは0.01以上2.0以下が好ましい。DSが0.01以上であれば、熱分解開始温度が高い化学修飾セルロース繊維を含む樹脂組成物を得ることができる。一方、2.0以下であると、化学修飾セルロース繊維中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース繊維由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた化学修飾セルロース繊維を含む樹脂組成物を得ることができる。DSはより好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上、特に好ましくは0.2以上、最も好ましくは0.3以上であって、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。
【0176】
疎水化セルロース繊維の反射型赤外吸収スペクトルにおいて、疎水化修飾基の種類により吸収バンドのピーク位置は変化する。ピーク位置の変化から、そのピークが何の吸収バンドに基づくものかは確定でき、修飾基の同定ができる。また、修飾基由来のピークとセルロース骨格由来のピークのピーク強度比から修飾化率を算出することができる。
【0177】
修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化セルロース繊維の反射型赤外吸収スペクトルから算出できる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する。エステル化セルロースのDSは、エステル化セルロースの固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0178】
なお、上記反射型赤外吸収スペクトルで適切な測定が困難である場合には、固体NMRを用い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
【0179】
[セルロースナノクリスタル]
セルロースナノクリスタルは、パルプ等を原料とし、当該原料を裁断後、塩酸、硫酸等の酸中でセルロースの非晶部分を溶解した後に残留する結晶質のセルロースであってよい。セルロースナノクリスタルの長さ/径比率(L/D比)は、一態様において30未満である。セルロースナノクリスタルの平均径は、一態様において1000nm以下であり、好ましくは、500nm以下、又は200nm以下であり、好ましくは、10nm以上、又は20nm以上、又は30nm以上である。上記L/D比及び平均径は、セルロース繊維の平均繊維径と同様の方法で測定される値である。
【0180】
セルロースナノクリスタルのL/Dは、一態様において30未満であり、好ましくは、25以下、又は20以下、又は15以下、又は10以下、又は5以下である。下限は特に限定されないが、1を超えていればよい。セルロースナノクリスタルは、樹脂組成物の引張伸度を向上させ得る。一態様において、セルロースウィスカーは、そのサイズを除いて、セルロース繊維について前述したのと同様の特性(未変性又は変性の態様等)を有してよい。
【0181】
[キチン繊維、キトサン繊維]
キチン繊維は、甲殻類等の甲羅を原料とし、当該原料を分離、精製することで得られるアセチルグルコサミンの重合体、すなわちキチンを主成分とする繊維であってよい。キトサン繊維は、キチン繊維を脱アセチル化することで得られる繊維で、グルコサミンの重合体、すなわちキトサンを主成分とする繊維であってよい。キチン繊維及びキトサン繊維の平均径は、それぞれ、一態様において2~1000nmであり、好ましくは、500nm以下、又は200nm以下であり、好ましくは、10nm以上、又は20nm以上、又は30nm以上である。
キチン繊維及びキトサン繊維のL/Dは、それぞれ、一態様において30以上であり、好ましくは、50以上、又は100以上であり、一態様において、100000以下、又は50000以下、又は10000以下、又は5000以下であってよい。
【0182】
[アラミド繊維]
アラミド繊維は、芳香族ポリアミドを主成分とする合成繊維であり、芳香族の構造によってパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維に大別される。アラミド繊維の平均径は、一態様において2~1000nmであり、好ましくは、500nm以下、又は200nm以下であり、好ましくは、10nm以上、又は20nm以上、又は30nm以上である。
アラミド繊維のL/Dは、一態様において30以上であり、好ましくは、50以上、又は100以上であり、一態様において、100000以下、又は50000以下、又は10000以下、又は5000以下であってよい。
【0183】
セルロース繊維以外の有機繊維の繊維長、繊維径及びL/Dは、セルロース繊維と同様の方法で測定される。
【0184】
<ポリマー>
第2の成分は、一態様においてポリマーを含む。一態様において、第1の成分中のポリマーと第2の成分中のポリマーとは、これらを構成する少なくとも1種のポリマーの分子構造及び/又は分子量が互いに異なっている。第2の成分としてのポリマーは、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、エラストマー、及びこれらの変性物(例えば無水マレイン酸等の変性物)からなる群から選択される1種以上を含み、又はこれらからなる群から選択される1種以上であってよい。
【0185】
[ポリフェニレンエーテル]
ポリフェニレンエーテルは、下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択される1価の基であり、nは20以上の整数である。)
で表される構造を有する。第2の成分としてポリフェニレンエーテルを用いることは、樹脂組成物の曲げ特性等の点で有利である。
【0186】
上記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、塩素原子、及び臭素原子が好ましい。
【0187】
上記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示される「アルキル基」は、炭素数が好ましくは1~6、より好ましくは1~3の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示すものとし、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。メチル及びエチルが好ましく、メチルがより好ましい。
【0188】
上記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示されるアルキル基は、置換可能な位置にて、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル)、アルケニル基(例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル)、アルキニル基(例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル)、アラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ)等が挙げられる。
【0189】
上記式(1)中のnは、20以上、又は100以上、又は200以上であってよく、2000以下、又は1000以下、又は400以下であってよい。
【0190】
ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されず、公知のものを用いてもよい。例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられ、更に、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノール又は2-メチル-6-ブチルフェノール)等のポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。上記の中でも、好ましくは、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体であり、より好ましくは、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)である。
これらのポリフェニレンエーテルは、単独で用いてよく、2種以上併用してもよい。
【0191】
ポリフェニレンエーテルの極限粘度[η]は、高剛性の樹脂組成物を得る観点から、好ましくは、0.1dl/g以上、又は0.2dl/g以上、又は0.3dl/g以上であり、樹脂組成物に良好な流動性を付与する観点から、好ましくは、1.0dl/g以下、又は0.7dl/g以下、又は0.6dl/g以下、又は0.5dl/g以下である。上記極限粘度は25℃のクロロホルム中で測定される値である。
【0192】
一態様において、ポリフェニレンエーテルは、その少なくとも一部が酸変性されているものでもよい。酸変性は、ポリフェニレンエーテルに変性剤(例えば、α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体等)を反応させることで実現できる。
【0193】
α,β-不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フラン酸、ペンテン酸、ビニル酢酸、アンゲリカ酸等の一塩基酸、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸)等)の二塩基酸、クエン酸、アコニット酸等の三塩基酸、等を例示できる。
【0194】
α,β-不飽和カルボン酸の誘導体としては、上記のようなα,β-不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物、エステル等を例示できる。例えば、塩化マレニル、アクリルアミド、マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水アコニック酸、(メタ)アクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、シトラコン酸ジブチル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルマレエート等を例示できる。中でも好ましい変性剤の例としては、マレイン酸、クエン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、無水マレイン酸が挙げられ、さらに好ましくは、クエン酸、無水マレイン酸である。
【0195】
ポリフェニレンエーテルの酸変性度は、第2の成分を良好に微分散させる観点から、好ましくは、0.01%以上、又は0.1%以上、又は0.2%以上、又は0.25%以上であり、ポリフェニレンエーテルの使用による利点を良好に得る観点から、好ましくは、10%以下、又は5%以下、又は2%以下、又は1%以下、又は0.7%以下、又は0.6%以下である。本開示のポリフェニレンエーテルは、酸変性度が異なる2種以上のポリマーの混合物であってもよい。この場合、樹脂組成物中のポリフェニレンエーテル全体での酸変性度が上記範囲であることが好ましい。上記酸変性度は、赤外分光測定から算出される付加率である。酸性官能基が無水マレイン酸に由来する場合、ポリフェニレンエーテルと無水マレイン酸の混合物を用いて、マレイン酸由来の1790cm-1のピークについてあらかじめ検量線を作成した後、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテルの1790cm-1のピーク強度から付加率を計算する。
【0196】
ポリフェニレンエーテルの酸変性方法としては、流動状態(例えば、溶融、又は溶媒への分散若しくは溶解により)のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法、変性剤の共存下、ポリフェニレンエーテルのガラス転移点以下の温度で、粉体状のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法などを例示できる。流動状態のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法の例としては、ポリフェニレンエーテルと変性剤とを、ロールミル、バンバリーミキサー、押出機等で、250℃~350℃で5秒間~30分間溶融混練する方法、ポリフェニレンエーテルを有機溶媒(例えば、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリン等)に溶解させた後、変性剤を添加して加熱する方法を例示できる。また、粉体状のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法の例としては、高速攪拌可能な攪拌装置にポリフェニレンエーテルと変性剤を所定量投入し、高速攪拌させたそのせん断発熱、及び/又はジャケットからの伝熱により、内容物温度を160℃~200℃の状態に、少なくとも30秒以上維持する方法などが挙げられる。
【0197】
反応は、ラジカル開始剤の存在下で行っても良い。ラジカル開始剤としては、有機過酸化物(ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等)、アゾ化合物(アゾビスイソブチルニトリル、ジメチルアゾイソブチレート等)が挙げられる。ラジカル開始剤の使用量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、例えば0.01質量部~10質量部であってよい。
【0198】
一態様において、ポリフェニレンエーテルは、酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルと酸性官能基を有さないポリフェニレンエーテルとの混合物であってよい。酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルと酸性官能基を有さないポリフェニレンエーテルとの混合割合は、両者の合計を100質量%としたとき、酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルによる利点を良好に得る観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上である。上限は特に限定されず、実質的にすべてのポリフェニレンエーテルが酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルであってもよいが、溶融時の流動性に課題を生じさせない観点から、80質量%以下が望ましい。
【0199】
第2の成分としてのポリマーは、一態様においてエラストマーである。本開示で、エラストマーとは、室温(23℃)において弾性体である物質(具体的には天然又は合成の重合体物質)である。エラストマーは、樹脂組成物の靭性、及び伸び(特に低温環境下での伸び)の向上の点で有利である。
【0200】
エラストマーの具体例としては、天然ゴム、共役ジエン化合物重合体、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、芳香族化合物-共役ジエン共重合体の水素添加物、ポリオレフィン、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コアシェル構造を有するエラストマー等が挙げられる。これらの中でも、後述の酸性官能基の変性反応の容易性の観点から、芳香族化合物-共役ジエン共重合体及びその水素添加物、ポリオレフィン、並びに、コアシェル構造を有するエラストマーが好ましい。上記芳香族化合物-共役ジエン共重合体及びその水素添加物としては、芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体及びその水素添加物がより好ましく、上記ポリオレフィンとしては、エチレンとα-オレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0201】
一態様において、エラストマーは、エチレン-αオレフィン共重合体、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及び芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物からなる群より選ばれる1種以上である。
【0202】
本開示で、芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)から構成されるブロック共重合体である。各ブロックの結合形式がAB型、ABA型、ABAB型のいずれかであるブロック共重合体が、衝撃強度発現の観点から好ましく、より好ましくは、ABA型、又はABAB型である。
【0203】
また、ブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物ユニットと共役ジエン化合物ユニットとの質量比は、10/90~70/30であることが望ましい。より好ましくは、15/85~55/45であり、最も好ましくは20/80~45/55である。更に、これらは芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との質量比が異なるものを2種以上ブレンドしても構わない。芳香族ビニル化合物の具体例としてはスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもスチレンが特に好ましい。
【0204】
共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましく、特に、ブタジエンが好ましい。ブロック共重合体の共役ジエン化合物としてブタジエンを使用する場合は、ポリブタジエンブロック部分のミクロ構造としては、ソフトセグメントの結晶化抑制の観点から、1,2-ビニル含量、又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量が、モル基準で、5~80%が好ましく、さらには10~50%が好ましく、15~40%が最も好ましい。
【0205】
芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックから構成されるブロック共重合体であり、実質的に水素添加処理を施していないブロック共重合体をいう。芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体の水素添加物とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体を水素添加処理することにより、ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの脂肪族二重結合を0%超~100%の範囲で制御したものをいう。該ブロック共重合体の水素添加物の水素添加率は、加工時の熱劣化抑制の観点から、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上、最も好ましくは98%以上であり、低温靭性の観点からは、好ましくは50%以下であり、より好ましくは20%以下、最も好ましくは0%(すなわち芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体)である。
【0206】
また、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体及びその水素添加物のそれぞれの分子量としては、衝撃強度と流動性の両立の観点から、数平均分子量(Mn)が、10,000~500,000のものが好ましく、40,000~250,000のものが最も好ましい。本開示で、数平均分子量とは、特記がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置で、クロロホルムを溶媒とし、40℃の測定温度で、ポリスチレンスタンダードで換算して測定した値である。
【0207】
これら芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物のブロック共重合体は、結合形式の異なるもの、分子量の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2-ビニル含量又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等を2種以上を混合して用いても構わない。水素添加率が異なるものの混合物における、当該混合物の好ましい水素添加率は、上述の通りである。
【0208】
また、ポリオレフィンとしては、耐衝撃性発現の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体が好適に使用可能である。エチレン単位と共重合できるモノマーとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、又はエイコセン-1、イソブチレンなどの脂肪族置換ビニルモノマー、及び、スチレン、置換スチレンなどの芳香族系ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステルなどのエステル系ビニルモノマー、アクリルアミド、アリルアミン、ビニル-p-アミノベンゼン、アクリロニトリルなどの窒素含有ビニルモノマー、ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレンなどのジエンなどを挙げることができる。
【0209】
好ましくはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、更に好ましくはエチレンと炭素数3~16のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、最も好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン1種以上とのコポリマーである。また、エチレン-α-オレフィン共重合体の分子量としては、耐衝撃性発現の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定装置で、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒とし、140℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量(Mn)が10,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~100,000であり、更に好ましくは20,000~60,000である。また、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、流動性と耐衝撃性両立の観点から、3以下が好ましく、さらには1.8~2.7がより好ましい。
【0210】
また、エチレン-α-オレフィン共重合体の好ましいエチレン単位の含有率は、加工時の取り扱い性の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体全量に対し30~95質量%である。
【0211】
これら好ましいエチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、特公平4-12283号公報、特開昭60-35006号公報、特開昭60-35007号公報、特開昭60-35008号公報、特開平5-155930号公報、特開平3-163088号公報、米国特許第5272236号明細書等に記載されている製造方法で製造可能である。
【0212】
本開示で、コアシェル構造を有するエラストマーとしては、粒子状のゴムであるコアと、当該コアの外部に形成された、ガラス質のグラフト層であるシェルとを持つコア-シェル型のエラストマーが挙げられる。コアとしてのゴムの成分としては、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合系ゴム等が好適に使用可能である。また、シェルとしては、スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリル樹脂等のガラス状高分子が、好適である。例えば、第1の成分がポリアミドを含む場合には、ポリアミドとの相溶性の観点から、ブタジエンゴムのコアと、アクリル系樹脂のシェルとを有するコアシェル構造を有するエラストマーが好適に使用できる。
【0213】
一態様においては、エラストマーの少なくとも一部が酸性官能基を有している。本開示で、エラストマーが酸性官能基を有しているとは、エラストマーの分子骨格中に、酸性官能基が化学結合を介して付加していることを意味する。また本開示で、酸性官能基とは、塩基性官能基などと反応可能な官能基を意味し、具体例としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホ基、酸無水物基等が挙げられる。
【0214】
エラストマー中の酸性官能基の付加量は、酸性官能基を有する第2のポリマー又は酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルとの相溶性の観点から、エラストマー100質量%基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。なお、酸性官能基の数は、あらかじめ酸性物質を混合した検量線用サンプルを赤外吸収スペクトル測定装置により測定し、酸の特性吸収帯を用いて作成しておいた検量線を元に、当該試料を測定することで得られる値である。
【0215】
酸性官能基を有するエラストマーとしては、アクリル酸等を共重合成分として用いて形成した層をシェルとして有するコアシェル構造を有するエラストマー、アクリル酸等をモノマーとして含むエチレン-αオレフィン共重合体、ポリオレフィン、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエン共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸又はその誘導体をグラフトさせた変性物であるエラストマー等が挙げられる。
【0216】
好ましい態様において、エラストマーは、酸無水物変性されたエラストマーである。
【0217】
これらの中では、ポリオレフィン、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエン共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸又はその誘導体をグラフトさせた変性物がより好ましく、中でも特にエチレン-α-オレフィンの共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体をグラフトさせた変性物が特に好ましい。
【0218】
α,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、及び無水フマル酸が挙げられ、これらの中で無水マレイン酸が特に好ましい。
【0219】
一態様において、エラストマーは、酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合物であってよい。酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合割合は、両者の合計を100質量%としたとき、酸性官能基を有するエラストマーが、樹脂組成物の高靭性及び物性安定性を良好に維持する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上である。上限は特に限定されず、実質的にすべてのエラストマーが酸性官能基を有するエラストマーであってもよいが、流動性に課題を生じさせない観点から、80質量%以下が望ましい。
【0220】
第2の成分がポリマーを含み又はポリマーである場合、当該ポリマーは、樹脂組成物中で粒子状の分散相(分散粒子)を形成してよい。この場合、分散粒子径は、数平均粒子径として、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、最も好ましくは1μm以下である。下限は、特に限定されないが、例えば0.01μmである。高靭性及び物性安定性の観点から、上述の範囲内とすることが好ましい。
【0221】
樹脂組成物において、樹脂組成物全体100質量%に対する、第2の成分としてのポリマーの量は、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上であり、好ましくは、30質量%以下、又は25質量%以下、又は20質量%以下、又は15質量%以下である。当該ポリマーの量が上記範囲である場合、高引張伸度、高曲げ弾性率、低熱膨張係数、及び/又は良好な物性安定性の観点から好ましい。
【0222】
≪追加の成分≫
態様A~Cに係る樹脂組成物は、その性能を向上させるために、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては、分散剤;有機繊維以外のフィラー成分;相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;着色剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;酸化防止剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等が挙げられる。任意の追加の成分の樹脂組成物中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01~50質量%、又は0.1~30質量%であってよい。
【0223】
分散剤としては、第2の成分と反応又は相互作用し得る化合物が好ましい。例えば、第2の成分が水素結合形成性構造(例えば水酸基等)を有する場合、分散剤としては、当該水素結合形成性構造と反応又は水素結合し得る化合物が好ましい。分散剤の好適例は、セルロース誘導体、ポリアルキレンオキシド、アミド及びアミンからなる群から選択される1種以上である。中でも、第2の成分がセルロースを含む場合、セルロース誘導体は、セルロース系物質であることから当該セルロースとの親和性が高い一方で、熱可塑性樹脂でもあることから、樹脂組成物中でのセルロースの分散安定性向上効果が高く好ましい。分散剤としては、水より高い沸点を有するものが好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
【0224】
樹脂組成物中、第2の成分100質量部に対する分散剤の量は、第2の成分の良好な分散、及び、第2の成分が有機繊維を含む場合の繊維同士のネットワーク形成の観点から、好ましくは、1質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上であり、樹脂組成物の性能のばらつき低減の観点から、好ましくは、500質量部以下、又は300質量部以下、又は200質量部以下である。
【0225】
≪樹脂組成物の特性≫
態様A~Cに係る方法で得られる樹脂組成物は、以下の特性を有し得る。
【0226】
<樹脂組成物中の有機繊維の平均繊維径及びL/D>
一態様において、樹脂組成物中の有機繊維の平均繊維径は、1000nm以下、又は500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下、又は200nm以下、又は150nm以下、又は100nm以下であってよく、2nm以上、又は4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上、又は30nm以上、又は40nm以上、又は50nm以上、又は100nm以上であってよい。
【0227】
樹脂組成物中の有機繊維の平均繊維長/平均繊維径比(L/D)は、一態様において、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上であってよく、一態様において、5000以下、又は4000以下、又は3000以下であってよい。
【0228】
<チキソトロピー指数>
態様A~Cに係る方法で得られる樹脂組成物においては、第2の成分が均一に分散していることができる。樹脂組成物のチキソトロピー指数は、第2の成分の分散均一性の指標であり、分散均一性が高いとチキソトロピー指数は大きくなる。この現象は、第2の成分が有機繊維、特にセルロース繊維を含む場合に顕著であり得る。樹脂組成物のチキソトロピー指数は、第2の成分の分散均一性が良好である点で、好ましくは、2以上、又は3以上、又は4以上であり、樹脂組成物の製造容易性の観点から、好ましくは、10以下、又は9以下、又は8以下である。なお上記チキソトロピー指数は、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の融点(熱可塑性樹脂が複数種の場合は最も高温側の融点)+25℃において、剪断速度10秒-1での粘度に対する剪断速度1秒-1での粘度の比として求められる値である。
【0229】
<引張伸度>
一態様において、ISO527-1に準拠して測定される樹脂組成物の引張伸度は、2%以上、又は3%以上、又は5%以上であってよく、樹脂組成物の製造容易性の観点から、500%以下、又は300%以下、又は100%以下であってよい。
【0230】
<曲げ弾性率>
一態様において、ISO178に準拠して測定される樹脂組成物の曲げ弾性率は、1GPa以上、又は2GPa以上、又は3GPa以上であってよく、樹脂組成物の製造容易性の観点から、20GPa以下、又は15GPa以下、又は10GPa以下であってよい。
【0231】
<引張強度>
一態様において、ISO527-1に準拠して測定される樹脂組成物の引張強度は、10MPa以上、又は20MPa以上、又は50MPa以上であってよく、樹脂組成物の製造容易性の観点から、300MPa以下、又は250MPa以下、又は150MPa以下であってよい。
【0232】
<線熱膨張係数>
一態様において、ISO11359-2に準拠して熱機械分析法(TMA)で測定される樹脂組成物の線熱膨張係数は、温度範囲20℃~100℃において、140ppm/K以下、又は100ppm/K以下、又は70ppm/K以下、又は60ppm/K以下、又は50ppm/K以下、又は45ppm/K以下、又は40ppm/K以下、又は35ppm/K以下であってよく、樹脂組成物の製造容易性の観点から、5ppm/K以上、又は10ppm/K以上であってよい。
【0233】
≪樹脂組成物の用途≫
態様A~Cに係る樹脂組成物は、鋼板、繊維強化プラスチック(例えば炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等)、無機フィラーを含む樹脂コンポジット、等の代替品として有用である。樹脂組成物の好適な用途としては、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両・船舶・航空宇宙関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材、容器・包装部材、等を例示できる。
【実施例0234】
以下、本発明の例示の態様について実施例を挙げて更に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0235】
(1)実施例A(本開示の態様Aに係る実施例)
≪評価方法≫
<シリンダー内壁とスクリューとの間隙>
ノギスを用いて直接測定することによって求めた。具体的には、被混合物の流路のうち、最も広い流路の部位のシリンダー内壁とスクリューとの間隙を計測した。シーリングにおいては当該シーリング外縁とシリンダー内壁との間隙を計測し、ニーディングディスク及びフライトにおいてはこれらの短軸方向外縁とシリンダー内壁との間隙を測定した。
【0236】
<混合物及び樹脂組成物の引張伸度及び曲げ弾性率>
得られた混合物又は樹脂組成物から、射出成形機を用いて、JIS K6920-2に準拠した条件で、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。多目的試験片について、ISO527に準拠して引張破断伸度、並びにISO178に準拠して曲げ弾性率を測定した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0237】
<樹脂組成物のシャルピー衝撃強度>
上記と同様に作製した多目的試験片を用い、ISO179-1に記載の方法で、シャルピー衝撃強度を測定した。
【0238】
<使用した有機繊維、及び樹脂組成物中の有機繊維の平均繊維長、平均繊維径及びL/D>
ウェットケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型顕微鏡で測定した。測定は、少なくとも100本の有機繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本の有機繊維の長さ(L)、長径(D)及びこれらの比を求め、100本の有機繊維の加算平均を算出した。
【0239】
なお、樹脂組成物中の有機繊維については、ポリマーがポリアミドである場合はヘキサフルオロイソプロパノール、ポリマーがポリプロピレンである場合はキシレンに樹脂成分を溶解させて有機繊維を分離し、上記溶媒で充分に洗浄した後、tert-ブタノールで置換して得たウェットケーキを用いた。
【0240】
<使用した有機繊維乾燥体の平均粒子径>
ホソカワミクロン株式会社製パウダーテスター、型番:PT-Xを用いてd50粒子径を測定した。
【0241】
<セルロース繊維及びキトサン繊維の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比>
[多孔質シートの作製]
まず、ウェットケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。有機繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、ろ紙を剥離してシートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0242】
[測定]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN、N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN、N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。有機繊維を溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N、N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
【0243】
<セルロース繊維の結晶化度>
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0244】
<セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率>
アルカリ可溶多糖類含有率は、セルロースについて非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をセルロースのアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。
【0245】
<セルロース繊維の置換度(DS)>
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1、
測定波数範囲:4000~600cm-1、
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(1):
IRインデックス= H1730/H1030・・・(1)
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式(2)に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス・・・(2)
【0246】
<混合物中及び樹脂組成物中の径50μm以上の粒子の含有率>
混合物又は樹脂組成物から、射出成形機を用いて、JIS K6920-2に準拠した条件で、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。この試験片から約2mm四方サイズの試料を切り出し、X-CT(X線CT装置)(ブルカージャパン社製、Skyscan1272)を用いて凝集物の解析を行った。測定条件は下記のとおりである。
管電圧:40kV
管電流:100μA
ピクセル分解能:1.2μm
検出器画素数:2452×1640 pixel
積算回数:4回
測定角度ステップ:0.2度
スキャン範囲:0~180度
なお、測定後のデータについて、3D方向に対して2画素にわたって桑原フィルターをかけてスムージングを行い、画質を向上させた。
【0247】
このようにして得られた3Dデータについて、triangle法による自動二値化を行い、凝集物のみの画素を抽出した。当該凝集物のうち球相当体積が(4/3)×π×253μm3以上である凝集物の画素の総和の、観察範囲全体の画素の総和に対する比率より、混合物中又は樹脂組成物中の径50μm以上の粒子の含有率(体積%)を算出し、この径50μm以上の粒子の含有率(体積%)を、混合物又は樹脂組成物への有機繊維の配合量から計算された有機繊維の総含有率(体積%)で除することによって得られた値を、有機繊維中の径50μm以上の粒子の含有率(質量%)とみなした。
【0248】
<樹脂組成物中の分散相の粒子径>
樹脂組成物の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察することで、分散相の粒子径を測定した。スチレン系熱可塑性エラストマーの染色は、四酸化ルテニウム水溶液に含侵させることで行った。ポリアミド樹脂の染色は、リンタングステン酸水溶液に含侵させることで行った。
【0249】
≪使用材料≫
<第1の成分>
ポリアミド6(PA6):(宇部興産製:1013B)
ポリプロピレン(PP):(プライムポリマー製:J105G)
ポリアセタール(POM):(旭化成製:HC450)
【0250】
<第2の成分>
[酸変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)]
旭化成製:R4919
[スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)]
旭化成製:タフテックH1052
【0251】
[CNF-A]
市販のセリッシュKY100G(ダイセルファインケム製)をCNF-Aケーキとして使用した。
【0252】
[CNF-B](アセチル化CNF)
コットンリンターパルプを1質量部、一軸撹拌機(アイメックス社製 DKV-1 φ125mmディゾルバー)を用いジメチルスルホキサイド(DMSO)30質量部中で500rpmにて1時間、常温で攪拌した。続いて、ホースポンプでビーズミル(アイメックス社製 NVM-1.5)にフィードし、DMSOのみで180分間循環運転させ、微細セルロース繊維スラリーとして、固形分率3.2質量%のスラリーS1(DMSO溶媒)を得た。
【0253】
循環運転の際、ビーズミルの回転数は2500rpm、周速12m/sとし、用いたビーズはジルコニア製で、φ2.0mm、充填率70%とした(ビーズミルのスリット隙間は0.6mmとした)。また、循環運転の際は、摩擦による発熱を吸収するためにチラーによりスラリー温度を40℃に温度管理した。
【0254】
スラリーS1を防爆型ディスパーザータンクに投入した後、酢酸ビニル3.2質量部、炭酸水素ナトリウム0.49質量部を加え、タンク内温度を50℃とし、120分間撹拌を行い、固形分率2.9質量%のスラリー(DMSO溶媒)を得た。
【0255】
反応を停止するため、純水30質量部を加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度30質量部の純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬及び溶媒等を除去し、固形分率10質量%のアセチル化された微細セルロース繊維ケーキ(CNF-Bケーキ)(水溶媒)を10質量部得た。このケーキから多孔質シートを作製してアシル置換度(DS)を求めたところ、DS=1.0であった。
【0256】
[CNF-C](ディスクリファイナー処理をしたCNF)
コットンリンターパルプ3質量部を水27質量部に浸漬させてオートクレーブ内で130℃、4時間の熱処理を行った。得られた膨潤パルプは水洗し、水を含む精製パルプ(30質量部)を得た。つづいて、水を含む精製パルプ30質量部に水を170質量部入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmで該水分散体を20分間叩解処理した。そして、脱水機により固形分率10質量%まで濃縮し、CNF-Cケーキ(水溶媒)を得た。
【0257】
[CNF-D](CNF-Cを更に高圧ホモジナイザーで解繊処理したもの)
CNF-Cケーキを、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で徹底的に叩解を行い、叩解水分散体(固形分濃度:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で15回微細化処理し、セルロース繊維スラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。そして、脱水機により固形分率10質量%まで濃縮し、CNF-Dケーキ(水溶媒)を得た。
【0258】
[CNF-E](アセチル化CNF)
反応時間を60分とした以外はCNF-Bと同様にして製造した。このケーキから多孔質シートを作製してアシル置換度(DS)を求めたところ、DS=0.5であった。
【0259】
[セルロースナノクリスタル]
セオラスFD-301(旭化成(株)製)を用いた。
【0260】
[キトサン繊維]
Binfis Efo-08002(スギノマシン製)を用いた。
【0261】
[アラミド繊維]
ティアラKY400S(ダイセルファインケム製)を用いた。
【0262】
有機繊維の特性を表1に示す。
【0263】
<分散剤>
ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド共重合体(PEG-PPG)(三洋化成製:GL-3000)
【0264】
≪混練方法≫
<押出機のスクリュー構成>
表2に記載の通り、高負荷ゾーン1、高負荷ゾーン2、高負荷ゾーン3、及び分配混合ゾーンを配置したスクリュー1~6を設計した。高負荷ゾーンの前半には、分流フライトスクリュー、切り欠きスクリュー、ニーディングディスク、偏心多条ディスク、偏心多条スクリューのいずれかからなる混練エレメントを配置し、下流には所定の間隙を有するシールリングを配置して被混合物を堰き止める設計とした。分配混合ゾーンは、シリンダー11に2個の中立ニーディングディスク、1個の反時計回りスクリューの順に配置した。
【0265】
<混合操作>
[実施例A1]
以下の手順でセルロース繊維乾燥体の調製、及びセルロース繊維乾燥体と樹脂との混合を行って樹脂組成物を製造した。
【0266】
(セルロース繊維乾燥体の製造)
セルロース繊維ケーキ(固形分質量10%)に、セルロース固形分100質量部に対して43質量部となる量で分散剤を加え、よく撹拌し、分散剤を配合したセルロース繊維ケーキを得た。これらを原料として乾燥装置に投入し、所定のずり速度、減圧度、加熱温度(ジャケット温度又は熱風温度)にて乾燥を実施した。赤外加熱式水分計(MX-50(エー・アンド・デイ製))を用いて水分率を測定し、水分率が7質量%以下(固形分質量93%以上)になった時間を乾燥の終点とした。条件は以下のとおりである。
【0267】
プラネタリーミキサー(PM)
装置:株式会社小平製作所製プラネタリーミキサー(型番:ACM-5LVT:フック型)
条件:ジャケット温度60℃、307rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧した。品温が50℃に達するまで減圧乾燥を実施した。
クリアランスとしては、フック羽(径100mm)とジャケットとの間の最小距離を測定した。
本条件における乾燥時間は、180分であった。
乾燥温度は、ジャケットの表面温度を3点計測し、その平均値とした。
【0268】
(分散混合)
押出機に2kg/hでポリアミド6を、2.86kg/h(セルロースとして2kg/h)でセルロース繊維乾燥体を投入し、分散混合ゾーンにて加熱溶融混練することで、分散混合物を得た。
【0269】
(分配混合)
分散混合物4.86kg/hに、15.14kg/hでポリアミド6をサイドフィードにて加えた後、分配混合ゾーンにて加熱溶融混練することで、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物はペレタイザーにて、ペレットに加工した。押出特性として、押出加工の際、押出機運転開始から1時間以内にスクリーンメッシュが詰まった場合を運転安定性「不良」、詰まらなかった場合を運転安定性「良」とした。
【0270】
[実施例A2~A19、比較例A1~A3]
樹脂組成物の組成及び押出機の設定条件を表3~5に示すように変更した他は実施例A1と同様の手順で樹脂組成物を製造し、各種評価を行った。結果を表3~5に示す。
【0271】
【0272】
【0273】
【0274】
【0275】
【0276】
(2)実施例B(本開示の態様Bに係る実施例)
≪評価方法≫
<シリンダー内壁とスクリューとの間隙>
実施例Aと同様に測定した。
【0277】
<混合物充填率>
押出実施中に、スクリューの回転及び原料供給を急停止させた後、スクリューを引き抜き、スクリュー表面に付着している混合物を採取、計量し、混合物の密度で除することで充満混合物の体積を計算した。続いて、充満混合物の体積を、後述の空間体積で除することで混合物充填率を算出した。
【0278】
<空間体積率>
押出機のシリンダー容積からスクリュー体積(エレメント体積と軸体積との合計)を差し引くことで空間体積を算出し、空間体積をシリンダー容積で除することで空間体積率を算出した。
【0279】
<ゾーン長>
分散混合ゾーン及び分配混合ゾーンを構成するスクリューパーツの合計長をゾーン長とした。
【0280】
<混合物及び樹脂組成物の引張伸度及び曲げ弾性率>
得られた混合物又は樹脂組成物から、射出成形機を用いて、JIS K6920-2に準拠した条件で、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。多目的試験片について、ISO527-1に準拠して引張破断伸度、並びにISO178に準拠して曲げ弾性率を測定した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0281】
<混合物中及び樹脂組成物中の径50μm以上の粒子の含有率>
実施例Aと同様に測定した。
【0282】
<使用した有機繊維、及び樹脂組成物中の有機繊維の平均繊維径及びL/D>
実施例Aと同様に測定した。
【0283】
<セルロース繊維及びキトサン繊維の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比>
実施例Aと同様に測定した。
【0284】
<セルロース繊維の結晶化度>
実施例Aと同様に多孔質シートの作製及び測定を行った。
【0285】
<セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率>
実施例Aと同様に測定した。
【0286】
<セルロース繊維の置換度(DS)>
実施例Aと同様に測定した。
【0287】
≪使用材料≫
実施例Aと同様のものを用いた。
【0288】
≪混練方法≫
[押出機の構成]
シリンダーブロック数が15個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=72)を用いて混練を実施した。なお、シリンダー14にはシリンダー上部にベントポートを設置し減圧吸引できるようにし、真空吸引を実施した。ダイアダプターとダイヘッドの間に50メッシュのスクリーンメッシュを取り付けた。
【0289】
<押出機のスクリュー構成>
表6に記載の通り、第1の分散混合ゾーン、第2の分散混合ゾーン、分配混合ゾーンを配置したスクリュー1~5を設計した。第1の分散混合ゾーン、第2の分散混合ゾーンはそれぞれ、前半に分流フライトスクリュー、切り欠きスクリュー、ニーディングディスク、偏心多条ディスク、偏心多条スクリューのいずれかからなる混練エレメントを配置し、後半にシールリング及び/又は反時計回りスクリューを組み合わせて、被混合物を滞留させる設計とした。分配混合ゾーンは、シリンダー11に2個の中立ニーディングディスク、引き続いて1個の反時計回りスクリューを配置した。
【0290】
<混合操作>
[実施例B1]
以下の手順でセルロース繊維乾燥体の調製、及びセルロース繊維乾燥体と樹脂との混合を行って樹脂組成物を製造した。
【0291】
(セルロース繊維乾燥体の製造)
セルロース繊維ケーキ(固形分質量10%)に、セルロース固形分100質量部に対して43質量部となる量で分散剤を加え、よく撹拌し、分散剤を配合したセルロース繊維ケーキを得た。これらを原料として乾燥装置に投入し、所定のずり速度、減圧度、加熱温度(ジャケット温度又は熱風温度)にて乾燥を実施した。赤外加熱式水分計(MX-50(エー・アンド・デイ製))を用いて水分率を測定し、水分率が7質量%以下(固形分質量93%以上)になった時間を乾燥の終点とした。条件は以下のとおりである。なお、セルロース繊維乾燥体を寒天に担持した後、前述の方法でX-CT解析したところ、セルロースナノファイバーが凝集してなる径50μm以上の粒子を50質量%超含んでいた。
【0292】
プラネタリーミキサー(PM)
装置:株式会社小平製作所製プラネタリーミキサー(型番:ACM-5LVT:フック型)
条件:ジャケット温度60℃、307rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧した。品温が50℃に達するまで減圧乾燥を実施した。
クリアランスとしては、フック羽(径100mm)とジャケットとの間の最小距離を測定した。
本条件における乾燥時間は、180分であった。
乾燥温度は、ジャケットの表面温度を3点計測し、その平均値とした。
【0293】
(分散混合)
押出機に2kg/hでポリアミド6を、2.86kg/h(セルロースとして2kg/h)でセルロース繊維乾燥体を投入し、第1の分散混合ゾーンにて加熱溶融混練することで、第1の分散混合物を得た。続いて、第2の分散混合ゾーンにて加熱溶融混練することで、第2の分散混合物を得た。
【0294】
(分配混合)
第2の分散混合物4.86kg/hに、15.14kg/hでポリアミド6をサイドフィードにて加えた後、分配混合ゾーンにて加熱溶融混練することで、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物はペレタイザーにて、ペレットに加工した。押出特性として、押出加工の際、押出機運転開始から1時間以内にスクリーンメッシュが詰まった場合を運転安定性「不良」、詰まらなかった場合を運転安定性「良」とした。
【0295】
[実施例B2~B7、比較例B1]
樹脂組成物の組成及び押出機の設定条件を表7に示すように変更した他は実施例B1と同様の手順で樹脂組成物を製造し、各種評価を行った。結果を表7に示す。
【0296】
【0297】
【0298】
(3)実施例C(本開示の態様Cに係る実施例)
≪評価方法≫
<シリンダー内壁とスクリューとの間隙>
実施例Aと同様に測定した。
【0299】
<混合物充填率>
押出実施中に、スクリューの回転及び原料供給を急停止させた後、スクリューを引き抜き、スクリュー表面に付着している混合物を採取、計量し、混合物の密度で除することで充満混合物の体積を計算した。続いて、充満混合物の体積を、後述の空間体積で除することで混合物充填率を算出した。
【0300】
<被混合物圧力0.3MPa以上である領域のゾーン長/シリンダー内径比>
押出機のシリンダーに複数の樹脂圧計を設置し、樹脂圧を押出中にモニタリングすることによって各ゾーンにおける樹脂圧を測定した。被混合物圧力0.3MPa以上を示したゾーンの全長をシリンダー内径で除することによって計算した。
【0301】
<空間体積率>
押出機のバレル容積からスクリュー体積(エレメント体積と軸体積との合計)を差し引くことで空間体積を算出し、空間体積をバレル容積で除することで空間体積率を算出した。
【0302】
<ゾーン長>
分散混合ゾーン及び分配混合ゾーンを構成するスクリューパーツの合計長をゾーン長とした。
【0303】
<混合物及び樹脂組成物の引張伸度及び曲げ弾性率>
得られた混合物又は樹脂組成物から、射出成形機を用いて、JIS K6920-2に準拠した条件で、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。多目的試験片について、ISO527-1に準拠して引張破断伸度、並びにISO178に準拠して曲げ弾性率を測定した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0304】
<チキソトロピー指数>
上記多目的試験片について、以下の試験条件で溶融時の粘弾性を測定した。
装置名:ARES G2 ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社
測定温度:250℃(ポリアミドの融点+25℃)、185℃(ポリプロピレンの融点+25℃)
せん断速度:1.0~40s-1
25mm/40mmパラレルプレートを使用し、Gap1mmで行った。
この時の測定結果から、下記式に従ってチキソトロピー指数を算出した。
チキソトロピー指数=(せん断速度1s-1の時の粘度/せん断速度10s-1の時の粘度)
【0305】
<混合物中のセルロース繊維の単位質量当たりの物性向上率(曲げ弾性率向上率)>
混合物中のセルロース繊維濃度を、押出時の押出機へのフィード量の比により求め、混合物中のセルロース繊維の単位質量当たりの物性向上率を以下の式に従って算出した。
(混合物の曲げ弾性率-ベース樹脂の曲げ弾性率)/セルロース繊維濃度(質量%)
【0306】
<シャルピー衝撃強度>
実施例Aと同様に測定した。
【0307】
<使用したセルロース繊維、及び樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径及びL/D>
実施例Aと同様に測定した。
【0308】
<セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比>
実施例Aと同様に測定した。
【0309】
<セルロース繊維の結晶化度>
実施例Aと同様に多孔質シートの作製及び測定を行った。
【0310】
<セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率>
実施例Aと同様に測定した。
【0311】
<樹脂組成物中の径50μm以上の粒子の含有率>
実施例Aと同様に測定した。
【0312】
<樹脂組成物中の分散相の粒子径>
実施例Aと同様に測定した。
【0313】
≪使用材料≫
ポリマー、有機繊維及び分散剤について、実施例Aと同様のものを用いた。
【0314】
≪混練方法≫
<押出機のスクリュー構成>
表8に記載の通り、ゾーン1及び2を配置したスクリュー1~5を設計した。スクリュー1のゾーン1は分散混合ゾーンであり、分流フライトスクリュー、切り欠きスクリュー、ニーディングディスク、偏心多条ディスク、偏心多条スクリューのいずれかからなる混練エレメントと、シールリング及び/又は反時計回りスクリューからなる滞留エレメントを組み合わせた、複数の混練ゾーンからなる設計とした。スクリュー1~5のゾーン2は分配混合ゾーンであり、シリンダー11に2個の中立ニーディングディスク、引き続いて1個の反時計回りスクリューを配置した。
スクリュー2のゾーン1は分配混合ゾーンであり、単一及び/又は複数のニーディングディスク、単一及び/又は複数の反時計回りスクリューを組み合わせた設計とした。
スクリュー3のゾーン1は分散混合ゾーンであり、スクリュー1よりも混練ゾーンが一つ多い設計とした。
各スクリュー構成のゾーン長/シリンダー内径比、及び空間体積率は表8に示すとおりである。
【0315】
<混合操作>
[実施例C1]
以下の手順でセルロース繊維乾燥体の調製、及びセルロース繊維乾燥体とポリマーとの混合を行って樹脂組成物を製造した。
【0316】
(セルロース繊維乾燥体の製造)
セルロース繊維ケーキ(固形分質量10%)に、セルロース固形分100質量部に対して43質量部となる量で分散剤を加え、よく撹拌し、分散剤を配合したセルロース繊維ケーキを得た。これらを原料として乾燥装置に投入し、所定のずり速度、減圧度、加熱温度(ジャケット温度又は熱風温度)にて乾燥を実施した。赤外加熱式水分計(MX-50(エー・アンド・デイ製))を用いて水分率を測定し、水分率が7質量%以下(固形分質量93%以上)になった時間を乾燥の終点とした。条件は以下のとおりである。
【0317】
プラネタリーミキサー(PM)
装置:株式会社小平製作所製プラネタリーミキサー(型番:ACM-5LVT:フック型)
条件:ジャケット温度60℃、307rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧した。品温が50℃に達するまで減圧乾燥を実施した。
クリアランスとしては、フック羽(径100mm)とジャケットとの間の最小距離を測定した。
本条件における乾燥時間は、180分であった。
乾燥温度は、ジャケットの表面温度を3点計測し、その平均値とした。
【0318】
(分散混合)
押出機に2kg/hでポリアミド6を、2.86kg/h(セルロースとして2kg/h)でセルロース繊維乾燥体を投入し、分散混合ゾーンにて加熱溶融混練することで、分散混合物を得た。
【0319】
(分配混合)
分散混合物4.86kg/hに、15.14kg/hでポリアミド6をサイドフィードにて加えた後、分配混合ゾーンにて加熱溶融混練することで、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物はペレタイザーにて、ペレットに加工した。押出特性として、押出加工の際、押出機運転開始から1時間以内にスクリーンメッシュが詰まった場合を運転安定性「不良」、詰まらなかった場合を運転安定性「良」とした。
【0320】
[実施例C2~C9、比較例C1]
樹脂組成物の組成及び押出機の設定条件を表9及び10に示すように変更した他は実施例C1と同様の手順で樹脂組成物を製造し、各種評価を行った。結果を表9及び10に示す。
【0321】
【0322】
【0323】
本開示の樹脂組成物の製造方法よって得られる樹脂組成物は、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両・船舶・航空宇宙関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材、容器・包装部材、等の広範な用途に好適に適用され得る。