(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025102271
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】制御装置、アクチュエータユニット及びロボット
(51)【国際特許分類】
F16H 19/02 20060101AFI20250701BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20250701BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20250701BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
F16H19/02 Z
F16H59/70
F16H61/02
B25J17/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219613
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【テーマコード(参考)】
3C707
3J062
3J552
【Fターム(参考)】
3C707BS12
3C707CX01
3C707CX03
3C707HT20
3C707LV01
3J062AA21
3J062AA27
3J062AA38
3J062AB15
3J062AB22
3J062AC03
3J062BA14
3J062CA12
3J062CA23
3J552MA07
3J552MA08
3J552MA09
3J552NB01
3J552NB05
3J552PA54
3J552RB02
3J552SA31
3J552SB04
3J552TB01
3J552VA32Z
3J552VA37Z
3J552VA74W
(57)【要約】
【課題】駆動アクチュエータが運転停止状態にあるとき、変速機による被駆動装置の回転抑制度合いの変動を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】原動機22と、原動機22から入力される回転を変速して被駆動装置12に出力する変速機24と、変速機24の実変速比を変更可能な変速アクチュエータ26とを備える駆動アクチュエータ14の動作を制御する動作制御部70を備え、動作制御部70は、駆動アクチュエータ14の運転を停止させようとする場合、変速アクチュエータ26によって、予め設定された設定変速比に前記実変速比を変更する変速比変更制御をする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、前記原動機から入力される回転を変速して被駆動装置に出力する変速機と、前記変速機の実変速比を変更可能な変速アクチュエータとを備える駆動アクチュエータの動作を制御する動作制御部を備え、
前記動作制御部は、前記駆動アクチュエータの運転を停止させようとする場合、前記変速アクチュエータによって、予め設定された設定変速比に前記実変速比を変更する変速比変更制御をする制御装置。
【請求項2】
前記動作制御部は、前記変速比変更制御において、前記設定変速比として設定され、前記被駆動装置の回転をロックするための変速比として予め定められたロック変速比に前記実変速比を変更する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記設定変速比を可変に設定する設定部を備える請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記被駆動装置の回転をロックするための変速比として予め定められたロック変速比と、前記被駆動装置の回転を許容するための変速比として予め定められた回転許容変速比とのいずれかを、前記設定変速比として設定可能である請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記被駆動装置の回転を許容するための変速比範囲として予め定められた回転許容変速比範囲内で段階的又は連続的に前記設定変速比を変更可能である請求項3に記載の制御装置。
【請求項6】
前記動作制御部は、前記駆動アクチュエータに電力を供給する主電源に異常が生じた場合、補助電源から供給される電力を用いて前記変速比変更制御をする請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の駆動アクチュエータと、
請求項1から6のいずれかに記載の制御装置とを備えるアクチュエータユニット。
【請求項8】
前記変速アクチュエータは、入力側から出力側への動力の伝達を許容し、出力側から入力側への動力の伝達を制限するセルフロック機能を備える請求項7に記載のアクチュエータユニット。
【請求項9】
第1関節部と、
前記第1関節部に組み込まれる請求項7に記載のアクチュエータユニットである第1アクチュエータユニットと、
第2関節部と、
前記第2関節部に組み込まれる請求項7に記載のアクチュエータユニットである第2アクチュエータユニットと、を備えるロボットであって、
前記第1アクチュエータユニット及び前記第2アクチュエータユニットのそれぞれの前記制御装置は、互いに独立して前記設定変速比を設定可能であるロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動アクチュエータに用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、原動機と、原動機から入力される回転を変速して被駆動装置に出力する変速機と備える駆動アクチュエータを開示している。特許文献1の変速機では、入力軸の回転数に対する出力軸の回転数の比である変速比が固定比となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速比が可変の変速機を用いた場合、駆動アクチュエータの運転中に変速比が様々に変わり得る。また、駆動アクチュエータの運転を停止した運転停止状態にあるとき、変速機により被駆動装置の回転を抑制される度合いは変速機の変速比によって変わる。このため、駆動アクチュエータの運転を停止する毎に、その運転を停止する直前に用いていた変速比に応じて、変速機による被駆動装置の回転抑制度合いが変動してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本開示の目的の1つは、駆動アクチュエータが運転停止状態にあるとき、変速機による被駆動装置の回転抑制度合いの変動を抑制できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の制御装置は、原動機と、前記原動機から入力される回転を変速して被駆動装置に出力する変速機と、前記変速機の実変速比を変更可能な変速アクチュエータとを備える駆動アクチュエータの動作を制御する動作制御部を備え、前記動作制御部は、前記駆動アクチュエータの運転を停止させようとする場合、前記変速アクチュエータによって、予め設定された設定変速比に前記実変速比を変更する変速比変更制御をする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、駆動アクチュエータが運転停止状態にあるとき、変速機による被駆動装置の回転抑制度合いの変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態のアクチュエータユニットのブロック図である。
【
図3】第1実施形態の変速アクチュエータの模式図である。
【
図4】第2実施形態のアクチュエータユニットの使用例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の駆動アクチュエータを実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
(第1実施形態)
図1を参照する。アクチュエータユニット10は、被駆動装置12を駆動するために用いられる。被駆動装置12は、例えば、搬送装置、位置決め装置等に用いられるボールねじ装置である。被駆動装置12は、アクチュエータユニット10によって回転駆動させられる回転駆動部12aを備える。回転駆動部12aは、例えば、ボールねじ装置に用いられるねじ軸である。被駆動装置12の具体例は特に限定されず、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)等の一部でもよい。
【0011】
アクチュエータユニット10は、被駆動装置12を駆動する駆動アクチュエータ14と、駆動アクチュエータ14の動作を制御する制御装置16と、を備える。駆動アクチュエータ14及び制御装置16は、外部の主電源18又は補助電源20から供給される電力を用いて動作する。主電源18は、例えば、商用電源である。補助電源20は、例えば、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power System)、出力保持時間延長モジュール等である。
【0012】
駆動アクチュエータ14は、原動機22と、原動機22から入力される回転を変速して被駆動装置12に出力する変速機24と、変速機24の変速比を変更可能な変速アクチュエータ26と、を備える。以下、被駆動装置12、原動機22の回転というとき、言及対象において回転している物体全体の回転をいうものとする。例えば、被駆動装置12の回転というとき、被駆動装置12において回転している物体(回転駆動部12a等)全体の回転をいい、原動機22の回転というとき、原動機22において回転している物体(原動軸等)全体の回転をいう。
【0013】
原動機22は、自身の内部で発生させたトルクにより原動軸(不図示)を回転させたうえで、その回転を原動軸から変速機24に出力可能である。本実施形態の原動機22は、電気エネルギーを用いて原動軸を回転させるモータ(電動機)である。モータは、ステータ及びロータが協働して発生させたトルクにより原動軸を回転させることができる。原動機22の具体例は特に限定されず、例えば、熱エネルギーを用いて原動軸を回転させるエンジン等でもよい。
【0014】
変速アクチュエータ26は、変速機24に動力を入力することで、変速機24の変速比を変更可能である。本実施形態の変速アクチュエータ26はリニアアクチュエータであり、変速機24の軸方向に沿った動力を変速機24に入力する。変速アクチュエータ26は、変速機24の変速比を変更できれば、その具体的な種類は特に限定されず、ロータリーアクチュエータ等でもよい。
【0015】
図2を参照する。変速機24は、原動機22から回転が入力される入力軸40と、入力軸40に入力された回転を変速したうえで出力軸44に伝達する変速機構42と、変速機構42から伝達された回転を被駆動装置に出力する出力軸44と、変速機構42の変速比を変更する変速比変更機構46と、を備える。
【0016】
本実施形態の変速機24は、変速アクチュエータ26によって、変速比変更機構46を用いて実際の変速比である実変速比を無段階(連続的)に変更可能である。ここでの変速比は、入力軸40の回転数である入力回転数に対する出力軸44の回転数である出力回転数の比(=出力回転数/入力回転数)を意味する。本実施形態の変速機24は、変速比無限大無段変速機(Infinitely Variable Transmission,IVT)であり、実変速比の可変範囲にゼロ(=1/∞)を含むように構成される。ここでは、このような変速機24の一例を説明するが、その具体例は特に限定されない。例えば、変速機24はトロイダル式無段変速機等でもよい。また、変速機24は、可変範囲にゼロを含まずともよい。この場合、無段変速機は、例えば、ベルト式無段変速機、チェーン式無段変速機等でもよい。また、変速機24は、変速比を連続的に変更可能な無段変速機に替えて、変速比を段階的に変更可能な変速機であってもよい。
【0017】
入力軸40は、原動機22から回転が入力される入力部材40aと、入力部材40aに連結されるシャフト40bと、シャフト40bに固定されるスリーブ40cと、を備える。入力軸40は、原動機22から変速機構42に回転を伝達できれば、その具体的な構造は特に限定されない。ここでの入力軸40は、複数部材により構成される例を示すが、単数部材により構成されてもよいし、その部材数も特に限定されない。
【0018】
変速機構42は、入力軸40に一体回転可能に設けられる入力軌道輪50と、入力軸40に回転可能に支持される第1支持軌道輪52と、変速機24のケーシング54内に軸方向に移動可能に設けられる第2支持軌道輪56と、出力軸44に一体回転可能に設けられる出力軌道輪58と、各軌道輪50、52、56、58を転動する複数の遊星転動体60と、を備える。複数の遊星転動体60は、不図示の押付力付与機構により第2支持軌道輪56から付与される押付力により出力軌道輪58に押し付けられる。
【0019】
入力軌道輪50が回転すると、遊星転動体60が自転軸L60周りに自転しながら入力軸40の回転軸線L40(公転軸)周りに公転する。遊星転動体60が公転すると、それに追従して出力軌道輪58が回転軸線L40周りに回転する。このとき、理想的には、出力軌道輪58は、入力軸40の入力回転数に変速比を乗じた出力回転数で回転する。この変速比は、回転軸線L40に対する自転軸L60の傾斜角度に応じて定まり、変速比変更機構46により変更される。
【0020】
出力軸44は、出力軌道輪58と、出力軌道輪58と一体回転に連結され被駆動装置12に回転を出力する出力部材44aと、を備える。出力軸44は、変速機構42から被駆動装置12に回転を伝達できれば、その具体的な構造は特に限定されない。ここでの出力軸44は、複数部材により構成される例を示すが、単数部材により構成されてもよいし、その部材数も特に限定されない。
【0021】
本実施形態の変速比変更機構46は、入力軌道輪50の位置を変更することで変速比を変更可能である。変速比変更機構46は、変速アクチュエータ26から出力される動力により軸方向移動可能なシャフト46aと、シャフト40bと一体的に軸方向移動可能なリング部材46bと、を備える。リング部材46bは、軸受46cを介して入力軸40を回転自在に支持しており、止め輪等により入力軸40と一体的に軸方向移動可能である。変速比変更機構46の具体例は特に限定されず、変速機24に採用される同様の各種機構を採用してもよい。
【0022】
変速アクチュエータ26から軸方向の動力がシャフト46aに入力されると、リング部材46bとともに入力軸40(入力軌道輪50及び第1支持軌道輪52を含む)が一体的に軸方向に移動する。第2支持軌道輪56及び出力軌道輪58に対して入力軌道輪50及び第1支持軌道輪52が軸方向に移動することで、遊星転動体60の自転軸L60の回転軸線L40に対する傾斜角度が変更され、その傾斜角度に応じた変速比に変更される。この変速比は、自転軸L60が回転軸線L40と平行となるときにゼロ(=1/∞)となり、回転軸線L40に対する自転軸L60の傾斜角度が大きくなるほど連続的に大きくなる。つまり、実変速比を無段階(連続的)に変更可能であり、その可変範囲にゼロを含むように構成される。
【0023】
図1に戻る。制御装置16は、ハードウェア要素とソフトウェア要素の組み合わせ、又は、ハードウェア要素のみにより構成される。ハードウェア要素は、例えば、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)が利用される。ソフトウェア要素は、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムが利用される。原動機22の制御に用いられる部分と変速アクチュエータ26の制御に用いられる部分とは、共通のハードウェア要素又はソフトウェア要素により実現されてもよいし、別々のハードウェア要素又はソフトウェア要素により実現されてもよい。制御装置16は、駆動アクチュエータ14に取り付けられ、その駆動アクチュエータ14と一体に取り扱い可能である。
【0024】
制御装置16は、駆動アクチュエータ14の動作を制御する動作制御部70と、動作制御部70による制御に用いられる設定変速比(後述する)を可変に設定する設定部72と、動作制御部70による制御に用いられるデータを記憶する記憶部74と、を備える。動作制御部70は、原動機22の動作を制御することで、原動機22により発生させるトルクを変更可能である。動作制御部70は、変速アクチュエータ26の動作を制御することで、変速機24の変速比を変更可能である。
【0025】
動作制御部70は、予め定められる運転停止条件(後述する)を満たした場合、駆動アクチュエータ14の制御により駆動アクチュエータ14の運転を停止させる運転停止制御をする。この運転停止制御は、駆動アクチュエータ14の運転を停止させようとする場合に行われることになる。ここでの「駆動アクチュエータ14の運転を停止させる」とは、駆動アクチュエータ14の各動力伝達要素の動作を停止させることをいう。ここでの動力伝達要素とは、原動機22が発生させたトルク(動力)の被駆動装置12への伝達に用いられる要素をいい、原動機22の原動軸、変速機24の入力軸40、変速機構42、出力軸44等をいう。
【0026】
この運転停止制御は、例えば、原動機22によって、駆動アクチュエータ14の各動力伝達要素を制動するための制動トルクを発生させることで行われてもよい。この場合、原動機22として回生ブレーキを発生させることのできる電動機を用いる場合、その原動機22によって制動トルクを発生させつつ回生エネルギーを発生させてもよい。この他にも、この運転停止制御は、駆動アクチュエータ14がブレーキ装置を備える場合、ブレーキ装置によって制動トルクを発生させることで行われてもよい。この他にも、この運転停止制御は、原動機22、ブレーキ装置によって制動トルクを発生させずに、駆動アクチュエータ14の各動力伝達要素の動作が自然に停止するまで待機することで行われてもよい。
【0027】
動作制御部70は、この運転停止制御により駆動アクチュエータ14の運転を停止させようとする場合、変速アクチュエータ26において、予め設定された設定変速比に変速機24の実変速比を変更する変速比変更制御をする。動作制御部70は、この変速比変更制御において、設定部72により予め設定された設定変速比に実変速比を変更する。このとき、動作制御部70は、設定部72により記憶部74に格納された設定変速比を読み出し、その読み出した設定変速比に実変速比を変更する。
【0028】
動作制御部70は、この変速比変更制御において、変速機24の動作中、詳しくは、変速機24の少なくとも入力軸40及び変速機構42の動作中に変速機24の実変速比を変更する。変速比変更制御による変速機24の実変速比の変更が完了してから、運転停止制御により駆動アクチュエータ14の各動力伝達要素の動作が停止することになる。これは、変速機24の入力軸40及び変速機構42の動作中でなければ、変速アクチュエータ26により変速機24の実変速比をスムーズに変更できないためである。このように変速機24が動作中に変速比変更制御をするうえでは、不図示の回転検出器により変速機24の入力軸40又は原動機22が回転していることを検出している間に変速比変更制御をすればよい。
【0029】
動作制御部70は、駆動アクチュエータ14の各動力伝達要素の動作が停止したところ、つまり、駆動アクチュエータ14の運転が停止したところで、運転停止制御を完了する。この駆動アクチュエータ14の運転が停止したことは、不図示の回転検出器により駆動アクチュエータ14の各動力伝達要素の回転停止を検出することで把握してもよい。動作制御部70は、駆動アクチュエータ14が運転停止状態になったら、駆動アクチュエータ14に用いられる各電気機械(原動機22、変速アクチュエータ26等)に対する電力の供給を停止してもよい。これにより、各電気機械が通電されていない非通電状態となる。
【0030】
設定部72により設定される設定変速比を説明するにあたって、その前提となる考え方を説明する。変速機24は、零又は零に非常に近い値を実変速比とした場合、被駆動装置12とともに変速機24の出力側(出力軸44)の回転をロックするロック状態(セルフロック状態)となる。このロック状態は、変速機24を出力側から回転させることが困難となる状態、つまり、被駆動装置12(被駆動装置12の回転駆動部12a)を回転させることが困難となる状態をいう。このとき、変速機24の入力側(入力軸40)を回転させることはできるが、実変速比が非常に小さいため、変速機24の出力側は全く又はほとんど回転させることができない。これに対して、変速機24の実変速比を零から離して設定した場合、被駆動装置12とともに変速機24の出力側の回転が許容される回転許容状態となる。
【0031】
設定部72は、前述した変速比変更制御に用いられる設定変速比を可変に設定する。設定変速比は変更可能な可変値として設定されることになる。設定部72は、設定変速比を設定すると、その設定した設定変速比を記憶部74に格納する。設定部72は、設定変速比として、被駆動装置12の回転をロックするための変速機24の変速比として予め定められたロック変速比と、被駆動装置12の回転を許容するための変速比として予め定められた回転許容変速比とのいずれかを設定可能である。このロック変速比は、被駆動装置12の回転をロックすることで前述のロック状態にするための変速比として予め定められたものをいう。また、ここでの回転許容変速比は、被駆動装置12の回転を許容することで前述の回転許容状態にするための変速比として予め定められたものをいう。例えば、ロック変速比は、零(=1/∞)から1/数千の変速比範囲内で定められ、回転許容変速比は、1/200~1/数十の変速比範囲内で定められる。ここで挙げた各変速比範囲は一例に過ぎず、これ以外の変速比範囲内で設定されてもよい。
【0032】
設定部72は、ユーザ又は外部コントローラからの指令に従って設定変速比を設定してもよい。ここでの外部コントローラとは、例えば、複数の駆動アクチュエータ14の動作を統括的に制御する上位コントローラをいう。ユーザからの指定に従って設定変速比を設定するにあたり、駆動アクチュエータ14は、ユーザの操作によりユーザが指定した指定変速比をユーザの指令として制御装置16に出力する第1操作部を備えてもよい。この場合、設定部72は、第1操作部から出力された指定変速比を設定変速比として設定すればよい。第1操作部は、例えば、制御盤に設けられるスイッチ等の他、タッチパネル等の情報処理端末により構成される。
【0033】
設定部72は、前述した被駆動装置12の回転を許容するための変速比範囲として予め定められた回転許容変速比範囲内で連続的又は段階的に設定変速比を変更できてもよい。本実施形態の設定部72は、ロック変速比に設定変速比を設定できるし、複数の回転許容変速比のうちのいずれかに設定変速比を設定できることになる。この回転許容変速比範囲は、例えば、前述した1/200~1/数十の変速比範囲でもよい。
【0034】
動作制御部70は、設定部72によりロック変速比が設定変速比として設定された場合、変速比変更制御において、そのロック変速比に変速機24の実変速比を変更する。これにより、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるとき、被駆動装置12の回転がロックされるロック状態になることができる。この場合、動作制御部70は、駆動アクチュエータ14の運転を開始してから被駆動装置12の駆動を開始する前に、変速アクチュエータ26によりロック変速比から回転許容変速比に変速機24の実変速比を変更すればよい。
【0035】
動作制御部70は、設定部72により回転許容変速比が設定変速比として設定された場合、変速比変更制御において、その回転許容変速比に変速機24の実変速比を変更する。これにより、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるとき、被駆動装置12の回転が許容される回転許容状態になることができる。
【0036】
以上の制御装置16の効果を説明する。制御装置16の動作制御部70は、駆動アクチュエータ14の運転を停止しようとするときに、変速アクチュエータ26によって変速機24の実変速比を設定変速比に変更する変速比変更制御をする。よって、駆動アクチュエータ14の運転を停止する直前に用いていた実変速比によらず、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるときの実変速比を設定変速比にすることができる。このため、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるとき、変速機24による被駆動装置12の回転抑制度合いの変動を抑制することができる。
【0037】
仮に、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるとき、被駆動装置12の回転をロックするうえで、無励磁作動型ブレーキにより駆動アクチュエータ14の動力伝達要素を制動する場合を検討する。この場合、無励磁作動型ブレーキによる制動を解除するうえで、無励磁作動型ブレーキに対する電力の常時供給を要してしまい、エネルギー消費量、発熱量の増大を招くという問題がある。この点、本実施形態の動作制御部70は、変速比変更制御により変速機24の実変速比をロック変速比に変更することができる。よって、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるとき、変速比変更制御により変速機24の実変速比をロック変速比に事前に変更しておくことで、変速機24により被駆動装置12の回転をロックすることができる。また、変速機24によるロックを解除するうえで、変速アクチュエータ26により変速機24の実変速比を変更するだけでよく、無励磁作動形ブレーキを用いる場合のように電力の常時供給を要しない。よって、エネルギー消費量、発熱量の増大という問題を有利に解決しつつ、運転停止状態にあるときに被駆動装置12の回転をロックできるようになる。
【0038】
制御装置16は、設定変速比を可変に設定する設定部72を備える。よって、設定部72により設定される設定変速比を変更することで、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるときの、変速機24による被駆動装置12の回転抑制度合いを調整できるようになる。これにより、所要の被駆動装置12の回転抑制度合いに応じて実際の回転抑制度合いを調整することで、駆動アクチュエータ14の運用の柔軟性を高めることができる。
【0039】
設定部72は、設定変速比として、被駆動装置12の回転をロックするためのロック変速比と、その回転を許容するための回転許容変速比とのいずれかを選択的に設定可能である。よって、設定変速比としてロック変速比と回転許容変速比とのいずれかを設定することで、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるとき、被駆動装置12の状態として、ロック状態と回転許容状態とのいずれかを選択することができる。これにより、駆動アクチュエータ14の運用の柔軟性を更に高めることができる。
【0040】
仮に、被駆動装置12の状態としてロック状態と回転許容状態とのいずれかを選択できるようにするうえで、ハードウェアの変更によって実現する手段も考えられる。ここでのハードウェアの変更とは、駆動アクチュエータ14に対する電磁ブレーキの組み込みの有無を切り替えることをいう。この点、本実施形態によれば、ハードウェアの変更を伴うことなく、設定変速比を変更するだけで、被駆動装置12の状態として、ロック状態と回転許容状態とのいずれかを選択できる利点がある。
【0041】
設定部72は、被駆動装置12の回転が許容される変速比範囲として予め定められた回転許容変速比範囲内で段階的又は連続的に設定変速比を変更可能である。これにより、駆動アクチュエータ14が運転停止状態にあるとき、被駆動装置12の回転を許容しつつ、変速機24による被駆動装置の回転抑制度合いを調整できるようになる。ひいては、駆動アクチュエータの運用の柔軟性を更に高めることができる。
【0042】
次に、前述した運転停止条件を説明する。運転停止条件は、例えば、(1)ユーザ又は外部コントローラから運転停止指令を受けること、(2)主電源18に異常が生じること、等である。
【0043】
(1)のユーザから運転停止指令を受けるにあたって、駆動アクチュエータ14は、ユーザの操作に従って運転停止指令を制御装置16に出力するための第2操作部を備えていてもよい。この第2操作部は、例えば、制御盤に設けられるスイッチ等の他、タッチパネル等の情報処理端末により構成される。このスイッチは、駆動アクチュエータ14に対する電力供給の有無を切り替える電力スイッチでもよい。この場合、第2操作部は、電力供給を停止するためのオフ操作により運転停止指令を制御装置16に出力してもよい。(1)の条件を満たしたとき、動作制御部70は、前述した運転停止制御及び変速比変更制御をするにあたり、主電源18から供給される電力を用いて駆動アクチュエータ14に用いられる各電気機械(原動機22、変速アクチュエータ26等)を動作させてもよい。この他にも、これに替えて、動作制御部70は、補助電源20から供給される電力を用いて各電気機械を動作させてもよい。
【0044】
(2)を説明する。駆動アクチュエータ14の外部には主電源18の異常を検出する異常検出器80が設けられる。異常検出器80は、主電源18の異常を検出したとき、そのことを示す異常検出信号を制御装置16に出力する。ここでの異常とは、主電源18の停電、主電源18から供給される電力の異常な電圧低下、異常な電圧上昇等のような、主電源18から駆動アクチュエータ14に対する電力供給に関する異常をいう。異常検出器80は、公知方法を含む各種検出方法を用いて主電源18の異常を検出してもよい。例えば、主電源18から供給される電力の電圧値が予め定められた許容値以上になった場合に、異常な電圧上昇による主電源18の異常があると検出してもよい。
【0045】
制御装置16の動作制御部70は、異常検出器80から異常検出信号を取得していない場合、つまり、主電源18に異常が生じていない場合、主電源18から供給される電力を用いて駆動アクチュエータ14を運転させる。このとき、主電源18から供給される電力を用いて、駆動アクチュエータ14に用いられる各電気機械(原動機22、変速アクチュエータ26等)を動作させることで駆動アクチュエータ14を運転させる。対して、動作制御部70は、駆動アクチュエータ14の運転中、異常検出器80から出力される異常検出信号を取得した場合、補助電源20から供給される電力を用いて、前述した運転停止制御及び変速比変更制御をする。このとき、補助電源20から供給される電力を用いて、各電気機械を動作させることで運転停止制御等をする。駆動アクチュエータ14の運転中に異常検出信号を取得した場合、駆動アクチュエータ14に用いられる電源を主電源18から補助電源20に切り替えることになる。これにより、主電源18に異常が生じた場合でも、制御装置16の動作制御部70によって、補助電源20から供給される電力を用いて変速比変更制御をしてから、駆動アクチュエータ14が運転停止状態に移行できるようになる。
【0046】
次に、変速アクチュエータ26の特徴を説明する。
図3を参照する。変速アクチュエータ26は、動力を発生させる動力源26aと、動力源26aの発生させた動力を伝達する伝動機構26bと、伝動機構26bから伝達される動力を変速機24に出力する出力部26cと、を備える。変速機24の実変速比は、出力部26cから出力される動力が変速機24の変速比変更機構46に入力されることで、変速比変更機構46により変更される。
【0047】
本実施形態の動力源26aは回転動力を発生させるモータである。本実施形態の伝動機構26bは送りねじ機構であり、動力源26aにより回転させられるねじ軸26dと、ねじ軸26dの回転に伴い直動可能なボールナット26eと、を備える。ねじ軸26dの外周面には螺旋状の第1ねじ溝(不図示)が形成され、ボールナット26eの内周面には螺旋状の第2ねじ溝(不図示)が形成され、第1、第2ねじ溝により囲まれる螺旋状空間にはボールが配置される。本実施形態の出力部26cは、伝動機構26bのボールナット26eと一体に直動可能な移動体である。
【0048】
伝動機構26bは、入力側(動力源26a)から出力側(出力部26c)への動力の伝達を許容し、出力側から入力側への動力の伝達を制限するセルフロック機能を備える。これを実現するうえで、伝動機構26bが構成する送りねじ機構は、動力源26aが回転動力を発生させているとき、ボールの転動を伴うねじ軸26dの回転によって、その回転動力をボールナット26eの直線動力に変換し、その変換した直線動力を出力部26cに伝達する。これにより、入力側から出力側への動力の伝達が許容される。これに対して、出力部26cから直線動力がボールナット26eに伝達されたとき、ボールナット26e及びねじ軸26dのねじ溝と螺旋状空間内のボールとの接触によって、その直線動力によるねじ軸26dの動きを制限し、その直線動力の動力源26aへの伝達を制限する。これにより、セルフロック機能により出力側から入力側への動力の伝達が制限される。このセルフロック機能は、変速アクチュエータ26に電力が供給されていない非通電状態にあるときにも実現される。
【0049】
このセルフロック機能によって、変速機24の実変速比を変更する場合には、動力源26aにより電力を消費して生成した動力を入力側から出力側に伝達することができ、それにより実変速比を変更できる。また、駆動アクチュエータ14の運転時、変速機24の実変速比を変えようとする力が働き、それにより変速アクチュエータ26に出力側から入力側へ動力が伝達しようとする場合がある。この場合に、変速アクチュエータのセルフロック機能により出力側から入力側への動力の伝達が制限されることで、変速アクチュエータ26に電力を供給していなくとも、変速機24の実変速比を維持することができる。よって、変速機24の実変速比を維持するために変速アクチュエータ26への電力供給を常に要する場合と比べ、変速アクチュエータ26のエネルギー消費量、発熱量を低減でき、省エネルギー性を向上させることができる。
【0050】
セルフロック機能を持つ伝動機構26bを実現するための具体的な構成は特に限定されない。例えば、このようなセルフロック機能を持つことが知られるウォームとウォームホイールの組み合わせを用いてもよい。また、変速アクチュエータ26は、セルフロック機能を持つ伝動機構26bを備えていなくともよい。この場合、変速アクチュエータ26は、例えば、送りねじ機構を用いずに、電磁ソレノイド等を用いて構成されていてもよい。
【0051】
(第2実施形態)次に、アクチュエータユニットの他の使用例を説明する。
図4を参照する。ここでは、アクチュエータユニットがロボット90に用いられる例を示す。本実施形態のロボット90は、人と協働して作業するための協働ロボットであるが、その具体例は特に限定されず、各種産業用ロボット、サービスロボットであってもよい。
【0052】
本実施形態のロボット90は、関節数を6個とする多関節ロボットである。この関節数は特に限定されず、2個~5個、7個以上の何れでもよい。ロボット90は、複数の関節部92A~92Fと、複数の関節部92A~92Fにより直列に連結される複数のロボット部材94A~94Gとを備える。ロボット90において最も基端側のロボット部材94Aは、ベース部材となり、それより先端側のロボット部材94B~94Gはアーム部材となる。最も先端側のロボット部材94G(アーム部材)にはグリッパ等のアタッチメント96が着脱可能に搭載される。
【0053】
ロボット90は、各関節部92A~92Fに組み込まれ、その関節部92A~92Fを駆動するアクチュエータユニット10A~10Fを備える。ここでの「関節部を駆動」とは、関節部92A~92Fにより連結された基端側のアーム部材に対して先端側のアーム部材を回転(相対位置を変化)させることをいう。この場合、前述した被駆動装置12は、関節部92A~92Fにより連結された先端側のアーム部材となる。本実施形態では、第1関節部92A、第2関節部92B、・・・第6関節部92Fがあり、それらに組み込まれる第1アクチュエータユニット10A、第2アクチュエータユニット10B・・・第6アクチュエータユニット10Fが存在する。ここでは、最も基端側と先端側の第1関節部92A、第6関節部92Fが鉛直方向軸周りに回転可能であり、それ以外の関節部92B~92Eが水平方向軸周りに回転可能である。
【0054】
各アクチュエータユニット10A~10Fは、第1実施形態のアクチュエータユニットと同様の構成である。各アクチュエータユニット10A~10Fそれぞれの制御装置16の設定部72は、互いに独立して設定変速比を設定可能である。例えば、第1アクチュエータユニット10Aの制御装置16は、設定変速比としてロック変速比を設定でき、第2アクチュエータユニット10Bの制御装置16は、設定変速比として回転許容変速比を設定できるということである。
【0055】
これにより、ロボット90に用いられる各アクチュエータユニット10A~10Fが運転停止状態にあるとき、各関節部92A~92Fに用いられるアクチュエータユニット10A~10F毎に設定される設定変速比を変更することで、各関節部92A~92F毎の回転抑制度合いを変更できるようになる。よって、全ての関節部92A~92F毎に回転抑制度合いが同じとなる場合と比べ、ロボット90の運用の柔軟性を高めることができる。例えば、鉛直方向軸周りに回転できる関節部92A、92Fに用いられるアクチュエータユニット10A、10Fだけロック変速比に設定し、それ以外の関節部92B~92Eに用いられるアクチュエータユニット10B~10Eでは回転許容変速比に設定した場合を考える。この場合、ロボット90の関節部92A、92Fの鉛直方向軸周りで旋回する事態を回避しつつ、他の関節部92B~92Eでの位置調整を許容できる。また、ロボット90の水平方向軸周りに回転できる関節部92B~92Eに用いられるアクチュエータユニット10をロック変速比に設定した場合、その水平方向軸周りに自重により回転することによる垂れ下がりを抑制できる利点もある。
【0056】
なお、協働ロボットは、製造業での単純作業が中心だった産業用ロボットと比べ、食品、物流、外食といった各種産業で幅広い用途で使われる。このため、人の近くでの作業になる場合が多く、単純作業に用いられる産業用ロボットと比べ、運用の柔軟性に対する要求が高くなる。このような協働ロボットに用いられる場合に、前述のように運用の柔軟性を高めることができる点で有利となる。
【0057】
以上の実施形態の変形形態を説明する。制御装置16の設定部72は、設定変速比を可変に設定できなくともよい。この場合、設定変速比は、変更不能な固定値として設定されることになる。ここまで、設定部72は、設定変速比を可変に設定するうえで、ロック変速比と回転許容変速比とのいずれかを設定変速比として設定可能である例を説明した。この他にも、設定部72は、設定変速比を可変に設定するうえで、設定変速比としてロック変速比を設定できる構成とせず、回転許容変速比範囲内でのみ段階的又は連続的に設定変速比を設定可能であってもよい。
【0058】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。また、本開示の構成要素及び表現のいずれかを、方法、装置、システム等の間で相互に置換したものも、本開示の態様として有効である。
【符号の説明】
【0059】
10…アクチュエータユニット、10A…第1アクチュエータユニット、10B…第2アクチュエータユニット、12…被駆動装置、14…駆動アクチュエータ、16…制御装置、18…主電源、20…補助電源、22…原動機、24…変速機、26…変速アクチュエータ、70…動作制御部、72…設定部、90…ロボット、92A…第1関節部、92B…第2関節部。