(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025102393
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】膜電極接合体の製造方法、膜電極接合体、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20250701BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20250701BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20250701BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20250701BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250701BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/02
H01M4/90 M
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219819
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友隆
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB08
5H018BB16
5H018EE17
5H126AA02
5H126BB06
5H126HH04
5H126HH10
(57)【要約】
【課題】低コストで、かつ、実用上十分な性能を有する燃料電池を提供する。
【解決手段】複合体3を含むインクを用いる、膜電極接合体1の製造方法である。
前記複合体3は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合した高分子7と、金属触媒9が担持された導電体11と、が複合しており、前記複合体3を含む前記インクを、プラズマ処理後の電解質膜15に塗工する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体を含むインクを用いる、膜電極接合体の製造方法であって、
前記複合体は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合した高分子と、金属触媒が担持された導電体と、が複合しており、
前記複合体を含む前記インクを、プラズマ処理後の電解質膜に塗工する、膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
電解質膜と、
前記電解質膜上に形成された触媒層と、を備えた膜電極接合体であって、
前記触媒層には、複合体が含まれ、
前記複合体は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合した高分子と、金属触媒が担持された導電体と、が複合している、膜電極接合体。
【請求項3】
請求項2に記載の膜電極接合体を備える、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体の製造方法、膜電極接合体、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(固体高分子形燃料電池)のアイオノマー(高分子電解質)としてパーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマー(ナフィオン(登録商標))が知られている。ナフィオンは、その合成原料が高い。また、ナフィオンは、複雑な製造工程を経る。よって、ナフィオンは、非常に高価という問題点がある。
そこで、これまでに新たな高分子電解質が種々検討されている。例えば特許文献1では、ポリフェニレンエーテルを主鎖とする炭化水素系高分子電解質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、低コストで、かつ、実用上十分な性能を有する燃料電池を得ることは困難であった。
本開示は、低コストで、かつ、実用上十分な性能を有する燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の手段を以下に示す。
複合体を含むインクを用いる、膜電極接合体の製造方法であって、
前記複合体は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合した高分子と、金属触媒が担持された導電体と、が複合しており、
前記複合体を含む前記インクを、プラズマ処理後の電解質膜に塗工する、膜電極接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、低コストで、かつ、実用上十分な性能を有する燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】燃料電池(固体高分子形燃料電池)の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の他の例を示す。
[1]
複合体を含むインクを用いる、膜電極接合体の製造方法であって、
前記複合体は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合した高分子と、金属触媒が担持された導電体と、が複合しており、
前記複合体を含む前記インクを、プラズマ処理後の電解質膜に塗工する、膜電極接合体の製造方法。
[2]
電解質膜と、
前記電解質膜上に形成された触媒層と、を備えた膜電極接合体であって、
前記触媒層には、複合体が含まれ、
前記複合体は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合した高分子と、金属触媒が担持された導電体と、が複合している、膜電極接合体。
[3]
[2]に記載の膜電極接合体を備える、燃料電池。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。また、本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0010】
1.膜電極接合体1の製造方法、及び膜電極接合体1
(1)膜電極接合体1の製造方法
本開示の膜電極接合体1の製造方法は、複合体3を含むインクを用いる。
複合体3は、後述する高分子7と、金属触媒9が担持された導電体11と、が複合している。高分子7は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合したものである。本開示の膜電極接合体1の製造方法では、複合体3を含むインクを、電解質膜15に塗工する。本開示の製造方法は、特性に優れたカソード触媒層17Bを形成する際に特に有効である。但し、本開示の製造方法は、アノード触媒層17Aを形成する際にも使用できる。
【0011】
(2)膜電極接合体1
膜電極接合体1は、電解質膜15と、電解質膜15上に形成された触媒層17と、を備える。触媒層17には、複合体3が含まれる。複合体3は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合した高分子7と、金属触媒9が担持された導電体11と、が複合している。膜電極接合体1は、通常、電解質膜15の一方の面に形成されたアノード触媒層17Aと、電解質膜15の他方の面に形成されたカソード触媒層17Bと、を備える。膜電極接合体1は、MEA(Membrane Electrode Assembly)と称されている。
【0012】
(3)電解質膜15
電解質膜15は、特に限定されない。電解質膜15を構成する電解質は、イオン伝導性の高分子電解質が好ましい。電解質は、例えば、フッ素系高分子電解質、及び炭化水素系高分子電解質からなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましく、フッ素系高分子電解質を含有することがより好ましい。
フッ素系高分子電解質を構成する樹脂は、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン-g-スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド-パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。フッ素系高分子電解質は、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が特に好ましく用いられる。
【0013】
炭化水素系電解質は、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン(S-PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S-PP)などが挙げられる。
【0014】
(4)複合体3
複合体3は、後述する高分子7と、金属触媒9が担持された導電体11と、が複合してなる。
(4.1)高分子7
高分子7は、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B、及び開始剤を用いて重合したものである。
高分子7は、プロトン伝導性を有する電解質である。高分子7を構成する重合体は特に限定されない。
高分子7は、重合性基を有する化合物Aに由来する繰り返し単位と、イオン性モノマーに由来する繰り返し単位と、複数の重合性基を有する化合物Bに由来する繰り返し単位と、を含有する。
本明細書において、「重合性基を有する化合物A」とは、単一の重合性基を有する化合物のことを指し、後述する「複数の重合性基を有する化合物B(架橋性モノマー)」を除外する概念である。
重合性基を有する化合物Aとしては、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等が挙げられる。コストの観点から、スチレンが好ましい。重合性基を有する化合物Aは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
イオン性モノマーとしては、例えば、スルホン酸ナトリウム基を有するビニルモノマー、アミノ基を有するビニルモノマー等が挙げられる。スルホン酸ナトリウム基を有するビニルモノマーとしては、例えば、4-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートナトリウム、β-スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。コストの観点から、4-スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。イオン性モノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
複数の重合性基を有する化合物Bは、架橋性モノマーとして機能する。複数の重合性基を有する化合物Bとしては、例えばジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等が挙げられる。コストの観点から、ジビニルベンゼンが好ましい。複数の重合性基を有する化合物Bは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
高分子7中に含まれる各繰り返し単位の含有割合は特に限定されない。
尚、重合性基を有する化合物A、複数の重合性基を有する化合物Bの質量割合は特に限定されないが、化合物A及び化合物Bの全体を100質量部とした場合に、次の割合が好ましい。
化合物A:10質量部以上100質量部以下
化合物B:0質量部以上90質量部以下
【0015】
(4.2)金属触媒9
金属触媒9(触媒粒子)としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、金、銀、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、インジウム、カドミウム、亜鉛、タングステン、タンタル、銅、コバルト、ニッケル、クロム、鉄、バナジウム、マンガン、イットリウム、テクネチウム、ガリウム、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、レニウム、アルミニウム、チタン等の金属又はこれらの合金等が使用できる。触媒の粒径は、特に限定されない。触媒の粒径は、触媒の活性の向上、触媒の安定性の観点から、0.3nm以上30nm以下が好ましく、0.5nm以上10nm以下がより好ましい。触媒が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含むと、電極反応性に優れ、電極反応を効率よく安定して行うことができる。
触媒の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、触媒(黒い円形の像)を球形とみなして、触媒の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
【0016】
(4.3)導電体11
導電体11は、金属触媒9を担持する電子伝導性の物質(触媒担持粒子)である。導電体11は、特に限定されない。導電体11として、カーボン粒子が好ましく用いられる。カーボン粒子の種類は、限定されない。カーボン粒子として、カーボンブラック、グラフェン、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等が好適に用いられる。カーボン粒子の粒径は、特に限定されない。カーボン粒子の粒径は、良好な電子伝導パスの形成の観点、触媒層のガス拡散性確保の観点から、10nm以上1000nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
導電体11の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により導電体11を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、導電体11を球形とみなして、導電体11の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
【0017】
(4.4)複合体3の構造
複合体3の構造は、特に限定されない。複合体3において、金属触媒9が担持された導電体11は、高分子7によって被覆された被覆部21と、高分子7によって被覆されていない非被覆部23と、が存在していることが好ましい。被覆部21では、金属触媒9が高分子7に覆われている。他方、非被覆部23では、金属触媒9が高分子7に覆われていない。非被覆部23では、金属触媒9が高分子7に覆われていないから、ガスの拡散がよい。また、非被覆部23では、金属触媒9が高分子7に覆われていないから、触媒被毒が小さい。
【0018】
(4.5)複合体3の製造方法
複合体3の製造方法は、特に限定されない。以下、好ましい製造方法を記載する。この製造方法を用いると、高性能な複合体3が得られる。
好ましい製造方法では、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群と、開始剤とを用いて溶媒中で重合反応を開始する。
重合反応の開始後、モノマー群の少なくとも1種が残留している溶媒中に、金属触媒9が担持された導電体11を投入し、重合反応を更に進める。この製造方法によって、金属触媒9が担持された導電体11に、高分子7によって被覆された被覆部21と、高分子7によって被覆されていない非被覆部23と、を形成できる。
【0019】
(4.5.1)モノマー群
モノマー群には、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bが含まれる。「重合性基を有する化合物A」、「イオン性モノマー」、「複数の重合性基を有する化合物B」については、「(4.1)高分子7」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。すなわち、「(4.1)高分子7」の項目で説明した「重合性基を有する化合物A」、「イオン性モノマー」、「複数の重合性基を有する化合物B」をそのまま適用する。
各モノマー(重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B)の使用量は、使用するモノマーの種類、使用する開始剤の種類、開始剤の量、重合温度、重合濃度等の重合条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0020】
(4.5.2)開始剤(重合開始剤)
開始剤は、ラジカル、アニオン又はカチオンを発生する等して重合開始可能なものであれば特に限定されない。開始剤として、例えば、過酸化物、アゾ化合物が好適に例示される。開始剤は、重合温度、溶媒、モノマーの種類等に応じて、適宜選択できる。
開始剤のうち過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ペルオキシ酢酸t-ブチル、ペルオキシ安息香酸t-ブチル、ペルオキシオクタン酸t-ブチル、ペルオキシネオデカン酸t-ブチル、ペルオキシイソ酪酸t-ブチル、過酸化ラウロイル、ペルオキシピバリン酸t-アミル、ペルオキシピバリン酸t-ブチル、過酸化ジクミル、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0021】
アゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド]などの油溶性アゾ化合物;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)二水和物、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミド)四水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン]二塩酸塩などの水溶性アゾ化合物等が挙げられる。開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
開始剤の使用量は、使用するモノマーの種類、モノマーの量、使用する開始剤の種類、重合温度、重合濃度等の重合条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0023】
(4.5.3)溶媒
溶媒は、特に限定されない。溶媒には、モノマーを溶解可能な溶媒が少なくとも含まれることが好ましい。そのような溶媒としては、アルコール、水、ケトン、及び、エーテルからなる群より選択される少なくとも1種を好適に使用できる。
アルコールとしては、炭素数1-5のアルコールが好適に用いられる。炭素数1-5のアルコールとしては、エタノール、メタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び、3-ペンタノールからなる群より選択される少なくとも1種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールを用いることが好ましい。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンが好適に例示される。
エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルが好適に例示される。
溶媒としては、上記に記載された以外に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤も使用できる。
溶媒は、2種以上を混合して用いても、単独で用いてもよい。高分子電解質の分布制御を容易にする観点から、有機溶媒と水とを混合した混合溶媒が好ましい。有機溶媒と水の混合溶媒を用いる場合には、有機溶媒の量と、水の量の割合は特に限定されない。有機溶媒と水の混合比率(体積比)は、高分子電解質の分布制御を容易にする観点から、有機溶媒:水で、1:1000-1000:1が好ましく、1:100-100:1がより好ましく、1:10―10:1が更に好ましい。
溶媒の量は、特に限定されない。溶媒の量は、高分子電解質の分布制御を容易にする観点から、例えば、モノマーの総量100質量部に対して、10質量部以上5000000質量部以下が好ましく、100質量部以上500000質量部以下がより好ましく、1000質量部以上50000質量部以下が更に好ましい。
【0024】
(4.5.4)重合温度
重合温度は、特に限定されない。重合温度は、開始剤の種類、モノマーの種類、開始剤の量、モノマーの量、重合濃度等の重合条件等に応じて適宜設定される。開始剤として過酸化物を用いた場合には、例えば40℃以上100℃以下の重合温度で好適な重合反応が進行する。
【0025】
(4.5.5)金属触媒9が担持された導電体11
「金属触媒9が担持された導電体11」については、「(4)複合体3」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。すなわち、「(4)複合体3」の項目で説明した「(4.2)金属触媒9」、「(4.3)導電体11」をそのまま適用する。
本開示の製造方法において投入される金属触媒9が担持された導電体11の量は、特に限定されない。金属触媒9が担持された導電体11の量は、高分子7の分布制御を容易にする観点から、例えば、モノマーの総量100質量部に対して、0.001質量部以上50000質量部以下が好ましく、0.01質量部以上5000質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上500質量部以下が更に好ましい。
【0026】
(4.5.6)重合反応の開始
反応容器中に、モノマー(重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群から選ばれる少なくとも1種)及び開始剤を入れ、昇温することにより重合を開始できる。
重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを溶媒に入れるタイミングは特に限定されない。重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bをそれぞれ別々に投入してもよいし、これらのうちの1種を加えた後に2種を加えてもよいし、これらのうちの2種を加えた後に1種を加えてもよいし、3種を同時に投入してもよい。
【0027】
(4.5.7)金属触媒9が担持された導電体11の投入及び更なる重合反応
本開示の複合体3の製造方法では、重合反応の開始後、モノマー群の少なくとも1種が残留している溶媒中に、金属触媒9が担持された導電体11を投入し、重合反応を更に進める。ここで、モノマー群の少なくとも1種とは、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物Bの内の少なくとも1種である。モノマー群の少なくとも1種が残留しているとは、言い換えれば、重合反応の途中を意味する。重合反応の途中では、重合体は比較的短く、丸まっていない状態であると考えられる。すなわち、鎖状のオリゴマーのような状態で存在すると推測される。この状態において、金属触媒9が担持された導電体11が溶媒中に存在すると、鎖状のオリゴマーのような重合体が、金属触媒9が担持された導電体11に吸着すると考えられる。そして、鎖状のオリゴマーのような重合体に対して、溶媒中に残存するモノマーが反応することで、重合体が成長していき、高分子7となると考えられる。本開示の製造方法によれば、上述の鎖状のオリゴマーのような重合体が、金属触媒9が担持された導電体11に吸着し、この重合体が成長する過程を経ることで、導電体11には、高分子7によって被覆された被覆部21と、高分子7によって被覆されていない非被覆部23と、が形成すると推測される。
モノマー群の少なくとも1種が残留している溶媒中に、金属触媒9が担持された導電体11を投入するタイミングは、特に限定されない。このタイミングは、例えば重合開始から10秒経過後から1時間経過後を採用することができる。
金属触媒9が担持された導電体11が投入された後の更なる重合反応の反応時間は特に限定されない。反応時間は、例えば1分以上200時間以内である。
【0028】
(4.5.8)重合反応後の処理
重合反応後に後処理をしてもよい。例えば、導電体11を洗浄してもよい。洗浄には、例えば炭素数1-5のアルコール、水を使用してもよい。「炭素数1-5のアルコール」については、「(4)複合体3」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。すなわち、「(4)複合体3」の項目で説明した「炭素数1-5のアルコール」の説明をそのまま適用する。
【0029】
(5)インク
インクは、複合体3と、分散媒としての溶媒を含む。
(5.1)溶媒
溶媒は、特に限定されない。溶媒は、溶媒の沸点が10℃以上100℃以下であることが好ましく、15℃以上100℃以下であることがより好ましく、25℃以上100℃以下であることが更に好ましい。溶媒には、揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれることが好ましい。有機溶媒としては、アルコール、ケトン、及び、エーテルからなる群より選択される少なくとも一種を好適に使用できる。
アルコールとしては、揮発性の観点から、炭素数1-5のアルコールが好適に用いられる。炭素数1-5のアルコールとしては、エタノール、メタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び、3-ペンタノールからなる群より選択される少なくとも一種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールを用いることが好ましい。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンが好適に例示される。
エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルが好適に例示される。
溶媒としては、上記に記載された以外に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤も使用できる。溶媒は、二種以上を混合させて用いてもよい。
溶媒の配合量は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利なカソード触媒層17B又はアノード触媒層17Aを形成する観点から、インク全体を100質量部とした場合に、80質量部以上99.9質量部以下が好ましく、85質量部以上99質量部以下がより好ましく、80質量部以上98質量部以下が更に好ましい。
有機溶媒は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利なカソード触媒層17B又はアノード触媒層17Aを形成する観点から、水と混合した混合溶媒が好ましい。
溶媒として、有機溶媒と水の混合溶媒を用いる場合には、有機溶媒の量と、水の量の割合は特に限定されない。
有機溶媒と水の混合比率(質量比)は、溶媒の揮発によってガス供給及び生成水の排出に有利なカソード触媒層17B又はアノード触媒層17Aを形成する観点から、有機溶媒:水で、20:80-80:20が好ましく、30:70-70:30がより好ましく、40:60―60:40が更に好ましい。
【0030】
(5.2)その他の成分
複合体3を分散させるために、インクに分散剤が含まれていても良い。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0031】
(5.3)インクの固形分濃度
インクの固形分濃度は、特に限定されない。固形分濃度は、塗布量のばらつきを抑える等の観点から、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、2質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0032】
(6)塗工方法
塗工方法は、特に限定されない。塗工方法として、例えば、スプレー法、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法を用いることができる。塗布量のばらつきを抑える等の観点から、スプレー法が好ましい。
乾燥前の塗工厚は、特に限定されない。塗工厚は、塗布量のばらつきを抑える観点から、0.03μm以上600μm以下が好ましく、0.1μm以上200μm以下がより好ましく、0.2μm以上100μm以下が更に好ましい。
尚、複合体3と電解質膜15の親和性の観点から、塗工前に電解質膜15をプラズマ処理することが好ましい。
【0033】
2.燃料電池30
燃料電池30は、膜電極接合体1を備える。燃料電池30としては、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)を挙げることができる。本開示の燃料電池30は、金属触媒9が担持された導電体11には、高分子7によって被覆された被覆部21と、高分子7によって被覆されていない非被覆部23と、が存在しているから、ガスの拡散がよく、高性能である。
燃料電池30の構成例について説明する。この燃料電池30は、好適例たる固体高分子形燃料電池である。
図1に示すように、燃料電池30は、電解質膜15を備えている。電解質膜15(固体高分子電解質膜)は例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂から構成されている。電解質膜15の両側には、これを挟むようにアノード触媒層17A、カソード触媒層17Bが設けられている。電解質膜15と、これを挟む一対のアノード触媒層17A、カソード触媒層17Bとにより、膜電極接合体1が構成される。
【0034】
アノード触媒層17Aの外側には、ガス拡散層31が設けられている。ガス拡散層31は、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属多孔体等の多孔質材から構成され、セパレータ33側から供給されたガスをアノード触媒層17Aに均一に拡散させる機能を有する。同様に、カソード触媒層17Bの外側には、ガス拡散層35が設けられている。ガス拡散層35は、セパレータ37側から供給されたガスをカソード触媒層17Bに均一に拡散させる機能を有する。本図においては、上記のように構成された膜電極接合体1、ガス拡散層31,35、セパレータ33,37を1組のみ示したが、実際の燃料電池30は、膜電極接合体1、ガス拡散層31,35がセパレータ33,37を介して複数積層されたスタック構造を有している場合もある。
【実施例0035】
1.膜電極接合体1の作製
A.実施例
(1)カソード触媒層17Bの形成
(1.1)複合体3の調製
4-スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS,0.12g)、過硫酸カリウム(KPS,1.0g)、エタノール(340.9mL)、水(Milli-Q水(登録商標),92.9mL)を混合した。
この混合物を70℃に加熱した。そして、スチレン及びジビニルベンゼン(DVB)の混合物(4.1mL、99:1、wt/wt)を添加した。
その2分後にPt担持カーボン(TEC10V50E、田中貴金属(株))の水分散液(62.0mL、Pt担持カーボン0.15g含有)を更に添加し2時間、更に70℃にて反応させた。
この液を室温まで自然に冷却後、エタノール及び水(Milli-Q水(登録商標)で洗浄して複合体3を得た。複合体3の透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、複合体3には、高分子7によって被覆された被覆部21と、高分子7によって被覆されていない非被覆部23と、が存在していた。
【0036】
(1.2)カソード触媒層17B用のインクの調製
複合体3を、エタノールと水の混合溶媒(エタノール/水=1/1(w/w))中に分散させて、インクを調製した。インクの固形分濃度は、6質量%とした。
【0037】
(1.3)電解質膜15の処理
電解質膜15としてナフィオン膜(NR-211、The Chemours Company)を用いた。電解質膜15の表面(片面)を次の装置及び条件でプラズマ処理した。
<プラズマ処理>
親水化処理機能付きカーボンコータ(CADE-E、メイワフォーシス株式会社)
15秒間
5×100Pa
【0038】
(1.4)カソード触媒層17Bの形成
プラズマ処理後の電解質膜15の片側の処理面上に、インクをスプレーにて塗工して、カソード触媒層17Bを備えた電解質膜15を得た。カソード触媒層17Bの部分は、矩形状であり、カソード触媒層17Bの面積は50mm×50mmとした。
カソード触媒層17Bを形成後の電解質膜15において、カソード触媒層17Bにひび割れ等の欠陥は生じておらず、厚みのムラも少ないことが確認された。よって、複合体3と電解質膜15は、親和性が高いことが確認された。
【0039】
(2)アノード触媒層17Aの形成
カソード触媒層17Bが形成された電解質膜15の他面にアノード触媒層17Aを形成した。アノード触媒層17Aは、次のように形成した。
(2.1)材料
・触媒(触媒が担持された導電体):田中貴金属工業(株)製 TEC10EA20E
・アイオノマー分散液(イオン伝導体分散液):富士フィルム和光純薬(株)製 20質量%ナフィオン分散溶液DE2020 CSタイプ
・エタノール(溶媒):富士フィルム和光純薬(株)製 試薬特級エタノール(99.5)
・水(溶媒):超純水
・電解質膜(固体高分子電解質膜):Chemours (ケマーズ)製 ナフィオン NR-211 (厚さ:25μm)
【0040】
(2.2)触媒インク組成
・固形分(触媒+アイオノマー) 7質量%
・水:エタノール比率=1:1
・アイオノマー/カーボン重量比(I/C)0.75(質量比)
【0041】
(2.3)触媒層転写シート(アノード触媒層17Aが形成された基材)の作製手順
ビーカーに、触媒、超純水、アイオノマー分散液、エタノールの順に投入し、超音波ホモジナイザーで攪拌した。攪拌後の溶液(アノード触媒インク)をガラスに貼り付けたPTFEシート(基材)上に滴下した。アプリケーターで塗り広げ、自然乾燥させた。室温が25℃程度になるようにエアコンで調整した。このようにしてアノード触媒層17Aが片面に形成された触媒層転写シートを作製した。
<使用機材、備品>
・超音波ホモジナイザー:(株)エスエムテー製 UH-50
・卓上コーター:三井電気精機(株)製 TC-3型
・アプリケーター:ヨシミツ精機(株)製 YBA-2型
・PTFEシート:中興化成工業(株)製 MSF-100
【0042】
(2.4)アノード触媒層17Aの転写
カソード触媒層17Bが形成された電解質膜15の他面(カソード触媒層17Bが形成されていない面)に、触媒層転写シートのアノード触媒層17Aが面するようにして接合した。接合の際には、基材を加熱した。その後、基材を剥離して
図1に示す膜電極接合体1を製造した。
【0043】
B.比較例1
プラズマ処理をしていない基材(PTFEシート)上に、複合体3を含むインクを塗工して、カソード触媒層を備えた触媒層転写シートを作成することを試みた、しかし、基材と複合体3は親和性が低く、ひび割れ等の欠陥が生じていた。
【0044】
C.比較例2
(1)カソード触媒層17Bの形成
カソード触媒層17Bは、次のように形成した。
(1.1)材料
・触媒(触媒が担持された導電体):田中貴金属工業(株)製 TEC10V50E
・アイオノマー分散液(イオン伝導体分散液):富士フィルム和光純薬(株)製 20質量%ナフィオン分散溶液DE2020 CSタイプ
・エタノール(溶媒):富士フィルム和光純薬(株)製 試薬特級エタノール(99.5)
・水(溶媒):超純水
・電解質膜(固体高分子電解質膜):Chemours (ケマーズ)製 ナフィオン NR-211 (厚さ:25μm)
【0045】
(1.2)触媒インク組成
・固形分(触媒+アイオノマー) 7質量%
・水:エタノール比率=1:1
・アイオノマー/カーボン重量比(I/C)0.75(質量比)
【0046】
(1.3)触媒層転写シート(カソード触媒層17Bが形成された基材)の作製手順
ビーカーに、触媒、超純水、アイオノマー分散液、エタノールの順に投入し、超音波ホモジナイザーで攪拌した。攪拌後の溶液(カソード触媒インク)をガラスに貼り付けたPTFEシート(基材)上に滴下した。アプリケーターで塗り広げ、自然乾燥させた。室温が25℃程度になるようにエアコンで調整した。このようにしてカソード触媒層17Bが片面に形成された触媒層転写シートを作製した。
<使用機材、備品>
・超音波ホモジナイザー:(株)エスエムテー製 UH-50
・卓上コーター:三井電気精機(株)製 TC-3型
・アプリケーター:ヨシミツ精機(株)製 YBA-2型
・PTFEシート:中興化成工業(株)製 MSF-100
【0047】
(1.4)カソード触媒層17Bの転写
電解質膜15の表面(片面)に、触媒層転写シートのカソード触媒層17Bが面するようにして接合した。接合の際には、基材を加熱した。その後、基材を剥離してカソード触媒層17Bを備えた電解質膜15を得た
【0048】
(2)アノード触媒層17Aの形成
カソード触媒層17Bが形成された電解質膜15の他面にアノード触媒層17Aを形成した。アノード触媒層17Aは、次のように形成した。
(2.1)材料
・触媒(触媒が担持された導電体):田中貴金属工業(株)製 TEC10EA20E
・アイオノマー分散液(イオン伝導体分散液):富士フィルム和光純薬(株)製 20質量%ナフィオン分散溶液DE2020 CSタイプ
・エタノール(溶媒):富士フィルム和光純薬(株)製 試薬特級エタノール(99.5)
・水(溶媒):超純水
・電解質膜(固体高分子電解質膜):Chemours (ケマーズ)製 ナフィオン NR-211 (厚さ:25μm)
【0049】
(2.2)触媒インク組成
・固形分(触媒+アイオノマー) 7質量%
・水:エタノール比率=1:1
・アイオノマー/カーボン重量比(I/C)0.75(質量比)
【0050】
(2.3)触媒層転写シート(アノード触媒層17Aが形成された基材)の作製手順
ビーカーに、触媒、超純水、アイオノマー分散液、エタノールの順に投入し、超音波ホモジナイザーで攪拌した。攪拌後の溶液(アノード触媒インク)をガラスに貼り付けたPTFEシート(基材)上に滴下した。アプリケーターで塗り広げ、自然乾燥させた。室温が25℃程度になるようにエアコンで調整した。このようにしてアノード触媒層17Aが片面に形成された触媒層転写シートを作製した。
<使用機材、備品>
・超音波ホモジナイザー:(株)エスエムテー製 UH-50
・卓上コーター:三井電気精機(株)製 TC-3型
・アプリケーター:ヨシミツ精機(株)製 YBA-2型
・PTFEシート:中興化成工業(株)製 MSF-100
【0051】
(2.4)アノード触媒層17Aの転写
カソード触媒層17Bが形成された電解質膜15の他面(カソード触媒層17Bが形成されていない面)に、触媒層転写シートのアノード触媒層17Aが面するようにして接合する。接合の際には、基材を加熱した。その後、基材を剥離して
図1に示す膜電極接合体1を製造した。
【0052】
2.発電性能の評価
膜電極接合体1を作製後、膜電極接合体1の両側に、ガス拡散層31,35としてのカーボンペーパーを貼りあわせて、発電評価セル内に設置した。燃料電池測定装置を用いて、セル温度80℃で、電流電圧測定を行った。燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を用い、利用率一定による流量制御を行った。尚、背圧は1×102kPaとした。
【0053】
【0054】
【0055】
(3)考察及び実施例の効果
実施例の膜電極接合体1は、発電性能が従来例である比較例2と同等であった。実施例の膜電極接合体1の性能は、本願の出願時点において、良好な性能を発揮していた。
実施例のカソード触媒層17Bにおける複合体3では、高分子7によって被覆された被覆部21と、高分子7によって被覆されていない非被覆部23と、が存在しており、質量活性及び面積比活性が高くなっているものと推測される。
実施例の複合体3における高分子7は、ナフィオンと比べて、原料が安く、しかも簡易な製造方法によって調製できる。また、従来例では、ナフィオンが導電体11の表面を被覆しているが、実施例では高分子7が導電体11の一部を被覆していないので、高分子7の使用量を少なくできる。よって、実施例のカソード触媒層17Bにおける高分子7は、例えばナフィオンと比べて1000分の1以下のコストとなる。従って、実施例の膜電極接合体1は、安価に製造できる。しかも、実施例の膜電極接合体1は、ナフィオン等の高価な高分子7を用いた従来の膜電極接合体1と同程度の性能を発揮するため、貴金属の使用量も削減でき、この観点からもコストの低減を期待できる。
また、実施例の膜電極接合体1における複合体3は、ジクロロメタン等の有機溶媒を使用していないため、環境負荷が少ない。
また、従来は、高分子7の合成後に、高分子7と導電体11とを混合する混合工程を設けて複合体3を製造しているが、本開示の製造方法では、混合工程は不要となるのでコスト等に有利である。また、従来の混合工程では、導電体11における高分子7の分布状態を制御できない。本開示の製造方法では、導電体11における高分子7の分布状態を制御して、高分子7によって被覆された被覆部21と、高分子7によって被覆されていない非被覆部23と、を形成する。複合体3において、高分子7によって被覆された被覆部21では、プロトン(H+)の移動性が担保され、高分子7によって被覆されていない非被覆部23では、金属触媒9へのガスの拡散性が担保される。よって、この製造方法で製造された膜電極接合体1を用いると高性能な燃料電池30を提供できる。
また、本開示の膜電極接合体1は、ナフィオン等を用いた従来の膜電極接合体1と同等であるため、結果として、貴金属の使用量も削減でき、この観点からもコストの低減を期待できる。
【0056】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本開示を限定するものと解釈されるものではない。本開示を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本開示の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本開示の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本開示の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本開示をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0057】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。