(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025102561
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】銅材料用表面処理剤
(51)【国際特許分類】
C23C 22/52 20060101AFI20250701BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20250701BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20250701BHJP
C09D 201/02 20060101ALI20250701BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250701BHJP
【FI】
C23C22/52
C09D5/00 D
C09D201/00
C09D201/02
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220090
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和智 大介
(72)【発明者】
【氏名】福岡 慶久
【テーマコード(参考)】
4J038
4K026
【Fターム(参考)】
4J038CM011
4J038JA39
4J038MA08
4J038NA12
4J038PA19
4J038PC02
4K026AA06
4K026AA22
4K026BA08
4K026BB06
4K026CA13
4K026CA18
4K026CA33
4K026CA38
4K026CA39
4K026DA03
(57)【要約】
【課題】銅材料の表面と樹脂材料との密着性を高め、高温熱暴露後の絶縁性に優れる皮膜を形成させることが可能な表面処理剤、該表面処理剤を用いて銅材料の表面上酸化銅を含む上記皮膜を形成するための表面処理方法および該皮膜を有する銅材料を提供する。
【解決手段】 本発明のある形態は銅材料用表面処理剤であって、前記銅材料用表面処理剤は、水、銅(II)イオン、硫酸イオン、及び、有機酸を含み、前記硫酸イオンの濃度が1.0g/L以上55.0g/L以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、銅(II)イオン、硫酸イオン、及び、有機酸を含み、前記硫酸イオンの濃度が1.0g/L以上55.0g/L以下である、銅材料用表面処理剤。
【請求項2】
前記有機酸が、カルボキシル基を1つ又は2つ有し水に可溶である有機酸を含む、請求項1に記載の銅材料用表面処理剤。
【請求項3】
前記銅(II)イオンの濃度が0.05g/L以上40.0g/L以下である、請求項1に記載の銅材料用表面処理剤。
【請求項4】
前記銅(II)イオン及び前記硫酸イオンのモル濃度をそれぞれA、Bとした時、1.0<B/A≦10である、請求項1に記載の銅材料用表面処理剤。
【請求項5】
pHが2.0以上6.0以下である、請求項1に記載の銅材料用表面処理剤。
【請求項6】
前記有機酸が、グリコール酸、乳酸及びマロン酸から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の銅材料用表面処理剤。
【請求項7】
アミノ基を有する水溶性ポリマーを含む、請求項1に記載の銅材料用表面処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の銅材料用表面処理剤を、銅材料の表面に接触させ、酸化銅含有皮膜を形成する工程を含む、酸化銅含有皮膜付き銅材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の酸化銅含有皮膜の表面に塗膜を形成する工程を含む、塗膜付き銅材料の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法により得られる、酸化銅含有皮膜付き銅材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅材料用表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
銅材料の表面処理を行い、樹脂との密着性を向上させる方法が求められている。例えば、特許文献1には、第二銅イオン、有機酸、ハロゲン化物イオン、分子量17~400のアミノ基含有化合物及びポリマーを含む水溶液からなる銅のマイクロエッチング剤によって、銅層を含む配線の表面を粗化し、ソルダーレジスト等との密着性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、近年においては、銅材料を含む電子部品の高性能化を図るために、高熱環境下における絶縁性が求められている。即ち、高熱環境下において、銅材料に対する樹脂被膜の密着性を向上可能な技術が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、銅材料を含む電子部品への適用が可能な表面処理剤を提供することを目的とする。より具体的には、銅材料の表面と樹脂材料との密着性を高め、高温熱暴露後の絶縁性に優れる皮膜を形成させることが可能な表面処理剤、及び、該表面処理剤を用いて得られる、酸化銅を含む皮膜を有する銅材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、以下のものを含み得る。
【0007】
本発明のある形態は、銅材料用表面処理剤である。
前記銅材料用表面処理剤は、水、銅(II)イオン、硫酸イオン、及び、有機酸を含み、前記硫酸イオンの濃度が1.0g/L以上55.0g/L以下であることが好ましい。
【0008】
前記有機酸は、カルボキシル基を1つ又は2つ有し水に可溶である有機酸を含むことが好ましい。
前記有機酸は、カルボキシル基を1つと水酸基を1つ有し水に可溶である有機酸を含むことが好ましい。
前記銅(II)イオンの濃度は、0.05g/L以上40.0g/L以下であることが好ましい。
前記銅(II)イオン及び前記硫酸イオンのモル濃度をそれぞれA、Bとした時、1.0<B/A≦10であることが好ましい。
前記銅材料用表面処理剤のpHは、2.0以上6.0以下であることが好ましい。
前記有機酸は、グリコール酸、乳酸及びマロン酸から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
前記銅材料用表面処理剤は、アミノ基を有する水溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0009】
本発明の別の形態は、前記銅材料用表面処理剤を銅材料の表面に接触させ、酸化銅含有皮膜を形成する工程を含む、銅材料の表面処理方法又は酸化銅含有皮膜付き銅材料の製造方法である。
【0010】
本発明の別の形態は、前記酸化銅含有皮膜の表面に塗膜を形成する工程を含む、塗膜付き銅材料の製造方法である。
【0011】
本発明の別の形態は、前記銅材料の表面処理方法又は酸化銅含有皮膜付き銅材料の製造方法により得られる酸化銅含有皮膜付き銅材料、若しくは、塗膜付き銅材料の製造方法により得られる塗膜付き銅材料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅材料の表面と樹脂材料との密着性を高め、高温熱暴露後の絶縁性に優れる皮膜を形成させることが可能な表面処理剤、及び、該表面処理剤を用いて得られる、酸化銅を含む皮膜を有する銅材料を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0014】
本明細書において、ある化合物が記載されている場合、その異性体も同時に記載されているものとする。
【0015】
本明細書において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(25℃)として実施する。
【0016】
以下、具体的な実施形態を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれには限定されない。
【0017】
<銅材料用表面処理剤>
本実施の銅材料用表面処理剤(以下、単に表面処理剤と表記する場合がある。)は、銅(II)イオンと硫酸イオンと有機酸を含有するものである。
【0018】
<銅(II)イオン>
本実施の表面処理剤は銅(II)イオンを含有するものである。表面処理剤中の銅(II)イオン濃度は特に制限されるものではないが、好ましくは0.05g/L以上25.0g/L以下であり、より好ましくは0.1g/L以上20.0g/L以下であり、さらに好ましくは1.0g/L以上15.0g/L以下である。当該濃度がこの範囲内である表面処理剤は銅材料と樹脂材料との密着性に優れた皮膜を形成させることができる。表面処理剤に含まれる銅(II)イオンの濃度は、酸化還元滴定[JIS K 8983:2016に規定されている方法(ヨウ素滴定)]によって測定することができる。
【0019】
銅(II)イオン源となる化合物としては特に限定されない。銅(II)イオン源となる化合物としては、溶媒である水に対して可溶であり、皮膜の形成を阻害しない物が好ましい。銅(II)イオン源となる化合物としては、例えば、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(II)、プロピオン酸銅(II)、酪酸銅(II)、乳酸銅(II)、マロン酸銅(II)、グルタル酸銅(II)等の無機銅塩又は有機銅塩、あるいはこれらの水和物を挙げることが出来る。なお、本実施においては、これらから選択される2種以上を併用してもよい。なかでも硫酸銅(II)が好ましく、硫酸銅(II)・五水和物がより好ましい。硫酸銅(II)は後述する硫酸イオン源を兼ねることができる。
【0020】
<硫酸イオン>
硫酸イオン源となる化合物としては特に限定されない。硫酸イオン源となる化合物としては、溶媒である水に対して可溶であり、皮膜の形成を阻害しない物が好ましい。硫酸イオン源となる化合物としては、例えば、硫酸銅(好ましくは、硫酸銅(II))、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸ニッケル、硫酸アンモニウム等の硫酸塩を挙げることが出来る。尚、本実施においては、これらから選択される2種以上を併用してもよい。硫酸イオン源となる化合物として硫酸銅(II)を用いることで、銅(II)イオン源も兼ねることとなり、本実施に係る表面処理液中の固形分における有効成分の割合を高めることが可能となるため好ましい。ここで、硫酸イオン源として硫酸銅(II)を用いる場合、更に、硫酸銅(II)とは異なる銅(II)イオン源又は硫酸イオン源を配合することで、処理液中の硫酸イオンの濃度と銅(II)イオンの濃度とを個別に調整してもよい。具体的には、硫酸イオン源となる化合物として硫酸銅(II)を用いつつ、処理液中の硫酸イオン濃度を高めたい場合には、硫酸イオン源となる化合物として硫酸ナトリウムを更に用いることが好ましい。
【0021】
本実施の表面処理剤中に含まれる硫酸イオン濃度は特に制限されるものではないが、1.0g/L以上、2.0g/L以上、3.0g/L以上、5.0g/L以上、8.0g/L、又は、10.0g/L以上であることが好ましく、また、55.0g/L以下、45.0g/L以下、35.0g/L以下、又は、25.0g/L以下であることが好ましい。より具体的には、硫酸イオン濃度は、1.0g/L以上55.0g/L以下であることが好ましく、3.0g/L以上25.0g/L以下であることが特に好ましい。硫酸イオン濃度をこのような範囲とすることで、初期絶縁性(高温熱暴露前の絶縁性)を高めつつ、高温熱暴露後の絶縁性にも優れる皮膜を形成し易い。
【0022】
表面処理剤に含まれる銅(II)イオンと硫酸イオンとのモル濃度をそれぞれA、Bとした時、1.0<B/A<20であることが好ましく、1.0<B/A≦10であることがより好ましい。別の表現によれば、B/Aは、1.1以上、1.2以上、又は、1.4以上であることが好ましく、20未満、15以下、又は、10以下であることが好ましい。B/Aをこのような範囲とすることで、銅(II)イオンと硫酸イオンとの作用がバランスよく奏され、初期絶縁性(高温熱暴露前の絶縁性)を高めつつ、高温熱暴露後の絶縁性にも優れる皮膜を形成し易い。
【0023】
<有機酸>
有機酸は、カルボキシル基を1つ又は2つ有するものであることが好ましい。有機酸は、水酸基を有するもの及び水酸基を有しないもののいずれであってもよい。
【0024】
有機酸は、水に可溶なものを用いることができる。なお、本実施において「水に可溶である」又は「水溶性」とは、25℃において、1Lの水に対して1g以上溶解することをいう。
【0025】
有機酸としては、より具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸を挙げることができる。なお、本実施においては、これらから選択される2種以上を併用してもよい。有機酸としては、グリコール酸、乳酸、マロン酸から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0026】
なお、本実施における有機酸は、有機酸塩の形態であってもよい。また、本実施において、表面処理剤が有機酸を含むとした場合、表面処理剤が有機酸塩や有機酸由来又は有機酸塩由来の有機酸イオン等を含む形態を包含するものとする。この場合、有機酸塩としては、前述した有機酸のアルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)から選択される1種以上であることが好ましい。また、銅(II)の有機酸塩(例えば、マロン酸銅(II)等)は、有機酸として取り扱われると共に、銅(II)イオン源も兼ねることとなる。
【0027】
表面処理剤に含まれる銅(II)イオンと有機酸とのモル濃度をそれぞれA、Cとした場合、1.0≦C/A≦10であることが好ましく、1.5≦C/A≦4.0であることがより好ましい。C/Aをこのような範囲とすることで、処理液の安定性を高める(沈殿の発生を抑制する)ことができ、また、有機酸によるエッチングの作用及びを適切なものとし易いことから安定的に皮膜を形成し易い。なお、表面処理剤の有機酸の濃度やモル濃度とは、表面処理剤中の、有機酸、有機酸塩及び有機酸イオンを合計した有機酸換算の濃度やモル濃度を示す。
【0028】
表面処理剤に含まれる有機酸の濃度は、特に限定されないが、0.5~20.0g/Lであることが好ましく、1.0~10.0g/Lであることがより好ましく、3.0~7.5g/Lであることがさらに好ましい。
【0029】
<ポリマー>
ポリマーは、特に限定されないが、水溶性ポリマーであることが好ましく、アミノ基を有する水溶性ポリマーであることが好ましい。アミノ基を有する水溶性ポリマーとしては、複素環式アミン構造を有する水溶性ポリマーが挙げられ、より具体的には、下式(i)で表される構成単位を有する水溶性ポリマーが挙げられる。
【0030】
【0031】
上式(i)で表される構成単位を有するポリマーとしては、例えば、ジアリルアミン単重合体;ジアリルアミンメチル硫酸塩単重合体、ジアリルアミン硫酸塩単重合体、ジアリルアミン酢酸塩単重合体などのジアリルアミン単重合体の塩;上式(i)で表される構成単位を有する共重合体又はその塩;などのポリジアリルアミン類が挙げられる。上式(i)で表される構成単位を有する共重合体又は塩としては、上式(i)で表される構成単位と、アクリルアミド、アクリル酸、マレイン酸、二酸化硫黄、アリルアミン等の構成単位とを含むもの、より具体的には、ジアリルアミン硫酸塩アクリルアミド共重合体、ジアリルアミン硫酸塩マレイン酸共重合体、ジアリルアミン硫酸塩二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン酢酸塩二酸化硫黄共重合体、アリルアミン硫酸塩ジアリルアミン硫酸塩共重合体、アリルアミン酢酸塩ジアリルアミン酢酸塩共重合体等が挙げられる。
【0032】
水溶性ポリマーの重合度は特に限定されるものではないが、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲内であることが好ましく、3,000~150,000の範囲内であることがより好ましく、5,000~100,000の範囲内であることが更に好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透カラムクロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0033】
表面処理剤の全量に対するポリマー(好ましくは水溶性ポリマー)の含有量は、特に制限されるものではないが、固形分質量濃度として1~1000mg/Lの範囲内であることが好ましく、3~500mg/Lの範囲内であることがより好ましく、5~200mg/Lの範囲内であることが更に好ましい。ポリマーの含有量が上記範囲内である表面処理剤は銅材料と樹脂材料との密着性に優れた、皮膜を形成することができる。
【0034】
水溶性ポリマーは、市販品であってもよい。水溶性ポリマーの市販品としては、例えば、ユニセンスKCA103LU(センカ(株)製のジアリルアミン/アクリルアミド硫酸塩共重合体:有効成分40%)、PAA-D19A(ニットーボーメディカル(株)製のアリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩共重合体:有効成分20%)、PAA-03(ニットーボーメディカル(株)製のアリルアミン重合体:有効成分20%)などが挙げられる。
【0035】
<その他成分>
本実施の銅材料用表面処理剤は該表面処理剤の特性を阻害しない限り、上記物質以外の物質(その他成分)を含んでいても含んでいなくてもよい。その他成分としては、例えばハロゲン化物や、銅(II)以外の遷移金属を含む化合物等が挙げられる。また、その他成分として、後述するpH調整剤等が挙げられる。
【0036】
<表面処理剤のpH>
表面本実施の処理剤のpHは、2.0以上6.0以下であることが好ましく、4.5以上5.5以下であることがより好ましい。当該pHがこの範囲内である表面処理剤は銅材料と樹脂材料の密着性に優れた皮膜を形成させることができる。なお、表面処理剤のpHは、25℃でpHメーターにより測定する。
【0037】
表面処理剤のpHは、例えば、硝酸等の酸成分、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ成分等のpH調整剤を用いて調整する事ができる。pH調整剤はこれらの成分に限定されるものではない。なお、pH調整剤は1種または2種以上を用いてもよい。
【0038】
<表面処理剤の製造方法>
銅材料本実施の銅材料用表面処理剤は公知の混合方法、混合装置により混合される。銅材料本実施の銅材料用表面処理剤に含有される物質を混合する順番は特に限定されない。また、上記物質は一度に混合してもよく、分割して混合してもよい。
【0039】
<表面処理方法>
本実施の表面処理方法は、銅材料上記表面処理剤を銅材料に接触させる工程を含む方法である。
【0040】
<銅材料>
本実施の表面処理剤による表面処理の対象は銅材料である。銅材料は、銅を含有する材料であれば特に限定されず、例えば、純銅、銅合金が挙げられる。純銅としては例えば無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅が挙げられる。銅合金における銅以外の合金成分としては、例えば、亜鉛、リン、アルミニウム、鉄、ニッケルが挙げられる。銅合金の具体例としては、銅を50質量%以上含有するもの(例えば、亜鉛を30~40質量%含有し、残余分が銅である黄銅等)が挙げられる。銅材料の形状、構造等は特に限定されない。銅材料の形状は例えば、板状、箔状、棒状等が挙げられる。
【0041】
<表面処理方法>
本実施の銅材料を用いた表面処理方法(本実施の表面処理剤を銅材料の表面に接触させて皮膜を形成する方法)は特に限定されない。例えば、浸漬処理、スプレー処理、流し掛け処理が挙げられる。また、これら方法を2種以上併用することができる。また、浸漬における処理剤の撹拌の有無、スプレー処理におけるスプレー圧、スプレーノズルの種類は特に限定されない。
【0042】
銅材料を上記表面処理剤に接触させる際の温度は、特に限定されないが、好ましくは20℃以上、60℃以下、より好ましくは35℃以上、45℃以下である。
【0043】
銅材料を上記表面処理剤に接触させる際の時間は、特に限定されず、適宜設定することができる。例えば1秒から15分で処理することができる。
【0044】
銅材料を表面処理剤に接触した後は水洗を行うことが好ましい。使用する水は水道水、工水、井水でもかまわないが脱イオン水が最適である。また、水洗水の温度は特に限定されず、乾燥を速くするために加温してもよい。
【0045】
本実施の表面処理方法において、銅材料を上記表面処理剤に接触させる前に、脱脂処理と酸洗処理のどちらか一方あるいは両方の前処理を行うことが好ましい。脱脂液および酸洗液は特に限定されない。上記前処理後には水洗してから乾燥しても、水洗してから乾燥しなくてもよい。
【0046】
本実施の表面処理方法において、銅材料を上記表面処理剤に接触させた後に、さらに防錆剤、後処理剤、pH調整剤、カップリング剤などにより後処理してもよい。上記後処理後には水洗してから乾燥しても、水洗せずに乾燥してもよい。
【0047】
<皮膜>
本実施の表面処理方法により酸化銅(I)および/または酸化銅(II)を含む皮膜(酸化銅皮膜又は酸化銅含有皮膜と呼ぶ。)が形成される。換言すれば、本実施の表面処理方法により、酸化銅皮膜付き銅材料(酸化銅含有皮膜付き銅材料)が得られる。酸化銅皮膜中の酸化銅(I)と酸化銅(II)の比率は特に限定されない。また、表面処理液がポリマー(特に、水溶性ポリマー、アミノ基を有する水溶性ポリマー、又は、前記式(i)で表される構成単位を有する水溶性ポリマー)を含む場合、この酸化銅皮膜と共に、ポリマーを含む皮膜(樹脂被膜)も同時に形成される。ここで、本実施の表面処理方法により形成される皮膜のことを、表面処理皮膜と呼ぶ場合がある。表面処理皮膜は、酸化銅皮膜を含み樹脂被膜を含まない皮膜、及び、酸化銅皮膜と樹脂被膜とを含む皮膜のいずれであってもよい。
【0048】
本実施の銅材料の表面処理剤により形成される酸化銅皮膜の厚さは1nm以上、100nm以下であり、好ましくは3nm以上、70nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上、50nm以下である。形成される酸化銅皮膜の厚さがこの範囲内である銅材料は樹脂材料と優れた密着性を示すことができる。なお、酸化銅皮膜の厚さは電気化学的還元法により算出した酸化銅の質量から厚さに換算したものである。
【0049】
本実施の銅材料の表面処理剤により形成される樹脂皮膜(例えば、上式(i)で表される構成単位を有する水溶性ポリマーで形成された皮膜)の質量は0.5mg/m2以上、20mg/m2以下であり、好ましくは1mg/m2以上、15mg/m2以下であり、さらに好ましくは2mg/m2以上、10mg/m2以下である。形成される樹脂皮膜がこの範囲内である銅材料は樹脂材料と優れた密着性を示すことができる。なお、表面処理皮膜中の樹脂皮膜の質量は、蛍光X線分析装置を用いてC付着量を測定し、それを樹脂皮膜の質量とみなすことで測定される。
【0050】
<接合材>
銅材料を上記銅材料の表面処理方法により表面処理されて形成された表面処理皮膜を介して、銅材料と樹脂材料とを接合させることにより、高い密着性を示す接合材が得られる。樹脂材料は特に限定されず、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えばAS樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリプロピレン、液晶ポリマー等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ、フェノール、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン、変性ポリフェニルエーテル、シアネートエステル等が挙げられる。これら樹脂材料は官能基によって変性されていてもよい。
【0051】
表面処理皮膜を介して銅材料と樹脂材料とを接合させる方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、銅材料の表面に本実施の表面処理剤に接触させて形成された表面処理皮膜付き銅材料の一部または全体に樹脂材料を塗布し、圧着する方法や、接着剤、接着シートを利用して前記の表面処理皮膜付き銅材料と樹脂材料とを張り合わせて接着する方法、電着塗装、粉体塗装、溶剤塗装などによって接合材を塗着させる方法、あるいは、これらを組み合わせた方法などを挙げることができる。
【実施例0052】
以下に示す実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、これらの発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
<試験板の作製>
以下のように試験板を作製した。
【0054】
まず、銅材料(150mm(縦)×70mm(横)×0.8mm(厚))を脱脂処理(ファインクリーナーE6400、日本パーカライジング社製、商品名60℃×5分 ディップ処理)し、その後、水洗を実施することで、清浄にした。
【0055】
次いで、表1の各実施例、比較例に記載の成分を該当する濃度になるように水に溶解させた表面処理剤を作製し、清浄にした銅材料を表面処理剤に浸漬して表面処理を実施した。なお、表1中、「-」は該当する成分を含有しないことを示す。あわせて、各表面処理剤のpHを表1に示す。表面処理剤のpHは水酸化ナトリウム水溶液および硫酸で調整した。表面処理剤への銅材料の浸漬時間はいずれの例においても一律2分間とし、温度は40℃とした。
【0056】
次いで、表面処理された銅材料を被塗物として、表1に示す塗装方法を用いて乾燥膜厚20μmとなるように塗装し、各実施例および比較例の試験板を得た。
【0057】
表1に示す各塗装方法(電着塗装、粉体塗装、溶剤塗装)の具体的な条件を以下に示す。
【0058】
<電着塗装>
エレクトロンKG400(関西ペイント株式会社製)に試験板を浸漬して、30秒で200Vに到達するように昇圧し、200Vに達してから150秒間保持するように印加して、試験板上に未硬化の電着塗膜を析出させた。次いで、これらの試験板を180℃で26分間加熱する事により、電着塗装塗膜を形成させた。
【0059】
<粉体塗装>
イノバックスPシリーズ(新東塗料株式会社製)を用い、パーカーエンジニアリング株式会社製の静電粉体塗装装置を用いて塗装を行い、試験板上に未硬化の粉体塗膜を塗着させた。次いで、この試験板を180℃で20分間加熱する事により、粉体塗装塗膜を形成させた。
【0060】
<溶剤塗装>
ハイメリットプライマーNo300(ナトコ株式会社製)を用いた。上記塗料とエスシンナーM No15が100:30の比率になるように混合し、塗料の希釈を行った。試験板に対して、エアスプレーを実施して、溶剤塗膜を塗着させた。次いで、この試験板を140℃で20分間加熱する事により、溶剤塗装塗膜を形成させた。
【0061】
<評価>
上記方法で得られた試験板(塗膜付きの表面処理銅材料)について、以下のように各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
<高温暴露後の塗装密着性>
各試験板を、220℃に設定したオーブン内に625時間静置した。625時間後にJIS K 5600で規定されている塗膜の付着性(碁盤目密着性)の評価を実施した。カッターナイフなどを用いて、素地まで貫通する切込みを、格子状に100マス入れ、その箇所にセロハンテープを貼付し、そのセロハンテープを剥離したことによって生じる塗膜剥離の有無で判断し、塗膜剥離が無い物を合格とした。
【0063】
<絶縁破壊電圧の測定>
各試験板の絶縁破壊電圧(単位膜厚あたりの絶縁破壊電圧)は、耐電圧試験機(TOS9201、菊水電子工業株式会社製)を用いて測定した。測定は、初期電圧を0V、昇圧速度を50V/秒とし、カットオフ電流を1.0mAの条件にて行った。
【0064】
<高温暴露後の絶縁性>
各試験板を、220℃に設定したオーブン内に625時間静置した。オーブン内に静置する前(初期)および静置から625時間後の時点における試験板の単位膜厚あたりの絶縁破壊電圧を測定し、各試験板の初期の値に対する静置時間経過後の値の比を算出し、それを絶縁破壊電圧保持率と定義し、それぞれを比較した。絶縁破壊電圧保持率が85%以上を合格とした。
【0065】
本発明の表面処理剤は、銅材料の表面と樹脂材料との密着性を高め、高温熱暴露後の絶縁性に優れる皮膜を形成させることが可能なため、銅材料と樹脂材料とを接合させた電子部品用の接合材を製造する際の、銅材料の表面処理に適用することができる。