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特開2025-103199液晶ポリエステルフィラメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103199
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】液晶ポリエステルフィラメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20250702BHJP
   D02J 13/00 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
D01F6/62 308
D01F6/62 306U
D02J13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220406
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高岡 友裕
(72)【発明者】
【氏名】小田嶋 敦
(72)【発明者】
【氏名】市川 智之
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
4L035CC02
4L035CC13
4L035DD14
4L035EE08
4L035FF01
4L036MA05
4L036MA34
4L036PA17
4L036UA06
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、高強度、高弾性率、高耐熱性を維持しつつ、フィブリル欠点がなく、製織性、織物品位に問題のない耐摩耗性を有する液晶ポリエステルフィラメント、特に単繊維繊度が小さい液晶ポリエステルモノフィラメントの糸走行性を向上させ、操業性を改善する製造方法を提供することにある。
【解決手段】 液晶ポリエステルフィラメントのパッケージを固相重合した後、該パッケージから固相重合した液晶ポリエステルフィラメントを解舒しつつ、一旦巻き取ることなく熱処理する際に、熱処理工程の入口部と出口部の雰囲気温度が異なる液晶ポリエステルフィラメントの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルフィラメントのパッケージを固相重合した後、
該パッケージから固相重合した液晶ポリエステルフィラメントを解舒しつつ、
一旦巻き取ることなく熱処理する際に、
熱処理工程の入口部と出口部の雰囲気温度が異なる液晶ポリエステルフィラメントの製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程の入口部の雰囲気温度が、
出口部の雰囲気温度に対して、20℃以上高いことを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステルフィラメントの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程の出口部の雰囲気温度が、
(固相重合後の液晶ポリエステルフィラメントの吸熱ピーク温度Tm+80℃)以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強度、弾性率、耐摩耗性に優れた液晶ポリエステルフィラメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは剛直な分子鎖からなるポリマーであり、溶融紡糸においてはその分子鎖を繊維軸方向に高度に配向させ、さらに高温下で熱処理することにより固相重合するため、溶融紡糸で得られる繊維の中では最も高い強度、弾性率が得られる(非特許文献1参照)。液晶ポリエステル繊維はさらに低吸湿特性を有するため、水産資材用のロープやネット類などに用途を持っていた。また近年では、スクリーン印刷用の紗織物、セールクロス、各種電気製品のコード補強材、防護手袋、プラスチックの補強材、光ファイバーのテンションメンバー、膜体の基布などの比較的繊度の低い液晶ポリエステルの需要が伸びている。
【0003】
しかし、液晶ポリエステル繊維は剛直な分子鎖が繊維軸方向へ高度に配向しているため、繊維軸垂直方向に弱く、フィブリル化しやすく耐摩耗性に劣るという欠点も持つ。また、液晶ポリエステル繊維は繊維軸方向に高度に配向し緻密な結晶を生じるが、その結晶部分と非晶部分の構造差が大きく相互作用が低いため、外力が与えられることにより結晶部分と非晶部分との間でズレが生じ、その構造欠陥を破壊の開始点としてフィブリル化が進行する。このため繊維の高次加工工程での毛羽発生による工程通過性悪化、毛羽混入による製品の品位・性能低下が発生することから、液晶ポリエステル繊維の耐摩耗性向上が求められている。中でもフィルター、スクリーン印刷用紗においては、高性能化のために開口部の欠点減少が要求されている。開口部の欠点は、製織工程での摩擦により繊維が削られフィブリル化し、そのフィブリルが開口部を塞ぐことに起因しているため、液晶ポリエステル繊維の耐摩耗性向上が強く求められている。
【0004】
この耐摩耗性を改善するために、芯成分が液晶ポリエステル、鞘成分がポリフェニレンスルフィドからなる芯鞘型複合繊維(特許文献1参照)や、島成分が液晶ポリエステル、海成分が屈曲性熱可塑性ポリマーからなる海島型複合繊維が提案されている(特許文献2参照)。これらの技術では屈曲性ポリマーが繊維表面を形成することで耐摩耗性の向上は達成できるものの、液晶ポリエステル以外の成分の分率が多いため繊維の強度が劣る、液晶ポリエステルの高強度化に必要な繊維の固相重合において低融点の繊維表面が融着し、欠陥となりフィブリル化が起こるという問題があった。さらに、芯鞘複合紡糸は、単成分紡糸に比べ芯鞘それぞれの吐出量が少なく、細繊度化のために吐出量を少なくした場合、ポリマーの滞留時間の増加に伴うゲル化や熱分解により溶融粘度が変化して、繊維長手方向の太さ斑や複合異常などの繊維長手方向の均一性を損なうという問題がある。
【0005】
また、液晶ポリエステルと屈曲性熱可塑性樹脂からなる複合繊維を屈曲性熱可塑性樹脂の融点+20℃以上の温度で熱処理することで耐摩耗性を高める技術が提案されている(特許文献3、4参照)。しかし、この技術では屈曲性熱可塑性樹脂を非晶状態とすることで耐摩耗性を向上させているため、得られた繊維は耐熱性に劣るという問題があった。また、複合紡糸であるため前述のとおり長手方向の均一性を損なうという問題がある。
【0006】
また、液晶ポリエステル繊維を融点よりも低い温度で加熱硬化(固相重合)させた後、該繊維を220℃~500℃の温度、通常、硬化温度の50℃の範囲内にて10%~400%延伸し、強度および弾性率を増加させる技術が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、この技術は結晶化度を維持できる温度で延伸を行うことで分子鎖の配向をさらに高め、強度および弾性率を増加させることを目的としており、結晶化度が高く分子鎖の配向が高い繊維構造のため耐摩耗性は向上できない。
【0007】
液晶ポリエステル繊維に対して、融点以上の温度で熱処理を施すことによって耐摩耗性を向上させる技術が開示されている(特許文献6、7参照)。これらの技術は、パッケージの状態で固相重合し、解舒し、融着防止剤を除去し、融点以上の高温で熱処理することが記載されており、確かに液晶ポリエステル繊維の耐摩耗性を向上させることが可能であるが、これらの工程では処理された繊維をその都度、巻き取っており、巻き取り設備費用や運転要員の労務費などのコストアップが避けられなかった。また、解舒した後で熱処理する前の液晶ポリエステル繊維は耐摩耗性に劣るため、熱処理前の巻き取り工程においてフィブリル化を避けることができなかった。
【0008】
また、液晶ポリエステル繊維をパッケージとなし、固相重合し、該パッケージから固相重合した液晶ポリエステル繊維を解舒しつつ一旦巻き取ることなく引き続いて熱処理する液晶ポリエステル繊維の製造方法であって、該熱処理の温度を固相重合後の液晶ポリエステル繊維の吸熱ピーク温度(Tm)+60℃以上とするとともに、熱処理前後の該繊維の速度をそれぞれ第1ローラーおよび第2ローラーにより規制することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法が開示されている(特許文献8参照)。この方法では、繊維の速度の規制により、繊維の走行安定性を向上させているが、熱処理に伴い生じる張力低下を解決することはできておらず、糸揺れによる操業性の悪化が問題となる。張力低下を補うためにストレッチをかけた場合、逆に繊維の配向が増加し、耐摩耗性の低下を避けることができなかった。
【0009】
以上のことから、従来技術では高強度、高弾性率、高耐熱性を維持しつつ、耐摩耗性が高くフィブリル欠点のない液晶ポリエステルフィラメントの糸揺れを防ぎ、操業性を向上させる方法は提案されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1-229815号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2003-239137号公報(第1頁)
【特許文献3】特開2007-119976号公報(第1頁)
【特許文献4】特開2007-119977号公報(第1頁)
【特許文献5】特開昭50-43223号公報(第2頁)
【特許文献6】特開2008-240230号公報(第5頁)
【特許文献7】特開2008-240228号公報(第1頁)
【特許文献8】特開2010-209495号公報(第1頁)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】技術情報協会編、「液晶ポリマーの改質と最新応用技術」(2006)(第235頁~第256頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、高強度、高弾性率、高耐熱性を維持しつつ、フィブリル欠点がなく、製織性、織物品位に問題のない耐摩耗性を有する液晶ポリエステルフィラメント、特に単繊維繊度が小さい液晶ポリエステルフィラメントの糸走行性を向上させ、操業性を改善する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は次の構成を有する。
すなわち、本発明は液晶ポリエステルフィラメントのパッケージを固相重合した後、該パッケージから固相重合した液晶ポリエステルフィラメントを解舒しつつ、一旦巻き取ることなく熱処理する際に、熱処理工程の入口部と出口部の雰囲気温度が異なる液晶ポリエステルフィラメントの製造方法である。
【0014】
さらに、前記熱処理工程の入口部の雰囲気温度が、出口部の雰囲気温度に対して、20℃以上高いことを特徴とする液晶ポリエステルフィラメントの製造方法であることが好ましい。
【0015】
さらに、前記熱処理工程の出口部の雰囲気温度が、(固相重合後の液晶ポリエステルフィラメントの吸熱ピーク温度Tm+80)℃以上であることを特徴とする液晶ポリエステルモノフィラメントの製造方法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、高強度、高弾性率、高耐熱性を維持しつつ、耐摩耗性が高くフィブリル欠点のない液晶ポリエステルフィラメントを、糸走行性を向上させ操業性を改善したことで、低コスト、高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の液晶ポリエステルフィラメントの製造方法について説明する。
【0018】
本発明で用いる液晶ポリエステルは、溶融時に異方性溶融相、すなわち液晶性を形成し得るポリエステルである。この特性は例えば、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
【0019】
本発明で用いる液晶ポリエステルは、例えば
(1)芳香族オキシカルボン酸の重合物、
(2)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、
(3)前記(1)と(2)との共重合物
などが挙げられるが、高強度、高弾性率、高耐熱のためには脂肪族ジオールを用いない前記(1)の全芳香族ポリエステルが好ましい。ここで芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または前記芳香族オキシカルボン酸のアルキル置換体、アルコキシ置換体、ハロゲン置換体などが挙げられる。
【0020】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または前記芳香族ジカルボン酸のアルキル置換体、アルコキシ置換体、ハロゲン置換体などが挙げられる。
【0021】
さらに、芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または前記芳香族ジオールのアルキル置換体、アルコキシ置換体、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
【0022】
本発明で用いる液晶ポリエステルとしては、p-ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’-ジヒドロキシビフェニル成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分および/またはイソフタル酸成分とが共重合されたもの、p-ヒドロキシ安息香酸成分と6-ヒドロキシ2-ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p-ヒドロキシ安息香酸成分と6-ヒドロキシ2-ナフトエ酸成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分とが共重合されたもの、などが紡糸性に優れ、高強度、高弾性率化が達成でき、固相重合後の高温熱処理を行うことで耐摩耗性が向上することから、好ましい例として挙げられる。
【0023】
本発明では、特に下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
【0024】
【化1】
【0025】
この構造単位の組み合わせにより、分子鎖は適切な結晶性と非直線性、すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがってポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な製糸性を有するようになり、長手方向に均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため、繊維の強度、弾性率を高めることができる。
【0026】
さらに構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要である。前記構造単位を組み合わせることにより、繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率が得られることに加えて、固相重合後に高温熱処理を施すことで特に優れた耐摩耗性も得られるのである。
【0027】
また、上記した構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85モル%が好ましく、より好ましくは65~80モル%、さらに好ましくは68~75モル%である。このような構造単位比率とすることで結晶性を適度にすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
【0028】
構造単位(II)は、構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90モル%が好ましく、より好ましくは60~80モル%、さらに好ましくは65~75モル%である。このような構造単位比率とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため、固相重合後に高温熱処理を施すことで耐摩耗性を高めることができる。
【0029】
構造単位(IV)は、構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95モル%が好ましく、より好ましくは50~90モル%、さらに好ましくは60~85モル%である。このような構造単位比率とすることでポリマーの融点が適切となり、ポリマーの融点と熱分解温度の間で設定される紡糸温度において良好な紡糸性を有するため、長手方向に均一な繊維が得られ、加えてポリマーの直線性が適度に乱れるため、固相重合後の高温熱処理によりフィブリル構造が乱れやすくなり繊維軸垂直方向の相互作用が高まり耐摩耗性を向上させることができる。
【0030】
以上のように、3成分以上の構造単位を用いることで、適度な結晶性、ポリマー直線性を持つポリマーを得ることができ、強度・弾性率に優れた繊維を得ることができる。
【0031】
本発明で用いる液晶ポリエステルの各構造単位の好ましい範囲は以下のとおりである。下記構造単位(I)~(V)の合計を100mol%とする。この範囲の中で構造単位の組成比率を調整することで本発明の液晶ポリエステルフィラメントが好適に得られる。
構造単位(I)45~65モル%
構造単位(II)12~18モル%
構造単位(III)3~10モル%
構造単位(IV)5~20モル%
構造単位(V)2~15モル%
さらに、構造単位(IV)と構造単位(V)の合計量と構造単位(II)と構造単位(III)の合計量は、等モルであることが好ましい。
【0032】
なお本発明で用いる液晶ポリエステルには、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲で更に他のモノマーを共重合させても良い。
【0033】
また、本発明で用いる液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーを添加・併用することができる。添加・併用とは、ポリマー同士を混合する場合や、2成分以上の複合紡糸において一方の成分、または複数の成分に他のポリマーを部分的に混合使用すること、あるいは全面的に使用することをいう。なお、ポリマーを添加・併用する場合、その融点は液晶ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましい。なお、得られる繊維の強度、弾性率を向上させるため、またポリマー界面での剥がれによる毛羽発生や糸切れを抑制するためには、添加・併用する量は50重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、他のポリマーを添加・併用しないことが最も好ましい。
【0034】
本発明で用いる液晶ポリエステルには、本発明の効果が損なわれない範囲で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
【0035】
本発明で用いる液晶ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、分子量と記載)は3.0万以上が好ましい。分子量を3.0万以上とすることで紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性を高めることができる。分子量が高いほど得られる繊維の強度、伸度、弾性率は高まるが、分子量が高すぎると粘度が高くなり流動性が悪くなり、ついには流動しなくなるため分子量は25.0万未満が好ましく、20.0万未満がより好ましい。ここでいう、ポリスチレン換算の重量平均分子量は実施例に記載の方法で測定される値をいう。
【0036】
本発明で用いる液晶ポリエステルの融点Tmは、溶融紡糸可能な温度範囲を広くするため、好ましくは200~380℃であり、紡糸性を高めるためにより好ましいのは250~360℃である。なお液晶ポリエステルポリマーの融点は実施例に記載の方法で測定される値をいう。
【0037】
溶融紡糸において、液晶ポリエステルの溶融押出は公知の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプなど公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は流動性を高めるため液晶ポリエステルの融点以上とすることが好ましく、液晶ポリエステルの(融点+10)℃以上がより好ましい。ただし紡糸温度が過度に高いと液晶ポリエステルの粘度が増加し、流動性の悪化、製糸性の悪化を招くため500℃以下とすることが好ましく、400℃以下がより好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
【0038】
口金孔より吐出されたポリマーは保温、冷却領域を通過させ固化させた後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から200mmまでとすることが好ましく、100mmまでとすることがより好ましい。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上500℃以下が好ましく、200℃以上400℃以下がより好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、平行あるいは環状に噴き出す空気流を用いることが環境負荷を低くする点から好ましい。
【0039】
引き取り速度は生産性、単繊維繊度の低減のため50m/分以上が好ましく、500m/分以上がより好ましい。本発明で好ましい例として挙げた液晶ポリエステルは紡糸温度において好適な曳糸性を有することから引き取り速度を高速にでき、上限は特に制限されないが、曳糸性の点から2000m/分程度となる。
【0040】
溶融紡糸においてはポリマーの冷却固化から巻き取りまでの間に油剤を付与することが繊維の取り扱い性を向上させる上で好ましい。油剤は公知のものを使用できるが、固相重合前の巻き返し工程において溶融紡糸で得られた繊維を解舒する際の解舒性を向上させる点で一般的な紡糸油剤や後述の固相重合油剤を用いることが好ましい。
【0041】
巻き取りは公知の巻取機を用いパーン、チーズ、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、巻き取り時にパッケージ表面にローラーが接触しないパーン巻きとすることが繊維に摩擦力を与えずフィブリル化させない点で好ましい。
【0042】
本発明においては、液晶ポリエステルフィラメントに固相重合油剤を塗布した後に固相重合を施すことが好ましい。本発明で言う固相重合油剤とは、その油剤を液晶ポリエステルフィラメントに付着させ固相重合させた際に繊維間の融着を抑制する油剤であり、公知のものが使用できるが、融着抑制および易洗浄性の観点から、無機粒子Aとリン酸系化合物Bの混合剤とすることが好ましい。なお、本発明においては、無機粒子Aとリン酸系化合物Bの混合剤のようにオイル分を含まない場合も、固相重合油剤として表記する。
【0043】
本発明における無機粒子Aとは、公知の無機粒子であり、例として鉱物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、シリカやアルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩化合物、硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の硫酸塩化合物の他、CB等が挙げられる。このような耐熱性の高い無機粒子を繊維上へ塗布することで単繊維間の接触面積を減らし、固相重合時に発生する融着を回避することが可能となる。
【0044】
無機粒子Aは、塗布工程を考慮して取扱いが容易であり環境負荷低減の観点から水分散が容易であることが好ましく、かつ、固相重合条件下において不活性であることが望ましい。これらの観点からシリカやケイ酸塩を用いることが好ましい。ケイ酸塩の場合は特に層状構造を持つフィロケイ酸塩が好ましい。なおフィロケイ酸塩としては、カオリナイト、ハロイ石、蛇紋石、珪ニッケル鉱、スメクタイト族、葉ろう石、滑石、雲母などが挙げられるが、これらの中でも入手の容易性を考慮して滑石、雲母を用いることが最も好ましい。
【0045】
また、本発明におけるリン酸系化合物Bとは、下記化学式(1)~(3)で示される化合物が使用できる。
【0046】
【化2】
【0047】
ここで、R,Rは炭化水素、Mはアルカリ金属、Mはアルカリ金属、水素、炭化水素、含酸素炭化水素のいずれかを指す。
なお、nは1以上の整数を表す。なお、nの上限は熱分解抑制の観点から好ましくは100以下、より好ましくは10以下である。
【0048】
としては、固相重合時の熱分解による発生ガスを考慮し、環境負荷を低減する観点から構造中にフェニル基を含まないことが好ましく、アルキル基で構成されることがより好ましい。Rの炭素数としては、繊維表面への親和性の観点から2以上が好ましく、かつ、固相重合に伴う有機成分の分解による重量減量率を押さえ、固相重合時の分解により発生する炭化物が繊維表面へ残存することを防ぐ観点から20以下が好ましい。
【0049】
また、Rとしては、水への溶解性の観点から炭素数5以下の炭化水素が好ましく、より好ましいのは炭素数2または3である。Mとしては製造コストの観点からナトリウム、カリウムが好ましい。
【0050】
無機粒子Aおよびリン酸系化合物Bの付着量を適性化しつつ均一塗布するためにはリン酸系化合物Bの希釈液に無機粒子Aを添加した混合油剤を用いることが好ましく、希釈液としては安全性の観点から水を用いることが好ましい。なお、融着抑制の観点から希釈液中の無機粒子Aの濃度は高いことが望ましく0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、上限としては均一分散の観点から10重量%以下が好ましく、より好ましく5重量%以下である。また、リン酸系化合物Bの濃度は無機粒子Aの均一分散の観点からは高いことが望ましく、0.1重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上である。なお、リン酸系化合物Bの濃度の上限としては特に制限はないが、混合油剤の粘度上昇による付着過多、粘度の温度依存性増大による付着斑を避ける目的で50重量%以下が好ましく、より好ましくは30重量%以下である。
【0051】
また、繊維への無機粒子Aとリン酸系化合物Bの塗布方法としては、溶融紡糸から巻き取りまでの間に行っても良いが、付着効率を高めるためには溶融紡糸して巻き取った糸条を巻き返しながら該糸条に塗布する、あるいは溶融紡糸で少量を付着させ、巻き取った糸条を巻き返しながら追加塗布することが好ましい。
【0052】
付着方法はガイド給油法でも良いが、総繊度の細い繊維に均一に付着させるためには金属製あるいはセラミック製のキスロール(オイリングロール)による付着が好ましい。なお、繊維がカセ状、トウ状の場合は混合油剤へ浸漬することで塗布できる。
【0053】
繊維への無機粒子A、リン酸系化合物Bの付着率は、固相重合時の繊維間の融着を防げる限り、特に限定されないが、の無機粒子Aの付着率をa重量%、リン酸系化合物Bの付着率をb重量%としたとき、無機粒子Aの付着率aは0.01重量%以上とすることで無機粒子による融着抑制効果得られ、好ましい。付着率aの上限としては均一付着の観点から10重量%以下が好ましい。またリン酸系化合物Bの付着率bは10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上がより好ましく、さらに好ましくは20重量%以上である。なお、上限としては繊維長手方向の付着斑および取り扱いの観点から40重量%未満が好ましい。
【0054】
なお、固相重合油剤の油分付着率(a+b)は10重量%を超える量となるが、10重量%を超えるような多量の油分を付着して固相重合を行うことで、固相重合時の繊維の融着に対する高い抑制効果が得られる。固相重合油剤の油分付着率(a+b)が多いほど、融着抑制効果は高まるため、油分付着率は15重量%を超えることが好ましく、20重量%を超えることがより好ましい。一方、上限としては長手方向の付着斑を抑制する観点から40重量%以下が好ましい。なお繊維への固相重合油剤の油分付着率(a+b)は固相重合油剤塗布後の繊維について実施例に記載した手法により求められる油分付着率の値を指す。ここでいう無機粒子Aの付着率aおよび、リン酸系化合物Bの付着率bとは、下式にて算出される値を指す。
無機粒子Aの付着率a=(a+b)×Ca/(Ca+Cb)
リン酸系化合物Bの付着率b=(a+b)×Cb/(Ca+Cb)
ここで、Caは固相重合油剤中の無機粒子Aの濃度、Cbは固相重合油剤中のリン酸系化合物Bの濃度を指す。
【0055】
また無機粒子Aの付着率a重量%、リン酸系化合物Bの付着率b重量%については、b/a≧1とすることが好ましい。リン酸系化合物Bの付着率bを無機粒子Aの付着率a以上とすることでリン酸系化合物Bの固相重合時の縮合塩形成に由来した優れた洗浄性がより顕著に現れ、また無機粒子Aと繊維間の固着や脱落を抑制する観点からも好ましい。
【0056】
本発明においては、固相重合油剤を塗布した後に固相重合を行うが、これにより分子量が高まるとともに、強度、弾性率、伸度も高まる。固相重合はカセ状、トウ状(例えば金属網等に載せて行う)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能であるが、設備が簡素化でき、生産性も向上できる点から繊維を芯材に巻き取ったパッケージ状で行うことが好ましい。
【0057】
固相重合は窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気のような酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが可能であるが、設備の簡素化および繊維あるいは芯材の酸化防止のため窒素雰囲気下で行うことが好ましい。この際、固相重合の雰囲気は露点が-40℃以下の低湿気体が好ましい。
【0058】
固相重合温度は、固相重合に供する液晶ポリエステルフィラメントの吸熱ピーク温度をTm℃とした場合、最高到達温度が(Tm-60)℃以上であることが好ましい。このような融点近傍の高温とすることで固相重合が速やかに進行し、液晶ポリエステルフィラメントの強度を向上させることができる。なお、ここで言うTmは一般には液晶ポリエステルフィラメントの融点であり、本発明においては実施例記載の測定方法により求められた値を指す。なお最高到達温度はTm℃未満とすることが融着防止のために好ましい。また固相重合温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができ、より好ましい。この場合、固相重合の進行と共に液晶ポリエステルフィラメントの融点は上昇するため、固相重合温度は、固相重合前の液晶ポリエステルフィラメントの(Tm+100)℃程度まで高めることができる。ただしこの場合においても固相重合での最高到達温度は固相重合後の液晶ポリエステルフィラメントの(Tm-60)℃以上Tm℃未満とすることが固相重合速度を高めかつ融着を防止できる点から好ましい。
【0059】
固相重合時間は、液晶ポリエステルフィラメントの分子量すなわち強度、弾性率、伸度を十分に高くするためには最高到達温度で5時間以上とすることが好ましく、10時間以上がより好ましい。一方、強度、弾性率、伸度増加の効果は経過時間と共に飽和するため、生産性を高めるためには50時間以下とすることが好ましい。
【0060】
本発明においては、固相重合した後の液晶ポリエステルフィラメントを走行させつつ、固相重合油剤を除去することが望ましい。固相重合油剤の除去方法は、公知の方法を用いることができるが、その方法として、液体に液晶ポリエステルフィラメントを浸漬させて膨潤させた後、液体と気体の混合流体スプレーノズルを用いることが好ましい。
【0061】
固相重合後に繊維表面に残存している固相重合油剤は、繊維の後加工工程である製織工程において、ガイドや筬、繊維自体に堆積し、スカムと呼ばれる屑が発生し、このスカムが製品に混入することで製品不良の原因、あるいは糸の開口運動を阻害することによる糸切れ原因となるため、固相重合後に固相重合油剤を洗浄除去することは液晶ポリエステルフィラメントの製造において重要である。
【0062】
特にフィラメントからなるフィルターに対する性能向上のための織密度の高密度化(高メッシュ化)や紗厚の低減のほか、開口部(オープニング)の開口率向上の要望が強まり、これを達成するためにフィラメント繊度の細繊度化が要求されている。また高密度化に伴い、製織時に筬打ちでフィラメントが受ける負荷および筬打ち回数が大きくなり、繊維表面に残存する固相重合油剤によるスカムに起因して、製織糸切れや製品欠点(スカム)が多くなることから、これまで以上に洗浄を強化することが求められている。
【0063】
洗浄工程後のパッケージ状の固相重合糸は解舒するが、その方法は固相重合で生じる軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するためには固相重合パッケージを回転させながら、回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましい。そのような解舒方法としては、モーター等を用いて回転数一定で積極駆動する方法、ダンサーローラーを用いて回転数を制御しながら調速解舒する方式、フリーロールに固相重合パッケージをかけて、調速ローラーにより繊維を引っ張りつつ解舒する方法が挙げられる。
【0064】
固相重合した液晶ポリエステルフィラメントの洗浄方法は、まず固相重合した後の液晶ポリエステルフィラメントを走行させつつ、固相重合油剤が溶解または分散できる液体中に浸漬させる。液体への浸漬方法は、キスロールを用いて液体と接触させるなどの方法でも良いが、液体で満たされた浴内に液晶ポリエステルフィラメントを走行させる方法は使用する液体量を低減でき、液体の周囲への飛散を防ぎ、かつ液体との接触時間を長くできる点で好ましい。
【0065】
浸漬による洗浄に用いる液体は、環境負荷を低減するために水とすることが好ましい。液体の温度は高い方が除去効率を高めることができ、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。ただし温度が高すぎる場合には液体の蒸発が著しくなるため、液体の沸点-20℃以下が好ましく、(沸点-30)℃以下がより好ましい。
【0066】
洗浄に用いる液体には、洗浄効率向上の観点から界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は除去効率を高め、かつ環境負荷を低下させるため0.01~1重量%が好ましく、0.1~0.5重量%がより好ましい。
【0067】
さらに、洗浄効率を高めるため、浸漬による洗浄に用いる液体に振動または液流を付与することが好ましい。この場合、液体を超音波振動させるなどの手法もあるが、設備簡素化、省エネの観点から液流を付与することが好ましい。液流付与の方法は液浴内の撹拌、ノズルでの液流付与等の方法があるが、液浴を循環する際の供給をノズルで行うことで簡単に実施できることからノズルでの液流付与が好ましい。また繊維を液体中に浸す方法は、ガイド等を用いて繊維を浴内に導く方法でも良いが、ガイドとの接触抵抗による固相重合繊維のフィブリル化を抑制するため、浴の両端にスリットを設け、このスリットを通って繊維が浴内を通過できるようにし、かつ浴内には糸道ガイドを設けないことが好ましい。
【0068】
次いで液体と気体の混合流体スプレーノズルを用いた洗浄を行う。液体と気体の混合流体スプレーノズルを用いることにより、細かい液体粒子を繊維表面の固相重合油剤の残存物に衝突させ、走行糸に過度な負荷を与えずに、効率的に固相重合油剤の残存物を除去できる。
【0069】
液体と気体の混合スプレーノズルによる洗浄直後の走行糸の走行張力は1.0cN以上、20.0cN以下とすることが好ましい。1.0cN以上とすることで走行状態があんていするため好ましい。20.0cNを超えると工程中のガイド等との擦過により、フィブリルや毛羽が発生しやすくなるため好ましくない。より好ましくは5.0cN以上、15.0cN以下である。
【0070】
洗浄後の液晶ポリエステルフィラメントの固相重合油剤の付着量は、高次加工工程や製織工程での繊維の工程通過性向上や織物品位向上の観点から0.20重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.10重量%以下、最も好ましくは0.07重量%以下である。なお、洗浄後の固相重合油剤の付着量は、洗浄工程の直後で巻き取った繊維について実施例に記載の油分付着率測定の方法で測定される値をいう。
【0071】
また、液晶ポリエステルフィラメントの耐摩耗性向上のため、洗浄後にTm以上の温度で高温熱処理を施すことが好ましい。なお、ここで言うTmは実施例記載の測定方法により求められた値を指す。Tmは液晶ポリエステルフィラメントの融点であるが、液晶ポリエステルフィラメントに融点以上の高温で熱処理を施すことでTmにおけるピーク半値幅は15℃以上となり、繊維全体の結晶化度、結晶の完全性を低下させることで耐摩耗性が大きく向上する。なお、熱処理はモノフィラメント、マルチフィラメントのどちらに対しても耐摩耗性向上効果があるが、マルチフィラメントは単糸間でムラができやすく、モノフィラメントの方が熱処理の効果である耐摩耗性の向上が顕著である。
【0072】
熱処理という点では液晶ポリエステルフィラメントの固相重合があるが、この場合の処理温度は液晶ポリエステルフィラメントの融点以下としないと繊維が融着、溶断してしまう。固相重合の場合、処理に伴い液晶ポリエステルフィラメントの融点が上昇するため、最終の固相重合温度は処理前の繊維の融点以上となることがあるが、その場合でも処理温度は処理されている液晶ポリエステルフィラメントの融点、すなわち熱処理後の液晶ポリエステルフィラメントの融点よりも低い。すなわち、ここでいう高温熱処理とは、固相重合を行うことではなく、固相重合によって形成された緻密な結晶部分と非晶部分の構造差を減少させること、つまり結晶化度、結晶の完全性を低下させることで耐摩耗性を高めるものである。
【0073】
また、別の熱処理として液晶ポリエステルフィラメントの熱延伸があるが、熱延伸は高温で繊維を緊張させるものであり、繊維構造は分子鎖の配向が高くなり、強度、弾性率は増加し、結晶化度、結晶の完全性は維持したまま、すなわちΔHmは高いまま、Tmのピーク半値幅は小さいままである。したがって耐摩耗性に劣る繊維構造となり、結晶化度を低下(ΔHm減少)、結晶の完全性を低下(ピーク半値幅増加)させて耐摩耗性を向上させることを目的とする本発明の熱処理とは異なる。なお本発明で言う高温熱処理では結晶化度が低下するため、強度、弾性率は増加しない。
【0074】
高温熱処理は、液晶ポリエステルフィラメントを連続的に走行させながら行うことが繊維間の融着を防ぎ、処理の均一性を高められるため好ましい。このときフィブリルの発生を防ぎ、かつ均一な処理を行うため、非接触熱処理を行うことが好ましい。加熱手段としては雰囲気の加熱、レーザーや赤外線を用いた輻射加熱などがあるがブロックまたはプレートヒーターを用いたスリットヒーターによる加熱は雰囲気加熱、輻射加熱の両方の効果を併せ持ち、処理の安定性が高まるため好ましい。また、高温熱処理は、繊維の溶断や分子鎖の配向の緩和を防ぎつつ、十分に結晶化度を下げるため、高温短時間であることが望ましい。
【0075】
処理温度は十分に結晶化度、結晶の完全性を低下させるためには高い方が好ましく、液晶ポリエステルフィラメントの(Tm+80)℃以上とすることが好ましく、さらに好ましくは、液晶ポリエステルフィラメントの(Tm+120)℃以上であることが好ましい。また、処理温度の上限としては、液晶ポリエステルフィラメントが溶断する温度であり、張力、速度、単繊維繊度、処理長で異なるが(Tm+300)℃程度である。
【0076】
処理時間は結晶化度、結晶の完全性を低下させるためには長い方が好ましく、0.01秒以上が好ましく、0.05秒以上がより好ましく、0.1秒以上がさらに好ましい。また処理時間の上限は、設備負荷を小さくするため、また処理時間が長いと分子鎖の配向が緩和し強度、弾性率が低下するため5.0秒以下が好ましく、3.0秒以下がより好ましく、2.0秒以下とすることがさらに好ましい。
【0077】
処理速度は処理長にもよるが高速であるほど高温短時間処理が可能となり、耐摩耗向上効果が高まり、さらに生産性も向上するため100m/分以上が好ましく、200m/分以上がより好ましく、300m/分以上がさらに好ましい。処理速度の上限は繊維の走行安定性から1000m/分程度である。
【0078】
処理長は加熱方法にもよるが、非接触加熱の場合には均一な処理を行うために100mm以上が好ましく、200mm以上がより好ましく、500mm以上がさらに好ましい。また処理長が過度に長いとヒーター内部での糸揺れにより処理ムラ、繊維の溶断が発生するため3000mm以下が好ましく、2000mm以下がより好ましく、1000mm以下がさらに好ましい。
【0079】
処理張力は過度に高いと熱による溶断が発生しやすく、また過度の張力がかかった状態で熱処理を行う場合、結晶化度の低下が小さく耐摩耗性の向上効果が低くなるため、できるだけ低張力にすることが好ましい。張力が低いと繊維の走行が不安定となり処理が不均一になることから、0.001cN/dtex以上1.0cN/dtex以下が好ましく、0.01cN/dtex以上0.5cN/dtex以下がより好ましく、0.1cN/dtex以上0.3cN/dtex以下がさらに好ましい。張力を好ましい範囲とするため、熱処理前後の該繊維の速度をそれぞれ第1ローラーおよび第2ローラーにより規制する。張力維持のために必要なローラー間の速度差(ストレッチ率=(第2ローラー速度―第1ローラー速度)/(第2ローラー速度))が大きい場合、延伸に近い形での熱処理となり、熱処理後も繊維の配向性や結晶性が維持されるため、ストレッチ率は-0.02以上0.05以下が望ましく、-0.01以上0.03以下であることがさらに好ましい。
【0080】
また、液晶ポリエステルポリマーの直線性が低い場合等に、分子鎖の配向の緩和速度が早く、熱処理において、処理温度や処理張力やストレッチ率を好ましい範囲に収めることが困難な場合がある。そのような場合は、熱処理において多段式のヒーターを用い、ヒーター入口部と出口部の温度差をつけることが有効である。入口部のヒーター温度を出口部より高くし、繊維の結晶化度が低下する直前の温度まで素早く予熱し、出口部のヒーターで繊維の結晶化度が低下する温度とすることで、繊維の配向構造が変化する不安定で低張力となる状態を最小限に抑え、操業性の悪化を防ぎながら、結晶化度を低下させ、耐摩耗性を向上させることができる。また、1段のヒーターを用いて十分熱処理可能な場合においても、同様に高温熱処理のヒーター入口部と出口部の温度差をつけることで糸走行性が向上し、さらなる操業性の向上が見込まれる。このような熱処理は、2段の温度設定が可能なヒーターや、2個のヒーターを連続させることで十分実施可能であるが、ヒーター加熱時間を最小限に抑えるため、途中で繊維が冷却されてしまうような構造は望ましくない。そのため、1つの断熱された加熱ボックス内に、別個に温度設定が可能な複数のヒーターにより、繊維が途切れことなく、連続的に加熱されるような熱処理装置が望ましい加熱装置の一種として挙げられる。入口部と出口部のヒーターの温度差としては、出口部のヒーター温度が入口部のヒーター温度よりも20℃以上低いことが好ましく、30℃以上低いことがさらに好ましい。なお、本発明はヒーターの温度設定の段数、ヒーターの個数、ヒーターの連続方法等を制限するものではない。
【0081】
なお、上記した洗浄および熱処理は、途中で一旦巻き取ることなく、連続した一工程内で行うことが好ましい。特に固相重合後の液晶ポリエステルフィラメントを巻き取る際には、ワインダーでの擦過等により繊維のフィブリル化が発生するため、洗浄を行った後、引き続いて熱処理を行い、耐摩耗性を高めることが好ましい。
【0082】
また、洗浄や熱処理等の後の工程における工程通過性向上の観点から仕上げ油剤を塗布することが好ましい。仕上げ油剤としては、ポリエステル繊維用に一般に用いられる仕上げ油剤が好ましく適用できる。
【0083】
仕上げ油剤の付着率としては、表面平滑性向上による耐摩耗性向上、工程通過性向上などのため繊維重量に対し0.1重量%以上が好ましい。油分は多いほどその効果は高まるため、0.3重量%以上がより好ましい。ただし油分が多すぎると繊維同士の接着力が高まり、工程通過性を阻害するほか、工程汚れを発生させるため、2.0重量%以下、1.5重量%以下が好ましい。ここでいう仕上げ油剤の付着率とは、仕上げ油剤付与後の繊維について実施例記載の方法にて求められる油分付着率の値から同繊維の残存固相重合油剤の付着率の値を差し引いた値をいう。
【0084】
以上のようにして、本発明の液晶ポリエステルフィラメントを得ることができる。
本発明で得られる液晶ポリエステルフィラメントは、強度が10.0~20.0cN/dtexであることが望ましい。さらに望ましくは、強度が10.0cN/dtex以上である。本発明で得られる液晶ポリエステルフィラメントは、伸度が1.5~4.5%であることが望ましい。さらに望ましくは、3.5%以下である。本発明で得られる液晶ポリエステルフィラメントは、弾性率が650~850cN/dtexであることが望ましい。さらに望ましくは、830cN/dtex以下である。また、本発明の液晶ポリエステルフィラメントは、用途に応じてマルチフィラメントとすることもでき、モノフィラメントに限定するものではない。また、本発明の液晶ポリエステルフィラメントは、細繊度であることが望ましく、10T以下、望ましくは、8T以下、さらに望ましくは6T以下であることが望ましいが、用途に応じて10T以上の繊度とすることもでき、繊度を限定するものではない。
【実施例0085】
以下、本発明の液晶ポリエステルフィラメントについて実施例をもって具体的に説明する。実施例の測定値は、次の方法で測定した。
【0086】
A.繊度
検尺機にて繊維を300mカセ取りし、その重量(g)を100/3倍し、1水準当たり10回の測定を行い、平均値を繊度(dtex)とした。
【0087】
B.強度、伸度、弾性率
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長500mm、引張速度50mm/分の条件で、オリエンテック社製テンシロンUTM-100を用い1水準当たり20回の測定を繊維長手方向に連続して行い、平均値を強度(cN/dtex)、伸度(%)、弾性率(cN/dtex)とした。なお、弾性率とは初期引張抵抗度のことである。
【0088】
C.油分付着率
1.0±0.1gの繊維を採取し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W)、繊維重量に対し100倍以上の水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを繊維重量に対し2.0重量%添加した溶液に繊維を浸漬させ、室温にて20分超音波洗浄し、洗浄後の繊維を水洗し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量(W)を測定し、次式 (油分付着率(重量%))=(W-W)×100/W により油分付着率を算出した。
【0089】
D.液晶ポリエステルフィラメントのTm、Tmにおけるピーク半値幅、融解熱量ΔHm、液晶ポリエステルポリマーの融点(Tm
TA instruments社製DSC2920により示差熱量測定を行い、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度をTm℃とし、Tmにおけるピーク半値幅(℃)、融解熱量ΔHm(J/g)を測定した。
【0090】
なお、参考例に示した液晶ポリエステルポリマーについてはTmの観測後、(Tm+20)℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で50℃まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークをTmとし、Tmをもってポリマーの融点とした。
【0091】
E.ポリスチレン換算の重量平均分子量(分子量)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、液晶ポリエステルの濃度が0.04~0.08重量/体積%となるように溶解させGPC測定用試料とした。なお、室温24時間の放置でも不溶物がある場合は、さらに24時間静置し、上澄み液を試料とした。これを、Waters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算により重量平均分子量Mwを求めた。
カラム:ShodexK-806M 2本、K-802 1本
検出器:示差屈折率検出器RI
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:200μL
F.耐摩耗性
直径4mmのセラミック棒ガイド(湯浅糸道工業(株)製棒ガイド:材質YM-99C、硬度Hv1800)に接触角10°でかけた繊維の両端をストローク装置(東洋精機製作所社製糸摩擦抱合力試験機)に把持し、繊維に0.88cN/dtexの応力を付与しつつ、ストローク長30mm、ストローク速度75m/分で繊維を擦過させたのちに、ストローク長内の繊維のフィブリル発生個数をカウントした。サンプル10固のフィブリル発生個数を合計し、以下のような基準で耐摩耗性を評価した。
〇:フィブリル発生個数が5個以下であり、耐摩耗性に優れており、製織時に毛羽が発生しない。
△:フィブリル発生個数が6個以上10個以下であり、製織時に毛羽は発生するものの、少量であり、致命的な問題とはならない。
×:フィブリル発生個数が11個以上であり、製織時に毛羽が多発する。
【0092】
G.ヒーター糸揺れ
糸走行時のヒーターの糸揺れを以下のような基準で評価した。
〇:まったく糸揺れが生じていない。
△:糸揺れは生じているが、糸掛け可能である。
×:激しい糸揺れが生じており、糸掛け不可、もしくは、糸切れが頻発する。
【0093】
実施例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1460重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、335℃まで4時間で昇温した。
【0094】
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1個持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
得られた液晶ポリエステルの組成、融点、分子量は表1に記載の通りである。
【0095】
【表1】
【0096】
上記液晶ポリエステルを用い、160℃、12時間の真空乾燥を行った後、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて330℃にて溶融させた後、紡糸温度340℃で配管内を通過させ、1口金1.7g/分となるようにギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。紡糸パックでは金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、L/Dが2.0の口金より4糸条のポリマーを吐出した。吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、25℃、空気流の環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、脂肪酸エステル化合物を主成分とする紡糸油剤を付与し全フィラメントを1000m/分の第1ゴデットロールにモノフィラメントとして1糸条ずつ引き取った。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、ダンサーアームを介したスピンドルトラバース型のパーンワインダー(パッケージに接触するコンタクトロール無し)にてパーンの形状に巻き取った。紡糸ドラフトは25であり、巻取中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。なお、得られたモノフィラメントの単繊維繊度は6.9dtex、強度は7.0cN/dtex、伸度は1.5%、弾性率は606cN/dtexであった。また、紡糸スタート時のろ圧は7.0MPa、ろ圧上昇は0.09MPa/hrであり、ろ圧上限である25MPaに達するまで8日以上、糸切れ等もなく、操業性良好に紡糸することができた。
【0097】
この紡糸繊維パッケージから神津製作所社製プレシジョンワインダーSSP-MVのカムボックス部(トラバース装置)にIAI製電動シリンダーRCP-SAC3をリンク機構を介して接続した巻取装置(タッチロール無し、ワインド数8.7、テーパー角45°)を用いて巻返しを行った。この際、キーエンス製変位センサIL-065でパッケージ外径を検出し、検出したパッケージ径に基づき、フリーレングスが一定となるように電動シリンダーを駆動させてカムボックス部を移動させた。紡糸繊維の解舒は、縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に行い、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いてリン酸系化合物(B)として下記化学式(4)で示されるリン酸系化合物(B)を10.0重量%含有する水溶液に無機粒子(A)として滑石であるタルクを1.0重量%分散させた固相重合用油剤の給油を行った。巻き返し後のモノフィラメントへの固相重合油剤の油分付着率(a+b)は21.5重量%であった。
【0098】
【化3】
【0099】
次に巻き返したパッケージの固相重合を行なった。固相重合は、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で290℃まで昇温し、15時間保持する条件にて固相重合を行った。なお、雰囲気は除湿窒素を流量20NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないように排気口より排気させた。
【0100】
得られた固相重合後のモノフィラメントの繊度は6.3dtex、強度は25.4cN/dtex、伸度は2.7%、弾性率は1138cN/dtexであり、固相重合前のモノフィラメントと比べて強度、伸度、弾性率が向上しており、固相重合が進んでいることが確認できた。なお、得られた固相重合後のモノフィラメントのTmは315℃、ΔHmは8.8J/g、Tmにおけるピーク半値幅は9.5℃であった。
【0101】
続いて、固相重合後のパッケージから繊維を解舒し、固相重合油剤除去のための洗浄を行なった。固相重合後のパッケージをフリーロールクリール(軸およびベアリングを有し、外層部は自由に回転できる。ブレーキおよび駆動源なし)にはめ、ここから糸を横方向(繊維周回方向)に引き出し、連続して、繊維を両端にスリットを設けた浴長150cm(接触長150cm)の浴槽(内部に繊維と接触するガイドなし)内に通し、固相重合油剤を洗浄除去した。洗浄液は非イオン・アニオン系の界面活性剤含有した50℃の温水を用いた。その後、スプレーイングシステムス社製二流体エアーアトマイジングノズルを用い、水と空気の混合流体スプレーノズルでの洗浄を行った。孔径は1.5mmのスプレーノズル2個を使用し、水圧0.20MPa、圧縮空気圧0.20MPa、スプレーノズル噴射口と走行糸との距離は15.0mmとした。使用される水量は100mL/分・個、使用される圧縮空気量は35L/分・個であった。洗浄後の繊維はベアリングローラーガイドを通した後、セパレートローラー付きの第1ローラーに通した。なお、クリールはフリーロールであるため、このローラーにより繊維に張力を付与することで、固相重合パッケージからの解舒を行ない、繊維を走行させることになる。
【0102】
ローラーを通過した繊維を入口部を460℃、出口部を440℃に加熱した長さ1mで、入口部と出口部で別個に温度設定可能なスリットヒーター間を走行させ、高温非接触熱処理を行なった。スリットヒーター内にはガイド類を設けず、またヒーターと繊維も非接触としている。ヒーター通過後の繊維はセパレートローラー付きの第2ローラーに通した。第2ローラーの速度を400m/分として、糸揺れが生じないよう第1ローラーの速度を変更した所、第1ローラーの速度が396m/分以下で糸揺れが生じないため、第1ローラーを396m/分に設定した(ストレッチ率1.0%)。第2ローラーを通過した繊維は、セラミック製のオイリングローラーにより脂肪酸エステル化合物を主体とする仕上げ油剤を付与し、ダンサーアームを介したスピンドルトラバース方式のパーンワインダーにて巻き取った。得られたモノフィラメントの物性は表2に示すとおり、強度18.8cN/dtex、伸度2.9%、弾性率814cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は4個であり、耐摩耗性良好であった。
【0103】
【表2】
【0104】
実施例2
熱処理ヒーターの温度を変更して、入口部の雰囲気温度を470℃、出口部の雰囲気温度を440℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を392m/分(ストレッチ率2.0%)とした所、熱処理ヒーターでの糸揺れはまったく生じなかった。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表2に示すとおり、強度18.6cN/dtex、伸度2.9%、弾性率798cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は3個であり、耐摩耗性良好であった。
【0105】
実施例3
熱処理ヒーターの温度を変更して、入口部の雰囲気温度を480℃、出口部の雰囲気温度を440℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を388m/分(ストレッチ率3.0%)とした所、熱処理ヒーターで若干糸揺れが生じるものの、走行性に問題はなかった。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表2に示すとおり、強度18.5cN/dtex、伸度3.0%、弾性率763cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は4個であり、耐摩耗性は良好であった。
【0106】
実施例4
熱処理ヒーターの温度を変更して、入口部の雰囲気温度を465℃、出口部の雰囲気温度を435℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を396m/分(ストレッチ率1.0%)とした所、熱処理ヒーターでの糸揺れはまったく生じなかった。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表2に示すとおり、強度18.9cN/dtex、伸度2.9%、弾性率841cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は7個であった。
【0107】
実施例5
熱処理ヒーターの温度を変更して、入口部の雰囲気温度を470℃、出口部の雰囲気温度を430℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を398m/分(ストレッチ率0.5%)とした所、熱処理ヒーターでの糸揺れはまったく生じなかった。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表2に示すとおり、強度19.1cN/dtex、伸度2.8%、弾性率866cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は8個であった。
【0108】
実施例6
熱処理ヒーターの温度を変更して、入口部の雰囲気温度を440℃、出口部の雰囲気温度を460℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を388m/分(ストレッチ率3.0%)とした所、熱処理ヒーターで若干糸揺れが生じるものの、走行性に問題はなかった。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表3に示すとおり、強度18.4cN/dtex、伸度3.0%、弾性率782cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は7個であった。
【0109】
実施例7
熱処理ヒーターの温度を変更して、入口部の雰囲気温度を455℃、出口部の雰囲気温度を445℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を392m/分(ストレッチ率2.0%)とした所、熱処理ヒーターで若干糸揺れが生じるものの、走行性に問題はなかった。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表3に示すとおり、強度18.8cN/dtex、伸度2.8%、弾性率803cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は6個であった。
【0110】
比較例1
熱処理ヒーターの温度が、入口部と出口部で同じ450℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を392m/分(ストレッチ率2.0%)とした所、熱処理ヒーターで糸揺れが大きく、糸切れが頻発した。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表3に示すとおり、強度18.7cN/dtex、伸度2.8%、弾性率797cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は5個であった。
【0111】
【表3】
【0112】
比較例2
熱処理ヒーターの温度が、入口部と出口部で同じ460℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を386m/分(ストレッチ率3.5%)とした所、熱処理ヒーターで糸揺れが大きく、糸切れが頻発した。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表3に示すとおり、強度18.5cN/dtex、伸度3.1%、弾性率757cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は2個であった。
【0113】
比較例3
熱処理ヒーターの温度が、入口部と出口部で同じ440℃とした以外は、実施例1と同様にして液晶ポリエステルモノフィラメントを得た。第1ローラー速度を398m/分(ストレッチ率0.5%)とした所、熱処理ヒーターでの糸揺れはまったく生じなかった。熱処理で得られた液晶ポリエステルモノフィラメントの物性は表3に示すとおり、強度18.8cN/dtex、伸度2.7%、弾性率872cN/dtexとなった。また、擦過試験にて耐摩耗性を調査した所、フィブリル数は15個であった。