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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103362
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20250702BHJP
【FI】
B60W30/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220713
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】浦本 征吾
(72)【発明者】
【氏名】福庭 一志
(72)【発明者】
【氏名】伊与田 輝
(72)【発明者】
【氏名】奥 正輝
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA32
3D241BA33
3D241BC01
3D241BC02
3D241CE04
3D241DA12Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DC31Z
3D241DC33Z
3D241DC50Z
3D241DC51Z
3D241DD01Z
(57)【要約】
【課題】ドライバの異常検知から所定の待機時間が経過したときの車両周辺の障害物や道路端までの距離を確保することが可能な、車両制御システムを提供する。
【解決手段】車両制御システム(100)は、車両(1)の操舵装置(5)に操舵力を付与するEPS(33)と、操舵角センサ(27)と、ドライバの異常が検知された後、ドライバの異常が所定時間継続した場合に、車両を停止させるように、車両を制御するように構成されたECU(10)とを備え、ECUは、ドライバの異常が検知された場合、車両の操舵輪に発生するセルフアライニングトルクにより操舵角が減少するときのセルフアライニング角速度(ωsa)を算出し、ドライバの異常検知から所定時間が経過するまでの間、セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角が減少するように、EPSによって操舵装置に操舵力を付与させる操舵角減少制御を実行するように構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバの異常を検知するドライバ異常検知装置と、
前記車両の操舵装置に操舵力を付与するパワーステアリング装置と、
前記操舵装置の操舵角を取得する操舵角センサと、
前記ドライバ異常検知装置により前記ドライバの異常が検知された後、前記ドライバの異常が所定時間継続した場合に、前記車両を停止させるように、前記車両を制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記ドライバ異常検知装置により前記ドライバの異常が検知された場合、
前記車両の操舵輪に発生するセルフアライニングトルクにより操舵角が減少するときのセルフアライニング角速度を算出し、
前記ドライバの異常検知から前記所定時間が経過するまでの間、前記セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角が減少するように、前記パワーステアリング装置によって前記操舵装置に操舵力を付与させる操舵角減少制御を実行する、
ように構成されている、
車両制御システム。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記ドライバ異常検知装置により前記ドライバの異常が検知された場合において、前記ドライバの異常検知直前に前記操舵角が増大していた又は一定であった場合に、前記操舵角減少制御を実行するように構成されている、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記ドライバ異常検知装置により前記ドライバの異常が検知された場合において、前記ドライバの異常検知直前に前記操舵角が前記セルフアライニング角速度より小さい角速度で減少していた場合に、前記操舵角減少制御を実行するように構成されている、
請求項1又は2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記車両の進行方向における走行可能領域を検出する走行可能領域検出装置を備え、
前記コントローラは、
前記操舵角減少制御を実行する場合、
前記ドライバの異常検知時の走行可能領域を検出し、
前記セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角を減少させたときの前記車両の予測走行経路を、複数の前記角速度について予測し、
前記走行可能領域内における前記予測走行経路の経路長が最も長くなるときの前記角速度で操舵角が減少するように、前記操舵角減少制御を実行する、
ように構成されている、
請求項1又は2に記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドライバが安全に運転できない状態に陥った場合に異常を検知し車両を自動的に停止させるドライバ異常時対応システムの開発が進められている。例えば、ドライバの姿勢の崩れを検出することによりドライバの異常を検知した場合に、車線を維持しながら徐々に車両を減速させ、可能な場合には路肩等に車両を寄せて自動停止させること等が想定されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-13394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなドライバ異常時対応システムでは、ドライバの異常状態の検知が誤検知である可能性を考慮し、異常検知から所定の待機時間(例えば3.2秒)が経過した後に停車制御を開始するようになっている。待機時間中にドライバの異常状態が検知されなくなった場合や、ドライバ自身が異常検知のキャンセルスイッチを押した場合には、減速制御の実行がキャンセルされる。
【0005】
実際にドライバに異常が発生しており運転操作が不可能な状態である場合、待機時間中に車両が走行路の中央近傍に留まるように、車線維持制御等の操舵介入を行うことが望ましい。しかしながら、白線などの車線境界線が無い道路を車両が走行しているときなど、通常の車線維持制御を行うことが困難な場合もある。そのような場合でも、待機時間が経過して停車制御を開始する時の道路端や障害物までの距離を少しでも大きく確保するためには、何らかの操舵介入を行うことが望ましい。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、ドライバの異常検知から所定の待機時間が経過したときの車両周辺の障害物や道路端までの距離を確保することが可能な、車両制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両制御システムであって、車両のドライバの異常を検知するドライバ異常検知装置と、車両の操舵装置に操舵力を付与するパワーステアリング装置と、操舵装置の操舵角を取得する操舵角センサと、ドライバ異常検知装置によりドライバの異常が検知された後、ドライバの異常が所定時間継続した場合に、車両を停止させるように、車両を制御するように構成されたコントローラと、を備え、コントローラは、ドライバ異常検知装置によりドライバの異常が検知された場合、車両の操舵輪に発生するセルフアライニングトルクにより操舵角が減少するときのセルフアライニング角速度を算出し、ドライバの異常検知から所定時間が経過するまでの間、セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角が減少するように、パワーステアリング装置によって操舵装置に操舵力を付与させる操舵角減少制御を実行する、ように構成されている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、ドライバ異常検知装置によりドライバの異常が検知された場合、車両の操舵輪に発生するセルフアライニングトルクにより操舵角が減少するときのセルフアライニング角速度を算出し、ドライバの異常検知から所定時間が経過するまでの間、セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角が減少するように、パワーステアリング装置によって操舵装置に操舵力を付与させる操舵角減少制御を実行するので、車両の旋回走行中にドライバの異常が検知された場合に、セルフアライニングトルクによる操舵角の減少を抑制することができる。これにより、ドライバの異常検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両から道路端や障害物までの距離を確保することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、コントローラは、ドライバ異常検知装置によりドライバの異常が検知された場合において、ドライバの異常検知直前に操舵角が増大していた又は一定であった場合に、操舵角減少制御を実行するように構成されている。
【0010】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、ドライバの異常が検知された場合において、ドライバの異常検知直前に操舵角が増大していた又は一定であった場合に、操舵角減少制御を実行するので、異常検知以降も車両の旋回状態が継続していると考えられ、操舵介入を行うことが望ましい場合に、セルフアライニングトルクによる操舵角の減少を抑制することができる。これにより、ドライバの異常検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両から道路端や障害物までの距離を確実に確保することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、コントローラは、ドライバ異常検知装置によりドライバの異常が検知された場合において、ドライバの異常検知直前に操舵角がセルフアライニング角速度より小さい角速度で減少していた場合に、操舵角減少制御を実行するように構成されている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、ドライバの異常が検知された場合において、ドライバの異常検知直前に操舵角がセルフアライニング角速度より小さい角速度で減少していた場合に、操舵角減少制御を実行するので、異常検知以降も車両の旋回状態が継続していると考えられ、操舵介入を行うことが望ましい場合に、セルフアライニングトルクによる操舵角の減少を抑制することができる。これにより、ドライバの異常検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両から道路端や障害物までの距離を確実に確保することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、車両制御システムは、車両の進行方向における走行可能領域を検出する走行可能領域検出装置を備え、コントローラは、操舵角減少制御を実行する場合、ドライバの異常検知時の走行可能領域を検出し、セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角を減少させたときの車両の予測走行経路を、複数の角速度について予測し、走行可能領域内における予測走行経路の経路長が最も長くなるときの角速度で操舵角が減少するように、操舵角減少制御を実行する、ように構成されている。
【0014】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、操舵角減少制御を実行する場合、セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角を減少させたときの車両の予測走行経路の中で、走行可能領域内における予測走行経路の経路長が最も長くなるときの角速度で操舵角が減少するように、操舵角減少制御を実行するので、ドライバの異常検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両の進行方向における走行可能領域を広く確保することができ、道路端や障害物までの距離を可能な限り大きく確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両制御システムによれば、ドライバの異常検知から所定の待機時間が経過したときの車両周辺の障害物や道路端までの距離を確保することできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による車両制御システムが搭載された車両の説明図である。
図2】本発明の実施形態による車両制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態による車両制御処理のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態による操舵角減少制御における操舵角の変化を示す図である。
図5】本発明の実施形態による操舵角減少制御を実行するときの走行経路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムを説明する。
【0018】
[システム構成]
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態による車両制御システムの構成について説明する。図1は車両制御システムが搭載された車両の説明図、図2は車両制御システムのブロック図である。
【0019】
本実施形態による車両1は、駆動力を出力するエンジンや電気モータなどの駆動力源2、駆動力源2から出力された駆動力を駆動輪に伝達するトランスミッション3、車両1に制動力を付与するブレーキ4、及び車両1を操舵するための操舵装置5を備えている。
【0020】
車両制御システム100は、車両1の加減速及び操舵の制御(車両制御)を行うことができるように構成されている。図2に示すように、車両制御システム100は、コントローラとしてのECU(Electronic Control Unit)10と、複数のセンサ類と、複数の制御システムと、を有する。
【0021】
具体的には、複数のセンサ類には、車内カメラ21、車外カメラ22、車両1の挙動や乗員による運転操作を検出するための車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25,ステア把持センサ26、操舵角センサ27、アクセルセンサ28、ブレーキセンサ29が含まれている。さらに、複数のセンサ類には、車両1の位置を検出するための測位・ナビゲーションシステム30が含まれている。複数の制御システムには、駆動力源2やトランスミッション3を制御するパワートレインコントロールモジュール(PCM)31、駆動力源2やブレーキ4を制御するダイナミックスタビリティコントロールシステム(DSC)32、及び操舵装置5を制御する電動パワーステアリングシステム(EPS)33が含まれている。
【0022】
また、他のセンサ類として、車両1に対する周辺構造物の距離及び位置を測定する周辺ソナー、車両1の周辺の障害物を検出するレーダ等が含まれていてもよい。
【0023】
ECU10は、複数のセンサ類から受け取った信号に基づいて種々の演算を実行し、PCM31、DSC32、EPS33に対して、駆動力源2、トランスミッション3、ブレーキ4、操舵装置5を適宜に作動させるための制御信号を送信する。ECU10は、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶するメモリ(ROM、RAMなど)、入出力装置などを備えたコンピュータにより構成される。なお、ECU10は、本発明における「コントローラ」の一例に相当する。また、ECU10は、車内カメラ21、ステア把持センサ26、アクセルセンサ28及びブレーキセンサ29と共に、本発明における「ドライバ異常検知装置」の一例を構成する。さらに、ECU10は、車外カメラ22と共に本発明における「走行可能領域検出装置」の一例を構成する。
【0024】
車内カメラ21は、ドライバを撮影し、画像データを出力する。ECU10は、車内カメラ21から受信した画像データに基づいて、ドライバの姿勢を検出する。
【0025】
車外カメラ22は、車両1の周囲を撮影し、画像データを出力する。ECU10は、車外カメラ22から受信した画像データに基づいて、対象物(例えば、先行車両、駐車車両、歩行者、走行路、区画線(車線境界線、白線、黄線)、交通信号、交通標識、停止線、交差点、障害物等)、路面の状態等を特定する。また、ECU10は、車外カメラ22から受信した画像データに基づいて、車両1の周辺のフリースペース(走行可能領域)を検出する。走行可能領域は、検出された区画線等に基づき画定される走行車線だけではなく、舗装面と非舗装面との境界や、側溝と道路との境界等によって画定される物理的に走行可能な領域を含み、他の車両や歩行者等の障害物が存在しない領域である。画像データに基づくフリースペースの検出には、既知の手法を用いることができる。
【0026】
車速センサ23は、例えば車輪やドライブシャフトの回転速度に基づき車両1の速度を検出する。加速度センサ24は、車両1の加速度を検出する。この加速度は、車両1の前後方向の加速度と、横方向の加速度(つまり横加速度)とを含む。なお、本明細書においては、加速度には、速度が増加する方向の速度の変化率だけでなく、速度が減少する方向の速度の変化率(つまり減速度)も含むものとする。ヨーレートセンサ25は、車両1のヨーレートを検出する。
【0027】
ステア把持センサ26は、ステアリングホイールが把持されているか否かを検出する。操舵角センサ27は、車両1のステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する。アクセルセンサ28は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。ブレーキセンサ29は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
【0028】
測位・ナビゲーションシステム30は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムを用いて車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する測位システムと、内部に地図情報を格納したナビゲーションシステムとを含む。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
【0029】
PCM31は、車両1の駆動力源2を制御して、車両1の駆動力を調整する。例えば、PCM31は、エンジンの点火プラグ、燃料噴射弁、スロットルバルブ、可変動弁機構や、トランスミッション3、電気モータに電力を供給するインバータなどを制御する。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、PCM31に対して、駆動力を調整するために制御信号を送信する。
【0030】
DSC32は、車両1の駆動力源2やブレーキ4を制御して、車両1の減速制御や姿勢制御を行う。例えば、DSC32は、ブレーキ4の液圧ポンプやバルブユニットなどを制御し、PCM31を介して駆動力源2を制御する。ECU10は、車両1の減速制御や姿勢制御を行う必要がある場合に、DSC32に対して、駆動力を調整したり制動力を発生させたりするために制御信号を送信する。
【0031】
EPS33は、車両1の操舵装置5を制御する。例えば、EPS33は、操舵装置5のステアリングシャフトにトルク(操舵力)を付与する電動モータなどを制御する。ECU10は、EPS33に対して、操舵装置5に操舵力を付与するための制御信号を送信する。
【0032】
[車両制御処理]
次に、図3から図5を参照して、本実施形態の車両制御処理の流れについて説明する。図3は車両制御処理のフローチャートであり、図4は車両制御処理における操舵角減少制御による操舵角の変化を示す図であり、図5は操舵角減少制御を実行するときの走行経路の一例を示す図である。
【0033】
図3の車両制御処理は、ドライバの異常状態が検知された場合に車両1を緊急停車させる処理であり、車両1の電源がONにされた後、ECU10によって所定の周期(例えば、0.05~0.2秒毎)で繰り返し実行される。
【0034】
車両制御処理が開始されると、ECU10は、各センサ21~30から出力された信号を取得する(ステップS1)。各センサ21~30からの信号の取得は、ステップS1以降の処理においてもバックグラウンドで常時実行されている。
【0035】
次に、ECU10は、車内カメラ21、ステア把持センサ26、アクセルセンサ28、ブレーキセンサ29から取得した信号に基づき、ドライバの異常状態が検知されたか否かを判定する(ステップS2)。例えば、ECU10は、車内カメラ21から取得した信号に基づき、ドライバの姿勢が崩れている(例えばドライバの上半身全体が前方に倒れて顔がステアリングホイール近傍まで来ている場合や、ドライバの頭や上半身が左右の一方に傾いたままの場合など)か否かを判定する。また、ECU10は、ステア把持センサ26から取得した信号に基づき、ドライバがステアリングホイールを把持しているか否かを判定する。また、ECU10は、アクセルセンサ28及びブレーキセンサ29から取得した信号に基づき、アクセルペダル又はブレーキペダルの操作が行われているか否かを判定する。そして、ドライバの姿勢が崩れていること、ステアリングホイールが把持されていないこと、及びアクセルペダル及びブレーキペダルのどちらの操作も行われていないことの3つの条件が満たされた場合に、ドライバの異常状態が検知されたと判定する。一方、上記の3つの条件の1つでも満たされない場合には、ECU10は、ドライバの異常状態が検知されたと判定しない。
【0036】
ステップS2の判定の結果、ドライバの異常状態が検知されない場合(ステップS2:NO)、車両1を緊急停車させる必要はないので、ECU10は車両制御処理を終了する。
【0037】
一方、ドライバの異常状態が検知された場合(ステップS2:YES)、ECU10は、車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25から取得した信号に基づき、車両1の操舵輪(本実施形態では車両1の前輪)に発生するセルフアライニングトルクを算出する(ステップS3)。セルフアライニングトルクとは、タイヤにスリップ角が付いて横力を発生している状態(つまりタイヤが横滑りをしている状態)のときに、タイヤのスリップ角を0に戻す方向に発生するモーメント(トルク)をいう。車両1がカーブを走行しているときには、このセルフアライニングトルクが発生することにより、車両1の操舵角を減少させる方向のトルクが路面からタイヤを介して操舵装置5に加わっている。ECU10は、例えば、車速、操舵角及びヨーレートと前輪に発生するセルフアライニングトルクとの関係を特定するマップ(予め算出されメモリに記憶されている)を参照し、車速センサ23から取得した信号に基づく車速、操舵角センサ27から取得した信号に基づく操舵角、及びヨーレートセンサ25から取得したヨーレートに対応するセルフアライニングトルクを取得する。
【0038】
次に、ECU10は、ドライバ及びEPS33から操舵装置5に操舵力が付与されていない状態において、車両1の前輪に発生するセルフアライニングトルクにより操舵角が減少するときの角速度(以下、「セルフアライニング角速度」という)ωsaを算出する(ステップS4)。ここで、操舵角が減少して0に近づくほどセルフアライニングトルクは小さくなり、セルフアライニングトルクが小さいほどセルフアライニング角速度ωsaは小さくなる。即ち、セルフアライニング角速度ωsaは、操舵角に応じて変化する。そこで、ECU10は、車速一定と仮定して、ドライバの異常状態検知後のセルフアライニング角速度ωsaの時間変化を算出する。例えば、ドライバの異常状態検知時のセルフアライニングトルク及び操舵角とセルフアライニング角速度ωsaの時間変化との関係を特定するマップ(予め算出されメモリに記憶されている)を参照し、ステップS1で取得した操舵角及びステップS3で算出したセルフアライニングトルクに対応するセルフアライニング角速度ωsaの時間変化を取得する。
【0039】
次に、ECU10は、操舵角センサ27から取得した信号に基づき、ドライバの異常状態の検知直前に操舵角が増大していた又は一定であったか否かを判定する(ステップS5)。即ち、ドライバの状態が正常であったときに、ステアリングホイールを切り込む又は保持する操作が行われていたか否かを判定する。
【0040】
その結果、ドライバの異常状態の検知直前に操舵角が増大していた又は一定であった場合(ステップS5:YES)、異常状態の検知以降も車両1の旋回状態が継続していると考えられる。この場合、セルフアライニングトルクにより操舵角が減少すると、車両1はカーブ外側の道路端に接近することになる。したがって、操舵角の減少を抑制することが望ましい。
【0041】
そこで、まず、ECU10は、車外カメラ22から取得した画像データに基づき、車両1の進行方向におけるフリースペースを検出する(ステップS6)。
【0042】
次に、ECU10は、セルフアライニング角速度ωsaより小さい角速度で操舵角を減少させたときの車両1の予測走行経路を、複数の角速度について予測し、フリースペース内における予測走行経路の経路長が最も長くなるときの角速度を、操舵装置5の操舵角を減少させる操舵角減少制御を実行するときの角速度ωとして設定する(ステップS7)。
【0043】
例えば、ECU10は、ステップS4で算出したセルフアライニング角速度ωsaの時間変化に1未満の係数を乗じた角速度の時間変化を、異なる係数を用いて算出する。そして、それぞれの係数の場合における角速度の時間変化から操舵角の時間変化を算出し、算出した操舵角の時間変化と車速とに基づき予測走行経路を算出する。係数を小さくするほど角速度は小さくなるので、操舵角の減少が緩やかになり、車両1の予測走行経路の曲線半径が小さくなる。ECU10は、取得した複数の予測走行経路の中から、フリースペース内における経路長が最も長い予測走行経路を特定し、その予測走行経路の算出に用いた角速度を、操舵角減少制御を実行するための角速度ωとして設定する。
【0044】
図4は、操舵角減少制御により操舵角を減少させるときの操舵角の時間変化を例示した図であり、横軸はドライバの異常状態検知からの経過時間を表し、縦軸は操舵角を表している。図4において、点線はセルフアライニング角速度ωsaで操舵角を減少させた場合の操舵角の時間変化を示し、実線はセルフアライニング角速度ωsaより小さい角速度で操舵角を減少させたときの操舵角の時間変化を示している。図4に示すように、セルフアライニング角速度ωsaより小さい角速度で操舵角を減少させた場合には、セルフアライニング角速度ωsaで操舵角を減少させた場合よりも操舵角の減少が緩やかになる。
【0045】
図5は、操舵角減少制御を実行するときの走行経路の一例を示す図である。図5において、Eは車両1の左右の道路端、ドットの領域FSはドライバの異常状態検知時に検出されたフリースペースを示している。また、点線はセルフアライニング角速度ωsaで操舵角を減少させた場合の予測走行経路Bを示し、実線はセルフアライニング角速度ωsaより小さい角速度ωAで操舵角を減少させたときの予測走行経路であってフリースペースFS内における経路長が最も長い予測走行経路Aを示し、一点鎖線は角速度ωAよりもさらに小さい角速度ωCで操舵角を減少させたときの予測走行経路Cを示す。図5に示すように、操舵角を減少させるときの角速度が小さいほど、車両1の予測走行経路の曲線半径が小さくなり、予測走行経路Cの曲線半径が最も小さくなっている。この図5の例では、フリースペースFS内における経路長が最も長い予測走行経路Aの算出に用いた角速度ωAが、操舵角減少制御を実行するための角速度ωとして設定される。
【0046】
次に、ECU10は、ステップS7で設定した角速度ωで操舵角が減少するように、EPS33によって操舵装置5に操舵力を付与させる操舵角減少制御を開始する(ステップS8)。図5の例では、操舵角減少制御の実行により、車両1は予測走行経路Aに沿って走行するようになる。即ち、操舵角減少制御を実行せず、セルフアライニングトルクによって操舵角が減少する場合と比べて、車両1の走行経路の曲線半径が小さくなる。
【0047】
また、ステップS5において、ドライバの異常状態の検知直前に操舵角が増大しておらず、一定でもなかった場合(ステップS5:NO)、即ち操舵角が減少していた場合、ECU10は、ドライバの異常状態の検知直前における操舵角の角速度wnがセルフアライニング角速度ωsa未満か否かを判定する(ステップS9)。
【0048】
その結果、ドライバの異常状態の検知直前における操舵角の角速度wnがセルフアライニング角速度ωsa未満である場合(ステップS9:YES)、つまりドライバの状態が正常であったときに、セルフアライニングトルクに抗しながらステアリングホイールを少しずつ切り戻す操作が行われていた場合、車両1の旋回状態が継続していると考えられる。この場合、セルフアライニングトルクにより操舵角が減少すると、車両1はカーブ外側の道路端Eに接近することになるので、操舵角の減少を抑制することが望ましい。そこで、ステップS6に進み、ECU10はフリースペースFSを検出する。その後、ステップS7の処理を実行し、ステップS8で操舵角減少制御を開始する。
【0049】
一方、ドライバの異常状態の検知直前における操舵角の角速度wnがセルフアライニング角速度ωsa未満ではない場合(ステップS9:NO)、つまりドライバの状態が正常であったときに、ステアリングホイールを素早く切り戻す操作が行われていた場合には、既に車両1は旋回状態から直進状態に近い状態まで戻っていると考えられる。即ち、操舵角の減少を抑制する必要性は小さい。そこで、ECU10は、操舵角減少制御を開始することなく、ステップS10に進む。
【0050】
ステップS8で操舵角減少制御を開始した後、又は、ステップS9でドライバの異常状態の検知直前における操舵角の角速度wnがセルフアライニング角速度ωsa未満ではないと判定された後(ステップS9:NO)、ECU10は、ドライバの異常状態が継続しているか否か、即ちドライバの異常状態が依然として検知されているか否かを判定する(ステップS10)。
【0051】
その結果、ドライバの異常状態が継続していない場合(ステップS10:NO)、即ちドライバの異常状態が検知されない場合、ドライバは正常状態であり緊急停車は不要と考えられるので、ECU10は、操舵角減少制御を終了し(ステップS11)、車両制御処理を終了する。
【0052】
一方、ドライバの異常状態が継続している場合(ステップS10:YES)、ECU10は、ステップS2でドライバの異常状態を検知してから所定の待機時間(本実施形態では3.2秒)が経過したか否かを判定する(ステップS12)。その結果、待機時間が経過していない場合(ステップS12:NO)、ステップS10に戻る。以降、ドライバの異常状態が検知されなくなるか、待機時間が経過するまで、ECU10はステップS10及びS12の判定を繰り返す。ステップS8において操舵角減少制御が開始された場合には、ECU10は、待機時間が経過するまで操舵角減少制御の実行を継続する。
【0053】
ドライバの異常状態を検知してから待機時間が経過した場合(ステップS12:YES)、ドライバの異常状態の検知は誤検知ではないと考えられるので、ECU10は緊急停車制御を実行する(ステップS13)。例えば、ECU10は、車速が0になるまで所定の減速度(例えば0.2G以下の減速度)が発生するように、PCM31やDSC32によって駆動力源2やブレーキ4を制御させる。車両1が停車した後、ECU10は車両制御処理を終了する。
【0054】
図5の例では、ドライバの異常状態を検知した時刻t0から操舵角減少制御を開始し、待機時間中に車両1が予測走行経路Aに沿って走行した場合、待機時間が経過した時刻t1において、他の予測走行経路BやCよりも車両1前方のフリースペースFSが広く確保されている。即ち、待機時間の経過によりドライバの異常状態が確定し、緊急停車制御を開始する時点で、車両1前方の障害物や道路端Eとの距離を可能な限り大きく確保することができる。
【0055】
[作用及び効果]
次に、上述した本実施形態の車両制御システム100の作用効果を説明する。
【0056】
ECU10は、ドライバの異常状態が検知された場合、車両1の操舵輪に発生するセルフアライニングトルクにより操舵角が減少するときのセルフアライニング角速度を算出し、ドライバの異常状態検知から所定時間が経過するまでの間、セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角が減少するように、EPS33によって操舵装置5に操舵力を付与させる操舵角減少制御を実行するので、車両1の旋回走行中にドライバの異常状態が検知された場合に、セルフアライニングトルクによる操舵角の減少を抑制することができる。これにより、ドライバの異常状態検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両1から道路端や障害物までの距離を確保することができる。
【0057】
また、ECU10は、ドライバの異常状態が検知された場合において、ドライバの異常状態検知直前に操舵角が増大していた又は一定であった場合に、操舵角減少制御を実行するので、異常状態検知以降も車両1の旋回状態が継続していると考えられ、操舵介入を行うことが望ましい場合に、セルフアライニングトルクによる操舵角の減少を抑制することができる。これにより、ドライバの異常状態検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両1から道路端や障害物までの距離を確実に確保することができる。
【0058】
また、ECU10は、ドライバの異常状態が検知された場合において、ドライバの異常状態検知直前に操舵角がセルフアライニング角速度より小さい角速度で減少していた場合に、操舵角減少制御を実行するので、異常状態検知以降も車両1の旋回状態が継続していると考えられ、操舵介入を行うことが望ましい場合に、セルフアライニングトルクによる操舵角の減少を抑制することができる。これにより、ドライバの異常状態検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両1から道路端や障害物までの距離を確実に確保することができる。
【0059】
また、ECU10は、操舵角減少制御を実行する場合、セルフアライニング角速度より小さい角速度で操舵角を減少させたときの車両1の予測走行経路の中で、走行可能領域内における予測走行経路の経路長が最も長くなるときの角速度で操舵角が減少するように、操舵角減少制御を実行するので、ドライバの異常状態検知後、所定の待機時間が経過したときの、車両1の進行方向における走行可能領域を広く確保することができ、道路端や障害物までの距離を可能な限り大きく確保することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 車両
2 駆動力源
3 トランスミッション
4 ブレーキ
5 操舵装置
10 ECU
21 車内カメラ
22 車外カメラ
23 車速センサ
24 加速度センサ
25 ヨーレートセンサ
26 ステア把持センサ
27 操舵角センサ
28 アクセルセンサ
29 ブレーキセンサ
30 測位・ナビゲーションシステム
31 PCM
32 DSC
33 EPS
100 車両制御システム
A、B、C 予測走行経路
E 道路端
FS フリースペース
図1
図2
図3
図4
図5