(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103463
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】ウォータージャケットスペーサ構造
(51)【国際特許分類】
F02F 1/14 20060101AFI20250702BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20250702BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
F02F1/14 Z
F01P3/02 A
F02F1/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220872
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】武田 雅史
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA21
3G024CA11
3G024DA18
3G024FA14
3G024GA29
3G024HA01
3G024HA03
3G024HA06
3G024HA13
3G024HA17
3G024HA20
(57)【要約】
【課題】製造時におけるウォータージャケットへの挿入が簡便であり、且つ、エンジンの駆動時におけるボア上部を十分に冷却可能なウォータージャケットスペーサ構造を提供する。
【解決手段】ウォータージャケットに挿入されるウォータージャケットスペーサ12は、樹脂材料を用いて形成されたスペーサ本体部材120と、当接部材121と、伸縮部材122とを備える。当接部材121は、金属材料を用いて形成されている。当接部材121は、ウォータージャケットに冷却液が充填されていない状態でシリンダボア壁11の外壁面11aに対して離間した第1姿勢をとり、ウォータージャケットに冷却液が充填された状態でシリンダボア壁11の外壁11aに対して当接した第2姿勢をとる、ように構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダボア壁の外壁面とシリンダブロックの内壁面との間に形成されたウォータージャケットに挿入されるウォータージャケットスペーサであって、
前記エンジンのシリンダボアにおける上死点側を上、下死点側を下とする場合に、
前記ウォータージャケットの上部において前記内壁面に相対的に寄った上壁部と、前記上壁部に接続されるとともに、前記ウォータージャケットの下部において前記内壁部に相対的に寄った下壁部とを有するスペーサ本体部材と、
前記スペーサ本体部材の前記上壁部に一端が固定されるとともに、前記外壁面に対して離間した第1姿勢と、前記外壁面に当接する第2姿勢とで姿勢変化可能であって、且つ、前記スペーサ本体部材および前記シリンダボア壁よりも高い熱伝導性を有する長尺状の当接部材と、
を備え、
前記当接部材は、前記ウォータージャケットに冷却液が充填されず、前記エンジンが駆動していない状態で前記第1姿勢をとり、前記ウォータージャケットに前記冷却液が充填され、前記エンジンが駆動している状態で前記第2姿勢をとる、ように構成されている、
ウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項2】
前記当接部材の他端に固定され、前記当接部材が前記第1姿勢をとるように収縮した状態と、前記当接部材が前記第2姿勢をとるように伸張した状態との間で変化可能な伸縮部材をさらに備える、
請求項1に記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項3】
前記伸縮部材は、セルローススポンジまたはバイメタルを用いて形成されている、
請求項2に記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項4】
前記スペーサ本体部材は、前記上壁部と前記下壁部とを接続する接続壁部をさらに有し、
前記接続壁部は、前記当接部材の挿通を許す貫通孔を有し、
前記伸縮部材は、前記接続壁部よりも下方に配置されている、
請求項2に記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項5】
前記スペーサ本体部材は、前記上壁部と前記下壁部とを接続する接続壁部をさらに有し、
前記伸縮部材は、前記接続壁部上または前記接続壁部よりも上方に配置されている、
請求項2に記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項6】
前記スペーサ本体部材は樹脂材料を用いて形成されており、
前記当接部材は金属材料を用いて形成されている、
請求項2に記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項7】
前記当接部材は、弾性域内で前記第1姿勢から前記第2姿勢へと姿勢変化するように構成されている、
請求項6に記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項8】
前記当接部材は、形状記憶合金を用いて形成されており、当該当接部材の温度が所定温度未満の場合に前記第1姿勢をとり、前記冷却液の温度上昇に伴って当該当接部材の温度が所定温度以上となった場合に前記第2姿勢をとるように構成されている、
請求項1に記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項9】
前記当接部材は、1つのシリンダボア壁に対して周方向に分散された状態で複数設けられている、
請求項1から請求項8の何れかに記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【請求項10】
前記エンジンは、気筒列方向に複数のシリンダボアが配列された直列多気筒エンジンであり、
前記当接部材は、シリンダボア壁の外壁面におけるシリンダボア同士の間の部分に対して当接可能に配置されている、
請求項1から請求項8の何れかに記載のウォータージャケットスペーサ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのウォータージャケットに挿入されるウォータージャケットスペーサの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷式のエンジンでは、シリンダボア壁の外側に形成されたウォータージャケットを備える。ウォータージャケットには、シリンダボアの温度調整を図るためにウォータージャケットスペーサが挿入される場合がある。例えば、特許文献1には、スペーサ本体と保温材と弾性体との組み合わせからなるウォータージャケットスペーサが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示のウォータージャケットスペーサは、所定温度を境に伸縮する弾性体を有する。このウォータージャケットスペーサは、弾性体が収縮した状態で厚み寸法がウォータージャケットの幅寸法よりも小さくなるように構成されている。このように弾性体を収縮させた状態でウォータージャケットに対してウォータージャケットスペーサを挿入することにより、高い作業性を確保できるとされている。
【0004】
一方、エンジンの駆動時には、ウォータージャケット内の冷却液の温度が上記所定温度以上となる場合がある。このような状態では、ウォータージャケットスペーサの弾性体が伸張状態へと遷移する。これにより、スペーサ本体を挟んで弾性体とは反対側に設けられた保温材がシリンダボア壁の外壁面に押し付けられることになる。特許文献1では、エンジン駆動時において保温材をシリンダボア壁の外壁面に当接させることで、シリンダボアの温度低下を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジン駆動時におけるシリンダボアの温度は、上死点側(ボア上部)で高く、下死点側(ボア下部)で低くなる。このようなボア上部とボア下部との温度の不均衡を是正することができるウォータージャケットスペーサも開発されている。具体的には、ウォータージャケットにおけるボア上部を取り囲む部分で流路幅が広く、ボア下部を取り囲む部分で流路幅が狭くなるように、気筒軸方向の上下でシリンダボア壁の外壁面との間隔が相違するウォータージャケットスペーサが開発されている。
【0007】
しかしながら、従来のウォータージャケットスペーサは、変形や冷却液の流動によるガタツキなどのためシリンダボア壁の外壁面に対する間隔が不所望に変化してしまう場合が生じ得る。特に、ウォータージャケットの気筒軸方向上部において、ウォータージャケットスペーサの変形やガタツキなどにより流路幅が変化してしまった場合には、ボア上部の冷却を十分に行うことができない。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、製造時におけるウォータージャケットへの挿入が簡便であり、且つ、エンジンの駆動時におけるボア上部を十分に冷却可能なウォータージャケットスペーサ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るウォータージャケットスペーサの構造は、エンジンのシリンダボア壁の外壁面とシリンダブロックの内壁面との間に形成されたウォータージャケットに挿入されるウォータージャケットスペーサであって、前記エンジンのシリンダボアにおける上死点側を上、下死点側を下とする場合に、前記ウォータージャケットの上部において前記内壁面に相対的に寄った上壁部と、前記上壁部に接続されるとともに、前記ウォータージャケットの下部において前記内壁部に相対的に寄った下壁部とを有するスペーサ本体部材と、前記スペーサ本体部材の前記上壁部に一端が固定されるとともに、前記外壁面に対して離間した第1姿勢と、前記外壁面に当接する第2姿勢とで姿勢変化可能であって、且つ、前記スペーサ本体部材および前記シリンダボア壁よりも高い熱伝導性を有する長尺状の当接部材と、を備え、前記当接部材は、前記ウォータージャケットに冷却液が充填されず、前記エンジンが駆動していない状態で前記第1姿勢をとり、前記ウォータージャケットに前記冷却液が充填され、前記エンジンが駆動している状態で前記第2姿勢をとる、ように構成されている。
【0010】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、ウォータージャケットスペーサが当接部材を備え、当該当接部材が第1姿勢と第2姿勢とをとることができるように構成されている。具体的に、当接部材は、冷却液が充填されていない状態(例えば、エンジンの組み立て時など。)ではシリンダボア壁の外壁面から離間する第1姿勢をとるように構成されている。このため、エンジンの組み立て時などにおいて、シリンダブロックのウォータージャケットにウォータージャケットスペーサを挿入する場合には、ウォータージャケットスペーサがシリンダボア壁の外壁面やシリンダブロックの内壁面に当接するのを抑制することができる。よって、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造を採用すれば、エンジンの組み立て時における高い作業性を確保できるとともに、ウォータージャケットスペーサのスペーサ本体部材が変形したり破損したりするのを抑制することができる。
【0011】
また、当接部材は、ウォータージャケットに冷却液が注液され、エンジンが駆動している状態で、シリンダボア壁の外壁面に当接する第2姿勢をとるように構成されている。このため、注液後であってエンジンの駆動時において、当接部材がシリンダボア壁の外壁面に当接することでスペーサ本体部材が振動や液温(冷却液の温度)などにより変形するのを抑制することができる。よって、ボア上部の周囲におけるウォータージャケットでの冷却液による冷却が確保される。このため、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、エンジンの駆動時に高温となるボア上部を十分に冷却することが可能である。
【0012】
なお、上記における「ウォータージャケットに冷却液が注液され、エンジンが駆動している状態で」とは、少なくともこの時点で当接部材が第2姿勢となっていればよいことを指す。よって、上記態様の当接部材は、注液しただけで第2姿勢に姿勢変化してもよいし、エンジンの駆動により冷却液が所定温度よりも上昇した時点で第2姿勢に姿勢変化してもよい。
【0013】
さらに、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、当接部材がスペーサ本体部材およびシリンダボア壁よりも熱伝導性が高いので、エンジンの駆動時において、ボア上部の熱がシリンダボア壁および当接部材を介した経路でも冷却液へと熱伝達される。このため、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、エンジンの駆動時におけるボア上部の熱を高効率に冷却液に伝達することができる。
【0014】
ここで、スペーサ本体部材の変形を抑制しようとして当該スペーサ本体部材の上壁部をシリンダボア壁の外壁面に当接させた場合には、スペーサ本体部材が樹脂材料からなるので熱伝導率が低く、冷却液によるシリンダボア壁の冷却がされ難くなる。このため、前記のような構成を採用した場合には、ボア上部が高温となり、エンジン性能(効率)の低下を招き、最悪の場合にはノッキングなどによりエンジンが壊れることが懸念される。
【0015】
これに対して、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、エンジンの駆動時にシリンダボア壁の外壁面に対して当接する当接部材を備えるので、振動や液温に起因するスペーサ本体部材の変形が抑制され、優れた熱伝達性をもってシリンダボア壁から冷却液への熱伝達が行われる。よって、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造を採用するエンジンでは、ノック進角による熱効率向上を図ることができ、上述のようなエンジン性能(効率)の低下やノッキングなどが生じるのを抑制することができる。
【0016】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記当接部材の他端に固定され、前記当接部材が前記第1姿勢をとるように収縮した状態と、前記当接部材が前記第2姿勢をとるように伸張した状態との間で変化可能な伸縮部材をさらに備える、としてもよい。
【0017】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、当接部材の姿勢を第1姿勢と第2姿勢との間で姿勢変化させる伸縮部材をさらに備えるので、エンジンの組み立て後においてウォータージャケットに冷却液が注液されて、エンジンが駆動された状態で、確実に当接部材をシリンダボア壁の外壁面に押し当て、これによりエンジン駆動時の振動や液温の影響などでスペーサ本体部材における上壁部の変形が抑制される。よって、上述のように、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造を採用するエンジンでは、ノック進角による熱効率向上を図ることができ、エンジン性能(効率)の低下やノッキングなどが生じるのを抑制するのに好適である。
【0018】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記伸縮部材は、セルローススポンジまたはバイメタルを用いて形成されている、としてもよい。
【0019】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、伸縮部材の構成材料の具体例としてセルローススポンジまたはバイメタルを採用することができるので、当接部材を第1姿勢と第2姿勢との間で姿勢変化させることができる。セルローススポンジを用いて伸縮部材が形成されている場合には、セルローススポンジが冷却液に浸されていないエンジンの組み立て時などには、伸縮部材が収縮した状態であることから当接部材がシリンダボア壁に押し付けられない。このため、ウォータージャケットスペーサとウォータージャケットを囲む壁面(シリンダボア壁の外壁面、シリンダブロックの内壁面)との間に隙間を設けることができ、エンジンの組み立て時等に高い作業性を確保することができる。そして、エンジンの組み立て後に冷却液を注液することで伸縮部材が伸張状態となって当接部材が第2姿勢をとるように当該当接部材に対して作用する。これより、エンジンの駆動時には、ボア上部を効果的に冷却可能となる。
【0020】
一方、バイメタルを用いて伸縮部材が構成されている場合には、エンジンの組み立て時には環境温度が常温程度であるので伸縮部材は収縮した状態であり、上述のセルローススポンジを採用する場合と同様に高い作業性を確保できる。そして、エンジンの駆動時において、冷却液の温度が所定温度以上となった場合には、当接部材が第2姿勢となるように当該当接部材に対して作用する。これより、エンジンの駆動時には、ボア上部を効果的に冷却可能となる。
【0021】
なお、上記の所定温度とは、エンジンが温間状態となる下限温度を指す。具体的には、90℃程度の温度である。
【0022】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記スペーサ本体部材は、前記上壁部と前記下壁部とを接続する接続壁部をさらに有し、前記接続壁部は、前記当接部材の挿通を許す貫通孔を有し、前記伸縮部材は、前記接続壁部よりも下方に配置されている、としてもよい。
【0023】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、伸縮部材が接続壁部よりも下方に配置されているので、エンジンの駆動時に接続壁部よりも上方での冷却液の流れを伸縮部材が阻害することがない。よって、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、エンジンの駆動時におけるボア上部をより効果的に冷却することができる。
【0024】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記スペーサ本体部材は、前記上壁部と前記下壁部とを接続する接続壁部をさらに有し、前記伸縮部材は、前記接続壁部上または前記接続壁部よりも上方に配置されている、としてもよい。
【0025】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、伸縮部材が接続壁部上またはそれよりも上方に配置されているので、接続壁部に当接部材の挿通を許す孔を開けておく必要がない。このため、エンジンの駆動時において、冷却液の流れが接続壁部の上下で分離され、ウォータージャケットにおける接続壁部よりも上方の領域での冷却液の流れが乱れ難くすることができる。よって、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造を採用すれば、エンジンの駆動時におけるボア上部を効果的に冷却できる。
【0026】
また、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、接続壁部よりも上方における冷却液の流路内に伸縮部材が配置されることになる。このため、ウォータージャケットにおける接続壁部よりも上方の領域では、伸縮部材が配された分だけ流路が狭くなる。このように流路が狭くなった領域では、冷却液の流速が速くなる。これより、ボア上部の熱を冷却液に逃がすのに好適である。すなわち、シリンダボア壁の外壁面に接触して流れる冷却液の流速が速くなり、伸縮部材を配してもシリンダボア壁の外壁面を介しての冷却効率は低下し難くなり、シリンダボア壁に当接する当接部材の分だけ冷却液に対する接触面積が増加するので、当該増加分によりボア上部の冷却が良好に行われることになる。
【0027】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記スペーサ本体部材は樹脂材料を用いて形成されており、前記当接部材は金属材料を用いて形成されている、としてもよい。
【0028】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、当接部材が金属材料を用いて形成され、樹脂材料を用いて形成されたスペーサ本体部材よりも高い熱伝導性を有する。このため、エンジンの駆動時において、シリンダボア壁の外壁面に対して当接部材が押し付けられることにより、シリンダボアのボア上部で発生した熱を良好に冷却液へと逃がすことができる。
【0029】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記当接部材は、弾性域内で前記第1姿勢から前記第2姿勢へと姿勢変化するように構成されている、としてもよい。
【0030】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、当接部材が弾性域内で第1姿勢から第2姿勢へと姿勢変化するように構成されているので、エンジンの組み立て時だけでなく、エンジンのメンテナンス時などにウォータージャケットからウォータージャケットスペーサを取り出したり、その後に再度ウォータージャケットに挿入したりすることが可能である。よって、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造を採用することで、エンジンの組み立て時だけでなく、メンテナンス後にも再度使用することが可能となり、メンテナンス時のコストを低減することも可能である。
【0031】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記当接部材は、形状記憶合金を用いて形成されており、当該当接部材の温度が所定温度未満の場合に前記第1姿勢をとり、前記冷却液の温度上昇に伴って当該当接部材の温度が所定温度以上となった場合に前記第2姿勢をとるように構成されている、としてもよい。
【0032】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、形状記憶合金を用いて当接部材が構成されているので、当該当接部材の温度によって姿勢が変化する。即ち、エンジンの組み立て時などでは環境温度が常温程度であるので当接部材も常温程度(所定温度未満の温度)であり、第1姿勢をとる。このため、エンジンの組み立て時などで高い作業性を確保できる。そして、エンジンの駆動時において、冷却液の温度が所定温度以上となった場合には、当接部材の温度も所定温度以上となって第2姿勢をとる。これより、エンジンの駆動時には、ボア上部を効果的に冷却可能となる。
【0033】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記当接部材は、1つのシリンダボア壁に対して周方向に分散された状態で複数設けられている、としてもよい。
【0034】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、1つのシリンダボア壁に対して複数の当接部材が周方向に分散配置されている。このため、シリンダボア壁の外壁面に対する当接部材の当接箇所を周方向に分散して複数配置することができ、ボア上部の熱を周方向でのバラツキを抑制しながら冷却液に逃がすことができる。よって、上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造を採用すれば、周方向でのバラツキを抑制しながらボア上部を冷却することができる。
【0035】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造において、前記エンジンは、気筒列方向に複数のシリンダボアが配列された直列多気筒エンジンであり、前記当接部材は、シリンダボア壁の外壁面におけるシリンダボア同士の間の部分に対して当接可能に配置されている、としてもよい。
【0036】
上記態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、シリンダボア壁の外壁面におけるシリンダボア同士の間の部分に対して当接できるように当接部材が配置されているので、シリンダボア壁を介してボア上部の冷却を効率的に行うことができる。これは、エンジンの駆動時においては、シリンダボア壁におけるシリンダボア同士の間の部分がシリンダボア壁における他の部分よりも高温となるためであり、当該高温となる部分に金属材料からなる当接部材を押し当てることにより、当該当接部材を介して冷却液へと熱を逃がすことができるためである。
【発明の効果】
【0037】
上記の各態様に係るウォータージャケットスペーサ構造では、製造時におけるウォータージャケットへの挿入が簡便であり、且つ、エンジンの駆動時におけるボア上部を十分に冷却可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るウォータージャケットスペーサが適用されるエンジンの一部構成を示す展開斜視図である。
【
図2】ウォータージャケットスペーサの構成を示す平面図である。
【
図3】ウォータージャケットスペーサの構成を示す断面図である。
【
図4】ウォータージャケットに冷却液を注液した状態でのウォータージャケットスペーサの状態を示す断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るウォータージャケットスペーサの構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係るウォータージャケットスペーサの構成を示す断面図である。
【
図7】変形例1に係るウォータージャケットスペーサの一部構成を示す断面図である。
【
図8】本発明の第4実施形態に係るウォータージャケットスペーサの構成を示す断面図である。
【
図9】本発明の第5実施形態に係るウォータージャケットスペーサの構成を示す断面図である。
【
図10】(a)は変形例2に係るウォータージャケットスペーサの一部構成を示す平面図、(b)は変形例3に係るウォータージャケットスペーサの一部構成を示す平面図である。
【
図11】(a)は変形例4に係るウォータージャケットスペーサの構成を示す断面図、(b)は
図11(a)のH-H断面線での断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0040】
以下の説明で用いる図において、「X」はエンジンの気筒列方向、「Y」はエンジンの吸排気方向、「Z」はエンジンの気筒軸方向をそれぞれ指す。また、以下の説明においては、エンジンの気筒軸方向における上死点側を「上」、下死点側を「下」とする。
【0041】
[第1実施形態]
1.エンジン1の構成
第1実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12を備えるエンジン1の構成について、
図1を用いて説明する。なお、
図1では、エンジン1の構成の一部だけを抜き出して図示している。
【0042】
図1に示すように、エンジン1は、X方向に並ぶ4つのシリンダボア1a~1dを有する。即ち、エンジン1は、直列4気筒のエンジンである。なお、エンジンの形式や気筒数については、これに限定されるものではない。
【0043】
エンジン1のシリンダブロック10は、シリンダボア1a~1dを囲むシリンダライナ11が填め込まれている。シリンダライナ11がシリンダボア壁を構成し、各シリンダボア1a~1dに面する側とは反対側の面がシリンダボア壁の外壁面である。
【0044】
シリンダブロック10は、シリンダライナ11の外壁面に面する状態で設けられたウォータージャケット1eを有する。ウォータージャケット1eは、冷却液導入口1fから導入された冷却液が循環する経路である。シリンダブロック10には、ウォータージャケット1eを流通した冷却液の一部が導出される冷却液導出口1gも設けられている場合もある。なお、ウォータージャケット1eを流通した冷却液の残部は、図示を省略するシリンダヘッドへと導出される。
【0045】
ウォータージャケット1eには、ウォータージャケットスペーサ12が挿入される。ウォータージャケット1eへのウォータージャケットスペーサ12の挿入は、ウォータージャケット1eに冷却液が注液される前の状態でなされる。なお、ウォータージャケット1eに対して挿入されたウォータージャケットスペーサ12は、ウォータージャケットスペーサ12の下端辺部(Z方向の下側端辺部)がウォータージャケット12の底部に当接するか近接する状態となる。
【0046】
ウォータージャケットスペーサ12は、樹脂材料(例えば、PTFE,PPS、PAなど)を用いて形成されたスペーサ本体部材120と、スペーサ本体部材120の内側面上端部近くに固定され、金属材料(例えば、鋼板、銅合金など)を用いて形成された当接部材121とを備える。
【0047】
2.ウォータージャケットスペーサ12における当接部材121の配置
ウォータージャケットスペーサ12における当接部材121の配置について、
図2を用いて説明する。
【0048】
図2に示すように、スペーサ本体部材120は、気筒軸方向からの平面視で、各シリンダボア1a~1dの周囲を囲むように形成されたボア周囲部120a~120dを有する。ボア周囲部120a~120dは、連続するように一体形成されている。
【0049】
当接部材121は、ボア周囲部120a~120dのそれぞれに2つずつ分散配置されている。各ボア周囲部120a~120dに配置された当接部材121は、Y方向(吸排気方向)において互いに対向する位置関係をもって配置されている。
【0050】
3.当接部材121とその周辺構成
ウォータージャケットスペーサ12における当接部材121とその周辺構成について、
図3および
図4を用いて説明する。
図3は、ウォータージャケット1eに冷却液を注液していない状態を示し、
図4は、ウォータージャケット1eに冷却液を注液した状態を示す。
【0051】
図3および
図4に示すように、スペーサ本体部材120は、上壁部120e、下壁部120f、接続壁部120g、および底壁部120hが一体形成されている。上壁部120eは、シリンダブロック10におけるウォータージャケット1eに面する内壁面10aに沿って延びるように形成されている。下壁部120fは、上壁部120eよりもZ方向(気筒軸方向)の下方に位置し、且つ、シリンダライナ11におけるウォータージャケット1eに面する外壁面11aに沿って延びるように形成されている。
【0052】
接続壁部120gは、上壁部120eの下端部と下壁部120fの上端部とを設則するように、Z方向(気筒軸方向)に対して直交する方向に延材するように形成されている。なお、接続壁部120gには、板厚方向に貫通する孔120iが設けられている。底壁部120fは、下壁部120fにおける下端部の近傍から、Z方向(気筒軸方向)に直交する方向に延材するように形成されている。
【0053】
ここで、Z方向における接続壁部120gが設けられている高さ位置は、シリンダボア1a~1dにおけるボア上部A1とボア下部A2との境界として設定された位置である。この境界位置は、エンジン1の駆動時において所定温度以上となる部分と所定温度未満で維持される部分とについて予め実験的に把握された位置である。
【0054】
当接部材121は、
図3および
図4の各紙面に直交する方向に所定寸法(例えば、5mm~20mm程度)の幅を有する長尺板である。当接部材121は、上延伸部121a、曲げ部121b、下延伸部121c、および上下延伸部121dが一体形成されている。上延伸部121aは、スペーサ本体部材120における上壁部120eの上端部の近傍に一端が固定されている。上延伸部121aは、スペーサ本体部材120に固定された一端からY方向(吸排気方向)の内側に向けて延びるように形成されている。そして、上延伸部121aは、一端側からY方向の内側へと行くのに従ってZ方向下方に下がるように傾斜して形成されている。
【0055】
曲げ部121bは、一端が上延伸部121aの他端(Y方向の内側端)に接続され、弧形状を描くように略180°折り曲げられている。下延伸部121cは、一端が曲げ部121bの他端(Z方向の下側端)に接続され、当該曲げ部121bに接続された一端からY方向の外側(シリンダブロック10の外壁面10a側)に向けて延びるように形成されている。そして、下延伸部121cは、一端側からY方向の外側へと行くのに従ってZ方向下方に下がるように傾斜して形成されている。
【0056】
上延伸部121a、曲げ部121b、および下延伸部121cを側方から全体として見る場合に、V字形状となっている。
【0057】
上下延伸部121dは、上端が下延伸部121cの他端(Y方向の外側端)に接続され、下方に向けて延びるように形成されている。上下延伸部121dは、その長手方向の中程部分でスペーサ本体部材120の接続壁部120gに開けられた孔120iを挿通している。上下延伸部121dは、底壁部120hの少し上方まで延びるように形成されている。
【0058】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12は、スペーサ本体部材120および当接部材121に加えて、伸縮部材122をさらに備える。伸縮部材122は、冷却液に浸されることで膨張する部材であって、本実施形態では一例としてセルローススポンジを用いて形成されている。伸縮部材122は、スペーサ本体部材120の底壁部120h上に固定されている。そして、伸縮部材122の上部には、上下延伸部121dの下端が接合されている。
【0059】
エンジン1の組み立て時などにおいて伸縮部材122が冷却液に浸されていない状態では、伸縮部材122はZ方向に収縮した状態となっている。このため、当接部材121の上下延伸部121dは全体にZ方向下方に引っ張られており、下延伸部121cの他端(上下延伸部121dとの接続部)もZ方向下方に下がった位置に配されている。よって、上延伸部121a、曲げ部121b、および下延伸部121cで構成されるV字形状部分は、Y方向外側の開口部分が開いた状態となっている。
【0060】
即ち、エンジン1の組み立て時などにおいて伸縮部材122が冷却液に浸されていない状態では、スペーサ本体部材120の上壁部120eにおける外壁面(シリンダブロック10の外壁面10aと対向する面)と当接部材121の曲げ部121bにおける最もシリンダライナ11の外側面11aに近い箇所との間の間隔が、ウォータージャケット1eの間隔よりも狭くなる。よって、ウォータージャケット1eへのウォータージャケットスペーサ12の挿入時において、ウォータージャケットスペーサ12は、シリンダブロック10の内壁面10aおよびシリンダライナ11の外壁面11aとの双方に対して隙間が空いた状態となっている(矢印A3,A4)。なお、
図3に示す当接部材121の姿勢が第1姿勢である。
【0061】
一方、
図4に示すように、エンジン1の組み立て完了後においてウォータージャケット1eに冷却液を注液した場合には、伸縮部材122が冷却液に浸されて矢印B1で示すように膨張する。このため、当接部材121の上下延伸部121dは矢印B2で示すようにZ方向上方に押し上げられる。このため、当接部材121における上記V字形状部分は、Y方向外側の開口部分の幅寸法が狭くなる。
【0062】
上記のように当接部分121が変形することにより、当接部材121は、矢印B3で示すように曲げ部121bがシリンダライナ11の外壁面11aに押し付けられる(矢印B3)。なお、当接部材121の材料選定によってはシリンダライナ11の外壁面11aに対する押圧力が強い場合もある。この場合には、矢印B3で示すシリンダライナ11の外壁面11aに対する押圧力の反力が働き、スペーサ本体部材120の上壁部120eがシリンダブロック10の内壁面10aに近づいたり当接したりする場合も生じる。なお、
図4に示す当接部材121の姿勢が第2姿勢である。
【0063】
ただし、ボア上部A1の冷却という観点からは、当接部材121の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変化によっても、スペーサ本体部材120の上壁部120eがシリンダブロック10の内壁面10a側に動かないようにすることが好ましい。これは、スペーサ本体部材120の上壁部120eがシリンダブロック10の内壁面10a側に動かないようにすることで、ウォータージャケット1eにおけるシリンダライナ11の外壁面11aとスペーサ本体部材120の上壁部120eとの間の流路幅が広がるのが抑制され、冷却液の流速が遅くなるのを抑制できるためである。これにより、ウォータージャケット1eの上部での冷却液の流速低下を抑制でき、当接部材121のシリンダライナ11の外壁面11aへの接触面積の増加によりボア上部A1の冷却に有利となる。
【0064】
ここで、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12では、当接部材121が弾性域内で
図3に示す状態と
図4に示す状態との間で遷移することができる。よって、例えば、メンテナンス時においてウォータージャケット1eからウォータージャケットスペーサ12を取り出そうとする場合には、ウォータージャケット1eから冷却液を排出させて伸縮部材122が冷却液に浸されておらず
図3に示す状態とすればよい。このようにすることで、高い作業性をもって取り出し作業を行うことができるとともに、取り出しに際してウォータージャケットスペーサ12の変形や破損を抑制することができる。
【0065】
4.効果
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12では、当該ウォータージャケットスペーサ12が当接部材121を備え、当該当接部材121が第1姿勢(
図3に示す姿勢)と第2姿勢(
図4に示す姿勢)とをとることができるように構成されている。上述のように、当接部材121は、ウォータージャケット1eに冷却液が充填されていないエンジン1の組み立て時などにはシリンダライナ(シリンダボア壁)11の外壁面11aから離間する第1姿勢をとるように構成されている。このため、エンジン1の組み立て時などにおいて、ウォータージャケット1eにウォータージャケットスペーサ12を挿入する場合には、ウォータージャケットスペーサ12がシリンダライナ11の外壁面11aやシリンダブロック10の内壁面10aに当接するのを抑制することができる。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12を採用すれば、エンジン1の組み立て時における高い作業性を確保できるとともに、ウォータージャケットスペーサ12のスペーサ本体部材120が変形・破損するのを抑制することができる。
【0066】
また、当接部材121は、
図4に示すようにウォータージャケット1eに冷却液が注液された状態で、シリンダライナ11の外壁面11aに当接した第2姿勢をとるように構成されている。このため、注液後であってエンジン1の駆動時において、シリンダライナ11の外壁面11aに対する当接部材121の当接によりスペーサ本体部材120の上部壁120eがエンジン1の駆動による振動や冷却液に温度などの影響を受けて変形などするのを抑制することができる。よって、ボア上部A1の周囲におけるウォータージャケット1eでの冷却液の冷却が確保される。このため、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12の構造を採用すれば、エンジン1の駆動時に高温となるボア上部A1を十分に冷却することが可能である。
【0067】
さらに、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12では、当接部材121がスペーサ本体部材120およびシリンダライナ11よりも高い熱伝導性を有するように構成されている。具体的に本実施形態では、スペーサ本体部材120が樹脂材料(例えば、PTFE,PPS、PAなど)を用いて形成されているのに対して、当接部材121が金属材料(一例として、鋼板、銅合金)を用いて形成されている。このため、エンジン1の駆動時において、当接部材121はシリンダライナ11の外壁面11aに当接する(押し付けられた)第2姿勢をとることにより、ボア上部A1の熱がシリンダライナ11および当接部材121を介してウォータージャケット1eの冷却液へと熱伝達される。このため、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12を採用すれば、エンジン1の駆動時におけるボア上部A1の熱を高効率に冷却液に伝達することができる。
【0068】
ここで、スペーサ本体部材120の変形を抑制しようとして当該スペーサ本体部材120の上壁部120eをシリンダボア壁11の外壁面11aに当接させた場合には、スペーサ本体部材120が樹脂材料からなるので熱伝導率が低く、冷却液によるシリンダボア壁11の冷却がされ難くなる。このため、このような構成を採用した場合には、ボア上部A1が高温となり、エンジン性能(効率)の低下を招き、最悪の場合にはノッキングなどによりエンジンが壊れることが懸念される。
【0069】
これに対して、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12の構造では、エンジン1の駆動時にシリンダボア壁11の外壁面11aに対して当接する当接部材121を備えるので、振動や液温に起因するスペーサ本体部材120の変形が抑制され、優れた熱伝達性をもってシリンダボア壁11から冷却液への熱伝達が行われる。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12の構造を採用するエンジン1では、ノック進角による熱効率向上を図ることができ、上述のようなエンジン性能(効率)の低下やノッキングなどが生じるのを抑制することができる。
【0070】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12は、当接部材121の姿勢を第1姿勢と第2姿勢との間で変化させる伸縮部材122をさらに備えるので、エンジン1の組み立て後においてウォータージャケット1eに冷却液が注液されて、エンジン1が駆動された状態で、確実に当接部材121をシリンダライナ11の外壁面11aに押し当て、これによりエンジン駆動時の振動や冷却液の温度などに起因してスペーサ本体部材120の上壁部120eの変形が抑制される。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12の構造を採用するエンジン1では、上述のようなエンジン性能(効率)の低下やノッキングなどが生じるのを抑制するのに好適である。
【0071】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12では、伸縮部材122の構成材料としてセルローススポンジが採用されている。このため、複雑で高価な部材を用いることなく、当接部材121を第1姿勢と第2姿勢との間で姿勢変化させることができる。
【0072】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12では、伸縮部材122がスペーサ本体部材120の接続壁部120gよりも下方に配置されているので、エンジン1の駆動時に接続壁部122よりも上方での冷却液の流れを伸縮部材122が阻害することがない。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12を採用すれば、エンジン1の駆動時におけるボア上部A1を効果的に冷却することができる。
【0073】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12では、
図2に示したように、1つのシリンダボア1a~1dに対して2つの当接部材121が周方向に分散配置(平面視で対向するように配置)されている。このため、エンジン1の振動や冷却液の温度の影響などでスペーサ本体部材120の上壁部120eが周方向の一部で変形するのを抑制することができ、シリンダライナ11の外壁面11aおよび当接部材121から冷却液への熱伝達を効果的に実行させることができる。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12を採用すれば、ボア上部A1を効果的に冷却することができる。
【0074】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12では、当接部材121が弾性域内で第1姿勢から第2姿勢へと姿勢変化するように構成されているので、エンジン1の組み立て時だけでなく、エンジン1のメンテナンス時などにウォータージャケット1eからウォータージャケットスペーサ12を取り出したり、その後に再度ウォータージャケット1eに挿入したりすることが可能である。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12を採用すれば、エンジン1の組み立て時だけでなく、メンテナンス後にも再度使用することが可能となり、メンテナンス時のコストを低減することも可能である。
【0075】
以上のように、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12の構造を採用することにより、製造時におけるウォータージャケット1eへの挿入が簡便であり、且つ、エンジン1の駆動時におけるボア上部A1を十分に冷却可能である。
【0076】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るウォータージャケットスペーサ22の構造について、
図5を用いて説明する。
図5は、ウォータージャケットスペーサ22が採用されるエンジン2の一部構成を示す断面図である。なお、
図5において、上記第1実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0077】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ22は、スペーサ本体部材220に対する伸縮部材222の固定位置が上記第1実施形態と相違する。
【0078】
図5に示すように、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ12においても、スペーサ本体部材220が樹脂材料で構成されているとともに、上壁部220e、下壁部220f、接続壁部220g、および底壁部220hが一体形成されている。ただし、本実施形態のスペーサ本体部材220では、接続壁部220gに孔は形成されておらず、また、上壁部220eに接続された規制壁部220kと、接続壁部220gの上面に接続された規制壁部220jも一体形成されている。
【0079】
ウォータージャケットスペーサ22では、伸縮部材222が上壁部220eと規制壁部220jとの間の部分に配置されている。伸縮部材222は上記第1実施形態と同様に一例としてセルローススポンジで構成されており、冷却液に浸されることにより矢印C1で示すように膨張する。伸縮部材222の膨張は規制壁部222kによって上方位置が規制されている。
【0080】
本実施形態の当接部材221も上記第1実施形態と同様に金属材料(一例として、鋼板、銅合金)を用いて構成されている。本実施形態の当接部材221は、上延伸部221a、曲げ部221b、および下延伸部221cが一体形成されており、上記第1実施形態の当接部材121と相違し、上下延伸部を有さない。即ち、本実施形態では、当接部材221における下延伸部221cの下端が直に伸縮部材222に接合されている。
【0081】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ22においても、セルローススポンジからなる伸縮部材222は、冷却液に浸されることによって矢印C1で示すように膨張(伸張)する。このため、伸縮部材222の上面に固定された当接部材221における下延伸部221cの他端(曲げ部221bに接続された端部とは反対側の端部)がZ方向上方へと持ち上げられる。この作用によって、当接部材221は、破線で示す第1姿勢から実線で示す第2姿勢へと姿勢変化する。当接部材221が第2姿勢へと姿勢変化した場合には、上記第1実施形態と同様に、当接部材221の曲げ部221bが矢印C2で示すようにシリンダライナ11の外壁面11aに押し当てられる。
【0082】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ22は、上記のような点で上記第1実施形態と相違するが、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0083】
また、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ22では、伸縮部材222がスペーサ本体部材220の接続壁部220g上に配置されているので、上記第1実施形態のように接続壁部120gに当接部材121の上下挿通部121d挿通を許す孔121i(
図3および
図4を参照。)を開けておく必要がない。このため、エンジン2の駆動時において、冷却液の流れが接続壁部220gの上下で分離され、接続壁部220gの上下での冷却液の混合が抑制されて、ウォータージャケット1eにおける接続壁部220gよりも上方の領域での冷却液の流れが阻害され難い。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ22を採用すれば、エンジン2の駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)を効果的に冷却できる。
【0084】
また、本実施形態係るウォータージャケットスペーサ22の構造では、ウォータージャケット1eにおける接続壁部220gよりも上方の領域内に伸縮部材222が配置されている。このため、ウォータージャケット1eにおける接続壁部220gよりも上方の領域では、伸縮部材222が配された分だけ流路が狭くなる。このように流路が狭くなった領域では、冷却液の流速が速くなる。これより、ボア上部A1(
図3を参照。)の熱を冷却液に逃がすのに好適である。すなわち、シリンダライナ11の外壁面11aに当接する当接部材221の分だけ冷却液に対する接触面積が増加し、当該増加分によりボア上部A1の冷却が良好に行われることになる。
【0085】
なお、本実施形態では、伸縮部材222の位置規制のために接続壁部220gに規制壁部220jを設け、膨張時における伸縮部材222の上限位置を規制するために上壁部220eに規制壁部220kを設けることとしたが、これら規制壁部220j,220kについては必須の構成ではない。
【0086】
[第3実施形態]
第3実施形態に係るウォータージャケットスペーサ32の構造について、
図6を用いて説明する。
図6は、ウォータージャケットスペーサ32が採用されるエンジン3の一部構成を示す断面図である。なお、
図6において、上記第1実施形態および上記第2実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0087】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ32は、伸縮部材322の伸縮方向が上記第2実施形態と相違する。
【0088】
図6に示すように、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ32においても、スペーサ本体部材320が樹脂材料で構成されているとともに、上壁部320e、下壁部320f、接続壁部320g、および底壁部320hが一体形成されている。さらに、本実施形態のスペーサ本体部材320は、上壁部320eに接続された規制壁部320kも一体形成されている。
【0089】
ウォータージャケットスペーサ32では、伸縮部材322が接続壁部320gと規制壁部320kとの間の部分に配置されているとともに、伸長率が高い方向がY方向となるように配されている。なお、伸縮部材322は、上記第1実施形態および上記第2実施形態と同様に一例としてセルローススポンジで構成されており、冷却液に浸されることにより矢印D1で示すようにシリンダライナ11の方に向けて膨張(伸張)する。
【0090】
当接部材321は、上記第1実施形態および上記第2実施形態と同様に、金属材料(一例として、鋼板、銅合金)を用いて構成されている。本実施形態の当接部材321は、上延伸部321a、曲げ部321b、上下延伸部321c、および曲げ部321dが一体形成されている。上下延伸部321dは、曲げ部321bと曲げ部321dとの間を繋ぐように略直線状に延びるように構成されている。曲げ部321dにおける他端(上下延伸部321cに接続された端部とは反対側の端部)は、伸縮部材322のY方向内側面に固定されている。
【0091】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ32においても、セルローススポンジからなる伸縮部材322は、冷却液に浸されることによって矢印D1で示すように膨張(伸張)する。このため、伸縮部材322のY方向内側面に固定された当接部材321の曲げ部321dはY方向内側(径方向内側)へと移動される。この作用によって、当接部材321は、破線で示す第1姿勢から実線で示す第2姿勢へと姿勢変化する。当接部材321が第2姿勢へと姿勢変化した場合には、曲げ部321bと曲げ部321dとの間の上下延伸部321cが矢印D2で示すようにシリンダライナ11の外壁面11aに押し当てられる。
【0092】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ32は、上記のような点で上記第2実施形態と相違するが、上記第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0093】
また、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ32では、当接部材321が第2姿勢をとる場合に、シリンダライナ11の外壁面11aに対して上下延伸部321cが点接触ではなく面接触するように構成されているので、シリンダボア1a~1dのボア上部A1で生じた熱をシリンダライナ11および当接部材321を介して冷却液へ効果的に伝達することができる。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ32を採用すれば、上記第1実施形態や上記第2実施形態の当接部材121,221よりも第2姿勢でシリンダライナ11の外壁面11aに対して当接部材321がより広範囲に面接触するので、エンジン3の駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)をさらに効果的に冷却できる。
【0094】
[変形例1]
変形例1に係るウォータージャケットスペーサ42の構造について、
図7を用いて説明する。
図7は、ウォータージャケットスペーサ42が採用されるエンジン4の一部構成を示す断面図である。なお、
図7において、上記第1実施形態から上記第3実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0095】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ42は、当接部材421が第2姿勢をとる場合のシリンダライナ11との当接部分の形状が上記第1実施形態から上記第3実施形態と相違する。
【0096】
図7に示すように、本変形例の当接部材421は、上延伸部421aと下延伸部321cとの間を繋ぐ部分が多重曲げ部421bで構成されている。多重曲げ部421bは、複数の曲げ部分を有する。そして、当接部材421が第2姿勢をとった場合には、矢印Eで示すように、当接部材421の多重曲げ部421bの複数の箇所がシリンダライナ11の外壁面11aに当接する。
【0097】
本変形例の当接部材421の形態は、上記第1実施形態および上記第2実施形態に適用することができる。この場合においても、上記第1実施形態および上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0098】
また、本変形例の当接部材421を採用する場合には、当接部材421が第2姿勢をとる場合に、シリンダライナ11の外壁面11aに対して多重曲げ部421bが一か所の面で接触するのではなく複数面で接触するので、シリンダボア1a~1dのボア上部A1で生じた熱をシリンダライナ11および当接部材421を介して冷却液へ効果的に伝達することができる。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ42を採用すれば、エンジン4の駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)をさらに効果的に冷却できる。
【0099】
なお、
図7の断面図では、当接部材421が第2姿勢をとる場合に、当該当接部材421とシリンダライナ11の外壁面11aとの接触が点接触のように図示しているが、実際には、上記第1実施形態から上記第3実施形態と同様に面接触するように当接部材421は構成されている。
【0100】
[第4実施形態]
第4実施形態に係るウォータージャケットスペーサ52の構造について、
図8を用いて説明する。
図8は、ウォータージャケットスペーサ52が採用されるエンジン5の一部構成を示す断面図である。なお、
図8において、上記第1実施形態から上記第3実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0101】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ52は、ウォータージャケットスペーサ52がスペーサ本体部材520と当接部材521とから構成され、伸縮部材を備えない点で上記第1実施形態から上記第3実施形態と相違する。
【0102】
図8に示すように、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ52においても、スペーサ本体部材520が樹脂材料で構成されているとともに、上壁部520e、下壁部520f、接続壁部520g、および底壁部520hが一体形成されている。
【0103】
当接部材521は、上記第1実施形態から上記第3実施形態および上記変形例1の各当接部材121,221,321,421と同様に、金属材料を用いて構成されている。ただし、上記第1実施形態から上記第3実施形態および上記変形例1では、各当接部材121,221,321,421が一例として鋼板や銅合金などを用いて形成されていたのに対して、本実施形態の当接部材521は、形状記憶合金を用いて形成されている。
【0104】
当接部材521は、上記第1実施形態の当接部材121と同様に、上延伸部521a、曲げ部521b、下延伸部521c、および上下延伸部521dを有する。さらに、当接部材521は、下延伸部521cと上下延伸部521dとを繋ぐ曲げ部521eも有する。当接部材521では、上延伸部521a、曲げ部521b、下延伸部521c、曲げ部521e、および上下延伸部521dが一体形成されてなる。
【0105】
当接部材521において、上下延伸部521dは、下端(曲げ部521eに接続された端部とは反対側の端部)が、スペーサ本体部材520における接続壁部520gの上面に固定されている。
【0106】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ52を備えるエンジン5では、ウォータージャケット1eに冷却液が注液された後であって、当該エンジン5が駆動されてウォータージャケット1eに注液された冷却液が所定温度未満(例えば、90℃未満)の場合には、破線で示すように当接部材521の曲げ部521eが大きな曲率をもって(小さな曲率半径をもって)屈曲された状態にある。
【0107】
一方、エンジン5が駆動され、冷却液の温度が所定温度以上(例えば、90℃以上)になった場合には、実線で示すように当接部材521の曲げ部521eの曲率が小さく(曲率半径が大きく)なる(矢印F1)。これにより、当接部材521は、破線で示す第1姿勢から実線で示す第2姿勢へと姿勢変化し、曲げ部521bが矢印F2で示すようにシリンダライナ11の外壁面11aに押し当てられる。
【0108】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ52は、伸縮部材を備えない点で上記第1実施形態から上記第3実施形態と相違するが、上記第1実施形態から上記第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0109】
また、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ52では、形状記憶合金を用いて当接部材521を構成することにより、当該当接部材521の姿勢が冷却液の温度によって自ら変化する。即ち、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ52では、当接部材521を姿勢変化させるための伸縮部材を備えなくてもよいので、少ない構成部材で、エンジンの駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)の冷却を効果的に行うことが可能である。
【0110】
なお、当接部材521の形状について、上記第3実施形態や上記変形例1のような形状を採用することもできる。
【0111】
また、
図8の断面図においても、当接部材521が第2姿勢をとる場合に、当該当接部材521とシリンダライナ11の外壁面11aとの接触が点接触のように図示しているが、実際には、上記第1実施形態から上記第3実施形態および上記変形例1と同様に面接触するように当接部材521は構成されている。
【0112】
[第5実施形態]
第5実施形態に係るウォータージャケットスペーサ62の構造について、
図9を用いて説明する。
図9は、ウォータージャケットスペーサ62が採用されるエンジン6の一部構成を示す断面図である。なお、
図9において、上記第1実施形態から上記第3実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0113】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ62は、伸縮部材622としてバイメタルからなる部材が採用されている点で上記第2実施形態と相違する。
【0114】
図9に示すように、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ62においても、スペーサ本体部材620が樹脂材料で構成されているとともに、上壁部620e、下壁部620f、接続壁部620g、および底壁部620hが一体形成されている。また、スペーサ本体620は、接続壁部620gの上面から上方に向けて突出形成されたアンカー壁部620jも有する。
【0115】
当接部材621は、上記第1実施形態から上記第3実施形態および上記変形例1の各当接部材121,221,321,421と同様に、金属材料(一例として、鋼板、銅合金)を用いて構成されている。
【0116】
当接部材621は、上記第2実施形態の当接部材221と同様に、上延伸部621a、曲げ部621b、および下延伸部621cを有する。当接部材621においても、上延伸部621a、曲げ部621b、および下延伸部621cが一体形成されてなる。
【0117】
本実施形態の伸縮部材622は、板状または線状のバイメタルから構成されている。伸縮部材622の一端は、当接部材621における下延伸部621cの一端に接合されており、他端は、スペース本体部材620のアンカー壁部620jに固定されている。
【0118】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ62を備えるエンジン6では、当該エンジン6が駆動されてウォータージャケット1eに注液された冷却液が所定温度未満(例えば、90℃未満)の場合には、破線で示すように伸縮部材622が大きな曲率をもって(小さな曲率半径をもって)屈曲された状態にある。
【0119】
一方、エンジン6が駆動され、冷却液の温度が所定温度以上(例えば、90℃以上)になった場合には、実線で示すように伸縮部材622の曲率が小さく(曲率半径が大きく)なる(矢印G1)。これにより、当接部材621は、破線で示す第1姿勢から実線で示す第2姿勢へと姿勢変化し、曲げ部621bが矢印G2で示すようにシリンダライナ11の外壁面11aに押し当てられる。
【0120】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ62は、バイメタルを用いて構成された伸縮部材622を備える点で上記第2実施形態と相違するが、上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0121】
また、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ62では、バイメタルを用いて伸縮部材622を構成することにより、セルローススポンジを用いて伸縮部材を構成する場合に比べて、接続壁部620gよりも上方の領域を流れる冷却液に対する抵抗を低く抑えることができる。即ち、バイメタルを用いて伸縮部材622が形成されている本実施形態では、ウォータージャケット1eにおける冷却液の流れに対する投影面積を小さく抑えて流れに対する抵抗を低くすることが可能である。よって、本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ62を採用すれば、エンジン6の駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)の冷却をより効果的に行うことが可能である。
【0122】
なお、本実施形態では、伸縮部材622を接続壁部620gよりも上方に配置することとしたが、上記第1実施形態と同様に、接続壁部620gよりも下方に配置することも可能である。
【0123】
また、
図9の断面図においても、当接部材621が第2姿勢をとる場合に、当該当接部材621とシリンダライナ11の外壁面11aとの接触が点接触のように図示しているが、実際には、上記第1実施形態から上記第4実施形態および上記変形例1と同様に面接触するように当接部材621は構成されている。
【0124】
また、当接部材621の形態について、上記第3実施形態の当接部材321や、上記変形例1の当接部材421などと同様の形態とすることも可能である。
【0125】
[変形例2]
変形例2に係るウォータージャケットスペーサ72の構造について、
図10(a)を用いて説明する。
図10(a)は、ウォータージャケットスペーサ72が採用されるエンジン7の一部構成を示す断面図である。なお、
図10(a)において、上記第1実施形態から上記第5実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0126】
本変形例に係るウォータージャケットスペーサ72は、シリンダボア毎に4つの当接部材721が配置されている点で上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1と相違する。
【0127】
具体的に、
図10(a)に示すように、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ72では、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1等と同様の構成を有するスペーサ本体部材720に対して、シリンダボア毎に4つの当接部材721が固定されている。各当接部材721については、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1の何れかかと同様の構成を有する。
【0128】
シリンダボア毎に4つ配置された当接部材721は、互いに周方向に分散配置されている。なお、各当接部材721は、第1姿勢から第2姿勢へと変化する場合のシリンダライナ11に対して姿勢が変化する方向については、シリンダボアの中心(気筒軸)に向く方向であってもよいし、該中心から少しズレを有してもよい。なお、本変形例における当接部材721は、金属材料(例えば、鋼板、銅合金、形状記憶合金など)から構成されている。
【0129】
本変形例に係るウォータージャケットスペーサ72は、シリンダボア毎に4つの当接部材721が配置されている点で上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1と相違するが、他の構成は同じである。よって、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ72を採用する場合でも、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1と同様の効果を得ることができる。
【0130】
また、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ72では、シリンダボア毎に4つの当接部材721を有するので、少なくともエンジン7の駆動時において、ボア上部A1(
図3を参照。)で発生した熱をシリンダライナ11の外壁部だけでなく当接部材721を介しても良好に冷却液に熱伝達することができる。これより、エンジン7の駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)の冷却をより効果的に行うことが可能である。
【0131】
なお、本変形例では、シリンダボア毎に4つの当接部材721を配置することとしたが、3つの当接部材721を配置することや、5つ以上の当接部材721を配置することも可能である。
【0132】
[変形例3]
変形例3に係るウォータージャケットスペーサ82の構造について、
図10(b)を用いて説明する。
図10(b)は、ウォータージャケットスペーサ82が採用されるエンジン8の一部構成を示す断面図である。なお、
図10(b)において、上記第1実施形態から上記第5実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0133】
本変形例に係るウォータージャケットスペーサ82は、シリンダライナ11におけるシリンダボア同士の間の部分であるボア間部11dに対して当接可能に当接部材821が配置されている点で上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1,2と相違する。
【0134】
具体的に、
図10(b)に示すように、シリンダライナ11は、シリンダボアを囲むボア周囲部11b,11cと、X方向(気筒列方向)において隣り合うボア周囲部11b,11c同士の間の部分であるボア間部11dと、を有する。ボア間部11dは、Y方向(吸排気方向)において、ボア周囲部11b,11cよりもY方向内側に向けて凹入されている。
【0135】
エンジン8の駆動時において、シリンダライナ11は、ボア周囲部11b,11cに比べてボア間部11dの部分で高温となる。
【0136】
本変形例に係るウォータージャケットスペーサ82では、スペーサ本体部材820におけるボア間部820lに当接部材821が固定されている。スペーサ本体部材820におけるボア間部820lは、シリンダライナ11のボア間部11dに対してY方向に対向する部分であって、シリンダライナ11のボア周囲部11b,11cをそれぞれ囲むボア周囲部820aとボア周囲部820bとの間に位置する部分である。
【0137】
なお、本変形例においても、当接部材821は、金属材料(一例として、鋼板、銅合金、形状記憶合金など)から構成されており、スペーサ本体部材820を構成する樹脂材料やシリンダライナ11よりも高い熱伝導性を有する。
【0138】
本変形例に係るウォータージャケットスペーサ82は、シリンダライナ11に対する当接部材821の配置が上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1,2と相違するが、他の構成は同じである。よって、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ82を採用する場合でも、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1,2と同様の効果を得ることができる。
【0139】
また、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ82では、スペーサ本体部材820のボア間部820lに当接部材821を固定し、エンジン8の駆動時においてシリンダライナ11のボア間部11dに対して当接部材821が当接するようにしているので、エンジン8の駆動時に高温となるボア間部11dの熱が当接部材821を介して冷却液に逃げるようにすることができる。よって、エンジン8の駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)の冷却をより効果的に行うことが可能である。
【0140】
なお、当接部材821の配置に関し、本変形例で採用する配置形態と、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1,2で採用する配置形態と、を組み合わせることも可能である。
【0141】
また、当接部材821の構成については、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1,2の何れかと同様の構成を採用することもできるし、それらを組み合わせて採用することも可能である。
【0142】
[変形例4]
変形例4に係るウォータージャケットスペーサ92の構造について、
図11(a)、(b)を用いて説明する。
図11(a)は、ウォータージャケットスペーサ92が採用されるエンジン9の一部構成を示す断面図である。
図11(b)は、
図11(a)のH-H断面線の構成を示す断面図である。なお、
図11(a)、(b)において、上記第1実施形態から上記第5実施形態と同じ構成の部材には同じ符号を付し、以下での説明を省略する。
【0143】
本実施形態に係るウォータージャケットスペーサ92は、当接部材921における上延伸部および下延伸部921cが、ウォータージャケット1e内での冷却液の流れ方向に対して斜め方向となるように配設されている点で上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例3と相違する。
【0144】
具体的に、
図11(a)に示すように、ウォータージャケットスペーサ92の当接部材921は、上記第1実施形態と同様に、上延伸部921a、曲げ部921b、および下延伸部921cを有する。
図11(a)、(b)に示すように、本変形例の当接部材921では、上延伸部921aおよび下延伸部921cの面の角度が冷却液の流れFlowの方向に対して斜めとなるように形成されている。
【0145】
なお、本変形例の当接部材921についても、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例3と同様に金属材料(一例として、鋼板、銅合金、形状記憶合金など)で構成されている。
【0146】
本変形例に係るウォータージャケットスペーサ92は、当接部材921における上延伸部921aおよび下延伸部921cが冷却液の流れFlowの方向に対して斜め方向となるように構成されている点で上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例3と相違するが、他の構成は同じである。よって、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ92を採用する場合でも、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例3と同様の効果を得ることができる。
【0147】
また、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ92では、当接部材921における上延伸部921aおよび下延伸部921cが冷却液の流れFlowの方向に対して斜め方向となるように構成されているので、冷却液の流れFlowに対する対向面積を増やすことができ、放熱効果の向上が可能である。よって、本変形例に係るウォータージャケットスペーサ92を採用すれば、エンジン9の駆動時におけるボア上部A1(
図3を参照。)の冷却をより効果的に行うことが可能である。
【0148】
なお、本変形例の当接部材921について、形状記憶合金を用いて形成する場合には、冷却液の温度が所定温度以上に上昇した場合にだけ
図11(a)、(b)に示すように上延伸部921aおよび下延伸部921cが角度変化するようにしてもよい。
【0149】
また、本変形例の当接部材921の構成を、上記第2実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4の何れかの構成と組み合わせることも可能である。
【0150】
[その他の変形例]
上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4では、樹脂材料を用いて一体形成されたスペーサ本体部材120,220,320,520,620,720,820を採用することとしたが、本発明では、複数の要素を組み合わせて構成されたスペーサ本体部材を採用することも可能である。
【0151】
また、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4では、金属材料を用いて一体形成された当接部材121,221,321,421,521,621,721,821,921を採用することとしたが、本発明では、複数の要素を組み合わせて構成された当接部材を採用することも可能である。例えば、当接部材において、第1姿勢から第2姿勢への姿勢変化に際して、変形させたくない箇所を板厚の厚い金属板を用いることとしてもよいし、逆に第2姿勢をとった際にシリンダボア壁に押し付けられる箇所の剛性を低く抑えて接触面積を大きくすることも可能である。
【0152】
また、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4では、エンジン1~9として直列4気筒エンジンにウォータージャケットスペーサ12,22,32,42,52,62,92を適用することとしたが、本発明では、単気筒エンジンや2気筒あるいは3気筒、さらには5気筒以上のエンジンに適用することも可能である。また、エンジン形式についても、例えば、V型やW型の4気筒以上のエンジン等を採用することもできる。
【0153】
また、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4では、シリンダブロック10にシリンダライナ11を嵌め込んだ構成を採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。シリンダブロックに直接シリンダボア壁が設けられた構成のエンジンを採用することもできる。
【0154】
また、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4では、スペーサ本体部材120,220,320,520,620,720,820が樹脂材料を用いて形成され、当接部材121,221,321,421,521,621,721,821,921が金属材料を用いて形成されていることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。当接部材の方がスペーサ本体部材およびシリンダライナ11よりも高い熱伝導性を有していれば、それぞれの形成に用いられる材料に限定はない。例えば、当接部材およびスペーサ本体部材がともに樹脂材料を用いて形成されていてもよく、ともに金属材料を用いて形成されていてもよい。
【0155】
また、セラミックスを用いて形成されたスペーサ本体部材を採用すれば、材料の選択によりスペーサ本体部材も高い熱伝導性を備えることとでき、エンジンの冷却に優位となる。
【0156】
また、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4では、シリンダライナ11の径方向外側における吸気側および排気側の両方に当接部材121,221,321,421,521,621,721,821,921を配することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、シリンダライナ(シリンダボア壁)11の周囲の内の排気側だけに当接部材を配することにしてもよい。これは、エンジンの駆動時において、ボア上部は、吸気側よりも排気側で高温となるためであり、吸気側よりも高温となる排気側にだけ当接部材を配することとしても、ボア上部の温度を効果的に冷却することができるためである。
【0157】
また、上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1から上記変形例4では、当接部材121,221,321,421,521,621,721,821,921の形成材料として鋼板などの金属材料を採用することとした。金属材料の内でも、銅合金を採用すればシリンダボア壁およびシリンダブロックを構成する各材料よりも熱伝導率が高いため、ボア上部の熱を冷却液に伝達する上で特に好適である。
【符号の説明】
【0158】
1~9 エンジン
1e ウォータージャケット
10 シリンダブロック
10a 内壁面
11 シリンダライナ(シリンダボア壁)
11a 外壁面
12,22,32,42,52,62,92 ウォータージャケットスペーサ
120,220,320,520,620,720,820 スペーサ本体部材
120e,220e,320e,520e,620e 上壁部
120f,220f,320f,520f,620f 下壁部
121,221,321,421,521,621,721,821,921 当接部材
122,222,322,622 伸縮部材
A1 ボア上部
A2 ボア下部