(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010360
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】核酸医薬品等の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/26 20060101AFI20250109BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20250109BHJP
G01N 30/34 20060101ALI20250109BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N30/26 E
G01N30/26 A
G01N30/26 H
G01N30/88 D
G01N30/88 N
G01N30/88 C
G01N30/34 E
G01N30/72 C
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024192263
(22)【出願日】2024-10-31
(62)【分割の表示】P 2022503664の分割
【原出願日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020029294
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020122679
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523261322
【氏名又は名称】メディフォード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 真一郎
(57)【要約】
【課題】本発明は、核酸医薬品等のイオン性の物質の液体クロマトグラフィー-質量分析において、高感度を保ったまま、長時間にわたり連続的に分析することのできる手段を提供することを課題とする。
【解決手段】イオン性の分析対象物質を含む試料を、塩基性イオンペア試薬を含む移動相を用いた液体クロマトグラフィーに付し、さらに質量分析に付す工程を含む分析方法であって、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む第1の移動相と、塩基性イオンペア試薬を含まない水系溶媒の第2の移動相とを別々の容器に準備し、前記液体クロマトグラフィーに付す際に混合して用いることを特徴とする、分析対象物質の分析方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性の分析対象物質を含む試料を、塩基性イオンペア試薬を含む移動相を用いた液体クロマトグラフィーに付し、さらに質量分析に付す工程を含む分析方法であって、
塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む第1の移動相と、塩基性イオンペア試薬を含まない水系溶媒の第2の移動相とを別々の容器に準備し、前記液体クロマトグラフィーに付す際に混合して用いることを特徴とする、分析対象物質の分析方法。
【請求項2】
非水系溶媒の第3の移動相をさらに別の容器に準備し、前記第1の移動相および前記第2の移動相と混合して用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の移動相と他の移動相との混合比率を時間とともに変更させながら用いることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の移動相を常時一定量流すことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記非水系溶媒は有機溶媒比率が40%以上の溶媒である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水系溶媒は水の比率が89%以上の溶媒である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の移動相を不活性ガスでバブリングすることを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基性イオンペア試薬が、アミン化合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン性の分析対象物質が、プリン化合物、プリン化合物類縁体、ピリミジン化合物、またはピリミジン化合物類縁体を含むヌクレオシド;ヌクレオチド、環状ヌクレオチド、ヌクレオチド二リン酸、およびヌクレオチド三リン酸;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NAD、NADPH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD、FADH)、補酵素A(コエンザイムA)、テトラヒドロメタノプテリン(H4MPT)、S-アデノシルメチオニン(SAM)、および3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸から選ばれるヌクレオシドを含む補酵素;それらの代謝中間体、ならびにその還元水素受容物および修飾体;オリゴヌクレオチド、糖、および糖鎖から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む第1の移動相の容器、
塩基性イオンペア試薬を含まない水系溶媒の第2の移動相の容器、
前記第1の移動相と前記第2の移動相を混合するミキサー、
前記ミキサーで混合された移動相を用いて、イオン性の分析対象物質を含む試料を分離する液体クロマトグラフィー装置、および
前記分析対象物質を分析する質量分析装置、
を備える、分析装置。
【請求項11】
前記第1の移動相を不活性ガスでバブリングする装置を備える、請求項10に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィーの移動相の劣化を防止した、液体クロマトグラフィー-質量分析による核酸医薬品等のイオン性の物質の分析方法等に関する。なお、本明細書における「分析」には、分析対象物質の量を定性的、定量的または半定量的に決定する「測定」の意味が含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、生体試料中に含まれる微量物質を分析することの重要性が益々高まっている。特に、疾患によって誘導、消失等の変動があるバイオマーカータンパク質の分析だけでなく、モノヌクレオチドやモノヌクレオチドの代謝物、修飾体、複数のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、糖、糖鎖等の物質のようなイオン性の物質についても、同様に高精度な分析が望まれている。生体試料中に含まれるイオン性の物質の分析としては、核酸医薬品を正確に分析する方法も求められている。
【0003】
核酸医薬品は、(修飾)核酸が十~数十塩基程度連結したオリゴヌクレオチドで構成され、直接生体に作用するもので、化学合成により製造される医薬品である。核酸医薬品は、直接生体で、特定のタンパクの発現を抑制する等の作用を持ち、これまで治療の難しかった疾病に対する新たな治療方法を提供するものとして期待されている。また、いくつかの核酸医薬品について、既に製造販売承認が得られている。
【0004】
イオン性の物質を測定する場合、例えば、オリゴヌクレオチドの分析方法としては、液体クロマトグラフィー-質量分析による分析方法が知られている(特許文献1)が、医薬品の製造管理等にあたっては、長時間にわたる連続的な分析においても感度が低下せずに分析可能な、より高精度な分析手段を用いることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、核酸医薬品等のイオン性の物質(以下、単に核酸医薬品等と称する場合がある)を液体クロマトグラフィー-質量分析において、高感度を保ったまま、長時間にわたり連続的に分析することのできる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、核酸医薬品等のイオン性の物質を液体クロマトグラフィー-質量分析によって測定する場合において、特に長時間にわたる連続的な分析において感度低下が起こることを知見した。また、このような連続的な分析における感度低下が、移動相中の塩基性イオンペア試薬の劣化に起因していることを知見した。そして、移動相中の塩基性イオンペア試薬の劣化を防止することにより、移動相の劣化を防止できることを知見し、同知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] イオン性の分析対象物質を含む試料を、塩基性イオンペア試薬を含む移動相を用いた液体クロマトグラフィーに付し、さらに質量分析に付す工程を含む分析方法であって、
塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む第1の移動相と、塩基性イオンペア試薬を
含まない水系溶媒の第2の移動相とを別々の容器に準備し、前記液体クロマトグラフィーに付す際に混合して用いることを特徴とする、分析対象物質の分析方法。
[2] 非水系溶媒の第3の移動相をさらに別の容器に準備し、前記第1の移動相および前記第2の移動相と混合して用いることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3] 前記第1の移動相と他の移動相との混合比率を時間とともに変更させながら用いることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記第1の移動相を常時一定量流すことを特徴とする、[3]に記載の方法。
[5] 前記非水系溶媒は有機溶媒比率が40%以上の溶媒である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記水系溶媒は水の比率が89%以上の溶媒である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記第1の移動相を不活性ガスでバブリングすることを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記塩基性イオンペア試薬が、アミン化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記イオン性の分析対象物質が、プリン化合物、プリン化合物類縁体、ピリミジン化合物、またはピリミジン化合物類縁体を含むヌクレオシド;ヌクレオチド、環状ヌクレオチド、ヌクレオチド二リン酸、およびヌクレオチド三リン酸;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NAD、NADPH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD、FADH)、補酵素A(コエンザイムA)、テトラヒドロメタノプテリン(H4MPT)、S-アデノシルメチオニン(SAM)、および3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸から選ばれるヌクレオシドを含む補酵素;それらの代謝中間体、ならびにその還元水素受容物および修飾体;オリゴヌクレオチド、糖、および糖鎖から選ばれる少なくとも1種以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] 塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む第1の移動相の容器、
塩基性イオンペア試薬を含まない水系溶媒の第2の移動相の容器、
前記第1の移動相と前記第2の移動相を混合するミキサー、
前記ミキサーで混合された移動相を用いて、イオン性の分析対象物質を含む試料を分離する液体クロマトグラフィー装置、および
前記分析対象物質を分析する質量分析装置、
を備える、分析装置。
[11] 前記第1の移動相を不活性ガスでバブリングする装置を備える、[10]に記載の分析装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、核酸医薬品等のイオン性の物質の液体クロマトグラフィー-質量分析において、高感度を保ったまま、長時間にわたり連続的な分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-MOEおよびミポメルセン-Sオリゴのピーク面積値の推移(160回連続分析)を示す図である。
【
図2】
図2は、窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-MOE/ミポメルセン-Sオリゴのピーク面積比の推移(160回連続分析)を示す図である。
【
図3】
図3は、窒素バブリングを施した時のミポメルセン-MOEおよびミポメルセン-Sオリゴのピーク面積値の推移(160回連続分析)を示す図である。
【
図4】
図4は、窒素バブリングを施した時のミポメルセン-MOE/ミポメルセン-Sオリゴのピーク面積比の推移(160回連続分析)を示す図である。
【
図5】
図5は、窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-MOEのピーク面積値の推移(240回連続分析)を示す図である。
【
図6】
図6は、窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-OMeのピーク面積値の推移(240回連続分析)を示す図である。
【
図7】
図7は、窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-LNAのピーク面積値の推移(240回連続分析)を示す図である。
【
図8】
図8は、窒素バブリングを施した時のミポメルセン-MOEのピーク面積値の推移(240回連続分析)を示す図である。
【
図9】
図9は、窒素バブリングを施した時のミポメルセン-OMeのピーク面積値の推移(240回連続分析)を示す図である。
【
図10】
図10は、窒素バブリングを施した時のミポメルセン-LNAのピーク面積値の推移(240回連続分析)を示す図である。
【
図11】
図11は、劣化の原因となっている移動相の確認結果を示す図である。
【
図12】
図12は、窒素バブリング有無におけるCS-Aのピーク面積値の推移(52回連続分析)を示す図である。
【
図13】
図13は、窒素バブリング有無におけるCS-Eのピーク面積値の推移(52回連続分析)を示す図である。
【
図14】
図14は、窒素バブリング有無における内標準物質(ΔUA-2S GlcNCOEt-6S)のピーク面積値の推移(240回連続分析)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。
<分析対象物質の分析方法>
本発明の一態様は、イオン性の分析対象物質を含む試料を、塩基性イオンペア試薬を含む移動相を用いた液体クロマトグラフィーに付し、さらに質量分析に付す工程を含む分析方法であって、前記移動相の劣化を防止する操作を行うことを特徴とする、分析対象物質の分析方法(以下、「本発明の分析方法」ということがある)に関する。
【0012】
本発明において用いられる塩基性イオンペア試薬としては、移動相中でイオン性の分析対象物質とイオンペア(イオン対)を形成しうる塩基性化合物であれば特に限定はされないが、アミン化合物等の塩基性化合物が好ましく用いられる。
アミン化合物としては、例えば、炭素数1~10(好ましくは炭素数2~8、炭素数2~6等
)のアルキル基を有する脂肪族アミン、炭素数6~20の芳香族アミン、炭素数3~20の複素環式アミン、またはそれらの塩等が挙げられる。塩としては、限定されないが、例えば、臭化物塩、塩化物塩、水酸化物塩、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
アミン化合物である塩基性化合物としては、例えば、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEA-OH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)、N,N-ジメチルブチルアミン(DMBA)、オクチルアミン(OA)、トリプロピルアミン(TPA)、N,N-ジメチルヘキシルアミン(DMHA)、ジイソプロピルアミン(DIPA)、N-メチルジブチルアミン(MDBA)、プロピルアミン(PA)、トリエチルアミン(TEA)、ヘキシルアミン(HA)、トリブチルアミン(TBA)、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(DMCHA)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、1,8-ジアザビシクロ [5.4.0]undec-7-ene (DBU)、ジプロピルアンモニウムアセテート(DPAA)、ジブチルアンモニウムアセテート(DBAA)、ジアミルアンモニウムアセテート(DAAA)、ジヘキシルアンモニウムアセテート(DHAA)等が挙げられるが、これらに限られない。当業者であれば分析対象物質ごとに、適切な塩基性イオンペア試薬を選択し適宜条件を検討して使用することができる。塩基性イオンペア試薬は、1種または2種以上を使用してよい。
【0013】
本発明者等は、核酸医薬品等のイオン性の分析対象物質の液体クロマトグラフィー-質量分析において、高感度を保ったまま、連続的に分析する手段について、鋭意検討を行った。
本発明者等は、核酸医薬品等のイオン性の分析対象物質の液体クロマトグラフィー-質量分析において、時間経過とともにピーク強度が低下する現象を知見した。本発明者等は
、連続的な分析における経時的な感度低下を防止するために、塩基性イオンペア試薬の劣化防止が必要と推察し、劣化防止手段を検討した。
その結果、第一の手段として、液体クロマトグラフィーの移動相を不活性ガスでバブリングし、移動相の酸素を除去することで、塩基性イオンペア試薬の劣化を防止でき、液体クロマトグラフィー-質量分析における感度低下を抑制できることを知見した。
さらに、第二の手段として、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相を用意し、水を含む移動相と、液体クロマトグラフィーへの注入直前に混合することで、塩基性イオンペア試薬の劣化を防止でき、液体クロマトグラフィー-質量分析における感度低下を抑制できることを知見した。
本発明は、このようにしてなされたものである。
【0014】
≪劣化防止工程≫
本発明のより具体的な一態様は、移動相の劣化を防止する操作が、移動相を不活性ガスでバブリングすることを含む、本発明の分析方法に関する。
バブリングは、移動相中の酸素を除去することが可能な態様であれば限定されないが、例えば、移動相を保持する容器に対して、不活性ガスを吹き込んでバブリング処理を行うガスバブリング装置を用いて行うことができる。不活性ガスの流量は、測定環境、試料、使用する移動相、移動相の総量等に応じ、変更可能であり、特に限定されないが、例えば、移動相1Lあたり、0.1~200 mL/min、好ましくは0.1~20 mL/min、更に好ましくは0.1~10 mL/min等の量を挙げることができる。
不活性ガスの吹き込みは、連続的または間欠的であってよく、不活性ガスの吹き込み量を減らすときには、一度に減らしてもよいし、段階的に減らしていってもよい。不活性ガスの流量は、例えば、Agilent社製のADM1000を使用して測定することができる。
具体的なバブリングの方法としては、当業者であれば移動相の組成や液体クロマトグラフィーの分離に影響を与えない範囲で、移動相の入っている容器の大きさ、形状、密閉性を考慮して流量を適宜設定することができる。例えば、移動相調製直後に超音波槽を用いて脱気を行った後、不活性ガスを約100 mL/min程度で数分間バブリングを行った後、供給する不活性ガスの流量を0.1~10 mL/minに変更してもよい。
【0015】
限定されるものではないが、移動相のバブリングに用いるガスバブリング装置の一実施形態を、以下に説明する。
ガスバブリング装置には、供給された高純度の不活性ガスを吹き込むための不活性ガス供給配管を備えられる。不活性ガス供給配管は、移動相容器内に挿入される。不活性ガス供給配管の材質、形状、設置位置(移動相中における深度等)は、常法に基づいて、適宜選択し得る。また、ガスバブリング装置には、不活性ガス供給配管に流す不活性ガスの流量を調整する流量調整弁が備えられてもよい。そして、ガスバブリング装置は、流量調整弁で調整された流量の不活性ガスを、不活性ガス供給配管を介して移動相容器内の移動相中に吹き込んでバブリング処理を行う。また、移動相より排出された酸素を含む空気を容器外に排出するために、排出配管を設けてもよい。また、ガスバブリング装置によるガスバブリングを管理・制御する装置、制御コンピューター等の手段をさらに備え、その管理・制御装置の性能として、一定時間毎にバブリングを行う、止めるの制御をしてもよい。また、濃度計で測定した溶存酸素濃度に基づいて、ガスバブリング装置を管理・制御する管理・制御装置をさらに備え、管理・制御装置は、濃度計で測定した溶存酸素濃度が所定の値以上になった場合にガスバブリング装置により吹き込む不活性ガスの量を増加させ、濃度計で測定した溶存酸素濃度が所定の値未満になるように前記ガスバブリング装置を制御してもよい。
なお、これらのバブリングの実施において、バブリングが行われていることを管理するための手段として、ガスバブリングを管理・制御する手段に、バブリングの制御(例えば、吹き込むガスの量、または、移動相の容器中の圧力が規定値以下になった場合バブリング量を増加させる工程を実行させる)、および/または、吹き込んだ不活性ガスの量や、移動相として使用される溶媒を供給するための容器中の圧力等の測定、記録を実行させるためのソフトウェア等の手段を備えていてもよい。このような手段を備えていることは、例えば、医薬品開発時において取得された結果の信頼性を担保するための手段として記録保持が求められており、そのような要求に応えることができるため、好ましい。
【0016】
不活性ガスは、分析に影響せず、溶存酸素を排出することができるものであれば限定されないが、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガス、または窒素ガス等を用いることができる。不活性ガスは、1種または2種以上であってよい。
【0017】
本発明の分析方法の別の一態様は、移動相の劣化を防止する操作として、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相を用いることを含む。
限定されるものではないが、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相を用いる一実施形態を、以下に説明する。
水を含む移動相と、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相とを別々に適当な容器内に用意する。これら以外に、適切な移動相を形成するために、さらに別の移動相を用いてもよい。それぞれの容器から送液する機能を有するポンプを用いて、ミキサーへ供給し、混合させる。
【0018】
ミキサーとしては、二液以上を高速かつ均一に混合する機能を有するミキサーであれば特に限定されないが、液体の分配・混合ユニットを少なくとも1つ有するミキサーを挙げることができる。そのようなミキサーとして、具体的には、液体クロマトグラフィー用グラジエントミキサー等を挙げることができる。
【0019】
ミキサーへ送液する際の総流量は、二液以上を高速で接触混合できれば特に限定されず、ミキサーの種類や内容積、ポンプの種類等により当業者が適宜調整すればよい。具体的には、液の総流量として、ミキサー内の内容積に対して、1分間に少なくとも0.25倍、2.5倍、25倍、250倍、2500倍、25000倍等の量を挙げることができる。
【0020】
水を含む移動相、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相および別の移動相との混合比は、溶媒の種類、溶液の濃度、分離対象物質、液体クロマトグラフィーカラムの種類等により適宜調整すればよい。塩基性イオンペア試薬を用いた常法の液体クロマトグラフィー-質量分析条件における移動相条件を参照することもできる。
【0021】
本明細書において、非水系溶媒とは、水を全く含まない溶媒だけでなく、可能な限り水を排除したものを含む。例えば、有機溶媒比率が40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上とすることができ、特に40%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、80%以上である溶媒が最も好ましい。
非水系溶媒は、分析系に影響せず、塩基性イオンペア試薬が劣化しない溶媒であれば、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール等やアセトニトリル等の有機溶媒が挙げられる。非水系溶媒は、1種または2種以上を使用してよい。塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相について、上記の移動相のバブリングを行ってもよい。
【0022】
限定されるものではないが、移動相の一実施形態としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
移動相A:水
移動相B:メタノール
移動相C:メタノール/ヘキサフルオロイソプロパノール/トリエチルアミン
【0023】
不活性ガスを使用したバブリングによる移動相の劣化防止をする第一の実施形態と、非水系溶媒を使用した移動相の劣化防止をする第二の実施形態とを組み合わせて実施をしてもよく、第一の実施形態と第二の実施形態とを行う順番を入れ替えて行ってもよい。
【0024】
≪試料≫
本発明に供する試料は、特に制限されず、例えば、製薬由来試料、生体由来試料、食品由来試料等が挙げられる。製薬由来試料は、例えば、製薬、製薬原料、製薬添加物等が挙げられる。生体由来試料は、上皮、上皮腺、結合組織、骨、血液、造血器、筋肉、神経、視覚器、聴覚器、リンパ系、外皮系、心血管系、呼吸器系、泌尿器系、上部消化管、下部消化管、消化腺、神経内分泌系、内分泌系、生殖器系、精子、卵といった生体のあらゆる部位に由来する試料を使用することができ、例えば、全血、血漿、血清、母乳、唾液、尿、便、喀痰、精液、または、膣、鼻、直腸、尿道もしくは咽頭の分泌物、排出物もしくはスワブ、涙管分泌液、バイオプシー組織試料、脳由来試料、肝臓由来試料、腎臓由来試料、皮膚由来試料、筋肉由来試料、心臓由来試料、食道由来試料、胃由来試料、小腸(十二指腸、空腸、回腸のいずれかまたは複数に跨る組織に由来する試料であってもよい)由来試料、虫垂由来試料、大腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸のいずれかまたは複数に跨る組織に由来する試料であってもよい)由来試料、肛門由来試料、胆嚢由来試料、膵臓由来試料、尿管由来試料、脾臓由来試料、膀胱由来試料、副腎由来試料、血管由来試料、リンパ管由来試料、リンパ節由来試料、舌由来試料、眼球(硝子体、鋸状縁、毛様体筋、チン小帯、シュレム管、瞳孔、前眼房、角膜、虹彩、水晶体皮質、水晶体核、毛様体突起、結膜、下斜筋、下直筋、内側直筋、網膜の動静脈、視神経乳頭(視神経円板)、または硬膜、網膜中心動脈、網膜中心静脈、視神経、渦静脈、テノン嚢、黄斑、中心窩、強膜、脈絡膜、上直筋、網膜のいずれかまたは複数に跨る組織に由来する試料であってもよい)由来試料等が挙げられるが、これに限定されない。食品由来試料は、例えば、食品、食品原料、食品添加物等が挙げられる。試料の形態は、特に制限されず、例えば、液体試料でもよいし、固体試料でもよい。固体試料の場合、溶媒等を用いて、混合液、抽出液、溶解液等を調製し、これを試料として用いることができる。溶媒としては、試料を溶解でき、その後の分離、検出に影響しない溶媒であれば、特に制限されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液等が挙げられる。前記試料は、例えば、分析対象物質を含む試料でもよいし、分析対象物質を含むか不明の試料であってもよい。上記試料は、本発明の方法による分析前に、適宜前処理に供されてもよい。
【0025】
≪分析対象物質≫
分析対象物質は、イオン性の物質であれば特に限定されず、通常、液体クロマトグラフィー-質量分析の対象とされる種々の物質が含まれる。本発明においてイオン性の物質とは、イオン化されうる基を有する化合物をいい、イオン化されうる基を有するモノマーの単独重合体やその他のモノマーとの共重合体または縮重合体であってもよい。イオンは陰イオン性であれば特に限定されず、陰イオン化されうる基を有する化合物であればよい。また、陽イオン化されうる基も有する両性物質であってもよい(以下において、陰イオン性または両性の物質と称する場合がある)。特に、本発明の分析方法は、塩基性イオンペア試薬としてのトリエチルアミン等の劣化を防止でき、移動相の劣化を防止できる。したがって、本発明の分析方法の効果が好ましく発揮される観点から、陰イオン性または両性の分析対象物質が好ましく挙げられる。このような分析対象物質としては、限定されないが、例えば、プリン化合物、プリン化合物類縁体、ピリミジン化合物、またはピリミジン化合物類縁体を含むヌクレオシド、ヌクレオチド、環状ヌクレオチド、ヌクレオチド二リン酸、およびヌクレオチド三リン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NAD、NADPH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD、FADH)、補酵素A(コエンザイムA)、テトラヒドロメタノプテリン(H4MPT)、S-アデノシルメチオニン(SAM)、および3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸等のヌクレオシドを含む補酵素、それらの代謝中間体、ならびにその還元水素受容物および修飾体、オリゴヌクレオチド、糖、および糖鎖等が挙げられる。分析対象の分子量は、液体クロマトグラフィー-質量分析が可能である限り、限定されない。試料に含まれる分析対象物質は、1種または2種以上であってもよい。
【0026】
本発明の分析対象物質とされるオリゴヌクレオチドは、特に限定されず、DNA若しくはRNAである核酸、または修飾核酸等であってよい。オリゴヌクレオチドの好ましい例として核酸医薬品が挙げられ、アンチセンス、デコイ、siRNA、miRNA、リボザイム、CpGオリゴおよびアプタマー等の核酸医薬品に用いられるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。これらの核酸の修飾は、特に限定されず、糖部の2'位の修飾(2'-F、2'-O-Methyl(2'-OMe)、2'-O-Methoxyethyl(2'-MOE)等)、架橋型修飾(2',4'-BNA(2',4'-Bridged Nucleic Acid、別名LNA(Locked Nucleic Acid)等)、リン酸部のホスホロチオエート化(リン酸エステル部分の、リンと二重結合している酸素原子をイオウ原子に変えること)、核酸部のメチル化(5-methylcytosine(5-mC)等)等の自体周知の方法により生体内での安定性を高めたもの等であってよい。
オリゴヌクレオチドとしては、限定されないが、例えば、10~100塩基、10~80塩基、10~50塩基、10~50塩基、または10~30塩基等であってよい。
【0027】
本発明の分析対象物質とされる糖および糖鎖は、特に限定されず、単糖類、二糖類、またはオリゴ糖類等であってよく、糖のみからなる単純糖質、その他の物質(タンパク質、脂質、合成高分子等を含む)を含む複合糖質のいずれに由来するか、天然物であるか合成物であるか等は問わない。本発明における糖および糖鎖には、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンといった糖鎖や複合糖質が結合した状態のものであってもよいが、生体に由来するような微量の糖鎖や複合糖質を分析する場合には、糖および糖鎖部分を単離して回収したものを分析対象としてよい。この前処理方法は、目的とする分析対象物質の性質等に応じて、当業者であれば方法を適宜選択し、条件を設定して使用することができる。これらの前処理方法としては、例えば、ペプチドN-グリコシダーゼF(PNGaseF
)、コンドロイチナーゼ、ヘパリナーゼ等の酵素で糖鎖を切断する方法、トリプシンやアクチナーゼ等のプロテアーゼによるタンパク質部分の断片化、化学的にヒドラジン分解する方法、尿素および界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を使用した還元アルキル化等が知られているが、これらに限定されない。
また、糖鎖や複合糖質は、測定目的に応じてエキソグリコシダーゼのような酵素を使用して、適宜切断して分析に使用することも可能である。
本発明の分析対象物質とされる糖の好ましい例として、単糖類としてグルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、およびN-アセチルガラクトサミン、グルクロン酸、イズロン酸、フルクトース等が挙げられ、二糖類としてマルトース、トレハロース、スクロース、ラクツロース、イソマルトース、ラクトース、ラクトサミン、N-アセチルラクトサミン、セロビオース、メリビオース、グリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸等)のフラグメント等が挙げられ、オリゴ糖類としてマルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラクトオリゴ糖、ラクトサミンオリゴ糖、N-アセチルラクトサミンオリゴ糖、セロオリゴ糖、メリビオオリゴ糖、グリコサミノグリカンのフラグメント等が挙げられ、単糖類が、炭素原子とほぼ同数の酸素原子をもつポリヒドロキシアルデヒド、ポリヒドロキシケトン、およびこれらの誘導体(例えば、アミノ基をもつアミノ糖、アルデヒド基または第一級ヒドロキシ基の部分がカルボキシル基となっているカルボン酸、アルデヒド基やケトン基がヒドロキシ基となっている多価アルコール等)等であってよく、並びに、それらの宿重合体を指すものであってよい。また、タンパク質、脂質等に結合している糖鎖や複合糖質の還元末端に存在し、糖鎖や複合糖質の構成成分として糖鎖やオリゴ糖の末端に存在するシアル酸をも対象とすることができる。このとき、シアル酸には、例えば、その水酸基がアセチル化等の修飾を受けているシアル酸誘導体も含むものとし、単体で存在する場合であっても対象とすることができる。
糖および糖鎖の分子量としては、限定されないが、例えば、GPC-HPLC法による重量平均分子量(Da)として、100~5,000Da、300~3,000Da、または400~1,000Da等であってよい。
【0028】
≪液体クロマトグラフィー/質量分析≫
本発明の分析方法における試料の測定は、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析装置(MS)を利用して実施する。液体クロマトグラフ装置と質量分析装置を使用したものであればよく、それぞれの装置は、互いに直列に接続されていてもよい。本発明の方法に用いられる装置としては、例えば、液体クロマトグラフィー装置と質量分析装置を直列につないで構成された、LC-MSシステムを好ましく用いることができる。LC-MSシステムを用いることにより、液体クロマトグラフィーにより分離された成分を、続けて質量分析することができる。液体クロマトグラフィーに質量分析装置を接続したLC-MSは、タンデム型のLC-MS/MS、LC-MS/MS/MS等を使用することもできる。
【0029】
[液体クロマトグラフィー装置]
液体クロマトグラフィー装置は、試料に含まれる分析対象物質を液体クロマトグラフィーにより分離できる装置であれば特に制限されないが、通常は、HPLC装置であるのが好ましい。HPLC装置は、分離カラム、および移動相を分離カラムに送り込むポンプを備える。HPLC装置は、それ以外の要素、例えば、デガッサー、オートサンプラー、ヒーター、分離された成分を検出する検出器等を備えていてもよい。検出器としては、例えば、UV検出器や蛍光検出器が挙げられる。例えば、検出器は、カラムとイオン源(イオン化部)の間に接続することができる。
【0030】
液体クロマトグラフィー(LC)は、より迅速に高感度で分離分析が可能な超高速液体クロマトグラフィー(Ultra High Performance Liquid Chromatography、以下、UHPLC、UPLC等と記載することがある)を用いてもよい。UHPLCは100 MPa程度での高圧送液が可能な液体クロマトグラフィーのことを意味し、より高速/高分離能での分析が可能な装置をさす。前記HPLCの他、本発明においては、UHPLC、UPLC等と称されるものも含まれる。これらの装置は、移動相を分離カラムに送り込むポンプを備える点において共通しており、それ以外の要素、例えば、デガッサー、オートサンプラー、ヒーター、検出器等を備えていてもよい。検出器としては、例えば、UV検出器や蛍光検出器が挙げられる。
【0031】
UPLCは、高圧に耐え得る粒子を充填したカラムを使用しており、HPLC装置に比べてより迅速に高感度で分離分析が可能である。UPLCによる分離条件はHPLCの条件設定を行う場合の検討と同様に行うことができ、当業者であれば適宜条件を設定できる。また、既知のHPLC分析法の条件をUPLCに適用する場合には、ACQUITY UPLC Columns Calculator等のソフトウェアを使用して条件検討を行うこともできる。
【0032】
液体クロマトグラフィーの移動相を不活性ガスでバブリングする場合のバブリングの実施において、バブリングが行われていることを管理するための手段として、ガスバブリングを管理・制御する手段に、バブリングの制御、および/または、吹き込んだ不活性ガスの量や、移動相として使用される溶媒を供給するための容器中の圧力等の測定、記録を実行させるためのソフトウェア等の手段を備えていてもよい。このような手段を備えていることは、例えば、医薬品開発時において取得された結果の信頼性を担保するための手段として記録保持が求められており、そのような要求に応えることができるため、好ましい。ソフトウェアを使用して、このような測定記録を管理したり、バブリング条件を設定してもよい。その場合、質量分析計、HPLCやUHPLCの装置において、測定条件を制御するソフ
トウェアにおいて、測定記録を管理したり、バブリング条件を設定できるようにしてもよいし、独立した別のソフトウェアとして使用してもよい。例えば、液体クロマトグラフィー装置と質量分析装置を直列につないで構成されたLC-MSシステムを使用する場合、質量分析計側でHPLCやUHPLCの条件を制御する場合があり、そのような場合には質量分析計に接続されたコンピューターにおいて測定記録の管理やバブリング条件を設定するソフトウェアを使用することができる。
【0033】
[移動相]
高速液体クロマトグラフィーに用いられる移動相(分離溶液)の条件としては、分析対象物質を分離でき、且つ、質量分析装置に適用可能な溶媒であることを満たすものであれば特に制限されずに使用することが可能である。例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトル等を使用することができる。溶媒は、1種または2種以上であってもよい。移動相は、分析対象物質を分析できる限り、他の成分を含有していてもよい。
【0034】
例えば、リン酸基やチオリン酸基を持つ様な、核酸医薬品等のイオン性の物質の測定の場合には、例えば、移動相としてアセチルアセトンとメタノールを使用して分析を行うことが好ましい。アセチルアセトンを利用することにより、イオン性の物質のリン酸基やチオリン酸基と金属イオンとが配位結合することによるピーク形状不良や、キャリーオーバーピークの溶出が改善され、検出できるため、好ましい。なお、アセチルアセトンと同様な効果を持つEDTAを使用してもよい。また、メタノールを利用することにより、イオン性の物質のオリゴヌクレオチド、糖、および糖鎖等の溶出時間を調節することができるため、好ましい。
【0035】
本発明の分析方法では、液体クロマトグラフィーの移動相は、陰イオン性または両性試料とイオンペア(イオン対)を形成させ、逆相カラムでの分離を可能とするために、イオンペア試薬としてトリエチルアミン(TEA)等の塩基性イオンペア試薬を含有する。塩基
性イオンペア試薬の移動相中の濃度は、当業者であれば分析対象物質に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば、トリエチルアミンを使用する場合、分析対象物質の種類、カラムの種類等の諸条件に応じて適宜選択することができるが、例えば、1~50 mM、または1~20 mM等であってよい。
【0036】
さらに、分離を容易にさせることや塩基性イオンペア試薬の気化を促進させる等の目的で、移動相に分析に影響しない添加剤を加えて使用することもできる。使用可能な添加剤としては、酢酸、水酸化アンモニウム、蟻酸アンモニウム(塩濃度=100 mM以下)、酢酸アンモニウム(塩濃度=100 mM以下)、炭酸水素アンモニウム(塩濃度=100 mM以下)、トリフルオロ酢酸(TFA)、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ペンタフルオロプロパノール(PFP)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メチル-2-プロパノール(HFMIP)、トリフルオロエタノール(TFE)、またはノナフルオロ-tert-ブチルアルコール(NFTB)等が挙げられる。
【0037】
[液体クロマトグラフィー条件]
液体クロマトグラフィーに用いられる分析カラムの条件としては、特に制限されず、分析対象物質の種類、試料の種類等の諸条件に応じて適宜選択することができる。分離カラムとしては、限定されないが、例えば、逆相カラムを用いることができる。逆相カラムとしては、例えば、アルカリ性移動相への耐性が強いエチレン架橋型ハイブリッド(BEH)粒
子を用いたカラム、オクタデシルシリル化シリカゲル充填剤を充填したカラム(ODSカラ
ム)、C8カラム、C2カラム、これらにイオン交換樹脂を配合したカラム等が挙げられる。特に、HPLCによる分析を行う場合には、粒径が5.0 μm以下のエチレン架橋型ハイブリッ
ド粒子を充填したカラム(BEHカラム)を使用することが好ましく、1.7~3.5 μmのBEHカラムがさらに好ましい。
【0038】
液体クロマトグラフィーに用いられるその他の諸条件としては、特に制限されず、試料
中に含有される分析対象物質が他の成分と分離されてカラムから溶出されるように、分析対象物質の種類、試料の種類等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
すなわち、分離工程においては、移動相中のメタノール等の移動相の濃度を変化させることができる。メタノールは、分離工程の全期間において移動相に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。
【0039】
溶出法は、アイソクラティック溶出法やグラジエント溶出法を適宜選択すればよいが、クロマトグラム上で確認できる夾雑物と測定対象物を十分に分離する必要があることはもちろんのこと、クロマトグラム上では確認できないがマトリクス由来の成分がイオン化効率に悪影響を与える可能性があるため、保持時間を長く保つことが、好ましい。
【0040】
具体的なグラジエントの条件としては、例えば、後述する実施例に記載の条件が挙げられる。グラジエントの条件は特に限定されず、例えば、メタノールの代わりとしてエタノール、イソプロパノール、アセトニトル等が使用可能である。
【0041】
具体的には、分離工程は、移動相中のメタノール濃度を増大させる工程を含んでいてよい。すなわち、例えば、移動相中のメタノール濃度(v/v)が第1の濃度(M1)から第2
の濃度(M2)まで徐々に増大するよう、メタノール濃度にグラジエントをかけることができる。M1およびM2は、分析対象物質の種類や夾雑物の種類等の諸条件に応じて適宜設定できる。メタノール濃度は、例えば、0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、10%以上、20%以上、または50%以上であってよく、100%以下、99%以下、75%以下、50%以下、25%以下、20%以下、15%以下、または10%以下であってよい。メタノール濃度は、具体的には、例えば、10%~90%であってよい。具体的には、例えば、移動相中のメタノール濃度(v/v)が0%から100%まで徐々に上昇するよう、メタノール濃度にグラジエントをかけてよい。メタノール濃度の変化速度は、一定であってもよく、そうでなくてもよい。メタノール濃度は、M1からM2に変化するまでに、増減を繰り返してもよい。メタノール濃度は、M2に到達した後、さらに変化してもよい。例えば、メタノール濃度は、M2に到達した後、さらに増大してもよく、減少してもよく、増減を繰り返してもよい。例えば、メタノール濃度は、M2に到達した後、再度M1に変化するまでに増減を繰り返してもよい。例えば、M2に到達した後、0%まで減少してもよい。
【0042】
濃度のグラジエントは、組成の異なる2種またはそれ以上の溶液を、混合比率を変化させながら混合することで、形成することができる。溶液の組み合わせは、所望のグラジエントが形成されるよう、適宜選択することができる。
【0043】
2種またはそれ以上の溶液を混合して移動相を調製する場合、当該2種またはそれ以上の溶液中のメタノールの濃度は、混合後の移動相中のメタノールの濃度が上記例示した移動相中のメタノールの濃度となるよう、混合比率に応じて適宜設定することができる。
【0044】
移動相のpHは、分析対象物質の種類や夾雑物の種類等の諸条件に応じて適宜設定できる。移動相の組成およびpHの好ましい範囲は、液体クロマトグラフィーに続いて実施される質量分析において分析対象物質のイオン化効率が高くなるように設定することができる。すなわち、具体的には、分析対象物質がカラムから溶出される時点の移動相の組成およびpHが、質量分析において分析対象物質のイオン化効率が高くなるように設定されるのが好ましい。具体的な範囲としては、例えば、pH1~14がよく、pH4~12が好ましく、pH6~10付近がさらに好ましい。
【0045】
流速は、分離カラムの内径等の諸条件に応じて適宜選択できる。移動相の流速は、分離工程を通じて一定であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、エレクトロスプレー法(ESI)に合わせて0.001~2.0 mL/minの範囲で適宜選択することができる。液体クロマト
グラフィーにおける移動相の流速は、例えば、0.05~1.0 mL/minであってよい。
また、液体クロマトグラフィーにおけるカラム温度は、当業者であれば、分析対象や使用する分析カラムの仕様に合わせて適宜選択することができる。例えば、10~90℃であってよく、具体的には30~80℃付近であってよい。
【0046】
[質量分析装置]
質量分析装置は、公知の質量分析装置が使用できるが、特にLC装置に直列に接続することが可能なものは簡便に使用できるので好ましい。用いられる質量分析装置は、1つであってもよく、2つまたはそれ以上であってもよい。2つまたはそれ以上の質量分析装置は、並列に接続して用いることができる。また、LC-MSシステムは、例えば、LC-MS、LC-MS/MSやLC-MSnであってよい。具体的には、例えば、AB SCIEX社製のTriple Quad (登録商標) 5500、Triple Quad (登録商標) 6500、Triple Quad (登録商標) 6500+、QTRAP (登録商標) 5500、QTRAP (登録商標) 6500、QTRAP (登録商標) 6500+、TripleTOF (登録商標) 5600、TripleTOF (登録商標) 5600+、TripleTOF (登録商標) 6600、TripleTOF (登録商標) 6600+等、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のQ Exactive (商標) Focus、 Q Exactive (商標)、Q Exactive (商標) Plus、Q Exactive (商標) HF、Q Exactive (商標) HF-X、Orbitrap ID-X Tribrid、Orbitrap Fusion (商標) Tribrid (商標)、Orbitrap Fusion (商標) Lumos (商標) Tribrid (商標)、Orbitrap Eclipse等が挙げられる。
【0047】
質量分析装置における検出方式としては、例えば、イオントラップ型、四重極型、四重極タンデム型、四重極イオントラップハイブリッド型、セクター型、飛行時間型、四重極飛行時間ハイブリッド型、フーリエ変換型、および四重極フーリエ変換ハイブリッド型等が挙げられる。さらに、これらにイオンモビリティーシステムを搭載することもできる。質量分析装置におけるイオン化法としては、エレクトロスプレー法(ESI)、大気圧化学
イオン化法(APCI)、および光イオン化法(APPI)等が挙げられる。検出方式やイオン化法は、分析対象物質の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
【0048】
質量分析により得られるスペクトルやフラグメントイオンスペクトル(精密質量スペクトルを含む)は物質固有の値であるため、標準品の分析により得られたイオン比と試料の分析により得られたスペクトルやフラグメントイオンスペクトル(精密質量スペクトルを含む)を比較して、試料に含まれる分析対象物質を同定することができる。具体的には、分析対象物質について精製された或いは合成された分析対象物質を標準品として使用し、標準品を分析して得られるスペクトル(精密質量スペクトルを含む)と分析対象とする試料から得られたクロマトグラムとを比較して、試料中に含まれる分析対象物質を同定することができる。
【0049】
また、標準品が存在しない分析対象物質については、それが未知の分析対象物質である場合には、例えば、液体クロマトグラフィーによって分離された物質が同分析対象物質であることを構造推定等によって確認した上で、本発明の分析の対象に加えることができる。未知の分析対象物質を確認する方法は当業者であれば適宜選択して実施することが可能であり、例えば、単離精製等をして分析対象物質であることを確認することができる。
【0050】
質量分析の結果に基づき、分析対象物質を定量することができる。分析対象物質の定量は、常法により行うことができる。具体的には、例えば、検出された分析対象物質のピーク面積値(またはピーク高さ値)を濃度既知の内部標準物質のピーク面積値(またはピーク高さ値)で除したピーク面積比(またはピーク高さ比)に基づいて、分析対象物質を定量することができる。
【0051】
液体クロマトグラフィー装置、質量分析装置、それらに備わる各種要素は、上記例示した分析条件を参照して、分析対象物質の種類や夾雑物の種類等の諸条件に応じて適宜選択
できる。
【0052】
<移動相の劣化の防止方法>
本発明のさらなる一態様は、塩基性イオンペア試薬を含む液体クロマトグラフィーの移動相をバブリングすることを含む、移動相の劣化の防止方法(以下、「本発明の第一の移動相の劣化の防止方法」ということがある)に関する。
本発明のさらなる一態様は、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒に溶解した移動相を用意し、水を含む移動相と混合し、液体クロマトグラフィーに用いる工程を含む、移動相の劣化の防止方法(以下、「本発明の第二の移動相の劣化の防止方法」ということがある)に関する。
本発明の第一の移動相の劣化の防止方法、および本発明の第二の移動相の劣化の防止方法は、液体クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー-質量分析における、移動相中の塩基性イオンペア試薬の劣化を防止することで、移動相の劣化を防止することが可能である。
なお、上記本発明の分析方法において説明された事項は、本発明の移動相の劣化の防止方法の説明に全て適用される。
【0053】
<分析装置>
本発明のさらなる一態様は、イオン性の分析対象物質を含む試料を分離する、塩基性イオンペア試薬を含む移動相を用いた液体クロマトグラフィー装置、分析対象物質を分析する、質量分析装置、および、移動相の劣化防止装置、とを備える、分析装置(以下、「本発明の分析装置」ということがある)に関する。
なお、上記本発明の分析方法、および移動相の劣化の防止方法において説明された事項は、本発明の分析装置の説明に全て適用される。
【0054】
限定されるものではないが、本発明の分析装置の一実施形態を、以下に説明する。
(1)塩基性イオンペア試薬を含む移動相を供給するための容器、
(2)上記移動相を送液する機能を有するポンプ、
(3)不活性ガスを移動相に吹き込んでバブリング処理を行うためのガスバブリング装置、
(4)分析対象物質を含む試料を分離する、液体クロマトグラフィー装置、
(5)分析対象物質を分析する、質量分析装置。
本発明の分析装置の別の一実施形態として、さらに移動相のバブリングを管理・制御するための手段およびソフトウェアを含む形態が挙げられる。
【0055】
本発明の分析装置の別の一実施形態を、以下に説明する。
(1)水を含む移動相を供給するための容器と、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相を供給するための容器、
(2)上記それぞれの液を混合部に送液する機能を有するポンプ、
(3)二液を高速かつ均一に混合する機能を有するミキサー、
(4)生成した混合液を移動相として用いて、分析対象物質を含む試料を分離する、液体クロマトグラフィー装置、
(5)分析対象物質を分析する、質量分析装置。
【0056】
本発明の分析装置のさらに別の一実施形態を、以下に説明する。
(1)水を含む移動相を供給するための容器と、有機溶媒を含む移動相を供給するための容器と、塩基性イオンペア試薬を非水系溶媒中に含む移動相を供給するための容器、
(2)上記それぞれの液を混合部に送液する機能を有するポンプ、
(3)三液を高速かつ均一に混合する機能を有するミキサー、
(4)生成した混合液を移動相として用いて、分析対象物質を含む試料を分離する、液体
クロマトグラフィー装置、
(5)分析対象物質を分析する、質量分析装置。
【0057】
なお、上記に説明したものは、例示したものにすぎず、本発明に係る分析装置の適用限界を示すものではない。すなわち、本発明に係る分析装置は、本明細書中の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を超えない限り、さまざまな変更が可能なものである。
【実施例0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
《実施例1:標準溶液の調製》
(1)材料
以下に示すミポメルセン(ミポメルセン-MOE)および他の修飾核酸を用いて作成したミポメルセン(ミポメルセン-LNA、ミポメルセン-OMe、ミポメルセン-Sオリゴ)は株式会社ジーンデザインより購入したものを標準物質として使用した。
・ミポメルセン-MOE(Mip-MOE)
G(m)^5(m)^5(m)^T(m)^5(m)^a^g^t^5(x)^t^g^5(x)^t^t^5(x)^G(m)^5(m)^A(m)^5(m)^5(m)
・ミポメルセン-LNA(Mip-LNA)
G(L)^5(L)^5(L)^T(L)^5(L)^a^g^t^5(x)^t^g^5(x)^t^t^5(x)^G(L)^5(L)^A(L)^5(L)^5(L)
・ミポメルセン-OMe(Mip-OMe)
G(M)^5(M)^C(M)^T(M)^C(M)^a^g^t^5(x)^t^g^5(x)^t^t^5(x)^G(M)^C(M)^A(M)^C(M)^C(M)
・ミポメルセン-Sオリゴ(Mip-S-oligo)
g^5(x)^5(x)^t^5(x)^a^g^t^5(x)^t^g^5(x)^t^t^5(x)^g^5(x)^a^5(x)^5(x)
【0060】
【0061】
(2)試薬の調製
溶媒の調製には、メタノール(和光純薬工業社製、LC/MS用)、1,1,1,3,3,3-Hexafluoro-2-propanol (HFIP)(ナカライテスク社製、HPLC用)、Triethylamine (TEA)(Thermo Scientific社製、Sequencing grade)、アセチルアセトン(関東化学社製、特級)、Tris-EDTA buffer (TE)(ニッポンジーン社製)を使用した。
【0062】
(i)TE/メタノール(7:3, v/v)の調製
TE 7容量にメタノールを3容量を混和した。
【0063】
(ii)水/メタノール/HFIP/TEA/アセチルアセトン(90:10:1:0.2:0.01, v/v/v/v/v)の調製
水90容量、メタノール10容量、HFIP 1容量、TEA 0.2容量、アセチルアセトン0.01容量
を混和した。容器はアルミホイルで覆い遮光状態とした。
【0064】
(iii)水/メタノール/HFIP/TEA(90:10:1:0.2, v/v/v/v)の調製
水90容量、メタノール10容量、HFIP 1容量、TEA 0.2容量を混和した。容器はアルミホ
イルで覆い遮光状態とした。
【0065】
(iv)メタノール/水/HFIP/TEA/アセチルアセトン(90:10:1:0.2:0.01, v/v/v/v/v)の調製
メタノール90容量、水10容量、HFIP 1容量、TEA 0.2容量、アセチルアセトン0.01容量
を混和した。容器はアルミホイルで覆い遮光状態とした。
【0066】
(v)メタノール/水/HFIP/TEA(90:10:1:0.2, v/v/v/v)の調製
メタノール90容量、水10容量、HFIP 1容量、TEA 0.2容量を混和した。容器はアルミホ
イルで覆い遮光状態とした。
【0067】
(vi)水/メタノール/HFIP/TEA/アセチルアセトン(50:50:1:0.2:0.01, v/v/v/v/v)の調製
水50容量、メタノール50容量、HFIP 1容量、TEA 0.2容量、アセチルアセトン0.01容量
を混和した。
【0068】
(3)標準溶液の調製
ミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNA、ミポメルセン-OMe、ミポメルセン-SオリゴはDNase, RNaseフリーの精製水に溶解した。
ミポメルセン-MOE 231.8 μgに精製水323 μLを加えて完全に溶解し、100 μmol/L濃度に調製し、これをミポメルセン-MOE標準溶液とした。ミポメルセン-LNA 219.8 μgに精製水327 μLを加えて完全に溶解し、100 μmol/L濃度に調製し、これをミポメルセン-LNA標準溶液とした。ミポメルセン-OMe 238.3 μgに精製水358 μLを加えて完全に溶解し、100
μmol/L濃度に調製し、これをミポメルセン-OMe標準溶液とした。ミポメルセン-Sオリゴ
224.6 μgに精製水349 μLを加えて完全に溶解し、100 μmol/L濃度に調製し、これをミポメルセン-Sオリゴ標準溶液とした。
【0069】
ミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNA、ミポメルセン-OMe、ミポメルセン-Sオリゴ標準溶液は、水/メタノール/HFIP/TEA/アセチルアセトン(50:50:1:0.2:0.01, v/v/v/v/v)で500倍に希釈し、イオン化の最適条件の設定および測定するイオンの選択に使用する
質量分析計チューニング溶液とした。
【0070】
ミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNA、ミポメルセン-OMe、ミポメルセン-Sオリゴ標準溶液は、TE/メタノール(7:3, v/v)で2000倍に希釈し、50 nmol/Lの混合溶液を調製し
、スペクトル強度モニター用標準溶液とした。
【0071】
《実施例2:質量分析条件の決定》
シリンジポンプを用いて質量分析計チューニング溶液をイオン源に導入した。その際、HPLCポンプ(LC-20A、島津製作所製)を用いて混合した移動相をチューニング溶液と共にイオン源に導入した。
【0072】
定量に使用するプリカーサーイオン(親イオン)を確認しながら、このイオン強度が最高となるように質量分析計(TripleTOF5600、AB SCIEX)のイオン源の噴霧位置を調整し
た。
【0073】
噴霧位置の調整完了後、デクラスタリングポテンシャル(オリフィス電圧;DP)、印加する高電圧(イオンスプレー電圧;IS)、GS1およびGS2のガス圧(GS1、GS2)および温度(TEM)を調整した。
【0074】
次に、プリカーサーイオン(親イオン)からプロダクトイオン(娘イオン)を検索し、そのイオン強度が最大となるように、衝突開裂に関与するエネルギー電圧(CE)を調整した。
【0075】
上記方法により決定した質量分析条件を表2および3に示す。共通のイオン化条件を表2
に示す。各成分の質量分析条件(MS/MS条件)を表3に示す。なお、ミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNA、ミポメルセン-OMeは9価のイオンと10価のイオンをプリカーサーイオン
として用い、ミポメルセン-Sオリゴは8価のイオンと9価のイオンをプリカーサーイオンとして用いた。
【0076】
【0077】
【0078】
《実施例3:HPLC条件の設定》
実施例1において作成したスペクトル強度モニター用標準溶液を用いて、ミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNA、ミポメルセン-OMe、ミポメルセン-Sオリゴを分離できるHPLC条
件を検討した。
【0079】
HPLC装置としては、Shimadzu LC-20Aシステム(島津製作所社製)を使用し、HPLCカラ
ムとしては、ACQUITY UPLC Oligonucleotide BEH C18 Column(粒子径1.7 μm, 内径2.1 mm × 長さ50 mm;Waters社製)を使用した。
【0080】
<HPLC条件1>
ミポメルセン-MOEおよびミポメルセン-Sオリゴを分析するにあたり、水系移動相として水/メタノール/HFIP/TEA/アセチルアセトン(90:10:1:0.2:0.01, v/v/v/v/v)(移動相A)、有機溶媒系移動相としてメタノール/水/HFIP/TEA/アセチルアセトン(90:10:
1:0.2:0.01, v/v/v/v/v)(移動相B)を用いたリニアグラジエント条件を設定した。流
速は0.3mL/minとした。グラジエント条件の一例を表4に示す。
【0081】
【0082】
<HPLC条件2>
ミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNAおよびミポメルセン-OMeを分析するにあたり、水系移動相として水/メタノール/HFIP/TEA(90:10:1:0.2:, v/v/v/v)(移動相A)、有
機溶媒系移動相としてメタノール/水/HFIP/TEA(90:10:1:0.2, v/v/v/v)(移動相B)を用いたリニアグラジエント条件を設定した。流速は0.3mL/minとした。グラジエント条
件の一例を表5に示す。
【0083】
【0084】
《実施例4:移動相の窒素バブリング有無によるミポメルセン-MOEおよびミポメルセン-S
オリゴ測定に与える影響確認》
<HPLC条件1>を用い、ミポメルセン-MOEおよびミポメルセン-Sオリゴの連続分析におけるピーク強度の変化を、移動相(1 L)に窒素バブリング(2 mL/min)を行った場合と
行わない条件で確認した。また、ピーク面積比としてミポメルセン-MOEピーク面積値/ミポメルセン-Sオリゴピーク面積値を算出し、連続分析におけるピーク面積比の推移も確認した。
【0085】
窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-MOEおよびミポメルセン-Sオリゴのピーク面積値の推移(160回連続分析)を
図1、窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-MOE/ミポメルセン-Sオリゴのピーク面積比の推移(160回連続分析)を
図2、窒素バブリングを施した時のミポメルセン-MOEおよびミポメルセン-Sオリゴのピーク面積値の推移(160回連続分析)を
図3、窒素バブリングを施した時のミポメルセン-MOE/ミポメルセン-Sオリゴのピーク面積比の推移(160回連続分析)を
図4に示した。
【0086】
本検討結果では、
図1および3に示したピーク面積値の推移より算出した近似曲線の傾きの絶対値が窒素バブリングなし>窒素バブリングありの関係を示すことから、移動相に窒素バブリングを施すことによりミポメルセン-MOEならびにミポメルセン-Sオリゴのピーク面積の減少が抑えられることが明らかとなった。また、定量分析において主流となる内標準法を想定し、ミポメルセン-MOEとミポメルセン-Sオリゴのピーク面積比を求め近似曲線を算出した時、同様に傾きの絶対値が窒素バブリングなし>窒素バブリングありの関係を示した。このことは、移動相に窒素バブリングを施した場合は、測定開始1本目と測定開
始から160本目のピーク面積比が近しい値であることを示しており、同一のサンプルが同
一の定量値として測定されることを意味する。逆に、移動相に窒素バブリングを行わなかった場合は、測定開始1本目と測定開始から160本目でピーク面積比にズレが生じ、同一サンプルにも関わらず違う定量値として測定されることを意味し、移動相に窒素バブリングを施すことの有用性が明らかとなった。
【0087】
《実施例5:移動相の窒素バブリング有無によるミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNAお
よびミポメルセン-OMe測定に与える影響確認》
実施例4以外の修飾核酸を用いた化合物においても同様な結果が得られるのかを確認す
る目的で、<HPLC条件2>を用いて、ミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNAおよびミポメルセン-OMeの連続分析におけるピーク強度の変化を、移動相に窒素バブリングを施した場合と行わない条件で確認した。
【0088】
窒素バブリングを行わなかった時のミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNAおよびミポメルセン-OMeの面積値の推移(240回連続分析)を
図5~7、窒素バブリングを施した時のミ
ポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNAおよびミポメルセン-OMeのピーク面積値の推移(240
回連続分析)を
図8~10に示した。
【0089】
本検討結果でも、ピーク面積値の推移より算出した近似曲線の傾きが窒素バブリングなし>窒素バブリングありの関係を示すことから、移動相に窒素バブリングを施すことによりミポメルセン-MOE、ミポメルセン-LNAならびにミポメルセン-OMeのピーク面積の減少が抑えられることが明らかとなった。実施例4と同様、移動相に窒素バブリングを施すこと
の有用性が明らかとなった。
【0090】
《実施例6:移動相組成の変更による改善アプローチ》
<HPLC条件2>を用いて、ミポメルセン-MOEの連続分析におけるピーク強度の変化を、
移動相に窒素バブリングを行わない条件で実施した。その後、新たに調製した有機溶媒系移動相のみを交換した場合と、新たに調製した水系移動相のみを交換した場合におけるミポメルセン-MOEのピーク強度を確認した。結果を
図11に示した。
【0091】
本検討より、有機溶媒系移動相よりも水系移動相は劣化が進みやすいことが示唆される結果となった。このことは、劣化の原因となる塩基性イオンペア試薬は有機溶媒比率の高い溶液中にのみ存在する環境を作ることにより、移動相の劣化速度を緩やかにすることが可能であることが明らかとなった。よって、以下に示すような移動相条件でグラジエント分析を実施することにより改善できることが示唆された。
移動相A:水
移動相B:メタノール
移動相C:メタノール/HFIP/TEA(100:1:0.2, v/v/v)
(移動相Cは窒素バブリングを行ったほうがなお良い)
移動相Cを常に10%流し、移動相Aと移動相Bを勾配させる3液グラジエント
【0092】
《実施例7:標準溶液の調製》
(1)材料
以下に示すΔUA-GalNAc, 4S (Chondroitin Sulfate A)(C14H19NO14SNa2, MW:503.34)、ΔUA-GalNAc, 4S, 6S (Chondroitin Sulfate E)(C14H18NO17S2Na3, MW:605.39)およ
びΔUA-2S GlcNCOEt-6S(内標準物質)(C15H20NO17S2Na3, MW:619.42)はIduron Ltd.より購入したものを標準物質として使用した。
【0093】
(2)試薬の調製
溶媒の調製には、アセトニトリル(和光純薬工業社製、LC/MS用)、1,1,1,3,3,3-Hexafluoro-2-propanol (HFIP)(ナカライテスク社製、HPLC用)、n-Octylamine (OA)(東京化成社製)を使用した。
【0094】
(i)水/HFIP/OA(100:1:0.124, v/v/v)の調製
水100容量、HFIP 1容量、OA 0.124容量を混和した。容器はアルミホイルで覆い遮光状
態とした。
【0095】
(ii)アセトニトリル/水/HFIP/OA(75:25:1:0.124, v/v/v/v)の調製
アセトニトリル75容量、水25容量、HFIP 1容量、OA 0.124容量を混和した。容器はアルミホイルで覆い遮光状態とした。
【0096】
(3)標準溶液の調製
Chondroitin Sulfate A、Chondroitin Sulfate Eおよび内標準物質はミリQ(登録商標
)水に溶解し以下の濃度に調製した。
・Chondroitin Sulfate A 5 mmol/L (CS-A)
・Chondroitin Sulfate E 2 mmol/L (CS-E)
・内標準物質 5 mmol/L (IS)
【0097】
CS-A、CS-EおよびISは、水/HFIP/OA(100:1:0.124, v/v/v)で1000倍に希釈し、イオン化の最適条件の設定および測定するイオンの選択に使用する質量分析計チューニング溶液とした。
【0098】
CS-A、CS-EおよびISを、水/HFIP/OA(100:1:0.124, v/v/v)で10000倍に希釈した混
合溶液を調製し、連続分析におけるピーク強度変化確認用の標準溶液とした。
【0099】
《実施例8:質量分析条件の決定》
シリンジポンプを用いて質量分析計チューニング溶液をイオン源に導入した。その際、HPLCポンプ(LC-20A、島津製作所製)を用いて混合した移動相をチューニング溶液と共にイオン源に導入した。
【0100】
定量に使用するプリカーサーイオン(親イオン)を確認しながら、このイオン強度が最高となるように質量分析計(QTRAP5500、AB SCIEX)のイオン源の噴霧位置を調整した。
【0101】
噴霧位置の調整完了後、デクラスタリングポテンシャル(オリフィス電圧;DP)、印加する高電圧(イオンスプレー電圧;IS)、GS1およびGS2のガス圧(GS1、GS2)および温度(TEM)を調整した。
【0102】
次に、プリカーサーイオン(親イオン)からプロダクトイオン(娘イオン)を検索し、そのイオン強度が最大となるように、衝突開裂に関与するエネルギー電圧(CE)を調整した。
【0103】
上記方法により決定した質量分析条件を表6および7に示す。共通のイオン化条件を表6
に示す。各成分の質量分析条件(MS/MS条件)を表7に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
《実施例9:HPLC条件の設定》
実施例1において作成したピーク強度変化確認用の標準溶液を用いて、Chondroitin Sulfate A、Chondroitin Sulfate Eおよび内標準物質を分離できるHPLC条件を検討した。
【0107】
HPLC装置としては、Shimadzu LC-20Aシステム(島津製作所社製)を使用し、HPLCカラ
ムとしては、ACQUITY UPLC BEH C18 Column(粒子径1.7 μm, 内径2.1 mm × 長さ100 mm;Waters社製)を使用した。
【0108】
<HPLC条件3>
Chondroitin Sulfate AおよびEを分析するにあたり、水系移動相として水/HFIP/OA(100:1:0.124, v/v/v)(移動相A)、有機溶媒系移動相としてアセトニトリル/水/HFIP
/OA(75:25:1:0.124, v/v/v/v)(移動相B)を用いたリニアグラジエント条件を設定し
た。流速は0.2 mL/minとした。グラジエント条件の一例を表8に示す。
【0109】
【0110】
《実施例10:移動相の窒素バブリング有無によるChondroitin Sulfate A、Chondroitin Sulfate Eおよび内標準物質測定に与える影響確認》
<HPLC条件3>を用い、Chondroitin Sulfate A、Chondroitin Sulfate Eおよび内標準物質(ΔUA-2S GlcNCOEt-6S)の連続分析におけるピーク強度の変化を、移動相(1 L)に窒素バブリング(10 mL/min)を行った場合と行わない条件で確認した。
【0111】
窒素バブリング有無におけるChondroitin Sulfate Aの面積値の推移(52回連続分析)
を
図12、窒素バブリング有無におけるChondroitin Sulfate Eの面積値の推移(52回連続
分析)を
図13、窒素バブリング有無における内標準物質(ΔUA-2S GlcNCOEt-6S)のピー
ク面積値の推移(52回連続分析)を
図14に示した。
【0112】
本検討結果では、
図12~14に示したピーク面積値の推移より算出した近似曲線の傾きの絶対値が窒素バブリングなし>窒素バブリングありの関係を示すことから、移動相に窒素バブリングを施すことによりChondroitin Sulfate A 、Chondroitin Sulfate Eならびに
内標準物質(ΔUA-2S GlcNCOEt-6S)のピーク面積の減少が抑えられることが明らかとな
った。
本発明の移動相の劣化の防止方法を用いることにより、質量分析系を用いた測定においては、長時間にわたって測定対象化合物およびその内標準物質のピーク高さ、ピーク面積、ピーク高さ比ならびにピーク面積比を安定して検出することが可能となるため、一度の測定機会に多くのサンプルを測定に供することができ、且つ正確な濃度測定値を得ることが可能となる。
また、本発明により、移動相の劣化による頻繁な作り替えの必要がなくなる。当該移動相調製に使用する試薬は非常に高価であり、その経費負担の軽減ならびに、調製者の試薬調製にかかる労務時間削減も期待できる。