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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103944
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】遺伝子発現増強剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20250702BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20250702BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20250702BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20250702BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20250702BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20250702BHJP
【FI】
C12N5/00
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221706
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】501241117
【氏名又は名称】株式会社野口総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】富川 武記
(72)【発明者】
【氏名】野口 克己
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】毛母細胞の分化、成長及び増殖促進等に効果がある毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子又はβカテニン遺伝子の発現を増強(活性化)させることが可能な遺伝子発現増強剤を提供する。
【解決手段】遺伝子発現増強剤は、30万年以上前に海洋性植物及び海洋性動物が嫌気的条件下で堆積し形成された地層から採取された土壌より抽出され、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のいずれか1以上の発現を増強させる土壌由来抽出液を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
30万年以上前に海洋性植物及び海洋性動物が嫌気的条件下で堆積し形成された地層から採取された土壌より抽出され、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のいずれか1以上の発現を増強させる土壌由来抽出物を含んでいることを特徴とする毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のいずれか1以上の遺伝子の発現を増強する遺伝子発現増強剤。
【請求項2】
請求項1記載の遺伝子発現増強剤において、前記土壌由来抽出物は、前記土壌に含まれる水溶性物質を抽出して得られることを特徴とする遺伝子発現増強剤。
【請求項3】
請求項1記載の遺伝子発現増強剤において、前記土壌由来抽出物に含まれる活性物質の平均分子量は500~1000であることを特徴とする遺伝子発現増強剤。
【請求項4】
請求項1記載の遺伝子発現増強剤において、前記土壌由来抽出物には、腐植酸に加え、天然の糖鎖栄養素が含まれることを特徴とする遺伝子発現増強剤。
【請求項5】
請求項1記載の遺伝子発現増強剤において、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子発現増強用であることを特徴とする遺伝子発現増強剤。
【請求項6】
請求項1記載の遺伝子発現増強剤において、毛乳頭細胞のVEGF遺伝子発現増強用であることを特徴とする遺伝子発現増強剤。
【請求項7】
請求項1記載の遺伝子発現増強剤において、毛乳頭細胞のKGF遺伝子発現増強用であることを特徴とする遺伝子発現増強剤。
【請求項8】
請求項1記載の遺伝子発現増強剤において、毛乳頭細胞のβカテニン遺伝子発現増強用であることを特徴とする遺伝子発現増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛乳頭細胞におけるBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子又はβカテニン遺伝子の発現を増強(活性化)させる遺伝子発現増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄毛又は脱毛を改善する育毛剤の需要は高く、様々な育毛剤が研究、開発されている。
一方、腐植土には、抗菌・殺菌作用、ウイルス不活性化作用、抗酸化作用、防腐作用、体内浄化作用、脂肪分解作用、アルコール分解作用、界面活性作用、コレステロール分解作用等の様々な作用があることが知られており、例えば特許文献1及び特許文献2には、この腐植土から抽出された腐植土抽出物が育毛に有効であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-327978号公報
【特許文献2】特開2018-108974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一概に腐植土といっても様々な年代のものが存在する。また、育毛の機序としても様々なものが考えられる。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、育毛に寄与する毛母細胞の分化、成長及び増殖促進等に効果がある毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子又はβカテニン遺伝子の発現を増強(活性化)させることが可能な遺伝子発現増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る遺伝子発現増強剤は、30万年以上前に海洋性植物及び海洋性動物が嫌気的条件下で堆積し形成された地層から採取された土壌より抽出され、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のいずれか1以上の発現を増強させる土壌由来抽出物を含んでいる。
【0006】
ここで、30万年以上前に海洋性植物及び海洋性動物が嫌気的条件下で堆積し形成された地層とは、例えば、30万年以上前に地面の隆起等により孤立した海の一部が土石流及び/又は火山灰により蓋をされ、この蓋をされた海中の海洋性植物及び海洋性動物が発酵及び分解を繰り返して形成された地層である。具体的には、長崎県諫早地方の地下3~80mの地層から採取される土壌(シアルマリンという称呼で知られている)が好適に用いられるが、これに限定されるものではない。また、土壌は、嫌気的条件下で堆積したもので、有機物の灰化が生じていなければ1億年前の地層から採取されるものでもよい。
【0007】
本発明に係る遺伝子発現増強剤において、前記土壌由来抽出物は、土壌に含まれる水溶性物質を抽出して得られることが好ましい。
ここで、抽出溶媒としては、水、含水エタノール、エタノール等の水性溶媒を用いることができる。また、得らえる土壌由来抽出物は、液状のものであってもよいが、凍結乾燥等させた乾燥粉末であってもよい。なお、土壌由来抽出物(土壌由来抽出液=シアルマリン抽出液(シアルマリンは登録商標))の一種が糖鎖栄養素抽出液であり、その具体例として、本件出願人が製造販売する野口カタライザー21(カタライザー及び野口カタライザー21は登録商標)を挙げることができる。
【0008】
本発明に係る遺伝子発現増強剤において、前記土壌由来抽出物に含まれる活性物質の平均分子量は500~1000であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る遺伝子発現増強剤において、前記土壌由来抽出物には、腐植酸に加え、天然の糖鎖栄養素が含まれることが好ましい。
ここで、糖鎖栄養素としては、ヒトの糖鎖を構成する8種の単糖類がすべて含まれることが特に好ましく、具体的には、グルコース、ガラクトース、キシロース、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、フコース及びN-アセチルノイラミン酸(シアル酸)の8種の単糖類が含まれることが好ましい。さらに、本発明に係る遺伝子発現増強剤には、8種の糖鎖栄養素に加えて、ラムノース及びアラビノースの2種の単糖類が含まれることが好ましい。
【0010】
本発明に係る遺伝子発現増強剤は、上記のように、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のいずれか1以上の発現を増強(活性化)させる作用を有する土壌由来抽出物を含有することから、具体的に、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子発現増強剤や、毛乳頭細胞のVEGF遺伝子発現増強剤や、毛乳頭細胞のKGF遺伝子発現増強剤や毛乳頭細胞のβカテニン遺伝子発現増強剤として用いることができる。
【0011】
また、本発明に係る遺伝子発現増強剤は、経口剤や非経口剤(例えば、外用剤、注射剤)として用いることができる。また、その形態としては、粉末状、顆粒状、錠状、カプセル状、液状、ゲル状等、各種形態で用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る遺伝子発現増強剤は、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のいずれか1以上の発現を増強させることができ、これにより、少ない副作用で安全かつ効果的に毛乳頭細胞に作用して毛髪の分化及び成長を促進することができる。
【0013】
本発明に係る遺伝子発現増強剤において、土壌由来抽出物が、土壌に含まれる水溶性物質を抽出して得られる場合、安全性及び量産性に優れる。
【0014】
本発明に係る遺伝子発現増強剤において、土壌由来抽出物に含まれる活性物質の平均分子量が500~1000である場合、細胞の接着能増強成分が多く含まれており、それに対応して、BMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のそれぞれの発現増強が見込まれ、毛髪の分化及び成長の促進作用が強化される。
【0015】
本発明に係る遺伝子発現増強剤において、土壌由来抽出物に、腐植酸に加え、天然の糖鎖栄養素が含まれる場合、細胞の健康を維持し、免疫力を向上させる効果により、BMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子又はβカテニン遺伝子が活性化され、育毛効果が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】毛乳頭細胞の作用(左)及び毛髪成長に関与するシグナル伝達経路の例(右)を示す説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る遺伝子発現増強剤による毛乳頭細胞の細胞増殖能試験の実験結果を示すグラフである。
図3】同遺伝子発現増強剤によるBMP4遺伝子の発現量増加確認試験の実験結果を示すグラフである。
図4】同遺伝子発現増強剤によるVEGF遺伝子の発現量増加確認試験の実験結果を示すグラフである。
図5】同遺伝子発現増強剤によるKGF遺伝子の発現量増加確認試験の実験結果を示すグラフである。
図6】同遺伝子発現増強剤によるβカテニン遺伝子の発現量増加確認試験の実験結果を示すグラフである。
図7】同遺伝子発現増強剤における接着能増強作用物質の分画の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、毛乳頭細胞が刺激を受けて活性化すると、BMP4、VEGF、KGF及びβカテニン等の様々なタンパクが産生、分泌され、これにより、毛乳頭細胞自身の増殖、活性化が促進され、さらに毛母細胞及びケラチノサイト等を含む毛包全体の活性化が促され、毛髪が成長する。
そこで、毛母細胞の分化、成長及び増殖促進に効果があると考えられるBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子に着目し、本発明の一実施の形態に係る遺伝子発現増強剤を開発した。
【0018】
本発明の一実施の形態に係る遺伝子発現増強剤は、30万年以上前に海洋性植物及び海洋性動物(魚介類、海藻類、苔等)が嫌気的条件下で堆積し形成された地層(地下3~80m)から採取された土壌より抽出される土壌由来抽出液を含んでいる。
上記土壌由来抽出液には、腐植酸(フミン酸及びフルボ酸)に加え、天然の糖鎖栄養素が含まれる。
土壌由来抽出液は、上記土壌を粉砕、微粒子化したものから水溶性物質を抽出して得られる溶液であり、不純物を取り除いたものである。なお、土壌由来抽出液は殺菌(滅菌)されていることが好ましい。
この土壌由来抽出液は、毛乳頭細胞のBMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子の発現を増強させる作用を有している。特に、土壌由来抽出液に含まれる平均分子量が500~1000の活性物質には、細胞の接着能増強成分が多く含まれており、BMP4遺伝子、VEGF遺伝子、KGF遺伝子及びβカテニン遺伝子のそれぞれの発現増強が見込まれる。
従って、この土壌由来抽出液を含有する遺伝子発現増強剤を毛乳頭細胞に適用することにより、毛髪の分化及び成長を促進させることができる。
【実施例0019】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
<土壌由来抽出液の調製>
土壌由来抽出液の一種である野口カタライザー21(株式会社野口総合研究所製、糖鎖栄養素抽出液)を使用し、水酸化ナトリウムで中和して、その上清を試料(遺伝子発現増強剤)とした。
【0020】
<細胞培養>
ヒト毛包性皮膚乳頭細胞(HFDPC、タカラバイオ株式会社)を使用して細胞培養を行った。HFDPCは、4%子牛胎児血清、0.4%牛下垂体抽出物、1ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子、5μg/mLインスリンを添加した基礎培地(サプリメントミックス、PromoCell社)で培養した。細胞は、37℃、5%COの加湿インキュベーターで維持した。遺伝子発現増強剤の処理前に、血清と成長サプリメントの影響を最小化するために、培地を1%牛胎児血清(FBS、Gibco社)及び1ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Merck社)添加のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco社)で置換し24時間培養を行った。
【0021】
<細胞生存率アッセイ>
HFDPCの生存率に対する遺伝子発現増強剤の影響を、WST-1アッセイ(同仁堂研究所)及び発光ATP検出アッセイとセルカウンター(Countess3自動セルカウンター、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて、メーカーのプロトコルに従って検討した。HFDPC(3×104cells/well)を96ウェルプレートに播種し、5%FBS含有RPMI培地中の様々な濃度の遺伝子発現増強剤を処理した。検討のため、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)及びATPの発生量を測定した。NADHの生成量は、WST-1アッセイにより測定した。吸光度は、マイクロプレートリーダーを用いて450nmで読み取った。ATPの測定は、細胞を溶解し、洗剤溶液でATP合成を阻害した。ATP/ルシフェリン反応による発光を測定した。
【0022】
<定量的リアルタイムPCR>
遺伝子発現増強剤がHFDPCの生存率関連遺伝子の発現に及ぼす影響を調べるために、リアルタイムPCRを使用した。6ウェルプレートに細胞を播種し(1.5×105個/ウェル)、3日間及び6日間培養を行った。5%FBS添加RPMI培地で24時間培養後、遺伝子発現増強剤を3日及び6日間処理し、非処理細胞をコントロールとした。High Pure RNA Isolation Kit(Roche Molecular Systems Inc.)を用いてトータルRNAを抽出し、Rever Tra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mix(東洋紡株式会社)とサーモサイクラー(R&D Systems)により製造者のプロトコルに準じてcDNA合成した。簡単に説明すると、各サンプルのトータルRNA(1μg)を、0.5μg Oligo dT及び200U Super Script(登録商標) II RT(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて20μlで逆転写した。増幅は、0.5μMの各プライマー、4mM MgCl、3μl LightCycler(登録商標) FastStart DNA Master SYBR Green I(Roche Molecular Systems Inc.)、2μlの1:10希釈した相補DNA(cDNA)を含む総容量20μlで行った。未知試料での定量は、LightCycler Relative Quantification Software version3.3(Roche Molecular Systems Inc.)を用いて行った。各実験では、参照標準としてGAPDHハウスキーピング遺伝子を増幅した。GAPDHのプライマーを設計した。GAPDH(f):GGGCCAAAAGGGTCATCATC;GAPDH(r):ATGACCTTGCCCACAGCCTT。その他の標的遺伝子プライマーは以下の通りである。VEGF(f):GTGGTTGCCCTTCTACTTTGC;VEGF(r):GAGGACTCCAGCCACAAAGATG;BMP4(f):CAGCTTCATATAACCCCAGGGAC;BMP4(r):GCTAGGTGGTCATTCAGGTAGG;KGF(f):TGTCACAGAGGGGCTACGAG;KGF(r):GAGCGATGTTGTCCACCAGG;βカテニン(f):GTTTACATTGTTCAGG ACCTCATGG;βカテニン(r):TCGGTA AGAAAGCCAGTGTGGT。反応液は二重に調製し、95℃で10分間加熱した後、95℃で10秒間の変性、55℃で5秒間のアニーリング、72℃で20秒間の伸長を40サイクル行った。全てのPCR反応は二重で行った。各標的遺伝子及び各サンプル中の内因性参照遺伝子(GAPDH)について標準曲線(サイクル閾値対鋳型濃度)を作成した。PCR反応の特異性を確認するため、PCR産物を1.2%アガロースゲルで電気泳動した。
【0023】
<結果及び考察>
毛乳頭細胞の細胞増殖能を試験したところ、遺伝子発現増強剤の濃度1%、2%、5%及び10%において遺伝子発現増強剤無添加と比較して約160%程度の細胞数の増加が認められた(図2)。毛乳頭細胞の増殖率の増加は相対的な毛乳頭細胞の分泌物の増加を生じるため、発毛及び育毛の維持に大きく寄与すると考えられる。
【0024】
次に、成長因子であるBMP4の発現をリアルタイムPCRにて確認した。30%の遺伝子発現増強剤添加時には遺伝子発現増強剤無添加と比較して発現量が約3倍に増加した(図3)。BMP4については、細胞の分化や増殖を促進すること及び様々な細胞機能を調節することが知られている。
【0025】
次に、VEGFの発現を同様に確認した。各0%(無添加)、1%、10%、20%及び30%の濃度の遺伝子発現増強剤を添加し培養した細胞のmRNA発現量を確認したところ、遺伝子発現増強剤の濃度に依存的な増加が認められた。特に、30%の遺伝子発現増強剤添加時には遺伝子発現増強剤無添加と比較して発現量が約7倍まで増加した(図4)。VEGFは主に血管内皮細胞表面にある血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)にリガンドとして結合し、細胞分裂や遊走、分化を刺激したり、微小血管の血管透過性を亢進させたりする働きを持つ。また、毛周期の進行には毛乳頭細胞が重要な役割を担っており、VEGFは成長期の維持に関与していると考えられるため、遺伝子発現増強剤は毛髪の成長期を維持する機能を有していると言える。
【0026】
また、KGFの発現を同様に確認した。各0%、1%、10%、20%及び30%の遺伝子発現増強剤を添加し培養した細胞のmRNA発現量を確認したところ、遺伝子発現増強剤の濃度に依存的な増加が認められた。特に、30%の遺伝子発現増強剤添加時には遺伝子発現増強剤無添加と比較して発現量が約3.5倍に増加した(図5)。KGF(毛母細胞成長因子。別名ヒトオリゴペプチド-5、FGF-7)はヘアサイクルの成長期に関与し、毛母細胞自身を活性化させる。加齢その他の原因により、自身でのKGF産生が難しくなると毛母細胞が働かなくなり、発毛不全、薄毛、抜け毛に至るが、遺伝子発現増強剤によって毛周期の成長期を促進することができると考えられる。
このように、遺伝子発現増強剤は毛乳頭細胞における毛髪の分化、促進に関する主要なシグナル経路を促進させる効果を持つことが明らかとなった。
【0027】
βカテニンの遺伝子発現量を確認したところ、0%、1%、10%、20%及び30%の濃度の遺伝子発現増強剤添加に対して濃度依存的な増加が認められた。特に、30%の遺伝子発現増強剤添加時には遺伝子発現増強剤無添加と比較して発現量が約1.7倍に増加した(図6)。よって、遺伝子発現増強剤はAKT/βカテニンシグナル伝達経路を亢進させると期待される。
【0028】
<遺伝子発現増強剤における接着能増強作用物質の分画>
サンプルとして、上述の土壌を粉砕、微粒子化し、そこに含まれる水溶性物質を超純水に溶解(抽出)して得られた土壌由来抽出液をpH7付近まで中和した後、0.4μmのフィルターで滅菌した遺伝子発現増強剤を用いた。サンプルの分画は透析または限外ろ過膜を用いて行った。具体的な手順は以下の通りである。
2k以下はUF膜で3k分画後の素通り画分を使用して透析にて分画した。
3k-2kは2k以下透析時のMQを回収し、分画した後エバポレーターにて濃縮して使用した。
1k以下はUF膜で3k分画後の素通り画分を使用しUF膜にて分画した。
2k-1kはUF膜で2k分画後の素通り画分を使用し1kUF膜にて分画したものを使用した。
1k-500の分画は1kUF膜の素通り画分を使用し500透析膜を用いた。500以下の分画は透析によって得られた透析時のMQを回収し、分画した後エバポレーターにて濃縮して得た。
【0029】
細胞としてヒト毛包性皮膚乳頭細胞(HFDPC)を用い、1.9×10cells/wellとなるように播種した。4%子牛胎児血清、0.4%牛下垂体抽出物、1ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子、5μg/mLインスリンを添加した基礎培地(サプリメントミックス、PromoCell社)で培養した。細胞は、37℃、5%COの加湿インキュベーターで維持した。遺伝子発現増強剤の処理前に、血清と成長サプリメントの影響を最小化するために、培地を1%牛胎児血清(FBS、Gibco社)及び1ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Merck社)添加のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco社)で置換し24時間培養を行った。
その後、サンプルを30%になるように培養し、7日後に接着能の測定を行った。接着能は、0.1%トリプシン処理をインキュベーター内で2分間行った後、剥離しない細胞をセルカウントで測定することで評価した。
【0030】
<接着能の評価>
トリプシン処理後に残存した細胞の数を測定した。測定の結果、図7に示すように、未分画のサンプルと比較して3kM.W.以上ではトリプシン処理によってほとんどすべての細胞が接着していなかったのに対し、3kM.W.以下では接着している細胞が認められた。同様に3k-2kM.W.の分画サンプルでは接着している細胞は認められず、2kM.W.以下の分画では接着した細胞が確認された。2k-1kM.W.では残存した細胞数は減少したが接着細胞が確認され、また1kM.W.以下及び1k-500M.W.の分画でも接着細胞が確認された。500以下では接着細胞が確認できなかったことから遺伝子発現増強剤(土壌由来抽出液)に含まれる接着能増強成分は1000から500M.W.であることが推測される。
【0031】
VEGFの増加によって細胞接着因子が増加することが知られている。従って、接着能の増強には主にVEGFが関与しており、VEGFと接着能力の増強にはVEGFの発現増強が関与していると推測される。また、KGFは毛母細胞を活性化するものであるが、毛乳頭細胞自身の活性化も促進するため、結果的にVEGFの発現増強が生じ、接着能の増強に関与すると考えられる。毛髪の伸長期間に毛乳頭がBMP4を分泌することが知られており、BMP4は毛乳頭細胞の活性化の指標としても使用されている。VEGFの発現増強によっても毛乳頭細胞の活性化が生じるのでBMP4の発現も上昇するものと推測される。以上のことから、接着能増強成分が含まれる遺伝子発現増強剤(土壌由来抽出液)は、BMP4遺伝子、VEGF遺伝子及びKGF遺伝子の発現を増強させる作用を有すると言える。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものであり、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7