IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平化学産業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010397
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】緑色野菜の変色・退色防止剤
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/153 20060101AFI20250109BHJP
   A23B 7/154 20060101ALI20250109BHJP
   A23B 7/157 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A23B7/153
A23B7/154
A23B7/157
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024193286
(22)【出願日】2024-10-16
(71)【出願人】
【識別番号】591040557
【氏名又は名称】太平化学産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉本 恭行
(72)【発明者】
【氏名】島田 太一
(57)【要約】
【課題】緑色野菜の変色・退色防止剤および、緑色野菜の変色・退色防止剤を含む食品を提供すること。
【解決手段】食酢、リン酸マグネシウム、シクロデキストリン、還元糖、アスコルビン酸およびその塩類、塩化ナトリウムを含有し、この溶液のpHが5.0以下に制御されている、緑色野菜の変色・退色防止剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食酢、リン酸マグネシウム、還元糖を含有することを特徴とする緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項2】
食酢、リン酸マグネシウム、シクロデキストリンを含有することを特徴とする緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項3】
請求項2に記載の緑色野菜の変色・退色防止剤に、還元糖を含有することを特徴とする緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項4】
請求項1~3に記載の緑色野菜の変色・退色防止剤に、アスコルビン酸およびその塩類を含有することを特徴とする緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項5】
請求項1~4に記載の緑色野菜の変色・退色防止剤に、塩化ナトリウムを含有することを特徴とする緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項6】
シクロデキストリンがβ―シクロデキストリンである請求項2~5に記載の緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項7】
アスコルビン酸およびその塩類がアスコルビン酸ナトリウムである請求項4~6に記載の緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項8】
リン酸マグネシウムがリン酸三マグネシウムである請求項1~7に記載の緑色野菜の変色・退色防止剤。
【請求項9】
溶液にしたときのpHが5.0以下である請求項1~8に記載の緑色野菜の変色・退色防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色野菜の変色・退色防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
緑色野菜は見た目の鮮やかさだけではなく、その味わいや栄養価の高さから需要の高い食品である。緑色野菜はサラダとして食べるだけではなく、加熱や調味液への浸漬など様々な調理方法で加工されることが多く、なかでも野菜を塩やお酢等を含む調味液に漬け込んでつくる漬物や酢漬けは、健康効果が期待できることや、保存性、嗜好性の良さ等から需要の高い食品である。しかし、漬物や、酢漬けは微生物の繁殖を抑制するため、pHが酸性(pH5.0以下)に調整されたものが多く(非特許文献1)、これは緑色野菜に含まれているクロロフィルが分解し、変色を示すpH域(非特許文献2)である。また、クロロフィルは光照射や温度でも分解することが知られている。よって緑色野菜を漬物や酢漬けのように加工する場合、pHや光等で変色をしてしまうため、タール色素などの合成着色料が使用されることがあるが、鮮やかな緑色を完全に保持できないことや、健康面への影響等の問題があることから、野菜に含まれるクロロフィルを保持する技術は様々提案されている。
【0003】
特許文献1には、L-アスコルビン酸およびリン酸三マグネシウムを有効成分として、クロロフィルを安定化させる技術が開示されている。しかしこの方法では、リン酸三マグネシウムを溶かすためにL-アスコルビン酸を多く使用する必要があり、アスコルビン酸添加による味質、コスト面への影響がでる等の問題がある。
【0004】
特許文献2には、マグネシウムを供給する方法として、マグネシウム含有化合物、アスコルビン酸類および/またはその塩、およびα―リポ酸および/またはその複合体を含有し、水溶液のpHが7.5~9.5であるクロロフィルを安定させる品質保持剤が開示されている。しかし、この方法ではpHの幅が7.5~9.5であり、pHが酸性(特にpH5.0以下)の食品の使用に向いていない。
【0005】
特許文献3にはマグネシウムイオンまたは亜鉛イオンまたはスズイオンおよびアスコルビン酸イオンまたはエリソルビン酸イオンを含む溶液に青果物を浸漬させる青果保存剤が開示されている。しかしこの方法では、スズや亜鉛の過剰摂取による健康面への影響等に問題がある。
【0006】
特許文献4には、リン酸二マグネシウムを有効成分としてクロロフィルを安定化させる技術が開示されている。しかしこの方法では、pHが5.0未満で使用する場合は変色防止効果を発揮しない。
【先行技術文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-50468
【特許文献2】特開平11-196764
【特許文献3】特許4583169
【特許文献4】特開平7-46972
【非特許文献1】Lahellec,C.et al.:Growth effect of sorbate and selected antioxidates on toxigenic strains of Staphylococcus aureus.J.Food Prot.Vol.44,pp531-534
【非特許文献2】守康則、北久美子、宮崎節子、クロロフィルの安定性に関する研究、家政学雑誌、1964年、第15巻、第1号、p2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来の技術では、他の金属塩や有効成分の添加により味質や健康、コストに影響がでること、低いpH(特にpH5.0以下)での使用ができないこと等の問題があった。このような背景から、菌の繁殖が抑制されるpH(特に5.0以下)で使用可能で、味質、健康、コスト面に影響がでにくい緑色野菜の変色・退色防止剤が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の緑色野菜の変色・退色防止剤は、食酢およびリン酸マグネシウムに、シクロデキストリン、還元糖、アスコルビン酸およびその塩類、塩化ナトリウムからなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、食品の味質への影響が少なく、クロロフィルの分解が起こりやすいpH5.0以下でも緑色野菜の変色・退色を防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いる緑色野菜の変色・退色防止剤は、食酢、リン酸マグネシウムに、シクロデキストリン、還元糖、アスコルビン酸およびその塩類、塩化ナトリウムからなる群より選択される1種以上を含有しており、各組み合わせの添加量は、溶液にしたときの混合比率が、食酢が20~40質量%、リン酸マグネシウムが0.1~5質量%、シクロデキストリンが0.1~5質量%、還元糖が0.1~25質量%、アスコルビン酸およびその塩類が0.1~10質量%、塩化ナトリウムが0.1~2質量%、好ましくは食酢が30~35質量%、リン酸マグネシウムが1~3質量%、シクロデキストリンが0.5~1.5質量%、還元糖が1~20質量%、アスコルビン酸およびその塩類が1~3質量%、塩化ナトリウムが0.5~1.5質量%、より好ましくは食酢が33.3質量%、リン酸マグネシウムが2質量%、シクロデキストリンが1質量%、還元糖が10質量%、アスコルビン酸およびその塩類が2質量%、塩化ナトリウムが1質量%であることを特徴とするpHが5.0以下に調整した緑色野菜の変色・退色防止剤である。
【0012】
本発明で用いる食酢としては、合成酢、醸造酢、穀物酢、米酢、米黒酢、大麦黒酢、果実酢、リンゴ酢、ブドウ酢等を使用することができる。また、これらの食酢に有機酸またはその塩類を加えて調整してもよく、例えば、酢酸、酢酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等を使用してもよい。
【0013】
本発明で用いるシクロデキストリンとしては、α―シクロデキストリン、β―シクロデキストリン、γ―シクロデキストリンが挙げられ、このうち変色防止効果に優れる点でβ―シクロデキストリンが最も好ましい。
【0014】
本発明で用いる還元糖としては、果糖、ブドウ糖、乳糖、麦芽糖、ソルビトール、エリスリトール、還元水あめ等を使用することができる。
【0015】
本発明で用いるアスコルビン酸およびその塩類としてはアスコルビン酸ナトリウムが最も好ましい。
【0016】
本発明で用いるリン酸マグネシウムとしてはリン酸三マグネシウムが最も好ましい。
【0017】
本発明の緑色野菜の変色・退色防止剤はpH調整剤を使用することができ、pH調整剤としては、例えば、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等の無機酸またはそれらの塩、もしくはクエン酸、クエン酸ナトリウム等の有機酸またはそれらの塩等を使用することができる。
【0018】
以下、実験例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実験例に何ら限定されるものではない。
【0019】
【実験例1】
[実施例1~36、比較例1~17]
食酢(ミツカン穀物酢:株式会社ミツカン)、リン酸三マグネシウム、塩化マグネシウム、シクロデキストリン(α―シクロデキストリン、β―シクロデキストリン、γ―シクロデキストリン)、還元糖(ソルビトールまたは、果糖ブドウ糖液糖(ニューフラクト55:昭和産業株式会社))、リン酸水素二ナトリウムをそれぞれ表1に示す割合になるよう精製水に溶かした。これらの溶液にほうれん草、ブロッコリー、オクラ、サヤインゲンを重量比が野菜1:溶液2となるよう透明のナイロンポリ袋(厚さ70μm)に浸漬した。浸漬後はすみやかに袋の口をヒートシールで遮蔽し、5℃、500ルクスの条件下で8日間静置した。各種野菜に対する1日後、2日後、3日後、5日後、8日後の変色・退色防止効果を以下の方法で評価した。
<評価基準>
◎ ・・・野菜の鮮やかな緑色を保持している。
○ ・・・野菜の緑色を保持している。
△ ・・・野菜の緑色をやや保持している。
× ・・・褐色に変色している。
※3日後に、野菜の緑色をやや保持しているもの(評価基準:△)を変色・退色防止効果ありと判断し、3日後に褐色に変色したものを変色・退色防止効果なしと判断した。
【0020】
結果(実施例1~36、比較例1~17)を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
2種類の組み合わせとして、食酢に、リン酸三マグネシウム、塩化マグネシウム、シクロデキストリン、還元糖(ソルビトールまたはニューフラクト55)のうち、いずれか1種類を組み合わせた場合(比較例2~17)では、3日後に褐色に変色していたことから、変色防止効果はなしと判断した。塩化マグネシウム3質量%の組み合わせ(比較例3)が、1日後緑色をやや保持していたのに対して、リン酸三マグネシウム2質量%の組み合わせ(比較例2)は1日後緑色を保持していた。これはリン酸三マグネシウムの方が塩化マグネシウムと比較して緑色を保持する効果が高いことを示している。よって3種類以上の組み合わせの検討には、リン酸三マグネシウムを用いた。
【0023】
3種類の組み合わせとして、食酢、リン酸三マグネシウムに、シクロデキストリンまたは、還元糖を組み合わせた場合(実施例1~24)では、3日後も褐色に変色しておらず、緑色を保持または、緑色をやや保持していたことから、変色防止効果ありと判断した。食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、β―シクロデキストリン1質量%の組み合わせ(実施例2)および、食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、還元糖10質量%の組み合わせ(実施例7~8)は3日後も緑色を保持しており、3種類の組み合わせのなかで高い変色防止効果を示した。
【0024】
4種類の組み合わせとして、食酢、リン酸三マグネシウム、シクロデキストリンに、還元糖を組み合わせた場合(実施例25~36)では、3日後も褐色に変色しておらず、緑色を保持または、緑色をやや保持していたことから、変色防止効果ありと判断した。食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、β―シクロデキストリン1質量%、還元糖10質量%の組み合わせ(実施例25~26)は5日後に緑色を保持、8日後に緑色をやや保持しており、4種類の組み合わせのなかで高い変色防止効果を示した。
【0025】
5℃、500ルクスの条件下で8日間変色防止効果を示した組み合わせのうち、高い変色防止効果を示した(実施例25~26)に、アスコルビン酸ナトリウム、塩化ナトリウムを組み合わせて、光照射量を500ルクスから1000ルクスに上げ、緑色野菜の変色を防止できるか実験例2で評価した。
【0026】
【実験例2】
[実施例37~74]
食酢(ミツカン穀物酢:株式会社ミツカン)、リン酸三マグネシウム、シクロデキストリン、還元糖(ソルビトールまたは、果糖ブドウ糖液糖(ニューフラクト55:昭和産業株式会社))、アスコルビン酸ナトリウム、塩化ナトリウムをそれぞれ表2に示す割合になるよう精製水に溶かした。これらの溶液にほうれん草、ブロッコリー、オクラ、サヤインゲンを重量比が野菜1:溶液2となるよう透明のナイロンポリ袋(厚さ70μm)に浸漬した。浸漬後はすみやかに袋の口をヒートシールで遮蔽し、5℃、1000ルクスの条件下で8日間静置した。各種野菜に対する1日後、2日後、3日後、5日後、8日後の変色・退色防止効果を以下の方法で評価した。
<評価基準>
◎ ・・・野菜の鮮やかな緑色を保持している。
○ ・・・野菜の緑色を保持している。
△ ・・・野菜の緑色をやや保持している。
× ・・・褐色に変色している。
※3日後に、野菜の緑色をやや保持しているもの(評価基準:△)を変色・退色防止効果ありと判断し、3日後に褐色に変色したものを変色・退色防止効果なしと判断した。
【0027】
結果(実施例37~74)を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
4種類の組み合わせとして、食酢およびリン酸三マグネシウムと、β―シクロデキストリン、還元糖、アスコルビン酸ナトリウム、塩化ナトリウムのうちいずれか2種類を組み合わせた場合(実施例37~50)では、8日後も緑色をやや保持していたことから、変色防止効果ありと判断した。食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、β―シクロデキストリン1質量%、還元糖10質量%の組み合わせ(実施例37~38)、食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、β―シクロデキストリン1質量%、アスコルビン酸ナトリウム2質量%の組み合わせ(実施例39)、食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、β―シクロデキストリン1質量%、塩化ナトリウム1質量%の組み合わせ(実施例41)、食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、還元糖10質量%、アスコルビン酸ナトリウム2質量%の組み合わせ(実施例43~44)、食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、還元糖10質量%、塩化ナトリウム1質量%の組み合わせ(実施例47~48)は、5日後に緑色を保持、8日後に緑色をやや保持しており、4種類の組み合わせの中で高い変色防止効果を示した。
【0030】
5種類の組み合わせとして、食酢およびリン酸三マグネシウムに、β―シクロデキストリン、還元糖、アスコルビン酸ナトリウム、塩化ナトリウムのうちいずれか3種類を組み合わせた場合(実施例51~70)では、5日後に緑色を保持、8日後も緑色をやや保持していたことから、変色防止効果ありと判断した。
【0031】
6種類の組み合わせとして、食酢、リン酸三マグネシウム、β―シクロキストリン、還元糖、アスコルビン酸ナトリウム、塩化ナトリウムの組み合わせ(実施例71~74)では、8日後も緑色を保持していたことから、変色防止効果ありと判断した。食酢33.3質量%、リン酸三マグネシウム2質量%、β―シクロデキストリン1質量%、アスコルビン酸ナトリウム2質量%、塩化ナトリウム1質量%の組み合わせ(実施例71~72)は、5日後に鮮やかな緑色を保持、8日後に緑色を保持しており、6種類の組み合わせの中で高い変色防止効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、味質への影響が少なく、pHの低い食品にも使用できるため、食品ロスの削減にとって大変有用である。