(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010405
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】柑橘香味炭酸アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20250109BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20250109BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
C12G3/04
C12G3/06
A23L27/00 Z
A23L27/00 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024193535
(22)【出願日】2024-11-05
(62)【分割の表示】P 2019216269の分割
【原出願日】2019-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】森 暁平
(57)【要約】
【課題】柑橘香味が増強された炭酸アルコール飲料を提供する。
【解決手段】ラカンカ抽出物を含有する、柑橘香味の炭酸アルコール飲料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラカンカ抽出物を含有する、柑橘香味の炭酸アルコール飲料。
【請求項2】
ラカンカ抽出物を0.05~10ppm含有する、請求項1に記載の柑橘香味炭酸アルコール飲料。
【請求項3】
アルコール含有量が3v/v%以上である、請求項1又は2に記載の柑橘香味炭酸アルコール飲料。
【請求項4】
アルコール含有量が10v/v%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の柑橘香味炭酸アルコール飲料。
【請求項5】
炭酸ガス圧が2.3ガスボリューム以上である、請求項1から4のいずれかに記載の柑橘香味炭酸アルコール飲料。
【請求項6】
ショ糖換算の甘味度が5.0g/100ml以下である、請求項1から5のいずれかに記載の柑橘香味炭酸アルコール飲料。
【請求項7】
果汁含有量が5%以下である、請求項1から6のいずれかに記載の柑橘香味炭酸アルコール飲料。
【請求項8】
無果汁である、請求項7に記載の柑橘香味炭酸アルコール飲料。
【請求項9】
ラカンカ抽出物を含有する、炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強剤。
【請求項10】
ラカンカ抽出物を添加することを特徴とする、炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強方法。
【請求項11】
ラカンカ抽出物を、炭酸アルコール飲料中に0.05~10ppm含有させることを特徴とする、請求項10に記載の柑橘香味増強方法。
【請求項12】
炭酸アルコール飲料が無果汁である、請求項10又は11に記載の柑橘香味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘香味炭酸アルコール飲料、炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強剤及び炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強方法に関し、特には柑橘香味が増強された炭酸アルコール飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酎ハイ、カクテルテイスト飲料等に代表される容器入り炭酸アルコール飲料(レディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料とも呼ばれる)においては、特にレモン、グレープフルーツ、シークァーサーなどの柑橘香味が付与された柑橘系炭酸アルコール飲料の人気が高い。
これは、消費者が上記の柑橘の香味に幼いころから慣れ親しんできたことや、柑橘の爽やかな香味やすっきりした飲み口が、炭酸アルコール飲料と相性が良いこと等が理由と考えられる。
【0003】
一方、炭酸アルコール飲料市場においては、近年ますます食事への相性の良さが重視されるようになり、それに伴って、より炭酸ガス圧やアルコール濃度が高めで、甘味の少ないものが主流となってきている。
【0004】
ところが、上記柑橘系炭酸アルコール飲料において、炭酸ガス圧やアルコール濃度を高めると炭酸やアルコール由来の刺激臭を強く感じるようになり、柑橘特有の香味、特に果皮に由来するフレッシュで青みを伴う柑橘香がマスキングされ感じ難くなる。さらに甘味を低減した場合は、柑橘特有のまろやかなコクのある苦甘味が感じられ難くなる。このため、従来甘味の少ない炭酸アルコール飲料に、柑橘らしい香味を付与することは困難であった。
【0005】
炭酸アルコール飲料に限定されるものではないが、柑橘香味を増強する手段として、例えば、以下のような技術が知られている。
【0006】
特開2018-70706号公報(特許文献1)は、3-パラメンテン-7-アールを有効成分とする柑橘様香味増強剤を記載し、これにより、柑橘様の香味、特に柑橘特有のフレッシュなピール感およびみずみずしい果汁感を増強することができる柑橘様香味増強剤を提供することができるとしている。
【0007】
特開2017-99371号公報(特許文献2)は、糖質含量が2w/v%以下であり、柑橘系の果汁及び/又は香料を含有する容器入り炭酸アルコール飲料であって、200~2000ppmのクエン酸カリウムを含有する、容器入り炭酸アルコール飲料を記載し、これにより、低糖質の柑橘系の容器入り炭酸アルコール飲料において、アルコール等による刺激感を低減し、シトラス感(柑橘類の美味しさ)を増強することができる、容器入りアルコール飲料を提供することができるとしている。
【0008】
特開2009-203438号公報(特許文献3)は、(E)-6-ノネナールを有効成分とする柑橘香味増強剤を記載し、これにより、柑橘特有の果皮様のボディ感のある香味を付与することができる柑橘香味増強剤を提供することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-70706号公報
【特許文献2】特開2017-99371号公報
【特許文献3】特開2009-203438号公報
【特許文献4】特開2014-60953号公報
【特許文献5】特開2014-93980号公報
【特許文献6】特許第6420057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、従来技術とは異なる手法で、柑橘香味が増強された炭酸アルコール飲料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、炭酸アルコール飲料向けの新規な柑橘香味増強剤及び柑橘香味増強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、柑橘系炭酸アルコール飲料、特に甘味の少ない炭酸アルコール飲料に、ラカンカの抽出物を含有させることによって、柑橘香味を増強できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
なお、ラカンカ(羅漢果)は、中国広西チワン族自治区を原産地とするウリ科ラカンカ属の多年生つる植物であって、甘味成分を含んでおり、乾燥させ砕いたものを煎じて羅漢果茶として飲んだり、料理の甘味料として使われたりしている。羅漢果の甘味成分の主体は、特有の強い甘みをもつモグロサイド(あるいはモグロシド)と呼ばれるトリテルペン配糖体である。
ラカンカ抽出物には、ビール又はビール風味発泡飲料のコク味やボディ感を増強する効果(特開2014-60953号公報,特許文献4)、飲食品の不快風味をマスキングする効果(特開2014-93980号公報,特許文献5)、ウメ果汁含有アルコール飲料の果汁感を増強する効果(特許第6420057号公報,特許文献6)等の効果が知られているが、柑橘系炭酸アルコール飲料の柑橘香味を増強する効果については今まで知られていなかった。
【0013】
即ち、本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料は、ラカンカ抽出物を含有する。
【0014】
本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料の好適例においては、ラカンカ抽出物を0.05~10ppm含有する。
【0015】
本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料の他の好適例においては、アルコール含有量が3v/v%以上である。
【0016】
本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料の他の好適例においては、アルコール含有量が10v/v%以下である。
【0017】
本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料の他の好適例においては、炭酸ガス圧が2.3ガスボリューム以上である。
【0018】
本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料の他の好適例においては、ショ糖換算の甘味度が5.0g/100ml以下である。
【0019】
本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料の他の好適例においては、果汁含有量が5%以下である。
【0020】
本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料の他の好適例においては、無果汁である。
【0021】
また、本発明の炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強剤は、ラカンカ抽出物を含有する。
【0022】
また、本発明の炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強方法は、ラカンカ抽出物を添加することを特徴とする。
【0023】
本発明の炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強方法の好適例においては、ラカンカ抽出物を、炭酸アルコール飲料中に0.05~10ppm含有させる。
【0024】
本発明の炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強方法の他の好適例においては、炭酸アルコール飲料が無果汁である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、柑橘香味が増強された炭酸アルコール飲料を提供することができる。
また、本発明によれば、炭酸アルコール飲料、特に甘味の少ない炭酸アルコール飲料向けの柑橘香味増強剤及び柑橘香味増強方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の柑橘香味炭酸アルコール飲料(以下、本発明の炭酸アルコール飲料や本発明のアルコール飲料ともいう)を詳細に説明する。本発明の炭酸アルコール飲料は、ラカンカ抽出物を含有する。本発明のアルコール飲料によれば、ラカンカ抽出物を配合することで、炭酸アルコール飲料の柑橘香味を増強することができる。
【0027】
本明細書において「アルコール飲料」とは、エチルアルコールを含有する飲料であり、通常、飲料中のエチルアルコール濃度が温度15℃の時において原容量百分中に1容量%以上である飲料を指す。アルコール飲料の具体例としては、一般的に、日本酒、ビール及びワイン等の醸造酒、焼酎、ウイスキー、ブランデー及びウォッカ等の蒸留酒、酎ハイ、カクテル、梅酒及びリキュール等の混成酒が挙げられるが、本発明のアルコール飲料は、柑橘香味のアルコール飲料であり、酎ハイ、カクテル、カクテルテイスト飲料等として好適である。
【0028】
本発明のアルコール飲料は、原料酒として蒸留酒を用い、加水等によりアルコール含有量が調製された飲料であることが好ましい。本明細書において「蒸留酒」とは、酒税法に規定される蒸留酒を指す。蒸留酒としては、焼酎、スピリッツ、ウォッカ、ラム、ジン、ウイスキー及び原料用アルコール等が挙げられ、原料用アルコール等が好適である。原料酒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明のアルコール飲料は、アルコール含有量が3v/v%以上であることが好ましく、5v/v%以上であることがより好ましく、7v/v%以上であることが更に好ましい。本発明のアルコール飲料は、ラカンカ抽出物を含有するため、アルコール含有量が上記特定した範囲内にある場合であっても、柑橘香味を増強することができる。また、本発明のアルコール飲料において、アルコール含有量の上限としては、10v/v%以下であることが好ましく、9v/v%以下であることがより好ましい。
【0030】
本明細書において、アルコール含有量は、アルコール飲料全体の体積に対するアルコール飲料に含まれるエチルアルコールの体積の百分率で表され、「v/v%」と表記する。
【0031】
本発明のアルコール飲料は、柑橘類の香味が付与されたアルコール飲料(柑橘香味アルコール飲料)であり、柑橘類の果汁及び/又は香料(フレーバー)を配合することで、アルコール飲料に柑橘類の香味を付与することができる。本発明のアルコール飲料は、ラカンカ抽出物を含有するため、柑橘香味の増強効果が高く、例えば甘味の少ない炭酸アルコール飲料であっても、柑橘らしい香味を付与することができる。
【0032】
柑橘類の果汁としては、例えばレモン果汁、グレープフルーツ果汁、シークァーサー果汁、オレンジ果汁、ミカン果汁、ライム果汁、ユズ果汁、カボス果汁、イヨカン果汁等が挙げられる。本発明のアルコール飲料に果汁を配合する場合、果汁含有量は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましく、0%(無果汁)であっても良い。アルコール飲料が低果汁又は無果汁である場合、飲料の後味をすっきりさせることができ、食事との相性をよくすることができる。一方、アルコール飲料が低果汁又は無果汁であると、主として香料により柑橘香味を付与することになるものの、本発明のアルコール飲料であれば、ラカンカ抽出物による柑橘香味の増強効果が高いため、十分に柑橘らしい香味を付与することができる。
【0033】
本明細書において、果汁含有量は、アルコール飲料全体の体積に対するアルコール飲料に含まれる果汁の重量の百分率で表され、「%」は「w/v%」と表記することもできる。
なお、果汁が、ストレート果汁ではなく、濃縮果汁である場合、その含有量は、ストレート果汁に換算した値を意味する。ストレート果汁への換算方法は、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)によって定まられている各果実に固有の糖度、又は酸度の基準値を用いて行う。具体的には、試料果汁の糖用屈折計示度(糖度)あるいは酸度を測定し、その果実に固有の糖度あるいは酸度の基準値で割れば、果汁の濃縮倍率を求めることができる。
【0034】
柑橘類の香料としては、例えばレモン香料、グレープフルーツ香料、シークァーサー香料、オレンジ香料、ミカン香料、ライム香料、ユズ香料、カボス香料、イヨカン香料等が挙げられる。本発明のアルコール飲料が低果汁又は無果汁である場合、香料含有量は、例えば0.1~5.0g/Lである。
【0035】
本発明のアルコール飲料は、炭酸ガスを含有するアルコール飲料(炭酸アルコール飲料)である。本発明のアルコール飲料において、炭酸ガス圧は、2.3ガスボリューム(GV)以上であることが好ましく、2.8ガスボリューム(GV)以上であることがより好ましく、3.3ガスボリューム(GV)以上であることが更に好ましい。本発明のアルコール飲料は、ラカンカ抽出物を含有するため、炭酸ガス圧が上記特定した範囲内にある場合であっても、柑橘香味を増強することができる。また、本発明のアルコール飲料において、炭酸ガス圧の上限としては、例えば4.3ガスボリューム(GV)以下である。
【0036】
本明細書において、炭酸ガス圧は、アルコール飲料中の炭酸ガス量を表し、標準状態(1気圧、20℃)における、アルコール飲料の体積に対するアルコール飲料中に溶解した炭酸ガスの体積の比を指す(単位としてガスボリューム(GV)を使用する)。炭酸ガス圧は、例えば、京都電子工業社製ガスボリューム測定装置GVA-500Bを用いて測定することができる。
【0037】
本発明のアルコール飲料は、ショ糖換算の甘味度が5.0g/100ml以下であることが好ましく、3.0g/100ml以下であることがより好ましく、1.0g/100ml以下であることが更に好ましい。アルコール飲料の甘味度が低い場合、飲料の後味をすっきりさせることができ、食事との相性をよくすることができる。一方、甘味の少ないアルコール飲料であると、炭酸やアルコール由来の刺激臭により、柑橘特有の苦味や甘味が感じられ難くなる場合もあるが、本発明のアルコール飲料であれば、ラカンカ抽出物による柑橘香味の増強効果が高いため、十分に柑橘らしい香味を付与することができる。また、本発明のアルコール飲料において、ショ糖換算の甘味度の下限としては、例えば0g/100mlでも良い。
【0038】
本明細書において、ショ糖換算の甘味度(以下、単に甘味度ともいう)とは、アルコール飲料の甘さの強さを示すパラメータであり、アルコール飲料中に含まれる甘味料の含有量を、甘味の観点からショ糖に換算して求めたパラメータである。具体的には、アルコール飲料に含まれる各甘味料について、その濃度(g/100ml)に、当該甘味料の「甘味度」を乗じることにより、ショ糖に換算した時の各甘味料の含有量(g/100ml)が求められる。そして、アルコール飲料に含まれる全甘味料についてのショ糖換算含有量の合計値(g/100ml)が、アルコール飲料の「甘味度」として求められる。
なお、本明細書においては、甘味料の甘味度として、「飲料用語事典、平成11年6月25日発行、株式会社ビバリッジジャパン社、資11」の値を採用する。甘味度の値に幅がある場合には、その中央値を採用する。
例えば、代表的な甘味料の甘味度は、以下の通りである。
ブドウ糖(甘味度0.65)
果糖(甘味度1.5)
スクラロース(甘味度600)
アセスルファムカリウム(甘味度200)
アスパルテーム(甘味度200)
【0039】
本発明のアルコール飲料は、ラカンカ抽出物を含有するものであり、これにより、上述のように、炭酸アルコール飲料の柑橘香味を増強することができる。
本明細書において「ラカンカ抽出物」とは、厚生労働省により公表された第9版食品添加物公定書に規定の「ラカンカ抽出物」を指す。具体的には、ラカンカ(Siraitia grosvenorii(Swingle)C.Jeffrey ex A.M.Lu & Zhi Y.Zhang (Momordica grosvenorii Swingle))の果実から得られた、モグロシド類を主成分とするものと定義される。ここで、主成分とは、物質を占める割合が最も高い成分を指す。また、ラカンカ抽出物は、第9版食品添加物公定書に規定されるように、モグロシドV(C60H102O29=1287.43)20%以上を含むものであり、ラカンカの果実から水、エタノール又は含水エタノール等による抽出で得られる。例えば、モグロシドVを30質量%以上含有するラカンカ抽出物、モグロシドV50質量%以上含有するラカンカ抽出物等が市販されている。ラカンカ抽出物の性状は、淡黄~淡褐色の粉末であり、味は甘い。
【0040】
本発明のアルコール飲料において、ラカンカ抽出物の含有量は、0.05~10ppmであることが好ましい。本発明のアルコール飲料中におけるラカンカ抽出物の含有量は、柑橘香味の増強効果を向上させる観点から、より好ましくは0.1ppm以上、更に好ましくは0.5ppm以上、特に好ましくは1.0ppm以上である。また、ラカンカ抽出物は、甘味料として知られており、甘味度が高い。このため、アルコール飲料の甘味に影響がない程度に配合することが好ましく、本発明のアルコール飲料中におけるラカンカ抽出物の含有量は、より好ましくは9.0ppm以下、更に好ましくは7.0ppm以下、特に好ましくは5.0ppm以下である。
【0041】
本明細書において、成分の含有量をppmで表す場合、その含有量は、アルコール飲料全体の体積に対するアルコール飲料に含まれる成分の重量の百万分率である。「ppm」は「w/v ppm」と表記することもできる。
【0042】
本発明のアルコール飲料は、甘味度の調整のため、更に甘味料を含有してもよい。甘味料としては、例えば、果糖、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、高果糖液糖、糖アルコール、オリゴ糖、はちみつ、水飴、ステビア末、ステビア抽出物、甘草末、甘草抽出物、ソーマトコッカスダニエリ種子末、ソーマトコッカスダニエリ種子抽出物などの天然甘味料や、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリンなどの人工甘味料などが挙げられる。これら甘味料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明のアルコール飲料は、更に酸味料を含有してもよい。酸味料の具体例としては、アジピン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム等)、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸及びこれらの塩(カリウム塩、ナトリウム塩)が挙げられる。酸味料は、pH調整剤としても使用可能である。これら酸味料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明のアルコール飲料は、酸度が0.05~0.80g/100mLであることが好ましく、0.10~0.60g/100mLであることが更に好ましい。例えば、上述した酸味料を加えることで、酸度を調整することができる。
なお、酸度は、クエン酸換算した酸度を示し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号)の8頁、総酸(遊離酸)にて定められた酸度の測定方法に基づいて算出される。
詳細には、酸度は、以下の方法により測定できる。
試料1~50mlを正確に量りとり、水で適宜希釈する。これを、0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pHメーターで8.2を終点とし、下記の式により算出する。
(数式1):酸度(%)=A×f×100/W×0.0064(クエン酸酸度の場合)
A:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液による滴定量(ml)
f:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価
W:試料重量(g)
なお、数式1中、「0.0064」は、「0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液1mlに相当する無水クエン酸の重量(g)」である。
【0045】
本発明のアルコール飲料は、その種類に応じてpHを適宜設定できるが、そのpHは、例えば2.0~5.0の範囲に調整される。
【0046】
本発明のアルコール飲料は、飲用水を含み、アルコール飲料の種類に応じて、色素、香料等を適宜含有することができる。また、本発明のアルコール飲料には、更に必要に応じて、pH調整剤(重曹など)、ビタミン類、ペプチド、アミノ酸、水溶性食物繊維、酸化防止剤、安定化剤、乳化剤等、食品分野で通常用いられている原料や食品添加物を用いてもよい。
【0047】
本発明のアルコール飲料は、容器入り炭酸アルコール飲料として提供することができる。容器としては、特に限定されるものではないが、瓶、缶、樽等の他、ペットボトル等のプラスチック製の容器や紙製の容器等も挙げられる。
【0048】
本発明のアルコール飲料は、常法により製造することができるものであるが、本発明のアルコール飲料の製造方法は、アルコール飲料にラカンカ抽出物を含有させることを含む。本発明のアルコール飲料の製造方法において、ラカンカ抽出物を添加するタイミングは特に限定されず、任意のタイミングで加えることができる。例えば、アルコール飲料の製造過程における任意のタイミングでラカンカ抽出物を添加してもよいし、また、アルコール飲料の製造後、飲用する際にラカンカ抽出物を添加してもよい。また、ラカンカ抽出物は、後述するような、ラカンカ抽出物を含有する柑橘香味増強剤の形態で使用されてもよい。
【0049】
例えば、本発明のアルコール飲料は、その種類に応じて適宜選択される各種成分を混合し、得られた混合液に対して炭酸ガスを加えることにより調製できる。ここで、ラカンカ抽出物は、他の成分と一緒に混合してもよいし、炭酸ガスの添加後に加えてもよい。ラカンカ抽出物は、任意のタイミングで加えることができる。炭酸ガスは、例えば、炭酸ガスを直接加えて混合液中に溶け込ませることができるが、炭酸水を混合液に加えてもよい。
また、成分の混合や炭酸ガスの添加後にろ過を行い、不溶物を除去する処理を行ってもよい。その後、容器に充填・密封することにより、容器入り飲料としてアルコール飲料を製造することができる。
【0050】
次に、本発明の炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強剤(以下、本発明の柑橘香味増強剤ともいう)を詳細に説明する。本発明の柑橘香味増強剤は、炭酸アルコール飲料に用いる柑橘香味増強剤であり、ラカンカ抽出物を含有する。本発明の柑橘香味増強剤を、柑橘香味炭酸アルコール飲料、特には甘味の少ない柑橘香味炭酸アルコール飲料に配合することで、炭酸アルコール飲料の柑橘香味を増強することができる。
【0051】
本発明の柑橘香味増強剤において、ラカンカ抽出物の含有量は特に限定されない。例えば20質量%以上であっても良いし、ラカンカ抽出物のみから構成されていてもよい。本発明の柑橘香味増強剤に配合し得る成分としては、例えば、甘味料、酸味料、でんぷん類、デキストリン、香料等が挙げられる。本発明の柑橘香味増強剤は、ラカンカ抽出物と、必要に応じて適宜選択される各種成分とを混合することにより調製できる。
【0052】
次に、本発明の炭酸アルコール飲料の柑橘香味増強方法(以下、本発明の柑橘香味増強方法ともいう)を詳細に説明する。本発明の柑橘香味増強方法は、ラカンカ抽出物を添加する工程を含む。本発明の柑橘香味増強方法によれば、ラカンカ抽出物を添加することにより、柑橘香味炭酸アルコール飲料、特には甘味の少ない柑橘香味炭酸アルコール飲料の柑橘香味を増強することができる。
【0053】
本発明の柑橘香味増強方法において、ラカンカ抽出物を添加するタイミングは特に限定されず、任意のタイミングで加えることができる。例えば、アルコール飲料の製造過程における任意のタイミングでラカンカ抽出物を添加してもよいし、また、アルコール飲料の製造後、飲用する際にラカンカ抽出物を添加してもよい。また、ラカンカ抽出物は、ラカンカ抽出物を含有する柑橘香味増強剤の形態で添加されてもよい。
【0054】
本発明の柑橘香味増強方法においては、柑橘香味の増強効果を向上させる観点から、炭酸アルコール飲料中にラカンカ抽出物を0.05~10ppm含有させることが好ましい。また、本発明の柑橘香味増強方法においては、炭酸アルコール飲料が無果汁であってもよい。アルコール飲料が無果汁であると、主として香料により柑橘香味を付与することになるものの、ラカンカ抽出物による柑橘香味の増強効果が高いため、十分に柑橘らしい香味を付与することができる。
【実施例0055】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
(試験1)レモン風味炭酸アルコール飲料の官能評価<炭酸アルコール飲料の調製例>
表1に示される処方に従って炭酸アルコール飲料ベース液1(レモン)(アルコール含有量9.0v/v%、炭酸ガス圧3.8ガスボリューム(GV)、ショ糖換算の甘味度3.0)を調製し、これを飲料サンプル1-1(対照)とした。また、表1に示される処方に従って調製されたベース液1(レモン)1000mlに対して、表2に示される量のラカンカ抽出物(サンナチュレ M50、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を添加して、飲料サンプル1-2から1-9を調製した。
【0057】
<炭酸アルコール飲料の官能評価>
飲料サンプル1-1から1-9について、訓練された4名のパネリスト(40代男性:1名、40代女性:1名、30代男性:2名)により、「柑橘らしい味の強さ」、「柑橘らしい香りの強さ」及び「総合的な柑橘らしさ」の官能評価を下記評価基準に従い行った。パネリストの平均点及びコメントを表2上側に示し、各パネリストの点数(上段:柑橘らしい味の強さ、中段:柑橘らしい香りの強さ、下段:総合的な柑橘らしさ)を表2下側に示す。
【0058】
<評価基準>(柑橘らしい味の強さ)
飲料サンプル1-1(対照;ラカンカ抽出物無添加,評点3)との比較で、柑橘らしい味の強さが同程度の場合を3点とし、1点~5点の5段階で評価した。5点…対照より強い、4点…対照よりやや強い、3点…対照と同程度、2点…対照よりやや弱い、1点…対照より弱い。
(柑橘らしい香りの強さ)
飲料サンプル1-1(対照;ラカンカ抽出物無添加,評点3)との比較で、柑橘らしい香りの強さが同程度の場合を3点とし、1点~5点の5段階で評価した。5点…対照より強い、4点…対照よりやや強い、3点…対照と同程度、2点…対照よりやや弱い、1点…対照より弱い。
(総合的な柑橘らしさ)
飲料サンプル1-1(対照;ラカンカ抽出物無添加,評点3)との比較で、総合的な柑橘らしさが同程度の場合を3点とし、1点~5点の5段階で評価した。5点…対照より強い、4点…対照よりやや強い、3点…対照と同程度、2点…対照よりやや弱い、1点…対照より弱い。
【0059】
炭酸アルコール飲料ベース液1(レモン)にラカンカ抽出物を0.05~10ppmの範囲で添加した場合に、柑橘らしい味の強さ及び柑橘らしい香りの強さが大幅に向上し、総合的な柑橘らしさが強まった。炭酸アルコール飲料ベース液1(レモン)にラカンカ抽出物を50ppm添加した場合は、柑橘らしい味は増強されたものの、苦味、雑味も強くなり、柑橘らしさの評価が低下した。また、ラカンカ抽出物の含有量が10ppm以上である場合には、人工的な香味が感じられるようになった。
【0060】
【0061】
【0062】
(試験2)炭酸ガス圧を変えた場合の官能評価
炭酸ガス圧を3.8GVから2.3GVに変更した以外は飲料サンプル1-1と同様の処方で飲料サンプル2-1(ラカンカ抽出物無添加)を調製した。
炭酸ガス圧を3.8GVから2.3GVに変更した以外は飲料サンプル1-5と同様の処方で飲料サンプル2-2(ラカンカ抽出物1.0mg/1000ml添加)を調製した。
試験1と同様に、飲料サンプル1-1(対照;ラカンカ抽出物無添加,評点3)との比較で、「柑橘らしい味の強さ」、「柑橘らしい香りの強さ」及び「総合的な柑橘らしさ」の5段階官能評価を行った。パネリストの平均点及びコメントを表3上側に示し、各パネリストの点数(上段:柑橘らしい味の強さ、中段:柑橘らしい香りの強さ、下段:総合的な柑橘らしさ)を表3下側に示す。
【0063】
ラカンカ抽出物無添加での比較では、飲料サンプル2-1(炭酸ガス圧2.3GV)の方が、飲料サンプル1-1(炭酸ガス圧3.8GV)よりも、柑橘らしい味、香りをより強く感じた。また、炭酸ガス圧を2.3GVに変更した場合でも、ラカンカ抽出物を添加することで、柑橘らしい味の強さ及び柑橘らしい香りの強さが向上し、総合的な柑橘らしさも高まることを確認することができた。
【0064】
【0065】
(試験3)グレープフルーツ風味炭酸アルコール飲料の官能評価<炭酸アルコール飲料の調製例>
表4に示される処方に従って炭酸アルコール飲料ベース液2(グレープフルーツ)(アルコール含有量9.0v/v%、炭酸ガス圧3.8ガスボリューム(GV)、ショ糖換算の甘味度3.0)を調製し、これを飲料サンプル3-1(対照)とした。また、炭酸アルコール飲料ベース液2(グレープフルーツ)1000mlに対して、ラカンカ抽出物(サンナチュレ M50、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を1.0mg添加して、飲料サンプル3-2を調製した。
【0066】
<炭酸アルコール飲料の官能評価>
飲料サンプル3-1(対照;ラカンカ抽出物無添加,評点3)との比較で、「柑橘らしい味の強さ」、「柑橘らしい香りの強さ」及び「総合的な柑橘らしさ」が同程度の場合を3点とした以外は、試験1と同様に、炭酸アルコール飲料の5段階官能評価を行った。パネリストの平均点及びコメントを表5上側に示し、各パネリストの点数(上段:柑橘らしい味の強さ、中段:柑橘らしい香りの強さ、下段:総合的な柑橘らしさ)を表5下側に示す。
【0067】
グレープフルーツ風味の炭酸アルコール飲料においても、ラカンカ抽出物を添加することで、柑橘らしい味の強さ及び柑橘らしい香りの強さが向上し、総合的な柑橘らしさも高まることを確認することができた。
【0068】
【0069】
【0070】
(試験4)シークァーサー風味炭酸アルコール飲料の官能評価<炭酸アルコール飲料の調製例>
表6に示される処方に従って炭酸アルコール飲料ベース液3(シークァーサー)(アルコール含有量9.0v/v%、炭酸ガス圧3.8ガスボリューム(GV)、ショ糖換算の甘味度3.0)を調製し、これを飲料サンプル4-1(対照)とした。また、炭酸アルコール飲料ベース液3(シークァーサー)1000mlに対して、ラカンカ抽出物(サンナチュレ M50、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を1.0mg添加して、飲料サンプル4-2を調製した。
【0071】
<炭酸アルコール飲料の官能評価>
飲料サンプル4-1(対照;ラカンカ抽出物無添加,評点3)との比較で、「柑橘らしい味の強さ」、「柑橘らしい香りの強さ」及び「総合的な柑橘らしさ」が同程度の場合を3点とした以外は、試験1と同様に、炭酸アルコール飲料の5段階官能評価を行った。パネリストの平均点及びコメントを表7上側に示し、各パネリストの点数(上段:柑橘らしい味の強さ、中段:柑橘らしい香りの強さ、下段:総合的な柑橘らしさ)を表7下側に示す。
【0072】
シークァーサー風味の炭酸アルコール飲料においても、ラカンカ抽出物を添加することで、柑橘らしい味の強さ及び柑橘らしい香りの強さが向上し、総合的な柑橘らしさも高まることを確認することができた。
【0073】
【0074】
【0075】
(試験5)果汁を含有しないレモン風味炭酸アルコール飲料の官能評価<炭酸アルコール飲料の調製例>
表8に示される処方(ベース液1からレモン果汁を除いた処方)に従って炭酸アルコール飲料ベース液4(レモン)(アルコール含有量9.0v/v%、炭酸ガス圧3.8ガスボリューム(GV)、ショ糖換算の甘味度3.0)を調製し、これを飲料サンプル5-1(対照)とした。また、炭酸アルコール飲料ベース液4(レモン)1000mlに対して、ラカンカ抽出物(サンナチュレ M50、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を1.0mg添加して飲料サンプル5-2を調製し、ラカンカ抽出物(サンナチュレ M50、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)1.0mg及びレモン果汁(ストレート換算)30.0gを添加して飲料サンプル5-3を調製した。
【0076】
<炭酸アルコール飲料の官能評価>
飲料サンプル5-1(対照;ラカンカ抽出物無添加,評点3)との比較で、「柑橘らしい味の強さ」、「柑橘らしい香りの強さ」及び「総合的な柑橘らしさ」が同程度の場合を3点とした以外は、試験1と同様に、炭酸アルコール飲料の5段階官能評価を行った。パネリストの平均点及びコメントを表9上側に示し、各パネリストの点数(上段:柑橘らしい味の強さ、中段:柑橘らしい香りの強さ、下段:総合的な柑橘らしさ)を表9下側に示す。
【0077】
柑橘果汁の有無にかかわらず、ラカンカ抽出物を添加することで、柑橘らしい味の強さ及び柑橘らしい香りの強さが向上し、総合的な柑橘らしさも高まることを確認することができた。
【0078】
【0079】