(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010470
(43)【公開日】2025-01-21
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20250110BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20250110BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250110BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250110BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250110BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250110BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0567
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037448
(22)【出願日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2023111836
(32)【優先日】2023-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】進藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 敦
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ16
5H029CJ28
5H029DJ08
5H029EJ03
5H029HJ01
5H029HJ14
5H029HJ18
5H050AA10
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA11
5H050FA05
5H050GA18
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA14
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】長期高温下に置かれた際の抵抗増加が抑制された非水電解質二次電池を製造可能な方法を提供する。
【解決手段】ここに開示される非水電解質二次電池の製造方法は、正極と、負極と、非水電解質とを備える電池組立体を用意する工程と、前記電池組立体に初期充電を施す工程と、前記初期充電を施した電池組立体にエージング処理を施す工程と、を包含する。前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層と、を備える。前記正極活物質層は、正極活物質、およびチオリン酸塩を含有する。前記正極活物質層中の前記チオリン酸塩の含有割合は、1質量%~10質量%である。前記初期充電は、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧まで行われる。前記エージング処理は、前記電池組立体を、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧に充電した状態で行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質とを備える電池組立体を用意する工程と、
前記電池組立体に初期充電を施す工程と、
前記初期充電を施した電池組立体にエージング処理を施す工程と、
を包含する非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層と、を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質、およびチオリン酸塩を含有し、
前記正極活物質層中の前記チオリン酸塩の含有割合が、1質量%~10質量%であり、
前記初期充電が、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧まで行われ、
前記エージング処理が、前記電池組立体を、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧に充電した状態で行われる、製造方法。
【請求項2】
前記正極活物質層中の前記チオリン酸塩の含有割合が、3質量%~7質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記初期充電が、前記正極の電位が4.35V(vsLi+/Li)~4.50V(vsLi+/Li)となる電圧まで行われ、
前記エージング処理が、前記電池組立体を、前記正極の電位が4.35V(vsLi+/Li)~4.50V(vsLi+/Li)となる電圧に充電した状態で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エージング処理が、40℃~75℃の範囲内の温度で4時間~24時間行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記チオリン酸塩が、チオリン酸のアルカリ金属塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質が、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、およびリチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非水電解質が、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含有する、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極は、典型的には、正極活物質を含有する正極活物質層を備える。非水電解質二次電池の性能向上を目的として、正極活物質表面に被膜を形成する添加剤(いわゆる、正極添加剤)を、正極活物質層に含有させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、正極活物質層にチオリン酸エステルまたはチオリン酸エステル塩を含有させることにより、非水電解質二次電池のサイクル特性が向上することが記載されている。例えば、特許文献2には、正極活物質層にリン酸リチウムを含有させることにより、高電位の正極活物質を用いた場合に、非水電解質二次電池の出力特性とサイクル特性とが向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-352804号公報
【特許文献2】特開2016-062644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記従来技術においては、非水電解質二次電池の高温保存特性に改善の余地があること、具体的には、非水電解質二次電池が長期高温下に置かれた際の抵抗増加の抑制に改善の余地があることを見出した。
【0006】
そこで、本発明の目的は、長期高温下に置かれた際の抵抗増加が抑制された非水電解質二次電池を製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される非水電解質二次電池の製造方法は、正極と、負極と、非水電解質とを備える電池組立体を用意する工程と、前記電池組立体に初期充電を施す工程と、前記初期充電を施した電池組立体にエージング処理を施す工程と、を包含する。前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層と、を備える。前記正極活物質層は、正極活物質、およびチオリン酸塩を含有する。前記正極活物質層中の前記チオリン酸塩の含有割合は、1質量%~10質量%である。前記初期充電は、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧まで行われる。前記エージング処理は、前記電池組立体を、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧に充電した状態で行われる。
【0008】
このような構成によれば、長期高温下に置かれた際の抵抗増加が抑制された非水電解質二次電池を製造可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に従い製造される非水電解質二次電池の捲回電極体の構成を説明する模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に従い製造される非水電解質二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。なお、本明細書において「A~B」として表現される数値範囲には、AおよびBが含まれる。
【0011】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスを指す。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池を指す。
【0012】
以下、例として、非水電解質二次電池が扁平角型のリチウムイオン二次電池がある場合の実施形態について、本発明を具体的に詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0013】
図1に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法の各工程を示す。
図2に、本実施形態に係る製造方法により得られる非水電解質二次電池の一例のリチウムイオン二次電池の電極体の構成を模式的に示す。
図3に、本実施形態に係る製造方法により得られる非水電解質二次電池の一例のリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す。
【0014】
本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法は、
図1に示すように、正極と、負極と、非水電解質とを備える電池組立体を用意する工程(以下、「組立体用意工程」ともいう)S101と、当該電池組立体に初期充電を施す工程(以下、「初期充電工程」ともいう)S102と、当該初期充電を施した電池組立体にエージング処理を施す工程(以下、「エージング工程」ともいう)S103と、を包含する。当該正極は、正極集電体と、当該正極集電体に支持された正極活物質層と、を備える。当該正極活物質層は、正極活物質、およびチオリン酸塩を含有する。当該正極活物質層中の当該チオリン酸塩の含有割合は、1質量%~10質量%である。当該初期充電は、当該チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧まで行われる。当該エージング処理は、当該電池組立体を、当該チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧に充電した状態で行われる。以下、本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法の各工程について説明する。
【0015】
まず、組立体用意工程S101について説明する。組立体用意工程S101においては、正極50と、負極60と、非水電解質80とを備える電池組立体を用意する。
【0016】
組立体用意工程S101に用いられる正極50は、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極であってよい。正極50は、典型的には、例えば、
図2に示すように、正極集電体52と、正極集電体52に支持された正極活物質層54と、を備える。正極活物質層54は、正極集電体52の片面上に設けられてもよく、両面上に設けられてもよいが、好ましくは両面上に設けられる。正極50には、典型的には、
図2に示すように、正極活物質層非形成部分52a(即ち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)が設けられる。
【0017】
正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0018】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0019】
正極活物質層54は、正極活物質と、チオリン酸塩と、を含有する。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極活物質を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質として、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。
【0020】
リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
【0021】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0022】
リチウム遷移金属リン酸化合物としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、リン酸マンガン鉄リチウム等が挙げられる。
【0023】
これらの正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
チオリン酸塩は、次の初期充電工程S102の初期充電によって分解され正極活物質表面に、チオリン酸塩由来の被膜が形成される。初期充電は、チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧で行われる。しかしながら、初期充電の際だけ、チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧をリチウムイオン二次電池に印加できればよいため、リチウムイオン二次電池の一般的な使用態様における正極活物質の上限電位は、チオリン酸塩の分解開始電位より低くてもよい。
【0025】
電池特性、および初期充電時の結晶構造の安定性の観点から、正極活物質としては、層状構造を有するリチウム複合酸化物が好ましい。リチウム複合酸化物は、Niを含有することが好ましい。したがって、正極活物質としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、およびリチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物が好ましく、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物がより好ましい。
【0026】
リチウム複合酸化物のLi以外の金属元素の合計に対するNiの割合は、20モル%~60モル%が好ましく、30モル%~50モル%が好ましい。
【0027】
正極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。なお、正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0028】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、例えば80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは87質量%以上である。
【0029】
チオリン酸塩は、次の初期充電工程S102の初期充電によって正極活物質表面に被膜を形成するために正極に添加される成分(いわゆる、正極添加剤)である。チオリン酸塩は、下記式(1)で表されるチオリン酸アニオンと、カチオンとの塩である。チオリン酸塩は、典型的には無機塩であり、よって典型的には有機基を含まない。チオリン酸アニオンは3価のアニオンであり、カチオンは、1価、2価、または3価のカチオン(特に金属カチオン)である。
【0030】
【0031】
チオリン酸アニオンが、被膜形成に大きく寄与するために、カチオンの種類は特に限定されない。カチオンの例としては、Li+、Na+、K+等のアルカリ金属カチオン;Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+等のアルカリ土類金属カチオン;Zn2+等の第12族元素カチオン;Al3+等の第13族元素カチオンなどが挙げられる。これらのうち、アルカリ金属カチオンが好ましい。よって、チオリン酸塩として好ましくは、チオリン酸のアルカリ金属塩である。
【0032】
入手が容易であるという観点から、チオリン酸塩としては、チオリン酸ナトリウムが特に好ましい。電池性能の観点からは、チオリン酸塩としては、チオリン酸リチウムが特に好ましい。
【0033】
正極活物質層54中のチオリン酸塩の含有割合は、大きい方が、リチウムイオン二次電池100が長期高温下に置かれた際の抵抗増加抑制効果が高くなる。そのため、正極活物質層54中のチオリン酸塩の含有割合(すなわち、正極活物質層の全成分の合計質量に対するチオリン酸塩の質量割合)は、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは2.5質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。一方、チオリン酸塩の含有割合が大きいと、初期抵抗が増加する傾向にある。そのため、正極活物質層54中の上記正極添加剤の含有割合は、10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下であり、さらに好ましくは7質量%以下である。
【0034】
正極活物質層54は、チオリン酸塩のみを正極添加剤として含有していてもよいし、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、他の正極添加剤をさらに含有していてもよい。
【0035】
正極活物質層54は、上記の正極活物質およびチオリン酸塩以外の成分(すなわち、任意成分)を含有していてもよい。当該任意成分の例としては、導電材、バインダ等が挙げられる。導電材としては、例えば、カーボンブラック(例、アセチレンブラック)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイト等の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。導電材としてCNTを用いる場合、正極活物質層54は、CNTの分散剤をさらに含有していてもよい。
【0036】
正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、0.5質量%以上13質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0037】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0038】
正極シート50は、正極活物質層非形成部分52aと正極活物質層54との境界部に絶縁層(図示せず)を含有していてもよい。当該絶縁層は、例えば、セラミック粒子等を含有する。
【0039】
正極50は、公知方法に従い作製して準備することができる、例えば、正極活物質、チオリン酸塩および任意成分を含有する正極ペーストを作製し、当該正極ペーストを正極集電体52に塗工し、乾燥し、必要に応じてプレス処理することにより、正極50を準備することができる。なお、本明細書において「ペースト」との用語は、「スラリー」、「インク」と呼ばれる形態のものも包含する用語として用いられている。
【0040】
組立体用意工程S101に用いられる負極60は、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極であってよい。負極60は、典型的には、例えば、
図2に示すように、負極集電体62と、負極集電体62に支持された負極活物質層64と、を備える。負極活物質層64は、負極集電体62の片面上に設けられてもよく、両面上に設けられてもよいが、好ましくは両面上に設けられる。負極60には、典型的には、
図2に示すように、負極活物質層非形成部分62a(即ち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)が設けられる。
【0041】
負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0042】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0043】
負極活物質層64は負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0044】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。なお、負極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0045】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0046】
負極活物質層64中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0047】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0048】
負極60は、公知方法に従い作製して準備することができる、例えば、負極活物質および任意成分を含有する負極ペーストを作製し、当該負極ペーストを負極集電体62に塗工し、乾燥し、必要に応じてプレス処理することにより、負極60を準備することができる。
【0049】
正極50と負極60は、典型的には、正極50と負極60とが、セパレータ70を介して積層された電極体20として使用される。電極体20は、積層型電極体であっても、捲回電極体であってもよい。図示例では、電極体20は、捲回電極体である。
【0050】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0051】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。セパレータ70のガーレー試験法によって得られる透気度は特に限定されないが、好ましくは350秒/100cc以下である。
【0052】
電極体20は、公知方法に従って作製することができる。図示例のように電極体20が、捲回電極体である場合、例えば、次のようにして準備することができる。
【0053】
まず、正極シート50と、負極シート60とを、これらの間にセパレータシート70が介在するように重ね合わせる。さらにセパレータシート70を積層する。このとき、
図2に示すように、正極シート50の正極活物質層非形成部分52aと負極シート60の負極活物質層非形成部分62aとが、2枚のセパレータシート70の幅方向の端部から、それぞれ反対方向にはみ出すように重ね合わせる。
【0054】
得られた積層体を、捲回する。この積層体の捲回は、公知方法に従って実施することができる。例えば、公知の捲芯を備える捲回機を用いて、巻芯の外周面に当該積層体を巻き取ることによって行うことができる。巻き取り条件は、公知の条件と同様であってよい。
【0055】
続いて、捲回した積層体をプレス処理して、扁平形状の捲回電極体を作製する。このプレス処理は、一般的な扁平形状の捲回電極体の製造に用いられる公知のプレス装置を用いて、上記捲回工程で捲回した積層体をプレスすることによって行うことができる。プレス条件は、公知の条件と同様であってよい。
【0056】
一方で、電池ケース30を準備する。具体的には、
図3に示すように、開口部を有する電池ケース30の本体と、電池ケース30の蓋体とを用意する。当該開口部は、捲回電極体20を挿入可能な寸法を有する。蓋体は、電池ケース30の本体の開口部を塞ぐ寸法を有する。また、蓋体には、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36と、非水電解質を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。電池ケース30には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0057】
また、非水電解質80を準備する。非水電解質80は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類とエステル類とが好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0058】
支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF6)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0059】
なお、上記非水電解質80は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分(例、各種の添加剤)を含有していてもよい。
【0060】
例えば、非水電解質80が、被膜形成剤としてオキサラト錯体を含有する場合には、長期高温下に置かれた際の抵抗増加をより抑制することができる。当該オキサラト錯体の例としては、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiBF2(C2O4))、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiB(C2O4)2)、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェート(LiPF4(C2O4))、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート(LiPF2(C2O4)2)などが挙げられる。なかでも、被膜形成能が高いことから、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)が好ましい。
【0061】
非水電解質80中のオキサラト錯体の濃度は、例えば0.1質量%以上1.5質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下である。初期抵抗と高温保存特性の両立の観点から、非水電解質80中のオキサラト錯体の濃度は、好ましくは0.5質量%以上1.0質量%以下である。
【0062】
その他の添加剤の例としては、ビニレンカーボネート(VC)等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤などが挙げられる。
【0063】
次に、電池ケース30の蓋体に正極端子42および正極集電板42aと負極端子44および負極集電板44aとを取り付ける。正極集電板42aおよび負極集電板44aを、捲回電極体20の端部に露出した正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aに、それぞれ超音波溶接、抵抗溶接等により溶接する。そして、捲回電極体20を、電池ケース30本体の開口部からその内部に収容し、電池ケース30の本体と蓋体とをレーザ溶接等により溶接する。
【0064】
続いて、電池ケース30の蓋体の注入口から、非水電解質80を注入する。非水電解質80の注入は、公知方法に従い行うことができる。非水電解質80を注入後、注入口を封止することによって、電池組立体100を得ることができる。注入口の封止は、公知方法に従い行うことができる。
【0065】
次に、初期充電工程S102について説明する。初期充電工程S102では、電池組立体100に初期充電を施す。この初期充電は、チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧まで行われる。これにより、正極活物質層54中のチオリン酸塩を分解して、正極活物質表面にチオリン酸塩由来の被膜を形成することができる。
【0066】
ここで、チオリン酸塩は、正極添加剤としては、分解開始電位が比較的低い。例えば、Li3PO3の分解開始電位が4.50V(vsLi+/Li)(すなわち、金属リチウム基準で4.50V)であるのに対し、チオリン酸ナトリウム(Na3PSO3)の分解開始電位は4.35V(vsLi+/Li)である。このため、電池組立体100に初期充電を施した際に、効率よくチオリン酸塩を分解することができ、質の高い被膜を正極活物質層表面に形成することができる。その結果、リチウムイオン二次電池100が長期高温下に置かれた際の抵抗増加を抑制することができる。
【0067】
初期充電の上限電圧は、チオリン酸塩の種類に依存する。しかしながら、初期充電の上限電圧を高くし過ぎると、非水電解質80の過剰な分解、正極活物質の構造劣化等を起こし得る。そのため、初期充電の上限電圧は、好ましくは、正極電位が4.70V(vsLi+/Li)となる電圧であり、より好ましくは正極電位が4.50V(vsLi+/Li)となる電圧である。
【0068】
初期充電は、正極50の電位が4.35V(vsLi+/Li)~4.70V(vsLi+/Li)となる電圧まで行うことが好ましく、4.35V(vsLi+/Li)~4.50V(vsLi+/Li)となる電圧まで行うことがより好ましい。
【0069】
初期充電は、公知方法に従い行うことができる。具体的には、公知の電圧印加装置(図示せず)を用いて、正極50と負極60との間に所定の電圧を印加することで行うことができる。電流値は、特に限定されないが、好ましくは1C以下であり、より好ましくは0.1C以上0.5C以下である。なお、充電後は、通常、放電が行われる。初期充電においては、充電は1回のみ行ってもよいし、複数回(例、2回~3回)行ってもよい。
【0070】
次にエージング工程S103について説明する。エージング工程S103では、前の工程で初期充電を施した電池組立体100にエージング処理を施す。このエージング処理は、電池組立体100を、チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧に充電した状態で行われる。これにより、正極活物質層54中のチオリン酸塩をさらに分解して、正極活物質表面にチオリン酸塩由来の被膜をさらに形成することができ、これにより被膜の質をより高めることができる。
【0071】
エージング工程S103における電池組立体100の電圧が高すぎると、非水電解質80の過剰な分解、正極活物質の構造劣化等を起こし得る。そのため、電池組立体100の電圧は、好ましくは、正極電位が4.70V(vsLi+/Li)となる電圧以下であり、より好ましくは正極電位が4.50V(vsLi+/Li)となる電圧以下である。
【0072】
よってエージング処理は、正極50の電位が好ましくは4.35V(vsLi+/Li)~4.70V(vsLi+/Li)となる電圧、より好ましくは4.35V(vsLi+/Li)~4.50V(vsLi+/Li)となる電圧に充電した状態で行う。
【0073】
エージング処理の温度は、特に限定されず、室温より高い温度が好ましい。具体的には、エージング処理の温度は、40℃~100℃が好ましく、40℃~75℃がより好ましい。エージング処理の時間は、特に限定されない。エージング処理の時間は、好ましくは1時間~72時間であり、より好ましくは4時間~24時間である。
【0074】
よって、エージング処理は、40℃~75℃の範囲内の温度で4時間~24時間行われることが特に好ましい。
【0075】
エージング工程S103は、公知方法に従い行うことができる。具体的に例えば、公知の電圧印加装置(図示せず)を用いて、電池組立体100の充電状態を調整し、恒温槽等の中に静置することで行うことができる。
【0076】
エージング工程S103においても、チオリン酸塩の分解が起こり、正極活物質の表面においてチオリン酸塩由来の被膜形成が起こる。よって、初期充電工程S102およびエージング工程S103の実施により、チオリン酸塩を効率よく分解して、正極活物質の表面に被膜を効果的に形成することができる。
【0077】
以上の工程を経ることによって、リチウムイオン二次電池100を得ることができる。リチウムイオン二次電池100においては、正極活物質の表面にチオリン酸塩由来の質の高い被膜が形成されており、この被膜によって、保存時の非水電解質80の分解を抑制することができる。その結果、リチウムイオン二次電池100においては、長期高温下に置かれた際の抵抗増加が抑制されている。よって、本実施形態に係る製造方法によれば、耐久性に優れるリチウムイオン二次電池100を製造することができる。
【0078】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。具体的な用途としては、パソコン、携帯電子機器、携帯端末等のポータブル電源;電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源;小型電力貯蔵装置の蓄電池などが挙げられ、なかでも、車両駆動用電源が好ましい。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0079】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示される非水電解質二次電池の製造方法によって、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池を製造することもできる。また、ここに開示される非水電解質二次電池の製造方法によって、コイン型リチウムイオン二次電池、ボタン型リチウムイオン二次電池、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池を製造することもできる。また、ここに開示される非水電解質二次電池の製造方法によって、リチウムイオン二次電池以外の非水電解質二次電池を製造することもできる。
【0080】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0081】
実施例1~6および比較例1~6
〔リチウムイオン二次電池組立体の作製〕
正極活物質粉末としてのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCM:AB:PVdF=90:5:5の質量比で混合した。そこに、表1に示す正極添加剤を、正極活物質層における含有割合が表1に示す量になるように添加し、N-メチルピロリドン(NMP)と混合した。これにより、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、アルミニウム箔の両面に塗布した後乾燥して、正極活物質層を形成した。このときのその両面の合計目付量は、15mg/cm2であった。次いで、正極活物質層を、その密度が2.5g/cm3になるように圧延プレス処理することにより、正極シートを得た。
【0082】
負極活物質として、天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=97:2:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、銅箔の両面に塗布した後乾燥して、負極活物質層を形成した。このときのその両面の合計目付量は、9mg/cm2であった。次いで、負極活物質層を、その密度が1.2g/cm3になるように圧延プレス処理することにより、負極シートを得た。
【0083】
また、セパレータとしてポリオレフィン多孔質膜を用意した。作製した正極シートと負極シートとを、セパレータを介して積層して積層型電極体を作製した。この電極体に端子類を取り付け、アルミニウム製の電池ケースに収容した。
【0084】
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、25:40:35の体積比で含む混合溶媒を用意した。実施例1、2および比較例1~6では、この混合溶媒に、LiPF6を1.1mol/Lの濃度で溶解させることにより、非水電解質を調製した。実施例3~6では、この混合溶媒に、LiPF6を1.1mol/Lの濃度で溶解させ、さらにリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)を表1に示す添加量となるように溶解させることにより、非水電解質を調製した。調製した非水電解液を電池ケースに注液した後、電池ケースを封止して、電池組立体を得た。
【0085】
〔初期充電〕
得られた電池組立体を、25℃の恒温槽内に置いた。電池組立体を、0.1Cの電流値で、所定の上限電圧まで定電流充電した後、3.0Vまで定電流放電した。この所定の上限電圧は、表1に示す正極電位(vsLi+/Li)となる電圧とした。初期充電として、この充放電を2回行った。
【0086】
〔エージング処理〕
初期充電後の電池組立体を、表1に示す正極電位(vsLi+/Li)となる電圧に調整した。その後、電池組立体を60℃の恒温槽内に置き、12時間エージング処理を行った。以上のようにして、リチウムイオン二次電池を得た。
【0087】
〔初期特性評価〕
各実施例および各比較例において作製したリチウムイオン二次電池を、0.1Cの電流値で、初期充電と同じ上限電圧まで定電流充電した後、3.0Vまで定電流放電した。このときの放電容量を測定し、初期容量とした。
【0088】
この初期容量をSOC100%として、25℃でリチウムイオン二次電池をSOC50%に調整した。その後、リチウムイオン二次電池を-10℃の恒温層内に置き、10Cの電流値で10秒間放電を行った。このときの電圧変化量ΔVを測定し、この電圧変化量ΔVと電流値とを用いて、リチウムイオン二次電池の出力抵抗を、初期抵抗として算出した。結果を表1に示す。
【0089】
〔高温保存特性評価〕
リチウムイオン二次電池を、25℃の温度環境下でSOC80%に調整した。このリチウムイオン二次電池を60℃の恒温層内に置き、60日間保存した。その後、初期抵抗と同じ方法により、保存後の出力抵抗を測定した。式:(高温保存後の出力抵抗/初期抵抗)×100より、抵抗増加率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
チオリン酸ナトリウム(Na3PSO3)の分解開始電位は4.35V(vsLi+/Li)である。比較例1および比較例2は、エージング工程での電圧を低くした例であり、エージング工程においては、チオリン酸由来の被覆が形成されない。比較例3は、初期充電工程およびエージング工程での電圧を低くした例であり、初期充電工程およびエージング工程においては、チオリン酸由来の被覆が形成されない。比較例1および比較例2と比較例3との比較より、Na3PSO3の分解開始電位以上となる電圧まで電池組立体に初期充電を施して被膜を形成することにより、高温保存時の抵抗増加を抑制できることがわかる。加えて、実施例1,2および比較例1,2の比較より、Na3PSO3の分解開始電位以上となる電圧に電池組立体を充電した状態でエージング処理を施すことによって、さらに被膜を形成することにより、高温保存時の抵抗増加をさらに抑制できることがわかる。
【0092】
比較例4は正極添加剤を用いなかった例であり、比較例5および6はそれぞれ正極添加剤として、リン酸三リチウムとチオリン酸エステルを用いた例である。実施例1,2および比較例4~6の比較より、正極添加剤がチオリン酸塩である場合に、高温保存時の抵抗増加抑制効果が得られることがわかる。
【0093】
また、実施例3~6は、非水電解液にLiBOBを含有させた例である。これらの結果より、非水電解液にLiBOBを含有させる場合には、高温保存時の抵抗増加抑制効果がより高くなることがわかる。
【0094】
以上のことから、よって、ここに開示される非水電解質二次電池の製造方法によれば、長期高温下に置かれた際の抵抗増加が抑制された非水電解質二次電池を製造可能であることがわかる。
【0095】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0096】
すなわち、ここに開示される非水電解質二次電池の製造方法は、以下の項[1]~[7]である。
[1]正極と、負極と、非水電解質とを備える電池組立体を用意する工程と、
前記電池組立体に初期充電を施す工程と、
前記初期充電を施した電池組立体にエージング処理を施す工程と、
を包含する非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に支持された正極活物質層と、を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質、およびチオリン酸塩を含有し、
前記正極活物質層中の前記チオリン酸塩の含有割合が、1質量%~10質量%であり、
前記初期充電が、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧まで行われ、
前記エージング処理が、前記電池組立体を、前記チオリン酸塩の分解開始電位以上となる電圧に充電した状態で行われる、製造方法。
[2]前記正極活物質層中の前記チオリン酸塩の含有割合が、3質量%~7質量%である、項[1]に記載の製造方法。
[3]前記初期充電が、前記正極の電位が4.35V(vsLi+/Li)~4.50V(vsLi+/Li)となる電圧まで行われ、
前記エージング処理が、前記電池組立体を、前記正極の電位が4.35V(vsLi+/Li)~4.50V(vsLi+/Li)となる電圧に充電した状態で行われる、項[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記エージング処理が、40℃~75℃の範囲内の温度で4時間~24時間行われる、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]前記チオリン酸塩が、チオリン酸のアルカリ金属塩である、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6]前記正極活物質が、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、およびリチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物である、項[1]~[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
[7]前記非水電解質が、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含有する、項[1]~[6]のいずれか1項に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0097】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
100 電池組立体、リチウムイオン二次電池