(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025104770
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 1/00 20060101AFI20250703BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20250703BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20250703BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20250703BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
B60C1/00 A
C08L9/06
C08L7/00
C08L57/02
C08L9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222819
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 智哉
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BC12
3D131BC19
3D131EA02U
3D131EA10U
3D131LA28
4J002AC011
4J002AC012
4J002AC033
4J002AC034
4J002AC081
4J002BA012
4J002BA013
4J002FD022
4J002FD023
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】長期使用後のウェットグリップ性能に優れたタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部を備えるタイヤであって、前記トレッド部のゴム層は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴムを含むゴム成分と、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂とを含むゴム組成物から構成され、前記タイヤの最大負荷能力がWL(kg)、前記タイヤの重量がG(kg)、前記ゴム成分の質量を100質量%とする場合の、前記ゴム組成物中の総スチレン量(質量%)をStとする場合、WLとGとStとが下記式(1)および式(2)を満たす、タイヤ。
(1) G/WL<0.0145
(2) St/(G/WL)>8
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を備えるタイヤであって、
前記トレッド部のゴム層は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴムを含むゴム成分と、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂とを含むゴム組成物から構成され、
前記タイヤの最大負荷能力がWL(kg)、前記タイヤの重量がG(kg)、前記ゴム成分の質量を100質量%とする場合の、前記ゴム組成物中の総スチレン量(質量%)をStとする場合、WLとGとStとが下記式(1)および式(2)を満たす、タイヤ。
(1) G/WL<0.0145
(2) St/(G/WL)>8
【請求項2】
式(1)の右辺が0.140である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
式(1)の右辺が0.135である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム成分が、ブタジエンゴムを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム成分が、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物が、シリカを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム組成物がシリカおよびカーボンブラックを含み、
前記ゴム成分100質量部に対する前記シリカの含有量(質量部)がASILであり、前記ゴム成分100質量部に対する前記カーボンブラックの含有量(質量部)がACBである場合、ASIL/ACBが1.0超である、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記共重合樹脂が、DCPD-C9樹脂である請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤのウェットグリップ性能の向上が望まれている。特許文献1には、ゴム成分として所定の共役ジエン系ゴムおよび共役ジエン系重合体を所定量含むものを用い、さらに、所定のシリカおよび所定のテトラジン化合物を所定量含むタイヤ用ゴム組成物とし、これによってウェットグリップ性能の向上を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、トレッドゴムは走行時に受ける遠心力によって、軟化剤がゴム中から次第に溶出するため、使用を重ねるうちにウェットグリップ性能が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、長期使用後のウェットグリップ性能に優れたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のタイヤに関する。
トレッド部を備えるタイヤであって、
前記トレッド部のゴム層は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴムを含むゴム成分と、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂とを含むゴム組成物から構成され、
前記タイヤの最大負荷能力がWL(kg)、前記タイヤの重量がG(kg)、前記ゴム成分の質量を100質量%とする場合の、前記ゴム組成物中の総スチレン量(質量%)をStとする場合、WLとGとStとが下記式(1)および式(2)を満たす、タイヤ。
(1) G/WL<0.0145
(2) St/(G/WL)>8
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期使用後のウェットグリップ性能に優れたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】タイヤの断面における、タイヤ断面幅Wt、タイヤ断面高さHt、およびタイヤ外径Dtを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態であるタイヤについて説明する。本実施形態のタイヤは、トレッド部を備えるタイヤであって、前記トレッド部のゴム層はスチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴムを含むゴム成分と、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂とを含むゴム組成物から構成され、前記タイヤの最大負荷能力がWL(kg)、前記タイヤの重量がG(kg)、前記ゴム成分の質量を100質量%とする場合の、前記ゴム組成物中の総スチレン量(質量%)をStとする場合、WLとGとStとが下記式(1)および式(2)を満たすタイヤである。
(1) G/WL<0.0145
(2) St/(G/WL)>8
【0010】
理論に拘束されることは意図しないが、本発明において、長期使用後のウェットグリップ性能が改善されるメカニズムとしては、以下が考えられる。すなわち、(1)スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂は、そのスチレン部分がスチレンブタジエンゴムと相溶性が高く、シクロペンタジエンおよび/またはジシクロペンタジエン部分(DCPD部分)がイソプレン系ゴムと相溶性が高いため、ゴム中から溶出しにくい。このため、このような組合せがウェットグリップ性能の維持に寄与すると考えられる。(2)ゴム組成物中の総スチレン量が一定以上であることで、嵩高いスチレン部分の分子間の摩擦が大きくなるため、エネルギーロスが上昇し、ウェットグリップ性能の向上に寄与すると考えられる。(3)タイヤ重量を比較的小さなものとすることで、走行時にかかる遠心力が抑えられ、ゴム組成物中から軟化剤が抜けにくくなり、ウェットグリップ性能の維持に寄与すると考えられる。そして、上記(1)~(3)が協働することで、長期使用後もウェットグリップ性能が維持できると考えられる。
【0011】
前記式(1)の右辺は好ましくは0.140、より好ましくは0.135である。式(1)をより厳しい条件下で満たすことで、長期使用後のウェットグリップ性能を向上させるという本発明の効果がより発揮されると考えられる。
【0012】
前記ゴム成分は、ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0013】
前記ゴム成分は、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムを含むことが好ましい。
【0014】
前記ゴム成分は、シリカを含むことが好ましい。シリカを含むことで、ゴムの発熱性を抑えたまま、柔軟性を向上させることができるので、微小な変形がしやすくなり、ウェットグリップ性能の向上に寄与すると考えられる。
【0015】
前記ゴム組成物はシリカおよびカーボンブラックを含み、前記ゴム成分100質量部に対する前記シリカの含有量(質量部)がASILであり、前記ゴム成分100質量部に対する前記カーボンブラックの含有量(質量部)がACBである場合、ASIL/ACBは1.0超であることが好ましい。シリカで補強されたゴム成分はウェットグリップ性能の向上に寄与すると考えらえる。
【0016】
前記共重合樹脂は、DCPD-C9樹脂であることが好ましい。
【0017】
本明細書において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「~」にかかる上限および下限の数値は任意に組合せできる数値であり、加えて、実施例における数値を該上限および下限と組合せることもできる。また、「~」によって数値範囲を特定する場合、特に断りのない限り、その両端の数値も含む意味である。さらに、本明細書において、両端の値を含むものとして示された数値範囲は、本発明の趣旨に反しない限り、その両端の値のうちいずれか一端の値を含まない数値範囲、さらには両端の値の双方を含まない数値範囲をも同時に示しているものと解される。
【0018】
[定義]
「トレッド部」とは、タイヤのトレッド接地面を形成する部分を含む部材であり、タイヤ径方向断面において、タイヤ径方向内側に補強層、カーカス層などのタイヤ骨格を補強・形成する部材を備える場合には、それらよりもタイヤ径方向外側に配置される部材である。
【0019】
「ゴム組成物のゴム成分」とは、ゴム組成物内で架橋に寄与する成分であり、一般的に、重量平均分子量(Mw)が1万以上のものである。
【0020】
「ゴム組成物中の総スチレン量St」とは、ゴム成分の質量を100質量%とする場合の、ゴム組成物中の総スチレン量(質量%)であって、ゴム成分に含まれるスチレン部の含有量およびゴム成分以外の配合剤に含まれるスチレン部の含有量の合計量である。スチレン部としては、スチレン構造を持つ基であれば特に制限されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等が挙げられる。すなわち、まず、各ゴム成分について、それぞれスチレン部の含有量(質量%)にゴム成分中の質量分率を乗じて得られる値を算出して、それら値を足し合わせた総和値(質量%)とし、次に、ゴム組成物中に含まれるゴム成分以外のスチレン部含有配合剤について、各スチレン部含有配合剤のスチレン部の含有量(質量%)にゴム成分100質量部に対する質量分率を乗じて得られる値を算出して、それらを足し合わせた総和値(質量%)とし、両総和値を合計した値を総スチレン量St(質量%)とする。従って、{Σ(各スチレン部含有ゴムのスチレン部の含有量(質量%)×各スチレン部含有ゴムのゴム成分中の含有量(質量%)/100)+Σ(ゴム成分以外の各スチレン部含有配合剤のスチレン部の含有量(質量%)×各スチレン部含有配合剤のゴム成分100質量部に対する配合量(質量部)/100)}により計算される。例えば、ゴム成分が第一のSBR(スチレン含量:25質量%)30質量%、第二のSBR(スチレン含量:27.5質量%)60質量%、およびBR10質量%からなり、ゴム組成物が、当該ゴム成分に加えて、さらにスチレン部を有する第一の樹脂(スチレン含有量:5質量%)をゴム成分100質量部に対し20質量部、およびスチレン部を有する第二の樹脂(スチレン含有量:1質量%)をゴム成分100質量部に対し10質量部含有する場合、ゴム成分100質量%に対するゴム組成物中の総スチレン量Stは、25.1質量%={(25×30/100+27.5×60/100+0×10/100)+(5×20/100+1×10/100)}である。
【0021】
「正規状態」とは、正規リムにリム組みされかつ正規内圧の空気が充填された無負荷の状態である。
【0022】
「タイヤの各部の寸法」は、特に断りがない限り、タイヤの外表面に現れるものは正規状態で特定される値であり、一方、タイヤ内部やタイヤ切断面に存するものは、例えばタイヤをタイヤ回転軸を含む平面で切断し、当該切断したタイヤ片を正規リムのリム幅に保持した状態で特定される値である。
【0023】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMA(日本自動車タイヤ協会)であれば「JATMA YEAR BOOK」に記載されている適用サイズにおける標準リム、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば“STANDARDS MANUAL”に記載されている“Measuring Rim”、TRA(The Tire and Rim Association, Inc.)であれば“YEAR BOOK”に記載されている“Design Rim”を指し、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。なお、前記の規格に定められていないタイヤの場合は、そのタイヤにリム組可能であって、かつ内圧が保持できる(即ちリム/タイヤの間からエア漏れを発生させない)最小径のリムのうち、最もリム幅の狭いものを指すものとする。
【0024】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、例えばJATMAであれば「最高空気圧」、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値を指し、正規リムの場合と同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。なお、前記の規格に定められていないタイヤの場合は、前記正規リムを標準リムとして記載されている別のタイヤサイズ(但し、規格に定められているもの)の正規内圧(但し、250kPa以上)を指し、250kPa以上の正規内圧が複数記載されている場合には、その中の最小値を指すものとする。
【0025】
「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、例えばJATMAであれば「最大負荷能力」、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値であり、正規リムおよび正規内圧の場合と同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして、前記規格に定められていないタイヤの場合は、別途計算による最大負荷能力WLを正規荷重とする。
【0026】
「最大負荷能力WL」は、下記計算式により算出される。「V」はタイヤの仮想体積(mm3)、「Dt」は正規状態におけるタイヤ外径(mm)、「Ht」はタイヤ回転軸を含む平面によるタイヤの断面における、タイヤ径方向のタイヤの断面高さ(mm)、「Wt」は正規状態におけるタイヤの断面幅(mm)である。Htはタイヤのリム径をRとする場合、(Dt-R)/2により求めることが可能である。Wtはタイヤ側面に模様または文字などがある場合にはそれらを除いて得られる値である。なお、最大負荷能力は、前記正規荷重と同義である。
【0027】
【0028】
「タイヤの重量」とは、リムの重量を含まない、タイヤ単体の重量を指す。一方、タイヤの内腔に、スポンジやシーラントからなる部材またはセンサー部材などを備える場合はそれらを含む重量とする。
【0029】
「軟化剤」とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料であり、常温(25℃)で液体(液状)の軟化剤および常温(25℃)で固体の軟化剤の両方を含む概念である。軟化剤の例としては、樹脂、オイル、液状ゴム、エステル系可塑剤等が挙げられる。「軟化剤の含有量」は、軟化剤によって伸展されたゴム成分中の軟化剤量も含む。
【0030】
[測定方法]
「スチレン部の含有量」は、熱分解ガスクロマトグラフィーにより算出される。なお、本明細書において「熱分解ガスクロマトグラフィー」とは、試料を熱分解装置により加熱し、この加熱により生成する気相成分に含まれる個々の成分を分離カラムにより分離し、単離された各成分を分析する方法を指す。
【0031】
「ビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)」は、上記スチレン部の含有量と同様に熱分解ガスクロマトグラフィーにより算出される。
【0032】
「シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、例えば、BR等のブタジエンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。
【0033】
「ガラス転移温度Tg」はJIS K 7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)により求められる値であり、例えば、SBRに適用される。例えば、SBRが伸展オイルを含む場合には、JIS K 6229に準拠し、アセトンを用いて伸展オイルを除去した後のサンプルについて測定される。
【0034】
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKgel SuperMultipore HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。例えば、SBR、BR等に適用される。
【0035】
「カーボンブラックのN2SA」は、JIS K 6217-2:2017に準じて測定される。
【0036】
「シリカのN2SA」は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される。
【0037】
「平均一次粒子径」は、粒子を透過型または走査型電子顕微鏡で写真撮影し、粒子400個の粒子径の算術平均により求められる値である。粒子の形状が球形の場合には球の直径を粒子径とし、球形以外の場合には顕微鏡画像から円相当径({4×(粒子の面積)/π}の正の平方根)を算出して粒子径とする。平均一次粒子径は、シリカやカーボンブラック等に適用される。
【0038】
「樹脂の軟化点」は、JIS K 6220-1:2015 7.7に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0039】
[タイヤ]
本発明の一実施形態であるタイヤについて、以下、適宜、図面を用いて説明する。但し、使用する図面はあくまで一の実施形態を具体的に示したものであって、本発明は、これら図面によって限定されない。
【0040】
本実施形態に係るタイヤは、所定のゴム組成物から構成されたゴム層を有するトレッド部を備えたタイヤであって、前記タイヤの最大負荷能力がWL(kg)、前記タイヤの重量がG(kg)、前記ゴム成分の質量を100質量%とする場合の、前記ゴム組成物中の総スチレン量(質量%)をStとする場合、WLとGとStとが下記式(1)および式(2)を満たす、タイヤである。
(1) G/WL<0.0145
(2) St/(G/WL)>8
【0041】
トレッド部は、前記所定のゴム組成物から構成されたゴム層を有していればよい。例えば、トレッド部が一層のみからなる場合には当該層が前記所定のゴム組成物から構成されたゴム層に該当し、トレッド部がキャップトレッドやベーストレッドを含む複数層から構成される場合には、そのうちのいずれかの層が前記所定のゴム組成物から構成されたゴム層に該当すればよい。但し、トレッド部が複数層から構成される場合、トレッド接地面を構成するゴム層、すなわち、キャップトレッドが前記所定のゴム組成物から構成されたゴム層であることが好ましい。
【0042】
<式(1)>
式(1)の右辺の値は、好ましくは0.0144、より好ましくは0.0142、さらに好ましくは0.140、さらに好ましくは0.139、さらに好ましくは0.137、さらに好ましくは0.135である。式(1)の左辺のG/WLの値の下限について特に制限はないが、例えば0.0100である。
【0043】
式(1)に関し、タイヤ重量はタイヤを構成する各部材のボリューム等を調節することにより増減することができ、最大負荷能力はタイヤを構成する各部材の強度を調節することにより増減することができる。その結果、式(1)の左辺の値を所定の値未満に調節することができる。
【0044】
<式(2)>
式(2)の右辺の値は、好ましくは10、より好ましくは20、さらに好ましくは30、さらに好ましくは100、さらに好ましくは900、さらに好ましくは950、さらに好ましくは990、さらに好ましくは1100、さらに好ましくは1200である。式(2)の左辺のSt/(G/WL)の値の上限について特に制限はないが、例えば3000である。
【0045】
式(2)に関し、左辺の分子であるStは、ゴム成分に含まれるスチレン部の含有量およびゴム成分以外の配合剤に含まれるスチレン部の含有量の合計量であるから、スチレン部の含有量の多いゴム成分や配合剤を使用することでStの値を高くすることができ、逆に、スチレン部の含有量の少ないゴム成分や配合剤を使用することでStの値を低くすることができる。一方、式(2)の左辺の分母であるG/WLは、上記式(1)の左辺に相当するから、上述のとおり、調節することができる。その結果、式(2)の左辺の値を所定の値超に調節することができる。
【0046】
[ゴム組成物]
本実施形態に係るタイヤのトレッド部のゴム層を構成するゴム組成物について、以下、説明する。
【0047】
前記ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴムを含むゴム成分と、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂とを含む。
【0048】
<ゴム成分>
本実施形態に係るゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴム以外のゴム成分を含んでいてもよく、そのようなゴム成分としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴム等が挙げられる。このうち、ジエン系ゴムが好ましいが、非ジエン系ゴムも、発明の効果に影響を与えない範囲で含有することができる。
【0049】
ゴム成分中のジエン系ゴムの含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。ゴム成分は、ジエン系ゴムのみとすることもできる。
【0050】
ジエン系ゴムとしては、タイヤ工業において通常使用されるものをいずれも好適に使用することができ、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。これらのジエン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、非ジエン系ゴムとしては、タイヤ工業で一般的に用いられるゴム成分を用いることができ、例えば、ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、上記のゴム成分の他に、公知の熱可塑性エラストマーを含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0051】
本実施形態に係るゴム成分は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムを含むものであることが好ましい。本実施形態に係るゴム成分の他の好ましい態様は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴムと、ブタジエンゴムとを含むものである。本実施形態に係るゴム成分の他の好ましい態様は、スチレンブタジエンゴム、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴムを含むものであり、スチレンブタジエンゴム、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴムからなるものであることが好ましい。
【0052】
(SBR)
SBRとしては特に限定されず、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
SBRのスチレン含量は、本発明の効果の観点から、10質量%超が好ましく、15質量%超がより好ましく、25質量%超がさらに好ましい。一方、SBRのスチレン含量は、架橋の均一性、温度依存性の抑制の観点から、60質量%未満が好ましく、50質量%未満がより好ましく、45質量%未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含量は、前記測定方法により測定される。
【0054】
SBRのビニル含量は、10モル%超が好ましく、15モル%超がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、70モル%未満が好ましく、65モル%未満がより好ましく、60モル%未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル含量は、前記測定方法により測定される。
【0055】
SBRのガラス転移点(Tg)は、ウェットグリップ性能の観点から、-80℃超が好ましく、-75℃超がより好ましく、-65℃超がさらに好ましくい。またSBRのTgは、低燃費性能の観点から、-40℃以下が好ましく、-45℃以下がより好ましく、-50℃以下がさらに好ましく、-55℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのTgは、前記測定方法により測定される。
【0056】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、20万超が好ましく、30万超がより好ましく、40万超がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、200万未満が好ましく、150万未満がより好ましく、100万未満がさらに好ましい。なお、SBRのMwは、前記測定方法により測定される。
【0057】
SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。本明細書において、SBRとしては、JSR(株)、住友化学(株)、UBE(株)、旭化成(株)、ZSエラストマー(株)、ARLANXEO社等より市販されているものを使用することができる。
【0058】
ゴム成分中のSBRの含有量は、15質量%超が好ましく、25質量%超がより好ましく、35質量%超がさらに好ましい。また、該SBRのゴム成分中の含有量は、80質量%未満が好ましく、70質量%未満がより好ましく、60質量%未満がさらに好ましく、50質量%未満がさらに好ましい。
【0059】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを用いることができ、例えば、SVR-1、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0061】
ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、15質量%超が好ましく、25質量%超がより好ましく、35質量%超がさらに好ましい。また、該SBRのゴム成分中の含有量は、80質量%未満が好ましく、70質量%未満がより好ましく、60質量%未満がさらに好ましく、50質量%未満がさらに好ましい。
【0062】
(BR)
BRとしては特に限定されず、例えば、シス含量が50モル%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90モル%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。このうち、ハイシスBRが好ましい。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、UBE(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。ハイシスBRのシス含量は、95モル%超が好ましく、96モル%超がより好ましく、97モル%超がさらに好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。なお、BRのシス含量は、前記測定方法により測定される。
【0064】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル含量が、好ましくは1.8モル%未満、より好ましくは1.6モル%未満、さらに好ましくは1.5モル%以下であり、シス含量が、好ましくは95モル%超、より好ましくは96モル%超、さらに好ましくは97モル%超、さらに好ましくは98モル%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0065】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、UBE(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0066】
変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の官能基等で変性されたBR等が挙げられる他、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)も好適に用いることができる。
【0067】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0068】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、20万超が好ましく、30万超がより好ましく、40万超がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万未満が好ましく、100万未満がより好ましく、80万未満がさらに好ましい。なお、Mwは、前記方法により求めることができる。
【0069】
ゴム成分中のBRの含有量は、特に制限されないが、1質量%超が好ましく、5質量%超がより好ましく、10質量%超がさらに好ましい。また、該BRのゴム成分中の含有量は、50質量%未満が好ましく、30質量%未満がより好ましく、25質量%未満がさらに好ましい。
【0070】
(リサイクル由来・バイオマス由来の原料から合成されたゴム成分)
SBR、BR等の合成ゴムの構成単位であるモノマーは、石油由来のものであってもよいし、タイヤ等のゴム製品やポリスチレン等の非ゴム製品からリサイクルされたものであってもよい。リサイクルにより得られるモノマー(リサイクルモノマー)としては、特に限定されず、リサイクル由来のブタジエン、リサイクル由来の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。前記ブタジエンとしては、1,2-ブタジエンおよび1,3-ブタジエンが挙げられる。前記芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、スチレン等が挙げられる。なかでも、リサイクル由来のブタジエン(リサイクルブタジエン)および/またはリサイクル由来のスチレン(リサイクルスチレン)を原料として使用することが好ましい。
【0071】
リサイクルモノマーの製造方法としては、特に限定されず、例えば、タイヤ等のゴム製品を分解して得られたリサイクル由来のナフサから合成されることが挙げられる。また、リサイクル由来のナフサの製造方法としては、特に限定されず、例えば、タイヤ等のゴム製品を高温高圧下で分解してもよく、マイクロ波で分解してもよく、機械的粉砕後に抽出を行ってもよい。
【0072】
さらに、SBR、BR等のポリマーの構成単位であるモノマーは、バイオマス由来のものであってもよい。バイオマス由来のモノマー(バイオマスモノマー)としては、特に限定されず、バイオマス由来のブタジエン、バイオマス由来の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。前記ブタジエンとしては、1,2-ブタジエンおよび1,3-ブタジエンが挙げられる。前記芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、スチレン等が挙げられる。また、バイオマスモノマーの製造方法は特に限定されず、例えば、動植物の生物学的および/または化学的および/または物理的変換によるものが挙げられる。生物学的変換としては微生物による発酵が代表的であり、化学的および/または物理的変換としては触媒によるもの、高熱によるもの、高圧によるもの、電磁波によるもの、臨界液体によるもの、およびそれらの組合せが挙げられる。これらモノマーのバイオマス源としては、糖や木材、有用成分取得後の植物残渣、植物由来のエタノール、バイオマスナフサ等が挙げられる。
【0073】
バイオマスモノマー成分により合成されるポリマー(バイオマスポリマー)としては、特に限定されず、バイオマス由来のブタジエンにより合成したポリブタジエンゴム、バイオマス由来のブタジエンおよび/またはバイオマス由来の芳香族ビニルにより合成した芳香族ビニル/ブタジエン共重合体等が挙げられる。前記芳香族ビニル/ブタジエン共重合体としては、例えば、バイオマス由来のブタジエンおよび/またはバイオマス由来のスチレンから合成したスチレンブタジエンゴム等が挙げられる。
【0074】
ポリマーの原料がバイオマス由来であるかどうかは、ASTM D6866-10に準拠して測定したpMC(percent Modern Carbon)により判断できる。pMCとは、標準現代炭素(modern standard reference)の14C濃度に対する試料の14C濃度の比であり、この値を化合物(ゴム)のバイオマス比率を示す指標として用いる。この値の持つ意義について、下記に述べる。
【0075】
炭素原子1モル(6.02×1023個)中には、通常の炭素原子の約一兆分の一である約6.02×1011個の14Cが存在する。14Cの半減期は5730年であり、14Cは規則的に減少している。従って、大気中の二酸化炭素等が植物等に取り込まれて固定化された後、22.6万年以上が経過したと考えられる石炭、石油、天然ガス等の化石燃料においては、固定化当初はこれらの中にも含まれていた14C元素は全てが崩壊している。故に21世紀である現在においては、石炭、石油、天然ガス等の化石燃料には14C元素は全く含まれていない。故にこれらの化石燃料を原料として生産された化学物質にも14C元素は全く含まれていない。
【0076】
一方、14Cは宇宙線が大気中で原子核反応を行うことにより、絶え間なく生成される。従って、14Cは、放射壊変による減少と原子核反応による生成とが均衡し、地球の大気環境中では、14Cの量は一定量となっている。従って、現在の環境中で物質循環しているバイオマス資源由来の物質の14C濃度は、前記のとおり炭素原子全体に対して約1×10-12モル%程度の値となる。従って、これらの値の差を利用して、ある化合物(ゴム)中の天然資源由来の化合物(バイオマス資源由来の化合物)の比率(バイオマス比率)を算出することができる。
【0077】
この14Cは、次のようにして測定することが一般的である。タンデム加速器をベースとした加速器質量分析法を使用し、13C濃度(13C/12C)、14C濃度(14C/12C)の測定を行う。測定では、14Cの濃度の基準となるmodern standard referenceとして、1950年時点の自然界における循環炭素中の14C濃度を採用する。具体的な標準物質としては、NIST(National Institute of Standards and Technology:米国国立標準・技術研究所)が提供するシュウ酸標準体を用いる。このシュウ酸中の炭素の比放射能(炭素1g当たりの14Cの放射能強度)を炭素同位体毎に分別し、13Cについて一定値に補正して、西暦1950年から測定日までの減衰補正を施した値を標準の14C濃度の値(100%)として用いる。この値と、実際に測定した試料の値の比が、pMC値となる。
【0078】
従って、ゴムが100%バイオマス(天然系)由来の物質で製造されたものであれば、地域差等あるものの、おおよそ110pMC程度の値を示すことになる(現在は通常の状態では、100とならないことが多い)。一方、石油等の化石燃料由来の化学物質について、この14C濃度を測定した場合、0pMC程度の値(例えば、0.3pMC)を示すことになる。この値が上述のバイオマス比率0%に相当する。
【0079】
以上のことから、pMC値の高いゴムなどの材料、すなわち、バイオマス比率の高いゴムなどの材料をゴム組成物に用いることは、環境保護の面で好適である。
【0080】
なお、ゴム成分がIR系ゴム、SBRおよびBRの三種のみからなる場合には、各ゴム成分の含有量は、任意の二種の含有量が上記説明に基づき決定されれば、残りの一種の含有量はゴム成分全体が100質量%となるように自然と決まる。
【0081】
<フィラー>
本実施形態に係るゴム組成物は、フィラーを含有することが好ましい。そのようなフィラーとしては、シリカ、カーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーは、シリカおよびカーボンブラック以外のその他のフィラーを含んでもよい。その他のフィラーとしては、特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来、タイヤ工業において一般的に用いられているものが挙げられる。その他のフィラーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
フィラーは、シリカおよびカーボンブラックの少なくとも一つを含有することが好ましく、シリカを含有することがより好ましく、シリカおよびカーボンブラックを含有することがさらに好ましい。また、フィラーは、カーボンブラックおよびシリカのみからなるものであってもよい。
【0083】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。シリカの原料としては、特に限定されず、例えば、石英等の鉱物由来の原料であってもよく、籾殻等の生物由来の原料(例えば、籾殻等のバイオマス材料を原料としたシリカ等)であってもよく、シリカを含有する製品からリサイクルされるシリカを用いてもよい。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
バイオマス材料を原料としたシリカは、例えば、籾殻を燃焼して得られる籾殻灰から水酸化ナトリウム溶液を用いてケイ酸塩を抽出し、そのケイ酸塩を用いて従来の湿式シリカと同様に、硫酸と反応させて生じた二酸化ケイ素の沈殿をろ過、水洗い、乾燥、粉砕して得ることができる。
【0085】
シリカを含有する製品からリサイクルされるシリカは、例えば、半導体等の電子部品、タイヤ、乾燥剤、珪藻土等のろ過材等のシリカを含む製品から回収したシリカを用いることができる。また、回収の方法としては、特に限定されず、熱分解、電磁波による分解等が挙げられる。なかでも、半導体等の電子部品またはタイヤから回収したシリカが好ましい。
【0086】
シリカが結晶化すると水に溶けず、その成分であるケイ酸を利用できない。燃焼温度と燃焼時間を管理することで、籾殻灰中のシリカの結晶化を抑制することができる(特開2009-2594号公報、秋田県立大学ウェブジャーナルB/2019,vol.6,p.216-222等参照)。籾殻より抽出される非晶質シリカは、Wilmar社等より市販されているものを使用することができる。
【0087】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびグリップ性能の確保の観点から、100m2/g超が好ましく、120m2/g超がより好ましく、140m2/g超がさらに好ましく、160m2/g超がさらに好ましく、170m2/g超が特に好ましい。また、発熱性および加工性の観点からは、350m2/g未満が好ましく、300m2/g未満がより好ましく、250m2/g未満がさらに好ましい。なお、シリカのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0088】
シリカの平均一次粒子径は、10nm超が好ましく、12nm超がより好ましく、14nm超がさらに好ましく、16nm超が特に好ましい。また、該平均一次粒子径は、24nm未満が好ましく、22nm未満がより好ましく、20nm未満がさらに好ましい。なお、シリカの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0089】
ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、本発明の効果の観点から、30質量部超が好ましく、40質量部超がより好ましく、50質量部超がさらに好ましい。また、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、加工性の観点から、200質量部未満が好ましく、150質量部未満がより好ましく、100質量部未満がさらに好ましい。
【0090】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤等が挙げられ、なかでも、スルフィド系シランカップリング剤および/またはメルカプト系シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、エボニックデグサ社、モメンティブ社等より市販されているものを使用することができる。シランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
シランカップリング剤の含有量は、シリカの分散性を高める観点から、シリカ100質量部に対して、3質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、8質量部超がさらに好ましい。また、コストおよび加工性の観点からは、20質量部未満が好ましく、15質量部未満がより好ましく、12質量部未満がさらに好ましい。
【0092】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。カーボンブラックの原料は、リグニン、植物油等のバイオマス材料であってもよく、廃タイヤを熱分解することにより得られる熱分解油であってもよい。また、カーボンブラックの製造方法は、ファーネス法等の燃焼によるものであってもよく、水熱炭化(HTC)によるものであってもよく、サーマルブラック法等によるメタンの熱分解によるものであってもよい。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、日鉄カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。カーボンブラックは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
また、カーボンブラックとしては上記の他、ライフサイクルアセスメントの観点などから、リグニンなどのバイオマス材料を原料としたカーボンブラックや、タイヤなどのカーボンブラックを含む製品を熱分解して精製した再生カーボンブラックを用いてもよい。
【0094】
本明細書において「再生カーボンブラック」とは、カーボンブラックを含む使用済みのタイヤ等の製品を粉砕し、粉砕物を焼成して得られるカーボンブラックであって、JIS K 6226-2:2003に準拠した熱重量測定法で、空気中の加熱で酸化燃焼させたとき、燃焼しない成分である灰分の質量(灰分量)の割合が13質量%以上であるカーボンブラックをいう。すなわち、再生カーボンブラックの前記酸化燃焼による減量分の質量(カーボン量)の割合は、87質量%以下である。再生カーボンブラックは、rCBで表すこともある。
【0095】
再生カーボンブラックは、使用済み空気入りタイヤの熱分解プロセスから得ることができる。例えば、欧州特許出願公開第3427975号明細書では、「ゴム化学と技術」、Vol.85、No.3、408~449頁(2012)、特に、438、440、442頁に言及し、酸素を排除した550~800℃での有機材料の熱分解、または、比較的低い温度での真空熱分解により得られることが記載されている([0027])。このような熱分解プロセスから得られるカーボンブラックは、特許第6856781号公報の[0004]で言及されているように、通常、その表面に官能基を欠くものである(熱分解カーボンブラックと市販のカーボンブラックとの表面形態および化学の比較、Powder Technology 160(2005)190~193)。
【0096】
再生カーボンブラックは、その表面に官能基を欠くものであってもよく、あるいは、その表面に官能基を含むように処理されたものであってもよい。リサイクルカーボンブラックの表面に官能基を含むように行う処理は、常法により実施することができる。例えば、欧州特許出願公開第3173251号明細書では、熱分解プロセスから得られたカーボンブラックを、酸性条件下で、過マンガン酸カリウムで処理することにより、その表面にヒドロキシルおよび/またはカルボキシル基を含むカーボンブラクを得ている。また、特許第6856781号公報では、熱分解プロセスから得られたカーボンブラックを、少なくとも1つのチオール基またはジスルフィド基を含むアミノ酸化合物で処理して、その表面を活性化したカーボンブラックを得ている。本実施形態に係る再生カーボンブラックは、これらの表面に官能基を含むように処理されたカーボンブラックをも含むものである。
【0097】
再生カーボンブラックは、Strable Green Carbon社、LDCarbon社等より市販されているものを使用することができる。
【0098】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、15nm以上が好ましく、18nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。一方、該平均一次粒子径は、補強性を得る観点からは、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0099】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、本発明の効果の観点から、200m2/g未満が好ましく、180m2/g未満がより好ましく、150m2/g未満がさらに好ましい。また、該N2SAは、30m2/g超が好ましく、50m2/g超がより好ましく、70m2/g超がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0100】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、補強性の観点から、3質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、9質量部超がさらに好ましい。また、本発明の効果の観点からは、50質量部未満が好ましく、30質量部未満がより好ましく、20質量部未満がさらに好ましい。
【0101】
(ASIL/ACB)
ゴム成分100質量部に対する前記シリカの含有量(質量部)がASILであり、ゴム成分100質量部に対する前記カーボンブラックの含有量(質量部)がACBである場合において、ASIL/ACBは1.0超であることが好ましい。ASIL/ACBは、より好ましくは2.0超、さらに好ましくは3.0超、さらに好ましくは4.0超、さらに好ましくは5.0超、さらに好ましくは6.0超である。一方、ASIL/ACBの上限について特に制限はなく、カーボンブラックが含まれていなくてもよい。
【0102】
<共重合樹脂>
本実施形態に係るゴム組成物は、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂(以下、単に、「共重合樹脂」という。)を含む。
【0103】
共重合樹脂としては、シクロペンタジエンおよびスチレンをモノマー成分として含んでいる樹脂であれば特に制限されず、その他のモノマー成分をさらに含むものであってもよい。また、それらを水素添加したものや、変性したものであってもよい。
【0104】
モノマー成分を構成する前記「スチレン」としては、スチレン以外のスチレン構造を持つ化合物であってもよく、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等が挙げられる。ビニルトルエン(メチルスチレン)などのスチレン系モノマーは、例えばC9留分中に含まれている。その他のモノマー成分としては、特に制限されないが、石油樹脂で慣用されるモノマー成分が好ましく、例えば、スチレン構造を有するモノマー以外のC9留分等が挙げられる。スチレン構造を有するモノマー以外のC9留分としては、例えば、クマロン、インデン、メチルインデン等からなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。
【0105】
共重合樹脂としては、シクロペンタジエンおよび/またはジシクロペンタジエンとC9留分との共重合体であるDCPD-C9樹脂であることが好ましい。また、該DCPD-C9樹脂を水素添加したものや、変性したものであってもよい。
【0106】
スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂としては、例えば、エクソンモービル社、ENEOS(株)、日本ゼオン(株)、丸善石油化学(株)等より市販されているものを使用することができる。共重合樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
共重合樹脂のスチレン部の含有量は、本発明の効果の観点から、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましい。また、該スチレン部の含有量の上限値は特に制限されないが、例えば、50質量%未満、25質量%未満、10質量%未満、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下であってもよい。
【0108】
共重合樹脂の軟化点は、本発明の効果の観点から、70℃超が好ましく、80℃超がより好ましく、90℃超がさらに好ましく、100℃超が特に好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃未満が好ましく、140℃未満がより好ましく、130℃未満がさらに好ましい。樹脂の軟化点は、前記測定方法により測定される。
【0109】
共重合樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量(2種以上含有する場合には合計含有量)は、3質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。一方、該含有量は、発熱性抑制の観点からは、80質量部未満が好ましく、60質量部未満がより好ましく、40質量部未満がさらに好ましい。
【0110】
<総スチレン量St>
総スチレン量St(質量%)は、上記式(1)および式(2)を満たすものである限り、本実施形態において特に制限はないが、通常、Stは、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは4.0%質量以上、さらに好ましくは5.0質量%以上であり、他方、好ましくは25.0質量%以下、より好ましくは20.0%質量以下、さらに好ましくは15.0質量%以下である。
【0111】
<その他の配合剤>
本実施形態に係るゴム組成物は、上記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、軟化剤、加工助剤、加硫ゴム粒子、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0112】
(軟化剤)
軟化剤とは前述のとおりであり、具体的には、樹脂、オイル、液状ポリマー、エステル系可塑剤等が挙げられる。これらの軟化剤は石油由来のものであってもよく、バイオマス由来のものであってもよく、ゴム製品や非ゴム製品からリサイクルされたナフサを由来とするものであってもよい。また、使用済みのタイヤや各種成分を含む製品を熱分解、抽出することにより得た、低分子量の炭化水素成分を軟化剤として用いてもよい。軟化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
≪樹脂≫
本実施形態に係るゴム組成物は、前記共重合樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される樹脂が使用でき、例えば、芳香族系ビニル系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、C9系樹脂、C5系樹脂、C5C9系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。その他の樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0114】
芳香族ビニル系樹脂
本明細書において、「芳香族ビニル系樹脂」とは、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-クロロスチレン等からなる群から選択される少なくとも一つの芳香族ビニル化合物をモノマー成分として含む樹脂をいう。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社、三井化学(株)等より市販されているものを使用することができる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
ジシクロペンタジエン系樹脂
本明細書において、「ジシクロペンタジエン系樹脂」とは、ジシクロペンタジエンをモノマー成分として含む樹脂をいう。ジシクロペンタジエン系樹脂としては、例えば、エクソンモービル社、ENEOS(株)、日本ゼオン(株)、丸善石油化学(株)等より市販されているものを使用することができる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
C9系樹脂
本明細書において、「C9系樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、C9留分を単独で重合させたものでも、C9留分と他の成分とを共重合させたコポリマーでもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン等のアルキルスチレン、クマロン、インデン、メチルインデン等からなる群から選択される少なくとも一つの炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。C9系樹脂の具体例としては、例えば、クマロン・インデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂等が挙げられる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0117】
C5系樹脂
本明細書において、「C5系樹脂」とは、シクロペンタジエン以外のC5留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。シクロペンタジエン以外のC5留分としては、例えば、イソプレン、ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、ペンテン、ペンタジエン等からなる群から選択される少なくとも一つの炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
C5C9系樹脂
「C5C9系樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0119】
テルペン系樹脂
テルペン系樹脂とは、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等からなる群から選択される少なくとも一つのテルペン化合物を最も含有量の多いモノマー成分として含む、好ましくは50モル%以上含む樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。テルペン系樹脂の具体例としては、例えば、1以上の前記テルペン化合物のみをモノマー成分として含むポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とをモノマー成分として含む芳香族変性テルペン樹脂;前記テルペン化合物とフェノール系化合物とをモノマー成分として含むテルペンフェノール樹脂等が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂のモノマー成分となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等からなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。テルペンフェノール樹脂のモノマー成分となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等からなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0120】
ロジン系樹脂
ロジン系樹脂としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等からなる群から選択される少なくとも一つのロジン酸化合物を含む樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0121】
フェノール系樹脂
フェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール等のフェノール化合物を最も含有量の多いモノマー成分として含む、好ましくは50モル%以上含む樹脂をいう。フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。該樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
≪軟化点≫
その他の樹脂の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、80℃超が好ましく、90℃超がより好ましく、100℃超がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃未満が好ましく、140℃未満がより好ましく、130℃未満がさらに好ましい。その他の樹脂の軟化点は、前記測定方法により測定される。
【0123】
≪含有量≫
その他樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量(2種以上含有する場合には合計含有量)は、10質量部超が好ましく、15質量部超がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。一方、該含有量は、発熱性抑制の観点からは、80質量部未満が好ましく、60質量部未満がより好ましく、40質量部未満がさらに好ましく、20質量部未満がさらに好ましく、あるいは、含有していなくてもよい。
【0124】
≪オイル≫
オイルとしては、例えば、鉱物油、植物油、動物油等が挙げられる。鉱物油としては、パラフィン系鉱物油(ミネラルオイル)、ナフテン系鉱物油、芳香族系鉱物油等が挙げられる。鉱物油の具体例としては、例えば、MES(Mild Extract Solvated)、DAE(Distillate Aromatic Extract)、TDAE(Treated Distillate Aromatic Extract)、TRAE(Treated Residual Aromatic Extract)、RAE(Residual Aromatic Extract)等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低い鉱物油を使用することもできる。前記低PCA含量鉱物油としては、MES、TDAE、重ナフテン系オイル等が挙げられる。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンに用いられた後の廃油や、調理店で使用された廃食用油を精製したものを用いてもよい。オイルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0125】
植物油とは、例えば、あまに油、なたね油、べに花油、大豆油、コーン油、綿実油、米油、トール油、ごま油、えごま油、ひまし油、桐油、パイン油、パインタール油、ひまわり油、ココナッツ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、落花生油、グレープシード油、木ろう等が挙げられる。さらに、植物油としては、前記油を精製した精製油(サラダ油など)、前記油をエステル交換したエステル交換油、前記油を水素添加した硬化油、前記油を熱重合させた熱重合油、前記油を酸化させた酸化重合油、食用油等として利用したものを回収した廃食用油等も挙げられる。なお、植物油は常温(25℃)で液体であっても固体であってもよい。
【0126】
植物油は、アシルグリセロールを含むことが好ましく、トリアシルグリセロールを含むことがより好ましい。なお、本明細書において、アシルグリセロールとは、グリセリンの持つヒドロキシ基と脂肪酸とがエステル結合をした化合物を指す。アシルグリセロールとしては、特に限定されず、1-モノアシルグリセロールでもよく、2-モノアシルグリセロールでもよく、1,2-ジアシルグリセロールでもよく、1,3-ジアシルグリセロールでもよく、トリアシルグリセロールでもよい。さらに、アシルグリセロールは、単量体でもよく、2量体でもよく、3量体以上の多量体であってもよい。なお、2量体以上のアシルグリセロールは、熱重合や酸化重合等によって得ることができる。また、アシルグリセロールは常温(25℃)で液体であっても固体であってもよい。
【0127】
ゴム組成物中に前記アシルグリセロールが含まれているか確認する方法としては、特に限定されないが、1H-NMR測定によって確認することができる。例えば、トリアシルグリセロールを配合したゴム組成物を常温(25℃)で24時間重クロロホルムに浸漬し、ゴム組成物を除いた後、室温下で1H-NMRを測定し、テトラメチルシラン(TMS)のシグナルを0.00ppmとした場合、5.26ppm付近、4.28ppm付近、4.15ppm付近のシグナルが観測され、該シグナルはエステル基の酸素原子に隣接する炭素原子に結合した水素原子由来のシグナルと推測される。なお、この段落における「付近」とは、±0.10ppmの範囲とする。
【0128】
前記脂肪酸としては、特に限定されず、不飽和脂肪酸であっても、飽和脂肪酸であっても良い。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸等の一価不飽和脂肪酸や、リノール酸、リノレン酸等の多価不飽和脂肪酸が挙げられる。また、飽和脂肪酸としては、酪酸、ラウリン酸等が挙げられる。
【0129】
なかでも、前記脂肪酸として、二重結合が少ない脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸あるいは一価不飽和脂肪酸を含むことが望ましく、オレイン酸が好ましい。このような脂肪酸を含む植物油としては、例えば、飽和脂肪酸あるいは一価不飽和脂肪酸が含まれる植物油を使用してもよく、エステル交換等の改質を行った植物油を使用してもよい。また、このような脂肪酸を含む植物油を製造するために、品種改良、遺伝子組み換え、ゲノム編集等によって植物を改良してもよい。
【0130】
植物油としては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、ENEOS(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0131】
動物油としては、魚油、牛脂、鯨油、あるいは、それらから誘導されるオレイルアルコール等が挙げられる。
【0132】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、8質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、80質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0133】
≪液状ゴム≫
液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0134】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、液状ゴムの含有量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。液状ゴムの含有量には、ゴム成分の伸展に使用された伸展液状ゴムの量も含まれる。
【0135】
≪エステル系可塑剤≫
エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジブチル(DBP)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリメチル(TMP)、チミジントリリン酸(TTP)、リン酸トリクレシル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)等が挙げられる。エステル系可塑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0136】
エステル系可塑剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、液状ゴムの含有量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。エステル可塑剤の含有量には、ゴム成分の伸展に使用された伸展エステル系可塑剤の量も含まれる。
【0137】
(加硫ゴム粒子)
加硫ゴム粒子は、加硫ゴムを材質とする粒子であり、具体的には、JIS K 6316:2017に規定されるゴム粉等を使用可能である。環境への配慮およびコストの観点から、廃タイヤの粉砕物等から製造される再生ゴム粉が好ましい。加硫ゴム粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0138】
加硫ゴム粒子としては、特に限定されず、非変性の加硫ゴム粒子であっても、変性された加硫ゴム粒子で合っても良い。加硫ゴムの市販品としては、例えば、Lehigh社、村岡ゴム工業(株)等の製品を使用できる。
【0139】
加硫ゴム粒子を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、例えば、1質量部超80質量部未満の範囲で適宜調節することができる。
【0140】
(ステアリン酸)
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0141】
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.5質量部以下がより好ましく、4.0質量部以下がさらに好ましくい。
【0142】
(ワックス)
ワックスとしては、特に限定されず、タイヤ工業において通常使用されるものをいずれも好適に用いることができる。例えば、石油系ワックス、鉱物系ワックス、合成ワックス、植物由来ワックス等が挙げられる。なかでも、石油系ワックス、植物由来ワックスが好ましく、石油系ワックスがより好ましい。植物由来のワックスとしては、例えば、ライスワックス、カルバナワックス、キャンデリラワックス等が挙げられる。石油系ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、これらの精選特殊ワックス等が挙げられ、パラフィンワックスが好ましい。なお、本実施形態に係るワックスは、ステアリン酸を含まないものとする。ワックスは、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、パラメルト社等より市販されているものを使用することができる。ワックスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0143】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0144】
(老化防止剤)
老化防止剤としては特に限定されないが、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(77PD)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’-ジトリル-p-フェニレンジアミン(DTPD)、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン(DNPD)等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤等が挙げられる。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物がより好ましい。市販品としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0145】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0146】
(加工助剤)
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社、パフォーマンスアディティブス社等より市販されているものを使用することができる。加工助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0147】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0148】
(加硫剤)
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。加硫剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0149】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0150】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0151】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系、チアゾール系、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0152】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0153】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0154】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0155】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0156】
<炭素原子を含む各種材料>
本明細書において、炭素原子を含む各種材料(例えば、ゴム、オイル、樹脂、加硫促進剤、老化防止剤、界面活性剤等)は、大気中の二酸化炭素由来であってもよい。二酸化炭素から当該各種材料を得る方法としては、二酸化炭素を直接変換しても良いし、二酸化炭素からメタンを合成するメタネーションの工程を経て得られたメタンを変換してもよい。
【0157】
[製造方法]
ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0158】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0159】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0160】
本実施形態に係るタイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、未加硫の状態の前記ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でトレッド部のゴム層の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で、所定のタイヤ構造となるよう調整しながら他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、140~170℃で10~40分間加硫する方法が挙げられる。
【0161】
[用途]
本明細書において、タイヤは、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わず、いずれの用途にも使用することができ、乗用車用タイヤ、大型乗用車用タイヤ、大型SUV用タイヤ、競技用タイヤ、モーターサイクル用タイヤ、重荷重用タイヤ、ランフラットタイヤとして使用することができる。なお、乗用車用タイヤとは、四輪で走行する自動車に装着されることを前提としたタイヤであり、その最大負荷能力が1400kg未満のものを指す。また、重荷重用タイヤとは、その最大負荷能力が1400kg以上のタイヤを指す。また、本明細書において、タイヤは、全シーズン用タイヤ、夏用タイヤの他、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤに使用可能である。
【実施例0162】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。各表に従い、以下に示す各種薬品を用いて得られるトレッド部のゴム層、および、タイヤ構造を有するタイヤを検討し、下記評価方法に基づいて算出した結果を、各表の下部に示す。
【0163】
[各種薬品]
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:SVR-L
SBR:タフデン(TUFDENE)3830(旭化成(株)のS-SBR、スチレン含量:33質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分37.5質量部含有)
BR:UBEエラストマー(株)製のBR150(ブタジエンゴム、シス含量:98モル%、ビニル含量:1モル%)
CB(カーボンブラック):三菱ケミカル(株)製のダイアブラックI(N220、N2SA:114m2/g、平均一次粒子径:22nm)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:18nm)
カップリング剤(シランカップリング剤):エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
樹脂1:クレイトン社製のSYLVATARAXX4150(ポリテルペン樹脂、Mw:2500、軟化点:115℃)
樹脂2:エクソンモービル社製のOppera PR383(水添DCPD-C9樹脂、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む、Mw:770、軟化点:103℃、スチレン含量:1.78質量%)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(6PPD)(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラックRD(ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン))
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355(パラフィンワックス)
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
【0164】
[実施例および比較例]
各表に示すタイヤ構造および配合処方に従いタイヤを作製する。まず、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、得られる混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られる未加硫ゴム組成物を用いて、所定の形状の口金を備えた押し出し機でキャップトレッドの形状に合わせて押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて、未加硫タイヤを作製する。得られる未加硫タイヤを、150℃の条件下で35分間プレス加硫することにより、各試験用タイヤを製造する。なお、トレッド部は、キャップトレッドとベーストレッドとから構成されるものとし、キャップトレッドの厚みを6mmとし、ベーストレッドの厚みを4mmとする。
【0165】
[評価]
各試験用タイヤについて、以下の方法により測定される結果を、下記表の対応する欄に記載する。各試験用タイヤは特に断りのない限り、正規状態とした後使用される。
【0166】
<長期使用後のウェットグリップ性能>
各試験用タイヤを、排気量2000ccのFF乗用車の四輪にそれぞれ装着し、オフロードを1万km走行させる。その後、湿潤アスファルト路面において、速度100km/hでブレーキをかけた地点からの制動距離を測定する。基準比較例(比較例2)の試験用タイヤの制動距離を100とし、下記計算式により、各タイヤのウェットグリップ性能を指数表示する。指数が大きいほどウェットグリップ性能が優れることを示す。
(ウェットグリップ性能指数)=(基準比較例のタイヤの制動距離)/(各試験用タイヤの制動距離)×100
【0167】
【0168】
[実施形態]
本発明の実施形態の例を以下に示す。
【0169】
[1]トレッド部を備えるタイヤであって、
前記トレッド部のゴム層は、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一つのゴムを含むゴム成分と、スチレンおよびシクロペンタジエンをモノマー成分として含む共重合樹脂とを含むゴム組成物から構成され、
前記タイヤの最大負荷能力がWL(kg)、前記タイヤの重量がG(kg)、前記ゴム成分の質量を100質量%とする場合の、前記ゴム組成物中の総スチレン量(質量%)をStとする場合、WLとGとStとが下記式(1)および式(2)を満たし、式(1)の右辺は好ましくは0.0144、より好ましくは0.0142であり、式(2)の右辺は好ましくは10、より好ましくは20、さらに好ましくは30、さらに好ましくは100、さらに好ましくは900、さらに好ましくは950、さらに好ましくは990、さらに好ましくは1100、さらに好ましくは1200である、タイヤ。
(1) G/WL<0.0145
(2) St/(G/WL)>8
[2]式(1)の右辺が0.140、好ましくは0.139、より好ましくは0.137である、上記[1]記載のタイヤ。
[3]式(1)の右辺が0.135である、上記[1]記載のタイヤ。
[4]前記ゴム成分が、ブタジエンゴムを含む、上記[1]~上記[3]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[5]前記ゴム成分が、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムおよびイソプレン系ゴムを含む、上記[1]~上記[3]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[6]前記ゴム組成物が、シリカを含む、上記[1]~上記[5]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[7]前記ゴム組成物がシリカおよびカーボンブラックを含み、
前記ゴム成分100質量部に対する前記シリカの含有量(質量部)がASILであり、前記ゴム成分100質量部に対する前記カーボンブラックの含有量(質量部)がACBである場合、ASIL/ACBが1.0超、好ましくは2.0超、より好ましくは3.0超、さらに好ましくは4.0超、さらに好ましくは5.0超、さらに好ましくは6.0超である、上記[1]~上記[6]のいずれか1項に記載のタイヤ。
[8]前記共重合樹脂が、DCPD-C9樹脂である上記[1]~上記[7]のいずれか1項に記載のタイヤ。
エステル系可塑剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、エステル系可塑剤の含有量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。エステル可塑剤の含有量には、ゴム成分の伸展に使用された伸展エステル系可塑剤の量も含まれる。