(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025104777
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドの製造方法および液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20250703BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
B41J2/16 507
B41J2/16 517
B41J2/16 509
B41J2/14 611
B41J2/14 613
B41J2/14 305
B41J2/16 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222826
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】倉島 玲伊
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG44
2C057AG84
2C057AG94
2C057AP31
2C057AP32
2C057AP52
2C057AP53
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】 メンブレン状の圧電素子において、圧電素子を覆う保護膜の薄化を安定して行い、所望の変位量の圧電素子を備えた液体吐出ヘッドを安定して提供する。
【解決手段】 基板の面上に第一電極と圧電体層と第二電極とをこの順に備える圧電素子と、前記圧電素子に接続された配線と、前記配線に接続され電気信号を供給するための端子と、前記基板に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と前記配線と前記端子と重ならない位置に配置された無機構造体と、少なくとも前記圧電素子と前記配線と前記無機構造体とを覆う保護膜と、を有する素子基板を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記保護膜をエッチングして、前記基板の前記面に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と重なる当該保護膜の一部が除去された領域を形成し、かつ前記無機構造体と重なる当該保護膜を除去して前記無機構造体を露出させる工程を有する、液体吐出ヘッドの製造方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の面上に第一電極と圧電膜と第二電極とをこの順に備える圧電素子と、前記圧電素子に接続された配線と、前記配線に接続され前記圧電素子を駆動するための電気信号を供給するための端子と、前記基板に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と前記配線と前記端子と重ならない位置に配置された無機構造体と、少なくとも前記圧電素子と前記配線と前記無機構造体とを覆う保護膜と、を有する素子基板を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記保護膜をエッチングして、前記基板の前記面に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と重なる当該保護膜の一部が除去された領域を形成し、かつ前記無機構造体と重なる当該保護膜が除去された開口を形成することで前記無機構造体を露出させる工程を有する、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記保護膜をエッチングする工程において、形成された前記開口から前記無機構造体が露出した時点で当該エッチングを終了する、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記配線となる膜をパターニングして、前記配線と前記無機構造体とを形成する、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記エッチングはドライエッチングであり、
前記保護膜をエッチングする工程において、プラズマ発光スペクトルの信号強度の変化を検知することで前記無機構造体が露出したことを検知する、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記配線は、前記第一電極と電気的に接続された第一配線と前記第二電極と電気的に接続された第二配線とを含み、
前記無機構造体を、前記第一配線または前記第二配線の少なくとも一方と同時に形成する、請求項3に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記配線となる膜をパターニングして、前記第一配線と前記第二配線と前記無機構造体と形成する、請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記配線は多層配線構成であり、前記基板の前記面に対して垂直な方向において、前記第一配線と前記第二配線とはそれぞれ異なる層に位置する、請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記面と平行な方向における、1つの前記開口からの前記無機構造体の露出面積は、1つの圧電素子に対応した前記領域の面積の0.5倍以上2倍以下である、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記端子は、前記保護膜から露出しており、
前記面と平行な方向における、1つの前記開口からの前記無機構造体の露出面積は、前記端子の露出面積の0.5倍以上2倍以下である、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
複数の前記無機構造体を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記面と平行な方向における、複数の前記開口の合計面積は、前記素子基板の面積の5%以上を占める、請求項10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記無機構造体は、Au、Al、Pt、Ir、Al化合物、Ti化合物、Ta化合物、W化合物の何れかを含む、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
基板の面上に、第一電極と圧電体層と第二電極とをこの順に備える圧電素子と、前記圧電素子に接続された配線と、前記配線に接続され前記圧電素子を駆動するための電気信号を供給するための端子と、少なくとも前記圧電素子及び前記配線を覆う保護膜と、を有する素子基板を備え、
前記保護膜は、前記基板の前記面に対して垂直な方向において前記圧電素子と重なる当該保護膜の一部が除去された領域を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記基板の前記面に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と前記配線と前記端子と重ならない位置に無機構造体が配置され、前記無機構造体は、前記保護膜の開口から露出している、液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記配線は、前記第一電極と電気的に接続された第一配線と前記第二電極と電気的に接続された第二配線とを含む多層配線である、請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記無機構造体は、前記基板の前記面に対して垂直な方向において、前記第一配線または前記第二配線の少なくとも一方と同じ高さに位置する、請求項14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記検知部材は、前記基板の前記面に対して垂直な方向において、前記第一電極と同じ高さに位置する、請求項14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
前記面と平行な方向における、1つの前記開口からの前記無機構造体の露出面積は、1つの圧電素子に対応した前記領域の面積の0.5倍以上2倍以下である、請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項18】
前記端子は、前記保護膜から露出しており、
前記面と平行な方向における、1つの前記開口からの前記無機構造体の露出面積は、前記端子の露出面積の0.5倍以上2倍以下である、請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項19】
前記無機構造体は、前記配線または前記第一電極と同じ材料で形成されている、請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項20】
前記無機構造体は、Au、Al、Pt、Ir、Al化合物、Ti化合物、Ta化合物、W化合物の何れかを含む、を特徴とする請求項19に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの製造方法および液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、MEMS技術(Micro Electro Mechanical Systems)の発展に伴い、半導体プロセスをベースとした薄膜の圧電素子が提案されている。主なアプリケーションとしては例えば加速度センサや、インクジェットプリンターの液体吐出ヘッドなどがある。
【0003】
液体吐出ヘッドにおいては、圧電素子の変位量を大きくして吐出性能を向上させるために、圧電膜の上層が開口された構成が知られている。特許文献1では、メンブレン型の圧電素子を覆う保護膜のうち、上部電極と重なる部分が除去することで保護膜による圧電膜の変形阻害を小さくした構成の液体吐出ヘッドが開示されている。
【0004】
特許文献1に開示の液体吐出ヘッドにおいては、圧電膜上の保護層が除去されて上部電極が露出している。この場合、圧電素子の長期信頼性が不足する場合がある。製造工程において、別部材にて圧電素子が覆われることで圧電素子は封止される。しかし、圧電素子を覆う別部材の封止能力によっては、特に水系インクを使用する場合において、圧電素子の長期信頼性が不足する虞がある。また、圧電素子を覆う保護膜のエッチングを、真空プラズマによるエッチングにて行う場合、上部電極をプラズマ雰囲気に暴露しつづけると、上部電極が触媒として機能することで圧電膜ヘダメージを及ぼす場合がある。
【0005】
特許文献2には、圧電膜上層で上部電極が露出しない程度まで保護膜を薄化した液体吐出ヘッドが開示されている。これにより、圧電素子の封止性能を維持しつつも、変位量を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-32880号公報
【特許文献2】特開2012-196838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、圧電素子上の保護膜の薄化においては、除去厚みのコントロールが重要となる。保護膜の残量のコントロールは、例えば、エッチング時間でエッチング速度を算出し、エッチング時間を管理することでエッチング量(残膜量)を制御する手法がある。しかしながら、エッチング時間の制御によりエッチング量を制御する方法では、エッチング装置の状態変化などにより、エッチング量自体のバラツキや、異なるウェハ間でのバラツキが発生しやすいなど、安定性に欠ける場合がある。圧電素子上の保護膜の残膜量が異なると、圧電素子の変位量が変動してしまうという課題が生じることがある。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、メンブレン状の圧電素子において、圧電素子を覆う保護膜の薄化を安定して行い、所望の変位量の圧電素子を備えた液体吐出ヘッドを安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、基板の面上に第一電極と圧電膜と第二電極とをこの順に備える圧電素子と、前記圧電素子に接続された配線と、前記配線に接続され前記圧電素子を駆動するための電気信号を供給するための端子と、前記基板に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と前記配線と前記端子と重ならない位置に配置された無機構造体と、少なくとも前記圧電素子と前記配線と前記無機構造体とを覆う保護膜と、を有する素子基板を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記保護膜をエッチングして、前記基板の前記面に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と重なる当該保護膜の一部が除去された領域を形成し、かつ前記無機構造体と重なる当該保護膜が除去された開口を形成することで前記無機構造体を露出させる工程を有する、液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、基板の面上に、第一電極と圧電体層と第二電極とをこの順に備える圧電素子と、前記圧電素子に接続された配線と、前記配線に接続され前記圧電素子を駆動するための電気信号を供給するための端子と、少なくとも前記圧電素子及び前記配線を覆う保護膜と、を有する素子基板を備え、前記保護膜は、前記基板の前記面に対して垂直な方向において前記圧電素子と重なる当該保護膜の一部が除去された領域を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記基板の前記面に対して垂直な方向から見て、前記圧電素子と前記配線と前記端子と重ならない位置に無機構造体が配置され、前記無機構造体は、前記保護膜の開口から露出している、液体吐出ヘッドを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メンブレン状の圧電素子において、圧電素子を覆う保護膜の薄化を安定して行い、所望の変位量の圧電素子を備えた液体吐出ヘッドを安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用可能な液体吐出装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態における液体吐出ヘッドを示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態における液体吐出ユニットの一例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態における液体吐出ヘッドの流路構成を示した図である。
【
図5】第1の実施形態における素子基板の上面図である。
【
図6】第1の実施形態における圧電素子の上面図である。
【
図7】
図6のVII―VIIにおける圧電素子の断面図である。
【
図8】
図6のVIII―VIIIにおける圧電素子の断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態における圧電素子の製造工程を示す図である。
【
図10】EPDにおけるプラズマ発光強度の例を示す模式図である。
【
図11】第1の実施形態における検知部材の断面図である。
【
図12】第2の実施形態における圧電素子の上面図である。
【
図13】実施例1における検知部材の製造工程を示す図である。
【
図14】実施例2における圧電素子および検知部材の断面図である。
【
図15】実施例3における圧電素子および検知部材の断面図である。
【
図16】実施例4における圧電素子および検知部材の断面図である。
【
図17】実施例5における圧電素子の上面図である。
【
図18】実施例5における圧電素子および検知部材の断面図である。
【
図19】
図17のXIX-XIXにおける圧電素子の断面図である。
【
図20】実施例6における圧電素子および検知部材の断面図である。
【
図21】実施例7における圧電素子および検知部材の断面図である。
【
図22】実施例8における圧電素子および検知部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。同一の機能を有する構成には同一の符号を付与し、説明の繰り返しを省略する場合がある。なお、以下では、インクジェットプリンターとしての液体吐出装置に備えられる液体吐出ヘッドに本発明を適用する例を説明する。しかしながら、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができる。いずれの態様においても本発明の作用や効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。なお、以下に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。本発明は液体吐出記録ヘッドを用いた具体例で説明するが、これらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形、変更が可能である。
【0014】
(第1の実施形態)
<液体吐出装置の構成>
図1は液体吐出装置の構成の一例を示す別の図である。
図1に示す液体吐出装置は、被記録媒体1の一度の移動で画像を記録するワンパスタイプである。被記録媒体1の全幅に対応する側に渡って、液体が吐出される吐出口を有する素子基板が配列されたフルラインヘッドとしての液体吐出ヘッド4を備えた液体吐出装置(以下、装置本体とも言う)の一例である。被記録媒体1は搬送手段2によって矢印の方向に搬送され、液体吐出ヘッド4によって記録が行われる。本発明に係る液体吐出ヘッドは
図1および
図1の例を含む任意の形態で実施可能であり、その他の形態についても限定されるものではない。
図1においては、8つの液体吐出ヘッド(4Ka、4Kb、4Ya、4Yb、4Ma、4Mb、4Ca、4Cb)を搭載した液体吐出装置が示されている。これら8つの液体吐出ヘッドは基準部材により液体吐出装置内で位置決めされる。図中、X方向は記録媒体1の搬送方向、Y方向は記録媒体1の幅方向であり、Z方向はX方向及びY方向と交差する方向であって、液体が吐出される方向と反対の方向である。以下の説明では、Z方向を高さ方向と称する場合もある。
【0015】
なお、本実施形態の液体吐出ヘッド4は上述したように、被記録媒体1の幅(被記録媒体の搬送方向と直交する方向における大きさ)に対応した長さを有するワンパスタイプの所謂ページワイド型ヘッドである。しかしながら、被記録媒体に対して液体吐出ヘッドを走査させながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用できる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインク用およびカラーインク用素子基板がそれぞれ1つずつ搭載された構成があげられる。他の例としては、数個の素子基板が吐出口列方向において吐出口がオーバーラップするよう配置された、被記録媒体のよりも幅の短い液体吐出ヘッドの構成があげられる。
【0016】
<液体吐出ヘッドの構成>
図2に液体吐出ヘッド4の斜視図を、
図3に液体吐出ユニット7の斜視図を示す。本実施形態に係る液体吐出ヘッド4では、液体を吐出するための吐出口101を有する素子基板10を備えた液体吐出ユニット7が、支持部材40上に複数固定されている。なお、1つの支持部材上に液体吐出ユニット7を1つのみ固定する構成の液体吐出ヘッドであっても、本発明を好適に用いることができる。
【0017】
図2に示すように、液体吐出ヘッド4には複数の液体吐出ユニット7が千鳥状に配置されている。それぞれの液体吐出ユニット7には、約1000個の吐出口101が備えられており、1200dpiの記録が可能となっている。
図3に示すように、素子基板10には、フレキシブル配線基板などの電気配線基板20が接続されている。電気配線基板20は、液体を吐出するためのエネルギーや電気信号を吐出口へ供給するように構成されており、素子基板10の端子であるパッド部202(
図5参照)と電気接続されている。
【0018】
また、液体吐出ヘッド4は、液体吐出ユニット7へ液体吐出装置の有するインクタンクから供給されたインクを供給したり、回収したりするための循環流路が形成された供給ユニット(不図示)を有する。なお、供給ユニットは液体吐出ユニットからインクを回収するように構成されていなくてもよい。
【0019】
<素子基板の構成>
図4は、本実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板10における流路構成を示した図であり、
図4(a)は吐出口101側から見た上面図、
図4(b)は、
図4(a)のIVb-IVbにおける断面図である。素子基板10は、3種類の基板(第一の流路基板105,第二の流路基板106,第三の流路基板107)を備えており、各基板を組み合わせることで流路を形成している。流路ブロック100は、
図4(a)に示すように、Y方向に沿って配列する吐出口101と、これら吐出口101のそれぞれに連通するように用意された圧力室102と供給流路103とを備えている。そして共通液室104に接続した供給流路103の夫々は、圧力室102へインクを供給する。図中の矢印は液体(以下、インクともいう)の流れを示す。第一の流路基板105、第二の流路基板106及び第三の流路基板107をMEMSの汎用プロセスを用いて形成する場合、3種の基板にはシリコン基板を用いることが可能である。また、モールドなどのその他の部材を用い、シリコン基板と組み合わせて形成してもよい。
【0020】
図4(b)に示すように、本実施形態における素子基板10は、吐出口101を含む第一の流路基板105、圧電素子および圧力室を形成する第二の流路基板106、第三の流路基板107をZ方向に積層することで構成されている。第三の流路基板107は、圧電素子108の圧電膜110部分をインクから隔離する基板であり、かつ共通液室104から圧力室102へインクを供給する流路を含む基板である。
【0021】
個々の圧電素子108に対応してそれぞれ、供給流路103、圧力室102、吐出口101が形成されている。隣接する圧力室102同士は隔壁で区切られており、隣接する圧電素子108による直接的な圧力の影響を受けない。ここで圧電素子108は、振動板109に隣接して形成されている。
【0022】
圧力室102に収容されるインクは、安定状態において、吐出口101でメニスカスを形成している。吐出信号に従って圧電素子108に電圧波形が印加されると、圧電素子108が変形し、圧力室102を膨張または収縮させることができる。膨張および収縮動作を組み合わせることで、メニスカスから液滴113を生成し、-Z方向へインク滴を吐出する。
【0023】
吐出動作によって消費された圧力室102内のインクは、吐出口101の毛管力によって共通液室104から供給され、吐出口101においてメニスカスを再形成する。なお、本開示では、吐出口101、圧電素子108、圧力室102を組み合わせたものを吐出素子と称する。
【0024】
ここで圧電素子108は、振動板109に隣接して順に第一電極301と圧電膜110と第二電極302と保護膜(封止膜)304とが形成されたものである。第一電極301、第二電極302及び保護膜304については後述する。また、圧電素子108は後述する第一絶縁膜303や第二絶縁膜604を含む場合がある。
【0025】
複数の吐出口が配列した吐出口列200(
図5参照)の延びる向き(Y方向)における吐出素子の配列密度は、例えばY方向に150npi(nozzle per inch)としてもよい。より高密度なノズル配置となる300npiの密度で配置してもよい。もちろんこれ以外の配列密度であっても本発明を好適に適用することができる。なお、使用するインクの粘度は、概ね数cP程度であり、個々の吐出口101からの最小インク吐出量は数pLとなるよう駆動波形が調整される。ノズル密度が300npiの時は、150npiに比べ液室幅が狭くなるので、振動板109を薄く設計することで必要な変位量を確保することが考えられる。
【0026】
本実施形態において、個々の圧電素子108の駆動周波数は30kHzとする。圧電素子108の駆動周波数はおよそ数10kHzとなるように設計されることが多い。このような駆動周波数は個々の吐出素子において、圧電素子108に電圧を印加してから実際にインクが吐出され、更に新たなインクがリフィルされて次の吐出動作を可能とするために要される時間から適宜設定することができる。また、吐出口101の径は吐出液滴の仕様に応じ調整され、一般に、概ね10~30μmから選択されうる。以上の構成のもと、素子基板10に配された吐出素子のそれぞれは、インク供給ユニットから供給されたインクを吐出口から-Z方向へ吐出する。
【0027】
図5は、第二流路基板106を示した図であり、圧電素子108が配置された側から見た上面図である。第二流路基板106には圧電膜110や圧力室102が形成されており、これらはシリコン基板を用いたMEMSプロセスを用いて好適に形成することができる。
【0028】
素子基板10には、±Y方向に沿って複数の吐出口101が所望の密度と範囲(吐出口列長さ)が並んだ吐出口列200が、±X方向に沿って複数列配置される。吐出口列200の数は、1列であってもよいし、2列や8列など、任意の数を選択可能である。吐出口密度は、例えば150npi、多い場合は300npi、など、任意の値を選択可能である。吐出口列長さは0.5インチ程度から、長いものでは1.5インチ程度から選択されるのが一般的である。
【0029】
図5に示した素子基板10を構成する流路基板106には、圧力室102に、圧力室の容積を膨張および収縮させることができる薄膜構造の圧電素子108が設けられている。圧電素子108には、後述する第一電極301と第二電極302(
図6参照)へ対応する電気信号を給電するための配線201と、フレキシブル配線基板などの電気配線基板との電気接続用のパッド部202とが接続されている。なお、
図5においてはパッド部202との接続部分以外における配線201の描画を省略している。パッド部202の形状は、実装方式に応じて適切に選択することができる。パッド部202は、
図5に示すように流路基板106の片側のみに集約して配置してもよいし、両側に分割して配置してもよい。流路基板106の片側に集約して配置する場合、1つの素子基板に実装される電気配線基板などの部材の数や実装工程を削減できる利点がある。実装部材としてICが実装されたフレキシブル配線基板を用いる場合は特に、部材コストの削減効果は大きくなる。ただし、片側へ配線201およびパッド部202を集約させると、流路基板106上における配線密度が高くなるために配線201の配置制約が厳しくなり、配線201の配置を最適化することが必要となる場合もある。その場合は、配線の設計ルールにおけるLineとSpaceの各寸法を小さくしても構わない。また、配線201を積層構造にして各層へ配線を振り分けることで、平面的な配置スペースの制約を回避することもできる。
【0030】
圧電素子108について詳細に説明する。
図6~
図8は圧電素子108を示した図であり、
図6は上面図、
図7は
図6のVII-VIIにおける断面図、
図8は
図6のVIII-VIIIにおける断面図である。
図8に示すように、圧電素子108は流路基板106のSi層600に形成された圧力室102側から順に、振動板109、第一電極301、圧電膜110、第二電極302、第一絶縁膜303、第二配線702と中継部705、第二絶縁膜604、第一配線704、保護膜304が積層された構成を有する。第一絶縁膜303は、コンタクト部703以外の領域において中継部705と第一電極301とを絶縁し、第二絶縁膜604は、コンタクト部706以外の領域において中継部705と第一配線704とを絶縁する。保護膜304は第二電極302の上方(+Z方向)に位置する領域で一部が開口されており、第一絶縁膜303や保護膜304といった第二電極302を覆う無機膜(保護膜)が薄化や除去された領域203が形成されている。
【0031】
振動板109には、例えばシリコン窒化膜、シリコン、金属、耐熱ガラスなどから、必要な機械特性、耐信頼性などに応じて選択することができる。
【0032】
圧電膜110には、例えば、リチウムとニオブあるいはリチウムとタンタルを主成分とする酸化物(ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなど)、鉛とチタンを主成分とする酸化物(チタン酸鉛など)、さらにこれにジルコニウムを加えた酸化物(チタン酸ジルコン酸鉛など)、鉛とニオブを主成分とする酸化物、バリウムとチタンを主成分とする酸化物(チタン酸バリウムなど)、酸化亜鉛、石英、窒化アルミニウムなどの無機材料や、ポリ乳酸やポリフッ化ビニリデンなどの有機材料などが挙げられる。中でも変位効率の高い、鉛、ジルコニウムおよびチタンを主成分とする酸化物であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を好適に用いることができる。圧電膜110の厚さは、所望とする変位量を得るために必要な印加電圧および圧電特性から決まり、一般に1~2μm程度である。電圧の応答変位として線形性の高い材料、線形性の高い電圧範囲にて駆動することが、制御性の観点からは望ましい。但し、現実には、飽和特性やヒステリシス特性、電歪の非線形性などが、変位特性に影響する。圧電膜の成膜には、真空スパッタ成膜、ゾルゲル溶液成膜、CVD成膜などから選択することが可能である。圧電膜110は成膜後に焼成を伴うものが多く、例えばランプアニール加熱などを用いて酸素雰囲気下にて最大600~800°C程度で焼成する。振動板109上に直接成膜し一体焼成を行ってもよいし、別基板上に成膜し焼成してから振動板109側に剥離転写する、もしくは別基板上に成膜し、振動板109側に剥離転写してから一体形成するなどしてもよい。
【0033】
第一電極301は、圧電膜110の焼成プロセスにおいて数百℃の高い温度に晒される場合もあるため、Pt、lrをはじめとする貴金属系の溶融温度の高い材料で構成されていることが好ましい。圧電膜の焼成工程を分離できる場合は、Au系合金、Al系合金などを選択してもよい。
【0034】
第二電極302は、圧電膜110の上に形成され、例えば、プラチナ、チタン、タングステンやそれらの合金を用いることができる。第一電極301と同様に、第二電極302と圧電膜110との密着性を向上させるために、チタンやクロムなどの薄膜を密着層として第二電極302と圧電膜110との間に有していてもよい。
【0035】
第一電極301および第二電極302の間に所望の電圧を印加し、圧電膜110を変位させるために、第一電極301には第一配線704が、第二電極302には第二配線702がそれぞれ電気的に接続されている。これにより、外部から送られる電気信号に従った電位差を圧電膜110に与えられるように構成されている。第一配線704と第二配線702を形成する材料は同じものでもよいし、異なっていてもよい。上配線140と下配線150に用いる材料は導体であればよいが、エレクトロマイグレーションによる断線の発生確率を減少させるには電気抵抗の低い材料を用いることが好ましい。例えば、アルミニウム、銅、あるいは金が挙げられる。さらに、これらの内2種以上の元素からなる合金であってもよい。例えば、Al系の合金を好適に用いることができる。また、配線の密着性向上を目的に、チタンやクロムの膜を、第一配線704と第二配線702のそれぞれと接する膜との間に有していてもよい。
【0036】
中継部705は、第一電極301と第一配線704との橋渡しをする。コンタクト部701で、第二電極302と第二配線702とが導通する。コンタクト部703で、第一電極301と中継部705を導通する。これにより、圧電膜110を介して第二配線702と第一配線704とが電気的に接続される。
【0037】
本実施形態においては、配線(第一配線704および第二配線702)が多層に積層された構成となっている。基板上に圧電素子が高密度に配置される場合などは、配線を多層構成とすることで、圧電素子や配線の配置の自由度が上がるという利点がある。
【0038】
第一絶縁膜303および第二絶縁膜604は、第一電極301、圧電膜110および第二電極302を覆い、本実施形態では一例としてTEOS酸化膜(酸化シリコン膜)が形成されている。なお、TEOS酸化膜は一例であり、第一絶縁膜303および第二絶縁膜604としては、窒化シリコン、シリコン酸窒化、酸化アルミニウムなどの一般的な絶縁体材料の中から適宜選択可能である。2種類以上の異なる膜が積層した積層膜であってもよい。第一絶縁膜303および第二絶縁膜604の形成には、例えば化学気相成長法(CVD法)あるいはスパッタリング法といった一般的な成膜方法を用いることができる。生産レートに優れることから、本実施形態ではCVD法にて第一絶縁膜303および第二絶縁膜604としてのTEOS酸化膜を成膜した。
【0039】
圧電膜110として酸化物系セラミックスを使用する場合は、第一絶縁膜303および第二絶縁膜604である酸化シリコン膜の形成時、圧電膜110がダメージを受けて圧電特性が悪化する虞がある。そのため、圧電膜110へのダメージを防ぐための保護膜が第一絶縁膜303の形成に先立って、圧電膜110の表面に形成されていることがより好ましい。第一絶縁膜303および第二絶縁膜604に用いられる一般的な絶縁膜としては、CVD装置にて形成されるSiO系を使用することが多い。この際、ガス反応の途中で被成膜側の酸化物(圧電膜110)を還元しやすくなる場合がある。一旦還元されると、圧電膜110と第二電極302におけるショットキー接合の界面が崩れ、圧電膜110のリーク特性が悪化し、長期信頼性の低下につながる場合がある。これを防止するため、還元抑制のための保護膜として、例えばALD装置にて形成されるAl2O3等の酸化膜を成膜することが効果的である。ALDによる成膜は、圧電膜110へのステップカバレッジ性に優れる点から好ましい。
【0040】
一方で、Al2O3は温度の高い状態で水分にさらされると表面が変質する。製造工程の途中、最表面にAl2O3が露出した状態で後述するコンタクトホールの形成や第一配線704および第二配線702の形成工程を実施する場合、パターニング後の洗浄時にAl2O3膜表面が水分にさらされることがある。Al2O3膜表面に残った水分がエッチングやアッシング時に高い温度になることでAl2O3表面が変質する場合がある。変質したAl2O3が圧電膜上に存在すると絶縁耐性の低下につながり、故障の原因になる場合がある。そのため、保護膜304であるSiN膜が、保護膜であるAl2O3を覆うように接触して形成されていることが望ましい。
【0041】
上述の通り、液体吐出ヘッドに用いる圧電素子においては、液体を吐出させるのに十分な変位量を得るために比較的高い電圧を印加し、また、吐出口101が高密度に配置された場合は流路基板106上の圧電素子108の面密度が高い。このような条件で、さらにインクを吐出するという湿度の高い環境下においては、圧電素子表面を電流が流れて故障につながることが有る。インクなどの液体を吐出するための液体吐出ヘッドに用いられる圧電アクチュエータにおいては、特に、液体の存在が圧電アクチュエータに与える影響が大きい。このため、第一配線704と第二配線702は、耐湿性と絶縁性の高いパッシベーション膜としての保護膜304で被覆されている。保護膜304には、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、シリコン酸窒化膜などを用いることができる。特に、膜の一部に窒化シリコン膜を含むパッシベーション膜は、酸化シリコン膜と比べて耐湿性が高く、酸化シリコン膜で形成した場合と比べて膜厚が薄くても十分な耐湿性と絶縁性を得られるため、圧電アクチュエータの変位特性に悪影響を及ぼしにくく好ましい。また、保護膜304は第一絶縁膜303よりも耐湿性が高いことが好ましい。2つの層の耐湿性は、前述した水分侵入評価など一般に用いられる耐湿評価手法を用いて比較すればよい。
【0042】
絶縁性の観点から、基板(振動板109)に対して垂直な方向から見て、保護膜304は少なくとも、第一配線704および第二配線702と、圧電膜110の周縁と、を覆うように配置されることが望ましい。保護膜304の膜厚は、圧電素子の変位特性への影響を小さくするという観点から、必要最低限の厚みとすることが好ましい。
【0043】
本実施形態の液体吐出ヘッドにおける圧電素子108は、撓み変形の動作をするため、圧電膜110(第二電極302)の上方に位置する層の膜厚が増えると撓み変形しにくくなる。圧電素子108を効率的に撓み変形させるには、材料力学で定義される圧電素子108の中立面を圧電膜110と振動板109の界面付近、望ましくはやや振動板109側に位置させることが望ましい。圧電膜110の上層に第一絶縁膜303が成膜されると、中立面が圧電膜110の内側にシフトするために撓みにくくなる。また、圧電膜110の表層側に、保護膜304を成膜する場合も撓みにくくなる。このため、第一絶縁膜303、第二絶縁膜604および保護膜304による絶縁機能及び封止機能が要求される部位、例えば配線(第一配線704および第二配線702)と電極(第一電極301および第二電極302)の電気コンタクト部などには必要な膜厚を形成する。一方で、圧電膜110の上方におけるそのほかの部位では封止として要求される最低限の膜厚を残して薄化されていることが望ましい。このようにすることで、圧電素子108の撓み変形の変位効率を向上させることが可能となる。
図7に示すように、本実施形態の圧電素子108は、第二電極302上に位置する無機膜が薄化された領域203を有している。
図7および
図8に示した本実施形態では、領域203において、最表面に位置する保護膜304が除去され、保護膜304の第二電極302側に位置する第二絶縁膜604が薄化されている。なお、領域203において、最表面に位置する保護膜304のみが薄化された構成や、第二電極302上に位置する無機膜が全て除去された構成であっても、本発明を好適に用いることができる。
【0044】
<圧電素子および液体吐出ヘッドの製造方法>
図9を参照しながら
図6~
図8に示した構造の圧電素子108の製造方法の一例について説明する。まず、
図9(a)に示すように、振動板109となるSOI(silicon on insulator)基板を用意し、酸素と水素ガスを用いた湿式酸化法により、絶縁層としてのシリコン熱酸化膜(酸化膜603)を形成する。なお、本実施形態においては、ハンドル層(Si層)600を有し、BOX(buried oxide)層601の厚みが0.5~1.0μm、デバイス層(Si層)602の厚みが0.75~1.25μmのSOI基板を用い、酸化膜603の厚みを250nmとした。酸化膜603上に、第一電極301としてPt/TiO
2/Tiの積層膜を形成する。次に、ゾルゲル製法により圧電膜110として厚み1.5~2.5μmのPZT膜を形成する。続いて、第二電極302としてTi系合金膜を形成する。
【0045】
その後、
図9(b)に示すように、圧電素子108に対応するレジストパターン901をフォトリソグラフィ加工により形成する。第二電極302と圧電膜110をエッチングすることで、レジストパターン901に保護されていない領域の第二電極302および圧電膜110を除去する。圧電素子108は、後述する流路形成工程で形成される圧力室102に対応する位置に形成されることになる。なお、本実施形態では圧電膜110膜のサイズは、短辺方向(Y方向)の長さを45~50μm、長辺方向(X方向)の長さを500~650μmとした。その後、レジストパターン901を除去する。レジストパターン901の除去には、例えばプラズマアッシングおよび有機剥離液洗浄を用いることができる。なお、
図9(b)から後述の
図9(e)では、圧力室102が形成される部分を点線で示した。
【0046】
続いて、
図9(c)に示すように、第一電極301をパターニングするためのレジストパターン902をフォトリソグラフィ加工により形成する。本実施形態においては、振動板109の面と平行な方向(X方向およびY方向)において、圧電膜110が形成された領域から数μm~10μm程度広くレジストパターン902を形成する。続いて、第一電極301の層となる層をとエッチングすることで、第一電極301のパターンを形成する。その後、レジストパターン901を除去する。
【0047】
次に、
図9(d)に示すように、圧電膜110の還元抑制のための保護膜として、厚み約20nmのAl
2O
3膜(不図示)を成膜する。その後、絶縁膜303として、厚み約400nmのTEOS酸化膜を成膜する。次に、
図6と
図8に示した電気的コンタクト部を形成する。第二電極302と第二配線702が導通するコンタクト部(コンタクトホール)701を形成し、次に第一電極301と、第一配線704を導通させるコンタクト部(コンタクトホール)703を形成する。
【0048】
その後、AlCu合金膜を成膜し、第二配線702と、第一配線704と第一電極301を橋渡しするための中継部705と、を、一連の半導体工程にて同時に形成する。次に、配線間のリークを防ぐための第二絶縁膜604として厚み400nmのTEOS酸化膜を成膜し、第一電極301と導通させる中継部705の領域上で第二絶縁膜604にコンタクト部(コンタクトホール)706を形成する(
図8参照)。
【0049】
なお、本実施形態においてパッド部202(
図5参照)は、振動板109の面と垂直な方向における第二絶縁膜604の上層(保護膜304の下層)に位置させたい。このため、コンタクト部701において第二絶縁膜604の下層に位置する第二配線702を保護膜304の下層へ結線するために、パッド部202の近傍において、第二絶縁膜604はパッド接続用の開口(不図示)を形成する。続いて、第一配線704となるAlCu合金膜を成膜し、第一配線704を一連の半導体工程にて形成する。これにより、第一電極301と中継部705を介して導通させた第二層の配線704が形成される。同時に第二電極302と導通する第一層の配線702をパッド部202まで導通させる、第二層に位置する別配線が形成される。このようにして、第一電極301および第二電極302に対応する配線201をパッド部202まで導通させる。このようにして、第一電極301および第二電極302に対応する配線201(
図2参照)をパッド部202へ電気的に接続され、配線が多層に積層された構成が実現される。その後、最表層である第二絶縁膜604上に、保護膜304として厚み約200nmのSiN膜を形成する。
【0050】
その後、
図9(e)に示すように、圧電膜110の第二電極302上に位置する無機膜の層である、保護膜304および第二絶縁膜604を一部除去し、圧電膜110上で無機膜の厚みが他の部分よりも薄くなった領域203を形成する。領域203の形成方法は後述する。最後に、パッド部202上の無機膜である保護膜304および第二絶縁膜604を除去して、パッド部202の金属面を露出させる。上記の工程を経て圧電素子108が完成する。
【0051】
続いて、第二の流路基板106のSi層600において、圧電膜110の形成されている領域の裏面側からフォトリソグラフィ加工を行い、ICPプラズマを用いたSi深堀エッチングにて、圧力室102および流路を形成する(
図1参照)。最終的に、第一の流路基板105、第二の流路基板106、第三の流路基板107を、接着剤などにて接合させることで、圧電素子108を有する素子基板10が完成する。
【0052】
その後、電気配線基板20との必要な電気実装を行い、供給ユニットなどと接合させることで液体吐出ヘッドが形成される。
【0053】
<圧電膜上の無機膜の除去>
第二電極302上に位置する膜が少なくとも一部除去された領域203の形成方法について以下に説明する。領域203は、フォトリソグラフィ加工によるフォトレジストを用いたマスキング工程と、半導体プラズマエッチングでの除去工程によって形成することができる。領域203の形成工程は、保護膜304を形成した後に設けてもよいし、パッド部202の開口(露出)工程と同時に行ってもよい。
【0054】
領域203の形成は、従来、エッチング速度を算出してエッチング時間を管理することでエッチング量(残膜量)を制御する方法がとられてきた。しかしながら、エッチング時間の制御によりエッチング量を制御する方法では、エッチング装置の状態変化などにより、エッチング量自体のバラツキや、異なるウェハ間でのバラツキが発生しやすい。エッチング速度は、チャンバーの内壁状態やチャンバー内雰囲気、プラズマ安定性等の影響を受けやすい。このために、エッチング時間でエッチング時間終了のタイミングを制御する場合は、検知部材204を用いた本発明と比べ、領域203における無機膜の薄化量(残膜量)が変動しやすくなる。
【0055】
この課題を解決するため発明者らは、半導体プラズマエッチング装置に一般に搭載されている、EPD(End Point Detector)に着目した。EPDとは、プラズマエッチング中のプラズマ発光スペクトルを分光することで注目したい反応種を選択し、反応種の反応開始や反応終了のタイミングを把握する機構である。
図10にEPDで検出される波形例を示す。横軸が時間を、縦軸が信号強度を示す。例えば、特定の材料のエッチングが開始される場合は、
図10(a)のような信号強度が増加する推移が検出される。また、継続中の特定の材料のエッチングが終了する状況であれば、
図10(b)のような信号強度が減少する推移が検出される。さらには、特定の材料が薄膜で存在している場合は、
図10(c)のような信号強度が増加した後に減少する推移(ピーク)が検出され、強度の減少は薄膜のエッチングの終了を意味する。より具体的には、ピーク形状近傍の1次微分係数、更には2次微分の係数まで含めた数値判定を用いて、安定的な終点判断を行う。
【0056】
本実施形態においては、第二電極302の上層の無機膜の少なくとも一部を除去する際の除去厚みのバラツキを抑制することを目的に、EPDで検出可能な部材としての検知部材204が第二流路基板106に配置されている。検知部材204は無機構造体である。本実施形態に置いては
図5に示すように、第二流路基板106の外周部付近に複数配置されている。
図11に、
図5のXI-XIにおける検知部材204周辺の第二流路基板106の断面図を示す。振動板109上に、第一絶縁膜303、第二絶縁膜604、検知部材204、および保護膜304がこの順に積層されている。検知部材204上には、第二電極302上と同じく保護膜304が形成されている。そのため、保護膜304のエッチング工程において、検知部材204に由来する成分がEPDにより検出された時点で保護膜304が除去されたと判断してエッチングを終了することで、除去厚みの再現性良く領域203を形成することができる。すなわち、エッチングされる際のプラズマ発光の波長成分をEPDが検知することで、エッチングを終了する判定タイミングを取得することが可能となる。
図11は、領域203形成後における検知部材204周辺の構造を示しており、保護膜304については検知部材204の上層の領域に、検知部材204を露出するための開口2041が形成されている。
図5に示した本実施形態では、検知部材204は第二流路基板106の外周部付近に配置されているが、配置はこれに限らない。例えば、この検知部材204を、1枚の素子基板10を切り出して分離する際のダイシング領域に配置してもよい。
【0057】
領域203を形成する、保護膜304や第二絶縁膜604のエッチング工程では、エッチングガスとしてCF系ガス、SF系ガス、または塩素系ガスの何れかが主要ガスとして使用されることが多い。検知部材204は、エッチング工程で用いるエッチングガスにてエッチングされる材料で構成されることが求められる。そのため、エッチングガスとの組み合わせにより、例えばAu、Al、Pt、Ir、Al化合物、Ti化合物、Ta化合物、W化合物などを検知部材204として使用できる。なお、エッチングガスとして塩素系ガスを用いた場合は、反応生成物によるコロージョン異物を発生させないことが必須であるため、エッチング直後に水系洗浄も行い、残留塩素を確実に除去しておくことが望ましい。
【0058】
検知部材204を形成する工程は、独立の工程として設けてもよいし、圧電素子108を形成する工程を利用して設けてもよい。先述の圧電素子108を形成する工程を利用する場合、検知部材を設けることに伴う工程数の増加が無いためより好ましい。圧電素子108を形成する工程を利用して検知部材204を形成する場合は、第一電極301または配線(第一配線704または第二配線702)を形成する層から検知部材204を形成することができる。第一電極301を形成する層から検知部材204を形成する場合は、圧電膜110の上層にある無機膜の全て(保護膜304、第二絶縁膜604および絶縁膜303)が除去されたタイミングを検知できる。第一配線704を形成する層から検知部材204を形成する場合は、第一配線704の上層に位置する、保護膜304が除去されたタイミングを検知できる。第二配線702を形成する層から検知部材204を形成する場合は、第二配線702の上層に位置する保護膜304と第二絶縁膜604が除去されたタイミングを検知できる。
【0059】
領域203における無機膜の除去厚みの制御方法としては、エッチングガスの雰囲気に露出される検知部材204の面積、すなわち、検知部材204を露出させるための開口2041の面積を調整することもできる。1つの圧電素子108における第二電極302層の無機膜の少なくとも一部が除去される領域203の面積をA、1つの検知部材204におけるからの露出面積をBとする。B/Aが1程度であれば、エッチング速度は検知部材204と領域203とで同等に進行すると考えられるため、EPDで検知部材204の露出タイミングの検知を行うことで第二電極302の上層の無機膜も検知部材204の上層と同等に加工することができる。この場合、振動板109の面と平行な方向における、無機膜の1つの開口2041からの検知部材204の露出面積は、領域203の面積の0.5倍以上2倍以下が好ましく、0.75倍以上1.25倍以下がより好ましい。
【0060】
B/Aを1より小さくすると、プラズマエッチングにおける物理スパッタだけでなく化学反応を伴うエッチングの寄与が大きくなり、検知部材204のエッチング速度が相対的に速くなる。このため、検知部材204の上層にある無機膜厚の範囲内において、圧電膜110上の無機膜を残すような調整が可能となる。
【0061】
一方で、開口面積比B/Aを1より大きくすると、検知部材204側のエッチング速度が相対的に遅くなる。このため、検知部材204上の無機膜の厚さ以上に、圧電膜110上の無機膜をエッチングすることが可能となる。
【0062】
このように、エッチングレートの開口面積との依存性を利用することで、第二流路基板106の積層構造中の、当該第二流路基板106の面と垂直な方向における検知部材204の配置制約によらず、第二電極302上層の無機膜のエッチング量が調整可能である。すなわち、領域203における無機膜の残量厚みを調整することが可能となる。
【0063】
流路基板106が複数の検知部材204を備え、1つの第二流路基板106の圧電素子108が形成された面の面積に対する、複数の検知部材204の露出面積の合計の割合は5%以上であることが望ましい。もしくは、1つの第二流路基板106に含まれる複数の圧電素子108の領域203の合計面積に対する、複数の検知部材204の露出面積の合計の割合は1/4以上であることが望ましい。検知部材204の合計露出面積が少なすぎると、プラズマ発光に含まれるエッチング反応からの発光強度のS/Nが不足してEPDでの検出が難しくなるためである。また、複数の検知部材204の配置は、圧電膜110の配置密度と近い程度で配置することが好ましい。
【0064】
(第2の実施形態)
以下の説明では、上述した第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施形態の構成と同様の部分は説明を省略する。
【0065】
本実施形態では、第二電極302上層の無機膜の少なくとも一部の除去と、電気接続部であるパッド部202上層の無機膜の除去を同時に行う。これにより、素子基板および液体吐出ヘッドの製造工程数を削減できる利点がある。
【0066】
図12は、第二流路基板106を示した図であり、圧電素子108が配置された側から見た上面図である。検知部材204が、素子基板の周囲に整列して複数配置されている。
【0067】
パッド部202は、配線(第一配線704および第二配線702)を形成する層を兼用して形成することで検知部材204を設けることによる製造工程数の増加が防がれる。配線及び検知部材204を形成する材料としては、例えば、Al合金やバリアメタル付きAl合金等を用いることができる。
【0068】
素子基板10が検知部材204を備えていることで、パッド部202を無機膜から露出させるエッチングの終了検知を行うためのスペクトルのS/Nが向上する。よって、パッド部202が露出したタイミングを精度よく検知することが可能となる。検知部材204の露出面積は、1つのパッド部202の無機膜からの露出面積と実質的に等しいことが望ましい。より具体的には、振動板109の面と平行な方向における、無機膜の1つの開口2041からの検知部材204の露出面積は、パッド部202の面積の0.5倍以上2倍以下が好ましく、0.75倍以上1.25倍以下がより好ましい。
【実施例0069】
図面を参照しながら、本実施形態の実施例として、半導体プロセスを用いて作製する微細構造体としての圧電素子(圧電アクチュエータ)およびそれを用いた液体吐出ヘッドについて説明する。以下では、第二流路基板106の構成および製造方法を主に説明する。
【0070】
なお、以下の実施例に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。本発明は液体吐出ヘッドを用いた具体例で説明するが、これらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形や変更が可能である。
本実施例における個々の吐出素子は、Y方向に300npiの密度で配列されている。圧電素子108の大きさは、およそX方向(長さ)が700μm、Y方向(幅)が50μmで、吐出口101の直径は20μm、吐出口101と連通するノズル1011の厚さは30μm、第一の流路基板105の厚さは100μmである。圧力室102の大きさは、X方向(長さ)が750μm、Y方向(幅)が55μm、Z方向(高さ)が100μmである。吐出素子の配列密度を300npiとしたことで、ピエゾ式の液体吐出ヘッドにおいて従来一般的な吐出素子の密度である150npiに比べて圧力室102の幅が狭くなる。このため、領域203を形成し、振動板109を薄く設計することで、液体吐出に必要な圧電素子108の変位量を確保することが望まれる。
本実施例ではエッチングに塩素系ガスを用いたため、塩素成分の除去を行う。塩素系ガスによるエッチング終了後、レジストのアッシングと、その後2流体洗浄を十分に行うことで、塩素成分を完全に除去する。その後、一連の半導体プロセス工程を用いてパッド部202を開口する。パッド部202上には、電気配線基板20との電気実装を良好に行うためのAu膜を1μm厚さにてメッキ成長させて形成する(不図示)。
続いて、第二流路基板106の裏面側から一連の半導体プロセス工程を行い、ICPプラズマを用いたSi深堀エッチングにて、第二流路基板106に圧力室102および流路を形成する。その後、別の工程にて形成された、第一の流路基板105、第二の流路基板106、第三の流路基板107を、接着剤にて接合させることで圧電素子108を有する素子基板10を完成させた。