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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025104869
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】鞍乗り型電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20250703BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223019
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山口 敬文
(72)【発明者】
【氏名】川崎 雄大
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB03
5H125AC12
5H125BA00
5H125DD06
5H125EE42
5H125EE44
(57)【要約】
【課題】鞍乗り型電動車両において、勾配のある路面での停車時から再発進する際、意図しない車両の移動を防止する。
【解決手段】車両を走行させる電動機と、前記電動機への電力供給を制御する制御装置と、乗員に操作されてブレーキ装置を作動させるブレーキ操作子(ブレーキレバー2cL,2cR)と、を備え、前記制御装置は、前記ブレーキレバー2cL,2cRが規定の閾値(第二レバー位置P2)以上に操作された場合、あるいは複数のブレーキレバー2cL,2cRがともに操作された場合に、前記電動機を三相短絡させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を走行させる電動機(20)と、前記電動機(20)への電力供給を制御する制御装置(25)と、乗員に操作されてブレーキ装置を作動させるブレーキ操作子(2c)と、を備える鞍乗り型電動車両(1)において、
前記制御装置(25)は、前記ブレーキ操作子が規定の閾値以上に操作された場合に、前記電動機(20)を三相短絡させる、鞍乗り型電動車両。
【請求項2】
車両を走行させる電動機(20)と、前記電動機(20)への電力供給を制御する制御装置(25)と、乗員に操作されてブレーキ装置を作動させる複数のブレーキ操作子(2cL,2cR)と、を備える鞍乗り型電動車両(1)において、
前記制御装置(25)は、前記複数のブレーキ操作子(2cL,2cR)がともに操作された場合に、前記電動機(20)を三相短絡させる、鞍乗り型電動車両。
【請求項3】
乗員に操作されて前記電動機(20)を駆動させるアクセル操作子(2aR)を備え、
前記制御装置(25)は、前記電動機(20)を三相短絡させた後、前記アクセル操作子(2aR)が開操作された場合に、前記三相短絡を解除する、請求項1又は2に記載の鞍乗り型電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原動機が電気モーターであるスクータ型の鞍乗り型電動車両において、誤発進防止装置として、ブレーキが動作されていないとアクセルを操作しても発進不可能とされる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-328970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、電気モーターの制御の一つとして、ブレーキ操作がなされているときは、アクセルが開かれても電気モーターを駆動させない(電気モーターへの電源供給を遮断する)、という制御が行われるものがある。
この構成では、鞍乗り型電動車両がブレーキ操作により停車した後、再発進するには、ブレーキ操作を解除した後でないと電気モーターを駆動させることができない。このため、上り勾配のある路面での停車した後に再発進する際には、ブレーキ解除後のアクセル操作のタイミングが遅れると、路面の勾配によって鞍乗り型電動車両が後退してしまう(ずり下がってしまう)可能性があるため、このような事象を防止できる手段が求められる。
【0005】
そこで本発明は、鞍乗り型電動車両において、勾配のある路面での停車時から再発進する際、意図しない車両の移動を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の第一の態様は、車両を走行させる電動機(20)と、前記電動機(20)への電力供給を制御する制御装置(25)と、乗員に操作されてブレーキ装置を作動させるブレーキ操作子(2c)と、を備える鞍乗り型電動車両(1)において、前記制御装置(25)は、前記ブレーキ操作子が規定の閾値以上に操作された場合に、前記電動機(20)を三相短絡させる。
この構成によれば、ブレーキ操作子が規定の閾値以上に操作された場合に、電動機の三相短絡制御を行うことで、ブレーキ操作によるブレーキ装置の作動に加え、電動機によるモーターブレーキを生じさせて、車両を容易かつ確実に停止させることができる。これにより、勾配のある路面での停車時から再発進する際にも、路面の勾配による車両の移動を防止し、スムーズかつ速やかな発進を行うことができる。
なお、三相短絡とは、三相交流モーターのU,V,Wの三相を全て短絡させて(すなわち、インバータのU,V,W相を制御するスイッチのLo側を全てON状態にさせて)三相短絡状態とすることであり、電気モーターに電流が流れ難くして電気モーターを回転し難くする。
【0007】
本発明の第二の態様は、車両を走行させる電動機(20)と、前記電動機(20)への電力供給を制御する制御装置(25)と、乗員に操作されてブレーキ装置を作動させる複数のブレーキ操作子(2cL,2cR)と、を備える鞍乗り型電動車両(1)において、前記制御装置(25)は、前記複数のブレーキ操作子(2cL,2cR)がともに操作された場合に、前記電動機(20)を三相短絡させる。
この構成によれば、複数のブレーキ操作子が同時に操作された場合に、電動機の三相短絡制御を行うことで、ブレーキ操作によるブレーキ装置の作動に加え、電動機によるモーターブレーキを生じさせて、車両を容易かつ確実に停止させることができる。これにより、勾配のある路面での停車時から再発進する際にも、路面の勾配による車両の移動を防止し、スムーズかつ速やかな発進を行うことができる。
【0008】
本発明の第三の態様は、上記第一又は第二の態様において、乗員に操作されて前記電動機(20)を駆動させるアクセル操作子(2aR)を備え、前記制御装置(25)は、前記電動機(20)を三相短絡させた後、前記アクセル操作子(2aR)が開操作された場合に、前記三相短絡を解除する。
この構成によれば、アクセル操作に応じて電動機の三相短絡制御を解除することで、通常運転時の操作によって簡単に三相短絡による停止状態を解除し、スムーズかつ速やかな発進を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鞍乗り型電動車両において、勾配のある路面での停車時から再発進する際、意図しない車両の移動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態における鞍乗り型電動車両の左側面図である。
図2】上記鞍乗り型電動車両が上り勾配の路面で停車した状態を示す側面図である。
図3】上記鞍乗り型電動車両の左右ブレーキ操作子の操作の概要を示す説明図である。
図4】上記ブレーキ操作子の複数の操作位置を示す説明図である。
図5】上記鞍乗り型電動車両の要部構成を示す構成図である。
図6】上記鞍乗り型電動車両が三相短絡制御を実施するまでの処理の第一の例を示すフローチャートである。
図7】上記鞍乗り型電動車両が三相短絡制御を実施するまでの処理の第二の例を示すフローチャートである。
図8】上記鞍乗り型電動車両が三相短絡制御を解除するまでの処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UP、車体左右中央を示す線CLが示されている。
【0012】
<車両全体>
図1図2には、鞍乗り型電動車両の一例として、乗員(運転者)Rが足を載せるフロア部(低床部)9を有するスクータ型の電動二輪車(自動二輪車)1が示されている。電動二輪車1は、操向輪である前輪3と、駆動輪である後輪4と、を備えている。前輪3は、バーハンドル(操向ハンドル)2によって操向可能である。
【0013】
図3を併せて参照し、バーハンドル2の左右両側には、乗員Rが左右の手でそれぞれ把持する左右一対のグリップ部2aを備えている。バーハンドル2の周囲は、左右グリップ部2aを除いてハンドルカバー2bで覆われている。左右グリップ2aの前方には、乗員Rが左右グリップ部2aを把持した手で握り込むように操作する左右一対のブレーキレバー2cL,2cRが配置されている。実施形態において、左右ブレーキレバー2cL,2cRをブレーキレバー2cと総称することがある。
【0014】
左右ブレーキレバー2cは、左右グリップ部2aを把持した手で握り込まれることで、基端側(車幅方向内側)を中心に後方(グリップ部2a側)に揺動するように操作される。この握り込み操作により、前後輪3,4に個別に備えるブレーキ装置3a,4aが作動し、前後輪3,4の回転ひいては電動二輪車1の前進および後退を制動する。右グリップ部2aには、乗員Rがアクセルを開閉操作するためのアクセルグリップ(アクセル操作子)2aRが装着されている。
【0015】
後輪4は、例えばインホイールモーターとしての電気モーター(電動機)20によって駆動される。電気モーター20は、電動二輪車1の走行用の駆動力を発生させる。
電動二輪車1は、シート8に着座した運転者が足を載せるフロア部9と、フロア部9の前方に連なるフロントボディFBと、フロア部9の後方に連なるリヤボディRBと、を備えている。フロア部9の上方には、乗員Rが車体を跨ぎやすくするための跨ぎ空間K1が形成されている。
例えばシート8の下方でリヤボディRBの内側には、電気モーター20への供給電力を蓄電するバッテリ21が収容されている。例えばフロア部9の内側には、バッテリ21の電力を制御して電気モーター20に供給する制御装置(PCU)22が収容されている。
【0016】
図5を併せて参照し、バッテリ21の正負極からは、それぞれバッテリケーブル23が延びている。各バッテリケーブル23は、PCU22に接続されている。PCU22からは三相ケーブル24が延び、この三相ケーブル24が三相交流モーターである電気モーター20に接続されている。
PCU22は、バッテリ21が供給する直流電流を三相交流に変換して電気モーター20に供給するインバータを備えている。電気モーター20は、PCU22による制御に応じて力行運転を行い、電動二輪車1を走行させる。電気モーター20は、電動二輪車1の減速時には回生制動を行い、車体の運動エネルギーを電気エネルギーとしてバッテリ21に回収する。
【0017】
例えばフロントボディFBの内側には、電動二輪車1の電装部品全般の機能を制御する車両制御装置としてのECU25、および車体の前後左右の傾斜角度を検知する傾斜センサ(例えばIMU(Inertial Measurement Unit)等の加速度センサ26)、が収容されている。ECU25には、加速度センサ26が情報伝達可能に接続されるとともに、電動二輪車1の車速を検知する車速センサ27、電動二輪車1に対するブレーキ操作を検知するブレーキセンサ28、電動二輪車1に対するアクセル操作を検知するアクセルセンサ29、がそれぞれ情報伝達可能に接続されている。
【0018】
例えば、右ブレーキレバー2cRは前輪制動用(前ブレーキ操作用)、左ブレーキレバー2cLは後輪制動用(後ブレーキ操作用)とされる。左右ブレーキレバー2cの機能は前述のものに限らず、例えば左右ブレーキレバー2cの一方の操作のみで前後ブレーキを規定の割合で連動可能な構成でもよい。前後ブレーキ装置3a,4aは、操作および制御に応じて個別に独立して作動させることが可能である。
【0019】
電動二輪車1は、乗員Rがステップに乗せた足で操作するブレーキペダル(ブレーキ操作子)を備える構成でもよい。この場合、例えば左右一方のブレーキレバー2c(例えば右ブレーキレバー2cR)と左右一方のブレーキペダル(例えば右ブレーキペダル)との組み合わせとなる。電動二輪車1は、フロア部9を有するスクータ型の車両に限らず、乗員Rの両膝間に挟まれるニーグリップ部を有する車体の車両であってもよい。
【0020】
電動二輪車1は、ブレーキ操作がなされているときは、アクセル操作がなされても電気モーター20に電力供給を行わないように(すなわち走行しないように)制御される。すなわち、電動二輪車1は、アクセル操作中でもブレーキ操作がなされたときは、電気モーター20に電力供給を行わないよう制御される。
図2を参照し、電動二輪車1が上り坂等の勾配(傾斜角度θ)のある路面Gにおいてブレーキ操作によって停車した後、ブレーキ操作を解除(解放)して再発進しようとすると、ブレーキ操作を解放してからアクセル操作を行うこととなる。このため、路面Gの勾配によっては、電動二輪車1が意図せず後退(下り坂であれば前進)してしまう虞がある。この前進および後退を規制するために、実施形態では、規定の条件を満たした停車時には、電気モーター20の三相短絡状態とし、電動二輪車1のずり下がり等を防止する制御を行う。
【0021】
上記した三相短絡制御を行うための条件としては、電動二輪車1が、所定角度以上の勾配の路面Gにおいて、ブレーキ操作によって停車することであり、かつ所定のブレーキ操作がなされることである。
路面Gの傾斜角度θは、例えば電動二輪車1に備える加速度センサ26により検知される。すなわち、加速度センサ26により車体の傾斜角度を検知し、この傾斜角度を路面Gの傾斜角度θとして認識する。加速度センサ26は、例えばIMUであるが、これに限らず、車体の傾斜角度を検知する種々のセンサであってもよい。停車状態にあることは、例えば前後輪3,4に備える車輪速センサ等の車速センサ27の検出情報から検知される。
【0022】
三相短絡制御を実施するための所定のブレーキ操作とは、左右ブレーキレバー2cの各々にブレーキ操作がなされ、かつ少なくとも一方のブレーキレバー2cに所定以上の操作量(ひいては操作力)のブレーキ操作がなされることである。左右ブレーキレバー2cへのブレーキ操作は、例えば左右ブレーキレバー2cのそれぞれに備えられる左右一対のブレーキスイッチ2dl,2dRのオン・オフによって検知される。実施形態において、左右ブレーキスイッチ2dl,2dRをブレーキスイッチ2dと総称することがある。各ブレーキスイッチ2dは、例えばブレーキランプの点灯スイッチとして機能し、比較的軽いブレーキ操作力(ひいては軽い制動力)でオン・オフを切り替える。
【0023】
図4を参照し、左右ブレーキレバー2c(図4では左ブレーキレバー2cLを例示する)におけるブレーキスイッチ2dがオンになる(ブレーキ装置が作動する)レバー位置を図中符号P1で示す。図中符号P0は左右ブレーキレバー2cの操作前の初期位置を示す。ブレーキスイッチ2dは、ブレーキレバー2cにブレーキ操作がなされたことを検知するブレーキ操作センサとして機能する。左右のブレーキ操作センサはブレーキセンサ28に含まれる。
【0024】
ブレーキ操作が所定以上の操作量(ひいては操作力)でなされたことは、例えばブレーキレバー2cの揺動角度や操作ケーブル等の操作力伝達部材の作動量、あるいはこれらの部材に加わる荷重から検知される。すなわち、前記作動量および荷重からブレーキ操作量(ひいてはブレーキ操作力)を検出し、この検出値が閾値以上である場合に、所定以上のブレーキ操作がなされたと判定する。例えば油圧ブレーキの場合、マスターシリンダ等の発生油圧から、所定以上のブレーキ操作がなされたと判定してもよい。
【0025】
ブレーキ操作量(又は操作力)に係る各センサの検出値が閾値に至ったとき、ブレーキレバー2cは、図中レバー位置P1よりもさらに深く(強く)握り込まれた第二レバー位置P2に至る。ブレーキ操作量(又は操作力)に係る各センサは、ブレーキレバー2cに所定以上のブレーキ操作がなされたことを検知するブレーキ操作量センサとして機能する。ブレーキ操作量(又は操作力)に係る各センサもブレーキセンサ28に含まれる。
【0026】
所定のブレーキ操作がなされて三相短絡制御を行った後、そのブレーキ操作が解放されても、アクセル操作がなされるまであるいは所定時間が経過するまでは、三相短絡制御を維持する。これにより、勾配(傾斜角度θ)のある路面Gでの停車時において、ブレーキ操作を解除しても停車状態を維持し、電動二輪車1の意図しない前進又は後退を防止する。
三相短絡によるモーターブレーキは、例えば乗員Rがブレーキレバー2cを解放するとともにアクセルを開けることで解除される。これにより、勾配路での停車からの再発進を容易かつ確実に行うことができる。
実施形態では、ブレーキ操作量(又は操作力)が閾値以上であるときに、三相短絡制御の実施を決定するが、この構成に限らない。例えば、左右ブレーキレバー2cへの操作(二つのブレーキ操作)が同時になされたときに、三相短絡制御の実施を決定してもよい。このとき、二つのブレーキ操作の両方がともに閾値以上の操作力であることを条件としてもよく、あるいは二つのブレーキ操作の一方のみが閾値以上の操作力であることを条件としてもよい。
【0027】
以下、ECU25における三相短絡制御を実施するまでの処理と、ECU25における三相短絡制御を解除するまでの処理と、について図6から図8のフローチャートを参照して説明する。以下の説明では、二つのブレーキ操作子として左右ブレーキレバー2cを備える場合を示す。上記処理は、電源がON(電動二輪車1のメインスイッチがON)の場合に所定の周期で繰り返し実行される。ECU25は、PCU22の制御部に指令を送って三相短絡制御を実施させる。
【0028】
図6を参照し、三相短絡制御を実施するまでの処理の第一の例について説明する。
まず、ステップS11で電動二輪車1が停車状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば車速が0kmであるか否か(或いは車速0kmで所定時間経過したか否か)でなされる。ステップS11でYES(停車状態である)の場合、ステップS12に移行する。ステップS11でNO(停車状態ではない)の場合、一旦処理を終了する。
ステップS12では、停車状態の車体の前後方向の傾斜(路面Gの勾配)が規定角度θ1以上か否かを判定する。この判定は、例えば電動二輪車1に搭載した加速度センサ26の検出値に基づきなされる。例えば、加速度センサ26が検出する角度(前上がり又は後上がりの傾斜)の絶対値が規定角度θ1以上か否かを判定する。加速度センサ26が検出する車体の傾斜角度は、電動二輪車1が停車した路面Gの傾斜角度θ(上り勾配又は下り勾配)に相当する。ステップS12でYES(傾斜角度θ1(絶対値)が規定角度θ1以上)の場合、ステップS13に移行する。ステップS12でNO(傾斜角度θ1(絶対値)が規定角度θ1未満)の場合、一旦処理を終了する。
【0029】
ステップS13では、各ブレーキレバー2cの操作量(ひいては操作力)が規定値(閾値、第二レバー位置P2)以上か否かを判定する。この判定は、ブレーキ操作量センサの検出値に基づきなされる。
ブレーキ操作によりモーターが停止状態になると、路面Gの勾配が大きい場合にはこの勾配によって電動二輪車1が動き出してしまう虞がある。特に、上り勾配で電動二輪車1が停車した場合には意図せず電動二輪車1が後退してしまうことがある。
【0030】
実施形態では、ブレーキスイッチ2dがオンで検知される通常のブレーキ操作に加え、さらにブレーキレバー2cが握り込まれたとき、電気モーター20の三相短絡制御を実施することによって、停車時の電動二輪車1の前進および後退をより確実に抑えるようにしている。
ステップS13でYES(各ブレーキレバー2cの操作量が規定値以上)の場合、ステップS14に移行して三相短絡制御を実施する。ステップS13でNO(各ブレーキレバー2cの操作量が規定値未満)の場合、一旦処理を終了する。
【0031】
ステップS13の「YES」は、例えば二つのブレーキレバー2cL,2cRの両方の操作量が規定値以上の場合の他、二つのブレーキレバー2cL,2cRの一方のみの操作量が規定値以上の場合であってもよい。すなわち、二つのブレーキレバー2cL,2cRの少なくとも一方の操作量が規定値以上の場合であればよい。
【0032】
図7を参照し、三相短絡制御を実施するまでの処理の第二の例について説明する。
第二の例は、上記第一の例に対し、ステップS13に替わりステップS23を備える点で特に異なる。その他の、上記第一の例と同一構成は同一符号を付してその説明は省略する。
【0033】
ステップS23では、各ブレーキレバー2cの両方のブレーキ操作がなされたか否かを判定する。この判定は、ブレーキスイッチ2dのオン・オフおよびブレーキ操作量センサの検出値の少なくとも一方に基づきなされる。
二つのブレーキ操作子を備える電動二輪車1において、停車後にも二つのブレーキ操作子の操作が継続されることは、停車時の電動二輪車1の動きを確実に抑えようとするためと認められる。このため、第二の例では、停車後にも二つのブレーキレバー2cの操作が継続されるとき、電気モーター20の三相短絡制御を実施することによって、停車時の電動二輪車1の前進および後退をより確実に抑えるものである。
ステップS23でYES(二つブレーキレバー2cの操作が継続)の場合、ステップS14に移行して三相短絡制御を実施する。ステップS23でNO(二つのブレーキレバー2cの少なくとも一方の操作が解除)の場合、一旦処理を終了する。
ステップS23の「YES」は、少なくとも二つのブレーキレバー2cのブレーキスイッチ2dがオンであればよい。ステップS23の「YES」は、例えば二つのブレーキレバー2cの少なくとも一方の操作量が規定値以上であることを条件に含んでもよい。
【0034】
図8を参照し、三相短絡制御を解除するまでの処理について説明する。
まず、ステップS31で三相短絡制御がなされている状態か否かを判定する。ステップS31でYES(三相短絡制御状態である)の場合、ステップS32に移行する。ステップS31でNO(三相短絡制御状態ではない)の場合、一旦処理を終了する。
ステップS32では、二つのブレーキ操作子がともに解放されているか否かを判定する。この判定は、例えば各ブレーキレバー2cのブレーキスイッチ2dがオフになっているか否かでなされる。ステップS32でYES(ブレーキ操作が解放されている)の場合、ステップS33に移行する。ステップS32でNO(ブレーキ操作が解放されていない)の場合、一旦処理を終了する。
ステップS33では、アクセルが開かれたか否かを判定する。この判定は、例えばアクセルグリップ2aRに連動するアクセル開度センサの検出値に基づきなされる。ステップS33でYES(アクセルが開かれている)の場合、ステップS34に移行する。ステップS33でNO(アクセルが開かれていない)の場合、一旦処理を終了する。
【0035】
ステップS34では、三相短絡制御を解除し、アクセル開度に応じて電気モーター20を駆動させて、電動二輪車1を走行可能とする。
このような制御により、停車時の路面Gの勾配が大きくても、乗員Rがアクセルを開けるまでは三相短絡制御が維持されるので、例えば上り勾配での停車時から再発進する際にも、ブレーキ操作を解放してからアクセルを開くまでの間に電動二輪車1が後退してしまうことが抑制される。
【0036】
以上説明したように、上記実施形態における鞍乗り型電動車両は、当該車両を走行させる電気モーター20と、前記電気モーター20への電力供給を制御する制御装置(ECU25)と、乗員Rに操作されてブレーキ装置を作動させるブレーキ操作子(ブレーキレバー2c)と、を備える電動二輪車1において、前記ECU25は、前記ブレーキレバー2cが規定の閾値(第二レバー位置P2)以上に操作された場合に、前記電気モーター20を三相短絡させる。
この構成によれば、ブレーキレバー2cが規定の閾値以上に操作された場合に、電気モーター20の三相短絡制御を行うことで、ブレーキ操作によるブレーキ装置の作動に加え、電気モーター20によるモーターブレーキを生じさせて、車両を容易かつ確実に停止させることができる。これにより、勾配のある路面Gでの停車時から再発進する際にも、路面Gの勾配による車両の移動を防止し、スムーズかつ速やかな発進を行うことができる。
【0037】
また、上記電動二輪車1において、前記ECU25は、二つのブレーキレバー2cL,2cRがともに操作された場合に、前記電気モーター20を三相短絡させる構成でもよい。
この構成によれば、複数のブレーキレバー2cL,2cRが同時に操作された場合に、電気モーター20の三相短絡制御を行うことで、ブレーキ操作によるブレーキ装置の作動に加え、電気モーター20によるモーターブレーキを生じさせて、車両を容易かつ確実に停止させることができる。これにより、勾配のある路面Gでの停車時から再発進する際にも、路面Gの勾配による車両の移動を防止し、スムーズかつ速やかな発進を行うことができる。
【0038】
上記電動二輪車1において、乗員Rに操作されて前記電気モーター20を駆動させるアクセル操作子(アクセルグリップ2aR)を備え、前記ECU25は、前記電気モーター20を三相短絡させた後、前記アクセルグリップ2aRが開操作された場合に、前記三相短絡を解除する。
この構成によれば、アクセル操作に応じて電気モーター20の三相短絡制御を解除することで、通常運転時の操作によって簡単に三相短絡による停止状態を解除し、スムーズかつ速やかな発進を行うことができる。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、車体の前後方向の傾斜を傾斜センサで検知し、車体の傾斜(路面Gの傾斜に相当)が所定以上であることを条件に含めて、三相短絡制御を実施しているが、路面Gの傾斜によらず、規定のブレーキ操作がなされたときに三相短絡制御を実施する構成でもよい。三相短絡制御は、例えばアクセル開操作がなされることで解除されるのみならず、例えばブレーキ操作の解除後、1~2秒程度の所定時間が経過した後に解除される設定としてもよい。
本実施形態のパワーユニットは、自動二輪車以外の鞍乗り型車両に適用してもよい。
前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪(四輪バギー等)の車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 電動二輪車(鞍乗り型電動車両)
2aR アクセルグリップ(アクセル操作子)
2c ブレーキレバー(ブレーキ操作子)
2cL,2cR 左右ブレーキレバー(複数のブレーキ操作子)
20 電気モーター(電動機)
25 ECU(制御装置)
G 路面
P2 第二レバー位置(閾値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8