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  • 特開-アルギニン誘導体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001049
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】アルギニン誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07C 279/24 20060101AFI20241225BHJP
   C07C 279/14 20060101ALI20241225BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20241225BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
C07C279/24 CSP
C07C279/14
C07F7/18 T
C07K1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142161
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 真也
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓
【テーマコード(参考)】
4H006
4H045
4H049
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB84
4H045AA20
4H045FA30
4H049VN01
4H049VP02
4H049VQ59
4H049VR23
4H049VR41
4H049VU06
4H049VW01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液相ペプチド合成反応において、良好に液液分離が可能なグアニジル基保護アルギニン類、及びそれを用いるペプチド合成法を提供する。
【解決手段】次の式(1)、(2)又は(3)で表されるアルギニン誘導体又はその塩。

(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Aは水素原子又はアミノ基の保護基を示し、
nは、1~6の整数を示す(但し、nが3であり、R1及びR2が水素原子又はメチル基であり、かつR3~R8がBoc基である場合を除く))
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)、(2)又は(3)で表されるアルギニン誘導体又はその塩。
【化1】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Aは水素原子又はアミノ基の保護基を示し、
3及びR4は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
5及びR6は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
7及びR8は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
nは、1~6の整数を示す(但し、nが3であり、R1及びR2が水素原子又はメチル基であり、かつR3~R8がBoc基である場合を除く))
【請求項2】
式(1)、(2)又は(3)中のnが4である請求項1記載のアルギニン誘導体又はその塩。
【請求項3】
式(1)、(2)又は(3)において、Aが水素原子、Fmoc基、又はCbz基である請求項1又は2記載のアルギニン誘導体又はその塩。
【請求項4】
式(1)、(2)又は(3)において、R1及びR2がエチル基である請求項1~3のいずれか1項記載のアルギニン誘導体又はその塩。
【請求項5】
式(1)、(2)又は(3)において、AがFmoc基である請求項1~4のいずれか1項記載のアルギニン誘導体又はその塩。
【請求項6】
式(1)、(2)又は(3)において、R3~R8がBoc基である請求項1~5のいずれか1項記載のアルギニン誘導体又はその塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のアルギニン誘導体又はその塩を用いる液相ペプチド合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギニン誘導体又はその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチド合成を行う際、原料アミノ酸の伸長点ではない官能基は、その部分に起因する副反応や分解等を防止するために予め保護しておく必要がある。アルギニン類を原料として使用する場合においても、グアニジル基を予め保護しておき、αアミノ基と他のアミノ酸のカルボキシル基との縮合反応後、必要に応じてその保護基を除去することが行われる。
【0003】
液相ペプチド合成におけるアルギニン類のグアニジル基の保護手段としては、古くは、(1)ニトロ基による保護、(2)2,4,6-トリメチルフェニルスルホニル(TMS)基による保護、(3)強酸(たとえば塩酸)を作用させたプロトン付加による保護が知られていた(特許文献1)。さらにアルギニン類に対する様々な保護基が開発され、現在最も一般的に使用される保護基として、p-トルエンスルホニル(Tos)、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマンー6-スルホニル(Pmc)、2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフランー5-スルホニル(Pbf)などがある。しかし、プロトン保護以外の保護手段では、脱保護の際に厳しい条件が必要となり、構造の他の部分に影響を与えるなどの理由から、アルギニン類に関しては、ペプチド伸張反応においてグアニジル基をプロトン化し、特定の保護基を用いずにペプチド合成反応に使用されてきた(特許文献2~5)。
なお、近年新たなグアニジル基の保護手段としてインドールスルホニルが開発された(特許文献6)。しかし、本化合物は入手が困難であり、広く一般的に使用可能ではない。
【0004】
ところで、近年、液相ペプチド合成において、液相ペプチド合成用担体(Tag)が報告されている(特許文献7~22)。本担体は疎水性が高い化合物であるため、親水性の高いアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミド(以下、アミノ酸等ということがある)を本担体に結合することで、有機溶媒への溶解性を大きく向上させることができる。従って、本担体にアミノ酸等を結合した状態でペプチド伸長反応を実施した場合、担体に結合したアミノ酸等を有機層に溶解させ、不要成分、たとえばペプチド伸長反応に使用した余剰の原料アミノ酸や、その分解物、原料アミノ酸の保護基を脱保護した際に副生する化合物等を水層に溶解させることで、液液分離により、担体に結合したアミノ酸等を簡便に精製できるという利点がある。
なお、本明細書で「アミノ酸アミド」とは、アミノ酸のC末端のカルボキシ基(-COOH)がアミド基(-CONH2)となった構造を意味する。また、「ペプチドアミド」とは、ペプチドのC末端のカルボキシ基がアミド基となった構造を意味する。
さらに、本明細書で「液液分離」と記載した場合、前述の工程、すなわち担体に結合したアミノ酸等を有機層に溶解させ、不要成分、たとえばペプチド伸長反応に使用した余剰の原料アミノ酸や、その分解物、原料アミノ酸の保護基を脱保護した際に副生する化合物等を水層に溶解させる工程をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-36299号公報
【特許文献2】特表2003-500416号公報
【特許文献3】特表2004-516330号公報
【特許文献4】特開平4-211096号公報
【特許文献5】特開平5-170795号公報
【特許文献6】特開2014-193872号公報
【特許文献7】特許第5113118号公報
【特許文献8】特許第4500854号
【特許文献9】特許第5929756号公報
【特許文献10】特許第6092513号公報
【特許文献11】特許第5768712号公報
【特許文献12】特許第5803674号公報
【特許文献13】特許第6116782号公報
【特許文献14】特許第6201076号公報
【特許文献15】特許第6283774号公報
【特許文献16】特許第6283775号公報
【特許文献17】特許第6322350号公報
【特許文献18】特許第6393857号公報
【特許文献19】特許第6531235号公報
【特許文献20】国際公開第2019/009317号
【特許文献21】国際公開第2020/175472号
【特許文献22】国際公開第2020/175473号
【特許文献23】特許第6703668号公報
【特許文献24】特許第6713983号公報
【特許文献25】国際公開第2021/132545号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Molecules 2021, 26, 3497-3505.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液相ペプチド合成用担体を用いた有機溶媒中で行う液相ペプチド合成においては、アルギニン類のグアニジル基をプロトン化した化合物をペプチド伸長反応に供すると、得られた液相ペプチド合成用担体に結合したアルギニン類の液液分離ができないことがあった。また、これを解消するために酸性条件下で液液分離をする場合では、アミノ酸の保護基やカルボキシル基の保護基が外れてしまう問題も生じることが明らかとなった。
従って、本発明の課題は、液相ペプチド合成反応でグアニジル基を有する化合物を使用する場合において、液相ペプチド合成用担体と結合した後に良好な液液分離を可能とするグアニジル基保護アルギニン類、及びそれを用いるペプチド合成法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、液相ペプチド合成に用いるアルギニン類のグアニジル基の保護手段について種々検討した結果、全く意外にも、アルギニン類のグアニジル基をBoc基で保護すれば、液相ペプチド用担体と結合した後の液液分離が良好であり、かつ当該Boc保護基が穏和な条件で除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[7]を提供するものである。
[1]次の式(1)、(2)又は(3)で表されるアルギニン誘導体又はその塩。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Aは水素原子、又はアミノ基の保護基を示し、
3及びR4は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
5及びR6は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
7及びR8は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
nは、1~6の整数を示す(但し、nが3であり、R1及びR2が水素原子又はメチル基であり、かつR3~R8がBoc基である場合を除く))
[2]式(1)、(2)又は(3)中のnが4である[1]記載のアルギニン誘導体又はその塩。
[3]式(1)、(2)又は(3)において、Aが水素原子、Fmoc基、又はCbz基である[1]又は[2]記載のアルギニン誘導体又はその塩。
[4]式(1)、(2)又は(3)において、R1及びR2がエチル基である[1]~[3]のいずれかに記載のアルギニン誘導体又はその塩。
[5]式(1)、(2)又は(3)において、AがFmoc基である[1]~[4]のいずれかに記載のアルギニン誘導体又はその塩。
[6]式(1)、(2)又は(3)において、R3~R8がBoc基である[1]~[5]のいずれかに記載のアルギニン誘導体又はその塩。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のアルギニン誘導体又はその塩を用いる液相ペプチド合成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルギニン誘導体又はその塩を用いて液相ペプチド合成を行えば、本発明のアルギニン誘導体と液相ペプチド合成用担体とを結合した化合物と、それ以外の不要成分との液液分離が良好であり、かつ当該アルギニン誘導体のグアニジル基の部分の脱保護を穏和な条件で行うことができる。
従って、アルギニン類残基を有するペプチドが、液相法により効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例(3-d)※1の工程における液液分離にて、分液漏斗を振盪後、室温で25分間静置した後の液面の写真である。
図2】比較例(1-d)※2の工程における液液分離にて、分液漏斗を振盪後、室温で25分間静置した後の液面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルギニン誘導体又はその塩は、グアニジノ基中のアミノ基及びイミノ基の一方又は両方がBoc基で保護されている点に特徴がある。具体的には、次の式(1)、(2)又は(3)で表されるアルギニン誘導体又はその塩である。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Aは水素原子又はアミノ基の保護基を示し、
3及びR4は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
5及びR6は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
7及びR8は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、
nは、1~6の整数を示す(但し、nが3であり、R1及びR2が水素原子又はメチル基であり、かつR3~R8がBoc基である場合を除く))
【0017】
本発明において、アルギニン類とは、アルギニン、ホモアルギニンなどのグアニジノアルキルグリシン構造を有し、そのグアニジノ基、αアミノ基又はカルボキシル基にアルキル基、保護基を有する化合物を意味する。
また、上記式(1)、(2)及び(3)で表される構造は、E/Z異性体又はイミノ/アミノ異性体であり、本発明のアルギニン誘導体は、これらの異性体の混合物であってもよい。
【0018】
1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。ここで、炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。このうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n―ブチル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、エチル基がさらに好ましい。
1及びR2は、いずれもエチル基であるのがさらに好ましい。
【0019】
Aは水素原子又はアミノ基の保護基を示す。ここで、アミノ基の保護基としては、Boc(tert-ブトキシカルボニル)基、Fmoc(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル)基、Cbz(ベンジルオキシカルボニル)基、Trt(トリチル)基、Mmt(モノメトキシトリチル)基、ivDde(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキサ-1-イリデン-3-メチルブチル)基、Ns(2-ニトロベンゼンスルホニル)基、DNs(2,4-ジニトロベンゼンスルホニル)基、Nos(4-ニトロベンゼンスルホニル)基、Alloc(アリルオキシカルボニル)基、Teoc(2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル)基、Troc(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル)基、Phth(フタロイル)」基、SES((2-トリメチルシリル)-エタンスルホニル)基等が挙げられる。このうち、Aは、Boc基と異なる条件で脱保護可能なアミノ基の保護基が好ましく、水素原子、Fmoc基又はCbz基がより好ましく、Fmoc基が最も好ましい。
【0020】
3及びR4は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、R5及びR6は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基であり、R7及びR8は、水素原子又はBoc基を示し、いずれか一方又は両方がBoc基である。
3~R8は、グアニジノ基を保護する観点、ペプチド合成における液液分離を良好にする観点から、いずれもがBoc基であるのがより好ましい。
【0021】
nは、1~6の整数を示す。このうち、3~6が好ましく、3~5がより好ましく、4がさらに好ましい。
【0022】
1及びR2は、メチル基又はエチル基であるのが好ましく、いずれもエチル基であるのがさらに好ましく;Aは、水素原子、Fmoc基又はCbz基が好ましく、Fmoc基がより好ましく;R3~R8は、いずれもがBoc基であるのがより好ましく;nは、3~6が好ましく、3~5がより好ましく、4がさらに好ましい。
【0023】
但し、式(1)、(2)又は(3)で表される化合物から、nが3であり、R1及びR2が水素原子又はメチル基であり、かつR3~R8がBoc基である化合物は除かれる。
【0024】
また、前記式で表されるアルギニン誘導体の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩などの酸付加塩;ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの金属塩などが挙げられる。
【0025】
前記式(1)、(2)又は(3)で表されるアルギニン誘導体又はその塩は、例えば、次の式(4)、(5)又は(6)で表されるアルギニン類又はその塩に、二炭酸ジ-tert-ブチル、N-tert-ブトキシカルボニルイミダゾールなどのBoc化剤を反応させることにより製造できる。
Boc化剤の添加量は、アルギニン誘導体に対して1当量以上であればよく、より好ましくは1~15当量、さらに好ましくは1~10当量である。
【0026】
【化3】
【0027】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
Aは水素原子又はアミノ基の保護基を示し、
nは、1~6の整数を示す(但し、nが3であり、R1及びR2が水素原子又はメチル基であり、かつR3~R8が水素原子である場合を除く))
【0028】
このBoc化反応は、塩基の存在下、溶媒中で行うのが好ましい。塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、DMAP(4-ジメチルアミノピリジン)、N-メチルイミダゾールなどの有機塩基又はこれらの混合有機塩基でもよく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの無機塩基でもよい。
塩基の添加量は、アルギニン誘導体に対して0.1当量以上であればよく、より好ましくは0.1~30当量、さらに好ましくは1~20当量である。
反応溶媒は、水、THF、2-MeTHF、1,4-ジオキサン、トルエン、DMF、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、又はこれらの混合溶媒などが用いられる。反応は、0℃~40℃で、1~24時間行うのが好ましい。
【0029】
本発明のアルギニン誘導体は、固相ペプチド合成又は液相ペプチド合成におけるアルギニン類原料として有用である。また、液相ペプチド合成に用いれば、液液分離が良好であり、かつBoc基の脱離反応も穏和な条件で可能である。ここで、液相ペプチド合成反応は、最近開発された液相ペプチド合成用担体を用いて行うのが好ましい。
【0030】
このような液相ペプチド合成法としては、アルギニン類縮合工程に本発明のアルギニン誘導体を用いる以外は、通常の液相ペプチド合成を行えばよいが、次の工程a~cを含む、液相ペプチド製造方法が好ましい。なお、工程b、工程cの順序は不問であり、工程b次いで工程cの順、すなわちアミノ基の保護基を除去した後に縮合体を含有する有機溶媒層を得てもよいし、工程c次いで工程bの順、すなわち縮合体を含有する有機溶媒層を得た後にアミノ基の保護基を除去してもよい。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、
1.本発明のアルギニン誘導体と、液相ペプチド合成用担体とを縮合させる反応、
又は
2.本発明のアルギニン誘導体と、液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドとを縮合させる反応
のいずれかをおこなう工程、
b.反応液中の前記アルギニン誘導体のアミノ基の保護基(例えば、Fmoc基)を除去する工程、
c.反応液に水溶液を添加した後、分液して、
1.前記アミノ保護基が脱離したアルギニン誘導体と液相ペプチド合成用担体の縮合体、
又は
2.前記アミノ保護基が脱離したアルギニン誘導体と液相ペプチド合成用担体と結合したアミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミドの縮合体
のいずれかを含有する有機溶媒層を得る工程。
【0031】
ここで、工程aの縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルのクエンチ剤を添加する工程を含んでもよい。アミノ酸活性エステルのクエンチ剤は、分子内にアミノ基を有する化合物であり、特許文献23~25、非特許文献5などに記載の化合物を用いることができる。
当該クエンチ剤としては、ヒドロキシルアミン、アミド硫酸、ヒドロキシルアミン-O-スルホン酸、ヒドロキシルアミン-O-ホスホン酸、1級アミン又は2級アミンを有するアルキルアミン、1級アミン又は2級アミンを有する芳香族アミンを使用することができ、3級アミンを使用することもできる。さらに、余剰のクエンチ剤を液液分離にて水層に除去できることから水溶性であることが好ましく、水酸基、スルホ基、硫酸基、リン酸基といった親水性置換基を有するアミンが好ましい。また、化合物中のアミノ基の数は1つ(1価)でもよく、2価以上でもよい。具体的には、プロピルアミン、メチルアミン、ヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、2,4,6-トリメチルアニリン、アニシジン、フェネチジン、ベンジルアミン、ヒドロキシルアミン、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1-エチルピペラジン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、ピペラジン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール(AEE)、タウリン、2-アミノエチル硫酸(AEHS)などを挙げることができる。また、NMI(N-メチルイミダゾール)、DMAP(ジメチルアミノピリジン)、トリメチルアミンを挙げることができる。
【0032】
工程aで用いられる液相ペプチド合成用担体は、アミノ酸、ペプチド、アミノ酸アミド又はペプチドアミド(アミノ酸等)を保護して、当該保護されたアミノ酸等を有機溶媒に可溶化する担体である。
このような液相ペプチド合成用担体としては、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
【化4】
【0034】
[式中、
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよく、多環性でもよいC4~20の芳香環を示し;
11は、水素原子であるか、又は環Aがベンゼン環でRbが下記式(b)で表される基である場合には、R13と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
p個のX1は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR15-(R15は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
p個のR12は、それぞれ独立して脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0035】
【化5】
【0036】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
pは、1~4の整数を示し;
環Aは、p個のX112に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよく;
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示し;
Rbは、水素原子、ハロゲン原子により置換されていてもよい芳香環、又は式(b):
【0037】
【化6】
【0038】
(式中、*は結合位置を示し;
qは、0~4の整数を示し;
q個のX2は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
q個のR14は、それぞれ独立して脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0039】
【化7】
【0040】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す;
13は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
環Bは、q個のX214に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。)で表される基を示し;
Yは、ヒドロキシ基、チオール基、NHR20(R20は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。]
【0041】
式(I)中の環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよく、単環性でも、多環性でよいC4~20の芳香環を示す。当該芳香環としては、C6~20の芳香族炭化水素環、及びC4~10の芳香族複素環が挙げられる。
具体的なC6~20の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、テトラセン環、インダン環、インデン環、フルオレン環、ビフェニル環、1,1’-ビナフタレン環などが挙げられる。このうち、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、フルオレン環がより好ましい。
C4~10の芳香族複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~10員環の芳香族複素環が好ましく、具体的には、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環などが挙げられる。このうち、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~8員環の芳香族複素環が好ましく、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環がより好ましい。
【0042】
11は、水素原子を示すか、又は環Aがベンゼン環でRbが前記式(b)で表される基である場合には、R13と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよい。R11とR13が一緒になって形成してもよい環としては、フルオレン環又はキサンテン環が好ましい。
【0043】
p個のX1は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR15-(R15は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示す。
ここで、R15としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖又は分岐鎖のC1~10のアルキル基が挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0044】
p個のR12は、それぞれ独立して脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0045】
【化8】
【0046】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基若しくはシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す。
pは、1~4の整数を示す。
【0047】
本明細書において、脂肪族炭化水素基を有する有機基とは、その分子構造中に脂肪族炭化水素基を有する一価の有機基である。当該脂肪族炭化水素基を有する有機基中の脂肪族炭化水素基の部位は、特に限定されず、末端に存在してもよく、それ以外の部位に存在してもよい。
当該有機基中に存在する脂肪族炭化水素基とは、直鎖、分岐状若しくは環状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、有機溶媒溶解性の点から、C5以上の脂肪族炭化水素基が好ましく、C5~50の脂肪族炭化水素基がより好ましく、C8~30の脂肪族炭化水素基がさらに好ましい。当該脂肪族炭化水素基の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられるが、特にアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。さらに、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、C3~8のシクロアルキル基、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が好ましく、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、C3~8のシクロアルキル基がより好ましく、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がさらに好ましく、C8~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がよりさらに好ましい。
【0048】
アルキル基の具体例としては、炭素数1~30のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、アラキル基、べへニル基、テトラコサニル基、ヘキサコサニル基、イソステアリル基などの一価の基、それらから誘導される二価の基、各種ステロイド基から水酸基などを除外した基が挙げられる。
分岐鎖を有するアルキル基としては、2、3―ジヒドロフィチル基、3,7,11-トリメチルドデシル基が挙げられる。またX1が-NHC(=O)-の場合、X112として2,2,4,8,10,10-ヘキサメチル-5-ドデカン酸アミドが挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、1-プロぺニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、オレイル基などの一価の基、それらから誘導される二価の基が挙げられる。
アルキニル基としては、エチニル基、プロパルギル基、1-プロピニル基などが挙げられる。
【0049】
上記の脂肪族炭化水素基には、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基が置換していてもよい。脂肪族炭化水素基に酸素原子を介して置換し得る脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基、炭素数2~20のアルケニルオキシ基、炭素数3~6のシクロアルキルオキシ基などの一価の基、それらから誘導される二価の基などが挙げられる。また、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基が置換している脂肪族炭化水素基に、さらに酸素原子を介して脂肪族炭化水素基が置換した繰り返し構造を有していてもよい。
具体的には、R12として12-ドコシルオキシー1-ドデシル基、3,4,5-トリス(オクタデシルオキシ)ベンジル基、2,2,2-トリス(オクタデシルオキシメチル)エチル基、3,4,5-トリス(オクタデシルオキシ)シクロへキシルメチル基などが挙げられる。
【0050】
上記の脂肪族炭化水素基には、
【0051】
【化9】
【0052】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基、のいずれかである有機基が置換していてもよい。
シリル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる3個が置換したシリル基が好ましい。ここで、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
好ましいシリル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリル基であり、より好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリル基である。シリル基に置換する3個のアルキル基又はアリール基は、同一でも異なっていてもよい。
また、シリルオキシ基が結合したアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる3個が置換したシリルオキシ基が1~3個結合した、炭素数1~13の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましい。好ましいシリルオキシ基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリルオキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリルオキシ基である。シリルオキシ基に置換する3個のアルキル基又はアリール基は、同一でも異なっていてもよい。
炭素数1~13の直鎖又は分岐鎖のアルキル基は、分岐鎖であることが好ましく、4級炭素原子を有することがさらに好ましい。
【0053】
pは、1~4の整数を示す。ここで、pは、1~3が好ましく、1~2がより好ましい。
【0054】
環Aは、p個のX112に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基などが挙げられる。
【0055】
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示す。
ここで、芳香族環としては、C6~18の芳香族炭化水素環、及びC4~10の芳香族複素環が挙げられる。
具体的なC6~18の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、テトラセン環、インダン環、インデン環、フルオレン環、ビフェニル環などが挙げられる。このうち、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、フルオレン環がより好ましい。
C4~10の芳香族複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~10員環の複素環が好ましく、具体的には、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環などが挙げられる。このうち、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~8員環の複素環が好ましく、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環がより好ましい。
Raの芳香族環には、1~3個のハロゲン原子が置換していてもよい。
【0056】
Rbは、水素原子、ハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環、又は前記式(a)で表される基を示す。
式(a)中のqは、0~4の整数を示す。
qは、0~3が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
【0057】
q個のX2は、それぞれ独立して単結合、-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示す。
ここで、R18としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0058】
q個のR14は、独立して脂肪族炭化水素基、酸素原子を介して脂肪族炭化水素基で置換されている脂肪族炭化水素基、又は式(a)のいずれかである有機基を示し;
【0059】
【化10】
【0060】
但しR16は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、X3は酸素原子若しくは-C(=O)NR17-(R17は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し、Aはシリル基、又はシリルオキシ基が結合したアルキル基のいずれかを示す。
14で表される有機基は、前記のR12と同じものが挙げられ、前記のR12と同じものが好ましい。
【0061】
13は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよい。
【0062】
環Bは、q個のX214に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基などが挙げられる。
【0063】
Yは、ヒドロキシ基、チオール基、NHR20(R20は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。
ここで、R20としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0064】
前記の式(I)の化合物のうち、好ましい液相ペプチド合成用担体の具体例としては、下記式(7)、(20)又は(21)で表される化合物が挙げられる。その一つとしては、式(7)で表される化合物を用いることができる(特許文献13、14)。
【0065】
【化11】
【0066】
(式中、Ybは-CH2OR34(ここでR34は水素原子、ハロゲノカルボニル基、活性エステル型カルボニル基又は活性エステル型スルホニル基を示す)、-CH2NHR35(ここで、R35は水素原子、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又はアラルキル基を示す)、ハロゲノメチル基、ホルミル基、又はオキシムを示し、R21、R22、R23、R24及びR25のうちの少なくとも1個は式(8)
【0067】
【化12】
【0068】
で表される基を示し、残余は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を示し;
26は炭素数6~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し;
3はO又はCONR36(ここでR36は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示し;
Aは式(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、(18)又は(19)
【0069】
【化13】
【0070】
(ここで、R27、R28、R29は、同一又は異なって、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有していても良いアリール基を示し;R30は単結合又は炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、R31、R32及びR33はそれぞれ、炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す)
で表される基を示す)
【0071】
また、液相ペプチド合成用担体としては、式(20)で表される化合物を用いることができる(特許文献15、16、19)。
【0072】
【化14】
【0073】
(式中、X4は-OR51(ここでR51は水素原子、活性エステル型カルボニル基又は活性エステル型スルホニル基を示す)、-NHR35、アジド、ハロゲン、イソシアネート、X5と一緒になって=N-OH又は=Oを示し、X4が-OR51、-NHR35、アジド又はハロゲンの場合X5は水素原子又は炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、又はシクロアルキル基を示し、X4がイソシアネートの場合X5は炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基、又はシクロアルキル基を示し;
41~R50のうちの少なくとも1個は式(2)で表される基を示し、残余は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を示し;
4が-OR51、-NHR35、アジド又はハロゲンであり、かつX5が水素原子のとき、若しくはX4とX5が一緒になって=Oのとき、R45とR46は酸素原子を介して結合してキサンテン環を形成していてもよい)
【0074】
また、液相ペプチド合成用担体としては、式(21)で表される化合物を用いることができる(特許文献17、18)。
【0075】
【化15】
【0076】
(式中、X6はヒドロキシ基又はハロゲン原子を示し、R61~R75のうちの少なくとも1個は式(2)で表される基を示し、残余は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基を示し、R70とR71は単結合で結合してフルオレン環を形成していてもよく、酸素原子を介して結合してキサンテン環を形成していてもよい)
【0077】
工程b、工程cに関しては、特許文献7~25等を参照し、当業者周知の方法で実施することができる。なお、工程cに代わり、液相ペプチド合成用担体に結合したペプチドの分離方法として、液相ペプチド合成用担体に結合したペプチドと不要成分との溶媒への溶解度の差異を利用し、固化によって精製することも可能である。
【実施例0078】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、D体と表記されていないアミノ酸はL体とする。
【0079】
実施例1 Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHの合成
【0080】
【化16】
【0081】
(以下、Cbz-Lys-OH、EtNH-C(SO3H)=NEt、Cbz-hArg(Et)2-OH、Cbz-hArg(Et)2(Boc)2-OH、H-hArg(Et)2(Boc)2-OH、Fmoc-OSu、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHは前記反応式中の構造を示す。なお、Cbz-hArg(Et)2(Boc)2-OH、H-hArg(Et)2(Boc)2-OH、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHはそれぞれ、前記反応式中の3種類の異性体の混合物を示す。)
【0082】
実施例(1-a)
Cbz-Lys-OH 2.00g(7.13mmol)を水7.13mL、アセトニトリル7.13mL、20%水酸化ナトリウム水溶液(20%NaOHaq.) 1.28mLの混合溶液に溶解し、EtNH-C(SO3H)=NEt 2.25g(12.5mmol)を添加し、室温で撹拌した。その後、20%NaOHaq. 301μLを少量に分けて添加し、反応液のpHを8.0~12.8に保ちながら室温で22時間30分撹拌した。アセトニトリル 7.13mL、酢酸エチル 18.8mL、6N HClaq. 800μL加え、分液し、有機層を回収した。水層にアセトニトリル 14.3mL、酢酸エチル 18.8mLを加え、分液し、有機層を回収した。再度、得られた水層にアセトニトリル 14.3mL、酢酸エチル 18.8mLを加え、分液し、有機層を回収した。計3回の分液で得られた有機層を混合し、減圧下で濃縮した。残渣にエタノール 30.0mLを加え、減圧濃縮した。得られた残渣にエタノール 30.0mLを加え、撹拌した後、析出した固体をセライトろ過で除去した。濾液を減圧下で濃縮し、残渣にジイソプロピルエーテルを加え、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=1:1.5→1:3)で精製し、Cbz-hArg(Et)2-OH 1.82gを得た。
ESIMS (M/z) 379.3 (M+H)+
【0083】
実施例(1-b)
di-tert-butyl dicarbonate 6.57g(30.1mmol)を1,4-ジオキサン 30.1mLに溶解した。この溶液に1,4-ジオキサン7.53mLと5N NaOHaq. 15.1mLに溶解したCbz-hArg(Et)2-OH 1.71g(4.52mmol)を滴下し、室温で17時間撹拌した。ジクロロメタン 126mL、水 93.0mL、酢酸 3.70mLを加え、分液した。得られた有機層に飽和食塩水93.0mLを加え、洗浄した。得られた有機層に無水硫酸ナトリウム22.0gを添加し、充分撹拌した後濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。残渣にヘプタン 31.0mLを加え、減圧下で濃縮し、残渣にジイソプロピルエーテル 30mLを加え、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(へプタン:酢酸エチル=2:1→酢酸エチル:メタノール=4:1)で精製し、Cbz-hArg(Et)2(Boc)2-OH 2.16gを得た。
ESIMS (m/z)579.5 (M+H)+ (3種の異性体の混合物)
【0084】
実施例(1-c)
Cbz-hArg(Et)2(Boc)2-OH 2.09g(3.61mmol)をメタノール 20.9mLに溶解し、5%Pd/C(wetted with ca. 55% water) 0.139gを添加し、水素雰囲気下、室温で2時間撹拌した。反応液をセライトろ過し、濾物をメタノール20mLで洗浄した。得られた濾液を減圧下で濃縮後、減圧下で乾燥し、H-hArg(Et)2(Boc)2-OH 1.28gを得た。
ESIMS (m/z) 445.4(M+H)+ (3種の異性体の混合物)
【0085】
実施例(1-d)
水9.99mLに炭酸水素ナトリウム0.427g(5.08mmol)、H-hArg(Et)2(Boc)2-OH 1.13g(2.54mmol)を加え、溶解し、5℃に冷却した。この溶液に1,4-ジオキサン9.99mLに溶解したFmoc-OSu 0.900g(2.67mmol)を滴下し、5℃で1時間5分撹拌した。室温に昇温し、3時間25分撹拌した。反応液に水 20.0mL、酢酸50.0μL、酢酸エチル15.0mLを加え、分液し、有機層を回収した。得られた水層に酢酸エチル15.0mLを加え、分液し、有機層を回収し、同分液操作をさらに2回おこなった。計4回の分液操作で得られた有機層を混合し、無水硫酸ナトリウム15.3gを添加し、充分撹拌した後濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(へプタン:酢酸エチル=1:1→1:2)で精製し、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OH 0.261gを得た。
ESIMS (m/z) 667.5 (M+H)+ (3種の異性体の混合物)
【0086】
実施例2 Fmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OHの合成
【0087】
【化17】
【0088】
(以下、Cbz-D-Lys-OH、Cbz-D-hArg(Et)2-OH、Cbz-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH、H-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH、Fmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OHは反応式中の構造を示す。なお、Cbz-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH、H-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH、Fmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OHはそれぞれ、反応式中の3種類の異性体の混合物を示す。)
【0089】
実施例(2-a)
実施例(1-a)と同様の方法で、Cbz-D-Lys-OH 4.80gから Cbz-D-hArg(Et)2-OH 4.57gを得た。
ESIMS (m/z) 379.3(M+H)+
【0090】
実施例(2-b)
実施例(1-b)と同様の方法で、Cbz-D-hArg(Et)2-OH 3.93gからCbz-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH 5.23gを得
た。
ESIMS (m/z) 579.4 (M+H)+ (3種の異性体の混合物)
【0091】
実施例(2-c)
実施例(2-c)と同様の方法で、Cbz-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH 4.89gからH-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH 3.35gを得た。
ESIMS (m/z) 445.4(M+H)+ (3種の異性体の混合物)
【0092】
実施例(2-d)
実施例(1-d)と同様の方法で、H-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH 3.00gからFmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OHの粗体を得た。得られた粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(へプタン:酢酸エチル=2:1→1:1→1:2)で精製し、Fmoc-D-hArg(Et)2(Boc)2-OH 1.90gを得た。
ESIMS (m/z) 667.6 (M+H)+ (3種の異性体の混合物)
【0093】
参考例1
Fmoc-NH(D2-STag)の合成
【0094】
【化18】
【0095】
(O=(D2-Stag)、OH(D2-STag)、Fmoc-NH(D2-STag)は反応式中の構造を示す。)
【0096】
参考例(a)
O=(D2-STag)(積水メディカル株式会社製) 41.4g(47.7mmol)をトルエン 228mL、メタノール 36.0mLの混合溶液に溶解し、水素化ホウ素ナトリウム 2.16g(57.2mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。反応溶液を水 83.0mLで3回分液洗浄した。得られた有機層に無水硫酸ナトリウム20.0gを添加し、充分撹拌した後濾過し、OH(D2-STag)を含むトルエン溶液を得た。
【0097】
参考例(b)
前工程で得られたトルエン溶液に9-フルオレニルメチルカルバメート 1
3.7g(57.2mmol)、シュウ酸・2水和物 1.80g(14.3mmol)を添加し、80℃で3時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、メタノール:水=9:1 414mL、へプタン414mLを添加し、分液した。得られた有機層を5%炭酸ナトリウム水溶液(5%Na2CO3aq.) 207mLで1回、メタノール:水=9:1 414mLで3回分液洗浄した。得られた有機層を減圧下で濃縮し、残渣にテトラヒドロフラン83.0mLを加え、減圧下で濃縮した。残渣をテトラヒドロフラン62mLに溶解し、メタノール830mLに滴下した。析出した固体をろ取し、減圧下で乾燥して、Fmoc-NH(D2-STag) 45.5gを得た。
ESIMS (m/z) 1107.9 (M+NH4+
【0098】
実施例3
Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHを用いたH-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)の合成
【0099】
【化19】
【0100】
(NH2(D2-STag)、H-D-Ala-NH(D2-STag)、H-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)、H-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)は反応式中の構造を示す。なお、Fmoc-L-hArg(Et)2(Boc)2-OHはそれぞれ、反応式中の3種類の異性体の混合物を示し、R’の構造中の*は結合点を示す。)
【0101】
実施例(3-a)
Fmoc-NH(D2-STag) 2.00g(1.83mmol)をシクロペンチルメチルエーテル(CPME)29.3mLに溶解し、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 7.33mL、ジメチルスルホキシド(DMSO)2.55mLに溶解した3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(MPS)0.542g(3.04mmol)、さらにMPS 0.111g(0.62mmol)を固体状態で追加し、2,3,4,6,7,8,9,10-Octahydropyrimidol[1,2-a]azepine(DBU) 0.548mL(3.67mmol)を加え、室温で1時間35分撹拌した。8℃まで冷却し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA) 0.319mL(1.83mmol)、1N硫酸3.67mL(3.67mmol)、水24.2mL、CPME 1.00mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 4.55mL、50%リン酸水素二カリウム水溶液(50%K2HPO4aq.) 6.07mLを加え、分液洗浄し、NH2(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0102】
実施例(3-b)
得られた混合液に、CPME 1.00mL、DMF 8.30mL、Fmoc-D-Ala-OH・H2O 0.725g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で45分撹拌した。2-(2-Aminoethoxy)ethanol (AEE) 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、10℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間20分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.2mL、CPME 0.796mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 5.10mL、50%K2HPO4aq. 6.80mLを加え、分液洗浄し、H-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0103】
実施例(3-c)
得られた混合液に、CPME 2.20mL、DMF 8.30mL、Fmoc-Pro-OH・H2O 0.782g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で50分撹拌した。AEE 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、8℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間20分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.2mL、CPME 0.861mLを添加し、分液した。得られた有機層にDMF 5.11mL、50%K2HPO4aq. 6.81mLを加え、分液洗浄し、H-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0104】
実施例(3-d)
得られた混合液に、CPME 2.70mL、DMF 8.30mL、Fmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OH(反応式中に示した3種のisomerの混合物) 1.47g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で50分撹拌した。AEE 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、8℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間50分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.3mL、CPME 0.950mLを添加し、分液した※1。得られた有機層にDMF 5.12mL、50%K2HPO4aq. 6.83mLを加え、分液洗浄し、H-hArg(Et)2(Boc)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
ESIMS (m/z) 1463.7 (M+H)+ (3種の異性体の混合物)
※1 有機層中の目的物のHPLC純度:76.2%
【0105】
HPLC分析条件
カラム:YMC―Pack Pro C18, S―5μm, 12nm, 250mm×4.6mmI.D.
移動相A:500mM過塩素酸ナトリウムaq.
移動相B:THF
流速:1.0mL/min
カラム温度:45℃
検出波長:280nm
グラジエント条件:75%B(0min)→90%B(10min)→90%B(20min)→75%B(21min)→75%B(33min)
【0106】
比較例1
Fmoc-hArg(Et)2-OH・HClを用いたH-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)の合成
【0107】
【化20】
【0108】
(Fmoc-hArg(Et)2-OH・HCl、H-hArg(Et)2-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)は反応式中の構造を示す。)
【0109】
比較例(1-a)、(1-b)、(1-c)
実施例3-a、3-b、3-cと同様にして、Fmoc-NH(D2-STag) 2.00g(1.83mmol)からH-Pro-D-Ala-NH(D2-STag)を含む混合液を得た。
【0110】
比較例(1-d)
得られた混合液に、CPME 2.60mL、DMF 8.30mL、Fmoc-hArg(Et)2-OH・HCl 1.11g(2.20mmol)、DIPEA 1.28mL(7.33mmol)、COMU 0.942g(2.20mmol)を加え、室温で50分撹拌した。AEE 44.0μL(0.444mmol)を加え、室温で15分撹拌した。DMSO 2.35mLに溶解したMPS 0.501g(2.81mmol)、固体のMPS 0.284g(1.59mmol)を加え、8℃に冷却し、DBU 1.43mL(9.54mmol)を加え、1時間50分撹拌した。1N硫酸11.5mL(11.5mmol)、水20.3mL、CPME 0.950mLを添加し、分液を試みたが、エマルジョン※2となり、分液操作を行うことができなかった。
ESIMS (m/z) 1263.5 (M+H)+
※2 エマルジョン中の目的物のHPLC純度:10.4%
HPLC分析条件:実施例(3-d)と同一
【0111】
実施例(3-d)の※1と比較例(1-d)の※2の分液の様子を図1図2に示した。図1に示した実施例(3-d)では、有機層と水層の界面が明瞭であり、液液分離が良好であった。一方図2に示した比較例(1-d)では、分液漏斗内全体がエマルジョンとなり、室温で25分間静置してもエマルジョンは解消せず、有機層と水層に分離することができなかった。
また、実施例3と比較例1の結果を表1に示した。
本発明のBoc基にて保護したFmoc-hArg(Et)2(Boc)2-OHを使用した実施例3では、分液性が良好で、目的物の純度は76.2%と高く、目的としたペプチドを合成することができた。一方、Boc基ではなくプロトン保護のみおこなっているFmoc-hArg(Et)2-OH・HClを使用した比較例1では、分液することができず、またエマルジョン中の目的物の純度は10.4%と著しく低かった。
【0112】
【表1】
【0113】
以上の結果から、従来技術であるプロトン保護をおこなったアルギニン誘導体を用いた場合と比較し、本発明のBoc保護をおこなったアルギニン誘導体を用いた場合の方が、液相ペプチド合成反応において液液分離が良好であり、より純度の高いペプチドを得ることができることがわかった。
図1
図2